多層カーボンナノチューブの製造方法
【課題】多層のカーボンナノチューブを製造するのに有利な多層カーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】触媒粒子を担持させた基体をCVD装置の反応容器内に配置した状態で、カーボンナノチューブ形成温度に基体を維持させると共に、炭素源を含む原料ガスをCVD装置の反応容器に導入させることにより、触媒粒子を有する基体の表面にカーボンナノチューブ集合体を基体の表面に形成する。担持後であって原料ガスを反応容器内に導入させる前に、触媒粒子を担持した基板を反応容器内において所定時間加熱させて基体上の触媒粒子を成長させて触媒粒子サイズを増加させる。
【解決手段】触媒粒子を担持させた基体をCVD装置の反応容器内に配置した状態で、カーボンナノチューブ形成温度に基体を維持させると共に、炭素源を含む原料ガスをCVD装置の反応容器に導入させることにより、触媒粒子を有する基体の表面にカーボンナノチューブ集合体を基体の表面に形成する。担持後であって原料ガスを反応容器内に導入させる前に、触媒粒子を担持した基板を反応容器内において所定時間加熱させて基体上の触媒粒子を成長させて触媒粒子サイズを増加させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層カーボンナノチューブを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、近年着目されている炭素材料である。特許文献1には、基板温度を675〜750℃にした状態で、CVD処理することにより、多数個のカーボンナノチューブを並列させつつ基板に対してほぼ垂直となるように基板の表面に成長させたカーボンナノチューブ複合体が開示されている。
【0003】
特許文献2には、基板の表面に植毛状に形成された多数個のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ群と、カーボンナノチューブ群のうち基板側の根元を連結する金属膜とを有するカーボンナノチューブ複合体が開示されている。このものによれば、カーボンナノチューブの成長温度よりも高い融点をもつ金属の膜を形成し、この金属膜の上に触媒粒子を設け、この状態で、原料ガスによりカーボンナノチューブを基板の表面において成長させ、次に、カーボンナノチューブの成長温度よりも高い温度で金属を溶融させ、その後固化させ、これによりカーボンナノチューブの根元部を金属で被覆固定させることにしている。
【0004】
特許文献3には、シリコン基板の表面に対して垂直の配向を維持させつつ多層カーボンナノチューブを多数本、シリコン基板の表面に超高密度に集合させた多層カーボンナノチューブの集合構造が開示されている。
【0005】
特許文献4には、成長させたカーボンナノチューブの集合体を圧密化二次加工として水等の液体に晒した後に、乾燥させることによりカーボンナノチューブ集合体を圧縮させる圧縮工程を経て高密度化させるカーボンナノチューブ集合体の製造技術が開示されている。このものによれば、カーボンナノチューブを成長させた後に圧密化二次加工すれば、カーボンナノチューブ集合体を高密度化させることができるとしている。更に、特許文献4には、機械的な外部圧力を加えて圧縮させる圧縮加工を圧密化二次加工としてカーボンナノチューブ集合体に作用させて高密度化させる技術も開示されている。
【0006】
特許文献5には、基板の表面の親水性保護膜(例えばMgO,SiO2,TiO2)にアルミナ膜を形成し、アルミナ膜上に触媒層を積層させ、触媒層上に多層のカーボンナノチューブを成長させる製造方法が開示されている。このものによれば、多層カーボンナノチューブが形成され易いと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−220674号公報
【特許文献2】特開2007−76925号公報
【特許文献3】特開2008−120658号公報
【特許文献4】特開2007−182352号公報
【特許文献5】特開2010−13294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
産業界では、多層化された多層カーボンナノチューブを集合させたカーボンナノチューブ集合体が要望されている。しかし上記した技術によれば、多層化されたカーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ集合体の製造には、必ずしも充分ではない。
【0009】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、多層カーボンナノチューブを得るのに有利な多層カーボンナノチューブの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)様相1の本発明に係る多層カーボンナノチューブの製造方法は、触媒粒子を基体の表面に担持させる担持工程と、触媒粒子を担持させた基体をCVD装置の反応容器内に配置した状態で、カーボンナノチューブ形成温度に基体を維持させると共に、炭素源を含む原料ガスをCVD装置の反応容器に導入させることにより、触媒粒子を有する基体の表面にCVD処理により触媒粒子活性を利用してカーボンナノチューブ形成反応を発生させて多層カーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ集合体を基体の表面に形成するカーボンナノチューブ形成工程とを順に実施する多層カーボンナノチューブの製造方法であって、
担持工程後であって原料ガスを反応容器内に導入させる前に、触媒粒子を担持した基体を反応容器内において所定時間加熱させて基体上の触媒粒子を成長させて触媒粒子サイズを増加させるサイズ増加処理を実施することを特徴とする。
【0011】
サイズ増加処理において、いわば、基体の表面に担持されている触媒粒子を加熱により基体の表面において加熱凝集させ、触媒粒子のサイズを増加させる。反応容器内の雰囲気、加熱時間等によっても多少相違するが、加熱温度としては400〜1000℃の範囲内の任意値、400〜900℃の範囲内の任意値、あるいは、その温度範囲内の任意領域にできる。反応容器内の雰囲気、加熱温度等によっても多少相違するが、所定時間としては3分以上、5分以上、10分以上、20分以上、更には30分以上、40分以上にできる。但し、生産性を考慮すると、60分以下が好ましい。
【0012】
担持工程後であって原料ガスを反応容器内に導入させる前に、触媒粒子を担持した基体を加熱させつつ反応容器内において所定時間加熱させる。これにより基体上の触媒粒子の加熱凝集を促進させて触媒粒子を成長させ、触媒粒子サイズを増加させる。サイズが増加した触媒粒子を介して基体上にカーボンナノチューブ形成反応により多層カーボンナノチューブが形成される。このため、多層化が進行した多層カーボンナノチューブを製造させるのに有利である。多層カーボンナノチューブとは、一番外側のカーボンナノチューブである筒の内部に、それよりも外径が小さな複数のカーボンナノチューブが同軸的、ほぼ同軸的または非同軸的に配置されているカーボンナノチューブを意味する。
【0013】
(2)様相2の本発明に係る多層カーボンナノチューブの製造方法によれば、上記した様相において、担持工程後であって原料ガスを反応容器内に導入させる前に、還元性ガスを反応容器内に導入し、触媒粒子の表面活性を高めて加熱凝集を促進させることを特徴とする。CVD処理前において、触媒粒子の表面活性を高めて触媒粒子の加熱凝集を促進させることができるため、触媒粒子のサイズの増加に有利であり、多層のカーボンナノチューブを形成させるのに有利である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る製造方法によれば、多層カーボンナノチューブを高い発生頻度で形成させたカーボンナノチューブ集合体を製造させるのに有利である。カーボンナノチューブ形成反応(CVD処理)に先立ち、基体の表面における触媒粒子サイズを増加できるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】多数カーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ束が基体の表面に垂直方向に配向して形成されている状態を模式的に示す概念図である。
【図2】触媒粒子を加熱凝集させて多層カーボンナノチューブを形成する状態を模式的に示す概念図である。
【図3】担持後でCVD処理前の基体の昇温形態を示すグラフである。
【図4】触媒粒子を加熱凝集させる状態を示す概念図である。
【図5】実施例2に係り、カーボンナノチューブの顕微鏡写真(SEM)を示す図である。
【図6】実施例2に係り、カーボンナノチューブを拡大した顕微鏡写真(TEM)を示す図である。
【図7】実施例3に係り、カーボンナノチューブの顕微鏡写真(SEM)を示す図である。
【図8】実施例3に係り、カーボンナノチューブを拡大した顕微鏡写真(TEM)を示す図である。
【図9】実施例2に係り、基板の表面構造解析(AFM)の結果を示す図である。
【図10】実施例2に係り、基板の表面構造解析(AFM)の結果を示す図である。
【図11】触媒粒子を加熱凝集させる他の状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に概念図を示すように、カーボンナノチューブ(CNT)集合体(1)は、基板等の基体(3)の表面(30)に搭載されている。カーボンナノチューブ集合体(1)は、基体(3)の表面(30)に対して立設する方向に沿って延びる垂直配向性を有する多数のカーボンナノチューブ(CNT)を並設させつつ集合させて形成されている。複数のカーボンナノチューブは束となり、カーボンナノチューブ束(2)を形成している。このようにカーボンナノチューブ集合体(1)は、基体(3)の表面(30)に対してカーボンナノチューブの垂直配向性を高めつつ基体(3)の表面(30)に並設されている。このようにカーボンナノチューブ集合体(1)は、束状に複数本まとまったカーボンナノチューブ束(2)を基体(3)の表面(30)に垂直配向性を高めつつ並設させることにより形成されていることが好ましい。
【0017】
上記したカーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブである頻度が高い。触媒粒子のサイズが大きい方が、多層カーボンナノチューブの層数は増加すると考えられる。基体の表面に担持されている触媒粒子のサイズにもよるが、多層カーボンナノチューブは10層以上、20層以上、30層以上、40層以上、50層以上にできる。
【0018】
図2は、微粒子状の触媒粒子(径サイズ:d1)を加熱凝集させ、サイズを増加させた触媒粒子(径サイズ:d2)を形成する形態を模式的に示す。このように加熱凝集によりサイズを増加させた触媒粒子(径サイズ:d2)を形成すれば、カーボンナノチューブの多層化に有利である。多層化とは、外側のカーボンナノチューブの内部に同軸的、ほぼ同軸的または非同軸的に、外側のカーボンナノチューブ割りも外径が小さな複数のカーボンナノチューブが配置されることをいう。
【0019】
基体は金属またはシリコンで形成されていることが好ましい。基体を構成する金属は、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、シリコンのうちの少なくとも1種とすることができる。鉄合金は、鉄−クロム系合金、鉄−ニッケル系合金、鉄−クロム−ニッケル系合金が例示される。基体が金属であれば、基体の集電性および導電性を利用できる。
【0020】
カーボンナノチューブと基体との間には触媒粒子が存在している。従って、カーボンナノチューブ形成前に、基体の表面に触媒粒子を担持させることが好ましい。上記した触媒粒子としては、遷移金属が好ましい。特に、V〜VIII族の金属が好ましい。例えば、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、銅、クロム、バナジウム、ニッケルバナジウム、チタン、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銀、金、これらの合金が例示される。触媒粒子は単体触媒粒子である場合よりも合金である場合には、CVD処理等の加熱時における触媒粒子の加熱凝集が抑制され、触媒粒子の微細分散化に有利であり、カーボンナノチューブ集合体の高密度化に有利であると考えられている。触媒粒子はA−B系の合金であることが好ましい。ここで、Aは鉄、コバルト、ニッケルのうちの少なくとも1種であり、Bはチタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタルのうちの少なくとも1種であることが好ましい。この場合、鉄−チタン系合金、鉄−バナジウム系合金のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。更に、コバルト−チタン系合金、コバルト−バナジウム系合金、ニッケル−チタン系合金、ニッケル−バナジウム系合金、鉄−ジルコニウム系合金、鉄−ニオブ系合金が挙げられる。鉄−チタン系合金の場合には、質量比でチタンが5%以上、10%以上、20%以上、40%以上(残部は実質的に鉄)、50%以下が例示される。鉄−バナジウム系合金の場合には、質量比でバナジウムが5%以上、10%以上、20%以上、40%以上(残部は実質的に鉄)、50%以下が例示される。触媒粒子が合金であるときには、単体金属の触媒粒子に比較して、加熱時における触媒粒子の過剰な加熱凝集が抑制され、カーボンナノチューブの本数の増加に有利であると考えられている。カーボンナノチューブ集合体の高密度化を図るには、CVD処理前に、基体と触媒粒子との間に下地層を形成することが好ましい。従って、基体に下地層を積層させた後に、その下地層に触媒粒子を担持させることが好ましい。下地層は例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金の薄膜で形成できる。下地層の厚みは5〜100ナノメートル、10〜40ナノメートルにできる。このようにカーボンナノチューブ集合体と基体との間には、触媒粒子が存在しており、更に、触媒粒子と基体との間にはアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された下地層が存在することが好ましい。
【0021】
本発明に係る多層カーボンナノチューブの製造方法は、触媒粒子を基体の表面に形成する工程と、触媒粒子を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を形成するカーボンナノチューブ形成工程とを順に実施することにより、多数カーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ集合体を製造する。
【0022】
ここで、カーボンナノチューブ形成工程は、カーボンナノチューブ形成(CVD処理)前に、基体を常温域から400〜750℃範囲内の目標温度T1に1次昇温させ、その後、原料ガスを導入しつつ、400〜750℃範囲内の目標温度T1に維持させることにより、触媒粒子を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を成長させる形態を例示することもできる。
【0023】
また、カーボンナノチューブ形成工程は、カーボンナノチューブ形成前に、基体を常温域から400〜600℃範囲内の1次目標温度T1に1次昇温させ、その後、原料ガスを導入しつつ、600〜1500℃範囲内の2次目標温度T2(T2>T1)に例えば5〜50℃/分にて昇温または2次目標温度T2に温度維持させる制御昇温することにより、触媒粒子を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を成長させる形態を例示することもできる。1次目標温度T1は、カーボンナノチューブ形成が開始する400〜700℃、400〜650℃であることが好ましい。2次目標温度T2はカーボンナノチューブ成長速度が向上する600〜1500℃、650超〜800℃であることが好ましい。このように常温から1次目標温度T1まで基体を速やかに昇温させ、且つ、原料ガスの導入時から反応終了までゆっくりと1次目標温度T1から2次目標温度T2まで昇温させつつ、カーボンナノチューブを形成させることができる。
【0024】
カーボンナノチューブを多層化させるためには触媒粒子は加熱凝集してそのサイズが増加している方が好ましい。また、カーボンナノチューブの本数を増加させるためには、基体上の触媒粒子は分散しており、加熱凝集していない方が好ましい。双方の観点を考慮すると、触媒粒子のサイズとしては、2〜200nmの範囲、2〜150nmの範囲、2〜100nmの範囲が例示される。
【0025】
カーボンナノチューブ形成反応においては、炭素源およびプロセス条件は特に限定されるものではない。カーボンナノチューブを形成させる炭素を供給させる炭素源として、アルカン、アルケン、アルキン等の脂肪族炭化水素、アルコール、エーチル等の脂肪族化合物、芳香族炭化水素等の芳香族化合物が挙げられる。従って、炭素源として、アルコール系の原料ガス、炭化水素系の原料ガスを用いるCVD法(CVD,プラズマCVD、リモートプラズマCVD法等)が例示される。アルコール系の原料ガスとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のガスが例示される。更に炭化水素系の原料ガスとしてはメタンガス、エタンガス、アセチレンガス、エチレンガス、プロパンガス等が例示される。CVD処理において容器内の圧力は例えば100Pa〜0.1MPa程度にできる。
【0026】
(CVD処理前の昇温形態)
以下、本発明に係る製造方法のCVD処理前の昇温形態を図3に基づいて説明する。図3は、本発明に係る製造方法のCVD処理前の各昇温形態を示す。触媒粒子を担持させた基体をCVD装置の反応容器内に配置する。そして特性線W1によれば、時刻t0から反応容器内の基体を加熱して時刻t1を経て目標温度Ta(カーボンナノチューブ形成温度)に昇温させる。そして、目標温度Taに時刻t2において到達したら、目標温度Taにおいて時刻t6または時刻t7まで保持する。これにより基体上の触媒粒子を加熱凝集、加熱凝集させてサイズを増加させる。その後、時刻t6以降の時刻t7から、原料ガスを反応容器内に導入させてCVD処理を実施させてカーボンナノチューブを基体の表面に垂直に配向させつつ成長させる。このようにカーボンナノチューブ形成用の炭素源を含む原料ガスを反応容器内に導入させたカーボンナノチューブを基体の表面において触媒粒子を介して成長させる。
【0027】
特性線W2によれば、時刻t0から反応容器内の基体を加熱して時刻t2を経て目標温度Tbに(Tb>Ta)昇温させる。そして、目標温度Tbに時刻t3において到達したら、目標温度Tbにおいて時刻t4を経て時刻t5まで保持する。これにより基体上の触媒粒子の加熱凝集を促進させて触媒粒子のサイズを増加させる。Tb>Taであり、基体はCVD処理温度よりも高温に昇温されるため、触媒粒子の加熱凝集は促進される。温度が高い場合には、触媒粒子における拡散反応が促進されるためである。Tb−Ta=2〜100℃の範囲内の任意値が例示される。その後、時刻t5〜時刻t6にかけて基体の温度を目標温度Ta(カーボンナノチューブ形成温度)まで低下させる。時刻t6以降の時刻t7から、原料ガスを反応容器内に導入させてCVD処理を実施させてカーボンナノチューブを成長させる。
【0028】
特性線W3によれば、時刻t0から反応容器内の基体を連続的にゆっくりと加熱して時刻t2,t3,t4を経て目標温度Ta(カーボンナノチューブ形成温度)に連続的に低速(昇温速度:3〜25℃/分、または、5〜20℃/分)で昇温させる。これにより基体上の触媒粒子の加熱凝集を促進させて触媒粒子のサイズを増加させる。そして、目標温度Taに時刻t6において到達したら、時刻t6以降の時刻t7から、原料ガスを反応容器内に導入させてCVD処理を実施させてカーボンナノチューブを成長させる。特性線W7として示すように、時刻t6以降(または時刻t7以降)において、時間が経過するにつれて、基体の温度を徐々に昇温させつつカーボンナノチューブを形成させても良い。
【0029】
なお、サイズ増加処理において、特性線W1〜W3で示される形態について、時刻t0〜時刻t6までの時間帯において、反応容器内の雰囲気を不活性な減圧雰囲気(窒素ガス雰囲気またはアルゴンガス雰囲気)とさせても良い。更には、反応容器内の雰囲気を還元性雰囲気とさせても良い。還元性雰囲気は、水素ガス等の還元性ガスを反応容器内に導入することにより行い得る。基体の表面に担持されている触媒粒子に酸化膜が生成しているときであっても、その酸化膜を除去し、シ触媒粒子の活性をCVD処理前に高めることができる。あるいは、サイズ増加処理において、反応容器内の雰囲気を酸化性雰囲気と還元性雰囲気との混合雰囲気としても良い。この場合、CVD処理前に、水素ガスおよび水蒸気を含む混合ガスを反応容器内に導入することにより行い得る。CVD処理時に水蒸気を原料ガスに混合させることもできる。この場合、CVD処理時に触媒粒子付近に、カーボンナノチューブの成長を妨げる非晶質カーボンが発生するときであっても、非晶質カーボンを酸化性雰囲気で酸化させて除去できる。
【0030】
上記したように特性線W1〜W3に示す形態において、CVD処理前に、即ち、原料ガスを反応容器に導入させる前に、あるいはCVD処理開始初期に、水素ガスなどの還元性ガスを反応容器に導入させることが好ましい。基体に担持されている触媒粒子に生成されている酸化膜を低減させたり、除去させたりするためである。この場合、触媒粒子の表面活性度を高め、触媒粒子の加熱凝集を促進させ、触媒粒子のサイズを増加させ、多層のカーボンナノチューブを形成させるのに有利である。
【0031】
以下、本発明に係る実施例を説明する。
【0032】
[実施例1]
(基板)
本実施例では、基体として機能する基板としてSUS(SUS304)を使用した。基板の表面は研磨されており、基板の表面粗さはRaで5ナノメートルであった。
【0033】
(前処理,第1層)
前処理として、スパッタリング法により、アルミニウム薄膜の下地層(厚み:7ナノメートル)を第1層として基板の表面に形成した。この場合、アルゴンガスを用い、反応容器内の圧力を0.6Paとし、基板の温度を常温域(25℃)とし、スパッタリングを行った。
【0034】
(前処理,第2層)
更に、第1層の上に第2層を積層させる前の前処理として、基板の表面を撥水処理した。撥水処理液として、シランカップリング剤をトルエンで希釈させた溶剤を用い、この溶剤に、下地層を有する基板を大気中で所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を溶剤から引き上げ、自然乾燥させた。これにより基板上のアルミニウムの下地層表面に疎水性を付与させた。次に、大気中において、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に30秒間浸漬した。コーティング液については、鉄−チタン合金の触媒粒子とをヘキサン溶媒中に分散させて形成した。鉄−チタン合金の触媒粒子については、平均粒径2〜3ナノメートルとし、質量比で鉄80%,チタン20%であり、鉄含有量はチタン含有量よりも多かった。触媒粒子の平均粒径については、TEM観察により判定した。平均粒径は単純平均とした。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。鉄−チタン合金は、カーボンナノチューブの本数の増加に有利であると考えられる。その後、大気雰囲気において常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。コーティング液が基板の表面に付着した状態で、自然乾燥にてヘキサンを乾燥させた。これにより、触媒粒子200を第2層として基板の下地層の上に形成した。触媒粒子200は、CVD処理前の加熱凝集によりサイズが増加した凝集触媒粒子201となる。この状態を模式化した概略図を図4に示す。
【0035】
(サイズ増加処理、カーボンナノチューブ形成工程)
CVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、CVD処理によりカーボンナノチューブを形成させるに先立ち、予め、触媒粒子を担持させた基板をCVD装置の反応容器内において所定の温度(650℃)まで昇温させた。すなわち、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを2500cc/分の流量で導入し、反応容器内の圧力を1×105Paに調整しつつ、基板の温度を常温域から650℃(目標温度T1)まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は125℃/分であった。
【0036】
上記したように昇温させた後、基板温度650℃において所定時間(5分間)保持し、触媒粒子200の加熱凝集をCVD処理前において促進させた(サイズ増加処理)。その後、CVD処理前において、還元性雰囲気を形成する水素ガスを3000cc/分の流量で反応容器に10分間導入した。これにより触媒粒子に生成されている酸化膜を除去し、触媒粒子の一層の活性化を図った。その後、水素ガスの導入を停止させた。その後、アセチレンガスで形成された原料ガスを反応容器内に500cc/分の流量で6分間導入し、CVD処理を行った。これにより多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を、基板の表面上に触媒粒子を介して形成した。カーボンナノチューブの多くは多層カーボンナノチューブであった。多層カーボンナノチューブの長さは120マイクロメートル、平均直径は12ナノメートル、カーボンナノチューブ集合体の密度は225mg/cm3であった。1本の多層カーボンナノチューブの層数は11層であった。上記した密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点)における密度に相当し、外部力による圧縮などの二次加工を施していない。
【0037】
[実施例2]
(基板,前処理)
基板、前処理の第1層および第2層については、実施例1と同様とした。
【0038】
(サイズ増加処理、カーボンナノチューブ形成工程)
実施例1と同様のCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、カーボンナノチューブの形成に先立ち、予め、触媒粒子を担持させた基板の所定の目標温度まで制御しつつ昇温させた。昇温は、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを2500cc/分の流量と水素ガスを3000cc/分の流量で混合させた混合ガスを反応容器に導入しつつ、反応容器内の圧力を1×105Paに調整しつつ、基板の温度を常温域から650℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は125℃/分であった。
【0039】
上記したように昇温させた後、反応容器内において、基板温度650℃において所定時間(30分間)保持し、基板上の触媒粒子の加熱凝集を促進させた(サイズ増加処理)。その後、水素ガスの導入を停止させた。その後、アセチレンガスで形成された原料ガスを反応容器内に500cc/分の流量で6分間導入し、CVD処理を実行した。これにより多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を、基板の表面上に触媒粒子を介して形成した。カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであった。
【0040】
図5および図6は、得られたカーボンナノチューブ集合体(SEM観察)を示す。図5ではカーボンナノチューブの頂部と基板側の底部が視認される。カーボンナノチューブの多くは多層カーボンナノチューブであった。図6は1本の多層カーボンナノチューブを示す。図5から理解できるように、基板の表面に立設する方向に沿って同じ方向に延びる垂直配向性を有する多数のカーボンナノチューブを並設させつつ集合させたカーボンナノチューブ束が多数、基板の表面に高密度で植毛状に形成されていた。図5から理解できるように、カーボンナノチューブは基体の表面からほぼ垂直方向に配向していた。カーボンナノチューブ束も、基体の表面からほぼ垂直方向に配向していた。ここで、カーボンナノチューブ束とは、カーボンナノチューブの長さ方向と直交する方向に複数のカーボンナノチューブを並列させつつ束状に束ねた群の状態をいう。SEM観察を示す図8から理解できるように、均一に高密度のカーボンナノチューブの集合体が形成されている。ここで、カーボンナノチューブ束の直径をDbとすると、隣接するカーボンナノチューブ束間の隙間tbは寸法Db以内で隣り合っており、カーボンナノチューブ集合体が高密度化されていることが確認された(図1,図5参照)。
【0041】
本実施例によれば、多層カーボンナノチューブの長さは210〜250マイクロメートル(230マイクロメートル)、平均直径は35ナノメートル、密度は170mg/cm3であった。1本の多層カーボンナノチューブの層数は33層であった。層数については、TEM観察結果(×80万倍)における層の厚みを層間距離で割ることにより算出した。このように33層という多層のカーボンナノチューブが高密度で得られた。上記した密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点)における密度に相当し、外部力による圧縮などの二次加工を施していない。
【0042】
[実施例3]
(基板,前処理)
基板、前処理の第1層および第2層については、実施例1と同様とした。
【0043】
(サイズ増加処理、カーボンナノチューブ形成工程)
実施例1と同様のCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、カーボンナノチューブの形成に先立ち、予め、基板の所定の目標温度(650℃)まで昇温させた。昇温は、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを2500cc/分の流量で反応容器に導入しつつ、反応容器内の圧力を1×105Paに調整しつつ、基板の温度を常温域から650℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は125℃/分であった。
【0044】
上記したように昇温させた後、基板温度650℃において所定時間(30分間)保持し、基板上の触媒粒子の加熱凝集を促進させた(サイズ増加処理)。その後、アセチレンガスで形成された原料ガスを反応容器内に500cc/分の流量で6分間導入し、CVD処理を行った。これにより多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を、基板の表面上に触媒粒子を介して形成した。図7および図8はカーボンナノチューブを示す。カーボンナノチューブの多くは多層カーボンナノチューブであった。多層カーボンナノチューブの長さは0.8〜1.2マイクロメートル(1マイクロメートル)、平均直径は24ナノメートル、層数は22層であった。このように22層という多層のカーボンナノチューブが得られたものの、長さの成長性は乏しかった。
【0045】
[比較例1]
(基板,前処理)
基板、前処理の第1層および第2層については、実施例1と同様とした。
【0046】
(カーボンナノチューブ形成方法)
実施例1と同様のCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、カーボンナノチューブの形成に先立ち、予め、基板の所定の温度まで制御しつつ昇温させた。昇温は、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを2500cc/分の流量で反応容器に導入しつつ、反応容器内の圧力を1×105Paに調整しつつ、基板の温度を常温域から650℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は125℃/分であった。
【0047】
上記したように昇温させた後、基板温度650℃において所定時間保持する加熱凝集(サイズ増加処理)を実施しなかった。このため基板上の触媒粒子はサイズは増加していないものと考えられる。その後、アセチレンガスで形成された原料ガスを反応容器内に500cc/分の流量で6分間導入した。これにより多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を、基板の表面上に触媒粒子を介して形成した。多層カーボンナノチューブはあまり認められなかった。カーボンナノチューブの長さは50マイクロメートル、平均直径は10ナノメートルであった。カーボンナノチューブの長さの成長性は良いものの、層数が乏しかった。
【0048】
[カーボンナノチューブ集合体の密度の測定方法]
カーボンナノチューブ集合体の密度については次のように測定した。すなわち、カーボンナノチューブ集合体を基板の表面に形成させる前後の重量測定により、カーボンナノチューブ集合体それ自体の重量W[g]を測定した。基板のうちカーボンナノチューブ集合体を形成している面積Sで重量W[g]を除算した。これにより単位面積あたりのカーボンナノチューブ目付量W/S[g/cm2]を算出した。更に、カーボンナノチューブ集合体の断面をSEM観察し、カーボンナノチューブ集合体の膜厚[μm]を測定した。これにより膜厚を考慮し、カーボンナノチューブ集合体の密度[g/cm3]を算出した。
【0049】
(表面構造解析)
実施例2に相当する例(触媒粒子加熱凝集の目標温度を620℃)について、触媒粒子を担持させた基板の表面構造解析(AFM)を行った。解析結果を図9および図10に示す。図12は、昇温前の基板と昇温開始5分間後の基板について表面構造解析(AFM)した結果を示す。図10は、620℃に10分間後の基板と620℃に30分間後の基板の表面を構造解析(AFM)した結果を示す。図9および図10に示すように、CVD処理前に620℃に基板を保持する時間が長くなると、触媒粒子のサイズが増加していることが理解できる。それにつれて基板の表面粗さが粗くなっていることが理解できる。表面構造解析(AFM)の条件としては、AFM装置(型式:Nano ScopeIIIa(製造元:Digital Instruments)を用い、スキャンサイズを1マイクロメートル、スキャンレートを1.001Hzとした。このように触媒粒子を担持させた基板を加熱させて加熱温度に所定時間保持すれば、触媒粒子の加熱凝集を促進させ、触媒粒子のサイズを増加させ得ることが確認された。
【0050】
(その他)
上記した実施例によれば、合金系の触媒粒子として、鉄−チタン系合金、鉄−バナジウム系合金が使用されているが、これに限らず、コバルト−チタン系合金、コバルト−バナジウム系合金、ニッケル−チタン系合金、ニッケル−バナジウム系合金、鉄−ジルコニウム系合金、鉄−ニオブ系合金とすることもできる。触媒粒子の担持に先立ち、第1層としてアルミニウムの下地層を基板に形成させているが、アルミニウム合金の下地層としても良い。第1層の上に第2層を積層させることにしているが、これに限らず、場合によっては第1層を省略することもできる。本発明は上記した実施形態、実施例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施可能である。
(その他の実施形態)
本発明方法によれば、図11に示すように、基体100の表面に担持されている触媒粒子層211は、多数の触媒粒子210を厚み方向に複数層として積層させた積層構造とされていても良い。この場合、触媒粒子層211において触媒粒子210が複数層として積層されているため、触媒粒子210同士の接点が増加しており、担持工程後にCVD処理前に基体100が加熱されていると、触媒粒子210同士の加熱凝集が効率よく発生し、凝集触媒粒子212が形成され、凝集触媒粒子212のサイズが増加する。
【0051】
この場合、触媒粒子210を含むコーティング液に基体100を浸漬させて引き上げるにあたり、引き上げ速度を低速化させると、多数の触媒粒子210を厚み方向に積層させた積層構造が得られやすい。また触媒粒子210を含むコーティング液を基体100にスプレー塗布する場合には、触媒粒子210を含むコーティング液に基体100を吹き付ける塗布回数を増加させれば、多数の触媒粒子210を厚み方向に積層させた積層構造が得られやすい。また、触媒粒子210を含むコーティング液と基体100との接触時間を増加させても、多数の触媒粒子210を厚み方向に積層させた積層構造が得られやすい。この場合においても、加熱凝集前、および/または、加熱凝集時において、水素ガスなどの還元性ガスを反応容器に導入させることが好ましい。触媒粒子210や触媒粒子層211に生成されている酸化膜を低減させたり除去させたりし、触媒粒子210や触媒粒子層211の表面活性度を高めて加熱凝集を促進でき、凝集触媒粒子212のサイズを増加させるのに有利であり、多層のカーボンナノチューブを形成させるのに有利である。勿論、窒素ガスなどの不活性なガスを反応容器に導入させることにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は例えば比表面積が大きいことが要請される炭素材料に利用することができる。例えば、燃料電池に使用される炭素材料、キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、二次電池、湿式太陽電池等の各種電池に使用される炭素材料、浄水器フィルターの炭素材料、ガス吸着の炭素材料、電子放出素子、電界放出型ディスプレイ等に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
100は基体、200は触媒粒子、201は凝集触媒粒子を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層カーボンナノチューブを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、近年着目されている炭素材料である。特許文献1には、基板温度を675〜750℃にした状態で、CVD処理することにより、多数個のカーボンナノチューブを並列させつつ基板に対してほぼ垂直となるように基板の表面に成長させたカーボンナノチューブ複合体が開示されている。
【0003】
特許文献2には、基板の表面に植毛状に形成された多数個のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ群と、カーボンナノチューブ群のうち基板側の根元を連結する金属膜とを有するカーボンナノチューブ複合体が開示されている。このものによれば、カーボンナノチューブの成長温度よりも高い融点をもつ金属の膜を形成し、この金属膜の上に触媒粒子を設け、この状態で、原料ガスによりカーボンナノチューブを基板の表面において成長させ、次に、カーボンナノチューブの成長温度よりも高い温度で金属を溶融させ、その後固化させ、これによりカーボンナノチューブの根元部を金属で被覆固定させることにしている。
【0004】
特許文献3には、シリコン基板の表面に対して垂直の配向を維持させつつ多層カーボンナノチューブを多数本、シリコン基板の表面に超高密度に集合させた多層カーボンナノチューブの集合構造が開示されている。
【0005】
特許文献4には、成長させたカーボンナノチューブの集合体を圧密化二次加工として水等の液体に晒した後に、乾燥させることによりカーボンナノチューブ集合体を圧縮させる圧縮工程を経て高密度化させるカーボンナノチューブ集合体の製造技術が開示されている。このものによれば、カーボンナノチューブを成長させた後に圧密化二次加工すれば、カーボンナノチューブ集合体を高密度化させることができるとしている。更に、特許文献4には、機械的な外部圧力を加えて圧縮させる圧縮加工を圧密化二次加工としてカーボンナノチューブ集合体に作用させて高密度化させる技術も開示されている。
【0006】
特許文献5には、基板の表面の親水性保護膜(例えばMgO,SiO2,TiO2)にアルミナ膜を形成し、アルミナ膜上に触媒層を積層させ、触媒層上に多層のカーボンナノチューブを成長させる製造方法が開示されている。このものによれば、多層カーボンナノチューブが形成され易いと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−220674号公報
【特許文献2】特開2007−76925号公報
【特許文献3】特開2008−120658号公報
【特許文献4】特開2007−182352号公報
【特許文献5】特開2010−13294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
産業界では、多層化された多層カーボンナノチューブを集合させたカーボンナノチューブ集合体が要望されている。しかし上記した技術によれば、多層化されたカーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ集合体の製造には、必ずしも充分ではない。
【0009】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、多層カーボンナノチューブを得るのに有利な多層カーボンナノチューブの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)様相1の本発明に係る多層カーボンナノチューブの製造方法は、触媒粒子を基体の表面に担持させる担持工程と、触媒粒子を担持させた基体をCVD装置の反応容器内に配置した状態で、カーボンナノチューブ形成温度に基体を維持させると共に、炭素源を含む原料ガスをCVD装置の反応容器に導入させることにより、触媒粒子を有する基体の表面にCVD処理により触媒粒子活性を利用してカーボンナノチューブ形成反応を発生させて多層カーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ集合体を基体の表面に形成するカーボンナノチューブ形成工程とを順に実施する多層カーボンナノチューブの製造方法であって、
担持工程後であって原料ガスを反応容器内に導入させる前に、触媒粒子を担持した基体を反応容器内において所定時間加熱させて基体上の触媒粒子を成長させて触媒粒子サイズを増加させるサイズ増加処理を実施することを特徴とする。
【0011】
サイズ増加処理において、いわば、基体の表面に担持されている触媒粒子を加熱により基体の表面において加熱凝集させ、触媒粒子のサイズを増加させる。反応容器内の雰囲気、加熱時間等によっても多少相違するが、加熱温度としては400〜1000℃の範囲内の任意値、400〜900℃の範囲内の任意値、あるいは、その温度範囲内の任意領域にできる。反応容器内の雰囲気、加熱温度等によっても多少相違するが、所定時間としては3分以上、5分以上、10分以上、20分以上、更には30分以上、40分以上にできる。但し、生産性を考慮すると、60分以下が好ましい。
【0012】
担持工程後であって原料ガスを反応容器内に導入させる前に、触媒粒子を担持した基体を加熱させつつ反応容器内において所定時間加熱させる。これにより基体上の触媒粒子の加熱凝集を促進させて触媒粒子を成長させ、触媒粒子サイズを増加させる。サイズが増加した触媒粒子を介して基体上にカーボンナノチューブ形成反応により多層カーボンナノチューブが形成される。このため、多層化が進行した多層カーボンナノチューブを製造させるのに有利である。多層カーボンナノチューブとは、一番外側のカーボンナノチューブである筒の内部に、それよりも外径が小さな複数のカーボンナノチューブが同軸的、ほぼ同軸的または非同軸的に配置されているカーボンナノチューブを意味する。
【0013】
(2)様相2の本発明に係る多層カーボンナノチューブの製造方法によれば、上記した様相において、担持工程後であって原料ガスを反応容器内に導入させる前に、還元性ガスを反応容器内に導入し、触媒粒子の表面活性を高めて加熱凝集を促進させることを特徴とする。CVD処理前において、触媒粒子の表面活性を高めて触媒粒子の加熱凝集を促進させることができるため、触媒粒子のサイズの増加に有利であり、多層のカーボンナノチューブを形成させるのに有利である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る製造方法によれば、多層カーボンナノチューブを高い発生頻度で形成させたカーボンナノチューブ集合体を製造させるのに有利である。カーボンナノチューブ形成反応(CVD処理)に先立ち、基体の表面における触媒粒子サイズを増加できるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】多数カーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ束が基体の表面に垂直方向に配向して形成されている状態を模式的に示す概念図である。
【図2】触媒粒子を加熱凝集させて多層カーボンナノチューブを形成する状態を模式的に示す概念図である。
【図3】担持後でCVD処理前の基体の昇温形態を示すグラフである。
【図4】触媒粒子を加熱凝集させる状態を示す概念図である。
【図5】実施例2に係り、カーボンナノチューブの顕微鏡写真(SEM)を示す図である。
【図6】実施例2に係り、カーボンナノチューブを拡大した顕微鏡写真(TEM)を示す図である。
【図7】実施例3に係り、カーボンナノチューブの顕微鏡写真(SEM)を示す図である。
【図8】実施例3に係り、カーボンナノチューブを拡大した顕微鏡写真(TEM)を示す図である。
【図9】実施例2に係り、基板の表面構造解析(AFM)の結果を示す図である。
【図10】実施例2に係り、基板の表面構造解析(AFM)の結果を示す図である。
【図11】触媒粒子を加熱凝集させる他の状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に概念図を示すように、カーボンナノチューブ(CNT)集合体(1)は、基板等の基体(3)の表面(30)に搭載されている。カーボンナノチューブ集合体(1)は、基体(3)の表面(30)に対して立設する方向に沿って延びる垂直配向性を有する多数のカーボンナノチューブ(CNT)を並設させつつ集合させて形成されている。複数のカーボンナノチューブは束となり、カーボンナノチューブ束(2)を形成している。このようにカーボンナノチューブ集合体(1)は、基体(3)の表面(30)に対してカーボンナノチューブの垂直配向性を高めつつ基体(3)の表面(30)に並設されている。このようにカーボンナノチューブ集合体(1)は、束状に複数本まとまったカーボンナノチューブ束(2)を基体(3)の表面(30)に垂直配向性を高めつつ並設させることにより形成されていることが好ましい。
【0017】
上記したカーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブである頻度が高い。触媒粒子のサイズが大きい方が、多層カーボンナノチューブの層数は増加すると考えられる。基体の表面に担持されている触媒粒子のサイズにもよるが、多層カーボンナノチューブは10層以上、20層以上、30層以上、40層以上、50層以上にできる。
【0018】
図2は、微粒子状の触媒粒子(径サイズ:d1)を加熱凝集させ、サイズを増加させた触媒粒子(径サイズ:d2)を形成する形態を模式的に示す。このように加熱凝集によりサイズを増加させた触媒粒子(径サイズ:d2)を形成すれば、カーボンナノチューブの多層化に有利である。多層化とは、外側のカーボンナノチューブの内部に同軸的、ほぼ同軸的または非同軸的に、外側のカーボンナノチューブ割りも外径が小さな複数のカーボンナノチューブが配置されることをいう。
【0019】
基体は金属またはシリコンで形成されていることが好ましい。基体を構成する金属は、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、シリコンのうちの少なくとも1種とすることができる。鉄合金は、鉄−クロム系合金、鉄−ニッケル系合金、鉄−クロム−ニッケル系合金が例示される。基体が金属であれば、基体の集電性および導電性を利用できる。
【0020】
カーボンナノチューブと基体との間には触媒粒子が存在している。従って、カーボンナノチューブ形成前に、基体の表面に触媒粒子を担持させることが好ましい。上記した触媒粒子としては、遷移金属が好ましい。特に、V〜VIII族の金属が好ましい。例えば、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、銅、クロム、バナジウム、ニッケルバナジウム、チタン、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銀、金、これらの合金が例示される。触媒粒子は単体触媒粒子である場合よりも合金である場合には、CVD処理等の加熱時における触媒粒子の加熱凝集が抑制され、触媒粒子の微細分散化に有利であり、カーボンナノチューブ集合体の高密度化に有利であると考えられている。触媒粒子はA−B系の合金であることが好ましい。ここで、Aは鉄、コバルト、ニッケルのうちの少なくとも1種であり、Bはチタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタルのうちの少なくとも1種であることが好ましい。この場合、鉄−チタン系合金、鉄−バナジウム系合金のうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。更に、コバルト−チタン系合金、コバルト−バナジウム系合金、ニッケル−チタン系合金、ニッケル−バナジウム系合金、鉄−ジルコニウム系合金、鉄−ニオブ系合金が挙げられる。鉄−チタン系合金の場合には、質量比でチタンが5%以上、10%以上、20%以上、40%以上(残部は実質的に鉄)、50%以下が例示される。鉄−バナジウム系合金の場合には、質量比でバナジウムが5%以上、10%以上、20%以上、40%以上(残部は実質的に鉄)、50%以下が例示される。触媒粒子が合金であるときには、単体金属の触媒粒子に比較して、加熱時における触媒粒子の過剰な加熱凝集が抑制され、カーボンナノチューブの本数の増加に有利であると考えられている。カーボンナノチューブ集合体の高密度化を図るには、CVD処理前に、基体と触媒粒子との間に下地層を形成することが好ましい。従って、基体に下地層を積層させた後に、その下地層に触媒粒子を担持させることが好ましい。下地層は例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金の薄膜で形成できる。下地層の厚みは5〜100ナノメートル、10〜40ナノメートルにできる。このようにカーボンナノチューブ集合体と基体との間には、触媒粒子が存在しており、更に、触媒粒子と基体との間にはアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成された下地層が存在することが好ましい。
【0021】
本発明に係る多層カーボンナノチューブの製造方法は、触媒粒子を基体の表面に形成する工程と、触媒粒子を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を形成するカーボンナノチューブ形成工程とを順に実施することにより、多数カーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ集合体を製造する。
【0022】
ここで、カーボンナノチューブ形成工程は、カーボンナノチューブ形成(CVD処理)前に、基体を常温域から400〜750℃範囲内の目標温度T1に1次昇温させ、その後、原料ガスを導入しつつ、400〜750℃範囲内の目標温度T1に維持させることにより、触媒粒子を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を成長させる形態を例示することもできる。
【0023】
また、カーボンナノチューブ形成工程は、カーボンナノチューブ形成前に、基体を常温域から400〜600℃範囲内の1次目標温度T1に1次昇温させ、その後、原料ガスを導入しつつ、600〜1500℃範囲内の2次目標温度T2(T2>T1)に例えば5〜50℃/分にて昇温または2次目標温度T2に温度維持させる制御昇温することにより、触媒粒子を有する基体の表面にCVD処理によりカーボンナノチューブ形成反応を発生させてカーボンナノチューブ集合体を成長させる形態を例示することもできる。1次目標温度T1は、カーボンナノチューブ形成が開始する400〜700℃、400〜650℃であることが好ましい。2次目標温度T2はカーボンナノチューブ成長速度が向上する600〜1500℃、650超〜800℃であることが好ましい。このように常温から1次目標温度T1まで基体を速やかに昇温させ、且つ、原料ガスの導入時から反応終了までゆっくりと1次目標温度T1から2次目標温度T2まで昇温させつつ、カーボンナノチューブを形成させることができる。
【0024】
カーボンナノチューブを多層化させるためには触媒粒子は加熱凝集してそのサイズが増加している方が好ましい。また、カーボンナノチューブの本数を増加させるためには、基体上の触媒粒子は分散しており、加熱凝集していない方が好ましい。双方の観点を考慮すると、触媒粒子のサイズとしては、2〜200nmの範囲、2〜150nmの範囲、2〜100nmの範囲が例示される。
【0025】
カーボンナノチューブ形成反応においては、炭素源およびプロセス条件は特に限定されるものではない。カーボンナノチューブを形成させる炭素を供給させる炭素源として、アルカン、アルケン、アルキン等の脂肪族炭化水素、アルコール、エーチル等の脂肪族化合物、芳香族炭化水素等の芳香族化合物が挙げられる。従って、炭素源として、アルコール系の原料ガス、炭化水素系の原料ガスを用いるCVD法(CVD,プラズマCVD、リモートプラズマCVD法等)が例示される。アルコール系の原料ガスとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のガスが例示される。更に炭化水素系の原料ガスとしてはメタンガス、エタンガス、アセチレンガス、エチレンガス、プロパンガス等が例示される。CVD処理において容器内の圧力は例えば100Pa〜0.1MPa程度にできる。
【0026】
(CVD処理前の昇温形態)
以下、本発明に係る製造方法のCVD処理前の昇温形態を図3に基づいて説明する。図3は、本発明に係る製造方法のCVD処理前の各昇温形態を示す。触媒粒子を担持させた基体をCVD装置の反応容器内に配置する。そして特性線W1によれば、時刻t0から反応容器内の基体を加熱して時刻t1を経て目標温度Ta(カーボンナノチューブ形成温度)に昇温させる。そして、目標温度Taに時刻t2において到達したら、目標温度Taにおいて時刻t6または時刻t7まで保持する。これにより基体上の触媒粒子を加熱凝集、加熱凝集させてサイズを増加させる。その後、時刻t6以降の時刻t7から、原料ガスを反応容器内に導入させてCVD処理を実施させてカーボンナノチューブを基体の表面に垂直に配向させつつ成長させる。このようにカーボンナノチューブ形成用の炭素源を含む原料ガスを反応容器内に導入させたカーボンナノチューブを基体の表面において触媒粒子を介して成長させる。
【0027】
特性線W2によれば、時刻t0から反応容器内の基体を加熱して時刻t2を経て目標温度Tbに(Tb>Ta)昇温させる。そして、目標温度Tbに時刻t3において到達したら、目標温度Tbにおいて時刻t4を経て時刻t5まで保持する。これにより基体上の触媒粒子の加熱凝集を促進させて触媒粒子のサイズを増加させる。Tb>Taであり、基体はCVD処理温度よりも高温に昇温されるため、触媒粒子の加熱凝集は促進される。温度が高い場合には、触媒粒子における拡散反応が促進されるためである。Tb−Ta=2〜100℃の範囲内の任意値が例示される。その後、時刻t5〜時刻t6にかけて基体の温度を目標温度Ta(カーボンナノチューブ形成温度)まで低下させる。時刻t6以降の時刻t7から、原料ガスを反応容器内に導入させてCVD処理を実施させてカーボンナノチューブを成長させる。
【0028】
特性線W3によれば、時刻t0から反応容器内の基体を連続的にゆっくりと加熱して時刻t2,t3,t4を経て目標温度Ta(カーボンナノチューブ形成温度)に連続的に低速(昇温速度:3〜25℃/分、または、5〜20℃/分)で昇温させる。これにより基体上の触媒粒子の加熱凝集を促進させて触媒粒子のサイズを増加させる。そして、目標温度Taに時刻t6において到達したら、時刻t6以降の時刻t7から、原料ガスを反応容器内に導入させてCVD処理を実施させてカーボンナノチューブを成長させる。特性線W7として示すように、時刻t6以降(または時刻t7以降)において、時間が経過するにつれて、基体の温度を徐々に昇温させつつカーボンナノチューブを形成させても良い。
【0029】
なお、サイズ増加処理において、特性線W1〜W3で示される形態について、時刻t0〜時刻t6までの時間帯において、反応容器内の雰囲気を不活性な減圧雰囲気(窒素ガス雰囲気またはアルゴンガス雰囲気)とさせても良い。更には、反応容器内の雰囲気を還元性雰囲気とさせても良い。還元性雰囲気は、水素ガス等の還元性ガスを反応容器内に導入することにより行い得る。基体の表面に担持されている触媒粒子に酸化膜が生成しているときであっても、その酸化膜を除去し、シ触媒粒子の活性をCVD処理前に高めることができる。あるいは、サイズ増加処理において、反応容器内の雰囲気を酸化性雰囲気と還元性雰囲気との混合雰囲気としても良い。この場合、CVD処理前に、水素ガスおよび水蒸気を含む混合ガスを反応容器内に導入することにより行い得る。CVD処理時に水蒸気を原料ガスに混合させることもできる。この場合、CVD処理時に触媒粒子付近に、カーボンナノチューブの成長を妨げる非晶質カーボンが発生するときであっても、非晶質カーボンを酸化性雰囲気で酸化させて除去できる。
【0030】
上記したように特性線W1〜W3に示す形態において、CVD処理前に、即ち、原料ガスを反応容器に導入させる前に、あるいはCVD処理開始初期に、水素ガスなどの還元性ガスを反応容器に導入させることが好ましい。基体に担持されている触媒粒子に生成されている酸化膜を低減させたり、除去させたりするためである。この場合、触媒粒子の表面活性度を高め、触媒粒子の加熱凝集を促進させ、触媒粒子のサイズを増加させ、多層のカーボンナノチューブを形成させるのに有利である。
【0031】
以下、本発明に係る実施例を説明する。
【0032】
[実施例1]
(基板)
本実施例では、基体として機能する基板としてSUS(SUS304)を使用した。基板の表面は研磨されており、基板の表面粗さはRaで5ナノメートルであった。
【0033】
(前処理,第1層)
前処理として、スパッタリング法により、アルミニウム薄膜の下地層(厚み:7ナノメートル)を第1層として基板の表面に形成した。この場合、アルゴンガスを用い、反応容器内の圧力を0.6Paとし、基板の温度を常温域(25℃)とし、スパッタリングを行った。
【0034】
(前処理,第2層)
更に、第1層の上に第2層を積層させる前の前処理として、基板の表面を撥水処理した。撥水処理液として、シランカップリング剤をトルエンで希釈させた溶剤を用い、この溶剤に、下地層を有する基板を大気中で所定時間(30分間)浸漬させ、その後、基板を溶剤から引き上げ、自然乾燥させた。これにより基板上のアルミニウムの下地層表面に疎水性を付与させた。次に、大気中において、上記した基板をディップコーターによりコーティング液に30秒間浸漬した。コーティング液については、鉄−チタン合金の触媒粒子とをヘキサン溶媒中に分散させて形成した。鉄−チタン合金の触媒粒子については、平均粒径2〜3ナノメートルとし、質量比で鉄80%,チタン20%であり、鉄含有量はチタン含有量よりも多かった。触媒粒子の平均粒径については、TEM観察により判定した。平均粒径は単純平均とした。コーティング液については、可視光度計(WPA社製:CO7500)にて波長680ナノメートルの測定条件で、吸光度が0.3となるように濃度調整した。鉄−チタン合金は、カーボンナノチューブの本数の増加に有利であると考えられる。その後、大気雰囲気において常温下で、基板をコーティング液から3ミリメートル/分間の速度で引き上げた。コーティング液が基板の表面に付着した状態で、自然乾燥にてヘキサンを乾燥させた。これにより、触媒粒子200を第2層として基板の下地層の上に形成した。触媒粒子200は、CVD処理前の加熱凝集によりサイズが増加した凝集触媒粒子201となる。この状態を模式化した概略図を図4に示す。
【0035】
(サイズ増加処理、カーボンナノチューブ形成工程)
CVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、CVD処理によりカーボンナノチューブを形成させるに先立ち、予め、触媒粒子を担持させた基板をCVD装置の反応容器内において所定の温度(650℃)まで昇温させた。すなわち、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを2500cc/分の流量で導入し、反応容器内の圧力を1×105Paに調整しつつ、基板の温度を常温域から650℃(目標温度T1)まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は125℃/分であった。
【0036】
上記したように昇温させた後、基板温度650℃において所定時間(5分間)保持し、触媒粒子200の加熱凝集をCVD処理前において促進させた(サイズ増加処理)。その後、CVD処理前において、還元性雰囲気を形成する水素ガスを3000cc/分の流量で反応容器に10分間導入した。これにより触媒粒子に生成されている酸化膜を除去し、触媒粒子の一層の活性化を図った。その後、水素ガスの導入を停止させた。その後、アセチレンガスで形成された原料ガスを反応容器内に500cc/分の流量で6分間導入し、CVD処理を行った。これにより多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を、基板の表面上に触媒粒子を介して形成した。カーボンナノチューブの多くは多層カーボンナノチューブであった。多層カーボンナノチューブの長さは120マイクロメートル、平均直径は12ナノメートル、カーボンナノチューブ集合体の密度は225mg/cm3であった。1本の多層カーボンナノチューブの層数は11層であった。上記した密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点)における密度に相当し、外部力による圧縮などの二次加工を施していない。
【0037】
[実施例2]
(基板,前処理)
基板、前処理の第1層および第2層については、実施例1と同様とした。
【0038】
(サイズ増加処理、カーボンナノチューブ形成工程)
実施例1と同様のCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、カーボンナノチューブの形成に先立ち、予め、触媒粒子を担持させた基板の所定の目標温度まで制御しつつ昇温させた。昇温は、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを2500cc/分の流量と水素ガスを3000cc/分の流量で混合させた混合ガスを反応容器に導入しつつ、反応容器内の圧力を1×105Paに調整しつつ、基板の温度を常温域から650℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は125℃/分であった。
【0039】
上記したように昇温させた後、反応容器内において、基板温度650℃において所定時間(30分間)保持し、基板上の触媒粒子の加熱凝集を促進させた(サイズ増加処理)。その後、水素ガスの導入を停止させた。その後、アセチレンガスで形成された原料ガスを反応容器内に500cc/分の流量で6分間導入し、CVD処理を実行した。これにより多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を、基板の表面上に触媒粒子を介して形成した。カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであった。
【0040】
図5および図6は、得られたカーボンナノチューブ集合体(SEM観察)を示す。図5ではカーボンナノチューブの頂部と基板側の底部が視認される。カーボンナノチューブの多くは多層カーボンナノチューブであった。図6は1本の多層カーボンナノチューブを示す。図5から理解できるように、基板の表面に立設する方向に沿って同じ方向に延びる垂直配向性を有する多数のカーボンナノチューブを並設させつつ集合させたカーボンナノチューブ束が多数、基板の表面に高密度で植毛状に形成されていた。図5から理解できるように、カーボンナノチューブは基体の表面からほぼ垂直方向に配向していた。カーボンナノチューブ束も、基体の表面からほぼ垂直方向に配向していた。ここで、カーボンナノチューブ束とは、カーボンナノチューブの長さ方向と直交する方向に複数のカーボンナノチューブを並列させつつ束状に束ねた群の状態をいう。SEM観察を示す図8から理解できるように、均一に高密度のカーボンナノチューブの集合体が形成されている。ここで、カーボンナノチューブ束の直径をDbとすると、隣接するカーボンナノチューブ束間の隙間tbは寸法Db以内で隣り合っており、カーボンナノチューブ集合体が高密度化されていることが確認された(図1,図5参照)。
【0041】
本実施例によれば、多層カーボンナノチューブの長さは210〜250マイクロメートル(230マイクロメートル)、平均直径は35ナノメートル、密度は170mg/cm3であった。1本の多層カーボンナノチューブの層数は33層であった。層数については、TEM観察結果(×80万倍)における層の厚みを層間距離で割ることにより算出した。このように33層という多層のカーボンナノチューブが高密度で得られた。上記した密度は、カーボンナノチューブ集合体を成長させたままの状態(カーボンナノチューブ集合体を成長完了させた時点)における密度に相当し、外部力による圧縮などの二次加工を施していない。
【0042】
[実施例3]
(基板,前処理)
基板、前処理の第1層および第2層については、実施例1と同様とした。
【0043】
(サイズ増加処理、カーボンナノチューブ形成工程)
実施例1と同様のCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、カーボンナノチューブの形成に先立ち、予め、基板の所定の目標温度(650℃)まで昇温させた。昇温は、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを2500cc/分の流量で反応容器に導入しつつ、反応容器内の圧力を1×105Paに調整しつつ、基板の温度を常温域から650℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は125℃/分であった。
【0044】
上記したように昇温させた後、基板温度650℃において所定時間(30分間)保持し、基板上の触媒粒子の加熱凝集を促進させた(サイズ増加処理)。その後、アセチレンガスで形成された原料ガスを反応容器内に500cc/分の流量で6分間導入し、CVD処理を行った。これにより多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を、基板の表面上に触媒粒子を介して形成した。図7および図8はカーボンナノチューブを示す。カーボンナノチューブの多くは多層カーボンナノチューブであった。多層カーボンナノチューブの長さは0.8〜1.2マイクロメートル(1マイクロメートル)、平均直径は24ナノメートル、層数は22層であった。このように22層という多層のカーボンナノチューブが得られたものの、長さの成長性は乏しかった。
【0045】
[比較例1]
(基板,前処理)
基板、前処理の第1層および第2層については、実施例1と同様とした。
【0046】
(カーボンナノチューブ形成方法)
実施例1と同様のCVD装置を用いてカーボンナノチューブを形成した。この場合、カーボンナノチューブの形成に先立ち、予め、基板の所定の温度まで制御しつつ昇温させた。昇温は、あらかじめ10Paに真空引きされた反応容器中にキャリヤガスとして窒素ガスを2500cc/分の流量で反応容器に導入しつつ、反応容器内の圧力を1×105Paに調整しつつ、基板の温度を常温域から650℃まで5分間で速やかに昇温させた。昇温速度は125℃/分であった。
【0047】
上記したように昇温させた後、基板温度650℃において所定時間保持する加熱凝集(サイズ増加処理)を実施しなかった。このため基板上の触媒粒子はサイズは増加していないものと考えられる。その後、アセチレンガスで形成された原料ガスを反応容器内に500cc/分の流量で6分間導入した。これにより多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ集合体を、基板の表面上に触媒粒子を介して形成した。多層カーボンナノチューブはあまり認められなかった。カーボンナノチューブの長さは50マイクロメートル、平均直径は10ナノメートルであった。カーボンナノチューブの長さの成長性は良いものの、層数が乏しかった。
【0048】
[カーボンナノチューブ集合体の密度の測定方法]
カーボンナノチューブ集合体の密度については次のように測定した。すなわち、カーボンナノチューブ集合体を基板の表面に形成させる前後の重量測定により、カーボンナノチューブ集合体それ自体の重量W[g]を測定した。基板のうちカーボンナノチューブ集合体を形成している面積Sで重量W[g]を除算した。これにより単位面積あたりのカーボンナノチューブ目付量W/S[g/cm2]を算出した。更に、カーボンナノチューブ集合体の断面をSEM観察し、カーボンナノチューブ集合体の膜厚[μm]を測定した。これにより膜厚を考慮し、カーボンナノチューブ集合体の密度[g/cm3]を算出した。
【0049】
(表面構造解析)
実施例2に相当する例(触媒粒子加熱凝集の目標温度を620℃)について、触媒粒子を担持させた基板の表面構造解析(AFM)を行った。解析結果を図9および図10に示す。図12は、昇温前の基板と昇温開始5分間後の基板について表面構造解析(AFM)した結果を示す。図10は、620℃に10分間後の基板と620℃に30分間後の基板の表面を構造解析(AFM)した結果を示す。図9および図10に示すように、CVD処理前に620℃に基板を保持する時間が長くなると、触媒粒子のサイズが増加していることが理解できる。それにつれて基板の表面粗さが粗くなっていることが理解できる。表面構造解析(AFM)の条件としては、AFM装置(型式:Nano ScopeIIIa(製造元:Digital Instruments)を用い、スキャンサイズを1マイクロメートル、スキャンレートを1.001Hzとした。このように触媒粒子を担持させた基板を加熱させて加熱温度に所定時間保持すれば、触媒粒子の加熱凝集を促進させ、触媒粒子のサイズを増加させ得ることが確認された。
【0050】
(その他)
上記した実施例によれば、合金系の触媒粒子として、鉄−チタン系合金、鉄−バナジウム系合金が使用されているが、これに限らず、コバルト−チタン系合金、コバルト−バナジウム系合金、ニッケル−チタン系合金、ニッケル−バナジウム系合金、鉄−ジルコニウム系合金、鉄−ニオブ系合金とすることもできる。触媒粒子の担持に先立ち、第1層としてアルミニウムの下地層を基板に形成させているが、アルミニウム合金の下地層としても良い。第1層の上に第2層を積層させることにしているが、これに限らず、場合によっては第1層を省略することもできる。本発明は上記した実施形態、実施例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施可能である。
(その他の実施形態)
本発明方法によれば、図11に示すように、基体100の表面に担持されている触媒粒子層211は、多数の触媒粒子210を厚み方向に複数層として積層させた積層構造とされていても良い。この場合、触媒粒子層211において触媒粒子210が複数層として積層されているため、触媒粒子210同士の接点が増加しており、担持工程後にCVD処理前に基体100が加熱されていると、触媒粒子210同士の加熱凝集が効率よく発生し、凝集触媒粒子212が形成され、凝集触媒粒子212のサイズが増加する。
【0051】
この場合、触媒粒子210を含むコーティング液に基体100を浸漬させて引き上げるにあたり、引き上げ速度を低速化させると、多数の触媒粒子210を厚み方向に積層させた積層構造が得られやすい。また触媒粒子210を含むコーティング液を基体100にスプレー塗布する場合には、触媒粒子210を含むコーティング液に基体100を吹き付ける塗布回数を増加させれば、多数の触媒粒子210を厚み方向に積層させた積層構造が得られやすい。また、触媒粒子210を含むコーティング液と基体100との接触時間を増加させても、多数の触媒粒子210を厚み方向に積層させた積層構造が得られやすい。この場合においても、加熱凝集前、および/または、加熱凝集時において、水素ガスなどの還元性ガスを反応容器に導入させることが好ましい。触媒粒子210や触媒粒子層211に生成されている酸化膜を低減させたり除去させたりし、触媒粒子210や触媒粒子層211の表面活性度を高めて加熱凝集を促進でき、凝集触媒粒子212のサイズを増加させるのに有利であり、多層のカーボンナノチューブを形成させるのに有利である。勿論、窒素ガスなどの不活性なガスを反応容器に導入させることにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は例えば比表面積が大きいことが要請される炭素材料に利用することができる。例えば、燃料電池に使用される炭素材料、キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、二次電池、湿式太陽電池等の各種電池に使用される炭素材料、浄水器フィルターの炭素材料、ガス吸着の炭素材料、電子放出素子、電界放出型ディスプレイ等に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
100は基体、200は触媒粒子、201は凝集触媒粒子を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子を基体の表面に担持させる担持工程と、
前記触媒粒子を担持させた前記基体をCVD装置の反応容器内に配置した状態で、カーボンナノチューブ形成温度に前記基体を維持させると共に、炭素源を含む原料ガスを前記CVD装置の前記反応容器に導入させることにより、前記触媒粒子を有する前記基体の前記表面にCVD処理により前記触媒粒子の活性を利用してカーボンナノチューブ形成反応を発生させて多層カーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ集合体を前記基体の表面に形成するカーボンナノチューブ形成工程とを順に実施する多層カーボンナノチューブの製造方法であって、
前記担持工程後であって前記原料ガスを前記反応容器内に導入させる前に、前記触媒粒子を担持した前記基体を前記反応容器内において所定時間加熱させて前記基体上の前記触媒粒子を成長させて触媒粒子サイズを増加させるサイズ増加処理を実施することを特徴とする多層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記担持工程後であって前記原料ガスを前記反応容器内に導入させる前に、還元性ガスを前記反応容器内に導入し、前記触媒粒子の表面活性を高めて加熱凝集を促進させることを特徴とする多層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項1】
触媒粒子を基体の表面に担持させる担持工程と、
前記触媒粒子を担持させた前記基体をCVD装置の反応容器内に配置した状態で、カーボンナノチューブ形成温度に前記基体を維持させると共に、炭素源を含む原料ガスを前記CVD装置の前記反応容器に導入させることにより、前記触媒粒子を有する前記基体の前記表面にCVD処理により前記触媒粒子の活性を利用してカーボンナノチューブ形成反応を発生させて多層カーボンナノチューブを有するカーボンナノチューブ集合体を前記基体の表面に形成するカーボンナノチューブ形成工程とを順に実施する多層カーボンナノチューブの製造方法であって、
前記担持工程後であって前記原料ガスを前記反応容器内に導入させる前に、前記触媒粒子を担持した前記基体を前記反応容器内において所定時間加熱させて前記基体上の前記触媒粒子を成長させて触媒粒子サイズを増加させるサイズ増加処理を実施することを特徴とする多層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記担持工程後であって前記原料ガスを前記反応容器内に導入させる前に、還元性ガスを前記反応容器内に導入し、前記触媒粒子の表面活性を高めて加熱凝集を促進させることを特徴とする多層カーボンナノチューブの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−136362(P2012−136362A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288399(P2010−288399)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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