説明

多層グラフェン及び蓄電装置

【課題】平面に対して垂直な方向において、イオンの移動が可能なグラフェンを提供する。
【解決手段】炭素で構成される六員環と、炭素、または炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環と、該六員環または七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素とを有する複数のグラフェンが層状に重なり、複数のグラフェンの層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下、好ましくは0.38nm以上0.42nm以下である多層グラフェンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層グラフェン、及び該多層グラフェンを有する蓄電装置、並びに半導体装置である。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置において、導電性を有する電子部材としてグラフェンを用いることが検討されている。グラフェンとは、グラファイトの水平層、即ち、炭素で構成される六員環が平面方向に連続した炭素層であり、特に、当該炭素層が2層以上100層以下積層される場合を多層グラフェンという。
【0003】
グラフェンは化学的に安定であり、且つ電気特性が良好であるため、半導体装置に含まれるトランジスタのチャネル領域、ビア、配線等への応用に期待されている。
【0004】
一方、リチウムイオンバッテリ用の電極材料の導電性を高めるために、活性電極材料にグラフェンを被覆している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−29184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラフェンにおいて導電性が高いのは、炭素で構成される六員環が平面方向に連続しているためである。即ち、グラフェンは平面方向において、導電性が高い。また、グラフェンはシート状であるため、積層されるグラフェンの間において隙間を有し、当該領域においてイオンの移動は可能であるが、グラフェンの平面に垂直な方向においてのイオンの移動が困難である。
【0007】
また、蓄電装置に含まれる電極は、集電体及び活物質層で構成される。従来の電極では、活物質層には、活物質以外に導電助剤、バインダー等が含まれており、これらが活物質層重量あたりの放電容量の低減の原因であった。さらには、活物質層に含まれるバインダーは、電解液と接触すると膨潤してしまい、この結果、電極が変形し、破壊されやすい。
【0008】
そこで、本発明の一態様は、平面に対して垂直な方向において、イオンの移動が可能なグラフェンを提供する。また、放電容量を向上させることが可能であり、電気特性の良好な蓄電装置を提供する。また、信頼性及び耐久性の高い蓄電装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、炭素で構成される六員環と、炭素で構成される七員環以上の多員環と、該六員環または七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素とを有する複数のグラフェンが層状に重なり、複数のグラフェンの層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下、好ましくは0.38nm以上0.42nm以下であることを特徴とする多層グラフェンである。
【0010】
また、本発明の一態様は、炭素で構成される六員環と、炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環と、を有する複数のグラフェンが層状に重なり、複数のグラフェンの層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下、好ましくは0.38nm以上0.42nm以下であることを特徴とする多層グラフェンである。
【0011】
また、本発明の一態様は、炭素で構成される六員環と、炭素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続し、六員環または七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素を有する炭素層が層状に重なり、炭素層の層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である。
【0012】
また、本発明の一態様は、炭素で構成される六員環と、炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続する炭素層が層状に重なり、炭素層の層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である。
【0013】
なお、該六員環または七員環以上の多員環を構成する炭素に酸素が結合されてもよい。
【0014】
また、グラフェンとは、二重結合(グラファイト結合またはsp結合とも言う)を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいう。また、グラフェンは柔軟性を有する。また、グラフェンの平面形状は、矩形、円形、その他任意の形状である。
【0015】
多層グラフェンは、2層以上100層以下のグラフェンを有する。また、各グラフェンは、基体の表面に対して平行に積層している。また、多層グラフェンに含まれる酸素は、全体の3atomic%以上10atomic%以下である。
【0016】
グラフェンにおいては、六員環の一部の炭素−炭素結合が切断され多員環となる。または、六員環の一部の炭素−炭素結合が切断され、且つ六員環の一部の炭素が酸素と結合し、多員環となる。当該多員環は、グラフェンにおいて間隙となり、イオンの移動が可能な領域である。また、通常のグラファイトを構成するグラフェンの層間距離は約0.34nmであるのに対し、多層グラフェンにおいて、隣り合うグラフェンの距離は、0.34nmより大であり0.5nm以下である。以上より、グラファイトと比較して、グラフェンの間におけるイオンの移動が容易となる。
【0017】
また、本発明の一態様は、蓄電装置の正極に含まれる正極活物質層が、正極活物質と、該正極活物質を内包する多層グラフェンとを有することを特徴とする。また、本発明の一態様は、蓄電装置の負極に含まれる負極活物質層が、負極活物質と、該負極活物質を内包する多層グラフェンとを有することを特徴とする。
【0018】
多層グラフェンはシート状または網目状(ネット状)である。ここでの網目状とは、二次元的形状及び三次元的形状の両方を含む。同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンにより、複数の正極活物質または負極活物質を内包する。即ち、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンの間に、複数の正極活物質または負極活物質が内在する。なお、多層グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の正極活物質または負極活物質を内包する場合がある。また、多層グラフェンは、一部に開放部があり、当該領域において、正極活物質または負極活物質が露出している場合がある。多層グラフェンは正極活物質または負極活物質の分散や、正極活物質層または負極活物質層の崩落を妨げることが可能である。このため、多層グラフェンは、充放電にともない正極活物質または負極活物質の体積が増減しても、正極活物質同士または負極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
【0019】
また、正極活物質層または負極活物質層において、複数の正極活物質または負極活物質は多層グラフェンに接するため、多層グラフェンを介して電子の移動が可能である。即ち、多層グラフェンは導電助剤の機能を有する。
【0020】
このため、正極活物質層及び負極活物質層に多層グラフェンを有することで、正極活物質層及び負極活物質層におけるバインダーや導電助剤の含有量を低減することが可能であるため、正極活物質層及び負極活物質層に含まれる活物質量を高めることができる。また、バインダーの含有量を低減することが可能であるため、正極活物質層及び負極活物質層の耐久性を高めることができる。
【0021】
また、本発明の一態様は、蓄電装置の正極または負極において、凹凸状の活物質の表面が多層グラフェンで被覆されることを特徴とする。多層グラフェンは、柔軟であるため、凹凸状の表面を均一な厚さで覆うと共に、凹凸状の正極または負極の崩壊を低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様により、グラフェンの表面に平行な方向、及び垂直な方向におけるイオンの移動量を増加させることができる。また、上記多層グラフェンを蓄電装置の正極または負極に用いることで、正極活物質層及び負極活物質層中の活物質量を増やすことが可能であるため、蓄電装置の放電容量を向上させることができる。また、蓄電装置の正極または負極に含まれるバインダーの代わりに上記多層グラフェンを用いることで、蓄電装置の信頼性及び耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】多層グラフェンを説明する図である。
【図2】負極を説明する図である。
【図3】正極を説明する図である。
【図4】蓄電装置を説明する図である。
【図5】負極の平面SEM写真である。
【図6】負極の断面TEM写真である。
【図7】負極の断面TEM写真である。
【図8】電気機器を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
本実施の形態では、多層グラフェンの構造及び作製方法について、図1を用いて説明する。
【0026】
図1(A)は、多層グラフェン101の断面模式図である。多層グラフェン101は、複数のグラフェン103が略平行に重なっている。このときの、グラフェンの層間距離105は0.34nmより大であり0.5nm以下、好ましくは0.38nm以上0.42nm以下、更に好ましくは0.39nm以上0.41nm以下である。また、多層グラフェン101には、グラフェン103が2層以上100層以下含まれる。
【0027】
図1(B)は、図1(A)に示すグラフェン103の斜視図である。グラフェン103は、一辺の長さが数μmのシート状であり、ところどころに間隙107を有する。当該間隙107は、イオンの移動が可能な通路として機能する。このため、図1(A)に示す多層グラフェン101において、グラフェン103の表面と平行な方向、即ちグラフェン103同士の隙間と共に、多層グラフェン101の表面に対する垂直方向、即ちグラフェン103それぞれに設けられる間隙107の間をイオンが移動することが可能である。
【0028】
図1(B)に示すグラフェン103内の原子配列の一例を示す模式図を図1(C)に示す。グラフェン103は、炭素113で構成される六員環111が平面方向に広がっており、一部に、七員環、八員環、九員環、十員環等の、六員環の一部の炭素−炭素結合が切断された多員環が形成される。当該多員環が図1(B)に示す間隙107に相当し、炭素113で構成される六員環111が結合する領域が図1(B)のハッチング領域に相当する。
【0029】
多員環は、炭素113のみで構成される場合がある。このような多員環は、六員環の一部の炭素−炭素結合が切断されて形成される。また、炭素113で構成される多員環の炭素113に、酸素が結合する場合がある。このような多員環は、六員環の一部の炭素−炭素結合が切断され、且つ該六員環の一部の炭素に酸素115aが結合して形成される。また、多員環は、炭素113及び酸素115bで構成される多員環116がある。また、炭素113及び酸素115bで構成される多員環116、または炭素113で構成される六員環111の炭素113に、酸素115cが結合する場合がある。
【0030】
多層グラフェン101に含まれる酸素は、全体の2atomic%以上11atomic%以下、好ましくは3atomic%以上10atomic%以下である。酸素の割合が低い程多層グラフェンのグラフェン表面と平行な方向の導電性を高めることができる。また、酸素の割合を高める程、グラフェンにおいてグラフェン表面と垂直な方向のイオンの通路となる間隙をより多く形成することができる。
【0031】
通常のグラファイトを構成するグラフェンの層間距離は約0.34nmであり、また層間距離のばらつきが少ない。一方、本実施の形態で示す多層グラフェン101は、炭素で構成される六員環の一部に酸素が含まれる。または、炭素、若しくは炭素及び酸素で七員環以上の多員環を有する。または、七員環以上の多員環の炭素に酸素が結合される。即ち、酸素を含むため、多層グラフェンにおけるグラフェンの層間距離がグラファイトと比較して長い。このため、グラフェンの各層の間において、グラフェンの表面と平行な方向におけるイオンの移動が容易となる。また、グラフェンには空隙を有するため、当該空隙を介してグラフェン表面に対する垂直方向のイオンの移動も容易となる。
【0032】
次に、多層グラフェンの作製方法について、以下に説明する。
【0033】
はじめに、酸化グラフェンを含む混合液を形成する。
【0034】
本実施の形態では、Hummers法と呼ばれる酸化法を用いて酸化グラフェンを形成する。Hummers法は、グラファイト粉末に過マンガン酸カリウムの硫酸溶液を加えて酸化反応させて酸化グラファイトを含む混合液を形成する。酸化グラファイトは、グラファイトの炭素の酸化により、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の官能基を有する。このため、複数のグラフェンの層間距離がグラファイトと比較して長い。次に、酸化グラファイトを含む混合液に超音波振動を加えることで、層間距離の長い酸化グラファイトを劈開し、酸化グラフェンを形成することができる。なお、市販の酸化グラフェンを用いてもよい。
【0035】
なお、極性を有する液体中においては、多層グラフェンに含まれる酸素がマイナスに帯電するため、異なる多層グラフェン同士が凝集しにくい。
【0036】
次に、酸化グラフェンを含む混合液を、基体上に設ける。基体上に酸化グラフェンを含む混合液を設ける方法としては、塗布法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、電気泳動法等がある。また、これらの方法を複数組み合わせてもよい。例えば、ディップ法により、基体上に酸化グラフェンを含む混合液を設けた後、スピンコート法と同様に基体を回転させることで、酸化グラフェンを含む混合液の厚さの均一性を高めることができる。
【0037】
次に、還元処理により、基体に設けられた酸化グラフェンから酸素の一部を脱離させる。還元処理としては、真空あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)等の還元性の雰囲気、または空気中で、150℃以上、好ましくは200℃以上の温度で加熱する。加熱する温度が高い程、また、加熱する時間が長いほど、酸化グラフェンが還元されやすく、純度の高い(すなわち、炭素以外の元素の濃度の低い)多層グラフェンが得られる。
【0038】
なお、Hummers法では、グラファイトを硫酸で処理するため、酸化グラフェンには、スルホン基等も結合しているが、この分解(脱離)は、200℃以上300℃以下、好ましくは200℃以上250℃以下で行われる。したがって、酸化グラフェンの還元を200℃以上で行うことが好ましい。
【0039】
上記還元処理において、隣接するグラフェン同士が結合し、より巨大な網目状あるはシート状となる。また、当該還元処理において、酸素の脱離により、グラフェンには間隙が形成される。更には、グラフェン同士が基体の表面に対して、平行に重なり合う。この結果、イオンの移動が可能な多層グラフェンが形成される。
【0040】
以上の工程により、導電性が高く、且つ表面と平行な方向及び表面に対し垂直方向にイオン移動が可能な、多層グラフェンを作製することができる。
【0041】
(実施の形態2)
本実施の形態では、蓄電装置の電極の構造及び作製方法について説明する。
【0042】
はじめに、負極及びその作製方法について説明する。
【0043】
図2(A)は負極205の断面図である。負極205は、負極集電体201上に負極活物質層203が形成される。
【0044】
なお、活物質とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質を指す。よって、活物質と活物質層は区別される。
【0045】
負極集電体201は、銅、ステンレス、鉄、ニッケル等の導電性の高い材料を用いることができる。また、負極集電体201は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0046】
負極活物質層203としては、キャリアであるイオンの吸蔵放出が可能な負極活物質を用いる。負極活物質の代表例としては、リチウム、アルミニウム、黒鉛、シリコン、錫、及びゲルマニウムなどがある。または、リチウム、アルミニウム、黒鉛、シリコン、錫、及びゲルマニウムから選ばれる一以上を含む化合物がある。なお、負極集電体201を用いず負極活物質層203を単体で負極として用いてもよい。負極活物質として、黒鉛と比較すると、ゲルマニウム、シリコン、リチウム、アルミニウムの方が、理論容量が大きい。吸蔵容量が大きいと小面積でも十分に充放電が可能であり、コストの削減及び金属イオン二次電池、代表的にはリチウムイオン二次電池の小型化につながる。
【0047】
なお、リチウムイオン二次電池以外の金属イオン二次電池に用いるキャリアイオンとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオン等がある。
【0048】
図2(B)は、負極活物質層203の平面図である。負極活物質層203は、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な粒子状の負極活物質211と、当該負極活物質211の複数を覆いつつ、当該負極活物質211が内部に詰められた多層グラフェン213とを有する。複数の負極活物質211の表面を異なる多層グラフェン213が覆う。また、一部において、負極活物質211が露出していてもよい。
【0049】
図2(C)は、図2(B)の負極活物質層203の一部における断面図である。負極活物質層203は、負極活物質211、及び該負極活物質211を内包する多層グラフェン213を有する。多層グラフェン213は断面図においては線状で観察される。同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンにより、複数の負極活物質を内包する。即ち、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンの間に、複数の負極活物質が内在する。なお、多層グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の負極活物質を内包する場合がある。また、多層グラフェンは、一部に開放部があり、当該領域において、負極活物質が露出している場合がある。
【0050】
負極活物質層203の厚さは、20μm以上100μm以下の間で所望の厚さを選択する。
【0051】
なお、負極活物質層203には、多層グラフェンの体積の0.1倍以上10倍以下のアセチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボン粒子(カーボンナノファイバー等)、公知のバインダーを有してもよい。
【0052】
なお、負極活物質層203にリチウムをプレドープしてもよい。スパッタリング法により負極活物質層203表面にリチウム層を形成することで、負極活物質層203にリチウムをプレドープすることができる。または、負極活物質層203の表面にリチウム箔を設けることで、負極活物質層203にリチウムをプレドープすることができる。
【0053】
なお、負極活物質においては、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が膨張する材料がある。このため、充放電により、負極活物質層が脆くなり、負極活物質層の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、負極活物質221の周辺を多層グラフェン213で覆うことで、負極活物質が充放電により体積が増減しても、負極活物質の分散や負極活物質層の崩落を妨げることが可能である。即ち、多層グラフェンは、充放電にともない負極活物質の体積が増減しても、負極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
【0054】
また、多層グラフェン213は、複数の負極活物質と接しており、導電助剤としても機能する。また、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な負極活物質を保持する機能を有する。このため、負極活物質層にバインダーを混合する必要が無く、負極活物質層当たりの負極活物質量を増加させることが可能であり、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0055】
次に、図2(B)及び(C)に示す負極活物質層203の作製方法について説明する。
【0056】
粒子状の負極活物質及び酸化グラフェンを含むスラリーを形成する。次に、負極集電体上に、当該スラリーを塗布した後、実施の形態1に示す多層グラフェンの作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、負極活物質を焼成すると共に、酸化グラフェンから酸素の一部を脱離させ、グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンに残存する。以上の工程により、負極集電体201上に負極活物質層203を形成することができる。
【0057】
次に、図2(D)に示す負極の構造について説明する。
【0058】
図2(D)は、負極集電体201に負極活物質層203が形成される負極の断面図である。負極活物質層203は、表面が凹凸状である負極活物質221と、当該負極活物質221の表面を覆う多層グラフェン223を有する。
【0059】
凹凸状の負極活物質221は、共通部221aと、共通部221aから突出する凸部221bとを有する。凸部221bは、円柱状、角柱状等の柱状、円錐状または角錐状の針状等の形状を適宜有する。なお、凸部の頂部は湾曲していてもよい。また、負極活物質221は、負極活物質211と同様に、キャリアであるイオン、代表的にはリチウムイオンの吸蔵放出が可能な負極活物質を用いて形成される。なお、共通部221a及び凸部221bが同じ材料を用いて構成されてもよい。または、共通部221a及び凸部221bが異なる材料を用いて構成されてもよい。
【0060】
なお、負極活物質の一例であるシリコンは、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が4倍程度まで増える。このため、充放電により、負極活物質221が脆くなり、負極活物質層203の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、負極活物質221の周辺を多層グラフェン223で覆うことで、シリコンが充放電により体積が増減しても、負極活物質の分散や負極活物質層203の崩落を防ぐことができる。
【0061】
また、負極活物質層203表面が電解質と接触することにより、電解質及び負極活物質が反応し、負極の表面に被膜が形成される。当該被膜はSEI(Solid Electrolyte Interface)と呼ばれ、電極と電解質の反応を和らげ、安定化させるために必要であると考えられている。しかしながら、当該被膜が厚くなると、キャリアイオンが負極に吸蔵されにくくなり、電極と電解液間のキャリアイオン伝導性の低下及びそれに伴う放電容量の低減、電解液の消耗などの問題がある。
【0062】
負極活物質層203表面を多層グラフェンで被覆することで、当該被膜の膜厚の増加を抑制することが可能であり、放電容量の低下を抑制することができる。
【0063】
次に、図2(D)に示す負極活物質層203の作製方法について説明する。
【0064】
印刷法、インクジェット法、CVD等により、凹凸状の負極活物質を負極集電体上に設ける。または、塗布法、スパッタリング法、蒸着法などにより膜状の負極活物質を設けた後、選択的に除去して、凹凸状の負極活物質を負極集電体上に設ける。または、リチウム、アルミニウム、黒鉛、及びシリコンのうちいずれかで形成される箔または板の表面を一部除去して凹凸状の負極集電体及び負極活物質とする。または、リチウム、アルミニウム、黒鉛、及びシリコンのうちいずれかで形成される網を負極活物質及び負極集電体として用いることができる。
【0065】
次に、実施の形態1と同様に、酸化グラフェンを含む混合液を、負極活物質上に設ける。負極活物質上に酸化グラフェンを含む混合液を設ける方法としては、塗布法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、電気泳動法等がある。次に、実施の形態1に示す多層グラフェンの作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、負極活物質に設けられた酸化グラフェンから酸素の一部を脱離させ、グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンに残存する。以上の工程により、負極活物質221の表面に多層グラフェン223が被覆された負極活物質層203を形成することができる。
【0066】
酸化グラフェンを含む混合液を用いて多層グラフェンを形成することで、凹凸状の負極活物質の表面に均一な膜厚の多層グラフェンを被覆させることができる。
【0067】
なお、シラン、塩化シラン、フッ化シラン等を原料ガスとするLPCVD法により、負極集電体上に、シリコンで形成された、凹凸状の負極活物質(以下、シリコンウィスカーという。)を設けることができる。なお、負極活物質の一例であるシリコンは、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が4倍程度まで増える。このため、充放電により、負極活物質層が脆くなり、負極活物質層の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、シリコンウィスカーの表面に多層グラフェンが被覆されると、シリコンウィスカーの体積膨張による負極活物質層の崩落が低減できるため、蓄電装置の信頼性を高めることができると共に、耐久性を高めることができる。
【0068】
次に、正極及びその作製方法について説明する。
【0069】
図3(A)は正極311の断面図である。正極311は、正極集電体307上に正極活物質層309が形成される。
【0070】
正極集電体307は、白金、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス等の導電性の高い材料を用いることができる。また、正極集電体307は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0071】
正極活物質層309は、LiFeO、LiCoO、LiNiO、LiMn等のリチウム化合物、V、Cr、MnO等を材料として用いることができる。
【0072】
または、オリビン型構造のリチウム含有複合酸化物(一般式LiMPO(Mは、Fe,Mn,Co,Niの一以上)を用いることができる。一般式LiMPOの代表例としては、LiFePO、LiNiPO、LiCoPO、LiMnPO、LiFeNiPO、LiFeCoPO、LiFeMnPO、LiNiCoPO、LiNiMnPO(a+bは1以下、0<a<1、0<b<1)、LiFeNiCoPO、LiFeNiMnPO、LiNiCoMnPO(c+d+eは1以下、0<c<1、0<d<1、0<e<1)、LiFeNiCoMnPO(f+g+h+iは1以下、0<f<1、0<g<1、0<h<1、0<i<1)等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0073】
または、一般式LiMSiO(Mは、Fe,Mn,Co,Niの一以上)等のリチウム含有複合酸化物を用いることができる。一般式LiMSiOの代表例としては、LiFeSiO、LiNiSiO、LiCoSiO、LiMnSiO、LiFeNiSiO、LiFeCoSiO、LiFeMnSiO、LiNiCoSiO、LiNiMnSiO(k+lは1以下、0<k<1、0<l<1)、LiFeNiCoSiO、LiFeNiMnSiO、LiNiCoMnSiO(m+n+qは1以下、0<m<1、0<n<1、0<q<1)、LiFeNiCoMnSiO(r+s+t+uは1以下、0<r<1、0<s<1、0<t<1、0<u<1)等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0074】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、正極活物質層309として、上記リチウム化合物及びリチウム含有複合酸化物において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0075】
図3(B)は、正極活物質層309の平面図である。正極活物質層309は、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な粒子状の正極活物質321と、当該正極活物質321の複数を覆いつつ、当該正極活物質321が内部に詰められた多層グラフェン323とを有する。複数の正極活物質321の表面を異なる多層グラフェン323が覆う。また、一部において、正極活物質321が露出していてもよい。
【0076】
正極活物質321の粒径は、20nm以上100nm以下が好ましい。なお、正極活物質321内を電子が移動するため、正極活物質321の粒径はより小さい方が好ましい。
【0077】
また、正極活物質層309は多層グラフェン323を有することで、正極活物質321の表面に炭素膜が被覆されていなくとも十分な特性が得られるが、炭素膜が被覆されている正極活物質及び多層グラフェン323を共に用いると、電子が正極活物質間をホッピングしながら伝導するためより好ましい。
【0078】
図3(C)は、図3(B)の正極活物質層309の一部における断面図である。正極活物質層309は、正極活物質321、及び該正極活物質321を覆う多層グラフェン323を有する。多層グラフェン323は断面図においては線状で観察される。同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンにより、複数の正極活物質を内包する。即ち、同一の多層グラフェンまたは複数の多層グラフェンの間に、複数の正極活物質が内在する。なお、多層グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の正極活物質を内包する場合がある。また、多層グラフェンは、一部に開放部があり、当該領域において、正極活物質が露出している場合がある。
【0079】
正極活物質層309の厚さは、20μm以上100μm以下の間で所望の厚さを選択する。なお、クラックや剥離が生じないように、正極活物質層309の厚さを適宜調整することが好ましい。
【0080】
なお、正極活物質層309には、多層グラフェンの体積の0.1倍以上10倍以下のアセチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボン粒子(カーボンナノファイバー等)、公知のバインダーを有してもよい。
【0081】
なお、正極活物質においては、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が膨張する材料がある。このため、充放電により、正極活物質層が脆くなり、正極活物質層の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、正極活物質の周辺を多層グラフェン323で覆うことで、正極活物質が充放電により体積が増減しても、正極活物質の分散や正極活物質層の崩落を妨げることが可能である。即ち、多層グラフェンは、充放電にともない正極活物質の体積が増減しても、正極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
【0082】
また、多層グラフェン323は、複数の正極活物質と接しており、導電助剤としても機能する。また、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な正極活物質321を保持する機能を有する。このため、正極活物質層にバインダーを混合する必要が無く、正極活物質層当たりの正極活物質量を増加させることが可能であり、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0083】
次に、正極活物質層309の作製方法について説明する。
【0084】
粒子状の正極活物質及び酸化グラフェンを含むスラリーを形成する。次に、正極集電体上に、当該スラリーを塗布した後、実施の形態1に示す多層グラフェンの作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、正極活物質を焼成すると共に、酸化グラフェンに含まれる酸素を脱離させ、グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンに残存する。以上の工程により、正極集電体307上に正極活物質層309を形成することができる。この結果、正極活物質層の導電性が高まる。
【0085】
酸化グラフェンは酸素を含むため、極性液体中では負に帯電する。この結果、酸化グラフェンは互いに分散する。このため、スラリーに含まれる正極活物質が凝集しにくくなり、焼成による正極活物質の粒径の増大を低減することができる。このため、正極活物質内の電子の移動が容易となり、正極活物質層の導電性を高めることができる。
【0086】
(実施の形態3)
本実施の形態では、蓄電装置の作製方法について説明する。
【0087】
本実施の形態の蓄電装置の代表例であるリチウムイオン二次電池の一形態について図4を用いて説明する。ここでは、リチウムイオン二次電池の断面構造について、以下に説明する。
【0088】
図4は、リチウムイオン二次電池の断面図である。
【0089】
リチウムイオン二次電池400は、負極集電体407及び負極活物質層409で構成される負極411と、正極集電体401及び正極活物質層403で構成される正極405と、負極411及び正極405で挟持されるセパレータ413とで構成される。なお、セパレータ413中には電解質415が含まれる。また、負極集電体407は外部端子419と接続し、正極集電体401は外部端子417と接続する。外部端子419の端部はガスケット421に埋没されている。即ち、外部端子417、419は、ガスケット421によって絶縁されている。
【0090】
負極集電体407及び負極活物質層409は、実施の形態2に示す負極集電体201及び負極活物質層203を適宜用いて形成すればよい。
【0091】
正極集電体401及び正極活物質層403はそれぞれ、実施の形態2に示す正極集電体307及び正極活物質層309を適宜用いることができる。
【0092】
セパレータ413は、絶縁性の多孔体を用いる。セパレータ413の代表例としては、セルロース(紙)、ポリエチレン、ポリプロピレン等がある。
【0093】
電解質415の溶質は、キャリアイオンを移送可能で、且つキャリアイオンが安定に存在する材料を用いる。電解質の溶質の代表例としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、Li(CSON等のリチウム塩がある。
【0094】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、電解質415の溶質として、上記リチウム塩において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0095】
また、電解質415の溶媒としては、キャリアイオンの移送が可能な材料を用いる。電解質415の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また、電解質415の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が高まる。また、リチウムイオン二次電池400の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。
【0096】
また、電解質415として、LiPO等の固体電解質を用いることができる。なお、電解質415として固体電解質を用いる場合は、セパレータ413は不要である。
【0097】
外部端子417、419は、ステンレス鋼板、アルミニウム板などの金属部材を適宜用いることができる。
【0098】
なお、本実施の形態では、リチウムイオン二次電池400として、ボタン型リチウムイオン二次電池を示したが、封止型リチウムイオン二次電池、円筒型リチウムイオン二次電池、角型リチウムイオン二次電池等様々な形状のリチウムイオン二次電池とすることができる。また、正極、負極、及びセパレータが複数積層された構造、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
【0099】
本実施の形態に示すリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、容量が大きい。また、出力電圧が高い。これらのため、小型化及び軽量化が可能でとなり、コスト削減が可能である。また、充放電の繰り返しによる劣化が少なく、長期間の使用が可能である。
【0100】
次に、本実施の形態に示すリチウムイオン二次電池400の作製方法について説明する。
【0101】
実施の形態2に示す作製方法により、適宜正極405及び負極411を作製する。
【0102】
次に、正極405、セパレータ413、及び負極411を電解質415に含浸させる。次に、外部端子417に、正極405、セパレータ413、ガスケット421、負極411、及び外部端子419の順に積層し、「コインかしめ機」で外部端子417及び外部端子419をかしめてコイン型のリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【0103】
なお、外部端子417及び正極405の間、または外部端子419及び負極411の間に、スペーサ、及びワッシャを入れて、外部端子417及び正極405の接続、並びに外部端子419及び負極411の接続をより高めてもよい。
【0104】
(実施の形態4)
本発明の一態様に係る蓄電装置は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0105】
本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画または動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0106】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0107】
図8に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図8において、表示装置5000は、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置5000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体5001、表示部5002、スピーカー部5003、蓄電装置5004等を有する。本発明の一態様に係る蓄電装置5004は、筐体5001の内部に設けられている。表示装置5000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を無停電電源として用いることで、表示装置5000の利用が可能となる。
【0108】
表示部5002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0109】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0110】
図8において、据え付け型の照明装置5100は、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置5100は、筐体5101、光源5102、蓄電装置5103等を有する。図8では、蓄電装置5103が、筐体5101及び光源5102が据え付けられた天井5104の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5103は、筐体5101の内部に設けられていても良い。照明装置5100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を無停電電源として用いることで、照明装置5100の利用が可能となる。
【0111】
なお、図8では天井5104に設けられた据え付け型の照明装置5100を例示しているが、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井5104以外、例えば側壁5105、床5106、窓5107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0112】
また、光源5102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0113】
図8において、室内機5200及び室外機5204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機5200は、筐体5201、送風口5202、蓄電装置5203等を有する。図8では、蓄電装置5203が、室内機5200に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5203は室外機5204に設けられていても良い。或いは、室内機5200と室外機5204の両方に、蓄電装置5203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機5200と室外機5204の両方に蓄電装置5203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0114】
なお、図8では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0115】
図8において、電気冷凍冷蔵庫5300は、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫5300は、筐体5301、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303、蓄電装置5304等を有する。図8では、蓄電装置5304が、筐体5301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫5300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫5300の利用が可能となる。
【0116】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0117】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫5300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われない夜間において、蓄電装置5304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われる昼間において、蓄電装置5304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0118】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0119】
本実施例では、負極活物質の一例であるシリコンウィスカー上に多層グラフェンを作製しSEM(Scanning Electron Microscopy)及びTEM(Transmission Electron Microscopy)により多層グラフェンを観察した。はじめに、サンプルの作製方法について、説明する。
【0120】
はじめに、0.5mg/mlの酸化グラフェンを含む混合液を調整した。また、チタンシート上にシリコン活物質層を形成した。
【0121】
シリコン活物質層の形成方法を以下に示す。原料として流量700sccmのシランを100Pa、温度600℃のチャンバーに導入するLPCVD法により、厚さ0.1mm、直径12mmのチタンシート上に、シリコン活物質層としてシリコンウィスカーを形成した。
【0122】
次に、酸化グラフェンを含む混合液中に、シリコン活物質層を約10秒浸漬した後、約5秒かけて引き上げた。次に、酸化グラフェンを含む混合液を50℃のホットプレートで数分乾燥した後、600℃に保たれた真空状態のチャンバーにおいて10時間放置して、酸化グラフェンの還元処理を行い、多層グラフェンを形成した。
【0123】
このときの試料の上面SEM(Scanning Electron Microscopy)写真を図5(倍率5千倍)に示す。ここでは、試料の中央部を観察した。図5において、表面には多層グラフェンが設けられ、多層グラフェンがシリコンウィスカーを覆っている。
【0124】
次に、図5に示す試料を、FIB(focused ion beam)により薄片化した断面TEM像を図6(倍率4万8千倍)に示す。シリコンウィスカー511の表面には、観察を促すためのカーボン膜515及びタングステン膜517が設けられている。図7(A)に、図6のシリコンウィスカーの頂部である領域Aの拡大図(倍率205万倍)を示し、図7(B)に、図6のシリコンウィスカーの側面である領域Bの拡大図(倍率205万倍)を示す。図7(A)、(B)において、シリコンウィスカー511の表面に多層グラフェン513、523が設けられる。また、多層グラフェン513、523表面に、観察を促すためのカーボン膜515が設けられる。
【0125】
図7(A)において、コントラストの低い(白い)線状の層がシリコン活物質層の表面に対して平行に積層している。当該線状の層が結晶性の高いグラフェンの領域である。なお、当該領域の長さは1nm以上10nm以下、好ましくは1nm以上2nm以下である。なお、炭素の六員環の直径が0.246nmであるため、結晶性の高いグラフェンは、六員環が5個以上8個以下で構成される。また、当該コントラストの低い線状の層は一部切断されており、コントラストが若干高い(灰色)領域が、コントラストの低い(白い)線状の層の間に設けられる。当該領域が、イオンの通過が可能な通路として機能する空隙である。また、多層グラフェンの厚さは、約6.8nmであり、グラフェンの層間距離は約0.35nm〜0.5nmであることが分かった。多層グラフェンの層間距離を0.4nmとしたとき、グラフェンの層数は、およそ17層であると考えられる。
【0126】
図7(B)において、図7(A)と同様に、コントラストの低い(白い)線状の層がシリコン活物質層の表面に対して平行に積層している。また、当該コントラストの低い線状は一部切断されており、コントラストが若干高い(灰色)領域が、コントラストの低い線状の間に設けられる。多層グラフェンの厚さは約17.2nmであった。多層グラフェンの層間距離を0.4nmとしたとき、グラフェンの層数は、およそ43層であると考えられる。
【0127】
本実施例において、基体の表面に対して平行にグラフェンが積層した多層グラフェンを作製した。
【実施例2】
【0128】
本実施例では、多層グラフェンに含まれる酸素濃度を測定した。はじめに、サンプルの作製方法について、説明する。
【0129】
はじめに、5gの黒鉛と126mlの濃硫酸を混合し混合液1を得た。次に、氷浴中で撹拌しながら混合液1に12gの過マンガン酸カリウムを加え、混合液2を得た。次に、氷浴を取り除き、室温で2時間撹拌した後、35℃で30分放置し酸化反応を生じさせ、酸化グラファイトを有する混合液3を得た。次に、氷浴中で撹拌しながら混合液3に水184mlを加え、混合液4を得た。次に、およそ95℃のオイルバス中で、混合液を15分撹拌し、反応させた後、撹拌しながら混合液4に水560ml及び過酸化水素水(濃度30wt%)を36ml加えて、未反応の過マンガン酸カリウムを還元し、酸化グラファイト有する混合液5を得た。
【0130】
目の粗さが1μmのメンブレンフィルターを使用して、混合液5を吸引ろ過した後、塩酸を混合して硫酸を取り除き、酸化グラファイトを有する混合液6を得た。
【0131】
混合液6に水を加え、3000rpmでおよそ30分遠心分離を行い、塩酸を含む上澄み液を取り除いた。また、沈殿物に再び水を加えて遠心分離を行い、上澄み液を取り除く作業を複数回繰り返し、塩酸を除去した。上澄み液が取り除かれた混合液6のpHがおよそ5〜6になったところで、沈殿物に超音波処理を2時間行い、酸化グラファイトを剥離し、酸化グラフェンが分散する混合液7を得た。
【0132】
エバポレータで混合液7の水を除去し、残留物を乳鉢粉砕し、300℃の真空雰囲気のガラスチューブオーブンで10時間加熱し、酸化グラフェンの酸素を還元し、一部の酸素を脱離させ、多層グラフェンを得た。得られた多層グラフェンの組成をXPSで分析した結果を表1に示す。ここでは、ULVAC−PHI社製QuanteraSXMを用いて測定した。なお、定量精度は±1atomic%程度である。
【0133】
【表1】

【0134】
表1から、多層グラフェンには、酸素が含まれることがわかる。なお、試料の最表面における各元素の濃度を測定している。このため、多層グラフェンの表面が空気中で酸化された酸素が含まれる可能性があり、多層グラフェンの酸素濃度は表1より低い可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素で構成される六員環と、
炭素で構成される七員環以上の多員環と、
前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素と、
を有する複数のグラフェンが層状に重なり、
前記複数のグラフェンの層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である
ことを特徴とする多層グラフェン。
【請求項2】
炭素で構成される六員環と、
炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環と、
を有する複数のグラフェンが層状に重なり、
前記複数のグラフェンの層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である
ことを特徴とする多層グラフェン。
【請求項3】
炭素で構成される六員環と、炭素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続し、前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素を有する炭素層が層状に重なり、
前記炭素層の層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である
ことを特徴とする多層グラフェン。
【請求項4】
炭素で構成される六員環と、炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続する炭素層が層状に重なり、
前記炭素層の層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である
ことを特徴とする多層グラフェン。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、前記グラフェンまたは前記炭素層の層間距離は0.38nm以上0.42nm以下であることを特徴とする多層グラフェン。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素を有することを特徴とする多層グラフェン。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項において、前記グラフェンまたは炭素層は、2乃至100層であることを特徴とする多層グラフェン。
【請求項8】
正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、
前記正極活物質層または前記負極活物質層は、複数の活物質と、前記複数の活物質を内包する多層グラフェンとを有し、
前記多層グラフェンは、
炭素で構成される六員環と、
炭素で構成される七員環以上の多員環と、
前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素と、
を有する複数のグラフェンが層状に重なり、
前記複数のグラフェンの層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である
ことを特徴とする蓄電装置。
【請求項9】
正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、
前記正極活物質層または前記負極活物質層は、複数の活物質と、前記複数の活物質を内包する多層グラフェンとを有し、
前記多層グラフェンは、
炭素で構成される六員環と、
炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環と、
を有する複数のグラフェンが層状に重なり、
前記複数のグラフェンの層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である
ことを特徴とする蓄電装置。
【請求項10】
正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、
前記正極活物質層または前記負極活物質層は、複数の活物質と、前記複数の活物質を内包する多層グラフェンとを有し、
前記多層グラフェンは、炭素で構成される六員環と、炭素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続し、前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素を有する炭素層が層状に重なり、
前記炭素層の層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である
ことを特徴とする蓄電装置。
【請求項11】
正極活物質層を有する正極、及び負極活物質層を有する負極を備え、
前記正極活物質層または前記負極活物質層は、複数の活物質と、前記複数の活物質を内包する多層グラフェンとを有し、
前記多層グラフェンは、炭素で構成される六員環と、炭素及び酸素で構成される七員環以上の多員環とが平面方向に複数連続する炭素層が層状に重なり、
前記炭素層の層間距離が0.34nmより大であり0.5nm以下である
ことを特徴とする蓄電装置。
【請求項12】
請求項8乃至請求項11のいずれか一項において、前記グラフェンまたは前記炭素層の層間距離は0.38nm以上0.42nm以下であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項13】
請求項8乃至請求項12のいずれか一項において、前記六員環または前記七員環以上の多員環を構成する炭素に結合する酸素を有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項14】
請求項8乃至請求項13のいずれか一項において、前記グラフェンまたは炭素層は、2乃至100層であることを特徴とする蓄電装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−28526(P2013−28526A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138507(P2012−138507)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】