説明

多層フィルムおよびその製造方法

【課題】ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマーのシリコーン樹脂層への移行を抑制できる、離型フィルムとして好適な多層フィルムを得ることを目的とする。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を介してシリコーン樹脂層が積層されてなることを特徴とする多層フィルムおよびポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートを塗布した後、活性エネルギー線により硬化させてジペンタエリスリトールアルキルアクリレート層を形成させた後、次いで、当該ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート層上にシリコーン樹脂を塗布した後、硬化させることを特徴とする多層フィルムの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマーのシリコーン樹脂層への移行を抑制できる、離型フィルムとして好適な多層フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂層が積層されたポリエステルフィルムは、離型フィルムとして粘着フィルム、樹脂シート成形用の工程フィルムなどの用途に用いられている。最近では、液晶偏光板等の液晶ディスプレイ(以下、LCDと略記する)、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略記する)の各種光学用途の工程フィルムとしても使用されている。
【0003】
上述のような各種光学用途の工程フィルムとしてシリコーン樹脂が積層されたポリエステルフィルムを用いた場合、高度な透明性、また光を透過して見るというような視認性が重要視され、フィルム表面への異物が極力少ない事が望まれる。
【0004】
例えば、液晶偏光板を例に挙げると、粘着剤を塗布した後、乾燥工程で加熱処理すると、フィルム表面に内部から浸出してきたオリゴマーが工程内を汚染したり、偏光板の粘着剤層へ転着し、ガラス基板と貼り合わせてLCDを作製した場合にはLCDの輝度が低下する等の不具合が生じる場合がある。
【0005】
かかる問題点を解決する方法としては、ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー成分を低減化する方法(例えば、特許文献1:特開2000−141568号公報)あるいはグリセリンジエポキシ(メタ)アクリレートなどの紫外線硬化型目止め剤を塗布する方法(特許文献1:特開2002−240203号公報)が提案されている。
【0006】
また、ポリエステルフィルムの表面平滑性を改良する方法として、ポリエステルフィルムの少なくとも片面にアクリレート系化合物層を形成する方法(特許文献2:特開2006−159651号公報)が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1あるいは特許文献2の実施例で用いられているアクリレート系化合物を用いても、ポリエステルフィルムに含まれるシリコーン硬化阻害物質のシリコーン樹脂層への移行の抑制効果は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−141568号公報
【特許文献2】特開2002−240203号公報
【特許文献3】特開2006−159651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマーのシリコーン樹脂層への移行を抑制できる、離型フィルムとして好適な多層フィルムを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を介してシリコーン樹脂層が積層されてなることを特徴とする多層フィルムおよびその製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層フィルムは、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を有しているので、ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマーのシリコーン樹脂層への移行が抑制されているので、例えば、LCD、PDPなどの光学用途、また、多層フィルム表面へのPET起因のオリゴマーが存在することを嫌う用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〈ポリエステルフィルム〉
本発明の多層フィルムを構成するポリエステルフィルムは、公知のポリエステルフィルムであり、未延伸、一軸延伸あるいは二軸延伸フィルムの何れでもよいが、機械的強度、耐熱性等の点で二軸延伸フィルムが好ましい。
【0013】
本発明に係るポリエステルフィルムの厚さ、表面粗さは用途により種々選択することができる。通常は、厚さが3〜100μm、好ましくは5〜50μmである。
本発明に係るポリエステルフィルムは、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、二軸延伸フィルムである場合は、原料となるポリエステルを溶融し冷却ドラムの上にキャストして未延伸フィルムとし、次いでその未延伸フィルムを当該ポリエステルの二次転移点(Tg)−10℃以上の温度で縦方向に通常2から7倍に延伸して、まず一軸延伸フィルムとし、この一軸延伸フィルムをさらに80〜140℃で横方向に通常2〜9倍延伸して二軸延伸フィルムとすることができる。その際、更に130〜250℃で熱処理することにより耐熱収縮性に優れたフィルムが得られる。また、二軸延伸フィルムは熱処理する前に必要に応じて更に縦方向及び/又は横方向に再延伸されていてもよい。
【0014】
本発明に係わるポリエステルフィルムの原料となるポリエステルは、ジカルボン酸成分とグリコール成分(ジヒドロキシ化合物成分)からなる。
ポリエステルの成分の一つであるジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、4,4´−ジフェニルジカルボン酸などが例示され、中でもテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸がポリエステルフィルムの機械的特性、熱的特性等に優れるため好ましい。また、かかるジカルボン酸成分は一種または二種以上であってもよい。
【0015】
ポリエステルの他の成分であるグリコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノールなどが例示され、中でもエチレングリコールがポリエステルフィルムの機械的特性、熱的特性等に優れるため好ましい。また、かかるグリコール成分は一種または二種以上であってもよい。
【0016】
これらのポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレン―2,6―ナフタレートを例示することができる。かかるポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレン―2,6―ナフタレートは、上記ジカルボン酸成分あるいはグリコール成分などを共重合したポリエステルであってもよく、三官能以上のポリカルボン酸成分あるいはポリオール成分をポリエステルが実質的に線状となる範囲、例えば5モル%以下で少量共重合したポリエステルであってもよい。
【0017】
これらポリエステルは従来から知られている方法により製造することができ、平均分子量は10,000以上であることがフィルムの機械的特性が良好となるため好ましい。
これらのポリエステルには、フィルムの滑り性を良好なものとするため有機や無機の微粒子を滑剤として、例えば0.001〜5重量%の配合割合で含有させることができる。
【0018】
このような微粒子として、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、グラファイト、カオリン、シリカ、アルミナ、酸化珪素、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化珪素、酸化錫、アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子などが好適な例として挙げることができる。
【0019】
また、その他の配合剤として、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒、着色剤、顔料、蛍光増白剤、可塑剤、架橋剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、他の樹脂などを必要に応じて添加することができる。
【0020】
〈ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート〉
本発明の多層フィルムのジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を形成するジペンタエリスリトールアルキルアクリレートは、ポリオールアクリレート化合物の1つであり、多価アルコールとアクリル基を有する不飽和カルボン酸とのエステルである。これらジペンタエリスリトールアルキルアクリレートの中でも、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0021】
〈シリコーン樹脂〉
本発明の多層フィルムのシリコーン樹脂層を形成するシリコーン樹脂は、種々の用途に応じて選ばれる。例えば、離型フィルム基材への密着性、離型工程の際の剥離強度の安定性、シリコーン樹脂成分の非移行性を勘案して、熱、紫外線、電子線等による硬化反応にて得られるシリコーン樹脂であることが望ましい。また、1分子中に珪素原子に直結するアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンと、1分子中に珪素原子に直結する水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジエンポリシロキサンとの付加反応にて得られるシリコーン樹脂であることが望ましい。
【0022】
具体的なオルガノポリシロキサンの例としては、ジメチルアルケニルシロキシ基末端封鎖ジメチルポリシロキサン、トリメチルシロキシ基末端封鎖メチルアルケニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、シラノール基末端封鎖メチルアルケニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、ジメチルアルケニルシロキシ基末端封鎖メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、ジメチルアルケニルシロキシ基末端封鎖ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、等が挙げられる。
【0023】
また、具体的なオルガノハイドロジエンポリシロキサンの例としては、ジメチルハイドロジエンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジエンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジエンシロキサン共重合体、ジメチルフェニルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジエンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジエンポリシロキサン、環状メチルハイドロジエンポリシロキサン 等が挙げられる。
【0024】
尚、シリコーン樹脂を形成するに当たって、本成分の使用量は、前記のオルガノポリシロキサン成分100重量部に対して、前記のオルガノハイドロジエンポリシロキサン成分は通常 0.2〜40重量部であり、これらを熱による付加反応を促進させるためには白金系触媒等を共存させ、また、紫外線による付加反応を促進させるためには光重合開始剤等を共存させることにより、比較的速やかに硬化反応を達成でき、目的とするシリコーン樹脂層を形成することができる。
このシリコーン樹脂には、本発明の範囲内で、必要に応じて公知の反応制御剤、シリカ等の無機充填剤、または、顔料を更に配合することもできる。
【0025】
〈多層フィルム〉
本発明の多層フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を介してシリコーン樹脂層が積層されてなる。
【0026】
本発明の多層フィルムは、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を介することにより、ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー等のシリコーン樹脂層への移行を抑制することができる。
【0027】
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートに替えて、ビスフェノーAタイプエポキシアクリレート系化合物、ポリエステルアクリレート系化合物、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、あるいは、グリセリンジエポキシ(メタ)アクリレート、グリセリントリエポキシ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジエポキシ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジエポキシ(メタ)アクリレート、ロジンエポキシアクリレートなどを用いた場合は、オリゴマーのシリコーン樹脂層への移行の抑制効果が不十分である。
【0028】
本発明の多層フィルムは、ポリエステルフィルムの厚さが、通常、3〜100μm、好ましくは5〜50μm、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層の厚さが、通常、0.1〜5μm、好ましくは0.1〜2μm、シリコーン樹脂層の厚さが、通常、0.01〜5μmであり、好ましくは0.05〜1μmである。
【0029】
〈多層フィルムの製造方法〉
本発明の多層フィルムはポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートを塗布した後、活性エネルギー線により硬化させてジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を形成させた後、次いで、当該ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層上にシリコーン樹脂を塗布した後、硬化させることにより効率良く調製することができる。
【0030】
《ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層の形成》
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層は、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートをポリエステルフィルム上に塗布し、活性エネルギー線により硬化させて形成される。
【0031】
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートには、本発明の範囲内で、必要に応じてシリカ等の公知の無機微粒子を配合することもできる。
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートは通常は有機溶剤で希釈して用いられる。有機溶剤は、特に限定されないが、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エトキシエタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、これらの混合溶媒が例示される。
【0032】
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートの有機溶剤の溶液をポリエステルフィルムの表面に塗布する方法としては、例えば、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、グラビアリバースおよびジェットノズル方式などのグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーターおよびノズルフィードリバースコーターなどのリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーターなどの種々の公知の塗工機を用いることができる。
【0033】
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートの溶液の塗布は、塗布後の厚さが通常、0.1〜5μmとなるようにその濃度を調節して塗布することが望ましい。厚さが、0.1μm以上であれば、ポリエステルフィルムに含まれる硬化阻害物質のシリコーン樹脂層への移行を抑制することができる。
【0034】
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートの溶液には、光重合開始剤が配合されていることが望ましい。光重合開始剤には、アセトフェノン、アセトフエノンベンジルケタール、アントラキノン、1−(4−イソプロピルフエニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、カルバゾール、キサントン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3'−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、トリフェニルアミン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、フルオレノン、フルオレン、ベンズアルデヒド、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、3−メチルアセトフェノン、3,3',4,4'−テトラ−tert−ブチルパーオキシカルボニルベンゾフエノン(BTTB)、2−(ジメチルアミノ)−1−〔4−(モルフォリニル)フェニル〕−2−フェニルメチル)−1−ブタノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、ベンジルなどが挙げられる。
【0035】
光重合開始剤は色素増感剤と組合せて用いてもよい。色素増感剤としては、例えば、キサンテン、チオキサンテン、クマリン、ケトクマリンなどが挙げられる。
光重合開始剤と色素増感剤との組合せとしては、例えばBTTBとキサンテンとの組合せ、BTTBとチオキサンテンとの組合せ、BTTBとクマリンとの組合せ、BTTBとケトクマリンとの組合せなどが挙げられる。
【0036】
光重合開始剤の市販品としては、例えば、それぞれチバ・スペシャルティ・ケミカルズから販売されているIRGACURE 651、IRGACURE 184、IRGACURE 500、IRGACURE1000、IRGACURE 2959、DAROCUR 1173、またLambertiから販売されているESACURE ONE、ESACURE KIP150などを挙げることができる。
【0037】
これらの光重合開始剤、色素増感剤は、シリコーン樹脂層を形成する際の硬化阻害する物質は避けることが望ましい。例えば、白金触媒を用いる場合、窒素、リン、硫黄、鉛、錫などを含む化合物は避けることが望ましい。
【0038】
光重合開始剤を用いる場合、用いられる重合性化合物100重量部に対して通常0.1ないし10重量部程度である。この使用量があまり少ないと、光重合開始剤を使用しない場合と比較して硬化速度が大きくならない傾向にある。
【0039】
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートを塗布した後、必要に応じて乾燥し、次いで、形成された塗膜に活性エネルギー線を照射して、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層が形成されたポリエステルフィルムを得ることができる。
【0040】
活性化エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線、可視光線などが挙げられ、使用する活性化エネルギー線や硬化性化合物の種類に応じて適宜選ぶことができる。
照射する活性化エネルギー線の強度や照射時間は、用いる硬化性化合物の種類、硬化性化合物を含有する塗膜の厚さなどに応じて適宜選ぶことができる。活性化エネルギー線は、不活性ガス雰囲気中で照射してもよく、この不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが例示される。
【0041】
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層の膜厚は通常、0.1〜5μmであり、好ましくは0.1〜2μmの膜厚が好適である。硬化層の厚さが厚くなると、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートの架橋反応により、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層内に残留応力が生じる虞がある。このためジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層はその収縮によりカールが発生しハンドリング性が好ましくない傾向となる。さらに、基材ポリエステルフィルムとジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層との密着性の低下が生じる虞がある。
【0042】
また、ポリエステルフィルムへのジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層の密着性を高めるために、ポリエステルフィルムの表面に接着層を設けて、接着層の上にジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を設けてもよい。
【0043】
《シリコーン樹脂層の形成》
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を形成した後、シリコーン樹脂層が形成される。
【0044】
シリコーン樹脂層は従来公知の種々の方法で形成される。例えば、溶剤型およびエマルジョン型の形態を有する熱硬化型のシリコーン樹脂をコーティングする場合、コーティングされたシリコーン樹脂の溶液または水分散液は乾燥工程へと移されるが、その際の乾燥温度は 50〜120℃の範囲であればよく、60〜110℃の範囲が好ましい。乾燥温度が50℃未満であると、熱硬化時間が長くなり生産性が低下するので好ましくない。一方、120℃を越えると、フィルムにしわが生じるため好ましくない。
【0045】
一方、溶剤型およびエマルジョン型の形態を有する紫外線または電子線硬化型のシリコーン樹脂をコーティングする場合には、乾燥工程の後に紫外線または電子線の照射工程を有しているため、その乾燥は、溶剤または水の乾燥除去に必要な最低温度にて実施しても差し支えない。
【0046】
シリコーン樹脂のポリエステルフィルムへの密着性を高めるために、シリコーン樹脂のコーティング前に、ポリエステルフィルムのジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層の面側にコロナ放電処理、フレーム処理、オゾン処理等の表面活性化処理、あるいはアンカー処理剤を用いたアンカーコーティング処理を施してもよい。
【0047】
さらに必要に応じて、多層フィルムの表面上(ただし、シリコーン樹脂層と反対面側)に、他のポリエステルフィルムをアンカー処理剤や接着剤を介して積層したり、あるいは、印刷層や帯電防止剤層を設けたりして使用することができる。
【0048】
なお、片面のみジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層及びシリコーン樹脂層を設けた場合、その反対面に他の樹脂層を設けることも行われる。このような他の樹脂層として上記のジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層がある。
【0049】
シリコーン樹脂層はコーティング法により設けることができるが、その場合、形態的には、溶剤型、エマルジョン型、無溶剤型のいずれかの方法をとり得ることができる。ただし、シリコーン樹脂の薄膜を均一に形成させるためには、溶剤型またはエマルジョン型が望ましく、硬化型シリコーン樹脂成分のポットライフの点からも、溶剤型またはエマルジョン型が望ましい。
【0050】
シリコーン樹脂のポリエステルフィルムへのコーティングの方法は、溶剤型、エマルジョン型、無溶剤のいずれの形態をとるかによっても異なるが、例えば、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、バーコート法、スプレーコート法等何れの方法も採用することができ、中でも、ロールコーティング法は高速度で均一被膜を成形する方法として適している。
【0051】
シリコーン樹脂層の厚さは通常0.01〜5μmであり、好ましくは0.05〜1μmである。例えば、この範囲内にあれば、離型フィルム基材への密着性、離型工程の際の剥離強度の安定性、シリコーン樹脂成分の非移行性の点で性能の調整が可能であり、これにより目的とする優れた離型性を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定した。
【0053】
(1)サンプルの調製
下記の各サンプル用の重合性化合物と開始剤それぞれをメチルエチルケトンの溶液として調製し、それぞれ幅210mm×長さ290mm(A4サイズ)でフィルム厚みが38μm、表面粗さ(中心面平均粗さSRa)が0.027μmのPETフィルムの片面に、メーヤーバNo.4を用いて塗工し、70℃のオーブンで20秒乾燥させ、さらに紫外線(UV)照射(120W×8m/分)して硬化させ塗工膜とした。
【0054】
サンプル1
(ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート):実施例1
重合性化合物: ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート化合物
(CH2=CHCOOCH23CCH20CH2C(CH2=CHCOOCH23
(CH2=CHCOOCH23CCH20CH2C(CH2=CHCOOCH22OH
(*注1)(溶液中の濃度2質量%)
開始剤:2官能アルファヒドロキシケトン(*注2)(溶液中の濃度0.3質量%)
*注1: アロニックスM-406(東亜合成社製)
*注2 :ESACURE ONE(Lamberti社製)
【0055】
サンプル2
(グリセリンジエポキシ(メタ)アクリレート):比較例1
グリセリンジエポキシアクリレートの混合物
グリセリンジエポキシアクリレート(*注3)(溶液中の濃度0.7質量%)
ロジンエポキシアクリレート(*注4)(溶液中の濃度0.6質量%)
ヘキサエチレンジアクリレート(*注5)(溶液中の濃度0.7質量%)
開始剤:ヒドロキシシクロヘキシルケトン(*注6)(溶液中の濃度0.2質量%)
*注3: 80MFA(共栄社化学社製)
*注4: ビームセット101(荒川化学工業社製)
*注5: ニューフロンティアPE-300(第一工業製薬社製)
*注6: イルガキュア184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
【0056】
サンプル3
(ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート系化合物):比較例2
重合性化合物: ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート系化合物
CH=CHCOOCH2CH(OH)CH20−φ−C(CH32−φ−OCH2CH(OH)CH2OOCCH=CH2(*注7)(溶液中の濃度15質量%)
開始剤: 2官能アルファヒドロキシケトン(*注2)(溶液中の濃度0.3質量%)
*注7: NKオリゴ EA−1020(新中村化学工業社製 分子量540)
【0057】
サンプル4
(トリメチロールプロパンテトラアクリレート系化合物):比較例3
トリメチロールプロパンテトラアクリレート(*注8)(溶液中の濃度2質量%)
開始剤:2官能アルファヒドロキシケトン(*注2)(溶液中の濃度0.3質量%)
*注8 : AD-TMP(新中村化学工業社製)
【0058】
サンプル5
(ペンタエリスリトールトリアクリレート系化合物):比較例4
ペンタエリスリトールトリアクリレート(*注9)(溶液中の濃度2質量%)
開始剤:2官能アルファヒドロキシケトン(*注2)(溶液中の濃度0.3質量%)
*注9 : A-TMM-3LM-N(新中村化学工業社製)
【0059】
サンプル6
(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート系化合物):比較例5
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(*注10)(溶液中の濃度2質量%)
開始剤:2官能アルファヒドロキシケトン(*注2)(溶液中の濃度0.3質量%)
*注10 : A-DCP(新中村化学工業社製)
【0060】
次に、下記のシリコーンと触媒のトルエン/メチルエチルケトン(70/30容量比)混合溶媒の溶液を調製し、上記のそれぞれのPETフィルムの塗工膜の上に、メーヤーバNo.4を用いてシリコーン(:KS−847(信越化学社製)および触媒(PL−50T(信越化学社製)の塗工液塗工し、100℃のオーブンで20秒乾燥させ、 0.1g/m2の塗工膜を形成させ、多層フィルムのサンプルを作成した。
【0061】
(2)走査型電子顕微鏡によるオリゴマーの観察
作製したサンプルについて、160℃のオーブンで10分及び30分間熱処理した後、取り出し冷却後、それぞれのサンプルの離型層面にAuをスパッタし、このスパッタ表面を走査型電子顕微鏡にて500倍の倍率で200μm×200μmの視野を観察し、オリゴマーの表面への突き出し、及びオリゴマーの結晶(6角柱状結晶)が認められないものを離型フィルムの離型層表面にオリゴマーが存在しないものとした。装置は日本電子株式会社製のJSM-5600型を用いた。
【0062】
実施例1および比較例1〜5
上記のサンプル1から6を用いて、上記について測定した。
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

実施例1の多層フィルム(サンプル1)は、熱処理を施しても離型層表面へのオリゴマー析出は観察されなかった。比較例1〜5の多層フィルム(サンプル2〜6)は、離型層表面への析出が観察され、オリゴマー析出抑制能は不十分なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の多層フィルムは、例えば、偏光板用の離型フィルムとして好適に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート硬化層を介してシリコーン樹脂層が積層されてなることを特徴とする多層フィルム。
【請求項2】
ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートが、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートおよび/またはジペンタエリスリトールヘキサアクリレートである請求項1記載の多層フィルム。
【請求項3】
シリコーン樹脂層が、1分子中に珪素原子に直結するアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンと、1分子中に珪素原子に直結する水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジエンポリシロキサンとの付加反応にて得られるシリコーン樹脂である請求項1または2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
厚さ5〜50μmのポリエステルフィルム、厚さ0.1〜5μmのジペンタエリスリトールアルキルアクリレート層および厚さ0.01〜5μmのシリコーン樹脂層であることを特徴とする請求項1記載の多層フィルム。
【請求項5】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ジペンタエリスリトールアルキルアクリレートを塗布した後、活性エネルギー線により硬化させてジペンタエリスリトールアルキルアクリレート層を形成させた後、次いで、当該ジペンタエリスリトールアルキルアクリレート層上にシリコーン樹脂を塗布した後、硬化させることを特徴とする多層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−66547(P2012−66547A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215282(P2010−215282)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000220099)三井化学東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】