説明

多層塗工膜の製造方法及び光学用部材

【課題】簡易な手段である一液型塗工方法によって、光学用や建材用などとして有用な、例えば表面に帯電防止膜や防汚膜などの機能膜が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法を提供する。
【解決手段】1液型の塗工液を基材に塗布したのち、層分離させることによる多層塗工膜の製造方法であって、塗工液中の特定成分に対して吸着性を示し、かつその塗工液よりも比重が大きい、又は小さい吸着性粒子を該塗工液中に加えたものを基材に塗布し、その直後に遠心力により重力加速度を増やす処理を施して、各成分の比重差による層分離を促進させると共に、前記特定成分を吸着分離することを特徴とする、多層塗工膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層塗工膜の製造方法及び光学用部材に関する。さらに詳しくは、相分離を利用した一液型塗工方法の簡易な手段によって、光学用や建材用などとして有用な、例えば表面に帯電防止膜や防汚膜などの機能膜が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法、及びこの方法で得られた多層塗工膜を有する光学用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多層塗工膜の形成方法としては、(1)複数の塗工液を用いて、塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗工方式、(2)複数の塗工液を用いて、同時に多層塗布する方法(例えば、特許文献1及び2参照。)及び(3)複数の塗工液を傾斜したスライド面上で予め多層化し、該多層塗工膜を基材上に転移させて多層塗工膜を形成する方法(例えば、特許文献3参照。)などが知られている。
一方、スピノーダル分解により層分離構造を形成し、表面に凹凸を設けてなる防眩性フィルムが知られている。例えば少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む液相から、前記溶媒の蒸発に伴うスピノーダル分解により、層分離構造を形成し、前記樹脂前駆体を硬化させ、少なくとも防眩層を形成する防眩性フィルムの製造方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。また、スピノーダル分解による相分離を利用した技術として、(A)活性エネルギー線硬化型重合性化合物、(B)熱可塑性樹脂、(C)前記(A)成分と(B)成分に対する良溶媒及び(D)前記(B)成分に対する貧溶媒を含み、かつ前記(A)成分と(B)成分の含有比率が、重量基準で100:0.3〜100:50であり、(C)成分と(D)成分の含有比率が、重量基準で99:1〜30:70であることを特徴とする防眩性ハードコート層形成用材料、及び基材フィルム上に、上記材料を用いて形成された、活性エネルギー線硬化樹脂層からなる防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコートフィルムが開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0003】
【特許文献1】特公昭62−51670号公報
【特許文献2】特公平2−22711号公報
【特許文献3】特開2003−62517号公報
【特許文献4】特開2004−126495号公報
【特許文献5】特開2006−137835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記(1)の方法は、複数の塗工液を別々に準備しなければならない上、複数回の塗布、乾燥処理が必要であるなど、操作が煩雑で生産性に劣るという問題がある。また、上記(2)、(3)の方法は、塗工方法が改善され、生産性は、上記(1)の方法に比べて改善されているものの、やはり複数の塗工液を別々に準備しなければならないという問題は残る。
さらに、前記(1)〜(3)の方法においては、複数の塗工液の種類によっては、層間密着性が必ずしも充分ではないという問題がある。
また、特許文献4及び5に記載のスピノーダル分解による相分離技術は、表面に不規則な凹凸を形成させる技術であって多層積層塗工膜を形成させる技術には応用し難い。
【0005】
ところで、ディスプレイ分野において用いられる各種の光学部材、例えば反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルムなどの保護フィルム、あるいは建材分野等においては、帯電を防止するための帯電防止膜、塵や埃、指紋などの付着を防止するための防汚膜などの機能膜を光学部材や化粧板などの表面に設けることが要求される。ところが、帯電防止材料や防汚材料などとしてよく用いられる含フッ素化合物は、特殊な溶媒しか溶けなかったり、マトリックス樹脂中に均一分散しにくかったり、あるいは他の塗膜上に塗布する場合、ハジキにより、塗布が困難な場合が多く、例え塗布できたとしても層間密着性が充分ではないなどの問題がある。
【0006】
本発明は、このような状況下になされたものであり、簡易な手段である一液型塗工方法によって、光学用や建材用などとして有用な、例えば表面に帯電防止膜や防汚膜などの機能膜が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法、及びその方法で得られた多層塗工膜を有する光学用部材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、吸着性の高い高比重又は低比重の粒子を層分離しようとする塗工液中に添加し、遠心力によって吸着成分を吸着した粒子を沈降、又は浮上させることで、効果的に沈降分離又は浮上分離させて、層分離、すなわち積層構造体を得られることを見出した。回転速度等の遠心分離の条件や、吸着性粒子の吸着性や、添加量等により、分離の度合いが変わるため、2以上の複数の層分離、すなわち積層構造体の形成が可能である。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]1液型の塗工液を基材に塗布したのち、層分離させることによる多層塗工膜の製造方法であって、塗工液中の特定成分に対して吸着性を示し、かつその塗工液よりも比重が大きい、又は小さい吸着性粒子を該塗工液中に加えたものを基材に塗布し、その直後に遠心力により重力加速度を増やす処理を施して、各成分の比重差による層分離を促進させると共に、前記特定成分を吸着分離することを特徴とする、多層塗工膜の製造方法、
[2]塗工液が、有機溶剤系塗工液である、上記[1]に記載の多層塗工膜の製造方法、
[3]吸着性粒子を含む塗工液の温度25℃における粘度が、1.0〜10.0Pa・sである上記[1]又は[2]に記載の多層塗工膜の製造方法、
[4]吸着性粒子がポリアクリルアミド粒子及び/又はジメチルアミノエチルメタクリレート粒子である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法、
[5]層分離において、吸着性粒子は塗工膜の表面側又は基材側に偏在する、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法、
[6]遠心力により重力加速度を増やす処理において、塗工膜の厚さ方向に、11〜95Gの遠心力を加える、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法、及び
[7]基材上に、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法で得られた多層塗工膜を有することを特徴とする、光学用部材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、層分離を利用した簡易な一液型塗工方法によって、光学用や建材用等として有用な、例えば表面に帯電防止層や防汚層などの機能層が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法、及びこの方法で得られた多層塗工膜を有する光学用部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の多層塗工膜の製造方法は、1液型の塗工液を基材に塗布したのち、層分離させることによる多層塗工膜の製造方法であって、塗工液中の特定成分に対して吸着性を示し、かつその塗工液よりも比重が大きい、又は小さい吸着性粒子を該塗工液中に加えたものを基材に塗布し、その直後に遠心力により重力加速度を増やす処理を施して、各成分の比重差をによる層分離を促進させると共に、前記特定成分を吸着分離することを特徴とする。
すなわち、吸着性粒子に吸着される成分(吸着成分)、実質上吸着されない成分(非吸着成分)、吸着性粒子、遠心力の各要素を必要とする。吸着成分としては、表面電位が正又は負に偏っているもの、アミノ基等の官能基が多く存在するもの等が挙げられる。非吸着成分としては、表面電位が中性付近であるもの、吸着性の官能基を多く有さないもの等が挙げられる。
【0011】
[基材]
本発明において、多層塗工膜を形成させる基材に特に制限はなく、該多層塗工膜を有する部材の用途、例えば光学用部材や建材用部材などによって適宜選択することができるが、光学用部材の場合は、光学用フィルムの基材として公知であるプラスチックフィルムの中から適宜選択して用いることができる。このようなプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等を挙げることができる。
【0012】
これらの基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいし、無着色のものでもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば液晶表示体の保護用として用いる場合には、無色透明のフィルムが好適である。
これらの基材の厚さは特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常、15〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲である。また、この基材は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0013】
[塗工液]
本発明においては、吸着性粒子と、該吸着性粒子に吸着される吸着成分と、実質上吸着されない非吸着成分とを、溶剤に溶解及び/又は分散させて塗工液を調製する。
(溶剤)
本発明において用いる溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤などが挙げられる。
本発明においては、これらの溶剤の中から、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
(活性エネルギー線硬化型化合物)
本発明においては、被膜形成性成分として、活性エネルギー線硬化型化合物を用いることができる。この活性エネルギー線硬化型化合物は、非吸着成分である。
この活性エネルギー線硬化型化合物は、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線等を照射することにより、架橋、硬化する化合物である。この活性エネルギー線硬化型化合物としては、以下の活性エネルギー線硬化型オリゴマー及び/又はモノマーを用いることができる。
【0015】
活性エネルギー線硬化型オリゴマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエーテルアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、シリコーンアクリレート系のオリゴマー等が挙げられる。
ここで、ポリエステルアクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量(例えば5000未満)のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応させてエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシアクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレートオリゴマーも用いることができる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、ポリオールアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
上記オリゴマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定した標準ポリスチレン換算の値で、好ましくは500〜100,000、より好ましくは1,000〜70,000、さらに好ましくは3,000〜40,000の範囲で選定される。
このオリゴマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
一方、活性エネルギー線硬化型モノマーとしては、例えばジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールアジペートエステル、ジ(メタ)アクリル酸ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジシクロペンテニル、ジ(メタ)アクリル酸エチレンオキシド変性リン酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸アリル化シクロヘキシル、ジ(メタ)アクリル酸イソシアヌレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパンエステル、トリ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル[ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート]、トリ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオンオキシド変性トリメチロールプロパンエステル、イソシアヌル酸トリス(アクリロキシエチル)、ペンタ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。これらのモノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
また、前記活性エネルギー線硬化型化合物と共に、光重合開始剤を用いることができる。この光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミン安息香酸エステル、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン)等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この光重合開始剤の使用量は、用いる活性エネルギー線硬化型化合物の種類に応じて適宜選定すればよいが、通常、活性エネルギー線硬化型化合物に対して0.001〜0.5倍質量の範囲で使用する。
なお、前記光重合開始剤は、非吸着成分である。
【0018】
(吸着性粒子)
ポリアクリルアミド粒子や、ジメチルアミノエチルメタクリレート粒子等が、吸着性が高く好ましい。無機材料でも吸着性の高いものがあるが、光学的な積層体を得ようとした場合に、透明性が問題になることが懸念されるため、好ましくはないが、微量、又は微小で用いることも可能である。
本発明においては、この吸着性粒子として、それが加えられる塗工液よりも比重が大きい粒子、又は比重が小さい粒子を用いるが、塗工液よりも比重が大きい粒子を用いることが好ましい。このような吸着性粒子を用いることにより、後述の遠心力を加える操作で、吸着成分を吸着した吸着性粒子を、浮上又は沈降させ、結果として浮上分離又は沈降分離により、効果的に層分離が行われる。
吸着性粒子の比重の調整は、該粒子の材質、分子量、サイズなどによって行うことができる。
これらの吸着性粒子は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その添加量は、吸着成分を効果的に吸着すると共に、得られる塗工膜の性能を損なわない観点から、吸着成分100質量部に対して、通常5〜50質量部、好ましくは7〜40質量部、より好ましくは10〜30質量部である。
【0019】
本発明においては、このようにして得られた塗工液に、前記の各成分以外に、必要に応じて、各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤などを含有させることができる。
【0020】
[塗工膜の形成]
前記溶剤中に、吸着性粒子に対し吸着する吸着成分と、実質上吸着しない非吸着成分と、吸着性粒子とを、溶剤に溶解及び/又は分散させて塗工液を調製する。
このようにして調製された塗工液の粘度については、塗布直後に遠心力により重力加速度を増やす処理を施す際に、粘度が低いと塗工液が飛び散るおそれがあるので、温度25℃における粘度が1.0〜10.0Pa・sであることが好ましく、2.0〜8.0Pa・sであることがより好ましく、3.0〜6.0Pa・sであることがさらに好ましい。
次に、基材の一方の面に、上記塗工液を、従来公知の方法、例えばスピンコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いて、コーティングして塗膜を形成させたのち、直ちに遠心力を加える。この遠心力を加える装置及び方法としては、塗工膜の厚さ方向に、11〜95G、好ましくは15〜60G、より好ましくは21〜42Gの遠心力を加えられれば特に制限は無い。
この操作において、吸着成分を吸着した吸着性粒子は、塗工膜の表面側又は基材側に偏在するようになる。
【0021】
このようにして、層分離が行われた塗工膜を、例えば40〜150℃、好ましくは50〜120℃、より好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは55〜90℃の温度にて1〜2分間程度加熱・乾燥させる。
次に、塗工液中の被膜形成性成分が、前述した活性エネルギー線硬化型化合物である場合には、活性エネルギー線を照射して、硬化処理を行い、多層塗工膜を形成する。活性エネルギー線としては、例えば紫外線や電子線等が挙げられる。上記紫外線は、高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ、キセノンランプ等で得られる。一方、電子線は、電子線加速器等によって得られる。この活性エネルギー線の中では、特に紫外線が好適である。なお、電子線を使用する場合は、光重合開始剤を添加することなく、硬化膜を得ることができる。
活性エネルギー線が紫外線の場合、その光量は、50〜200mJ/cm2程度であることが好ましい。
【0022】
このようにして、層分離構造を有する多層塗工膜が得られる。
この層分離構造は、例えばスラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置を用いて確認することができる。また、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡によっても確認することができる。
【0023】
本発明の多層塗工膜の製造方法によれば、相分離を利用した一液型塗工方法の簡易な手段によって、光学用や建材用等として有用な、例えば表面に帯電防止層や防汚層などの機能層が設けられた多層塗工膜を密着性良く、且つ効果的に製造することができる。
本発明はまた、基材上に、前記の方法で得られた多層塗工膜を有することを特徴とする光学用部材をも提供する。
上記光学用部材としては、例えばディスプレイ分野において用いられる帯電防止機能や防汚機能などが付与された、反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルムなどの保護フィルム等を挙げることができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、各例で得られた塗工膜の諸物性として、層分離構造、帯電防止性能を、以下に示す方法に従って求めた。
【0025】
(1)層分離構造
層分離の分析は、スラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置「SIS−50型」(システムインスツルメンツ社製)を用いた。石英製光導波路基板(システムインスツルメンツ社製)に、塗工面側、並びに裏面側をそれぞれ完全に密着させ、エバネッセント波吸収特性を調査した。塗工面側と裏面(基材側)のエバネッセント波吸収特性に大きな差が得られれば、効果的に層分離構造が形成されたと判断される。
(2)帯電防止性能
綿ウェスを用い、表面を10回摩擦した後、タバコの灰上に1cmの距離まで近づけ、灰が付着するか否か、即ち表面に静電気が帯電したか否かを評価した。
【0026】
製造例1 層分離用塗工液1の調製
多官能光重合性モノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(関東化学(株)製、ハードコート材料、非吸着成分)2.0g、光重合開始剤「Irgacure(登録商標)184」(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、非吸着成分)0.1g、リチウム−トリフルオロメタンスルホンアミド(吸着成分、東京化成工業社製)3.5g、ポリアクリルアミド粒子(三菱化学(株)製、吸着性粒子)0.5g、溶剤メチルイソブチルケトンを混合し、室温で1時間攪拌した。析出物、塵等の不純物をろ別し、総固形分75質量%の、層分離用塗工液1を調製した。
前記層分離塗工液1の25℃における粘度は、B型粘度計を用いた測定により、3.2Pa・sであった。また、ポリアクリルアミド粒子を除く塗工液の比重は、25℃で0.98であり、ポリアクリルアミド粒子の比重は25℃で1.05であった。
【0027】
実施例1
遠心分離機の分離用容器底面に固定した洗浄済みガラス基板上に、製造例1で作製した層分離用塗工液1を数滴滴下した直後、遠心分離機により、550回転(42G)にて1分間回転させ遠心力を加えた。
回転終了後、70℃のオーブン中で1分間乾燥させ、さらに、光量100mJ/cm2にて紫外線を照射して膜を硬化させた。スラブ型光導波路分光法により、塗工膜表面側、基材側の成分を調べたところ、基材側に、強くフッ素由来の吸収ピークを観測し、層分離構造が形成されていることが分かった。諸物性の評価結果を表1に示す。
【0028】
比較例1
実施例1において、遠心分離機により遠心力を加えなかった他は実施例1と同様にして、硬化膜を作製した。
スラブ型光導波路分光法により、塗工膜表面側、基材側の成分を調べたところ、基材側に、フッ素由来の吸収ピークは殆ど確認されず、良好な層分離構造が形成されていないことが分かった。諸物性を評価した結果を表1に示す。
【0029】
比較例2
実施例1において、製造例1で作製した層分離用塗工液1にポリアクリルアミド粒子(吸着性粒子)を混合しなかい塗工液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして硬化膜を作製した。
スラブ型光導波路分光法により、塗工膜表面側、基材側の成分を調べたところ、基材側に、フッ素由来の吸収ピークは殆ど確認されず、良好な層分離構造が形成されていないことが分かった。諸物性を評価した結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から分かるように、実施例1は層分離構造を有し、吸着して浮上分離された、リチウムイオン系の導電性材料により、灰付着テストにおいて、灰が付着しない、即ち良好な帯電防止機能を示した。さらに、本構造体は、塗工表面側に、腐食性を有するリチウムイオンがほぼ存在しないため、皮膚に触れても皮膚を刺激ことはなく、安全に帯電防止機能を発現させることができる。一方比較例1及び2では、スラブ型光導波路分光法により層分離が確認できず、層分離が進行しなかったことで、表面の帯電防止機能が高まらず、結果として、灰付着テストにおいて、灰の付着を確認し、十分な帯電防止性能が得られていないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の多層塗工膜の製造方法は、相分離を利用した一液型塗工方法の簡易な手段によって、光学用や建材用等として有用な、例えば表面に帯電防止膜や防汚膜などの機能膜が設けられた多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造することができ、特に光学用部材の製造に適用するのが有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1液型の塗工液を基材に塗布したのち、層分離させることによる多層塗工膜の製造方法であって、塗工液中の特定成分に対して吸着性を示し、かつその塗工液よりも比重が大きい、又は小さい吸着性粒子を該塗工液中に加えたものを基材に塗布し、その直後に遠心力により重力加速度を増やす処理を施して、各成分の比重差による層分離を促進させると共に、前記特定成分を吸着分離することを特徴とする、多層塗工膜の製造方法。
【請求項2】
塗工液が、有機溶剤系塗工液である、請求項1に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項3】
吸着性粒子を含む塗工液の温度25℃における粘度が、1.0〜10.0Pa・sである請求項1又は2に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項4】
吸着性粒子がポリアクリルアミド粒子及び/又はジメチルアミノエチルメタクリレート粒子である、請求項1〜3のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項5】
層分離において、吸着性粒子は塗工膜の表面側又は基材側に偏在する、請求項1〜4のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項6】
遠心力により重力加速度を増やす処理において、塗工膜の厚さ方向に、11〜95Gの遠心力を加える、請求項1〜5のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項7】
基材上に、請求項1〜6のいずれかに記載の方法で得られた多層塗工膜を有することを特徴とする、光学用部材。

【公開番号】特開2010−88985(P2010−88985A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259617(P2008−259617)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】