説明

多層塗工膜の製造方法

【課題】簡易な手段である1液型塗工方法によって、基材上に機能膜などの多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】基材に1液の塗工液を塗布して多層塗工膜を形成させる多層塗工膜の製造方法であって、基材が浸透性基材であり、塗工液中に該浸透性基材に対する易浸透性成分、該浸透性基材に対する難浸透性成分、及び溶剤を含有することを特徴とする多層塗工膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層塗工膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、相分離を利用した1液型塗工方法を用いて、基材上に多層膜を効率よく製造する多層塗工膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多層塗工膜の形成方法としては、複数の塗工液を用いて、塗布と乾燥処理を繰り返すタンデム塗工方式が知られている。
また、スピノーダル分解により相分離構造を形成し、表面に凹凸を設けてなる防眩性フィルムが知られている。例えば少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む液相から、前記溶媒の蒸発に伴うスピノーダル分解により、相分離構造を形成し、前記樹脂前駆体を硬化させ、少なくとも防眩層を形成する防眩性フィルムの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、スピノーダル分解による相分離を利用した技術として、(A)活性エネルギー線硬化型重合性化合物、(B)熱可塑性樹脂、(C)前記(A)成分と(B)成分に対する良溶媒及び(D)前記(B)成分に対する貧溶媒を含み、かつ前記(A)成分と(B)成分の含有比率が、重量基準で100:0.3〜100:50であり、(C)成分と(D)成分の含有比率が、重量基準で99:1〜30:70であることを特徴とする防眩性ハードコート層形成用材料、及び基材フィルム上に、上記材料を用いて形成された、活性エネルギー線硬化樹脂層からなる防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコートフィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−126495号公報
【特許文献2】特開2006−137835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のタンデム塗工方式は、複数の塗工液を別々に準備しなければならない上、複数回の塗布、乾燥処理が必要であるなど、操作が煩雑で生産性に劣るという問題がある。
また、特許文献1及び2に記載のスピノーダル分解による相分離技術は、表面に不規則な凹凸を形成させる技術であって多層積層塗工膜を形成させる技術には応用し難い。
【0005】
ところで、ディスプレイ分野において用いられる各種の光学部材、例えば反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルムなどは、基材上に多層の機能膜を設けることが要求され、簡易な手段である1液型塗工方法によって、基材上に多層膜を設ける技術が、製造コストなどの点から切望されている。
本発明は、このような状況下になされたものであり、簡易な手段である1液型塗工方法によって、基材上に機能膜などの多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、基材として浸透性基材を用い、塗工液中に複数存在する成分の基材への浸透性の違いを利用することで、基材に1液を塗工するのみで、基材上に多層塗工膜を効果的に形成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、基材に1液の塗工液を塗布して多層塗工膜を形成させる多層塗工膜の製造方法であって、基材が浸透性基材であり、塗工液中に該浸透性基材に対する易浸透性成分、該浸透性基材に対する難浸透性成分、及び溶剤を含有することを特徴とする多層塗工膜の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、1液型塗工方法によって、基材上に機能膜などの多層塗工膜を、密着性良く、且つ効果的に製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の多層塗工膜の製造方法は、基材に1液の塗工液を塗布して多層塗工膜を形成させる多層塗工膜の製造方法であって、基材が浸透性基材であり、塗工液中に該浸透性基材に対する易浸透性成分、該浸透性基材に対する難浸透性成分、及び溶剤を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明では、基材として浸透性基材を用いることが特徴である。上述のように、基材への浸透性の違いを利用して、1液の塗工液から多層を形成するためである。
浸透性基材としてはセルロース系が好ましく、紙基材(コート紙や光沢紙等の表面処理紙を除く)やセロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレートなどのセルロース系樹脂が好適に挙げられる。また、セルロース繊維やレーヨン繊維により形成される不織布なども好適に挙げられる。
これらの基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいし、無着色のものでもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば液晶表示体の保護用として用いる場合には、無色透明のフィルムが好適である。
【0010】
これらの基材の厚さは特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常、15〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲である。
また、この基材は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。
【0011】
本発明の多層塗工膜の製造方法に用いられる塗工液中には、上記浸透性基材に対する易浸透性成分、該浸透性基材に対する難浸透性成分、及び溶剤を含有する。
易浸透性成分とは、溶媒に溶解し得る成分であって、浸透性基材の表面から内部に浸透する成分である。より具体的には、以下に定義する浸透度が0.1以上であることが好ましい。一方、難浸透性成分とは浸透性基材の表面から内部に浸透し難い成分であって、具体的には、浸透度が0.01以下のものであることが好ましい。また、本発明においては、浸透性基材に全く浸透性を示さない不浸透性成分も難浸透性成分に包含されるものである。
(浸透度の定義)
易浸透性成分又は難浸透性成分を、その含有量が20質量%となるようにトルエンに溶解又は分散させて溶液又は分散液を得、該トルエン溶液又は分散液100mL中に、25cm2の正方形に切り出した浸透性基材を25℃で1分間浸漬させた後のトルエン溶液又は分散液中の易浸透性成分又は難浸透性成分の減少分を、浸透性基材を浸漬させる前のトルエン溶液中の易浸透性成分又は難浸透性成分の質量で除した値である。
【0012】
浸透度の測定について、易浸透性成分を例として詳細に説明する。トルエン中に易浸透性成分を、その含有量が20質量%となるように溶解させて溶液を得る。該溶液100mL中に、25cm2の正方形に切り出した浸透性基材を25℃で1分間浸漬させた後取り出す。取り出した浸透性基材の表面をトルエンで洗浄し、該洗浄トルエン溶液と、浸透性基材を浸漬させた残りのトルエン溶液とを合わせ、トルエンを揮発させる。残留した易浸透性成分の質量を測定し、最初の易浸透性成分からの減少分を算出し、これを最初の易浸透性成分の質量で除して、浸透度を求める。
難浸透性成分についても、易浸透性成分と同様の方法で浸透度の測定が可能であり、難浸透性成分がトルエンに不溶である場合には、分散液として測定する。この場合には、必要に応じて適宜分散剤を加えてもよい。
【0013】
本発明では、易浸透性成分と難浸透性成分を組み合わせることによって、浸透性基材に浸透する部分と浸透しない部分で2層を形成させるものである。易浸透性成分と難浸透性成分の組み合わせとしては種々のものが挙げられるが、以下代表的なものについて詳細に説明する。
【0014】
(1)低分子有機材料と高分子有機材料の組み合わせ
易浸透性成分が低分子有機材料であり、難浸透性成分が高分子有機材料である組み合わせが好適に挙げられる。
低分子有機材料としては、通常、分子量が100〜999の範囲であることが好ましく、エチレン性不飽和基を有するモノマー成分など、光照射や加熱によって、膜を形成する成分が挙げられる。より具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸等のカルボキシル基を有するビニルモノマー;エチレン;スチレン等が挙げられる。これらの成分は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、本願明細書において(メタ)アクリル酸メチルとは、アクリル酸メチル又はメタクリル酸メチルを意味し、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。また、これに類似する表現も同様の意味である。
【0015】
一方、高分子有機材料としては、重量平均分子量が1000〜100000であるポリマー及びオリゴマーが挙げられる。具体的には、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、カルボキシル基を有するビニルモノマーなどの単独重合体、及びこれらのモノマーの共重合体など;スチレン−ブタジエン共重合体、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体、メタクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、アクリルニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体、メタクリル酸エステル−スチレン−ブタジエン共重合体などのゴム系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0016】
(2)分子量または重量平均分子量が500以下の直鎖構造を有する有機材料と炭素数20〜20000の分岐構造を有する有機材料の組み合わせ
易浸透性成分が分子量または重量平均分子量500以下の直鎖構造を有する有機材料であり、難浸透性成分が炭素数20〜20000の分岐構造を有する有機材料である組み合わせが好適に挙げられる。
分子量または重量平均分子量500以下の直鎖構造を有する有機材料としては、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールジアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。一方、炭素数20〜20000の分岐構造を有する有機材料としては、3官能以上の多官能性(メタ)アクリレート、デンドリマー(樹状分岐化合物)、ハイパーブランチポリマーなどが挙げられる。
3官能以上の多官能性(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、デンドリマー(樹状分岐化合物)としては、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリプロピレンイミンデンドリマー、アクリルデンドリマーなどが挙げられ、ハイパーブランチポリマーとしては、ポリスチレン型ハイパーブランチポリマーや、アクリル酸エステル型ハイパーブランチポリマーなどが挙げられる。
【0017】
(3)溶剤に可溶な成分と溶剤に分散する成分の組み合わせ
易浸透性成分が溶剤に可溶な成分であり、難浸透性成分が溶剤に分散する成分である組み合わせが挙げられる。
溶剤に可溶な成分及び溶剤に分散する成分は、溶剤の種類によって種々選定し得るが、例えば、溶剤に分散する成分として、ポリスチレンビーズやアクリルビーズなどの樹脂ビーズやチタニア、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどの無機粒子を好適に用いることができる。なお、これらの粒子を分散させるための分散剤を添加することも好ましい態様である。
【0018】
本発明の多層塗工膜の製造方法において用いられる溶剤としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノールなどのアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル;エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤などが挙げられる。
本発明においては、これらの溶剤の中から、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
本発明の製造方法では、塗工液を塗工した後、通常、熱硬化又は光硬化させる。光硬化に際して、活性エネルギー線として、通常紫外線又は電子線が照射されるが、紫外線を照射する際には、光重合開始剤を用いることができる。この光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミン安息香酸エステル、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン)などが挙げられる。これらは1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この光重合開始剤の使用量は、用いる活性エネルギー線硬化型化合物の種類に応じて適宜選定すればよい。
【0020】
塗工液の製造方法としては、上述の易浸透性成分及び難浸透性成分、必要に応じて用いられる光重合開始剤と、さらには各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤などをそれぞれ所定の割合で溶剤に加え、均一な塗工液を調製する。
このようにして調製された塗工液の濃度、粘度としては、コーティング可能な濃度、粘度であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。
次に、基材の一方の面に、上記塗工液を、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いて、コーティングして塗膜を形成させたのち、90〜95℃程度の温度にて、1〜2分間程度加熱・乾燥させる。このコーティング、加熱・乾燥の際に、易浸透性成分が浸透性基材に浸透し、難浸透性成分が基材の上に残留することにより、多層塗工膜が形成される。
【0021】
次いで、多層塗工膜を熱処理又は活性エネルギー線を照射して、該塗工膜を硬化させる。
活性エネルギー線としては、例えば紫外線や電子線などが挙げられる。上記紫外線は、高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ、キセノンランプなどで得られる。一方、電子線は、電子線加速器などによって得られる。この活性エネルギー線の中では、特に紫外線が好適である。なお、電子線を使用する場合は、光重合開始剤を添加することなく、硬化膜を得ることができる。
このようにして形成された塗工膜は、浸透性基材に浸透する浸透層の厚さが、通常0.1〜10μm程度、好ましくは1〜5μmであり、基材の上部に浸透せずに残存する膜の厚さは、通常0.1〜10μm程度、好ましくは1〜5μmである。
【0022】
本発明の多層塗工膜の製造方法によれば、相分離を利用した1液型塗工方法の簡易な手段によって、多層塗工膜を密着性良く、且つ効果的に製造することができる。本方法は、TACなどの浸透性基材表面に多層の機能膜が設けられた光学用フィルムの製造に特に有用な方法である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。各実施例及び比較例で得られた塗工膜について、以下の方法で評価した。
評価方法
1.多層化の有無(界面紫外可視分光測定)
各実施例及び比較例で得られた塗工膜について、層が分離して多層構造を形成しているか否かの分析を行った。分析はスラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置(システムインスツルメンツ(株)製「SIS−50型」)を用いた。石英製光導波路基板(システムインスツルメンツ(株)製)の上に、塗工面側並びに裏面側をそれぞれ完全に密着させ、エバネッセント波吸収特性を調べた。塗工面側と裏面側とでエバネッセント波吸収特性に大きな差が得られれば、効果的に層分離が形成されたと判断される。評価基準は以下のとおりである。
○;エバネッセント波吸収特性に大きな差が見られ、多層塗工膜が得られている。
×;エバネッセント波吸収特性に差が見られない。
2.密着性
各実施例及び比較例で得られた多層塗工膜の塗工面を、1ミリ間隔の縦横10区分の碁盤目状にカッターで切り、粘着性テープ(ニチバン(株)社製「セロテープ(登録商標)No.405(商品名)」幅24mm)を貼った後に剥がし、枡目の剥がれの程度で評価した。評価基準は以下のとおりである。
○;5回の試験を行っても100個の碁盤目の剥がれが全くない。
×;5回の試験を行い、5回とも100個の碁盤目がすべて剥離する。
【0024】
製造例1(低分子有機材料と高分子有機材料の組み合わせ)
易浸透性成分(低分子有機材料)として、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、分子量352、浸透度0.23)15g、難浸透性成分(高分子有機材料)として、ポリメチルメタクリレート(シグマアルドリッチ社製、重量平均分子量約30000、浸透度0.007)22g、溶剤としてトルエン(関東化学(株)製)67g、及び光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「イルガキュア184」)0.7gを室温で混合し、澄明で均一な塗工液A−1を得た。
【0025】
製造例2(低分子有機材料と高分子有機材料の組み合わせ)
易浸透性成分(低分子有機材料)として、ペンタエリスリトールトリアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、分子量298、浸透度0.18)15g、難浸透性成分(高分子有機材料)として、ポリプロピレングリコールトリアクリレートオリゴマー(新中村化学工業(株)製、重量平均分子量約10000、浸透度0.009)22g、溶剤としてトルエン(関東化学(株)製)67g、及び光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「イルガキュア184」)0.7gを室温で混合し、澄明で均一な塗工液A−2を得た。
【0026】
製造例3(分子量または重量平均分子量500以下の直鎖構造を有する有機材料と炭素数20〜20000の分岐構造を有する有機材料の組み合わせ)
易浸透性成分(直鎖構造を有する有機材料)として、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業(株)製、重量平均分子量約300、浸透度0.15)12g、難浸透性成分(分岐構造を有する有機材料)として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、炭素数26、浸透度0.007)18g、溶剤としてトルエン(関東化学(株)製)70g、及び光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「イルガキュア184」)0.5gを室温で混合し、澄明で均一な塗工液A−3を得た。
【0027】
製造例4(分子量または重量平均分子量500以下の直鎖構造を有する有機材料と炭素数20〜20000の分岐構造を有する有機材料の組み合わせ)
易浸透性成分(直鎖構造を有する有機材料)として、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業(株)製、重量平均分子量約300、浸透度0.15)1.4g、難浸透性成分(分岐構造を有する有機材料)として、ポリアミドアミンデンドリマー(第4世代)(シグマアルドリッチ社製、炭素数622、浸透度0.005)2.0g、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(関東化学(株)製)8.0g、及び光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「イルガキュア184」)0.1gを室温で混合し、澄明で均一な塗工液A−4を得た。
【0028】
製造例5(溶剤に可溶な成分と溶剤に分散する成分の組み合わせ)
易浸透性成分(溶剤に可溶な成分)として、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業(株)製、浸透度0.15)12g、難浸透性成分(溶剤に分散する成分)として、ルチル型酸化チタン(テイカ(株)製「MT−500HDM」、浸透度;測定限界以下)10g、分散剤(ビックケミー・ジャパン(株)「Disperbyk163」)2g、バインダー成分(分散粒子固定用)として、ジペンタエリスリトールトリアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製)3g、溶剤としてトルエン(関東化学(株)製)70g、及び光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「イルガキュア184」)0.5gを室温で混合し、澄明で均一な塗工液A−5を得た。
【0029】
製造例6(溶剤に可溶な成分と溶剤に分散する成分の組み合わせ)
易浸透性成分(溶剤に可溶な成分)として、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業(株)製、浸透度0.15)12g、難浸透性成分(溶剤に分散する成分)として、ポリスチレンビーズ(綜研化学(株)製「MX−150」、浸透度;測定限界以下)10g、バインダー成分(分散粒子固定用)として、ジペンタエリスリトールトリアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製)3g、溶剤としてトルエン(関東化学(株)製)70g、及び光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「イルガキュア184」)0.5gを室温で混合し、澄明で均一な塗工液A−6を得た。
【0030】
製造例7(低分子有機材料と高分子有機材料の組み合わせ)
製造例1において、易浸透性成分であるペンタエリスリトールテトラアクリレートに代えて、同様に易浸透性成分であるポリプロピレングリコールアクリレート(日立化成工業(株)製ファンクリルFA−P270A、分子量823、浸透度0.11)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、澄明で均一な塗工液A−7を得た。
【0031】
製造例8(低分子有機材料と高分子有機材料の組み合わせ)
製造例1において、易浸透性成分であるペンタエリスリトールテトラアクリレートに代えて、同様に易浸透性成分であるメタクリル酸メチル(関東化学(株)製、分子量100、浸透度0.35)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、澄明で均一な塗工液A−8を得た。
【0032】
製造例9(低分子有機材料と高分子有機材料の組み合わせ)
製造例2において、難浸透性成分であるポリプロピレングリコールトリアクリレートオリゴマーに代えて、同様に難浸透性成分であるエチレンオキシド変性ポリプロピレングリコールジメタクリレート(日立化成工業(株)製ファンクリル「FA−023M」、分子量1114、浸透度0.01)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、澄明で均一な塗工液A−9を得た。
【0033】
製造例10(低分子有機材料と高分子有機材料の組み合わせ)
製造例2において、難浸透性成分としてポリプロピレングリコールトリアクリレートオリゴマー(新中村化学工業(株)製、重量平均分子量約100000、浸透度0.005)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、澄明で均一な塗工液A−10を得た。
【0034】
製造例11(低分子有機材料と高分子有機材料の組み合わせ)
製造例4において、難浸透性成分であるポリアミドアミンデンドリマーに代えて、フタル酸ジフェニル(純正化学(株)製、炭素数20、浸透度0.001以下)を用いたこと以外は製造例4と同様にして、澄明で均一な塗工液A−11を得た。
【0035】
製造例12(低分子有機材料と高分子有機材料の組み合わせ)
製造例4において、難浸透性成分であるポリアミドアミンデンドリマーに代えて、ポリアミドアミンデンドリマー担持ポリスチレン(シグマアルドリッチ社製、炭素数約18000、浸透度0.001以下)を用いたこと以外は製造例4と同様にして、澄明で均一な塗工液A−12を得た。
【0036】
比較製造例1
製造例1において、易浸透性成分であるペンタエリスリトールテトラアクリレートに代えて、難浸透性成分であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ダイセル・サイテック(株)製、炭素数26、浸透度0.007)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、澄明で均一な塗工液B−1を得た。
【0037】
比較製造例2
製造例1において、易浸透性成分であるペンタエリスリトールテトラアクリレートに代えて、揮発性であるメタクリル酸(関東化学(株)製、分子量86、浸透度は揮発性のため測定不能)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、澄明で均一な塗工液B−2を得た。
【0038】
比較製造例3
製造例1において、易浸透性成分であるペンタエリスリトールテトラアクリレートに代えて、難浸透性成分であるエチレンオキシド変性ポリプロピレングリコールジメタクリレート(日立化成工業(株)製「ファンクリルFA−023M」、分子量1114、浸透度0.02)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、澄明で均一な塗工液B−3を得た。
【0039】
比較製造例4
製造例2において、難浸透性成分であるポリプロピレングリコールトリアクリレートオリゴマーに代えて、易浸透性成分であるポリプロピレングリコールアクリレート(日立化成工業(株)製「ファンクリルFA−P270A」、分子量823、浸透度0.11)を用いたこと以外は製造例2と同様にして、澄明で均一な塗工液B−4を得た。
【0040】
比較製造例5
製造例4において、難浸透性成分であるポリアミドアミンデンドリマーに代えて、トリフェニルメタン(関東化学(株)製、炭素数19、浸透度は揮発性のため測定不能)を用いたこと以外は製造例4と同様にして、澄明で均一な塗工液B−5を得た。
【0041】
製造例及び比較製造例にて得られた塗工液について、第1表にまとめる。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1
製造例1で得られた塗工液A−1をトリアセチルセルロース(以下「TAC」と標記する。)(富士フィルム(株)製「フジタック」)にマイヤーバーにてコーティングし、70℃のオーブン中で1分間乾燥させた後、露光量100mJ/m2にて紫外線を照射して硬化させ、基材上に塗工膜を得た。上記方法にて評価した結果を第2表に示す。
【0044】
実施例2〜6
塗工液として、第2表に示すものを用いたこと以外は、実施例1と同様にTACフィルムに塗工し、実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を第2表に示す。
【0045】
実施例7
実施例1において、浸透性基材として、TACフィルムに代えて、非コート上質紙を用いたこと以外は、実施例1と同様にして塗工し、実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を第2表に示す。
【0046】
実施例8
実施例1において、浸透性基材として、TACフィルムに代えて、パルプ由来透明セルロースフィルム(フタムラ化学(株)製「セロハン」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして塗工し、実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を第2表に示す。
【0047】
実施例9〜14
塗工液として、第2表に示すものを用いたこと以外は、実施例1と同様にTACフィルムに塗工し、実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を第2表に示す。
【0048】
比較例1〜6
実施例1〜6において、基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)(東洋紡績(株)製「コスモシャインA4100」)を用いたこと以外は、実施例1〜6と同様にして塗工し、実施例1に記載する方法で評価した。評価結果を第2表に示す。
【0049】
比較例7
比較製造例1で得られた塗工液B−1をTACフィルムにマイヤーバーにてコーティングし、70℃のオーブン中で1分間乾燥させた後、露光量100mJ/m2にて紫外線を照射して硬化させ、基材上に塗工膜を得た。上記方法にて評価した結果を第2表に示す。
【0050】
比較例8
比較例7において、TACフィルムに代えて、パルプ由来透明セルロースフィルム(フタムラ化学(株)製「セロハン」)を用いたこと以外は、比較例7と同様にして塗工し、基材上に塗工膜を得た。上記方法にて評価した結果を第2表に示す。
【0051】
比較例9
比較例7において、TACフィルムに代えて、ポリエチレンテレフタレート(PET)(東洋紡績(株)製「コスモシャインA4100」)を用いたこと以外は、比較例7と同様にして塗工し、基材上に塗工膜を得た。上記方法にて評価した結果を第2表に示す。
【0052】
比較例10〜13
塗工液として、第2表に示すものを用いたこと以外は、実施例1と同様にTACフィルムに塗工し、実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を第2表に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例及び比較例の記載から、浸透性のほとんどないPETでは塗工液の分離が起きていず、求める多層膜を製造することはできないことがわかる。また、密着性も極めて低い。
これに対し、浸透性基材を用いる本発明においては、塗工液が分離し、多層塗工膜が得られ、かつ、密着性も高い。
さらに、難浸透性成分のみで、易浸透性成分を用いない比較例7及び11、また易浸透性成分のみで、難浸透性成分を用いない比較例12においては、浸透性基材を用いても多層膜を製造することはできないことがわかる。これは、比較例7及び比較例11では、塗工液が難浸透性成分のみからなり、比較例12では塗工液が易浸透性成分のみからなるため、2液が混合してしまい、浸透性基材を用いても多層膜を製造することができなかったものである。
また、易浸透性成分に代えて、揮発性成分を用いた比較例10、及び難浸透性成分に代えて、揮発性成分を用いた比較例13では、基材への浸透よりも揮発が優先して進行してしまうために、浸透性基材を用いても多層膜を製造することはできない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の方法によれば、1液での塗工によって、多層膜を形成することができ、しかも高い密着性が得られる。従って、TACなどの浸透性基材に多層の機能膜を、密着性良く、効果的に塗工することができ、高い生産性で光学フィルム等を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に1液の塗工液を塗布して多層塗工膜を形成させる多層塗工膜の製造方法であって、基材が浸透性基材であり、塗工液中に該浸透性基材に対する易浸透性成分、該浸透性基材に対する難浸透性成分、及び溶剤を含有することを特徴とする多層塗工膜の製造方法。
【請求項2】
易浸透性成分の以下に定義する浸透度が0.1以上であり、難浸透性成分の浸透度が0.01以下である請求項1に記載の多層塗工膜の製造方法。
(浸透度の定義)
易浸透性成分又は難浸透性成分を、その含有量が20質量%となるようにトルエンに溶解又は分散させて溶液又は分散液を得、該トルエン溶液又は分散液100mL中に、25cm2の正方形に切り出した浸透性基材を25℃で1分間浸漬させた後のトルエン溶液又は分散液中の易浸透性成分又は難浸透性成分の減少分を、浸透性基材を浸漬させる前のトルエン溶液中の易浸透性成分又は難浸透性成分の質量で除した値。
【請求項3】
易浸透性成分が低分子有機材料であり、難浸透性成分が高分子有機材料である請求項1又は2に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項4】
低分子有機材料の分子量が100〜999であり、高分子有機材料の重量平均分子量が1000〜100000である請求項3に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項5】
易浸透性成分が、分子量または重量平均分子量500以下の直鎖構造を有する有機材料であり、難浸透性成分が炭素数20〜20000の分岐構造を有する有機材料である請求項1又は2に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項6】
易浸透性成分が溶剤に可溶であり、難浸透性成分が溶剤に分散する請求項1又は2に記載の多層塗工膜の製造方法。
【請求項7】
前記基材がセルロース系基材である請求項1〜6のいずれかに記載の多層塗工膜の製造方法。

【公開番号】特開2009−262148(P2009−262148A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88137(P2009−88137)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】