説明

多層多孔膜およびその製造方法

【課題】耐熱性と高透過性を同時に有することで、特に非水電解液電池用セパレータとして高い安全性と実用性を兼ね備えた多層多孔膜の提供。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する厚さ0.2μm以上100μm以下の多孔層を備え、透気度が1〜650秒/100ccである多層多孔膜及びその製造方法、それを用いた非水電解液電池用セパレータ及び非水電解液電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池やコンデンサー等における隔離材や物質の分離等に好適に用いられる多孔膜及びその製造方法に関する。更に、それを用いた非水電解液電池用セパレータ及び非水電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン多孔膜は優れた電気絶縁性、イオン透過性を示すことから電池やコンデンサー等におけるセパレータとして広く利用されている。特に近年では携帯機器の多機能化、軽量化に伴いその電源として高出力密度、高容量密度のリチウムイオン二次電池が使用されており、このような電池用セパレータにも主としてポリオレフィン多孔膜が用いられている。
リチウムイオン二次電池は高い出力密度、容量密度を持つ反面、電解液に有機溶媒を用いているために短絡や過充電などの異常事態に伴う発熱によって電解液が分解し、最悪の場合には発火に至ることがある。このような事態を防ぐためリチウムイオン二次電池にはいくつかの安全機能が組み込まれており、その中の一つにセパレータのシャットダウン機能がある。シャットダウン機能とは電池が異常発熱を起こした際、セパレータの微多孔が熱溶融等により閉塞して電解液内のイオン伝導を抑制し電気化学反応の進行をストップさせる機能のことである。一般的にシャットダウン温度が低いほど安全性が高いとされ、ポリエチレンがセパレータの成分として用いられている理由の一つに適度なシャットダウン温度を持つという点が挙げられる。しかし、高いエネルギーを有する電池においては熱暴走時の発熱量が大きく、シャットダウン温度を超えても温度が上昇し続けた場合、セパレータの熱収縮に伴う破膜により両極が短絡し、さらなる発熱を引き起こす危険性がある。
【0003】
このような問題を解決するために、セパレータと電極の間に絶縁性無機フィラーを主成分とする層を形成する方法が提案されている。(特許文献1、2、3、4)この方法ではシャットダウン温度を超えて温度が上昇し続けてセパレータが破膜しても、無機フィラー層が絶縁層として存在するために両極の短絡を防止できるため、安全性に優れている。また、セパレータの細孔が閉塞するのを防ぐため、真空蒸着法やスパッタリング法、CVD法等の真空製膜法を用いて無機フィラー層を形成する方法(特許文献5)も提案されている。
【特許文献1】特開2001−266828号公報
【特許文献2】特開2005−276503号公報
【特許文献3】国際公開第00/79618号パンフレット
【特許文献4】特開平11−80395号公報
【特許文献5】特開2001−35468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、無機フィラー層含有樹脂溶液を多孔膜であるセパレータ表面に塗布することによって無機フィラー層をセパレータ表面に形成すると、無機フィラーおよび無機フィラーを結着するためのバインダー樹脂がどうしてもセパレータの細孔に入り込むため、多くの細孔が閉塞してしまい、セパレータの透過性を大幅に低下させてしまい、充放電特性に劣るという問題が生じていた。この問題は、セパレータ自体の透過性が高ければ高いほど、無機フィラーに対するバインダー樹脂の比率が多いほど顕著に現れていた。また、短絡防止効果を確実に得るために0.2μm以上の層厚の無機フィラー層を真空蒸着法やスパッタリング法、CVD法等の真空製膜法を用いて形成しようとすると、生産性が著しく低下するという問題がある。
本発明は、耐熱性と透過性に優れた多孔膜、特に非水電解液電池用セパレータとして有用な多孔膜を提供することを目的とする。また、そのような多孔膜を高い生産性にて提供できる製造方法、高い安全性と実用性を備えた非水電解液電池用セパレータ及び非水電解液電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は下記の通りである。
[1]ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する厚さ0.2μm以上100μm以下の多孔層を備え、透気度が1〜650秒/100ccである多層多孔膜。
[2]前記多孔層が無機フィラーに加えてバインダー樹脂を含有する、上記[1]の多層多孔膜
[3]前記多孔層が、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する溶液を塗布することによって形成されてなる、上記[1]又は[2]の多層多孔膜。
[4]前記ポリオレフィン樹脂多孔膜が無機充填材を含有する、上記[1]〜[3]のいずれかの多層多孔膜。
[5]ポリオレフィン樹脂と可塑剤とを含むシート状成形体の少なくとも片面に、無機フィラー含有樹脂溶液、又は融点および/またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する溶液を塗布した後、可塑剤を抽出する、多層多孔膜の製造方法。
[6]前記シート状成形体が、更に無機充填材を含有する、上記[5]の多層多孔膜の製造方法。
[7]上記[5]又は[6]の製造方法を用いて作製された多層多孔膜。
[8]上記[1]〜[4]、および[7]のいずれかの多層多孔膜を用いた非水電解液電池用セパレータ。
[9]上記[8]の電池用セパレータを用いた非水電解液電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、優れた耐熱性と透過性を示し、リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池および電気二重層キャパシタ等の蓄電池用セパレータ等として有用な多層多孔膜、その製造方法、それを用いた非水電解液電池用セパレータ及び非水電解液電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の多層多孔膜は、ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する厚さ0.2μm以上100μm以下の多孔層を備えており、透気度が1〜650秒/100ccである。
ポリオレフィン樹脂多孔膜は、電池用セパレータとして用いた場合のシャットダウン性等の点から、多孔膜を構成する樹脂成分の質量分率の50%以上をポリオレフィン樹脂が占める多孔膜であることが好ましく、更には55%以上がより好ましく、60%以上であることが最も好ましい。
【0008】
ポリオレフィン樹脂とは、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂をいい、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のホモ重合体及び共重合体、多段重合体等を使用することができる。また、これらのホモ重合体及び共重合体、多段重合体の群から選んだポリオレフィンを単独、もしくは混合して使用することもできる。前記重合体の代表例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。本発明の微多孔膜を電池セパレータとして使用する場合、低融点であり、かつ高強度の要求性能から、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂を使用することが好ましい。
【0009】
ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量は、5万以上1200万以下が好ましく、さらに好ましくは5万以上200万未満、最も好ましくは10万以上100万未満である。粘度平均分子量が5万以上であれば、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が向上しやすい上に、十分な絡み合いを付与しやすく高強度となりやすい。粘度平均分子量が1200万以下であれば、均一な溶融混練を得やすい傾向があり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向がある。さらに粘度平均分子量が100万未満であれば、電池用セパレータとして使用した場合に、温度上昇時に孔を閉塞しやすく良好なシャットダウン機能が得られやすい。使用するポリオレフィン樹脂は、例えば、単独で粘度平均分子量100万未満のポリオレフィンを使用する代わりに、粘度平均分子量が200万のポリエチレンと27万の混合物とし、混合物の粘度平均分子量を100万未満としてもよい。
ポリオレフィン樹脂は、後述の無機充填材を含有することも可能であり、本発明の利点を損なわない範囲で必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の添加剤を混合して使用できる。
【0010】
本発明の多層多孔膜は、上記ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する多孔層を備えており、これにより優れた耐熱性を示す。
多孔層の層厚は0.2μm以上100μm以下であり、好ましくは0.5μm以上50μm以下、より好ましくは0.7μm以上30μm以下、さらに好ましくは1μm以上20μm以下である。層厚が0.2μm未満だと耐熱性向上の効果が小さくなり、層厚が100μmを越えるとセパレータ全体の占有体積が大きくなるため高容量化の点で不利になる。
多孔層中の無機フィラーの占める質量分率は、耐熱性の点から、50%以上100%未満であることが好ましく、55%以上99.99%以下であることがより好ましく、60%以上99.9%以下であることが更に好ましく、65%以上99%以下であることが特に好ましい。
【0011】
多孔層に使用する無機フィラーは、200℃以上の融点を有し、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維などが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0012】
多孔層は、上記無機フィラーと共に無機フィラーを結着できるバインダー樹脂を含有することが好ましい。このようなバインダー樹脂は、リチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であり、かつ後述の可塑剤抽出時に用いる溶媒に不溶な樹脂であることが好ましい。例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステルなどの融点および/またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂が挙げられる。なお、バインダー樹脂に使用するポリオレフィンの粘度平均分子量は、1000以上1200万未満が好ましく、より好ましくは2000以上200万未満、さらに好ましくは5000以上100万未満である。
【0013】
多孔層は、上記無機フィラー、必要に応じてバインダー樹脂を溶媒に溶解または分散させた無機フィラー含有樹脂溶液を、ポリオレフィン樹脂多孔膜に塗布することによって形成されることが好ましい。上記溶媒としては、無機フィラーとバインダー樹脂が均一かつ安定に溶解または分散できるものが好ましく、例えば、N−メチルピロリドンやN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、ヘキサンなどを挙げることが出来る。また、無機フィラー含有樹脂溶液を安定化させるため、あるいは後述の多孔膜前駆体表面への塗工性を向上させるために、界面活性剤等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、消泡剤等の各種添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去や可塑剤抽出の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用範囲において電気化学的に安定で、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定ならば、電池内に残存してもよい。
【0014】
多孔層は、上記無機フィラーに代えて又は上記無機フィラーと共に、融点および/またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂(以下、「耐熱樹脂」と略記することがある)を含有してもよい。耐熱樹脂は、リチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であり、可溶な溶剤が存在し、かつ後述の可塑剤抽出時に用いる溶媒に不溶な樹脂が好ましく、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等を用いることができる。
多孔層は、耐熱樹脂を溶媒に溶解させて耐熱樹脂溶液を、ポリオレフィン樹脂多孔膜に塗布することによって形成されることが好ましい。作製するのであるが、該溶媒としては、使用する耐熱樹脂を溶解できるものであれば特に限定することなく使用することが出来る。例えば、N−メチルピロリドンやN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、クロロナフタレン、トルエン、塩化メチレン、熱キシレン、ヘキサンなどを挙げることが出来る。
【0015】
本発明の多層多孔膜の最終的な膜厚は、2μm以上200μm以下の範囲が好ましく、5μm以上100μm以下の範囲がより好ましく、7μm以上50μm以下の範囲がさらに好ましい。膜厚が2μm以上であれば機械強度が十分であり、また、200μm以下であればセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向がある。
本発明の多層多孔膜の透気度は1秒/100cc以上650秒/100cc以下、好ましくは20秒/100cc以上500秒/100cc以下、より好ましくは30秒/100cc以上450秒/100cc以下、特に好ましくは50秒/100cc以上400秒/100cc以下の範囲である。透気度が1秒/100cc以上では電池用セパレータとして使用した際に自己放電が少なく、650秒/100cc以下では良好な充放電特性が得られる。
【0016】
多層多孔膜のシャットダウン温度は、120℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは120℃以上150℃以下の範囲である。160℃以下であれば、電池が発熱した場合などにおいても、電流遮断を速やかに促進し、良好な安全性能が得られる傾向にあるので好ましい。一方、120℃以上であれば例えば100℃前後での高温化の使用、熱処理等を実施できるので好ましい。
多層多孔膜のショート温度は、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。180℃以上であれば電池異常発熱においても放熱するまで正負極間の接触を抑制し得る傾向があるので好ましい。
【0017】
本発明の多層多孔膜は、ポリオレフィン樹脂と可塑剤とを含むシート状成形体の少なくとも片面に、無機フィラー含有樹脂溶液、又は融点および/またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する溶液を塗布した後、可塑剤を抽出する方法により、好適に製造できる。
ポリオレフィン樹脂としては前述のものが好適に使用できる。ポリオレフィン樹脂には、本発明の利点を損なわない範囲で必要に応じて、フェノール系やリン系やイオウ系等の酸化防止剤、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の添加剤を混合して使用できる。
【0018】
可塑剤としては、 ポリオレフィン樹脂と混合した際にポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成しうる不揮発性溶媒であれば良い。例えば、流動パラフィンやパラフィンワックス等の炭化水素類、フタル酸ジオクチルやフタル酸ジブチル等のエステル類、オレイルアルコールやステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。特にポリオレフィン樹脂がポリエチレンの場合、流動パラフィンは、ポリエチレンと相溶性が高く延伸時に樹脂と可塑剤の界面剥離が起こりにくいために均一な延伸を実施しやすく好ましい。
ポリオレフィン樹脂と可塑剤とを含むシート状成形体は、ポリオレフィン樹脂と可塑剤とを溶融混練して得られる溶融物を冷却固化させることにより好適に得られる。
【0019】
この場合、ポリオレフィン樹脂および可塑剤と一緒に無機充填材を溶融混練することが出来る。この際に使用する無機充填材は、200℃以上の融点をもち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。無機充填材としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックスや窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維等のセラミックスなどが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0020】
上記の無機充填材のうち、可塑剤吸油量が150ml/100g以上であるものが好ましく用いられる。150ml/100g以上1000ml/100g以下がより好ましく、150ml/100g以上500ml/100g以下が特に好ましい。特に、無機充填材含有量が20質量%以上かつ可塑剤が多量に含まれる場合は、吸油量が150ml/100g以上であると、ポリオレフィン樹脂、無機充填材、可塑剤を溶融混練、押出しシート化してもシート中に凝集物が生じにくく高倍率の延伸が可能となり、高強度かつ薄膜を達し得るので好ましい。さらに、非水蓄電池用セパレータとして使用した場合、非水電解液の含浸性、保液性に優れるため、電池生産性や長期使用における性能維持が期待されるので好ましい。また1000ml/100g以下の場合、無機充填材の嵩密度が大きいために生産時における扱いが容易である。さらにこれらの無機充填材は、一次粒子内部に内部表面積を実質的に有さない、すなわち、一次粒子自身に微細な細孔を実質的に有さないものが好ましい。
【0021】
このような無機充填材を用いると、例えば非水電解液電池用セパレータとして用いた場合に容量低下を起こし難い傾向がある。理由は定かではないが、一次粒子内部に微細な細孔を実質的に有していなければ、通常の乾燥工程において容易に吸着水等を除去できるために、水分混在による容量低下を引き起こし難いと推測している。また同様の理由により、粒子形状は、層状よりも球状の方が好ましい。このような無機充填材は、化学炎法やプラズマ法等の気相反応にて得ることが出来、例えば、四塩化珪素や四塩化チタンを酸素及び水素等存在下の気相中で反応(燃焼)させることで内部細孔を有さない酸化珪素粒子や酸化チタン粒子を得ることが出来る。一方、燃焼合成法等の固相反応、沈殿法等の液相反応により得られる無機粒子、または天然鉱物などは一次粒子内部に微細な細孔を有する構造や層状形状になり得やすい。内部表面積または内部細孔の有無はガス吸着による孔径分布測定や分子サイズの異なる分子を用いて求めた比表面積を比較することで確認できる。
【0022】
ポリオレフィン樹脂に対する無機充填材の含有量は、可塑剤を加えた状態で、均一な溶融製膜が可能であり、シート状の多孔膜前駆体を形成でき、かつ生産性を損なわない程度であることが好ましく、ポリオレフィン樹脂と無機充填材とからなる組成物中に占める無機充填材の質量分率で0%以上90%以下であることが好ましく、1%以上80%以下がより好ましく、3%以上70%以下が特に好ましく、5%以上60%以下が最も好ましい。無機充填材を添加すると、電解液との親和性が向上するため、電解液の含浸性を向上できるので好ましい。また無機充填材の質量分率が90%以下であれば、生産性を損なわずに、均一かつシート状の多孔膜前駆体を溶融製膜にて形成することが可能であるので好ましい。
【0023】
ポリオレフィン樹脂と可塑剤、あるいはポリオレフィン樹脂と無機充填材と可塑剤との比率については、均一な溶融混練が可能な比率であり、シート状の微多孔膜前駆体を成形しうるのに充分な比率であり、かつ生産性を損なわない程度とするのが好ましく、ポリオレフィン樹脂と可塑剤からなる組成物、あるいはポリオレフィン樹脂と無機充填材と可塑剤とからなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30〜80質量%、更に好ましくは40〜70質量%である。可塑剤の質量分率が80質量%以下の場合、溶融成形時のメルトテンションが不足しにくく成形性が向上する傾向があるので好ましい。一方、質量分率が30質量%以上の場合は、延伸倍率の増大に伴い厚み方向に薄くなり、薄膜を得ることが可能であるので好ましい。また可塑化効果が十分なために結晶状の折り畳まれたラメラ晶を効率よく引き伸ばすことができ、高倍率の延伸ではポリオレフィン鎖の切断が起こらず均一かつ微細な孔構造となり強度も増加しやすい。さらに押出し負荷が低減され、生産性が向上する。
【0024】
ポリオレフィン樹脂と可塑剤、あるいはポリオレフィン樹脂と無機充填材と可塑剤を溶融混練する方法としては、ポリオレフィン樹脂単独、あるいはポリオレフィン樹脂と無機充填材を押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入し、更にポリオレフィン樹脂と可塑剤、あるいはポリオレフィン樹脂と無機充填材と可塑剤よりなる組成物を混練することにより、均一溶液を得る方法が好ましい。さらに好ましい方法としては予めポリオレフィン樹脂と可塑剤、あるいはポリオレフィン樹脂と無機充填材と可塑剤とをヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練する工程を経て、該混練物を押出機に投入し、加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入し更に混練することが挙げられる。具体的には、ポリオレフィン樹脂と可塑剤、あるいはポリオレフィン樹脂と無機充填材と可塑剤とをヘンシェルミキサー等で事前混練したものを二軸押出機に投入し、所定可塑剤添加量の残り分をサイドフィードすることで、より分散性が良好なシートを得ることができ、高倍率の延伸を破膜することなく実施することができる。
【0025】
上記溶融混練物はシート状に成形される。溶融物を押出して冷却固化させシート状成形体(後述の延伸工程を経たものも含めて「多孔膜前駆体」と略記することがある)を製造する方法は、ポリオレフィン樹脂と可塑剤、あるいはポリオレフィン樹脂と無機充填材と可塑剤の均一溶融物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却することにより行うことが好ましい。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、あるいは可塑剤自身等が使用できるが、特に金属製のロールに接触させて冷却する方法が最も熱伝導の効率が高く好ましい。また、金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むと、更に熱伝導の効率が高まり、またシートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するためより好ましい。Tダイよりシート状に押出す際のダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下が好ましく、500μm以上2500μm以下がさらに好ましい。ダイリップ間隔が400μm以上の場合には、メヤニ等が低減され、スジや欠点など膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程に於いて膜破断などを防げる。3000μm以下の場合は、冷却速度が速く冷却ムラを防げるほか、厚みの安定性を維持できる。
【0026】
次いで、シート状成形体の少なくとも片面に、無機フィラー含有樹脂溶液又は耐熱樹脂含有溶液を塗布した後、可塑剤が抽出する。この場合、シート状成形体は、無機フィラー含有樹脂溶液等の塗布に先立ち、あるいは塗布後に延伸処理してもよい。更に、後述の可塑剤抽出後に延伸処理してもよい。
延伸処理としては一軸延伸または二軸延伸のいずれも好適に用いることが出来るが、得られる膜強度等の観点から二軸延伸がより好ましい。二軸方向に高倍率延伸した場合、面方向に分子配向するため裂けにくく安定な構造となり高い突刺強度が得られる。延伸方法は同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等のいずれの方法を単独もしくは併用することも構わないが、延伸方法が同時二軸延伸であることが突刺強度の増加や均一延伸、シャットダウン性の観点から最も好ましい。ここでいう同時二軸延伸とはMD方向(機械方向)の延伸とTD方向(機械方向と垂直方向)の延伸が同時に施される手法であり、各方向の変形率は異なっても良い。逐次二軸延伸とは、MD方向、またはTD方向の延伸が独立して施される手法であり、MD方向、またはTD方向に延伸がなされている際は、他方向が非拘束状態、または定長に固定されている状態にある。延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲が好ましく、25倍以上50倍以下の範囲がさらに好ましい。各軸方向の延伸倍率はMD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲が好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲がさらに好ましい。総面積倍率が20倍以上の場合は、膜に十分な強度を付与でき、100倍以下では膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる。
【0027】
圧延工程を二軸延伸工程と併用しても構わない。圧延はダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施できる。圧延は特に表層部分の配向を増すことが出来る。圧延面倍率は1倍より大きく3倍以下が好ましく、1倍より大きく2倍以下がさらに好ましい。1倍より大きければ、面配向が増加し膜強度が増加する。3倍以下では、表層部分と中心内部の配向差が小さく、延伸工程で表層部と内部で均一な多孔構造を発現するために好ましいし、また工業生産上も好ましい。
また、この時点での多孔膜前駆体の膜厚は、膜強度の面から1μm以上が好ましく、電池の高容量化の面から100μm以下が好ましい。より好ましい膜厚は3〜50μmであり、さらに好ましい膜厚は5〜30μmである。
【0028】
次いで、無機フィラー(必要に応じてバインダー樹脂)を適当な溶媒中に溶解または分散させた無機フィラー含有樹脂溶液か、耐熱樹脂を適当な溶媒中に溶解または分散させた溶液(以下、耐熱樹脂溶液と略記することもある)を、前記の多孔膜前駆体、すなわち可塑剤を抽出していない状態の膜の表面に塗布した後、溶媒を除去することで多孔層を多孔膜前駆体の表面に形成する。
可塑剤を抽出した後の多孔膜の表面に無機フィラー含有樹脂溶液または耐熱樹脂溶液を塗布すると、微多孔膜の細孔内にバインダー樹脂や無機フィラーが侵入するため、細孔の閉塞が起こり、膜の透過性が悪化してしまう。多孔膜自体の透過性が高ければ高いほど、または無機フィラーに対するバインダー樹脂の比率が多いほど細孔の閉塞による透過性の悪化が顕著に現れるため、高い透過性を要求される場合には、無機フィラー含有樹脂溶液または耐熱樹脂溶液の塗布によって無機フィラーを主成分とする多孔層を形成することは非常に困難である。また、耐熱性の確実な向上を狙い、無機フィラーを主成分とする多孔層または耐熱樹脂多孔層を厚くするために、無機フィラー含有樹脂溶液または耐熱樹脂溶液を厚く塗布すればするほど、多孔膜の細孔の閉塞は起こり易くなる。
【0029】
一方、可塑剤抽出前の多孔膜前駆体の状態は細孔が存在しないため、無機フィラー含有樹脂溶液または耐熱樹脂溶液を塗布しても細孔内への侵入は起こらないので、無機フィラー含有樹脂層または耐熱樹脂多孔層を形成した後に可塑剤を抽出すれば、細孔の大部分を維持した状態で多層多孔膜を得ることが出来る。すなわち、透過性が高く、耐熱性も優れた多層多孔膜が得られるのである。
上記無機フィラー含有樹脂溶液または耐熱樹脂溶液を多孔膜前駆体表面に塗布する方法については、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定しない。例えば、グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコータ−法、ナイフコータ−法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。また、用途に応じて無機フィラー含有樹脂溶液を多孔膜前駆体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。なお、塗布に先立ち、多孔膜前駆体の最表面に付着あるいは浮上した可塑剤や異物等を拭き取り除去すると、無機フィラー含有樹脂溶液または耐熱樹脂溶液がより均一に塗布し易くなるので好ましい。この拭き取り除去は、については、可塑剤の種類に応じて溶剤を選定し、拭き取り用ローラーや布などに含浸させて行ってもよい。
【0030】
さらに、塗布に先立ち、多孔膜前駆体表面を積極的に表面処理すると、無機フィラー含有樹脂溶液または耐熱樹脂溶液がより均一に塗布し易くなる上に、塗布後の無機フィラー含有樹脂層または耐熱樹脂溶液と多孔体前駆体表面との接着性が向上するため、より好ましい。表面処理の方法は、多孔体前駆体の多孔質構造が著しく損なわれなければ特に限定しないが、例えばコロナ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法などが挙げられる。
多孔膜前駆体表面に塗布した無機フィラー含有樹脂溶液から溶媒を除去することで無機フィラーを主成分とする多孔層が形成されるのだが、溶媒を除去する方法としては、多孔膜前駆体に悪影響を及ぼさない方法であれば、特に限定することなく採用することが出来る。例えば、多孔膜前駆体を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、バインダー樹脂に対する貧溶媒に浸漬してバインダー樹脂を凝固させると同時に溶媒を抽出する方法などが挙げられる。特に、溶媒抽出法については、バインダー樹脂に対して貧溶媒だが、該溶媒および可塑剤に対して良溶媒になるような抽出溶媒を選定するか、あるいは予めバインダー樹脂と溶媒と可塑剤との組み合わせを上記のように設計してやれば、可塑剤抽出工程で同時に多孔層を形成することが出来るので工程を増やす必要がなく、工業生産上も好ましい。
【0031】
耐熱樹脂溶液を多孔膜前駆体表面に塗布後、一般的な相分離方法を適用することで耐熱樹脂多孔層を得ることが出来る。例えば、耐熱樹脂溶液を多孔膜前駆体表面に塗布後、耐熱樹脂に対する貧溶媒に浸漬させ、耐熱樹脂を凝固させると同時に溶剤を除去することで多孔層を得ることが出来る。また、例えば、高温で溶解させた耐熱樹脂溶液を多孔膜前駆体表面に塗布後に冷却して耐熱樹脂を析出させた後、溶剤を除去することで多孔層を得ることが出来る。また、例えば、耐熱樹脂溶液にあらかじめ該耐熱樹脂の可塑剤を溶解させたものを多孔膜前駆体表面に塗布後、乾燥等により溶剤を除去してから、可塑剤を抽出させることで多孔層を得ることも出来る。なお、該耐熱樹脂の可塑剤に、多孔膜前駆体に使用される可塑剤を抽出するのに用いる溶剤に可溶なものを選べば、耐熱樹脂層と多孔膜前駆体を同時に多孔化できるので工程を増やす必要がなく、工業生産上も好ましい。
【0032】
次に可塑剤抽出について説明する。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれでもよいが、抽出溶剤に多層多孔膜前駆体を浸漬することにより可塑剤を抽出し、充分に乾燥させ、可塑剤を多層多孔膜から実質的に除去することが好ましい。多層多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中に多層多孔膜の端部を拘束することは好ましい。また、抽出後の多層多孔膜中の可塑剤残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
抽出溶剤は、ポリオレフィン樹脂、無機フィラーおよびバインダー樹脂または耐熱樹脂に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン多孔膜の融点より低いことが望ましい。このような抽出溶剤としては、 例えば、n−ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ハイドロフルオロエーテルやハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。またこれらの蒸留等の操作により、回収した抽出溶剤も使用してよいのは言うまでもない。
【0033】
本発明の多層多孔膜において、本発明の利点を損なわない範囲で各延伸過程に引き続いて、または後に熱固定及び熱緩和等の熱処理工程を加えることは、多層多孔膜の収縮をさらに抑制する効果があり好ましい。
また、本発明の利点を損なわない範囲で後処理を行っても良い。後処理としては、例えば、界面活性剤等による親水化処理、及び電離性放射線等による架橋処理等が挙げられる。
本発明の多層多孔膜は、耐熱性、透過性に優れるため、非水電解液電池用セパレータとして用いた場合に特に有用である。本発明の多層多孔膜を用いた非水電解液電池は例えば以下の方法により製造できる。
【実施例】
【0034】
次に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。実施例における試験方法は次の通りである。
<多孔膜の評価>
(1)膜厚
ダイヤルゲージ(尾崎製作所:商標、PEACOCK No.25)にて測定した。MD10mm×TD10mmのサンプルを多孔膜から切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)の膜厚を測定した。得られた平均値を膜厚(μm)とした。
(2)透気度(秒/100cc)
JIS P−8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製)にて測定した。
【0035】
(3)シャットダウン温度、ショート温度
a.正極
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、正極の活物質塗布量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるようにする。
【0036】
b.負極の作成
負極活物質として人造グラファイト96.6質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、負極の活物質塗布量は106g/m、活物質嵩密度は1.35g/cmになるようにする。
c.非水電解液
プロピレンカーボネート:エチレンカーボネート:γ−ブチルラクトン=1:1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiBFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製する。
【0037】
d.評価
熱電対を繋いだセラミックスプレート上に、65mm×20mmに切り出し非水電解液に1分以上浸漬した負極を載せ、この上に中央部に直径16mmの穴をあけた50mm×50mmに切り出した厚さ9μmのアラミドフィルムを載せ、この上に40mm×40mmに切り出し非水電解液に1時間以上浸漬した試料の微多孔膜をアラミドフィルムの穴部を覆うように載せ、この上に65mm×20mmに切り出し非水電解液に1分以上浸漬した正極を負極に接触しないように載せ、その上にカプトンフィルム、更に厚さ約4mmのシリコンゴムを載せる。
これをホットプレート上にセットした後、油圧プレス機にて4.1MPaの圧力をかけた状態で、15℃/minの速度で昇温し、この際の正負極間のインピーダンス変化を交流1V、1kHzの条件下で200℃まで測定した。この測定において、インピーダンスが1000Ωに達した時点の温度をシャットダウン温度とし、孔閉塞状態に達した後、再びインピーダンスが1000Ωを下回った時点の温度をショート温度とした。
【0038】
(4)電池評価
a.正極
(3)のaで作製した正極を面積2.00cmの円形に打ち抜いた。
b.負極
(3)のbで作製した負極を面積2.05cmの円形に打ち抜いた。
c.非水電解液
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0ml/Lとなるように溶解させて調製した。
d.電池組立と評価
正極と負極の活物質面が対向するように、下から負極、セパレータ、正極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納する。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内に前記した非水電解液を注入して密閉する。
【0039】
上記のようにして組み立てた簡易電池を25℃雰囲気下、電流値3mA(約0.5C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計約6時間、電池作成後の最初の充電を行い、そして 電流値3mAで電池電圧3.0Vまで放電した。
次に、25℃雰囲気下、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値6mAで電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を1C放電容量(mAh)とした。
【0040】
次に、25℃雰囲気下、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値12mA(約2.0C)で電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を2C放電容量(mAh)とした。
1C放電容量に対する2C放電容量の割合を算出し、この値をレート特性とした。
レート特性(%)=2C放電容量/1C放電容量 ×100
さらに、60℃雰囲気下、電流値6mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値6mAで電池電圧3.0Vまで放電するというサイクルを繰り返した。
このサイクルにおける1サイクル目の放電容量に対する所定サイクル後の放電容量の割合(%)でサイクル特性を判断した。
【0041】
[実施例1]
粘度平均分子量(Mv)27万ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を30重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3重量部添加したものをヘンシェルミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100重量部)中に占める流動パラフィン量比が50重量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量12kg/hで行った。続いて、溶融混練物をTダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚み1000μmのシート状のポリオレフィン組成物を得た。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸を行った。この時同時二軸テンターの設定温度は123℃である。
この微多孔膜前駆体の表面に、ポリフッ化ビニリデン(呉羽化学製KFポリマーL#1120)10重量部とアルミナ粒子(平均粒径0.7μm)90重量部をN−メチルピロリドンに均一分散させた溶液を、バーコーターを用いて塗布した後、室温にて真空乾燥してN−メチルピロリドンを除去し、アルミナを主成分とする厚さ5μmの層を微多孔膜前駆体上に形成させた。この膜をステンレスの枠で四方を固定した状態で塩化メチレン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、総膜厚25μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度400秒/100cc、突刺強度5.0N、シャットダウン温度134℃、ショートは200℃でも観察されなかった。膜特性は表1に示した。
この多層多孔膜の電池評価を実施したところ、レート特性は80%以上を示し、また、50サイクル後の放電容量の割合は80%以上と良好であった。
【0042】
[実施例2]
実施例1において、アルミナ粒子の代わりにシリカ粒子(平均粒径0.2μm)を用いて、シリカを主成分とする厚さ3μmの層を膜上に形成させた以外は、実施例1と同様にして総膜厚23μmの積層多層膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度390秒/100cc、シャットダウン温度133℃、ショートは200℃でも観察されなかった。
【0043】
[実施例3]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を50重量部、無機充填材としてシリカ粒子を1.5重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部の割合で添加したものを、東洋精機製作所社製プラストミルを用いて、温度200℃、回転数50rpmに設定して5分間加熱混合した。溶融した混合物をプラストミルから取り出して冷却し、得られた固化物をポリイミドフィルムを介して金属板の間に挟み、200℃に設定した熱プレス機を用い10MPaで圧縮し、厚さ1000μmのシートを作成した。得られたシートを岩本製作所社製二軸延伸機を用いて123℃で縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸した。
この微多孔膜前駆体の表面に、ポリフッ化ビニリデン(呉羽化学製KFポリマーL#1120)10重量部とシリカ粒子(平均粒径0.2μm)90重量部をN−メチルピロリドンに均一分散させた溶液を、ドクターブレードを用いて塗布した後、室温にて真空乾燥してN−メチルピロリドンを除去し、シリカを主成分とする厚さ2μmの層を微多孔膜前駆体上に形成させた。この膜をステンレスの枠で四方を固定した状態で塩化メチレン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、総膜厚22μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度220秒/100cc、シャットダウン温度138℃、ショートは200℃でも観察されなかった。
【0044】
[実施例4]
粘度平均分子量(Mv)27万ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を30重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3重量部添加したものをヘンシェルミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100重量部)中に占める流動パラフィン量比が50重量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量12kg/hで行った。続いて、溶融混練物をTダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚み1000μmのシート状のポリオレフィン組成物を得た。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸を行い、微多孔膜前駆体を得た。なお、この時の同時二軸テンターの設定温度は123℃であった。
前記微多孔膜前駆体の表面にコロナ放電処理(放電量50W)を実施した後、当該処理面側に、アルミナ粒子(平均粒径0.7μm)95重量部、SBラテックス(最低成膜温度0℃以下)5重量部、ポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ製SNディスパーサント5468)1重量部、ポリオキシアルキレン系界面活性剤(サンノプコ製SNウェット980)1重量部をそれぞれ均一に分散させた水溶液を、バーコーターを用いて塗布した後、60℃にて乾燥して水を除去し、アルミナを主成分とする厚さ2μmの層を微多孔膜前駆体上に形成させた。この膜をステンレスの枠で四方を固定した状態で塩化メチレン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、総膜厚22μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度380秒/100cc、シャットダウン温度134℃、ショートは200℃でも観察されなかった。
【0045】
[実施例5]
粘度平均分子量(Mv)27万ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を30重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3重量部添加したものをヘンシェルミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100重量部)中に占める流動パラフィン量比が50重量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量12kg/hで行った。続いて、溶融混練物をTダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚み1000μmのシート状のポリオレフィン組成物を得た。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸を行い、微多孔膜前駆体を得た。なお、この時の同時二軸テンターの設定温度は123℃であった。
チタニア粒子(平均粒径0.4μm)90重量部、ポリビニルアルコール(平均重合度1700)10重量部をそれぞれ均一に分散させた水溶液を、前記微多孔膜前駆体の表面にグラビアコーターを用いて塗布した後、60℃にて乾燥して水を除去し、チタニアを主成分とする厚さ4μmの層を微多孔膜前駆体上に形成させた。この膜をステンレスの枠で四方を固定した状態で塩化メチレン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、総膜厚24μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度390秒/100cc、シャットダウン温度131℃、ショートは200℃でも観察されなかった。
【0046】
[実施例6]
粘度平均分子量(Mv)27万ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を30重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.3重量部添加したものをヘンシェルミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100重量部)中に占める流動パラフィン量比が50重量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量12kg/hで行った。続いて、溶融混練物をTダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚み1000μmのシート状のポリオレフィン組成物を得た。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸を行い、微多孔膜前駆体を得た。なお、この時の同時二軸テンターの設定温度は123℃であった。
アルミナ粒子(平均粒径0.7μm)80重量部、ポリビニルアルコール(平均重合度1700、ケン化度99%以上)20重量部をそれぞれ均一に分散させた水溶液を、前記微多孔膜前駆体の表面にグラビアコーターを用いて塗布した後、60℃にて乾燥して水を除去し、アルミナを主成分とする厚さ3μmの層を微多孔膜前駆体上に形成させた。この膜をステンレスの枠で四方を固定した状態で塩化メチレン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、総膜厚23μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度410秒/100cc、シャットダウン温度136℃、ショートは200℃でも観察されなかった。
【0047】
[実施例7]
粘度平均分子量(Mv)27万ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を30重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3重量部添加したものをヘンシェルミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100重量部)中に占める流動パラフィン量比が50重量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量12kg/hで行った。続いて、溶融混練物をTダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚み1000μmのシート状のポリオレフィン組成物を得た。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸を行い、微多孔膜前駆体を得た。なお、この時の同時二軸テンターの設定温度は123℃であった。
前記微多孔膜前駆体の表面に、アルミナ粒子(平均粒径0.7μm)50重量部、ポリフェニレンエーテル(2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.51のもの、ガラス転移温度209℃)50重量部をトルエンに均一分散させた溶液を、バーコーターを用いて塗布した後、60℃にて乾燥してトルエンを除去し、アルミナを主成分とする厚さ4μmの層を微多孔膜前駆体上に形成させた。この膜をステンレスの枠で四方を固定した状態でメチルエチルケトン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、総膜厚24μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度420秒/100cc、シャットダウン温度136℃、ショートは200℃でも観察されなかった。
【0048】
[実施例8]
粘度平均分子量(Mv)27万ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を30重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3重量部添加したものをヘンシェルミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100重量部)中に占める流動パラフィン量比が50重量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量12kg/hで行った。続いて、溶融混練物をTダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚み1000μmのシート状のポリオレフィン組成物を得た。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸を行い、微多孔膜前駆体を得た。なお、この時の同時二軸テンターの設定温度は123℃であった。
前記微多孔膜前駆体の表面に、アルミナ粒子(平均粒径0.2μm)60重量部、ポリスルホン(数平均分子量26,000、ガラス転移温度190℃)40重量部をN−メチルピロリドンに均一分散させた溶液を、バーコーターを用いて塗布した後、室温にて真空乾燥してN−メチルピロリドンを除去し、アルミナを主成分とする厚さ5μmの層を微多孔膜前駆体上に形成させた。この膜をステンレスの枠で四方を固定した状態でメチルエチルケトン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、総膜厚25μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度420秒/100cc、シャットダウン温度135℃、ショートは200℃でも観察されなかった。
【0049】
[実施例9]
粘度平均分子量(Mv)27万ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を30重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3重量部添加したものをヘンシェルミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100重量部)中に占める流動パラフィン量比が50重量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量12kg/hで行った。続いて、溶融混練物をTダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚み1000μmのシート状のポリオレフィン組成物を得た。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸を行い、微多孔膜前駆体を得た。なお、この時の同時二軸テンターの設定温度は123℃であった。
前記微多孔膜前駆体の表面にコロナ放電処理(放電量50W)を実施した後、当該処理面側に、ポリスルホン(数平均分子量26,000、ガラス転移温度190℃)50重量部、可塑剤としてポリエチレングリコール(数平均分子量35,000)50重量部をN−メチルピロリドンに均一分散させた溶液をバーコーターを用いて塗布し、それから水/エタノール溶液に浸漬させてポリスルホンを凝固させるとともにN−メチルピロリドンを除去し除去した後、60℃にて乾燥して水/エタノールを除去し、厚さ5μmのポリスルホン多孔層を微多孔膜前駆体上に形成させた。この膜をステンレスの枠で四方を固定した状態でメチルエチルケトン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、総膜厚25μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度450秒/100cc、シャットダウン温度138℃、ショートは200℃でも観察されなかった。
【0050】
[比較例1]
粘度平均分子量(Mv)27万ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を30重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3重量部添加したものをヘンシェルミキサーにて予備混合した。得られた混合物をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機フィード口へ供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100重量部)中に占める流動パラフィン量比が50重量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーへサイドフィードした。溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量12kg/hで行った。続いて、溶融混練物をTダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール間に押出し、厚み1000μmのシート状のポリオレフィン組成物を得た。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸を行った。この時同時二軸テンターの設定温度は123℃である。次にステンレスの枠で四方を固定した状態で塩化メチレン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、膜厚20μmの多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度370秒/100cc、シャットダウン温度133℃であったが、ショート温度は150℃と低かった。
この多層多孔膜の電池評価を実施したところ、レート特性は80%以上を示し、また、50サイクル後の放電容量の割合は80%以上と良好であった。
【0051】
[比較例2]
比較例1で得た多孔膜の表面に、ポリフッ化ビニリデン(呉羽化学製KFポリマーL#1120)10重量部とアルミナ粒子(平均粒径0.7μm)90重量部をN−メチルピロリドンに均一分散させた溶液を、ドクターブレードを用いて塗布した後、室温にて真空乾燥してN−メチルピロリドンを除去し、アルミナを主成分とする厚さ5μmの層を膜上に形成させ、総膜厚25μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、シャットダウン温度136℃、ショートは200℃でも観察されなかったが、透気度が1350秒/100ccと大きかった。
この多層多孔膜の電池評価を実施したところ、レート特性は50%以下と低く、また、50サイクル後の放電容量の割合は60%以下であった。
【0052】
[比較例3]
比較例2において、アルミナ粒子の代わりにシリカ粒子(平均粒径0.2μm)を用いて、シリカを主成分とする厚さ3μmの層を膜上に形成させた以外は、比較例2と同様にして総膜厚23μmの積層多層膜を得た。
得られた多層多孔膜は、シャットダウン温度136℃、ショートは200℃でも観察されなかったが、透気度が1410秒/100ccと大きかった。
【0053】
[比較例4]
粘度平均分子量(Mv)27万の高密度ポリエチレンを50重量部、可塑剤として流動パラフィン(LP)を50重量部、無機フィラーとしてシリカ粒子を1.5重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部の割合で添加したものを、東洋精機製作所社製プラストミルを用いて、温度200℃、回転数50rpmに設定して5分間加熱混合した。溶融した混合物をプラストミルから取り出して冷却し、得られた固化物をポリイミドフィルムを介して金属板の間に挟み、200℃に設定した熱プレス機を用い10MPaで圧縮し、厚さ1000μmのシートを作成した。得られたシートを岩本製作所社製二軸延伸機を用いて123℃で縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸した。次にステンレスの枠で四方を固定した状態で塩化メチレン中にて可塑剤を除去した後、室温で乾燥し、膜厚20μmの多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、透気度200秒/100cc、シャットダウン温度137℃だが、ショート温度は162℃と低かった。
【0054】
[比較例5]
比較例4で得た多孔膜の表面に、ポリフッ化ビニリデン(呉羽化学製KFポリマーL#1120)10重量部とシリカ粒子(平均粒径0.2μm)90重量部をN−メチルピロリドンに均一分散させた溶液を、ドクターブレードを用いて塗布した後、室温にて真空乾燥してN−メチルピロリドンを除去し、シリカを主成分とする厚さ2μmの層を膜上に形成させ、総膜厚22μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、シャットダウン温度141℃、ショートは200℃でも観察されなかったが、透気度が910秒/100ccと大きかった。
【0055】
[比較例6]
比較例1で得た多孔膜の表面に、チタニア粒子(平均粒径0.4μm)90重量部、ポリビニルアルコール(平均重合度1700)10重量部をそれぞれ均一に分散させた水溶液を、グラビアコーターを用いて塗布した後、60℃にて乾燥して水を除去し、チタニアを主成分とする厚さ4μmの層を膜上に形成させ、総膜厚24μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、シャットダウン温度135℃、ショートは200℃でも観察されなかったが、透気度が1820秒/100ccと大きかった。
【0056】
[比較例7]
比較例1で得た多孔膜の表面に、アルミナ粒子(平均粒径0.7μm)80重量部、ポリビニルアルコール(平均重合度1700)20重量部をそれぞれ均一に分散させた水溶液を、グラビアコーターを用いて塗布した後、60℃にて乾燥して水を除去し、アルミナを主成分とする厚さ3μmの層を膜上に形成させ、総膜厚23μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、シャットダウン温度141℃、ショートは200℃でも観察されなかったが、透気度が30000秒/100cc以上と大きかった。
【0057】
[比較例8]
比較例1で得た多孔膜の表面に、アルミナ粒子(平均粒径0.7μm)50重量部、ポリフェニレンエーテル(2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.51のもの、ガラス転移温度209℃)50重量部をトルエンに均一分散させた溶液を、バーコーターを用いて塗布した後、60℃にて乾燥してトルエンを除去し、アルミナを主成分とする厚さ4μmの層を膜上に形成させ、総膜厚24μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、シャットダウン温度が観測されず、しかも透気度が30000秒/100cc以上と大きかった。
【0058】
[比較例9]
比較例1で得た多孔膜の表面に、アルミナ粒子(平均粒径0.2μm)60重量部、ポリスルホン(数平均分子量26,000、ガラス転移温度190℃)40重量部をN−メチルピロリドンに均一分散させた溶液を、バーコーターを用いて塗布した後、室温にて真空乾燥してN−メチルピロリドンを除去し、アルミナを主成分とする厚さ5μmの層を膜上に形成させ、総膜厚25μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、シャットダウン温度が観測されず、しかも透気度が30000秒/100cc以上と大きかった。
【0059】
[比較例10]
比較例1で得た多孔膜の表面に、コロナ放電処理(放電量50W)を実施した後、当該処理面側に、ポリスルホン(数平均分子量26,000、ガラス転移温度190℃)50重量部、可塑剤としてポリエチレングリコール(数平均分子量35,000)50重量部をN−メチルピロリドンに均一分散させた溶液をバーコーターを用いて塗布し、それから水/エタノール溶液に浸漬させてポリスルホンを凝固させるとともにN−メチルピロリドンを除去した後、60℃にて乾燥して水/エタノールを除去し、厚さ5μmのポリスルホン多孔層を膜上に形成させ、総膜厚25μmの多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜は、シャットダウン温度が観測されず、しかも透気度が30000秒/100cc以上と大きかった。
以上の実施例、比較例における物性を表1および表2にまとめて示した。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の多層多孔膜は優れた耐熱性と透過性を示すため、安全性および信頼性に優れることが要求される非水電解液二次電池および電気二重層キャパシタ等の蓄電池用セパレータ等として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する厚さ0.2μm以上100μm以下の多孔層を備え、透気度が1〜650秒/100ccである多層多孔膜。
【請求項2】
前記多孔層が無機フィラーに加えてバインダー樹脂を含有する、請求項1に記載の多層多孔膜
【請求項3】
前記多孔層が、無機フィラー又は融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する溶液を塗布することによって形成されてなる、請求項1又は2に記載の多層多孔膜。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂多孔膜が無機充填材を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層多孔膜。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂と可塑剤とを含むシート状成形体の少なくとも片面に、無機フィラー含有樹脂溶液、又は融点および/またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂を含有する溶液を塗布した後、可塑剤を抽出する、多層多孔膜の製造方法。
【請求項6】
前記シート状成形体が、更に無機充填材を含有する、請求項5に記載の多層多孔膜の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の製造方法を用いて作製された多層多孔膜。
【請求項8】
請求項1〜4、および7のいずれか1項に記載の多層多孔膜を用いた非水電解液電池用セパレータ。
【請求項9】
請求項8に記載の電池用セパレータを用いた非水電解液電池。

【公開番号】特開2007−273443(P2007−273443A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344480(P2006−344480)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】