説明

多層弾性ベルト

【課題】本発明は、中間転写ベルトに要求される可撓性、すなわちMIT耐久回数に代表される屈曲耐久性に優れ、画像中抜けがなく細線印字が鮮明な一次転写特性、紙の凹凸追従性などが良好な二次転写特性を有し、さらに、表面層の摩擦耐久性にも優れている電子写真装置用多層弾性ベルトを提供することを目的とする。
【解決手段】表面側から順に、離型性材料を含む表面層、弾性ゴム材料を含む弾性層、及び高強度樹脂材料を含む基材層の少なくとも三層からなる電子写真装置用多層弾性ベルトであって、表面側から測定したダイナミック微小硬度測定(ISO 14577−1)結果から算出されるヒステリシス損失が20%以上である電子写真装置用多層弾性ベルトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル印刷機、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真方式を用いた画像形成装置に使用される多層弾性ベルトに関する。具体的には、感光体上に形成された静電潜像上の乾式粉体あるいは湿式液体のトナー像を紙等の記録材へ転写するために使用する中間転写ベルト、転写搬送ベルト、紙搬送ベルト等の電子写真装置用多層弾性ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置に用いられる中間転写ベルトや転写搬送ベルトとしては、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアルキレンフタレート、PC/ポリアルキレンフタレート(PAT)のブレンド材料、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等の熱可塑性樹脂からなる半導電性の無端ベルト等が一般に用いられている。
【0003】
また、機械的特性及び熱特性等に優れたポリイミド樹脂を主成分とし、カーボンブラックを導電性微粉末として分散させた中間転写ベルトが提案されている(例えば、特許文献1参照)。近年、高速のフルカラー画像形成装置などには、感光体を複数個並べたタンデム方式が用いられることが多く、その中間転写ベルトには、カラーレジ防止のために高弾性率の材料を用いることが必要であり、その点においても、ポリイミド樹脂は非常に優れている。しかしながら、高弾性率のポリイミド樹脂は、一般的に脆性が大きく、可撓性に乏しいため、画像形成装置内の中間転写ベルトや転写搬送ベルト等として使用した場合に、ベルト取り付け時に割れが発生したり、走行中の蛇行による割れが発生したりすることがあった。また、潜像担持体と転写ロール間のニップ追従性が損なわれることによる転写不良が発生する場合もあった。
【0004】
これらのポリイミド樹脂の性質に起因する問題点を解消する方法について、種々研究がなされており、例えば、ベルト内部の残留溶媒量を制御することで高弾性率と可撓性とを兼ね備えたポリイミド樹脂無端ベルトが得られることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、ポリイミド樹脂中に残留する溶媒は、使用時における中間転写ベルトの抵抗低下を引き起こす原因になる。さらに、肝心な可撓性についても十分なものではなかった。
【0005】
一方、本発明者らは転写ベルトの高画質化へ対応するために、弾性層を有する多層構成の中間転写ベルトを提案している(例えば、特許文献3、4参照)。このような弾性層を設けた中間転写ベルトは柔軟性に優れるため、一次転写時に中間転写ベルトと接する感光体等との転写領域を容易に安定して形成できると同時に、感光体等との間でトナーに加えられる圧縮応力が軽減され、画像の中抜け不具合の対策や細線印字の鮮明度向上に役立つ。また、弾性を持たない中間転写ベルトでは、表面凹凸が大きい記録媒体を使用した場合に、二次転写時に凹部での画像抜けが発生するという問題があったが、前記弾性層を有する多層構成の中間転写ベルトでは、そういった問題の改善にも大きな効果を発揮する。
【0006】
また、こういった高画質対応の中間転写ベルトは、ベルトの厚み方向にゴム弾性を付与する一方、転写ベルトに必要なトナー離型性も重要な要素として要求される。すなわち、中間転写ベルト表面から紙等の媒体へトナーを移し替えるうえで、トナーに対する離型性が必要となる。従って、トナーに対して粘着性をもつゴム弾性層が中間転写ベルトの表面に露出することは好ましくない。そのため、通常はゴム弾性層上に摩擦係数が低く、トナー離型性に優れた樹脂製の表面層を設ける(例えば、図1を参照)。このような表面層の厚みは、高画質の画像を得るためにはできるだけ薄くすることが有効であることが知られており、表面層が薄い中間転写ベルトが種々検討されている。
【0007】
しかしながら、画像形成装置用の中間転写ベルトは、紙やクリーニングブレード、ロール等のベルト表面に接触する摺動部材等から外力を受けるため、表面層が薄膜である場合、ベルトにかかる応力は薄膜の表面層に集中して、表面層が磨耗してワレや剥離が発生するという問題点があった。また、この問題点を解消するためにベルト全体の硬度を上昇させた場合、磨耗耐久性は優れるものの、軟らかさによる転写効率向上効果が十分でなくなるため画質低下を引き起こすという問題があった。
【0008】
このように、表面層が薄膜である中間転写ベルトにおいて、高品質の画像を維持したまま、外部摩擦等に対する耐久性が優れるベルトとすることは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3116143号明細書
【特許文献2】特許第4241543号明細書
【特許文献3】特開2007−240939号公報
【特許文献4】特開2009−015006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、中間転写ベルトに要求される可撓性、すなわちMIT耐久回数に代表される屈曲耐久性に優れ、画像中抜けがなく細線印字が鮮明な一次転写特性、紙の凹凸追従性などが良好な二次転写特性を有し、さらに、表面層の摩擦耐久性にも優れている電子写真装置用多層弾性ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、外部圧力に対しての耐久性という意味においては、ベルトの屈曲耐久を向上させることと、表面の摩擦耐久性を向上することは、同じ対処方法で解決できることを見出した。すなわち、ベルトの屈曲耐久は、脆性の大きいポリイミドなどの高強度樹脂材料からなる基材層が割れようとするのに対しそれを覆う弾性層をどれだけ追従させるか、によるものであり、表面の摩擦耐久性は、クリーニングブレードなどに表面層が押し付けられた状態でその下層のゴムがどれだけ表面層に追従した変形をするか、によるものである。従って、基材層や表面層の動きに対し、そこにかかる応力を分散せしめる物性を持ったゴムを弾性層に採用することで、ベルトの耐久性と表面の摩擦耐久性の両方を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は下記の弾性ベルトを提供する。
項1.表面側から順に、離型性材料を含む表面層、弾性ゴム材料を含む弾性層、及び高強度樹脂材料を含む基材層の少なくとも三層からなる電子写真装置用多層弾性ベルトであって、
表面側から測定したダイナミック微小硬度測定(ISO 14577−1)結果から算出されるヒステリシス損失が20%以上である電子写真装置用多層弾性ベルト。
項2.前記表面層のヤング率が2,000MPa以下であり、かつ表面層の厚みが5μm以下である上記項1に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項3.前記離型性材料が、フッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムである上記項1又は2に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項4.前記弾性層を構成する材料の硬度が、タイプA硬度で20°以上である上記項1〜3のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項5.前記弾性ゴム材料がポリウレタンエラストマー材料であり、該ポリウレタンエラストマー材料単独の硬化物のヒステリシス損失が20%以上である上記項1〜4のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
項6.前記高強度樹脂材料が、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、PVdF、ポリアミド及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つの材料である上記項1〜5のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多層弾性ベルトは、外力に対して反発性が少ない弾性層を中間層として設けることにより、隣接する層の動きに該弾性層が反発せずに追従するため、割れ易い基材層や磨耗し易い表面層への応力集中が避けられ、ベルトの屈曲耐久を向上させることと表面の摩擦耐久性を向上することを同時に達成できる。具体的には、多層弾性ベルトの表面側から測定したヒステリシス損失を20%以上にすることで、中間転写ベルトに要求される可撓性、すなわちMIT耐久回数に代表される屈曲耐久性に優れ、画像中抜けがなく細線印字が鮮明な一次転写特性、紙への凹凸追従性が良好な二次転写特性などを有し、さらに、表面層の摩擦耐久性にも優れている多層弾性ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の3層の弾性ベルトの断面模式図である。
【図2】実施例におけるベルト表面からのヒステリシス損失測定方法である。
【図3】実施例における各層の製膜に用いた装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
1.表面層の形成
本発明の多層弾性ベルトにおける表面層は、直接トナーを乗せ、重ね合わせた4色のトナーを紙へ転写、離型するための層である。
【0017】
表面層は、トナーを離型しやすくする観点から、離型性材料を含む表面層形成用組成物により形成されることが好ましく、離型性材料としては、フッ素樹脂又はフッ素ゴムが挙げられる。
【0018】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド共重合体(THV)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ビニリデンフロライド(VdF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(VdF−HFP共重合体)、又はそれらの混合物が挙げられる。なお、VdF−HFP共重合体のHFPの割合は、1〜15モル%程度が好ましい。
【0019】
フッ素ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン−パープルオロビニルエーテル系ゴム(FFKM)等を挙げることができる。これらの中でも、FKMが種類も多く入手性の面からも好ましい。
【0020】
フッ素樹脂単独で表面層を形成した場合、弾性層を構成するゴムとの接着が困難となる傾向がある。従って、フッ素樹脂単独で表面層を形成する場合には、弾性層と接着する前に該弾性層との被接着面を表面処理することが好ましい。
【0021】
表面処理方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、金属ナトリウム溶液等による化学的な表面処理や、プラズマやコロナ放電等による物理的な表面処理を挙げることができる。
【0022】
前記フッ素樹脂の中でも、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド共重合体(THV)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ビニリデンフロライド(VdF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(VdF-HFP共重合体)、又はこれらの混合物は、被接着面の表面エネルギーを比較的大きくすることができ、弾性層を構成するゴムとの接着が容易となるため、バインダーなしでも使用することができる。その場合、プライマーを用いるなどして接着力を向上しても良い。
【0023】
また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の上記以外のフッ素樹脂においては、バインダーを用いることが好ましい。具体的には、例えば、ウレタン樹脂やアクリル樹脂等のバインダーにフッ素樹脂をあらかじめ分散させたものを用いて表面層を形成する方法が挙げられる。
【0024】
フッ素樹脂やフッ素ゴムの材料に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒粉体を添加しても良い。この場合、PTFE微粒粉体は原料溶液に直接分散しても良く、又は、あらかじめ溶剤等で希釈したPTFE微粒粉体分散液を使用して、原料溶液に添加することもできる。
【0025】
PTFE微粒粉体の添加量は、表面層形成用組成物のフッ素系原料重量に対して20重量%以下程度であることが好ましく、10重量%以下程度であることがより好ましい。
【0026】
また、表面層には層状粘土鉱物を添加してもよく、層状粘土鉱物としては、例えば、スメクタイト、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0027】
また、これら層状粘土鉱物は、天然物でも合成品でもよい。例えば、合成モンモリロナイトとして、クニミネ工業(株)製のクニピアF等;合成ヘクトライトとして、ラポート社のラポナイトXLG、ラポナイトRD、コープケミカル(株)製のルーセンタイトSTN等;合成サポナイトとして、クニミネ工業(株)製のスメクトンSA等が挙げられ、これらは商業的に入手することが可能である。
【0028】
上記層状粘土鉱物を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
層状粘土鉱物の配合割合は、表面層の総重量に対して、0.1〜5重量%であることが好ましく、0.5〜3重量%がより好ましい。このような割合で層状粘土鉱物を配合することによって、転写ベルトの表面層を薄膜化してもピンホールの発生が少なく優れたラフ紙転写性能と耐久性を実現することができる。
【0030】
ここで、優れたラフ紙転写性能とは、ボンド紙等の凹凸の激しい紙を用いてシアン単色のベタ印刷を行って、最深部(凹部)のトナーの乗りを目視で判断した場合に、白抜け等がなく、ムラなく転写されていることを指す。
【0031】
表面層の体積抵抗率は、通常1012Ω・cm以上であることが好ましく、1012〜1015Ω・cmがより好ましい。
【0032】
ここで、表面層の体積抵抗率とは、表面層を形成する表面層形成用組成物を用いて、本発明の多層弾性ベルトにおける表面層作製条件と同一条件で作製した厚さ約10μmの表面層を用いて測定した値である。
【0033】
また、カーボンブラック等の導電剤を添加することで半導電性の制御は可能であるが、その効果は限定的で均一分散が難しい等のデメリットもあるため、表面層には導電剤を含まなくても良い。かかる表面層は、環境(温度、湿度等)の変化により導電性が左右されないため、安定したトナーの一次及び二次転写が可能となり、高画質化が実現できる。
【0034】
表面層の厚みは、5μm以下が好ましく、1〜3μmがより好ましい。厚みが厚すぎると弾性層のゴム弾性を損なうことになるため好ましくなく、また、厚みが薄すぎると表面層に穴があきやすい等の耐久性に問題が生じる傾向がある。
【0035】
表面層のヤング率は、2,000MPa以下が好ましく、1,200MPa以下がより好ましい。ヤング率が2,000MPa以下になることで、トナーへの応力集中による細線印字時のトナー中抜けを防止することができるため好ましい。逆にヤング率が2,000MPaを超えるとたとえ表面層の下地である中間層を構成するゴム硬度を柔らかくしても、表面層の剛性によってトナーの応力集中を避けられず、細線の中抜けが発生してしまう傾向がある。一方表面層のヤング率に下限値は特に限定されるものではないが、ヤング率が極端に低い場合、下地の中間層を構成するゴム硬度を柔らかくすると表面層の摩擦係数が上昇するので二次転写効率の悪化を招く恐れがある。そういった場合においては、ヤング率を300MPa以上にすることで、表面層の摩擦係数上昇を抑えられ、二次転写効率の悪化を防止できるため好ましい。
【0036】
ここで、表面層のヤング率とは、表面層を形成する表面層形成用組成物を用いて、本発明の多層弾性ベルトにおける表面層作製条件と同一条件で作製した厚さ約10μmの表面層を用いて測定した値である。
【0037】
表面層の製膜について、フッ素樹脂を遠心成型する場合を例とし、以下説明する。
【0038】
まず、出来上がりの表面層の厚みが1〜5μmの間で目的の厚みとなるようにフッ素樹脂等の重量を調整する。秤量されたフッ素樹脂、及び任意で添加する層状粘土鉱物を溶媒中に溶解又は膨潤させて得られる表面層形成用組成物を、円筒状金型の内面にキャストし遠心成型する。
【0039】
用いる溶媒としては、水;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;或いはこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0040】
該表面層形成用組成物の固形分濃度は、1〜30重量%程度であればよい。
【0041】
表面層の遠心成型は、例えば、円筒状金型等を用いて次のようにして実施できる。
【0042】
停止している円筒状金型に、最終厚さを得るに相当する量の表面層形成用組成物を注入した後、遠心力が働く速度にまで徐々に回転速度を上げて、表面層形成用組成物を遠心力で金型内面全体に均一に流延する。
【0043】
円筒状金型はその内面が鏡面、具体的には表面粗さ(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が1μmRz以下であり、この金型の内面状態が無端多層弾性ベルトの表面層外面に転写される。また、ベルト表面層に所望の凹凸を持たせるよう調節する目的で、金型内面にブラスト処理を施すこともできる。
【0044】
さらに円筒状金型内面には離型剤を塗布して、表面層形成用組成物の硬化後の膜(表面層)がきれいに金型内面から離型できるようにされている。離型剤としては、フッ素系離型剤、シリコーン系離型剤、セミパーマネント系離型剤などが用いられる。
【0045】
円筒状金型は回転ローラー上に載置し、該ローラーの回転により間接的に回転が行われる。また金型の大きさは、所望する表面層の大きさ、すなわち多層弾性ベルトの外径に応じて適宜選択できる。
【0046】
加熱は、該金型の周囲に、例えば遠赤外線ヒータ等の熱源が配置され、外側からの間接加熱が行われる。通常、室温から120〜200℃程度まで徐々に昇温し、昇温後の温度で0.5〜2時間程度加熱すればよい。これにより、円筒状金型内面に注入された表面層形成用組成物は硬化し、円筒状金型内面に継目のない(シームレス)管状の表面層が製膜できる。
【0047】
2.弾性層の形成
ゴム弾性層は、弾性ゴム材料を含む弾性層形成用組成物によって形成することができる。
【0048】
弾性ゴム材料としては、具体的には、液状ウレタンゴムなどの硬化物を挙げることができ、液状ウレタンゴムとしては、熱硬化性ポリウレタンエラストマーが挙げられる。
【0049】
この液状ウレタンゴムは、一般的には、ポリオールとジイソシアネートの重付加反応により得ることができる。
【0050】
本発明の多層弾性ベルトにおける弾性層は、多層弾性ベルトでの表面側から測定したヒステリシス損失を20%以上となるように、外力に対して反発性を大きく示さない層とすることが重要である。
【0051】
弾性層を外力に対して反発性を大きく示さない層とすることで、弾性層が隣接する基材層や表面層の動きに反発せずに追従することができるため、割れ易い基材層や磨耗し易い表面層への応力集中が避けられ、ベルトの屈曲耐久を向上させることと表面の摩擦耐久性を向上することを同時に達成することができるものである。
【0052】
弾性層を外力に対して反発性を大きく示さない層とする方法としては、弾性層を構成する弾性ゴム材料のヒステリシスを制御する方法を挙げることができる。具体的には、弾性層を構成する弾性ゴム材料のヒステリシス損失を20%以上とすることが好ましく、25%以上とすることがより好ましく、30%以上とすることがさらに好ましい。弾性ゴム材料のヒステリシス損失を前述の範囲にすることで、多層弾性ベルトの表面側から測定したヒステリシス損失を確実に20%以上にすることができる。また、弾性ゴム材料のヒステリシス損失の上限は特に規定しないが、70%を超えるとゴム弾性が得られづらくなりクリープ性や圧縮永久歪みが大きくなる傾向にあるので、中間転写ベルトなどに用いた場合レジスト性などの機能に影響する恐れがある。従って、弾性ゴム材料のヒステリシス損失は、70%以下であることが好ましい。
【0053】
また、本発明における弾性ゴム材料のヒステリシス損失は、JIS K7312に従って測定したものであり、試験は引張法、圧縮法のどちらで行ってもよい。
【0054】
ゴム材料のヒステリシスを制御する方法としては、以下の方法が挙げられる。
【0055】
(1)液状ウレタンゴムを形成するポリオールの平均分子量を小さくする方法
ポリオールの平均分子量が小さいものを用いることでヒステリシス損失が大きくなる。
ポリオールの平均分子量としては、重量平均分子量で500〜5,000程度であることが好ましく、500〜3,500程度であることがより好ましい。
このような液状ウレタンゴムとしては、旭硝子(株)製エクセノール等を挙げることができる。
【0056】
(2)ポリマー鎖間の化学結合である架橋密度を制御する方法
架橋密度を低くすることで、ヒステリシス損失を大きくすることができる。架橋密度を制御する具体的な方法としては、材料設計による方法、官能基の少ない硬化剤を用いる方法、硬化時の加工温度を変える方法、硬化剤の配合量を制御する方法等を挙げることができ、これらの方法を単独で採用することも、組み合わせて採用することもできる。
【0057】
(材料設計による方法)
材料設計による方法とは、具体的には、架橋時に反応点となるイソシアネート基の数が少なくなるように弾性ゴム材料(液状ウレタンゴム)の材料設計をすることで、弾性ゴム材料(液状ウレタンゴム)の架橋密度を減少することができる。
【0058】
前述の如く液状ウレタンゴムは、ポリオールとジイソシアネートの重付加反応により得ることができる。原料であるポリオールとジイソシアネートの混合比は、ポリオールの活性水素1当量に対しジイソシアネートのNCO基が1〜1.2当量程度となるように混合するのが標準設計とされるが、NCO基を0.8〜1当量程度(好ましくは、0.8〜0.98当量程度)にすることによってヒステリシス損失を大きくすることができる。なお、NCO基を0.8当量未満にしてしまうと圧縮永久歪みやクリープなどのゴム物性が悪くなるため、転写ベルト等の使用条件によっては適さない。
【0059】
(官能基の少ない硬化剤を用いる方法)
官能基の少ない硬化剤を選択することで架橋密度を低くすることが出来るため、ヒステリシス損失を大きくすることができる。
【0060】
硬化剤の官能基数としては、例えば、1分子中2〜4であることが好ましく、2〜3であることがより好ましい。
【0061】
官能基の少ない硬化剤としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミンなどの多価アルコール系硬化剤;ジフェニルメタンジアミン、m−フェニレンジアミン、アルカノールアミン類(エタノールアミン、ジエタノールアミンなど)などのアミン系硬化剤等を挙げることができる。これらの中でも、アミン系硬化剤が好ましい。
【0062】
また、具体的には、旭化成ケミカルズ(株)製のデュラネート、三井化学ポリウレタン(株)製のタケラック、DIC(株)製のパンデックスEやCLH、日本ポリウレタン工業(株)製ミリオネートやコロネート等を挙げることができる。
【0063】
(硬化時の加工温度を変える方法)
液状ウレタンゴムの硬化温度を低くすることで、架橋密度を低くすることができ、その結果、弾性ゴム材料のヒステリシス損失が大きくなる。
【0064】
硬化温度としては、80〜140℃が好ましく、80〜135℃であることがより好ましい。
【0065】
(硬化剤の配合量を制御する方法)
液状ウレタンゴムの硬化剤の配合量を少なくすることで、架橋密度を低くすることができ、その結果、弾性ゴム材料のヒステリシス損失が大きくなる。
【0066】
硬化剤の添加量としては、液状ウレタンゴムの活性水素1当量に対し硬化剤の活性基(例えば、NCO基)が0.8〜1.0当量程度であることが好ましく、0.8〜0.98当量程度がより好ましい。
【0067】
本発明においては、少なくとも上記方法のうち一つを採用することにより、弾性層を構成する弾性ゴム材料のヒステリシス損失を20%以上とすることができる。ヒステリシス損失が20%以上である弾性ゴム材料を用いることで、外力に対して反発性を大きく示さない弾性層とすることができ、その結果、多層弾性ベルトでの表面側から測定したヒステリシス損失を確実に20%以上とすることができるものである。
【0068】
弾性ゴム材料(液状ウレタンゴム)の硬度としては、その硬化物のタイプA硬さ(JIS K6253)が20〜70°であることが好ましく、35〜55°であることがより好ましい。硬さが20°未満のものでは、ヒステリシス損失は大きく出来るものの、圧縮永久歪みや引張強度が悪くなるため、転写ベルトなどの用途には不向きとなる場合がある。
【0069】
また液状ウレタンゴムは、主鎖がエステル結合のポリエステル系ウレタンゴム(AU)、主鎖がエーテル結合のポリエーテル系ウレタンゴム(EU)のどちらでも良い。具体的には、DIC(株)製のパンデックスやウレハイパー、三井化学ポリウレタン(株)製のタケネート等が例示される。
【0070】
特に熱硬化性ポリウレタンエラストマーを用いる場合は、末端のイソシアネート基をブロック化剤でブロックしてなる液状ブロック化ウレタンプレポリマーを主成分とすることで、硬化剤を加えても一定温度に達しないと硬化を抑制できるようになり加工上好ましくすることができる。
【0071】
通常、液状ウレタンゴムの種類の中には、抵抗調整をせずとも体積固有抵抗率が10〜1011Ω・cm程度の極性を持ったものもあり、電子写真用ベルトに求められる半導電性が得られる。しかしながら、ゴム本来のイオン導電性は温湿度環境依存性が大きい場合が多く、温湿度環境が大きく変化することでイオン導電性も大きく変動する場合が多い。
【0072】
このような問題があるため、体積固有抵抗率が1013Ω・cm以上の抵抗調整をしていないウレタンゴムに、電気的特性の環境変動依存性が低い導電剤を添加することで抵抗調整して用いることが好ましい。
【0073】
この電気的特性の環境変動依存性が低い導電剤としては、例えば、カーボンブラックやリチウムイオン塩を挙げることができる。
【0074】
カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の導電性カーボンブラックを挙げることができる。
【0075】
カーボンブラックの配合量は、弾性ゴム材料(液状ウレタンゴム)100重量部に対し、5〜40重量部が好ましく、10〜30重量部がより好ましく、10〜25重量部がさらに好ましい。
【0076】
この様にカーボンブラックをウレタンゴムに添加することで、弾性層に体積抵抗率10〜1013Ω・cm程度(好ましくは10〜1012Ω・cm程度)の半導電性が付与することができ、多種多様な抵抗値要求に対し目的に合った的確な半導電性が得られるため好ましい。また、得られるベルトはカーボンブラックによる電子伝導性であるため、温度、湿度等の外部環境にほとんど影響を受けない安定した半導電性を示すことになる。
【0077】
リチウムイオン塩を用いたイオン導電剤としては、例えば、リチウムビスイミド(CFSONLi、リチウムトリスメチド(CFSOCLiが挙げられる。具体例としては、例えば、三光化学工業(株)製サンコノール等がある。
【0078】
一般的によく用いられるイオン導電剤では、その導電性が吸湿により発現すると考えられており、これがイオン導電の環境依存性の原因となる。しかしながら、リチウムイオン塩を用いたイオン導電材では、リチウムイオンが酸素の分子運動によって移動することで導電性を発現すると考えられており、環境依存性が小さく、転写ベルトの弾性層構成ゴムに対しても好適に用いられる。
【0079】
イオン導電剤を添加する場合、その添加量は弾性ゴム材料(液状ウレタンゴム)100重量部に対して、3.0重量部程度以下であることが好ましい。また、下限値は特に限定されないが、0.1重量部以上であることが好ましい。
【0080】
こうしていずれかの方法によって抵抗調整させた弾性ゴム材料(液状ウレタン)を含む弾性層形成用組成物は、金型の内側に製膜された表面層の内面に投入され、遠心成型される。弾性層形成用組成物の粘度が遠心成型をする際に高すぎた場合、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤やトルエン、キシレン等の溶剤で適宜希釈しても良い。
【0081】
遠心成型の方法は、例えば、前述の表面層の成型設備と同じものを用いることができる。
【0082】
成型温度は室温から徐々に加熱し、ウレタンゴムの耐熱限界以下の温度帯である110〜160℃程度にまで上げられ、その状態で0.5〜3時間程度保持されて硬化を完了する。
【0083】
表面層と弾性層の間に接着性を向上させる目的で、表面層側にプライマーをスプレー等で塗っておく方法や液状ウレタン材料中にシランカップリング剤を添加する方法、その両方を行う方法などを取っても良い。
【0084】
弾性層の体積抵抗率は、ベルトとしてトナーを電気的な制御によって受け渡しを行なう点から、通常10〜1013Ω・cm程度、好ましくは10〜1012Ω・cm程度である。
【0085】
弾性層の厚さは、ベルト表面の柔軟性と、使用時の画像ズレ防止を考慮して、通常、50〜400μm、好ましくは120〜300μmである。
【0086】
3.基材層の形成
本発明の多層弾性ベルトにおける基材層は、駆動時にベルトにかかる応力でベルトが変形しないようにするための層である。そのため基材層には機械物性強度が要求される。
【0087】
基材層は、高強度樹脂材料を含む基材層形成用組成物からなることが機械物性強度の点から好ましく、高強度樹脂材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド等を挙げることができる。また、基材層を形成する樹脂として、ポリカーボネート、PVdF、ポリアミド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等も用いることができる。
【0088】
ポリイミドは、通常、モノマー成分としてテトラカルボン酸二無水物とジアミン又はジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造される。
【0089】
テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、2,3,5,6−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2′,3,3′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、アゾベンゼン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、β,β−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の二無水物が挙げられる。
【0090】
ジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4′−ジアミノビフェニル、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノアゾベンゼン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、β,β−ビス(4−アミノフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0091】
ジイソシアネートとしては、上記したジアミン成分におけるアミノ基がイソシアネート基に置換した化合物等が挙げられる。
【0092】
ポリアミドイミドは、トリメリット酸とジアミン又はジイソシアネートとを、公知の方法により縮重合して製造される。この場合、ジアミン又はジイソシアネートとしては、上記のポリイミドの原料と同じものを挙げることができる。
【0093】
基材層の厚さは、駆動時にベルトにかかる応力と柔軟性を考慮して、通常、30〜120μmであり、好ましくは50〜100μmである。
【0094】
基材層には、必要に応じて導電剤を含んでいても良い。
【0095】
導電剤としては、上記弾性層で挙げたカーボンブラック等を用いることができる。
【0096】
基材層に導電剤を含む場合、その使用量は、通常、基材層を形成する樹脂100重量部に対して5〜30重量部程度であればよい。これにより基材層に、中間転写ベルトに適した抵抗率を持たせることができる。
【0097】
基材層の体積抵抗率は、ベルト基材としてトナーを電気的な制御によって受け渡しを行なう点から、通常10〜1012.5Ω・cm程度が好ましく、10〜1012.5Ω・cm程度がより好ましい。
【0098】
本発明の多層弾性ベルトにおける基材層の製膜方法について、基材層を形成する樹脂としてポリイミドを用いた場合を例として、以下に説明する。
【0099】
上記したポリイミドの原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中で反応させて、一旦ポリアミック酸溶液とする。このポリアミック酸溶液の固形分濃度は、10〜40重量%程度であればよい。
【0100】
溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と呼ぶ。)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の非プロトン系有機極性溶媒が使用される。これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。特に、NMPが好ましい。
【0101】
基材層に所望の半導電性を付与するために、前述の通り必要に応じ基材層を形成する樹脂100重量部に対して、5〜30重量部程度のカーボンブラック等の導電剤をポリアミック酸溶液に添加しても良い。この場合、ボールミルにてカーボンブラックの均一分散を行う。これにより、ポリアミック酸及び必要に応じ導電剤を含む基材層形成用組成物を得る。
【0102】
得られた基材層形成用組成物を、表面層・弾性層と同じように円筒状金型等を用いた遠心成型を行う。但し、この場合の金型内面は鏡面仕上げでも良いが、ゴム材料からなる弾性層との接着面積を増やす手法としてブラスト等による凹凸を有していてもよい。
【0103】
加熱は、金型内面を徐々に昇温し100〜190℃程度、好ましくは110〜130℃程度に到達せしめる(第1加熱段階)。昇温速度は、例えば、1〜2℃/分程度であればよい。上記の温度で20分〜3時間維持し、およそ半分以上の溶剤を揮発させて自己支持性のあるベルトを成型する。
【0104】
次に、第2段階加熱として、温度280〜400℃程度(好ましくは300〜380℃程度)で処理してイミド化を完結させる。この場合も、第1段階加熱温度から一挙にこの温度に到達するのではなく、徐々に昇温して、その温度に達するようにするのが良い。なお、第2段階加熱は、無端ベルトを円筒状金型の内面に付着したまま行っても良いし、第1加熱段階終了後、金型から無端ベルトを剥離し、取り出して別途イミド化のための加熱手段に供して、280〜400℃に加熱してもよい。このイミド化の所要時間は、通常約20分〜3時間程度である。
【0105】
このように、遠心成型を用いて製膜する基材層は、原料の縮み率や耐熱温度といった観点から前述の表面層、弾性層の製膜に用いた円筒状金型とは内径寸法が異なる基材層製膜専用金型を用いることが好ましい。
【0106】
基材層を形成する樹脂として、ポリアミドイミドを用いる場合も同様にして、ジアミン或いはジアミンから誘導されたジイソシアネートと、トリメリット酸とを溶媒中で反応させて直接ポリアミドイミドとし、これを遠心成型して、継目のない(シームレス)ポリアミドイミドの基材層を製膜できる。ポリアミドイミドを用いる場合にも、必要に応じて、カーボンブラック等の導電剤を添加することができ、その添加量は前述のポリイミドの場合と同様である。
【0107】
このようにして遠心成型により得られる基材層のヤング率は、2,500MPa以上であることが好ましく、3,500MPa以上であることがより好ましい。また、上限値は特に限定されるものではないが、8,000MPa以下程度であることが好ましい。
【0108】
基材層の材料として、ポリカーボネート、PVdF、ポリアミド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を用いる場合は、これらの樹脂を溶融して押出成型することによりシームレスの基材層を製膜できる。この場合も、必要に応じて、カーボンブラック等の導電剤を添加することができ、その添加量は前述のポリイミドの場合と同様である。
【0109】
前述のように押出成型によりシームレスベルトを得る場合、基材としての性能を保持するため、ヤング率1,000MPa以上、好ましくは1,500MPa以上の材料を選択することが好ましい。
【0110】
上記のようにして、継目のない高い強度を有する基材層を得ることができる。
【0111】
4.多層弾性ベルトの形成(3層化)
前述の「2」及び「3」において別々に製膜した層同士、すなわち、一体化されている表面層及び弾性層の二層からなる第1ベルトと、基材層からなる第2ベルトとを、該第1ベルトの内面(弾性層側の面)と該第2ベルトの外面とが接触するように重ね合わせる。
【0112】
両者の間には、必要に応じて接着剤やプライマーを塗布してもよい。
【0113】
両者の重ね合わせ後は、両者の間が密閉状態となるようにすることが好ましい。その後、積層体を加熱処理することにより、弾性層の内面と基材層の外面とが接着された無端の3層の弾性ベルトを得る。
【0114】
上記3層化工程の詳細について、具体例を挙げて説明する。
【0115】
円筒金型内面で規制された状態で製膜された表面層及び弾性層からなる二層膜(第1ベルト)の内面(弾性層側の面)に、ラミネート接着剤を均一塗布して風乾する。
【0116】
別の専用円筒金型で製膜した基材層の外面にもプライマーを塗布して風乾した後、これを該弾性層内面に重ね合わせ、位置がずれないよう基材層内面に密着する内金型を挿入する。
【0117】
その後100℃程度で20〜60分程度加熱処理し、接着剤の硬化と同時に層間接着が完了する。必要に応じ、脱型後の3層ベルトをさらに120℃程度で3〜5時間程度加熱処理することにより、アニール処理を施しても良い。こうして、本発明の多層弾性ベルトを得る。
【0118】
ラミネート接着剤としては、三井化学ポリウレタン(株)製タケラックA−969やDIC(株)製タイフォースNT−810が例示される。なお、上記のプライマーの使用は任意であるが、接着強度向上の点から使用することが好ましい。プライマーとしては、例えば、東レ・ダウコーニング(株)製のDY39−067等が例示される。
【0119】
前述の例においては、3層からなる本発明の多層弾性ベルトについてのみ説明したが、本発明においては、上記基材層、弾性層、表面層以外の層を含むことができる。また、基材層、弾性層、表面層を、それぞれ2層以上設けることもできる。
【0120】
上記のように完成された本発明の多層弾性ベルトは、表面側から測定したヒステリシス損失が20%以上になっているものである。ベルト完成体としてのヒステリシス損失は、このように表面層材料と弾性層材料の選択によって制御できる。また、ヒステリシス損失の上限値は特に限定されるものではないが、50%以下であることが好ましい。
【0121】
以下、ヒステリシス損失の測定方法を述べる。
【0122】
ベルト表面側から測定したヒステリシス損失は、弾性ゴム材料単独でのヒステリシス損失と考え方は同じであり、ベルト完成体に応力を与え変形させて元に戻したとき、全体の変形に対する塑性変形の割合を求めればよい。具体的方法としては、実施例に記載の通りである。
【0123】
以上のように本発明の多層弾性ベルトは、表面側から測定したヒステリシス損失を20%以上にすることで、中間転写ベルトとして可撓性すなわちMIT耐久回数に代表される屈曲耐久性に優れ、画像中抜けがなく細線印字が鮮明な一次転写特性、紙への凹凸追従性が良好な二次転写特性などを有し、さらに、表面層の摩擦耐久性に優れたベルトである。
【0124】
本発明の多層弾性ベルトは、転写搬送ベルト、紙搬送ベルト、転写定着ベルト等の電子写真装置用ベルトや、画像形成装置に使用される中間転写ベルト等として好適に用いることができる。
【実施例】
【0125】
以下、比較例と共に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0126】
本明細書に記載の下記の評価は、次のようにして行った。
【0127】
<基材層形成用組成物の固形分濃度>
試料を金属カップ等の耐熱性容器で精秤し、この時の試料の重量をAgとする。試料を入れた耐熱性容器を電気オーブンに入れて、120℃×12分、180℃×12分、260℃×30分、及び300℃×30分で順次昇温しながら加熱、乾燥し、得られる固形分の重量(固形分重量)をBgとする。同一試料について5個のサンプルのA及びBの値を測定し(n=5)、次式(I)にあてはめて固形分濃度を求めた。その5個のサンプルの平均値を、固形分濃度として採用した。
【0128】
【数1】

【0129】
<表面層形成用組成物及び弾性層形成用組成物の固形分濃度>
原料を精秤し、この時の固形あるいは液状原料の重量をCgとする。電子天秤上で原料を溶剤に溶かすために、攪拌しながら溶剤を徐々に加え、最終的な溶液重量をDgとする。固形分濃度は、次式(II)となる。
【0130】
【数2】

【0131】
<厚み>
厚みは、接触式膜厚測定器のフラット型プローブを用いて幅方向3点、周方向8点の合計24点測定し、その平均値として示した。
【0132】
<ヤング率>
ヤング率はJIS K7127に準拠し、(株)島津製作所製 オートグラフAG−Xを用いて測定した。
【0133】
サンプル片:25×250mmの短冊状
引張速度:20mm/分
【0134】
<表面抵抗率、体積抵抗率>
表面抵抗率(Ω/□)及び体積抵抗率(Ω・cm)は、三菱化学(株)製の抵抗測定器“ハイレスタUP・URブロ−ブ”を用いて23℃、55%RH環境下で測定した。幅方向に長さ360mmにカットしたベルトをサンプルとし、該サンプルの幅方向に等ピッチで3ヶ所、縦(周)方向に4カ所の合計12ヶ所について、印加電圧100V、10秒後に表面抵抗率及び体積抵抗率をそれぞれ測定し、その平均値の常用対数値で示した。なお該測定サンプルは23℃、55%RH環境下で12時間放置してから測定した。
【0135】
<ゴム材料硬度>
JIS K6253に従い、デュロメーターAを用いて、弾性層を構成する材料で厚み6mmのバルク(塊)を作製して評価した。
【0136】
<MIT試験>
MIT試験法による耐折回数測定は、JIS P8115(1994)に準拠(JIS P8115(1994)における「紙及び板紙」を「実施例1〜3、比較例1〜2で得られたベルト」に読みかえる)する方法であり、MIT試験機として(株)東洋精機製MIT−DAを用いて測定した。試験条件は以下の通りである。
【0137】
試験片を挟み折曲げるためのチャックの先端半径:0.38mm
荷重:9.8N(1kgf)
折り曲げ角度:135±2°
繰返し速度:175±10回/毎分
該条件にて繰り返し折り曲げ、ストレスを与えて破断させる。破断までの折り曲げ回数(5回測定の平均値)を、耐折回数とした。
【0138】
<磨耗試験>
JIS K7204に従い、磨耗輪による磨耗試験により、磨耗輪によって研削された材料の重量(mg)にて比較した。試験条件は以下の通りである。
【0139】
磨耗輪種類:CS−17
荷重:250g
回転回数:300回
【0140】
<ゴム材料ヒステリシス損失>
弾性層形成用組成物を用いて、100mm角、厚み2mmの試験用試料を作製し、ダンベル3号片を打ち抜いた。該試験用試料片について、引張ヒステリシス損失試験(JIS K7312)により得られた応力−ひずみ曲線の面積を用いて計算した。
【0141】
<ベルト表面から測定したヒステリシス損失(ベルトのヒステリシス損失)>
ISO 14577−1 Annex Aにおけるマルテンス硬度測定法を用いる。すなわち、ダイナミック超微小硬度計によってベルトの表面層側から測定圧子を、試験力を一定の割合で増加させながら押し込み、指定深さに達した後、試験力を一定割合で除荷する際の一連の圧子の深さを自動計測することで、図2のような応力−ひずみ曲線を得る。図2に示すように、応力−ひずみ曲線により囲まれた部分の面積をEとする。また、指定深さに達した点(図2中のA点)から垂線を引き、該垂線と、試験力を一定割合で除荷する際に得られる曲線とに囲まれた部分の面積をFとし、これらの面積E、Fをもとにベルト表面側から測定したヒステリシス損失を次の式で求める。
【0142】
【数3】

【0143】
その他の条件は以下の通りである。
【0144】
試験機:島津ダイナミック超微小硬度計DUH−211S
試験モード:負荷−除荷試験
負荷速度:0.1463mN/秒
最小試験力:0.02mN
負荷保持時間:2秒
Cf−Ap、As補正あり
圧子の種類:Triangular115(稜間角115°ダイアモンド三角すい圧子バーコビッチ形)
【0145】
実施例1
(1)基材層の製膜
窒素流通下、N−メチル−2−ピロリドン488gに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)47.6gを加え、50℃に保温、撹拌して完全に溶解させた。この溶液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)70gを除々に添加し、ポリアミック酸溶液605.6gを得た。このポリアミック酸溶液の数平均分子量は17,000、粘度は35ポイズ、固形分濃度は18.0重量%であった。
【0146】
次に、このポリアミック酸溶液450gに、酸性カーボン(pH3.0)21gとN−メチル−2−ピロリドン80gを加えて、ボールミルにてカーボンブラック(CB)の均一分散を行った。このマスターバッチ溶液(基材層形成用組成物)は、固形分濃度18.5重量%、該固形分中のCB濃度は20.6重量%であった。
【0147】
そして該溶液から276gを採取し、基材層成型用円筒状金型を用意し、次の条件で成形した。
【0148】
基材層成型用金型:内径301.5mm、幅540mmの内面鏡面仕上げの円筒状金型であり、該金型が2本の回転ローラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した(例えば、図3を参照)。
【0149】
加熱装置:該金型の外側面に遠赤外線ヒータを配置し、該金型の内面温度が120℃に制御されるように設計した装置である。
【0150】
まず、円筒状金型を回転した状態で276gの該溶液を金型内面に均一に塗布し、加熱を開始した。加熱は1℃/分で120℃まで昇温して、その温度で60分間その回転を維持しつつ加熱した。
【0151】
回転、加熱が終了した後、冷却せずそのまま金型を離脱して熱風滞留式オーブン中に静置してイミド化のための加熱を開始した。この加熱も徐々に昇温しつつ320℃に達した。そして、この温度で30分間加熱した後常温に冷却して、該金型内面に形成された半導電性管状ポリイミドベルトを剥離し取り出した。なお、該ベルトは厚さ80μm、外周長944.3mm、表面抵抗率11.5(logΩ/□)、体積抵抗率9.2(logΩ・cm)、ヤング率は4,180MPaであった。
【0152】
(2)表面層の製膜
ビニリデンフロライド(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(カイナー#2821、アルケマ製:HFP11モル%)100gを、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)900gに溶解させ、固形分濃度10重量%の溶液Aを調製した。
【0153】
有機変性モンモリロナイト(ルーセンタイトSTN、コープケミカル(株)製)100gを、ジメチルアセトアミド900gに加え、ボールミルにて均一分散を行って固形分濃度10重量%の溶液Bを調製した。
【0154】
溶液Aと溶液BをA:B=99:1で調合し撹拌機で混合し、固形分濃度10重量%、該固形分中の有機変性モンモリロナイト濃度1重量%の溶液を得た。これをDMAc:酢酸ブチル=1:2の混合溶媒で希釈し、固形分濃度1.6重量%、該固形分中有機変性モンモリロナイト濃度1重量%(表面層の総重量に対するモンモリロナイトの配合割合に相当する)の表面層形成用組成物を調製した。この溶液112gを次の条件で製膜した。
【0155】
回転ドラム:内径301.0mm、幅540mm、内面十点平均粗さ(Rz)=0.5μmの金属ドラムが2本の回転ローラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した(例えば、図3参照)。
【0156】
回転ドラムを回転した状態でドラム内面に均一に塗布し加熱を開始した。加熱は2℃/分で130℃まで昇温して、その温度で60分間その回転を維持しつつ加熱し、ドラム内面に表面層を形成した後ドラムを常温まで冷却した。ドラム内面に形成された表面層の厚みを渦電流式厚み計(ケット化学研究所社製)にて測定したところ2μmであった。
【0157】
なお、上述の表面層形成用組成物を用いて、同一製膜条件で別途10μmの表面層を作製した。その10μmの表面層の体積抵抗率12.6(logΩ・cm)、ヤング率は610MPaであった。
【0158】
(3)弾性層の製膜
キシレン1250gにポリウレタンエラストマー(パンデックスFY956、DIC(株)製)を1000g溶解させた溶液に酸性カーボン(pH3.5)250gを加え、ボールミルにて均一分散を行い、固形分濃度50重量%、該固形分中のカーボンブラック(CB)濃度は20重量%のマスターバッチ溶液を作製した。このマスターバッチ溶液250gに、NCO当量が1.1となるように、硬化剤CLH−5(DIC(株)製)を8.5g添加し撹拌を行い、弾性層形成用組成物を得た。
【0159】
この弾性層形成用組成物を先に製膜した表面層内面に金型を回転した状態で均一に塗布し、加熱を開始した。加熱は、2℃/分で130℃まで昇温して、その温度で120分間その回転を維持しつつ加熱し、金型内面に弾性層(厚さ:225μm)を形成した。
【0160】
予備試験として、この弾性層形成用組成物にて作製したウレタン硬化物の硬度を測定したところ、タイプA(JIS K6253)にて42°であった。またJIS K7312の引張り試験によるヒステリシス損失は、50.6%であり、体積抵抗率は、10.9(logΩ・cm)であった。
【0161】
(4)弾性層内面と基材層外面の貼り合わせ
上記(3)で製膜した弾性層内面にプライマーDY39−067(東レ・ダウコーニング(株)製)を塗布、風乾した後に、ドライラミ接着剤(三井化学ポリウレタン(株)製タケラックA−969)を薄く外面に塗布した(1)のポリイミドベルト(基材層)を挿入し重ね合わせた。次に基材内面から圧着した状態で加熱(80〜100℃)を行い、貼り合わせを完了させた。貼り合わせた多層ベルトを金型から剥離し両端部をカットし幅360mmの多層ベルトを採取した。
【0162】
該多層ベルトは厚さ330μm、外周長945.0mm、表面抵抗率11.7(logΩ/□)、体積抵抗率9.4(logΩ・cm)であった。また前記ISO 14577−1 Annex Aのマルテンス硬度測定法にて算出したベルト表面から測定したヒステリシス損失は41.5%であった。
【0163】
実施例2
キシレン972gにポリウレタンエラストマー(ウレハイパーRUP1627、DIC(株)製)を988g溶解させた溶液にイオン導電剤としてサンコノールBUAC−30R(商品名、三光化学工業(株)製)を40g加え、撹拌機にて均一分散を行い、固形分濃度50重量%、該固形分中のイオン導電剤濃度は1.2重量%のマスターバッチ溶液を作製した。このマスターバッチ溶液250gに、NCO当量が0.9となるように、硬化剤CLH−5(DIC(株)製)を9.2g添加し撹拌を行い、弾性層形成用組成物を得た。
【0164】
予備試験として、この弾性層形成用組成物にて作製したウレタン硬化物の硬度を測定したところ、タイプA(JIS K6253)にて40°であった。またJIS K7312の引張り試験によるヒステリシス損失は、29.8%であり、体積抵抗率は、10.3(logΩ・cm)であった。
【0165】
この弾性層形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
【0166】
その結果、作製した多層ベルトのISO 14577−1 Annex Aのマルテンス硬度測定法にて算出したベルト表面から測定したヒステリシス損失は23.4%であった。
【0167】
実施例3
実施例1(2)のビニリデンフロライド(VdF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるVdF−HFP共重合樹脂(カイナー#2821、アルケマ製:HFP11モル%)の代わりにPVdF樹脂(カイナー#301F)を選択した以外は、実施例1と同様に多層ベルトを作製した。
【0168】
この表面層形成用組成物を用いて、同一製膜条件で別途10μmの表面層を作製しところその表面層のヤング率は1,920MPaであった。またその結果、作製した多層ベルトのISO 14577−1 Annex Aのマルテンス硬度測定法にて算出したベルト表面から測定したヒステリシス損失は39.3%であった。
【0169】
比較例1
実施例1における(1)の基材をポリイミド単層のベルトとして、各評価に使用した。
【0170】
比較例2
実施例2において硬化剤の配合量をNCO当量が1.1になるよう、11.7g添加した以外は実施例2と同様に多層ベルトを作製した。
【0171】
予備試験として、この弾性層形成用組成物にて作製したウレタン硬化物の硬度を測定したところタイプA(JIS K6253)にて43°であった。またJIS K7312の引張り試験によるヒステリシス損失は、17.9%であり、体積抵抗率は、10.2(logΩ・cm)であった。
【0172】
またその結果、作製した多層ベルトのISO 14577−1 Annex Aのマルテンス硬度測定法にて算出したベルト表面から測定したヒステリシス損失は17.0%であった。
【0173】
上記実施例1〜3、比較例1〜2の各試料多層ベルトを前記MIT試験、磨耗試験にかけた値と転写ユニットに組み込んで以下の画像評価した結果と耐久結果を表1および表2に示す。
【0174】
<一次及び二次転写効率>
一次転写効率は、転写前及び転写後の感光体上のトナー重量を測定し下記式から求めた。また、二次転写効率は、転写前及び転写後の転写ベルト上のトナー重量を測定し下記式から求めた。
【0175】
【数4】

【0176】
各転写効率は次の基準で評価した。
(一次転写効率)
○:97%より高い
△:95〜97%
×:95%未満
(二次転写効率)
○:95%より高い
△:90〜95%
×:90%未満
【0177】
<細線中抜け>
細線画像の中抜けを二次転写前の転写ベルト上にて観察し評価した。細線は約0.05mmの転写ベルト進行方向と平行なY、Mの二色によるベタ画像細線をレーザ顕微鏡にて300倍の倍率で観察し、細線長さ1mm内にいくつの中抜けが発生しているかを次の基準で評価した。
○:中抜けが全くない
△:中抜けが1〜4箇所
×:中抜けが5箇所以上存在する
【0178】
<紙の凹凸追従性(ラフ紙転写性)>
凹凸の大きな紙として富士ゼロックスオフィスサプライ社の「レザック66」(表面凹凸差80μm、151g/m)を用い、シアンでベタ印刷を行って、最深部(凹部)のトナーの乗りを目視で、次の基準で評価した。
○:ムラなく転写できている
△:僅かに白抜けしている
×:トナーの乗りがなく白抜けしている
【0179】
<通紙耐久性試験>
下記の条件で通紙、通電、駆動テストを同時に実施し、10万枚相当の駆動テスト後に表面層の剥離、割れの有無を顕微鏡で観察し、次の基準で評価した。
○:表面層の剥離又は割れの発生なし
×:微小割れあり
駆動速度:ベルト外周速度300mm/秒
通電:電源(Trek 610C)によりベルト厚み方向に50μAの定電流を供給
通紙:二次転写ロール外面にコピー用紙を巻きつけ、擬似的に連続通紙した状態を作製
クリーニング機構:ウレタンゴム製クリーニングブレード(ゴム硬度 タイプA 80°)
【0180】
【表1】

【0181】
【表2】

【0182】
実施例においては、ベルトの表面側から測定したヒステリシス損失が20%以上であることから、ポリイミドの基材層への弾性層追従効果でMIT試験回数が格段に向上しているのがわかる(比較例1との比較)。また、表面層への弾性層追従効果によって耐久評価での割れや剥離の発生はなかった。さらにゴム弾性層を設ける主目的である一次転写での細線中抜け不具合はなく、二次転写における紙の凹凸への追従性も良好であった。
【0183】
比較例2は、ベルトの表面側から測定したヒステリシス損失が20%未満となっており耐久評価で微小な割れが多数発生したが、これはクリーニングブレードなどから表面層が受ける応力をゴム弾性層が吸収出来ず、逆にゴムが応力をはね返そうとする反力が生じ表面層を攻撃する力に変化したものと推測される。ベルト表面に微小な割れが生じた場合、割れが大きく成長しトナーのクリーニング性が悪化し、トナーがベルト表面に固着するために紙への転写がうまく行えなくなる。
【0184】
このように、本発明の電子写真装置用多層弾性ベルトは、特定の弾性層を設けたことによって、画像中抜けがなく細線印字が鮮明な一次転写特性、媒体表面の凹凸への追従性及びトナー離型性などが良好な二次転写特性を有し、さらにベルトの表面側から測定したヒステリシス損失が20%以上としたことによって、ベルトの可撓性が上がることで屈曲耐久性が向上し、且つクリーニングブレード等に対しての表面層の摩擦耐久性を改善することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から順に、離型性材料を含む表面層、弾性ゴム材料を含む弾性層、及び高強度樹脂材料を含む基材層の少なくとも三層からなる電子写真装置用多層弾性ベルトであって、
表面側から測定したダイナミック微小硬度測定(ISO 14577−1)結果から算出されるヒステリシス損失が20%以上である電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項2】
前記表面層のヤング率が2,000MPa以下であり、かつ表面層の厚みが5μm以下である請求項1に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項3】
前記離型性材料が、フッ素樹脂及び/又はフッ素ゴムである請求項1又は2に記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項4】
前記弾性層を構成する材料の硬度が、タイプA硬度で20°以上である請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項5】
前記弾性ゴム材料がポリウレタンエラストマー材料であり、該ポリウレタンエラストマー材料単独の硬化物のヒステリシス損失が20%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。
【請求項6】
前記高強度樹脂材料が、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、PVdF、ポリアミド及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる群から選択される少なくとも1つの材料である請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真装置用多層弾性ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−123180(P2011−123180A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279499(P2009−279499)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】