説明

多層成形体およびそれからなる多層延伸成形体

【課題】 従来の技術が有する問題点を解決し、外層中あるいは内外層中の環状3量体含有量が低減されているために同一の加熱延伸金型を用いて多数のボトル成形を続ける長時間の連続運転でもボトルの透明性が維持され、また、フレーバー性も向上した多層延伸成形体を与える多層成形体およびそれからの多層延伸成形体ならびに多層成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも、溶融重縮合反応後の溶融物から得られる熱可塑性ポリエステル(A)層と、環状3量体含有量が8000ppm以下の熱可塑性ポリエステル(B)層とを含む多層構造であることを特徴とする多層成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボトル等の容器の製造に使用される熱可塑性ポリエステル多層成形体およびそれからなる多層延伸成形体並びに多層成形体の製造方法に関するもので、より詳細には溶融重縮合された熱可塑性ポリエステルの溶融物と固相重合された熱可塑性ポリエステルとからの、外層中あるいは内外層中の環状3量体やアセトアルデヒドの含有量が少なく、透明性及び成形性に優れた多層成形体およびそれからなる多層延伸成形体ならびにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステルは、機械的性質及び化学的性質が共に優れているため、工業的価値が高く、繊維、フィルム、シ−ト、ボトルなどとして広く使用されている。
これらのうちでポリエチレンテレフタレ−ト(以下、PETと略称することがある)は、機械的強度、耐熱性、透明性およびガスバリヤー性に優れているので、特にジュ−ス、清涼飲料、炭酸飲料などの飲料充填用容器等の成形体の素材として最適である。
【0003】
このようなポリエステルは、例えば、射出成形機械などの成形機に供給して中空成形体用プリフォームを成形し、このプリフォームを所定形状の金型に挿入し延伸ブロー成形して清涼飲料用中空成形容器としたり、またプリフォーム口栓部を熱処理(口栓部結晶化)後に延伸ブロー成形および胴部を熱処理(ヒートセット)して耐熱性または耐熱圧性中空成形容器に成形されるのが一般的である。
【0004】
PETは、溶融重縮合時の副生物としてアセトアルデヒド(以下、AAと略称することがある)を含有する。また、PETは、中空成形体等の成形体を熱成形する際に熱分解によりアセトアルデヒドを生成し、得られた成形体の材質中のアセトアルデヒド含有量が多くなり、中空成形体等に充填された飲料等の風味や臭いに影響を及ぼす。
このような理由から、従来からポリエステル中のアセトアルデヒド含有量を低減させるために種々の方策が採られてきた。これらの方策として、例えば、溶融重縮合したポリエステルを固相重合することによってAA含有量を低下させる方法が採用されている。
しかしながら、固相重合法では、溶融ポリエステル樹脂を冷却し、チップ状の形態にし、これを固相重合を行うという操作が必要であり、操作が煩雑であるという問題点と、プリフォームの成形のために、チップを再溶融しなければならないなど、熱エネルギーの点で問題である。
【0005】
一方、溶融重縮合により得られたPETからアセトアルデヒドを除去すると同時に分子量を上昇させる縮合射出成形法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。しかし、このような方法では、極限粘度を上げるために後重合反応器中での滞留時間が30〜60分と長く、生産性や着色で問題があり、また、環状3量体含有量が低減できないという問題もあった。
また、溶融重縮合反応後、溶融状態のままベント付き押出機を経て得られる溶融ポリエステル樹脂やこれを成形する方法(例えば、特許文献2、3、4、5、6参照)が既に知られている。しかし、これらの技術によっても環状3量体含有量が低減できないために、成形機の金型のベント詰まりや加熱延伸金型の汚れなどが酷くなり、長時間の運転に伴って得られるボトルが白化して透明性が低下し、商品価値のないボトルしか得られなくなるという問題があり改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−238643号公報
【特許文献2】特許第3684306号公報
【特許文献3】特表平11−511187号公報
【特許文献4】特表2001−516389号公報
【特許文献5】特開2005−171081号公報
【特許文献6】特開2005−193379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、上記従来の技術が有する問題点を解決し、外層中あるいは内外層中の環状3量体含有量が低減されているために同一の加熱延伸金型を用いて多数のボトル成形を続ける長時間の連続運転でもボトルの透明性が維持され、また、フレーバー性も向上した多層延伸成形体を与える多層成形体およびそれからの多層延伸成形体ならびに多層成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の多層成形体は、少なくとも、溶融重縮合反応後の溶融物から得られる熱可塑性ポリエステル(A)層と、環状3量体含有量が8000ppm以下の熱可塑性ポリエステル(B)層とを含む多層構造であることを特徴とする多層成形体である。
【0009】
この場合において、層構成が3層以上であり、熱可塑性ポリエステル(B)層が最外層と最内層であることができる。ここで、多層成形体が有底の多層プリフォームなどの多層中空成形体の場合には、最内層とは最も内側の層、最外層とは最も外側の層を意味し、また、多層成形体が多層シート状物の場合には、最外層および最内層とは表面層のことである。
【0010】
この場合において、熱可塑性ポリエステル(A)層の含有量が30〜99.5重量%であることができる。
【0011】
この場合において、熱可塑性ポリエステル(B)の極限粘度が0.50〜1.2dl/g、アセトアルデヒド含有量が20ppm以下であることができる。
【0012】
この場合において、熱可塑性ポリエステル(A)の極限粘度が0.60〜0.90dl/gであることができる。
【0013】
この場合において、熱可塑性ポリエステル(A)層または熱可塑性ポリエステル(B)層の少なくとも一層がアセトアルデヒド低減剤を含有することができる。
【0014】
この場合において、多層成形体が、有底の多層プリフォームやシート状物であることができる。
【0015】
この場合において、前記のいずれかに記載の多層成形体を少なくとも一方向に延伸してなる多層延伸成形体であることができる。
また、溶融重縮合反応後の重縮合反応器からの熱可塑性ポリエステル(A)の溶融物と、環状3量体含有量が8000ppm以下の熱可塑性ポリエステル(B)と、から多層成形体を成形することを特徴とする多層成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、溶融重縮合された熱可塑性ポリエステルの溶融物と固相重合された熱可塑性ポリエステルとからの、外層中あるいは内外層中の環状3量体やアセトアルデヒドの含有量が少なく、透明性および成形性に優れた多層成形体およびそれからなる多層延伸成形体ならびにその製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を具体的に説明する。
[熱可塑性ポリエステル]
本発明に用いる熱可塑性ポリエステルは、実質的に1種以上の芳香族ジカルボン酸成分を主体とするカルボン酸成分と、1種以上のグリコール成分を主体とするアルコール成分とから誘導されたポリエステルであり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が代表例であり、ポリエチレンテレフタレートが好適なものである。
熱可塑性ポリエステル(A)と熱可塑性ポリエステル(B)の組成は、実質上同一であることが好ましい。ここで実質上同じとは、互いのポリエステル中の酸成分、グリコール成分とも、95モル%以上が同一であることが好ましく、さらには97モル%以上、特には98モル%以上が同一であることが好ましい。
また、熱可塑性ポリエステル(A)は、下記に説明する溶融重縮合工程のみで製造したポリエステルである。
他方、熱可塑性ポリエステル(B)は、このようにして溶融重縮合工程で得られたポリエステルをさらに固相重合工程で重縮合して環状3量体含有量やアセトアルデヒド含有量を低減したポリエステルである。
【0018】
前記ポリエチレンテレフタレートは、主たる繰り返し単位としてエチレンテレフタレート単位を85モル%以上含む線状ポリエステル樹脂であり、好ましくは95モル%以上含む線状ポリエステル樹脂である。
【0019】
前記ポリエチレンテレフタレート中に共重合して用いられるジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニール−4,4'−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びその機能的誘導体、p−オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸及びその機能的誘導体、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその機能的誘導体、シクロへキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸及びその機能的誘導体などが挙げられる。
【0020】
前記ポリエチレンテレフタレート中に共重合して用いられるグリコール成分としては、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコールなどが挙げられる。
【0021】
さらに、ポリエチレンテレフタレートからなるポリエステル樹脂中に組み込むことのできる多官能化合物からなるその他の共重合成分としては、酸成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができ、また、グリコール成分としてグリセリン、ペンタエリスリトール等を挙げることができる。これらの多官能化合物からなる共重合成分の使用量は、ポリエステル樹脂が実質的に線状を維持する程度でなければならない。
【0022】
[溶融重縮合]
本発明に用いるポリエステルは、従来公知の任意の溶融重縮合法で製造することが出来る。各原料は、エステル化触媒の存在下でエステル化された後、重縮合用触媒の存在下で液相重縮合され、所定の分子量まで到達させる。製造方法としては回分方式、連続方式(単缶方式、多段方式)が挙げられるが、以下にはポリエチレンテレフタレートを例にして連続・多段方式での好ましい製造方法の一例について説明するが、勿論この例に限定されない。
テレフタル酸とエチレングリコール及び必要により他の共重合成分を直接反応させて水を留去しエステル化した後、重縮合触媒の存在下に減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコール及び必要により他の共重合成分を反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、重縮合触媒の存在下に減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。
【0023】
まず、エステル化反応により低重合体を製造する場合には、テレフタル酸またはそのエステル誘導体1モルに対して1.02〜2.0モル、好ましくは1.03〜1.95モルのエチレングリコールが含まれたスラリーを調整し、これをエステル化反応工程に連続的に供給する。
【0024】
エステル化反応は、少なくとも2個のエステル化反応器を直列に連結した多段式装置を用いてエチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水またはアルコールを精留塔で系外に除去しながら実施する。第1段目のエステル化反応の温度は240〜270℃、好ましくは245〜265℃、圧力は常圧〜270KPa、好ましくは常圧〜250KPaである。最終段目のエステル化反応の温度は通常250〜280℃、好ましくは255〜275℃であり、圧力は通常は常圧〜250KPa、好ましくは常圧〜190KPaである。
3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は第1段目の条件から最終段目の条件に段階的に変化するように設定することが好ましい。
最終段目でのエステル化反応率は90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。これらのエステル化工程により分子量500〜5000程度の低次縮合物が得られる。
【0025】
上記エステル化反応は原料としてテレフタル酸を用いる場合は、テレフタル酸の酸としての触媒作用により無触媒でも反応させることができるが重縮合触媒の共存下に実施してもよい。
【0026】
また、エチレングリコールが2量体化してジエチレングリコールが発生し、主鎖中にジエチレングリコールが共重合され、樹脂の強度を低下させることがある。これを防止するために、トリエチルアミン、トリn‐ブチルアミン、ベンジルジメチルアミンなどの第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラn−ブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムなどの水酸化第4級アンモニウムおよび炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの塩基性化合物を少量添加することも好ましい。
ポリエチレンテレフタレートの主鎖中のジオキシエチレンテレフタレート成分単位の割合は全ジオール成分に対して5モル%以下が好ましい。
【0027】
次に、エステル交換反応によって低重合体を製造する場合は、テレフタル酸ジメチル1モルに対して1.1〜2.0モル、好ましくは1.2〜1.5モルのエチレングリコールが含まれた溶液を調整し、これをエステル交換反応工程に連続的に供給する。
【0028】
エステル交換反応は、1〜2個のエステル交換反応器を直列に連結した装置を用いてエチレングリコールが還留する条件下で、反応によって生成したメタノールを精留塔で系外に除去しながら実施する。第1段目のエステル交換反応の温度は180〜250℃、好ましくは200〜240℃である。最終段目のエステル交換反応の温度は通常230〜270℃、好ましくは240〜265℃であり、エステル交換触媒として、Zn,Cd,Mg,Mn,Co,Ca,Baなどの脂肪酸塩、炭酸塩やPb,Zn,Ge酸化物等を用いる。これらのエステル交換反応により分子量約200〜500程度の低次縮合物が得られる。
【0029】
前記の出発原料であるジメチルテレフタレート、テレフタル酸またはエチレングリコールとしては、パラキシレンから誘導されるバージンのジメチルテレフタレート、テレフタル酸あるいはエチレンから誘導されるエチレングリコールは勿論のこと、使用済みPETボトルからメタノール分解やエチレングリコール分解などのケミカルリサイクル法により回収したジメチルテレフタレート、テレフタル酸、ビスヒドロキシエチルテレフタレートあるいはエチレングリコールなどの回収原料も、出発原料の少なくとも一部として利用することが出来る。前記回収原料の品質は、使用目的に応じた純度、品質に精製されていなければならないことは言うまでもない。
【0030】
次いで得られた低次縮合物は多段階の液相重縮合工程に供給される。重縮合反応条件は、第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は500〜20torr、好ましくは200〜30torrである。最終段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は10〜0.1torr、好ましくは5〜0.5torrである。
3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は第1段目の条件から最終段目の条件に段階的に変化するように設定することが好ましい。これらの重縮合反応工程の各々において到達される極限粘度(IV)上昇の度合いは滑らかに分配されることが好ましい。
【0031】
重縮合反応は、重縮合触媒を用いて行う。重縮合触媒としては、Ge、Ti、SbまたはAlの化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物が用いられることが好ましい。これらの化合物は、粉体、水溶液、エチレングリコール溶液、エチレングリコールのスラリー等として反応系に添加される。
【0032】
Ge化合物としては、無定形二酸化ゲルマニウム、結晶性二酸化ゲルマニウム粉末またはエチレングリコールのスラリー、結晶性二酸化ゲルマニウムを水に加熱溶解した溶液またはこれにエチレングリコールを添加加熱処理した溶液等が使用されるが、特に本発明で用いるポリエステルを得るには二酸化ゲルマニウムを水に加熱溶解した溶液、またはこれにエチレングリコールを添加加熱した溶液を使用するのが好ましい。また、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ−n−ブトキシド、亜リン酸ゲルマニウム等の化合物も用いることが出来る。これらの重縮合触媒はエステル化工程中に添加することができる。Ge化合物を使用する場合、その使用量はポリエステル中のGe残存量として、10〜100ppm、好ましくは10〜60ppm、より好ましくは13〜50ppm、更に好ましくは15〜45ppmである。
【0033】
Ti化合物としては、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のテトラアルキルチタネートおよびそれらの部分加水分解物、酢酸チタン、蓚酸チタニル、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルナトリウム、蓚酸チタニルカリウム、蓚酸チタニルカルシウム、蓚酸チタニルストロンチウム等の蓚酸チタニル化合物、トリメリット酸チタン、硫酸チタン、塩化チタン、チタンハロゲン化物の加水分解物、シュウ化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸アンモニウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、チタンアセチルアセトナート、ヒドロキシ多価カルボン酸または含窒素多価カルボン酸とのチタン錯体物、チタンおよびケイ素あるいはジルコニウムからなる複合酸化物、チタンアルコキサイドとリン化合物の反応物、チタンアルコキサイドと芳香族多価カルボン酸またはその無水物との反応物にリン化合物を反応させて得た反応生成物等が挙げられる。Ti化合物は、生成ポリマー中のTi残存量として0.1〜50ppm、好ましくは0.5〜20ppm、最も好ましくは0.5〜10ppmの範囲になるように添加する。
【0034】
Sb化合物としては、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、酒石酸アンチモン、酒石酸アンチモンカリ、オキシ塩化アンチモン、アンチモングリコレート、五酸化アンチモン、トリフェニルアンチモン等が挙げられる。Sb化合物は、生成ポリマ−中のSb残存量として50〜300ppm、好ましくは50〜250ppm、好ましくは50〜200ppm,さらに好ましくは50〜180ppmの範囲になるように添加する。
【0035】
Al化合物としては、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムn-プロポキサイド、アルミニウムiso-プロポキサイド、アルミニウムn-ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso-プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらのうち酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムおよびアルミニウムアセチルアセトネートがとくに好ましい。Al化合物は、生成ポリマー中のAl残存量として5〜100ppm、好ましくは10〜50ppm、最も好ましくは10〜30ppmの範囲になるように添加する。
【0036】
また、本発明に係るポリエステルの製造においては、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物を必要に応じて併用してもよい。アルカリ金属、アルカリ土類金属としては、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種であることが好ましく、アルカリ金属ないしその化合物の使用がより好ましい。アルカリ金属ないしその化合物を使用する場合、特にLi,Na,Kの使用が好ましい。アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物、水素化物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
【0037】
前記のアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物は、粉体、水溶液、エチレングリコール溶液等として反応系に添加される。アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物は、生成ポリマー中のこれらの元素の残存量として1〜50ppmの範囲になるように添加する。
【0038】
さらにまた、本発明に係るポリエステルは、ケイ素、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ガリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、錫、ハフニウム、タリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含む金属化合物を含有してもよい。これらの金属化合物としては、これら元素の酢酸塩等の飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸塩などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸塩などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸塩などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸塩などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、アルコキサイド、アセチルアセトナ−ト等とのキレート化合物があげられ、粉体、水溶液、エチレングリコール溶液、エチレングリコールのスラリー等として反応系に添加される。これらの金属化合物は、生成ポリマー1トン当りのこれらの金属化合物の元素の残存量として0.05〜3.0モルの範囲になるように添加する。これらの金属化合物は、前記のポリエステル生成反応工程の任意の段階で添加することができる。
【0039】
また、安定剤として、燐酸、ポリ燐酸やトリメチルフォスフェート等の燐酸エステル類、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のリン化合物を使用するのが好ましい。具体例としてはリン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、リン酸モノブチルエステル、リン酸ジブチルエステル、亜リン酸、亜リン酸トリメチルエステル、亜リン酸トリエチルエステル、亜リン酸トリブチルエステル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチルエステル、エチルホスホン酸ジメチルエステル、フェニールホスホン酸ジメチルエステル、フェニールホスホン酸ジエチルエステル、フェニールホスホン酸ジフェニールエステル等である。これらの安定剤はテレフタル酸とエチレングリコールのスラリー調合槽からエステル化反応工程中に添加することができる。P化合物は、生成ポリマ−中のP残存量として1〜1000ppm、好ましくは5〜100ppm、最も好ましくは5〜50ppmの範囲になるように添加する。
【0040】
重縮合触媒としてAl化合物を用いる場合は、リン化合物と併用することが好ましく、アルミニウム化合物およびリン化合物が予め溶媒中で混合された溶液またはスラリーとして用いることが好ましい。Al化合物の場合、より好ましいリン化合物は、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のリン化合物である。これらのリン化合物を用いることで触媒活性の向上効果が見られるとともに、ポリエステルの熱安定性等の物性が改善する効果が見られる。これらの中でも、ホスホン酸系化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0041】
本発明で用いられる熱可塑性ポリエステル(A)溶融物の極限粘度は、0.60〜0.90dl/g、好ましくは0.65〜0.85dl/g、さらに好ましくは0.70〜0.80dl/g、最も好ましくは0.75〜0.85dl/gの範囲であることが望ましい。ポリエステルの極限粘度が0.60dl/g未満では、得られた成形体等の機械的特性が悪い。また、ポリエステルの極限粘度が0.90dl/gを越える場合は、成形機等による溶融時に樹脂温度が高くなって熱分解が激しくなり、保香性に影響を及ぼす遊離の低分子量化合物が増加したり、成形体が黄色に着色する等の問題が起こる。
【0042】
また、熱可塑性ポリエステル(A)中に共重合されたジエチレングリコ−ル量は、前記ポリエステルを構成するグリコ−ル成分の1.0〜5.0モル%、好ましくは1.5〜4.5モル%、より好ましくは1.8〜4.0モル%、さらに好ましくは2.0〜3.0モル%、特に好ましくは2.0〜2.9モル%であることが好ましい。ジエチレングリコ−ル量が5.0モル%を越える場合は、熱安定性が悪くなり、脱気処理時に分子量低下が大きくなったり、またアセトアルデヒド含有量の低減効果が悪くなり好ましくない。またジエチレングリコ−ル含有量が1.0モル%未満の場合は、得られた多層成形体の透明性が悪くなる。
【0043】
本発明で用いられる熱可塑性ポリエステル(A)がPETの場合は、熱可塑性ポリエステル(A)溶融物の環状3量体の含有量は約10000ppmであり、溶融重縮合による場合はこれ以下に低減できない。
また、多層延伸成形体の最内層が熱可塑性ポリエステル(B)からなる場合、本発明で用いられる熱可塑性ポリエステル(A)溶融物のアセトアルデヒド含有量は100ppm以下、好ましくは70ppm以下、より好ましくは50ppm以下、最も好ましくは20ppm以下であることが望ましい。熱可塑性ポリエステル(A)溶融物のアセトアルデヒド含有量が100ppmを超えると、最内層の厚みや成形から内容物充填までの経時時間などによっては内容物へのアセトアルデヒドの移行量が多くなり、内容物のフレーバー性が悪くなることがあり問題である。
【0044】
また、多層延伸成形体の最内層が熱可塑性ポリエステル(A)からなる場合、本発明で用いられる熱可塑性ポリエステル(A)溶融物のアセトアルデヒド含有量は30ppm以下、好ましくは20ppm以下、より好ましくは15ppm以下、最も好ましくは10ppm以下であることが好ましい。
【0045】
熱可塑性ポリエステル(A)溶融物のアセトアルデヒド含有量を低減する方法としては、例えば、重縮合反応終了後から多層成形体成形までの溶融状態での熱履歴を出来るだけ少なくする方法、多層成形機に供給するまでに溶融物を脱気処理する方法、アセトアルデヒド低減剤を添加する方法、および、これらの方法を適宜組み合わせる方法などが挙げられる。
【0046】
溶融物の熱履歴を少なくする方法による場合は、重縮合反応終了後から多層成形体成形までの樹脂温度は、250〜300℃、好ましくは250〜290℃、さらに好ましくは250〜280℃、最も好ましくは250〜270℃の範囲であり、また、溶融滞留時間は、20分以内、好ましくは10分以内、最も好ましくは5分以内であることが望ましい。
【0047】
また、本発明で用いられる熱可塑性ポリエステル(A)溶融物のアセトアルデヒド含有量をさらに低減するためには、多層成形体を成形する工程へ輸送する前にベント式押出機などで脱気処理することが出来る。
脱気処理する場合、脱気処理に用いる装置は、溶融樹脂の混練とアセトアルデヒドの脱気とが有効に行われるものであれば、特に制限されないが、アセトアルデヒドの除去効率の点で、ベント付き押出機が好適である。ベント付き押出機としては、1軸押出機、2軸押出機のいずれも使用可能であるが、攪拌の効率がよく、アセトアルデヒドの低減効率から2軸押出機が好ましい。なお、2軸押出機のスクリューは噛み合い型、非噛み合い型、不完全噛み合い型のいずれでもよいし、同方向、異方向回転のいずれでもよい。
【0048】
本発明の多層成形体の最内層が熱可塑性ポリエステル(B)からなる場合、脱気処理前の熱可塑性ポリエステル(A)溶融物のアセトアルデヒド含有量は、約150ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下であることが望ましい。脱気処理前の熱可塑性ポリエステル(A)溶融物のアセトアルデヒド含有量が150ppmを超えると、脱気処理後の熱可塑性ポリエステル(A)層のアセトアルデヒド含有量が100ppm以下に低減できない。
また、本発明の多層成形体の最内層が熱可塑性ポリエステル(A)からなる場合、脱気処理前の熱可塑性ポリエステル(A)溶融物のアセトアルデヒド含有量は、約80ppm以下、好ましくは70ppm以下、より好ましくは50ppm以下であることが望ましい。脱気処理前の熱可塑性ポリエステル(A)溶融物のアセトアルデヒド含有量が80ppmを超えると、本発明の脱気処理を行っても、熱可塑性ポリエステル(A)層のアセトアルデヒド含有量を30ppm以下に低減できずフレーバー性の点で問題である。
【0049】
また、脱気処理前の熱可塑性ポリエステル(A)のカラーb値は、4以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、最も好ましくは1.5以下であるものがよい。カラーb値が4を越えると、多層成形体の色相が悪く問題である。
脱気処理は、熱可塑性ポリエステルの溶融温度以上で且つ300℃以下の温度で、0.01〜50torr、好ましくは0.01〜20torr、さらに好ましくは0.01〜10torrの減圧下で、0.1〜10分の短時間でアセトアルデヒドを除去するように行うのがよい。脱気処理時の樹脂温度は250℃〜290℃の範囲にあることが好ましい。滞留時間は10分以下が好ましく、より好ましくは5分以下、さらに好ましくは4分以下、特に好ましくは3分以下、最も好ましくは2分以下である。
【0050】
本発明のように、ベント付き押出機を用いて樹脂から脱気処理を行った場合、従来の溶融重縮合や溶融重縮合後固相重合を行った場合と比較して、樹脂の着色がかなり強くなる。これは、ベント付き押出機を用いて樹脂から脱アルデヒドを行った場合の特徴的な現象である。原因としては、押出機のスクリューとバレルとの揃断発熱やバレルのヒーター部の加熱による局部的な温度上昇による樹脂の劣化や、ベント付き押出機では各バレル間で多少の真空のもれがあり樹脂が酸素を含有した空気にさらされるため、樹脂の分解が起こるためだと考えられる。
【0051】
脱気処理する場合は、ポリエステル樹脂は、ベント付き押出機内の滞留時間の増加による着色を防止するため、ベント付き押出機後の極限粘度−押出機前の極限粘度が−0.1〜0.08dl/gの範囲で処理されることが好ましく、より好ましくは−0.08〜0.05dl/gの範囲で、さらに好ましくは−0.05〜0.02dl/gの範囲で、最も好ましくは−0.03〜0dl/gの範囲で処理されることが好ましい。
【0052】
脱気処理した熱可塑性ポリエステル(A)のカラーb値は、4以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、最も好ましくは1.5以下であることが好ましい。カラーb値が4を越えると、多層成形体の色相が悪く問題である。
【0053】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加することにより、上記の着色をさらに防止することもできる。このようなヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、公知のものを使用してよく、例示するならばペンタエリスリトール−テトラエキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒド3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチ3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキ3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブロピオネート)、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフ3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸メチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸イソプロピル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸フェニル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸オクタデシル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸を例示することができる。
【0054】
この場合ヒンダードフェノール系酸化安定剤は、ポリエステルに結合していてもよく、ヒンダードフェノール系酸化安定剤のポリエステル中の量としては、ポリエステル物の重量に対して、1重量%以下が好ましい。好ましくは、0.02〜0.5重量%である。
ヒンダードフェノール系酸化安定剤は、エステル化反応工程時に添加しても、重縮合反応工程時に添加してもよい。さらにはベント付き押出機内、あるいはベント好き押出機に供給するまでの工程のいずれに添加しても良い。もちろん各工程別に逐次添加してもかまわない。
【0055】
このようにして得られたポリエステルは、本発明において熱可塑性ポリエステル(A)として多層成形体の1構成層として用いられる。
【0056】
[固相重合]
前記のようにして得られた溶融重縮合ポリエステルは、例えば、溶融重縮合終了後にダイス細孔より溶融ポリエステルを水中に押出して水中でカットする方式、あるいは溶融重縮合終了後にダイス細孔より空気中にストランド状に押出した後、冷却水で冷却しながらチップ化する方式によって柱状、球状、角状や板状の形態にチップ化される。また、ダイススリットより空気中,または水中にシート状に押出したあと冷却水で冷却しながらシート状物の形態にされる。この際、ダイスまでの溶融状態での温度を可能な限り低くし、また、滞留時間が出来るだけ短時間になるようにすることも本発明に係る熱可塑性ポリエステル(B)を得るために必要な事項である。
【0057】
また、前記の溶融重縮合ポリエステルのチップ化時の冷却水としては、下記の式(1)〜(4)の少なくとも一つを満足する冷却水を用いることが好ましく、さらには式(1)〜(4)のすべてを満足する水を用いることが最も好ましい。
Na ≦ 1.0(ppm) (1)
Mg ≦ 1.0(ppm) (2)
Si ≦ 2.0(ppm) (3)
Ca ≦ 1.0(ppm) (4)
【0058】
冷却水中のナトリウム含有量(Na)は、好ましくはNa≦0.5ppmであり、さらに好ましくはNa≦0.1ppmである。冷却水中のマグネシウム含有量(Mg)は、好ましくはMg≦0.5ppmであり、さらに好ましくはMg≦0.1ppmである。また、冷却水中の珪素の含有量(Si)は、好ましくはSi≦0.5ppmであり、さらに好ましくはSi≦0.3ppmである。さらに、冷却水中のカルシウム含有量(Ca)は、好ましくはCa≦0.5ppmであり、さらに好ましくはCa≦0.1ppmである。
【0059】
前記冷却水のナトリウムやマグネシウム、カルシウム、珪素を低減させるために、チップ冷却工程に工業用水が送られるまでの工程で少なくとも1ヶ所以上にナトリウムやマグネシウム、カルシウム、珪素を除去する装置を設置する。また、粒子状になった二酸化珪素やアルミノ珪酸塩等の粘土鉱物を除去するためにはフィルターを設置する。ナトリウムやマグネシウム、カルシウム、珪素を除去する装置としては、イオン交換装置、限外濾過装置や逆浸透膜装置などが挙げられる。
【0060】
次いで、前期の溶融重縮合ポリエスエルチップは、不活性気体雰囲気下において、2段階以上の連続式結晶化装置で予備結晶化されることが好ましい。例えばPETの場合は、1段目の予備結晶化では100〜180℃の温度で1分〜5時間で、次いで2段目の予備結晶化では160〜210℃の温度で1分〜3時間の条件で、さらに2段目以上の予備結晶化では180〜210℃の温度で1分〜3時間の条件で、順次、段階的に結晶化することが好ましい。結晶化後のチップの結晶化度は30〜65%、好ましくは35〜63%、さらに好ましくは40〜60%の範囲であることが好ましい。なお、結晶化度はチップの密度より求めることができる。
【0061】
次いで、不活性ガス雰囲気下または減圧下に前記プレポリマーに最適な温度に於いて、固相重合による極限粘度の増加が0.10dl/g以上になるようにして固相重合を行う。例えば、PETの場合には、固相重合の温度としては、上限は215℃以下が好ましく、さらには210℃以下、特には208℃以下が好ましく、下限は190℃以上、好ましくは195℃以上である。
【0062】
固相重合終了後はアセトアルデヒドの発生を防ぐため、約30分以内、好ましくは20分以内、さらに好ましくは10分以内にチップ温度を約70℃以下、好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下にすることが好ましい。
【0063】
熱可塑性ポリエステル(B)の極限粘度は、0.50〜1.2dl/g、好ましくは0.6〜0.90dl/g、さらに好ましくは0.70〜0.80dl/g、最も好ましくは0.75〜0.85dl/gの範囲であることが望ましい。熱可塑性ポリエステルの極限粘度が0.50dl/g未満では、得られた成形体等の機械的特性が悪い。また、熱可塑性ポリエステルの極限粘度が1.2dl/gを越える場合は、成形機等による溶融時に樹脂温度が高くなって熱分解が激しくなり、保香性に影響を及ぼす遊離の低分子量化合物が増加したり、成形体が黄色に着色する等の問題が起こる。
【0064】
また、熱可塑性ポリエステル(B)中に共重合されたジエチレングリコ−ル量は、熱可塑性ポリエステル(A)と同様に前記ポリエステルを構成するグリコ−ル成分の1.0〜5.0モル%、好ましくは1.5〜4.5モル%、より好ましくは1.8〜4.0モル%、さらに好ましくは2.0〜3.0モル%、特に好ましくは2.0〜2.9モル%であることが好ましい。
【0065】
本発明に係る熱可塑性ポリエステル(B)の環状3量体の含有量は、8000ppm以下、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは4000ppm以下であることが望ましい。本発明の多層成形体から耐熱性中空成形体等を成形する場合は加熱金型内で熱処理を行うが、環状3量体の含有量が8000ppmを超えて含有する場合には、加熱金型表面へのオリゴマー付着が急激に増加し、得られた中空成形体等の透明性が非常に悪化する。
【0066】
本発明に係る熱可塑性ポリエステル(B)のアセトアルデヒド含有量は、20ppm以下、好ましくは15ppm以下、より好ましくは10ppm以下であることが望ましい。特に、本発明のポリエステル組成物が、ミネラルウオータ等の低フレーバー飲料用の容器の材料として用いられる場合には、前記ポリエステルのアセトアルデヒドの含有量は8ppm以下、好ましくは6ppm以下、より好ましくは5ppm以下であることが望ましい。アセトアルデヒド含有量が20ppmを超える場合は、このポリエステル組成物から成形された成形体等の内容物の香味保持性の効果が悪くなる。また、これらの下限は製造上の問題から、0.1ppbであることが好ましい。
【0067】
熱可塑性ポリエステル(B)は重縮合触媒を失活処理されたものであることが好ましい。ポリエステルの重縮合触媒を失活処理する方法としては、固相重合後にポリエステルチップを水や水蒸気または水蒸気含有気体と接触処理する方法が挙げられる。
また、重縮合触媒を失活させる別の手段として、リン化合物を固相重合後の熱可塑性ポリエステル(B)に配合し、成形時などの溶融状態において混合、反応させて重縮合触媒を不活性化する方法が挙げられる。
【0068】
本発明に係る熱可塑性ポリエステル(B)のチップの形状は、シリンダー型、角型、球状または扁平な板状等の何れでもよい。その平均粒径は、通常1.0〜4mm、好ましくは1.0〜3.5mm、さらに好ましくは1.0〜3.0mmの範囲である。例えば、シリンダー型の場合は、長さは1.0〜4mm、径は1.0〜4mm程度であるのが実用的である。球状粒子の場合は、最大粒子径が平均粒子径の1.1〜2.0倍、最小粒子径が平均粒子径の0.7倍以上であるのが実用的である。また、チップの重量は5〜40mg/個の範囲が実用的である。
【0069】
本発明に係る熱可塑性ポリエステル(B)中のファインの含有量は、0.1〜5000ppm、好ましくは0.1〜3000ppm、より好ましくは0.1〜1000ppm、さらに好ましくは0.1〜500ppm、最も好ましくは0.1〜100ppmであることが望ましい。ファイン含有量が5000ppmを超える場合は多層成形体の結晶化速度が早くなり、透明性の悪い成形体しか得られない。また、ファイン含有量を0.1未満に低減するのは経済的に問題となる。
【0070】
前記のようにして固相重合により得られた熱可塑性ポリエステル(B)は、多層成形体の1構成層として用いられる。
【0071】
[アセトアルデヒド低減剤]
本発明に係る熱可塑性ポリエステル(A)溶融物または熱可塑性ポリエステル(B)のアセトアルデヒド含有量を低減させるためにアセトアルデヒド低減剤を用いることが好ましい。
本発明で用いられるアセトアルデヒド低減剤としては、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリビニルアルコール類などの水酸基含有ポリマー、低分子量のアミノ基含有化合物、低分子量の水酸基含有化合物、ヒンダートフェニール系化合物、ヒンダートアミン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ポリフェノール系化合物、リン系安定剤、イオウ系安定剤、アルカリ金属とその有機塩等が挙げられる。
【0072】
アセトアルデヒド低減剤として配合するポリアミドとしては、脂肪族ポリアミド、部分芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種のポリアミドが挙げられる。
脂肪族ポリアミドとしては、具体的には、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン6/66、ナイロン6/610等が例示される。
部分芳香族ポリアミドの好ましい例としては、メタキシリレンジアミン、もしくはメタキシリレンジアミンと全量の30%以下のパラキシリレンジアミンを含む混合キシリレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に少なくとも20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、特に好ましくは40モル%以上含有するメタキシリレン基含有ポリアミドである。
また、部分芳香族ポリアミドは、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3塩基以上の多価カルボン酸から誘導される構成単位を実質的に線状である範囲内で含有していてもよい。
【0073】
これらポリアミドの例としては、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンスペラミド等のような単独重合体、及びメタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンピペラミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアゼラミド共重合体、メタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸/ε−カプロラクタム共重合体、メタキシリレンジアミン/アジピン酸/イソフタル酸/ω―アミノカプロン酸共重合体等が挙げられる。
また、部分芳香族ポリアミドの好ましいその他の例としては、脂肪族ジアミンとテレフタル酸またはイソフタル酸から選ばれた少なくとも一種の酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に少なくとも20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、特に好ましくは40モル%以上含有するポリアミドである。
これらポリアミドの例としては、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体、ポリノナメチレンテレフタルアミド、ポリノナメチレンイソフタルアミド、ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/イソフタル酸共重合体、ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸共重合体等が挙げられる。
【0074】
また、部分芳香族ポリアミドの好ましいその他の例としては、脂肪族ジアミンとテレフタル酸またはイソフタル酸から選ばれた少なくとも一種の酸以外に、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸等のアミノカルボン酸類、パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等を共重合成分として使用して得た、脂肪族ジアミンとテレフタル酸またはイソフタル酸から選ばれた少なくとも一種の酸とから誘導される構成単位を分子鎖中に少なくとも20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、特に好ましくは40モル%以上含有するポリアミドである。
これらポリアミドの例としては、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム共重合体、ヘキサメチレンジアミン/イソフタル酸/ε−カプロラクタム共重合体、ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸/ε−カプロラクタム共重合体等が挙げられる。
【0075】
また、ポリエステルアミドとしては、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびポリエチレンイミンから製造されたポリエステルアミド、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびヘキサメチレンジアミンから製造されたポリエステルアミド、テレフタル酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびヘキサメチレンジアミンから製造されたポリエステルアミド、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびビス(p−アミノシクロヘキシル)メタンから製造されたポリエステルアミドおよびこれらの混合物などが挙げられる。共重合成分として使用できる酸成分としては、セバシン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スぺリン酸、アゼライン酸、ウンデカン酸、ウンデカジオン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、オルソフタル酸、キシリレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類が挙げられる。
【0076】
用いられるポリアミドやポリエステルアミドは、DSC(示差走査熱量計)で測定した二次転移点が、50〜120℃であることが好ましい。二次転移点が50℃未満の場合は、乾燥工程やポリエステル樹脂との押出し時に融着したり、定量的に押出せなかったりするので好ましくない。また、120℃を越える場合には、ポリエステル未延伸成形体を延伸する際に均一に延伸されないで厚み斑などが生じて好ましくない。
【0077】
また、水酸基含有ポリマーとしてはポリビニールアルコール、エチレンビニールアルコールポリマーなどが挙げられる。
【0078】
低分子量の水酸基含有化合物としては、糖アルコール、トリグリセリン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、デキストリン、シクロデキストリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどのポリオール類およびこれらのアルコキシル化ポリオール類などが挙げられる。
【0079】
また、低分子量のアミノ基含有化合物としては、ステアリルアミンなどの脂肪族アミン化合物、o−フェニレンジアミン、3,4−ジアミノ安息香酸、1,8−ジアミノナフタレン、N,N‘−1,6−ヘキサンジルビス(2−アミノベンズアミド)、4,4´−ジアミノジフェニールメタンなどの芳香族アミン化合物、アンスラニルアミド、サリシルアミド、サリシルアニリド、o−メルカプトベンズアミド、N−アセチルグリシンアミド、マロンアミド、2−アミノベンゼンスルホンアミドなどの酸アミド化合物類、2,3−ジアミノピリジン、1,2−ジアミノアンスラキノン、ジアニリノエタンなどのジアミノ化合物類、メラミン、ベンゾグアナミンなどのトリアジン化合物、4−アミノ−3−ヒドロキシ安息香酸、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオールなど官能基がアミノ基およびヒドキシル基である化合物類、アミノ酸等が挙げられる。
【0080】
これらのポリアミド化合物、低分子量アミノ基含有化合物、あるいは水酸基含有化合物などのアセトアルデヒド低減剤は、単独で用いても良いし、適当な割合で混合して用いても良い。
【0081】
また、低分子量のアセトアルデヒド低減剤は、そのままの形で使用することが不都合な場合は、熱可塑性ポリエステル(B)との濃縮したマスターバッチ(以下、「MB」と略称することがある。)として用いる方が好都合である。
【0082】
前記アセトアルデヒド低減剤は、例えば、本発明に係る熱可塑性ポリエステル100重量部に対して0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜3重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部用いることができる。0.001重量%未満ではアセトアルデヒド含有量の低減効果がなくなり問題である。また、5重量%を超えると成形体の透明性や色調などが悪くなる。
【0083】
前記アセトアルデヒド低減剤は、例えば、熱可塑性ポリエステル(B)の低重合度オリゴマーの製造からポリエステルポリマーの製造の任意の反応段階に於いて所定量のアセトアルデヒド低減剤を添加することによって配合することができる。前記のアセトアルデヒド低減剤が高分子量の樹脂である場合は細粒、粉状、溶融体、あるいは溶液など適当な形として、また、低分子量化合物である場合は粉状、溶液状の形として、エステル化反応器や重縮合反応器などの反応器に添加したり、前記の反応器から次工程の反応器への前記ポリエステルの反応物の輸送配管中に前記アセトアルデヒド低減剤またはこれと前記ポリエステルとの混合物を溶融状態で導入したりして配合できる。さらには必要に応じて得られたチップを高真空下または不活性ガス雰囲気下で固相重合することも可能である。
【0084】
[リサイクル品]
本発明に係る熱可塑性ポリエステル(A)層や熱可塑性ポリエステル(B)層には、ポリエステルを射出成形機などの溶融成形機によって加熱溶融後に成形体やシート状物などの形態にしたあと、製品とせずに回収したポリエステルや使用済みポリエステル容器を回収し、異物除去、洗浄、乾燥、あるいは再押出などの工程を経たフレーク形状やチップ形状にしたポリエステルを配合することが可能である。これらのリサイクル品の極限粘度は0.60〜0.80dl/g程度が好ましい。また、配合量は、1〜50重量%の範囲が好ましい。
【0085】
[多層成形体]
本発明において、溶融重縮合により得られた熱可塑性ポリエステル(A)溶融物は、脱気処理工程を経るか又は経ずに、押出機やギヤーポンプなどの輸送手段によって多層プリフォーム成形機などの多層成形体用成形機に輸送される。
そして、多層成形体が多層プリフォームである場合は、例えば、特開平8−253222号公報に記載されたような共射出成形方法や逐次射出成形法、あるいはツインショット社のサンドイッチ成型法などによって成形可能である。
【0086】
本発明の多層成形体は、例えば、溶融重縮合反応器からの熱可塑性ポリエステル(A)の溶融物を貯留し、次いで、多層成形体用ホットランナーノズルに間歇的に供給する射出成形装置と、固相重合した熱可塑性ポリエステル(B)を溶融し、次いで、多層成形体用ホットランナーノズルの別の流路に間歇的に供給する射出成形装置と、を備えた共射出成形機を用いて成形することが可能である。
すなわち、熱可塑性ポリエステル(A)の溶融物は、この溶融物の輸送手段と多層プリフォームの共射出成形機との間にアキュムレータなどの貯留槽を設け、押出機からの連続樹脂流を一旦アキュムレータに貯留し、貯留されたポリエステル溶融物を間欠的に共射出成形用ホットランナーに供給することで多層成形体の成形が可能である。
【0087】
射出成形時の樹脂温度は260〜300℃、好ましくは260℃〜280℃の範囲が好ましい。
本発明の多層延伸成形体がボトルの場合には、前記多層プリフォームを90〜120℃に加熱後、2軸延伸成形する。
耐熱ボトルや耐熱圧ボトルの場合には、多層プリフォームの口部を熱結晶化させることができる。口部の熱結晶化は、一般に、延伸ブローに先立って、プリフォームの予備加熱前、予備加熱中、或いは予備加熱後に行うことが好ましい。
二軸延伸ブロー成形は、一段法でも二段法でも行うことができる。延伸温度にあるプリフォームを、100〜200℃の温度のブロー成形金型内で、軸方向に引っ張り延伸すると共に、気体を吹き込み周方向にブロー延伸する。
【0088】
本発明の多層成形体である多層プリフォームを用いることにより、ブロー成形金型の汚れが改善され、したがって透明性の優れた耐熱性延伸ボトルを得ることが可能である。また、金型汚れが改善されるため生産性が向上され、経済的な生産が可能となるのである。
本発明の多層成形体の層構成は、これから得られる多層容器の用途や要求特性にしたがって決められる。例えば、耐熱性の3層構成の延伸容器に2軸延伸成形される場合は、外層または内層には熱可塑性ポリエステル(B)を用い、中間層には熱可塑性ポリエステル(A)を用いることが好ましい。
【0089】
この場合、最外層の環状3量体含有量は、8000ppm以下、好ましくは5000ppm以下、さらに好ましくは4000ppm以下である。また、最内層のアセトアルデヒド含有量は30ppm以下、好ましくは20ppm以下、より好ましくは15ppm以下、最も好ましくは10ppm以下であることが好ましい。
多層成形体の層構成、各層の厚み、あるいは用途などによって、熱可塑性ポリエステル(A)溶融物に要求される特性を決めることが必要となる。
本発明の多層成形体は、前記の射出成形機以外に、多層押出成形機、多層圧縮成形機、多層中空成形機などを用いて成形することが可能である。
【0090】
なお、本発明において用いる熱可塑性ポリエステル(A)および熱可塑性ポリエステル(B)には、必要に応じて着色剤、顔料、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核剤、離型剤、赤外線吸収剤などを本発明の目的を損わない範囲で添加することができる。
本発明の多層成形体は、中空容器、シート状物、トレー状物、カップなどとして飲料や食品を充填するための容器や電線、金属板などの被覆材、あるいは繊維状物などの用途に使用できる。
【実施例】
【0091】
本発明を次の例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
実施例中の測定は次のように行った。
【0092】
(1)固有粘度(IV)
1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(2:3重量比)混合溶媒中30℃での溶液粘度から求めた。
【0093】
(2)ポリエステルのアセトアルデヒド含有量(以下「AA」という)
試料/蒸留水=0.2〜1グラム/2ccを窒素置換したガラスアンプルに入れた上部を溶封し、160℃で2時間抽出処理を行い、冷却後抽出液中のアセトアルデヒドを高感度ガスクロマトグラフィーで測定し、濃度をppmで表示した。前記操作を5回繰返し、その平均値をAA含有量とする。
なお、測定に供する各層の試料は、成形体から削り取るなどして採取するが、単離困難な場合は各層の成形機から金型外へ射出された樹脂を試料としてもよい。(3)以降の分析でも同じである。
【0094】
(3)ポリエステルの環状三量体の含有量(以下「CT」という)
試料300mgをヘキサフルオロイソプロパノ−ル/クロロフォルム混合液(容量比=2/3)3mlに溶解し、さらにクロロフォルム30mlを加えて希釈する。これにメタノ−ル15mlを加えてポリマ−を沈殿させた後、濾過する。濾液を蒸発乾固し、ジメチルフォルムアミド10mlで定容とし、高速液体クロマトグラフ法により環状三量体を定量した。前記操作を5回繰返し、その平均値をCT含有量とする。
【0095】
(4)ポリエステルのジエチレングリコ−ル含有量(以下[DEG含有量」という)
メタノールにより分解し、ガスクロマトグラフィ−によりDEG量を定量し、全グリコ−ル成分に対する割合(モル%)で表した。
【0096】
(5)ポリエステルおよび成形体のカラーb値
結晶化したポリエステルおよび成形体を東京電色製色差計TC−1500MC−88 JIS−Z8722(ハンター系色差)に準じて測定した。チップまたは約2mm角のチップ状に切断したサンプルをガラス製セルに8分目まで入れた。さらに軽くセルを振り、密に詰めた後、蓋が出来るまでレジンを追加し、蓋をした。樹脂を詰めたセルを試料台に乗せ、測定した。測定はセルを1回測定するごとに約120度づつ回して3回、すなわち120度づつ3方向から測定し、その平均を求めた。
また、プリフォームは、これを縦に切断した試料について測定した。
【0097】
(6)ファインの含有量の測定
樹脂約0.5kgを、JIS−Z8801による呼び寸法5.6mmの金網をはった篩(A)と呼び寸法1.7mmの金網をはった篩(直径20cm)(B)を2段に組合せた篩の上に乗せ、テラオカ社製揺動型篩い振トウ機SNF−7で1800rpmで1分間篩った。この操作を繰り返し、樹脂を合計20kg篩った。ただし、ファイン含有量が少ない場合には、試料の量を適宜変更する。
前記の篩(B)の下にふるい落とされたファインは、0.1%のカチオン系界面活性剤水溶液で洗浄し、次いでイオン交換水で洗浄したあと岩城硝子社製G1ガラスフィルターで濾過して集めた。これらをガラスフィルターごと乾燥器内で100℃で2時間乾燥後、冷却して秤量した。再度、イオン交換水で洗浄、乾燥の同一操作を繰り返し、恒量になったことを確認し、この重量からガラスフィルターの重量を引き、ファイン重量を求めた。ファイン含有量は、ファイン重量/篩いにかけた全樹脂重量、である。
【0098】
[実施例1]
連続溶融重縮合反応装置からの溶融物(PET−A)(中間層用PET)と連続溶融重縮合―固相重合反応装置からの固相重合PET(PET−B)チップ(内外層用PET)を用いて成形できる多層成形機により3層構成の多層プリフォームを成形した。
【0099】
(PET―B)
予め反応物を含有している第1エステル化反応器に、高純度テレフタル酸とエチルグリコールを連続的に供給し、撹拌下、約250℃、150KPaで平均滞留時間3時間反応を行った。また、二酸化ゲルマニウムのエチレングリコ−ル溶液及び燐酸のエチレングリコール溶液とを別々にこの第1エステル化反応器に連続的に供給した。この反応物を第2エステル化反応器に送付し、撹拌下、約260℃、110KPaで所定の反応度まで反応を行った。このエステル化反応生成物を連続的に第1重縮合反応器に送り、撹拌下、約265℃、25torrで1時間、次いで第2重縮合反応器で撹拌下、約265℃、3torrで1時間、さらに第3重縮合反応器で撹拌下、約275℃、0.5〜1torrで重縮合させた。得られたPET樹脂の極限粘度(IV)は0.56dl/g、DEG含有量は2.6モル%であった。
なお、チップ化時の冷却水としては、ナトリウム含有量が0.1ppm、カルシウム含有量が約0.1ppm、マグネシウム含有量が約0.06ppm、珪素含有量が約0.7ppmのイオン交換水を用いた。
この樹脂をファイン除去後、引き続き窒素雰囲気下、約155℃で結晶化し、さらに窒素雰囲気下で約200℃に予熱後、連続固相重合反応器に送り窒素雰囲気下約207℃で固相重合した。固相重合後篩分工程およびファイン除去工程で連続的に処理しファインを除去した。
得られたPETの極限粘度は0.75dl/g、アセトアルデヒド(AA)含有量は3.2ppm、環状3量体の含量は0.35重量%、カラーbは0.8、ファイン含有量は約50ppmであった。残存Ge含有量は45ppm、残存P含有量は30ppmであった。
これを減圧乾燥機で乾燥後、多層成形機の内外層用射出成形機に供給する。
【0100】
(PET−A)
重縮合触媒の添加量を変更し、最終反応器での重縮合時間を変更する以外はPET−Bと同様にして溶融重縮合反応させて、極限粘度が0.75dl/g、DEG含有量は2.6モル%、アセトアルデヒド(AA)含有量が60ppm、環状3量体の含量が1.05重量%、カラーbが1.0、の溶融物を得、これをベント付き押出機を経由して脱気処理したあと貯留槽に貯め、これを介して接続された前記多層射出成形機により、前記のPET−Bとともに多層プリフォームを成形した。
【0101】
多層プリフォームの内層及び外層の極限粘度は、いずれも0.74dl/gであり、内層及び外層の環状3量体含有量は、それぞれ、0.37重量%及び0.38重量%と低く、また、内層及び外層のAA含有量は、それぞれ、12ppm及び11ppmと低かった。また、中間層の極限粘度およびアセトアルデヒド含有量は、それぞれ、0.75dl/gおよび22ppmであった。また、プリフォームのカラーbは1.1であった。なお、PET−A層の残存Ge含有量は47ppm、残存P含有量は31ppmであった。
なお、内外層などの測定用試料はプリフォーム内外層などから削り取った。
また、連続成形時においても、金型のベント部への環状3量体を含むオリゴマーの蓄積は少なく連続生産が可能であった。
得られた多層プリフォームの口栓部を赤外線加熱で結晶化させた後、CORPOPLAST社製のLB−01E成形機を用いて二軸延伸ブローし、引き続き約150℃に設定した金型内で約30秒間熱固定して耐熱性ボトルを成形した。500本連続成形したがボトルの透明性は問題なかった。
【0102】
[実施例2]
ポリアミド樹脂として東洋紡績社製T640 1重量%をPET−Bに添加する以外は実施例1と同様にして多層プリフォームを成形した。
内層及び外層の極限粘度は、いずれも0.74dl/gであり、内層及び外層の環状3量体含有量は、両者共に0.37重量%と低く、内層及び外層のAA含有量は、それぞれ、8ppmおよび7ppmと低かった。また、中間層の極限粘度およびアセトアルデヒド含有量は、それぞれ、0.74dl/gおよび23ppmであった。
実施例1と同様にして、500本連続成形したがボトルの透明性は問題なかった。
【0103】
[実施例3]
内外層としては実施例1のPET−Bを用い、また、実施例1のPET−Aを脱気処理せずに用いる以外は実施例1と同様にして多層プリフォームを成形した。
内層及び外層の極限粘度は、いずれも0.72dl/gであり、多層プリフォームの内層及び外層の環状3量体含有量は、両者共に0.37重量%と低く、また、内層及び外層のAA含有量は、それぞれ、12ppm及び11ppmと低かった。また、中間層の極限粘度およびアセトアルデヒド含有量は、それぞれ、0.71dl/gおよび85ppmであった。
実施例1と同様にして、500本連続成形したがボトルの透明性は問題なかった。
【0104】
[実施例4]
重縮合触媒として三酸化アンチモンのエチレングリコール溶液、酢酸コバルトのエチレングリコール溶液を用いる以外は実施例1と同様にして試験を行い、多層プリフォームを得た。
(PET−B)
得られたPETの極限粘度は0.75dl/g、DEG含有量は3.0モル%、アセトアルデヒド(AA)含有量は3.8ppm、環状3量体の含量は0.35重量%、カラーbは0.6、ファイン含有量は約50ppmであった。残存Sb含有量は200ppm、残存Co含有量は5ppm、残存P含有量は10ppmであった。
(PET−A)
極限粘度が0.75dl/g、DEG含有量は3.0モル%、アセトアルデヒド(AA)含有量が65ppm、環状3量体の含量が1.03重量%、カラーbが0.8、の溶融物を得た。
多層プリフォームの内層及び外層の極限粘度は、いずれも0.74dl/gであり、内層及び外層の環状3量体含有量は、それぞれ、0.39重量%及び0.38重量%と低く、また、内層及び外層のAA含有量は、それぞれ、13ppm及び14ppmと低かった。また、中間層の極限粘度およびアセトアルデヒド含有量は、それぞれ、0.76dl/gおよび25ppmであった。なお、測定用試料はプリフォーム内外層から削り取った。また、プリフォームのカラーbは0.9であった。なお、PET−A層の残存Sb含有量は210ppm、残存Co含有量は5ppm、残存P含有量は10ppmであった。
また、連続成形時においても、金型のベント部への環状3量体を含むオリゴマーの蓄積は少なく連続生産が可能であった。
実施例1と同様に500本連続成形したがボトルの透明性は問題なかった。
【0105】
[比較例1]
実施例1のPET−Aのみを用い、単層プリフォームを成形する射出成形機を用いて単層プリフォームを成形した。
プリフォームの環状3量体含有量は1.1重量%と高く、また、AA含有量も100ppmと高く問題であった。
金型ベント部の詰まりは頻繁に生じ、掃除のために停台を余儀なくされ経済的な生産が難しかった。
また、実施例1と同様にして耐熱性ボトルを成形したが、成形開始直後は除き、透明性の悪いボトルしか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、溶融重縮合された熱可塑性ポリエステルの溶融物と固相重合された熱可塑性ポリエステルとから、外層中あるいは内外層中の環状3量体やアセトアルデヒドの含有量が少ない、透明性および成形性に優れた多層延伸成形体を形成しうる多層成形体とその製造方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、溶融重縮合反応後の溶融物から得られる環状3量体含有量が10000ppm超の熱可塑性ポリエステル(A)層と、環状3量体含有量が8000ppm以下の熱可塑性ポリエステル(B)層とを含む多層構造であることを特徴とする多層成形体。
【請求項2】
層構成が3層以上であり、熱可塑性ポリエステル(B)層が最外層と最内層であることを特徴とする請求項1に記載の多層成形体。
【請求項3】
熱可塑性ポリエステル(A)層の含有量が、30〜99.5重量%であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項4】
熱可塑性ポリエステル(B)の極限粘度が0.50〜1.2dl/g、アセトアルデヒド含有量が20ppm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項5】
熱可塑性ポリエステル(A)の極限粘度が0.60〜0.90dl/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項6】
熱可塑性ポリエステル(A)層または熱可塑性ポリエステル(B)層の少なくとも一層がアセトアルデヒド低減剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項7】
多層成形体が、有底の多層プリフォームであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項8】
多層成形体が、シート状物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の多層成形体を少なくとも一方向に延伸してなる多層延伸成形体。

【公開番号】特開2011−168061(P2011−168061A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113434(P2011−113434)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【分割の表示】特願2005−297844(P2005−297844)の分割
【原出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】