説明

多層構造液晶光学素子およびその製造方法

【課題】加工が容易にできると共に、液晶の充填量および十分な光学的距離Lを確保し、応答速度と光透過率を向上することができる多層構造液晶光学素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】多層構造液晶光学素子100は、セグメント電極が形成された基板10aと電極が形成されていない基板10bとの間に液晶40が封入される第1の単素子10と、電極が形成されていない基板20aとコモン電極が形成された基板20bとの間に液晶40が封入される第2の単素子20と、電極が形成されていない基板30a,30bの間に液晶40が封入される第3の単素子30とを備え、第1の単素子10と第2の単素子20の間に第3の単素子30が4つ配置され積層してなる。また、第1の単素子10および上の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向と、第2の単素子20および下の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向とは互いに直交するように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメント電極が形成された基板とコモン電極が形成された基板との間に、複数の液晶層を有する多層構造液晶光学素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極を形成した基板の間に液晶を挟んで構成される様々な液晶光学素子が知られている。例えば、情報記録媒体としてCD、DVD等の各種光ディスク装置があるが、これらの光ディスク装置は、回転することによる厚さずれや反り等によって、収差(集光スポットの歪)を生ずるため、この収差を補正して記録・再生の精度を確保する必要がある。そのため、同心円のリング状に電極を形成した基板で、液晶を挟み込んだ液晶収差補正素子が用いられ、これにより、光束の中央部と外縁部とで、異なる位相制御を行っている(特許文献1)。
【0003】
従来の液晶光学素子では、液晶の分子配列状態を電気的に制御し、それによって、光に対する屈折率などの性質を変化させている。二次元的あるいは三次元的に屈折率の分布を変化制御することによって、各光路における位相遅れ量や光路の屈折状態を制御できるので、電子的に焦点を可変できる液晶レンズや液晶収差補正素子などの、光学素子として有益な機能素子である。しかし、実応用に有用な光の屈折効果を最大限に引き出すためには、液晶光学セルの対応する両配向膜の間に、光路に沿って十分な量の液晶を保持する必要があり、このために液晶層の厚さ(両配向膜の間)は、通常の液晶表示セルが数μm程度であるのに対して、30〜100μm程度と極めて厚くする必要がある。
【0004】
また、液晶の応答速度は、液晶層の厚さ(両配向膜の間)の2乗に逆比例することが知られており、このように厚い液晶光学セルの場合には、応答時間は数100ms〜数分になる。即ち、従来の多くの液晶光学素子は、応答速度が遅いという問題点があった。
【0005】
機器を制御する際に応答速度が遅いことは、液晶光学素子を利用する焦点可変レンズ機能や収差補正機能にとって大きな制約であり、実用化への課題であった。
【0006】
近年、液晶レンズのパワーおよび応答速度を改善するために、2層の液晶層を有する光学素子が提案された(特許文献2)。
【0007】
特許文献2に記載の光学素子は、2層の液晶層を有する2つの液晶セルを重ねて2重構造に構成したものである。各液晶セルにおいて、液晶層は透明ガラス層(絶縁層)により2層に分割されている。この場合、2つの液晶セルの接続面に電極が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−237077号公報
【特許文献2】特開2006−91826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の液晶光学素子は、上述したように、応用上必要な屈折率変化を得るためには、厚い液晶層を透過させて十分な光学的距離Lを確保する必要がある。
【0010】
一般的に、液晶層が厚くなると応答時間は液晶層の厚さ(両配向膜の間)の二乗に比例して遅くなることが知られている。そのため、液晶層の厚さを厚くすると応答速度が低下する問題点があり、実用化に課題があった。
【0011】
また、特許文献2は、液晶レンズパワーの増大、応答速度の改善が限定的であり、レンズパワーをより大きく、さらに応答速度を速くするために、多層の液晶層にする必要がある。しかし、多層の液晶層にする場合、中間の透明ガラス層が厚いため、液晶素子が厚くなる。そのため、応答速度が低下し、高い印加電圧が必要となる。
【0012】
また、液晶素子を薄くするために、薄い透明ガラス層を用いる場合、製造工程において、ハンドリング、洗浄、加工、焼成などが困難である。
【0013】
また、2つの液晶セルを重ねて2重構造にする場合は、2つの液晶セルの接続側の基板にITO膜、高抵抗膜、配向膜が存在しているため、光の透過率が低下するという問題点があった。また、2重構造にする場合は、電極の数が多くなり、各電極へ接続する端子の配置が複雑になる欠点があった。
【0014】
そこで、本発明は、片方の基板に電極を有する液晶セルの単素子と、両方の基板に電極を有さない複数の液晶セルの単素子とを形成した後、液晶セルの単素子の接着する側の基板を所定の厚さに研磨し積層することによって、加工が容易にできると共に、液晶の充填量および十分な光学的距離Lを確保し、応答速度と光透過率を向上することができる多層構造液晶光学素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明に係る多層構造液晶光学素子は、セグメント電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶が封入される第1の単素子と、コモン電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶が封入される第2の単素子と、電極が形成されていない2つの基板の間に液晶が封入される第3の単素子とを備え、前記第1の単素子と第2の単素子の間に前記第3の単素子が複数配置され積層してなることを特徴とする。
【0016】
例えば、前記多層構造液晶光学素子において、前記電極が形成されていない基板は、前記液晶が封入された状態で薄く加工されてなる。
【0017】
また例えば、前記多層構造液晶光学素子において、前記第1の単素子および前記第3の単素子の一部の液晶の配向方向と、前記第2の単素子および他の前記第3の単素子の液晶の配向方向とは互いに直交するように配置される。
【0018】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る多層構造液晶光学素子の製造方法は、セグメント電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶を封入した後、電極が形成されていない基板を薄く加工して第1の単素子を形成する第1の単素子形成工程と、コモン電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶を封入した後、電極が形成されていない基板を薄く加工して第2の単素子を形成する第2の単素子形成工程と、電極が形成されていない2つの基板の間に液晶を封入した後、2つの基板を薄く加工して第3の単素子を形成する第3の単素子形成工程と、前記第1の単素子と第2の単素子の間に前記第3の単素子を複数配置し積層する積層工程とを備えることを特徴とする。
【0019】
例えば、前記液晶は、滴下法を用いて封入される。また例えば、前記多層構造液晶光学素子の製造方法において、前記積層工程において、前記第1の単素子および前記第3の単素子の一部の液晶の配向方向と、前記第2の単素子および他の前記第3の単素子の液晶の配向方向とは互いに直交するように配置される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る多層構造液晶光学素子および多層構造液晶光学素子の製造方法によれば、セグメント電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶を封入した後、電極が形成されていない基板を薄く加工して第1の単素子を形成し、コモン電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶を封入した後、電極が形成されていない基板を薄く加工して第2の単素子を形成し、電極が形成されていない2つの基板の間に液晶を封入した後、2つの基板を薄く加工して第3の単素子を形成し、第1の単素子と第2の単素子の間に第3の単素子を複数配置し積層することで、加工が容易にできると共に、液晶の充填量および十分な光学的距離Lを確保し、応答速度と光透過率を向上することができる。
【0021】
また、電極が形成されていない基板は、液晶を封入した状態で薄く加工されてなるため、液晶を封入する際に基板の変形(撓み)を防ぐことができ、均一な光学特性が得られる。また、基板を薄く加工するとき、基板は撓みを生じることがなく、平坦な面に加工することができる。
【0022】
また、液晶は、滴下法を用いて封入されることで、滴下量とスペース体積のバラツキは、基板の組み合わせ時にシール材の拡大の範囲で抑えることができ、薄く加工する時、従来の横から注入し封止する構造に比べて封止部のダメージがなく、ストレスを受けない利点がある。
【0023】
また、第1の単素子および第3の単素子の一部の液晶の配向方向と、第2の単素子および他の第3の単素子の液晶の配向方向とは互いに直交するように配置されることで、従来の2重液晶レンズより電極層(ITO層)、高抵抗膜層が少なく、光透過率が大幅に向上することができる。
【0024】
また、従来の2重液晶レンズより電極の数が少ないため、構造がシンプルで、製造が容易になり、製造コストを削減することができる。
【0025】
また、液晶セルの単素子から構成することで、従来の2重液晶レンズに比べて、多層構造にする際にアライメントが不要のため、組立が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施の形態の多層構造液晶光学素子100の構成を示す分解図である。
【図2】多層構造液晶光学素子100の構成を示すA−A断面図である。
【図3】多層構造液晶光学素子100の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】第1の単素子10の研磨前後の状態を示す断面図である。
【図5】第2の単素子20の研磨前後の状態を示す断面図である。
【図6】第3の単素子30の研磨前後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る多層構造液晶光学素子およびその製造方法を実施するための最良の形態を、図を参照して説明する。
【0028】
図1は、第1の実施の形態の多層構造液晶光学素子100の構成を示す分解図である。図2は、多層構造液晶光学素子100の構成を示すA−A断面図である。
【0029】
図1、図2に示すように、多層構造液晶光学素子100は、第1の単素子10と、第2の単素子20と、複数(この例では4つ)の第3の単素子30とを備え、第1の単素子10と第2の単素子20の間に第3の単素子30が4つ配置され積層して構成されている。また、第1の単素子および上の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向と、第2の単素子20および下の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向とは互いに直交するように配置される。
【0030】
第1の単素子10は、セグメント電極としての第一の駆動電極11および第二の駆動電極12が形成された基板10aと、電極が形成されていない基板10bと、基板10aと基板10bとの間に封入された液晶40と、シール材50とから構成されている。基板10aは、厚さ300μmの透明ガラス基板である。基板10bは、厚さ30μmの透明ガラス基板である。また、液晶40はシール材50によって内側に封入されている。
【0031】
また、図1に示すように、上の基板10aの中心部に円形の第二の駆動電極12が配置され、その周辺に第一の駆動電極11が配置されている。第一の駆動電極11は、第一の駆動端子Vに接続されている。また、第二の駆動電極12は、第二の駆動端子Vに接続されている。第一の駆動電極11および第二の駆動電極12に異なる電圧を印加することでレンズとして利用できる。
【0032】
第2の単素子20は、電極が形成されていない基板20aと、中央部に円形のコモン電極21が形成された基板20bと、基板20aと基板20bとの間に封入された液晶40と、シール材50とから構成されている。基板20aは、厚さ30μmの透明ガラス基板である。基板20bは、厚さ300μmの透明ガラス基板である。液晶40はシール材50によって内側に封入されている。また、基板20bの厚さ方向に穴が穿たれ、この穴にはコモン電極21へ接続するためのアース端子V設けられている(図2参照)。
【0033】
第3の単素子30は、電極が形成されていない基板30a,30bと、基板30aと基板30bとの間に封入された液晶40と、シール材50とから構成されている。基板30a,30bは、厚さ30μmの透明ガラス基板である。液晶40はシール材50によって内側に封入されている。
【0034】
また、この例の場合は、各液晶層の厚さは、10〜30μmである。液晶40は、例えば電圧印加時に、分子の長軸が電界方向に向く誘電率異方性が正のネマチック液晶(Np液晶)である。
【0035】
ここで、コモン電極21、第一の駆動電極11および第二の駆動電極12と液晶40との間に、一般的に設けられる配向膜、透明絶縁層や、基板10aに設けられる反射防止膜等は図示を省略している。
【0036】
以下、図3〜図6を参照して、本発明の多層構造液晶光学素子100の製造方法を説明する。図4〜図6には、1つの液晶セルのみを示している。
【0037】
図3に示すように、多層構造液晶光学素子100の製造する際に、まず、第1の単素子10、第2の単素子20、第3の単素子30をそれぞれ作成する。そして、第1の単素子10と第2の単素子20の間に第3の単素子30を複数(4つ)配置し積層する。
【0038】
例えば、図3中のステップS11〜19(第1の単素子形成工程)のように、第1の単素子10を作成する。まず、上の基板(一個の素子の場合、基板10aとなる)を所定寸法に加工する(S11)。例えば、厚さ300μmのシート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する。このシート状ガラスには複数の素子を形成できる。次に、上の基板の外側の表面にITO膜を付け、電極を形成する(S12)。ここで、エッチング等によるパターンニング処理を行って素子ごとに第一の駆動電極11と第二の駆動電極12を形成する。次に、上の基板の内側(液晶を充填する側)の表面に高抵抗膜を付ける(S13)。さらに配向膜を形成し、配向処理を行う(S14)。配向膜は、ポリイミド(PI:polyimide)等の液晶配向膜である。配向処理した後、上の基板の表面に反射防止膜(AR膜)を形成する。
【0039】
また、下の基板(一個の素子の場合、基板10bとなる)を所定寸法に加工する(S15)。例えば、厚さ300μmのシート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する。次に、下の基板の内側(液晶を充填する側)の表面に配向膜を形成し、配向処理を行う(S16)。次に、ギャップ材を混入したシール材を印刷する(S17)。ここで、素子ごとにそれぞれ液晶を封入するためのシール材をリング状に印刷する。
【0040】
次に、液晶滴下装置を用いてリング状のシール材の内側に液晶を滴下する(S18)。次に、図4(a)に示すように、上の基板と下の基板を組み合わせてセルを組み立てる(S19)。次に、下の基板を厚さ30μmに研磨する(S20)。即ち、下の基板を図4(a)中の線Cまでに薄くする。これにより、図4(b)に示すような第1の単素子10が得られる。研磨方法としては、メカニカル法もしくはエッチング法を用いる。
【0041】
また、図3中のステップS21〜29(第2の単素子形成工程)のように、第2の単素子20を作成する。まず、上の基板(一個の素子の場合、基板20aとなる)を所定寸法に加工する(S21)。例えば、厚さ300μmのシート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する。次に、上の基板の内側(液晶を充填する側)の表面に配向膜を形成し、配向処理を行う(S22)。
【0042】
また、下の基板(一個の素子の場合、基板20bとなる)を所定寸法に加工する(S24)。例えば、厚さ300μmのシート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する。次に、下の基板の内側(液晶を充填する側)の表面にITO膜を付け、電極を形成する(S24)。ここで、エッチング等によるパターンニング処理を行って素子ごとにコモン電極を形成する。電極20を形成する工程において、基板10にアース端子Vを設ける。次に、下の基板の内側(液晶を充填する側)の表面に配向膜を形成し、配向処理を行う(S25)。次に、ギャップ材を混入したシール材を印刷する(S26)。ここで、素子ごとにそれぞれ液晶を封入するためのシール材をリング状に印刷する。
【0043】
次に、液晶滴下装置を用いてリング状のシール材の内側に液晶を滴下する(S27)。次に、図5(a)に示すように、上の基板と下の基板を組み合わせてセルを組み立てる(S28)。次に、上の基板を厚さ30μmに研磨する(S29)。即ち、下の基板を図5(a)中の線Cまでに薄くする。これにより、図5(b)に示すような第2の単素子20が得られる。
【0044】
また、図3中のステップS31〜38(第3の単素子形成工程)のように、第3の単素子30を作成する。まず、上の基板(一個の素子の場合、基板30aとなる)を所定寸法に加工する(S31)。例えば、厚さ300μmのシート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する。次に、上の基板の内側(液晶を充填する側)の表面に配向膜を形成し、配向処理を行う(S32)。
【0045】
また、下の基板(一個の素子の場合、基板30bとなる)を所定寸法に加工する(S33)。例えば、厚さ300μmのシート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する。次に、下の基板の内側(液晶を充填する側)の表面に配向膜を形成し、配向処理を行う(S34)。次に、ギャップ材を混入したシール材を印刷する(S35)。ここで、素子ごとにそれぞれ液晶を封入するためのシール材をリング状に印刷する。
【0046】
次に、液晶滴下装置を用いてリング状のシール材の内側に液晶を滴下する(S36)。次に、図6(a)に示すように、上の基板と下の基板を組み合わせてセルを組み立てる(S37)。次に、上の基板と下の基板をそれぞれ厚さ30μmに研磨する(S38)。即ち、上の基板と下の基板を図6(a)中の線Cまでに薄くする。これにより、図6(b)に示すような第3の単素子30が得られる。
【0047】
次に、1個の第1の単素子10と1個の第2の単素子20の間に4個の第3の単素子30を配置し積層する(S41)。ここで、光の偏光、無偏光のレンズにするため、第1の単素子10と上の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向は、図2中の矢印に示すように紙面に平行する方向(左右方向)である。第2の単素子20と下の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向は、図2中の矢印に示すように紙面に垂直する方向である。即ち、第1の単素子10と上の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向と、第2の単素子20と下の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向は互いに直交するように配置される。また、各素子間は光学接着剤により接着される。
【0048】
次に、積層した複数の液晶素子を有する組み立て品をスライサー等を用いて個々の多層構造液晶光学素子100に切り分け、即ち製品サイズに切断する(S42)。これにより、図1に示す多層構造液晶光学素子100が得られる。
【0049】
このように本実施の形態においては、多層構造液晶光学素子100は、セグメント電極が形成された基板10aと電極が形成されていない基板10bとの間に液晶40が充填された第1の単素子10と、電極が形成されていない基板20aとコモン電極が形成された基板20bとの間に液晶40が充填された第2の単素子20と、電極が形成されていない基板30a,30bの間に液晶40が充填された第3の単素子30とを備え、第1の単素子10と第2の単素子20の間に第3の単素子30が複数(4つ)配置され積層して構成されている。各単素子の接着する側の基板を所定の厚さに研磨した後、積層する。
【0050】
多層構造液晶光学素子100の製造する際に、まず、第1の単素子10、第2の単素子20、第3の単素子30をそれぞれ作成する。そして、第1の単素子10と第2の単素子20の間に第3の単素子30が4つ配置され積層する。また、第1の単素子10および上の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向と、第2の単素子20および下の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向とは互いに直交するように配置される。
【0051】
これにより、加工が容易にできると共に、液晶の充填量および十分な光学的距離Lを確保し、応答速度と光透過率を向上することができる。
【0052】
また、電極が形成されていない基板は、液晶を封入した状態で所定厚さに薄く加工されてなるため、液晶を封入する際に基板の変形(撓み)を防ぐことができ、均一な光学特性が得られる。また、基板を薄く加工するとき、基板は撓みを生じることがなく、平坦な面に加工することができる。
【0053】
また、第1の単素子10および第3の単素子30の一部の液晶の配向方向と、第2の単素子20および他の第3の単素子30の液晶の配向方向とは互いに直交するように配置されることで、従来の2重液晶レンズより電極層(ITO膜)、高抵抗膜層が少なく、光透過率が大幅に向上することができると共に、製造コストを削減することができる。
【0054】
また、各単素子のセル組立段階までに比較的に厚いガラス基板を用いるため、液晶を封入する際に基板の変形を防ぐことができ、均一な光学特性が得られる。
【0055】
また、従来の2重液晶レンズより電極の数が少ないため、構造がシンプルで、製造が容易になり、製造コストを削減することができる。
【0056】
また、単素子から構成することで、従来の2重液晶レンズに比べて、多層構造にする際にアライメントが不要のため、組立が容易になる。
【0057】
基板10a,20bに設けた電極間に電圧を印加することで、液晶の分子配向を制御することができ、光学特性を変化させることができる。したがって液晶光学素子としての、応答時間を短縮することができ、光ピックアップでの記録・再生時に生ずる収差を補正するために用いる液晶収差補正素子として実用化できるようになる。
【0058】
なお、上述した実施の形態においては、第3の単素子30の個数を4つとしたが、これに限定されるものではない。例えば、2個、6個、8個の第3の単素子30を用いて構成するようにしてもよい。また、特殊なレンズとして、第3の単素子30の個数を奇数、例えば1個、3個、5個等にしてもよい。
【0059】
また、上述した実施の形態において、多層構造液晶光学素子100は、第1の単素子10側の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向が第1の単素子10と同じ、第2の単素子20側の2つの第3の単素子30の液晶の配向方向が第2の単素子20と同じである例を説明したが、これに限定されるものではない。隣接する単素子の液晶の配向方向を互いに垂直になるように配置してもよい。
【0060】
また、上述した多層構造液晶光学素子100の製造方法において、寸法200×200mmのシート状ガラスを用いて、その上に複数の素子を形成し、最後に製品サイズに切断する例を説明したが、これに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
この発明は、携帯電話機、携帯情報端末機(PDA)、デジタル機器等における超小型カメラに内蔵される、オートフォーカス機能やマクロ−ミクロ切替機能をもつ液晶光学素子、または、光ディスク装置において、光ピックアップでの記録・再生時に生ずる収差を補正するために用いる液晶光学素子として利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 第1の単素子
10a,10b,20a,20b,30a,30b 基板
11 第一の駆動電極(セグメント電極)
12 第二の駆動電極(セグメント電極)
20 第2の単素子
21 コモン電極
30 第3の単素子
40 液晶
50 シール材
100 多層構造液晶光学素子
アース端子
第一の駆動端子
第二の駆動端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメント電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶が封入される第1の単素子と、
コモン電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶が封入される第2の単素子と、
電極が形成されていない2つの基板の間に液晶が封入される第3の単素子とを備え、
前記第1の単素子と第2の単素子の間に前記第3の単素子が複数配置され積層してなることを特徴とする多層構造液晶光学素子。
【請求項2】
前記電極が形成されていない基板は、前記液晶が封入された状態で薄く加工されてなることを特徴とする請求項1に記載の多層構造液晶光学素子。
【請求項3】
前記第1の単素子および前記第3の単素子の一部の液晶の配向方向と、前記第2の単素子および他の前記第3の単素子の液晶の配向方向とは互いに直交するように配置されることを特徴とする請求項2または3に記載の多層構造液晶光学素子。
【請求項4】
セグメント電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶を封入した後、電極が形成されていない基板を薄く加工して第1の単素子を形成する第1の単素子形成工程と、
コモン電極が形成された基板と電極が形成されていない基板との間に液晶を封入した後、電極が形成されていない基板を薄く加工して第2の単素子を形成する第2の単素子形成工程と、
電極が形成されていない2つの基板の間に液晶を封入した後、2つの基板を薄く加工して第3の単素子を形成する第3の単素子形成工程と、
前記第1の単素子と第2の単素子の間に前記第3の単素子を複数配置し積層する積層工程とを備えることを特徴とする多層構造液晶光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記液晶は、滴下法を用いて封入されることを特徴とする請求項4に記載の多層構造液晶光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記積層工程において、前記第1の単素子および前記第3の単素子の一部の液晶の配向方向と、前記第2の単素子および他の前記第3の単素子の液晶の配向方向とは互いに直交するように配置されることを特徴とする請求項4に記載の多層構造液晶光学素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−175105(P2011−175105A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39282(P2010−39282)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(503376596)株式会社びにっと (13)
【Fターム(参考)】