説明

多成分チタン合金の熱特性および電気特性を変更する方法

【課題】チタン合金の機械的特性に悪影響を及ぼすこと無く、熱伝導率、導電率を向上させる。
【解決手段】チタン合金の中にホウ素0.01〜18.4%を導入して、TiB沈殿物を生成し、その後、TiB沈殿物を高温金属加工によって、金属流の方向に整列させる工程により熱伝導率、導電率の向上したチタン合金を得る。前記工程はホウ素を含有した溶融チタン合金を不活性ガスにより粉砕し針状TiB沈殿物を含む合金粉末を生成し、HIP処理により圧密し、熱間鍛造、ないし熱間押出の高温金属加工を行う事より成る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の背景]
1.発明の分野
本発明は、チタン合金の物理的特性を改善する方法に関し、より詳細にいうと、チタンベースの組成物から成る物品の熱伝導率を上昇させると共に電気抵抗率を低減させる方法に関する。
【0002】
2.背景技術の説明
チタン合金は、物理的特性と機械的特性との魅力的な組み合わせを提供し、航空宇宙産業や宇宙産業などの様々な産業において、著しい軽量化を提供するものである。しかし、チタン合金の熱伝導率は、鋼およびアルミニウムといった他の構造の金属と比べて低い。チタン合金の熱伝導率が低いことは、加熱速度と、加工および熱処理の後に得られる冷却速度とに影響を与える。チタン合金の他の欠点は、電気抵抗率が、鋼およびアルミニウムと比べて高いことである。電気抵抗率が高いことは、チタン合金の導体としての使用を制限する。従って、従来のTi−6Al−4Vといったチタン合金について、機械特性、特に、引張伸びおよび金属疲労に悪影響を及ぼすことなく、熱伝導率を上昇させると共に電気抵抗率を低減する、新規且つ改善された方法が求められている。本発明の方法は、この需要を満たすものである。
【0003】
[発明の概要]
本発明の新規且つ改善された方法によれば、ホウ化チタン(TiB)沈殿物をチタン合金の中に混入し、その後、チタン合金を制御しながら変形させて、TiB沈殿物を任意の方向に方向付け、熱特性および電気特性の改善を実現する。チタン合金を制御しながら変形させてTiB沈殿物を方向付けることは、高温金属加工によって行われる。
【0004】
鋳造法、鋳造および鍛錬処理、並びに、ガスアトマイズ法および素粉末混合法(blended elemental approach)などの粉末冶金技術といった任意の好適な方法によって、チタン合金組成物の中にホウ素を導入して、TiB沈殿物を生成する。TiB沈殿物を金属流の方向に沿って整列させることは、鍛造、圧延、および押出といった高温金属加工作業を用いて実現可能である。
【0005】
具体的な一実施例として、本発明の方法を用いて、Ti−6Al−4V(Ti−64)およびTi−6Al−2Sn−4Zr−2Mo(Ti−6242)といった多成分チタン合金の熱伝導率を上昇させると共に電気抵抗率を低減させることが可能である。
【0006】
[図面の簡単な説明]
図1は、TiBが混入されたチタン合金物品を製造するための、プレアロイ粉末冶金プロセスのフローチャートである。
【0007】
図2aは、Ti−6Al−4V−1Bの微細構造を示す図であり、粉砕された(アトマイズされた)状態のプレアロイ粉粒子の断面を示している。
【0008】
図2bは、高温静水圧プレス処理による粉体圧密化の後の、Ti−6Al−4V−1Bの微細構造を示す図である。
【0009】
図3は、Ti−6Al−4V−1B鍛造物品の様々な位置における、微細構造を示す図である。
【0010】
図4aは、Ti−6A1−4V−1Bのプレアロイ粉から成る押出物品の微細構造を示す図であり、押出軸に沿って整列したTiB沈殿物(暗段階)が示されている。
【0011】
図4bは、図4aを横方向から見た顕微鏡写真であり、TiB沈殿物の六角形の断面が示されている。
【0012】
図5は、(ナノTi−64と表示される)Ti−6A1−4V−1B鍛造物品および押出物品の熱伝導率と、Ti−6A1−4V物品の熱伝導率とを比較したグラフである。
【0013】
図6は、Ti−6A1−2Sn−4Zr−2Mo−1B鍛造物品の熱伝導率と、ベースラインTi−6A1−2Sn−4Zr−2Mo物品の熱伝導率とを比較したグラフである。
【0014】
図7は、(ナノTi−64と表示される)Ti−6A1−4V−1B鍛造物品の電気抵抗率と、Ti−6A1−4V物品の電気抵抗率とを比較したグラフである。
【0015】
図8は、Ti−6A1−2Sn−4Zr−2Mo−1B鍛造物品の電気抵抗率と、ベースラインTi−6A1−2Sn−4Zr−2Mo物品の電気抵抗率とを比較したグラフである。
【0016】
[発明の詳細な説明]
以下に、Ti−6Al−4V(Ti−64)およびTi−6Al−2Sn−4Zr−2Mo(Ti−6242)などの多成分チタン合金の熱伝導率を上昇させると共に、電気抵抗率を低減する方法を記載する。これらの方法は、二つの重要な要素、すなわち、
1) チタン合金マトリクスの中にTiB沈殿物を混入する工程、および、
2) 高温金属加工によって、TiB沈殿物を任意の方向に整列させる工程を含む。
【0017】
チタン合金組成物の中にホウ素を導入してTiB沈殿物を生成することは、異なる幾つかの方法、例えば、鋳造、鋳造および鍛錬処理、粉末冶金技術(ガスアトマイズ法および素粉末混合法)によって、実現可能である。ホウ素は、液体状態で、チタン合金に加えてよく、この場合、ホウ素は、液状チタン合金中に完全に溶解する。粉末冶金技術を用いる場合には、ホウ素は、固形の粉末を混合することによって、チタン合金に加えることが可能である。ホウ素をチタン合金に加えるために用いるプロセスとは無関係に、ホウ素を、元素状態で存在するホウ素であるTiBとして、または、任意の好適なマスター合金を含有するホウ素として、加えてもよい。ホウ素は、0.01重量%〜18.4重量%の範囲の量で加えてよい。より好ましくは、ホウ素は、チタン合金組成物に応じて、0.01重量%〜2重量%の範囲の量でチタン合金に加えてよい。
【0018】
鍛造、圧延、および押出などの高温金属加工作業を用いて、TiB沈殿物を、金属流の方向に沿って整列させることを実現することが可能である。
【0019】
本方法は、図1に示されるガスアトマイズ粉末冶金プロセスのフローチャートによって実施可能である。ホウ素を、溶融したチタン合金に加え、溶融した液体を、不活性ガスによって粉砕し(不活性ガスアトマイズし)、チタン合金粉末を得る。各粉粒子は、均一に且つランダムな方向に分布された針状のTiB沈殿物を含む。6体積%のTiB(暗い相)を含有するTi−6Al−4V−1B粉粒子断面の典型的な微細構造が、図2aに示されている。チタン合金粉末を、高温静水圧プレス処理(HIP)などの従来の技術を用いて、圧密して、十分に高密度の圧縮粉を得る。圧縮された状態では、TiB沈殿物は、チタン合金マトリクスにおいて、依然としてランダムな方向に、均一に分布されている。HIP後のTi−6Al−4V−1B粉の典型的な微細構造が、図2bに示されている。
【0020】
その後、圧縮粉に、鍛造、圧延、または押出といった金属加工作業を施す。チタン合金物品を生成するために一般的に用いられる高温加工パラメータにより、金属流の方向に沿ってTiB沈殿物を所望の通り整列できることが分かった。具体的な一実施例として、高温加工パラメータは次の通りである。
【0021】
温度範囲1750〜2200°Fおよびラム速度40インチ/分において、高さ16インチ×直径3.5インチの圧縮粉を、高さ3インチ×直径8インチのディスクに鍛造することによって形成されたTi−6Al−4V−1B物品の異なる箇所における顕微鏡写真が、図3に示されている。図3では、鍛造の後に、TiB針状の沈殿物(暗い相)が径方向に沿って整列していることが明らかである。2000°Fおよびラム速度100インチ/分において、直径3インチの圧縮粉を直径0.75インチの棒に押出するプロセスによって生成されたTi−6Al−4V−1B物品の別の典型的な微細構造が、図4に示されている。図4は、TiB沈殿物(暗い相)が押出軸に沿って整列していることを示している。
【0022】
TiBが混入された幾つかのチタン合金物品(表1に示される化合物)の熱特性および電気特性を評価した。比較のために、TiB沈殿物を有さないチタン合金に同じ試験を行った。熱伝導率の試験を、標準試験方法であるASTM E1461に従って行い、電気抵抗率を、標準的方法であるASTM B84によって測定した。
【0023】
【表1】

【0024】
図5では、(ナノTi−64と表示される)Ti−64−1B鍛造物品および押出物品の熱伝導率が、Ti−64物品の熱伝導率と比較されている。温度範囲70〜1250°Fにおいて、ナノTi−64鍛造品の径方向における熱伝導率、および、ナノTi−64押出品の軸方向における熱伝導率が、ベースラインTi−64よりも高いことが明らかである。
【0025】
図6では、Ti−6242−1B鍛造物品の熱伝導率データが、ベースラインTi−6242物品の熱伝導率データと比較されている。この材料システムでも、熱伝導率は、ベースラインよりも高いことが明らかである。最大35%の熱伝導率の上昇が、試験方向に沿って整列したTiB沈殿物を有する物品において、記録されている。
【0026】
図7では、(ナノTi−64と表示される)Ti−64−1B鍛造物品の電気抵抗率が、Ti−64物品の電気抵抗率と比較されている。温度範囲70〜1500°Fにおいて、ナノTi−64鍛造品の径方向における電気抵抗率が、ベースラインTi−64よりも低いことが明らかである。図8では、Ti−6242−1B鍛造物品の電気抵抗率データが、ベースラインTi−6242物品の電気抵抗率データと比較されている。この材料システムでも、電気抵抗率は、ベースラインよりも低いことが明らかである。最大20%の熱伝導率の低減が、試験方向に沿って整列したTiB沈殿物を有する物品において、記録されている。
【0027】
熱特性および電気特性の改善に加えて、TiBが混入されたチタン合金は、延性および金属疲労に悪影響することなく、機械特性に幾つかの利点を提供する。例えば、表2において、(ナノバージョンと称される)ホウ素修飾されたチタン合金物品の室温引張特性が、ベースラインチタン合金の室温引張特性と比較されている。ナノチタン合金において、引張耐力および引張極限強さは25%高く、弾性率は20%高いが、引張伸びは、そのベースラインチタン合金と等しい状態を維持している。
【0028】
【表2】

【0029】
本発明を、現在、最も典型的および好ましい実施形態と見なされるものに関連して、説明してきたが、本発明は、開示された実施形態に限定されるべきではなく、逆に、本発明の原理および添付の特許請求の範囲内に含まれる様々な変形および同様の構成を網羅することを意図するものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】TiBが混入されたチタン合金物品を製造するための、プレアロイ粉末冶金プロセスのフローチャートである。
【図2a】Ti−6Al−4V−1Bの微細構造を示す図であり、粉砕された(アトマイズされた)状態のプレアロイ粉粒子の断面を示している。
【図2b】高温静水圧プレス処理による粉体圧密化の後の、Ti−6Al−4V−1Bの微細構造を示す図である。
【図3】Ti−6Al−4V−1B鍛造物品の様々な位置における、微細構造を示す図である。
【図4a】Ti−6A1−4V−1Bのプレアロイ粉から成る押出物品の微細構造を示す図であり、押出軸に沿って整列したTiB沈殿物(暗い相)が示されている。
【図4b】図4aを横方向から見た顕微鏡写真であり、TiB沈殿物の六角形の断面が示されている。
【図5】(ナノTi−64と表示される)Ti−6A1−4V−1B鍛造物品および押出物品の熱伝導率と、Ti−6A1−4V物品の熱伝導率とを比較したグラフである。
【図6】Ti−6A1−2Sn−4Zr−2Mo−1B鍛造物品の熱伝導率と、ベースラインTi−6A1−2Sn−4Zr−2Mo物品の熱伝導率とを比較したグラフである。
【図7】(ナノTi−64と表示される)Ti−6A1−4V−1B鍛造物品の電気抵抗率と、Ti−6A1−4V物品の電気抵抗率とを比較したグラフである。
【図8】Ti−6A1−2Sn−4Zr−2Mo−1B鍛造物品の電気抵抗率と、ベースラインTi−6A1−2Sn−4Zr−2Mo物品の電気抵抗率とを比較したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン合金の熱伝導率を上昇させると共に電気抵抗率を低減させる方法であって、
上記チタン合金の中にホウ素を導入して、TiB沈殿物を生成する工程と、
上記TiB沈殿物を、高温金属加工によって、金属流の方向に整列させる工程とを含む、方法。
【請求項2】
上記TiB沈殿物を、鋳造、鋳造および鍛錬処理、または粉末冶金技術によって生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記高温金属加工は、鍛造、圧延、または押出である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記チタン合金は、Ti−6Al−4VまたはTi−6Al−2Sn−4Zr−2Moといった多成分材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記ホウ素は、上記チタン合金の重量の約0.01%〜18.4%である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記ホウ素を、溶融したチタン合金に加え、結果として生じる溶融した液体を、不活性ガスによって粉砕して、均一に且つ不揃いな方向に分布された針状のTiB沈殿物を含むチタン合金粉末を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記チタン合金粉末を、高温静水圧プレス処理によって圧密する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記高温金属加工は、約1750〜2000°Fの温度および約40インチ/分のラム速度における、圧縮粉の鍛造である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
上記高温金属加工は、約2000°Fの温度および約100インチ/分のラム速度における、圧縮粉の押出プロセスである、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
上記チタン合金は、延性が低下しない、または金属疲労しない、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−102394(P2012−102394A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189256(P2011−189256)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(507021931)エフエムダブリュー コンポジットシステムズ,インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】