説明

多接合型化合物半導体太陽電池

【課題】特性に優れた多接合型化合物半導体太陽電池を提供する。
【解決手段】第1電極、第1セル、バッファ層、第2セル、第2電極を少なくとも積層し、第2セルの格子定数は第1セルの格子定数よりも大きく、バッファ層の複数の半導体層の格子定数は、第1セル側から第2セル側にかけて順に大きくなり、第2セルに最も近い半導体層の格子定数は、第2セルの格子定数より大きく、複数の半導体層のうち、隣接する2層の格子定数差が最も大きくなる2層は、バッファ層の中央より第1セルに近い側に位置している多接合型化合物半導体太陽電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多接合型化合物半導体太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板を用い、シリコン基板にpn接合を形成したシリコン結晶系太陽電池が現在主流となっているが、シリコン結晶系太陽電池よりも高い光電変換効率が得られる太陽電池として直接遷移型で光吸収係数が大きい化合物半導体を用いる太陽電池がある。現在開発されている化合物半導体太陽電池の多くは、互いに異なる禁制帯幅の光電変換層(pn接合層)を複数有した多接合(タンデム)構造を有するものであり、太陽光スペクトルを有効活用できることから、光電変換層が1つである単一接合の化合物半導体太陽電池よりもさらに高い光電変換効率を得ることが可能である。
【0003】
互いに異なる禁制帯幅の光電変換層を複数有する多接合型化合物半導体太陽電池では、エピタキシャル成長による格子整合を考慮した系(格子整合系)が主に検討されている。格子整合系では3つの光電変換層を有する多接合型化合物半導体太陽電池として太陽光の入射側(受光面側)から、InGaPの光電変換層/GaAsの光電変換層/Geの光電変換層を有する多接合型化合物半導体太陽電池が開発されている。InGaPの光電変換層の禁制帯幅は約1.7〜2.1eVであり、GaAsの光電変換層の禁制帯幅は約1.3〜1.6eVであり、Geの光電変換層の禁制帯幅は約0.7eV以下である。
【0004】
図14は、従来の多接合型化合物半導体太陽電池を示す模式的な断面図である。図14(a)に示すように、太陽光はトップセル501側から入射してボトムセル504に向かって進むことになるので、その間にトップセル501、ミドルセル502、およびボトムセル504のそれぞれの光電変換層の禁制帯幅に基づく波長の太陽光が吸収されて、電気エネルギーに変換(光電変換)されることになる。ここで、セルは1つの光電変換層を含む複数の半導体層からなるものとする。
【0005】
したがって、禁制帯幅は大きい順に、トップセル501の光電変換層、ミドルセル502の光電変換層、ボトムセル504の光電変換層となっている。また、受光面側に第1電極505が形成され、受光面側と反対側(裏面側)に第2電極506が形成されている。
【0006】
太陽光スペクトルの有効利用のためには、3接合ならば、光電変換層の禁制帯幅は受光面側から、1.93eV/1.42eV/1.05eV材料の組み合わせがよいとされており、より高い光電変換を得るためにボトムセルの光電変換層の禁制帯幅が0.9〜1.1eV程度である材料の検討がなされている。
【0007】
禁制帯幅が1eV程度である材料の1つとしてInGaAsが提案されている。このInGaAsをボトムセル504として、トップセル501をInGaP、ミドルセル502をGaAsとした場合、ミドルセル502であるGaAsとボトムセル504となるInGaAsとは格子定数が異なり、その格子定数の差は約2%であり大きい。そこで、図14(b)に示されるようにミドルセル502とボトムセル504の間に、格子定数を変化させたバッファ層503を形成した多接合型化合物半導体太陽電池の開発が行われている。
【0008】
非特許文献1には、InGaP(トップセル)/GaAs(ミドルセル)/InGaAs(ボトムセル)の多接合型化合物半導体太陽電池でトップセル501(InGaP)とミドルセル502(GaAs)は格子整合しているが、格子定数が異なるミドルセル502(GaAs)とボトムセル504(InGaAs)との間に、InGaPの格子定数を変化させたバッファ層503を形成した多接合型化合物半導体太陽電池が示されている。
【0009】
また、図15、図16に示すように、半導体基板507(GaAs基板)上に格子整合したトップセル501のInGaPをエピタキシャル成長させて形成し、格子整合したミドルセル502のGaAsをエピタキシャル成長させて形成、その後、InGaPの格子定数を等間隔で変化させたバッファ層503をエピタキシャル成長させて形成した後、ボトムセル504のInGaAsをエピタキシャル成長させる内容が記載されている。バッファ層503のうち、最もボトムセル504側の格子定数は、図15の例ではボトムセル504よりも大きく、図16の例ではボトムセル504よりも小さくなっている。なお、図15、図16ではトンネル接合を省略した。特許文献1にも、同様の記載がある。
【0010】
ここで示されている半導体基板507上に、多接合型化合物半導体太陽電池の受光面側になる順、すなわち、トップセル501、ミドルセル502、ボトムセル504の順に積層する製法を逆積みと呼び、このように形成された構造を逆積3接合と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−324563号公報
【非特許文献1】J.F.Geisz et al. "Inverted GaInP/(In)GaAs/InGaAs triple-junction solar cells with low-stress metamorphic bottom junction." 33rd IEEE Photovoltaic Specialists Conference San Diego, California, May11-16,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1に示されるような多接合型化合物半導体太陽電池においては、格子定数が異なるミドルセル502(GaAs)とボトムセル504(InGaAs)との間に、InGaPの格子定数を変化させたバッファ層503を形成はしているものの、バッファ層及びボトムセルの結晶性を充分に高めることができず、ひいては特性を優れたものにすることができなかった。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ボトムセルの結晶性を良くすることで、従来の多接合型化合物半導体太陽電池よりもさらに特性に優れた多接合型化合物半導体太陽電池を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、第1電極、第1セル、バッファ層、第2セル、第2電極を少なくとも含む多接合型化合物半導体太陽電池において、第1電極は太陽光入射側に配置され、第1セルと第2セルは、それぞれ異なる禁制帯幅を持つ光電変換層を有し、かつ第2セルの格子定数は第1セルの格子定数よりも大きく、バッファ層は、複数の半導体層から構成されており、複数の半導体層の格子定数は、それぞれ第1セル側から第2セル側にかけて順に大きくなり、複数の半導体層のうち、第2セルに最も近い半導体層の格子定数は、第2セルの格子定数より大きく、複数の半導体層のうち、隣接する2層の格子定数差が最も大きくなる2層は、バッファ層の中央より第1セルに近い側に位置している多接合型化合物半導体太陽電池である。
【0015】
本発明は、第1の禁制帯幅の光電変換層を有する第1セルと、第1の禁制帯幅よりも小さい第2の禁制帯幅の光電変換層を有する第2セルと、第1セルと第2セルとの間に形成されたバッファ層と、第1セル側に配置された第1電極と、第2セル側に配置された第2電極とを有する多接合型化合物半導体太陽電池において、第2セルの格子定数は第1セルの格子定数よりも大きく、バッファ層は、複数の半導体層から構成されており、複数の半導体層の格子定数は、それぞれ第1セル側から第2セル側にかけて順に大きくなり、複数の半導体層のうち、第2セルに最も近い半導体層の格子定数は、第2セルの格子定数より大きく、複数の半導体層のうち、隣接する2層の格子定数差が最も大きくなる2層は、バッファ層の中央より第1セルに近い側に位置している多接合型化合物半導体太陽電池である。
【0016】
ここで、本発明の多接合型化合物半導体太陽電池において、格子定数差が最も大きくなる2層は、第1セルに最も近い2層であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の多接合型化合物半導体太陽電池において、隣接する2層の格子定数差が最も大きくなる2層の、第2セル側の層の格子定数をa1、第1セル側の層の格子定数をa2としたとき、格子定数a1と、格子定数a2との格子定数差が、0.015Å〜0.026Åであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の多接合型化合物半導体太陽電池において、第2セルの格子定数をa4、第2セルに最も近い半導体層の格子定数をa3とし、
第2格子定数差比(%)=(100×(a3−a4))/(a3)
としたとき、第2格子定数差比の値が、0.12%〜0.80%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ボトムセルの結晶性を良くすることができるので、従来の多接合型化合物半導体太陽電池よりもさらに特性に優れた多接合型化合物半導体太陽電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明の多接合型化合物半導体太陽電池の一例の模式的な断面構成図である。(b)は本発明の多接合型化合物半導体太陽電池の他の一例の模式的な断面構成図である。
【図2】本発明の多接合型化合物半導体太陽電池の一例の模式的な製造時の断面構成図である。
【図3】本発明の多接合型化合物半導体太陽電池のさらに他の一例の模式的な断面構成図である。
【図4】本発明の多接合型化合物半導体太陽電池のさらに他の一例の模式的な断面構成図である。
【図5】図4に示す多接合型化合物半導体太陽電池の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面構成図である。
【図6】図4に示す多接合型化合物半導体太陽電池の製造方法の一例の製造工程の他の一部を図解する模式的な断面構成図である。
【図7】多接合型化合物半導体太陽電池の製造方法を図解する模式的な断面構成図である。
【図8】半導体基板を再利用する多接合型化合物半導体太陽電池の製造方法の一例の製造工程の一部を図解する模式的な断面構成図である。
【図9】本発明の多接合型化合物半導体太陽電池のさらに他の一例の模式的な断面構成図である。
【図10】本発明の多接合型化合物半導体太陽電池のさらに他の一例の模式的な断面構成図である。
【図11】本発明の多接合型化合物半導体太陽電池を評価するための評価サンプルの一例の模式的な断面構成図である。
【図12】図11に示す本発明の多接合型化合物半導体太陽電池を評価するための評価サンプルの一例の模式的な断面構成図である。
【図13】ボトムセルのバンドギャップEgと開放電圧Vocとの関係を示す図である。
【図14】(a)は従来技術の多接合型化合物半導体太陽電池の一例の模式的な断面構成図である。(b)は従来技術の多接合型化合物半導体太陽電池の他の一例の模式的な断面構成図である。
【図15】従来技術の多接合型化合物半導体太陽電池の一例の模式的な製造時の断面構成図である。
【図16】従来技術の多接合型化合物半導体太陽電池の一例の模式的な製造時の断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の多接合型化合物半導体太陽電池の基本的な構造である。
【0022】
本発明の多接合型化合物半導体太陽電池を、図1(a)に示す。該多接合型化合物半導体太陽電池は、多接合セル306と、受光面側に形成された第1電極304と、支持基板307の裏面側に形成された第2電極305とから形成されている。多接合セル306は、第1セル301、第1セルと格子定数が異なる第2セル302、第1セル301と第2セル302との間に形成されたバッファ層303を含み、第1セル301、第2セル302以外の他のセルが単数、または複数形成されていてもよい。前記支持基板307は、例えば半導体基板である。また、多接合セル306と支持基板307との間に、金属層321が形成されている。
【0023】
図1(b)に、多接合セル306と支持基板307との間に第2電極305が形成された構造を示す。
【0024】
ここで、第1セル301は第2セル302に対して受光面側に形成され、第1セルに形成されている光電変換層の禁制帯幅(第1の禁制帯幅)は第2セル302に形成されている光電変換層の禁制帯幅(第2の禁制帯幅)よりも大きい。また、バッファ層303の禁制帯幅(第3の禁制帯幅)は第2の禁制帯幅よりも大きい。
【0025】
バッファ層303は、格子定数が異なる2つのセル間に形成した格子定数を変化させた複数の半導体層からなる。バッファ層303の各半導体層の格子定数は、それぞれ第1セル301側から第2セル302側にかけて順に大きくなるよう変化している。
【0026】
本発明の多接合型化合物半導体太陽電池は、図1(a)、(b)で示す多接合型化合物半導体太陽電池の受光面側より、第1セル301形成後バッファ層303を形成し、その後、第2セル302を形成する。複数の半導体層で形成されたバッファ層303の各半導体層は、化合物半導体のIII族元素の組成比を変化させエピタキシャル成長を行うことにより、第1セル301、第2セル302間において、順に各半導体層の格子定数を大きくするよう変化させ形成した。
【0027】
なお、第1セル301とバッファ層303との間に第1セル301と格子整合する複数の半導体層をエピタキシャル成長により形成してもよく、第2セル302とバッファ層303との間に第2セル302と格子整合する複数の半導体層をエピタキシャル成長により形成してもよい。
【0028】
バッファ層303を形成する複数の半導体層のうち、最も第2セル302側の半導体層の格子定数が第2セル302の格子定数よりも大きく、かつ、バッファ層303の中央より第1セル301に近い側に位置する2層の格子定数差が他の2層の格子定数差よりも大きい場合、第2セル302の結晶性が良くなることがわかった。第2セル302の結晶性が良くなることで、第2セル302の特性が良くなり、多接合型化合物半導体太陽電池の太陽電池特性も良くなることがわかった。
【0029】
これは、複数の半導体層が存在するバッファ層303のうち、2層の格子定数の差をある値以上にすると、転位が発生する現象以外に2次元成長から3次元成長に移行した結晶成長が、2層のうちの第2セル側の半導体層にわずかに起こり、このわずかに起こった3次元成長により第2セル側の半導体層の歪が緩和され結晶性が良好になると考えられる。
【0030】
よって、この歪緩和をバッファ層303内の中央の半導体層より第1セル301側で起こすことで、より結晶性の良い半導体層を第1セル301側に形成し、その半導体層上に半導体層を積層することにより、第2セル302の結晶性を良くすることができる。
【0031】
図2は、バッファ層303を形成する複数の半導体層のうち、他の2層より格子定数差の大きい2層が、最も第1セル301側にある場合を示した図である。第1セル301と第2セル302とは格子定数が異なる。ここで最も第1セル側にある2層の格子定数差をAとし、他の2層の格子定数差をBとしている。
【0032】
この場合には、第2セル302の結晶性が良くなることで、第2セル302の特性が良くなるものであって、これは前述と同様であるが、歪緩和をバッファ層303内の最も第1セル301側で起こすことで、第1セル301側よりに結晶性の良い半導体層を形成し、その半導体層上に半導体層を積層することになるため、第2セル302の結晶性がさらに良くなったためと考えられる。
【0033】
これから、バッファ層303の内部で結晶性が良好になる領域が広い方が好ましいので、歪緩和を起こす2層の位置はバッファ層303の中央より第1セル301に近い側にあるものとし、特に第1セル301に最も近い位置であることが好ましい。
【0034】
なお、多接合セル306内には、トンネル接合層が形成されていてもよい。トンネル接合層は2つの半導体層を電気的に接続するための高濃度ドープpn接合であり、少なくとも一対のp+層とn+層を含むものである。
【0035】
また、第1セル301、第2セル302等のセルには、光電変換層の他に、例えば受光面側に窓層や裏面側にBSF層(裏面電界層)等を設けることでキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また、最も電極側のセルに半導体層と電極との抵抗を低減させるためのコンタクト層を形成してもよい。
【0036】
窓層は光電変換層よりも受光面側に形成し、光電変換層よりも禁制帯幅が大きい材料で形成されている。窓層を形成することにより窓層と光電変換層との界面の結晶性が良好になり、表面再結合準位を減少させることで光電変換層に発生したキャリアを失わせないようにする効果がある。
【実施例1】
【0037】
図3は、実施例の具体的な構造の一例である。受光面となる側から、InGaP(トップセル)/GaAs(ミドルセル)/InGaAs(ボトムセル)を含む多接合型化合物半導体太陽電池が形成されている。GaAs(ミドルセル)とInGaAs(ボトムセル)とは格子定数が異なり、その格子定数の差は約2%である。
【0038】
図3に示すように、より具体的には支持基板101(たとえば厚さ400μm)上に受光面となる側から、第1電極128、トップセル40A、トンネル接合層(第1のトンネル接合層)50A、ミドルセル40B、トンネル接合層(第2のトンネル接合層)50B、バッファ層41A、ボトムセル40Cが積層され、支持基板101の裏面側に第2電極102が形成される多接合型化合物半導体太陽電池である。ここで、ボトムセル40Cと支持基板101との間には金属層151が形成されている。この金属層151は、例えば金と錫の合金で形成されていてもよく、抵抗加熱蒸着装置、EB(Electron Beam)蒸着装置等を用いて形成される。また、この場合の支持基板101は例えばシリコン等の半導体である。
【0039】
ボトムセル40Cは、支持基板101から順に、p型InGaAsからなるコンタクト層35(たとえば厚さ0.4μm)、p型In0.745Ga0.255PからなるBSF層34(たとえば厚さ0.1μm)、p型InGaAsからなるベース層33(たとえば厚さ3μm)とn型InGaAsからなるエミッタ層32(たとえば厚さ0.1μm)とからなる光電変換層60C、およびn型In0.745Ga0.255Pからなる窓層31(たとえば厚さ0.1μm)から構成されており、ボトムセル40C内は格子整合している。
【0040】
バッファ層41Aは、ボトムセル40C側から順に、n型In0.799Ga0.201P層30a(たとえば厚さ1μm)、n型In0.766Ga0.234P層29a(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.733Ga0.267P層28a(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.700Ga0.300P層27a(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.667Ga0.333P層26a(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.634Ga0.366P層25a(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.601Ga0.399P層24a(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.568Ga0.432P層23a(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.535Ga0.465P層22a(たとえば厚さ0.25μm)およびn+型In0.490Ga0.510P層21a(たとえば厚さ0.25μm)から構成されている。InGaP層のIII族元素であるInとGaとの組成比によりInGaP層の格子定数が変わるので、バッファ層41Aの各層は段階状に格子定数が変化している。
【0041】
n+型In0.490Ga0.510P層21aと、後で示すn+型AlInP層110とは格子整合しており、バッファ層41Aのn型In0.535Ga0.465P層22aからn型In0.799Ga0.201P層30aにかけて格子定数が段階状に変化している。
【0042】
n+型In0.490Ga0.510P層21aとn型In0.535Ga0.465P層22aとのGa組成xの差は0.045であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差の0.033よりも大きくなっている。よって、バッファ層41aを構成する2層間の格子定数の差がバッファ層41aを構成する他の2層間の格子定数の差よりも大きく、その箇所がミドルセル40B側に1箇所存在する。この時、他の2層間の格子定数の差はいずれも同じ格子定数の差となっている。
【0043】
トンネル接合層(第2のトンネル接合層)50Bは、バッファ層41A側から順に、n+型AlInP層110(たとえば厚さ0.05μm)、n++型In0.490Ga0.510P層111(たとえば厚さ0.02μm)、p++型AlGaAs層112(たとえば厚さ0.02μm)およびp+型AlInP層113(たとえば厚さ0.05μm)から構成されており、トンネル接合層(第2のトンネル接合層)50B内は格子整合している。
【0044】
ミドルセル40Bは、第2のトンネル接合層50B側から順に、p型In0.490Ga0.510PからなるBSF層114(たとえば厚さ0.1μm)、p型GaAsからなるベース層115(たとえば厚さ3μm)とn型GaAsからなるエミッタ層116(たとえば厚さ0.1μm)とからなる光電変換層60B、およびn型In0.490Ga0.510Pからなる窓層117(たとえば厚さ0.1μm)から構成されており、ミドルセル40B内は格子整合している。
【0045】
トンネル接合層(第1のトンネル接合層)50Aは、ミドルセル40B側から順に、n+型AlInP層118(たとえば厚さ0.05μm)、n++型In0.490Ga0.510P層119(たとえば厚さ0.02μm)、p++型AlGaAs層120(たとえば厚さ0.02μm)およびp+型AlInP層121(たとえば厚さ0.05μm)から構成されており、トンネル接合層(第1のトンネル接合層)50A内は格子整合している。
【0046】
トップセル40Aは、第1のトンネル接合層50A側から順に、p型AlInPからなるBSF層122(たとえば厚さ0.05μm)、p型In0.490Ga0.510Pからなるベース層123(たとえば厚さ0.70μm)とn型In0.490Ga0.510Pからなるエミッタ層124(たとえば厚さ0.05μm)とからなる光電変換層60A、n型AlInPからなる窓層125(たとえば厚さ0.05μm)、および、第1電極128が形成される領域のn型AlInPからなる窓層125上に形成された、n型GaAsからなるコンタクト層126(たとえば厚さ0.4μm)から構成されており、トップセル40A内は格子整合している。
【0047】
また、第1電極128が形成される領域以外のn型AlInPからなる窓層125上にはZnS/MgFからなる反射防止膜127が形成されている。
【0048】
また、トンネル接合層(第2のトンネル接合層)50Bと、ミドルセル40Bと、トンネル接合層(第1のトンネル接合層)50Aと、トップセル40Aとは格子整合している。
【0049】
なお、トップセル40A内にある光電変換層60Aの禁制帯幅を第1の禁制帯幅、ミドルセル40B内にある光電変換層60Bの禁制帯幅を第2の禁制帯幅、ボトムセル40C内にある光電変換層60Cの禁制帯幅を第4の禁制帯幅とすると、光電変換層の禁制帯幅の大きさは大きい順に、第1の禁制帯幅、第2の禁制帯幅、第4の禁制帯幅となっている。また、バッファ層の禁制帯幅を第3の禁制帯幅とすると、第3の禁制帯幅は、第4の禁制帯幅よりも大きい。
【0050】
図4は他の具体的な構造の一例である。図4はボトムセル40Cと支持基板101との間に第2電極102が形成されている。それ以外の構造は図3と同様である。図4の場合の支持基板101は、例えばシリコン等の半導体であってもよいし、絶縁体であってもよい。
【0051】
以下、図5、図6の断面構成図を参照して、図4に示す構成の多接合型化合物半導体太陽電池の製造方法の一例について説明する。以下に示す製造方法は、半導体基板上に多接合型化合物半導体太陽電池の受光面側になる半導体層より順にエピタキシャル成長により形成する。
【0052】
まず、図5に示すように、例えばGaAs基板130をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)装置内に設置し、このGaAs基板130上に、GaAsと選択エッチングが可能なエッチングストップ層となるn型In0.490Ga0.510Pからなるエッチングストップ層131、n型GaAsからなるコンタクト層126、n型AlInPからなる窓層125、n型In0.490Ga0.510Pからなるエミッタ層124、p型In0.490Ga0.510Pからなるベース層123およびp型AlInPからなるBSF層122をこの順にMOCVD法によりエピタキシャル成長させる。
【0053】
次に、p型AlInPからなるBSF層122上に、p+型AlInP層121、p++型AlGaAs層120、n++型In0.490Ga0.510P層119およびn+型AlInP層118をこの順にMOCVD法によりエピタキシャル成長させる。
【0054】
次に、n+型AlInP層118上に、n型In0.490Ga0.510Pからなる窓層117、n型GaAsからなるエミッタ層116、p型GaAsからなるベース層115、およびp型In0.490Ga0.510PからなるBSF層114をこの順にMOCVD法によりエピタキシャル成長させる。
【0055】
次に、p型In0.490Ga0.510PからなるBSF層114上に、p+型AlInP層113、p++型AlGaAs層112、n++型In0.490Ga0.510P層111およびn+型AlInP層110をこの順にMOCVD法によりエピタキシャル成長させる。
【0056】
次に、n+型AlInP層110上に、n+型In0.490Ga0.510P層21a、n型In0.535Ga0.465P層22a、n型In0.568Ga0.432P層23a、n型In0.601Ga0.399P層24a、n型In0.634Ga0.366P層25a、n型In0.667Ga0.333P層26a、n型In0.700Ga0.300P層27a、n型In0.733Ga0.267P層28a、n型In0.766Ga0.234P層29aおよびn型In0.799Ga0.201P層30aをMOCVD法によりエピタキシャル成長させる。InGaP層のIII族元素であるInとGaとの組成比によりInGaP層の格子定数が変わるので、バッファ層41Aの各層は段階状に格子定数が変化してエピタキシャル成長している。
【0057】
ここで、n型In0.799Ga0.201P層30aは厚さ1μmであるが、他の層、21aから29aは、それぞれ厚さ0.25μmである。
【0058】
n+型In0.490Ga0.510P層21aはn+型AlInP層110より下の層に格子整合してエピタキシャル成長している。ここで、GaAs基板130からn+型AlInP層110までは格子整合している。よって、n型In0.535Ga0.465P層22aから格子定数が段階状に変化してエピタキシャル成長している。ここで、n+型AlInP層110上に格子定数を変化させたInGaP層のバッファ層形成するのではなく安定したInGaP層のバッファ層を形成するために、まず、n+型AlInP層110に格子整合したn+型In0.490Ga0.510P層21aを形成した。
【0059】
バッファ層41A内で、n+型In0.490Ga0.510P層21aとn型In0.535Ga0.465P層22aとの格子定数の差は他のInGaP層の2層間の格子定数の差よりも大きい。よって、バッファ層41A内で、半導体層の2層間の格子定数の差が他の半導体層の2層間の格子定数の差よりも大きく、その箇所がミドルセル40B側に1箇所存在する。また、他の半導体層の2層間の格子定数の差はいずれも同じ格子定数の差となっている。
【0060】
次に、n型In0.799Ga0.201P層30a上に、n型In0.745Ga0.255Pからなる窓層31、n型InGaAsからなるエミッタ層32、p型InGaAsからなるベース層33、p型In0.745Ga0.255PからなるBSF層34およびp型InGaAsからなるコンタクト層35をこの順にMOCVD法によりエピタキシャル成長させる。
【0061】
ここで、窓層31は、ボトムセル40CのInGaAsと格子整合するようにIII族元素であるInとGaとの組成を選んだ。
【0062】
なお、GaAsの形成にはAsH3(アルシン)およびTMG(トリメチルガリウム)を用い、InGaPの形成にはTMI(トリメチルインジウム)、TMGおよびPH3(ホスフィン)を用い、InGaAsの形成にはTMI、TMGおよびAsH3を用い、AlInPの形成にはTMA(トリメチルアルミニウム)、TMIおよびPH3を用い、AlGaAsの形成には、TMA、TMGおよびAsH3を用い、AlInGaAsの形成には、TMA、TMI、TMGおよびAsH3を用いることができる。
【0063】
その後、図5に示すようにp型InGaAsからなるコンタクト層35の表面上に、たとえばAu(たとえば厚さ0.1μm)/Ag(たとえば厚さ3μm)の積層体からなる第2電極102を形成し、その後、第2電極102上に支持基板101を貼り付ける。
【0064】
次に、GaAs基板130を取り除く。図6は、GaAs基板130をアルカリ水溶液にてエッチングした後に、n型In0.490Ga0.510Pからなるエッチングストップ層131を酸水溶液にてエッチングした図である。
【0065】
次に、n型GaAsからなるコンタクト層126上にフォトリソグラフィによりレジストパターンを形成した後、レジストパターンに対応したコンタクト層126をアルカリ水溶液によりエッチング除去する。そして、残されたコンタクト層126の表面上に再度フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成し、抵抗加熱蒸着装置、EB蒸着装置等を用いて、たとえばAuGe(12%)(たとえば厚さ0.1μm)/Ni(たとえば厚さ0.02μm)/Au(たとえば厚さ0.1μm)/Ag(たとえば厚さ5μm)の積層体からなる第1電極128を形成する。
【0066】
次に、メサエッチングパターンを形成した後、アルカリ水溶液および酸溶液を用いてメサエッチングを行なう。そして、ZnS/MgFからなる反射防止膜127をスパッタリング法、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法等で形成する。これにより多接合型化合物半導体太陽電池の受光面が化合物半導体の成長方向と反対側に位置する図4に示す構成の多接合型化合物半導体太陽電池を得ることができる。
【0067】
図4の多接合型化合物半導体太陽電池の太陽電池特性を測定したところ、Eff=35.5%、VOC=2.98V、JSC=14.0mA/cm、FF=0.850の特性値が得られ、また再現性のある特性が得られた。さらに、作製された膜厚において各セル(トップセル40A、ミドルセル40B、ボトムセル40C)の電流マッチングがとれていた。
【0068】
上記の多接合型化合物半導体太陽電池の特性が得られたのは、バッファ層41Aの、最もボトムセル40C側の半導体層30aがボトムセル40Cの格子定数よりも大きく、さらに、バッファ層41Aの段階状に格子定数が変化する半導体層のうち、半導体層の2層間の格子定数の差が他の半導体層の2層間の格子定数の差よりも大きくその箇所が1箇所最もミドルセル40B側にあることで、ボトムセル40Cの結晶性が良くなったことによると考えられる。
【0069】
ボトムセル40Cの結晶性が良くなることによって、その特性が良くなり、多接合型化合物半導体太陽電池の太陽電池特性も良くなったと考えられる。
【0070】
ボトムセル40Cの結晶性が良くなったのは、複数の半導体層が存在するバッファ層41Aのうち、2層の格子定数の差をある値以上にすると転位が発生する現象以外に、2次元成長から3次元成長に移行した結晶成長が、n型In0.535Ga0.465P層22aにわずかに起こり、このわずかに起こった3次元成長によりn型In0.535Ga0.465P層22aの歪が緩和され、n型In0.535Ga0.465P層22aの結晶性が良好になると考えられる。
【0071】
よって、この歪緩和をバッファ層41A内の最もミドルセル40B側で起こすことで、より結晶性の良い半導体層を形成し、このより結晶性が良くなった半導体層上に半導体層を積層していくことにより、ボトムセル40Cの結晶性を良くすることができる。
【0072】
なお、非特許文献1で示されるバッファ層(図14(b)、図15、図16の503に対応)内にある半導体層の格子定数を一定幅で変化させた構造での特性値は、Eff=33.78%、VOC=2.960V、JSC=13.14mA/cm、FF=0.869である。
【0073】
実施例1では、バッファ層41Aのn+型In0.490Ga0.510P層21aとn型In0.535Ga0.465P層22aとのGa組成xの差は0.045であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差は、いずれも0.033である。
【0074】
ここで、バッファ層41のn+型In0.490Ga0.510P層21とn型InGaP層22とのGa組成xの差が大きくなりすぎると、n型InGaP層22の転位密度が大きくなり、バッファ層41のn型InGaP層23からn型InGaP層30、及びボトムセル40Cの各層がその転位密度を維持するため結晶性が悪化することとなり、Ga組成xの差が小さくなりすぎると、n型InGaP層22に、結晶性が良好となる3次元成長の核が起こりにくくなると考えられる。
【0075】
図7は、上記製造方法の概念図で、半導体基板308上に、エッチングストップ層309、トップセル40A、第1のトンネル接合層50A、ミドルセル40B、第2のトンネル接合層50B、バッファ層41、ボトムセル40Cが形成されており、半導体基板308をエッチングにて取り除く製造方法である。
【0076】
図8は、半導体基板の再利用を考慮した場合の概念図である。半導体基板308上にエッチングストップ層310、エッチング層311、エッチングストップ層312を積層した構造である。エッチング層311をエッチングすることで、半導体基板308側と多接合セル313側を分離することができ、半導体基板308を再利用することが可能である。
【0077】
具体的には半導体基板308としてGaAs基板を再利用する場合、GaAs基板上にエッチングストップ層310としてn型In0.490Ga0.510P層、エッチング層311としてAlAs層、エッチングストップ層312としてn型In0.490Ga0.510P層をこの順にMOCVD法によりエピタキシャル成長させる。その上には多接合セル313が形成される。多接合セル313は前述したとおりの各層が形成される。なお、多接合セル313は前述したとおりの各層に限定されるものではない。AlAs層はフッ酸によりエッチングされ、多接合セル313側とGaAs基板側とを分離することができる。
【0078】
分離した多接合セル313側のエッチングストップ層312であるn型In0.490Ga0.510P層、GaAs基板側のエッチングストップ層310であるn型In0.490Ga0.510P層ともに、酸水溶液にてエッチングすることで取り除くことができ、多接合セル313側の太陽電池製造が行われGaAs基板の再利用が可能となる。
【0079】
次に、バッファ層41のn+型In0.490Ga0.510P層21とn型In0.535Ga0.465P層22とのGa組成xの差を0.045とし、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差を変更した検討を行った。良好な太陽電池特性を示した実施例2、3と、それ以外を比較例1、2として、以下に示す。
【実施例2】
【0080】
さらに、バッファ層41のIII族元素の組成を変化させ、バッファ層41の格子定数を変化させた多接合型化合物半導体太陽電池を作製した。バッファ層41の構造、バッファ層41の製造方法以外は実施例1と同じである。バッファ層41の製造は実施例1と同じMOCVD法によるエピタキシャル成長である。また、バッファ層41は実施例1と同様、III族元素の組成を変えることで格子定数を変化させた複数の半導体層からなる。
【0081】
図9は、実施例2を示す図である。バッファ層41Bのn+型In0.490Ga0.510P層21bとn型In0.535Ga0.465P層22bとのGa組成xの差は0.045であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差は、0.029である。
【0082】
ボトムセル40C上に、n型In0.767Ga0.233P層30b(たとえば厚さ1μm)、n型In0.738Ga0.262P層29b(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.709Ga0.291P層28b(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.680Ga0.320P層27b(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.651Ga0.349P層26b(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.622Ga0.378P層25b(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.593Ga0.407P層24b(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.564Ga0.436P層23b(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.535Ga0.465P層22b(たとえば厚さ0.25μm)およびn+型In0.490Ga0.510P層21b(たとえば厚さ0.25μm)がこの順序で積層されている。
【0083】
上記に、バッファ層41Bのみを示したが、バッファ層41Bの構造以外は実施例1と同じである。
【実施例3】
【0084】
実施例2と同様に、多接合型化合物半導体太陽電池を作製した。バッファ層41Cの構造以外は実施例1と同じである。下記に、バッファ層41Cのみを示す。
【0085】
バッファ層41Cのn+型In0.490Ga0.510P層21cとn型In0.535Ga0.465P層22cとのGa組成xの差は0.045であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差は、0.039である。
【0086】
ボトムセル40C上に、n型In0.847Ga0.153P層30c(たとえば厚さ1μm)、n型In0.808Ga0.192P層29c(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.769Ga0.231P層28c(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.730Ga0.270P層27c(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.691Ga0.309P層26c(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.652Ga0.348P層25c(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.613Ga0.387P層24c(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.574Ga0.426P層23c(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.535Ga0.465P層22c(たとえば厚さ0.25μm)およびn+型In0.490Ga0.510P層21c(たとえば厚さ0.25μm)がこの順序で積層されている。
【0087】
比較例1、2も実施例と同様に多接合型化合物半導体太陽電池を作製した。バッファ層41の厚みは実施例1と同じであり、また、バッファ層41の構造以外も実施例1と同じである。
【0088】
(比較例1)
バッファ層41のn+型In0.490Ga0.510P層21とn型In0.535Ga0.465P層22とのGa組成xの差は0.045であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差は、いずれも0.028である。
【0089】
(比較例2)
バッファ層41のn+型In0.490Ga0.510P層21とn型In0.535Ga0.465P層22とのGa組成xの差は0.045であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差は、いずれも0.041である。
【0090】
次に、バッファ層41のn+型In0.490Ga0.510P層21とn型InGaP層22とのGa組成xの差を変更し、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差を0.033とした検討を行った。良好な太陽電池特性を示した実施例4、5と、それ以外を比較例3、4として、以下に示す。
【実施例4】
【0091】
実施例2、3と同様に、バッファ層41のIII族元素の組成を変化させ、バッファ層41の格子定数を変化させた他の多接合型化合物半導体太陽電池を作製した。バッファ層41の構造、バッファ層41の製造方法以外は実施例1と同じである。バッファ層41の製造は実施例1と同じMOCVD法によるエピタキシャル成長である。また、バッファ層41は実施例1と同様、III族元素の組成を変えることで格子定数を変化させた複数の半導体層からなる。
【0092】
図10は、実施例4を示す図である。バッファ層41Dのn+型In0.490Ga0.510P層21dとn型In0.550Ga0.450P層22dとのGa組成xの差は0.060であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差は、0.033である。
【0093】
ボトムセル40C上に、n型In0.814Ga0.186P層30d(たとえば厚さ1μm)、n型In0.781Ga0.219P層29d(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.748Ga0.252P層28d(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.715Ga0.285P層27d(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.682Ga0.318P層26d(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.649Ga0.351P層25d(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.616Ga0.384P層24d(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.583Ga0.417P層23d(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.550Ga0.450P層22d(たとえば厚さ0.25μm)およびn+型In0.490Ga0.510P層21d(たとえば厚さ0.25μm)がこの順序で積層されている。
【0094】
上記に、バッファ層41Dのみを示したが、バッファ層41Dの構造以外は実施例1と同じである。
【実施例5】
【0095】
実施例4と同様に、多接合型化合物半導体太陽電池を作製した。バッファ層41Eの構造以外は実施例1と同じである。下記に、バッファ層41Eのみを示す。
【0096】
バッファ層41Eのn+型In0.490Ga0.510P層21eとn型In0.530Ga0.470P層22eとのGa組成xの差は0.040であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差は、0.033である。
【0097】
ボトムセル40C上に、n型In0.794Ga0.206P層30e(たとえば厚さ1μm)、n型In0.761Ga0.239P層29e(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.728Ga0.272P層28e(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.695Ga0.305P層27e(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.662Ga0.338P層26e(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.629Ga0.371P層25e(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.596Ga0.404P層24e(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.563Ga0.437P層23e(たとえば厚さ0.25μm)、n型In0.530Ga0.470P層22e(たとえば厚さ0.25μm)およびn+型In0.490Ga0.510P層21e(たとえば厚さ0.25μm)がこの順序で積層されている。
【0098】
比較例3、4も実施例と同様に多接合型化合物半導体太陽電池を作製した。 バッファ層41の厚みは実施例1と同じであり、また、バッファ層41の構造以外も実施例1と同じである。
【0099】
(比較例3)
バッファ層41のn+型In0.490Ga0.510P層21とn型In0.523Ga0.477P層22とのGa組成xの差は0.033であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差も、いずれも0.033である。
【0100】
(比較例4)
バッファ層41のn+型In0.490Ga0.510P層21とn型In0.555Ga0.445P層22とのGa組成xの差は0.065であり、他のInGaP層の2層間のGa組成xの差は、いずれも0.033である。
【0101】
実施例2〜5のいずれにおいても、図3と同様に、ボトムセル40Cと支持基板101との間に金属層151が形成され、支持基板101の裏面側に第2電極102が形成される多接合型化合物半導体太陽電池も作製可能である。
【0102】
次に、実施例1〜5、比較例1〜4の多接合型化合物半導体太陽電池の評価を行った。形成された多接合型化合物半導体太陽電池はいずれも逆積みで作製しており、第2図を参照すると第1セル301までは格子整合している。よって、第1セル301と格子定数が異なる第2セル302と、格子定数を変化させたバッファ層303とからなる半導体層314が、形成された多接合型化合物半導体太陽電池特性に大きく影響する。そこで、第2セル302とバッファ層303とからなる半導体層314の特性評価を行った。また、断面TEM像による半導体層314の断面観察、特に、第2セル302の断面観察も行った。
【0103】
図11は、多接合型化合物半導体太陽電池に対する評価用サンプルの断面図を示す。図11に示すようにエッチングにてトップセル40Aから第2のトンネル接合層50Bの一部を取り除き、特性評価のための電極層315を形成して評価サンプル316を作製し半導体層314の特性評価を行った。図11の半導体層30は、バッファ層41の最もボトムセル40C側のn型InGaP層である。図12に一例として、図4に示すバッファ層41が実施例1である場合(41A)の評価サンプル316Aを示す。
【0104】
特性評価は、図11に示すように、評価サンプル316の第2電極102と電極層315とを用いて半導体層314のVoc(開放電圧;単位V)の評価を行った。
【0105】
ここで、図13に、Eg(バンドギャップエネルギー;単位eV)とVocとの関係を示す。図13中の傾きを有する直線a:Voc=Eg−0.4は結晶性が最も良いと仮定したときのEgとVocとの関係を示している。
【0106】
ボトムセル40CをEg=1.0eVとした場合、多接合型化合物半導体太陽電池の効率がより高くなることから、図13より結晶性が最も良いと仮定したときのボトムセル40CのVocは0.6Vであることがわかる。
【0107】
表1に評価結果を示す。
【0108】
【表1】

【0109】
表1に実施例1〜5、および比較例1〜4の結果の一覧を示す。項目はバッファ層のGa組成xの差、その際の換算による格子定数差、下記式(1)で示される第1格子定数差比、下記式(2)で示される第2格子定数差比、評価サンプルのボトムセル40Cの断面TEM像による断面状態、およびボトムセル40Cの特性が表れる半導体層314のVocである。
【0110】
ここで、第1格子定数差比(%)は、下記の式(1)により示される。
第1格子定数差比(%)=(100×(a1−a2))/(a1)・・・(1)
上記の式(1)において、a1はバッファ層41を形成する半導体層のうち、半導体層22(図12であればn型In0.535Ga0.465P層22a)の格子定数を示す。また、a2はバッファ層41を形成する半導体層のうち、ミドルセル40Bに最も近い位置に配置されている半導体層21(図12であればn+型In0.490Ga0.510P層21a)の格子定数を示す。
【0111】
なお、格子定数a1と、格子定数a2とは、InGaPの元素の組成比から換算により求めた。
【0112】
また、第2格子定数差比(%)は、下記の式(2)により示される。
第2格子定数差比(%)=(100×(a3−a4))/(a3)・・・(2)
上記の式(2)において、a3はバッファ層41を構成する半導体層のうちボトムセル40Cに最も近い位置に配置されている半導体層30(図12であればn型In0.799Ga0.201P層30a)の格子定数を示す。また、a4はボトムセル40Cの格子定数を示す。
【0113】
なお、格子定数a3と、格子定数a4とは、エピタキシャル成長直後で支持基板101を取り付ける前、第2電極102を形成する前の状態において、ボトムセル40C(例えば図5であれば図5の上下方向でp型InGaAs層35側)側からX線を照射することによって、X線回折法によって求めた。
【0114】
また、ボトムセル40Cの断面TEM像も、エピタキシャル成長直後で支持基板101を取り付ける前、第2電極102を形成する前の状態において、観察した。なお、表1のボトムセル40Cの断面状態の表記は、以下の内容を表している。
【0115】
○・・・断面状態が最良
△・・・断面状態が良好
×・・・断面状態が不良
第2格子定数差比が0.12%〜0.80%で、ボトムセル40Cの断面状態が最良になり、望ましくは、0.15%以上であり0.74%以下の場合である。
【0116】
だが、第2格子定数差比が0.15%以上であり0.74%以下であっても、比較例3、4の結果から、ボトムセル40Cの断面状態は最良ではない。
【0117】
バッファ層41を形成する半導体層のうち、半導体層21と半導体層22の格子定数差が0.015Å〜0.026Åであれば、ボトムセル40Cの断面状態が最良になり、望ましくは、0.167Å以上であり0.251Å以下の場合である。
【0118】
これらの結果から、ボトムセル40CのVocを所望のEg=1.0eVにするには、第2格子定数差比のみでなく、さらにバッファ層41を形成する半導体層のうち、半導体層21と半導体層22との格子定数差の所定の範囲が必要となる。
【0119】
複数の半導体層が存在するバッファ層41では、2層の格子定数の差をある値以上にすると転位が発生する現象以外に、2次元成長から3次元成長に移行した結晶成長がわずかに起こり、このわずかに起こった3次元成長が大半の2次元成長の中で起こることで歪が緩和され結晶性が良好になると考えられる。ただ、2層の格子定数の差を大きくしすぎると、転位密度が大きくなり、各層がその転位密度を維持するため結晶性が悪化することとなり、2層の格子定数の差を小さくしすぎると、3次元成長の核が起こりにくくなる。
【0120】
バッファ層41を形成する半導体層のうち、半導体層21と半導体層22との格子定数差が0.015Å〜0.026Åの範囲では、上記に示す3次元成長が起こることで歪が緩和され結晶性が良好になる現象が起こる範囲内であると考えられる。
【0121】
上記の歪緩和を起こすことで、より結晶性の良い半導体層を形成し、その半導体層上に半導体層を積層することにより、ボトムセル40Cの結晶性をより良くすることができると考えられる。
【0122】
これから、バッファ層41の内部で結晶性が良好になる領域が広い方が好ましいので、歪緩和を起こす2層の位置はバッファ層41の中央よりミドルセル40Bに近い側にあるものとし、特にミドルセル40Bに最も近い位置であることが好ましい。
【0123】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、格子定数が異なる2つのセル間を本発明に示したバッファ層を介して作製し、2接合、3接合、4接合等の多接合型化合物半導体太陽電池に用いた場合にも特性を向上させることができると考えられる。
【0124】
また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、多接合型化合物半導体太陽電池は、多接合型化合物半導体太陽電池全般に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0126】
21 n+型InGaP層、22 n型InGaP層、23 n型InGaP層、24 n型InGaP層、25 n型InGaP層、26 n型InGaP層、27 n型InGaP層、28 n型InGaP層、29 n型InGaP層、30 n型InGaP層、31 n型InGaP層、32 n型InGaAs層、33 p型InGaAs層、34 p型InGaP層、35 p型InGaAs層、40A トップセル、40B ミドルセル、40C ボトムセル、41 バッファ層、50A トンネル接合層(第1のトンネル接合層)、50B トンネル接合層(第2のトンネル接合層)、60A、60B、60C 光電変換層、101 支持基板、102 第2電極、110 n+型AlInP層、111 n++型In0.490Ga0.510P層、112 p++型AlGaAs層、113 p+型AlInP層、114 p型In0.490Ga0.510P層、115 p型GaAs層、116 n型GaAs層、117 n型In0.490Ga0.510P層、118 n+型AlInP層、119 n++型In0.490Ga0.510P層、120 p++型AlGaAs層、121 p+型AlInP層、122 p型AlInP層、123 p型In0.490Ga0.510P層、124 n型In0.490Ga0.510P層、125 n型AlInP層、126 n型GaAs層、127 反射防止膜、128 第1電極、130 GaAs基板、131 n型In0.490Ga0.510P層、132 n型In0.490Ga0.510P層、133 AlAs層、134 n型In0.490Ga0.510P層、151 金属層、301 第1セル、302 第2セル、303 バッファ層、304 第1電極、305 第2電極、306 多接合セル、307 支持基板、308 半導体基板、309 エッチングストップ層、310 エッチングストップ層、311 エッチング層、312 エッチングストップ層、313 多接合セル、314 半導体層、315 電極層、316 評価サンプル、321 金属層、501 トップセル、502 ミドルセル、503 バッファ層、504 ボトムセル、505 第1電極、506 第2電極、507 半導体基板。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第1セル、バッファ層、第2セル、第2電極を少なくとも含む多接合型化合物半導体太陽電池において、
前記第1電極は太陽光入射側に配置され、
前記第1セルと前記第2セルは、それぞれ異なる禁制帯幅を持つ光電変換層を有し、かつ前記第2セルの格子定数は前記第1セルの格子定数よりも大きく、
前記バッファ層は、複数の半導体層から構成されており、
前記複数の半導体層の格子定数は、それぞれ前記第1セル側から前記第2セル側にかけて順に大きくなり、
前記複数の半導体層のうち、前記第2セルに最も近い半導体層の格子定数は、前記第2セルの格子定数より大きく、
前記複数の半導体層のうち、隣接する2層の格子定数差が最も大きくなる2層は、前記バッファ層の中央より前記第1セルに近い側に位置していることを特徴とする多接合型化合物半導体太陽電池。
【請求項2】
第1の禁制帯幅の光電変換層を有する第1セルと、
前記第1の禁制帯幅よりも小さい第2の禁制帯幅の光電変換層を有する第2セルと、
前記第1セルと前記第2セルとの間に形成されたバッファ層と、
前記第1セル側に配置された第1電極と、
前記第2セル側に配置された第2電極とを有する多接合型化合物半導体太陽電池において、
前記第2セルの格子定数は前記第1セルの格子定数よりも大きく、
前記バッファ層は、複数の半導体層から構成されており、
前記複数の半導体層の格子定数は、それぞれ前記第1セル側から前記第2セル側にかけて順に大きくなり、
前記複数の半導体層のうち、前記第2セルに最も近い半導体層の格子定数は、前記第2セルの格子定数より大きく、
前記複数の半導体層のうち、隣接する2層の格子定数差が最も大きくなる2層は、前記バッファ層の中央より前記第1セルに近い側に位置していることを特徴とする多接合型化合物半導体太陽電池。
【請求項3】
前記格子定数差が最も大きくなる2層は、前記第1セルに最も近い2層であることを特徴とする請求項1または2に記載の多接合型化合物半導体太陽電池。
【請求項4】
前記隣接する2層の格子定数差が最も大きくなる2層の、前記第2セル側の層の格子定数をa1、前記第1セル側の層の格子定数をa2としたとき、
前記格子定数a1と、前記格子定数a2との格子定数差が、0.015Å〜0.026Åであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多接合型化合物半導体太陽電池。
【請求項5】
前記第2セルの格子定数をa4、前記第2セルに最も近い半導体層の格子定数をa3とし、
第2格子定数差比(%)=(100×(a3−a4))/(a3)
としたとき、
第2格子定数差比の値が、0.12%〜0.80%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多接合型化合物半導体太陽電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−134952(P2011−134952A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294377(P2009−294377)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20、21、22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)ポストシリコン超高効率太陽電池の研究開発(エピタキシャル成長技術)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】