説明

多数の標的の増幅のためのアンプリコンレスキューマルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応

臨床標本からの多数の標的を比較的短時間で高感度かつ特異的に検出することのできる、ポリヌクレオチドの増幅および検出のための方法を開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年4月3日に提出された米国仮特許出願第61/042,259号の優先権の恩典を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は概して、核酸を増幅するための方法に関する。より具体的には、本発明は、多数の核酸配列を増幅するためにポリメラーゼ連鎖反応を用いるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の開発は、DNA増幅を、分子診断検査を含む種々の用途に用いることを可能にした。しかし、分子鑑別診断(MDD)アッセイのためにPCRを用いることには諸課題が伴う。PCRは特異的なプライマーまたはプライマーのセット、温度条件および酵素を利用する。このため例えば、PCR反応は混入を受けやすく、プライマーの結合は異なるプライマーに対して異なる条件を必要とすることがあり、プライマーは標的配列のみを増幅するためには標的配列に対して特異的である必要がある。このことは単一の試料から多数の配列を増幅することをさらに困難としている。
【0004】
1つまたは複数の疾患原因病原体を見いだすための臨床試料の診断検査は、かつては微生物を単離して培養することを必要とした。しかし、これには数日かかることがあり、多くの場合、患者の命を救うべき場合には診断は数時間以内に下されなければならない。複数の生物体を、そのうちどれが疾患の原因因子であるかを明らかにすることを目的として同定するための単一の臨床試料の分析は、MDDにとって望まれる方法であり、その目標をより良く達成するために諸方法が開発されている。例えば、多数の生物体の検出および同定を可能とするのに十分なDNA/RNAを生成させる目的で、試料中の多数の核酸を増幅するためのマルチプレックスPCR法が開発されている。しかし、マルチプレックスPCRには欠点がある。例えば、マルチプレックスPCR反応における各標的はその独自の最適な反応条件を必要とするため、標的の数が増えることは、個々の各標的に対する反応条件が最適に満たなくなることを必要とする。さらに、系における高濃度プライマーの多数のセットは、往々にしてプライマーダイマーを生じさせるか、または非特異的なバックグラウンド増幅をもたらす。この特異性の欠如はまた、PCR後の浄化および多数のハイブリダイゼーション後洗浄というさらなる段階も必要にする。過密なプライマーは、利用可能な酵素を必要とすること、および基質を消費することによって、増幅効率を低下させる。増幅効率の違いは、アンプリコン収量の著しい不一致を招く可能性がある。例えば、ある遺伝子座は極めて効率的に増幅されるが、別のものは極めて非効率的にしか増幅されないか、または全く増幅されない可能性がある。この不均等な増幅の可能性はまた、終点での定量分析を正確に行うことも困難にする。
【0005】
1つの方法は、初期のPCRサイクルの間に標的を富化(enrich)するために、ネステッド(nested)遺伝子特異的プライマーを極めて低濃度で用いる形で利用する。その後に、すべての標的を増幅するために共通プライマーを用いる。反応はすべて1つのチューブ内で行われ、さらなる回数のPCRは必要でなく、特殊な装置を必要とせずに通常のサーマルサイクラーを用いて行うことができる。しかし、この方法には欠点がある。例えば、初期サイクルの間に標的を富化するために低濃度のプライマーが用いられるため、本アッセイの感度は最終的には低くなり、初期の富化サイクルは各サイクル毎により長いアニーリング時間を必要とするほか、酵素はサイクル数を重ねるうちに標的を増幅する効率が低くなる可能性が高い。
【0006】
多数の標的からのDNAおよび/またはRNAを、それらの標的の迅速な同定を容易にするために増幅するための、より高感度で、より迅速で、かつより効率的な方法に対しては、依然として需要が存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、核酸を、それらの核酸の検出を可能にするために増幅するための方法であって、第1の増幅反応において、1つまたは複数の標的核酸を高濃度の標的特異的プライマーを用いて増幅し、それによって少なくとも1つの共通プライマー結合部位を含む少なくとも1つの核酸アンプリコンを生成させる段階;その少なくとも1つの核酸アンプリコンをレスキュー(rescue)する段階;および、第2の増幅反応において、その少なくとも1つの核酸アンプリコンを、その少なくとも1つの共通プライマー結合部位と結合する共通プライマーを利用して増幅する段階、を含む方法に関する。本発明の1つの局面は、ネステッド標的特異的プライマーを利用する。標的核酸にはDNAおよび/またはRNAを含めることができ、これにはウイルス、細菌および/または真菌起源のDNAおよび/またはRNA、さらにはヒトまたは他の動物起源のゲノムDNAおよび/またはRNAが含まれうる。増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および/またはRT-PCRによって行うことができる。標的核酸の源は1つまたは複数の臨床試料、環境試料または食品試料からであってよく、本方法は、例えば、臨床診断、環境試料採取、植物検査、食品安全性分析、遺伝的障害の検出、および/または疾患状態の検出を含む、多種多様な様式で用いることができる。本方法は、ヒトの、および/または獣医学な診断のために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の方法の説明図であり、ここで、Foはフォワードアウト(forward-out)プライマーを表し;Fiはフォワード共通プライマータグ(結合配列)を有するフォワードイン(forward-in)プライマーを表し;Cfはフォワード共通プライマーを表す;Riはリバース共通プライマータグ(結合配列)を有するリバースイン(reverse-in)プライマーを表し;Roはリバースアウト(reverse-out)プライマーを表し;Crはリバース共通プライマーを表し;Faは1つの追加のフォワードプライマーを表し;かつ、Raは1つの追加のリバースプライマーを表しており、これらのプライマーは通常、図示されたように配置される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
本発明者は、医学的試料、環境試料、食品試料および他の試料の、それらの試料中の微生物および他の病原体(agent)を同定することを目的とする評価のために、ウイルス、細菌、真菌、植物および/または動物の細胞由来の核酸の存在、ならびに存在する相対量を検出するために用いることのできる、新たな方法を開発した。本方法を、本明細書では、アンプリコンレスキューマルチプレックス(amplicon rescue multiplex)ポリメラーゼ連鎖反応(「arm-PCR」)と称するものとする。この方法では、標的核酸のPCR増幅を、2つの異なる反応系において逐次的に行う。これらの系は、例えば、標的核酸を増幅してアンプリコンを生成させるために必要な標的核酸、プライマー、酵素、ヌクレオチド(例えば、dNTP)および緩衝液を含む、別個のカラム、反応容器またはチップ区域で構成されうる。第1の増幅反応において高濃度のプライマーを用い、その反応の間に形成されたアンプリコンを、異なる反応系における第2の増幅反応に用いるためにレスキューすることにより、本発明者は、感度および特異性を高め、検出可能な結果が生じるまでに必要な時間を短縮し、かつ自動化に適している方法を開発した。
【0010】
「含む(comprising)」という用語は、本明細書で用いる場合、「本質的に...からなる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」という用語で代用しうることは理解されるであろう。「反応系」という用語が用いられる場合、これは、少なくとも1つのポリメラーゼ連鎖反応の1回または複数回のサイクルを行うために必要なプライマー、酵素、ヌクレオチド、緩衝液および/または他の試薬が入れられるエッペンドルフチューブ、反応チャンバーまたは他の収容デバイスを記述するものとする。異なる「反応系」は、このため、反応物収容ベッセルは同じであるが、所望の増幅段階を行うための試薬の構成要素‐特にプライマー‐が異なるもののことを指す。「反応物収容ベッセル」は、反応系を用意するために必要なプライマー、酵素、ヌクレオチド、緩衝液および/または他の試薬を含めるのに十分な内容積を有する、チューブ、プレートウェルまたは他のベッセルを意味するものとする。「レスキュー」という用語は、第1の増幅のプライマーの少なくとも一部分からのアンプリコンの分離を意味するものとする。「PCR」はポリメラーゼ連鎖反応を意味するものとし、これにはPCRおよび/またはRT-PCRの手順が含まれうる。
【0011】
本方法の第1の段階では、高濃度の標的特異的ネステッドプライマーを用いて、標的特異的な第1の増幅手順を行う。プライマーは、核酸検出を用いた検出が望まれるウイルス、細菌、真菌および/または他の標的の公知の配列から選択され、それらはそのような標的核酸および/または密接に関連した標的核酸に対して特異的である。標的特異的プライマーは、例えば、細菌、ウイルス、真菌および/または他の起源の1つまたは複数の(および好ましくは多数の)標的核酸を増幅するために用いることができる。ネステッドプライマーの濃度は、通常5〜50pmolである。図1に図示されているように、選択されたプライマーには、標的配列に対して特異的でない1つの追加の配列が与えられるように追加のヌクレオチドが「タグ付加」され、その結果、そのようなプライマーによる標的核酸の増幅は、標的特異的プライマーの場合とは異なり、結果的に生成されるアンプリコンの中に、無関係な標的核酸アンプリコンをさらに増幅するために用いることのできる共通プライマーの結合部位も組み入れると考えられる(図1中のAおよびBを参照)。増幅をおよそ10〜15サイクルにわたって行い、反応を終了させ、結果的に生成されたアンプリコンを反応混合物からレスキューして、これらを、標的特異的反応からレスキューされた種々のアンプリコンに相当する無関係なヌクレオチド配列の増幅を比較的無差別な様式でもたらすと考えられる共通プライマーによってプライミングされるポリメラーゼ連鎖反応を含む、第2の標的非依存的な増幅手順に用いる。
【0012】
続いて、第1の反応のプライマーをできるだけ減らすかまたは排除すると同時に、共通プライマーを用いる第2の増幅に用いるためのアンプリコンを用意するために、アンプリコンレスキューを行う。アンプリコンレスキューは種々の様式で行うことができる。例えば、完了した第1の増幅反応物からの少量試料採取を行って、第2の増幅のためのアンプリコンを用意することができる。少量の試料を採取すると、それは第2の増幅のために十分な数のアンプリコンを用意すると同時に、第1の増幅のプライマーの残留数を著しく減少(例えば、希釈)させる。また、第1の増幅の反応系の内容物のかなりの部分を除去して、残りの内容物に対して、共通プライマーを、レスキューされたアンプリコンを共通プライマーを利用して第2の反応系において増幅するための第2の増幅を行うために必要な酵素、ヌクレオチド、緩衝液および/または他の試薬とともに添加することによって、アンプリコンレスキューを行うこともできる。また、分離手法を利用してアンプリコンをレスキューすることもできる。そのような手法は、プライマーとアンプリコンとの間のサイズの違い、アンプリコン、プライマーもしくはその両方に結合させたタグ、または当業者に公知の他の方法に依拠することができる。ひとたび分離されれば、レスキューされたアンプリコンのすべて、またはレスキューされたアンプリコンの一部を、第2の増幅に用いることができる。
【0013】
第2の増幅は異なる反応系において行われ、それは同じ反応物収容ベッセルを利用しても利用しなくてもよい。第2の増幅は、レスキューされたアンプリコンを、新規な緩衝液、ヌクレオチドおよび共通プライマーを用いて増幅する。共通プライマーは、レスキューされたアンプリコンの効率的な増幅をもたらして、第2の増幅の終了時にそのようなアンプリコンのかなりの数のコピーをもたらすように選択される。
【0014】
反応を、第1の標的特異的プライマーによって主導される増幅と、第2の標的非依存的共通プライマーによって主導される増幅に分けることにより、本発明者は、特定の標的から提示される種類および数の核酸のみを増幅する標的特異的プライマーの使用を通じての特異性、ならびにネステッドプライマー、高濃度の標的特異的プライマーの使用、および高コピー数での非特異的(標的非依存的)増幅をもたらす共通プライマーの使用によって達成される感度をもたらすと考えられる方法を開発した。さらに、第1の増幅における高濃度のプライマーの使用に続いて、アンプリコンレスキューを行うことは‐特に、アンプリコンレスキューが、第1の増幅物の一部分を、その部分を取り出してそれを新たな反応系に投入することか、または第1の増幅物のかなりの部分を除去し、それに対して、第2の標的非依存的な増幅のための第2の反応系を形成させるために必要な試薬を添加することかのいずれかによって単離することによって行われる場合には‐自動化に適している。これらの段階は、混入の可能性が限定される比較的閉鎖的な反応系の中で行うことができるだけでなく、本方法によって提供される第1の増幅、アンプリコンレスキューおよび第2の増幅の組み合わせは、多数の試料からの多数の標的に対する2時間未満の期間内での特異的で高感度な検出方法を生じさせる。
【0015】
標的核酸は、当業者に公知のさまざまな手段によって、それらの各々の源から単離することができる。また、本方法によって生成されたアンプリコンの検出を、例えば第2の増幅段階からのアンプリコンをハイブリダイゼーションおよび検出のためにプリントアレイに適用することといった、当業者に公知のさまざまな手段によって行うこともできる。共通プライマー配列には、増幅反応の効率的な惹起を有効にもたらすと考えられる任意の配列が含まれうる。そのような配列、およびそれらを設計するための方法は、当業者に公知である。本発明者は、

、またはそれらの組み合わせの中から選択されたプライマーが、第2の増幅反応において非常に優れた結果を与えることを見いだした。
【0016】
本発明はまた、標的ヌクレオチドのPCR増幅のためのプライマーキットであって、

、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるプライマーを含む、そのようなキットも提供する。
【0017】
本方法の自動化のための方法の一例は、増幅、分離および検出が、閉鎖系における「チップ上ラボ(lab-on-chip)」デバイスを用いて行われるものとして提供しうる。例えば、第1の標的特異的増幅は、非標識性で高濃度のネステッド標的特異的プライマーを所望のPCRまたはRT-PCR増幅を行うためのdNTP、緩衝液および酵素とともにプレロードする、第1の反応系(PCR1)において行うことができる。第1の増幅を所望のサイクル数にわたり進行させた後に、未使用のプライマーを、プライマーをアンプリコンから分離させるためにPCR1(負)と廃液(waste)チャンバー(正)との間で作動させた電極を使うキャピラリー電気泳動を用いて、ヌクレオチドアンプリコンから分離する。プライマーが廃液チャンバーに移動したところで、廃液チャンバー内の電極をオフにし、第2の反応系(PCR2)を正に荷電させる。その結果、分子量の大きいアンプリコンほどPCR2チャンバーに向かってより移動し、そこでそれらはプレロードした共通プライマーおよび新規な酵素、dNTPおよび緩衝液と混ざり合う。第2の増幅をPCR2で行った後に、PCR産物(アンプリコン)を検出チャンバーに向かって電気泳動的に移動させて、ビーズ上に共有結合により固定したプローブとハイブリダイズさせることができ、アレイ中のこのビーズの位置は特定の分子標的を表す。このため、例えば、アンプリコン産物を蛍光色素または他の化学的/生化学的標識で標識しうることから陽性結果が明色のビーズによって示されるというような画像解析によって標的検出を行うことができる。続いて、未使用のPCR産物およびプライマーを取り出して廃液チャンバーに入れることができる。
【0018】
いくつかの態様においては、PCRチップが廃液リザーバーおよび第2の反応系の両方と流体的に接続された第1の反応系を含み、廃液リザーバーおよび第2の反応系がそれぞれ、第1の反応系から生成されたアンプリコンを分離する手段を含む電極である少なくとも1つの電極をさらに含むことができる。第2の反応系は、ビーズの物理的位置が、チップを使って分析した試料中の特定の標的ポリヌクレオチドの存在の指標となるようなマイクロスフェアまたはビーズを含むハイブリダイゼーションおよび検出用のチャンバーである、ハイブリダイゼーションおよび検出用のチャンバーと流体的に接続させることができる。
【0019】
チップに試薬をプレロードすることもでき、または試薬を使用者が添加することもできる。1つの態様において、プレロードされる試薬には、第1の反応系のための高濃度の標的特異的ネステッドプライマー、dNTP、ポリメラーゼ酵素および緩衝液が含まれうる。第2の反応系には、共通プライマー、dNTP、緩衝液およびポリメラーゼ酵素をプレロードすることができる。例えば、チップを用いると、患者試料を、チップの全体または一部分を覆う軟質ゴム様のポリジメチルシロキサン(PDMS)材を通して注射することにより、試料を少なくとも1つの第1の反応系にロードすることができる。第1の反応系において、第1の一連のPCRサイクルは、標的配列を増幅するため、および共通プライマー結合配列を結果的に生成されるアンプリコンの少なくとも一部分に組み入れるための第1の増幅のために行うことができる。続いて、第1の反応系からのアンプリコン産物を、マイクロ流路内で行われるオンチップ電気泳動によって分離することができ、ここで第1の反応系は少なくとも1つの第2の反応系および少なくとも1つの廃液リザーバーと流体的に接続されており、第2の反応系および廃液リザーバーのそれぞれは少なくとも1つの電極をさらに含み、電極は、アンプリコンおよび未使用のプライマーの第1の増幅反応から、それぞれ第2の反応系および廃液リザーバーへの移動を促進する。第2のPCR反応系に移動したアンプリコンは続いて、第1の反応系において第1の増幅の間に少なくとも1つの共通プライマー結合部位が内部に組み入れられたアンプリコンを増幅するための共通プライマーを用いる第2の増幅にかけることができる。第2の反応系における所望の増幅サイクルの完了後に、PCR産物(アンプリコン)をマイクロ流体電気泳動によって第2の反応系から少なくとも1つのハイブリダイゼーションおよび検出用のチャンバーに移動させることができ、ここで第2の反応系は少なくとも1つのハイブリダイゼーションおよび検出用のチャンバーに流体的に接続されている。ハイブリダイゼーションおよび検出用のチャンバーの内部には、アレイを形成するマイクロスフェアまたはビーズがあってよく、ビーズの物理的位置が特定の検出標的を示す。ビーズアレイは約1〜約200個の標的を含んでよく、各標的は約1〜約100個のビーズによって表される。特定の標的が第1の増幅反応において適切なプライマーに相当しない場合には、ソフトウエアマスクを用いて関係のあるビーズを覆い隠し、それらが分析に干渉しないようにする。ハイブリダイゼーションおよび検出用のチャンバーは少なくとも1つの洗浄チャンバーおよび少なくとも1つの検出チャンバーと流体的に連結されていてよく、洗浄チャンバーは未使用の標識プライマーおよびプローブの除去を手助けしてバックグラウンドを減少させるための試薬を含み、検出チャンバーは、増幅されたDNAを画像解析のために標識するためのストレプトアビジン-量子ドットまたはストレプトアビジン-PEなどの試薬を含む。
【0020】
また、本発明の方法を、標準的な、または改変されたPCRサーモサイクラーを用いて行うこともできる。例えば、ヌクレオチド、緩衝液およびプライマーを、第1の増幅のために第1のサーモサイクラー内の標準的なPCRチューブにロードすることができる。チューブの内容物を、アンプリコンレスキューのための手作業によるまたは自動化された手段によって取り出して、新たに単離されたアンプリコンを、第1または第2のサーモサイクラー内で第2の増幅を行う目的で緩衝液、ヌクレオチドおよび酵素が導入されている第2の増幅チューブに入れることができ、ここでサーモサイクラーは、所望の期間にわたって適切な温度を経由する反応サイクルを行うようにプログラムされている。時間およびサイクル数はさまざまであってよく、当業者によって決定可能である。
【0021】
ネステッドプライマーの使用はポリメラーゼの結合親和性を向上させ、第1の増幅反応の間に著しくより多くのアンプリコンを生成させる。これらのアンプリコンは、高濃度の標的特異的プライマーを用いて、試料内部の種々の標的ポリヌクレオチドから生成させることができる。アンプリコンの少なくとも一部分の中に、第1の増幅時に少なくとも1つの共通プライマー用の少なくとも1つの結合部位を組み入れることにより、続いて、第2の増幅時に増幅プロセスの結果として生成されるアンプリコンの数をさらにより著しく増加させることができる。共通プライマーは、それらの結合特異性、および第2の増幅時に増幅をプライミングする能力の点から選択される。したがって、この3段階法(第1の増幅段階、アンプリコンレスキュー、第2の増幅段階)を用いることにより、多数の生物体を含む試料から1つまたは複数の標的生物体を同定するためのPCRプロセスの特異性および感度の両方を高めることができる。本発明者は、この方法が、以前に記載されたPCR法と比較して、特異性および感度の両方を著しく高めることを発見した。
【0022】
増幅-分離-増幅プロセスを自動化することは、1〜3時間内でかなりの数の標的を同定することを可能にし、かつこれは、多数の微生物からの標的核酸を1.5時間内で増幅するのに有効であることが示されており、このことによって、可能性のある疾患原因病原体の迅速同定が可能になり、流行病の原因となる病原体およびバイオテロ病原体などの治療、単離、それらへの曝露を抑えるための公衆衛生計画の実行に向けての措置を進めるための即時的段階が可能になる。
【0023】
試料は、当業者に公知のさまざまな手段によってPCR反応のために調製することができる。これらの方法は、例えば、緩衝液および酵素を含むPCRキットとともに説明書として用意することもでき、または説明書をさまざまな学術誌もしくは特許公報から入手することもできる。PCR増幅段階のための調製の前に試料を処理するための方法も当業者に公知であり、これらは試料の源に応じて異なりうる。
【0024】
増幅のために用いられる酵素は市販されており、これには例えば、Qiagen MultiplexミックスまたはQiagen Hot Startミックスが含まれうる。緩衝液も市販されており、ヌクレオチド(dNTP)および他の試薬についても同様である。サーモサイクラーは、例えばApplied BiosystemsおよびBio-Radを含む、種々の企業によって製造され、販売されている。また、PCR試薬キットを、例えばQiagen(Gaithersburg, Maryland)を含む、さまざまな供給元から入手することもできる。
【0025】
本発明は、例えば、種々の微生物を含む可能性のある試料から、単一の微生物または多数の微生物を同定するために適する方法を提供する。そのような試料は、臨床標本(例えば、血液、唾液、組織)から、環境試料(例えば、水、土壌)から、食品試料または他の源から入手することができる。同定しうる微生物には、細菌、ウイルス、ならびに他のDNAおよび/またはRNA含有生物体の、さまざまな属および種のものが含まれうる。
【0026】
微生物の同定のためには、Luminex xMAP(登録商標)テクノロジーなどの方法を利用することができ、検出段階は、自動システムが第1の増幅、アンプリコンレスキュー、第2の増幅および検出を遂行することができるように、増幅とともに自動システムに組み込まれていてよい。例えば、Luminex xMAP(登録商標)システムでは、懸濁液中にあるマイクロスフェアがプローブ結合のための固体支持体となり、これは「液体チップ(liquid chip)」または「サスペンションアレイ(suspension array)」としても知られる。xMAP(登録商標)テクノロジーを用いる場合、色分けされたマイクロスフェアの表面で分子反応を起こさせる。各病原体ごとに、色分けされたマイクロスフェアの特定セットに標的特異的な捕捉プローブを共有結合させることができる。標識されたPCR産物を、ハイブリダイゼーション用懸濁液中にあるビーズに結合させた捕捉プローブによって捕捉する。マイクロ流体システムが、懸濁液ハイブリダイゼーション反応混合物をデュアルレーザー検出デバイスに送り出す。赤色レーザーは各ビーズをその色分けによって識別し、一方、緑色レーザーは各ビーズに付随するハイブリダイゼーションシグナルを検出する。ソフトウエアを用いることで、データが収集され、結果が数秒間のうちに報告される。データは平均蛍光強度(MFI)の形で報告される。
【0027】
本明細書に記載した方法は、当業者が、特異性の高い高感度の増幅および検出を、1つの自動システムとして結びつけることを可能にする。そのようなシステムを用いると、1つまたは複数の臨床試料を、既存のシステムでこれまで可能であったよりも短い期間で、かつより大きな感度で分析することが可能である。
【0028】
本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0029】
実施例1
食品伝染疾患の原因となる病原体を増幅して検出するためのarm-PCR反応をデザインした。各病原体に対して用いた標的遺伝子は、以下の表1に列挙されている。
【0030】
【表1】

【0031】
各標的に対して作製したプライマーは、表2に列記されている。SupFおよびSupRは共通プライマー配列を示す。標的特異的プライマー用のタグを形成する共通ライマー配列は太字で示されている。Fo、Fi、RiおよびRoは各増幅標的用のネステッドプライマーを示し、一方、Dオリゴは、アンプリコン内部の特定の配列とハイブリダイズする検出用プローブを示す。このプローブは、Luminex xMAP(登録商標)装置を用いた検出のために、色分けされたビーズと共有結合されている。
【0032】
【表2】



【0033】
表2の中のFo、Fi、RiおよびRoプライマーのそれぞれを10pmolずつ含むプライマーミックス。この増幅に関しては、ただ1つの標的テンプレートとしてカンピロバクター-ジェジュニ(Campylobacter jejuni)のみを含めた。このテンプレートを10pg/μl、1pg/μl、0.1pg/μl、0.01pg/μlおよび0.001pg/μlに希釈した。QiagenマルチプレックスPCRキットを用いて、44μlのMultipexミックス、5μlのプライマーミックス、および1μlのテンプレートを含む試料を調製した。サイクリング条件は以下の通りとした。
95℃を15分間

94℃を15秒間
55℃を15秒間
72℃を15秒間
これらの3サイクルを2〜20回繰り返した(本実施例では合計15回)

96℃を15秒間
70℃を15秒間
これらの2サイクルを、本実施例では6回繰り返した

72℃を3分間
4℃に保つ
【0034】
上記の第1の増幅の完了後に、試料を分子量カットオフ50kdのMilliporeカラムに添加し、プライマー(分子量は概して30kd未満)のかなりの部分を除去するために13k RPMで11分間遠心して、フィルターの上方にある、分子量が概して70kdを上回るアンプリコンをレスキューした。カラムを反転させて新たな収集チューブ内でおよそ30秒間遠心して、次回の増幅のためのアンプリコンを回収した。
【0035】
収集チューブからの10μlの試料を、15μlのMultiplexミックス、フォワード共通プライマーについては10pmolでありリバース共通プライマーについては40pmolである1μlの共通プライマー、および14μlのH2Oに対して添加した。続いて試料をサーモサイクラー(Applied Biosystems, Foster City, California)に入れて、以下のサイクルにかけた。
95℃を15分間(酵素を熱活性化するため)
93℃を15秒間
55℃を15秒間×30サイクル
72℃を15秒間
72℃を3分間
4℃に保つ
【0036】
ハイブリダイゼーションは、35μlのビーズ(マイクロスフェア)ミックスに添加した5μlのPCR産物を用いて行い、52℃で10分間にわたりハイブリダイズさせた。10分後に、10μlのSA-PE(2×SA-PE, Genaco Biomedical Sciences, Inc.を1×TMACで1:2に希釈)を各試料に添加して、52℃で5分間ハイブリダイズさせた。5分後に、52℃の停止用緩衝液120μlを各試料に添加し、試料をLuminex200装置を用いて分析した。
【0037】
arm-PCRおよびtem-PCRに関する平均蛍光強度(MFI)の数値を表3に示している。
【0038】
【表3】

【0039】
これらの結果は、低濃度のネステッドプライマーを用いた場合には高テンプレート濃度でのシグナルがより高度であるものの、高濃度ネステッドプライマー法の感度の方が約2 log高いことを示している。例えば、陽性シグナルカットオフを250 MFIとするならば、この方法はわずか0.001pg/μlを検出することができ、一方、低濃度ネステッドプライマーに関して当技術分野でこれまでに記載されている方法の結果は0.1pg/μl〜0.01pg/μlの間では陰性である。プロセス全体のために必要な時間は、低濃度のネステッドプライマーを用いる場合はおよそ210分間であり、高濃度のネステッドプライマーを用いる場合はおよそ150分間である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の増幅反応において、高濃度の標的特異的プライマーを用いて1つまたは複数の標的核酸を増幅し、それによって、少なくとも1つの共通プライマー結合部位を含む少なくとも1つの核酸アンプリコンを生成する段階;
該少なくとも1つの核酸アンプリコンをレスキュー(rescue)する段階;および
第2の増幅反応において、該少なくとも1つの核酸アンプリコンを、該少なくとも1つの共通プライマー結合部位と結合する共通プライマーを用いて増幅する段階
を含む、方法。
【請求項2】
前記高濃度の標的特異的プライマーがネステッド(nested)プライマーである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記1つまたは複数の標的核酸が、ウイルス、細菌および真菌の核酸からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記1つまたは複数の標的核酸が、ヒト臨床試料から得られる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記1つまたは複数の標的核酸が、動物由来の臨床試料から得られる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの共通プライマーが、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの核酸アンプリコンをレスキューする段階が、第2の反応系における第2の増幅のためのアンプリコンを得るために第1の反応系における増幅完了物からの少量試料採取を行う段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】

、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるプライマーを含む、プライマーキット。

【図1】
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【公表番号】特表2011−516069(P2011−516069A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503231(P2011−503231)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/039552
【国際公開番号】WO2009/124293
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(510262471)ハドソン アルファ インスティテュート フォー バイオテクノロジー (1)
【Fターム(参考)】