説明

多方向入力装置

【課題】操作体を原点位置に確実に復帰させることができ、しかも小型化が可能である多方向入力装置を提供すること。
【解決手段】本発明の多方向入力装置は、基板11上に実装された複数の磁気検出素子13a〜13dと、前記基板11に配設された復帰用磁石17と、前記基板11に対して多方向にスライド可能に設けられた操作体12と、前記操作体12に取り付けられており、前記復帰用磁石17に対向して配置されたスライド用磁石16と、を具備し、前記復帰用磁石17は、前記スライド用磁石16が前記操作体12と共に原点位置からスライドした際に、磁気的引力により前記原点位置に前記スライド用磁石16を戻すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機などに用いる多方向入力装置に係り、特に、スライド操作によって所定の入力が可能な多方向入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の多方向入力装置として、特許文献1に開示された構成を有するものがある。この多方向入力装置は、図6に示すように、基板101上に磁気検出素子102が実装されている。ここでは、基板101上に4つの磁気検出素子102が基板101の中心に対して対称な位置に配置されている(図6(a))。基板101の上方には、基板101に対して360°方向にスライド可能な操作体が配設されている(図6(b))。この操作体は、磁石103と、スライド操作により磁石103が移動した際に、磁石103を原点位置に戻す環状コイルバネ104と、磁石103の回転を防止する回転防止機構105とを備えており、これらが一体としてスライド可能となっている。なお、基板101は下側のハウジング(図7に示す参照符号107)に設けられており、操作体は上側のハウジングにより設けられており、下側ハウジングと上側ハウジングとを組み合わせて多方向入力装置を構成している。
【0003】
このような構成を有する多方向入力装置は、操作体106に操作力が付与されていない非操作時には環状コイルバネが円環状に保持されているため、図7(a)に示すように、操作体106が中心部(原点位置)に保持される。図7(a)に示す状態で、操作体106をスライド操作(ここでは上方へのスライド操作)すると、図7(b)に示すように、操作体106の移動により環状コイルバネ104が上側に伸長する。このように操作体106をスライド操作した後、その操作力を除去すると、環状コイルバネ104が、その復元力によって操作体106を押し戻し、操作体106を中心部(原点位置)に戻す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−310670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている多方向入力装置においては、環状コイルバネや回転防止機構を有しているので、装置を大幅に小型化することができない。また、操作体の復帰にバネの復元力を利用しているため、復帰精度にばらつきがあり、操作体を正確に原点位置に復帰させることができず、センシングする際にキャリブレーションにより原点補正をする必要がある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、操作体を原点位置に確実に復帰させることができ、しかも小型化が可能である多方向入力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多方向入力装置は、基板上に実装された複数の磁気検出素子と、前記基板に配設された復帰用磁石と、前記基板に対して多方向にスライド可能に設けられた操作体と、前記操作体に取り付けられており、前記復帰用磁石に対向して配置されたスライド用磁石と、を具備し、前記復帰用磁石は、前記スライド用磁石が前記操作体と共に原点位置からスライドした際に、磁気的引力により前記原点位置に前記スライド用磁石を戻すことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、スライド用磁石は、復帰用磁石との間の対向位置に正確に復帰するので、操作体を正確に原点位置に復帰させることができる。また、この多方向入力装置においては、環状コイルバネや回転防止機構を有しないので、装置を大幅に小型化することができる。
【0009】
本発明の多方向入力装置においては、前記スライド用磁石及び前記復帰用磁石は、対向する領域の極性が反対であることが好ましい。
【0010】
本発明の多方向入力装置においては、前記スライド用磁石と前記復帰用磁石との間の間隔が0.5mm〜1.0mmであることが好ましい。
【0011】
本発明の多方向入力装置においては前記復帰用磁石の最外位置から前記磁気検出素子の中心までの距離が5.0mm以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の多方向入力装置においては、前記磁気検出素子は、所定の磁場強度が印加されたときに磁場角度が変化するものであり、前記スライド用磁石が前記磁気検出素子に与える磁場強度と、前記復帰用磁石が前記磁気検出素子に与える磁場強度との和が、前記所定の磁場強度以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多方向入力装置は、基板上に実装された複数の磁気検出素子と、前記基板に配設された復帰用磁石と、前記基板に対して多方向にスライド可能に設けられた操作体と、前記操作体に取り付けられており、前記復帰用磁石に対向して配置されたスライド用磁石と、を具備し、前記復帰用磁石は、前記スライド用磁石が前記操作体と共に原点位置からスライドした際に、磁気的引力により前記原点位置に前記スライド用磁石を戻すので、操作体を原点位置に確実に復帰させることができ、しかも小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る多方向入力装置を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す多方向入力装置を示す側面図である。
【図2】図1に示す多方向入力装置の分解斜視図である。
【図3】図1に示す多方向入力装置におけるスライド用磁石と復帰用磁石との間の関係を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る多方向入力装置の位置検出能力を説明するための図である。
【図5】(a),(b)は、本発明の実施の形態に係る多方向入力装置を備えた携帯電話機を示す図である。
【図6】従来の多方向入力装置を示す図である。
【図7】(a),(b)は、図6に示す多方向入力装置の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る多方向入力装置を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す多方向入力装置を示す側面図である。また、図2は、図1に示す多方向入力装置の分解斜視図であり、図3は、図1に示す多方向入力装置におけるスライド用磁石と復帰用磁石との間の関係を示す図である。
【0016】
図1(a)に示す多方向入力装置1は、基板11と基板11よりも上方に配置された操作体12とを備えている。図1(b)及び図2に示すように、基板11上には、複数の(ここでは4つの)磁気検出素子13a〜13dが実装されている。この4つの磁気検出素子13a〜13dは、図2に示すように、基板11の中心に対して対称に、かつ、等間隔で配置されている。後述するスライド用磁石16として、4極の磁石を用いているので、4つの磁気検出素子13a〜13dは、各極に対応する領域にそれぞれ配設されている。この磁気検出素子13a〜13dとしては、磁気抵抗効果素子やホール素子などを用いることができる。4つの磁気検出素子13a〜13dは、それぞれ配線(図示せず)を介して信号処理回路(図示せず)に接続されている。
【0017】
基板11には、図2及び図3に示すように、復帰用磁石17が配設されている。ここでは、復帰用磁石17は、その表面が基板11の表面と同じ高さになるように、表面を露出させた状態で基板11に埋設されている。なお、復帰用磁石17は、基板11に埋設されている必要はなく、基板11上に配設されていても良い。
【0018】
この復帰用磁石17は、スライド用磁石16が操作体12と共に原点位置からスライドした際に、磁気的引力により原点位置にスライド用磁石16を戻す働きを持つ。復帰用磁石17は、スライド用磁石16に対向して配置されており、スライド用磁石16及び復帰用磁石17は、対向する領域の極性が反対である。これにより、操作体12に操作力が加わらない状態(非操作状態)においては、互いに対向するスライド用磁石16と復帰用磁石17が引き合ってその磁気的引力によりスライド用磁石16が原点位置に保持される。なお、スライド用磁石16及び復帰用磁石17の磁極は、それぞれ磁石の中心から放射状に配置されている。
【0019】
基板11の中心部には、スイッチ部15が突設されている。このスイッチ部15は、基板11の配線(図示せず)を介して信号処理回路(図示せず)に接続されている。また、このスイッチ部15は、図1(b)に示すように、後述する操作体12の中板12bの底面に突設されている突設部14と当接している。
【0020】
操作体12は、カバー12aと、中板12bとから主に構成されている。カバー12aは、中央に中板12bの操作用突起12cを挿通させる穴部12dが設けられている。この穴部12dは、操作用突起12の径よりも僅かに大きな径で形成されている。中板12bには、その一方の主面の中央に操作用突起12cが形成されており、その操作用突起12cは、カバー12aの穴部12dに挿通するようになっている。操作用突起12cは、カバー12aの穴部12dの径よりも僅かに小さな径で形成されている。また、中板12bには、その他方の主面の中央に突設部14が形成されている。突設部14は、スライド用磁石16の穴部16aよりも僅かに小さい径で形成されている。また、突設部14は、基板11上に突設されているスイッチ部15に当接されており、中板12bの操作用突起12cを押圧することにより、スイッチ部15を押し込むことができるようになっている。これにより、信号が信号処理回路に送られ、所定の処理が行われる。
【0021】
操作体12の中板12bの他方の主面側には、図2に示すように、スライド用磁石16が配設されている。スライド用磁石16は、中央に中板12bの突設部14を挿通させる穴部16aが形成されている。この穴部16aは、突設部14の径よりも僅かに大きな径で形成されている。
【0022】
操作体12は、中板12bの突設部14をスライド用磁石16の穴部16aに挿通させ、中板12の操作用突起12cをカバー12aの穴部12dに挿通させた状態で、スライド用磁石16、中板12b及びカバー12aを一体化させることにより構成されている。そして、この操作体12は、スライド用磁石16が復帰用磁石17に対向するようにして基板11に組み合わされている。これにより、操作体12が基板11に対して多方向にスライド可能となっている。
【0023】
図3に示すように、スライド用磁石16は、基板11に設けられた復帰用磁石17に対向して配置されている。このとき、スライド用磁石16と復帰用磁石17とが対向する領域において極性は反対である。図3においては、スライド用磁石16がN極であり、復帰用磁石17がS極である。このようにスライド用磁石16と復帰用磁石17の磁石の磁気的引力により、操作体12が原点位置に保持される。
【0024】
スライド用磁石16と復帰用磁石17との間の間隔は、非操作状態においてスライド用磁石16(操作体12)を原点位置に保持することを考慮すると、0.5mm〜1.0mmであることが好ましい。また、磁気検出素子13a〜13dには、復帰用磁石17による磁場が印加される。この復帰用磁石17による磁場が、多方向入力装置における磁気検出素子13a〜13dの磁気検出に影響を及ぼさないこと、多方向入力装置における操作体12の位置検出が良好に行えることを考慮すると、復帰用磁石17の最外位置から磁気検出素子13a〜13dの中心までの距離Dは5.0mm以上であることが好ましい。このような間隔や距離Dについては、磁気検出素子13a〜13dの駆動磁場や磁石の種類などを考慮して適宜設定することが好ましい。
【0025】
スライド用磁石16としては、ネオジウム磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石などを用いることができ、復帰用磁石17としては、ネオジウム磁石、フェライト磁石などを用いることができる。
【0026】
磁気検出素子13a〜13dとして、磁場角度を検知して駆動するものを使用する場合、ある一定の磁場強度を与えないと、磁場角度を変えることができない。一方、復帰用磁石17からの磁場強度は一定の大きさで磁気検出素子13a〜13dに印加し続ける。したがって、スライド用磁石16がスライドストローク範囲において与える磁場強度+復帰用磁石17からの磁場強度が磁気検出素子を駆動させる磁場強度を下回らなければ良い。すなわち、磁気検出素子13a〜13dは、所定の磁場強度が印加されたときに磁場角度が変化するものであり、スライド用磁石16が磁気検出素子13a〜13dに与える磁場強度と、復帰用磁石17が磁気検出素子13a〜13dに与える磁場強度との和が、所定の磁場強度(磁気検出素子を駆動させる磁場強度)以上であることが好ましい。
【0027】
4つの磁気検出素子13a〜13dの出力は、上述したようにそれぞれ信号処理回路に送られるようになっており、信号処理回路において、操作体12のスライド方向が求められる。すなわち、信号処理回路において、磁気検出素子13aと磁気検出素子13dとの間の出力電位差(V1−V4)と、磁気検出素子13bと磁気検出素子13cとの間の出力電位差(V2−V3)とにより操作体12のスライド方向を求める。
【0028】
例えば、操作体12の非操作時において、スライド用磁石16は、磁気検出素子13a〜13dのいずれの側にも偏っていないので、出力電圧差(V1−V4)はゼロであり、出力電圧差(V2−V3)もゼロである。操作体12が操作されてスライド用磁石16が磁気検出素子13a側に移動すると、磁気検出素子13aからの出力電圧が増大して磁気検出素子13dからの出力電圧が減少するため、出力電圧差(V1−V4)はプラスになる。このとき、出力電圧差(V2−V3)はゼロのままである。また、操作体12が操作されてスライド用磁石16が磁気検出素子13c側に移動すると、磁気検出素子13cからの出力電圧が増大して磁気検出素子13bからの出力電圧が減少するため、出力電圧差(V2−V3)はマイナスになる。このとき、出力電圧差(V1−V4)はゼロのままである。このような出力電圧差(V1−V4)及び出力電圧差(V2−V3)を用いて演算を行うことにより、操作体12のスライド方向を求めることができる。
【0029】
このように操作体12が所定方向へスライド操作され、その後、操作体12に対する操作力を解放すると、操作体12側のスライド用磁石16と基板11側の復帰用磁石17が引き合い、スライド用磁石16が復帰用磁石17側に引き寄せられて、スライド用磁石16が原点位置に復帰する。その結果、操作体12が原点位置に復帰することになる。スライド用磁石16は、復帰用磁石17との間の対向位置に正確に復帰するので、操作体12を正確に原点位置に復帰させることができる。また、この多方向入力装置においては、環状コイルバネや回転防止機構を有しないので、装置を大幅に小型化することができる。
【0030】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
外径5.9mm、厚さ0.5mmの復帰用磁石と、外径12mm、厚さ0.5mmのスライド用磁石とを磁石間距離0.7mmで対向配置し、復帰用磁石の中心から対称な位置に4つの磁気検出素子を配置(磁気検出素子間距離16mm)して多方向入力装置を構成した。そして、スライド用磁石を前後左右に±1.5mmスライドさせたときの検出位置を調べた。その結果を図4に示す。図4から分かるように、復帰用磁石があっても正確に位置検出を行うことができた。
【0031】
上記構成を有する多方向入力装置は、例えば、携帯電話機に搭載される。図5(a),(b)は、本発明の実施の形態に係る多方向入力装置を備えた携帯電話機を示す図である。図5(a),(b)に示すように、本発明に係る多方向入力装置22は、携帯電話機2の操作パネル21に装着されており、多方向入力装置22の操作用突起22aを多方向にスライドすることにより、ディスプレイ(図示せず)上に表示させたカーソルをスライド方向に移動させることができる。このとき、操作用突起22aが所定方向へスライド操作され、その後、操作体に対する操作力を解放すると、操作体側のスライド用磁石と基板側の復帰用磁石が引き合い、スライド用磁石が復帰用磁石側に引き寄せられて、スライド用磁石が原点位置に復帰する。その結果、操作用突起22aが原点位置に復帰することになる。スライド用磁石は、復帰用磁石との間の対向位置に正確に復帰するので、操作体を正確に原点位置に復帰させることができる。
【0032】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。例えば、上記実施の形態における材料、各素子の接続関係、厚さ、大きさ、製法などは適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明は、本発明の範囲を逸脱しないで適宜変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、携帯電話機の多方向入力装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1,22 多方向入力装置
2 携帯電話機
11 基板
12 操作体
12a カバー
12b 中板
12c 操作用突起
12d,16a 穴部
13a〜13d 磁気検出素子
14 突設部
15 スイッチ部
16 スライド用磁石
17 復帰用磁石
21 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に実装された複数の磁気検出素子と、前記基板に配設された復帰用磁石と、前記基板に対して多方向にスライド可能に設けられた操作体と、前記操作体に取り付けられており、前記復帰用磁石に対向して配置されたスライド用磁石と、を具備し、前記復帰用磁石は、前記スライド用磁石が前記操作体と共に原点位置からスライドした際に、磁気的引力により前記原点位置に前記スライド用磁石を戻すことを特徴とする多方向入力装置。
【請求項2】
前記スライド用磁石及び前記復帰用磁石は、対向する領域の極性が反対であることを特徴とする請求項1記載の多方向入力装置。
【請求項3】
前記スライド用磁石と前記復帰用磁石との間の間隔が0.5mm〜1.0mmであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の多方向入力装置。
【請求項4】
前記復帰用磁石の最外位置から前記磁気検出素子の中心までの距離が5.0mm以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の多方向入力装置。
【請求項5】
前記磁気検出素子は、所定の磁場強度が印加されたときに磁場角度が変化するものであり、前記スライド用磁石が前記磁気検出素子に与える磁場強度と、前記復帰用磁石が前記磁気検出素子に与える磁場強度との和が、前記所定の磁場強度以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の多方向入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−187424(P2011−187424A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54722(P2010−54722)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】