説明

多板摩擦クラッチ装置

【課題】 ドリブンプレートとドライブプレートを収容するドラムにおいて、クラッチの滑り回転による温度上昇によって、潤滑油の保持と放出を行う事により有効的に冷却効果を高めること。
【解決手段】 クラッチの温度が低い時は、クラッチドラム5の潤滑油排出孔10を塞ぎ潤滑油をクラッチドラム5内に保持し、温度が高い時に、潤滑油排出孔10を開き潤滑油をクラッチドラム5内より放出し、多板摩擦クラッチの温度を冷却するようになっており、具体的には、温度によりクラッチドラム5の潤滑油を開閉する開閉弁を有している。この開閉弁は、バイメタル11を使用することにより、開閉温度を設定し、潤滑油排出孔10を通して潤滑油を放出するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリブンプレートとドライブプレートを収容するドラムにおいて、クラッチの滑り回転による温度上昇によって、潤滑油の保持と放出を行う事により有効的に冷却効果を高めることができる多板摩擦クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェット・スターティング・クラッチ(Wet Starting Clutch、以下WSCと記す)やデュアル・クラッチ・トランスミッション(Dual Clutch Transmission、以下DCTと記す)に使われる多板摩擦クラッチ装置では、ドリブンプレート(SP)とドライブプレート(FP)が交互に数枚重なり合い、ドリブンプレートとドライブプレートが滑りながらピストンの押圧力により締結されるように構成されている。
【0003】
また、特許文献1に於いては、摩擦板の回転時、摩擦板の内周側から外周側へオイルを排出する排出角を持つ複数のオイル溝と、摩擦板の外周側から内周側へオイルを引き込む流入角を持つ複数のオイル溝とを略等間隔置きに混在させてある。
【0004】
すなわち、特許文献1では、ドラムの内部に配置されている摩擦材に溝を施すことにより、溝による潤滑油の放出と取り込みの効果を求めている。
【特許文献1】特開2004−76896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示した多板摩擦クラッチ装置に於いては、ドラム外径側に潤滑油排出の孔が開いていることにより、ドラム内の遠心力により放出性が余儀なくされる。
【0006】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、ドリブンプレートとドライブプレートを収容するドラムにおいて、クラッチの滑り回転による温度上昇によって、潤滑油の保持と放出を行う事により有効的に冷却効果を高めることができる、多板摩擦クラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の請求項1に係る多板摩擦クラッチ装置は、ドリブンプレートとドライブプレートが交互に数枚重なり合い、ドリブンプレートとドライブプレートが滑りながらピストンの押圧力により締結される多板摩擦クラッチ装置に於いて、
そのドリブンプレートとドライブプレートを収容するドラムにおいて、
クラッチの温度が低い時は、ハウジングの潤滑油排出孔を塞ぎ潤滑油をハウジング内に保持し、
温度が高い時に、潤滑油排出孔を開き潤滑油をハウジング内より放出し、多板摩擦クラッチの温度を冷却する冷却手段を、具備することを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に係る多板摩擦クラッチ装置は、前記冷却手段は、温度によりドラムの潤滑油を開閉する弁を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に係る多板摩擦クラッチ装置は、前記冷却手段は、開閉弁をバイメタルを使用することにより、開閉温度を設定し、潤滑油を放出することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4に係る多板摩擦クラッチ装置は、前記冷却手段は、開閉弁を形状記憶合金を使用することにより、開閉温度を設定し、潤滑油を放出することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5に係る多板摩擦クラッチ装置は、前記冷却手段は、開閉弁をドラムに固定したものにより、排出孔を開き潤滑油を放出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ドリブンプレートとドライブプレートを収容するドラムにおいて、クラッチが低温時は、ハウジングの潤滑油排出孔を塞ぎ潤滑油をハウジング内に保持し、高温時に、潤滑油排出孔を開き潤滑油をハウジング内より放出し、多板摩擦クラッチの温度を冷却する冷却手段を、具備している。
【0013】
そのため、潤滑油を低回転では潤滑油をドラム内に保持し、高回転時において、ポンプからの潤滑油量が供給され、スターティングクラッチの係合時、摩擦材の発熱量も大きくなる。そのときに潤滑油が早く外へ放出されるように熱感知により、バイメタルの材質の選定や形状記憶合金の温度設定により潤滑油排出孔が開き潤滑油を放出することが出来る。
【0014】
したがって、ドラム内の温度上昇による温度の差により弁の開閉を行う事により、低回転ではドラム内温度が上昇しないため潤滑油を保持するため、ポンプからの潤滑油量は少量でよく、高回転の摩擦材締結時においては発熱量が高くなるためポンプからの潤滑油の供給量も多くし、発熱した熱量を外部に潤滑油と共に排出し、ドラム内の冷却効果を高めることが出来る。よって、従来と比較しポンプを有効的に働かせることにより、燃費向上を図る事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る多板摩擦クラッチ装置を図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る多板摩擦クラッチ装置を備えたWSCユニットの模式的断面図である。
【0017】
多板摩擦クラッチ装置では、ドリブンプレート1(SP)とドライブプレート2(FP)が交互に数枚重なり合っている。ドリブンプレート1は、外側にスプラインを有する金属製のプレートであり、ドライブプレート2は、内側にスプラインを有する金属板で、その両面にフェーシング材(摩擦材、ライニング)を貼り付けた物である。又、ドリブンプレート1とドライブプレート2の片面に交互にフェーシング材(摩擦材、ライニング)を貼り付けていることもある。ピストン4の押圧力により作用と非作用とすることにより、締結又は解放されるように構成されている。なお、符号5は、クラッチドラムであり、符号6は、リテーナプレートであり、符号7は、ハブである。
【0018】
図2(a)は、本発明の実施の形態に係る多板摩擦クラッチ装置に装着したクラッチドラムの正面図であり、(b)は、(a)のb−b線に沿った断面図である。
【0019】
図3は、図2(b)で略長方形状に囲んだ部分(COOL)の拡大断面図である。
【0020】
なお、図2において、「COOL」で示す円で又は略長方形状に囲んだ部分は、後述する冷却手段が設けてある部位である。
【0021】
本実施の形態では、ドリブンプレート1とドライブプレート2を収容するクラッチドラム5において、クラッチの温度が低い時は、クラッチドラム5の潤滑油排出孔10を塞ぎ潤滑油をクラッチドラム5内に保持し、温度が高い時に、潤滑油排出孔10を開き潤滑油をクラッチドラム5内より放出し、多板摩擦クラッチの温度を冷却する冷却手段を、具備している。
【0022】
具体的には、冷却手段は、温度によりクラッチドラム5の潤滑油を開閉する開閉弁を有している。
【0023】
この開閉弁は、バイメタル11を使用することにより、開閉温度を設定し、潤滑油排出孔10を通して潤滑油を放出するようになっている。バイメタル11は、その基端がリベット12により、クラッチドラム5に固定してあり、潤滑油排出孔10の開閉を行って潤滑油を放出するようになっている。
【0024】
また、開閉弁は、形状記憶合金を使用することにより、開閉温度を設定し、潤滑油排出孔10を通して潤滑油を放出するように構成してあってもよい。
【0025】
そのため、潤滑油を低回転では潤滑油をクラッチドラム5内に保持し、高回転時において、ポンプからの潤滑油量が供給され、スターティングクラッチの係合時、摩擦材の発熱量も大きくなる。そのときに潤滑油が早く外へ放出されるように熱感知により、バイメタル11の材質の選定や形状記憶合金の温度設定により潤滑油排出孔が開き潤滑油を放出することが出来る。
【0026】
したがって、クラッチドラム5内の温度上昇による温度の差により弁の開閉を行う事により、低回転では、クラッチドラム5内温度が上昇しないため潤滑油を保持するため、ポンプからの潤滑油量は少量でよく、高回転の摩擦材締結時において、発熱量が高くなるためポンプからの潤滑油の供給量も多くし、発熱した熱量を外部に潤滑油と共に排出して、クラッチドラム5内の冷却効果を高めることが出来る。よって、従来と比較しポンプを有効的に働かせることにより、燃費向上を図る事が出来る。
【0027】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、開閉弁の固定方法が図示例ではリベット12となっているが、リベットに限らず、固定方法はどのような方法でも可である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る多板摩擦クラッチ装置を備えたWSCユニットの模式的断面図である。
【図2】(a)は、本発明の実施の形態に係る多板摩擦クラッチ装置に装着したクラッチドラムの正面図であり、(b)は、(a)のb−b線に沿った断面図である。
【図3】図2(b)で略長方形状に囲んだ部分(COOL)の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ドリブンプレート
2 ドライブプレート
4 ピストン
5 クラッチドラム(ハウジング)
6 リテーナプレート
7 ハブ
10 潤滑油排出孔
11 バイメタル
12 リベット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリブンプレートとドライブプレートが交互に数枚重なり合い、ドリブンプレートとドライブプレートが滑りながらピストンの押圧力により締結される多板摩擦クラッチ装置に於いて、
そのドリブンプレートとドライブプレートを収容するドラムにおいて、
クラッチが低温時は、ハウジングの潤滑油排出孔を塞ぎ潤滑油をハウジング内に保持し、
高温時に、潤滑油排出孔を開き潤滑油をハウジング内より放出し、多板摩擦クラッチの温度を冷却する冷却手段を、具備することを特徴とする多板摩擦クラッチ装置。
【請求項2】
前記冷却手段は、温度によりドラムの潤滑油を開閉する弁を有することを特徴とする請求項1に記載の多板摩擦クラッチ装置。
【請求項3】
前記冷却手段は、開閉弁をバイメタルを使用することにより、開閉温度を設定し、潤滑油を放出することを特徴とする請求項2に記載の多板摩擦クラッチ装置。
【請求項4】
前記冷却手段は、開閉弁を形状記憶合金を使用することにより、開閉温度を設定し、潤滑油を放出することを特徴とする請求項2に記載の多板摩擦クラッチ装置。
【請求項5】
前記冷却手段は、開閉弁をドラムに固定したものにより、排出孔を開き潤滑油を放出することを特徴とする請求項2に記載の多板摩擦クラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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