説明

多極電機子の巻線方法及び巻線装置

【課題】複数の線材を同時に磁極に巻線する場合において、それぞれの線材の抵抗値のばらつきを抑制すること。
【解決手段】外周長さが長手方向に沿って連続して変化して形成された複数の磁極4が環状に並ぶ多極電機子1に対して、ノズル9から繰り出される複数の線材2を同時に巻線する巻線方法であって、一つの磁極4に対する巻線が完了する毎に、複数の線材2のなかで最も磁極4の先端側に巻線された線材2が、次に巻線する磁極4では、複数の線材2のなかで最も磁極4の基端側に巻線されるように、ノズル9を回転させ磁極4に対する線材2の配列を入れ替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多極電機子の磁極に線材を巻線する巻線方法及び巻線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の巻線装置として、複数の磁極が環状に並ぶ多極電機子(ステータ)に対して、複数の線材を同時に巻線するものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。磁極に巻線された線材は、磁極間のスロット内に収容される。
【特許文献1】特開平02−262861号公報
【特許文献2】特開2003−153506号公報
【特許文献3】特開2006−81372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
複数の磁極がステータの中心に向かって延在するステータでは、各磁極間のスロットは、磁極根元側の幅が広く、磁極先端側の幅が狭く形成される。そのため、磁極に巻線される線材は、磁極の根元側がより長く巻線される。
【0004】
これにより、複数の線材のなかで磁極の基端側に巻線される線材は、巻線に使用される線材の長さがより長くなり、また、複数の線材のなかで磁極の先端側に巻線される線材は、巻線に使用される線材の長さがより短くなる。
【0005】
この結果、全ての磁極への巻線が完了したときには、磁極への巻線に使用されたそれぞれの線材の総長さは異なることとなる。この場合、それぞれの線材の抵抗値にばらつきが生じ、モータの性能に悪影響を及ぼす。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、複数の線材を同時に磁極に巻線する場合において、それぞれの線材の抵抗値のばらつきを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の磁極が環状に並ぶ多極電機子に対して、線材繰出部材から繰り出される複数の線材を同時に巻線する多極電機子の巻線方法であって、一つの磁極に対する巻線が完了する毎に、複数の線材のなかで最も磁極の先端側に巻線された線材が、次に巻線する磁極では、複数の線材のなかで最も磁極の基端側に巻線されるように、前記線材繰出部材を回転させ磁極に対する線材の配列を入れ替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一つの磁極に対する巻線が完了する毎に、複数の線材のなかで最も磁極の先端側に巻線された線材が、次に巻線する磁極では、複数の線材のなかで最も磁極の基端側に巻線されるように、線材繰出部材を回転させ磁極に対する線材の配列を入れ替えるため、全ての磁極への巻線が完了したとき、巻線に使用されたそれぞれの線材の総長さのばらつきが小さくなる。したがって、それぞれの線材の抵抗値のばらつきを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本実施の形態に係る巻線装置は、ステータ1(多極電機子)に対してノズル9(線材繰出部材)から繰り出される複数の線材2を同時に巻線する装置である。
【0011】
まず、図1を参照してステータ1について説明する。図1はステータ1の斜視図である。
【0012】
ステータ1は、環状のヨーク3と、ヨーク3の内周に設けられステータ1の中心に向かって放射状に延在する複数のティース4(磁極)とを備えるインナーステータである。
【0013】
環状に並ぶ各ティース4の間にはスロット5が内側に向けて開口している。各ティース4の周囲には線材2が巻線され、スロット5内にコイルが収容される。各ティース4の先端には鍔部4aが設けられ、鍔部4aによってティース4に巻線されるコイルの巻幅が規定される。
【0014】
ティース4は断面が四角形に形成され、根元の基端から先端に向かって細く形成される。これにより、ティース4の外周長さは、基端側がより長く、先端側がより短く形成される。つまり、ティース4は、外周長さが長手方向に沿って連続して変化して形成される。
【0015】
ノズル9は、ティース4間のスロット5を通過可能なように平板状に形成される。線材2は、ノズル9を挿通して先端面9aから繰り出される。
【0016】
巻線装置は、ステータ1をその中心軸回りに回動させるインデックス機構(図示せず)と、ノズル9を直交三軸方向に移動させるノズル移動機構(図示せず)とを備える。
【0017】
ティース4に対して線材2を巻線する場合には、インデックス機構を駆動することによってステータ1を回転させ、巻線対象である所望のティース4をノズル9に対峙させる。次に、ノズル9から繰り出された線材2の先端部をチャック(図示せず)にて保持した状態で、ノズル移動機構を駆動することによって、ノズル9をティース4の周囲を周回させて巻線を行う。
【0018】
次に、図2〜図4を参照して、ノズル9、及びノズル9を保持するホルダ11について説明する。図2はノズル9及びホルダ11の平面図であり、図3はノズル9及びホルダ11の側面図であり、図4はノズル9及びホルダ11の正面図である。
【0019】
ホルダ11は、ステータ1の回転軸方向に延在するホルダ保持軸12(図7参照)に、一対の軸13を介して揺動自在に取り付けられる。
【0020】
ホルダ11は、円柱状の部材であり、軸方向に貫通する複数の貫通孔14が一直線上に並んで形成される。線材供給源(図示せず)から供給される複数の線材2は、それぞれ貫通孔14を挿通してノズル9へと導かれる。
【0021】
ホルダ11の一端面11aにはノズル9を回転可能に支持するノズル支持部材15(線材繰出部材支持機構)が取り付けられ、他端面11bにはエアシリンダ(図示せず)のロッドの先端部が連結される連結部16が取り付けられる。このように、ノズル9は、ノズル支持部材15を介してホルダ11に回転可能に支持される。
【0022】
エアシリンダを駆動することによって、ホルダ11は軸13を中心に揺動し、これに伴いノズル9の向きが変化する。
【0023】
ノズル支持部材15は、ホルダ11の一端面11aに円形状に窪んで形成された円形穴17内に収装され円形穴17内周に沿って回転可能な環状のリング部18と、リング部18から立設しノズル9が固定される支持部20とを備える。
【0024】
このように、ノズル9は、支持部20を介してリング部18に固定されているため、ホルダ11の円形穴17内にてリング部18が回転することによって、ノズル9も回転する。
【0025】
リング部18の外周には、ホルダ11に対するリング部18の相対回転位置を規定するためのピン21が挿通する一対の位置決め孔22が形成される。一対の位置決め孔22は、リング部18の回転軸を中心に対称に、つまり、180度隔てて形成される。また、ホルダ11の一端面11aには、ピン21が挿入される一対の位置決め穴23が180度隔てて形成される。ホルダ11に対するリング部18の相対回転位置を位置決めする場合には、リング部18の位置決め孔22とホルダ11の位置決め穴23とを位置合わせした状態で、ピン21を挿入することによって行う。このようにして、ホルダ11に対するリング部18の位置決めを行った後、一対のボルト24を用いてリング部18をホルダ11に締結する。なお、図4に示すように、リング部18は、ホルダ11の貫通孔14を閉塞しないような内径に形成される。
【0026】
ボルト24を外した状態でも、リング部18が円形穴17から抜けないようにするため、ホルダ11の一端面11aには、リング部18の外周縁に対向して環状のリング部材25がボルト26を介して締結される。リング部材25は、リング部18が円形穴17から抜けることを防止するが、リング部18が円形穴17内にて回転することは規制しない。したがって、ホルダ11を一端面11aが鉛直下方となる向きにセットした場合において、ボルト24を外してもリング部18はリング部材25に係止されて落下しないため、リング部18を円形穴17内にて回転させることが可能となる。
【0027】
支持部20は略半円柱状の部材であり、外側の曲面20aはリング部18の内周面に連結され、内側の端面20bにはノズル9の基部9bがボルト27を介して固定される。なお、図4に示すように、支持部20の端面20bには、支持部20がホルダ11の貫通孔14と干渉しないように、溝部28が形成される。
【0028】
ノズル支持部材15は、以上のように構成され、ホルダ11の貫通孔14を挿通した線材2は、ノズル9に貫通して形成された複数のガイド穴8を挿通し、ノズル9の先端面9aから繰り出されて、ティース4の外周に巻線される。
【0029】
ここで、図2及び図4に示すように、巻線時には、ノズル9は、ガイド穴8の配列方向がホルダ11の貫通孔14の配列方向と直交する向きに設定される。つまり、ガイド穴8の配列方向と貫通孔14の配列方向とが直交するように、リング部18の位置決め孔22及びホルダ11の位置決め穴23の位置が設定されている。これにより、ホルダ11の貫通孔14を挿通した線材2は、90度捩れてノズル9のガイド穴8へと導かれる。
【0030】
次に、図4〜図8を参照して、巻線装置による巻線動作について説明する。図4は初期状態のノズル9及びホルダ11の正面図であり、図5はノズル9が図4に示す初期状態から90度回転した状態の図であり、図6はノズル9が図4に示す初期状態から180度回転した状態の図であり、図7は巻線動作を時系列順に示した模式図であり、図8は線材2に生じた捩れを戻す動作を示した図である。なお、図4〜図6では、紙面上下方向がステータ1の軸方向であるとし、また、図7及び図8では、便宜上、線材2の本数が3本である場合について示し、図7ではティース4に巻線された線材2の図示は省略している。
【0031】
まず、図7(a)及び図4に示すように、ホルダ11をホルダ保持軸12に対して揺動させ、ノズル9をガイド穴8がティース4の高さ方向(ステータ1の軸方向)に配列される向きに設定する。ノズル9の向きをこのように設定することによって、ノズル9はスロット5内を挿通することが可能となる。なお、以下では、ノズル9の各ガイド穴8を上方から8a,8b,8cとし、ガイド穴8a,8b,8cから繰り出されるそれぞれの線材2を2a,2b,2cとして説明する。
【0032】
図7(a)に示す状態で、ノズル9を巻線対象であるティース4Aの周囲を周回させて、ティース4Aの周囲に線材2を巻線する。ノズル9がティース4Aの周囲を周回する際、ティース4Aに対するノズル9の向きは変わらない。つまり、ノズル9のガイド穴8aは常に一番上、ガイド穴8cは常に一番下の状態で、ノズル9はティース4Aの周囲を周回する。このようにして巻線を行った場合、ノズル9がティース4Aの周囲を1周した場合、図8(a)に示すように、線材2a〜2cには1回転分の捻れ6が生じる。
【0033】
この捩れ6を戻すために、図8(a)〜(e)に示すように、ステータ1をその中心軸T回りに1回転させる。図8(b)はステータ1が90度回転した状態であり、図8(c)はステータ1が180度回転した状態であり、図8(d)はステータ1が270度回転した状態であり、図8(e)はステータ1が360度の回転を完了する直前の状態を示す図である。図8(a)から図8(e)への変化からわかるように、ステータ1がその中心軸T回りに1回転することによって、線材2a〜2cに生じていた1回転分の捻れ6は戻されることになる。
【0034】
なお、図8に示すように、ステータ1を中心軸T回りに1回転させる過程で、ノズル9をティース4Aに追従させるのが望ましい。ノズル9をティース4Aに追従させれば、ステータ1の回転中、ノズル9とティース4Aとの距離が常に一定に保たれるため、ノズル9とティース4Aとの間の線材2の張力を一定に保つことができる。
【0035】
このように、ノズル9がティース4Aの周囲を1周する毎に、ステータ1をその中心軸T回りに1回転させる動作を繰り返すことによって、ティース4Aの周囲には線材2が捩れの無い状態で多層に整列巻きされる。
【0036】
ここで、図8(e)に示すように、一番上のガイド穴8aから繰り出される線材2aは、線材2a〜2cのなかで最もティース4Aの基端側に巻線され、一番下のガイド穴8cから繰り出される線材2cは、線材2a〜2cのなかで最もティース4Aの先端側に巻線され、中央のガイド穴8bから繰り出される線材2bは、線材2aと線材2cの間に巻線される。
【0037】
ここで、ティース4は根元の基端から先端に向かって細く形成されるため、ティース4の外周長さは、基端側がより長く先端側がより短く形成される。このことから、ティース4Aの基端側に巻線された線材2aは、ティース4Aの先端側に巻線された線材2cと比較して、ティース4の外周長さがより長い部位に巻線されることになる。したがって、ティース4Aへの巻線が完了した場合には、ティース4Aへの巻線に使用された線材の長さは、線材2a、線材2b、線材2cの順に長くなる。他のティース4に対する巻線をティース4Aに対する巻線と同様に行い、ステータ1の全てのティース4への巻線が完了した場合には、ステータ1への巻線に使用された線材の長さは、それぞれの線材2a〜2cで大きく異なることになる。したがって、それぞれの線材2a〜2cに通電した場合には、線材2a、線材2b、線材2cの順に抵抗値が大きくなり、それぞれの線材2a〜2cの抵抗値にばらつきが生じる。
【0038】
そこで、ティース4Aへの巻線が完了した後、次の巻線対象であるティース4Bへの巻線を開始するまでの間に、線材2a〜2cのなかで最もティース4Aの先端側に巻線された線材2cが、次に巻線するティース4Bでは、線材2a〜2cのなかで最もティース4Bの基端側に巻線されるように、ノズル9を回転させティース4に対する線材2a〜2cの配列を入れ替える。
【0039】
この線材2a〜2cの配列の入れ替えについて具体的に説明する。
【0040】
まず、図7(b)に示すように、ホルダ11を図7(a)に示す状態から略90度揺動させ、ノズル9をガイド穴8がティース4Aの巻軸方向に配列される向きに設定する。ノズル9の向きをこのように設定することによって、ノズル9から繰り出される線材2a〜2cはティース4Aに向かって真直ぐに延びるため、次の工程でノズル9を回転させ易くなる。
【0041】
次に、リング部18の位置決め孔22及びホルダ11の位置決め穴23に挿入されているピン21を抜く共に、リング部18を締結しているボルト24も外し、リング部18がホルダ11の円形穴17内にて回転可能な状態とする。そして、図7(c)に示すように、ノズル9を回転させる。具体的には、図4に示す初期状態から、図5に示すように90度回転させ、さらに図6に示すように180度回転させる。
【0042】
このようにしてノズル9を180度回転させた後、リング部18の位置決め孔22とホルダ11の位置決め穴23とを位置合わせし、ピン21を挿入することによって、ホルダ11に対するリング部18の相対回転位置を位置決めする。そして、一対のボルト24を用いてリング部18をホルダ11に締結する。
【0043】
なお、ノズル9の回転操作は手動にて行ってもよいし、図9に示すように、モータ30を用いて行ってもよい。モータ30を用いる場合には、図9に示すように、モータ30の出力軸に、リング部18の外周に形成したギヤに噛み合う歯車31を設けるようにすればよい。
【0044】
また、モータ30を用いる場合には、ノズル9の回転を自動化することが可能となり、その場合には、ホルダ11に対するリング部18の相対回転位置の位置決めを行うピン21を廃止し、双方の位置決めを自動で行うようにすればよい。
【0045】
ノズル9を180度回転させた後は、図7(d)に示すように、ステータ1を回転させることによって、次の巻線対象であるティース4Bをノズル9に対峙させる。
【0046】
そして、図7(e)に示すように、ホルダ11を揺動させ、ノズル9をガイド穴8がティース4Bの高さ方向に配列される向きに設定する。
【0047】
前述のように、ノズル9は180度回転させられているため、ティース4Bに巻線を開始する直前の図7(e)に示す状態では、ノズル9の各ガイド穴8は上方から8c,8b,8aとなっており、ティース4Aに巻線を行った図7(a)に示す状態とは、ノズル9の向きが逆になっている。
【0048】
そのため、ティース4Bへの巻線を開始すると、一番上のガイド穴8cから繰り出される線材2cは、線材2a〜2cのなかで最もティース4Bの基端側に巻線され、一番下のガイド穴8aから繰り出される線材2aは、線材2a〜2cのなかで最もティース4Bの先端側に巻線される。
【0049】
このように、ティース4Aへの巻線が完了した後、次の巻線対象であるティース4Bへの巻線を開始するまでの間に、ノズル9を180度回転させることによって、ティース4Aでは線材2a〜2cのなかで最も先端側に巻線された線材2cが、ティース4Bでは線材2a〜2cのなかで最も基端側に巻線され、かつ、ティース4Aでは線材2a〜2cのなかで最も基端側に巻線された線材2aが、ティース4Bでは線材2a〜2cのなかで最も先端側に巻線されることになる。つまり、ノズル9を180度回転させることによって、ティース4に対する線材2a〜2cの配列が入れ替えられる。これにより、ティース4Bでは、ティース4Aとは逆に、線材2cはティース4Bの外周長さがより長い部位に巻線され、線材2aはティース4Bの外周長さがより短い部位に巻線されることになる。したがって、ティース4Bへの巻線に使用される線材の長さは、線材2c、線材2b、線材2aの順に長くなり、ティース4Aに対する巻線の場合とは逆になる。
【0050】
ティース4Bへの巻線完了後には、ティース4Aへの巻線完了後とは逆方向へとノズル9を180度回転させる。つまり、ノズル9を図6に示す状態から図4に示す状態へと回転させる。このように、ノズル9の回転による線材2a〜2cの配列の入れ替えは、一つのティース4に対する巻線が完了する毎に行われ、かつ、ノズル9の回転は1回毎に逆方向に行われる。このようにして、ステータ1の全てのティース4に対して巻線を行うことによって、巻線に使用されたそれぞれの線材2a〜2cの総長さは概ね同じとなる。したがって、ステータ1に巻線されたそれぞれの線材2a〜2cに通電した場合には、それぞれの線材2a〜2cの抵抗値は概ね同じとなる。また、ノズル9の回転は1回毎に逆方向に行われるため、ノズル9の回転によってホルダ11とノズル9との間で線材2に捩れが重畳されることもない。
【0051】
ノズル9は、一つのティース4に対する巻線が完了する毎に、図4に示す状態と図6に示す状態とに交互に設定される。図4に示す初期状態では、ノズル9はガイド穴8の配列方向がホルダ11の貫通孔14の配列方向と直交する向きに設定されるため、ノズル9が180度回転した図6に示す状態でも、ノズル9はガイド穴8の配列方向がホルダ11の貫通孔14の配列方向と直交する向きとなる。したがって、図4に示す状態及び図6に示す状態のいずれにおいても、ホルダ11の貫通孔14を挿通した線材2a〜2cは90度捩れてノズル9のガイド穴8へと導かれるため、図4示す状態と図6に示す状態とにおけるホルダ11とノズル9の間の線材2の張力は同じとなる。このように、初期状態として、ノズル9をガイド穴8の配列方向がホルダ11の貫通孔14の配列方向と直交する向きに設定することによって、ノズル9を180度回転させた場合でも、ホルダ11とノズル9の間の線材2の張力を同じにすることができる。
【0052】
ここで、一つのティース4に対する巻線が完了する毎に行われるノズル9の回転によって、ノズル9から繰り出される線材2a〜2cの間には捩れが生じることになる。しかし、ノズル9の回転による線材2a〜2cの配列の入れ替えは、一つのティース4に対する巻線が完了した後、次のティース4への巻線を開始するまでの間に行われるため、ノズル9の回転によって生じる線材2a〜2cの捩れは、ティース間の渡り線に形成されることになる。このように、ノズル9の回転によって生じる線材2a〜2cの捩れは、スロット5内に位置することはないため、線材2の占積率に悪影響を及ぼすことはない。
【0053】
以上の本実施の形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0054】
一つのティース4に対する巻線が完了する毎に、複数の線材2のなかで最もティース4の先端側に巻線された線材2が、次に巻線するティースでは、最も基端側に巻線されるように、ノズル9を回転させティース4に対する線材2の配列を入れ替えるため、全てのティース4への巻線が完了したとき、巻線に使用されたそれぞれの線材2の総長さは概ね同じとなる。したがって、ステータ1に巻線されたそれぞれの線材2a〜2cに通電した場合には、それぞれの線材2a〜2cの抵抗値は概ね同じとなる。これにより、ステータ1を用いて構成されるモータの性能は良好なものとなる。
【0055】
以下に、本実施の形態の他の形態について説明する。
【0056】
上記実施の形態では、外周長さが長手方向に沿って連続して変化して形成されるティース4に線材2を巻線する場合について説明した。しかし、本発明は、外周長さが長手方向に沿って連続して変化しない、つまり、外周長さが長手方向に一様なティース4に線材2を巻線する場合でも、上記実施の形態と同様の作用効果を奏する。
【0057】
これについて説明すると、複数のティース4がステータ1の中心に向かって放射状に延在するステータ1では、各ティース4間のスロット5は、ティース基端側の幅が広く、ティース先端側の幅が狭く形成される。そのため、ティース4に巻線される線材2は、ティース4の基端側がより多層に巻線されることになる。この場合、ティース4の外周長さが長手方向に一様であったとしても、上記実施の形態と同様に、複数の線材2のなかでティース4の基端側に巻線される線材は、巻線された線材の長さがより長くなり、また、複数の線材2のなかでティース4の先端側に巻線される線材は、巻線された線材の長さがより短くなる。このように、ティース4の外周長さが長手方向に一様であったとしても、ティース4への巻線が完了した場合には、そのティース4への巻線に使用されたそれぞれの線材2の長さは異なることとなる。このことから、本発明は、ティース4の形状に関係なく適用することが可能である。
【0058】
本発明は、上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0059】
例えば、以上の実施の形態では、インナーステータに対して巻線を行う場合について説明した。しかし、本発明に係る巻線方法及び巻線装置は、ティース4がヨーク3の外周に設けられるアウターステータに対して巻線を行う場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、複数の線材をステータ、ロータ等の多極電機子に対して巻線する巻線方法及び巻線装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ステータの斜視図である。
【図2】ノズル及びホルダの平面図である。
【図3】ノズル及びホルダの側面図である。
【図4】ノズル及びホルダの正面図である。
【図5】ノズルが図4に示す初期状態から90度回転した状態の図である。
【図6】ノズルが図4に示す初期状態から180度回転した状態の図である。
【図7】巻線動作を時系列順に示した模式図である。
【図8】線材に生じた捩れを戻す動作を示した図である。
【図9】ノズル支持部材の他の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 ステータ
2 線材
3 ヨーク
4 ティース
5 スロット
8 ガイド穴
9 ノズル
11 ホルダ
15 ノズル支持部材
17 円形穴
18 リング部
20 支持部
21 ピン
22 位置決め孔
23 位置決め穴
25 リング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極が環状に並ぶ多極電機子に対して、線材繰出部材から繰り出される複数の線材を同時に巻線する多極電機子の巻線方法であって、
一つの磁極に対する巻線が完了する毎に、複数の線材のなかで最も磁極の先端側に巻線された線材が、次に巻線する磁極では、複数の線材のなかで最も磁極の基端側に巻線されるように、前記線材繰出部材を回転させ磁極に対する線材の配列を入れ替えることを特徴とする多極電機子の巻線方法。
【請求項2】
前記線材繰出部材を回転させ磁極に対する線材の配列を入れ替えることによって生じた線材の捩れは、磁極の間の渡り線に形成されることを特徴とする請求項1に記載の多極電機子の巻線方法。
【請求項3】
前記線材繰出部材の回転は1回毎に逆方向に行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多極電機子の巻線方法。
【請求項4】
複数の磁極が環状に並ぶ多極電機子に対して複数の線材を同時に巻線する多極電機子の巻線装置であって、
複数の線材を繰り出す線材繰出部材と、
前記線材繰出部材を回転可能に支持する線材繰出部材支持機構と、を備え、
一つの磁極に対する巻線が完了する毎に、複数の線材のなかで最も磁極の先端側に巻線された線材が、次に巻線する磁極では、複数の線材のなかで最も磁極の基端側に巻線されるように、前記線材繰出部材を回転させ磁極に対する線材の配列を入れ替えることを特徴とする多極電機子の巻線装置。
【請求項5】
前記線材繰出部材を回転可能に支持するホルダをさらに備え、
前記ホルダには、線材供給源から導かれる複数の線材がそれぞれ挿通する複数の貫通孔が形成され、
前記貫通孔を挿通した線材は、それぞれ前記線材繰出部材の複数のガイド穴に導かれ、
前記線材繰出部材は、巻線時には、前記ガイド穴の配列方向が前記ホルダの前記貫通孔の配列方向と直交する向きに設定されることを特徴とする請求項4に記載の多極電機子の巻線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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