説明

多段型膜ろ過システムの運転方法

【課題】システム全体を稼働させながら2段目以降膜ろ過設備のろ過膜に蓄積した汚れ物質を薬品洗浄等するため1以上の系列を停止させた場合であっても、2段目以降膜ろ過設備の短期間での膜差圧の上昇を防止しエネルギーコストや薬品洗浄等の頻度を低減することができると共に、2段目以降膜ろ過設備の設備コストの増加を防止することが出来る多段型膜ろ過システムの運転方法を提供する。
【解決手段】2段目以降膜ろ過設備20の内の1以上の系列の後段系列22を薬品洗浄等のため運転停止するとき、前段膜ろ過設備10の洗浄1回あたりの洗浄水量を減少させ、又は/及び洗浄頻度を減少させて、前段膜ろ過設備10の洗浄排水量を減少させることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の系列を有する膜ろ過設備が2段以上配設され、2段目以降膜ろ過設備は、それより前に配設されている前段膜ろ過設備の洗浄排水を膜ろ過する多段型膜ろ過システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜ろ過設備を構成するろ過膜には、細孔と呼ばれる小さな無数の孔があり、この孔より大きい物質がろ過膜によって膜ろ過されることで処理水が得られるが、取り除かれた汚れ物質はろ過膜に蓄積し、ろ過効率の低下を引き起こす。そこで、蓄積した汚れ物質を除去するため通常数十分から数時間毎に処理水による逆流洗浄を繰り返し、安定したろ過運転を継続して行うことが出来るようにしている。この逆洗洗浄によりろ過膜から剥離した汚れ物質は、洗浄排水として膜ろ過設備外に排出される。このように逆洗洗浄により膜ろ過設備の運転は継続して行われるのだが、逆洗洗浄に処理水を使用するため処理水の回収率が低下するといった問題があった。
【0003】
このような問題点を解決するため、下記特許文献1においては、膜ろ過設備を2段以上配設し、2段目以降膜ろ過設備は、それより前に配設されている前段膜ろ過設備の洗浄排水を膜ろ過し、その処理水を前段膜ろ過設備の原水若しくは処理水に返送することでシステム外に排出される洗浄排水量を低減し、システム全体の処理水の回収率を向上することが開示されている。
【0004】
このシステムにおいては、2段目以降膜ろ過設備のろ過膜に蓄積した汚れ物質を除去するため薬品洗浄等を行う場合でも、システム全体は連続して稼働させる必要があるので、2段目以降膜ろ過設備で前段膜ろ過設備の洗浄排水の膜ろ過は継続しなければならなかった。そのため、一般的には2段目以降膜ろ過設備を複数系列化し、その内の1以上の系列を薬品洗浄等により一時的に停止させた際は、残りの他の系列で停止する1以上の系列の処理水量を負担して膜ろ過していた。即ち、停止する1系列が膜ろ過する処理水量を残りの他の系列に均等に負担させ他の系列が膜ろ過する処理水量を増加させることで、システム全体を停止させることなく運用していた。
【0005】
図3に、通常の2段目膜ろ過設備が1系列も停止していない通常時の運転フローの説明図を示す。2段目膜ろ過設備がN系列を有している場合、前段膜ろ過設備の洗浄排水量を100とすると、1系列あたりの洗浄排水を膜ろ過する処理水量は(100/N)となることを示している。図4に、2段目膜ろ過設備の内のn系列停止時の運転フローの説明図を示す。この場合、稼働している他の系列数は(N−n)となるので、1系列あたりの洗浄排水を膜ろ過する処理水量は(100/(N−n))となり、通常時の1系列も停止していない場合より1系列あたりの処理水量が((100/N)−(100/(N−n)))分だけ増加することになる。
【0006】
このように2段目以降膜ろ過設備の1以上の系列が薬品洗浄等により停止し、1系列あたりの処理水量が一時的にでも増加すると、薬品洗浄等が終了し1系列あたりの処理水量が通常時に戻った場合でも、薬品洗浄前の通常時の処理水量のときの2段目以降膜ろ過設備の膜差圧に戻ることはない。即ち、一時的にでも1系列あたりの処理水量が増加すると短期間で2段目以降膜ろ過設備の膜差圧が上昇してエネルギーコストが増加し、薬品洗浄周期が短縮するとの問題点があった。これを避けるために、1系列あたりに使用する膜本数を多く設計すると、設備コストが増加する問題点があった。また、1系列あたりの処理水量を増加させるためには、増加した処理水量に合わせて2段目以降膜ろ過設備の系列毎に配設されている送水ポンプの容量を大きく設計する必要があり、設備コストが増加するとの問題点があった。
【0007】
【特許文献1】特開2004−267887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、システム全体を稼働させながら2段目以降膜ろ過設備のろ過膜に蓄積した汚れ物質を薬品洗浄等するため1以上の系列を停止させた場合であっても、2段目以降膜ろ過設備の短期間での膜差圧の上昇を防止しエネルギーコストや薬品洗浄等の頻度を低減することができると共に、2段目以降膜ろ過設備の設備コストの増加を防止することが出来る多段型膜ろ過システムの運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る多段型膜ろ過システムの運転方法は、複数の系列を有する膜ろ過設備が2段以上配設され、2段目以降膜ろ過設備は、それより前に配設されている前段膜ろ過設備の洗浄排水を膜ろ過する多段型膜ろ過システムの運転方法において、前記2段目以降膜ろ過設備の内の1以上の系列を洗浄等のため運転停止するとき、前記前段膜ろ過設備の洗浄方法を変更し、前記前段膜ろ過設備の洗浄排水量を減少させることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る多段型膜ろ過システムの運転方法は、請求項1に記載の多段型膜ろ過システムの運転方法において、前記前段膜ろ過設備の洗浄方法の変更は、前記前段膜ろ過設備の洗浄1回あたりの洗浄水量を減少させ、又は/及び洗浄頻度を減少させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を備えた本発明の多段型膜ろ過システムの運転方法は、前記2段目以降膜ろ過設備の内の1以上の系列を洗浄等のため運転停止するとき、前段膜ろ過設備の洗浄方法を変更して、運転停止した1以上の系列が洗浄排水を膜ろ過する処理水量相当分だけ前段膜ろ過設備の洗浄排水量を減少させたときは、他の系列が膜ろ過する処理水量は1以上の系列が停止していない場合と同量以下とすることができる。即ち、2段目以降膜ろ過設備の各系列が膜ろ過する処理水量は、洗浄等で1以上の系列が運転停止する場合であっても通常運転で全ての系列が停止していない場合と同等以下で増加させないことができる。
また、運転停止した1以上の系列が洗浄排水を膜ろ過する処理水量相当分よりは少ない量ではあるが前段膜ろ過設備の洗浄排水量を減少させると共に、2段目以降膜ろ過設備の各系列が膜ろ過する処理水量を高めることとを併用したときは、従来の前段膜ろ過設備の洗浄排水量を減少させない場合の運転方法と比較すると、2段目以降膜ろ過設備の各系列が膜ろ過する処理水量を少なくすることができる。
従って、一時的に2段目以降膜ろ過設備の各系列が膜ろ過する処理水量は増加しないか、若しくは増加しても処理水量を従来の運転方法よりも抑制できるので、短期的に膜差圧が増加するのを抑制することができ、エネルギーコストや薬品洗浄頻度を低減することができる。更に、各系列が膜ろ過する処理水量は増加しないか、若しくは増加しても処理水量を従来の運転方法よりも抑制できるので、通常運転時の処理水量に合わせて2段目以降膜ろ過設備の系列毎に配設されている送水するポンプの容量を設計するか、若しくは従来の運転方法よりも小さい容量のポンプを設計すればよく、また1系列あたりの使用する膜本数を通常運転時の処理水量に合わせるか、若しくは従来方法よりも少ない膜本数で設計すれば良いので、設備コストを最小化することができる。
【0012】
尚、前段膜ろ過設備の洗浄方法を変更して前段膜ろ過設備の洗浄排水量を減少させる方法としては、前段膜ろ過設備の洗浄1回あたりの洗浄水量を減少させ、または/及び前段の膜ろ過設備の洗浄頻度を減少させることで対応できるので、前段膜ろ過設備の稼働状態により適宜組み合わせて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示して説明する。ただし、この発明の範囲は、特に限定的記載がない限り、この実施の形態に記載されている内容に限定する趣旨のものではない。
【0014】
図1Aは、本発明の実施形態に係る多段型膜ろ過システムの設備フローの説明図であり、図2は、本発明の実施形態に係る2段目の膜ろ過設備の内の1系列が停止した場合における運転フローの説明図である。
【0015】
図1において、本発明に係る多段型膜ろ過システム1は、2段の膜ろ過設備を備えている。前段膜ろ過設備10は、主系膜ろ過設備とも称され、原水を膜ろ過する設備であり、22本の前段膜モジュール11を備えた前段系列12が図示されていないが6系列設置されている。前段膜ろ過設備10からは、膜ろ過された処理水を流出させる主配管13と、前段洗浄排水を後述する回収系原水槽40に流出させる配管14とが接続されている。後段に配設されている2段目膜ろ過設備20は、回収系膜ろ過設備とも称され、前段膜ろ過設備10からの前段洗浄排水を膜ろ過する設備であり、5本の後段膜モジュール21を備えた後段系列22が図示されていないが2系列設置されている。2段目膜ろ過設備20からは、膜ろ過された処理水を主配管13に流出させる配管23と、後段洗浄排水を後述する膜ろ過棟排水槽50に流出させる配管24とが接続されている。
【0016】
30は、主として河川等から取水した原水を貯水する原水槽であり、前段膜ろ過設備10とを接続する配管31には原水を送水するための送水ポンプ32が配設されている。尚、原水槽30には、原水中の夾雑物を除去するためにポリ塩化アルミニウム(PAC)等の無機系凝集剤が添加される。40は、前段膜ろ過設備10を逆洗洗浄等の物理洗浄した前段洗浄排水を回収するための回収系原水槽であり、2段目膜ろ過設備20と接続する配管41には前段洗浄排水を送水するための送水ポンプ42が配設されている。50は、2段目膜ろ過設備20を物理洗浄した後段洗浄排水を回収するための膜ろ過棟排水槽であり、膜ろ過棟排水槽50から排水を流出させる配管51には排水ポンプ52が配設されている。60は、前段ろ過設備10及び2段目膜ろ過設備20で膜ろ過された処理水の一部が貯水される洗浄水槽であり、洗浄水槽60には、消毒用として次亜塩素酸ナトリウムが添加される。洗浄水槽60から洗浄水を送水するため前段膜ろ過設備10に接続された配管61には送水ポンプ62が、2段目膜ろ過設備20に接続された配管63には送水ポンプ64が配設されている。
【0017】
次に、多段型膜ろ過システム1のフローについて説明する。原水槽30でPACが付加された原水は、配管31を通り送水ポンプ32で前段膜ろ過設備10に送水され、そこで膜ろ過された処理水は主配管13を通って集められる。前段膜ろ過設備10を洗浄する場合、前段系列12を6系列有するので1系列ごとに順次洗浄を行う。洗浄水は次亜塩素酸ナトリウムが付加された洗浄水槽60の水が用いられ、配管61を通り送水ポンプ62で前段膜ろ過設備10に送水される。洗浄後の前段洗浄排水は、回収系原水槽40に送水され、ここで一旦貯水される。次いで、配管41を通り送水ポンプ42で2段目膜ろ過設備20に送水され、そこで膜ろ過された処理水は、前段膜ろ過装置10で膜ろ過された処理水が通る主配管13に混入されるが、図示はしていないが原水槽30に戻される場合もある。
【0018】
2段目膜ろ過設備20を洗浄する場合、後段系列22を2系列有するので1系列ごとに順次洗浄を行う。洗浄水は次亜塩素酸ナトリウムが付加された洗浄水槽60の水が用いられ、配管63を通り送水ポンプ64で2段目膜ろ過設備20に送水される。洗浄後の後段洗浄排水は、膜ろ過棟排水槽50で貯水される。
【0019】
この2段目膜ろ過設備20が洗浄される場合において、2系列の内の1系列の後段系列22が停止するので、その1系列の後段系列22が膜ろ過する処理水量相当分である1/2の前段洗浄排水量だけ、前段膜ろ過設備10から回収系原水槽40への流入量が減少するように制御されている。即ち、前段膜ろ過設備10を洗浄するために配管61を通って送水ポンプ62で前段膜ろ過設備10に洗浄水槽60から送水される洗浄水量が半減するように、又は洗浄水槽60から前段膜ろ過設備10に洗浄水を送水される頻度が半減するように制御されている。
【0020】
従って、2段目膜ろ過設備20の1系列の後段系列22が停止した場合であっても、停止していない他の1系列の後段系列22の処理水量は増加しないで以前と同量となる。
【0021】
尚、図2には、2段目膜ろ過設備20が後段系列22をN列有する場合において、その内の1系列の後段系列22が停止した場合を示す。この場合においては、前段膜ろ過設備10から回収系原水槽40に流入する前段洗浄排水量を停止していない状態の100から(1/N)だけ減じた(100(N−1)/N)とすることで、2段目膜ろ過設備20の各後段系列22が膜ろ過する処理水量が増加しないことを示している。
【0022】
従って、薬品洗浄等により2段目膜ろ過設備20を洗浄するときであっても後段系列22が膜ろ過する処理水量は増加しないので、短期的に2段目膜ろ過設備20の膜差圧が増加するのを抑制することができ、エネルギーコストや薬品洗浄頻度を低減することができる。また、後段系列22に送水する送水ポンプ42の容量は通常運転時の処理水量に適合させて設計すればよく、また、後段系列22の使用する膜本数を通常運転時の処理水量に適合させて設計すればよいので、設備コストを最小化することができる。
【0023】
尚、本実施形態においては、2段目膜ろ過設備20が後段系列22をN列有する場合において、その内の1系列の後段系列22が停止した場合について説明したが、n系列の後段系列22が停止する場合にあっても良い。また、前段膜ろ過設備10から回収系原水槽40へ流入する前段洗浄排水量は、停止するn系列の後段系列22が膜ろ過する処理水量相当分より多い量であっても良い。
【0024】
本実施形態においては、前段膜ろ過設備10からの前段洗浄排水量を減少させる方法として、洗浄水槽60から送水される洗浄水量は減少させるか、若しくは洗浄水槽60から送水される洗浄頻度を変更するかどちらかの方法で行うことを説明したが、その両方の方法を組み合わせて行っても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る多段型膜ろ過システムの設備フローの説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る2段目の膜ろ過設備の内の1系列停止時の運転フローの説明図である。
【図3】通常時の運転フローの説明図である。
【図4】従来例の2段目の膜ろ過設備の内のn系列停止時の運転フローの説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 多段型膜ろ過システム
10,20 膜ろ過設備
11,21 膜モジュール
12,22 系列
13,14,23,24,31,41,51,61,63 配管
32,42,52,62,64 ポンプ
30 原水槽
40 回収系原水槽
50 膜ろ過棟排水槽
60 洗浄水槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の系列を有する膜ろ過設備が2段以上配設され、2段目以降膜ろ過設備は、それより前に配設されている前段膜ろ過設備の洗浄排水を膜ろ過する多段型膜ろ過システムの運転方法において、
前記2段目以降膜ろ過設備の内の1以上の系列を洗浄等のため運転停止するとき、前記前段膜ろ過設備の洗浄方法を変更し、前記前段膜ろ過設備の洗浄排水量を減少させることを特徴とする多段型膜ろ過システムの運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多段型膜ろ過システムの運転方法において、
前記前段膜ろ過設備の洗浄方法の変更は、前記前段膜ろ過設備の洗浄1回あたりの洗浄水量を減少させ、又は/及び洗浄頻度を減少させることを特徴とする多段型膜ろ過システムの運転方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−137185(P2010−137185A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317562(P2008−317562)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000193508)水道機工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】