説明

多段式ジャッキ装置

【課題】潤滑剤をシリンダ内に留めて循環利用して駆動手段を駆動させる多段式ジャッキ装置を得る。
【解決手段】第1のシリンダ2と第3のシリンダ4に両端部を固定された駆動手段5と、第2のシリンダ3及び第3のシリンダ4の内側に固定され、駆動手段5を覆う第1のシールド9及び第2のシールド10とを備え、第2のシリンダ3は第1のシリンダ2よりも大径に、第3のシリンダ4は第2のシリンダ3よりも大径に形成され、第2のシールド10は第1のシールド9よりも小径に形成され、多段式ジャッキ装置1の最大長において、第2のシールド10の下端部は第1のシールド9に対して内設すると共に、第1のシールド9の下端部は第1のシリンダ2に対して内設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のシリンダを多段式に挿入し、各シリンダを伸長または圧縮させる多段式ジャッキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の多段式ジャッキ装置では、内部に駆動装置用の潤滑剤を有するものがある。例えば、特許文献1のシリンダ装置では、潤滑剤として油液が封入されたシリンダと、シリンダに摺動可能に嵌装されたピストンと、一端がピストンに連結され他端がシリンダの外部に延設されたピストンロッドを有し、ピストンロッドが液密的に挿通されたシール手段を設けて構成されている。さらにシール手段は、高圧側のロッドシール及び低圧側のオイルシールによって二段階で構成され、油液の漏れを確実に防止すると共に、ピストンロッドの円滑な摺動を可能にしている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−46092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の多段式ジャッキ装置は以上のように構成されているので、ロッドシールやオイルシールなどのシール手段の被摺動面であるピストンロッド表面に高精度の摺動面加工が必要となり製造コストが増大するという課題があった。さらに、ロッドシールやオイルシールなど定期的な交換を必要とするシール手段が必要となり、ランニングコストも増大するという課題があった。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、シール手段などの摺動部材を設けることなく、潤滑剤をシリンダ内に留め、当該潤滑剤を循環利用して駆動手段を駆動させる多段式ジャッキ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る多段式ジャッキ装置は、複数のシリンダが直列に配置されて多段式に伸縮する多段式ジャッキ装置において、最上位の前記シリンダと最下位の前記シリンダに両端部を固定された駆動手段と、前記複数のシリンダのうち、最下位を除くシリンダの内側に固定され、前記駆動手段を覆うシールド部材とを備え、各シリンダは、それぞれ下位に位置するその他のシリンダよりも大径に形成され、前記シールド部材は、下位に位置する前記シールド部材よりも小径に形成され、多段式ジャッキ装置の最大長において、前記シールド部材の下端部は下位の前記シールド部材に対して内設すると共に、最下位の前記シールド部材の下端部は最下位の前記シリンダに対して内設するものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、駆動手段を覆うシールド部材を設け、多段式ジャッキ装置の最大長において、シールド部材の下端部が下位のシールド部材に対して内設すると共に、最下位のシールド部材の下端部が最下位のシリンダに対して内設するように構成したので、駆動手段の表面から落下する潤滑剤が各シールド部材を伝って最下位のシリンダ内に留まるように構成したので、容易な構造で潤滑剤をシリンダ内に留めることができ、製造コスト及びランニングコストを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る多段式ジャッキ装置の構成を示す図である。図2は、この発明の実施の形態1に係る多段式ジャッキ装置の構成を示す断面図である。
多段式ジャッキ装置1は、第1のシリンダ2、第2のシリンダ3及び第3のシリンダ4により多段式に構成されている。第2のシリンダ3は摺動ベアリング11を介して第1のシリンダ2の外周面を摺動し、第3のシリンダ4は摺動ベアリング12を介して第2のシリンダ3の外周面を摺動する。
【0009】
第1のシリンダ2は、上端部が開放された有底の筒形状を有している。第1のシリンダ2の底部は地面側に固定され、さらにこの底部には、後述する駆動手段であるロッドを駆動させるための潤滑剤Aが充填されている。第2のシリンダ3は、上端部及び下端部が開放された筒形状を有している。第3のシリンダ4は、下端部が開放され上端部に天井部を有する筒形状を有している。第2のシリンダ3は第1のシリンダ2よりも大径となるように、さらに第3のシリンダ4よりも小径となるように構成されている。これにより、第1のシリンダ2の外周面を第2のシリンダ3が軸方向に摺動移動し、第2のシリンダ3の外周面を第3のシリンダ4が軸方向に摺動移動する。各シリンダ2,3,4は軸方向の同軸上を直動する。
【0010】
各シリンダ2,3,4の内部には、駆動手段5が配設されている。駆動手段5は第1のロッド6、第2のロッド7及び第3のロッド8で構成され、第1のロッド6の下端部は第1のシリンダ2の底部に固定され、第3のロッド8の上端部は第3のシリンダ4の天井部に固定されている。第1のロッド6の内部には、下端部に潤滑剤Aを内部に取り込むための開口部を有する潤滑剤室6aと、この潤滑剤室6aから潤滑剤Aを駆動手段5全体に循環させる潤滑剤路6bで構成される循環機構が形成されている。第2のロッド7及び第3のロッド8も、内部に潤滑剤Aを循環させる循環機構(図示せず)を有している。
【0011】
第2のロッド7は第1のロッド6よりも小径となるように、さらに第3のロッド8よりも大径となるように構成されている。これにより、第1のロッド6の内周面を第2のロッド7が軸方向に摺動移動し、第2のロッド7の内周面を第3のロッド8が軸方向に摺動移動する。このように各ロッド6,7,8は軸方向の同軸上を直動し、多段式ジャッキ装置1の最大長においても各ロッド6,7,8が互いに外れないように嵌合されている。
【0012】
第2のシリンダ3及び第3のシリンダ4の内側には、第1のシールド9及び第2のシールド10が固定されている。第1のシールド9は、上端部に内径方向に突出するつば部9aを有し、上端部及び下端部が開放された筒形状を有している。このつば部9aを第2のシリンダ3の上端部に固定することにより、図1及び図2に示すように第2のシリンダ3と第1のシールド9の断面が略コ字形状となる。第2のシールド10は、上端部に外径方向に突出するつば部10aを有し、上端部及び下端部が開放された筒形状を有している。このつば部10aを第3のシリンダ4の上端部に固定することにより、図1及び図2に示すように第3のシリンダ4と第2のシールド10の断面が略コ字形状となる。
【0013】
第1のシールド9は第2のシールド10よりも大径となるように、第1のシリンダ2よりも小径となるように構成されている。また、上述のように第2のシリンダ3は第1のシリンダ2よりも大径であるため、第2のシリンダ3と第1のシールド9との間に形成される略コ字形状の間隙に第1のシリンダ2が位置する。同様に第3のシリンダ4は第2のシリンダ3よりも大径であるため、第3のシリンダ4と第2のシールド10との間に形成される間隙に第2のシリンダ3及び第1のシールド9が位置する。また、多段式ジャッキ装置1の最大長において、第1のシールド9の下端部は第1のシリンダ2の上端部内側に位置し、第2のシールド10の下端部は第1のシールド9の上端部内側に位置するように構成されている。
【0014】
摺動ベアリング11は、第2のシリンダ3を第1のシリンダ2に対して直動可能とし、且つ保持する。摺動ベアリング12は、第3のシリンダ4を第2のシリンダ3に対して直動可能とし、且つ保持する。第3のシリンダ4の外側には、ペイロード取付具13を介してペイロード14が取り付けられている。
【0015】
第1のシリンダ2の底部に充填された潤滑剤Aは、駆動手段5が軸方向に上下動作することにより第2のロッド7及び第3のロッド8の外周面全体に付着して潤滑剤A膜を形成する。この潤滑剤A膜により多段式ジャッキ装置1のスムーズな昇降が行われるが、昇降動作が行われる際の伸縮動作、重力、または加速度の影響により、潤滑剤A膜の一部が第1のロッド6、第2のロッド7、または第3のロッド8の外周面から剥離して落下する。落下した潤滑剤Aは、第1のシールド9、第2のシールド10、または第1のシリンダ2の内周面に付着する。
【0016】
第1のシールド9、第2のシールド10、または第1のシリンダ2の内周面に付着した潤滑剤Aは、これらの第1のシールド9、第2のシールド10、または第1のシリンダ2を経由して上方から下方に向けて伝い落ち、第1のシリンダ2の底部に溜まる。このように、第1のロッド6、第2のロッド7、または第3のロッド8の外周面から剥離した潤滑剤Aは第1のシールド9、第2のシールド10、または第1のシリンダ2の内周面を伝い落ちるので、潤滑剤Aが第1のシリンダ2、第2のシリンダ3、第3のシリンダ4の外部に漏れ出すことなく第1のシリンダ2の底部に留めることができる。これにより、シール部材などの摺動部材を用いることなく各シリンダ2,3,4を摺動可能に構成することができる。
【0017】
以上のように、この実施の形態1によれば、第2のロッド及び第3のロッドを覆う第1のシールド及び第2のシールドを配設し、第1のロッド、第2のロッド、または第3のロッドから剥離して落下した潤滑剤Aが当該第1のシールド、第2のシールド、または第1のシリンダを伝い落ちて第1のシリンダの底部に溜まるように構成したので、シール部材のような摺動部材を設けることなく潤滑剤を循環利用して駆動手段を駆動させることができる。これにより、製造コスト及びランニングコストを抑制することができる。
【0018】
また、この実施の形態1によれば、多段式ジャッキ装置の最大長において、第1のシールドの下端部が第1のシリンダ内に位置し、第2のシールドの下端部が第1のシールド内に位置するように構成したので、簡易な構成で潤滑剤がシリンダの外部に漏れ出すのを防止することができる。
【0019】
なお、上記実施の形態1の多段式ジャッキ装置では、三段のシリンダ及び二段のシールドを用いる構成を示したが、用いるシリンダ及びシールドの数はこれに限定されるものではなく、最下段のロッドを除く全てのロッドの周囲を覆うシールドを配置するように構成すれば適宜変更可能である。
【0020】
また、上記実施の形態1の多段式ジャッキ装置では、第1のシールド及び第2のシールドと、第2のシリンダ及び第3のシリンダを別部材で構成して固定する例を示したが、同一部材で一体的に構成してもよい。
【0021】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2に係る多段式ジャッキ装置の構成を示す断面図である。この実施の形態2では、実施の形態1に係る多段式ジャッキ装置の第1のロッド、第2のロッド、第3のロッド、第1のシールド及び第2のシールドの形状を変更して構成している。実施の形態1に係る昇降ジャッキの構成要素と同一の部分には、実施の形態1で使用した符号と同一の符号を付して説明を省略または簡略化する。
【0022】
この実施の形態2の多段式ジャッキ装置1では、第2のロッド7は第1のロッド6よりも大径となるように、第3のロッド8よりも小径となるように構成されている。つまり、第1のロッド6の外周面を第2のロッド7が軸方向に摺動移動し、第2のロッド7の外周面を第3のロッド8が軸方向に摺動移動する。このように各ロッド6,7,8は軸方向の同軸上を直動し、多段式ジャッキ装置1の最大長においても各ロッド6,7,8が互いに外れないように嵌合されている。
【0023】
第1のシールド15は、上端部が開放された有底の筒形状を有している。第1のシールド15の底部は第2のロッド7の下端部に固定され、さらにこの底部には溜まった潤滑剤Aを第1のシリンダ2側に排出するための排出孔15aが設けられている。この排出孔15aを設ける数は適宜変更可能である。第2のシールド16は、上端部に内径方向に突出するつば部16aを有し、上端部及び下端部が開放された筒形状を有している。このつば部16aを第3のシリンダ4の上端部に固定することにより、図3に示すように第3のシリンダ4と第2のシールド16の断面が略コ字形状となる。多段式ジャッキ装置1の最大長において、第2のシールド16の下端部は第1のシールド15の上端部内側に位置し、第1のシールド15の下端部は第1のシリンダ2の上端部内側に位置するように構成されている。
【0024】
実施の形態1と同様に、第1のシリンダ2の底部に充填された潤滑剤Aは、駆動手段5が軸方向に上下動作することにより第2のロッド7及び第3のロッド8の外周面全体に付着して潤滑剤A膜を形成する。昇降動作が行われる際の伸縮動作、重力、または加速度の影響により、潤滑剤A膜の一部が第2のロッド7及び第3のロッド8の外周面から剥離して落下する。落下した潤滑剤Aは、第1のシールド15、第2のシールド16の内周面に付着する。
【0025】
第1のシールド15、または第2のシールド16の内周面に付着した潤滑剤Aは、上方から下方に向けて伝い落ち、第1のシールド15の底部に溜まると共に、排出孔15aを介して第1のシリンダ2に伝い落ちて第1のシリンダ2の底部に溜まる。このように、第2のロッド7及び第3のロッド8の外周面から剥離して落下した潤滑剤Aは第1のシールド15、または第2のシールド16の内周面を伝い落ちて第1のシリンダ2の内に落下するので、潤滑剤Aが第1のシリンダ2、第2のシリンダ3、第3のシリンダ4の外部に漏れ出すことなく第1のシリンダ2の底部に留めることができる。これにより、シール部材などの摺動部材を用いることなく各シリンダ2,3,4を摺動可能に構成することができる。
【0026】
以上のように、この実施の形態2によれば、第1のシールド及び第2のシールドを第2のロッド及び第3のロッドに固定して、ラビリンス構造を駆動手段側に設けるように構成したので、各シリンダの構成を簡素化することができる。これにより、製造コストを抑制することができる。
【0027】
また、この実施の形態2によれば、多段式ジャッキ装置の最大長において、第2のシールドの下端部が第1のシールド内に位置し、第1のシールドの下端部が第1のシリンダ内に位置するように構成したので、簡易な構成で潤滑剤がシリンダの外部に漏れ出すのを防止することができる。
【0028】
なお、上記実施の形態2の多段式ジャッキ装置では、三段のシリンダ及び二段のシールドを用いる構成を示したが、用いるシリンダ及びシールドの数はこれに限定されるものではなく、最下段のロッドを除く全てのロッドの周囲を覆うシールドを配置するように構成すれば適宜変更可能である。
【0029】
また、上記実施の形態2の多段式ジャッキ装置では、第1のシールド及び第2のシールドを第2のロッド及び第3のロッドと別部材で構成して固定する例を示したが、同一部材で一体的に構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施の形態1に係る多段式ジャッキの構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る多段式ジャッキの構成を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る多段式ジャッキの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 多段式ジャッキ、2 第1のシリンダ、3 第2のシリンダ、4 第3のシリンダ、5 駆動手段、6 第1のロッド、6a 潤滑剤室、6b 潤滑剤路、7 第2のロッド、8 第3のロッド、9,15 第1のシールド、9a,10a,16a つば部、10,16 第2のシールド、11,12 摺動ベアリング、13 ペイロード取付具、14 ペイロード、15a 排出孔、A 潤滑剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダが直列に配置されて多段式に伸縮する多段式ジャッキ装置において、
最上位の前記シリンダと最下位の前記シリンダに両端部を固定された駆動手段と、
前記複数のシリンダのうち、最下位を除くシリンダの内側に固定され、前記駆動手段を覆うシールド部材とを備え、
各シリンダは、それぞれ下位に位置する他のシリンダよりも大径に形成され、
前記シールド部材は、下位に位置する前記シールド部材よりも小径に形成され、
多段式ジャッキ装置の最大長において、前記シールド部材の下端部は下位の前記シールド部材に対して内設すると共に、最下位の前記シールド部材の下端部は最下位の前記シリンダに対して内設することを特徴とする多段式ジャッキ装置。
【請求項2】
複数のシリンダが直列に配置されて多段式に伸縮する多段式ジャッキ装置において、
最上位の前記シリンダと最下位の前記シリンダに両端部を固定され、複数のロッドが直列に配置されて多段式に駆動する駆動手段と、
前記複数のロッドのうち、最下位を除く前記ロッドの外側に固定され、前記駆動手段を覆うシールド部材とを備え、
各シリンダは、それぞれ下位に位置する他のシリンダよりも大径に形成され、
前記シールド部材は、下位に位置するシールド部材よりも小径に形成され、
多段式ジャッキ装置の最大長において、前記シールド部材の下端部は下位のシールド部材に対して内設すると共に、最下位の前記シールド部材の下端部は最下位の前記シリンダに対して内設することを特徴とする多段式ジャッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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