説明

多点蒸発源装置

【課題】坩堝同士の汚染を防止する。
【解決手段】
蒸発材料3が収められた複数の坩堝を備え回転軸を中心に回転する回転テーブル2と、電子ビーム照射位置に位置する一つの坩堝7に対して電子ビームを照射して坩堝7の蒸発材料3を蒸発させる電子銃1と、回転テーブル2の上側に複数の坩堝7を覆い、かつ電子銃1に対向する電子ビームの照射領域の全てが開口したカバー6とを備えた多点蒸発源装置において、回転テーブル2の上面に坩堝7を仕切るように形成された溝24と、この溝24に嵌り込みこんで各坩堝を仕切り、回転テーブル2の回転と共に回転する遮蔽体20と、各坩堝が電子ビームの照射位置に来たとき、遮蔽体20を上昇させ、遮蔽体20とカバー6との間隔を狭める遮蔽体昇降手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着槽内に設定された電子ビームの照射位置に対して、複数の坩堝を一つづつ順次移動させ、坩堝内の蒸発材料を蒸発させて成膜対象に付着させる技術に関し、特に、多数の坩堝を扱う多点蒸発源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の多点蒸発源装置の蒸発源の構成を図1に示す。図中100は蒸発源、1は電子ビームを出射する電子銃で、出射した電子ビームは蒸発源100の内側に配置されている偏向装置(図示せず)によって偏向され、蒸発材料の加熱位置へと向けられる。
2は4個の坩堝(7a,7b,7c,7d)を円周上に等間隔に配置した円盤状の坩堝回転テーブルで、各坩堝内には蒸発材料3が収められていると共に、その内の一つの坩堝(この図では坩堝7a)に前記電子銃1からの電子ビームが到達するように配置されている。
4は該坩堝回転テーブル2下面の中央に固定された回転軸、5は該回転軸4を回転させる回転軸駆動装置である。
6は前記坩堝回転テーブル2の上方に配置された坩堝カバーで、3個の坩堝(7b,7c,7d)を覆うように配置され、電子ビームが通過する部分には外周縁部に切欠け部8が形成され、該切欠け部8には坩堝上面側へ延びる下端縁部9が設けられている。
このような構成の蒸発源において、回転軸駆動装置5を駆動させ回転軸4が回転すると、図2に示すように坩堝回転テーブル2が矢印A方向に回転する。そして、所望の坩堝7aが電子銃1の対面位置にきたところで、前記坩堝回転テーブル2の回転が停止する。
そして、電子銃1から電子ビームEBが偏向装置(図示せず)で偏向され、坩堝7a内の蒸発材料3上に照射される。
この電子ビームEBの照射により蒸発材料3は、加熱され溶融する。溶融した蒸発材料3の蒸発流は、衝突すること無く直線状に蒸発源100から上方の基板(図示せず)へと進行し、該基板の表面を被覆する。このような動作を繰返し行うことにより、所望の多層膜が基板上に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4748935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述のような蒸発源で、成膜した膜に欠陥が生じてしまう問題が起きる。
これは、蒸発材料の蒸発時に坩堝からの蒸発物が、他の坩堝に混入してしまうことで起きる。
この対策として、上述したように電子ビームが照射されていない坩堝を覆うように坩堝カバーが配置されているが、このような対策をしても、坩堝カバーと坩堝との間の隙間から蒸発物が侵入することが避けられず、他の坩堝への蒸発物の混入を完全に防止することは困難であるため、坩堝相互の汚染が発生する。
また、各坩堝の上端面と前記坩堝カバーの下端面との間隔を可能な限り小さくすると他の坩堝への蒸発物の侵入を確実に防止することができるが、この坩堝カバーが坩堝回転テーブルの回転を阻害することが懸念される。
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、新規な多点蒸発源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の多点蒸発源装置は、蒸発材料が収められた複数の坩堝を備え回転軸を中心に回転する回転テーブルと、電子ビーム照射位置に位置する一つの坩堝に対して電子ビームを照射して坩堝の蒸発材料を蒸発させる電子銃と、前記回転テーブルの上側に複数の坩堝を覆い、かつ前記電子銃に対向する電子ビームの照射領域の全てが開口したカバーとを備えた多点蒸発源装置において、前記回転テーブルの上面に前記坩堝を仕切るように形成された溝と、該溝に嵌り込み各坩堝を仕切る形状を有し、前記回転テーブルの回転と共に回転する遮蔽体と、各坩堝が電子ビームの照射位置に来たとき、該遮蔽体を上昇させ該遮蔽体と前記カバーとの間隔を狭める遮蔽体昇降手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の多点蒸発源装置において、蒸発材料の蒸発時、蒸発物が他の坩堝内に侵入しないように可動式の遮蔽体昇降手段を設けたことによって、他の坩堝への蒸発物の侵入を確実に遮断でき、坩堝相互の汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】従来の蒸発源を斜上方から見た外観図である。
【図2】従来の蒸発源を上方から見たときの図である。
【図3】本発明に係る蒸発源を上方から見たときの図である。
【図4】本発明に係る蒸発源の一部を示す斜上方から見た外観図である。
【図5】本発明に係る蒸発源の一部を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る蒸発源の一部を示す概略断面図である。
【図7】本発明に係る回転テーブル上面の溝の形状の変形例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
図3は、本発明に係る蒸発源を上方から見た構成図である。また、図4は、本発明に係る蒸発源の一部を斜め上方から見たときの図である。図3及び図4中、図1及び図2にて使用した記号と同一記号の付されたものは同一構成要素を示す。
本実施例の基本構成は、図1及び図2を用いて説明した従来例と同一であり、坩堝7a〜7dを備えた回転テーブル2の上に坩堝カバー6が設けられ、坩堝カバーの切欠け部8に位置する坩堝に対し電子銃1から電子ビームEBが照射される。本実施例が従来例と異なるのは、遮蔽部材と、遮蔽部材を上下させるための固定ガイドレールを設けた点である。
即ち、図4において、図中20は坩堝と坩堝を仕切るように形成された遮蔽部材で、例えば坩堝回転テーブル2上面に等間隔に4個の坩堝が備えられている場合には十字状の部材となる。該遮蔽部材20低面の中央部には突起物21が形成され、該突起物21は前記坩堝回転テーブル2の中心の穴に支承され、該突起部21を中心に前記坩堝回転テーブル2と一緒に回転できる構造になっている。該遮蔽部材20のそれぞれの端部には各々支持体(23a,23b,23c,23d)が固定され、該支持体の他の端部にはローラー(22a,22b,22c,22d)がそれぞれ設けられている。
24は前記坩堝回転テーブル2上面に前記遮蔽部材20が収まるように凹状に形成された溝、25は前記坩堝回転テーブル2側面の外周に沿って設けられ、かつ、蒸発源100内壁に固定されている固定ガイドレールで、上面はローラーが接触しながら回転する平坦な面を有し、この面上の所定の位置には緩やかなスロープを有する凸部(26a,26b,26c,26d)が等間隔に4箇所形成されている。なお、前記坩堝回転テーブル2は前記固定ガイドレール25に接触することなく回転できる構造に成っている。
このような構成の蒸発源の動作を説明する。回転軸駆動装置5を駆動させ回転軸4を回転させると、坩堝回転テーブル2が矢印Aの方向に回転する。この該坩堝回転テーブル2の回転動作に伴なって、遮蔽部材20も突起物21を中心に一緒に回転する。
図5は、前記坩堝回転テーブル2が回転しているときで、遮蔽部材20は、前記坩堝回転テーブル2上面の溝24内に収まって、前記遮蔽部材20の先端部のローラ22aが固定ガイドレール25上面を転がっている様子を示している。
また、図6は、前記坩堝回転テーブル2の一つの坩堝が電子銃1の対面にきたときで、前記遮蔽部材20は、ローラー(22a,22b,22c,22d)が前記固定ガイドレール25上面の各々の凸部(26a,26b,26c,26d)に同時に乗り上げ、前記坩堝回転テーブル2の溝24から上昇し前記遮蔽部材20が坩堝カバー6裏面に接近し、図ではローラー22が凸部26の頂点で停止し、前記遮蔽部材20が前記坩堝カバー6に当接している様子を示している。
このとき、電子銃1から電子ビームEBを坩堝内の蒸発材料3に照射して、該蒸発材料3を溶融・蒸発させとき、蒸発物が前記坩堝回転テーブル2上端面と前記坩堝カバー6の下端部との隙間に入り込んでも前記遮蔽部材20によって遮蔽される。
次に、坩堝に対して電子ビームによる照射が完了すると、再び、前記回転軸駆動装置5を駆動させ、前記坩堝回転テーブル2を回転させると、前記遮蔽部材20の各々のローラー(22a,22b,22c,22d)が凸部(26a,26b,26c,26d)の頂点から同時に下り、前記遮蔽部材20は前記坩堝回転テーブル2の前記溝24に完全に収まる。このような動作を繰返し遮蔽部材20の上下動が自動的に行われる。
このように蒸発材料の蒸発時、蒸発物が他の坩堝内に侵入しないように可動式の遮蔽体昇降手段を設けたことによって、他の坩堝への蒸発物の侵入を確実に遮断でき、坩堝相互の汚染を防止することができる。
【0009】
なお、前記実施例では、4つの坩堝を備えた坩堝回転テーブルを挙げて説明したが、坩堝回転テーブルの坩堝の数を限定するものでは無い。この場合、坩堝回転テーブルには、配置された坩堝の数に応じてそれぞれの坩堝を仕切るように溝が形成され、遮蔽体は、該溝に嵌る込むように形成されるものである。
また、前記坩堝回転テーブル2上面には、中央部が連結され、該テーブル2の外周縁部まで連続に連なった溝が形成され、遮蔽部材は、該溝に嵌り込むように形成されるものである。
【0010】
また、前記遮蔽体昇降手段は、前記回転テーブルの外周に沿って配置されたレールと、前記遮蔽体には、中央方向から前記回転テーブルの外まで伸び前記レールと先端部が接触するように設けられる枝部が形成され、該テーブルの回転に伴い前記各坩堝が電子ビームの照射位置に来たとき、前記レール上面に形成された凸部に前記枝部の先端が乗り上げることにより、該遮蔽体が前記回転テーブルの溝から上昇し前記カバーに接近する例を挙げて説明したが、図示してはいないが、前記回転テーブル2の回転に伴い各坩堝7が電子ビームの照射位置に来たとき、前記遮蔽部材20の中央部を上方に押し上げ、前記遮蔽部材20と坩堝カバー6との隙間を狭め、又は当接させる押上げ手段を設けても良い。
また、図7には前記坩堝回転テーブル2上面に4個の坩堝を等間隔に配置した場合の溝形状の変形例を示した。図7(A)に示す溝は回転テーブル2の中央部で連結され、各坩堝を取り囲み、中央部から外周縁部まで連続的に形成され、図7(B)に示す溝は各坩堝を取り囲み、各坩堝の間が連結され、中央方向から外周縁部まで連続的に形成され、図7(c)に示す溝は各坩堝をそれぞれ独立に取り囲んで、かつそれぞれ異なる方向の外周縁部まで連続的に形成されたものである。本発明ではこのような溝形状でも良く、この場合、各々の遮蔽部材20は、上記溝に嵌り込む形状に形成される。
このような溝の形状は、図7に示すような変形例の溝形状に限定されるものでなく、色々な溝の形状が適用できるものである。
【符号の説明】
【0011】
1・・・電子銃
2・・・坩堝回転テーブル
3・・・蒸発材料
4・・・回転軸
5・・・回転軸駆動装置
6・・・坩堝カバー
7・・・坩堝
8・・・切欠け部
9・・・下端縁部
20・・・遮蔽部材
21・・・突起物
22・・・ローラー
23・・・支持部
24・・・溝
25・・・固定
ガイドレール
26・・・凸部
100・・・蒸発源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発材料が収められた複数の坩堝を備え回転軸を中心に回転する回転テーブルと、電子ビーム照射位置に位置する一つの坩堝に対して電子ビームを照射して坩堝の蒸発材料を蒸発させる電子銃と、前記回転テーブルの上側に複数の坩堝を覆い、かつ前記電子銃に対向する電子ビームの照射領域の全てが開口したカバーとを備えた多点蒸発源装置において、前記回転テーブルの上面に前記坩堝を仕切るように形成された溝と、該溝に嵌り込み各坩堝を仕切る形状を有し、前記回転テーブルの回転と共に回転する遮蔽体と、各坩堝が電子ビームの照射位置に来たとき、該遮蔽体を上昇させ該遮蔽体と前記カバーとの間隔を狭める遮蔽体昇降手段とを備えたことを特徴とする多点蒸発源装置。
【請求項2】
前記回転テーブルの外周に沿って配置されたレールと、前記遮蔽体には、中央方向から前記回転テーブルの外まで伸び前記レールと先端部が接触するように設けられる枝部が形成され、該テーブルの回転に伴い前記各坩堝が電子ビームの照射位置に来たとき、前記レール上面に形成された凸部に前記枝部の先端が乗り上げることにより、該遮蔽体が前記回転テーブルの溝から上昇し前記カバーに接近することを特徴とする請求項1記載の多点蒸発源装置。
【請求項3】
前記溝は、中央部が連結し、放射状に伸びた枝部から形成されていることを特徴とする請求項1及び2記載の多点蒸発源装置。
【請求項4】
前記遮蔽体昇降手段は、前記各坩堝が電子ビームの照射位置に来たとき、前記遮蔽体の中央部を前記回転テーブルから上方に押上げ、該遮蔽体と前記カバーとの間隔を狭める押上げ手段を設けたことを特徴とする請求項1及び2記載の多点蒸発源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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