説明

多糖またはオリゴ糖の塩素化方法

(A)少なくとも1種のイオン性液体を含む溶媒系に多糖またはオリゴ糖を溶解させること、および
(B)多糖またはオリゴ糖と塩素化剤とを反応させること
を含む多糖またはオリゴ糖の塩素化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖またはオリゴ糖の塩素化方法であって、
(A)少なくとも1種のイオン性液体を含む溶媒系に多糖またはオリゴ糖を溶解させること、および
(B)多糖またはオリゴ糖と塩素化剤とを反応させること
を含んでなる方法を記載する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは最も重要な再生可能原料であり、例えば、織物、紙および不織布産業のための重要な出発原料である。また、セルロースは、セルロースエーテルおよびセルロースエステルを含むセルロース誘導体および修飾方法のための原料としてはたらく。これらの誘導体および修飾体は、例えば、繊維、食品、建築および表面被覆産業などにおいていくつかの用途を有している。したがって、セルロースを修飾し得る方法および種々の技術的応用のために修飾されたセルロースに、特に関心が存在する。
【0003】
さらに、低い重合度(DP)に相当する低分子量のセルロースまたは修飾セルロースが多くの技術的応用において求められている。
【0004】
低DPのセルロースを生じるセルロースの分解方法は、国際特許出願第2007/101811号(酸の使用による分解)、国際特許出願第2007/101812号(温度上昇による分解)および国際特許出願第2007/101813号(求核試薬による分解)から既知である。
【0005】
国際特許出願第2008/000666号には、イオン性液体でのセルロースのアシル化および分解が記載されている。しかしながら、この方法は2段階工程である。第1段階で、国際特許出願第2007/101811号または国際特許出願第2007/101812号の教示に従ってセルロースのDPを引き下げ、第2段階で、得られる低分子量セルロースをアシル化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許出願第2007/101811号パンフレット
【特許文献2】国際特許出願第2007/101812号パンフレット
【特許文献3】国際特許出願第2007/101813号パンフレット
【特許文献4】国際特許出願第2008/000666号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、多糖またはオリゴ糖、特にセルロースを修飾および分解するための簡単な方法を提供する必要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
出願人は、塩素化多糖若しくはオリゴ糖を製造するための簡単な方法を見出した。さらに、出願人は、多糖またはオリゴ糖の塩素化方法を見出した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔工程A〕
本発明の方法の工程(A)において、少なくとも1種のイオン性液体を含む溶媒系に多糖またはオリゴ糖を溶解させる。
【0010】
〔多糖〕
多糖またはオリゴ糖の例としては、セルロース、ヘミセルロース、さらにデンプン、グリコーゲン、デキストランおよびツニシンが挙げられる。さらなる例は、D−フルクトース、例えばイヌリン、とりわけ、キチンおよびアルギン酸の重縮合物である。多糖またはオリゴ糖、特にセルロースは、例えばヒドロキシ基のエーテル化若しくはエステル化によりある程度化学的に修飾され得る。
【0011】
好ましくは、多糖またはオリゴ糖はセルロース、ヘミセルロースまたは化学修飾セルロスである。
本発明のより好ましい実施態様において、多糖としてセルロースを用いる。用いるセルロースが修飾されていないことがとりわけ好ましい。
【0012】
本発明に使用する好ましい多糖若しくはオリゴ糖、特にセルロースは、少なくとも50、より好ましくは少なくとも150、とりわけ好ましくは少なくとも300の重合度(DP)を有する。DPの最大値は、例えば、1000であり、より好ましくは800であり、または最大600である。
【0013】
重合度(DP)は、平均重合鎖中の繰り返し単位の数である。DPは、以下のように算出することができる:DP=ポリマーの総Mw/繰り返し単位のMw。分子量は、重量平均分子量である。DPは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)またはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により測定することができる。
【0014】
〔溶媒系およびイオン性液体〕
溶媒系は、1種の溶媒であっても溶媒の混合物であってもよい。溶媒系は、1つのイオン性液体のみであるか、異なるイオン性液体の混合物であるか、またはイオン性液体と他の有機非イオン性溶媒の混合物であってよい。
【0015】
非イオン性溶媒として、イオン性液体と均一に混合することができ、かつ、多糖の沈殿を生じない極性溶媒を使用してよく、例えば、エーテル、ケトン、例えばジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルラクトアミドまたはスルホランなどが挙げられる。ジオキサンが好ましい。
【0016】
溶媒系中のイオン性液体の含有量は、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも50重量%、とりわけ好ましくは少なくとも80重量%あるいは90重量%である。
【0017】
本発明の好ましい一実施態様において、溶媒系は、1種以上のイオン性液体と少なくとも1種の非イオン性溶媒(特にジオキサン)を含む混合物である。このような混合物において、イオン性液体の含有量は、好ましくは20〜90重量%であり、残りは(単独または複数の)非イオン性溶媒である。
【0018】
溶媒系は、水を含まないか、5重量%以下の水しか含まないことが好ましい。とりわけ、水含有量は2重量%以下である。
【0019】
用語「イオン性液体」は、大気圧(1bar)で、200℃未満の、好ましくは150℃未満の、特に好ましくは100℃未満の、とりわけ好ましくは80℃未満の融点を有する塩(カチオンおよびアニオンから構成される化合物)を意味する。
【0020】
とりわけ好ましい実施態様において、イオン性液体は、通常の条件下(1bar、21℃)、すなわち、室温下で液体である。
【0021】
好ましいイオン性液体は、カチオンとして有機化合物(有機カチオン)を含む。アニオンの価数に応じて、イオン性液体は、金属カチオンなどのさらなるカチオンを有機カチオンに加えて含むことができる。
【0022】
特に好ましいイオン性液体のカチオンは、もっぱら有機カチオンであり、多価アニオンの場合は異なる有機カチオンの混合物である。
【0023】
適する有機カチオンは、特に、窒素、イオウ、酸素またはリンなどのヘテロ原子を有する有機化合物であり;特に、アンモニウム基を有する化合物(アンモニウムカチオン)、オキソニウム基を有する化合物(オキソニウムカチオン)、スルホニウム基を有する化合物(スルホニウムカチオン)またはホスホニウム基を有する化合物(ホスホニウムカチオン)である。
【0024】
特定の実施態様において、イオン性液体の有機カチオンはアンモニウムカチオンであり、それは、本発明の目的においては窒素原子に局在化正電荷を有する非芳香族化合物、例えば、4価の窒素を含む化合物(第4級アンモニウム化合物)または3価の窒素を有する化合物(1つの結合は二重結合である)、または非局在化正電荷および少なくとも1つの窒素原子、好ましくは1つ若しくは2つの窒素原子を芳香族環系内に有する芳香族化合物である。
【0025】
好ましい有機カチオンは、窒素原子がヒドロキシ基で置換されていてもよい、好ましくは3個若しくは4個の脂肪族置換基、好ましくはC1〜C12アルキル基を有する第4級アンモニウムカチオンである。
【0026】
環系の構成成分として1個若しくは2個の窒素原子を有する複素環系を含んでなる有機カチオンが特に好ましい。単環系、二環系、芳香環系または非芳香環系であってよい。例えば、国際特許出願第2008/043837号に記載されるような二環系を例示することができる。国際特許出願第2008/043837号に記載される二環系は、好ましくは七員環および六員環から構成され、アミジニウム基を含むジアザビシクロ誘導体であり;特に、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−ニウムカチオンで構成されるジアザビシクロ誘導体を挙げ得る。
【0027】
とりわけ好ましい有機カチオンは、環系の構成成分として1個または2個の窒素原子を有する五員若しくは六員複素環系である。
【0028】
この種類として考え得る有機カチオンは、例えば、ピリジニウムカチオン、ピリダジニウムカチオン、ピリミジニウムカチオン、ピラジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピラゾリニウムカチオン、イミダゾリニウムカチオン、チアゾリウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、ピロロリジニウムカチオンおよびイミダゾリジニウムカチオンである。これらのカチオンは、例えば国際特許出願第2005/113702号に記載されている。そのような置換基が正電荷を有する必要がある場合、このカチオンの窒素原子は、水素、または通常炭素数20以下の有機基、好ましくは炭化水素基、特にC1〜C16アルキル基、特にC1〜C10アルキル基、特に好ましくはC1〜C4アルキル基により置換される。
【0029】
環系の炭素原子も、通常炭素数20以下の有機基、好ましくは炭化水素基、特にC1〜C16アルキル基、特にC1〜C10アルキル基、特に好ましくはC1〜C4アルキル基により置換され得る。
【0030】
特に好ましいアンモニウムカチオンは、第4級アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリミジニウムカチオンおよびピラゾリウムカチオンである。
【0031】
特に、式I:
【化1】

で示されるイミダゾリウムカチオン、式II:
【化2】

で示されるピリジニウムカチオン、または、式III:
【化3】

で示されるピラゾリウムカチオを挙げることができる。
各式中の基は、以下の意味を有する:Rは、炭素数1〜20の有機基であり、R1〜R5は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機基であり、イミダゾリウムカチオン(式I)およびピラゾリウムカチオン(式III)の場合、R1は好ましくは炭素数1〜20の有機基である。
【0032】
式Iのイミダゾリウムカチオンが最も好ましく、特に、RおよびR1がそれぞれ炭素数1〜20の有機基であり、R2、R3およびR4がそれぞれ水素原子または炭素数1〜20の有機基であるイミダゾリウムカチオンが最も好ましい。
【0033】
式Iのイミダゾリウムカチオンにおいて、RとR1は、それぞれ互いに独立して、炭素数1〜10の有機基であることが好ましい。特に、RおよびR1は、それぞれ脂肪族基であり、特にさらなるヘテロ原子を含まない脂肪族基、例えばアルキル基である。特に好ましくは、RおよびR1は、それぞれ互いに独立して、C1〜C10アルキル基またはC1〜C4アルキル基である。
【0034】
式Iのイミダゾリウムカチオンにおいて、R2、R3およびR4は、それぞれ互いに独立して、水素原子または炭素数1〜10の有機基であり、特に、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素原子または脂肪族基である。R2、R3およびR4は、それぞれ互いに独立して、水素原子またはアルキル基であることが特に好ましく、特に、R2、R3およびR4は、それぞれ互いに独立して、水素原子またはC1〜C4アルキル基である。R2、R3およびR4が水素原子であることがとりわけ好ましい。
【0035】
イオン性液体は、無機アニオンまたは有機アニオンを含むことができる。そのようなアニオンは、例えば上述した国際特許出願第03/029329号、国際特許出願第2007/076979号、国際特許出願第2006/000197号および国際特許出願第2007/128268号において言及されている。
【0036】
考え得るアニオンは、特に、以下の群のアニオンである。
下記一般式のハロゲン化物およびハロゲン含有化合物の群:F、Cl、Br、I、BF、PF、AlCl、AlCl、AlCl10、AlBr、FeCl、BCl、SbF、AsF、ZnCl、SnCl、CuCl、CFSO、(CFSO)、CFCO、CClCO、CN、SCN、OCN、NO、NO、N(CN)
下記一般式の硫酸塩、亜硫酸塩およびスルホン酸塩の群:SO2−、HSO、SO32−、HSO、RaOSO、RaSO;
下記一般式のリン酸塩の群:PO3−、HPO2−、HPO、RaPO2−、HRPO、RPO
下記一般式のホスホン酸塩およびホスフィン酸塩の群:RHPO、RPO、RPO
下記一般式の亜リン酸塩の群:PO3−、HPO2−、HPO、RPO2−、RHPO、RPO
下記一般式の亜ホスホン酸塩および亜ホスフィン酸塩の群:RPO、RHPO、RPO、RHPO
下記一般式のカルボン酸塩の群:RCOO
下記一般式のホウ酸塩の群:BO3−、HBO2−、HBO、RBO、RHBO、RBO2−、B(OR)(OR)(OR)(OR)、B(HSO)、B(RSO);
下記一般式のボロン酸塩の群:RBO2−、RBO
下記一般式の炭酸塩の群:HCO、CO2−、RCO
下記一般式のケイ酸塩およびケイ酸エステルの群:SiO4−、HSiO3−、HSiO2−、HSiO、RSiO3−、RSiO2−、RSiO、HRSiO2−、HSiO、HRSiO
下記一般式のアルキルシランおよびアリールシラン塩の群:RSiO3−、RSiO2−、RSiO、RSiO、RSiO、RSiO2−
下記一般式のカルボキシイミド、ビス(スルホニル)イミドおよびスルホニルイミドの群:
【化4】

下記一般式のメチドの群:
【化5】

下記一般式のアルコキシドおよびアリールオキシドの群:R
下記一般式のハロメタレートの群:[MHals−〔式中、Mは金属であり、Halは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、rおよびtは正の整数であり、この錯体の化学量論を示し、sは、正の整数であり、この錯体上の電荷を示す〕;
下記一般式の硫化物、硫化水素、多硫化物、多硫化水素および
チオレートの群;S2−、HS、[S2−、[HS、[RS]〔式中、vは2〜10の正の整数である〕;および
下記一般式の金属錯イオンの群:Fe(CN)3−、Fe(CN)4−、MnO、Fe(CO)
【0037】
これらの式において、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、
水素;
〜C30−アルキル、および、アリール−、ヘテロアリール−、シクロアルキル、ハロゲン−、ヒドロキシ−、アミノ−、カルボキシ−、ホルミル−、−O−、−CO−、−CO−O−または−CO−N<で置換されたその誘導体、例えば、メチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、2−メチル−1−プロピル(イソブチル)、2−メチル−2−プロピル(tert−ブチル)、1−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、2−メチル−1−ブチル、3−メチル−1−ブチル、2−メチル−2−ブチル、3−メチル−2−ブチル、2,2−ジメチル−1−プロピル、1−ヘキシル、2−ヘキシル、3−ヘキシル、2−メチル−1−ペンチル、3−メチル−1−ペンチル、4−メチル−1−ペンチル、2−メチル−2−ペンチル、3−メチル−2−ペンチル、4−メチル−2−ペンチル、2−メチル−3−ペンチル、3−メチル−3−ペンチル、2,2−ジメチル−1−ブチル、2,3−ジメチル−1−ブチル、3,3−ジメチル−1−ブチル、2−エチル−1−ブチル、2,3−ジメチル−2−ブチル、3,3−ジメチル−2−ブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、ヘンイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンチル、フェニルメチル(ベンジル)、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、2−フェニルエチル、3−フェニルプロピル、シクロペンチルメチル、2−シクロペンチルエチル、3−シクロペンチル−プロピル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル、3−シクロヘキシルプロピル、メトキシ、エトキシ、ホルミル、アセチルまたはC2(q−a)+(1−b)2a+b〔式中、q≦30であり、0≦a≦qであり、b=0または1である〕(例えば、CF、C、CHCH−C(q−2)2(q−2)+1、C13、C17、C1021、C1225);
〜C12−シクロアルキル、および、アリール−、ヘテロアリール−、シクロアルキル−、ハロゲン−、ヒドロキシ−、アミノ−、カルボキシ−、ホルミル−、−O−、−CO−または−CO−O−で置換されたその誘導体、例えば、シクロペンチル、2−メチル−1−シクロペンチル、3−メチル−1−シクロペンチル、シクロヘキシル、2−メチル−1−シクロヘキシル、3−メチル−1−シクロヘキシル、4−メチル−1−シクロヘキシルまたはC2(q−a)−(1−b)2a−b〔式中、q≦30であり、0≦a≦qであり、b=0または1である〕;
〜C30−アルケニル、および、アリール−、ヘテロアリール−、シクロアルキル−、ハロゲン−、ヒドロキシ−、アミノ−、カルボキシ−、ホルミル−、−O−、−CO−または−CO−O−で置換されたその誘導体、例えば、2−プロペニル、3−ブテニル、シス−2−ブテニル、トランス−2−ブテニルまたはC2(q−a)−(1−b)2a−b〔式中、q≦30であり、0≦a≦qであり、b=0または1である〕;
〜C12−シクロアルケニル、および、アリール−、ヘテロアリール−、シクロアルキル−、ハロゲン−、ヒドロキシ−、アミノ−、カルボキシ−、ホルミル−、−O−、−CO−または−CO−O−で置換されたその誘導体、例えば、3−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニル、3−シクロヘキセニル、2,5−シクロヘキサジエニルまたはC2(q−a)−3(1−b)2a−3b〔式中、q≦30であり、0≦a≦qであり、b=0または1である〕;
炭素数2〜30のアリールまたはヘテロアリール、および、アルキル−、アリール−、ヘテロアリール−、シクロアルキル−、ハロゲン−、ヒドロキシ−、アミノ−、カルボキシ−、ホルミル−、−O−、−CO−または−CO−O−で置換されたそれらの誘導体、例えば、フェニル、2−メチルフェニル(2−トリル)、3−メチルフェニル(3−トリル)、4−メチルフェニル、2−エチルフェニル、3−エチルフェニル、4−エチルフェニル、2,3−ジメチルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、2,5−ジメチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、3,4−ジメチルフェニル、3,5−ジメチルフェニル、4−フェニルフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−ピロリル、2−ピロリル、3−ピロリル、2−ピリジニル、3−ピリジニル、4−ピリジニルまたはC(5−a)〔式中、0≦a≦5である〕であり;あるいは
2つの基は、官能基、アリール、アルキル、アリールオキシ、アルキルオキシ、ハロゲン、ヘテロ原子および/または複素環で置換されてよく、1個以上の酸素および/またはイオウ原子および/または1個以上の置換または非置換イミノ基によって介入されてもよい不飽和、飽和または芳香族環を形成するものである。
【0038】
前記アニオンにおいて、R、R、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、水素原子またはC1〜C12アルキル基であることが好ましい。
【0039】
例示し得るアニオンは、例えば、塩化物;臭化物;ヨウ化物;チオシアネート;ヘキサフルオロホスフェート;トリフルオロメタンスルホネート;メタンスルホネート;カルボキシレート、特にホルメート;アセテート;マンデレート;ニトレート;ニトライト;トリフルオロアセテート;スルフェート;ハイドロジェンスルフェート;メチルスルフェート;エチルスルフェート;1−プロピルスルフェート;1−ブチルスルフェート;1−ヘキシルスルフェート;1−オクチルスルフェート;ホスフェート;ジハイドロジェンホスフェート;ハイドロジェンホスフェート;C1〜C4−ジアルキルホスフェート;プロピオネート;テトラクロロアルミネート;AlCl;クロロジンケート;クロロフェレート;ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド;ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド;ビス(メチルスルホニル)イミド;ビス(p−トルエンスルホニル)イミド;トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド;ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)メチド;p−トルエンスルホネート;テトラカルボニルコバルテート;ジメチレングリコールモノメチルエーテルスルフェート;オレエート;ステアレート;アクリレート;メタクリレート;マレエート;ハイドロゲンシトレート;ビニルホスホネート;ビス(ペンタフルオロエチル)ホスフィネート;ビス[サリチラト(2−)]ボレート、ビス[オキサラト(2−)]ボレート、ビス[1,2−ベンゼンジオラト(2−)−O,O’]ボレート、テトラシアノボレート、テトラフルオロボレートなどのボレート;ジシアナミド;トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート;トリス(ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート、カテコールホスフェート(C)P(O)Oなどの環状アリールホスフェートおよびクロロコバルテートである。
【0040】
特に好ましいアニオンは、下記の群のアニオンである。
アルキルスルフェート:ROSO〔式中、Rは、C1〜C12アルキル基であり、好ましくはC1〜C6アルキル基である〕;
アルキルスルホネート:RSO〔式中、Rは、C1〜C12アルキル基であり、好ましくはC1〜C6アルキル基である〕;
ハロゲン化物、特に塩化物および臭化物、および疑似ハロゲン化物、例えばチオシアネート、ジシアナミド、
カルボン酸塩:RCOO〔式中、Rは、C1〜C20アルキル基であり、好ましくはC1〜C8アルキル基である〕、特に酢酸塩、
リン酸塩、特に式RPO〔式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、C1〜C6アルキル基であり、特に、RおよびRは同じ基である〕のジアルキルホスフェート、例えばジメチルホスフェートおよびジエチルホスフェート、および
ホスホン酸塩、特に式RPO〔式中、RおよびRは、それぞれ互いに独立して、C1〜C6アルキル基である〕のモノアルキルホスホン酸エステル。
【0041】
とりわけ好ましいアニオンは、塩化物、臭化物、硫酸水素塩、テトラクロロアルミネート、チオシアネート、ジシアナミド、メチルスルフェート、エチルスルフェート、メタンスルホネート、ホルメート、アセテート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、p−トルエンスルホネート、テトラフルオロボレートおよびヘキサフルオロホスフェート、メチルメチルホスホネート(メチルホスホネートのメチルエステル)である。
【0042】
特に好ましいイオン性液体は、もっぱら、有機カチオンと上述したアニオンの1つとからなる。
【0043】
式Iのイミダゾリウムカチオンと上述したアニオンの1つ、特に、上述した特に好ましいアニオンの1つ、とりわけアセテート、塩化物、ジメチルホスフェートまたはジエチルホスフェートまたはメチルメチルホスホネートとのイミダゾリウム塩が非常に好ましい。アセテートまたは塩化物とのイミダゾリウム塩が最も好ましい。
【0044】
イオン性液体の分子量は、好ましくは2000g/モル未満であり、特に好ましくは1500g/モル未満であり、とりわけ好ましくは1000g/モル未満であり、非常に好ましくは750g/モル未満である。好ましい実施態様において、分子量は、100〜750g/モルの範囲であり、あるいは、100〜500g/モルの範囲である。
【0045】
〔溶液の調製〕
本発明の方法において、多糖またはオリゴ糖、好ましくはセルロースの溶媒系の溶液を調製する。多糖またはオリゴ糖の濃度は、様々な範囲に変化させることができる。通常、溶液の総重量に基づいて、0.1〜50重量%の範囲であり、好ましくは0.2〜40重量%の範囲、特に好ましくは0.3〜30重量%、非常に好ましくは0.5〜20重量%の範囲である。
【0046】
溶解工程は室温で、または、イオン性液体の融点若しくは軟化点以上の温度に加熱して行うことができるが、通常0〜200℃、好ましくは20〜180℃、特に好ましくは50〜150℃で行うことができる。しかしながら、強攪拌若しくは混合により、またはマイクロ波若しくは超音波エネルギーの導入により、あるいはそれらの組み合わせにより溶解を促進することができる。イオン性液体と非イオン性溶媒を含む溶媒系を使用する場合は、はじめにイオン性液体に多糖またはオリゴ糖を溶解し、その後非イオン性溶媒を加えればよい。
【0047】
〔工程B〕
工程Bにおいて、多糖またはオリゴ糖、好ましくはセルロースを、塩素化剤と反応させる。
【0048】
塩素化剤は、例えば、工程Aで得られる溶液に適する溶媒の溶液形態で加えることができる。
【0049】
一般的な塩素化剤を使用することができ、例えば、塩化チオニル、メタンスルホニルクロリド、クロロジメチルイミニウムクロリド、塩化ホスホリルまたはパラ−トルエンスルホニルクロライドを使用することができる。好ましい塩素化剤は塩化チオニルである。
【0050】
塩素化剤は、少なくとも所望の置換度に達するような量添加する。
【0051】
多糖またはオリゴ糖の置換度(DS)は、塩素により置換された多糖またはオリゴ糖の六員環単位当たりのヒドロキシ基の平均数である。
得られる塩素化セルロースの置換度(DS)は、無水グルコース単位(AGU)当たりの置換ヒドロキシ基の平均数として定義される。
DSは、元素分析において検出された塩素含量から決定される。
【0052】
本発明の方法により得られる塩素化多糖またはオリゴ糖は、少なくとも0.5の置換度(DS)を有することが好ましい。
【0053】
セルロースのAGUには3個のヒドロキシ基が存在するため、塩素化セルロースにおけるDSの理論上の最大値は3.0である。塩素原子により置換されるセルロースの第1のヒドロキシ基は、通常ヒドロキシメチレン基のヒドロキシ基であるであろう。
【0054】
本発明の方法により得られる塩素化セルロースの好ましいDSは、0.5〜3であり、より好ましいDSは0.8〜3である。本発明の方法により得られる好適な塩素化セルロースは、例えば、0.5〜1.5または0.8〜1.5のDSを有していてよい。
【0055】
本発明の方法により、塩素化セルロースにおいて少なくとも1.0のDSを容易に達成することができる。
【0056】
塩素化剤を過剰量で添加してもよく、これは最大DSに対して必要となるより多くの塩素化剤を添加し得ることを意味する。未反応の塩素化剤は一般的な手法により除去すればよく、塩化チオニルは、例えばエバポレーションにより除去し得る。
【0057】
塩素化剤、特に、塩化チオニルは、塩素原子によるヒドロキシ基の置換に作用するだけでなく、多糖またはオリゴ糖の、特にセルロースの分解も引き起こす。この分解は、オリゴ糖または多糖β−1,4−グリコシド結合の主鎖の繰り返し単位間の酸素架橋を、塩素化剤が加水分解するという事実により引き起こされる。
【0058】
したがって、実際に本発明の方法も、多糖またはオリゴ糖を塩素化し、加水分解する方法である。
【0059】
したがって、得られる塩素化多糖またはオリゴ糖、例えば塩素化セルロースは、非塩素化多糖またはオリゴ糖の重合度(DP)より低いDPを有することが好ましく、特に、得られる塩素化多糖またはオリゴ糖のDPは、非塩素化の出発原料のDPより90%未満であってよく、好ましくは80%未満であり、より好ましくは50%未満であり、最も好ましくは20%未満であり、10%未満であってもよい。
【0060】
50〜1000のDP、より好ましくは100〜800のDPを有し得る好適なセルロース(上記参照)から出発して、100未満のDP、例えば5〜100の、10〜100の、または10〜50のDPの分解塩素化セルロースを得ることができる。
【0061】
したがって、本発明の方法により、例えば0.5〜3のDS、特に0.5〜1.5のDSおよび10〜100のDP、特に10〜50のDPを有し得る塩素化セルロースが得られる。0.5〜1.5のDSおよび5〜100のDPを有する塩素化セルロース、または0.8〜1.5のDSおよび10〜50のDPの塩素化セルロースが特に好ましい。
【0062】
塩素化反応の間、反応混合物を上昇温度で保持する。この温度は、例えば、周囲圧力(1bar)で30〜150℃、より好ましくは80〜130℃である。
【0063】
一般に、反応は空気中で行う。しかしながら、反応を不活性ガス、例えばN、希ガスまたはそれらの混合物下で行うこともできる。
【0064】
温度および反応時間は、所望する程度のDSおよびDPを達成するよう選択すればよい。分解のために、酸や求核試薬〔参照:国際特許出願第2007/101811号(酸の使用による分解)または国際特許出願第2007/101813号(求核試薬の使用による分解)〕などのさらなる添加剤は必要ない。また、塩基の使用も必要ない。好ましい実施態様において、付加的な塩基の存在なしで塩素化は行われる。
【0065】
本発明の生成物として、イオン性液体および塩素化多糖またはオリゴ糖を含む溶液が得られる。
【0066】
必要に応じて、この溶液から塩素化多糖またはオリゴ糖を通常の手法により分離してもよい。
例えば、凝固溶媒(塩素化多糖若しくはオリゴ糖について非溶媒)または他の凝固剤、特に塩基若しくは塩基性塩、例えばアンモニアまたはNHOHを含む溶液を加え、溶媒系から凝固した塩素化多糖若しくはオリゴ糖を分離することにより、この溶液から塩素化多糖またはオリゴ糖を得ることができる。凝固溶媒および反応混合物の混合方法により、異なる塩素化種を得ることができる。例えば、主に単塩素化種は、反応混合物中に凝固溶媒を注入することにより得られる。一方、主に二塩素化種は、凝固溶媒中に反応混合物を注入することにより得られる。
【0067】
分離した塩素化多糖またはオリゴ糖、特に塩素化セルロースを特定の形態で得ることができる。必要であれば、塩素化多糖またはオリゴ糖が沈殿する特定の条件に応じて、繊維状、フィルム状またはパール状で得ることができる。
【0068】
残留溶媒を除去するために、分離した塩素化多糖またはオリゴ糖を乾燥させることができる。
【0069】
多糖若しくはオリゴ糖の溶液、または、その溶液から分離した多糖若しくはオリゴ糖は、種々の技術的応用に有用である。低DP(オリゴマー)の塩素化セルロースは、種々の技術的応用の可能性を有するカチオン性、両性、非イオン性およびアニオン性セルロースオリゴマーを製造するための中間体として使用することができる。
【0070】
本発明の一実施態様は、ビスフェノールAによる少なくとも一部の塩素の置換による塩素化種の修飾方法である。新しい置換基は、下記式:
【化6】

〔式中、*は、セルロースC6炭素(−CH−)との結合部位を表す〕
で示すことができる。
【実施例】
【0071】
〔一般的製法〕
セルロース(微結晶性セルロース:Avicel(登録商標)、DP=430)を、イオン性液体、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(BMIMCl)に100℃で2時間加熱することにより溶解した。ジオキサンを共溶媒として加えた。反応物を60℃まで冷却し、塩化チオニル(5当量)を加えた。混合物を60℃で2時間攪拌した後、過剰の塩化チオニルを真空下で除去した。その後、混合物を5℃まで冷却し、NHOHを添加した。沈殿物を濾過し、温水で洗浄し、65℃の真空オーブンで乾燥させた。DP=26、DS=0.8−1.13。乾燥生成物の不溶性の性質のため、分析はCP−MAS NMR(固体NMR)、IR、GPCおよび元素分析により行った。
【0072】
〔反応式〕
【化7】

【0073】
さらなる実施例(実施例2および3)においては、セルロースの量を変え、温度(60℃)、時間(2時間)および塩化チオニルの量(5当量)はそのままにした。全実施例の結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
〔得られた塩素化セルロースの分析〕
塩素化セルロースは溶解性が乏しいため、溶液NMRにより分析することはできなかった。IRは、1428cm−1で典型的なCH−Cl振動を、751cm−1でC−Clバンドを示した。
【0076】
〔CP−MAS NMR分光法〕
【化8】

上記式は、炭素番号を記したクロロセルロースの無水グルコース単位(AGU)の構造を示す。
【0077】
C−6塩素化は、C−6炭素に対する化学シフトにおけるシフトとして、CP−MAS NMR(固体NMR)スペクトルにおいて明確に確認することができる。C6−Clシグナルは40ppmで検出され、一方、非置換C−6(C6−OH)は60ppm付近で化学シフトを有している。二塩素化(C−6およびC−1)は、104ppm〜97ppmでのC−1のシフトした化学シグナルとして、および40ppmでのC−6塩素化のシフトした化学シグナルとして確認された。
【0078】
セルロースの結晶化度は、C−4シグナルを読み取ることにより推定できる。天然セルロースのスペクトルにおいては、C−4に対する2つのシグナルが観察される。これは、構造中に非晶質セルロースおよび結晶性セルロースのいずれもが存在することを意味している。セルロースを所定の溶媒に完全に溶解する均質な化学修飾の後、生成物として規則正しくない(非晶質)セルロース誘導体を主に残して、セルロースの結晶化度は消滅する。さらに、81.7ppmでのシグナルは、セルロースオリゴマーなどの規則正しくない炭化水素が起源であることを示している。これは、規則正しくない(非晶質)C−4シグナルのみが検出されるセルロースオリゴマーの場合に確認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖またはオリゴ糖の塩素化方法であって、
(A)少なくとも1種のイオン性液体を含む溶媒系に多糖またはオリゴ糖を溶解させること、および
(B)多糖またはオリゴ糖と塩素化剤とを反応させること
を含んでなる方法。
【請求項2】
多糖またはオリゴ糖が、セルロース、ヘミセルロース若しくは化学修飾セルロースである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イオン性液体が、式I:
【化1】

で示されるイミダゾリウムカチオン、式II:
【化2】

で示されるピリジニウムカチオン、または、式III:
【化3】

で示されるピラゾリウムカチオン
〔各式中の基は、以下の意味を有する:Rは、炭素数1〜20の有機基であり、R1〜R5は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機基である〕
から選択されるカチオンを含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
イオン性液体がイミダゾリウムカチオンである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
溶媒系が、少なくとも1種のイオン性液体と少なくとも1種の非イオン性溶媒を含む溶媒の混合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
溶媒混合物におけるイオン性液体の含有量が少なくとも20重量%である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
塩素化剤が塩化チオニルである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
塩素化時の温度が30〜150℃である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
得られる塩素化多糖若しくはオリゴ糖が少なくとも0.5の置換度(DS)を有する(DSは、塩素により置換された多糖またはオリゴ糖の六員環単位当たりのヒドロキシ基の平均数として定義される)、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
得られる塩素化多糖若しくはオリゴ糖が、非塩素化多糖若しくはオリゴ糖の重合度(DP)より低い重合度を有する、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
0.5〜3のDSおよび10〜100のDPの塩素化セルロースを得る、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
イオン性液体および塩素化多糖若しくはオリゴ糖を含んでなる溶液。
【請求項13】
凝固溶媒(塩素化多糖若しくはオリゴ糖について非溶媒)または他の凝固剤を加え、混合物から凝固した塩素化多糖若しくはオリゴ糖を分離することにより、塩素化多糖若しくはオリゴ糖を得る、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜11および13のいずれかに記載の方法により得られる塩素化多糖若しくはオリゴ糖。

【公表番号】特表2013−517342(P2013−517342A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548413(P2012−548413)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050305
【国際公開番号】WO2011/086082
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(510015257)ビーエイエスエフ・ソシエタス・エウロパエア (6)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【Fターム(参考)】