説明

多糖類の構造および配列決定

【課題】先行技術の方法に付随する全ての課題を克服する、糖の構造分析のための方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、以下の工程を包含する、糖の構造分析のための方法を提供する:a)表面上に、複数の本質的に配列特異的な結合因子および/または本質的に部位特異的な結合因子を提供する工程;b)表面を、分析される糖または糖の複数のフラグメントを含む混合物と接触させる工程;c)結合していない糖または糖フラグメントを洗浄または別の方法で除去する工程;d)工程c)で得られた表面に、本質的に配列特異的なマーカーおよび/もしくは本質的に部位特異的なマーカーまたは本質的に配列特異的なマーカーおよび/もしくは本質的に部位特異的なマーカーの混合物を添加する工程;e)表面に結合したマーカーの1つ以上の画像を得る工程;ならびにf)画像から分析される糖のアイデンティティに関する情報を引き出す工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、糖鎖(例えば、タンパク質(プロテオグリカン、糖タンパク質)もしくは脂質に付着してか、または遊離の糖のいずれかとして生じる糖)の構造分析の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
(概論)
オリゴ糖および多糖は、互いにグリコシド結合で連結される単糖(糖(sugar))単位からなる。この糖鎖は、DNAまたはタンパク質の鎖と同様に、似ていない2つの末端を有する。糖鎖の場合、これらは、還元末端(直鎖状糖分子のアルデヒド基に対応する)および非還元末端である。しかし、タンパク質およびDNAとは異なり、糖はまた、糖における本質的に各々の糖単位が任意の分岐点として役立って、分岐し得る。
【0003】
糖に結合する多数のタンパク質が存在する。これらの多くのタンパク質は、特定の短いオリゴ糖配列に特異的に結合する。レクチンは、植物から単離された、糖に結合するタンパク質である。本出願の目的のために、用語「レクチン」はまた、動物種由来の糖結合タンパク質(例えば、「哺乳動物レクチン」)を包含する。抗体は、特定の分子構造を特異的に認識するタンパク質である。抗体はまた、レクチンが行うように、糖構造を認識し得る。グリコシダーゼは、糖鎖内のグリコシド結合を切断する酵素である。また、グリコシダーゼは、特定のオリゴ糖配列を特異的に認識し得る。グリコシルトランスフェラーゼは、糖鎖を切断するが、新たに作製された末端のうちの1つに糖単位をさらに転移させる、酵素である。
【0004】
多糖の構造決定技術は、タンパク質分析技術およびDNA分析技術ほど早くは発達していない。これは、DNA関連研究の分野における基本的発見に引き続いて、DNAの重要性がひどく過小評価されてきたことが認識されたという事実に起因する。これにより、DNA分析方法およびDNA自体についての数十年間の熱心な研究をもたらした。さらに、これまで改善および単純化されたDNA分析方法の進展にともなって、タンパク質の構造および機能の分析の技術は、ますます多くのDNA技術由来ツールを使用し始めた。例えば、タンパク質の構造決定は通常、逆方向遺伝学技術(例えば、タンパク質配列の小さな画分を得ることおよび対応するmRNA配列から残りのタンパク質アミノ酸配列を推定すること)によって行われる。mRNA配列は今日では、大部分の場合、データベースにおいて利用可能である、ヒトを含む多数の種のmRNA配列の大きな部分として容易に入手可能である。
【0005】
大部分の哺乳動物タンパク質の非常に重要な部分、すなわち、それらの付着した糖およびグリカンの分析は一般に、DNA分析技術およびタンパク質分析技術においてなされた進歩と比較してゆっくりであった。
【0006】
糖分子(glycomolecule)の重要性は、ペニシリンの発見によって強調される。ペニシリンは、細菌細胞壁における糖分子合成のインヒビターであり、そしておそらく、今日までに発見されたうちで最も成功した抗生物質である。
【0007】
別の例は、ヘパリンの医学的使用である。ヘパリンは、血液凝固を阻害し、そして今日医学において広範に使用されるグリカンである。医学的に重要な糖分子のさらなる例としては、以下が挙げられる:グリコサミノグリカン(GAG)、ヘパラン硫酸、サイトカイン(例えば、IL−8、TNF)、ケモカイン(例えば、酸性線維芽細胞増殖因子)および種々の増殖因子。上記のサイトカイン、ケモカインおよび増殖因子はまた、GAGおよび他の多糖に結合し得、それゆえ、これらはレクチンであると考えられ得る。
【0008】
多糖の構造決定は、糖生物学(glycobiology)の発展のために基本的に重要なことである。糖生物学における研究は、上記の細菌細胞壁、血液グリカン、ウイルス疾患(例えば、HIV感染)、自己免疫疾患(例えば、インスリン依存性糖尿病および慢性関節リウマチ)に関与する増殖因子および細胞表面レセプター構造、ならびに癌において生じるような異常な細胞増殖のような多岐にわたる対象に関する。
【0009】
医学の他の分野において、コンタクトレンズ、人工皮膚の提供、補綴物の開発と同様に、多糖は、良好な候補材料である。さらに、多糖は、多数の非医学分野(例えば、製紙産業)において用いられる。さらに、もちろん、食品産業および製薬産業は、多量の種々の多糖およびオリゴ糖を使用する。
【0010】
上記の全ての分野では、品質管理、研究における構造決定、および構造−機能解析を行う目的で、改善された糖分析技術の必要性が存在する。
【0011】
進歩した分析方法は、何年も前に、タンパク質およびDNAの配列決定の分野において導入されている。DNAおよびタンパク質を構成する成分は、1種類のみの連結(DNAにおける5’から3’へのリン酸架橋、およびタンパク質におけるペプチド結合)によって互いに連結されている。DNAは、4種類のみの異なる成分(核酸)を含み、一方、タンパク質は約20の異なる成分(アミノ酸)を含む。改変されたアミノ酸が存在するとはいえ、タンパク質は、DNAテンプレートを用いて、遺伝暗号に従って最初に合成されなければならない。それゆえ、新たに合成されるタンパク質に存在するアミノ酸の数および種類は、遺伝暗号に表される制限されたレパートリーのアミノ酸に制限される。この暗号は、わずかな相違が存在するが、全ての生物形態について普遍的である。
【0012】
上記の構造的理由から、タンパク質およびDNAの構造分析は今日、熟練者を必要としない、単純で、迅速、かつ比較的安価な手順である。
【0013】
対照的に、糖構造の多数の分析方法が開発されており、各々はそれ自体の欠点を伴う。使用される方法の洗練度合いにかかわらず、1つの技術を用いることによって多糖の、またはオリゴ糖でさえも、配列全体を決定することは、今日可能でない。この困難性についてはいくつかの理由が存在する。第1に、糖は、温度と独立して合成される。構造情報がなければ、それゆえ、研究者は、構築単位が今日公知の糖単位のいずれかから選択されるとみなさなければならない。さらに、これらの単位は、合成の間に、例えば、硫酸基の付加によって改変され得る。
【0014】
第2に、糖単位間の連結は多様である。糖は、連結されている糖単位がヘキソースであるならば、C1原子、C2原子、C3原子、C4原子またはC6原子のいずれかに連結され得る。さらに、C1原子への連結は、α配置またはβ配置のいずれかであり得る。
【0015】
第3に、糖は分岐し得る。このことは、それらの構造を、そして同一の数および種類の糖単位を有する、可能な構造の数をさらに複雑にする。
【0016】
第4の困難性は、糖単位は、ヒドロキシル基の位置のみによって互いに異なり得る(エピマー)ので、多くの糖の間の構造の相違が微小であるという事実によって表される。
【0017】
(先行技術)
糖の構造分析のための多数の方法が開発された。
【0018】
特許文献1は、方法を開示し、ここでは、単糖単位は、単糖を還元末端でそのケト形態またはアルデヒド形態へと変換し、次いで、オリゴ糖鎖におけるこの単糖と次の単糖との間のグリコシド結合をヒドラジンを用いて切断することによって、オリゴ糖の還元末端から逐次除去される。遊離の単糖は、オリゴ糖鎖から分離され、そしてクロマトグラフィー方法によって同定される。次いで、このプロセスは、全ての単糖が切断されるまで繰り返される。
【0019】
特許文献2は、それらの基本構造を仮定し、次いで、多数の配列決定ツール(例えば、グリコシダーゼ)から、最大量の構造情報を与えると予測されるツールを選択することによって未知のオリゴ糖を配列決定する方法を開示する。この方法は、オリゴ糖構造についてのいくつかの基本情報(通常、単糖組成)を必要とする。この方法はまた、配列決定試薬を用いた反応が高価でかつ時間がかかり、それゆえ、これらの費用を低下させる方法についての必要性が存在するという事実を例示する。
【0020】
特許文献2は、VLSIチップ上に固定されたモノリシックプローブアレイ(例えば、オリゴデオキシヌクレオチド)をプローブすることによって分子を検出するための方法を開示する。この刊行物は、固定された表面に多数のプローブが結合され得、そして分析物とのそれらの反応が、VLSIチップ上の論理回路を用いて種々の方法によって検出され得ることを教示する。
【0021】
特許文献3は、オリゴ糖の一つの末端を標識し、標識されたオリゴ糖をアリコートに分け、各アリコートを異なる試薬混合物(例えば、グリコシダーゼの混合物)で処理し、異なる反応混合物をプールし、次いで、クロマトグラフィー方法を用いて反応産物を分析することによってオリゴ糖を配列決定するための方法を開示する。N結合型グリカンは糖鎖がタンパク質に連結している点で共通の構造を有するので、この方法は、N結合型グリカンのみに有用である。O結合型グリカンはより変動し、そしてこの方法は、より大きな多様性をその基本構造に有するそのようなオリゴ糖には未だに適応されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】国際公開第93/24503号パンフレット
【特許文献2】国際公開第93/22678号パンフレット
【特許文献3】欧州特許第421,972号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
それゆえ、本発明の目的は、上記の先行技術の方法に付随する全ての課題を克服する、糖の構造分析のための方法を提供することである。
【0024】
従って、本発明は、最終的な結果を達成するために、異なる技術で得られた結果を合わせる必要なく、1つの技術によって糖の上記の構造分析を提供する。
【0025】
本発明の方法は、オリゴ糖ならびに多糖の構造分析に適切である。
【0026】
本発明の方法は、自動化のためにさらに適切であり、従って、所定のオリゴ糖または多糖を独自に同定するために本質的に充分な情報を提供する、単純かつ迅速なアッセイを提供する。
【0027】
本発明はさらに、所定のオリゴ糖または多糖の配列を同定するための方法を提供する。
【0028】
本発明のさらなる目的および利点は、説明が進むにつれて明白になる。
【課題を解決するための手段】
【0029】
(発明の要旨)
本発明は主に、糖の構造分析のための方法に関し、この方法は、
a)表面上に、複数の本質的に配列特異的な結合因子および/または本質的に部位特異的な結合因子を提供する工程;
b)この表面を、分析される糖、または複数のこの糖のフラグメントを含む混合物と接触させる工程;
c)結合していない糖または糖フラグメントを、洗浄または別の方法で除去する工程;
d)工程(c)で得られた表面に、本質的に配列特異的なマーカーおよび/もしくは本質的に部位特異的なマーカー、または本質的に配列特異的なマーカーおよび/もしくは本質的に部位特異的なマーカーの混合物を添加する工程;
e)この表面に結合したこのマーカーの1つ以上の画像を得る工程;ならびに
f)この画像から分析されるこの糖のアイデンティティに関する情報を引き出す工程、
を包含する。
【0030】
本発明の方法の好ましい実施形態では、本質的に配列特異的なマーカーおよび/または本質的に部位特異的なマーカーは色原体結合因子である。用語「色原体結合因子」は、本明細書中で使用される場合、糖に結合し、かつ異なる色または別の方法で検出可能なマーカーを有し、その結果、糖への結合後に、この糖がこの色または他のマーカーを獲得する、全ての因子を含む。可視範囲に固有の、容易に観察可能な色を有する化学構造に加えて、使用される他のマーカーとしては、蛍光基、ビオチンタグ、酵素(これは、着色産物の形成をもたらす反応において用いられ得る)、磁性マーカーおよび同位体マーカーなどが挙げられる。検出可能なマーカーの上記のリストは、例示の目的のみであり、そして限定的であることも網羅的であることも決して意図していない。同様の傾向で、用語「色」はまた、本明細書中で(例えば、上記の方法の工程(e)の状況において)使用される場合、任意の検出可能なマーカーを含む。
【0031】
本発明の方法の好ましい実施形態では、構造の情報は、単純に表面を視覚検査することおよび標準と比較することによって獲得される。あるいは、別の好ましい実施形態では、工程(f)は光学フィルターの使用を包含する。さらに好ましい実施形態では、表面上に現れる色の画像は写真術により捕捉され、次いでデジタル化される。
【0032】
本発明の方法は、任意の適切な本質的に配列特異的な結合因子を用いて行なわれ得るが、本発明は、特に本質的に配列特異的な結合因子および/または本質的に部位特異的な結合因子としてレクチンの使用に関する。本発明の別の好ましい実施形態では、本質的に配列特異的な結合因子および/または本質的に部位特異的な結合因子は抗体である。
【0033】
本質的に配列および/または部位に特異的な様式で、糖に結合する任意の適切な着色した(または他の方法で検出可能な)物質は、本質的に配列および/または部位に特異的な色原体結合因子として使用され得る。しかし、概して、本質的に配列および/または部位に特異的な色原体結合因子は、色原体のレクチンまたは色原体抗体である。1つの好ましい本発明の実施形態では、色原体結合因子は着色したレクチンである。なおさらに好ましい実施形態は、蛍光性またはビオチンで標識したレクチンまたは抗体を必要とする。さらに好ましい実施形態では、本質的に配列特異的な色原体結合因子は、酵素で標識した抗体である。
【0034】
別の局面では、本発明の方法は、糖を、そこに結合した後に糖鎖を切断し得る本質的に配列特異的な因子で処理する工程をさらに含有する。この処理は、糖が表面と接触する前に、行なわれ得る。あるいは、結合していない糖の除去の後、この処理は行なわれ得るが、本質的に配列特異的な色原体結合因子を加える前に行なってよい。
【0035】
特に好ましい本発明の方法の実施形態では、表面はフィルターペーパーであり、そして本質的に配列特異的な因子は、予め定義された順序でこのフィルターペーパー上で整列される。
【0036】
別の局面では、本発明は糖分子アイデンティティー(GMID)カードを提供し、本発明の方法の直前の好ましい実施形態に従って獲得した糖構造分析データを列挙する。好ましい実施形態では、使用された本質的に配列特異的な試薬は、コードナンバーによって、GMIDカードに示される。GMIDカードの別の好ましい実施形態では、分析で使用された本質的に配列特異的な試薬の組合せは、独特のコードナンバーで示される。
【0037】
本発明はまた、予め定義された順序で、糖または糖配列もしくは糖フラグメントを示す可視のまたは別の方法で検出し得る複数のマーカーを含有する固形支持体に関する。
【0038】
別の局面では、本発明はまた、上記記載の方法で使用するための本質的に配列特異的色原体結合因子のセットを選択する方法を含み、この方法は、以下の工程を包含する:
a)分析される糖の全てのまたは部分的な単糖組成(monosaccharide composition)(MC)を獲得する工程;
b)この糖に存在する単糖に結合し得る本質的に配列および/または部位に特異的なn種のマーカーのセットを選択する工程;
c)このセット中の2つのマーカーが同じ色または他の方法で検出し得るマーカーを有さないことを確かめるために、工程b)で得られた本質的に配列および/または部位に特異的なマーカーのセットを修正する工程;
d)本質的に配列および/または部位に特異的な結合因子、あるいは他の本質的に配列および/または部位に特異的なマーカーのいずれかとの交差反応性を減少させるために、工程c)で選択された本質的に配列および/または部位に特異的なマーカーのセットを修正する工程。
この方法の1つの好ましい実施形態では、分析される糖のMCは、関連した糖のMCから予測される。別の好ましい実施形態では、分析される糖のMCは、この糖の完全なMC分析を行なうことによって獲得される。この方法の別の好ましい実施形態では、nは1と4との間の値を有する。
【0039】
本発明はまた、上記記載の糖構造分析の方法で使用するための、本質的に配列特異的マーカーのセットを選択するソフトウェアにも関し、以下を含む:
a)単糖組成(MC)の供給のためのインプット;
b)この糖に存在する単糖に結合し得るn種の本質的に配列または部位特異的なマーカーにマッチングさせるマッチングサブプログラム;
c)サブプログラムb)により、マッチングされた本質的に配列または部位に特異的なマーカーのセットを修正するための修正サブプログラムであって、このサブプログラムは、本質的に配列または部位に特異的な結合因子または他の本質的に配列または部位特異的なマーカーのどちらかとの減少した交差反応性に基づいて当該マーカーを選択し得る、修正サブプログラム;
d)このセットの2つのマーカーが、同じ色も他の方法で検出できる特徴も有さないと保証し得る第2修正サブプログラム。
【0040】
本発明はまた、糖の構造関連データを獲得するための方法に関し、任意の順序で、以下の工程を包含する
a)糖鎖を切断し得る本質的に配列特異的な因子と糖を反応させる工程、
b)糖に結合し得る本質的に配列特異的な因子と糖を反応させる工程、
c)糖に結合し得る標識された本質的に配列特異的な因子の使用を含み、直接または間接的のいずれかで標識を糖に導入する工程、および
d)切断因子が存在する反応および切断因子が存在しない反応中において、標識の存在を検出する工程。
【0041】
本発明はさらに、糖の構造分析法に関連し、次の工程を含有する:
a)糖を調達する工程;
b)糖を第1の本質的に配列特異的な因子と反応させる工程;
c)糖またはそのフラグメントを第2の本質的に配列特異的な因子と反応させる工程、
d)糖またはそのフラグメントを第3の本質的に配列特異的な因子と反応させる工程、
e)必要に応じて、少なくとも1つの異なる第2または第3の本質的に配列特異的な因子を用いて、工程cからdを繰り返す工程;
ただし、糖は標識されおよび/またはこの第1、第2、および/もしくは第3の本質的に配列特異的な因子の1以上が標識されるかまたは糖に標識を導入し、そして、この標識がそれが導入された工程に続く1以上の工程で検出されるという条件で、そして、第1、第2、または第3の本質的に配列特異的な因子の少なくとも1つは切断因子であるというさらなる条件で、
ここで工程a)からe)は、並行した独立の反応で同じ糖を用いて、少なくとも1つの異なる第1、第2、または第3の本質的に配列特異的な因子を用いて、行なわれ得る。この標識は好ましくは蛍光標識である。
【0042】
本発明はまた方法に関連し、ここで、第1、第2、または第3の本質的に配列特異的な因子の少なくとも1つが固定化されていて、ここで、当該固定化因子は切断因子である本質的に配列特異的な因子ではない。
【0043】
さらに第1の本質的に配列特異的な因子が切断因子である方法は、本発明の範囲内に含まれる。
【0044】
また、第2の本質的に配列特異的な因子が固定化される方法は、本発明の範囲内に含まれる。好ましい実施形態では、切断因子は、グリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼであり得、第2の本質的に配列特異的な因子はレクチンであり、そして第3の本質的に配列特異的な因子は抗体である。
【0045】
好ましい実施形態では、第3の本質的に配列特異的な因子はレクチンである。さらに第3の本質的に配列特異的な因子が切断因子である方法は、本発明の範囲内に含まれる。
【0046】
本発明はまた、糖の配列を導き出す工程をさらに包含する方法に関連する。
【0047】
本発明はさらに、第3の本質的に配列特異的な因子がグリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼである方法に関連する。
【0048】
本発明の上記の方法の好ましい実施形態では、多くの第1の配列特異的な因子は同じ基板に固定化される。好ましくは、全ての第1の配列特異的な因子は単一の基板に固定化される。
【0049】
本発明の方法で使用される第1の本質的に配列特異的な因子は、好ましくは、レクチンおよび抗体から選択される。第2または第3の本質的に配列特異的な因子は、好ましくは、標識された単糖ユニットを糖上に導入するグリコシルトランスフェラーゼである。
【0050】
この方法の別の好ましい実施形態では、1より多くの標識が用いられ、用いられた標識のそれぞれは、独立して検出し得る。
【0051】
本発明はまた、当該方法に関連し、第2および第3の本質的に配列特異的な因子は反応中に同時に存在するが、緩衝液条件の変化によって代わるがわる活性化され、その結果、当該の本質的に配列特異的な因子の1つはその変化によって不活性化され、同時に他の本質的に配列特異的な因子は活性化される。
【0052】
さらに好ましくは、いくつかの第3の本質的に配列特異的な因子は、同時に加えられ得るが、緩衝液条件の変化によって代わるがわる活性化され、結果として、1以上の本質的に配列特異的な因子はその変化によって不活性化され、同時に別の本質的に配列特異的な因子は活性化される。好ましくは、1以上の第3の本質的に配列特異的な因子はグリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼである。
【0053】
本発明はまた、第1または第2の本質的に配列特異的な因子の各々が仮想アレイの別々のユニットに固定される方法に関する。このアレイは好ましくはMASDAアレイである。
【0054】
さらに本発明は、グリコシダーゼまたはそれに同等なものを用いた連続的な消化によって糖の構造を分析する方法に関する。好ましい実施形態では、連続的な消化によって糖の構造を分析する方法は以下の工程を含有する。
a)糖の還元末端をブロックする工程;
b)当該の糖をグリコシドまたはそれと同等なものとインキュベートすることによって、さらなる還元末端を露出させる工程、
c)このさらなる還元末端を標識する工程、
d)必要に応じて、異なるグリコシダーゼまたはそれと同等なものを用いて、工程a〜cを繰り返す工程。
【0055】
さらに、本発明は、さらに上記に記載される糖の構造を分析する方法に関し、ここで、糖の構造関連データを獲得する上記の方法に従って、データを集め、そしてこのデータを組合せて用いて、糖の構造情報が得られる。
【0056】
本発明はまた、糖の構造関連のデータを獲得する上記の方法に従って獲得されたデータを用いて、糖の配列マップを作製する方法に関し、この方法は以下の工程を包含する
a)上記の方法を用いて認識配列の三つ組(triplet)を集める工程
b)1型の三つ組を同定する工程であって、その三つ組は配列(第1認識部位)−(グリコシダーゼ)−(第2認識部位)の三つ組である工程、
c)2型の三つ組を同定する工程であって、その三つ組は配列(グリコシダーゼ)−(第1認識部位)−(第2認識部位)の三つ組である工程、
d)当該の三つ組を類似度に従って、分類する工程、
e)三つ組を種々のグリコシダーゼ認識部位と比較する工程、
f)糖上の発生順に三つ組を整理する、
g)グリコシダーゼ認識部位を整理する工程、
h)三つ組に対する適合性をチェックする工程、
i)単一ファイル順に、グリコシダーゼの認識配列ならびに第1および第2の本質的に配列特異的な因子の認識配列を整列する工程、
j)認識配列(部位)を多糖配列に翻訳する工程。
【0057】
さらに、本発明は、糖の配列マップを作成する方法に関し、この方法は、さらに以下の工程:
k)重複の問題を補正する工程
l)配列を出力する工程
m)すべての利用可能なデータに対してチェックする工程
をさらに包含し、これによって、実際の糖配列のモデルを作成する。
【0058】
本発明はまた、糖の配列マップを作成する上記方法に関し、ここで、工程m)が、糖の構造関連データを得るための上記方法に従って得られる相加物(additional)に対してチェックする工程を包含し、それによってさらに、糖の配列マップを作成する。
【0059】
本発明はまた、糖の構造を分析するための装置に関し、この装置は、各第1の本質的に配列特異的な因子が、平面構造の特定領域に位置付けられているような、平面構造における第1の本質的に配列特異的な因子のアレイを提供する。この装置はさらに、分析物をこのアレイと反応させるための手段、洗浄手段、1以上の第2および第3の本質的に配列特異的な因子を、このアレイと反応させるための手段、ならびにこの糖またはこの第2または第3の本質的に配列特異的な因子に関連した標識を検出するための検出手段を提供する。
【0060】
別の局面では、本発明は、糖の構造を分析するための装置を提供し、この装置は、ビーズの多数のアリコートを備え、各アリコートは、異なる第1の本質的に配列特異的な因子を有する。この装置はさらに、個々に分析物をビーズのアリコートと反応させるための手段、洗浄手段、1以上の第2および第3の本質的に配列特異的な因子を、このアリコートと反応させるための手段、ならびにこの糖またはこの第2または第3の本質的に配列特異的な因子に関連した標識を検出するための検出手段を提供する。
【0061】
本発明の方法を使用して、オリゴ糖または多糖の構造を研究し得る。本発明の方法はまた、このようなオリゴ糖または多糖が、他の分子(例えば、ペプチド、タンパク質、または脂質)に結合されている場合にも使用され得る。詳細には、本発明の方法は、グリコサミノグリカン(GAG)(ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸などを含む)の構造的研究のために使用され得る。
【0062】
本発明の上記および他の特徴および利点のすべてが、以下の例示的かつ非制限的なその好ましい実施形態の実施例からさらに理解される。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1) 糖の構造分析のための方法であって、以下:
a)基板の表面上に、複数の本質的に配列特異的な結合因子および/または本質的に部位特異的な結合因子を提供する工程であって、ここで多数の該複数の本質的に配列特異的な因子および/または本質的に部位特異的な因子が、該基板の同一表面上に固定化されている、工程;
b)該表面を、分析される糖、または該糖の複数のフラグメントを含む混合物と接触させる工程;
c)結合していない糖または糖フラグメントを、洗浄または別の方法で除去する工程;
d)工程c)で得られた該表面に、本質的に配列特異的なマーカーおよび/もしくは本質的に部位特異的なマーカー、または本質的に配列特異的なマーカーおよび/もしくは本質的に部位特異的なマーカーの混合物を添加する工程;
e)該表面に結合した該マーカーの1つ以上の画像を得る工程;ならびに
f)該画像から分析される該糖のアイデンティティに関する情報を引き出す工程、
を包含する、方法。
(項目2) 上記マーカーが、色原体結合因子であり、そして該マーカーの画像が上記表面上に現れる色である、項目1に記載の方法。
(項目3) 工程f)が、上記表面の視検および標準との比較を包含する、項目1に記載の方法。
(項目4) 工程f)が、光学フィルターの使用を包含する、項目1に記載の方法。
(項目5) 工程e)が、上記画像を撮影する工程および/または該画像をデジタル化する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目6) 上記本質的に配列特異的な結合因子および/または本質的に部位特異的な結合因子が、レクチンである、項目1に記載の方法。
(項目7) 上記本質的に配列特異的な結合因子および/または本質的に部位特異的な結合因子が、抗体である、項目1に記載の方法。
(項目8) 上記本質的に配列特異的な色原体結合因子および/または本質的に部位特異的な色原体結合因子が、着色したレクチンである、項目2に記載の方法。
(項目9) 上記本質的に配列特異的な色原体結合因子および/または本質的に部位特異的な色原体結合因子が、蛍光性レクチンである、項目2に記載の方法。
(項目10) 上記本質的に配列特異的な色原体結合因子および/または本質的に部位特異的な色原体結合因子が、ビオチン標識化レクチンである、項目2に記載の方法。
(項目11) 上記本質的に配列特異的な色原体結合因子および/または本質的に部位特異的な色原体結合因子が、蛍光性抗体である、項目2に記載の方法。
(項目12) 上記本質的に配列特異的な色原体結合因子および/または本質的に部位特異的な色原体結合因子が、ビオチン標識化抗体である、項目2に記載の方法。
(項目13) 上記本質的に配列特異的な色原体結合因子および/または本質的に部位特異的な色原体結合因子が、酵素標識化抗体である、項目2に記載の方法。
(項目14) 上記糖を、糖鎖を切断し得る本質的に配列特異的な因子を用いて処理する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目15) 上記糖が、上記表面と接触する前に処理される、項目14に記載の方法。
(項目16) 上記糖が、結合していない糖の除去の後に、しかし本質的に配列特異的な色原体結合因子を添加する前に処理される、項目14に記載の方法。
(項目17) 上記表面が濾紙であり、そして上記本質的に配列特異的な薬剤が、予め規定された順序で該濾紙上に配列される、項目1〜16のいずれかに記載の方法。
(項目18) 糖分子アイデンティティ(GMID)カードであって、項目17の方法により得られた糖構造分析データを列挙するカード。
(項目19) 使用される上記本質的に配列特異的な因子が、コード番号により表される、項目18に記載のGMIDカード。
(項目20) 上記コード番号が、独特のコード番号である、項目19に記載のGMIDカード。
(項目21) 治療的に活性な薬剤の開発における、項目1〜17のいずれか1項に記載の方法の使用。
(項目22) 治療的に活性な薬剤のスクリーニングにおける、項目1〜17のいずれか1項に記載の方法の使用。
(項目23) 疾患診断における、項目1〜17のいずれか1項に記載の方法の使用。
(項目24) 食品および/または飲料の分析における、項目1〜17のいずれか1項に記載の方法の使用。
(項目25) 遺伝的に改変された(GM)農作物および/または該作物由来の産物の分析における、項目1〜17のいずれか1項に記載の方法の使用。
(項目26) 予め規定された順序で、糖または糖配列もしくは糖フラグメントを示す複数の視覚マーカー、または別の方法で検出可能なマーカーを含む固体支持体であって、ここで該複数の視覚マーカー、または別の方法で検出可能なマーカーが、同一基板上で固定化される、固体支持体。
(項目27) 項目1に記載の方法において使用するための1組の本質的に配列特異的なマーカーを選択するための方法であって、以下の工程:
a)分析される糖の全部または部分的な単糖組成(MC)を得る工程;
b)該糖中に存在する該単糖に結合し得る、1組のn種の本質的に配列特異的なマーカーおよび/または本質的に部位特異的なマーカーを選択する工程;
c)該組中の2つのマーカーが同一の色かまたは別の方法で検出可能な同一の特徴を有さないことを確実にするために、工程b)において得られた該本質的に配列特異的なマーカーおよび/または本質的に部位特異的なマーカーの組を修正する工程;ならびに
d)上記本質的に配列特異的な結合因子もしくは本質的に部位特異的な結合因子のいずれかとの交差反応性または他の本質的に配列特異的なマーカーもしくは本質的に部位特異的なマーカーとの交差反応性を減少させるために、工程c)において選択された該本質的に配列特異的なマーカーおよび/または本質的に部位特異的なマーカーの組を修正する工程、
を包含する、方法。
(項目28) 上記分析される糖のMCが、関連する糖のMCから推定される、項目27に記載の方法。
(項目29) 上記分析される糖のMCが、該糖の完全MC分析を行うことにより得られる、項目27に記載の方法。
(項目30) nが1と4との間である、項目27に記載の方法。
(項目31) 項目1に記載の方法において使用するための一組の本質的に配列特異的なマーカーまたは本質的に部位特異的なマーカーを選択するためのソフトウエアであって、以下:
a)単糖組成(MC)を提供するための入力;
b)該糖中に存在する単糖に結合し得るn種の本質的に配列特異的なマーカーまたは本質的に部位特異的なマーカーをマッチングするためのマッチングサブプログラム;
c)サブプログラムb)によりマッチングされた一組の本質的に配列特異的なマーカーまたは本質的に部位特異的なマーカーを修正するための修正サブプログラムであって、該サブプログラムは、本質的に配列特異的な結合因子もしくは本質的に部位特異的な結合因子のいずれかとの減少した交差反応性、または他の本質的に配列特異的なマーカーもしくは本質的に部位特異的なマーカーとの減少した交差反応性に基づいて、該マーカーを選択し得る、修正サブプログラム;
d)該組中の2つのマーカーが、同一の色も、別の方法で検出可能な同一の特徴をも有さないことを確実にし得る第2の修正サブプログラム、
を含む、ソフトウエア。
(項目32) 糖の構造関連データを得るための方法であって、該方法は、任意の順序で以下の工程:
a)該糖を、該糖鎖を切断し得る多数の本質的に配列特異的な因子と反応させる工程であって、ここで該配列特異的因子が、同一基板上に固定化される、工程;
b)該糖を、該糖に結合し得る本質的に配列特異的な因子と反応させる工程;
c)直接的かまたは間接的に標識を該糖に導入する工程であって、該糖を結合し得る標識された本質的に配列特異的な因子の使用を含む、工程;
d)切断因子が存在した反応および該切断因子が存在しなかった反応において該標識の存在を検出する工程、
を包含する方法。
(項目33) 糖の構造分析のための方法であって、以下の工程;
a)糖を提供する工程;
b)該糖を多数の第1の本質的に配列特異的な因子と反応させる工程であって、ここで該第1の本質的に配列特異的な因子が、同一の基板上に固定される、工程;
c)該糖またはそのフラグメントを、第2の本質的に配列特異的な因子と反応させる工程;
d)該糖またはそのフラグメントを、第3の本質的に配列特異的な因子と反応させる工程;および
e)必要に応じて、工程c〜dを、少なくとも1つの異なる第2または第3の本質的に配列特異的な因子を使用して繰り返す工程;
を包含し、
ここで工程a)〜e)は、少なくとも1つの異なる第1、第2、または第3の本質的に配列特異的な因子を使用して、同一の糖を使用する並行で独立した反応で実行され得、ここで該糖が標識されるか、そして/または該第1、第2、および/もしくは第3の本質的に配列特異的な因子のうち1つ以上が標識されるかまたは標識を該糖に導入し、該標識が、該標識を導入する工程の後の1以上の工程で検出され、そしてさらに、ただし該第1、第2、もしくは第3の本質的に配列特異的な因子の少なくとも1つが切断因子である、方法。
(項目34) 上記第1、第2、または第3の本質的に配列特異的な因子の少なくとも1つが固定化され、ここで該固定化された因子が、切断因子である該本質的に配列特異的な因子ではない、項目33に記載の方法。
(項目35) 上記第1の本質的に配列特異的な因子が切断因子である、項目33に記載の方法。
(項目36) 上記第2の本質的に配列特異的な因子が固定化される、項目35に記載の方法。
(項目37) 上記切断因子が、グリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼであり、上記第2の本質的に配列特異的な因子がレクチンであり、そして上記第3の本質的に配列特異的な因子が抗体である、項目35に記載の方法。
(項目38) 上記第3の本質的に配列特異的な因子が、切断因子またはレクチンである、項目33に記載の方法。
(項目39) 上記糖の配列を導き出す工程をさらに包含する、項目33に記載の方法。
(項目40) 上記第3の本質的に配列特異的な因子が、グリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼである、項目33に記載の方法。
(項目41) 多数の上記第1の配列特異的な因子が、上記同一基板上に固定化される、項目32、33、38、39または40に記載の方法。
(項目42) 全ての第1の配列特異的因子が単一の基板上に固定化される、項目41に記載の方法。
(項目43) 上記第1の本質的に配列特異的な因子がレクチンおよび抗体から選択される、項目32〜34または38〜42のいずれか1項に記載の方法。
(項目44) 上記第2または第3の本質的に配列特異的な因子が、標識化単糖ユニットを上記糖上に導入するグリコシルトランスフェラーゼである、項目1〜43のいずれか1項に記載の方法。
(項目45) 1つより多くの標識が使用され、そして各使用される標識が独立して検出可能である、項目33に記載の方法。
(項目46) 項目33に記載の方法であって、上記第2および第3の本質的に配列特異的な因子が、同時に上記反応中に存在するが、緩衝液条件の変化によって代るがわる活性化され、その結果、一方の該本質的に配列特異的な因子が、該変化により不活化されると同時に、他方の該本質的に配列特異的な因子が活性化される、方法。
(項目47) 項目33に記載の方法であって、数種の第3の本質的に配列特異的な因子が同時に添加されるが、緩衝液条件の変化によって代るがわる活性化され、その結果、該本質的に配列特異的な因子の1つ以上が、該変化により不活化されると同時に、別の本質的に配列特異的な因子が活性化される、方法。
(項目48) 上記第3の本質的に配列特異的な因子の1つ以上が、グリコシダーゼまたはグリコシルトランスフェラーゼである、項目46に記載の方法。
(項目49) 上記第1または第2の本質的に配列特異的な因子の各々が、仮想アレイにおける個別のユニット上に固定される、項目33に記載の方法。
(項目50) 上記アレイが、多重抗原血清学的診断アレイ(MASDA)である、項目49に記載の方法。
(項目51) グリコシダーゼまたは該グリコシダーゼの等価物を使用する連続的消化により糖の構造を分析するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)該糖の還元末端をブロックする工程;
b)さらなる還元末端を、グリコシダーゼまたは該グリコシダーゼの等価物との該糖のインキュベーションにより露出させる工程;
c)該さらなる還元末端を標識する工程;および
d)必要に応じて、工程a〜cを異なるグリコシダーゼまたは該グリコシダーゼの等価物を使用して繰り返す工程、
を包含する、方法。
(項目52) 項目33に記載の糖の構造を分析する方法であって、ここでデータが、項目33および51に記載の方法に従って集められ、そして該データを組合せて用いて、該糖の構造情報が得られる、方法。
(項目53) 1つ以上の標識が蛍光性標識である、項目33に記載の方法。
(項目54) 項目33に記載の方法によるデータを使用して、糖の配列マップを作製する方法であって、以下の方法:
a)項目33に記載の方法を使用して、認識配列の三つ組を収集する工程;
b)型1の三つ組を同定する工程であって、該三つ組が配列(第1の認識部位)−(グリコシダーゼ)−(第2の認識部位)の三つ組である、工程;
c)型2の三つ組を同定する工程であって、該三つ組みが配列(グリコシダーゼ)−(第1の認識部位)−(第2の認識部位)の三つ組である、工程;
d)類似性に従って該三つ組を分類する工程;
e)該三つ組を異なるグリコシダーゼ認識部位と比較する工程;
f)該三つ組を該糖上での出現順に整列させる工程;
g)該グリコシダーゼ認識部位を整列させる工程;
h)該三つ組に対する適合性をチェックする工程;
i)グリコシダーゼの認識配列ならびに第1および第2の本質的に配列特異的な因子の認識配列を、単一ファイル順に整列させる工程;ならびに
j)該認識配列(部位)を多糖配列に翻訳する工程、
を包含する方法。
(項目55) 項目54に記載の糖の配列マップを作製する方法であって、
以下の工程:
k)重複の問題を訂正する工程;
l)配列を出力する工程;
m)全ての利用可能なデータをチェックし、それにより実際の糖配列のモデルを作製する工程、
をさらに包含する、方法。
(項目56) 工程m)が、項目51に従って、項目32に記載の方法により得られるデータを使用して、糖の配列マップをさらに作製するさらなるデータをチェックする工程を包含する、項目55に記載の方法。
(項目57) 糖の構造を分析するため、各第1の本質的に配列特異的な因子が、平面構造の特定領域に位置付けられているような、平面構造における第1の本質的に配列特異的な因子のアレイを提供するため、さらに、分析物を該アレイと反応させるための手段、洗浄手段、1以上の第2および第3の本質的に配列特異的な因子を該アレイと反応させるための手段、ならびに該糖または該第2または第3の本質的に配列特異的な因子に関連した標識を検出するための検出手段を提供するための、装置。
(項目58) 糖の構造を分析するため、各アリコートが異なる第1の本質的に配列特異的な因子を有する、ビーズの多数のアリコートを提供するため、さらに個々に分析物を該ビーズのアリコートと反応させるための手段、洗浄手段、1以上の第2および第3の本質的に配列特異的な因子を該アリコートと反応させるための手段、ならびに該糖または該第2または第3の本質的に配列特異的な因子に関連した標識を検出するための検出手段を提供するための、装置。
【図面の簡単な説明】
【0063】
本発明は、好ましい実施形態の詳細な説明および添付の図面から、より明確に理解される。
【図1】図1は、低温殺菌ヤギミルク(AおよびB)、未低温殺菌ヤギミルク(CおよびD)およびウシミルク(E)について得られた、糖分子アイデンティティ(Glycomolecule identity)(GMID)カードの図解である。
【図2】図2は、種々のリポ多糖類サンプルについて得られたGMIDカードの模写でる。カードA〜Eは、それぞれ、LPS番号1、7、10、15、および16に対応する。
【図3】図3は、着色したレクチンのセットを選択するためのアルゴリズムを図解する、高レベル論理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0064】
(発明の詳細な説明)
明確さの目的のために、本明細書中で使用されるいくつかの用語を、本明細書の以下において説明する。
【0065】
「本質的に配列特異的な因子」は、糖に結合し得る因子を意味し、この結合は通常、配列特異的である(すなわち、この因子は、特定の単糖単位の配列にのみ結合する)。しかし、この配列特異性は絶対的でなくとも良く、同様にこの因子は、他の関連配列(例えば、1つ以上の糖が、欠失、変換、または挿入された単糖配列)に結合し得る。この因子はまた、所定の単糖配列に加えて、1つ以上の関連のない配列(すなわち、単糖)に結合し得る。本質的に配列特異的な因子は、通常、タンパク質(例えば、レクチン、糖特異的な抗体、またはグリコシダーゼもしくはグリコシルトランスフェラーゼ)である。レクチンの例としては、以下の植物から単離されるレクチンが挙げられる:
【0066】
【化1】

上述のレクチンの例に加えて、他の生物学的に活性な化合物(例えば、サイトカイン、ケモカイン、および増殖因子)もまた、GAGおよび他の多糖に結合する能力を有しており、従って、本発明の目的では、レクチンであるとみなされる。
【0067】
グリコシダーゼの例としては、α−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、N−アセチルヘキソサミニダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、α−フコシダーゼなどが挙げられる。これらの酵素のいくつかは、その単離の供給源に依存して、異なる特異性を有し得る。
【0068】
上記の酵素は、例えば、Oxford Glycosystems Ltd.、Abingdon、OX14 1RG、UK、Sigma Chemical
Co.、St.Lois,Mo.、USA、またはPierce、POB.117.Rockford、61105 USAから、市販されている。
【0069】
「切断因子」は、その認識配列で糖鎖を切断する、本質的に配列特異的な因子である。代表的な切断因子は、グリコシダーゼ(エキソグリコシダーゼおよびエンドグリコシダーゼを含む)およびグリコシルトランスフェラーゼである。しかし、グリコシド結合を切断し得る化学試薬もまた、それらが本質的に配列特異的である限り、切断試薬として供され得る。用語「切断因子(cleaving agentまたはcleavage agent)」は、本明細書の文脈において、用語「切断し得る本質的に配列特異的な因子」と同義である。
【0070】
「認識配列」は、本質的に配列特異的な因子によって認識される単糖の配列である。認識配列は、通常、2〜4単糖単位を含む。認識配列の例は、Galβ1−3GalNAcであり、これは、Arachis hypogaeaから精製されたレクチンによって認識される。本質的に配列特異的な因子によって特異的に認識される場合、単一の単糖は、本開示の目的のために、認識配列として規定され得る。
【0071】
「糖」は、直鎖または分枝した、任意のオリゴ糖または多糖である。この用語は、本明細書中上記および本明細書中下記においては、この糖が多糖、およびグリカンの糖構造なども含むという点で、当該分野におけるその一般的意味とは異なって使用される。
【0072】
「マッピング」は、多糖鎖において特定の予め規定されたパターンの連続した順序を規定すること、糖の配列の獲得(すなわち、糖の基礎単位すべての完全な決定)を最終的に生じるプロセスを意味する。
【0073】
「配列マップ」は、糖において生じるような、認識部位の順序付けられた連続物である。
【0074】
「単糖」は、例えば、ヘキソース、テトロース、またはペントースのような、単一の糖単位である。単糖の特定の例としては、ガラクトース(Gal)、N−アセチル−ガラクトサミン(GalNAc)、マンノース(Man)、グルコース(Glc)などが挙げられる。
【0075】
本発明の好ましい実施形態では、本明細書中上記に記載され、そして本明細書中以下で例証される方法は、治療的活性薬剤またはその活性フラグメントの構造を決定することによって、治療薬剤についてスクリーニングするために使用され得る。従って、本発明は、治療的活性薬剤のスクリーニングにおける、上記方法の使用に関する。
【0076】
さらに好ましい実施形態では、本発明の分析方法およびマッピング方法はさらに、治療的活性薬剤を最適化するにおいて有用である。なぜなら、この方法は、種々の治療的活性薬剤のグリコシル化程度の評価、およびそれらの間の比較を可能にするからである。例えば、グリカン鎖の非還元末端のガラクトースは、循環系からの糖タンパク質(この中で、グリカン鎖は不可欠な部分である)の迅速なクリアランスと関連付けられ得ることが、当該分野において周知である。次いで、これは、治療的活性薬剤として使用される場合に、これらの糖タンパク質に関連して、劇的な薬物動態学的パラメーターをもたらし得る。従って、本発明はまた、治療的活性薬剤の開発および最適化における上記方法の使用に関する。
【0077】
別の好ましい実施形態では、本発明は、疾患の診断における本明細書中に記載の方法の使用に関する。本発明の分析方法の診断的使用の1例は、微生物病原体のアイデンティティを決定するための、細菌から単離されたリポ多糖類(LPS)の比較および/または同定である。本発明の方法を使用することによる、異なる微生物LPSサンプルの比較を、本明細書中以下で実施例6において例証する。
【0078】
なおさらに好ましい実施形態では、本発明は、食品および/または飲料の分析における本発明の方法の使用に関する。このような分析は、その種起源を決定するために、食品または飲料のサンプルと既知の標準との比較するためのGMID方法の使用を包含し得る。例として、異なる起源のミルクサンプルのGMID分析を、本明細書中以下の実施例5に例証する。さらなる例は、食品および飲料調製物における細菌夾雑物の検出および同定である(例えば、本明細書中以下で実施例6に記載されるLPS分析)。
【0079】
さらに好ましい実施形態では、本発明は、遺伝子操作された(GM)農作物およびそれに由来する産物の分析における、本明細書中上記に記載された方法の使用を提供する。GM作物の例としては、ヒト化抗体(この抗体は、糖タンパク質である)を産生する作物、ならびに、改変されたデンプンまたは他の多糖を産生する作物が挙げられる。
【0080】
本発明は、糖鎖の分析のための方法を提供する。本発明は、生物学的反応機構(例えば、短いオリゴ糖配列を認識し得る薬剤、および酵素に関する機構を含む)を使用する。先行技術の方法と対照的に、本発明は、多数の反応(すなわち、情報量の豊富な分析)を使用する。このことは、本発明の方法が、大部分の先行技術の方法(例えば、ポストソース分解マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析(post source decay matrix−assisted laser desorbtion/ionization mass
spectrometry)(PSD MALDI−MS)、HPLC−MS、または質量分析と組合せられた高速原子衝撃のような)において使用された高額な技術の使用を完全に排除することを可能にする。
【0081】
本発明の好ましい実施形態に従って、糖(還元末端にて標識)と第1の本質的に配列特異的な因子との反応後に、検出工程を実施する。標識の存在は、この糖における、第1の本質的に配列特異的な因子についての認識部位aの存在を示す。この工程は、どのレクチン結合部位が糖において存在するかに関する情報を利用者に提供するということに留意することが重要である。第2の本質的に配列特異的な因子(これは、その認識部位bで糖を切断する)との反応後に、この検出工程を繰り返す。標識の不在は、この第1および第2の認識部位の配列が、a−b−還元末端であることを示す。
【0082】
本発明の方法をさらに例示するために、ここで本発明者らは、第1の本質的に配列特異的因子が、認識部位aを有するレクチンであると仮定する。分析される糖は、標識されない。第2の工程では、特定の糖配列bを認識する標識化抗体を添加する。ここで検出工程を実施し、この検出工程は、抗体が糖を認識したか否かを示す。この場合、使用されるレクチンとは独立して、すべての反応が陽性である。結合していない抗体を洗い流した後、グリコシダーゼを添加する。グリコシダーゼは、認識配列cを有する。第2の検出工程を実施する。シグナルを喪失したすべての反応において、認識部位の配列は、b−c−aまたはa−c−bのいずれかであるに相違ない。他方、シグナルが残存する場合には、認識部位の配列は、c−b−a、a−b−c、b−a−c、またはc−a−bのいずれかであり得る。
【0083】
本発明の上記実施形態において、これらの部位と還元末端との関係は、確立されていない。しかし、糖が標識されている第一の上記実施形態と、第二の本質的に配列特異的な因子が標識されているすぐ上に記載の実施形態との組合せは、その情報を容易に提供する。従って、本発明のさらなる実施形態において、糖は、その還元末端において標識される。次いで、第一工程において、これが種々のレクチンに結合する。第二工程において、標識された抗体が結合される。レクチンおよび抗体は、互いに独立して検出され得る異なる標識により標識される。従って、ここで両方の標識が、第一および第二の検出工程において互いに独立して検出され得る。第三工程において、グリコシダーゼが添加される。ここで、第三および第四の検出工程が実施されて、各反応における両方の標識の存在を確認する。両方の標識が、グリコシダーゼの添加前に存在した場合には、多くの可能性がある。第一に、両方の標識がグリコシダーゼの添加の後にも残る場合には、認識部位の配列は、c−a−b−還元末端である。第二に、両方がグリコシダーゼの添加後に失われる場合には、認識部位の配列は、a−c−b−還元末端でなければならない。第三に、糖標識が残り、そして抗体標識が失われる場合には、認識部位の配列は、b−c−a−還元末端でなければならない。第四に、抗体標識が残り、そして糖標識が失われる場合には、認識部位の配列は、a−b−c−還元末端またはb−a−c−還元末端のいずれかであり得る。
【0084】
糖が最初に切断因子で消化され、そして引き続く工程において結合剤と反応する、類似のセットの反応が、実施され得る。
【0085】
例えば、好ましい実施形態において、還元末端において標識された糖が、第一の本質的に配列特異的な因子(これは、認識配列aを有するグリコシダーゼであり得る)と反応する。コントロール反応において、標識された糖は、未処理のままにされる。次いで、これらの反応は独立して、固定化された第二の本質的に配列特異的な因子(これは、認識配列bを有するレクチンであり得る)とさらに反応する。結合していない糖を洗浄除去した後に、検出工程を行う。標識の存在は、部位bが糖に存在することを示す。第一の本質的に配列特異的な因子が存在した反応と、第一の本質的に配列特異的な因子が存在しなかった独立したコントロール反応とを比較することにより、標識の存在に対するグリコシダーゼの効果が決定され得る。例えば、認識配列bを有するレクチンへの結合の後に、コントロール反応においては標識が検出されるが、第一の本質的に配列特異的な因子が認識配列aを有するグリコシダーゼである反応においては検出されない場合は、認識部位の配列は、b−a−還元末端である。他方で、標識が、コントロール反応とグリコシダーゼ反応との両方において存在する場合には、このことは、認識部位の配列がa−b−還元末端であることを示す。認識部位aは、糖の内側に位置しなくてもよい。すなわち、糖配列の内部に存在しなくてもよい。
【0086】
本発明の上記実施形態は、複数の第一の本質的に配列特異的な因子を用いて使用され得る。これらは、独立した反応において、コントロール反応とともに通常使用される。1つより多い第一の本質的に配列特異的な因子を、1つの反応において使用することもまた、可能である。反応の多様性は、構造に関連する得られる情報の量を増大させる。
【0087】
本発明のさらなる実施形態において、標識されていない糖が使用される。認識配列aを有するグリコシダーゼでの消化の後に、この糖は、固定化されたレクチンと反応する。結合していない糖を洗浄除去した後に、認識部位cを有する標識抗体を、結合した糖フラグメントと反応させる。結合していない抗体の洗浄除去後の、標識の検出は、cがレクチンを結合している糖フラグメントに位置することを示す。結合部位の配列は、c−b−aまたはb−c−aのいずれかであり得る。認識部位の配列に対する還元末端の位置は、この反応を用いては決定され得ない。コントロール(グリコシダーゼを用いない)反応において標識が検出されるがグリコシダーゼを用いる反応においては検出されないことは、認識部位の配列がb−a−cであることを示す。この実施形態においてまた、異なるグリコシダーゼ(単独および/または組合せで)、異なるレクチン、ならびに/あるいは異なる抗体を使用する、さらなる独立した反応が、得られる情報の量を増大させる。
【0088】
第三の本質的に配列特異的な因子が切断工程を提供する、さらに上に記載した本発明の実施形態と、第一の本質的に配列特異的な因子が切断工程を提供する、すぐ上に記載した実施形態とは、実質的に等価であることが明らかである。本発明の両方の実施形態間の差異は、さらに上に記載した実施形態においては、切断因子の効果が第三の本質的に配列特異的な因子と反応する前に標識の存在を検出することにより観察され得るのに対し、すぐ上に記載した実施形態においては、この切断試薬の効果を決定するために、切断因子を用いないコントロール反応を使用しなければならないことである。それにもかかわらず、異なる実施形態により得られる情報の範囲は、実質的に等しい。なぜなら、それらの方法は、その情報およびそこからの認識部位の配列(すなわち、三つ組)を、整理するためのものであるからである。
【0089】
上記実施例は、糖が直鎖状であり、そしてグリコシダーゼが糖配列内に認識部位を有するという仮定に基づく。しかし、グリコシダーゼに対する認識部位の、糖の内部での存在は、通常、他のレクチンとの反応の分析から、容易に確認可能である。レクチンを用いる任意の反応における2つの標識のいずれかが、グリコシダーゼの添加後に失われる場合には、このグリコシダーゼは、糖の内部に認識部位を有するにちがいない。
【0090】
本質的に配列特異的な因子として、グリコシルトランスフェラーゼが使用され得る。グリコシルトランスフェラーゼは、特定の配列パターン(認識配列)に従って、糖配列の特定の点に、糖質ユニットを付加する。従って、反応において使用される単糖が標識される場合には、新たな標識がこの糖鎖に導入され得、これは、グリコシルトランスフェラーゼに対する認識部位の存在を示す。もちろん、グリコシルトランスフェラーゼにより導入される標識は、使用される他の標識から区別可能であるべきである。
【0091】
上記のように、標識抗体を用いるセットの反応を実施する場合は、この抗体は、大部分の反応において結合し得るが、ほんのわずかな例外が存在し得る。このことは、レクチンと抗体との糖認識配列間のオーバーラップの可能性に起因する。このような場合には、特定のレクチンを用いる反応が、ネガティブである。次いで、この情報を使用して、3〜7の糖質ユニットの伸長を推定し得る。なぜなら、レクチンおよび抗体の認識配列は、各々2〜4の糖質ユニットであるからである。
【0092】
あるいは、上記第一および第二の検出工程は、これら2つの検出間に妨害がない場合には、同時に実施され得る。
【0093】
さらなる実施例として、第一の一連の反応において、レクチンとの第一の反応が、末端標識された多糖鎖の部位aにおいて起こり、そしてグリコシダーゼとの第二の反応が、多糖鎖の部位bにおいて起こる場合には、第三の本質的に配列特異的な因子を用いる反応は、部位cにおいて、第二の標識を導入し、これは、第一の標識から区別可能であり得る。従って、両方の標識の存在は、これら3つの部位の配列が、b−a−c−還元末端またはb−c−a−還元末端のいずれかであることを示す。
【0094】
他方で、第一の標識のみが検出される場合には、2つの可能性が存在する:(1)第三の本質的に配列特異的な因子に対する認識部位が、多糖に存在しない、または(2)その認識部位を含む多糖の部分が、第二の本質的に配列特異的な因子により切断された。
【0095】
このことは、第二の本質的に配列特異的な因子が、省略されるか、または切断を可能にしない緩衝条件下で使用される、第二の一連の反応により、確認され得る。この第二の一連の反応において、第二の標識が、第三の本質的に配列特異的な因子との反応の後に検出されない場合には、このことは、この第三の本質的に配列特異的な因子が、糖において結合部位を欠くことを示す。他方で、第二の標識の存在は、切断部位が、第一の本質的に配列特異的な因子に対する部位と第三の本質的に配列特異的な因子との部位の間に位置することを示す。すなわち、糖の上の部位の配列は、c−b−a−還元末端である。
【0096】
本発明の方法においては、これらの反応を、後の反応を先の反応の結果に依存させて連続して実施する必要はない。むしろ、本発明は、複数の反応を、上記推定が単一のセットの反応において可能であるように、実施する方法を提供する。例えば、1つのセットの反応において、異なる第一の本質的に配列特異的な因子が、各反応について同一である第二および第三の本質的に配列特異的な因子とともに使用される。第二のセットの反応が、平行して実施され、これによってこれらの反応は、第二の本質的に配列特異的な因子(これは、省略または不活化される)を除いて、第一のセットの反応と同一である。
【0097】
しかし、中間の検出工程において得られる情報を有利に使用して、本質的に配列特異的な因子の特定の選択を、以下の工程で、排除し得る。分析されるべき糖に認識部位を有さない、本質的に配列特異的な因子は、第二または第三の本質的に配列特異的な因子として使用される場合には、情報を提供しないことが明らかである。従って、糖が標識される、本発明の実施形態においては、糖が第一の本質的に配列特異的な因子と結合した後に実施される検出の結果を使用して、糖が結合した第一の本質的に配列特異的な因子の数から、第二の本質的に配列特異的な因子を選択し得る。
【0098】
本発明のなお別の実施形態において、第三の本質的に配列特異的な因子を添加することは、上記のように検出工程が完了して情報が得られた後に、異なる因子を用いて繰り返される。第三の因子が初めて添加された後に、両方の標識が存在するままである反応については、上記のような結果の解釈に関する同じ考慮が、適用される。標識の1つのみが残る場合には、それにもかかわらず、切断因子が第一の本質的に配列特異的な因子の認識部位と、標識(または還元末端)を有する本質的に配列特異的な因子の認識部位との間を切断するか否かを、推定し得る。この場合には、残っている標識もまた、異なる第三の本質的に配列特異的な因子との反応の後に、失われる。
【0099】
本発明のさらなる実施形態において、異なる第二の本質的に配列特異的な因子が添加され得、これは、第一のセットの反応において添加された、第二の本質的に配列特異的な因子の標識と異なるかまたは同一である標識を、保有し得る。次いで、糖鎖を切断する、別の第三の本質的に配列特異的な因子の添加が、さらなる情報を提供する。
【0100】
本発明のなおさらなる実施形態において、2種以上の異なる第二の本質的に配列特異的な因子が添加され、各々が、その独自の標識を有し、この標識は、使用される他の任意の標識とは独立して検出可能である。次いで、切断因子の添加の後に失われる標識の種類は、単一の第二の本質的に配列特異的な因子のみが使用される実験に関する上記考慮と同様に、第二の本質的に配列特異的な因子の結合部位の位置に関する情報を提供する。
【0101】
当業者に明らかであるように、十分に多数の上記のような反応を実施することによって、反応のフィンガープリントが得られ得、これは、特定の糖に対して特異的である。さらに、上に概説したように得られる部分的な配列情報を、糖の完全な配列に「折り畳む(collapse)」ことが可能である。反応の数が非常に大きくなり得るので(以下に詳述するように)、本発明の方法は、先行技術の方法のように、オリゴ糖の分析に限定されない。本発明の方法をまた使用して、多糖類(すなわち、多数の糖質ユニットを有する大きな糖)の構造を決定し得る。
【0102】
本発明の1つの実施形態において、第一の本質的に配列特異的な因子は、レクチンである。第一の本質的に配列特異的な因子はまた、抗体または別の配列特異的な因子であり得る。
【0103】
本発明の別の実施形態は、異なる配列特異性を有する、多数のレクチンまたは糖特異的抗体を提供し、これらは、現在オリゴヌクレオチドアレイを形成するために使用されるチップと類似の、超大規模集積(VLSI)回路チップのような基板上に、アレイとして固定化される。このようなチップを作製するための方法、およびこのチップに試薬を結合させるための方法は、例えば、WO93/22678に記載されている。
【0104】
別の実施形態において、本発明は、固定化された第一の本質的に配列特異的な因子の仮想アレイを提供する。MASDA粒子を使用する、このような仮想アレイの例は、本発明者のPCT出願IL−97/00105(その全体が本明細書中に参考として援用される)に記載される。この第一の本質的に配列特異的な因子は、別個の反応(例えば、25の異なる反応)においてMASDA粒子上に固定化される。次いで、仮想アレイの各部分が、いずれかの同じ第二の本質的に配列特異的な因子と反応し得る。この反応は、好ましくは、各MASDA反応からアリコートを除去し、これらのアリコートを混合し、そしてこの混合物を第二の本質的に配列特異的な因子と反応させることにより、なされる。仮想アレイの部分を異なる第二の本質的に配列特異的な因子と反応させることが所望である場合には、全てのMASDA反応を分離したままにし得るか、または仮想アレイの画分が、単一の第二の本質的に配列特異的な因子との反応のために、混合物に合わせられ得、一方でこの仮想アレイの他の部分が、別の第二の本質的に配列特異的な因子との反応のために、分離したままにされる。同じ様式で、仮想アレイの部分はまた、第三の本質的に配列特異的な因子との反応のために、合わせられても分離されたままにされてもよい。
【0105】
あるいは、ビーズが、固定化剤として使用され得る。ペプチドおよびタンパク質を結合する目的のための多数の異なるビーズが、当該分野において記載されている。例えば、Pierceカタログp.O−222〜O−231およびT−155〜T−200頁を参照のこと。好ましくはレクチンである、第1の本質的に配列特異的な因子が、ビーズに結合され得る。この方法の利点は、ビーズが後にアリコートに分割され、そして異なる第2の本質的に配列特異的な因子および/または第3の本質的に配列特異的な因子と反応され、それによって本発明の方法によって提供される情報量をさらに増やし得るということである。
【0106】
種々の本質的に配列特異的な因子についての反応条件は、当該分野で公知である。あるいは、当業者は、各々の本質的に配列特異的な因子を用いて、一連の試験を容易に実行し得、種々の反応条件下で、その結合活性を測定し得る。有利なことには、特定の本質的に配列特異的な因子が反応する反応条件、およびそれが不活性のままである条件の知識は、いくつかの本質的に配列特異的な試薬が存在する反応を制御するために使用され得る。例えば、第2の配列特異的試薬および第3の配列特異的試薬が、反応物に同時に添加され得るが、反応条件における変化により、第2の本質的に配列特異的な因子のみが、活性にさせられ得る。次いで、反応条件におけるさらなる変化は、第2の本質的に配列特異的な因子を不活性化し、そして第3の本質的に配列特異的な因子を活性化するために、選択され得る。反応条件のいくつかの例示的な例は、以下の表1に列挙されている。表1に列挙されるpHおよび温度のデータに加えて、他の因子(例えば、金属(例えば、Zn)または陽イオン(例えば、Mn、Ca、Na)の塩(例えば、塩化ナトリウム塩)の存在)が、最適な反応条件、または特定の本質的に配列特異的な因子が活性であり、一方、他が不活性である条件を見出すために調査され得る。
【0107】
【表1】

第1の本質的に配列特異的な因子の固定化は、タンパク質の官能基(例えば、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基またはチオール基)を利用し得る。例えば、ガラス支持体が、上記のPCT公開に記載されるように、エポキシシランとの反応によって、エポキシド基で官能基化され得る。このエポキシド基は、アミノ基(例えば、リジン残基の遊離ε−アミノ基)と反応する。別の機構は、電気性金属(electrometal)物質(例えば、金)での表面の被覆に存する。これはまた、上記PCT公開に記載されている。このような物質は、チオール基との安定な結合体を形成するので、タンパク質は、システイン残基の遊離チオール基によって直接的に、このような物質に連結され得る。あるいは、チオール基は、従来の化学によってか、または1以上のチオール基および遊離アミノ基と反応する基を含む分子(例えば、システインのN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル)と反応させることによって、タンパク質に導入され得る。また、チオール切断性架橋剤(例えば、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート))が、タンパク質のアミノ基と反応され得る。次いで、スルフヒドリル剤での還元は、架橋剤の遊離チオール基を露出させる。
【0108】
標識は、従来の手段によって、本質的に配列特異的な因子または糖に導入され得る。標識としては、その機能に干渉しない糖または本質的に配列特異的な因子に結合した任意の検出性基が挙げられる。標識は、ペルオキシダーゼおよびホスファターゼのような酵素であり得る。原則として、グルコースオキシダーゼおよびβ−ガラクトシダーゼのような酵素もまた、使用され得る。次いで、糖が、このような酵素と反応する単糖単位を含む場合、改変され得るということを考慮しなければならない。さらに、使用され得る標識としては、蛍光標識(例えば、フルオレセイン、テキサスレッド(Texas Red)、ルシファーイエロー(Lucifer Yellow)、ローダミン、ナイルレッド(Nile−red)、テトラメチル−ローダミン−5−イソチオシアネート、1.6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン、シス−Parinaric酸、フィコエリトリン(Phycoerythrin)、アロフィコシアニン(Allophycocyanin)、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、Hoechst 33258、2−アミノベンズアミドなど)が挙げられる。さらなる標識としては、電子が密な金属(例えば、金)、リガンド、ハプテン(例えば、ビオチン)、放射性標識などが挙げられる。
【0109】
糖を標識する例としては、以下が挙げられる:
1.還元端に対する着色標識の使用(例えば、クマリン−120)
2.14C放射性標識糖+グリコシダーゼ(配列特異的糖合成)の使用
3.3H放射性標識糖+グリコシダーゼ(配列特異的糖合成)の使用
4.蛍光標識糖+グリコシダーゼ(配列特異的糖合成)の使用
5.蛍光標識レクチンまたはmAbの使用
6.蛍光標識された着色mAbまたは酵素連結mAbの使用
7.ビオチン端標識の使用
8.特殊な糖配列の作製およびこの糖配列を特異的に認識する抗体またはレクチンの使用。
【0110】
酵素標識の検出は、ELISAおよび酵素検出が慣用的に使用される他の技術の分野において周知である。酵素は、市販されている(例えば、Pierceのような会社から)。
【0111】
蛍光標識は、特定の波長での励起、および異なる波長での検出を必要とする。蛍光検出の方法は、当該分野において周知であり、そして多くの文献および書物に記載されている。この題目に関する刊行物の選択は、Pierceの1994カタログのp.O−124〜0−126に見出され得る。蛍光標識は、Sigmaまたは上記のPierceのような会社から市販されている。
【0112】
タンパク質および糖に対するカップリング標識は、当該分野で周知の技術である。例えば、糖を蛍光標識または放射性標識で標識するための市販のキットは、Oxford Glycosystems,Abingdon,UKから入手可能である。タンパク質を標識するためのそれらの使用のための試薬および説明書は、上記のPierceから入手可能である。
【0113】
カップリングは、通常、官能基(例えば、ヒドロキシ基、アルデヒド基、ケト基、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボン酸などの基)を使用することによって実施される。これらの基と反応する多数の標識(例えば、蛍光標識)が、市販されている。さらに、一方の側で標識と反応し、そして他方でタンパク質または糖と反応する二重官能性架橋剤が、用いられ得る。架橋剤の使用は、タンパク質または糖の機能の喪失を防ぐために有利であり得る。しかし、タンパク質または糖のネイティブな機能の保持を可能にする、任意の適切なカップリング技術が、同等に用いられ得る。
【0114】
しかし、多くの種々の公開されている方法が、タンパク質を所定の支持体にカップリングさせるために、または標識をタンパク質または糖にカップリングさせるために使用され得ることは、当業者にとって自明である。
【0115】
標識の検出は、当該分野で公知のような任意の適切な手段によって実施され得る。いくつかの検出方法は、上記のWO93/22678(この開示は、その全体において本明細書中に援用される)に記載されている。本発明の特に適切な方法は、上記刊行物中に記載されているCCD検出方法である。この方法は、特定の振動数で光を吸収し、それによりVLSI表面への試験光源の通過をブロックし、その結果、CCDセンサが、標識剤が結合した領域における減少した光量を検出する標識と組み合わせて、使用され得る。この方法はまた、このような標識が励起振動数にて光を吸収するという事実を利用する蛍光標識とともに使用され得る。あるいは、CCDセンサは、励起後に、蛍光標識の放射を検出するために使用され得る。励起光からの放射シグナルの分離は、異なる波長について異なる感度を有するセンサを使用することによってか、または時間的な分解によってか、あるいはその両方の組合せによってかのいずれかで達成され得る。
【実施例】
【0116】
本発明は、ここで、以下の実施例によりさらに例示される。
【0117】
(実施例1)
(第1の配列特異的因子および第2の配列特異的因子として抗体を使用する糖分子分析)
本実施例は、本発明に従って糖分子を分析する技術をさらに例示する。第1の配列特異的因子および第2の配列特異的因子として、抗体を使用する。以下の表は、例示の目的のために示される2つの異なる糖(HSおよびNS)との反応の結果を示す。
【0118】
この糖の構造は、以下の通りである:
MFLNH−II(HS):
【0119】
【化2】

表2は、糖と、第1の本質的に配列特異的な因子および第2の本質的に配列特異的な因子(これは、T抗原、Lewisx(Lex)、またはLewisb抗原(Leb)に対する抗体である)との間の反応の結果を示す。第1の本質的に配列特異的な因子は、マトリクス、好ましくは固相微粒子上に固定化される。第2の本質的に配列特異的な因子は、蛍光剤(すなわち、ナイルレッドまたは緑色)で標識される。さらに、糖の還元端は、第2の本質的に配列特異的な因子に対するマーカーとして作用する、ナイルレッドまたは緑色標識とは明確に識別可能な標識を使用して標識される。表2は、糖であるHSについての反応を示し、一方、表3は、糖であるNSに対する反応を示す。
【0120】
【表2】

【0121】
【表3】

要約すると、以下のシグナルは、ここで、第1の本質的な配列特異的因子(欄)として示された抗体を使用する場合に、糖であるHSまたはNS(行)の反応において検出可能である。
【0122】
【表4】

標識が検出され、そして結果が各反応について記録された後に、第3の本質的な配列特異的因子が添加される。この実施例において、第3の本質的に配列特異的な因子を用いる2つの独立した反応が、使用される。糖分子を保有する固相は、ここで、α1,2−フコシダーゼまたはエキソβガラクトシダーゼ(第3の本質的に配列特異的な因子)との反応のために、アリコートに有利に分割され得る。あるいは、第1の本質的に配列特異的な因子および第2の本質的に配列特異的な因子を用いる3セットの反応が、実施され得る。
【0123】
表5:
α1−3,4フコシダーゼ適用後の反応:
【0124】
【表5】

表6:
D.pneumoniae(EC3.2.1.23カタログ番号1088718(Boehringer Mannheim,68298 Mannheim,Germanyより))からのExoβガラクトシダーゼ適用後の反応
【0125】
【表6】

表7
αl−2フコシダーゼ適用後の反応:
【0126】
【表7】

上記に説明されるように集められたデータから、糖分子アイデンティティ(GMID)カードがここで作成され得る。そのような情報の例は、糖HSに関して表8にそして糖NSに関して表9に列挙される。
【0127】
表8
【0128】
【表8】

表9
【0129】
【表9】

第2および第3の本質的に配列特異的な因子のアイデンティティは、そのようなデータの列挙に開示される必要はない。比較目的に対して、特定のコード番号(上記の表中の1、2または3)が常に試薬の特定の組合せを同定することで十分である。
【0130】
(実施例2)
(還元末端の連続標識に関するスキーム)
上記の説明および実施例に示されるように、本発明の方法は、その還元末端で探索される糖の標識を有利に使用する。しかし、この標識技術は、糖内の部位に拡張され得、従ってより多くの情報を提供することによって本発明の方法に寄与する。エンドグリコシダーゼを用いた切断、続く還元末端の標識によって鎖内の糖の標識が可能であるので、それゆえ糖鎖内に標識還元末端を得ることが可能である。還元末端は、本来の還元末端と比較して、第1、第2および第3の本質的に配列特異的な因子に対する結合部位に必然的に接近するので、内部に作製された標識還元末端は、さらなる情報を提供する。さらに、以下にさらに記載される方法に従う還元末端の連続標識によって、探索される糖鎖上の連続した順序において異なるグリコシダーゼに関する部位を同定することが可能である。
【0131】
還元末端を連続標識する方法は、ここに、以下の工程でより詳細に記載される:
1.ブロッキング:
還元末端を有する多糖を、NaBH4/NaOHを含む溶液(pH 11.5)中でインキュベートする。
【0132】
この処理は、還元末端をブロックし、その結果、ここで多糖は還元末端(RE)を欠く。
【0133】
2.露出:
工程1の多糖を、エンドグリコシダーゼを用いて処理する。このエンドグリコシダーゼに対する認識部位が多糖内に存在する場合、新規の還元末端が多糖の切断によって作製される。この溶液はここで、2つの糖:エンドグリコシダーゼ部位において新規に露出されるREを有するフラグメントおよびREがブロックされる第2のフラグメントを含む。
【0134】
3:還元末端の標識
この反応は、例えば、2−アミノベンズアミド(Oxford Glycosystems Inc.(1994年、カタログ62頁)による糖の標識のためのキット形態で市販される)を用いて実行され得る。高濃度の水素かつ高温度(H+/T)条件下での反応、続く還元が完了した後、この混合物は2つのフラグメントを含み、これらのうちの1つはその還元末端で標識されているが、もう一方は、還元末端がブロックされているという事実に起因して標識されないままである。
【0135】
還元末端を標識する別の方法は、還元的アミノ化による方法である。アリールアミン基を含む蛍光化合物を、還元末端のアルデヒド官能基を用いて反応させる。次いで、生じるCH=N二重結合を、例えば、水素化ホウ素ナトリウムを用いてCH2−N単結合に還元する。この技術は、Glyko Inc.、Novato、CA、USAから入手可能なFACE(フルオロホア(fluorophore)補助の炭水化物電気泳動)キットの一部であり、例えば、Glyko、Inc.カタログ8〜13頁(これは本明細書中に参考として援用される)に詳述される。
【0136】
4.第2のエンドグリコシダーゼを用いた反応
ここで、第2のエンドグリコシダーゼを糖混合物と反応させ得る。新規の反応混合物はここで、3つのフラグメントを有する。1つ目はインタクトな還元末端を有し、2つ目は2−アミノベンズイミドによって標識される還元末端を有し、そして3つ目はブロックされた還元末端を有する。
【0137】
(実施例3)
(本質的に配列特異的な因子を用いた一連の反応からの構造情報の誘導)
本実施例は、本発明の方法、すなわち上記にさらに記載されるような反応セットを用いることによる糖の構造に関するデータの作成をさらに例示する。本実施例はさらに、配列情報が上記の反応セットから推定され得ることを示す。
【0138】
いくつかの場合、使用される試薬は、刊行されたデータ(例えば、カタログから取得)から予想されるように正確には反応し得ない。例えば、以下にさらに記載されるようなレクチンシロバナヨウシュチョウセンアサガオ凝集素が、GluNacを結合するものとしてSigmaカタログに列挙される。しかし、以下にさらに詳述される反応において、DSAは、クマリン120誘導体化Glc(Glc−AMC)に結合することが示された。これらの化合物間の構造類似性が原因で、Glc−AMCは全ての目的に対してGlcNacのように作用するようである。さらに、以下の結果から明らかなように、使用されるエンドガラクトシダーゼは、ガラクトース残基のみでなく、残りの糖に対してGlc−AMC基を連結する結合もまた切断する。
【0139】
本発明の実施で使用される本質的に配列特異的な因子が、いくつかの場合、刊行された材料(例えば、カタログ)中で提供された因子の特異性と異なる良好な特異性を有する場合があることが明らかである。そのような反応は、既知の構造の糖を用いた本発明の方法を使用することによって、迅速に同定され得る。次いでこの見出された結果を予想された結果と比較し得、そしてその差違によって、使用される本質的に配列特異的な因子の異なる特異性の同定を可能にする。次いで、本質的に配列特異的な因子の良好な特異性における刊行されたデータからのそのような多様性を、これらの因子を用いた未知の糖構造のさらなる分析のために貯蔵し得る。
【0140】
以下に、本発明の方法を、末端標識五糖(pentasaccharide)および種々のレクチンおよびグリコシダーゼを用いて例示する。五糖は、構造Gal−β(1,4)[Fuc−α(1,3)]−GlcNAc−β(l,3)−Galβ(l,4)−Glcを有する。五糖は、GluNAc位で分岐し、それぞれ3位および4位において五糖に結合したフコースおよびガラクトースを有する。五糖は、その還元末端(Glu)でクマリン−120(7−アミノ−4−メチルクマリン、例えば、Sigma、カタログ番号A9891から入手可能)を用いて標識される。カップリング反応は、アリールアミン官能基を用いた還元末端の標識に関する上記のように実施され得る。クマリン−120は、312nm励起される場合、青色蛍光を発する。第1および第2の本質的に配列特異的な因子として、エンド−β−ガラクトシダーゼ(EG,Boehringer Mannheim)およびエキソ−1,3−フコシダーゼ(FD,New England Biolabs)が使用される。両試薬に関する反応条件は、エキソ−1,3−フコシダーゼに関するNEBカタログ中に記載されるような条件である。
【0141】
3つの反応を実行した。第1は、フコシダーゼ(FD)およびエンド−ガラクトシダーゼ(EG)を含み、第2はFDのみを含み、そして第3はEGのみを含んだ。酵素を欠く第4の反応を、コントロールとした。
【0142】
酵素が糖を消化したことを確認するために、種々の反応物を、薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いてサイズ分離する。
【0143】
分離後、TLCプレート上の糖は、プレートを紫外線に対して曝露することによって検出され得る。この結果は、以下の例示に示す。
【0144】
【化3】

反応4において、グリコシダーゼは添加せず、その結果糖はインタクトでありかつプレート上で小さい距離でのみ移動する。反応2のフラグメントは、分子量が2番目であるが、反応1および3のフラグメントは、等しいようにみえる。これらのデータから、糖上のグリコシダーゼ部位の配列は、FD−−EG−−還元末端(クマリン標識)であると結論付けられ得る。
【0145】
ここで上記の五糖を、上記にさらに記載されるような反応セットによって試験する。第1および第2の本質的に配列特異的な因子としてレクチンを使用した。レクチン(ウナギ凝集素(AAA)カタログ番号L4141、ピーナッツ凝集素(PNA)カタログ番号L0881、ヒマシ油レクチン(Ricinus communis)凝集素(RCA I)カタログ番号L9138、レンズマメレクチン凝集素(LCA)カタログ番号L9267、アルブスプレカトリウス(Arbus Precatorius)凝集素(APA)カタログ番号L9758)は、Sigmaから入手可能である。レクチンはまた、他の企業から入手可能である。例えば、RCA Iは、Pierce(カタログ番号39913)から入手可能であり得る。レクチンを、ブロッティングによってニトロセルロースフィルター上に固定化する。
【0146】
反応緩衝液は、lmM CaClおよび1mM MgClを有するリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)である。レクチンの結合後、フィルターを反応緩衝液中1% BSAを用いてブロックした。コントロールとして、レクチンなしの反応および10μg BSAを固定化タンパク質として用いる反応を使用した。
【0147】
反応結果を表10に示す。プラス(+)は、312nmの蛍光の存在を示し、これは、クマリン標識還元末端の存在を示す。表の番号1〜4は、上記に定義されるような反応を示す。
【0148】
表10
【0149】
【表10】

表10(反応4−コントロール)に列挙されるような結果より、レクチンAAA、PNA、DSAおよびRCA−Iが糖に結合することは明らかである。従って、フコース、Gal(1−3)GlcNAc、GlcNAcおよびガラクトース/GalNAcは、糖の中に存在しなければならない。なぜなら、AAA、PNA、DSAおよびRCA−Iによって認識されるそれぞれの糖構造が存在するからである。上記のグリコシダーゼ、フコシダーゼおよびエンド−β−ガラクトシダーゼが、糖の中の切断配列を認識することはさらに明らかである。これらの配列は、それぞれ、Fuc(1−3/1−4)GlcNAcおよびGlcNAcβ(1−3)Galβ(1−3/4)Glc/GlcNAcである。
【0150】
両方のグリコシダーゼ部位がフコース糖と還元末端との間に位置することがさらに推測され得る。なぜなら、AAA(これはフコースに結合する)が固定化されたレクチンとして使用される場合、上記末端は、いずれかのグリコシダーゼによって切断されるからである。一方、DSAを用いた反応により、GlcNAc単糖がグリコシダーゼ部位と還元末端との間に配置されるか、またはGlcが直接クマリンに結合するかのいずれかの推測が可能になる。なぜなら、DSAが固定化因子として使用される場合、いずれのグリコシダーゼも還元末端を切断しないからである。
【0151】
さらに、PNAを固定化因子として用いる反応は、エンド−βガラクトシダーゼが使用される場合(反応1および3)のみ、還元末端が切断されることを示す。これは、エンド−βガラクトシダーゼ部位が、PNAに関する部位と還元末端との間に位置することを示す。一方、フコシダーゼ部位は、PNA部位と糖のもう一方の末端との間に配置するはずである。
【0152】
上記のデータを考慮すると、ここで以下のように糖の配列を提案することが可能になる:
【0153】
【化4】

上記の実験は、本発明の方法が相対的に少ない反応に基づいて種々のデータ(配列情報を含む)を生み出し得ることを明らかに示す。配列情報におけるいくつかの詳細は、上記糖におけるフコースとGlcNAcとの間の(1−3)または(1−4)結合のように、完全ではあり得ない。五糖の単糖組成が既知であった場合、上記の分析は上記五糖の全ての詳細を生じたであろう。それにもかかわらず、単糖組成のデータの非存在下でさえ得られた情報は、先行技術の方法と比較して非常に正確である。
【0154】
(実施例4)
(部分的または完全な配列情報の導出)
本発明の方法は、自動化に適切している。従って、上記の工程(例えば、実施例1〜3)を、混合、アリコート、反応および検出のための自動化システムを用いて実行し得る。次いで、このような自動化プロセスによって得たデータを、さらに、部分的または完全な配列情報に情報をマッピングすることを「折り畳むcollapse)」ために、さらにプロセシングし得る。このようなデータプロセシングのための方法を、以下にさらに記載する。
【0155】
すべてのデータを収集した後、比較を、グルコシダーゼの添加の前に反応体から得た検出シグナルと、グルコシダーゼの添加の後(およびグルコシダーゼとの反応の後)に得たシグナルとの間で行う。グルコシダーゼとの反応後に消失したそれらのシグナルを、マークする。これは、それらのシグナルのリストを調製することによって有益に行われ、このリストは、第1リストとして本明細書中の後で言及される。多糖上の2つの部位のアイデンティティを、今や、各々のこのようなデータエントリーについて達成し得る。(必要に応じて仮想的)アレイにおける位置は、第1の本質的に配列特異的な因子を示す。シグナルを、グリコシダーゼとの反応より前に検出する場合、その因子についての認識部位は、多糖中に存在しなければならない。シグナル(例えば、第2の本質的な配列特異的因子に関連するシグナル)の消失は、ここで、第1および第2の本質的に配列特異的因子の認識部位の間をグリコシダーゼが切断することを示す。従って、認識部位の配列は、(第1の本質的な配列特異的因子)−(グリコシダーゼ)−(第2の本質的に配列特異的因子)である。還元末端についてのシグナルが、グリコシダーゼを用いる消化の後になお存在する場合、還元末端に関する認識配列の相対的順序が、達成され得る;そうでなければ、両方の可能性(a−b−cおよびc−b−a)を、考慮しなければならない。例示の目的のために、用語「第1の本質的に配列特異的因子の認識部位」とは、以下の「第1認識部位」で示され、用語「第2の本質的に配列特異的因子についての認識部位」は、「第2認識部位」と示され、そして用語「グリコシダーゼについての認識部位」は、「グリコシダーゼ」と示される。
【0156】
上記の型の認識部位の三つ組の第2のリスト(型1三つ組)を作成することが、可能である:
(第1認識部位)−(グリコシダーゼ)−(第2認識部位)。
【0157】
同じ理由で、第3のリスト(型2三つ組)を、ここで、(必要に応じて仮想的)アレイ位置に対して作成し得、ここで、すべてのシグナルは、グリコシダーゼの添加の後残ったままである:
(グリコシダーゼ)−(第1認識部位)−(第2認識部位)。
【0158】
明らかに、十分な数の三つ組は、その配列に関する分子を規定する、すなわち、見出されたすべての三つ組を含む糖の1つの配列が唯一存在できる。より低い数の三つ組は、分子の長さに関する情報が利用可能である場合に必要とされ得る。必要な三つ組の数は、分子の総糖含有量が公知である場合により少なくてもよい。糖の分子量および総単糖含有量の両方を、当業者に周知の先行技術の方法から得ることができる。
【0159】
配列情報を得るプロセス、すなわち、三つ組を認識部位のマップへ折り畳むプロセスを、以下に記載する。
【0160】
三つ組認識部位の第2リストおよび第3リストを、同一(3つの認識部位の3つが同一)、高類似(3つの認識部位の2つが同一)、および低類似(3つの認識部位の1つが同一)と評価する。例示の目的のために、ここで、多糖が、直鎖状の多糖(例えば、グリカンヘパリンの糖部分)であると想定する。
【0161】
次いで、上記の第2および第3リストを使用して、それから三つ組のリストのセットを調製する。ここで、このリストのセット中の各リストは、同じグリコシダーゼ認識配列を共有する三つ組を含む。特定のグリコシダーゼ認識配列を含有するすべての三つ組を第2のグリコシダーゼ認識配列を含有するすべての三つ組と比較することによって、ここで、多糖配列を4つの領域に分割することができる。この4つの領域は、分子の第1末端からグリコシダーゼ1まで(フラグメント a)、グリコシダーゼ1からグリコシダーゼ2まで(フラグメント b)、およびグリコシダーゼ2から分子の第2末端まで(フラグメント c)の範囲である:
(第1末端)(グリコシダーゼ1)(グリコシダーゼ2)(第2末端)。
【0162】
異なるグリコシダーゼ部位を有する、型2の三つ組内の同一な認識部位(ここで、この認識部位は、それぞれのグリコシダーゼ部位に関して同一の方向で位置する)は、この位置に依存して、領域aまたはcのいずれか内の位置についての候補である。異なるグリコシダーゼ部位を有する、型2の三つ組内の同一な認識部位(ここで、この認識部位は、異なる方向で位置する(例えば、1つの三つ組では、還元末端の方向、その他の三つ組においては、非還元末端の方向))は、領域b内、すなわち、2つのグリコシダーゼ部位の間の位置についての候補である。
【0163】
異なるグリコシダーゼ部位を有する、型1の三つ組内の同一な認識部位は、領域a(またはc)における第1または第2の認識部位のうちの1つの位置についての候補であり、そしてこの第1または第2の認識部位のその他は、領域c(またはa)に位置する。つまり、第1または第2の認識部位の1つが、領域aに位置する場合、この第1または第2の認識部位のその他は、領域bに位置するにちがいなく、その逆も同様である。この第1または第2の認識部位のいずれも、領域bに位置し得るものはない。
【0164】
異なるグリコシダーゼ部位を有する、型1の三つ組内の同一な認識部位(ここで、所与の認識部位は、三つ組の一つにおいて還元末端の方向で、そしてその他の三つ組において、非還元末端の方向で位置する)は、領域b内の認識部位の位置についての候補である。
【0165】
三つ組内の多くの認識部位について上記の位置関係を達成し、認識配列の全体は、今や、理論的理由を用いて特定の順序で配列され得る。この段階は、配列マップといわれる。十分な数の認識配列が、配置される場合、糖の完全配列を、それから得ることができる。この方法は糖の分子量を決定しないので、鎖長は不明である。従って、種々の認識部位の間の重複の程度が、十分でない場合、さらなる糖単位が存在し得る配列における領域があり得る。このような糖単位は、それらが、使用される本質的に配列特異的因子のいずれかの認識部位内に入らない場合、検出され得ない。しかし、全配列情報をまた、この糖の分子量を第1に得ることによってこの場合において得ることができ、その鎖長、および第2にその総単糖含量を示す。
【0166】
配列マップにおけるギャップを埋める別の可能性は、実施例2の方法であり、ここで、グリコシダーゼによる配列分解を使用して、配列情報を引き出す。
【0167】
糖における分岐点の存在は、上記の概略のような方法を複雑にし得る。それに対する1つの改善法は、グリコシダーゼを使用してこの分子の画分を調製し、そしてこれらの部分的構造を分析することである。このような部分的構造における分岐の程度は、明らかに、全分子においてよりは低い。さらに、分岐点を特異的に認識する試薬を、使用し得る。このような試薬の例としては、例えば、上記の実施例1に使用された抗体である。これらの抗体の各々は、少なくとも1つの分岐点を含有する糖配列に結合する。さらに,分岐状糖構造を認識する特定の酵素およびレクチンが、利用可能である。例えば、酵素プラナーゼ(pullanase)(EC 3.2.1.41)は、分岐構造を認識する。さらに、抗体は、分岐状糖構造を抗原として使用することによって、産生され得る。さらに、分岐状構造を含む特定の糖構造に結合するペプチドを産生することが、可能である(例えば、Deng SJ,MacKenzie CR,Sadowska J,Michniewicz J,Young NM,Bundle DR,Narang;Selection of antibody single−chain variable fragments with improved carbohydrate binding by phage display.J.Biol.Chem.269,9533−38,1994を参照のこと)。
【0168】
さらに、存在する炭水化物の構造の認識は、多くの場合、分岐点の存在を正確に予期する。例えば、N結合グリカンは、オックスフォード Glycosystems catalogの6頁に列挙されるように、限定された数の構造を有する。これらの構造は、モノアンテナからペンタアンテナの範囲である。より複雑な構造は、付加されたさらなる糖残基を有するより単純な構造に似ている。従って、モノアンテナ構造が同定される場合、より複雑な構造における分岐点のすべてを予測することが、可能であり、単純に、さらなる残基を同定し、そしてこれらのデータをN結合グリカン構造のライブラリーと比較することによって可能である。
【0169】
さらに、本発明の方法に従って集められたデータを分析することによって、理論的に分岐点の存在および位置を推論することがしばしば可能である。例えば、2つの認識部位(aおよびbと示される)が異なる分岐上に存在する場合、部位が還元末端と分岐点との間に位置するグリコシダーゼで消化することは、還元末端マーカーの損失を生じる。しかし、認識部位aおよびbの両方についてのマーカーは、残ったままである。分岐点と認識部位aとの間に位置するグリコシダーゼを使用する場合、認識部位bについてのマーカーおよび還元末端マーカーは、切断される。分岐点の可能性を考慮しない場合、これは、認識部位bが、認識部位aと還元末端との間に位置することを示す。しかし、認識部位bと分岐点との間に位置するグリコシダーゼが使用される場合、還元末端マーカーおよび認識部位aは、切断される。再び、分岐の可能性を考慮しない場合、これは、認識部位aが、還元末端と認識部位bとの間に位置することを示す。これらの推論は、明らかに、互いに不適合であり、認識部位aおよびbが2つの異なる分岐上に位置すると想定する場合、ただ解決され得るのみである。この分岐点は、認識部位aおよびbと第1の上記のグリコシダーゼとの間に位置する。使用される他の上記のグリコシダーゼは、各分岐上(分岐点とそれぞれの認識部位(aまたはb)との間)に位置する。
【0170】
従って、本発明の方法において分岐構造を認識する因子を本質的に配列特異的因子としてを使用する場合、糖分子における分岐点の存在および位置に関する情報を導くことが、可能である。次いで、この情報は、構造の各分岐の配列マップを構築するために使用され、全分岐構造の配列マップを所与し得る。次いで、このような構造におけるギャップは、本発明に従って、非分岐の糖の場合のように、すなわち、さらなる反応を使用することによって、グリコシダーゼで消化すること(それによって、ギャップが存在する分子の領域は、本発明の方法に従うさらなる分析のために特異的に単離される)によって、そして上記にさらに記載されるような連続的グリコシダーゼ消化によって埋められ得る。
【0171】
まとめると、糖の配列を決定し、そして/または本発明に従ってこの糖の構造をマッピングするための方法は、以下の工程を包含する:
1.型1および型2の三つ組を収集する工程
2.類似性に従ってこの三つ組を区別する工程
3.異なるグリコシダーゼ認識部位と三つ組を比較する工程
4.糖上での出現の順序でこの三つ組を配置する工程
5.グリコシダーゼ認識部位を配置する工程
6.この三つ組に対する適合性をチェックする工程
7.単一の縦列順序でグリコシダーゼならびに第1および第2の本質的に配列特異的因子の認識配列を配置する工程
8.認識配列(部位)を多糖配列に翻訳する工程
9.「重複」問題を補正する工程
10.配列を出力する工程
11.すべての利用可能なデータに対してチェックする工程。
【0172】
上記の工程5を実行した後、グリコシダーゼ部位の予備順序が達成された。工程6において、ここで、各三つ組について、それに基づく予測が、その順序に一致するか否かをチェックする。次いで、このデータにおける不一致に基づいて、三つ組のデータに適合する新規のモデルを、作成する。次いで、このモデルを、すべての三つ組のデータに対して試験する。さらに、この三つ組を含む認識部位に関するさらなる方向情報を抽出するために、さらなる反応を実行し得る。
【0173】
上記の工程8の後(ここで、順次に配置された認識部位が、正確な単糖単位の配列に翻訳される)、この糖配列のモデルを示唆し得る。このモデルを試験するために、多くの質問を回答する必要がある。これらの第1は、同じ配列マップをなお有する最小配列が何かということである。この段階において、利用可能な場合、分子量および単糖組成に関する情報を考慮しない。このアプローチは、できるだけ少ない不一致で利用可能なデータのすべてのすべてを組み込む配列の作成にめったに役立たない。この点において、回答すべき第2の質問は、最小配列がなおその点で利用可能なデータ(任意の分子量および単糖組成データを除く)のすべてと一致するかということである。答えるべき第3の質問は、達成される場合の配列マップに一致する他の配列が存在するかということである。次いで、肯定的に、さらなる配列を、以下の質問を用いて試験し得る:各々の配列モデルが、三つ組情報と一致する方法、さらなる任意のデータ(例えば、分子量、単糖組成および生物学において公知のモデル糖構造に関する情報)と一致する方法。
【0174】
最終的に、次いで、上記に記載される工程1〜10に従って、最も良好であると見出した配列モデルを、糖の分子量および構造的組成ならびに生物学的に既存の類似の構造からの想定を認識する前に、すべての三つ組、単糖組成に対して試験する。このように繰り返して試験することによって、利用可能なデータと配列モデルとの間の不一致が同定され、可能な場合、この配列モデルは、より良好にデータを示すように適用される。
【0175】
(実施例5)
(ミルクサンプルの糖分子アイデンティティ(GMID)分析)
本実施例の目的は、ミルクサンプルの分析および比較に対するGMID技術の適用を実証することである。
【0176】
(A.膜および第1層のレクチン)
本明細書中以下に記載される実験に使用される支持表面は、ニトロセルロース膜である。この膜を、以下の通りに調製した:
1.ニトロセルロース膜を、切断し、そしてそれらの上表面に、9×6の四角のアレイ(各々3mm2の四角)になるように印を付けた。次いで、この膜を吸取り紙の上に置き、そして各々の膜の左上の四角に、ペンで印を付けた。
【0177】
2.凍結乾燥したレクチンを、水中に再懸濁して、1mg/mlの最終濃度にした。この再懸濁したレクチン(およびコントロール溶液:5%ウシ血清アルブミン)を、ボルテックスにより混合して、そして各溶液の1μlを、代表的なブロットの以下の例示的な表示において影により示される、ブロット上の28の四角のうちの1つに添加した。
【0178】
【化5】

本実験に使用されたレクチンを、表11に列挙する。
【0179】
【表11】

3.調製されたブロットを、90mmのペトリ皿に置いた。
【0180】
4.このブロットを、各ペトリ皿に、10mlの任意のブロッキング溶液(当業者に周知である)(例えば、5%ウシ血清アルブミン)を添加することによってブロックした。
【0181】
5.ブロッキング溶液中にブロットを含むディッシュを、回転台上で室温で2時間回転(50rpm)させることによって(または回転させずに、4℃で一晩)、穏やかに攪拌した。
【0182】
6.次いで、このブロットを、各ペトリ皿に10mlの洗浄溶液を添加することによって洗浄した。任意の市販の緩衝化溶液(例えば、リン酸緩衝化生理食塩水)が、洗浄工程を実行するために使用され得る。このディッシュを、5分間、穏やかに回転(50rpm)させることによって洗浄した。この手順を、合計3回行い、古い洗浄溶液を廃棄して、そして新鮮な溶液に、各時点で交換した。
【0183】
(B:ミルクサンプルの添加)
使用されたミルクサンプルは、以下の通りであった:
1.Ramat haGolan dairies,Israelから入手される、ウシUHTの日持ちする(long−life)ミルク(3%脂肪)(ロット522104);
2.Mechek dairies,Israelから入手される、低温殺菌したヤギミルク(ロット1および2);
3.2と同様に入手される、非低温殺菌ヤギミルク(ロット3および4)。
【0184】
このミルクサンプルを、10容量/容量%に希釈して、およそ5mlの各サンプルを、別々のブロットに適用した。
【0185】
二連のブロットを、前述のミルクサンプルの各々から調製した。さらに、さらなる1対のブロットを、糖を添加することなく調製した(陰性コントロール)。
【0186】
次いで、このブロットを、攪拌しながら、室温で1時間インキュベートした。
【0187】
(C.着色されたレクチン)
試験したミルクの単糖組成の先行知識から、および本明細書中以下の実施例7に記載されるアルゴリズムに基づくコンピュータプログラムの適用によって、以下の着色されたレクチン(ConA、VVA)を選択した。
【0188】
これらの2つのレクチンの混合物を、各々の着色されたレクチンの濃度が2mg/mlになるように、洗浄溶液中に調製した。
【0189】
500μlの各レクチン混合物を、上記のように調製されたブロット上でインキュベートした。フルオレセインの蛍光を520nmで測定すること、およびビオチン化レクチンの場合には、HRP−ストレプトアビジン溶液とのビオチンの反応に従い生じたTMB青色のシグナルを測定することの両方によって、各ブロットを読み取った。
【0190】
FITC標識レクチンおよびビオチン標識レクチンについて得られた結果を、それぞれ、表12および13に示す。これらの表において示された結果を、0〜3の段階において測定する。ここで0は、ノイズレベル未満のシグナルを示し、そしてここで1〜3の結果は、非糖コントロールにおいて得られた結果の差し引きに従って、陽性シグナル(ノイズを超える)を示す。
【0191】
低温殺菌ヤギミルク(ロット1および2)、非低温殺菌ヤギミルク(ロット3および4)ならびにウシミルクについてのこれらの結果から得られた糖分子アイデンティティ(GMID)カードを、図1(それぞれA〜E)に示す。レクチン1〜24の位置を、各カード1の上に、左から右に1つの列に示す。
【0192】
(D.結果の解釈)
ウシミルクサンプルは、GMIDを生じた。このことにより、サンプル中の多糖が、以下に特異的なレクチンについて陽性の結果を生じる糖を含むことが示される:
a.グルコース/マンノース(ConA、PSAおよびLCA);
b.GlcNac(WGAおよびDSA)。
【0193】
低温殺菌ヤギミルクサンプルは、以下について陽性の結果を生じた:
a.グルコース/マンノース(conA、PSAおよびLCA);
b.GlcNac(DSA)。
試験したロット間でレクチンの反応性における差異は、観察されなかった。
【0194】
非低温殺菌ヤギミルクサンプルは、以下について陽性の結果を与えた:
a.グルコース/マンノース(ConA、PSAおよびLCA);
b.GlcNac(DSA)。
【0195】
要約すると、ウシミルクは、ウシミルクのみがWGAと反応するという点でヤギミルクとは異なった。低温殺菌ヤギミルクサンプルと非低温殺菌ヤギミルクサンプルとの間には、シグナル強度が低温殺菌サンプルにおいて有意に低かったという例外を除いて、本質的に差異が存在しなかった。
【0196】
【表12】

【0197】
【表13】

(実施例6)
(リポ多糖の糖分子アイデンティティ(GMID)分析)
GMID分析を、Sigma Chemical Co.(St.Louis,Missouri,USA)(LPS番号1、7、10、15および16)から入手した5つの異なる細菌リポ多糖において、本質的に、上記の実施例5に記載されるような方法を使用して行った。使用された着色されたレクチンは、ECL、WGA、VVAおよびSBAであった。
【0198】
サンプルLPS番号1、7、10、15および16について得られたGMIDカードを、図2(それぞれ、A〜E)に示す。GMIDカードが、異なるリポ多糖の各々について独特な「フィンガープリント」を提供し、そして細菌を含むサンプル中のこれらの化合物、またはそれらの産物の混合物の存在を同定するために使用され得ることが、この図から理解され得る。
【0199】
(実施例7)
(着色されたレクチンを選択するための方法)
多数の因子は、実施例5および6に例示される多糖分析の方法における使用のために着色されたレクチンを選択する場合に考慮に入れられなければならない。識別可能な色または他の検出性マーカーを有するように選択されたレクチンの各々に対する必要性、ならびにレクチン間の相互作用を低減させる必要性が、これらの考慮に入る。着色されたマーカーの選択における使用のためのアルゴリズムを例示するフローチャートを、図3に示す。図3に示されるアルゴリズムは、n個の着色されたレクチン(または他の検出性マーカー)の選択により開始され(101)、上記の最初の選択は、分析されるべき糖の部分的単糖組成または完全な単糖組成について得られた情報に従って行なわれる。次の工程102において、選択されたレクチンの色は、選択された色の同一性/非同一性を調べるために試験される。選択された基に同一色が存在する場合、このプロセスは、工程103に進行し、そうでなければ、このフローは、工程104に進行する。工程103において、独特ではない色を有することが見出されたレクチンの1つは、同じ結合カテゴリーに属する別のレクチン(すなわち、同じ単糖結合特異性を有するもの)により交換される;このフローは、工程102に進行する。工程104において、n個の選択されたレクチンは、互いの任意の交差反応性、および本明細書中上記の実施例5の方法の第1段階において使用される着色されていないレクチンとの任意の交差反応性を検出するために試験される。交差反応性が見出される場合、このプロセスは、工程105に続き、そうでなければこのフローは、工程106に進行し、ここでアルゴリズムが終了する。工程105において、別のレクチンと交差反応することが決定されたレクチンの1つは、交差反応しないレクチンによって交換される;次いで、このフローは、102に進行する。このアルゴリズムは、工程106で終了する。
【0200】
小さなnの値に関して、および単純な単糖組成を有する糖に関して、上記のアルゴリズムが、オペレータ自身により、選択手順の各工程を通して手動で作動させることによって適用され得ることが強調されるべきである。あるいは(および特に、nがより大きな数であるか、または単糖組成がより複雑である場合には)、本明細書中上記のアルゴリズムプロセスは、上記プロセスを実行するように設計されたコンピュータプログラムによって行なわれ得る。
【0201】
上記の実施例は、本明細書中に記載される方法の有用性を実証した。しかし、それらは、例示のみの目的のために加えられた。本質的に配列特異的な因子において、そのための反応条件において、固定化の技術において、および一連の標識、反応および検出工程において、多くのバリエーションが本発明の範囲を全く超えることなくもたらされ得ることは、当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコシダーゼを使用する連続的消化により糖の構造を分析するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)該糖の還元末端をブロックする工程;
b)さらなる還元末端を、該糖の該グリコシダーゼとのインキュベーションにより露出させる工程;
c)該さらなる還元末端を標識する工程;
d)工程a〜cを異なるグリコシダーゼを使用して、1または複数回繰り返す工程;
e)平面の表面上に複数の本質的に配列特異的な因子を固定する工程;
f)該糖を、該固定された複数の本質的に配列特異的な因子とインキュベートする工程;
g)結合していない糖を洗浄または別の方法で除去する工程;
h)該標識された還元末端を検出することにより、該複数の本質的に配列特異的な因子の結合を検出する工程;
を包含し、工程e)−h)は、必要に応じて複数回、工程c)の後、および/または工程d)の後に行われ得る、方法。
【請求項2】
i)前記標識された還元末端の1または複数の画像を得る工程;および
j)該画像によって分析される前記糖のアイデンティティに関する情報を引き出す工程
をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程i)は、前記表面の視覚検査および標準との比較;光学フィルターの使用;前記画像を写真にとることおよび/またはデジタル化することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記本質的に配列または部位特異的な結合剤がレクチンまたは抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記標識は、着色したレクチン、蛍光性レクチン、ビオチン標識化レクチン、蛍光性抗体、ビオチン標識化抗体または酵素標識化抗体である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
治療的に活性な薬剤の開発における、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項7】
治療的に活性な薬剤のスクリーニングにおける、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項8】
疾患診断における、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項9】
食品および/または飲料の分析における、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項10】
遺伝的に改変された(GM)農作物および/または該作物由来の産物の分析における、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法の使用。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−181411(P2010−181411A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53792(P2010−53792)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【分割の表示】特願2000−616422(P2000−616422)の分割
【原出願日】平成12年5月4日(2000.5.4)
【出願人】(502396085)プロコグニア (イスラエル) リミテッド (3)
【Fターム(参考)】