説明

多結晶シリコンの製造方法

【課題】多結晶シリコン製造プロセスの更なる高収率化ならびに当該プロセス内で循環利用されるTCSや副生物からの不純物除去の容易化を可能とすること。
【解決手段】多結晶シリコンをCVD反応炉101で析出させた際に生成する副生混合物を、塩素化反応器102内で塩素と反応させてテトラクロロシラン(STC)留出物を生成させ、当該STC留出物を水素化反応器103内で水素と反応させてトリクロロシラン(TCS)に転換させる。塩素化反応工程において、上記副生混合物に含まれるポリシランを多結晶シリコン製造原料として効率的に再利用することが可能となり、製造プロセスの収率が高められることとなる。また、塩素化工程においてTCSと近沸点のメチルクロロシラン類が高次塩素化されて高沸点化がなされるので、高次塩素化メチルクロロシラン類の高濃度濃縮分離が容易なものとなり、多結晶シリコンへの炭素混入が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロロシラン(TCS)と水素を反応させて多結晶シリコンを得るための製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体グレードの高純度多結晶シリコンの製造には、一般に、トリクロロシラン(TCS)ガスを還元して、これをシリコンロッド上に析出させる「ジーメンス法」が広く用いられてきている。
【0003】
このジーメンス法に関連しては、特許文献1(特表2004−532786号公報)に、テトラクロロシラン(STC)をトリクロロシラン(TCS)に転化するための水素化反応器中で、多結晶シリコン製造のためのCVDプロセスからの留出ガス中に存在するジシラン(HCl6−nSi:nは0〜6の値)をモノシランに転化させる工程を新たに備えた多結晶シリコンの製造方法に関する発明が開示されている。この方法によれば、水素化反応器という同一反応器で水素化反応とジシランの熱分解とが組み合わされることにより、水素化プロセスが高収率化されるなどの利点があるとされている。
【0004】
ところで、TCSと水素を反応させて多結晶シリコンを析出させた際に生成される副生混合物中には、珪素数nが2のジシラン以外のポリシラン(H2(n+1)−mClSi:nは3または4の整数、mは0乃至2(n+1)の整数)も含まれている。したがって、これらのポリシランを効率的に利用することが可能となれば、多結晶シリコンの析出工程で生じる副生混合物を多結晶シリコン製造原料として再利用することが容易化されて、製造プロセスの収率は更に高められることとなる。
【0005】
つまり、特許文献1に開示された方法をはじめとした従来の多結晶シリコン製造方法は、上記副生混合物を多結晶シリコン製造原料として変換させるプロセスにおいて改善の余地がある。
【0006】
加えて、半導体グレードの高純度多結晶シリコンを製造するためには原料となるTCSの高純度化が求められることとなる結果、多結晶シリコン製造プロセス内で循環利用されるTCSや副生物の不純物除去工程が必要となる。したがって、多結晶シリコン製造プロセス内で循環利用されるTCSや副生物からの不純物除去を容易化可能なものとしてプロセス設計することは、実用上、極めて重要な意味をもつ。
【特許文献1】特表2004−532786号公報
【特許文献2】特開平4−202007号公報
【特許文献3】特開昭58−217422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、多結晶シリコン製造プロセスの更なる高収率化、ならびに当該プロセス内で循環利用されるTCSや副生物からの不純物除去を容易化することを可能とする多結晶シリコンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、本発明の多結晶シリコンの製造方法は、(A)トリクロロシラン(TCS)と水素を反応させて多結晶シリコンを析出させるCVD工程、(B)化学式H2(n+1)−mClSi(式中nは2乃至4の整数、mは0乃至2(n+1)の整数)で表記されるポリシランを含む前記CVD工程からの副生混合物を塩素と反応させてテトラクロロシラン(STC)留出物を生成させる塩素化工程、および、(C)前記塩素化工程からのテトラクロロシラン(STC)留出物を水素と反応させてトリクロロシラン(TCS)とする水素化工程を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記水素化工程で生成したメチルクロロシラン(MeCS)含有留出物を前記塩素化工程に循環させて高次塩素化メチルクロロシランを生成させる工程を更に備えるようにすることができる。
【0010】
この場合、前記高次塩素化メチルクロロシランをテトラクロロシラン(STC)留出物と分離する工程を備えるようにしてもよい。
【0011】
また、本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記水素化工程で生成した高次水素化クロロシラン含有留出物を前記塩素化工程に循環させてテトラクロロシラン(STC)を生成させる工程を更に備えるようにすることができる。
【0012】
さらに、本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記水素化工程で生成した高次水素化クロロシラン含有留出物を前記水素化工程に循環させて低次水素化クロロシランを生成させる工程を更に備えるようにすることができる。
【0013】
本発明の多結晶シリコンの製造方法では、前記水素化工程で生成したトリクロロシラン(TCS)を前記CVD工程に循環させる工程を備えるようにしてもよい。
【0014】
また、本発明の多結晶シリコンの製造方法では、前記水素化工程の前に、前記CVD工程からのポリシラン含有副生混合物からテトラクロロシラン(STC)とポリシランを主含有成分とする混合物を単離する工程を備えるようにしてもよい。
【0015】
この場合、前記単離工程は、例えば、前記CVD工程からのポリシラン含有副生混合物を、トリクロロシラン(TCS)を含有する低沸点留分と、テトラクロロシラン(STC)、ポリシラン、および粒状シリコンを含有する高沸点留分とに分離するものである。
【0016】
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記低沸点留分を前記CVD工程に循環させる工程を備えるようにすることができる。
【0017】
また、本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記高沸点留分から粒状シリコンを除去する工程を備えるようにすることができる。
【0018】
本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記水素化工程からの留出物を、メチルクロロシラン(MeCS)含有留出物と高次水素化クロロシラン含有留出物とに分離する工程を備えていることが好ましい。
【0019】
また、本発明の多結晶シリコンの製造方法は、前記塩素化工程における塩素化は、光照射下での液相反応、ラジカル開始剤存在下の液相反応、若しくは、塩素分子の解裂温度以上での気相反応により行なわれることが好ましい。
【0020】
前記水素化工程の反応温度は、例えば、約600〜1200℃若しくは約400〜600℃であり、後者の場合には珪素の存在下で水素化が行なわれる。
【0021】
前記水素化工程の反応温度が約400〜600℃の場合、前記水素化工程において塩酸(HCl)を同時供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の多結晶シリコンの製造方法では、多結晶シリコンをCVD反応で析出させた際に生成する副生混合物を塩素と反応させてテトラクロロシラン(STC)留出物を生成させる工程(塩素化工程)を設けることとし、当該STC留出物を水素と反応させてトリクロロシラン(TCS)に転換させることとしたので、上記副生混合物に含まれるポリシランを多結晶シリコン製造原料として効率的に再利用することが可能となり、製造プロセスの収率が高められることとなる。
【0023】
また、本発明では、塩素化工程において、TCSと近沸点のメチルクロロシラン類が高次塩素化されて高沸点化がなされるので、高次塩素化メチルクロロシラン類の高濃度濃縮分離が容易なものとなり、多結晶シリコンへの炭素混入が抑制されるとともに、廃棄物も削減されることとなる。
【0024】
このように、本発明が備える塩素化工程は、多結晶シリコンの製造プロセス中に副生する不純物を有価物に変換させて多結晶シリコン製造プロセスの更なる高収率化を可能とするとともに、当該プロセス内で循環利用されるTCSや副生物からの不純物除去の容易化を可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の多結晶シリコンの製造方法について説明する。なお、以下では、本発明により得られる多結晶シリコンを半導体グレードの高純度多結晶シリコンとして説明するが、本発明は太陽電池グレード等の多結晶シリコンを得るためにも有効である。
【0026】
[基本構成]:図1は、本発明の多結晶シリコンの製造方法の基本構成(工程)を説明するための図で、トリクロロシラン(TCS)と水素を反応させて多結晶シリコンを析出させるCVD工程と、化学式H2(n+1)−mClSi(式中nは2乃至4の整数、mは0乃至2(n+1)の整数)で表記されるポリシランを含むCVD工程からの副生混合物を塩素と反応させてテトラクロロシラン(STC)留出物を生成させる塩素化工程と、塩素化工程からのテトラクロロシラン(STC)留出物を水素と反応させてトリクロロシラン(TCS)とする水素化工程とを備えている。
【0027】
CVD反応炉101には、シリコン源であるトリクロロシラン(SiHCl:TCS)と水素(H)が供給され、TCSの還元反応を用いた「ジーメンス法」により、通電加熱したシリコンロッド(シード)上に多結晶シリコンを析出させて半導体グレードの高純度多結晶シリコンが得られる(CVD工程)。
【0028】
この反応の後、CVD反応炉101内には、未反応状態で残ったTCSのほか、当該還元反応中に生成したジクロロシラン(SiHCl:DCS)やテトラクロロシラン(SiCl:STC)、ポリシラン、および粒状シリコン等を含有する副生混合物が存在することとなる。ここで、ポリシランは、化学式H2(n+1)−mClSi(式中nは2乃至4の整数、mは0乃至2(n+1)の整数)で一般表記されるものを指す。
【0029】
この副生混合物はCVD反応炉101から排出されて塩素化反応器102に供給され、塩素(Cl)と反応させてテトラクロロシラン(STC)留出物が生成される(塩素化工程)。この塩素化工程では、例えば約−20〜約100℃の温度範囲の下での液相反応、或いは400℃以上の温度での気相反応により、上記CVD反応炉101から供給された副生混合物と塩素とを反応させてポリシランからテトラクロロシラン(STC)が生成される。
【0030】
なお、この塩素化工程では、図2に例示したように、水素化工程で生成したメチルクロロシラン(MeCS)を含む留出物を当該塩素化工程に循環させて塩素を反応させることにより、MeCSから高次塩素化メチルクロロシランを生成させる反応を行なうことも可能である。
【0031】
これらの反応を化学式で表すと、ポリシランからテトラクロロシラン(STC)が生成される反応は、ポリシランがペンタクロロジシラン(SiHCl)であるとすると、下記反応式(1)により、ペンタクロロジシランのSi−H結合の水素が塩素化されるとともにSi−Si結合が解裂して新たにSi−Cl結合が形成される結果、ペンタクロロジシランから2モルのSTCが生成することとなる。
【0032】
【化1】

【0033】
なお、上記反応式(1)は、ポリシランがペンタクロロジシランであるものとして例示したが、他のポリシラン、例えば、ヘキサクロロジシランやヘプタクロロトリシランなどでも同様に、Si−H結合からSi−Cl結合の生成、Si−Si結合の解裂によるSi−Cl結合の生成により、STCの生成がもたらされる。
【0034】
また、MeCSから高次塩素化メチルクロロシランを生成させる反応は、メチルクロロシランがメチルジクロロシラン(CHSiHCl)であるとすると、下記反応式(2)により、メチルジクロロシランのSi−H結合が塩素化されて高次塩素化メチルクロロシラン(CHSiCl)を生成する反応(上式)と、CH−Si結合のメチル基中のC−H結合が塩素化されて高次塩素化メチルクロロシラン(CHClSiHCl)を生成する反応(下式)が、競争的に進行する。過剰の塩素が存在すれば、C−H結合の塩素化は更に進行し、より高次の塩素化メチルクロロシランが生成することとなる。
【0035】
【化2】

【0036】
なお、上記反応式(2)は、メチルクロロシランがメチルジクロロシラン(CHSiHCl)であるものとして例示したが、他のメチルクロロシラン(例えば、CHSiCl、(CHSiHCl、(CHSiCl、(CHSiCl、CHSiHClなど)でも同様に、Si−H結合の塩素化反応、CH−Si結合のメチル基中のC−H結合の塩素化が行われ、高次塩素化メチルクロロシランが生成する。
【0037】
また、水素化工程からのメチルクロロシランを含む留出物中にはイソペンタン等のTCSと近沸点をもつ炭化水素化合物も微量含まれ得るが、この炭化水素類も同時に塩素化され高沸点化される。
【0038】
更に、この塩素化反応器102では、例えば図3に例示したように、水素化工程から塩素化工程に循環させた高次水素化クロロシランを塩素化してTCSなどの低次水素化クロロシランを生成させることもできる。例えば、下記反応式(3)に示すように、高次水素化クロロシランがジクロロシラン(SiHCl:DCS)である場合に、DCSの水素が塩素化されて低次水素化クロロシランであるTCSが生成することとなる。
【0039】
【化3】

【0040】
なお、上記反応式(3)は、高次水素化クロロシランがDCSであるとして例示したが、他の高次水素化クロロシランや高次水素化シランでも、下記反応式(4)で示すように、逐次的にSi−H結合の塩素化反応が進行する。そして、水素化工程から塩素化工程への高次水素化クロロシランの循環を繰り返すことにより、高次水素化クロロシランは逐次STCへと変換されてゆくこととなる。
【0041】
【化4】

【0042】
このようにして塩素化工程で生成したテトラクロロシラン(STC)を含有する留出物は、水素化反応器103へと供給され、水素との反応によってトリクロロシラン(TCS)とされることとなる(水素化工程)。このTCSを上述のCVD工程に循環させれば、多結晶シリコン製造用原料として再利用することができる。
【0043】
上述の反応式(1)乃至(3)で表される塩素化反応は、光照射下での液相反応、ラジカル開始剤存在下の液相反応、若しくは、塩素分子の解裂温度以上での気相反応により行なうことができる。
【0044】
光照射下での塩素化反応(光塩素化)は、塩素の存在下で光照射してポリシランからテトラクロロシラン(STC)を生成される手法であり、特許文献2(特開平4−202007号公報)にも記載されているような、低圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ等を光源として塩素分子のCl−Cl結合の吸収波長に相当する光を利用する。
【0045】
ラジカル開始剤存在下での塩素化反応による場合は、ラジカル開始剤としてAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、BPO(ベンゾイルパーオキサイド)等が用いられる。なお、ラジカル開始剤を用いる場合には、ラジカル開始剤が熱分解してラジカルとなりこれが塩素分子に伝鎖して塩素ラジカルを発生させることとなるが、ラジカル開始剤の熱分解に伴って低沸点の有機物が発生し当該有機物が系内の汚染因子となることから、これを除去することが必要となる。従って、ラジカル開始剤を用いる必要のない光塩素化の方が好ましい。
【0046】
このラジカル開始剤存在下での塩素化反応は、広範囲には約−20〜約100℃で実施されるが、ラジカル反応である故に室温でも進行するから、特別な冷却や加熱処理の必要のない温度範囲(約10〜約40℃)でも行なうことができる。また、本反応は液相反応である故に圧力に関しての制約はないが、反応容器等の耐圧性の観点からは、大気圧〜0.2MPa程度の圧力範囲とすることが好ましい。
【0047】
塩素化反応器102に導入する塩素量は、少なくとも、上述の反応式(1)〜(3)で示した塩素化反応が進行するに充分な化学量論量を必要とするが、種々の反応が競争的に同時進行するため、反応原料の濃度が低い場合には、塩素量は大過剰であることが必要となり、例えば化学量論量の5〜15倍程度の塩素供給が必要となる。
【0048】
なお、塩素供給量が過剰なために未反応のまま反応後の生成液中に溶解している塩素は、当該生成液から回収することが可能であるから、これを供給塩素として再利用すれば、系外からの塩素供給量を実質消費量に概ね等しくすることができるとともに、塩素化反応器102内の塩素量論比を所定の条件(例えば、化学量論量の5〜15倍程度)に維持させておくことができる。
【0049】
上述の反応式(1)乃至(3)で表される塩素化反応は、塩素分子の解裂温度以上での気相反応(好ましくは、約400℃〜約600℃での気相反応)により行なうことも可能であるが、液相反応に比較すると副反応が多く、省エネ的にも液相法に比べ不利である。
【0050】
上述のCVD工程で副生したポリシラン類は、単体分離すれば自然発火性を有するが、STCとの混合物となっている状態での濃度は低いため、プロセス装置の操作及びメンテナンスが簡素化されるとともに安全性の高いものとなる。
【0051】
水素化工程ではSTCのTCSへの水素化反応が行なわれるが、この反応以外にも、量的には少ないが、TCSのジクロロシラン(DCS)への転換反応、DCSのモノクロロシラン(MCS)への転換反応、MCSのモノシラン(SiH:MS)への転換反応も同時に進行する。したがって、例えば図3に例示したように、これらDCS、MCS、MS等の高次水素化シランを多少量のTCSとの混合物として水素化工程から塩素化工程に留出(循環)させ、当該工程で塩素化してSTCに転換させた後に再び水素化工程に循環利用することができる。また、水素化工程原料STCの一部として系外からSTCを追加供給するようにすることもできる。
【0052】
また、水素化工程での反応は、一般に、約600〜1200℃の比較的高温の領域での水素化反応と約400〜600℃(例えば、約100〜約600psigの圧力下)の比較的低温の領域での水素化反応とに分類される(例えば、特許文献1、特許文献3(特開昭58−217422号公報)など参照)が、約600〜1200℃の温度領域での水素化反応は気相均一反応であって下記反応式(5)に従い進行し、約400〜600℃の温度領域での水素化反応は流動床反応であって下記反応式(6)の結果として下記反応式(7)に従い進行する。
【0053】
【化5】

【0054】
【化6】

【0055】
【化7】

【0056】
従って、約600〜1200℃の温度領域での水素化反応の場合には珪素の供給は不要であるが、約400〜600℃の温度領域での水素化反応の場合には珪素が供給され、この珪素の存在下で水素化が行なわれる。
【0057】
水素化工程では、塩素化工程からのSTC留出物が水素化反応器内部の構成部材あるいは外部から供給される珪素(金属グレードの珪素)に含まれている残留炭素と反応することによってメチルクロロシラン(MeCS)類が副生するが、その副生量は反応温度が高温である場合のほうが遥かに多い。
【0058】
これらメチルクロロシラン類には、TCSと近沸点をもつ化合物も含まれている。例えば、TCSの沸点31.5℃に対して、(CHSiHClの沸点は34.5℃であり、CHSiHClの沸点は41.0℃である。
【0059】
通常の蒸留操作では、これらの近沸点メチルクロロシラン類をTCSから完全に除去することは難しい。このため、水素化工程で常時連続して副生する近沸点メチルクロロシラン類が多結晶シリコン製造プロセスの全系内で蓄積され易い。その結果、副生反応時の濃度以上に濃縮されて、CVD工程で析出する多結晶シリコン中に炭素不純物が混入する原因となってしまう。
【0060】
このような不都合を回避すべく精密蒸留塔の段数を多くしたとしても、メチルクロロシラン類がTCSと近沸点であるため、メチルクロロシラン類はTCSやSTCを含んだ混合物としてしか分離されない。このため、メチルクロロシラン類の蓄積濃縮を防止するためには、多量のTCSやSTCと一緒に系外に抜き出さざるを得ず、製造コストの上昇や廃棄物の増加の要因の一つとなっていた。
【0061】
しかし、上記反応式(2)を利用すれば、TCSと近沸点のメチルクロロシラン類が高次塩素化されることで高沸点化がなされる。例えば、沸点34.5℃の(CHSiHClは、沸点70.3℃の(CHSiClとなって、高沸化がなされる。
【0062】
そして、この塩素化によって得られる高次塩素化メチルクロロシラン類は、一般的な蒸留操作でも分離し易いものであることから、高濃度濃縮分離が容易なものとなり、例えば図2に例示したように、多結晶シリコン製造プロセスの系外へと効率よく排出(分離)することが可能となる。その結果、多結晶シリコンへの炭素混入が抑制されるとともに、廃棄物も削減されることとなる。なお、高濃度で分離された高次塩素化メチルクロロシラン類は、シリコーン樹脂などの原料として再利用することが可能である。
【0063】
このように、本発明が備える塩素化工程は、多結晶シリコンの製造プロセス中に副生する不純物を有価物に変換させて多結晶シリコン製造プロセスの更なる高収率化を可能とするとともに、当該プロセス内で循環利用されるTCSや副生物からの不純物除去の容易化を可能とするものである。特に、塩素化工程を液相反応で実行する場合には、室温・大気圧条件下でも塩素化が可能であるため、従来の方法に比較して省エネルギ効果が大きいという利点がある。
【0064】
また、本発明では、例えば図4に例示したように、水素化工程で生成した高次水素化クロロシランを含む留出混合物を再び、水素化工程に循環させることも可能である。
【0065】
水素化反応が約400〜600℃の比較的低温領域(圧力約100〜〜約600psig)で行なわれる場合、高次水素化クロロシランがDCSであるとすると、下記反応式(8)に従う化学反応が水素化反応器中での上述の水素化反応と同時進行する。
【0066】
【化8】

【0067】
本発明においては、上記反応式(8)で副生するHおよびSiは、STCがTCSへと水素化される際に供給される水素および珪素(例えば金属珪素)の一部として利用され得る。
【0068】
また、水素化反応が約600〜1200℃の比較的高温領域で行なわれる場合には、高次水素化クロロシランがDCSであるとすると、下記反応式(9)に従う化学反応が水素化反応器中での上述の水素化反応と同時進行する。
【0069】
【化9】

【0070】
本発明においては、上記反応式(9)の原料であるHCl(左辺のHCl)として、STCの水素化反応で副生するHClの一部が利用されるとともに、反応によって副生するHはSTCの水素化原料の一部として利用され得る。
【0071】
なお、上記反応式(8)および(9)は、高次水素化クロロシランがDCSであるとして示したが、他の高次水素化クロロシランも同様に、水素化工程へと循環(回収)し得る。
【0072】
また、例えば図5に例示したように、CVD工程からのポリシラン含有副生混合物は、水素化工程の前に、STCとポリシランを主に含有する混合物を分離(単離)しておくことが好ましい。この分離は、複数の分離工程で行なうこととして、TCSを含有する低沸点留分と、STCとポリシランおよび粒状シリコンを含有する高沸点留分とに分離可能なものとしておくこと、更には上記高沸点留分から粒状シリコンを分離可能なものとしておくことが更に好ましい。
【0073】
なお、図示はしないが、水素化反応が約400〜600℃の比較的低温領域で行われる場合には水素化反応器内に塩化水素(HCl)を外部から同時供給するようにしてもよく、CVD工程や塩素化工程で副生した塩化水素を水素化工程での(金属)珪素との反応のために回収してTCS原料として再利用するようにしてもよい。また、高次水素化クロロシランは、STCの水素化工程のみならず、多結晶シリコンを得るためのCVD工程の副生物としての排ガスにも含まれる。この高次水素化クロロシランも、STCの水素化工程に再循環させてTCSの原料として有効に利用することができる。
【0074】
[他の構成例]:図2乃至5は、本発明の多結晶シリコンの製造方法の他の構成例(工程例)を説明するための図である。
【0075】
図2に示した構成例は、上述の基本構成(工程)に加え、水素化工程(水素化反応器103)で生成したメチルクロロシラン(MeCS)含有留出物を塩素化工程(塩素化反応器102)に循環させて高次塩素化メチルクロロシランを生成させる工程を更に備えている。
【0076】
また、この構成例では、塩素化工程(塩素化反応器102)で生成した高次塩素化メチルクロロシランをテトラクロロシラン(STC)留出物と分離する工程を備えている。
【0077】
図3に示した構成例は、上述の基本構成(工程)に加え、水素化工程(水素化反応器103)で生成した高次水素化クロロシラン含有留出物を塩素化工程(塩素化反応器102)に循環させてテトラクロロシラン(STC)を生成させる工程を更に備えている。
【0078】
図4に示した構成例は、上述の基本構成(工程)に加え、水素化工程(水素化反応器103)で生成した高次水素化クロロシラン含有留出物を水素化工程に循環させて低次水素化クロロシランを生成させる工程を更に備えている。
【0079】
図5に示した構成例は、上述の基本構成(工程)に加え、塩素化工程(塩素化反応器102)および水素化工程(水素化反応器103)の前に、CVD工程(CVD反応炉101)からのポリシラン含有副生混合物からテトラクロロシラン(STC)とポリシランを主含有成分とする混合物を単離する工程(分離器104)を備えている。
【0080】
これらは本発明の多結晶シリコン製造プロセスの態様の例示に過ぎず、本発明には種々の態様があり得る。
【0081】
[商業的プロセスの構成例]:図6は、本発明の多結晶シリコンの製造方法の商業的プロセス例を説明するための図である。
【0082】
先ず、TCSおよびHがCVD反応炉101に供給され、ここで多結晶シリコンが加熱されたエレメント上に析出される。主成分として未反応のTCS及びDCSで代表される低沸点クロロシランの混合物を含有し、少量成分としてSTC、ポリシラン、粒状シリコン等を含有する副生混合物は、CVD反応炉101から排出され、蒸留塔105に供給される。TCS及びDCSで代表される低沸点留物は蒸留塔105の上部から留出され、CVD反応炉101へ循環されて多結晶シリコンの析出用原料として再利用される。
【0083】
一方、STC、ポリシラン、粒状シリコンを含有する高沸点留分は、蒸留塔105の底部から留出されて分離器104に供給される。この分離器104では高沸点留分から粒状シリコンが除去され、ポリシランとSTCの混合物は液相状態で塩素化反応器102へと供給される。
【0084】
塩素化反応器102には、分離蒸留塔107からのメチルクロロシラン(MeCS)含有留出物、低沸除去塔108からの高次水素化クロロシラン含有留出物、および塩素が供給されて上述の反応式に従う塩素化が行なわれる。
【0085】
塩素化反応器102からのSTC含有留出物は分離塔106に排出され、ここで高次塩素化クロロシランを分離した後に、STCを水素化反応器103へと排出する。
【0086】
水素化反応器103では、分離塔106から供給されたSTC、および、外部から供給された水素(および珪素)を反応させることで、例えば約15〜30モル%のSTCがTCSへと転化され、水素化反応器103からの生成物は分離蒸留塔107に供給される。
【0087】
分離蒸留塔107は、水素化工程からの留出物をメチルクロロシラン(MeCS)含有留出物と高次水素化クロロシラン含有留出物とに分離するためのもので、この分離蒸留塔107には、精製塔109からのTCSおよび系外からのTCSも供給され、塔頂からはDCS以上の高次水素化シランを含んだTCS(高次水素化クロロシラン含有留出物)が留出される一方、塔底からはメチルクロロシラン(MeCS)類と少量のTCSを含んだSTCが留出され、後者は塩素化反応器102へと循環供給される。
【0088】
分離蒸留塔107の塔頂から排出された留出物(高次水素化クロロシラン含有留出物)は更に低沸除去塔108に供給され、低沸除去塔108では、多少量のTCSとDCS以上の高次水素化クロロシラン含有留出物が留出されて塩素化反応器102に供給される一方、TCSが精製塔109へと供給される。
【0089】
精製塔109は上流側設備の操作条件変動に伴う品質を確保する最終バックアップの役割を担い、ここで最終的に多結晶シリコン原料用の高純度TCSが塔頂から留出されてCVD反応炉101に循環供給されて再利用されることとなる。なお、精製塔109からは少量のTCSが留出されて分離蒸留塔107に循環供給される。
【実施例】
【0090】
図6に図示したプロセスに従って、多結晶シリコンを製造した。CVD反応炉101からは、約65〜75モル%のTCS、25〜35モル%のSTC、0.1〜2モル%のDCS、0.03〜0.5モル%のポリシラン(主に、SiClおよびSiHCl)、及び少量の粒状シリコンを含有する副生混合物が生成した。この副生混合物は蒸留塔105に供給され、オーバーヘッドとして留出されたTCSをCVD反応炉101へと循環供給して多結晶シリコンの析出用原料として再利用した。
【0091】
副生混合物のうち、STC、ポリシラン及び粒状シリコンを含む高沸点留分は分離器104へと供給し、固形分が塔頂から留出されず且つポリシランが塔頂留出成分として排出されるような範囲で、低段数、低還流比、低蒸発量の条件で分離処理を実行した。
【0092】
分離器104からは、99モル%のSTC及びその残りのポリシラン(分離器104に供給されたポリシランの約90モル%)を含む塔頂留分が、塩素化反応器102に供給された。サンプルポートを分離器104と塩素化反応器102との間のフローラインに配置し、ガスクロマトグラフィ及び目視観測による分析のために、サンプルを定期的に採取した。採取したサンプルは、正確には、0.16〜0.26モル%のポリシランを含んでおり、粒状シリコンを含まないことが確認された。
【0093】
この留分、分離蒸留塔107からのメチルクロロシラン約0.01モル%を含むSTC留出物、及び低沸分離塔108からのTCSを約60%含む高次水素化クロロシラン留出物を、塩素化反応器102に供給し、上述の方法に従って塩素化処理を施した。
【0094】
塩素化反応器102からの反応留出物を分離塔106に供給し、塔頂からは高次塩素化メチルクロロシランを含まないSTCを留出して水素化反応器103に供給した。また、塔底からはSTCを約80モル%含む高次塩素化メチルクロロシランを系外に留出させた。この系外に留出したSTC量は、分離塔106に供給したSTCの0.03%に相当する微量であった。
【0095】
水素化反応器103では、550℃、2.5Mpagの条件下で、分離塔106から供給されたSTCと金属珪素並びに水素が反応した結果、未反応STC約70モル%と約1モル%の高次水素化クロロシランを含むTCS生成物が得られた。
【0096】
このTCS生成物は分離蒸留塔107に供給され、精製塔109塔底から供給されたTCS留出物および系外から供給されたTCSと共に分離蒸留された。そして、分離蒸留塔107の塔頂からは約4モル%の高次水素化クロロシランを含むTCSが留出されてこれが低沸除去塔108に供給され、塔底からはメチルクロロシラン約0.01モル%を含むSTCが留出されて塩素化反応器102へと循環供給された。
【0097】
低沸除去塔108では、塔頂からTCS約60モル%を含む高次水素化クロロシランが留出して塩素化反応器102に供給され、塔底からはTCSが留出し精製塔109に供給された。
【0098】
精製塔109では、供給TCSの約3%が塔底から留出して分離蒸留塔107に循環供給され、塔頂からは精製された高純度TCSが留出してCVD反応炉101へと供給されて多結晶シリコンの析出原料として再利用された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、多結晶シリコン製造プロセスの更なる高収率化、ならびに当該プロセス内で循環利用されるTCSや副生物からの不純物除去の容易化を可能とする多結晶シリコンの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の多結晶シリコンの製造方法の基本構成(工程)を説明するための図である。
【図2】本発明の多結晶シリコンの製造方法の他の構成例(第1例)を説明するための図である。
【図3】本発明の多結晶シリコンの製造方法の他の構成例(第2例)を説明するための図である。
【図4】本発明の多結晶シリコンの製造方法の他の構成例(第3例)を説明するための図である。
【図5】本発明の多結晶シリコンの製造方法の他の構成例(第4例)を説明するための図である。
【図6】本発明の多結晶シリコンの製造方法の商業的プロセス例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0101】
101 CVD反応炉
102 塩素化反応器
103 水素化反応器
104 分離器
105 蒸留塔
106 分離塔
107 分離蒸留塔
108 低沸除去塔
109 精製塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を備えていることを特徴とする多結晶シリコンの製造方法。
(A)トリクロロシラン(TCS)と水素を反応させて多結晶シリコンを析出させるCVD工程
(B)化学式H2(n+1)−mClSi(式中nは2乃至4の整数、mは0乃至2(n+1)の整数)で表記されるポリシランを含む前記CVD工程からの副生混合物を塩素と反応させてテトラクロロシラン(STC)留出物を生成させる塩素化工程
(C)前記塩素化工程からのテトラクロロシラン(STC)留出物を水素と反応させてトリクロロシラン(TCS)とする水素化工程
【請求項2】
前記水素化工程で生成したメチルクロロシラン(MeCS)含有留出物を前記塩素化工程に循環させて高次塩素化メチルクロロシランを生成させる工程を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
前記高次塩素化メチルクロロシランをテトラクロロシラン(STC)留出物と分離する工程を備えている請求項2に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項4】
前記水素化工程で生成した高次水素化クロロシラン含有留出物を前記塩素化工程に循環させてテトラクロロシラン(STC)を生成させる工程を更に備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項5】
前記水素化工程で生成した高次水素化クロロシラン含有留出物を前記水素化工程に循環させて低次水素化クロロシランを生成させる工程を更に備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項6】
前記水素化工程で生成したトリクロロシラン(TCS)を前記CVD工程に循環させる工程を備えている請求項1乃至5の何れか1項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項7】
前記水素化工程の前に、前記CVD工程からのポリシラン含有副生混合物からテトラクロロシラン(STC)とポリシランを主含有成分とする混合物を単離する工程を備えている請求項1乃至6の何れか1項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項8】
前記単離工程は、前記CVD工程からのポリシラン含有副生混合物を、トリクロロシラン(TCS)を含有する低沸点留分と、テトラクロロシラン(STC)、ポリシラン、および粒状シリコンを含有する高沸点留分とに分離するものである請求項7に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項9】
前記低沸点留分を前記CVD工程に循環させる工程を備えている請求項8に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項10】
前記高沸点留分から粒状シリコンを除去する工程を備えている請求項8に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項11】
前記水素化工程からの留出物を、メチルクロロシラン(MeCS)含有留出物と高次水素化クロロシラン含有留出物とに分離する工程を備えている請求項1乃至10の何れか1項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項12】
前記塩素化工程における塩素化は、光照射下での液相反応、ラジカル開始剤存在下の液相反応、若しくは、塩素分子の解裂温度以上での気相反応により行なわれる請求項1乃至11の何れか1項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項13】
前記水素化工程の反応温度が約600〜1200℃である請求項1乃至12の何れか1項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項14】
前記水素化工程の反応温度が約400〜600℃であり、珪素の存在下で水素化が行なわれる請求項1乃至12の何れか1項に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項15】
前記水素化工程において塩酸(HCl)を同時供給する請求項14に記載の多結晶シリコンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−62209(P2009−62209A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229856(P2007−229856)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】