説明

多結晶シリコンの製造方法

【課題】 高温の気相で行う反応を用いず、低温の液相で行う反応を採用することにより、シリコンを多量で安定的に連続生成させる多結晶シリコンの製造方法を提供すること。
【解決手段】 溶融金属亜鉛中においてクロルシランと金属亜鉛を反応させ多結晶シリコンと塩化亜鉛とを反応生成物として生じさせる還元反応部分の位置が、反応生成物である塩化亜鉛を電気分解することによって塩素と金属亜鉛を生成させる電解部分の位置より下部にある。還元反応部分でクロルシランと金属亜鉛とを反応させ多結晶シリコンと塩化亜鉛を反応生成物として生じさせる。反応生成物である多結晶シリコンを分離し、塩化亜鉛を電気分解することによって塩素と金属亜鉛を生成させこの塩素はクロルシランの製造用に使用する。金属亜鉛はクロルシランとの反応に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばソーラーセル基板等に使用される多結晶シリコンを製造する方法に関し、詳しくは、クロルシランと溶融金属亜鉛を反応させ多結晶シリコンを製造する多結晶シリコンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高純度の多結晶シリコンを製造する方法の最も代表的な製造方法として、トリクロロシランを水素によって還元するシーメンス法がある。しかし、この製造方法は電力原単位が高く、製造設備の運転が回分式のため生産効率が悪く、大量に安価に製造する方法を指向する太陽電池用シリコン原料の製造方法としては適していない。
【0003】
しかし、四塩化珪素を原料とし高温で金属亜鉛によって還元し、高純度シリコンを得る方法が1950年代に提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、半導体用単結晶シリコンほどには純度を問わず大量にシリコンを使用する太陽電池用シリコンの原料製造用として注目されつつある。その開発の主要な課題の一つは、四塩化珪素と金属亜鉛との気相で行う反応において、必要な反応速度を得ようとするためには高温が必要であり、このために金属亜鉛を蒸気とすること、未反応の原料が後工程にまで残ること、生成物の捕集が難しいこと、高温反応のため設備の選定が難しくまた操業管理も難しいことなどの問題の解決である。
【0004】
一方、これらの課題を解決するため液相である溶融亜鉛を用いたクロルシランの還元も種々の特許に記載されている。
【0005】
(特許文献2)(特許文献3)には、800℃の溶融亜鉛中に四塩化珪素を導入し、反応生成物のシリコンは微粉状で同じく反応生成物である塩化亜鉛とともに反応器外に同伴されその後捕集されている。
【0006】
(特許文献4)には、850℃の溶融亜鉛層の底部に四塩化珪素を導入し、生成塩化亜鉛は気体として反応器外へ移送し、生成シリコンは溶融亜鉛中で捕集し、その後1500℃で亜鉛を蒸発し、シリコンと分離している。
【0007】
一方副生成物である塩化亜鉛処理に関しては、塩化亜鉛を電気分解して金属亜鉛と塩素を回収する方法(特許文献2、3、4)が提唱され、1980年頃には実用化実験もされている(非特許文献1,2)。
【0008】
また(特許文献8)や(特許文献9)には、塩化亜鉛の電解槽内において、生成亜鉛は下方に集まってくるようにしている。そして、(特許文献8)ではこの亜鉛中に四塩化珪素を送入し、還元反応を行うとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】英国特許第865249号明細書
【特許文献2】特開平11−11925
【特許文献3】特開平11−92130
【特許文献4】特表2008−534415
【特許文献5】特開平11−011925
【特許文献6】特開平11−92130
【特許文献7】米国特許第1545383
【特許文献8】特開2007−217786
【特許文献9】特表2010−523455
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ヒル等(S. D. Hill, D. L. Pool, G. A. Smyres)、塩化亜鉛からの亜鉛の電解採取(Electrowinning zinc from zinc chloride in monopolar and bipolar Fused-salt cells)、 調査レポート(Report of InvestigationS. U. S. Bureau of Mines Report of Investigations 8524)、1981
【非特許文献2】BCL最終レポート(BCL Final Report)、DOE/JPL-954339-81/21、Mar 31,1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来の実情に鑑みて、本発明の課題は、クロルシランを溶融金属亜鉛で還元して高純度の多結晶シリコンを製造する方法において、高温の気相で行う反応を用いず、低温の液相で行う反応を採用することにより、シリコンを多量で安定的に連続生成させることの可能な多結晶シリコンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明にかかる多結晶シリコンの製造方法の第1群の構成は、クロルシランと金属亜鉛を反応させ多結晶シリコンと塩化亜鉛とを反応生成物として生じさせる還元反応部分と反応生成物の塩化亜鉛を電気分解することによって塩素と金属亜鉛を生成させる電解部分とが溶融塩を介してつながった装置となっており、溶融金属亜鉛中においてクロルシランと金属亜鉛を反応させ多結晶シリコンと塩化亜鉛とを反応生成物として生じさせる還元反応部分の位置が、反応生成物である塩化亜鉛を電気分解することによって塩素と金属亜鉛を生成させる電解部分の位置より下部にあり、還元反応部分でクロルシランと金属亜鉛とを反応させ多結晶シリコンと塩化亜鉛を反応生成物として生じさせ、反応生成物である多結晶シリコンを分離し、塩化亜鉛を電気分解することによって塩素と金属亜鉛を生成させこの塩素はクロルシランの製造用に使用し、金属亜鉛はクロルシランとの反応に使用することにある。
【0013】
この第1群の方法は、例えば下方に還元部分があり、その上部に電解部分がある場合、溶融亜鉛中にクロルシランが送入され、生成シリコンは亜鉛中に留まり、塩化亜鉛は上部の溶融塩層に混合塩となる。それが電解側に供給される形となり、塩化亜鉛の電解により生成した塩素は装置外に出て行き、クロルシランの製造用に使用され、生成亜鉛は溶融塩内を沈降し、還元部分の金属亜鉛層にて一体となるような場合である。実施形態では、図1〜7が本発明の第1群の方法に該当する。
【0014】
本発明は塩化亜鉛の融点以上の温度域で実施される。クロルシランは金属亜鉛層の下部から送入されるが、反応層は反応完了に充分な深さを採っているため、原料のロスは無い。また、生成シリコンは金属亜鉛と合金をつくらないため、微粒子状で金属亜鉛中に懸濁する。塩化亜鉛は金属亜鉛より比重が小さいので金属亜鉛中を浮上し、溶融塩と混合する。
【0015】
また上記構成に加え、上部に位置する電解室から塩化亜鉛の電解によって生成した金属亜鉛が浴塩中を下方に移動し、下部の金属亜鉛層へ沈降するとき、クロルシランの気泡による流れの乱れを避けるために、電解室下部から金属亜鉛層への導入管を設けてもよい。
【0016】
また、上記構成に加え、塩化亜鉛の電解のとき、ジュール熱のみでは不足する場合には、クロルシランと金属亜鉛との反応によって生成する反応熱を、塩化亜鉛電解の溶融塩温度維持に使用してもよい。
【0017】
また上記不足熱量を補うため、クロルシランと金属亜鉛との反応によって生成する反応熱によって加熱された浴塩を、電解室と壁によって隔てられた流路を通って電解室内に供給してもよい。そのとき、クロルシランの気泡による流れの乱れを避けるために、クロルシラン送入孔上部と電解室との間に壁を設けて別室とし、その壁には電解室との溶融塩の流路を設けてもよい。
【0018】
さらに上記構成に加え、陽極と1つ以上の複極と陰極を絶縁締め具で組み立てることによりなる電極セットを挿入することにより電解を行ってもよい。
【0019】
また、上記課題を解決するため、本発明にかかる多結晶シリコンの製造方法の第2群の構成は、第1群をさらに推し進め、塩化亜鉛を含む溶融塩を電解浴塩、溶融金属亜鉛を陰極、不溶性材料を陽極として電気分解することによって金属亜鉛と塩素を生成し、陰極である溶融金属亜鉛中ではクロルシランと反応させて多結晶シリコンと塩化亜鉛を生成させ、多結晶シリコンは溶融金属亜鉛中に捕集し、塩化亜鉛は電解浴塩中に捕集し、多結晶シリコンを含んだ溶融亜鉛は連続または間歇的に抜き取られ、多結晶シリコンを分離し、再び連続または間歇的に陰極である前記溶融金属亜鉛中に戻され、塩素はクロルシランの製造用に使用することにある。
【0020】
この第2群の方法は、例えば還元反応部分と電解部分を一体化する場合である。さらに詳しくは、電解部分の陰極を還元部分の溶融金属亜鉛にする場合である。
【0021】
また上記構成に加え、導電性のある反応器であれば、容器も陰極にして容器からの不純物溶出防止をしてもよい。
【0022】
ところで、上記第1、第2群の各構成において、亜鉛の溶融塩への溶解を減少させるため、還元反応部分にある溶融金属亜鉛を、錫、ビスマス、アンチモンから選ばれる1種以上の金属と亜鉛との合金としてもよい。また、溶融塩は、「1)”塩化亜鉛”、2)”アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物よりなる群から1つ以上選ばれた塩化物と塩化亜鉛との混合物”、およびこれらに金属亜鉛が溶解した溶融塩」であるとよい。
【0023】
シリコンは亜鉛と合金をつくらないので、微粒子状で生成するが、金属亜鉛とび分離時には粒径は大きいほうがよい。そこで溶融金属亜鉛中にシリコン粒あるいはシリコン材を存在させ、シリコン粒子の見かけの大きさが大きくなるようにしてもよい。
【0024】
また、上記課題を解決するため、浴塩の温度が高くなれば亜鉛の溶解度も増え、溶解した亜鉛と電解時に陽極で発生した塩素との再反応が起こり、電力効率が悪くなるので、この反応を少なくするためできるだけ低温で反応するように熱交換器を設置してもよい。あるいは電解稼動時の初期に種々の要因で電流効率が低下する場合が多いが、その場合浴塩温度が上がり、その結果生成物の再反応が起こり、さらに電流効率が悪くなるので、この連鎖を起こさないようにするためにも熱交換器を設置してもよい。この場合、亜鉛は金属で熱伝導性が良いので、溶融亜鉛中あるいは直上に熱交換器を設置してもよい。
【0025】
金属亜鉛と反応するクロルシランが四塩化珪素であってもよい。
【0026】
クロルシランと金属亜鉛の反応生成物であるシリコンを捕集した金属亜鉛を、最初に金属亜鉛層の上部から抜き取り、次に固液分離装置さらに金属亜鉛の蒸発装置を経てシリコンを得てもよい。そしてさらにそれを溶解してシリコンインゴットを得てもよい。
【発明の効果】
【0027】
このように、本発明の上記構成によれば、クロルシランの還元部分と塩化亜鉛の電解部分を近づけることにより、エネルギー・設備のロスを無くしたクローズドサイクルを形成し、シリコンを多量で安定的に連続生成させることの可能な多結晶シリコンの製造方法を提供することが可能となった。
【0028】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の「発明を実施するための最良の形態」の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による多結晶シリコン製造方法における塩化亜鉛から金属亜鉛の回収に適用する場合の第1実施形態を示す工程図である。
【図2】図1の第1実施形態を説明するため装置を用いて表した工程図である。
【図3】第1実施形態の還元・電解炉を示している。
【図4】第1実施形態の還元・電解炉を示し、電気分解により生成した亜鉛の動きを示している。
【図5】第1実施形態の還元・電解炉を示し、浴塩の動きを示している。
【図6】第1実施形態の還元・電解炉を示し、壁がある場合の浴塩の動きを示している。
【図7】第1実施形態の還元・電解炉を示し、原料挿入系や電極セットを多数にした状態を示している。
【図8】第1実施形態の還元・電解炉を示し、四塩化ケイ素導入時の影響を少なくした状態を示している。
【図9】本発明による多結晶シリコン製造方法における塩化亜鉛から金属亜鉛の回収に適用する場合の第2実施形態示す工程図である。
【図10】図9の第2実施形態を説明するため装置を用いて表した工程図である。
【図11】第2実施形態の還元・電解炉を示している。
【図12】第2実施形態の還元・電解炉を示し、四塩化ケイ素導入時の影響を少なくした状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。第1群の方法として、図1〜8を参照しながら説明する。また、第2群の方法として、図9〜12を参照しながら説明する。なお、第2実施形態以下の実施形態については、各々の実施形態より前の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0031】
次に、図1〜2を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の基本的な工程図を示しており、図2は図1を説明するため装置を用いて表している。図1中、角型の枠は工程、楕円枠は物質を示している。図1は、クロルシランを製造する塩素化工程S1、クロルシランを金属亜鉛と反応させシリコンと塩化亜鉛を生成させる還元反応工程S2、生成シリコンを塩化亜鉛から分離しシリコンを取り出す分離工程S3、塩化亜鉛を溶融塩電解により塩素と金属亜鉛を生成させる工程S5を備えている。そして、電気分解により生成した塩素をクロルシラン製造用に使用(再利用)する工程R1、シリコンを分離した金属亜鉛をクロルシランとの反応に再利用する工程F4、R2を備え、これらが全体としてクローズドサイクルを形成する。
【0032】
(塩素化工程:S1)
塩素化炉42において金属シリコンを塩素と反応させてクロルシランを製造する。本実施形態では四塩化珪素にする。必要な純度になるように蒸留操作を行いクロルシラン貯槽41に保持される。次いで蒸発器43aにより気体にする。
【0033】
(還元工程:S2)
還元・電解炉45Aにおいて四塩化珪素が亜鉛で還元され、多結晶シリコンと塩化亜鉛になる。還元・電解炉45Aは上部に電解部分、下部に還元反応部分からなっている。還元反応は下部の溶融亜鉛中にクロルシランが送入され、生成シリコンは亜鉛中に留まり、塩化亜鉛は上部の溶融塩層に混合塩となる。
【0034】
(電解工程:S4)
【0035】
還元・電解炉45Aの上部は電解部分となっている。金属亜鉛中で生成した塩化亜鉛は金属亜鉛上部の溶融塩中に溶解し、電解用の浴塩となる。電解生成した金属亜鉛は電解室から沈降し、還元部分の亜鉛層に取り込まれる。一方電解のもう一つの生成物である塩素は原料珪素を塩素化しクロルシランを製造するために塩素化炉42に送られる。
【0036】
(分離工程:S3)
目的の反応生成物である珪素(多結晶シリコン)を亜鉛から分離し回収する。還元反応炉45Aでの生成物を順次粗分離器46a、46b、精密分離器47C、そして最終的にシリコン溶解炉47で多結晶シリコンが取り出され分離工程が完了することを示している。
【0037】
固液分離器は、多結晶シリコンと亜鉛との比重差が4近くあるが、粒径が小さいので複数の固液分離器の使用が望ましい。
【0038】
まず固液粗分離器46aでは比重差を利用した分離器を使用し、粗分離を行い、46bではシリコンと亜鉛の混合物(F16)を亜鉛(F18)と濃縮されたシリコンと亜鉛(F17)とに分離し、次にシリコン混合液体亜鉛(F17)を例えば遠心分離機やフィルターのような固液精密分離器46Cに移送する。ここでさらにシリコンが濃縮され亜鉛(F20)とシリコンと亜鉛の混合物(F19)になる。そしてこのシリコンが濃縮された混合液体亜鉛(F19)を次のシリコン溶解炉47に移送する。また、これらの固液粗分離器からのシリコンが分離された液体亜鉛(F18)、(F20)は金属亜鉛貯槽44に移送される。(F1)
【0039】
つぎにシリコン溶解炉47で多結晶シリコン含有亜鉛から多結晶シリコンを溶解分離しインゴットにする過程を説明する。固液分離器でシリコンを濃縮した多結晶シリコン含有亜鉛(F19)を蒸発溶解装置(亜鉛の蒸発除去−多結晶シリコンの溶解インゴット化)47に移送する。この装置は、分割水冷銅坩堝(コールドクルーシブル)の外側に高周波コイルを設置し、坩堝内で溶解したシリコンを下方に冷却しながら降下させる治具が備わった溶解装置とその上方から分割水冷銅坩堝の上部に投入された多結晶シリコンを含む亜鉛にプラズマ加熱を行うためのトーチが設置されている。さらに蒸発した亜鉛を金属亜鉛貯槽44に移送するための導入路が設置されている。最初に分割水冷銅坩堝内でシリコンを溶融する。その頂部に多結晶シリコンを含む亜鉛を供給しながらプラズマで加熱する。多結晶シリコンは溶融し、坩堝内の溶融シリコンに取り込まれ、亜鉛は蒸発し導入管を通り冷却され、液体状態で金属亜鉛貯槽44に移送され、貯蔵される。
【0040】
次に、本発明の他の実施形態については、「還元−電解」の部分のみ他の形態と異なるので、その部分のみ図面を用いて詳細に説明する。また各々の実施形態より前の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0041】
図3は、還元・電解炉50内に耐火物51が溶融塩が流通できるような空隙をもって設置されており、その上に陽極11、陰極12、2つの複極13a、13bが設置されている。また、底部にクロルシランを導入する孔、金属亜鉛を導入する孔、生成シリコンを保持した亜鉛を取り出す孔、電解生成した塩素を抜く孔が設置されている。
【0042】
装置材料の選択は重要である。特に高純度なシリコンを製造すること、電解による不純物の析出や生成物汚染のおそれがあるので汚染を起こさない材料を使用することが望ましい。高純度炭素ベース、高純度ケイ素ベースなどがよい。
【0043】
最初に亜鉛を投入し、次に塩化亜鉛を含む溶融塩を電極の上端が隠れるまで投入する。
溶融塩はKCl−NaClを用いこれに塩化亜鉛が20〜50wt%含まれた混合塩を使用する。必要な溶融温度が得られれば、また塩化亜鉛の電気分解に障害が無ければ、アルカリ金属の塩化物やアルカリ土類金属の塩化物から適宜選んでも構わない。温度は500〜550℃を維持する。下部の四塩化ケイ素導入孔からあるいは上部からパイプを通して四塩化ケイ素を送入する。送入管の先端は気泡ができるだけ細かく分散するようにメッシュか焼結セラミックス製が好ましい。溶融金属亜鉛の底部に送入された四塩化ケイ素は気泡となって上昇する間に亜鉛と反応し、シリコンと塩化亜鉛になる。
【0044】
この反応の標準自由エネルギーは以下表1のようになり、反応が自発的に進行していく。
【0045】
【表1】

【0046】
シリコンは溶融亜鉛の中に捕集され、塩化亜鉛は比重により亜鉛上に出て、当初の溶融塩と混合する。そして電解用の浴塩となる。
【0047】
容器50内の上部に設置された電極は温度などの条件が整った後に通電される。溶融塩中の塩化亜鉛が電解され、金属亜鉛と塩素が生成する。塩素は上部の抜き出し孔から排出し、金属亜鉛は液体状態で電極の下方に沈降し、やがて下部の金属亜鉛層に取り込まれる。
【0048】
図4〜6は還元・電解炉A50の電極下部に漏斗状の管35を設置した。この管35は亜鉛層より上部の溶融塩中に孔を設けてあり、溶融塩が行き来できるようになっている。その下部は溶融金属亜鉛の中にまで浸漬されている。この管35の役割は、塩化亜鉛の電解で析出した液体状の金属亜鉛が沈降するとき、送入された四塩化ケイ素による流れの乱れに影響されることなく下部の金属亜鉛層に流れ込ませることである。また四塩化ケイ素の送入孔はこの管35の直下部は避けて設置される。
【0049】
図4では生成亜鉛の流れを図示している。図5では電極からの浴塩の動きを示している。電解時塩素が発生するので、電極内はガスリフト作用により浴塩は電極内からオーバーフローし、一方電極の即分からは浴塩が吸い込まれる形となるので浴塩の循環が形成される。そして管35の途中の開口部からは電解後の浴塩と還元反応直後の浴塩の双方が電極底部に供給されていくことが示されている。
【0050】
図6ではさらに電極の外側に壁31を設けたので還元部分からの浴塩の対流が確保されることを示している。また還元部では発熱反応(149 kJ/mol)なので、もし電解用DC電力のみで不足することがあれば、このやや温度の高い浴塩流で補助することも可能である。
【0051】
図7は、電極(陽極、複極、陰極)を一体に組み立てた電極セットを生産状況に応じて上部から挿入し、生産変動に対応することを示している。
【0052】
図8はホールドアップ部分C5のように還元・電解炉の下部から送入された四塩化ケイ素による流れの乱れに影響されることがないように仕切りを設け部屋としたもので、仕切り壁56には浴塩流通用に開口部54が設けてある。
【0053】
図9〜10は本発明の第2群の実施形態について示している。図9は本発明の基本的な工程図を示しており、図10は図9を説明するため装置を用いて表している。第1実施形態と異なっているのは、還元と電解が一体となったこと(還元・電解炉B)である。これについて図11〜12を用いて詳しく説明する。
【0054】
図11では還元・電解炉50内には第1実施形態と同じ物質送入孔がある。異なっているのは溶融金属亜鉛部分に外部から導電体が挿入されている。そして上部には溶融金属亜鉛に近接して不溶性陽極例えばグラファイト陽極が上部から挿入されている。すなわち下部の溶融金属亜鉛層が陰極となりそれとグラファイト陽極間で塩化亜鉛の電気分解をしようとするものである。まず、還元・電解炉50内に溶融亜鉛C1を入れ、500〜550℃に維持する。次に溶融塩、例えばNaCl−KCl−ZnCl2を投入するC2。そして四塩化ケイ素の送入を始める。その後全体が所定の条件が整ったらDC通電を行い、電気分解を始める。生成塩素は上部の排出孔より排出し、金属亜鉛は溶融金属亜鉛層(陰極)表面に析出し、陰極亜鉛層と一体となる。この電気化学反応と同時に四塩化ケイ素の還元反応も起こり、せいせいシリコンは亜鉛層に保持されつつ、塩化亜鉛が生成し、これは電解浴塩となり電気分解される。シリコンは適宜金属亜鉛とともに排出され、前記のように分離されインゴットとなる。
【0055】
図12では炉内に壁55bを設け送入された四塩化ケイ素による流れの乱れに影響されることがないようにしたものである。この炉は溶融金属の上面を電極面としているので、平面性が特に要求されるので、このような清澄化のための壁55bを設けた。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
直径50mm、長さ300mmの容器に、ガスを微細気泡とするため多孔質体を取り付けてある上部から底まで達するガス送入パイプを設置した反応器に金属亜鉛2500g、NaCl−KClの等モルの混合塩150gを入れ昇温した。これらの溶解後、挿入されたパイプを通して四塩化ケイ素ガスを送入した。冷却後亜鉛中にシリコン、混合塩中に塩化亜鉛が確認された。
【0057】
(実施例2)
塩化亜鉛電解槽を製作し、実験を行った。陽極と陰極の間に2枚の複極を入れたものを使用し、500℃で1100Aの電流を流した。電解浴塩はZnCl255wt%−KCl−NaClを用いた。電流効率は50%程度だったが、3Kgの亜鉛が得られた。
【0058】
(実施例3)
実施例2の電解槽を改造して、陰極を溶融亜鉛、陽極をグラファイト、浴塩は同じZnCl255wt%−KCl−NaClを用いた。短時間であったが、冷却後、亜鉛中にシリコン、混合塩中に塩化亜鉛が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロルシランと金属亜鉛を反応させ多結晶シリコンを製造する多結晶シリコンの製造方法であって、
クロルシランと金属亜鉛を反応させ多結晶シリコンと塩化亜鉛とを反応生成物として生じさせる還元反応部分と反応生成物の塩化亜鉛を電気分解することによって塩素と金属亜鉛を生成させる電解部分とが溶融塩を介してつながった装置となっており、溶融金属亜鉛中においてクロルシランと金属亜鉛を反応させ多結晶シリコンと塩化亜鉛とを反応生成物として生じさせる還元反応部分の位置が、反応生成物である塩化亜鉛を電気分解することによって塩素と金属亜鉛を生成させる電解部分の位置より下部にあり、還元反応部分でクロルシランと金属亜鉛とを反応させ多結晶シリコンと塩化亜鉛を反応生成物として生じさせ、反応生成物である多結晶シリコンを分離し、塩化亜鉛を電気分解することによって塩素と金属亜鉛を生成させこの塩素はクロルシランの製造用に使用し、金属亜鉛はクロルシランとの反応に使用する多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
クロルシランと金属亜鉛との反応によって生成する反応熱が、塩化亜鉛電解の溶融塩温度維持に使用される請求項1に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
クロルシランと金属亜鉛との反応によって生成する反応熱によって加熱された浴塩が、電解室と壁によって隔てられた流路を通って電解室内に供給される請求項1に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項4】
上部に位置する電解室から塩化亜鉛の電解によって生成した金属亜鉛が浴塩中を下方に移動するとき、四塩化ケイ素の気泡を避けて、底部の亜鉛層に到達するための導入管を設けた請求項1に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項5】
陽極と1つ以上の複極と陰極を絶縁締め具で組み立てることによりなる電極セットを挿入することにより電解を行う請求項1に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項6】
クロルシランと金属亜鉛を反応させ多結晶シリコンを製造する多結晶シリコンの製造方法であって、塩化亜鉛を含む溶融塩を電解浴塩、溶融金属亜鉛を陰極、不溶性材料を陽極として電気分解することによって金属亜鉛と塩素を生成し、陰極である溶融金属亜鉛中ではクロルシランと反応させて多結晶シリコンと塩化亜鉛を生成させ、多結晶シリコンは溶融金属亜鉛中に捕集し、塩化亜鉛は電解浴塩中に捕集し、多結晶シリコンを含んだ溶融亜鉛は連続または間歇的に抜き取られ、多結晶シリコンを分離し、再び連続または間歇的に陰極である前記溶融金属亜鉛中に戻され、塩素はクロルシランの製造用に使用する多結晶シリコンの製造方法。
【請求項7】
導電性のある反応器を陰極と同電位にする請求項6に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項8】
還元反応部分にある溶融金属亜鉛を、錫、ビスマス、アンチモンから選ばれる1種以上の金属と亜鉛との合金とする請求項1および請求項6に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項9】
クロルシランと金属亜鉛を反応させ多結晶シリコンを製造する多結晶シリコンの製造方法であって、溶融金属亜鉛中にシリコン粒あるいはシリコン材を存在させ、その後溶融金属亜鉛中にクロルシランを送入し、シリコン粒子の粒径を大きくする請求項1および請求項6に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項10】
四塩化ケイ素送入孔上は壁などで周囲と隔てる請求項1および請求項6に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項11】
溶融塩から脱熱するための熱交換器を溶融金属亜鉛中あるいはその直上に設置する請求項1および請求項6に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項12】
溶融塩が、1)”塩化亜鉛”、2)”アルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物よりなる群から1つ以上選ばれた塩化物と塩化亜鉛との混合物”、およびこれらに金属亜鉛が溶解した溶融塩である請求項1および請求項6に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項13】
クロルシランと金属亜鉛の反応生成物であるシリコンを捕集した金属亜鉛を、最初に金属亜鉛層の上部から抜き取り、次に固液分離装置さらに金属亜鉛の蒸発装置を経てシリコンを得る請求項1および請求項6に記載の多結晶シリコンの製造方法。
【請求項14】
クロルシランが四塩化珪素である請求項1〜13のいずれかに記載の多結晶シリコンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−6741(P2013−6741A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140651(P2011−140651)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(505417367)株式会社エプシロン (10)
【出願人】(506360310)アイ’エムセップ株式会社 (17)
【出願人】(509004240)
【Fターム(参考)】