多結晶シリコンロッドのクラック発生方法及びクラック発生装置
【課題】多結晶シリコンロッドに芯残りを生じることなく、その全体にクラックを発生させ、そのクラックを起点として小サイズの破片への破砕を容易にする。
【解決手段】多結晶シリコンロッドRを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる方法であって、冷却流体を多結晶シリコンロッドRの表面の一部にスポット状となるように噴射する局部冷却工程、局部冷却工程の後に、多結晶シリコンロッドRの外表面の全体に冷却流体を接触させる全体冷却工程を有する。
【解決手段】多結晶シリコンロッドRを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる方法であって、冷却流体を多結晶シリコンロッドRの表面の一部にスポット状となるように噴射する局部冷却工程、局部冷却工程の後に、多結晶シリコンロッドRの外表面の全体に冷却流体を接触させる全体冷却工程を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンロッドを塊状に破砕するために多結晶シリコンロッドにクラックを発生させる方法及びその方法に用いられるクラック発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体用の単結晶シリコンを製造する方法として、チョクラルスキー法(CZ法)がある。この方法は、多結晶シリコン塊をるつぼ内に入れて溶融し、その融液から単結晶シリコンを引き上げる方法である。
この多結晶シリコンの製造方法としてシーメンス法があるが、この方法では多結晶シリコンは、ロッド状に形成されるため、るつぼ内に効率よく装填できるよう適宜の大きさに調整する必要がある。脆性材料である多結晶シリコンロッドは、ハンマー等で適宜の大きさに破砕されるが、その前処理として、加熱した多結晶シリコンロッドを純水に浸して急冷し、ロッドに生じる熱ひずみによってクラックを生じさせる技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、ロッド状の多結晶シリコンを載置した状態で加熱装置において加熱し、その加熱装置から取り出した後、多結晶シリコンを載置した状態で急冷するシリコン加熱急冷装置が記載されている。その支持装置は複数本のパイプによって構成されており、そのパイプの上に多結晶シリコンを支持した状態で加熱し、急冷するようになっている。急冷の手段としては支持装置ごと水槽内に浸漬するようにしている。また、特許文献2にも、多結晶シリコンを加熱する加熱炉を有する多結晶シリコンロッドの破砕装置が記載されている。この破砕装置は、加熱炉内に多結晶シリコンロッドを載せるための支持台を備えており、この支持台に多結晶シリコンロッドを載せた状態で加熱し、加熱後の多結晶シリコンロッドを水槽に投入してクラックを発生させるようにしている。
また、特許文献3に記載の発明も、加熱した多結晶シリコンに水等の流体を噴霧してひび割れを生じさせるようにしており、その噴霧パターンとして、コーン型、平らなファン型が記載されている。
特許文献4に記載の発明は、マイクロ波で棒状多結晶シリコンを加熱して破砕することとしているが、加熱で破砕しなかったときに、多結晶シリコンの周囲より純水を噴射して破砕を促進するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2009/019749号公報
【特許文献2】特開2005−288332号公報
【特許文献3】特開2004−91321号公報
【特許文献4】特開昭60−33210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シーメンス法で製造した多結晶シリコンロッドは、直径が例えば120mm〜160mmあり、これを加熱して水槽に浸漬したり、周囲から水等を噴射するだけでは、表面及び表面から若干内側部分にクラックを生じさせることはできても、中心部にクラックが生じにくく、いわゆる芯残りが生じる。そして、この熱衝撃の後に、ハンマー等による打撃によって、さらに小片に破砕することが行われる。芯残りが存在すると、多結晶シリコンを例えば最大長で45mm以下のサイズまで破砕する場合、芯残り部分を破砕するのに時間を要する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、多結晶シリコンロッドに芯残りを生じることなく、その全体にクラックを発生させ、そのクラックを起点として小サイズの塊状に容易に破砕することができる多結晶シリコンロッドのクラック発生方法及びその方法に用いられるクラック発生装置、並びにクラック発生方法により多結晶シリコン塊を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法は、多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる方法であって、冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状となるように噴射する局部冷却工程を有することを特徴とする。
【0008】
多結晶シリコンロッドを冷却したときに芯残りが生じるのは、多結晶シリコンロッドの中心部分の冷却速度が、外側に比べて低いからであり、多結晶シリコンロッドを外周から均等に冷却することに起因する現象と考えられる。これに対して、多結晶シリコンロッドの表面の一方にスポット状に冷却流体を噴射して局部的に冷却することで、多結晶シリコンロッドは、その局部を中心にして冷却される。このため、多結晶シリコンロッドをこの噴射により冷却流体が接触した(当たった)位置を含む横断面で見たときに、その外周面の一部(冷却流体が当たった位置)から広がるように温度分布が生じ、中心部を介して接触箇所とは反対側が最も冷却効果が低くなる。したがって、この多結晶シリコンロッドの表面の一部の局部冷却によって中心部にもこれを横断する方向に温度分布が生じることから、外側から発生したクラックが中心部まで成長する。
冷却流体の噴射箇所は、多結晶シリコンロッドの大きさに応じて、その表面の適宜の箇所に設定するとよく、一箇所又は複数箇所に設定される。
【0009】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法において、前記多結晶シリコンロッドの両側方に前記多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をあけて複数ずつ配置したノズルから前記冷却流体を噴射するとともに、前記両側方のうちの一方側で隣合うノズル間の中間位置の反対側に他方側のノズルが配置されているとよい。
多結晶シリコンロッドの中心部までクラックを発生させるためには、クラックを多結晶シリコンロッドの径方向に進展させることが重要である。上記のノズル配置とすることにより、クラックを径方向の両側から進展させることができ、隣合うノズルに対応するスポット間での多結晶シリコンロッドの長さ方向に沿うクラックの進展における干渉を抑えることが出来る。
【0010】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法において、前記冷却流体を噴射するノズルは、孔面積が0.5〜20mm2で、該ノズル先端から前記多結晶シリコンロッドの表面までが1〜200mmの距離で冷却流体を噴射するようにするとよい。
また、本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法において、前記冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面において0.0006〜0.006m3/分の流量で噴射するとよい。
【0011】
また、多結晶シリコンロッドのクラック発生方法において、前記局部冷却工程の後に、多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる全体冷却工程を有するとよい。
局部冷却工程によって多結晶シリコンロッドの表面及び表面から中心部に向けてクラックが成長しており、その状態で多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させることにより、多結晶シリコンロッドの外表面が冷却されるだけでなく、局部冷却工程で生じたクラックから冷却体がロッド中心部に侵入して、そのクラックを進展させつつ該クラックに臨む破断面からも新たなクラックを生じさせることができ、多結晶シリコンロッドを外表面及び中心部からクラックを発生させることができる。
多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる手段としては、水槽に溜めた水等の冷却流体に浸漬するのが簡単でよい。その場合、多結晶シリコンロッドには局部冷却工程で既にクラックが生じていることから、水槽に浸漬したときにクラック内に速やかに水が進入する。
その他の冷却体としては、冷却空気、ドライアイス等を適用することができる。
【0012】
そして、多結晶シリコン塊の製造方法は、前記多結晶シリコンロッドのクラック発生方法を用いて多結晶シリコンロッドの塊を製造する方法であって、前記全体冷却工程の後に、打撃又は機械的衝撃によって前記多結晶シリコンロッドを多結晶シリコン塊に破砕する破砕工程を有することを特徴とする。
局部冷却工程及び全体冷却工程によって多結晶シリコンロッドには内部にまでクラックが生じているため、打撃又は衝撃によって簡単に破砕され、芯残りのない所望のサイズの塊を得ることができる。
【0013】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置は、多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる装置であって、前記多結晶シリコンロッドを加熱する加熱手段と、冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状となるように噴射可能な局部冷却手段とを有することを特徴とする。
この場合、前記局部冷却手段は、前記多結晶シリコンロッドの設置位置の両側方に、前記冷却流体を噴射するノズルが前記多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をあけて複数ずつ並べられるとともに、前記両側方のうちの一方側で隣合うノズル間の中間位置の反対側に他方側のノズルが配置されているとよい。
【0014】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置において、さらに前記多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる全体冷却手段を備えることを特徴とする。
この全体冷却手段により、冷却体がクラックを通してロッド中心まで供給されるため芯残りが解消される。この場合、冷却体は冷却流体であるのがよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状に冷却流体を噴射して局部的に冷却するようにしているから、多結晶シリコンロッドの外表面から中心部に向かう方向、及び中心部を横断する方向に温度分布が生じてクラックを発生させることができ、これにより、多結晶シリコンロッドに芯残りを生じることなく、その全体にクラックを発生させ、破砕の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置の一実施形態を示し、水槽の上方で多結晶シリコンロッドに水を噴射している状態を示す縦断面図である。
【図2】一実施形態のクラック発生装置の全体概略構成を示す斜視図である。
【図3】図2のクラック発生装置における支持台に多結晶シリコンロッドを載置した状態を示した斜視図である。
【図4】本発明の多結晶シリコン塊の製造方法のフローチャートである。
【図5】多結晶シリコンロッドに水を噴射した際の等温線を模式的に示した図であり、(a)が横断面、(b)が縦断面、(c)は水が噴射されている多結晶シリコンロッド表面の部分拡大断面図である。
【図6】1点冷却時の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図7】ノズル間隔を100mmとして2箇所で冷却した場合の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図8】ノズル間隔を90mmとして2箇所で冷却した場合の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図9】ノズルを2個ずつ対向配置して冷却した場合の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図10】2個のノズルと3個のノズルとを非対向配置として冷却した場合の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図11】多結晶シリコンロッドに水を噴射した際の温度分布をシミュレーション解析により求めたモデル図である。
【図12】支持台に複数載置した多結晶シリコンロッドに水を噴射している状態を示す図1同様の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
まず、クラック発生装置の実施形態について説明する。
この実施形態のクラック発生装置1は、図2及び図3に示すように、多結晶シリコンロッドRを載置状態に支持するための支持台2と、支持台2上に載置した状態の多結晶シリコンロッドRを加熱するための加熱器(加熱手段)3と、加熱器3から支持台2により移送する多結晶シリコンロッドRの表面の一部に冷却流体をスポット状となるように噴射する局部冷却手段としての複数のノズル4と、支持台2に載置したまま多結晶シリコンロッドRを純水に浸漬させて冷却する全体冷却手段としての水槽5とを備えている。
【0018】
支持台2は、複数本のパイプ部材11を相互に間隔をあけて並べて一体化してなり、これらパイプ部材11の両端に、各パイプ部材11に連通するヘッダ部材12が配設され、これらヘッダ部材12が図示略の移載機から吊下げ部材13を介して吊下げられた構成とされている。
【0019】
パイプ部材11は、例えば、ステンレス(SUS)を材料として多結晶シリコンロッドRよりも長尺状に設けられ、その内側には給排管15を経由して外部から送られる冷却水が流れている。この給排管15にパイプ部材11を接続するためのヘッダ部材12は、各パイプ部材11の両端を一括して保持するように設けられており、各ヘッダ部材12の外側に設けた吊下げ部材13によって移載機から支持されている。そして、その移載機によって支持台2を加熱器3と水槽5との間で往復移動させることができるようになっている。
【0020】
一方、加熱器3は、パイプ部材11よりも長尺状の2つの半円筒部材21a,21bがヒンジ部を介して開閉自在に繋げられ、横向き姿勢で装置本体(図示略)に支持されており、これら半円筒部材21a,21bの内周面には適宜数のヒータ22が設けられている。そして、これら半円筒部材21a,21bを閉じ合わせて円筒状とし、その内部空間に支持台2を配置することにより、該支持台2の周囲を囲った状態とすることができるようになっている。この場合、下側の半円筒部材21aは装置本体に上方を開放した状態で固定され、図示略の駆動手段によって上側の半円筒部材21bを開閉する構成である。そして、支持台2は、上側の半円筒部材21bを開いて下側の半円筒部材21aの上方が開放状態とされているときに、移載機によって、図3に示すように下側の半円筒部材21aの上に配置された位置と、その前側下方に配置された水槽5に浸漬した位置との間で往復移動させられるようになっている。
【0021】
水槽5には、純水が満たされており、支持台2に載置された状態の多結晶シリコンロッドRを支持台2ごと水没させ得る大きさの直方体状に形成され、その長手方向を支持台2の長手方向と一致させて配置されている。
【0022】
そして、水槽5の長手方向に沿う両側壁5aの上端部の内面に、局部冷却手段としてのノズル4が複数配置されている。これらノズル4は、水槽5の側壁5aから内方に向けて配置されており、加熱器3から水槽5へ移送される途中の多結晶シリコンロッドRに、その側方から水を噴射するようになっている。この場合、各ノズル4は、各側壁5aに水平方向に間隔を開けて配置されるとともに、両側壁5a間では、相互に対向状態とならないように水平方向にずれて配置されている。図2に示す例では、水槽5の前側の側壁5aに3個、後側の側壁5aに2個のノズル4が配置されている。また、各ノズル4の先端位置は、水槽5の上方から下降する支持台2上の多結晶シリコンロッドRに比較的至近距離から水を噴射するように、水槽5の両側壁5aから内方に突出して配置されており、支持台2上の多結晶シリコンロッドRの外表面で水がスポット状となるように噴射される。このように被冷却面でスポット状となるように噴射するために、ノズル4は、その先端の孔から水を真っすぐ直進させて噴射するようになっており、有限会社香取組製作所製直進タイプスプレーノズル(K−18タイプ)、スプレーイングシステムスジャパン株式会社製のソリッドノズル(TRMタイプ、H−Uタイプ、直進、直噴ノズル)等が適用される。また、孔面積が0.5〜20mm2とされ、ノズル4の先端から多結晶シリコンロッドRの外表面までが1〜200mmの距離となるように配置され、各ノズルからの噴射量としては、0.0006〜0.006m3/分の流量とされる。
【0023】
次に、このように構成したクラック発生装置1によって多結晶シリコンロッドRにクラックを発生させ、これを破砕して多結晶シリコン塊を製造する方法について説明する。
この多結晶シリコン塊製造方法は、図4のフローチャートに示すように、多結晶シリコンロッドを加熱する加熱工程、加熱した多結晶シリコンロッドを局部的に冷却する局部冷却工程、その後に全体的に冷却する全体冷却工程、その全体冷却工程後に多結晶シリコンロッドをハンマーによる打撃や機械的衝撃によって破砕する破砕工程を有している。
多結晶シリコンロッドRは、予め純水もしくは酸により洗浄しておく。そして、加熱器3の半円筒部材21a,21bを開いた状態とするとともに、その下側の半円筒部材21aに支持台2を配置し、その支持台2のパイプ部材11に対して図3に示すように多結晶シリコンロッドRを載置する。
【0024】
そして、この支持台2のパイプ部材11の上に載置した状態で多結晶シリコンロッドRの上方から半円筒部材21bを被せて両半円筒部材21a,21bを円筒状に閉じ合わせることにより、多結晶シリコンロッドRをこれら半円筒部材21a,21bにより囲った状態とし、ヒータ22により多結晶シリコンロッドRを表面温度が例えば500〜700℃となるように加熱する(加熱工程)。このとき、パイプ部材11の内側には冷却水が流れている。
【0025】
そして、この多結晶シリコンロッドRの加熱後には、加熱器3の半円筒部材21a,21bを開いた状態とし、移載機を駆動して図2の白抜き矢印で示すように支持台2を加熱器3から水槽5へ移動する。このとき、水槽5の上端部のノズル4から矢印で示すようにそれぞれ水を噴射させた状態としておく。これにより、支持台2が水槽5の上方から水槽5内に浸漬されるまでの下降移動の途中で、図1に示すように、支持台2上の多結晶シリコンロッドRの表面に水槽5の両側壁5aのノズル4から水が噴射される。これらノズル4は、多結晶シリコンロッドRに対して比較的至近距離から、被冷却面でスポット状になるように水を噴射するとともに、水平方向に相互に間隔を開けて配置され、また、両側壁5a間で対向しないように水平方向にずれて配置されていることから、多結晶シリコンロッドRの外表面の複数個所に分散してスポット状に水が噴射される(局部冷却工程)。
【0026】
図5(c)に、水が噴射された多結晶シリコンロッドの表面部分を模式的に示している。スポット状に水を噴射する局部冷却とは、ノズル4から噴射された水が多結晶シリコンロッドRの表面でロッドRの直径に対して0.20倍〜0.32倍の直径dのスポットとなり、かつ、そのスポットの中心温度と、中心からスポットの直径の2倍の位置の温度との差が150℃以上となるように水を噴射して多結晶シリコンロッドRを局部的に冷却することをいう。
そのスポットの直径が多結晶シリコンロッドの直径Dに対して、0.20D未満であると、多結晶シリコンロッドの熱容量に対して冷却範囲が小さく、一方、スポットの直径が0.32Dを超えると、冷却範囲が大きいために、その大きい冷却範囲が全体的に冷却される。したがって、いずれの場合も、スポットを冷却中心として急激に変化する温度分布を発生させることが難しく、多結晶シリコンロッドの破砕を容易にするのに十分な大きさのクラックは発生しにくい。より好ましくは、多結晶シリコンロッドRの直径Dに対して0.21D〜0.27Dの直径のスポットとなるのがよい。
また、スポットの中心と、中心からスポットの直径の2倍の位置との温度差が150℃未満では、温度分布が緩慢になって、発生する熱応力が小さいため、大きなクラックを生じさせることが難しい。
【0027】
このように多結晶シリコンロッドRの外表面の複数個所が局部的に冷却されると、図5に示すように、多結晶シリコンロッドRの内部に各噴射により多結晶シリコンロッドRに水が接触した(当たった)位置を冷却中心とした温度分布が生じる。この図5において、多結晶シリコンロッドの内部に等温線を模式的に示しており、水が当った位置から多結晶シリコンロッドの直径方向に反対側に向かうにしたがって温度が高くなるように温度分布が生じるとともに、多結晶シリコンロッドの長さ方向にも水が当った位置から遠くなるにしたがって温度が高くなるように温度分布が生じる。また、多結晶シリコンロッドの長さ方向には複数のノズル4が間隔をあけて配置されているので、各ノズル4から噴射される水が多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をおいた複数箇所に当たり、これらの箇所を冷却中心とした温度分布となる。
そして、この温度分布によって生じる熱応力が多結晶シリコンロッドRの各部にクラックを生じさせる。これらクラックは、その大部分が多結晶シリコンロッドRの外表面の水が当たった位置を起点として発生することになり、水が当たった位置から多結晶シリコンロッドRを横断するようにその位置の反対側に向けて進展し、このため、多結晶シリコンロッドRの中心部にもクラックが進展する。この状態を模式的に図示したのが図1であり、ノズル4からの水の噴射により、多結晶シリコンロッドRにその中心部も含めてクラックCが生じている。
隣接するノズル4の間隔は、多結晶シリコンロッドの直径に応じて調整することが望ましい。多結晶シリコンロッドの直径Dに対し、隣接するノズル4の間隔は0.80D以上、1.36D以下とすることが望ましい。隣接するノズルの間隔は、隣接する冷却スポットの中心間の位置に実質的に対応する。
【0028】
このようにして水槽5の上方から下降移動する途中でノズル4から噴射される水によって多結晶シリコンロッドRが局部的に冷却され、その後、水槽5の純水の中に浸漬されることにより、多結晶シリコンロッドRの全体が冷却される(全体冷却工程)。前述したように、水槽5の上端部に配置されているノズル4からの水の噴射により、多結晶シリコンロッドRにはこれを横断するように複数のクラックCが発生しており、その状態で純水に浸漬されることにより、多結晶シリコンロッドRは、その外表面が冷却されるとともに、各クラックCの内部にも水が進入して、そのクラックCを進展させ、また、そのクラックCを形成している破断面にも新たなクラックを生じさせる。
したがって、多結晶シリコンロッドRは、図1の鎖線で示すように、その外表面及び内部全面にクラックを発生させて、複数のブロックに分かれ易い状態となる。
【0029】
次に、この支持台2を水槽5から引き揚げ、多結晶シリコンロッドRを乾燥させた後、ハンマー等で叩いて、複数のブロックに分け、さらに小さい塊状に破砕する(破砕工程)。このとき、各ブロックは、その内部にまでクラックが生じているため、ハンマー等の衝撃によって簡単に破砕され、所望のサイズの塊を得ることができる。
この破砕工程では、ハンマーにより打撃を加えてもよいし、ジョークラッシャー(jaw-crusher)などの破砕装置を用いて、機械的衝撃を加えてもよい。
【0030】
このような方法において、水槽の上端部での水の噴射は、多結晶シリコンロッドを通過させる間のみでもよいが、その噴射位置で多結晶シリコンロッドを停止させた状態として例えば10秒程度保持させてもよい。
【0031】
局部冷却効果の確認のために、以下のような実験を行った。
(実験1)
直径125mmの多結晶シリコンロッドを約650℃に加熱した後、半径方向外側の一箇所から水を噴射した。噴射する水は、水温25℃、噴射時間10秒とし、ノズルの孔径、ノズルからの噴射流量、及びノズル先端から多結晶シリコンロッド表面までの距離を変えることにより、多結晶シリコンロッド表面のスポットの直径を変えて、クラック形成の程度を確認した。
多結晶シリコンロッドの全周にわたってクラックが入ったものを○、クラックが全周に至らず部分的な発生にとどまったものを×とした。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
この1点冷却において、スポット径が25mm〜40mm、言い換えれば多結晶シリコンロッドの直径に対するスポット直径の比が0.20〜0.32のものは、水を噴射した直後に多結晶シリコンロッドの外周の全周にクラックが入った。これをハンマーで軽く叩いたところ、多結晶シリコンロッドの点冷却箇所を中心としてクラックが進展し、図6の写真に示すように割れた。この図6において矢印で示している部分が点冷却部分である。この表1の結果から、多結晶シリコンロッドの直径に対するスポット直径の比が0.20倍〜0.32倍となるように水を噴射するのが好ましい。
【0034】
(実験2)
次に、ノズルの数を増やして、多結晶シリコンロッドの複数箇所に水を噴射した。この場合、多結晶シリコンロッドの片側にノズルを長さ方向に間隔をあけて一列に並べた配置(片側配置と称す)とした。いずれも、ノズルは孔径が約1mm、噴射流量が0.0008m3/分とし、スポット径/ロッド径は0.21とした。また、多結晶シリコンロッドは直径125mmで、280mmの長さのものを用いた。その他、実験1の場合と同様に、約650℃に加熱した多結晶シリコンロッドに温度25℃の水を10秒間噴射してスポット状に冷却した後、超硬製ハンマーで軽く叩いた。
結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2中、クラック状況の「A」は、1点冷却の場合と同様に、多結晶シリコンロッドの外周全周にクラックが発生したもの、「B」は、多結晶シリコンの周方向へのクラックの進展は少なく、スポット間を連結する方向(多結晶シリコンロッドの長さ方向)にクラックが進展したものを示す。
予期せざることに、周方向のクラックの発生は、隣接するノズルの間隔を大きくして水を噴射したNo.9、No.11の方が、No.8、No.10に比べて進展が顕著であった。
図7及び図8は、ハンマーで軽く叩いた後の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示している。図7は、No.9の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示しており、多結晶シリコンロッドの外周の全周にわたってクラックが発生して、全体的にクラックから割れている。図8は、No.10の割れ状況を示しており、多結晶シリコンロッドの長さ方向にクラックが進展し、多結晶シリコンロッドの外周部側でクラックが留まって、中心部にまで進展せず、冷却点とは反対側に矢印で示したように大きな塊が残った。
ノズル間隔が90mmのものは、スポットの間隔が小さいことから、スポットの中心と、スポット直径の2倍の位置との温度差が小さく、このため、多結晶シリコンロッドの長さ方向にクラックが進展したものと推測される。
【0037】
(実験3)
次に、多結晶シリコンの両側に一列ずつノズルを並べた配置(両側配置と称す)について同様の実験をした。また、この両側配置においては、多結晶シリコンロッドを介してノズルを180°対向状態に配置した場合(対向配置と称す)と、片側に配置されるノズル間の中間位置に対向する反対側にノズルを配置した場合(非対向配置と称す)とでクラックの形成状況を確認した。ノズルは孔径が約1mm、噴射流量が0.0008m3/分とし、スポット径/ロッド径は0.21とし、水温25℃、噴射時間10秒とした。また、多結晶シリコンロッドは直径約125mm、長さ280mmのものを用い、約650℃に加熱して使用した。
【0038】
【表3】
【0039】
表3中、クラック状況の「D」は、1点冷却の場合と同様に、多結晶シリコンロッドの全周にクラックが入り、ハンマーで叩くとクラックに沿って割れるが、スポット冷却の周辺以外の部分にはクラックが入りにくく、そのため、比較的大きな塊として残ったものがあった。「E」は、多結晶シリコンロッドの両端部にわずかにクラック入り難い部分があったが、全体の8割以上の部分にクラックが入っていた。図9及び図10は、ハンマーで軽く叩いた後の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示しており、図9がNo.12、図10がNo.14のものを示している。
【0040】
(実験4)
No.14の条件でノズルを配置し、ノズルの前方で多結晶シリコンロッドを3秒〜10秒間停止することにより、水を連続的に噴射した。これをハンマーで軽く叩いたところ容易に小さい塊となった。塊の大きさは、水の噴射時間と相関し、噴射時間が3秒の場合は最大長部分が50mm以上のサイズの破片が23個中4〜6個存在し、噴射時間が5秒の場合は50mm以上のサイズの破片が43個中2〜3個存在した。噴射時間を10秒にした場合は、50mm以上のサイズの破片は存在しなかった。
一方、多結晶シリコンロッドを移動しながら水を噴射した場合もクラックが入り、ハンマーで軽く叩くと割れて塊状となるが、多結晶シリコンロッドを停止した状態で水を噴射した場合に比べて大きいサイズの塊の割合が多かった。
【0041】
また、多結晶シリコンロッドの温度分布をシミュレーション解析により求めたところ、図11に示す結果となった。この図6において、1ブロックは5.7mm四方であり、スポット径が5.7mm、そのスポットの中心の温度と、中心からスポットの直径の2倍の位置との温度差はロッドの長さ方向で216℃、半径方向(中心に向かう方向)で264℃であった。
【0042】
なお、上記実施形態においては、1本の多結晶シリコンロッドを加熱して急冷するものとして説明したが、複数本の多結晶シリコンロッドを同時に加熱して急冷するようにしてもよい。図12は、3本の多結晶シリコンロッドRをいわゆる俵積み状に支持台2に載置して水を噴射している状態を示しており、水槽5の両側壁5aの他に底壁5bにもノズル4を配置し、各多結晶シリコンロッドRの1本ずつに、その周方向に複数個所(図示例では2箇所)から水が噴射されるようにしている。底壁5bに配置したノズル4から水を噴射する場合、局部冷却の後、水槽5に純水を満たして全体冷却を行えばよい。あるいは、局部冷却を行う間、可動式のノズルを多結晶シリコンロッドより下方で水面より上の部位に配置してもよい。
また、多結晶シリコンロッドを浸漬する水槽を設ける場合、水槽内に浸漬した後に、多結晶シリコンロッドの表面に向けて水を噴射するようにしてもよく、水槽内での膜沸騰現象の発生を確実に防止することができる。
また、局部冷却工程でノズルから噴射する水は純水を使用することが好ましい。
【0043】
また、上記実施形態では多結晶シリコンロッドに噴射する冷却流体として水を用いたが、液体窒素等を用いてもよい。また、図1に示す例では、多結晶シリコンロッドの両側に配置される各ノズルの高さ位置を同じに設定しているが、その両側でノズルの高さ位置を変えるようにしてもよく、その場合、多結晶シリコンロッドに対して冷却流体の噴射が前側からと後側からとで時間差をおいて行われるようになる。各ノズルを同じ高さ位置に配置して、冷却流体を交互に噴射するようにしてもよい。さらに、ノズルによる局部冷却手段の後に、水槽を設けたが、全体冷却手段としては、この水槽の他に、多結晶シリコンロッドの全体にシャワー状に冷却流体を噴射するものであってもよい。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 クラック発生装置
2 支持台
3 加熱器(加熱手段)
4 ノズル(局部冷却手段)
5 水槽(全体冷却手段)
5a 側壁
11 パイプ部材
12 ヘッダ部材
13 吊下げ部材
R 多結晶シリコンロッド
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンロッドを塊状に破砕するために多結晶シリコンロッドにクラックを発生させる方法及びその方法に用いられるクラック発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体用の単結晶シリコンを製造する方法として、チョクラルスキー法(CZ法)がある。この方法は、多結晶シリコン塊をるつぼ内に入れて溶融し、その融液から単結晶シリコンを引き上げる方法である。
この多結晶シリコンの製造方法としてシーメンス法があるが、この方法では多結晶シリコンは、ロッド状に形成されるため、るつぼ内に効率よく装填できるよう適宜の大きさに調整する必要がある。脆性材料である多結晶シリコンロッドは、ハンマー等で適宜の大きさに破砕されるが、その前処理として、加熱した多結晶シリコンロッドを純水に浸して急冷し、ロッドに生じる熱ひずみによってクラックを生じさせる技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、ロッド状の多結晶シリコンを載置した状態で加熱装置において加熱し、その加熱装置から取り出した後、多結晶シリコンを載置した状態で急冷するシリコン加熱急冷装置が記載されている。その支持装置は複数本のパイプによって構成されており、そのパイプの上に多結晶シリコンを支持した状態で加熱し、急冷するようになっている。急冷の手段としては支持装置ごと水槽内に浸漬するようにしている。また、特許文献2にも、多結晶シリコンを加熱する加熱炉を有する多結晶シリコンロッドの破砕装置が記載されている。この破砕装置は、加熱炉内に多結晶シリコンロッドを載せるための支持台を備えており、この支持台に多結晶シリコンロッドを載せた状態で加熱し、加熱後の多結晶シリコンロッドを水槽に投入してクラックを発生させるようにしている。
また、特許文献3に記載の発明も、加熱した多結晶シリコンに水等の流体を噴霧してひび割れを生じさせるようにしており、その噴霧パターンとして、コーン型、平らなファン型が記載されている。
特許文献4に記載の発明は、マイクロ波で棒状多結晶シリコンを加熱して破砕することとしているが、加熱で破砕しなかったときに、多結晶シリコンの周囲より純水を噴射して破砕を促進するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2009/019749号公報
【特許文献2】特開2005−288332号公報
【特許文献3】特開2004−91321号公報
【特許文献4】特開昭60−33210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シーメンス法で製造した多結晶シリコンロッドは、直径が例えば120mm〜160mmあり、これを加熱して水槽に浸漬したり、周囲から水等を噴射するだけでは、表面及び表面から若干内側部分にクラックを生じさせることはできても、中心部にクラックが生じにくく、いわゆる芯残りが生じる。そして、この熱衝撃の後に、ハンマー等による打撃によって、さらに小片に破砕することが行われる。芯残りが存在すると、多結晶シリコンを例えば最大長で45mm以下のサイズまで破砕する場合、芯残り部分を破砕するのに時間を要する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、多結晶シリコンロッドに芯残りを生じることなく、その全体にクラックを発生させ、そのクラックを起点として小サイズの塊状に容易に破砕することができる多結晶シリコンロッドのクラック発生方法及びその方法に用いられるクラック発生装置、並びにクラック発生方法により多結晶シリコン塊を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法は、多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる方法であって、冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状となるように噴射する局部冷却工程を有することを特徴とする。
【0008】
多結晶シリコンロッドを冷却したときに芯残りが生じるのは、多結晶シリコンロッドの中心部分の冷却速度が、外側に比べて低いからであり、多結晶シリコンロッドを外周から均等に冷却することに起因する現象と考えられる。これに対して、多結晶シリコンロッドの表面の一方にスポット状に冷却流体を噴射して局部的に冷却することで、多結晶シリコンロッドは、その局部を中心にして冷却される。このため、多結晶シリコンロッドをこの噴射により冷却流体が接触した(当たった)位置を含む横断面で見たときに、その外周面の一部(冷却流体が当たった位置)から広がるように温度分布が生じ、中心部を介して接触箇所とは反対側が最も冷却効果が低くなる。したがって、この多結晶シリコンロッドの表面の一部の局部冷却によって中心部にもこれを横断する方向に温度分布が生じることから、外側から発生したクラックが中心部まで成長する。
冷却流体の噴射箇所は、多結晶シリコンロッドの大きさに応じて、その表面の適宜の箇所に設定するとよく、一箇所又は複数箇所に設定される。
【0009】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法において、前記多結晶シリコンロッドの両側方に前記多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をあけて複数ずつ配置したノズルから前記冷却流体を噴射するとともに、前記両側方のうちの一方側で隣合うノズル間の中間位置の反対側に他方側のノズルが配置されているとよい。
多結晶シリコンロッドの中心部までクラックを発生させるためには、クラックを多結晶シリコンロッドの径方向に進展させることが重要である。上記のノズル配置とすることにより、クラックを径方向の両側から進展させることができ、隣合うノズルに対応するスポット間での多結晶シリコンロッドの長さ方向に沿うクラックの進展における干渉を抑えることが出来る。
【0010】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法において、前記冷却流体を噴射するノズルは、孔面積が0.5〜20mm2で、該ノズル先端から前記多結晶シリコンロッドの表面までが1〜200mmの距離で冷却流体を噴射するようにするとよい。
また、本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法において、前記冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面において0.0006〜0.006m3/分の流量で噴射するとよい。
【0011】
また、多結晶シリコンロッドのクラック発生方法において、前記局部冷却工程の後に、多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる全体冷却工程を有するとよい。
局部冷却工程によって多結晶シリコンロッドの表面及び表面から中心部に向けてクラックが成長しており、その状態で多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させることにより、多結晶シリコンロッドの外表面が冷却されるだけでなく、局部冷却工程で生じたクラックから冷却体がロッド中心部に侵入して、そのクラックを進展させつつ該クラックに臨む破断面からも新たなクラックを生じさせることができ、多結晶シリコンロッドを外表面及び中心部からクラックを発生させることができる。
多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる手段としては、水槽に溜めた水等の冷却流体に浸漬するのが簡単でよい。その場合、多結晶シリコンロッドには局部冷却工程で既にクラックが生じていることから、水槽に浸漬したときにクラック内に速やかに水が進入する。
その他の冷却体としては、冷却空気、ドライアイス等を適用することができる。
【0012】
そして、多結晶シリコン塊の製造方法は、前記多結晶シリコンロッドのクラック発生方法を用いて多結晶シリコンロッドの塊を製造する方法であって、前記全体冷却工程の後に、打撃又は機械的衝撃によって前記多結晶シリコンロッドを多結晶シリコン塊に破砕する破砕工程を有することを特徴とする。
局部冷却工程及び全体冷却工程によって多結晶シリコンロッドには内部にまでクラックが生じているため、打撃又は衝撃によって簡単に破砕され、芯残りのない所望のサイズの塊を得ることができる。
【0013】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置は、多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる装置であって、前記多結晶シリコンロッドを加熱する加熱手段と、冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状となるように噴射可能な局部冷却手段とを有することを特徴とする。
この場合、前記局部冷却手段は、前記多結晶シリコンロッドの設置位置の両側方に、前記冷却流体を噴射するノズルが前記多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をあけて複数ずつ並べられるとともに、前記両側方のうちの一方側で隣合うノズル間の中間位置の反対側に他方側のノズルが配置されているとよい。
【0014】
本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置において、さらに前記多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる全体冷却手段を備えることを特徴とする。
この全体冷却手段により、冷却体がクラックを通してロッド中心まで供給されるため芯残りが解消される。この場合、冷却体は冷却流体であるのがよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状に冷却流体を噴射して局部的に冷却するようにしているから、多結晶シリコンロッドの外表面から中心部に向かう方向、及び中心部を横断する方向に温度分布が生じてクラックを発生させることができ、これにより、多結晶シリコンロッドに芯残りを生じることなく、その全体にクラックを発生させ、破砕の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置の一実施形態を示し、水槽の上方で多結晶シリコンロッドに水を噴射している状態を示す縦断面図である。
【図2】一実施形態のクラック発生装置の全体概略構成を示す斜視図である。
【図3】図2のクラック発生装置における支持台に多結晶シリコンロッドを載置した状態を示した斜視図である。
【図4】本発明の多結晶シリコン塊の製造方法のフローチャートである。
【図5】多結晶シリコンロッドに水を噴射した際の等温線を模式的に示した図であり、(a)が横断面、(b)が縦断面、(c)は水が噴射されている多結晶シリコンロッド表面の部分拡大断面図である。
【図6】1点冷却時の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図7】ノズル間隔を100mmとして2箇所で冷却した場合の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図8】ノズル間隔を90mmとして2箇所で冷却した場合の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図9】ノズルを2個ずつ対向配置して冷却した場合の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図10】2個のノズルと3個のノズルとを非対向配置として冷却した場合の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示す写真である。
【図11】多結晶シリコンロッドに水を噴射した際の温度分布をシミュレーション解析により求めたモデル図である。
【図12】支持台に複数載置した多結晶シリコンロッドに水を噴射している状態を示す図1同様の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
まず、クラック発生装置の実施形態について説明する。
この実施形態のクラック発生装置1は、図2及び図3に示すように、多結晶シリコンロッドRを載置状態に支持するための支持台2と、支持台2上に載置した状態の多結晶シリコンロッドRを加熱するための加熱器(加熱手段)3と、加熱器3から支持台2により移送する多結晶シリコンロッドRの表面の一部に冷却流体をスポット状となるように噴射する局部冷却手段としての複数のノズル4と、支持台2に載置したまま多結晶シリコンロッドRを純水に浸漬させて冷却する全体冷却手段としての水槽5とを備えている。
【0018】
支持台2は、複数本のパイプ部材11を相互に間隔をあけて並べて一体化してなり、これらパイプ部材11の両端に、各パイプ部材11に連通するヘッダ部材12が配設され、これらヘッダ部材12が図示略の移載機から吊下げ部材13を介して吊下げられた構成とされている。
【0019】
パイプ部材11は、例えば、ステンレス(SUS)を材料として多結晶シリコンロッドRよりも長尺状に設けられ、その内側には給排管15を経由して外部から送られる冷却水が流れている。この給排管15にパイプ部材11を接続するためのヘッダ部材12は、各パイプ部材11の両端を一括して保持するように設けられており、各ヘッダ部材12の外側に設けた吊下げ部材13によって移載機から支持されている。そして、その移載機によって支持台2を加熱器3と水槽5との間で往復移動させることができるようになっている。
【0020】
一方、加熱器3は、パイプ部材11よりも長尺状の2つの半円筒部材21a,21bがヒンジ部を介して開閉自在に繋げられ、横向き姿勢で装置本体(図示略)に支持されており、これら半円筒部材21a,21bの内周面には適宜数のヒータ22が設けられている。そして、これら半円筒部材21a,21bを閉じ合わせて円筒状とし、その内部空間に支持台2を配置することにより、該支持台2の周囲を囲った状態とすることができるようになっている。この場合、下側の半円筒部材21aは装置本体に上方を開放した状態で固定され、図示略の駆動手段によって上側の半円筒部材21bを開閉する構成である。そして、支持台2は、上側の半円筒部材21bを開いて下側の半円筒部材21aの上方が開放状態とされているときに、移載機によって、図3に示すように下側の半円筒部材21aの上に配置された位置と、その前側下方に配置された水槽5に浸漬した位置との間で往復移動させられるようになっている。
【0021】
水槽5には、純水が満たされており、支持台2に載置された状態の多結晶シリコンロッドRを支持台2ごと水没させ得る大きさの直方体状に形成され、その長手方向を支持台2の長手方向と一致させて配置されている。
【0022】
そして、水槽5の長手方向に沿う両側壁5aの上端部の内面に、局部冷却手段としてのノズル4が複数配置されている。これらノズル4は、水槽5の側壁5aから内方に向けて配置されており、加熱器3から水槽5へ移送される途中の多結晶シリコンロッドRに、その側方から水を噴射するようになっている。この場合、各ノズル4は、各側壁5aに水平方向に間隔を開けて配置されるとともに、両側壁5a間では、相互に対向状態とならないように水平方向にずれて配置されている。図2に示す例では、水槽5の前側の側壁5aに3個、後側の側壁5aに2個のノズル4が配置されている。また、各ノズル4の先端位置は、水槽5の上方から下降する支持台2上の多結晶シリコンロッドRに比較的至近距離から水を噴射するように、水槽5の両側壁5aから内方に突出して配置されており、支持台2上の多結晶シリコンロッドRの外表面で水がスポット状となるように噴射される。このように被冷却面でスポット状となるように噴射するために、ノズル4は、その先端の孔から水を真っすぐ直進させて噴射するようになっており、有限会社香取組製作所製直進タイプスプレーノズル(K−18タイプ)、スプレーイングシステムスジャパン株式会社製のソリッドノズル(TRMタイプ、H−Uタイプ、直進、直噴ノズル)等が適用される。また、孔面積が0.5〜20mm2とされ、ノズル4の先端から多結晶シリコンロッドRの外表面までが1〜200mmの距離となるように配置され、各ノズルからの噴射量としては、0.0006〜0.006m3/分の流量とされる。
【0023】
次に、このように構成したクラック発生装置1によって多結晶シリコンロッドRにクラックを発生させ、これを破砕して多結晶シリコン塊を製造する方法について説明する。
この多結晶シリコン塊製造方法は、図4のフローチャートに示すように、多結晶シリコンロッドを加熱する加熱工程、加熱した多結晶シリコンロッドを局部的に冷却する局部冷却工程、その後に全体的に冷却する全体冷却工程、その全体冷却工程後に多結晶シリコンロッドをハンマーによる打撃や機械的衝撃によって破砕する破砕工程を有している。
多結晶シリコンロッドRは、予め純水もしくは酸により洗浄しておく。そして、加熱器3の半円筒部材21a,21bを開いた状態とするとともに、その下側の半円筒部材21aに支持台2を配置し、その支持台2のパイプ部材11に対して図3に示すように多結晶シリコンロッドRを載置する。
【0024】
そして、この支持台2のパイプ部材11の上に載置した状態で多結晶シリコンロッドRの上方から半円筒部材21bを被せて両半円筒部材21a,21bを円筒状に閉じ合わせることにより、多結晶シリコンロッドRをこれら半円筒部材21a,21bにより囲った状態とし、ヒータ22により多結晶シリコンロッドRを表面温度が例えば500〜700℃となるように加熱する(加熱工程)。このとき、パイプ部材11の内側には冷却水が流れている。
【0025】
そして、この多結晶シリコンロッドRの加熱後には、加熱器3の半円筒部材21a,21bを開いた状態とし、移載機を駆動して図2の白抜き矢印で示すように支持台2を加熱器3から水槽5へ移動する。このとき、水槽5の上端部のノズル4から矢印で示すようにそれぞれ水を噴射させた状態としておく。これにより、支持台2が水槽5の上方から水槽5内に浸漬されるまでの下降移動の途中で、図1に示すように、支持台2上の多結晶シリコンロッドRの表面に水槽5の両側壁5aのノズル4から水が噴射される。これらノズル4は、多結晶シリコンロッドRに対して比較的至近距離から、被冷却面でスポット状になるように水を噴射するとともに、水平方向に相互に間隔を開けて配置され、また、両側壁5a間で対向しないように水平方向にずれて配置されていることから、多結晶シリコンロッドRの外表面の複数個所に分散してスポット状に水が噴射される(局部冷却工程)。
【0026】
図5(c)に、水が噴射された多結晶シリコンロッドの表面部分を模式的に示している。スポット状に水を噴射する局部冷却とは、ノズル4から噴射された水が多結晶シリコンロッドRの表面でロッドRの直径に対して0.20倍〜0.32倍の直径dのスポットとなり、かつ、そのスポットの中心温度と、中心からスポットの直径の2倍の位置の温度との差が150℃以上となるように水を噴射して多結晶シリコンロッドRを局部的に冷却することをいう。
そのスポットの直径が多結晶シリコンロッドの直径Dに対して、0.20D未満であると、多結晶シリコンロッドの熱容量に対して冷却範囲が小さく、一方、スポットの直径が0.32Dを超えると、冷却範囲が大きいために、その大きい冷却範囲が全体的に冷却される。したがって、いずれの場合も、スポットを冷却中心として急激に変化する温度分布を発生させることが難しく、多結晶シリコンロッドの破砕を容易にするのに十分な大きさのクラックは発生しにくい。より好ましくは、多結晶シリコンロッドRの直径Dに対して0.21D〜0.27Dの直径のスポットとなるのがよい。
また、スポットの中心と、中心からスポットの直径の2倍の位置との温度差が150℃未満では、温度分布が緩慢になって、発生する熱応力が小さいため、大きなクラックを生じさせることが難しい。
【0027】
このように多結晶シリコンロッドRの外表面の複数個所が局部的に冷却されると、図5に示すように、多結晶シリコンロッドRの内部に各噴射により多結晶シリコンロッドRに水が接触した(当たった)位置を冷却中心とした温度分布が生じる。この図5において、多結晶シリコンロッドの内部に等温線を模式的に示しており、水が当った位置から多結晶シリコンロッドの直径方向に反対側に向かうにしたがって温度が高くなるように温度分布が生じるとともに、多結晶シリコンロッドの長さ方向にも水が当った位置から遠くなるにしたがって温度が高くなるように温度分布が生じる。また、多結晶シリコンロッドの長さ方向には複数のノズル4が間隔をあけて配置されているので、各ノズル4から噴射される水が多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をおいた複数箇所に当たり、これらの箇所を冷却中心とした温度分布となる。
そして、この温度分布によって生じる熱応力が多結晶シリコンロッドRの各部にクラックを生じさせる。これらクラックは、その大部分が多結晶シリコンロッドRの外表面の水が当たった位置を起点として発生することになり、水が当たった位置から多結晶シリコンロッドRを横断するようにその位置の反対側に向けて進展し、このため、多結晶シリコンロッドRの中心部にもクラックが進展する。この状態を模式的に図示したのが図1であり、ノズル4からの水の噴射により、多結晶シリコンロッドRにその中心部も含めてクラックCが生じている。
隣接するノズル4の間隔は、多結晶シリコンロッドの直径に応じて調整することが望ましい。多結晶シリコンロッドの直径Dに対し、隣接するノズル4の間隔は0.80D以上、1.36D以下とすることが望ましい。隣接するノズルの間隔は、隣接する冷却スポットの中心間の位置に実質的に対応する。
【0028】
このようにして水槽5の上方から下降移動する途中でノズル4から噴射される水によって多結晶シリコンロッドRが局部的に冷却され、その後、水槽5の純水の中に浸漬されることにより、多結晶シリコンロッドRの全体が冷却される(全体冷却工程)。前述したように、水槽5の上端部に配置されているノズル4からの水の噴射により、多結晶シリコンロッドRにはこれを横断するように複数のクラックCが発生しており、その状態で純水に浸漬されることにより、多結晶シリコンロッドRは、その外表面が冷却されるとともに、各クラックCの内部にも水が進入して、そのクラックCを進展させ、また、そのクラックCを形成している破断面にも新たなクラックを生じさせる。
したがって、多結晶シリコンロッドRは、図1の鎖線で示すように、その外表面及び内部全面にクラックを発生させて、複数のブロックに分かれ易い状態となる。
【0029】
次に、この支持台2を水槽5から引き揚げ、多結晶シリコンロッドRを乾燥させた後、ハンマー等で叩いて、複数のブロックに分け、さらに小さい塊状に破砕する(破砕工程)。このとき、各ブロックは、その内部にまでクラックが生じているため、ハンマー等の衝撃によって簡単に破砕され、所望のサイズの塊を得ることができる。
この破砕工程では、ハンマーにより打撃を加えてもよいし、ジョークラッシャー(jaw-crusher)などの破砕装置を用いて、機械的衝撃を加えてもよい。
【0030】
このような方法において、水槽の上端部での水の噴射は、多結晶シリコンロッドを通過させる間のみでもよいが、その噴射位置で多結晶シリコンロッドを停止させた状態として例えば10秒程度保持させてもよい。
【0031】
局部冷却効果の確認のために、以下のような実験を行った。
(実験1)
直径125mmの多結晶シリコンロッドを約650℃に加熱した後、半径方向外側の一箇所から水を噴射した。噴射する水は、水温25℃、噴射時間10秒とし、ノズルの孔径、ノズルからの噴射流量、及びノズル先端から多結晶シリコンロッド表面までの距離を変えることにより、多結晶シリコンロッド表面のスポットの直径を変えて、クラック形成の程度を確認した。
多結晶シリコンロッドの全周にわたってクラックが入ったものを○、クラックが全周に至らず部分的な発生にとどまったものを×とした。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
この1点冷却において、スポット径が25mm〜40mm、言い換えれば多結晶シリコンロッドの直径に対するスポット直径の比が0.20〜0.32のものは、水を噴射した直後に多結晶シリコンロッドの外周の全周にクラックが入った。これをハンマーで軽く叩いたところ、多結晶シリコンロッドの点冷却箇所を中心としてクラックが進展し、図6の写真に示すように割れた。この図6において矢印で示している部分が点冷却部分である。この表1の結果から、多結晶シリコンロッドの直径に対するスポット直径の比が0.20倍〜0.32倍となるように水を噴射するのが好ましい。
【0034】
(実験2)
次に、ノズルの数を増やして、多結晶シリコンロッドの複数箇所に水を噴射した。この場合、多結晶シリコンロッドの片側にノズルを長さ方向に間隔をあけて一列に並べた配置(片側配置と称す)とした。いずれも、ノズルは孔径が約1mm、噴射流量が0.0008m3/分とし、スポット径/ロッド径は0.21とした。また、多結晶シリコンロッドは直径125mmで、280mmの長さのものを用いた。その他、実験1の場合と同様に、約650℃に加熱した多結晶シリコンロッドに温度25℃の水を10秒間噴射してスポット状に冷却した後、超硬製ハンマーで軽く叩いた。
結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2中、クラック状況の「A」は、1点冷却の場合と同様に、多結晶シリコンロッドの外周全周にクラックが発生したもの、「B」は、多結晶シリコンの周方向へのクラックの進展は少なく、スポット間を連結する方向(多結晶シリコンロッドの長さ方向)にクラックが進展したものを示す。
予期せざることに、周方向のクラックの発生は、隣接するノズルの間隔を大きくして水を噴射したNo.9、No.11の方が、No.8、No.10に比べて進展が顕著であった。
図7及び図8は、ハンマーで軽く叩いた後の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示している。図7は、No.9の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示しており、多結晶シリコンロッドの外周の全周にわたってクラックが発生して、全体的にクラックから割れている。図8は、No.10の割れ状況を示しており、多結晶シリコンロッドの長さ方向にクラックが進展し、多結晶シリコンロッドの外周部側でクラックが留まって、中心部にまで進展せず、冷却点とは反対側に矢印で示したように大きな塊が残った。
ノズル間隔が90mmのものは、スポットの間隔が小さいことから、スポットの中心と、スポット直径の2倍の位置との温度差が小さく、このため、多結晶シリコンロッドの長さ方向にクラックが進展したものと推測される。
【0037】
(実験3)
次に、多結晶シリコンの両側に一列ずつノズルを並べた配置(両側配置と称す)について同様の実験をした。また、この両側配置においては、多結晶シリコンロッドを介してノズルを180°対向状態に配置した場合(対向配置と称す)と、片側に配置されるノズル間の中間位置に対向する反対側にノズルを配置した場合(非対向配置と称す)とでクラックの形成状況を確認した。ノズルは孔径が約1mm、噴射流量が0.0008m3/分とし、スポット径/ロッド径は0.21とし、水温25℃、噴射時間10秒とした。また、多結晶シリコンロッドは直径約125mm、長さ280mmのものを用い、約650℃に加熱して使用した。
【0038】
【表3】
【0039】
表3中、クラック状況の「D」は、1点冷却の場合と同様に、多結晶シリコンロッドの全周にクラックが入り、ハンマーで叩くとクラックに沿って割れるが、スポット冷却の周辺以外の部分にはクラックが入りにくく、そのため、比較的大きな塊として残ったものがあった。「E」は、多結晶シリコンロッドの両端部にわずかにクラック入り難い部分があったが、全体の8割以上の部分にクラックが入っていた。図9及び図10は、ハンマーで軽く叩いた後の多結晶シリコンロッドの割れ状況を示しており、図9がNo.12、図10がNo.14のものを示している。
【0040】
(実験4)
No.14の条件でノズルを配置し、ノズルの前方で多結晶シリコンロッドを3秒〜10秒間停止することにより、水を連続的に噴射した。これをハンマーで軽く叩いたところ容易に小さい塊となった。塊の大きさは、水の噴射時間と相関し、噴射時間が3秒の場合は最大長部分が50mm以上のサイズの破片が23個中4〜6個存在し、噴射時間が5秒の場合は50mm以上のサイズの破片が43個中2〜3個存在した。噴射時間を10秒にした場合は、50mm以上のサイズの破片は存在しなかった。
一方、多結晶シリコンロッドを移動しながら水を噴射した場合もクラックが入り、ハンマーで軽く叩くと割れて塊状となるが、多結晶シリコンロッドを停止した状態で水を噴射した場合に比べて大きいサイズの塊の割合が多かった。
【0041】
また、多結晶シリコンロッドの温度分布をシミュレーション解析により求めたところ、図11に示す結果となった。この図6において、1ブロックは5.7mm四方であり、スポット径が5.7mm、そのスポットの中心の温度と、中心からスポットの直径の2倍の位置との温度差はロッドの長さ方向で216℃、半径方向(中心に向かう方向)で264℃であった。
【0042】
なお、上記実施形態においては、1本の多結晶シリコンロッドを加熱して急冷するものとして説明したが、複数本の多結晶シリコンロッドを同時に加熱して急冷するようにしてもよい。図12は、3本の多結晶シリコンロッドRをいわゆる俵積み状に支持台2に載置して水を噴射している状態を示しており、水槽5の両側壁5aの他に底壁5bにもノズル4を配置し、各多結晶シリコンロッドRの1本ずつに、その周方向に複数個所(図示例では2箇所)から水が噴射されるようにしている。底壁5bに配置したノズル4から水を噴射する場合、局部冷却の後、水槽5に純水を満たして全体冷却を行えばよい。あるいは、局部冷却を行う間、可動式のノズルを多結晶シリコンロッドより下方で水面より上の部位に配置してもよい。
また、多結晶シリコンロッドを浸漬する水槽を設ける場合、水槽内に浸漬した後に、多結晶シリコンロッドの表面に向けて水を噴射するようにしてもよく、水槽内での膜沸騰現象の発生を確実に防止することができる。
また、局部冷却工程でノズルから噴射する水は純水を使用することが好ましい。
【0043】
また、上記実施形態では多結晶シリコンロッドに噴射する冷却流体として水を用いたが、液体窒素等を用いてもよい。また、図1に示す例では、多結晶シリコンロッドの両側に配置される各ノズルの高さ位置を同じに設定しているが、その両側でノズルの高さ位置を変えるようにしてもよく、その場合、多結晶シリコンロッドに対して冷却流体の噴射が前側からと後側からとで時間差をおいて行われるようになる。各ノズルを同じ高さ位置に配置して、冷却流体を交互に噴射するようにしてもよい。さらに、ノズルによる局部冷却手段の後に、水槽を設けたが、全体冷却手段としては、この水槽の他に、多結晶シリコンロッドの全体にシャワー状に冷却流体を噴射するものであってもよい。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 クラック発生装置
2 支持台
3 加熱器(加熱手段)
4 ノズル(局部冷却手段)
5 水槽(全体冷却手段)
5a 側壁
11 パイプ部材
12 ヘッダ部材
13 吊下げ部材
R 多結晶シリコンロッド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる方法であって、冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状となるように噴射する局部冷却工程を有することを特徴とする多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項2】
前記多結晶シリコンロッドの両側方に前記多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をあけて複数ずつ配置したノズルから前記冷却流体を噴射するとともに、前記両側方のうちの一方側で隣合うノズル間の中間位置の反対側に他方側のノズルが配置されていることを特徴とする請求項1記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項3】
前記冷却流体を噴射するノズルは、ノズルの孔面積が0.5〜20mm2で、該ノズル先端から前記多結晶シリコンロッドの表面までが1〜200mmの距離で冷却流体を噴射することを特徴とする請求項1又は2記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項4】
前記冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面において0.0006〜0.006m3/分の流量で噴射することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項5】
前記局部冷却工程の後に、多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる全体冷却工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項6】
前記冷却体は冷却流体であることを特徴とする請求項5記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法を用いて多結晶シリコンロッドの塊を製造する方法であって、前記全体冷却工程の後に、打撃又は機械的衝撃によって前記多結晶シリコンロッドを多結晶シリコン塊に破砕する破砕工程を有することを特徴とする多結晶シリコン塊の製造方法。
【請求項8】
多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる装置であって、前記多結晶シリコンロッドを加熱する加熱手段と、冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状となるように噴射可能な局部冷却手段とを有することを特徴とする多結晶シリコンロッドのクラック発生装置。
【請求項9】
前記局部冷却手段は、前記多結晶シリコンロッドの設置位置の両側方に、前記冷却流体を噴射するノズルが前記多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をあけて複数ずつ並べられるとともに、前記両側方のうちの一方側で隣合うノズル間の中間位置の反対側に他方側のノズルが配置されていることを特徴とする請求項8記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置。
【請求項10】
さらに前記多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる全体冷却手段を備えることを特徴とする請求項8又は9記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置。
【請求項11】
前記冷却体は冷却流体であることを特徴とする請求項10記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置。
【請求項1】
多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる方法であって、冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状となるように噴射する局部冷却工程を有することを特徴とする多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項2】
前記多結晶シリコンロッドの両側方に前記多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をあけて複数ずつ配置したノズルから前記冷却流体を噴射するとともに、前記両側方のうちの一方側で隣合うノズル間の中間位置の反対側に他方側のノズルが配置されていることを特徴とする請求項1記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項3】
前記冷却流体を噴射するノズルは、ノズルの孔面積が0.5〜20mm2で、該ノズル先端から前記多結晶シリコンロッドの表面までが1〜200mmの距離で冷却流体を噴射することを特徴とする請求項1又は2記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項4】
前記冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面において0.0006〜0.006m3/分の流量で噴射することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項5】
前記局部冷却工程の後に、多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる全体冷却工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項6】
前記冷却体は冷却流体であることを特徴とする請求項5記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生方法を用いて多結晶シリコンロッドの塊を製造する方法であって、前記全体冷却工程の後に、打撃又は機械的衝撃によって前記多結晶シリコンロッドを多結晶シリコン塊に破砕する破砕工程を有することを特徴とする多結晶シリコン塊の製造方法。
【請求項8】
多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させる装置であって、前記多結晶シリコンロッドを加熱する加熱手段と、冷却流体を前記多結晶シリコンロッドの表面の一部にスポット状となるように噴射可能な局部冷却手段とを有することを特徴とする多結晶シリコンロッドのクラック発生装置。
【請求項9】
前記局部冷却手段は、前記多結晶シリコンロッドの設置位置の両側方に、前記冷却流体を噴射するノズルが前記多結晶シリコンロッドの長さ方向に間隔をあけて複数ずつ並べられるとともに、前記両側方のうちの一方側で隣合うノズル間の中間位置の反対側に他方側のノズルが配置されていることを特徴とする請求項8記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置。
【請求項10】
さらに前記多結晶シリコンロッドの外表面の全体に冷却体を接触させる全体冷却手段を備えることを特徴とする請求項8又は9記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置。
【請求項11】
前記冷却体は冷却流体であることを特徴とする請求項10記載の多結晶シリコンロッドのクラック発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−46594(P2011−46594A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168671(P2010−168671)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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