説明

多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法

【課題】ダイヤモンドに炭素以外の異種元素が均一に添加されたナノ多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ナノ多結晶ダイヤモンド1は、炭素と、該炭素中に原子レベルで分散するように添加され炭素以外の元素である異種元素3と、不可避不純物とで構成される。該多結晶ダイヤモンド1の結晶粒径は500nm以下である。上記多結晶ダイヤモンド1は、炭素以外の元素である異種元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛に、高圧プレス装置内で熱処理を施すことで作製可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法に関し、特に、ナノサイズの結晶粒を有し、炭素以外の異種元素が均一に添加されたダイヤモンド(以下、「異種元素添加ナノ多結晶ダイヤモンド」と称する)およびその製造方法する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ多結晶ダイヤモンド焼結体が、天然の単結晶ダイヤモンドを超える硬さを有し、工具として優れた性質を備えるということが明らかになってきた。該ナノ多結晶ダイヤモンドは本来絶縁体であるが、適切なドーパント等の他の元素を添加することで、ダイヤモンドに導電性等の更なる機能を付与することができる。また、ダイヤモンドに添加する元素を適切に選択することで、ダイヤモンドの光学特性、電気特性、機械特性等の様々な特性を変化させることができる。
【0003】
例えばダイヤモンドに導電性を付与可能なドーパントを添加する方法として、E.A. Ekimov et al, Nature,Vol.428(2004),542〜545(非特許文献1)に示されるように、黒鉛にドーパントを固溶させて添加する方法がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】E.A. Ekimov et al, Nature,Vol.428(2004),542〜545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように黒鉛にドーパントを固溶させて添加する方法では、ドーパントを黒鉛中に原子レベルで分散させることは困難である。そのため、黒鉛中にドーパントが不均一に分布することとなる。このようにドーパントが不均一に分布した黒鉛をダイヤモンドに直接変換すると、ドーパント濃度が高い部分で、ダイヤモンドの結晶粒が局所的に大きくなる。その結果、数10nm〜数100μm程度にまでダイヤモンドの結晶粒径がばらつくこととなる。したがって、ナノサイズに揃った結晶粒を持つドープトナノ多結晶ダイヤモンドを得ることは困難となる。また、ドーパントが固溶した黒鉛をダイヤモンドに直接変換すると、ドーパントクラスターも生じてしまう。
【0006】
ドーパントを黒鉛に固溶する際には、一般に、ドーパントとなる元素個体、ドーパントとなる元素の酸化物、水素化物、ハロゲン化物のような化合物を用いるのであるが、これらを用いた場合には、ドーパントの水素化物、酸化物等も残留したり、化合物を生じる。これらの触媒作用により、変換後のダイヤモンドの結晶粒が局所的に異常に大きくなることがある。
【0007】
次に考えられる方法として、黒鉛粉末とドーパント粉末とを可能な限り細かく粉砕し、厳密に選別した上でこれらの粉末を混合し、さらに加熱反応処理を施したものを原料とする方法がある。
【0008】
ところが、この方法でも、原子レベルで黒鉛とドーパントとを混合することが困難であり、ドーパント原子の多くは、少なくとも2つ以上の原子が集まったクラスター状になる。そのため、黒鉛中でドーパントの濃度分布が生じ易くなり、該黒鉛を用いて作製したダイヤモンドの結晶粒も部分的に急成長し易くなる。よって、この手法の場合も、ナノサイズに揃った結晶粒を持つドープトナノ多結晶ダイヤモンド焼結体を得ることは困難となる。
【0009】
上述の問題は、ダイヤモンドにドーパント以外の異種元素を添加した場合にも同様に生じ得る問題である。
【0010】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、ダイヤモンドに炭素以外の異種元素が均一に添加されたナノ多結晶ダイヤモンドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドは、炭素と、該炭素中に原子レベルで分散するように添加され炭素以外の元素である異種元素と、不可避不純物とで構成される。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は500nm以下程度である。
【0012】
上記異種元素は、好ましくは、置換型の孤立原子として炭素中に分散する。異種元素の濃度は、例えば1×1014/cm以上1×1022/cm以下程度である。上記多結晶ダイヤモンドは、1500℃以上の温度で、異種元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを熱分解して得られた黒鉛を焼結することで作製可能である。
【0013】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドの製造方法は、炭素以外の元素である異種元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛を準備する工程と、高圧プレス装置中でで該黒鉛に熱処理を施してこの黒鉛を直接ダイヤモンドに変換する工程とを備える。
【0014】
上記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、焼結助剤や触媒を添加することなく、高圧プレス装置中で黒鉛を加熱することが好ましい。上記黒鉛を準備する工程は、真空チャンバ内に異種元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを導入し、1500℃以上の温度で混合ガスを熱分解して基材上に異種元素添加を行った黒鉛を形成する工程を含むものであってもよい。上記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、基材上に形成された黒鉛を高圧プレス装置中で加熱してもよい。上記混合ガスを、基材の表面に向けて流すようにすることが好ましい。炭化水素ガスとしては、例えばメタンガスを使用可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドでは、炭素中に原子レベルで分散するように異種元素を添加しているので、従来にないレベルの均一さで異種元素をダイヤモンド中に添加することができる。
【0016】
本発明に係る多結晶ダイヤモンドの製造方法では、真空チャンバ内で、炭素以外の元素である異種元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛に熱処理を施して多結晶ダイヤモンドに変換しているので、従来にないレベルで異種元素が均一に添加された多結晶ダイヤモンドを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の1つの実施の形態における多結晶ダイヤモンドを基材上に作製した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図1を用いて説明する。
本実施の形態における異種元素添加ナノ多結晶ダイヤモンドは、該多結晶ダイヤモンド本体を構成する炭素中に原子レベルで分散するように添加された異種元素を備える。ここで、「異種元素」とは、本願明細書では、ダイヤモンドに添加可能な元素であって、ダイヤモンドを構成する炭素以外の元素であり、かつダイヤモンドに含まれる不可避不純物ではない元素をいう。異種元素としては、例えば窒素、水素、III族元素、V族元素、シリコン、遷移金属等の金属、希土類等を挙げることができる。なお、異種元素を単独でダイヤモンドに添加してもよく、複数の異種元素を同時にダイヤモンドに添加してもよい。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンド1は、基材2上に形成され、原子レベルで均一に分散した異種元素3を含む。なお、「原子レベルで分散する」とは、本願明細書では、たとえば、真空雰囲気中で、炭素と、異種元素とを、気相状態で混合させて固化して固体炭素を作製した場合に、該固体炭素中に異種元素が分散するレベルの分散状態をいう。すなわち、この状態は、孤立して析出している元素や、ダイヤモンド以外の化合物を形成していない状態である。
【0020】
該ナノ多結晶ダイヤモンド1は、基材上に形成された黒鉛(グラファイト)に熱処理を施すことで作製可能である。黒鉛は、一体の固体であり、結晶化部分を含む。図1の例では、多結晶ダイヤモンド1は、平板状の形状を有しているが、任意の形状、厚みとすることが考えられる。基材上に形成された黒鉛に熱処理を施してナノ多結晶ダイヤモンド1を作製した場合には、ナノ多結晶ダイヤモンド1と黒鉛は、基本的に同形状を有することとなる。
【0021】
上記異種元素は、黒鉛の形成段階で黒鉛中に添加することができる。具体的には、異種元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを1500℃以上の温度で熱分解して基材上に黒鉛を形成し、同時に黒鉛中に異種元素を添加することができる。このように、気相の状態で黒鉛形成用の原料ガス中に異種元素を混合して黒鉛中に異種元素を添加することで、黒鉛中に原子レベルで均一に異種元素を添加することができる。また、炭化水素ガスに対する異種元素を含むガスの添加量を適切に調整することで、所望の量の異種元素を、原子レベルで均一に異種元素を添加することができる。
【0022】
上記混合ガスの熱分解は真空チャンバ内で行うことができ、この際に真空チャンバ内の真空度を比較的高く設定することで、黒鉛中への不純物混入を抑制することができる。しかし、実際には、黒鉛中には、意図しない不可避不純物が混入してしまう。この不可避不純物としては、窒素、水素、酸素、硼素、シリコン、遷移金属等であって、上記異種元素以外の元素を挙げることができる。
【0023】
本実施の形態の異種元素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを作製するために使用する黒鉛では、各不可避不純物の量が0.01質量%以下程度である。つまり、黒鉛中の不可避不純物濃度が、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析での検出限界以下程度である。また、遷移金属については、黒鉛中の濃度が、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析やSIMS分析における検出限界以下程度である。
【0024】
このように、黒鉛中の不純物量をSIMS分析やICP分析での検出限界レベルにまで低下させることで、該黒鉛を用いてダイヤモンドを作製した場合に、添加することを意図した異種元素以外の不純物量が極めて少ないダイヤモンドを作製することができる。なお、SIMS分析やICP分析での検出限界より若干多い不純物を含む黒鉛を用いた場合でも、従来と比較すると格段に優れた特性のダイヤモンドが得られる。
【0025】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、上記のように異種元素を原子レベルで均一に含み、不純物量も極めて少ない。該ナノ多結晶ダイヤモンドでは、炭素中で異種元素の原子が、クラスター状に凝集することがなく、ダイヤモンド全体にわたってほぼ均一に分散した状態となる。理想的には、異種元素の原子は、上記炭素中で、互いに孤立した状態で存在する。
【0026】
上記のように、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドが炭素中に原子レベルで分散する異種元素を備えるので、従来にないレベルで、異種元素が均一に添加されたナノ多結晶ダイヤモンドが得られる。また、ナノ多結晶ダイヤモンド中に異種元素を原子レベルで均一に分散させることができるので、ダイヤモンドに所望の特性・機能を効果的に付与することができる。例えば、適切な元素を添加することで、ダイヤモンドの耐磨耗性を効果的に高める等のダイヤモンドの機械特性を改善することができ、ダイヤモンドに導電性を付与する等のダイヤモンドの電気特性を改善することもでき、またダイヤモンドを均一に着色する等してダイヤモンドの光学特性を改善することもできる。
【0027】
異種元素としては、例えば窒素を選択することができる。この場合には、窒素を原子レベルでダイヤモンド中に分散させることができる。つまり、ダイヤモンド中に窒素原子を孤立させて導入することができる。このとき、窒素原子は、炭素原子と置換した状態で炭素(ダイヤモンド本体)中に存在する。つまり、窒素原子は、炭素中に単純に混入された状態ではなく、窒素原子と炭素原子とが化学結合したような状態となる。
【0028】
通常、窒素を気体として気孔に含むグラファイトを20GPa、2300℃という高温高圧下でダイヤモンドに直接変換した場合、数百ppm程度の窒素が凝集した状態でダイヤモンドに混入し、ダイヤモンド中の孤立窒素は1ppm以下程度となる。この孤立窒素がダイヤモンドの着色のためには重要であり、孤立窒素を含むダイヤモンドは黄色からオレンジのような色を呈する。このダイヤモンドに電子線を照射して600℃以上で高温加熱を行うと、赤やピンク色といった着色が見られる。このことは、上記のような処理により、窒素と欠陥が結びついたNV(Nitrogen Vacancy)欠陥という550nm程度の光を吸収して638nm程度の発光を示す欠陥が生成したことを意味する。このNV欠陥は孤立した状態で、置換型原子として存在する窒素がないと生成されない。一方、凝集した状態でダイヤモンドに混入した窒素は、ダイヤモンドの着色には実質的に寄与しない。
【0029】
窒素を添加した本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドでは、窒素が原子レベルでダイヤモンド中に分散しているので、凝集した状態でダイヤモンド中に混入した窒素がほとんど存在しない。そのため、該ナノ多結晶ダイヤモンドに電子線を照射して600℃以上で高温加熱を行うと、赤色等にダイヤモンドを着色することができる。また、添加された窒素はダイヤモンドの結晶粒界に凝集することもなく、ダイヤモンド中に不純物も極めて少ないので、ダイヤモンド結晶の異常成長をも効果的に抑制することができる。その結果、10〜500nmといった結晶粒径(結晶粒の最大長さ)の多結晶体でありながら、着色されたナノ多結晶ダイヤモンドが得られる。
【0030】
さらに、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドでは、上述した窒素のような異種元素がダイヤモンド本体中に原子レベルで分散するので、ダイヤモンド中での異種元素の濃度分布も生じ難くなる。このことからも、ダイヤモンドの結晶粒の局所的な異常成長を効果的に抑制することができる。その結果、従来例と比較すると、ダイヤモンドの結晶粒の大きさをも揃えることができる。
【0031】
ダイヤモンド中の異種元素の濃度は、任意に設定可能である。異種元素の濃度を高くすることも低くすることも可能である。いずれの場合も、原子レベルでダイヤモンド中に異種元素を分散させることができるので、ダイヤモンド中で異種元素の濃度分布が生じるのを効果的に抑制することができる。なお、異種元素の添加濃度は、多結晶ダイヤモンドの結晶粒径を10〜500nm程度の範囲に保つために、合計で1014〜1022/cm程度の範囲が好ましい。
【0032】
次に、本実施の形態の異種元素添加ナノ多結晶ダイヤモンドの製造方法について説明する。
【0033】
まず、真空チャンバ内で、1500℃以上3000℃以下程度の温度に基材を加熱する。加熱方法としては周知の手法を採用することができる。たとえば、基材を直接あるいは間接的に1500℃以上の温度に加熱可能なヒータを真空チャンバに設置することが考えられる。
【0034】
基材としては、1500℃〜3000℃程度の温度に耐え得る材料であれば、いかなる金属、無機セラミック材料、炭素材料でも使用可能である。しかし、原材料となる黒鉛に不純物を混入させないという観点から、基材を炭素で作製することが好ましい。より好ましくは、基材を、不純物の極めて少ないダイヤモンドや黒鉛で構成することが考えられる。この場合、少なくとも上記基材の表面を、ダイヤモンドや黒鉛で構成すればよい。
【0035】
次に、真空チャンバ内に、炭化水素ガスと、異種元素を含むガスとを導入する。このとき、真空チャンバ内の真空度は20〜100Torr程度にしておく。それにより、炭化水素ガスと異種元素を含むガスとを真空チャンバ内で混合することができ、加熱した基材上に、異種元素を原子レベルで取り込んだ黒鉛を形成することができる。また、化合物を異種元素源として導入した場合にも、不要な成分が残らない。なお、混合ガスの導入後に基材を加熱し、該基材上に異種元素を含む黒鉛を形成するようにしてもよい。
【0036】
上記炭化水素ガスとしては、たとえばメタンガスを使用可能である。異種元素を含むガスとしては、異種元素の水素化物あるいは有機化合物のガスを採用することが好ましい。異種元素を水素化物とすることにより、高温中で容易に異種元素の水素化物を分解することができる。また、異種元素を有機化合物とすることにより、異種元素が炭素で囲まれたような状態、つまり異種元素同士が孤立した状態とすることができる。それにより、孤立した状態で異種元素を黒鉛中に取り込み易くなる。
【0037】
異種元素として窒素を選択した場合には、たとえばメチルアミンまたはその類似物のガスを使用することができる。メタンガスとメチルアミンガスとをアルゴンガスでバブリングして混合ガスとする場合、10−7%〜100%までの比率で混合ガスを真空チャンバ内に導入することができる。
【0038】
黒鉛の形成時には、炭化水素ガスと、異種元素を含むガスとを、基材の表面に向けて流すようにすることが好ましい。それにより、基材近傍で効率的に各ガスを混合することができ、異種元素を含有する黒鉛を効率的に基材上に生成することができる。炭化水素ガスや異種元素含有ガスは、基材の真上から基材に向けて供給してもよく、斜め方向あるいは水平方向から基材に向けて供給するようにしてもよい。真空チャンバ内に、炭化水素ガスや異種元素含有ガスを基材に導く案内部材を設置することも考えられる。
【0039】
上記のようにして製造され、炭素以外の元素である異種元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛を、高圧プレス装置内で焼結することで、従来にないレベルで異種元素が均一に添加された異種元素添加ナノ多結晶ダイヤモンドを作製することができる。つまり、黒鉛の焼結後に、ナノサイズの結晶粒を有するナノ多結晶ダイヤモンドが得られる。例えば、多結晶ダイヤモンドの結晶粒径を、10〜500nm程度とすることができる。
【0040】
なお、黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、焼結助剤や触媒を添加することなく、高圧力下で黒鉛に熱処理を施すことが好ましい。また、黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、基材上に形成された黒鉛に超高圧力装置内で熱処理を施してもよい。
【0041】
本実施の形態の方法では、通常はダイヤモンドに添加し難い元素も、急激な結晶の生成によって、ダイヤモンド結晶内に孤立させた状態で閉じ込めることができる。
【0042】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドの作製に使用可能な上記黒鉛は、例えば一部に結晶化部分を含む結晶状あるいは多結晶である。また、黒鉛の密度は、好ましくは、0.8g/cmより大きい。それにより、黒鉛を焼結した際の体積変化を小さくすることができる。また、黒鉛を焼結した際の体積変化を小さくして歩留まりを向上させるという観点から、実験的には、黒鉛の密度を1.4g/cm以上2.0g/cm以下程度とすることが更に好ましい。
【0043】
黒鉛の密度を上記の範囲とするのは、黒鉛の密度が1.4g/cmよりも低い場合には、高温高圧プロセス時の体積変化が大きすぎて、温度制御がきかなくなることがあると考えられるからである。また、黒鉛の密度が2.0g/cmより大きいと、ダイヤモンドに割れの発生する確率が2倍以上になってしまうことがあるからである。
【0044】
次に、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0045】
真空チャンバー内でメタンガスとメチルアミンを1:1で混合し、1900℃に加熱したダイヤモンド基材上に上記混合ガスを吹き付けた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に窒素を含有する黒鉛が堆積した。この黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。
【0046】
上記黒鉛を、合成温度2300℃、15GPaでダイヤモンドに変換し、窒素が添加されたナノ多結晶ダイヤモンドを得た。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜200nmの大きさであった。この多結晶ダイヤモンドに電子線を照射し、800℃の高温でアニールしたところ、赤色のナノ多結晶ダイヤモンドが得られた。
【実施例2】
【0047】
真空チャンバー内でメタンガスとトリメチルアミンを1:1で混合し、1900℃に加熱したダイヤモンド基材上に上記混合ガスを吹き付けた。このとき、真空チャンバー内の真空度は20〜30Torrとした。すると、基板上に窒素を含有する黒鉛が堆積した。この黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。ICP元素分析によると、黒鉛中の窒素濃度は100ppmであった。
【0048】
上記黒鉛を、合成温度2300℃、15GPaでダイヤモンドに変換し、窒素が添加されたナノ多結晶ダイヤモンドを得た。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜200nmの大きさであった。この多結晶ダイヤモンドに電子線を照射し、800℃の高温でアニールしたところ、うすい赤色のナノ多結晶ダイヤモンドが得られた。
【実施例3】
【0049】
真空チャンバー内でメタンガスとメチルアミンを1:1で混合し、1900℃に加熱したダイヤモンド基材上に上記混合ガスを吹き付けた。このとき、真空チャンバー内の真空度は100Torrとした。すると、基板上に窒素を含有する黒鉛が堆積した。この黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。ICP元素分析によると、黒鉛中の窒素濃度は100ppmであった。
【0050】
上記黒鉛を、合成温度2300℃、15GPaでダイヤモンドに変換し、窒素が添加されたナノ多結晶ダイヤモンドを得た。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜200nmの大きさであった。この多結晶ダイヤモンドに電子線を照射し、800℃の高温でアニールしたところ、赤色のナノ多結晶ダイヤモンドが得られた。
【実施例4】
【0051】
真空チャンバー内でメタンガスとトリメチルアミンを1:1で混合し、1900℃に加熱したダイヤモンド基材上に上記混合ガスを吹き付けた。このとき、真空チャンバー内の真空度は100Torrとした。すると、基板上に窒素を含有する黒鉛が堆積した。この黒鉛のかさ密度は2.0g/cmであった。ICP元素分析によると、黒鉛中の窒素濃度は150ppmであった。
【0052】
上記黒鉛を、合成温度2300℃、15GPaでダイヤモンドに変換し、窒素が添加されたナノ多結晶ダイヤモンドを得た。該多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は、各々10〜200nmの大きさであった。この多結晶ダイヤモンドに電子線を照射し、800℃の高温でアニールしたところ、うすい赤色のナノ多結晶ダイヤモンドが得られた。
【0053】
<比較例1>
市販の黒鉛を窒素雰囲気下で封入し、15GPa、2300℃の高温高圧条件下で直接的に黒鉛からナノ多結晶ダイヤモンドに合成したところ、該多結晶ダイヤモンド中の窒素濃度は100ppmであった。ところが、この多結晶ダイヤモンドに電子線を照射して800℃でアニールしても、ダイヤモンドは赤色にはならなかった。これは、ダイヤモンド中の孤立窒素が1ppm以下程度と極めて微量であったことを意味している。
【0054】
以上の実施例では、真空チャンバー内の真空度を20〜100Torrとし、該真空チャンバー内で、炭化水素ガスと、窒素を含むガスとを混合し、1900℃程度の温度に加熱した基材上に供給することで、該基材上に、固相で、かさ密度が2.0g/cm程度である、原子レベルで窒素が分散された黒鉛を作製できることを確認できた。また、当該黒鉛を、合成温度2300℃、15GPaでダイヤモンドに変換することで、原子レベルで窒素が分散され、結晶粒径(結晶粒の最大長さ)が各々10〜200nm程度の大きさのナノ多結晶ダイヤモンドを作製できることも確認できた。しかし、上記以外の範囲の条件であっても、特許請求の範囲に記載の範囲であれば、優れた特性を有するナノ多結晶ダイヤモンドを作製できるものと考えられる。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および実施例を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 ナノ多結晶ダイヤモンド、2 基材、3 異種元素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素と、
前記炭素中に原子レベルで分散するように添加され、前記炭素以外の元素である異種元素と、
不可避不純物とで構成され、
結晶粒径が500nm以下である、多結晶ダイヤモンド。
【請求項2】
前記異種元素は、置換型の孤立原子として前記炭素中に分散する、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項3】
前記異種元素の濃度は、1×1014/cm以上1×1022/cm以下である、請求項1または請求項2に記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項4】
前記多結晶ダイヤモンドは、1500℃以上の温度で、前記異種元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを熱分解して得られた黒鉛を焼結することで作製される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンド。
【請求項5】
炭素以外の元素である異種元素が炭素中に原子レベルで分散するように添加された黒鉛を準備する工程と、
高圧プレス装置内で前記黒鉛に熱処理を施して前記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程と、
を備えた、多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項6】
前記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、焼結助剤や触媒を添加することなく、前記高圧プレス装置内で前記黒鉛に熱処理を施す、請求項5に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項7】
前記黒鉛を準備する工程は、前記真空チャンバ内に前記異種元素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを導入し、1500℃以上の温度で前記混合ガスを熱分解して基材上に黒鉛を形成する工程を含む、請求項5または請求項6に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項8】
前記黒鉛をダイヤモンドに変換する工程では、前記基材上に形成された前記黒鉛に前記高圧プレス装置内で熱処理を施す、請求項7に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項9】
前記混合ガスを、前記基材の表面に向けて流すようにした、請求項7に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。
【請求項10】
前記炭化水素ガスは、メタンガスである、請求項5から請求項9のいずれか1項に記載の多結晶ダイヤモンドの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−28498(P2013−28498A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165747(P2011−165747)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】