多色発光混合物及び多色発光インキ組成物、並びに画像形成物
【課題】 紫外線の照射波長によって励起特性及び発光波長の異なる複数の紫外線励起顔料あるいは可視光発光染料を混合し、紫外線領域の照射波長に応じて発光が連続的に変化する多色発光混合物及び多色発光インキ組成物、並びに画像形成物に関する。
【解決手段】 紫外線の照射により、発光する第1の発光体、第2の発光体又は第3の発光体が、RGB色表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもつ蛍光体から選ばれ、R領域に発光する少なくとも一つの発光体を第1の発光群、G領域に発光する少なくとも一つの発光体を第2に発光群、B領域に発光する少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、第1の発光群、第2の発光群及び第3の発光群の中から選ばれるR領域、G領域及びB領域に発光する発光体のうち、少なくとも三つの蛍光体を混合してなる多色発光混合物及び多色発光インキ組成物、並びに画像形成物を提供する。
【解決手段】 紫外線の照射により、発光する第1の発光体、第2の発光体又は第3の発光体が、RGB色表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもつ蛍光体から選ばれ、R領域に発光する少なくとも一つの発光体を第1の発光群、G領域に発光する少なくとも一つの発光体を第2に発光群、B領域に発光する少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、第1の発光群、第2の発光群及び第3の発光群の中から選ばれるR領域、G領域及びB領域に発光する発光体のうち、少なくとも三つの蛍光体を混合してなる多色発光混合物及び多色発光インキ組成物、並びに画像形成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線の照射波長によって励起特性及び発光波長の異なる複数の紫外線励起顔料あるいは可視光発光染料をインキ用ビヒクルに混合し、紫外線領域の照射波長に応じて発光が連続的に変化する真偽判別性に優れた多色発光混合物及びそれをインキ用ビヒクルに混合した多色発光インキ組成物、並びに多色発光インキ組成物を用いて印刷した画像形成物に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、有価証券、カード及び通行券などの貴重印刷物や、運転免許証、パスポート及び保険証など個人を認証する証明証書は、第三者に偽造及び改ざんされないために常に新たな偽造防止技術を盛り込むことが要求されており、併せて真正品であるかどうかの判断が可能な真偽判別方法が必要とされている。
【0003】
蛍光体に代表される発光体は、それ単独で主たる真偽判定要素として発光色(色相)と発光強度の少なくとも二つの要素を有している。色相は、もともと固有のものであり、一方の発光強度は発光体の量が一定であればそれに従った値となるため、使用する発光体の種類と量を一定に保つことで機械検出において色相と発光強度の二つを用いた真偽判別が可能となる。
【0004】
例えば、色相と発光強度は分光測定においてはX軸に発光波長、Y軸に発光強度をとったグラフ上に波形として現せる。この波形の形状がそのまま色相と発光強度を表しており、その波形は発光体それぞれ固有の形状であることから、真偽判別において分光測定を行ったこの波形を単純に比較することでも判定可能である。
【0005】
また簡易的な方法としては発光体の代表的な発光ピークが存在する波長域の光のみをフィルタや回折格子を用いて取り出し(色相の選別)、光電変換する(発光強度の取得)ものでも判定は可能である。従来から発光体の機械判定にあたって一般的にはこの色相と発光強度の二つを何らかの真偽判別要素として使用している場合が多い。
【0006】
ただし、色相と発光強度は発光体を機械検出する場合には優れた真偽判別要素となりえるが、一方の目視による官能検査において発光強度が判定要素として用いられる機会は実際には極めてまれである。これは官能評価が主観評価であって検査人個人の感覚に依存し、ばらつきが生じることに加え、発光の強さはその観察時の環境に大きく影響を受けるためである。
【0007】
発光体に対する機械検査は多くの場合、光電変換素子とフィルタや回折格子の組み合わせで色相と発光強度を評価する装置を用いることが一般的であるが、いずれにしても可視光の影響を避けるために暗箱において外乱光を遮断して測定が行われるのに対し、官能検査は多くの場合、可視光が存在する環境で行なわれる。
【0008】
一例として、分光測定器を用いて測定した場合には発光ピークにおける発光強度が3分の1以下の強度に落ちた偽造印刷物に対して可視光がほとんど差し込まない環境で観察した場合においても、目視では極めて微弱な差異としてしか認められず、真性品と判定してしまう場合がある。観察環境に可視光が差し込む場合には発光体の発光はより一層弱く感じられ、発光強度を判定要素とする官能検査の精度はより一層低下することは言うまでもない。
【0009】
このことから、偽造品に使用される発光体が真性品とは異なった発光体であっても、色相のみが同一であれば、太陽光や蛍光灯の光に満たされた明るい環境下で、ブラックライトのみで蛍光発光を確認して真偽判別を行わなければいけないチケット換金所等の官能検査においては真性品と見分けがつかない場合が想定され、観察環境に依存する発光強度は官能検査の判別要素としてはほぼ機能しない可能性が高かった。
【0010】
このことを鑑みて、一つのインキに二種類の発光体を用い、紫外線照射波長に応じて色相を二種類に変化させる二色性発光インキが使用される場合がある。このインキに用いられる二色性発光体は、長波紫外励起タイプの発光体1と短波紫外線励起タイプの発光体2を組み合わせたものであり、インキ化する際に、一つのインキ用ビヒクルに二色性発光体を分散して作製するものである。特徴としては、紫外線長波を照射した場合には長波紫外励起タイプの発光体1が、ある一定の色相1で発光し、紫外線短波を照射した場合には、長波紫外励起タイプの発光体1と短波紫外線励起タイプの発光体2が同時に発光することで、紫外線長波照射時の発光色とは異なった色相2を発するものである。
【0011】
一般的な蛍光体と発光色及び励起特性を図1に示す。基材にこの二色性発光体が付与された代表的な例としては可視光で無色、紫外線短波で赤色、紫外線長波で緑色を発するフランスの500フラン券が公知であり、インキとしては大日本印刷の無色蛍光発光インキ(例えば、特許文献1参照)、及び国立印刷局が着色顔料を混合して作製した着色二色性発光インキがある。また、二色性発光顔料としてはハネウェル・ジャパンの「LUMILUX CD−R/G I」(紫外線長波で赤発光、紫外線短波で黄発光)、「LUMILUX R/G CD770」(紫外線長波で黄発光、紫外線短波で赤発光)、及び根本特殊化学社製造のDE−RB(紫外線長波で青発光、紫外線短波で赤発光)、DE−RG(紫外線長波で緑発光、紫外線短波で赤発光)、DE−GB(紫外線長波で青発光、紫外線短波で緑発光)、DE−GR(紫外線長波で赤発光、紫外線短波で緑発光)等が知られており、使用者は二つの色相を任意に選択して使用することができる。
【0012】
以上のように二色性発光体は目視判定時に有効な判別要素である色相を二つ有しており、これを一つのインキの中に分散させた二色性発光インキは真偽判別性を高めた新しい発光インキであり、紫外線短波と紫外線長波を代表とした二つ紫外線で色相を変化させるため、目視による官能検査における判別性は高まると予想される。
【0013】
また、機械検査の場合、従来までは紫外線長波あるいは紫外線短波のいずれか一つの色相と発光強度、それぞれ一つずつ合計二つの判定要素しか備えなかったが、二色性発光体はそれぞれ二つずつ合計四つの判定要素を備えることとなるため、単色発光の発光体と比較して判定適性も当然のことながら高まる。
【0014】
【特許文献1】特開平10−251570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
二色性発光体に使用される発光体は二種類の発光体で二つの色相変化を見せるために、主として紫外線短波(254nmを中心とする)で蛍光ピークが最大になる発光体と、主として紫外線長波(365nmを中心とする)で発光ピークが最大になる発光体の二つの発光体を組み合わせで設計されているのが一般的である。
【0016】
本来、発光体の励起される紫外線波長はこの二つのみではないが、励起に使用する水銀灯の輝線に合わせて紫外線の短波励起タイプと長波励起タイプと大きく区分けしていることと、使用者が所持する紫外線照射判別器具の多くが紫外線長波領域あるいは紫外線短波領域しか照射できないことが多いことにも少なからず関係している。
【0017】
紫外線と呼ばれる光領域は200nm〜400nmと広範囲にわたって存在するが、二色性発光体が色相の変化を見せるための一般的な代表波長の二つである紫外線長波と紫外線短波の間は100nm以上のブランクが存在する。多くの使用者が使用する紫外線照射判別器具もほぼこの波長に限ったものである。このことから、二色性発光体がそのブランクの波長においていかなる発光をした場合でもその差異が認識される機会はほとんどないため、現在二色性発光体は紫外線長波照射時と紫外線短波照射時に狙いを絞った設計となっている。
【0018】
このことを考慮すると、二色性発光体に使用する長波紫外線励起タイプの発光体と短波紫外線励起タイプの発光体は、紫外線長波照射時と紫外線短波照射時に限ってその色相を一致させていれば、目視の官能検査では真性であると判定されると考えられる。この場合には、真性品に用いられる長波紫外線励起タイプの発光体と短波紫外線励起タイプの発光体を使用しなくとも、それぞれ紫外線長波中心波長(365nm)及び紫外線短波中心波長(254nm)における色相が一致しさえすれば、励起特性が異なる異種の発光体を用いても偽造可能であることを意味する。
【0019】
この二色性発光体に用いられるこれら長波紫外励起タイプの発光体及び短波紫外線励起タイプの発光体は、発光印刷を行う印刷分野においてすでに公知であることに加え、青、赤、緑といったおおまかな色相ごとに数種類の発光体が発光体製造メーカからそれぞれ販売されている。
【0020】
それに加えて現在、様々な色相の長波紫外線励起タイプの発光体が一般的な雑貨量販店で容易に入手が可能となってきていることに加え、短波紫外線励起タイプの発光体も入手可能となりつつあるためにある程度の発光体の知見を有する者であれば二色性発光体の偽造は可能であると思われる。当然、発光印刷に関与する同業者にとっては容易に再現可能であることは言うまでもない。
【0021】
いずれにしても紫外領域の二つの波長域でのみ真偽の照合を行うこととなる二色性発光体は、単独の真偽判別要素として用いるには問題があると考えられている。
【0022】
以上のように二色性発光体を偽造し、インキ化することは単一色発光の発光インキと比較すると困難ではあっても、偽造者を含む熟練した同業者にとっては比較的容易であるという問題があった。
【0023】
本発明は、上記課題を解決するものであって、具体的には、紫外線の照射波長により、長波、中波又は短波で高い励起特性を示すべく、これらのいずれかの紫外線を照射して、RGB色表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの領域に可視光発光する少なくとも三つの発光顔料又は発光染料をインキ用ビヒクルに混合し、紫外線の照射波長に応じて、これまでに得られなかった混合色やRGB3原色による可視光発光が可能となり、蛍光発光が連続的に変化する真偽判別に優れた多色発光混合物及びそれをインキ用ビヒクルに混合して作製した多色発光インキ組成物、並びに多色発光インキ組成物を用いて印刷した画像形成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の多色発光混合物は、紫外線による励起特性の異なる少なくとも三つ以上の発光体を混合してなる多色発光混合物であって、紫外線の照射により発光する発光体は、それぞれ単体でRGB表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもち、R領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第1の発光群、G領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第2の発光群、B領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、第1の発光群から選ばれるR領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体、第2の発光群から選ばれるG領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体、第3の発光群から選ばれるB領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体のうち、少なくとも一つの発光体を混合してなり、紫外線領域の第1の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第1の発光体の発光強度が最も強く、紫外線領域の第1の波長とは異なる第2の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第2の発光体の発光強度が最も強く、紫外線領域の第1の波長、第2の波長とは異なる第3の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第3の発光体の発光強度が最も強くなるように混合してなることを特徴とする。
【0025】
本発明の多色発光混合物は、少なくとも一つの蛍光体又は燐光体から選ばれることを特徴とする。
【0026】
本発明の多色発光混合物は、少なくとも三つの発光体が、無機系発光体の発光体で構成されるか、もしくは無機系発光体と有機系発光体の組み合わせによって構成されることを特徴とする。
【0027】
本発明の多色発光インキ組成物は、紫外線の励起特性の異なる三つ以上の発光体を混合して作製した多色発光混合物を、インキ用ビヒクルに混合してなる多色発光インキ組成物であって、紫外線の照射により発光する発光体は、それぞれ単体でRGB表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもち、R領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第1の発光群、G領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第2の発光群、B領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、第1の発光群から選ばれるR領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体、第2の発光群から選ばれるG領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体、第3の発光群から選ばれるB領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体のうち、少なくとも一つの発光体を混合してなり、紫外線領域の第1の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第1の発光体の発光強度が最も高く、紫外線領域の第1の波長とは異なる第2の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第2の発光体の発光強度が最も高く、紫外線領域の第1の波長、第2の波長とは異なる第3の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第3の発光体の発光強度が最も高くなるように混合してなる多色発光混合物を、インキ用ビヒクルに混合してなることを特徴とする。
【0028】
本発明の画像形成物は、多色発光インキ組成物を用いて印刷層を形成してなるとことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
加法混色における色の三要素RGBのすべてを備えるため、二色性発光体では発色が不可能である「白色」発光や、使用する発光体の組み合わせによっては二色性発光体では困難であった中間色を含めた「紫・藍・青・緑・黄・橙・赤」の全色の発光が可能となる。
【0030】
RGBの要素を備えることで長波紫外線照射ランプ、中波紫外線照射ランプ及び短波紫外線照射ランプを同時に用いて複数の発光体を同時に励起させた場合、それぞれのランプの照射光量やランプから発光体までの距離を変化させることによって、色相を虹のごとく連続的に変化させることもできる。
【0031】
「紫・藍・青・緑・黄・橙・赤」の7色の主色相に加え、「白色」の8色すべてを判別することが可能であることはいうまでもないが、逆に各波長の紫外線照射ランプの照射光量を固定するか、あるいはランプと発光体までの距離を完全に固定することによって、使用者が決定した任意の色相に固定して識別することが可能となることから、迅速性を考慮した簡易的な目視認証においても極めて有効である。
【0032】
簡易的な官能検査(色相評価)しか行わない場合でも、一方の偽造者は従来の紫外線長波領域及び紫外線短波領域といった真偽判定に使用されている波長領域をあらかじめ絞ることが不可能であることから、偽造牽制・抑止力の向上に極めて有効であるといえる(紫外線中波領域を中心波長とした紫外線を照射する中波紫外線照射ランプは医療分野では従来から核酸の発光確認ランプとして使用されており、現在、長波紫外線照射ランプ及び短波紫外線照射ランプとほぼ同一の価格で販売されているため簡易的な紫外線中波確認手段については特に問題となるものではない)。
【0033】
一方、機械検査においても従来の単色発光体や二色性発光体は254nmを中心とした紫外線短波領域か、365nmを中心とした紫外線長波領域のどちらかの判別か、といった真偽判別に使用される紫外線波長域が制限される傾向があったが、この多色発光体は紫外線領域のどの波長域においても複雑で特徴的な発光特性を有することから、単色の発光体や二色性発光体では真偽判別対象とし得なかった200nmから400nmの紫外線全領域で連続して発光を取得し、すべての発光を判定要素とすることも可能となった。
【0034】
従来の発光体の認証が254nmあるいは365nmのいずれか一つ、あるいはその両方の多くても二つの波長領域でのみ行なわれていた。つまりX軸に発光波長、Y軸に発光強度に用いたグラフとして認証される、二次元的な形態であったものを、Z軸に紫外線励起波長を加えた三次元的な発光色の色相空間として認証する概念を導入することが可能であることを意味し、機械判別性は従来と比較して著しく高まることは言うまでもない。もちろん、簡易的な判定としても、機械判別の紫外線照射波長領域と受光領域を使用者が任意に設定する限定した方法も可能である。
【0035】
励起特性が異なる複数異種の発光体を使用した本発明はその蛍光体の組み合わせのみならず、蛍光体の混合割合によって、使用者のニーズに応じた様々な色相の組み合わせや発光強度の調整が可能となるとともに、その偽造には従来とは比較にならない技術レベルを要することとなることから偽造防止効果・偽造抑止力が極めて高くなる。また、その目視判定要素や機械判定要素の飛躍的な増大により、真偽判別性がより一層高まる。
【0036】
印刷物製造工程や検査工程においては判定要素の色相数が飛躍的に増大することにともなって、従来印刷工程で必要とされていた一方の判定要素である発光強度の概念の必要性が低くなる。このことは従来の発光体印刷における印刷皮膜厚さの管理を意味し、発光体の色相自体はインキ作製段階でその混合割合を保障することによって、ある一つの色相を確認することで全色相を管理できることから、発光体印刷の品質管理は従来の発光強度の数値化といった方法から、ブラックライトによるインキ付与の確認程度の極めて容易な方法のみで保障可能となる。
【0037】
加えて真性品印刷者にとってもこのように一つの像や画線、文字等が多色に発光する構成の印刷物を従来の技術で構成するためには、印刷ユニット三つを用いたうえで単色の発光インキ3種類をそれぞれ同じ位置に完全に一致させて重ね合わせる必要があり、その画線や画像が微小なサイズであった場合にはその再現は極めて困難なものであったが、単一の混合インキとして多色に発光する画線を作製することでその製造に必要な印刷ユニット数は一つとなり、刷り合わせの問題も同時に解消されることとなる。
【0038】
また、単体の発光体を多層に重ね合わせて紫外線全領域にわたって同一の色相を有する発光像や発光画線、発光像を作製する場合、発光層の上に配する場合と下に配する場合ではワニスや発光体によって発光特性が大きく変化するため、紫外線全領域で意図した色相を得ることは極めて高い技術と労力が必要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の多色発光混合物は、紫外線の励起特性の異なる三つ以上の蛍光体を混合して作製する。
【0040】
詳しくは、紫外線の照射により、発光する第1の発光体、第2の発光体又は第3の発光体が、RGB色表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもち、第1の発光体、第2の発光体又は第3の発光体は、それぞれ少なくとも一つの蛍光体から選ばれ、R領域に発光する少なくとも一つの発光体を第1の発光群、G領域に発光する少なくとも一つの発光体を第2に発光群、B領域に発光する少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、第1の発光群、第2の発光群及び第3の発光群の中から選ばれるR領域、G領域及びB領域に発光する発光体のうち、少なくとも三つの蛍光体を混合して作製する。
【0041】
さらに、紫外線領域の第1の波長で、混合した蛍光体のうち一つの発光体の発光強度が最も強く、紫外線領域の第1と異なる第2の波長で、混合した蛍光体のうち別の一つの発光強度が最も強く、紫外線領域の第1、第2と異なる第3の波長で、混合した蛍光体のうち別の一つの発光体の発光強度が最も強くなるように蛍光体を混合して作製する。
【0042】
多色発光インキ組成物に使用するそれぞれの発光体は、RGB領域に属する発光群から一つを選定し、選定した3種類の発光体を、目的を成すための最良の混合比によって混合する。
【0043】
作製した多色発光インキ組成物の効果確認は、紫外線を照射することによる色相評価とする。その際の紫外線照射手段としては、長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(254nm)を使用する。
【0044】
一般的に、発光体は長波紫外励起タイプと短波紫外線励起タイプに二つに大別されがちであるが、実際にはそれぞれの発光体固有の励起特性を持っている。一例として挙げると、短波紫外線励起タイプとして分類される発光体は、紫外線長波領域でほとんど発光せず紫外線短波領域でのみ発光するものであるが、この中には実際には紫外線中波領域ですでに発光しているものや、紫外線中波領域では発光せず紫外線短波領域でのみで急激に発光するものがある。また、長波紫外励起タイプとして単に分類されている発光体は、紫外線長波領域で発光して紫外線中波領域や紫外線短波領域で発光が落ちるものや、ほぼ変わらないもの、より強く光るものがある。
【0045】
また、有機系発光体は耐光性に問題がある場合が多いものの、長波紫外励起時には無機系とは比較にならないほどの強度の発光を有し、ピーク前後の適正な紫外線励起波長域が狭く、発光が減衰するものが多い。発光強度の違いを含めた励起特性を厳密に観察すると、励起特性はそれぞれの発光体に独特のものであることがわかる。この励起特性の違いを利用した場合には、一般に短波紫外線励起タイプと分類されている発光体同士の組み合わせであっても、配合量を調整することで紫外線中波領域から紫外線短波領域までの従来の半分の波長の中で顕著な色相変化をもつ二色性発光体を作製することが可能であり、同様に長波紫外線励起タイプ同士の発光体同士の組み合わせであっても、紫外線長波領域から紫外線中波領域までで色相変化をもつ二色性発光体を作製することも可能である。
【0046】
この場合、短波紫外線励起タイプ同士の組み合わせとしては、長波励起発光波長が異なったタイプを組み合わせることで実現可能であるとともに、長波励起発光後の発光の増減を利用することも可能である。長波励起発光波長の異なるタイプの発光体の組み合わせは、紫外線中波領域からゆるやかに発光する励起特性を持つ発光体と、紫外線短波領域で特異的に発光する励起特性の異なった発光体を組み合わせて配合を調整することで、紫外線中波領域では長波励起発光波長の違いから一つの発光体しか発光しえないが、紫外線発光波長が短くなるに従って、もう一つの発光体も急激に励起され徐々に発光色が二色の混色と化す。このように、二つの発光体の混合比を調整することで、最終的な発光色を任意に調整することが可能となる。
【0047】
また、長波紫外励起タイプ同士の組み合わせとしては、紫外線短波タイプと同様に長波励起波長の違いと長波励起発光後の発光の増減を利用することも可能である。一例として、初期発光後の発光の増減を利用した組み合わせとして、発光後に一気に発光強度が低下する有機系発光体と紫外線波長の変化に対して発光強度がほぼ一定である無機系発光体を組み合わせた場合が考えられる。
【0048】
二つの発光体はほぼ同時に励起されるため、初期発光が二つの発光体の発する色の混色となるが、両発光体の配合量を調整することで紫外線長波領域のある一定の域では有機系発光体の発光が主体的となる。しかし、それ以降の域では有機系発光体の発光強度が一気に低下するために無機系発光体の発光が主体的となる。このように有機系発光体と無機系発光体にそれぞれ異なった色相の発光体を使用することで同様な色相変化を得ることができる。
【0049】
例として有機系と無機系の組み合わせで説明をしたが、これについては励起特性が大きく異なっていれば無機系の発光体の組み合わせで配合を調整することで実現可能である。これらは発光ブランクが100nm程度存在する従来の二色性発光体と比較しても特徴的な色相変化を50nm以下の極めて限定された範囲の中で成し得る特殊な二色性発光体となる。
【0050】
本発明は従来の二色性で説明した特殊な二色性にとどまらず、異なる三つ以上の発光体を組み合わせることで、官能検査のための多様な色相表現や機械検査のための複雑で多様な発光変化を得るものであって、従来のように長波紫外励起タイプ及び短波紫外線励起タイプといった大まかな分類で発光混合体を設計するのではなく、これまで考慮されることのなかった広い紫外線波長領域にわたる各発光体独自の細かな励起特性を考慮して複数の発光体の組み合わせを成すものであり、混合した個々の発光体の励起特性が複雑に重なり合い、その結果、当該励起紫外線波長に最も主体的となった発光がその紫外線波長において色相として現れる真偽判別に優れた発光体に関するものである。
【0051】
また、鑑別情報のように機械判別性の向上のみを目的とする場合には、同じ色相の発光体を選定することで目視確認できる発光色はあえて変化させず、分光測定時の発光波形のみを特徴的に変化させた特殊な機械読み取り専用インキとすることで充分であり、単に発明の効果をあえて低くするだけで実施可能であることは言うまでもない。
【0052】
一例として300nm以下の紫外線波長領域で初期発光し、その後、励起波長が短波長側にシフトした時に著しく発光強度が増加する励起特性をもつ緑色発光体1と紫外線320nmの紫外線波長領域で発光し、その後、励起波長が長波長側にシフトしても発光強度がほとんど変化しない励起特性を持つ赤色発光体2、長波紫外励起領域で発光し、その後、励起波長が更に長波長側にシフトしても発光強度が変化しない励起特性を持つ紫色発光体3の三つの発光体を混合してなる混合発光体の場合には、これまでの二色性発光体が有していた問題を完全に克服する発光体となる。
【0053】
仮に使用者が簡易的な真偽判別のための色相確認として、紫外線長波、紫外線中波、紫外線短波の三波長励起領域のみで真偽判定を行うと想定し、第三者がその励起領域のみで色相が同一と判定できる偽造品を作製しようとした場合を仮定する。
【0054】
この多色発光体の場合、それぞれの発光体ごとの紫外線励起波長における励起波長間隔が約50nmと従来の紫外線長波、紫外線短波の二波長励起領域を利用した二色性発光体のほぼ半分となることに加え、長波紫外励起領域では紫色発光体3のみが発光しているのもの、中波紫外線励起領域では赤色発光体2と発光体3との混合色となり、短波紫外線励起領域では発光体1、発光体2、発光体3すべての混合色となることから、発光体1あるいは発光体2の種類を変更した場合には、中波紫外線励起領域あるいは短波紫外線励起領域における発色にも大きな影響を及ぼすことになる。
【0055】
この場合、短波紫外線励起領域でのみ発光する発光体1については、他の波長励起領域での色相や発光強度に影響を及ぼさず、それ単独で色相調整や発光調整を行えると考えがちであるが、実際にはこれもすでに320nmより長波長側の励起光で発光していることから中波紫外線励起領域でその色相や発光強度の違いとして現れてしまうこととなる。
【0056】
このように中波紫外線励起領域以降のいずれの短波長側の波長領域においても異種の発光体の発光が複雑に絡み合った混合色であるため、紫外線励起波長中の三つの限定された励起波長領域でのみ色相を一致させようとした場合であっても、それを完全に模倣することは従来の二色性発光体と比較して著しく困難となっている。
【0057】
以上のように真性品と同じ三つの色相を発する偽造品を再現するためには、励起特性がほぼ完全に一致した発光体を使用する必要が生じる。色相が同一で紫外線励起特性が完全に一致した異種の発光体は存在しないため、その再現には真性品とほとんど同じ発光体が必要となる。
【0058】
また、真性品の発光体の組み合わせであってもその配合割合が異なった場合には、いずれかの紫外線励起波長領域において一致しない色相が現れるため、その再現には高い技術レベルが必要となる。
【0059】
本発明を実施するための最良の形態における、実施例を以下に4種類挙げて、それぞれ説明をする。実施例1及び実施例2に関しては、3種類の発光体を混合して作製した多色発光インキ組成物であり、一般的な紫外線照射装置を使用した目視による色相評価で大きな効果が得られるものである。また、実施例3に関しては、3種類の発光体を混合して作製した多色発光インキ組成物であり、機械読み取りに用いられる特殊な紫外線照射装置を使用した色相評価で大きな効果が得られるものである。また、実施例4に関しては、実施例3で使用した発光体にもう1種類の発光体を加えた、4種類の発光体を混合して作製した多色発光インキ組成物であり、機械読み取りに用いられる特殊な紫外線照射装置を使用した色相評価で大きな効果が得られるものであるとともに、一般的な紫外線照射装置を使用した目視による色相評価でも大きな効果が得られるものである。
【実施例1】
【0060】
紫外線照射波長の変化に対して目視における色相変化を大きくした場合の本発明実施の一例を示す。この場合、使用者は紫外線長波領域及び紫外線中波領域、紫外線短波領域のランプを照射して色相を簡易的に判定すると仮定している。多色発光体に使用する個別の発光体は大まかにRGB領域に属する発光群からそれぞれ一つを選択し、選定した3種類の発光体を混合することとした。色相の変化が最大となりうる発光顔料の選定を図2のとおり行った。目的とした色相の変化を最大とするために、B系発光体1は発光ピークが440nmの紫色である可視領域の最低波長の発光体1を選定した。発光体1の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図3(a)に示す。また、発光体1の発光波長と発光ピークについて図3(b)に示す。発光体1は一般には長波紫外励起タイプに分類されるが、紫外線長波約380nmで紫色発光をし、それより短い波長の紫外線を照射した場合でも発光強度はほぼ変化しない励起特性の発光体である。
【0061】
続いて、R系発光体2は発光ピークが650nmの赤色である可視領域の最大波長の発光体2を選定した。発光体2の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図4(a)に示す。また、発光体2の発光波長と発光ピークについて図4(b)に示す。発光体2は一般的には短波紫外線励起タイプとして分類されるが、紫外線中波約330nmで赤色発光し、それより短い波長の紫外線を照射した場合には発光強度がほぼ変化しない励起特性の発光体である。
【0062】
続いて、G系発光体3として発光ピークが520nmの緑色である発光体3を選定した。発光体3の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図5(a)に示す。また、発光体3の発光波長と発光ピークについて図5(b)に示す。発光体3は一般には短波紫外線励起タイプに分類されるが、紫外線短波300nmより短い短波領域で特異的に緑色発光する励起特性の発光体である。
【0063】
この例のように、発光体に紫外線照射波長に応じてドラスティックな色相変化の発現を意図する場合には、これら発光体1、発光体2、発光体3の選定の条件が必要となってくる。その選定条件として、発光体1は紫外線長波365nmで励起された後、紫外線中波領域や紫外線短波領域の短い波長に照射波長が移行しても、発光強度が少なくとも大きく増加しないことが望ましい。これは、紫外線長波領域以下で発光体1の発光強度が増加した場合に、紫外線中波領域及び紫外線短波領域において発光する発光体2及び発光体3の色相と重なって混ざり合った色相に変化してしまうためであり、好ましくは紫外線長波認証領域である365nmより短い波長では発光強度が低下する発光体が望ましい。
【0064】
発光体2は長波の紫外線で励起されないことを特徴とすることが望ましく、かつ短波の紫外線で発光強度が大きく増加することがないことが望ましい。これの問題と同様に長波の紫外線照射時に発光色の紫と赤が混ざり合い、短波の紫外線照射時には発光色の赤と緑が混ざり合うこととなるため、発光色の彩度が低下し色相の変化の視認性が低下してしまうことを避けるためでもある。
【0065】
発光体3については長波の紫外線及び中波の紫外線で励起されないことが望ましい。これは発光体1及び発光体2と同様に、長波の紫外線照射時や中波の紫外線照射時に緑発光する場合、紫発光及び赤発光と混ざり合うことになるため、これを防ぎ長波励起時の紫色や中波励起時の赤色の発光をあいまいな色相としないために必要な性質である。
【0066】
これら励起特性と色相が異なった発光体群を選定した後、それぞれの顔料コンテントの検討を行った。インキ適性や印刷作業性、印刷物の堅牢性等の実用性を考慮する場合、インキ中に顔料が占める割合は制限される場合が多いことから、発光体1、発光体2、発光体3を合計した重量がインキ全体においてインキ用ビヒクル70重量部に対して30重量部とし、その中で色相のバランスを考慮しながら発光体1、発光体2、発光体3の各々の重量部を微調整する方法とした。少量の発光体の混合にあたっては、簡易的には乳鉢等を用いて発光体が均一になるまで混合して、均一に分散した状態の多色発光体とした。
【0067】
まず、図1に示した発光体1、発光体2、発光体3をそれぞれ均等に10重量部ずつ混合した多色発光体を作製し、照射する紫外線の波長を広域に変化させた場合の色相の変化を確認した。効果の確認のための紫外線照射手段としては、長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(中心波長254nm)を使用した。
【0068】
その結果、長波の紫外線照射時の紫色の発色は充分な認識度があるが、中波の紫外線照射時には発光体2の赤色の発色が弱く、蛍光体1の青色発光と混ざり合った色である青紫として認識され、短波の紫外線照射時に発光体1、発光体2、発光体3の発光色が混ざり合い、ほぼ完全な白色として発光する結果となった。
【0069】
この結果を考慮して、改めて配合割合が異なったサンプル1からサンプル4なる図6の第2試作群を作製した。まず、サンプル1に関しては、発光体1を10gと発光体2を5gと発光体3を15g混合して多色発光体を作製した。サンプル2に関しては、発光体1を10gと発光体2を15gと発光体3を5g混合して多色発光体作製した。サンプル3に関しては、発光体1を5gと発光体2を15gと発光体3を10g混合して多色発光体作製した。サンプル4に関しては、発光体1を5gと発光体2を10gと発光体3を15g混合して多色発光体を作製した。その後、長波の紫外線照射時(中心波長366nm)、中波の紫外線照射時(中心波長302nm)、短波の紫外線照射時(中心波長254nm)の発光体の色相評価を目視で行った結果、図7のとおりとなった。
【0070】
これらのいずれにおいても、本発明の本質である励起特性が異なった異種の発光体による発光変化は充分に備えており、機械判別を行うには充分な発光色の色相変化を有しているものの、この例においては色相変化を大きくすることを目的としたため、配合を再調整することとした。サンプル3とサンプル4の色相変化の評価が高かったことから、この二つを基準にして最終的に数%単位で各顔料配合比を微調整して最良な配合割合を決定するにいたった。
【0071】
発光体1と発光体2と発光体3の最良な配合比を図8に、それによって作製された多色発光体に対して、各紫外線を照射した際の色相評価の結果を図9に示す。長波の紫外線照射時(中心波長366nm)においては紫色、中波の紫外線照射時(中心波長302nm)においては赤色、短波の紫外線照射時(中心波長254nm)においては緑色を発し目的とした効果を得ていることを確認した。
【0072】
図10(a)に長波紫外線励起時の発光分布、図10(b)に中波紫外線励起時の発光分布、図10(c)に短波紫外線励起時の分光分布を示す。
【0073】
図10(a)、(b)、(c)のグラフのY軸である発光強度はいずれも相対強度であって波形上の最高ピークがグラフ上で約80%となるスケールとした。これらは分光測定器(日立製作所製850型分光蛍光光度計)においても機械検出するに充分なピーク波長を有していることを確認できた。
【0074】
また、全色相を再現するための各紫外線照射ランプと多色発光体の距離についての調査を行った。図11に、多色発光体(1)と長波紫外線照射ランプ(2)と、中波紫外線照射ランプ(3)と、短波紫外線照射ランプ(4)との位置関係を示す。その位置関係において、多色発光体(1)と各紫外線照射ランプ(2)、(3)、(4)の距離を8種類のパターンに変化させて色相評価を行った。その色相評価の結果を図12に示す。この結果から、この発光体に対して各紫外線照射ランプの距離を変化させることで全色相の再現に加え、従来の単色発光体や二色性発光体では不可能であった白色発光が可能であることを確認できた。照射光量は距離の二乗に反比例することをから、逆に各紫外線ランプの距離を一定に保って照射光量を増減させることでもこの色相変化を確認できることは言うまでもない。
【0075】
多色発光体を作製した後、これをインキ化するために、続いてインキ用ビヒクルを選定した。グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷といった印刷方式で使用されるインキ用ビヒクルはいずれも有機物で構成されるため、紫外線を吸収する特性をもともと有している。
【0076】
ハロゲン、カルボニル基、ベンゼン環、不飽和基等を含む有機化合物はいずれも少なからず紫外線を吸収する特性を有しているが、サリチル酸系吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が代表的であり、特にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は紫外線長波領域にも顕著な吸収特性を有していることで知られている。
【0077】
また、ポリウレタン樹脂やポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アミノアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合体、ゼラチン、ポリビニルアルコール等は紫外線領域の紫外線短波領域の中でも特に短い波長の光を吸収する特性を持っていることで知られている。
【0078】
この例においては各波長における色相を鮮明にみせることが目的であるため、紫外線中のある一定の波長のみを強く吸収する特性をもつインキ用ビヒクルを避けることが望ましい。
【0079】
本実施例においてはグラビア印刷で用いられる水性スチレンアクリル系のワニスを用いることとしたが、これらインキ用ビヒクルの選定は使用者の所望する印刷方式を考慮して設計すべきであり、使用者が使用するインキ用ビヒクルが短波紫外線の吸収特性の高い性質を有するものに限定されるのであれば、発光体3の発光の減衰を考慮して発光体3のインキ中の混合比を高くして配合することで実現可能であることから、印刷方式を限定するものではない。
【0080】
最終的に図13に示すインキ配合でグラビア印刷用の多色発光インキ組成物を作製した。顔料は30重量部とし、多色発光体をインキ用ビヒクルに投入した後、補助剤としてシリコン系消泡剤2重量部を外割りで添加し、これを、高速分散機(特殊機械工業株式会社製ホモディスパー)を使用して最高回転数3000rpmで3分間再攪拌を行いインキ化した。これを、グラビア平版試験機(クラボウ株式会社製GP−2型)を用いて国立印刷局製造の無蛍光グラビア印刷用塗工紙を使用して175線/inchでグラビア印刷を行い目的とした印刷物を得た。
【0081】
このインキ組成物は可視光下では白色であり、白色の塗工紙が下地となっていることから、目視の確認においてはその印刷位置を特定できない不可視の画像構成となった。これに多色発光体の色相確認と同様な方法で色相の確認を行ったところ、発光体の色相を損なうことなく、多色発光体の効果を発現できていることを確認できた。
【実施例2】
【0082】
目視における認証性が高いことを目的とし、かつ発光体に有機系の顔料を使用した場合の本発明実施のもう一例を示す。無機系発光顔料の発光強度は有機系発光顔料の発光強度と比較して低いため、発光体群すべてに無機系発光顔料のみを使用した場合、使用者の要求する発光強度を満たすためにはインキ中に30%を超える高い顔料配合割合を余儀なくされる場合があり、印刷方式によっては連続印刷するには適さない印刷適正が劣り、印刷物の堅牢性が低くなってしまう場合がある。本発明の場合、複数の色相を複雑に発色させるためにはトータル発光体顔料コンテントが高い値となってしまう場合が考えられることから、発光体群のなかの少なくとも一種類に発光強度の高い有機系顔料を使用することで最終的な多色発光インキ中のトータルの発光顔料のコンテントを低くし、印刷適性を改善する例である。
【0083】
実施例1と同様に使用者が真偽判別に用いる紫外線照射波長領域は、長波領域、中波領域、短波領域の簡易判別可能な三つの限定された範囲のみと仮定した。実施例1と同様に使用する発光体はRGB領域に属する発光群からそれぞれ一つを選択し、色相の異なる3種類の発光体を混合することとした。実施例1と同様に発光顔料の選定を図14のとおり行った。
【0084】
G系発光体4の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係を図15(a)に示す。また、発光体4の発光波長と発光ピークについて図15(b)に示す。発光体4は520nmの発光ピークを有する長波紫外線励起タイプと分類される有機系の発光体であって、紫外線長波380nmで緑色発光をし、それより短い波長の紫外線を照射した場合には発光強度が一気に低下する励起特性の発光体である。有機系の発光体は無機系と比較して耐光性が劣るが発光強度は極めて高いうえ、長波の紫外線で発光した後、中波の紫外線領域及び短波の紫外線領域において顕著に発光が減少する特性を持つものが多々存在することから、堅牢性や耐光性において使用者の必要とする特性を満足する限りにおいて本発明を構成する長波紫外線励起タイプの発光体として使用するには好ましい特性を有している。
【0085】
続いて、B系発光体5として発光ピークが波長480nmの青色発光体5を選定した。発光体5の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係を図16(a)に示す。また、発光体5の発光波長と発光ピークについて図16(b)に示す。発光体5は短波紫外線励起タイプに分類される発光体であって、紫外線中波領域310nmで青色発光し、これより短い波長の紫外線を照射した場合には発光強度がほぼ変化しない励起特性の発光体である。
【0086】
続いて、R系発光体6として発光ピークが波長620nmの赤色発光体6を選定した。発光体6の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係を図17(a)に示す。また、発光体6の発光波長と発光ピークについて図17(b)に示す。発光体6は短波紫外線励起タイプに分類される発光体であって、紫外線短波領域の300nmより短い波長で特異的に赤色発光する励起特性の発光体である。
【0087】
これら発光体4、発光体5、発光体6の選定の条件は実施例1の発光体1、発光体2、発光体3と同様な特性が要求される。これら励起特性と色相が異なった発光体群を選定した後、それぞれの顔料コンテントの検討を実施例1と同様に行った。
【0088】
最良な混合比を図18に示す。有機顔料である発光体4は無機系顔料である発光体5及び発光体6と比較して極めて強い発光強度を有すことから、その配合割合は極めて低い値で充分であり、結果としてインキ中に占める多色発光体の総顔料コンテントを引き下げる効果を得ることができる。
【0089】
また、発光体4は紫外線中波領域及び紫外線短波領域で発光が著しく減少するため、中波の紫外線励起時及び短波の紫外線励起時に発光しないことで、発光体5及び発光体6がもともと有する色相を、ほぼそのまま発することが可能となった。
【0090】
効果の確認のための紫外線照射手段は実施例1と同様に長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(中心波長254nm)を使用した。
【0091】
この多色発光体に各波長の紫外線を照射したところ、長波の紫外線照射においては緑色、中波の紫外線照射においては青色、短波の紫外線照射においては橙色発光し目的とした効果を得ていることを確認した。その色相評価について図19に示す。
【0092】
図18(a)に長波紫外線励起時の発光分布、図18(b)に中波紫外線励起時の発光分布、図18(c)に短波紫外線励起時の分光分布を示す。これらはいずれも分光測定器(日立製作所製850型分光蛍光光度計)を使用して測定を行った。図8のグラフのY軸である発光強度はいずれも相対強度であって波形上の最高ピークがグラフ上で約80%となるスケールとした。この結果、いずれの波長域においても機械検出するに充分なピーク波長を有していることを確認できた。
【0093】
また、全色相を再現するための紫外線照射ランプと多色発光体の距離についての調査を行った。多色発光体(1)と長波紫外線照射ランプ(2)と、中波紫外線照射ランプ(3)と、短波紫外線照射ランプ(4)との位置関係は、実施例1と同様に図11に示しとおりとした。その位置関係において、多色発光体(1)と各紫外線照射ランプ(2)、(3)、(4)の距離を変化させて色相評価を行った。その色相評価の結果を図21に示す。この例においては、選定したG系発光体の発光ピークが480nmであり、赤色の発光ピークが620nmと橙色であることから、紫、藍及び赤の色相を発光させ得ないが、白色の発光を得ることはできた。
【0094】
この結果から、この印刷物に対して各紫外線照射ランプの距離を変化させることで紫、藍及び赤を除く色相の再現に加え、従来の単色発光体や二色性発光体では不可能であった白色発光が可能であることが実施例1と同様に確認できた。
【0095】
この例においては、長波紫外線励起タイプの発光体4にのみ有機系発光体を使用したが、発光体5に用いても発光体6に用いても何ら問題はなく、発光体の発光色とその励起特性、耐光性が使用者の意図したもとに一致するのであれば、複数の有機系発光体を使用しても実施可能であることはいうまでもない。
【0096】
この顔料比で実施例1と同様の手法でグラビアインキとした。可視光下でも有色の発光インキとするため最終的にフタロシアニンブルー5Gを1%加えた図22に示すインキ配合で実施例1と同一な方法でインキ化した。これを、グラビア平版試験機(クラボウ格式会社製GP−2型)を用いて国立印刷局製造の無蛍光の印刷用塗工紙を使用して175線/inchでグラビア印刷を行い目的とした印刷物を得た。
【0097】
このインキは可視光下では淡い青色であり、白色の塗工紙が下地となっていることから、目視の確認においてはその印刷位置を特定できる可視の画像構成となった。これに発光体の色相確認と同様な方法で色相の確認を行ったところ、着色顔料を用いたことで若干発光強度は低下したもののその色相自体は損なうことなく、多色発光体の効果を発現できていることを確認できた。
【実施例3】
【0098】
紫外線長波領域から紫外線中波領域までの限定された範囲で色相の変化を有する本発明実施の一例を示す。この例における多色発光体は、400nm〜300nmの長波紫外線から中波紫外線の極めて狭い領域でBGRの色相変化を成すものである。
【0099】
現在、販売されている紫外線照射装置は、365nmを中心とするブラックライト等の長波紫外線照射ランプ、及び254nmを中心とする殺菌灯などに用いられる短波紫外線照射ランプが一般的であるが、その他にも302nmを中心とする医療用中波紫外線照射ランプもある。これらに用いられる水銀灯、キセンノンランプ等の輝線は広範囲にわたって分布しているため、照射する紫外線波長はその中心波長を外れた様々な紫外線波長が多少なりとも混在しており、当然のことながらその中心波長のみを照射しているわけではない。
【0100】
また、コンパクトな紫外線照射手段として近年広まりつつある紫外線照射LED、照射波長がランプと比較してシャープな域で照射可能であるものの最低波長は360nm程度であって、現在はそれ以下の紫外線波長域のものは入手不可能である。
【0101】
一方の機械読み取りに用いられる分光測定器等は低圧水銀灯やキセノンランプと回折格子の組み合わせで数nmスパンの紫外線照射範囲に絞り込んだ測定が可能である。実施例1及び実施例2においては使用者の認証性を考慮して、一般的に入手が容易な紫外線照射ランプを照射した場合に、もっとも色相変化が大きく感じる設計としたが、本実施例においては、一般に販売されている照射域の広いランプでは色変化は小さくし、一方の機械読み取りに用いられる分光測定器による認証性や、特殊な照射装置のみを用いた場合に簡易的なランプでは見られなかった色相変化をなすことを目的とした。これは鑑別系情報として発光を用いる特殊認証タイプである。
【0102】
多色発光体に使用する個別の発光体はRGB領域に属する発光群からそれぞれ一つを選択し、3種類の発光体を混合することとした。その際の、3種類の発光顔料の選定を図23のとおりとした。B系発光体は発光ピークが440nmの紫色である可視領域の最低波長の発光体7を選定した。発光体7の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図24(a)に示す。また、発光体7の発光波長と発光ピークについて図24(b)に示す。発光体7は有機系発光体であり、一般には長波紫外線励起タイプと分類されるが、紫外線長波領域の約380nmで特異的に紫色発光をし、これより短い波長の紫外線を照射すると著しく発光が減衰する励起特性の発光体である。
【0103】
次に、G系の発光体として発光ピークが540nmの緑色である発光体8を選定した。発光体8の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図25(a)に示す。また、発光体3の発光波長と発光ピークについて図25(b)に示す。発光体8は一般に長波紫外線励起タイプに分類されるが、長波長領域から短波長領域にかけて発光強度が変化しない励起特性の発光体である。
【0104】
次に、R系発光体は発光ピークが650nmの赤色である可視領域の最大波長の発光体9を選定した。発光体9の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図26(a)に示す。また、発光体2の発光波長と発光ピークについて図26(b)に示す。発光体9は一般的には短波紫外線励起タイプとして分類されるが、紫外線中波領域約330nmで赤色発光し、それ以下の紫外線波長を照射した場合には発光強度がほぼ変化しない励起特性の発光体である。
【0105】
多色発光体の限定された条件での認証を想定した本例においても実施例1及び実施例2と同じように発光体7、発光体8、発光体9の選定の条件は発光する紫外線領域が異なるものの発光体1、発光体2、発光体3と同様な性質が要求される。これら励起特性と色相が異なった発光体群を選定した後、それぞれの実施例1、実施例2と同様に顔料コンテントの検討を行った。
【0106】
その結果に基づき、最良な混合比を図27に示す。また、紫外線照射波長毎の色相評価の結果を図28(a)、(b)に示す。図28(a)は、色相評価の確認手段として特殊な照射装置を使用した場合の色相評価結果を示し、図28(b)は、色相評価の確認手段として一般的な照射装置を使用した場合の色相評価結果を示す。
【0107】
まず、特殊な照射装置として、分光測定器の照射装置(キセンノンランプと回折格子)を用いて、照射波長を5nmスパンに区切って照射した場合に多色性発光体に現れた色相を目視で確認した結果を図28(a)に示す。この結果から、青から橙までの中間調を含めた色相の再現が400nmから300nmの限定された波長域で発生していることを確認した。
【0108】
また、この結果との比較のため、実施例1及び実施例2と同様に一般的な紫外線照射ランプを用いて色相評価を行った。色相評価の効果確認のための紫外線照射手段としては、長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(中心波長254nm)を使用し、その色相再現の結果を比較した。長波紫外線においては青色、中波紫外線においては黄色、短波紫外線においては橙色を発したが、RGB三つの主色相の一つである「緑」の色相は簡易的な照射ランプを用いて確認することが不可能であって、目的とした効果を得ていることを確認した。
【0109】
図29(a)に長波紫外線励起時(中心波長365nm)の発光分布、図29(b)に長波紫外線励起時(中心波長340nm)の発光分布、図29(c)に中波紫外線励起時(中心波長302nm)の分光分布を示す。それぞれのグラフのY軸である発光強度はいずれも相対強度であって波形上の最高ピークがグラフ上で約80%となるスケールとした。これらは分光測定器(日立製作所製850型分光蛍光光度計)を使用して測定を行い、この結果、いずれの波長域においても機械検出するに充分な発光ピークを有していることが確認できた。
【0110】
多色発光体を作製した後、これをインキ化するためにインキ用ビヒクルを選定した。実施例1及び実施例2と同様に、最終的に図30に示すインキ配合でグラビア印刷用の多色発光インキ組成物を作製した。顔料30重量部及びインキ用ビヒクル70重量部とし、多色発光体をインキインキ用ビヒクルに投入した後、補助剤としてシリコン系消泡剤を2%外割りで添加し、これを、高速分散機(特殊機械工業株式会社製ホモディスパー)を使用して最高回転数3000rpmで3分間再攪拌を行いインキ化した。これを、グラビア平版試験機(クラボウ格式会社製GP−2型)を用いて国立印刷局製造の無蛍光の印刷用塗工紙を使用して175線/inchでグラビア印刷を行い目的とした印刷物を得た。
【0111】
このインキは可視光下では白色であり、白色の塗工紙が下地となっていることから、目視の確認においてはその印刷位置を特定できない不可視の画像構成となった。これに発光体の色相確認と同様な方法で色相の確認を行ったところ、その色相を損なうことなく、多色発光体の効果を発現できていることを確認できた。
【実施例4】
【0112】
実施例3の多色発光体に異種の発光体を加えて発光体を4種類とし、色相を変化させるとともに機械判別に適した発光変化を備えた例を示す。実施例3で作製した多色性発光体に対して、第4の発光体として、短波で急激に励起されるR系発光体である発光体13を加え紫外線長波領域から紫外線短波領域でそれぞれ励起特性の異なる4つの発光体を用いた例である。機械判別性を考慮して発光体13は色相変化に与える影響は小さいが、その他の発光体と発光ピークにおける波長が重ならず発光ピークを充分取得することが可能な発光バランスとした。
【0113】
この多色発光体を構成する発光体群を図31に記す。発光体10、発光体11、発光体12は実施例3の発光体7、発光体8、発光体9と同じ発光体である。発光体10、発光体11、発光体12、発光体13の励起特性と発光特性について図32(a)、図32(b)、図33(a)、図33(b)、図34(a)、図34(b)、図35(a)、図35(b)に記す。発光体13は、実施例3の多色発光体が300nmより短い波長で大きな波長変化を有しないことを考慮して、300nmより長波長で励起波長が立ち上がりをする発光体から選定した。発光体13は一般には短波紫外線励起タイプに分類されるが、300nmより短い波長で励起波長が立ち上がり、顕著に強く発光する励起特性の発光体である。これら励起特性と色相が異なった発光体群を選定した後、それぞれの他の実施例と同様に顔料コンテントの検討を行った。
【0114】
その結果に基づき、最良な混合比を図36に示す。また、紫外線照射波長毎の色相評価の結果を図37(a)、(b)に示す。図37(a)は、色相評価の確認手段として特殊な照射装置を使用した場合の色相評価結果を示し、図37(b)は、色相評価の確認手段として一般的な照射装置を使用した場合の色相評価結果を示す。
【0115】
ここで言う特殊な照射装置は、実施例3で使用した分光測定器の照射装置を使用するとともに、一般的な照射装置についても実施例1、2、3で使用した長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(中心波長254nm)を使用した。この結果から、青から橙までの中間色調を含めた色相の再現が400nmから300nmの限定された波長領域で発生しているとともに、紫外線短波領域では橙から赤の発光に変化することを確認した。
【0116】
図38(a)に長波紫外線励起時(中心波長365nm)の発光分布、図38(b)に長波紫外線波励起時(中心波長340nm)の発光分布、図38(c)に中波紫外線励起時(中心波長302nm)の分光分布、図38(d)に短波紫外線励起時(中心波長254nm)の分光分布を示す。この図38(a)、(b)、(c)、(d)のグラフのY軸である発光強度はいずれも相対強度であって波形上の最高ピークがグラフ上で約80%となるスケールとした。これらは分光測定器(日立製作所製850型分光蛍光光度計)を使用して測定を行い、この結果、いずれの波長領域においても機械検出するに充分なピーク波長を有していることを確認できたことに加え、短波励起時には実施例3の多色発光体とは異なる発光体13の発光ピークが顕著に確認できることを確認した。
【0117】
この例においては、発光体13の配合割合は機械的に容易に検出可能な発光強度とするのみならず、目視によっても色相の変化が確認できることを目的とした画線構成としたが、発光体13を特別な真偽判別情報として取り扱う場合、あえて配合割合を下げて色相変化を抑制し、その色変化を、分光測定器を使用した機械判別でのみ検出できるレベルまで引き下げることは充分本発明の範囲で可能であることは言うまでもない。
【0118】
多色発光体を作製した後、これをインキ化するためにインキ用ビヒクルを選定した。実施例1から実施例3と同様に最終的に図39に示すインキ配合でグラビア印刷用3色発光インキを作製した。顔料30重量部とし、多色発光体をインキインキ用ビヒクル70重量部に投入した後、補助剤としてシリコン系消泡剤を2重量部外割りで添加し、これを、高速分散機(特殊機械工業株式会社製ホモディスパーホモディスパー)を使用して最高回転数3000rpmで3分間再攪拌を行いインキ化した。これを、グラビア平版試験機(クラボウ株式会社製GP−2型)を用いて国立印刷局製造の無蛍光の印刷用塗工紙を使用して175線/inchでグラビア印刷を行い目的とした印刷物を得た。
【0119】
このインキは可視光下では白色であり、白色の塗工紙が下地となっていることから、目視の確認においてはその印刷位置を特定できない画線構成となった。これに発光体の色相確認と同様な方法で色相の確認を行ったところ、全くその色相を損なうことなく、多色発光体の効果を発現できていることを確認できた。
【0120】
以上のように本発明を利用することで目視における色相変化や機械判別性、秘匿性等、使用者が所望する効果に応じて用いる発光体群を変えて様々な効果を得ることが可能である。実施例において発光体は全て発光顔料で構成したが、染料であっても何ら問題はないことは言うまでもない。また、全ての例において、色相の変化を優先したため色相の全く異なった発光体を使用したが、機械認証を優先させる場合には実施例4の発光体12、発光体13のように発光スペクトル形状が異なるが、同一の色相に属するものを組み合わせて使用することは、実施例の4つの例と比較しても技術的に容易であり、この発明の範疇であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】一般的な化学式の発光色、励起特性及び発光波長を示す。
【図2】実施例1における、選定された3種類の発光顔料を示す。
【図3】(a)は発光体1の励起特性、(b)は発光体1の発光特性を示す。
【図4】(a)は発光体2の励起特性、(b)は発光体2の発光特性を示す。
【図5】(a)は発光体3の励起特性、(b)は発光体3の発光特性を示す。
【図6】実施例1における、3種類の蛍光顔料の混合重量を変化させた、5種類のサンプルの混合重量を示す。
【図7】実施例1における、5種類のサンプルの紫外線代表波長の色相評価を示す。
【図8】実施例1における、3種類の蛍光顔料の最良の混合重量を示す。
【図9】実施例1における、多色発光体の各紫外線波長における色相評価を示す。
【図10】実施例1における、多色発光体に対し、(a)は長波紫外線励起時の発光分布、(b)は中波紫外線励起時の発光分布、(c)は短波紫外線励起時の発光分布を示す。
【図11】実施例1における、多色発光体と各紫外線照射ランプとの位置関係を示す。
【図12】実施例1における、全色相再現のための多色発光体と紫外線照射ランプとの距離、及びそれぞれの色相評価を示す。
【図13】実施例1における、多色発光インキ組成物の配合割合を示す。
【図14】実施例2における、選定された3種類の発光顔料を示す。
【図15】(a)は発光体4の励起特性、(b)は発光体4発光特性を示す。
【図16】(a)は発光体5の励起特性、(b)は発光体5の発光特性を示す。
【図17】(a)は発光体6の励起特性、(b)は発光体6の発光特性を示す。
【図18】実施例2における、3種類の蛍光顔料の最良の混合重量を示す。
【図19】実施例2における、多色発光体の各紫外線波長における色相評価を示す。
【図20】実施例2における、多色発光体に対し、(a)は長波紫外線励起時の発光分布、(b)は中波紫外線励起時の発光分布、(c)は短波紫外線励起時の発光分布を示す。
【図21】実施例2における、全色相再現のための多色発光体と紫外線照射ランプとの距離、及びそれぞれの色相評価を示す。
【図22】実施例2における、多色発光インキ組成物の配合割合を示す。
【図23】実施例3における、選定された3種類の発光顔料を示す。
【図24】(a)は発光体7の励起特性、(b)は発光体7発光特性を示す。
【図25】(a)は発光体8の励起特性、(b)は発光体8の発光特性を示す。
【図26】(a)は発光体9の励起特性、(b)は発光体9の発光特性を示す。
【図27】実施例3における、3種類の蛍光顔料の最良の混合重量を示す。
【図28】実施例3における、多色発光体に対し、(a)は特殊な照射装置の照射による色相評価、(b)は一般的な照射装置の照射による色相評価を示す。
【図29】実施例3における、多色発光体に対し、(a)は長波紫外線励起時の発光分布、(b)は長波紫外線励起時の発光分布、(c)は短波紫外線励起時の発光分布を示す。
【図30】実施例3における、多色発光インキ組成物の配合割合を示す。
【図31】実施例4における、選定された3種類の発光顔料を示す。
【図32】(a)は発光体10の励起特性、(b)は発光体10の発光特性を示す。
【図33】(a)は発光体11の励起特性、(b)は発光体11の発光特性を示す。
【図34】(a)は発光体12の励起特性、(b)は発光体12の発光特性を示す。
【図35】(a)は発光体13の励起特性、(b)は発光体13の発光特性を示す。
【図36】実施例4における、3種類の蛍光顔料の最良の混合重量を示す。
【図37】実施例4における、多色発光体に対し、(a)は特殊な照射装置の照射による色相評価、(b)は一般的な照射装置の照射による色相評価を示す。
【図38】実施例4における、多色発光体に対し、(a)は長波紫外線励起時の発光分布、(b)は長波紫外線励起時の発光分布、(c)は中波紫外線励起時の発光分布、(d)は短波紫外線励起時の発光分布を示す。
【図39】実施例3における、多色発光インキ組成物の配合割合を示す。
【符号の説明】
【0122】
1 多色発光体
2 長波紫外線照射ランプ
3 中波紫外線照射ランプ
4 短波紫外線照射ランプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線の照射波長によって励起特性及び発光波長の異なる複数の紫外線励起顔料あるいは可視光発光染料をインキ用ビヒクルに混合し、紫外線領域の照射波長に応じて発光が連続的に変化する真偽判別性に優れた多色発光混合物及びそれをインキ用ビヒクルに混合した多色発光インキ組成物、並びに多色発光インキ組成物を用いて印刷した画像形成物に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、有価証券、カード及び通行券などの貴重印刷物や、運転免許証、パスポート及び保険証など個人を認証する証明証書は、第三者に偽造及び改ざんされないために常に新たな偽造防止技術を盛り込むことが要求されており、併せて真正品であるかどうかの判断が可能な真偽判別方法が必要とされている。
【0003】
蛍光体に代表される発光体は、それ単独で主たる真偽判定要素として発光色(色相)と発光強度の少なくとも二つの要素を有している。色相は、もともと固有のものであり、一方の発光強度は発光体の量が一定であればそれに従った値となるため、使用する発光体の種類と量を一定に保つことで機械検出において色相と発光強度の二つを用いた真偽判別が可能となる。
【0004】
例えば、色相と発光強度は分光測定においてはX軸に発光波長、Y軸に発光強度をとったグラフ上に波形として現せる。この波形の形状がそのまま色相と発光強度を表しており、その波形は発光体それぞれ固有の形状であることから、真偽判別において分光測定を行ったこの波形を単純に比較することでも判定可能である。
【0005】
また簡易的な方法としては発光体の代表的な発光ピークが存在する波長域の光のみをフィルタや回折格子を用いて取り出し(色相の選別)、光電変換する(発光強度の取得)ものでも判定は可能である。従来から発光体の機械判定にあたって一般的にはこの色相と発光強度の二つを何らかの真偽判別要素として使用している場合が多い。
【0006】
ただし、色相と発光強度は発光体を機械検出する場合には優れた真偽判別要素となりえるが、一方の目視による官能検査において発光強度が判定要素として用いられる機会は実際には極めてまれである。これは官能評価が主観評価であって検査人個人の感覚に依存し、ばらつきが生じることに加え、発光の強さはその観察時の環境に大きく影響を受けるためである。
【0007】
発光体に対する機械検査は多くの場合、光電変換素子とフィルタや回折格子の組み合わせで色相と発光強度を評価する装置を用いることが一般的であるが、いずれにしても可視光の影響を避けるために暗箱において外乱光を遮断して測定が行われるのに対し、官能検査は多くの場合、可視光が存在する環境で行なわれる。
【0008】
一例として、分光測定器を用いて測定した場合には発光ピークにおける発光強度が3分の1以下の強度に落ちた偽造印刷物に対して可視光がほとんど差し込まない環境で観察した場合においても、目視では極めて微弱な差異としてしか認められず、真性品と判定してしまう場合がある。観察環境に可視光が差し込む場合には発光体の発光はより一層弱く感じられ、発光強度を判定要素とする官能検査の精度はより一層低下することは言うまでもない。
【0009】
このことから、偽造品に使用される発光体が真性品とは異なった発光体であっても、色相のみが同一であれば、太陽光や蛍光灯の光に満たされた明るい環境下で、ブラックライトのみで蛍光発光を確認して真偽判別を行わなければいけないチケット換金所等の官能検査においては真性品と見分けがつかない場合が想定され、観察環境に依存する発光強度は官能検査の判別要素としてはほぼ機能しない可能性が高かった。
【0010】
このことを鑑みて、一つのインキに二種類の発光体を用い、紫外線照射波長に応じて色相を二種類に変化させる二色性発光インキが使用される場合がある。このインキに用いられる二色性発光体は、長波紫外励起タイプの発光体1と短波紫外線励起タイプの発光体2を組み合わせたものであり、インキ化する際に、一つのインキ用ビヒクルに二色性発光体を分散して作製するものである。特徴としては、紫外線長波を照射した場合には長波紫外励起タイプの発光体1が、ある一定の色相1で発光し、紫外線短波を照射した場合には、長波紫外励起タイプの発光体1と短波紫外線励起タイプの発光体2が同時に発光することで、紫外線長波照射時の発光色とは異なった色相2を発するものである。
【0011】
一般的な蛍光体と発光色及び励起特性を図1に示す。基材にこの二色性発光体が付与された代表的な例としては可視光で無色、紫外線短波で赤色、紫外線長波で緑色を発するフランスの500フラン券が公知であり、インキとしては大日本印刷の無色蛍光発光インキ(例えば、特許文献1参照)、及び国立印刷局が着色顔料を混合して作製した着色二色性発光インキがある。また、二色性発光顔料としてはハネウェル・ジャパンの「LUMILUX CD−R/G I」(紫外線長波で赤発光、紫外線短波で黄発光)、「LUMILUX R/G CD770」(紫外線長波で黄発光、紫外線短波で赤発光)、及び根本特殊化学社製造のDE−RB(紫外線長波で青発光、紫外線短波で赤発光)、DE−RG(紫外線長波で緑発光、紫外線短波で赤発光)、DE−GB(紫外線長波で青発光、紫外線短波で緑発光)、DE−GR(紫外線長波で赤発光、紫外線短波で緑発光)等が知られており、使用者は二つの色相を任意に選択して使用することができる。
【0012】
以上のように二色性発光体は目視判定時に有効な判別要素である色相を二つ有しており、これを一つのインキの中に分散させた二色性発光インキは真偽判別性を高めた新しい発光インキであり、紫外線短波と紫外線長波を代表とした二つ紫外線で色相を変化させるため、目視による官能検査における判別性は高まると予想される。
【0013】
また、機械検査の場合、従来までは紫外線長波あるいは紫外線短波のいずれか一つの色相と発光強度、それぞれ一つずつ合計二つの判定要素しか備えなかったが、二色性発光体はそれぞれ二つずつ合計四つの判定要素を備えることとなるため、単色発光の発光体と比較して判定適性も当然のことながら高まる。
【0014】
【特許文献1】特開平10−251570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
二色性発光体に使用される発光体は二種類の発光体で二つの色相変化を見せるために、主として紫外線短波(254nmを中心とする)で蛍光ピークが最大になる発光体と、主として紫外線長波(365nmを中心とする)で発光ピークが最大になる発光体の二つの発光体を組み合わせで設計されているのが一般的である。
【0016】
本来、発光体の励起される紫外線波長はこの二つのみではないが、励起に使用する水銀灯の輝線に合わせて紫外線の短波励起タイプと長波励起タイプと大きく区分けしていることと、使用者が所持する紫外線照射判別器具の多くが紫外線長波領域あるいは紫外線短波領域しか照射できないことが多いことにも少なからず関係している。
【0017】
紫外線と呼ばれる光領域は200nm〜400nmと広範囲にわたって存在するが、二色性発光体が色相の変化を見せるための一般的な代表波長の二つである紫外線長波と紫外線短波の間は100nm以上のブランクが存在する。多くの使用者が使用する紫外線照射判別器具もほぼこの波長に限ったものである。このことから、二色性発光体がそのブランクの波長においていかなる発光をした場合でもその差異が認識される機会はほとんどないため、現在二色性発光体は紫外線長波照射時と紫外線短波照射時に狙いを絞った設計となっている。
【0018】
このことを考慮すると、二色性発光体に使用する長波紫外線励起タイプの発光体と短波紫外線励起タイプの発光体は、紫外線長波照射時と紫外線短波照射時に限ってその色相を一致させていれば、目視の官能検査では真性であると判定されると考えられる。この場合には、真性品に用いられる長波紫外線励起タイプの発光体と短波紫外線励起タイプの発光体を使用しなくとも、それぞれ紫外線長波中心波長(365nm)及び紫外線短波中心波長(254nm)における色相が一致しさえすれば、励起特性が異なる異種の発光体を用いても偽造可能であることを意味する。
【0019】
この二色性発光体に用いられるこれら長波紫外励起タイプの発光体及び短波紫外線励起タイプの発光体は、発光印刷を行う印刷分野においてすでに公知であることに加え、青、赤、緑といったおおまかな色相ごとに数種類の発光体が発光体製造メーカからそれぞれ販売されている。
【0020】
それに加えて現在、様々な色相の長波紫外線励起タイプの発光体が一般的な雑貨量販店で容易に入手が可能となってきていることに加え、短波紫外線励起タイプの発光体も入手可能となりつつあるためにある程度の発光体の知見を有する者であれば二色性発光体の偽造は可能であると思われる。当然、発光印刷に関与する同業者にとっては容易に再現可能であることは言うまでもない。
【0021】
いずれにしても紫外領域の二つの波長域でのみ真偽の照合を行うこととなる二色性発光体は、単独の真偽判別要素として用いるには問題があると考えられている。
【0022】
以上のように二色性発光体を偽造し、インキ化することは単一色発光の発光インキと比較すると困難ではあっても、偽造者を含む熟練した同業者にとっては比較的容易であるという問題があった。
【0023】
本発明は、上記課題を解決するものであって、具体的には、紫外線の照射波長により、長波、中波又は短波で高い励起特性を示すべく、これらのいずれかの紫外線を照射して、RGB色表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの領域に可視光発光する少なくとも三つの発光顔料又は発光染料をインキ用ビヒクルに混合し、紫外線の照射波長に応じて、これまでに得られなかった混合色やRGB3原色による可視光発光が可能となり、蛍光発光が連続的に変化する真偽判別に優れた多色発光混合物及びそれをインキ用ビヒクルに混合して作製した多色発光インキ組成物、並びに多色発光インキ組成物を用いて印刷した画像形成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の多色発光混合物は、紫外線による励起特性の異なる少なくとも三つ以上の発光体を混合してなる多色発光混合物であって、紫外線の照射により発光する発光体は、それぞれ単体でRGB表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもち、R領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第1の発光群、G領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第2の発光群、B領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、第1の発光群から選ばれるR領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体、第2の発光群から選ばれるG領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体、第3の発光群から選ばれるB領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体のうち、少なくとも一つの発光体を混合してなり、紫外線領域の第1の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第1の発光体の発光強度が最も強く、紫外線領域の第1の波長とは異なる第2の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第2の発光体の発光強度が最も強く、紫外線領域の第1の波長、第2の波長とは異なる第3の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第3の発光体の発光強度が最も強くなるように混合してなることを特徴とする。
【0025】
本発明の多色発光混合物は、少なくとも一つの蛍光体又は燐光体から選ばれることを特徴とする。
【0026】
本発明の多色発光混合物は、少なくとも三つの発光体が、無機系発光体の発光体で構成されるか、もしくは無機系発光体と有機系発光体の組み合わせによって構成されることを特徴とする。
【0027】
本発明の多色発光インキ組成物は、紫外線の励起特性の異なる三つ以上の発光体を混合して作製した多色発光混合物を、インキ用ビヒクルに混合してなる多色発光インキ組成物であって、紫外線の照射により発光する発光体は、それぞれ単体でRGB表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもち、R領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第1の発光群、G領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第2の発光群、B領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、第1の発光群から選ばれるR領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体、第2の発光群から選ばれるG領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体、第3の発光群から選ばれるB領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体のうち、少なくとも一つの発光体を混合してなり、紫外線領域の第1の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第1の発光体の発光強度が最も高く、紫外線領域の第1の波長とは異なる第2の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第2の発光体の発光強度が最も高く、紫外線領域の第1の波長、第2の波長とは異なる第3の波長の光を照射したときに、混合した少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第3の発光体の発光強度が最も高くなるように混合してなる多色発光混合物を、インキ用ビヒクルに混合してなることを特徴とする。
【0028】
本発明の画像形成物は、多色発光インキ組成物を用いて印刷層を形成してなるとことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
加法混色における色の三要素RGBのすべてを備えるため、二色性発光体では発色が不可能である「白色」発光や、使用する発光体の組み合わせによっては二色性発光体では困難であった中間色を含めた「紫・藍・青・緑・黄・橙・赤」の全色の発光が可能となる。
【0030】
RGBの要素を備えることで長波紫外線照射ランプ、中波紫外線照射ランプ及び短波紫外線照射ランプを同時に用いて複数の発光体を同時に励起させた場合、それぞれのランプの照射光量やランプから発光体までの距離を変化させることによって、色相を虹のごとく連続的に変化させることもできる。
【0031】
「紫・藍・青・緑・黄・橙・赤」の7色の主色相に加え、「白色」の8色すべてを判別することが可能であることはいうまでもないが、逆に各波長の紫外線照射ランプの照射光量を固定するか、あるいはランプと発光体までの距離を完全に固定することによって、使用者が決定した任意の色相に固定して識別することが可能となることから、迅速性を考慮した簡易的な目視認証においても極めて有効である。
【0032】
簡易的な官能検査(色相評価)しか行わない場合でも、一方の偽造者は従来の紫外線長波領域及び紫外線短波領域といった真偽判定に使用されている波長領域をあらかじめ絞ることが不可能であることから、偽造牽制・抑止力の向上に極めて有効であるといえる(紫外線中波領域を中心波長とした紫外線を照射する中波紫外線照射ランプは医療分野では従来から核酸の発光確認ランプとして使用されており、現在、長波紫外線照射ランプ及び短波紫外線照射ランプとほぼ同一の価格で販売されているため簡易的な紫外線中波確認手段については特に問題となるものではない)。
【0033】
一方、機械検査においても従来の単色発光体や二色性発光体は254nmを中心とした紫外線短波領域か、365nmを中心とした紫外線長波領域のどちらかの判別か、といった真偽判別に使用される紫外線波長域が制限される傾向があったが、この多色発光体は紫外線領域のどの波長域においても複雑で特徴的な発光特性を有することから、単色の発光体や二色性発光体では真偽判別対象とし得なかった200nmから400nmの紫外線全領域で連続して発光を取得し、すべての発光を判定要素とすることも可能となった。
【0034】
従来の発光体の認証が254nmあるいは365nmのいずれか一つ、あるいはその両方の多くても二つの波長領域でのみ行なわれていた。つまりX軸に発光波長、Y軸に発光強度に用いたグラフとして認証される、二次元的な形態であったものを、Z軸に紫外線励起波長を加えた三次元的な発光色の色相空間として認証する概念を導入することが可能であることを意味し、機械判別性は従来と比較して著しく高まることは言うまでもない。もちろん、簡易的な判定としても、機械判別の紫外線照射波長領域と受光領域を使用者が任意に設定する限定した方法も可能である。
【0035】
励起特性が異なる複数異種の発光体を使用した本発明はその蛍光体の組み合わせのみならず、蛍光体の混合割合によって、使用者のニーズに応じた様々な色相の組み合わせや発光強度の調整が可能となるとともに、その偽造には従来とは比較にならない技術レベルを要することとなることから偽造防止効果・偽造抑止力が極めて高くなる。また、その目視判定要素や機械判定要素の飛躍的な増大により、真偽判別性がより一層高まる。
【0036】
印刷物製造工程や検査工程においては判定要素の色相数が飛躍的に増大することにともなって、従来印刷工程で必要とされていた一方の判定要素である発光強度の概念の必要性が低くなる。このことは従来の発光体印刷における印刷皮膜厚さの管理を意味し、発光体の色相自体はインキ作製段階でその混合割合を保障することによって、ある一つの色相を確認することで全色相を管理できることから、発光体印刷の品質管理は従来の発光強度の数値化といった方法から、ブラックライトによるインキ付与の確認程度の極めて容易な方法のみで保障可能となる。
【0037】
加えて真性品印刷者にとってもこのように一つの像や画線、文字等が多色に発光する構成の印刷物を従来の技術で構成するためには、印刷ユニット三つを用いたうえで単色の発光インキ3種類をそれぞれ同じ位置に完全に一致させて重ね合わせる必要があり、その画線や画像が微小なサイズであった場合にはその再現は極めて困難なものであったが、単一の混合インキとして多色に発光する画線を作製することでその製造に必要な印刷ユニット数は一つとなり、刷り合わせの問題も同時に解消されることとなる。
【0038】
また、単体の発光体を多層に重ね合わせて紫外線全領域にわたって同一の色相を有する発光像や発光画線、発光像を作製する場合、発光層の上に配する場合と下に配する場合ではワニスや発光体によって発光特性が大きく変化するため、紫外線全領域で意図した色相を得ることは極めて高い技術と労力が必要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の多色発光混合物は、紫外線の励起特性の異なる三つ以上の蛍光体を混合して作製する。
【0040】
詳しくは、紫外線の照射により、発光する第1の発光体、第2の発光体又は第3の発光体が、RGB色表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもち、第1の発光体、第2の発光体又は第3の発光体は、それぞれ少なくとも一つの蛍光体から選ばれ、R領域に発光する少なくとも一つの発光体を第1の発光群、G領域に発光する少なくとも一つの発光体を第2に発光群、B領域に発光する少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、第1の発光群、第2の発光群及び第3の発光群の中から選ばれるR領域、G領域及びB領域に発光する発光体のうち、少なくとも三つの蛍光体を混合して作製する。
【0041】
さらに、紫外線領域の第1の波長で、混合した蛍光体のうち一つの発光体の発光強度が最も強く、紫外線領域の第1と異なる第2の波長で、混合した蛍光体のうち別の一つの発光強度が最も強く、紫外線領域の第1、第2と異なる第3の波長で、混合した蛍光体のうち別の一つの発光体の発光強度が最も強くなるように蛍光体を混合して作製する。
【0042】
多色発光インキ組成物に使用するそれぞれの発光体は、RGB領域に属する発光群から一つを選定し、選定した3種類の発光体を、目的を成すための最良の混合比によって混合する。
【0043】
作製した多色発光インキ組成物の効果確認は、紫外線を照射することによる色相評価とする。その際の紫外線照射手段としては、長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(254nm)を使用する。
【0044】
一般的に、発光体は長波紫外励起タイプと短波紫外線励起タイプに二つに大別されがちであるが、実際にはそれぞれの発光体固有の励起特性を持っている。一例として挙げると、短波紫外線励起タイプとして分類される発光体は、紫外線長波領域でほとんど発光せず紫外線短波領域でのみ発光するものであるが、この中には実際には紫外線中波領域ですでに発光しているものや、紫外線中波領域では発光せず紫外線短波領域でのみで急激に発光するものがある。また、長波紫外励起タイプとして単に分類されている発光体は、紫外線長波領域で発光して紫外線中波領域や紫外線短波領域で発光が落ちるものや、ほぼ変わらないもの、より強く光るものがある。
【0045】
また、有機系発光体は耐光性に問題がある場合が多いものの、長波紫外励起時には無機系とは比較にならないほどの強度の発光を有し、ピーク前後の適正な紫外線励起波長域が狭く、発光が減衰するものが多い。発光強度の違いを含めた励起特性を厳密に観察すると、励起特性はそれぞれの発光体に独特のものであることがわかる。この励起特性の違いを利用した場合には、一般に短波紫外線励起タイプと分類されている発光体同士の組み合わせであっても、配合量を調整することで紫外線中波領域から紫外線短波領域までの従来の半分の波長の中で顕著な色相変化をもつ二色性発光体を作製することが可能であり、同様に長波紫外線励起タイプ同士の発光体同士の組み合わせであっても、紫外線長波領域から紫外線中波領域までで色相変化をもつ二色性発光体を作製することも可能である。
【0046】
この場合、短波紫外線励起タイプ同士の組み合わせとしては、長波励起発光波長が異なったタイプを組み合わせることで実現可能であるとともに、長波励起発光後の発光の増減を利用することも可能である。長波励起発光波長の異なるタイプの発光体の組み合わせは、紫外線中波領域からゆるやかに発光する励起特性を持つ発光体と、紫外線短波領域で特異的に発光する励起特性の異なった発光体を組み合わせて配合を調整することで、紫外線中波領域では長波励起発光波長の違いから一つの発光体しか発光しえないが、紫外線発光波長が短くなるに従って、もう一つの発光体も急激に励起され徐々に発光色が二色の混色と化す。このように、二つの発光体の混合比を調整することで、最終的な発光色を任意に調整することが可能となる。
【0047】
また、長波紫外励起タイプ同士の組み合わせとしては、紫外線短波タイプと同様に長波励起波長の違いと長波励起発光後の発光の増減を利用することも可能である。一例として、初期発光後の発光の増減を利用した組み合わせとして、発光後に一気に発光強度が低下する有機系発光体と紫外線波長の変化に対して発光強度がほぼ一定である無機系発光体を組み合わせた場合が考えられる。
【0048】
二つの発光体はほぼ同時に励起されるため、初期発光が二つの発光体の発する色の混色となるが、両発光体の配合量を調整することで紫外線長波領域のある一定の域では有機系発光体の発光が主体的となる。しかし、それ以降の域では有機系発光体の発光強度が一気に低下するために無機系発光体の発光が主体的となる。このように有機系発光体と無機系発光体にそれぞれ異なった色相の発光体を使用することで同様な色相変化を得ることができる。
【0049】
例として有機系と無機系の組み合わせで説明をしたが、これについては励起特性が大きく異なっていれば無機系の発光体の組み合わせで配合を調整することで実現可能である。これらは発光ブランクが100nm程度存在する従来の二色性発光体と比較しても特徴的な色相変化を50nm以下の極めて限定された範囲の中で成し得る特殊な二色性発光体となる。
【0050】
本発明は従来の二色性で説明した特殊な二色性にとどまらず、異なる三つ以上の発光体を組み合わせることで、官能検査のための多様な色相表現や機械検査のための複雑で多様な発光変化を得るものであって、従来のように長波紫外励起タイプ及び短波紫外線励起タイプといった大まかな分類で発光混合体を設計するのではなく、これまで考慮されることのなかった広い紫外線波長領域にわたる各発光体独自の細かな励起特性を考慮して複数の発光体の組み合わせを成すものであり、混合した個々の発光体の励起特性が複雑に重なり合い、その結果、当該励起紫外線波長に最も主体的となった発光がその紫外線波長において色相として現れる真偽判別に優れた発光体に関するものである。
【0051】
また、鑑別情報のように機械判別性の向上のみを目的とする場合には、同じ色相の発光体を選定することで目視確認できる発光色はあえて変化させず、分光測定時の発光波形のみを特徴的に変化させた特殊な機械読み取り専用インキとすることで充分であり、単に発明の効果をあえて低くするだけで実施可能であることは言うまでもない。
【0052】
一例として300nm以下の紫外線波長領域で初期発光し、その後、励起波長が短波長側にシフトした時に著しく発光強度が増加する励起特性をもつ緑色発光体1と紫外線320nmの紫外線波長領域で発光し、その後、励起波長が長波長側にシフトしても発光強度がほとんど変化しない励起特性を持つ赤色発光体2、長波紫外励起領域で発光し、その後、励起波長が更に長波長側にシフトしても発光強度が変化しない励起特性を持つ紫色発光体3の三つの発光体を混合してなる混合発光体の場合には、これまでの二色性発光体が有していた問題を完全に克服する発光体となる。
【0053】
仮に使用者が簡易的な真偽判別のための色相確認として、紫外線長波、紫外線中波、紫外線短波の三波長励起領域のみで真偽判定を行うと想定し、第三者がその励起領域のみで色相が同一と判定できる偽造品を作製しようとした場合を仮定する。
【0054】
この多色発光体の場合、それぞれの発光体ごとの紫外線励起波長における励起波長間隔が約50nmと従来の紫外線長波、紫外線短波の二波長励起領域を利用した二色性発光体のほぼ半分となることに加え、長波紫外励起領域では紫色発光体3のみが発光しているのもの、中波紫外線励起領域では赤色発光体2と発光体3との混合色となり、短波紫外線励起領域では発光体1、発光体2、発光体3すべての混合色となることから、発光体1あるいは発光体2の種類を変更した場合には、中波紫外線励起領域あるいは短波紫外線励起領域における発色にも大きな影響を及ぼすことになる。
【0055】
この場合、短波紫外線励起領域でのみ発光する発光体1については、他の波長励起領域での色相や発光強度に影響を及ぼさず、それ単独で色相調整や発光調整を行えると考えがちであるが、実際にはこれもすでに320nmより長波長側の励起光で発光していることから中波紫外線励起領域でその色相や発光強度の違いとして現れてしまうこととなる。
【0056】
このように中波紫外線励起領域以降のいずれの短波長側の波長領域においても異種の発光体の発光が複雑に絡み合った混合色であるため、紫外線励起波長中の三つの限定された励起波長領域でのみ色相を一致させようとした場合であっても、それを完全に模倣することは従来の二色性発光体と比較して著しく困難となっている。
【0057】
以上のように真性品と同じ三つの色相を発する偽造品を再現するためには、励起特性がほぼ完全に一致した発光体を使用する必要が生じる。色相が同一で紫外線励起特性が完全に一致した異種の発光体は存在しないため、その再現には真性品とほとんど同じ発光体が必要となる。
【0058】
また、真性品の発光体の組み合わせであってもその配合割合が異なった場合には、いずれかの紫外線励起波長領域において一致しない色相が現れるため、その再現には高い技術レベルが必要となる。
【0059】
本発明を実施するための最良の形態における、実施例を以下に4種類挙げて、それぞれ説明をする。実施例1及び実施例2に関しては、3種類の発光体を混合して作製した多色発光インキ組成物であり、一般的な紫外線照射装置を使用した目視による色相評価で大きな効果が得られるものである。また、実施例3に関しては、3種類の発光体を混合して作製した多色発光インキ組成物であり、機械読み取りに用いられる特殊な紫外線照射装置を使用した色相評価で大きな効果が得られるものである。また、実施例4に関しては、実施例3で使用した発光体にもう1種類の発光体を加えた、4種類の発光体を混合して作製した多色発光インキ組成物であり、機械読み取りに用いられる特殊な紫外線照射装置を使用した色相評価で大きな効果が得られるものであるとともに、一般的な紫外線照射装置を使用した目視による色相評価でも大きな効果が得られるものである。
【実施例1】
【0060】
紫外線照射波長の変化に対して目視における色相変化を大きくした場合の本発明実施の一例を示す。この場合、使用者は紫外線長波領域及び紫外線中波領域、紫外線短波領域のランプを照射して色相を簡易的に判定すると仮定している。多色発光体に使用する個別の発光体は大まかにRGB領域に属する発光群からそれぞれ一つを選択し、選定した3種類の発光体を混合することとした。色相の変化が最大となりうる発光顔料の選定を図2のとおり行った。目的とした色相の変化を最大とするために、B系発光体1は発光ピークが440nmの紫色である可視領域の最低波長の発光体1を選定した。発光体1の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図3(a)に示す。また、発光体1の発光波長と発光ピークについて図3(b)に示す。発光体1は一般には長波紫外励起タイプに分類されるが、紫外線長波約380nmで紫色発光をし、それより短い波長の紫外線を照射した場合でも発光強度はほぼ変化しない励起特性の発光体である。
【0061】
続いて、R系発光体2は発光ピークが650nmの赤色である可視領域の最大波長の発光体2を選定した。発光体2の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図4(a)に示す。また、発光体2の発光波長と発光ピークについて図4(b)に示す。発光体2は一般的には短波紫外線励起タイプとして分類されるが、紫外線中波約330nmで赤色発光し、それより短い波長の紫外線を照射した場合には発光強度がほぼ変化しない励起特性の発光体である。
【0062】
続いて、G系発光体3として発光ピークが520nmの緑色である発光体3を選定した。発光体3の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図5(a)に示す。また、発光体3の発光波長と発光ピークについて図5(b)に示す。発光体3は一般には短波紫外線励起タイプに分類されるが、紫外線短波300nmより短い短波領域で特異的に緑色発光する励起特性の発光体である。
【0063】
この例のように、発光体に紫外線照射波長に応じてドラスティックな色相変化の発現を意図する場合には、これら発光体1、発光体2、発光体3の選定の条件が必要となってくる。その選定条件として、発光体1は紫外線長波365nmで励起された後、紫外線中波領域や紫外線短波領域の短い波長に照射波長が移行しても、発光強度が少なくとも大きく増加しないことが望ましい。これは、紫外線長波領域以下で発光体1の発光強度が増加した場合に、紫外線中波領域及び紫外線短波領域において発光する発光体2及び発光体3の色相と重なって混ざり合った色相に変化してしまうためであり、好ましくは紫外線長波認証領域である365nmより短い波長では発光強度が低下する発光体が望ましい。
【0064】
発光体2は長波の紫外線で励起されないことを特徴とすることが望ましく、かつ短波の紫外線で発光強度が大きく増加することがないことが望ましい。これの問題と同様に長波の紫外線照射時に発光色の紫と赤が混ざり合い、短波の紫外線照射時には発光色の赤と緑が混ざり合うこととなるため、発光色の彩度が低下し色相の変化の視認性が低下してしまうことを避けるためでもある。
【0065】
発光体3については長波の紫外線及び中波の紫外線で励起されないことが望ましい。これは発光体1及び発光体2と同様に、長波の紫外線照射時や中波の紫外線照射時に緑発光する場合、紫発光及び赤発光と混ざり合うことになるため、これを防ぎ長波励起時の紫色や中波励起時の赤色の発光をあいまいな色相としないために必要な性質である。
【0066】
これら励起特性と色相が異なった発光体群を選定した後、それぞれの顔料コンテントの検討を行った。インキ適性や印刷作業性、印刷物の堅牢性等の実用性を考慮する場合、インキ中に顔料が占める割合は制限される場合が多いことから、発光体1、発光体2、発光体3を合計した重量がインキ全体においてインキ用ビヒクル70重量部に対して30重量部とし、その中で色相のバランスを考慮しながら発光体1、発光体2、発光体3の各々の重量部を微調整する方法とした。少量の発光体の混合にあたっては、簡易的には乳鉢等を用いて発光体が均一になるまで混合して、均一に分散した状態の多色発光体とした。
【0067】
まず、図1に示した発光体1、発光体2、発光体3をそれぞれ均等に10重量部ずつ混合した多色発光体を作製し、照射する紫外線の波長を広域に変化させた場合の色相の変化を確認した。効果の確認のための紫外線照射手段としては、長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(中心波長254nm)を使用した。
【0068】
その結果、長波の紫外線照射時の紫色の発色は充分な認識度があるが、中波の紫外線照射時には発光体2の赤色の発色が弱く、蛍光体1の青色発光と混ざり合った色である青紫として認識され、短波の紫外線照射時に発光体1、発光体2、発光体3の発光色が混ざり合い、ほぼ完全な白色として発光する結果となった。
【0069】
この結果を考慮して、改めて配合割合が異なったサンプル1からサンプル4なる図6の第2試作群を作製した。まず、サンプル1に関しては、発光体1を10gと発光体2を5gと発光体3を15g混合して多色発光体を作製した。サンプル2に関しては、発光体1を10gと発光体2を15gと発光体3を5g混合して多色発光体作製した。サンプル3に関しては、発光体1を5gと発光体2を15gと発光体3を10g混合して多色発光体作製した。サンプル4に関しては、発光体1を5gと発光体2を10gと発光体3を15g混合して多色発光体を作製した。その後、長波の紫外線照射時(中心波長366nm)、中波の紫外線照射時(中心波長302nm)、短波の紫外線照射時(中心波長254nm)の発光体の色相評価を目視で行った結果、図7のとおりとなった。
【0070】
これらのいずれにおいても、本発明の本質である励起特性が異なった異種の発光体による発光変化は充分に備えており、機械判別を行うには充分な発光色の色相変化を有しているものの、この例においては色相変化を大きくすることを目的としたため、配合を再調整することとした。サンプル3とサンプル4の色相変化の評価が高かったことから、この二つを基準にして最終的に数%単位で各顔料配合比を微調整して最良な配合割合を決定するにいたった。
【0071】
発光体1と発光体2と発光体3の最良な配合比を図8に、それによって作製された多色発光体に対して、各紫外線を照射した際の色相評価の結果を図9に示す。長波の紫外線照射時(中心波長366nm)においては紫色、中波の紫外線照射時(中心波長302nm)においては赤色、短波の紫外線照射時(中心波長254nm)においては緑色を発し目的とした効果を得ていることを確認した。
【0072】
図10(a)に長波紫外線励起時の発光分布、図10(b)に中波紫外線励起時の発光分布、図10(c)に短波紫外線励起時の分光分布を示す。
【0073】
図10(a)、(b)、(c)のグラフのY軸である発光強度はいずれも相対強度であって波形上の最高ピークがグラフ上で約80%となるスケールとした。これらは分光測定器(日立製作所製850型分光蛍光光度計)においても機械検出するに充分なピーク波長を有していることを確認できた。
【0074】
また、全色相を再現するための各紫外線照射ランプと多色発光体の距離についての調査を行った。図11に、多色発光体(1)と長波紫外線照射ランプ(2)と、中波紫外線照射ランプ(3)と、短波紫外線照射ランプ(4)との位置関係を示す。その位置関係において、多色発光体(1)と各紫外線照射ランプ(2)、(3)、(4)の距離を8種類のパターンに変化させて色相評価を行った。その色相評価の結果を図12に示す。この結果から、この発光体に対して各紫外線照射ランプの距離を変化させることで全色相の再現に加え、従来の単色発光体や二色性発光体では不可能であった白色発光が可能であることを確認できた。照射光量は距離の二乗に反比例することをから、逆に各紫外線ランプの距離を一定に保って照射光量を増減させることでもこの色相変化を確認できることは言うまでもない。
【0075】
多色発光体を作製した後、これをインキ化するために、続いてインキ用ビヒクルを選定した。グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷といった印刷方式で使用されるインキ用ビヒクルはいずれも有機物で構成されるため、紫外線を吸収する特性をもともと有している。
【0076】
ハロゲン、カルボニル基、ベンゼン環、不飽和基等を含む有機化合物はいずれも少なからず紫外線を吸収する特性を有しているが、サリチル酸系吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が代表的であり、特にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は紫外線長波領域にも顕著な吸収特性を有していることで知られている。
【0077】
また、ポリウレタン樹脂やポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アミノアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合体、ゼラチン、ポリビニルアルコール等は紫外線領域の紫外線短波領域の中でも特に短い波長の光を吸収する特性を持っていることで知られている。
【0078】
この例においては各波長における色相を鮮明にみせることが目的であるため、紫外線中のある一定の波長のみを強く吸収する特性をもつインキ用ビヒクルを避けることが望ましい。
【0079】
本実施例においてはグラビア印刷で用いられる水性スチレンアクリル系のワニスを用いることとしたが、これらインキ用ビヒクルの選定は使用者の所望する印刷方式を考慮して設計すべきであり、使用者が使用するインキ用ビヒクルが短波紫外線の吸収特性の高い性質を有するものに限定されるのであれば、発光体3の発光の減衰を考慮して発光体3のインキ中の混合比を高くして配合することで実現可能であることから、印刷方式を限定するものではない。
【0080】
最終的に図13に示すインキ配合でグラビア印刷用の多色発光インキ組成物を作製した。顔料は30重量部とし、多色発光体をインキ用ビヒクルに投入した後、補助剤としてシリコン系消泡剤2重量部を外割りで添加し、これを、高速分散機(特殊機械工業株式会社製ホモディスパー)を使用して最高回転数3000rpmで3分間再攪拌を行いインキ化した。これを、グラビア平版試験機(クラボウ株式会社製GP−2型)を用いて国立印刷局製造の無蛍光グラビア印刷用塗工紙を使用して175線/inchでグラビア印刷を行い目的とした印刷物を得た。
【0081】
このインキ組成物は可視光下では白色であり、白色の塗工紙が下地となっていることから、目視の確認においてはその印刷位置を特定できない不可視の画像構成となった。これに多色発光体の色相確認と同様な方法で色相の確認を行ったところ、発光体の色相を損なうことなく、多色発光体の効果を発現できていることを確認できた。
【実施例2】
【0082】
目視における認証性が高いことを目的とし、かつ発光体に有機系の顔料を使用した場合の本発明実施のもう一例を示す。無機系発光顔料の発光強度は有機系発光顔料の発光強度と比較して低いため、発光体群すべてに無機系発光顔料のみを使用した場合、使用者の要求する発光強度を満たすためにはインキ中に30%を超える高い顔料配合割合を余儀なくされる場合があり、印刷方式によっては連続印刷するには適さない印刷適正が劣り、印刷物の堅牢性が低くなってしまう場合がある。本発明の場合、複数の色相を複雑に発色させるためにはトータル発光体顔料コンテントが高い値となってしまう場合が考えられることから、発光体群のなかの少なくとも一種類に発光強度の高い有機系顔料を使用することで最終的な多色発光インキ中のトータルの発光顔料のコンテントを低くし、印刷適性を改善する例である。
【0083】
実施例1と同様に使用者が真偽判別に用いる紫外線照射波長領域は、長波領域、中波領域、短波領域の簡易判別可能な三つの限定された範囲のみと仮定した。実施例1と同様に使用する発光体はRGB領域に属する発光群からそれぞれ一つを選択し、色相の異なる3種類の発光体を混合することとした。実施例1と同様に発光顔料の選定を図14のとおり行った。
【0084】
G系発光体4の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係を図15(a)に示す。また、発光体4の発光波長と発光ピークについて図15(b)に示す。発光体4は520nmの発光ピークを有する長波紫外線励起タイプと分類される有機系の発光体であって、紫外線長波380nmで緑色発光をし、それより短い波長の紫外線を照射した場合には発光強度が一気に低下する励起特性の発光体である。有機系の発光体は無機系と比較して耐光性が劣るが発光強度は極めて高いうえ、長波の紫外線で発光した後、中波の紫外線領域及び短波の紫外線領域において顕著に発光が減少する特性を持つものが多々存在することから、堅牢性や耐光性において使用者の必要とする特性を満足する限りにおいて本発明を構成する長波紫外線励起タイプの発光体として使用するには好ましい特性を有している。
【0085】
続いて、B系発光体5として発光ピークが波長480nmの青色発光体5を選定した。発光体5の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係を図16(a)に示す。また、発光体5の発光波長と発光ピークについて図16(b)に示す。発光体5は短波紫外線励起タイプに分類される発光体であって、紫外線中波領域310nmで青色発光し、これより短い波長の紫外線を照射した場合には発光強度がほぼ変化しない励起特性の発光体である。
【0086】
続いて、R系発光体6として発光ピークが波長620nmの赤色発光体6を選定した。発光体6の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係を図17(a)に示す。また、発光体6の発光波長と発光ピークについて図17(b)に示す。発光体6は短波紫外線励起タイプに分類される発光体であって、紫外線短波領域の300nmより短い波長で特異的に赤色発光する励起特性の発光体である。
【0087】
これら発光体4、発光体5、発光体6の選定の条件は実施例1の発光体1、発光体2、発光体3と同様な特性が要求される。これら励起特性と色相が異なった発光体群を選定した後、それぞれの顔料コンテントの検討を実施例1と同様に行った。
【0088】
最良な混合比を図18に示す。有機顔料である発光体4は無機系顔料である発光体5及び発光体6と比較して極めて強い発光強度を有すことから、その配合割合は極めて低い値で充分であり、結果としてインキ中に占める多色発光体の総顔料コンテントを引き下げる効果を得ることができる。
【0089】
また、発光体4は紫外線中波領域及び紫外線短波領域で発光が著しく減少するため、中波の紫外線励起時及び短波の紫外線励起時に発光しないことで、発光体5及び発光体6がもともと有する色相を、ほぼそのまま発することが可能となった。
【0090】
効果の確認のための紫外線照射手段は実施例1と同様に長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(中心波長254nm)を使用した。
【0091】
この多色発光体に各波長の紫外線を照射したところ、長波の紫外線照射においては緑色、中波の紫外線照射においては青色、短波の紫外線照射においては橙色発光し目的とした効果を得ていることを確認した。その色相評価について図19に示す。
【0092】
図18(a)に長波紫外線励起時の発光分布、図18(b)に中波紫外線励起時の発光分布、図18(c)に短波紫外線励起時の分光分布を示す。これらはいずれも分光測定器(日立製作所製850型分光蛍光光度計)を使用して測定を行った。図8のグラフのY軸である発光強度はいずれも相対強度であって波形上の最高ピークがグラフ上で約80%となるスケールとした。この結果、いずれの波長域においても機械検出するに充分なピーク波長を有していることを確認できた。
【0093】
また、全色相を再現するための紫外線照射ランプと多色発光体の距離についての調査を行った。多色発光体(1)と長波紫外線照射ランプ(2)と、中波紫外線照射ランプ(3)と、短波紫外線照射ランプ(4)との位置関係は、実施例1と同様に図11に示しとおりとした。その位置関係において、多色発光体(1)と各紫外線照射ランプ(2)、(3)、(4)の距離を変化させて色相評価を行った。その色相評価の結果を図21に示す。この例においては、選定したG系発光体の発光ピークが480nmであり、赤色の発光ピークが620nmと橙色であることから、紫、藍及び赤の色相を発光させ得ないが、白色の発光を得ることはできた。
【0094】
この結果から、この印刷物に対して各紫外線照射ランプの距離を変化させることで紫、藍及び赤を除く色相の再現に加え、従来の単色発光体や二色性発光体では不可能であった白色発光が可能であることが実施例1と同様に確認できた。
【0095】
この例においては、長波紫外線励起タイプの発光体4にのみ有機系発光体を使用したが、発光体5に用いても発光体6に用いても何ら問題はなく、発光体の発光色とその励起特性、耐光性が使用者の意図したもとに一致するのであれば、複数の有機系発光体を使用しても実施可能であることはいうまでもない。
【0096】
この顔料比で実施例1と同様の手法でグラビアインキとした。可視光下でも有色の発光インキとするため最終的にフタロシアニンブルー5Gを1%加えた図22に示すインキ配合で実施例1と同一な方法でインキ化した。これを、グラビア平版試験機(クラボウ格式会社製GP−2型)を用いて国立印刷局製造の無蛍光の印刷用塗工紙を使用して175線/inchでグラビア印刷を行い目的とした印刷物を得た。
【0097】
このインキは可視光下では淡い青色であり、白色の塗工紙が下地となっていることから、目視の確認においてはその印刷位置を特定できる可視の画像構成となった。これに発光体の色相確認と同様な方法で色相の確認を行ったところ、着色顔料を用いたことで若干発光強度は低下したもののその色相自体は損なうことなく、多色発光体の効果を発現できていることを確認できた。
【実施例3】
【0098】
紫外線長波領域から紫外線中波領域までの限定された範囲で色相の変化を有する本発明実施の一例を示す。この例における多色発光体は、400nm〜300nmの長波紫外線から中波紫外線の極めて狭い領域でBGRの色相変化を成すものである。
【0099】
現在、販売されている紫外線照射装置は、365nmを中心とするブラックライト等の長波紫外線照射ランプ、及び254nmを中心とする殺菌灯などに用いられる短波紫外線照射ランプが一般的であるが、その他にも302nmを中心とする医療用中波紫外線照射ランプもある。これらに用いられる水銀灯、キセンノンランプ等の輝線は広範囲にわたって分布しているため、照射する紫外線波長はその中心波長を外れた様々な紫外線波長が多少なりとも混在しており、当然のことながらその中心波長のみを照射しているわけではない。
【0100】
また、コンパクトな紫外線照射手段として近年広まりつつある紫外線照射LED、照射波長がランプと比較してシャープな域で照射可能であるものの最低波長は360nm程度であって、現在はそれ以下の紫外線波長域のものは入手不可能である。
【0101】
一方の機械読み取りに用いられる分光測定器等は低圧水銀灯やキセノンランプと回折格子の組み合わせで数nmスパンの紫外線照射範囲に絞り込んだ測定が可能である。実施例1及び実施例2においては使用者の認証性を考慮して、一般的に入手が容易な紫外線照射ランプを照射した場合に、もっとも色相変化が大きく感じる設計としたが、本実施例においては、一般に販売されている照射域の広いランプでは色変化は小さくし、一方の機械読み取りに用いられる分光測定器による認証性や、特殊な照射装置のみを用いた場合に簡易的なランプでは見られなかった色相変化をなすことを目的とした。これは鑑別系情報として発光を用いる特殊認証タイプである。
【0102】
多色発光体に使用する個別の発光体はRGB領域に属する発光群からそれぞれ一つを選択し、3種類の発光体を混合することとした。その際の、3種類の発光顔料の選定を図23のとおりとした。B系発光体は発光ピークが440nmの紫色である可視領域の最低波長の発光体7を選定した。発光体7の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図24(a)に示す。また、発光体7の発光波長と発光ピークについて図24(b)に示す。発光体7は有機系発光体であり、一般には長波紫外線励起タイプと分類されるが、紫外線長波領域の約380nmで特異的に紫色発光をし、これより短い波長の紫外線を照射すると著しく発光が減衰する励起特性の発光体である。
【0103】
次に、G系の発光体として発光ピークが540nmの緑色である発光体8を選定した。発光体8の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図25(a)に示す。また、発光体3の発光波長と発光ピークについて図25(b)に示す。発光体8は一般に長波紫外線励起タイプに分類されるが、長波長領域から短波長領域にかけて発光強度が変化しない励起特性の発光体である。
【0104】
次に、R系発光体は発光ピークが650nmの赤色である可視領域の最大波長の発光体9を選定した。発光体9の紫外線照射波長と発光ピークにおける発光強度の関係(励起特性)を図26(a)に示す。また、発光体2の発光波長と発光ピークについて図26(b)に示す。発光体9は一般的には短波紫外線励起タイプとして分類されるが、紫外線中波領域約330nmで赤色発光し、それ以下の紫外線波長を照射した場合には発光強度がほぼ変化しない励起特性の発光体である。
【0105】
多色発光体の限定された条件での認証を想定した本例においても実施例1及び実施例2と同じように発光体7、発光体8、発光体9の選定の条件は発光する紫外線領域が異なるものの発光体1、発光体2、発光体3と同様な性質が要求される。これら励起特性と色相が異なった発光体群を選定した後、それぞれの実施例1、実施例2と同様に顔料コンテントの検討を行った。
【0106】
その結果に基づき、最良な混合比を図27に示す。また、紫外線照射波長毎の色相評価の結果を図28(a)、(b)に示す。図28(a)は、色相評価の確認手段として特殊な照射装置を使用した場合の色相評価結果を示し、図28(b)は、色相評価の確認手段として一般的な照射装置を使用した場合の色相評価結果を示す。
【0107】
まず、特殊な照射装置として、分光測定器の照射装置(キセンノンランプと回折格子)を用いて、照射波長を5nmスパンに区切って照射した場合に多色性発光体に現れた色相を目視で確認した結果を図28(a)に示す。この結果から、青から橙までの中間調を含めた色相の再現が400nmから300nmの限定された波長域で発生していることを確認した。
【0108】
また、この結果との比較のため、実施例1及び実施例2と同様に一般的な紫外線照射ランプを用いて色相評価を行った。色相評価の効果確認のための紫外線照射手段としては、長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(中心波長254nm)を使用し、その色相再現の結果を比較した。長波紫外線においては青色、中波紫外線においては黄色、短波紫外線においては橙色を発したが、RGB三つの主色相の一つである「緑」の色相は簡易的な照射ランプを用いて確認することが不可能であって、目的とした効果を得ていることを確認した。
【0109】
図29(a)に長波紫外線励起時(中心波長365nm)の発光分布、図29(b)に長波紫外線励起時(中心波長340nm)の発光分布、図29(c)に中波紫外線励起時(中心波長302nm)の分光分布を示す。それぞれのグラフのY軸である発光強度はいずれも相対強度であって波形上の最高ピークがグラフ上で約80%となるスケールとした。これらは分光測定器(日立製作所製850型分光蛍光光度計)を使用して測定を行い、この結果、いずれの波長域においても機械検出するに充分な発光ピークを有していることが確認できた。
【0110】
多色発光体を作製した後、これをインキ化するためにインキ用ビヒクルを選定した。実施例1及び実施例2と同様に、最終的に図30に示すインキ配合でグラビア印刷用の多色発光インキ組成物を作製した。顔料30重量部及びインキ用ビヒクル70重量部とし、多色発光体をインキインキ用ビヒクルに投入した後、補助剤としてシリコン系消泡剤を2%外割りで添加し、これを、高速分散機(特殊機械工業株式会社製ホモディスパー)を使用して最高回転数3000rpmで3分間再攪拌を行いインキ化した。これを、グラビア平版試験機(クラボウ格式会社製GP−2型)を用いて国立印刷局製造の無蛍光の印刷用塗工紙を使用して175線/inchでグラビア印刷を行い目的とした印刷物を得た。
【0111】
このインキは可視光下では白色であり、白色の塗工紙が下地となっていることから、目視の確認においてはその印刷位置を特定できない不可視の画像構成となった。これに発光体の色相確認と同様な方法で色相の確認を行ったところ、その色相を損なうことなく、多色発光体の効果を発現できていることを確認できた。
【実施例4】
【0112】
実施例3の多色発光体に異種の発光体を加えて発光体を4種類とし、色相を変化させるとともに機械判別に適した発光変化を備えた例を示す。実施例3で作製した多色性発光体に対して、第4の発光体として、短波で急激に励起されるR系発光体である発光体13を加え紫外線長波領域から紫外線短波領域でそれぞれ励起特性の異なる4つの発光体を用いた例である。機械判別性を考慮して発光体13は色相変化に与える影響は小さいが、その他の発光体と発光ピークにおける波長が重ならず発光ピークを充分取得することが可能な発光バランスとした。
【0113】
この多色発光体を構成する発光体群を図31に記す。発光体10、発光体11、発光体12は実施例3の発光体7、発光体8、発光体9と同じ発光体である。発光体10、発光体11、発光体12、発光体13の励起特性と発光特性について図32(a)、図32(b)、図33(a)、図33(b)、図34(a)、図34(b)、図35(a)、図35(b)に記す。発光体13は、実施例3の多色発光体が300nmより短い波長で大きな波長変化を有しないことを考慮して、300nmより長波長で励起波長が立ち上がりをする発光体から選定した。発光体13は一般には短波紫外線励起タイプに分類されるが、300nmより短い波長で励起波長が立ち上がり、顕著に強く発光する励起特性の発光体である。これら励起特性と色相が異なった発光体群を選定した後、それぞれの他の実施例と同様に顔料コンテントの検討を行った。
【0114】
その結果に基づき、最良な混合比を図36に示す。また、紫外線照射波長毎の色相評価の結果を図37(a)、(b)に示す。図37(a)は、色相評価の確認手段として特殊な照射装置を使用した場合の色相評価結果を示し、図37(b)は、色相評価の確認手段として一般的な照射装置を使用した場合の色相評価結果を示す。
【0115】
ここで言う特殊な照射装置は、実施例3で使用した分光測定器の照射装置を使用するとともに、一般的な照射装置についても実施例1、2、3で使用した長波紫外線照射ランプ(中心波長366nm)、中波紫外線照射ランプ(中心波長302nm)、短波紫外線照射ランプ(中心波長254nm)を使用した。この結果から、青から橙までの中間色調を含めた色相の再現が400nmから300nmの限定された波長領域で発生しているとともに、紫外線短波領域では橙から赤の発光に変化することを確認した。
【0116】
図38(a)に長波紫外線励起時(中心波長365nm)の発光分布、図38(b)に長波紫外線波励起時(中心波長340nm)の発光分布、図38(c)に中波紫外線励起時(中心波長302nm)の分光分布、図38(d)に短波紫外線励起時(中心波長254nm)の分光分布を示す。この図38(a)、(b)、(c)、(d)のグラフのY軸である発光強度はいずれも相対強度であって波形上の最高ピークがグラフ上で約80%となるスケールとした。これらは分光測定器(日立製作所製850型分光蛍光光度計)を使用して測定を行い、この結果、いずれの波長領域においても機械検出するに充分なピーク波長を有していることを確認できたことに加え、短波励起時には実施例3の多色発光体とは異なる発光体13の発光ピークが顕著に確認できることを確認した。
【0117】
この例においては、発光体13の配合割合は機械的に容易に検出可能な発光強度とするのみならず、目視によっても色相の変化が確認できることを目的とした画線構成としたが、発光体13を特別な真偽判別情報として取り扱う場合、あえて配合割合を下げて色相変化を抑制し、その色変化を、分光測定器を使用した機械判別でのみ検出できるレベルまで引き下げることは充分本発明の範囲で可能であることは言うまでもない。
【0118】
多色発光体を作製した後、これをインキ化するためにインキ用ビヒクルを選定した。実施例1から実施例3と同様に最終的に図39に示すインキ配合でグラビア印刷用3色発光インキを作製した。顔料30重量部とし、多色発光体をインキインキ用ビヒクル70重量部に投入した後、補助剤としてシリコン系消泡剤を2重量部外割りで添加し、これを、高速分散機(特殊機械工業株式会社製ホモディスパーホモディスパー)を使用して最高回転数3000rpmで3分間再攪拌を行いインキ化した。これを、グラビア平版試験機(クラボウ株式会社製GP−2型)を用いて国立印刷局製造の無蛍光の印刷用塗工紙を使用して175線/inchでグラビア印刷を行い目的とした印刷物を得た。
【0119】
このインキは可視光下では白色であり、白色の塗工紙が下地となっていることから、目視の確認においてはその印刷位置を特定できない画線構成となった。これに発光体の色相確認と同様な方法で色相の確認を行ったところ、全くその色相を損なうことなく、多色発光体の効果を発現できていることを確認できた。
【0120】
以上のように本発明を利用することで目視における色相変化や機械判別性、秘匿性等、使用者が所望する効果に応じて用いる発光体群を変えて様々な効果を得ることが可能である。実施例において発光体は全て発光顔料で構成したが、染料であっても何ら問題はないことは言うまでもない。また、全ての例において、色相の変化を優先したため色相の全く異なった発光体を使用したが、機械認証を優先させる場合には実施例4の発光体12、発光体13のように発光スペクトル形状が異なるが、同一の色相に属するものを組み合わせて使用することは、実施例の4つの例と比較しても技術的に容易であり、この発明の範疇であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】一般的な化学式の発光色、励起特性及び発光波長を示す。
【図2】実施例1における、選定された3種類の発光顔料を示す。
【図3】(a)は発光体1の励起特性、(b)は発光体1の発光特性を示す。
【図4】(a)は発光体2の励起特性、(b)は発光体2の発光特性を示す。
【図5】(a)は発光体3の励起特性、(b)は発光体3の発光特性を示す。
【図6】実施例1における、3種類の蛍光顔料の混合重量を変化させた、5種類のサンプルの混合重量を示す。
【図7】実施例1における、5種類のサンプルの紫外線代表波長の色相評価を示す。
【図8】実施例1における、3種類の蛍光顔料の最良の混合重量を示す。
【図9】実施例1における、多色発光体の各紫外線波長における色相評価を示す。
【図10】実施例1における、多色発光体に対し、(a)は長波紫外線励起時の発光分布、(b)は中波紫外線励起時の発光分布、(c)は短波紫外線励起時の発光分布を示す。
【図11】実施例1における、多色発光体と各紫外線照射ランプとの位置関係を示す。
【図12】実施例1における、全色相再現のための多色発光体と紫外線照射ランプとの距離、及びそれぞれの色相評価を示す。
【図13】実施例1における、多色発光インキ組成物の配合割合を示す。
【図14】実施例2における、選定された3種類の発光顔料を示す。
【図15】(a)は発光体4の励起特性、(b)は発光体4発光特性を示す。
【図16】(a)は発光体5の励起特性、(b)は発光体5の発光特性を示す。
【図17】(a)は発光体6の励起特性、(b)は発光体6の発光特性を示す。
【図18】実施例2における、3種類の蛍光顔料の最良の混合重量を示す。
【図19】実施例2における、多色発光体の各紫外線波長における色相評価を示す。
【図20】実施例2における、多色発光体に対し、(a)は長波紫外線励起時の発光分布、(b)は中波紫外線励起時の発光分布、(c)は短波紫外線励起時の発光分布を示す。
【図21】実施例2における、全色相再現のための多色発光体と紫外線照射ランプとの距離、及びそれぞれの色相評価を示す。
【図22】実施例2における、多色発光インキ組成物の配合割合を示す。
【図23】実施例3における、選定された3種類の発光顔料を示す。
【図24】(a)は発光体7の励起特性、(b)は発光体7発光特性を示す。
【図25】(a)は発光体8の励起特性、(b)は発光体8の発光特性を示す。
【図26】(a)は発光体9の励起特性、(b)は発光体9の発光特性を示す。
【図27】実施例3における、3種類の蛍光顔料の最良の混合重量を示す。
【図28】実施例3における、多色発光体に対し、(a)は特殊な照射装置の照射による色相評価、(b)は一般的な照射装置の照射による色相評価を示す。
【図29】実施例3における、多色発光体に対し、(a)は長波紫外線励起時の発光分布、(b)は長波紫外線励起時の発光分布、(c)は短波紫外線励起時の発光分布を示す。
【図30】実施例3における、多色発光インキ組成物の配合割合を示す。
【図31】実施例4における、選定された3種類の発光顔料を示す。
【図32】(a)は発光体10の励起特性、(b)は発光体10の発光特性を示す。
【図33】(a)は発光体11の励起特性、(b)は発光体11の発光特性を示す。
【図34】(a)は発光体12の励起特性、(b)は発光体12の発光特性を示す。
【図35】(a)は発光体13の励起特性、(b)は発光体13の発光特性を示す。
【図36】実施例4における、3種類の蛍光顔料の最良の混合重量を示す。
【図37】実施例4における、多色発光体に対し、(a)は特殊な照射装置の照射による色相評価、(b)は一般的な照射装置の照射による色相評価を示す。
【図38】実施例4における、多色発光体に対し、(a)は長波紫外線励起時の発光分布、(b)は長波紫外線励起時の発光分布、(c)は中波紫外線励起時の発光分布、(d)は短波紫外線励起時の発光分布を示す。
【図39】実施例3における、多色発光インキ組成物の配合割合を示す。
【符号の説明】
【0122】
1 多色発光体
2 長波紫外線照射ランプ
3 中波紫外線照射ランプ
4 短波紫外線照射ランプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線による励起特性の異なる少なくとも三つ以上の発光体を混合してなる多色発光混合物であって、
前記紫外線の照射により発光する前記発光体は、それぞれ単体でRGB表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもち、
前記R領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第1の発光群、前記G領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第2の発光群、前記B領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、
前記第1の発光群から選ばれる少なくとも一つの発光体、前記第2の発光群から選ばれる少なくとも一つの発光体、前記第3の発光群から選ばれる少なくとも一つの発光体のうち、少なくとも三つ以上の発光体を混合してなり、
紫外線領域の第1の波長の光を照射したときに、混合した前記少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第1の発光体の発光強度が最も強く、
前記紫外線領域の第1の波長とは異なる第2の波長の光を照射したときに、混合した前記少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第2の発光体の発光強度が最も強く、
前記紫外線領域の第1の波長、第2の波長とは異なる第3の波長の光を照射したときに、混合した前記少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第3の発光体の発光強度が最も強くなるように混合してなることを特徴とする多色発光混合物。
【請求項2】
前記発光体は、少なくとも一つの蛍光体又は燐光体から選ばれることを特徴とする請求項1記載の多色発光混合物。
【請求項3】
前記発光体は、無機系発光体の発光体で構成されるか、もしくは無機系発光体と有機系発光体の組み合わせによって構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の多色発光混合物。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の多色発光混合物をビヒクルに混合してなることを特徴とする多色発光インキ組成物。
【請求項5】
請求項4記載の多色発光インキ組成物を用いて印刷層を形成してなることを特徴とする画像形成物。
【請求項1】
紫外線による励起特性の異なる少なくとも三つ以上の発光体を混合してなる多色発光混合物であって、
前記紫外線の照射により発光する前記発光体は、それぞれ単体でRGB表示領域のR領域、G領域又はB領域のいずれかの主波長をもち、
前記R領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第1の発光群、前記G領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第2の発光群、前記B領域の主波長をもつ少なくとも一つの発光体を第3の発光群とし、
前記第1の発光群から選ばれる少なくとも一つの発光体、前記第2の発光群から選ばれる少なくとも一つの発光体、前記第3の発光群から選ばれる少なくとも一つの発光体のうち、少なくとも三つ以上の発光体を混合してなり、
紫外線領域の第1の波長の光を照射したときに、混合した前記少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第1の発光体の発光強度が最も強く、
前記紫外線領域の第1の波長とは異なる第2の波長の光を照射したときに、混合した前記少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第2の発光体の発光強度が最も強く、
前記紫外線領域の第1の波長、第2の波長とは異なる第3の波長の光を照射したときに、混合した前記少なくとも三つ以上の発光体のうち、少なくとも一つの第3の発光体の発光強度が最も強くなるように混合してなることを特徴とする多色発光混合物。
【請求項2】
前記発光体は、少なくとも一つの蛍光体又は燐光体から選ばれることを特徴とする請求項1記載の多色発光混合物。
【請求項3】
前記発光体は、無機系発光体の発光体で構成されるか、もしくは無機系発光体と有機系発光体の組み合わせによって構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の多色発光混合物。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の多色発光混合物をビヒクルに混合してなることを特徴とする多色発光インキ組成物。
【請求項5】
請求項4記載の多色発光インキ組成物を用いて印刷層を形成してなることを特徴とする画像形成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公開番号】特開2006−274097(P2006−274097A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96854(P2005−96854)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
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