説明

多軸多層押出成形法による鉛筆用、色鉛筆用及びシャープペンシル用芯の製造方法

【課題】鉛筆用、色鉛筆用、またはシャープペンシル用芯の製造において、曲げ強さを大きくすると濃度が下がり、濃度を上げると曲げ強さが小さくなるという逆相関の関係を改善する。
【解決手段】多層ダイを有する多軸押出成形機を用いて、各層の素材・成分、またそれらの組成割合を変えた、2以上の多層よりなる芯を製造する。各層の物理的性質の特長を生かして、層間のバランスをとり、芯全体の総合特性の優れた芯を得ることが可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛筆用、色鉛筆用及びシャープペンシル用芯を、多層ダイを有する多軸押出成形法により製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉛筆用、色鉛筆用及びシャープペンシル用芯の製造方法は、黒鉛など炭素、及び有機重合体、粘土などの結合材などからなる固体筆記材を、また、色鉛筆用芯においては、顔料・染料、油脂・ろう、体質材、結合材などからなる原料を混練後、押出成形により線材とし、乾燥または焼成する、または、その後工程で油脂類などを含浸させて製品とすることが一般である。この際用いられる押出機は、通常、円形ヘッドをもつ単軸スクリュー押出機である。
【0003】
【特許文献1】特許番号3203040
【0004】
芯材、中間保護層、および木質状材をもつ軸のそれぞれの材料を、3層押出成形法を採用して、筆記用又は彩色用鉛筆を製造する方法である。従来採用されている製法とはまったく異なる、芯材と軸とを同時に、連続して成形するという高い生産性のあるものである。
【0005】
しかしながら、本製造法は、芯材と軸とを同時に押出成形することによる、筆記用鉛筆の新しい製法を提案するという点に目的があり、芯そのものの改質又は改良を目指すものではなかった。
【0006】
【特許文献2】実開昭51−38067
【0007】
二重被覆が可能なクロスヘッドダイを付けた押出機により、芯に発泡性樹脂を被覆した鉛筆の製造方法を提案している。しかし、前記特許同様に、鉛筆芯本体の改質又は改善を提案していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鉛筆用、色鉛筆用又はシャープペンシル用芯に関する従来の製造法によれば、芯の曲げ強さを大きくするためには、主として、結合材の強度を高めるなどの方法、また、描線の濃度を上げるためには、結合材を崩れ易くするなどの方法で対応してきた。しかし、曲げ強さを大きくすると濃度が下がり、濃度を上げると曲げ強さが小さくなるという、いわゆる逆相関の関係が一般的にみられ、双方のバランスを如何にとるかが、芯の製造上の解決すべき大きな課題となってきた。
【0009】
上記の問題点を解決するために、これまでは芯体の物理的性状を改善することを目的に、主に結合材を構成する素材について、新規物質を採用する、それの混合割合を変える、あるいは成分の調整条件を変えるなどの方法をとってきた。
【0010】
しかしながら、上記のさまざまな方法をもってしても、充分な描線濃度を維持しながら、かつ、曲げ強さ、引張強度、衝撃強度などの機械的強度を一定の水準以上に保つことは非常に困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上記のような問題点を解決するために、鉛筆用、色鉛筆用、またはシャープペンシル用芯の製造に、多軸多層押出成形法を用いることにより、多層からなる芯を得るものである。
【0012】
芯を構成するそれぞれの層において、素材の種類や混合割合を変えることにより、各層の物理的性質を他の層とは異なるように調整した上で、多層押出成形機により芯を製造する。
【0013】
この方法をとれば、それぞれの層に、他の層が持っていない少なくとも1以上の優越した性質をもたせることが可能になる。この結果、互いに他の層が持っていない欠点を補完しあい、芯全体として、物理的性質の優れた内容をもつ芯材を提供できる。
【0014】
素材の選定や、混合割合等を決めるにあたって、それぞれ1つの層についてのみを対象として、少なくとも1種類の物理的性質を高めるように考えればよいので、設計上の自由度が増す。
【0015】
上述のごとく、芯を多層にすることにより、従来製法では達成が困難であった高い濃度と大きい曲げ強さを併せ持つ、優れた物理的性質を有する芯を製造するために、各層の構成として、例えば、以下のごとき内容が考案される。
【0016】
芯を2層で構成する場合を考える。芯の最内層である第1層の物理的性質を、描線の濃度を高めることに重点を置いた性質とする。その外側の第2層には、曲げ強さ、引張強度などの物理的強度に主眼を置いた性質をもたせる。これにより構成される芯は、2層の特長を併せ持った性質、すなわち、濃度が高く、かつ曲げ強さの大きい芯が得られる。
【0017】
本発明の製造法によれば、各層は、それぞれ個別に、単独の物理的性質を高めることを目的として、それに特化して、素材の選択やその構成割合などの条件を決めればよい。従って、それらの物理的化学的な観点から、それぞれの要素の選択の幅を広めることができるという利点が生ずる。
【0018】
しかしながら、実際の使用においては、第1層および第2層とも、同時に紙面に転写されるので、安定した、また均一な筆記感触、筆跡濃度が達成されるかどうかが懸念される。
【0019】
上記の問題点を避けるために、芯の半径方向に対する、各層の層厚割合を考慮することが必要である。
【0020】
上述した2層で構成する芯の場合を考える。第2層の厚みを第1層のそれよりも薄くする。すなわち、芯全体として発現する紙面への描線濃度は、主に第1層による濃度を反映させ、一方、強度は、主として第2層により維持される。この層厚割合によるごとく、第1層の層厚を大きくすれば、紙面に筆記した場合の筆記感触は、第2層の層厚が薄いために、筆記者には、第1層の性質が全体を支配するものとして感じとられる。紙面に対する転写濃度は、層厚が優勢を占める第1層の濃度が反映される。
【0021】
一方、第2層の性質、すなわちこの場合には硬さが、第1層よりも硬いが、層厚が薄いために、筆記の際に異質感がほとんど感じられない。
【0022】
特にシャープペンシル用の芯の場合、一般にはその直径が1mm以下の細い芯である場合が多い。従って、実際の筆記においては、長さ方向に対して直角をなす断面の全ての面が対象の紙面に接触する。この場合の筆記感は、第1層の成分を単独で使用した芯のそれと比べて、その差がほとんど識別できないぐらいになる。
【0023】
この理由は、紙面に対して、第1層および第2層が共に同時に接触するため、第1層の成分があたかも減摩材のような働きをして、第2層の成分が紙面へ接触する際の硬さの感じを和らげる働きをするものと考えられる。
【0024】
一方、鉛筆用芯の場合、木部を削って芯を出す通常の使用方法においては、削りだした芯の先の部分から、せいぜい50%ほど減ったときに筆記を止め、新たに削りなおすことが一般的である。従って、紙面に対しては、第1層がまず転写され、第2層は直接描線に関わらない。
【0025】
以上の理由から、第2層は、削りだした芯の第1層の補強としての役割が主になる。露出している芯の元まで使用することは、普通の使い方ではごく稀である。従って、第1層と第2層の物理的性質の差による書き味の違和感はない。
【0026】
上述した例では、第1層と第2層との物理的性質を変えているために、押出成形した芯を乾燥ないしは加熱処理した後に、双方の見かけの伸縮率の差が主たる原因となって、湾曲や捩れなどの変形が起こる可能性がある。
【0027】
この問題点を解決するための手段として、第1層と第2層の間に、中間層を入れることもよい方法である。すなわち、第1層と第2層の伸長の差を、中間層にすべり作用をもたせて吸収する。これを緩和層とする。
【0028】
中間層の目的は、すべり作用をさせるためだけなので、濃度や強度にかかわる物理的性質をもたせる必要はない。この層厚は、第1層、第2層のいずれよりもかなり薄くてよい。
【0029】
原料成分としては、成型、加熱後もすべり作用を保持する軟質な物質がよい。例えば、天然ゴム、ブチルゴム、ポリスチレン、ナイロンなどを主成分にし、これに滑石を混入することなどが適している。
【0030】
さらに上記とは別の中間層の役割として、第1層と第2層の性質が異なることによる相互の密着性が不充分になることを防ぐために、接着性を持たせることもよい。
【0031】
それぞれの層の厚さ(芯の長さ方向に対して直角の切断面における中心線上の距離)の比率は、第1層が50から80%、第2層が10から30%とし、中間層は5から10%程度の範囲とすることが適当である。
【0032】
さらに芯を多層に構成する場合を考える。筆記の際には、鉛筆またはシャープペンシルの軸を紙面に対してやや傾けて使用することが一般的である。このため手への感触は、第1番に芯の最外層の性質が反映される。
【0033】
このことから、滑らかな感触を得るために、芯の最外層には、物理的性状として、比較的硬度が小さく滑らかな素材の構成とすればよい。芯の中心層には、その芯の全体としての見かけの濃度を支配する性状をもつ素材をおく。そして両者の中間層には、芯の強度を保つ性状をもつ素材の構成とする。
【0034】
中間層は、物理的性状の異なる中心層と最外層に挟まれるために、伸縮率の差による芯全体の歪の発生がしやすい。これを緩和する目的で、前述と同様に、その両側の層に緩和層を入れる。この結果、芯全体は5層で構成される。
【0035】
5層の場合、各層厚の芯の直径に対する割合は、中心部から数えて、第1層が30から50%、第2層が5から10%、第3層が10から30%、第4層が5から10%、および第5層が5から20%とすることが適当である。
【0036】
芯を多層で構成する特徴を生かして、さらに次の使用例が考えられる。シャープペンシルを用いて筆記する場合、特に力を入れたときに、芯がチャックを滑り、中に入ってしまう場合がある。これを防止するため、芯のチャックによる把持力を高めるために、従来は芯の表面に対する物理的性状の改善、あるいは摩擦を生じやすい物質の塗布などがとられてきた。
【0037】
本発明では把持性の向上をはかるために、多層の特徴を生かして、芯がチャックと接する最外層の構成物質に、摩擦性のある無機系物質の微粉末を、他の体質材と混合して成型することにより、目的が達せられる。
【0038】
無機系物質としては、例えばアルミナ、シリカ等があげられる。これらを単に芯の表面に塗布する場合と異なり、これらの物質が脱落することはなく、把持性の効果を維持できることが利点である。
【0039】
本効果は、芯がチャックと接触する表面だけであるから、層の厚さはごくわずかでよい。普通は芯の直径の10%以下で充分である。この層をあまり厚くすると、筆記の際、ざらつきを感じることになるので、避けたほうがよい。
【0040】
本発明品の芯の製造には、従来製法と同様に、押出成形機を用いる。しかし、それぞれ異なる成分を多層で、同時に押出成形するために、ダイは多層ダイとし、押出部は多軸スクリューを用いる。2層押出の場合は、クロスヘッド・ダイ、またはダブルヘッド・ダイがあり、3層押出の場合は、クロスヘッド・ダイ、またはトリプルヘッド・ダイがある。
【0041】
多層押出成型機のダイは、各層の厚みが非常に小さく、かつ層間が接近している。従って押出し時のトラブルを避けるために、供給する原料は、従来の押出成型機に供給するそれよりも、粒子の細かさは一層高いグレードが要求される。また異物の混入を極力避けるように充分に留意をする必要がある。
【発明の効果】
【0042】
本発明は、鉛筆用、色鉛筆用、およびシャープペンシル用芯を、多層多軸押出成形機を用いて製造する。多層にすることにより、各層の素材・成分、およびそれらの組成割合を、それぞれ独立して選択することができ、調製の自由度が増す。この結果、各層の物理的性質を特長あるものに変えて、芯全体としての総合特性を、従来にない優れたものとすることが可能になった。例えば、曲げ強さが大きく、かつ濃度が高い、両者の特性を併せ持った芯を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に実施するための最良の形態を記述する。
【実施例】
【0044】
2層で構成されるシャープペンシル用の芯について実施した例を、以下に記述する。
【0045】
第1層(芯の内側の層)の成分およびその混合割合は、結合材として、ポリ塩化ビニル46重量%(以下全て重量%とする)、体質材として、黒鉛40%、タルク7%、滑材として、ステアリン酸3%、可塑材として、ジオクチルフタレート4%とした。
【0046】
第2層(芯の外側の層)の成分は、ほぼ第1層と同じだが、各成分の割合を変えて強度を上げるようにした。結合材として、ポリ塩化ビニル25重量%(以下全て重量%とする)、体質材として、黒鉛35%、タルク9%、粘土15%、滑材として、ステアリン酸3%、可塑材として、ジオクチルフタレート13%とした。
【0047】
第1層および第2層の上記の材料をそれぞれ別々に調整する。3本ロールの混練機で充分に混練した後、2層押出用ダイをもつ2軸押出機で押出成形をした。窒素雰囲気中1000℃で焼成後、スピンドル油に含浸した。
【0048】
得られた芯の直径は0.70mmである。第1層の直径は0.58mm、第2層は内径が0.58mm、外径が0.70mmである。
【0049】
一方、比較例として、上記の第1層と同様の成分、および同様の混合割合で構成される芯を得た。上記と同条件で混練、押出成形をした後、熱処理をして、0.70mmの直径をもつ芯を得た。
【0050】
上記2種類の芯について、曲げ強さ、および濃度を、JIS S6005に記載の測定方法に準じて測定をした。その結果は、次表の通りである。すべて、15本の試験結果の平均値である。
【0051】
表1

【0052】
実際に使用した場合の比較試験を実施した。紙面に筆記をさせ、芯の折れた回数をみた。試験には7人を選び、その構成は、中学生2人、高校生1人、大学生1人、成人3人であった。シャープペンシルの先端部から出ている芯の長さは、通常の使用時よりも長い3mmとした。
【0053】
書かせた文字は、漢字を楷書で「鉛筆」、ひらがなで「えんぴつ」、および、英文字のブロック体で「PENCIL」であり、通常の筆記時よりも少し力を入れて、濃い目に書かせた。書いた回数はそれぞれ12回である。得られた結果を次表に示す。数字は芯の折れた回数を示す。
【0054】
表2

【0055】
表2の結果からも明らかなように、比較例に示した第1層と同様の成分および混合割合で製造した芯を用いた場合よりも、実施例に示した第1層および第2層を合わせもった芯の場合の方が、芯は折れにくかった。
【0056】
本実施例では、焼成処理をするシャープペンシル用の芯を示したが、これに限定されず、本発明は、焼成処理をしない黒色芯、また軟質の彩色用の鉛筆用、およびシャープペンシル用芯の製造にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1層および第2層で構成される芯の断面図。
【図2】第1層、第2層、および中間層で構成される芯の断面図。
【図3】第1層および第2層で構成される芯をもつ鉛筆を削った場合の外観図。
【符号の説明】
【0058】
1 第1層
2 第2層
3 中間層
4 木質部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層ダイを有する多軸押出成形機を用いて、2以上の多層よりなる鉛筆用、色鉛筆用及びシャープペンシル用芯を製造し、各層の素材・成分、またそれらの組成割合が、それぞれ同一もしくは異なり、製造後の各層が、それぞれ同一もしくは異なる物理的性質をもって構成されることを特徴とする芯の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した鉛筆用、色鉛筆用及びシャープペンシル用芯の製造方法であって、層が2層より構成されるものであり、第1層(内側の層)は、第2層(外側の層)に比べて濃度が高く、かつ曲げ強度の低い物理的性質をもち、第2層は、第1層に比べて濃度が低く、かつ曲げ強度の高い物理的性質をもって構成されることを特徴とする芯の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載した鉛筆用、色鉛筆用及びシャープペンシル用芯の製造方法であって、第1層と第2層との間に中間層を設け、この層は、第1層と第2層の収縮率の差を吸収する働きをもつ成分からなり、第1層及び第2層よりも軟質な物理的性質を有し、緩衝作用をもつ層とすることを特徴とする芯の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載した鉛筆用、色鉛筆用及びシャープペンシル用芯の製造法であって、最外層に摩擦性のある無機物質の微粉末を配合し、シャープペンシル用芯のチャック把持性能を向上したことを特徴とするシャープペンシル用芯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−76040(P2006−76040A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260445(P2004−260445)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(300065235)
【Fターム(参考)】