説明

多軸式ガスタービンエンジンの制御装置

【課題】本発明の目的は、多軸式ガスタービンエンジンの負荷運転時に、ガスジェネレータとパワータービンの両軸の回転数安定化を図ることにある。
【解決手段】多軸式ガスタービンエンジンの制御装置110において、入口案内翼102の目標開度を算出する複数の開度制御モードの中から一つを選択するモード選択器を208有し、前記複数の開度制御モードのうち少なくとも一つは、ガスジェネレータ107の軸回転数を任意の目標回転数に保持するように前記入口案内翼の開度を制御する入口案内翼開度制御機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入口案内翼を有する多軸式ガスタービンエンジンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスジェネレータとパワータービンから構成される多軸式ガスタービンエンジンは、運用負荷を可変とすることができるため、発電用,航空機用,船舶用,機械駆動用等に普及している。
【0003】
ところで、多軸式ガスタービンエンジンは、ガスジェネレータとパワータービンの回転軸が連結されていない多軸構造であるため、各軸回転数を一定にして負荷運転をすることが要求される。
【0004】
この各軸回転数の安定化には、ガスジェネレータの吸い込み空気やパワータービンの入口ガス流量を調整することが有効である。なお、ガスジェネレータの一部である空気圧縮機の入口や、ガスジェネレータとパワータービンの間の内部流路に可変案内翼(以下、内部可変案内翼)を備えて、ガスタービンエンジンの作動ガスの流量を調整して、安定した運転を実施する負荷制御方法の例が引用文献1,2に開示されている。
【0005】
しかしながら、ガスジェネレータ後流のガスは、燃焼器内部の燃焼反応によって高温となっている。このため、ガスジェネレータ後流に内部可変案内翼を設置することはガスタービンエンジンの操作性が向上する反面、耐熱設計による製作コストの増加や保守メンテナンスの面で工数増加につながる。特に、近年においては、熱効率向上のため前記燃焼器での燃焼温度が高くなっており、内部可変案内翼は材料上設置することが困難になってきている。
【0006】
なお、特許文献3には、空気圧縮機入口の可変案内翼に、大気温度変化に基づく翼開信号を作り出し、また空気圧縮機から圧縮空気に基づいてタービンの排ガス温度換算値を作り出し、さらにこの排ガス温度換算値にタービンの実排ガス温度を加えて演算し、この演算信号と上記翼開度信号とのうち、いずれか高値信号を選択して翼開度修正信号を与える翼開度修正回路を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−212725号公報
【特許文献2】特開平2−9919号公報
【特許文献3】特開平8−82228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および2では、ガスジェネレータとパワータービンの間に設置した内部可変案内翼を制御することでパワータービンへのガス流入量を調整し、負荷運転中の軸回転数を安定させるものであるため、ガスジェネレータの後流に内部可変案内翼を有する構成にのみ有効な方法である。従って、内部可変案内翼を設置できない場合にはパワータービンに流入するガス流量を調整できないため、各軸回転数を安定させて負荷運転を実施することは困難である。
【0009】
また、特許文献3の空気圧縮機入口に設置された可変案内翼は、空気圧縮機のサージングの回避を目的として制御されるものであり、空気圧縮機を有する軸の回転数から空気流量を算出して、入口案内翼の目標開度計算に利用している。このため、パワータービン入口にのみ内部可変案内翼を有する形式の多軸式ガスタービンエンジンでは、ガスジェネレータの軸回転数を制御することが難しい。
【0010】
本発明の目的は、内部可変案内翼を持たない構成の多軸式ガスタービンエンジンの負荷運転時に、ガスジェネレータとパワータービンの両軸の回転数安定化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するため、吸い込み空気流量を調節する入口案内翼を有する空気圧縮機と、該空気圧縮機で圧縮された圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスにより駆動される高圧タービンにより構成されるガスジェネレータと、前記ガスジェネレータから放出される燃焼ガスによって駆動されるパワータービンと、により構成される多軸式ガスタービンエンジンの制御装置において、前記入口案内翼の目標開度を算出する複数の開度制御モードと、該複数の開度制御モードの中から一つを選択するモード選択機能を有し、前記複数の開度制御モードのうち少なくとも一つは、前記ガスジェネレータの軸回転数を任意の目標回転数に保持するように前記入口案内翼の開度を制御する入口案内翼開度制御機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内部可変案内翼を持たない構成の多軸式ガスタービンエンジンの負荷運転時に、ガスジェネレータとパワータービンの両軸の回転数安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例の2軸式ガスタービンエンジン概略図である。
【図2】本実施例の入口案内翼制御装置ブロック概略図である。
【図3】本実施例の燃料調整弁制御装置ブロック概略図である。
【図4】本実施例の燃料調整弁制御装置ブロック概略図である。
【図5】本実施例の軸回転数ヒステリシス構成概略図である。
【図6】本実施例におけるガスタービンエンジンの制御特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
図1に多軸式ガスタービンエンジンの一種である2軸式ガスタービンエンジンの概略図を示す。2軸式ガスタービンエンジンは、入口案内翼駆動装置101に連結された入口案内翼102を有する空気圧縮機103と、空気圧縮機103で圧縮された圧縮空気と燃料調整弁104で流量調整した燃料とを混合燃焼させる燃焼器105と、燃焼器105で生成された燃焼ガスで駆動される高圧タービン106とから構成されるガスジェネレータ107と、ガスジェネレータ107から放出されたガスによって駆動されるパワータービン108とを備える。パワータービン108は負荷に連結されて出力を供給し、ガスジェネレータ107からのガスはパワータービン108内で仕事をした後、排気となる。発電用ガスタービンエンジンであれば、負荷は発電機109に相当する。
【0016】
パワータービン108から負荷に出力を供給する負荷運転において、定格負荷での運転を定格負荷運転とする。また、定格負荷運転時のガスジェネレータ107の固有振動数(以下、共振域)や強度上許容される軸の最大回転数から十分な余裕がある回転数をガスジェネレータ定格回転数とする。定格負荷以下を部分負荷運転とする。
【0017】
部分負荷運転にて出力を増減させる場合、燃料調整弁104によって燃焼器105に投入する燃料流量を調整し、ガスジェネレータ107からパワータービン108に流れ込むガスのエネルギーを増減させる。
【0018】
燃料流量の変化により、ガスジェネレータ107の軸回転数が変化して空気圧縮機103の吸い込み空気流量が増減し、空気圧縮機103の動力と高圧タービン106の出力がつりあう状態となる。
【0019】
パワータービン108にかかる負荷が増大すると、燃料流量を調整する制御機能により燃焼器105に投入される燃料流量が増え、高圧タービン106の出力が大きくなり、ガスジェネレータ107の軸回転数が上昇して空気圧縮機103が吸い込む空気流量が増加する。これにより、空気圧縮機103の動力も増加し、ガスジェネレータ107の軸に作用するトルクがつりあう。逆に、パワータービン108にかかる負荷が減少すると、燃焼器105に投入される燃料流量が減り、ガスジェネレータ107の軸回転数が降下する。これによりガスジェネレータ107の軸に作用するトルクがつりあう。
【0020】
ガスジェネレータ107の軸回転数が大幅に上昇すると、強度上許容される最大回転数(以下、ガスジェネレータ最大回転数)に対する余裕が減少し、ガスジェネレータ最大回転数を超えてしまう可能性がある。この場合、遠心力による構成部材の伸びにより空気圧縮機103や高圧タービン106の安定運転が難しくなる場合がある。
【0021】
また、ガスジェネレータ107の軸回転数が、発電機109にかかる負荷の変動によって前述の共振域に近づく可能性がある。ガスジェネレータ107の軸回転数が共振域に近づくと、軸振動によって空気圧縮機103や高圧タービン106の安定運転が難しくなる場合がある。
【0022】
このため、2軸式ガスタービンエンジンの部分負荷運転から定格負荷運転への移行制御としては、燃料調整弁104で燃焼器105に投入する燃料流量を調整すると共に、ガスジェネレータ定格回転数を維持可能な負荷になった時点で、ガスジェネレータの軸回転数がガスジェネレータ定格回転数もしくはその近傍で整定するように入口案内翼102の開度を制御する。それ以外の運転状態では他の運転制約に対して入口案内翼102の開度を制御する。
【0023】
ガスジェネレータ107の軸回転数と、入口案内翼102の開度の増減により空気圧縮機103が吸い込む空気流量は増減するが、この吸い込み空気流量の調整機能を入口案内翼102に一元化することで、ガスジェネレータ107の軸回転数を安定させる。
【0024】
本発明は、多軸式ガスタービンエンジンの負荷運転時に、ガスジェネレータとパワータービンの両軸の回転数安定化を図るという目的を、制御装置によって実現したものである。以下、実施例を用いて本発明について説明する。
【実施例1】
【0025】
図1を用いて、本発明を発電用2軸式ガスタービンエンジンに適用した実施例を示す。ガスタービン制御装置110は、入口案内翼制御装置111,燃料調整弁制御装置112を内包しており、本発明は入口案内翼制御装置111に適用される。
【0026】
また、本実施例の発電用2軸式ガスタービンエンジンは、空気圧縮機103の入口に取り付けられた温度と圧力を計測する入口空気計測器113,空気圧縮機103の出口に取り付けられた温度と圧力を計測する出口空気計測器114,ガスジェネレータ回転数計測器115,パワータービン108の排気温度計測器116,パワータービン回転数計測器117を備える。
【0027】
また、発電機109の出力計測器118や、ガスタービンエンジンを構成するシステムの中で、最も温度が高くなる燃焼器105の内部における燃焼温度を直接あるいは間接的に計測する燃焼温度計測器119を備えてもよい。
【0028】
入口案内翼制御装置111は、各計測装置から得られる計測信号をもとに入口案内翼102の制御目標開度となる入口案内翼開度指令値を計算し、入口案内翼駆動装置101に送信する。同様に、燃料調整弁制御装置112は、前記計測信号をもとに燃料調整弁104の目標開度となる燃料調整弁開度指令値を計算し、燃料調整弁104に送信する。これにより、入口案内翼102と燃料調整弁104の開度を調整し、ガスタービンエンジンの負荷運転を実施する。
【0029】
図2に、入口案内翼制御装置111の構成例を示す。入口案内翼制御装置111では複数の制御モードでそれぞれ入口案内翼目標開度候補を計算し、その中からガスタービンエンジンの運転状態に適した入口案内翼目標開度候補をモード選択器207で選択し、入口案内翼開度指令値として入口案内翼駆動装置101に送信する。
【0030】
図2は、入口案内翼制御装置111を回転数制御モードとサージ回避制御モード、その他の制御モードを持つように構成した例である。
【0031】
回転数制御モードによる入口案内翼目標開度候補は次の手順で計算される。
【0032】
ガスジェネレータ回転数設定器201よりガスジェネレータ107の軸の目標回転数を出力する。ガスジェネレータ回転数設定器201は、予めガスジェネレータ定格回転数よりも小さい値を出力するよう構成する。ただし、小さくする量はガスジェネレータ定格回転数を100%として数%程度である。
【0033】
ガスジェネレータ回転数設定器201の出力値は温度補償器202に入力され、入口空気計測器113で計測する空気圧縮機103の吸い込み空気温度(以下、計測入口温度)を引数として修正変更される。
【0034】
次に減算器203では、温度補償器202から出力される補正回転数と、ガスジェネレータ回転数計測器115で計測されるガスジェネレータ107の軸回転数(以下、ガスジェネレータ計測回転数)との偏差を計算する。
【0035】
偏差は不感帯設定器204を経てPI制御器205に入力され、微小偏差を抑制したPI制御を実施することで、入口案内翼102の開度を計算し、回転数制御モードによる入口案内翼目標開度候補を出力する。
【0036】
ここで、図中では不感帯設定器204を折れ線型の不感帯で表記しているが、肝要な点は減算器203より出力される偏差が小さな場合は入口案内翼102の開度指令値に対する返値を抑制することであり、不感帯設定器204の関数を限定するものではない。
【0037】
本実施例ではPI制御により回転数制御モードによる入口案内翼目標開度候補を計算したが、計算方法を限定するものではなく、目標とするガスジェネレータ107の軸回転数とガスジェネレータ計測回転数との偏差を減少させるよう入口案内翼目標開度候補を計算すればよい。
【0038】
以上のように決定された回転数制御モードによる入口案内翼目標開度候補は、モード選択器208に入力される。
【0039】
本実施例では、その他の制御モードの一例として、サージ回避制御モードによる入口案内翼目標開度候補を次の手順で計算する。サージ回避制御モードは、ガスタービンエンジンが低負荷で、ガスジェネレータ107の軸回転数が低い場合に、空気圧縮機103のサージング回避等の目的で設定される。
【0040】
修正回転数計算器206は、ガスジェネレータ回転数計測器115で計測するガスジェネレータ計測回転数と、入口空気計測器113で計測する計測入口温度を引数として、一般的に用いられる修正回転数計算式で修正回転数を計算する。
【0041】
関数発生器207は、修正回転数計算器206で計算された修正回転数を引数とする関数を備え、修正回転数に応じて入口案内翼102の開度を計算し、入口案内翼目標開度候補として出力する。関数発生器207の出力はサージ回避制御モードの入口案内翼目標開度候補としてモード選択器208に入力される。
【0042】
一例としてサージ回避制御モードを説明したが、回転数制御モードと組み合わせる制御モードはこれに限らない。その他の制御モードとして、関数発生器209,210を図示しているように、実際には、回転数制御モード以外に組み合わせる制御モードの個数や形態をここに挙げるものに限定するものではない。
【0043】
モード選択器208は、複数の入口案内翼開度候補の中から安定に運転するに適した信号を選択する機能を有する。また、モード選択器208はガスタービンエンジンの運転状態に応じて出力値が変化する運転状態計測器211の出力信号も監視しており、運転状態によっては、強制的に選択する入口案内翼目標開度候補を変更することも可能である。これにより、本実施例の入口案内翼制御装置111は必要に応じて回転数制御モードと、他の制御モードを切り替えることができる。
【0044】
図3に、燃料調整弁制御装置112の構成例を示す。燃料調整弁制御装置112は、負荷制御装置301,排気温度制御装置309,ガスジェネレータ回転数制御装置312,最小値選択器316,燃料配分計算器317により構成される。
【0045】
負荷制御装置301では、出力指令発生器302で与えられた出力指令値を、回転数換算器303でパワータービン108の目標回転数に換算する。減算器304ではパワータービン108の目標回転数と、パワータービン回転数計測器117で計測した軸回転数(以下、パワータービン計測回転数)との偏差が計算される。
【0046】
減算器304で計算された偏差は、不感帯設定器305によってパワータービン108の軸回転数の微小変動による補正を抑制して、負荷制御ゲイン306を乗算される。ゲイン乗算後は加算器307で、バイアス信号発生器308から出力される無負荷運転での燃料流量指令値に相当する値を加えられ、負荷制御装置301の燃料流量指令値(以下、負荷流量指令値)として出力される。
【0047】
排気温度制御装置309では、排気温度計測器116で計測した排気温度(以下、計測排気温度)を燃料流量指令関数器311に入力する。除算器310には入口空気計測器113で計測した空気圧縮機入口圧力(以下、計測入口圧)と、出口空気計測器114で計測した空気圧縮機出口空気圧力(以下、計測出口圧)が入力され、空気圧縮機103の圧力比が計算される。圧力比は補正信号として燃料流量指令関数器311に入力され、ガスタービンエンジン高温部の過度な温度上昇を抑制するための燃料流量指令値(以下、排気温度流量指令値)が算出される。
【0048】
ガスジェネレータ回転数制御装置312では、ガスジェネレータ定格回転数設定器313に予め設定されたガスジェネレータ定格回転数と、ガスジェネレータ計測回転数の偏差を減算器314で計算する。偏差はPI制御器315に入力され、ガスジェネレータ回転数制御燃料流量指令値(以下、回転数流量指令値)として出力される。
【0049】
前述の負荷流量指令値、排気温度流量指令値、回転数流量指令値は、最小値選択器316によって最小値が選択され、燃料配分計算器317では入力された燃料流量指令値に対して燃料調整弁104の開度指令値を算出する。ここで、燃料調整弁104は複数あってもよい。また、最小値選択器316に送信される信号として、その他の燃料流量指令値を図示しているように、燃料制御指令値を計算する制御装置の個数や形態は、ここで挙げるものに限定するものではない。
【0050】
また、燃料調整弁制御装置112の他の構成例として以下の例がある。
【0051】
図4(a)に示すように、出力指令値と出力計測器118で計測した発電機出力の偏差を減算器304で直接計算してもよい。
【0052】
図4(b)に示すように、燃焼温度計測器119を有するガスタービンエンジンの場合、排気温度制御装置309は、焼温度計測器310で計測した燃焼温度を引数として燃料流量指令関数器311aの関数機能で排気温度流量指令値を計算することも可能である。
【0053】
以上により、燃料調整弁104の開度指令値が燃料配分計算器317で計算され、燃料調整弁104に送信されることで燃料流量を調整し、ガスタービンエンジンの負荷運転を実施する。負荷運転では通常、負荷流量指令値が燃料流量指令値の最小値となり、パワータービン108の軸回転数と発電機109の出力を調整する。排気温度流量指令値と回転数流量指令値は燃焼ガス温度やガスジェネレータ107の軸回転数の上昇および負荷上昇を抑制する。
【0054】
前述の通り、本実施例では、図2で示したガスジェネレータ回転数設定器201の軸回転数目標値を、ガスジェネレータ定格回転数設定器313のガスジェネレータ定格回転数より数%程度小さい値に設定する。
【0055】
ガスジェネレータ定格回転数設定器313の設定値を、本来のガスジェネレータ定格回転数より大きい値に設定する構成の場合もある。大きくする量はガスジェネレータ定格回転数を100%として数%程度である。
【0056】
つまり、入口案内翼制御装置111の回転数制御モードで設定するガスジェネレータの軸の目標回転数と、燃料調整弁制御装置112の回転数流量指令値を計算するために利用するガスジェネレータ定格回転数に差をもたせ、入口案内翼102の開度制御と、燃料調整弁104の開度制御で目標とするガスジェネレータ回転数を異なる数値に設定することにより、相互にヒステリシス幅を持たせることができる。
【0057】
ここで、該ヒステリシス幅の設定について説明する。
【0058】
図5(a)に、部分負荷運転時のガスジェネレータ107の軸回転数Nと入口案内翼制御装置111の回転数制御モードで設定するガスジェネレータの軸の目標回転数(i)、燃料調整弁制御装置112の回転数流量指令値を計算するために利用するガスジェネレータ定格回転数(ii)の関係を示す。
【0059】
負荷運転時、軸回転数Nは入口案内翼制御装置111の回転数制御モードにより目標回転数(i)近傍で変動する。燃料調整弁制御装置112のガスジェネレータ回転数制御装置312では、減算器314で軸回転数の偏差を計算するが、ガスジェネレータ定格回転数(ii)が目標回転数(i)より大きい関係を保って運転しており、ヒステリシス幅の分大きい正値となる。
【0060】
正値の偏差がフィードバックされることで、ガスジェネレータ回転数制御装置312で計算される回転数流量指令値は、軸回転数Nを上昇させるため大値となる。最小値選択器316では燃料流量指令値の最小値を選択するため、回転数流量指令値ではなく負荷制御装置301の負荷流量指令値が選択される。
【0061】
図5(b)に、定格負荷運転到達時のガスジェネレータ107の軸回転数Nと目標回転数(i)、ガスジェネレータ定格回転数(ii)の関係を示す。
【0062】
入口案内翼102が運転計画上の最大開度に到達した後は、軸回転数Nの回転数上昇によってガスジェネレータ107の吸い込み空気流量が増加する。軸回転数Nはガスジェネレータ定格回転数(ii)まで上昇する。
【0063】
燃料調整弁制御装置112のガスジェネレータ回転数制御装置312では、減算器314で軸回転数の偏差を計算するが、ヒステリシス幅相当の補正は加えられないので、最小値選択器316ではガスジェネレータ回転数制御装置312で計算される回転数流量指令値が選択されるようになり、これに基づく燃料調整弁104の開度で軸回転数Nをガスジェネレータ定格回転数(ii)に維持する。
【0064】
以上の実施形態により、2軸式ガスタービンエンジンの負荷運転時に、ガスジェネレータ107とパワータービン108の両軸の回転数を安定化させることができると同時に、回転数制御モードによる入口案内翼102の開度制御機能を有することで、内部可変案内翼を持たない2軸ガスタービンエンジンでも、ガスジェネレータ107の軸回転数を過回転、共振域から余裕のある回転数に保持した負荷運転ができるという効果がある。
【0065】
回転数制御モードによってガスジェネレータ107の軸回転数を一定に保持して負荷運転することにより、入口案内翼102の開度調節のみでガスジェネレータ107の吸い込み空気流量を制御でき、負荷変動に対するガスタービンエンジンの状態収束が速まり、負荷追従性が向上するという効果がある。
【0066】
上記以外に、本実施例で得られる制御装置の効果として次の項目が挙げられる。
【0067】
回転数制御モードで入口案内翼102の開度にフィードバックするガスジェネレータ107の軸回転数の偏差に不感帯を設定する機能を有することで、一定負荷で運転する場合に、外乱による入口案内翼102の開度の微小変動を抑制している。これにより、ガスジェネレータ107の運転状態が変動することを抑制し、運転安定性を向上する効果が得られる。
【0068】
さらに、入口案内翼102の開度制御と、燃料調整弁104の開度制御で目標とするガスジェネレータ回転数に、ヒステリシス幅を設定する機能を有することで、ガスジェネレータ107の軸回転数変動が生じても入口案内翼102の開度制御機能が優先的に作用し、燃料調整弁104の開度制御は負荷追従を目的とする制御を継続でき、負荷追従性が向上するという効果が得られる。
【0069】
また、入口案内翼102の開度制御で設定するガスジェネレータ目標回転数を、空気圧縮機103が吸い込む空気温度で補正する機能を有することにより、高負荷運転時のサージングに対する余裕を広げることができる。
【0070】
また、空気圧縮機103が吸い込む空気温度によって、ガスタービンエンジンの定格負荷が変化しても、前述のヒステリシス幅が有効となるよう制御設定値を変更できる効果もある。
【0071】
以下、本発明を適用したガスタービンエンジンにおける制御特性について説明する。
【0072】
図6中、実線は本実施例による制御装置を適用した場合、破線は本実施例の制御装置を適用しなかった場合(以下、比較例)の制御特性を表す。横軸は時間、縦軸はそれぞれ、図6(a)ではガスジェネレータ107の軸回転数、図6(b)では入口案内翼102の開度、図6(c)ではパワータービン108の軸回転数および発電機109による負荷を示している。
【0073】
図6(a)で示すように、図中のAから回転数制御モードの効果により、ガスジェネレータ107の軸回転数は斜線部で表記した共振域との幅を広げるように目標回転数Bまで上昇する。比較例の軸回転数は一定上昇率で上昇を続け、軸回転数を共振域から直ちに遠ざける効果は得られない。
【0074】
ガスジェネレータ107の軸回転数が目標回転数Bに到達してからは、図6(b)中のCから、回転数が一定となるよう回転数制御モードによって入口案内翼102の開度が制御されており、過回転域に対して余裕を持った軸回転数で負荷運転可能である。入口案内翼102の開度は図中のDで最大開度となる。最大開度に到達した場合は、図6(a)中のEに示すように、ガスジェネレータ107の軸回転数上昇によりガスジェネレータ107の吸い込み空気流量が増加する。比較例では、入口案内翼102の開度とガスジェネレータ107の軸回転数の両方でガスジェネレータ107の吸い込み空気流量を調整しているため、負荷上昇に伴い、ガスジェネレータ107の軸回転数が過回転域となる。
【0075】
また、本実施例では、図6(c)で示すように、燃料調整弁104の開度制御により負荷追従することでパワータービン108の軸回転数も一定となるよう制御されている。なお、パワータービン108の軸回転数と出力の調整は燃料調整弁104の開度制御によって実施されるため、負荷は燃料弁開度104の開度と同じ変化をする。
【0076】
また、本実施例によれば、ガスジェネレータ107の軸回転数を一定に保持しながら負荷変動に追従するため、ガスジェネレータ107の軸回転数と空気流量がバランスし、運転状態が整定するのに要する応答時間が短くなり、負荷追従性が向上するという効果が得られる。
【符号の説明】
【0077】
101 入口案内翼駆動装置
102 入口案内翼
103 空気圧縮機
104 燃料調整弁
105 燃焼器
106 高圧タービン
107 ガスジェネレータ
108 パワータービン
109 発電機
110,111 入口案内翼制御装置
112 燃料調整弁制御装置
113 入口空気計測器
114 出口空気計測器
115 ガスジェネレータ回転数計測器
116 排気温度計測器
117 パワータービン回転数計測器
118 出力計測器
119 燃焼温度計測器
201 ガスジェネレータ回転数設定器
202 温度補償器
203,304,314 減算器
204,305 不感帯設定器
205,315 PI制御器
206 修正回転数計算器
207,209,210 関数発生器
208 モード選択器
211 運転状態計測器
301 負荷制御装置
302 出力指令発生器
303 回転数換算器
306 負荷制御ゲイン
307 加算器
308 バイアス信号発生器
309 排気温度制御装置
310 除算器
311 燃料流量指令関数器
311a 燃料流量指令関数器
312 ガスジェネレータ回転数制御装置
313 ガスジェネレータ定格回転数設定器
316 最小値選択器
317 燃料配分計算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸い込み空気流量を調節する入口案内翼を有する空気圧縮機と、該空気圧縮機で圧縮された圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスにより駆動される高圧タービンにより構成されるガスジェネレータと、
前記ガスジェネレータから放出される燃焼ガスによって駆動されるパワータービンと、
により構成される多軸式ガスタービンエンジンの制御装置において、
前記入口案内翼の目標開度を算出する複数の開度制御モードと、
該複数の開度制御モードの中から一つを選択するモード選択機能を有し、
前記複数の開度制御モードのうち少なくとも一つは、前記ガスジェネレータの軸回転数を任意の目標回転数に保持するように前記入口案内翼の開度を制御する入口案内翼開度制御機能を有することを特徴とする多軸式ガスタービンエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記入口案内翼開度制御機能は、計測された前記ガスジェネレータの軸回転数と、前記任意の目標回転数との偏差に不感帯を設定する不感帯設定器を有することを特徴とする多軸式ガスタービンエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記ガスジェネレータの軸回転数の計測値と、予め設定された前記ガスジェネレータの任意の目標回転数に基づいて、前記燃焼器に供給する燃料の流量指令値を演算する燃料流量指令値演算機能と、
前記開度制御モードで設定される前記ガスジェネレータの目標回転数と、前記燃料流量指令値演算機能で設定される目標回転数とにヒステリシス幅を設定する機能と、
を有することを特徴とする多軸式ガスタービンエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記空気圧縮機の入口温度の計測値に基づいて、前記任意の目標回転数を補正する機能を有することを特徴とする多軸式ガスタービンエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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