説明

多連振動波モータパワーユニットの制御装置及び方法、並びにプログラム及び記憶媒体

【課題】起動を確実に行うことができる多連振動波モータパワーユニットの制御方法を提供する。
【解決手段】多連振動波モータパワーユニットは、最終出力軸1が固定された大歯車2と、大歯車2を回転すべく大歯車2に噛合された3つの小歯車3,4,5と、これらの小歯車3,4,5を出力軸に取り付けた振動波モータ6,7,8とを備える。多連振動波モータパワーユニットの制御装置は、振動波モータ6の回転に同期した速度で回転すべく振動波6に搭載されたロータリーエンコーダ9と、振動波モータ6,7,8を駆動する駆動回路10,11,12と、駆動回路10,11,12に駆動信号を供給する発振回路13と、発振回路13に振動波モータタ6,7,8の回転速度を指令する制御回路14とを備える。すべての振動波モータ6,7,8を一旦目標回転方向とは逆方向に回転させ、次いで、すべての振動波モータ6,7,8を目標回転方向に回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多連振動波モータパワーユニットの制御方法、並びにプログラム及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
多連振動波モータパワーユニットは、単一の出力手段である大歯車を複数個の振動波モータを用いて駆動するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
多連振動波モータパワーユニットは、最終出力軸が固定された大歯車と、大歯車を回転すべく大歯車に噛合された3つの小歯車が夫々出力軸に取り付けられた3つの振動波モータとを備える。振動波モータの1つにはロータリーエンコーダが搭載され、このロータリーエンコーダは、当該振動波モータの1つにおける回転に同期した速度で回転する。
【0004】
多連振動波モータパワーユニットの制御装置は、ロータリーエンコーダからロータリーエンコーダ搭載の振動波モータの回転情報を取得して、それを目標速度と比較することにより速度フィードバック制御を行う。
【0005】
図5は、従来の多連振動波モータパワーユニットの起動処理の手順を示すフローチャートである。
【0006】
図5において、多連振動波モータパワーユニットの制御装置は、多連振動波モータパワーユニットの起動時に指令周波数を起動時初期周波数fa(図6)から図中の矢印方向に下げながら(ステップS51)、周波数出力を行う(ステップS52)。そしてロータリーエンコーダから信号を取得したときに(ステップS53でYES)、そのときの周波数を起動周波数fsとして認識した上で、速度フィードバック制御に移行する。
【特許文献1】特開2001-205190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図7のように、多連振動波モータパワーユニットでは、2つ以下の振動波モータの出力の合成だけでは最終回転軸に固定された大歯車22を駆動することができない。つまり、3つのすべての振動波モータ23,24,25の出力が合成されなければ大歯車22を駆動することができない。ここで、大歯車22と小歯車23,24,25との接触部には、バックラッシュが確保されていることは言うまでもない。
【0008】
起動直前における多連振動波モータパワーユニットの各歯車の接触状態が図7及び図8の状態である場合、起動開始後、ロータリーエンコーダ搭載の振動波モータに固定されている小歯車23は図8の矢印方向に回転しようとする。しかしながら、大歯車22の歯面に当接しているためにロータリーエンコーダからの初回パルスを受ける場所まで移動できない。その間に他の振動波モータに固定されている小歯車24,25は矢印方向に移動する。小歯車24,25が移動している間、ロータリーエンコーダ搭載の振動波モータは周波数をより低い方にスウィープするため、小歯車24,25が目標回転方向の大歯車22の歯面に到達する。そのため、大歯車22が回転し始める時には本来の起動速度より高い速度になっている。その結果、その後の速度フィードバック制御において目標速度と現行速度の間に乖離が生じることによって復帰するまでの時間が必要になるなどの影響を及ぼすので高応答性という振動波モータの特徴を十分に発揮できない。
【0009】
また低温化においては、振動波モータのトルク特性も落ちるので、小歯車24,25が進行方向の大歯車22の歯面に到達する前にロータリーエンコーダ搭載の振動波モータはトルク発生不可能な周波数領域に入り込んでしまい、最悪なケースでは起動不能な状態になる。
【0010】
本発明の目的は、低温環境下おけるトルク低下の影響を受けることなく多連振動波モータパワーユニットの起動を確実に行うことができる多連振動波モータパワーユニットの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載の多連振動波モータパワーユニットの制御装置は、第1の歯車と、前記第1の歯車に噛合された複数の第2の歯車と、前記複数の第2の歯車を夫々取り付けた複数の振動波モータとを備える多連振動波モータパワーユニットの制御装置において、まず、前記第1の歯車が目標回転方向とは逆方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させ、次いで、前記第1の歯車が前記目標回転方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させる制御手段を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の多連振動波モータパワーユニットの制御方法は、第1の歯車と、前記第1の歯車に噛合された複数の第2の歯車と、前記複数の第2の歯車を夫々取り付けた複数の振動波モータとを備える多連振動波モータパワーユニットの制御方法において、まず、前記第1の歯車が目標回転方向とは逆方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させ、次いで、前記第1の歯車が前記目標回転方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させる制御ステップを備えることを特徴とする。
【0013】
請求項9記載のプログラムは、第1の歯車と、前記第1の歯車に噛合された複数の第2の歯車と、前記複数の第2の歯車を夫々取り付けた複数の振動波モータとを備える多連振動波モータパワーユニットの制御プログラムにおいて、まず、前記第1の歯車が目標回転方向とは逆方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させ、次いで、前記第1の歯車が前記目標回転方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させる制御モジュールをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0014】
請求項10記載のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、請求項9記載のプログラムを格納することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低温環境下おけるトルク低下の影響を受けることなく多連振動波モータパワーユニットの起動を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態の形態に係る多連振動波モータパワーユニットの制御装置の構成を概略的に示す図である。
【0018】
図1において、多連振動波モータパワーユニットは、最終出力軸1が固定された第1の歯車としての大歯車2と、大歯車2を回転すべく大歯車2に噛合された3つの第2の歯車としての小歯車3,4,5とを備えている。更にこれらの小歯車3,4,5を出力軸に取り付けた振動波モータ6,7,8とを備える。最終出力軸1の代わりに、別の出力用歯車を大歯車2に噛合させ、この出力用歯車を介して動力を取り出す構成としても構わない。
【0019】
多連振動波モータパワーユニットの制御装置は、振動波モータ6の回転に同期した速度で回転すべく振動波6に搭載されたロータリーエンコーダ9を備える。また、振動波モータ6,7,8を駆動する駆動回路10,11,12と、駆動回路10,11,12に駆動信号を供給する発振回路13とを備える。更に、発振回路13に振動波モータタ6,7,8の回転速度を指令する制御回路14と、各回路に所定の電源を供給する電源回路15とを備える。制御回路14は、ロータリーエンコーダ9から振動波モータ6の回転速度情報を受容するように構成されている。
【0020】
制御回路14は、大歯車2の目標速度に相当する周波数指令を発振回路13に送出し、発振回路13は、周波数指令を周波数に変換して駆動回路10,11,12に送出する。駆動回路10,11,12は、変換周波数成分を含む駆動信号を振動波モータ6,7,8に印加することによって小歯車3,4,5を介して大歯車2、ひいては最終出力軸1を回転する。制御回路14は、振動波モータ6の回転情報をロータリーエンコーダ9から取得して、それを目標速度と比較することにより速度フィードバック制御を行う。
【0021】
図2は、図1の多連振動波モータパワーユニットの起動処理の手順を示すフローチャートである。
【0022】
本実施の形態では、図3に示すように、ロータリーエンコーダ9搭載の振動波モータ6に固定されている小歯車3は、目標回転方向の大歯車2の歯面に当接している。そして、他の振動波モータ7,8の小歯車4,5は目標回転方向と反対側の大歯車2の歯面に当接している場合を想定する。
【0023】
図2において、まず、すべての振動波モータ6,7,8の回転方向を、一旦目標回転方向とは逆方向に設定してから(ステップS21)、指令周波数を下げながら(ステップS22)、周波数出力を行う(ステップS23)。そして、ロータリーエンコーダ9から出力を取得したか否かを判別する(ステップS24)。
【0024】
具体的には、まず、各振動波モータ6,7,8に共振周波数よりも十分に高い周波数に設定された駆動信号を供給し、次いで、振動波モータの回転速度をある程度高めるため、徐々に駆動信号の周波数の設定値を減少させる。そして、各振動波モータ6,7,8に固定した歯車3,4,5のすべてが大歯車2の目標回転方向とは逆方向の歯面に接触するのに十分な所定時間経過後、ロータリーエンコーダから振動波モータ6の回転情報を取得したか否かを判別する。
【0025】
ステップS24の判別の結果、ロータリーエンコーダ9から出力を取得したときは、振動波モータ6,7,8に固定されたすべての小歯車3,4,5は、目標回転方向とは逆方向の大歯車2の歯面に揃って当接していると判断することができる(図4)。また、ロータリーエンコーダ9から出力を取得しないときは、何らかのアクシデントによって、小歯車3,4,5のいずれかが大歯車2の目標回転方向側の歯面に当接していないことになる。ここで、ロータリーエンコーダの出力信号を検知するまでに所定時間だけ待つのは、ロータリーエンコーダに接続された振動波モータの歯車が歯車16の上記同一側の面に到達するまでの時間を確保するためである。
【0026】
次いで、すべての振動波モータ3,4,6の回転方向を目標回転方向に設定してから(ステップS25)、指令周波数を下げながら(ステップS26)、周波数出力を行う(ステップS27)。そしてロータリーエンコーダ9から出力信号を取得したか否かを判別する(ステップS28)。具体的な作動は前述と同様である。
【0027】
ステップS28の判別の結果、ロータリーエンコーダ9から信号を取得したときは、振動波モータ6,7,8に固定されたすべての小歯車3,4,5は、目標回転方向の大歯車2の歯面に揃って当接していると判断することができる。これにより、多連振動波モータパワーユニットの起動に成功したとして、速度フィードバック制御に移行する。
【0028】
図2の処理によれば、すべての振動波モータ6,7,8を一旦目標回転方向とは逆方向に回転させる(ステップS21〜S23)。そのため、振動波モータ6,7,8に固定されたすべての小歯車3,4,5は、目標回転方向とは逆方向の大歯車2の歯面に揃って当接させることができる。これにより、次いで、すべての振動波モータ6,7,8を目標回転方向に回転させた(ステップS21〜S23)ときに、すべての小歯車3,4,5を目標回転方向の大歯車2の歯面に当接させることができる。そのため、低温環境下おけるトルク低下の影響を受けることなく多連振動波モータパワーユニットの起動を確実に行うことができる。
【0029】
また、本発明の目的は、実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される。
【0030】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード及び該プログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0031】
また、プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。又は、プログラムコードをネットワークを介してダウンロードしてもよい。
【0032】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、上記実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
更に、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の形態に係る多連振動波モータパワーユニットの制御装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図1の多連振動波モータパワーユニットの起動処理の手順を示すフローチャートである。
【図3】図1の多連振動波モータパワーユニットにおける大歯車と3つの振動波モータに夫々固定された3つの小歯車との接触状態を説明する模式図であり、図2のステップS21に対応する。
【図4】図1の多連振動波モータパワーユニットにおける大歯車と3つの振動波モータに夫々固定された3つの小歯車との接触状態を説明する模式図であり、図2のステップS25に対応する。
【図5】従来の多連振動波モータパワーユニットの起動処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】振動波モータの周波数−回転数の関係と起動方向を説明する図である。
【図7】多連振動波モータパワーユニットにおける大歯車と3つの振動波モータに夫々固定された3つの小歯車との接触状態を説明する図である。
【図8】図7の模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0034】
1 最終回転軸
2 大歯車
3,4,5 小歯車
6,7,8 振動波モータ
9 ロータリーエンコーダ
10,11,12 駆動回路
13 発振回路
14 制御回路
15 電源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の歯車と、前記第1の歯車に噛合された複数の第2の歯車と、前記複数の第2の歯車を夫々取り付けた複数の振動波モータとを備える多連振動波モータパワーユニットの制御装置において、
前記第1の歯車が目標回転方向とは逆方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させ、次いで、前記第1の歯車が前記目標回転方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させる制御手段を備えることを特徴とする多連振動波モータパワーユニットの制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1の歯車が前記逆方向に回転した後、所定時間後に目標回転方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させることを特徴とする請求項1に記載の多連振動波モータパワーユニットの制御装置。
【請求項3】
前記所定時間は、前記複数の第2の歯車のすべてが前記第1の歯車の歯面に当接するのに足りる時間であることを特徴とする請求項2記載の多連振動波モータパワーユニットの制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記複数個の振動波モータの1つと同期した速度で回転すべく当該振動波モータの1つに搭載されたロータリーエンコーダを備え、当該ロータリーエンコーダの出力に基づいて前記第1の歯車の速度フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多連振動波モータパワーユニットの制御装置。
【請求項5】
第1の歯車と、前記第1の歯車に噛合された複数の第2の歯車と、前記複数の第2の歯車を夫々取り付けた複数の振動波モータとを備える多連振動波モータパワーユニットの制御方法において、
前記第1の歯車が目標回転方向とは逆方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させ、次いで、前記第1の歯車が前記目標回転方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させる制御ステップを備えることを特徴とする多連振動波モータパワーユニットの制御方法。
【請求項6】
前記制御ステップは、前記第1の歯車が前記逆方向に回転した後、所定時間後に目標回転方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させることを特徴とする請求項5に記載の多連振動波モータパワーユニットの制御方法。
【請求項7】
前記所定時間は、前記複数の第2の歯車のすべてが前記第1の歯車の歯面に当接するのに足りる時間であることを特徴とする請求項6記載の多連振動波モータパワーユニットの制御方法。
【請求項8】
前記制御ステップは、前記複数個の振動波モータの1つと同期した速度で回転すべく当該振動波モータの1つに搭載されたロータリーエンコーダを備え、当該ロータリーエンコーダの出力に基づいて前記第1の歯車の速度フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の多連振動波モータパワーユニットの制御方法。
【請求項9】
第1の歯車と、前記第1の歯車に噛合された複数の第2の歯車と、前記複数の第2の歯車を夫々取り付けた複数の振動波モータとを備える多連振動波モータパワーユニットの制御プログラムにおいて、
前記第1の歯車が目標回転方向とは逆方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させ、次いで、前記第1の歯車が前記目標回転方向に回転するように前記複数の振動波モータを回転させる制御モジュールをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
請求項9記載のプログラムを格納することを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−318908(P2007−318908A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145450(P2006−145450)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(000104630)キヤノンプレシジョン株式会社 (79)
【Fターム(参考)】