説明

多重管の先端から高圧流体を噴射して地盤を改良する地盤改良装置

【課題】多重管の先端から高圧流体を噴射して地盤を改良する地盤改良装置において、噴射される流体の種類を切り換えるに際して、作業負担を軽減する。
【解決手段】地盤改良装置は、内管流路24a、中管流路25a、外管流路26a、及び、一端が上側遮蔽弁39を介して中管流路25aに接続され、かつ、他端が下側遮蔽弁36を介して外管流路26aに接続される上側ノズル空部37を形成する注入管20と、注入管20の下端部側面に設けられ、内管流路24aを流れる硬化材と上側ノズル空部37を流れる高圧流体とを噴射する上側ノズル38とを備える。上側遮蔽弁39を、中管流路25a内の流体圧力が上側ノズル空部37内の流体圧力よりも高い場合に開放されるとともに、下側遮蔽弁36を、外管流路26a内の流体圧力が上側ノズル空部37内の流体圧力よりも高い場合に開放される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化材や空気等の高圧流体を多重管内の流路を通じて高圧で供給し、多重管の先端側面に設けたノズルからこれらの高圧流体を噴射させて地盤を改良する地盤改良装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超高圧で流体を噴射させて地盤を切削するとともに硬化材を充填し、固結体を造成することで地盤の改良を行う地盤改良工法において、3重管を注入管とする地盤改良装置が用いられることがある。例えば、特許文献1に記載の装置は、清水を供給する内側の高圧流路と、空気を供給する中間の空気流路と、注入材液を供給する外側の注入流路を有する3重構造の注入管を備えている。そして、この注入管の下端部側面には、清水と空気を噴射する一対の噴射ノズルと、注入材液を噴射する注入ノズルとが設けられている。
【0003】
特許文献1の装置では、注入管を軸周りに回転させつつ、各噴射ノズルから清水と空気とを噴射させ、注入ノズルから注入材液を噴射させることにより、地盤を改良する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3172782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、噴射ノズルは専ら清水と空気を噴射し、注入ノズルは安定材液あるいは硬化材液を噴射する。すなわち、各ノズルからは予め定められた種類の流体を噴射させている。この装置において、各ノズルから噴射される流体の種類を切り換える場合、例えば安定材液に代えて別の種類の液体を噴射させる場合には、注入管を地上までいったん引き上げて洗浄や切換作業を行い、再度注入管を地盤に形成された孔内に挿入することになる。このため、切り換えに手間を要するという問題がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、注入管を地中に存置したままで、噴射される流体の種類を瞬時に切り換えられるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の地盤改良装置は、第1流路、前記第1流路の外側を囲む第2流路、前記第2流路の外側を囲む第3流路、及び、一端が第1逆止弁を介して前記第2流路に接続され、かつ、他端が第2逆止弁を介して前記第3流路に接続される共通流路を形成する多重管と、前記多重管の下端部側面に設けられ、前記第1流路を流れる第1高圧流体と前記共通流路を流れる高圧流体とを噴射する共通ノズルとを備え、前記第1逆止弁を、前記第2流路内の流体圧力が前記共通流路内の流体圧力よりも高い場合に開放されるものとするとともに、前記第2逆止弁を、前記第3流路内の流体圧力が前記共通流路内の流体圧力よりも高い場合に開放されるものとし、前記第2流路を流れる第2高圧流体の圧力を、前記第3流路内の流体圧力よりも高くすることで、前記第1高圧流体と前記第2高圧流体とを前記共通ノズルから噴射させ、前記第3流路を流れる第3高圧流体の圧力を、前記第2流路内の流体圧力よりも高くすることで、前記第1高圧流体と前記第3高圧流体とを前記共通ノズルから噴射させることを特徴とする。
【0008】
本発明の地盤改良装置によれば、第2流路を流れる第2高圧流体の圧力と第3流路を流れる第3高圧流体の圧力の強弱を調整することで、共通ノズルから噴射させる流体を第2高圧流体と第3高圧流体とに切り換えることができる。このため、ノズルから噴射される流体の種類を切り換える作業を、注入管としての多重管を地中に存置したまま瞬時に行うことができる。
【0009】
本発明の地盤改良装置において、前記多重管の下端に地盤を削孔する削孔ビットを設けるとともに、前記多重管に、前記第2流路と前記第3流路の何れかに連通され、地盤の削孔時に前記削孔ビットに供給される削孔水が流れる削孔水流路を形成し、前記第1流路の下端に、前記第1流路に内部空間が連通された弾性体によって作製され、前記第1高圧流体の前記内部空間への供給に伴って膨張されて前記削孔水流路を塞ぐ閉塞部材を設けた場合には、閉塞部材を膨張させることで削孔水流路を閉塞でき、収縮させることで削孔水流路を開放できる。すなわち、多重管を流れる流体の圧力を制御することで、多重管を地中に存置したまま行うことができる。
【0010】
本発明の地盤改良装置において、前記第1逆止弁を、前記第2流路との境界となる開口を前記共通流路側から塞ぐ閉塞状態と当該開口から離れた開放状態とに変換可能な板状ゴムとし、前記第2逆止弁を、前記第3流路との境界となる開口を前記共通流路側から塞ぐ閉塞状態と当該開口から離れた開放状態とに変換可能な他の板状ゴムとした場合には、流路の切り換え部分における構造を簡素化できる。
【0011】
本発明の地盤改良装置において、前記多重管の下端部側面であって前記多重管の周方向における前記共通ノズルと反対の位置に、前記第1流路を流れる第1高圧流体と前記第2流路を流れる第2高圧流体とを噴射する他のノズルを設けた場合には、各ノズルから第1高圧流体と第2高圧流体を噴射させることと、一方のノズルから第1高圧流体と第2高圧流体とを、他方のノズルから第1高圧流体と第2高圧流体とを噴射させることの切り換えを容易に行うことができる。
【0012】
本発明の地盤改良装置において、前記第1高圧流体を高圧で供給される硬化材とするとともに、前記第2高圧流体と前記第3高圧流体の一方を高圧で供給される空気とし、他方を高圧で供給される空気と気泡剤の混合物とする場合には、硬化材による改良範囲と気泡を含んだ硬化材による改良範囲とを選択的に形成できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多重管の先端に設けたノズルから高圧流体を噴射して地盤を改良する地盤改良装置において、噴射される流体の種類を切り換えるに際し、作業負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】地盤改良装置の全体構成を説明する図である。
【図2】注入管の先端部分を拡大して示す断面図である。
【図3】(a)は図2のX−X断面図、(b)は図2のY−Y断面図、(c)は図2のZ−Z断面図である。
【図4】注入管の先端部分における流路等を簡略化して示す図である。
【図5】通常の噴射攪拌工法にて各流路に流す流体を説明する図である。
【図6】(a)は地盤の削孔を説明する図である。(b)は地盤の改良処理を説明する図である。
【図7】削孔時における注入管の先端部分を説明する図であり、(a)は流体の流れを示す断面図、(b)は流体の流れを簡略化して示す図である。
【図8】地盤改良時における注入管の先端部分を説明する図であり、(a)は流体の流れを示す断面図、(b)は流体の流れを簡略化して示す図である。
【図9】閉塞ノズルの洗浄時における注入管の先端部分を説明する図であり、(a)は流体の流れを示す断面図、(b)は流体の流れを簡略化して示す図である。
【図10】(a)は、瞬結型の噴射攪拌工法にて各流路に流す流体を説明する図、(b)は、改良時(2)における流体の流れを示す断面図である。
【図11】(a),(b)はそれぞれ瞬結型の噴射攪拌工法の適用例を説明する図である。
【図12】噴射攪拌工法にて各流路に流す流体の他の例を説明する図である。
【図13】注入管の先端部分における他の構成を簡略化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1に示すように、地盤改良装置1は、造成マシン10と、注入管20とを有している。
【0016】
造成マシン10は、地盤Gを削孔してガイドホールGHを形成し、ガイドホールGHに挿入された注入管20の先端部分(後述する下端部分21)から空気、水、硬化材等の流体を高圧で噴射させるとともに、注入管20を回転させつつ引き上げることで、地盤Gの切削と硬化材の混合攪拌とを同時に行うものである。
【0017】
注入管20は、高圧流体を流すための複数の流路を内部に有する多重管によって構成されている。そして、ガイドホールGHに挿入された状態で下側に位置する一方の先端部分には、削孔ビット22が取り付けられ、上側に位置する他方の先端部分には注入管スイベル23が取り付けられている。便宜上、以下の説明では、一方の先端部分のことを下端部分21という。
【0018】
図2及び図3に示すように、注入管20は、内管24、中管25、及び外管26を有する3重管によって構成されている。すなわち、外管26の内側空間に中管25が挿入され、中管25の内側空間に内管24が挿入され、かつ、内管24、中管25、及び外管26が同心状に配置されている。そして、内管24の外径は中管25の内径よりも小さく定められ、中管25の外径は外管26の内径よりも小さく定められている。このため、この注入管20は、内管24の中心部に形成される内管流路24aと、内管24の外周面と中管25の内周面との間に内管流路24aを囲む状態で形成される中管流路25aと、中管25の外周面と外管26の内周面との間に中管流路25aを囲む状態で形成される外管流路26aとを有している。
【0019】
内管流路24aは第1流路に相当し、地盤Gの削孔時において硬化材は供給されず、大気圧の空気で満たされている。一方、地盤Gの改良時において、内管流路24aにはセメントミルク等の硬化材が高圧で供給される。中管流路25aは第2流路に相当し、地盤Gの削孔時においては静圧水で満たされる。一方、地盤Gの改良時において、中管流路25aには、改良の実施形態に応じて選択される流体が、後述するような所用の圧力で供給される。外管流路26aは第3流路に相当し、地盤Gの削孔時においては削孔用の水(圧力水)が供給される。一方、地盤Gの改良時において、外管流路26aには空気が高圧で供給される。なお、各流路24a〜26aに流れる流体については後で説明する。
【0020】
内管24の下端部には、閉塞部材27の上端部が取り付けられている。この閉塞部材27は、上面が開放された有底円筒状の弾性体である。本実施形態の閉塞部材27は、側面部分がゴムによって作製されている。この閉塞部材27を内包する状態で、注入管20の下端部には水路形成部材28が設けられている。水路形成部材28は、閉塞部材27を収納可能な大きさの空間が形成された上面開放の有底筒状部材である。水路形成部材28は肉厚の円筒状をしており、その内径は閉塞部材27の外径よりも一回り大きく定められている。閉塞部材27は、水路形成部材28と同心上に配置されているため、閉塞部材27の外周面と水路形成部材28の内周面との間には隙間が形成される。この隙間は、水路形成部材28の下面まで一連に形成され、削孔水を流すための削孔水流路29となる。
【0021】
水路形成部材28の下端部には、削孔ビット22が取り付けられている。この削孔ビット22は、下端に切削用の刃が形成された円筒状部材であり、水路形成部材28とともに回転する。そして、造成マシン10によって注入管20を押し下げつつ軸周りに回転させることで地盤Gを削孔することができる。ここで、削孔水流路29の出口は、削孔ビット22の内側空間に開口し、削孔水流路29を通じて削孔水を排出しながら地盤Gを削孔することで、削孔時の抵抗低減や刃の目詰まりの防止を図りつつ、削孔した地盤を構成していた土砂を地上に排出する。
【0022】
水路形成部材28と注入管20との境界部分には、分流空部31が設けられている。この分流空部31は、閉塞部材27の外周を囲む扁平なリング状の空間であり、後述する上側ノズル及び下側ノズルよりも下の位置に設けられている。そして、図3(a)や(b)に記載された外管連通路32を介して、分流空部31と外管流路26aとが連通されている。
【0023】
また、図2や図3(b)に記載されたノズル連通路33を介して、分流空部31と下側ノズル空部34とが連通されている。この下側ノズル空部34は、下側ノズル35の高さ位置に、内管24の外側を囲む状態に形成されたリング状の空間である。そして、下側ノズル35は、二重型ノズルによって構成されており、内管流路24aを流れる高圧流体と外管流路26aを流れる高圧流体とを、注入管20の側方に向かって噴射する。この下側ノズル35において、外管流路26aからの高圧流体を噴射する部分(すなわち下側ノズル空部34と連通する部分)は、流路の断面積が、削孔水流路29の断面積よりも十分に小さく定められている。
【0024】
下側ノズル空部34の直上には、下側遮蔽弁36を間に挟んだ状態で上側ノズル空部37が形成されている。この上側ノズル空部37は、上側ノズル38の高さ位置に、内管24の外側を囲む状態に形成されたリング状の空間である。この上側ノズル空部37の直上には、上側遮蔽弁39を間に挟んだ状態で中管流路25aの下端が位置している。そして、上側ノズル38は、注入管20の周方向において下側ノズル35と背中合わせの位置(180度回転した位置)に設けられている。
【0025】
この上側ノズル38もまた二重型ノズルによって構成されており、内管流路24aを流れる高圧流体と、中管流路25a又は外管流路26aを流れる高圧流体とを、注入管20の側方であって下側ノズル35とは反対方向に向けて噴射する。そして、この上側ノズル38においても、中管流路25aや外管流路26aからの高圧流体を噴射する部分(すなわち上側ノズル空部37と連通する部分)は、流路の断面積が、削孔水流路29の断面積よりも十分に小さく定められている。
【0026】
下側遮蔽弁36は、リング状のゴム片によって構成された逆止弁である。この下側遮蔽弁36は、下側ノズル空部34と上側ノズル空部37との境界部分の開口を上側ノズル空部37側から覆っている。そして、下側ノズル空部34の流体圧力(すなわち、外管流路26aの流体圧力)が上側ノズル空部37の流体圧力(すなわち、中管流路25aの流体圧力)よりも高い場合に上方に湾曲し、境界部分の開口から離れた開放状態に変換される。これにより、上側ノズル空部37と下側ノズル空部34とが連通される。反対に、上側ノズル空部37の流体圧力が下側ノズル空部34の流体圧力の流体圧力よりも高い場合に下方に押圧されて境界部分の開口を塞いだ閉塞状態に変換される。これにより、上側ノズル空部37と下側ノズル空部34とが遮断される。
【0027】
上側遮蔽弁39もまた、リング状のゴム片によって構成された逆止弁である。この上側遮蔽弁39は、中管流路25aと上側ノズル空部37の境界部分の開口を上側ノズル空部37側から覆っている。そして、中管流路25aの流体圧力が上側ノズル空部37の流体圧力よりも高い場合に下方に湾曲し、境界部分の開口から離れた開放状態に変換される。これにより、中管流路25aと上側ノズル空部37とが連通される。反対に、上側ノズル空部37の流体圧力が中管流路25aの流体圧力の流体圧力よりも高い場合に上方に押圧されて境界部分の開口を塞いだ閉塞状態に変換される。これにより、中管流路25aと上側ノズル空部37とが遮断される。
【0028】
前述したように、下側ノズル空部34は、ノズル連通路33、分流空部31、及び外管流路26aを介して、外管流路26aと連通されている。このため、外管流路26aの流体圧力が中管流路25aの流体圧力よりも高い場合には、下側遮蔽弁36が開放状態となる一方で上側遮蔽弁39が閉塞状態になる。この場合、下側ノズル空部34と上側ノズル空部37の両方が、外管流路26aの流体で満たされることになる。これにより、上側ノズル38と下側ノズル35のそれぞれから内管流路24aを流れる高圧流体と外管流路26aを流れる高圧流体とが噴射される。
【0029】
反対に、中管流路25aの流体圧力が外管流路26aの流体圧力よりも高い場合には、下側遮蔽弁36が閉塞状態となる一方で上側遮蔽弁39が開放状態になる。この場合、上側ノズル空部37は中管流路25aの流体で満たされ、下側ノズル空部34は外管流路26aの流体で満たされることになる。これにより、上側ノズル38からは内管流路24aを流れる高圧流体と中管流路25aを流れる高圧流体とが噴射され、下側ノズル35からは内管流路24aを流れる高圧流体と外管流路26aを流れる高圧流体とが噴射される。
【0030】
このように、本実施形態では、中管流路25aの流体圧力と外管流路26aの流体圧力との大小関係に応じて、上側ノズル38から噴射させる高圧流体の種類を切り換えることができる。ここで、上側ノズル空部37は、中管流路25aの流体圧力と外管流路26aの流体圧力との大小関係に応じて、供給される高圧流体の種類が切り替わる。そして、上側ノズル空部37は、中管流路25aの流体と外管流路26aの流体とによって共通に使用されるので、共通流路に相当する。また、上側ノズル38は、内管流路24aの高圧流体と中管流路25a又は外管流路26aの高圧流体とを噴射する共通ノズルに相当する。
【0031】
前述した注入管20の下端部分21は、図4に示すように簡略化して示すことができる。理解を容易にするため、以下の説明に際しては簡略化した図も用いて説明することとする。
【0032】
次に、この地盤改良装置1を用いた地盤改良工法について説明する。
【0033】
まず、通常の噴射攪拌工法について説明する。図5に示すように、通常の噴射攪拌工法では、地盤Gの削孔時において、外管流路26aに削孔水を流し、中管流路25aを静圧水で満たし、内管流路24aを大気開放する(すなわち大気圧の空気で満たす)。そして、図6(a)に示すように、注入管20の下端部分21から削孔水を排出しつつ注入管20を軸回りに回転させ、注入管20を少しずつ押し下げる。
【0034】
図7(a),(b)に示すように、削孔時において内管流路24aは大気開放されているので、閉塞部材27の内部空間27aも大気圧の空気で満たされる。これにより、閉塞部材27は膨らまず、削孔水流路29は開放された状態になる。そして、外管流路26aを流れる削孔水の圧力は、中管流路25a内の水圧よりも高いので、下側遮蔽弁36が開放状態になり、上側遮蔽弁39が閉塞状態になる。
【0035】
ここで、各ノズル35,38における削孔水の流出部分は、その断面積が削孔水流路29の断面積よりも十分に小さい。このため、各ノズル35,38から流出される削孔水の流量は、削孔水流路29を通じて排出される削孔水の流量よりも十分に少なくなる。以上より、外管流路26aを流れる削孔水は、その大半が削孔水流路29を通じて排出され、残りが下側ノズル空部34や上側ノズル空部37に流入して下側ノズル35や上側ノズル38から流出される。
【0036】
図5に示すように、地盤改良時には、内管流路24aに高圧で硬化材を流し、中管流路25a及び外管流路26aに高圧空気を流す。これにより、各ノズル35,38からは硬化材が高圧空気とともに噴射される。そして、図6(b)に示すように、注入管20の下端部分21から硬化材や高圧空気を噴射しつつ注入管20を軸回りに回転させ、注入管20を引き上げる。これにより、地盤Gの切削と硬化材の攪拌混合とが行われる。
【0037】
外管流路26aの高圧空気を中管流路25aの高圧空気よりも低い圧力に調整した場合、図8(a),(b)に示すように、地盤改良時において内管流路24aには硬化材が高圧で流される。これに伴い、上側ノズル38及び下側ノズル35における内管流路24aとの連通部分からは、硬化材が噴射される。また、閉塞部材27の内部空間27aに硬化材が充填され、閉塞部材27が側方に膨らんで削孔水流路29が閉塞される。削孔水流路29の閉塞に伴って、外管流路26aを流れる高圧空気は、分流空部31からノズル連通路33を通じて下側ノズル空部34に流入する。ここで、中管流路25aの空気圧力は、外管流路26aの空気圧力よりも高いため、上側遮蔽弁39が開放状態になるとともに下側遮蔽弁36が閉塞状態になる。これにより、下側ノズル空部34と上側ノズル空部37とが遮断され、中管流路25aを流れる高圧空気が上側ノズル空部37に流入する。なお、中管流路25aの高圧空気を外管流路26aの高圧空気よりも低い圧力に調整すると、各ノズル35,38からは、内管流路24aの硬化材が外管流路26aの高圧空気とともに噴射される。
【0038】
このように、地盤改良時においては、各ノズル35,38から硬化材が高圧空気ともに噴射される。ここで、上側ノズル38から噴射される中管流路25aの高圧空気を下側ノズル35から噴射される外管流路26aの高圧空気よりも高い圧力に設定した場合、上側ノズル38から噴射される流体の圧力が下側ノズル35から噴射される流体の圧力よりも強くなる。これにより、未切削の地盤が相対的に強い力で切削されることとなり、上下のノズル38,35を用いて、所望範囲に対する地盤の切削をバランスよく行うことができる。
【0039】
また、本実施形態の地盤改良装置1は、内管流路24aを流れる硬化剤によって閉塞部材27を膨張させて削孔水流路29を塞ぐ構成であるため、内管流路24aを流れる硬化剤圧力の圧力を調整することで、地上からであっても容易にかつ瞬時に削孔水流路29を開閉できる。
【0040】
図5に示すように、ノズルの閉塞時には、内管流路24aに低圧で硬化材を流し、外管流路26aに洗浄液(例えば清水)を流す。また、中管流路25aは大気開放する。
【0041】
図9(a),(b)に示すように、内管流路24aには硬化材が低圧で流される。これに伴い、閉塞部材27の内部空間27aに硬化材が充填され、閉塞部材27が側方に膨らんで削孔水流路29が閉塞される。また、硬化材が低圧で流されているので、上側ノズル38及び下側ノズル35からは、硬化材が流出しないか、流出しても僅かな量である。削孔水流路29の閉塞に伴って、外管流路26aからの分流空部31に流入した洗浄液は、ノズル連通路33を通じて上昇し、下側ノズル空部34に流入する。
【0042】
ここで、中管流路25aは大気開放されているので、外管流路26aを流れる洗浄液の圧力は中管流路25aの流体圧力(すなわち大気圧)よりも高くなる。これにより、下側遮蔽弁36が開放状態になるとともに上側遮蔽弁39が閉塞状態になり、下側ノズル空部34を満たした洗浄液が上側ノズル空部37の下側から流入し、この上側ノズル空部37を満たす。下側ノズル空部34には下側ノズル35が連通し、上側ノズル空部37には上側ノズル38が連通しているため、各ノズル空部34,37に流入した洗浄液は、各ノズル35,38から排出されて詰まった土砂を排出する。
【0043】
以上説明したように、通常の噴射攪拌工法において、内管流路24aの硬化剤の圧力に応じて閉塞部材27の膨張度合いを制御でき、外管流路26aの流体を削孔水流路29に流す状態と、下側ノズル空部34に流す状態とを選択できる。例えば、外管流路26aの削孔水を、削孔水流路29を通じて削孔ビット22側に流す状態と、外管流路26aの高圧空気を下側ノズル35や上側ノズル38から噴射させる状態とを選択できる。
【0044】
このように、各流体の圧力に応じて、内管流路24a、中管流路25a、及び、外管流路26aを流れる流体の噴射状態を切り換えることができるので、地上でのバルブ切替えにより流体の種類を切り換える場合に比べて、迅速にかつ連続的に改良体の変更対応が可能になる。
【0045】
また、中管流路25aの流体圧力と外管流路26aの流体圧力の大小関係に応じて、上側ノズル38と下側ノズル35のそれぞれから同じ流体を噴射させることと、異なる流体を噴射させることを選択できる。例えば、上側ノズル38及び下側ノズル35のそれぞれから内管流路24aの硬化材と外管流路26aの高圧空気とを噴射させる状態と、上側ノズル38から内管流路24aの硬化材と中管流路25aの高圧空気を噴射させ、下側ノズル35から内管流路24aの硬化材と外管流路26aの高圧空気を噴射させる状態とを選択できる。これにより、注入管20を地上に引き上げることなくガイドホールGHに挿入したままで、噴射状態を選択することができる。
【0046】
次に、瞬結型の噴射攪拌工法について説明する。図10に示すように、瞬結型の噴射攪拌工法では、例えば、地盤改良時において、下側ノズル35と上側ノズル38のそれぞれから硬化材を高圧空気とともに噴射すること〔改良時(1)〕、あるいは、下側ノズル35から硬化材を高圧空気とともに噴射し、上側ノズル38から硬化材と急結剤を噴射すること〔改良時(2)〕を切り換えて行う。なお、削孔時については、通常の噴射攪拌工法と同じであるので、説明は省略する。
【0047】
地盤改良時において、内管流路24aに硬化材を、中管流路25aに急結剤を、外管流路26aに高圧空気をそれぞれ供給する。そして、改良時(1)では、中管流路25aの急結剤圧力を外管流路26aの空気圧力よりも低く設定する。これにより、下側遮蔽弁36が開放状態になるとともに上側遮蔽弁39が閉塞状態になる。その結果、下側ノズル空部34と上側ノズル空部37がともに高圧空気で満たされ、各ノズル35,38からは硬化材が高圧空気とともに噴射される。
【0048】
一方、改良時(2)では、中管流路25aの急結剤圧力を、外管流路26aの空気圧力よりも高く設定する。これにより、上側遮蔽弁39が開放状態になるとともに下側遮蔽弁36が閉塞状態になり、下側ノズル空部34は高圧空気で満たされ、上側ノズル空部37は急結剤で満たされる。その結果、下側ノズル35からは硬化材が高圧空気とともに噴射され、上側ノズル38からは硬化材と急結剤とが噴射される。
【0049】
このような瞬結型の噴射攪拌工法は、従来高圧噴射攪拌工法では施工が困難であった箇所に対して好適に適用できる。
【0050】
例えば、図11(a)に示す事例は、鋼矢板51で締め切られた既設の人孔部52における埋め戻し砂を対象としている。この事例において、従来の高圧噴射攪拌工法で施工すると、硬化材(造成杭)が硬化するまでに硬化材の上部にある埋め戻し砂が崩落し、混合された硬化材と置き換わってしまう現象が生じてしまう。これに対し、改良時(2)の工法で施工すると、硬化材が早期に硬化するので、埋め戻し砂と硬化材とが置き換わってしまう前に硬化材を硬化することができ、軟弱な地盤内に杭を造成することができる。また、改良範囲が軟弱部分を通過した後は、改良時(1)の工法で施工すると、通常改良で効率のよい改良を行うことができる。
【0051】
また、図11(b)に示す事例は、河川堤防53の直下での施工を示している。この事例において、従来の高圧噴射攪拌工法で施工すると、杭の造成中に硬化材が河川に漏出する虞があるので、薬液注入などの事前処理が必要になる。これに対し、改良時(2)の工法で施工すると、硬化材が早期に硬化するので、事前処理を行わなくとも硬化材の河川への漏出を防止できる。そして、漏出の危険がない範囲では改良時(1)の工法に切り換えることで、通常改良を効率よく行うことができる。
【0052】
以上説明した様に、瞬結型の噴射攪拌工法でも、中管流路25aの流体圧力と外管流路26aの流体圧力の大小関係に応じて、各ノズル35,38から噴射させる流体を選択できる。例えば、上側ノズル38及び下側ノズル35のそれぞれから内管流路24aの硬化材と外管流路26aの高圧空気とを噴射させる状態と、上側ノズル38から内管流路24aの硬化材と外管流路26aの高圧空気を噴射させ、下側ノズル35から内管流路24aの硬化材と中管流路25aの急結剤を噴射させる状態とを選択できる。従って、瞬結型の噴射攪拌工法でも、流体の圧力に応じて、内管流路24a、中管流路25a、及び、外管流路26aを流れる流体の噴射状態を切り換えることができる。そして、地上において流体の種類を切り換える場合に比べ、迅速にかつ連続的に改良体の変更対応が可能になる。
【0053】
ところで、以上の実施形態に関する説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨、目的を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、次のように構成してもよい。
【0054】
各ノズル35,38から噴射させる流体の種類に関しては、改良地盤の状態に応じて適宜選択することができる。例えば、図12に示す例は、地盤の改良時において内管流路24aに高圧硬化材を、中管流路25aに高圧空気と気泡材の混合物を、外管流路26aに高圧空気を、それぞれ供給するように構成している。そして、通常の改良時(1)では、外管流路26aの高圧空気圧力を中管流路25aの混合物圧力よりも高くし、各ノズル35,38から硬化材と空気とを噴射させる。一方、気泡材を用いる改良時(2)では、中管流路25aの混合物圧力を外管流路26aの高圧空気圧力よりも高くすることで、上側ノズル38からは硬化材と気泡剤と空気とを噴射し、下側ノズル35からは硬化材と空気とを噴射させる。これにより、地盤Gにおける所望の深さで強度を弱めて、事後の掘削の行いやすい改良が行える。
【0055】
閉塞部材27に関し、前述の実施形態では、上面が開放された有底円筒状の弾性体で構成されたものを例示した。この閉塞部材27に関し、シート状の弾性体を袋状にした弾性体袋を用いてもよい。この弾性体袋は、内管流路24aの流体が内部空間に充填されると、水風船のように膨らんで削孔水流路29を閉塞する。要するに閉塞部材27は、内管流路24aを流れる流体の充填状態に応じて膨張あるいは収縮し、削孔水流路29を閉塞したり、開放したりするものであればよい。
【0056】
また、注入管20の下端部分21に関し、前述の実施形態では、外管流路26aを流れる流体が分流空部31及び外管連通路32を通じて下側ノズル空部34に流入するように構成されていた。この先端部分に関し、図13に示すように、中管流路25aを流れる流体を分流空部31及び連通路33´を通じて下側ノズル空部34に流入するように構成してもよい。なお、このように構成した場合、外管流路26aを流れる流体は、上側遮蔽弁39を通じて上側ノズル空部37に流入される。また、分流空部31を介して削孔水流路29と中管流路25aとが連通することになる。他の構成は、前述した実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0057】
また、前述の実施形態では、閉塞部材27の膨張や収縮によって外管流路26aの流体を流す流路を切り換えていた。すなわち、閉塞部材27を収縮させることで外管流路26aの流体を削孔水流路29に導き、閉塞部材27を膨張させることで外管流路26aの流体を下側ノズル空部34に導いていた。このような流路を切り換えは、閉塞部材27以外の部材を用いて行ってもよい。例えば、内管流路24aの流体圧力に応じて管長手方向に移動する注入差動弁(図示せず)を用いて流路を切り換えるようにしてもよい。
【0058】
注入管20に関し、前述の実施形態では3重管によって構成されていたが、2重管で構成してもよいし、4重管によって構成してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 地盤改良装置
10 造成マシン
20 注入管
21 下端部分
22 削孔ビット
23 注入管スイベル
24 内管(24a 内管流路)
25 中管(25a 中管流路)
26 外管(26a 外管流路)
27 閉塞部材(27a 内部空間)
28 水路形成部材
29 削孔水流路
31 分流空部
32 外管連通路
33 ノズル連通路
34 下側ノズル空部
35 下側ノズル
36 下側遮蔽弁
37 上側ノズル空部
38 上側ノズル
39 上側遮蔽弁
51 鋼矢板
52 人孔部
53 河川堤防
G 地盤
GH ガイドホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流路、前記第1流路の外側を囲む第2流路、前記第2流路の外側を囲む第3流路、及び、一端が第1逆止弁を介して前記第2流路に接続され、かつ、他端が第2逆止弁を介して前記第3流路に接続される共通流路を形成する多重管と、
前記多重管の下端部側面に設けられ、前記第1流路を流れる第1高圧流体と前記共通流路を流れる高圧流体とを噴射する共通ノズルとを備え、
前記第1逆止弁を、前記第2流路内の流体圧力が前記共通流路内の流体圧力よりも高い場合に開放されるものとするとともに、前記第2逆止弁を、前記第3流路内の流体圧力が前記共通流路内の流体圧力よりも高い場合に開放されるものとし、
前記第2流路を流れる第2高圧流体の圧力を、前記第3流路内の流体圧力よりも高くすることで、前記第1高圧流体と前記第2高圧流体とを前記共通ノズルから噴射させ、
前記第3流路を流れる第3高圧流体の圧力を、前記第2流路内の流体圧力よりも高くすることで、前記第1高圧流体と前記第3高圧流体とを前記共通ノズルから噴射させることを特徴とする地盤改良装置。
【請求項2】
前記多重管には、地盤を削孔する削孔ビットが下端に設けられるとともに、前記第2流路と前記第3流路の何れかに連通され、地盤の削孔時に前記削孔ビットに供給される削孔水が流れる削孔水流路が形成され、
前記第1流路の下端には、前記第1流路に内部空間が連通された弾性体によって作製され、前記第1高圧流体の前記内部空間への供給に伴って膨張されて前記削孔水流路を塞ぐ閉塞部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の地盤改良装置。
【請求項3】
前記第1逆止弁は、前記第2流路との境界となる開口を前記共通流路側から塞ぐ閉塞状態と当該開口から離れた開放状態とに変換可能な板状ゴムであり、
前記第2逆止弁は、前記第3流路との境界となる開口を前記共通流路側から塞ぐ閉塞状態と当該開口から離れた開放状態とに変換可能な他の板状ゴムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤改良装置。
【請求項4】
前記多重管の下端部側面であって前記多重管の周方向における前記共通ノズルと反対の位置に、前記第1高圧流体と前記第2流路を流れる第2高圧流体とを噴射する他のノズルが設けられていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の地盤改良装置。
【請求項5】
前記第1高圧流体を高圧で供給される硬化材とするとともに、
前記第2高圧流体と前記第3高圧流体の一方を高圧で供給される空気とし、他方を高圧で供給される空気と気泡剤の混合物とすることを特徴とする請求項4に記載の地盤改良装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−136843(P2012−136843A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288714(P2010−288714)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(509235545)株式会社SEET (7)
【Fターム(参考)】