多重織物と織物積層シート及びこれらを使用した防御衣服
【課題】強度及び耐衝撃性の高い高強度かつ高弾性繊維糸からなる織物を使用した積層シートと多重織物及びこれらを使用した防御衣服を提供する。
【解決手段】多重織物(1)は、強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸を用い、両外側の経糸(a1,a6)は最外層の各緯糸(1-2,9-10)1本の間を交差して配置し、内層の経糸(a2-a5)は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造である。織物積層シートは、高強度かつ高弾性繊維糸からなる織物を複数枚積層し、層間に接着剤を塗布するか又は含浸し、厚さ方向に加圧して圧縮一体成形とするか、または前記織物積層シートをさらに複数枚積層し、層間に接着剤を塗布し、厚さ方向に加圧して圧縮成形する。防御衣服は、前記の多重織物を身頃に使用する。前記第1又は2番目の織物積層シートを身頃のウラに組み込んで補強しても良い。
【解決手段】多重織物(1)は、強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸を用い、両外側の経糸(a1,a6)は最外層の各緯糸(1-2,9-10)1本の間を交差して配置し、内層の経糸(a2-a5)は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造である。織物積層シートは、高強度かつ高弾性繊維糸からなる織物を複数枚積層し、層間に接着剤を塗布するか又は含浸し、厚さ方向に加圧して圧縮一体成形とするか、または前記織物積層シートをさらに複数枚積層し、層間に接着剤を塗布し、厚さ方向に加圧して圧縮成形する。防御衣服は、前記の多重織物を身頃に使用する。前記第1又は2番目の織物積層シートを身頃のウラに組み込んで補強しても良い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度及び耐衝撃性の高い高強度かつ高弾性繊維糸からなる織物を使用した積層シートと多重織物及びこれらを使用した防御衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飛行機のハイジャック防止のため、操縦室(コックピット)と客室との間に存在するドアの防弾性能の向上や、刃物から身体を防げる軽量の防刃衣類、及び耐衝撃性の高いボート等が要求されている。
【0003】
このため、例えば防刃衣類や防弾チョッキとしては、アラミド繊維等の高強度かつ高弾性繊維を用いたものが提案されている(非特許文献1)。
【0004】
また、多重織物の内部に金属板を挿入して防弾防刃衣とする提案もある(特許文献1)。多重織物は、経糸を3本以上たてに配列し、経糸の間に緯糸を打ち込んで、織物の厚さ方向に経糸と緯糸が立体的に配列するように構成する。多重織物は一般的にガーゼに使用されているが、樹脂を含浸して加圧下で焼成してプレスクッション材とする提案(特許文献2)もある。
【特許文献1】特開2000−17539号公報
【特許文献2】特開2000−154477号公報
【非特許文献1】「繊維の百科事典」、丸善、平成14年3月25日、918頁、924頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、テロの危険性が高くなり、変質者の凶暴化の事件も多く、より高い防弾性能や、刃物から身体を防げる軽量の防刃衣類、及び耐衝撃性の高いボート等が要求されている。
【0006】
本発明は、強度及び耐衝撃性の高い高強度かつ高弾性繊維糸からなる多重織物と織物積層シート及びこれらを使用した防御衣服防御衣服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多重織物は、強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸を用い、両外側の経糸は最外層の各緯糸1本の間を交差して配置し、内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造であることを特徴とする。
【0008】
本発明の第1番目の織物積層シートは、高強度かつ高弾性繊維糸からなる織物を複数枚積層し、層間に接着剤を塗布するか又は含浸し、厚さ方向に加圧して圧縮一体成形したことを特徴とする。
【0009】
本発明の第2番目の織物積層シートは、前記織物積層シートを、さらに複数枚積層し、層間に接着剤を塗布し、厚さ方向に加圧して圧縮成形したことを特徴とする。
【0010】
本発明の防御衣服は、前記の多重織物を身頃としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多重織物は、高強度かつ高弾性繊維糸を用いた多重織物であって、両外側の経糸は最外層の各緯糸1本の間を交差して配置し、内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造であることにより、防刃性の高い織物とすることができる。
【0012】
本発明の第1番目の織物積層シートは、強靭であり、刃物で切りつけても通すことなく、かつ軽量な防刃衣類とすることができる。また、耐衝撃性も高いボートとすることができる。本発明の第2番目の織物積層シートは、第1番目の織物積層シートよりもさらに強靭である。
【0013】
本発明の防御衣服は、前記の多重織物を身頃としたことにより、防刃性の高い衣服とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の多重織物は、強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸を用いて、両外側の経糸は最外層の緯糸1本の間を交差して配置し、内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造である。
【0015】
前記多重織物の高強度かつ高弾性繊維糸は、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維であることが好ましい。
【0016】
また前記多重織物を構成する糸は、ガラス繊維又はその他の繊維の周囲を前記高強度かつ高弾性繊維糸で被覆した撚糸であっても良い。
【0017】
前記多重織物は、断面方向から見て経糸が3〜8本であり、緯糸が2〜7層であることが好ましい。
【0018】
本発明で使用する高強度かつ高弾性繊維糸は、強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上のアラミド繊維(例えば、東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”、テイジントワロン社製商品名“トワロン”、帝人社製商品名“テクノーラ”)、ポリアリレート繊維(例えば、クラレ社製商品名“ベクトラン”)、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維(例えば、東洋紡社製商品名“ザイロン”)、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維(例えば、東洋紡社製商品名“ダイニーマSK60”、DSM社製商品名“ダイニーマSK71”、ハニウェル社製商品名“スペクトラ”)、及び引っ張り強度:7.2gf/Dのポリエーテルエーテルケトン繊維(旭化成社製“ポリケトン”)から選ばれる少なくとも一つの繊維であることが好ましい。これらの繊維は、繊維自体が高強度かつ高弾性であり、多重織物又は織物積層シートとすることにより、相乗的に防弾、防刃性を高くすることができる。前記高強度かつ高弾性繊維糸を使用する場合は、他の繊維で被覆してもよい。ここで他の繊維とは、前記高強度かつ高弾性繊維糸及びポリビニルアルコール繊維(別名「ビニロン」。例えば、クラレ社製商品名“クラロン−K II”、ユニチカ社製商品名“ビストロン”(強度:15.0〜15.5cN/dtex、弾性率(ヤング率):315〜330cN/dtex))から選ばれる少なくとも一つの繊維であることが好ましい。
【0019】
前記繊維は、マルチフィラメント糸でもよいし、紡績糸を使用してもよい。マルチフィラメント糸のトータル繊度は100〜3000dtex(単繊維の繊度:1〜20dtex)程度が好ましい。紡績糸の場合の繊度は、綿番手で1〜50番程度が好ましい。単糸で使用することもできるし、複数本引き揃えるか、あるいは合撚して使用できる。
【0020】
本発明の第1〜2番目の織物積層シートの発明においては、織物は、経糸と緯糸からなる単層織物、又は2〜7層の多重織物を使用するのが好ましい。とくに多重織物を使用する場合は、4〜7重織物が好ましい。強度を高く維持するためである。これらの織物を織り上げるための織機は公知のものを使用できる。
【0021】
本発明の第1番目の織物積層シートの発明においては、織物の積層枚数が2〜50枚が好ましく、さらに好ましくは3〜40枚が好ましい。この範囲であれば、防弾、防刃性をさらに高くすることができる。プレス後の好ましい厚さは、0.5〜300mm、さらに好ましくは1〜200mmの範囲である。好ましい目付け(単位面積あたりの重量)は100〜10000g/m2であり、さらに好ましくは300〜3000g/m2である。
【0022】
本発明の第2番目の織物積層シートの発明においては、前記の積層シートを、さらに複数枚、好ましくは2〜10枚積層し、層間に接着剤を塗布し、厚さ方向に加圧して圧縮成形して織物積層シートとする。このようにすると、より効果的に防刃性を高くすることができる。圧縮成形後の好ましい厚さは、5〜300mm、さらに好ましくは8〜200mmの範囲である。好ましい目付け(単位面積あたりの重量)は200〜30000g/m2であり、さらに好ましくは500〜20000g/m2である。前記において10mmを超える厚さのものは、例えば金属プレート間に挟み、装甲車などの防弾パネルとして使用でき、軽量化に貢献できる。
【0023】
本発明の第1〜2番目の織物積層シートの発明においては、接着剤としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ナイロン樹脂など任意の接着剤を使用できる。好ましくは、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂等を材料とするホットメルト接着剤を使用する。ホットメルト接着剤は、パウダー、繊維等の状態で使用できる。接着剤は、1層当たり5〜50g/m2塗布する。織物に接着剤を含浸させる場合は、繊維シートに対して1〜10重量%含浸させるのが好ましい。ホットメルト接着剤はフィルム状のものを積層して使用することもできる。
【0024】
複数枚の織物の厚さ方向への加圧力は、剛直なプレスシートを作成する場合は、好ましくは1〜1000kg/cm2(9.8×104〜9.8×107Pa)の範囲である。柔軟なプレスシートを作成する場合は、好ましくは0.05〜1kg/cm2(4.9×103〜9.8×104Pa)の範囲である。また、加圧時には100〜270℃に加熱することが好ましい。例えば1000mm×2000mmの織物積層シートを作成する場合、一次成形では120℃で8分間、130kg/cm2で加圧成形する。二次成形では、前記一次成形で得られた織物積層シートを複数枚積層し、70kg/cm2で10分間加圧成形する。ホットメルト接着剤を使用する際は、加熱して接着剤を溶融させることにより、織物の層間を接着する。
【0025】
本発明の防御服は、前記多重織物を身頃とした防御衣服である。ここで「身頃」とは、身体の胴部を包む衣服の部分の総称である。前身頃と後ろ身頃を含む。また、衣服としては、チョッキ、ジャンパー、ジャケット、コートなどがある。この衣服は防刃衣服としての機能が高い。
【0026】
前記防御衣服の腹部、胸部及び背中部から選ばれる少なくとも一つには、前記織物積層シートで補強したことが好ましい。腹部、胸部及び背中部に前記織物積層シートで補強するとさらに好ましい。この衣服は防刃衣服としての機能が高いうえ、防弾性能も付与できる。
【0027】
さらに前記防御衣服の胸部に、前記の多重織物を成形した胸部防御カップを組み込むこともできる。このようにすると女性用の防御衣服に好適である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
(1)多重織物の製造
強度:19〜23cN/dtex、弾性率:380〜980cN/dtex、分解温度560℃、単繊維の繊度:1.7dtex、トータル繊度1111dtex(1000デニール)のパラ系アラミド繊維紡績糸(東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”)を経糸と緯糸に使用した。織機は多重織機を使用して5重織物を製造した。経糸密度及び緯糸密度は、それぞれ126本/2.54cmとした。目付けは1630g/m2であった。図1にこの5重織物1の断面組織図を示す。a1〜a6は経糸、丸1〜丸10は緯糸である。図1に示すように、両外側の経糸a1,a6は最外層の緯糸(丸1,丸2及び丸9,丸10)各1本の間を交互にジグザグ状に配置し、内層の経糸(a2〜a5)は厚さ方向に隣り合う各2本の緯糸の間を交互にジグザグ状に配置した構造である。最外層の緯糸、例えば丸1と丸2に示す緯糸は、経糸a1とa2により平組織に類似した構造で組織されているが、経糸a2が厚さ方向に隣り合う各2本の緯糸(丸2と3、丸1と4)の間を交互に配置されている点が平組織とは異なる。また、内層は厚さ方向に隣り合う各2本の緯糸と、水平方向には1本の緯糸の間を交互に配置されている。
【0030】
(2)積層シートの製造
次に図2に示すように、前記の5重織物1(縦1m、横2m)をプレス機3と4の間に7枚積層し、それぞれの間にホットメルト接着剤(低融点ナイロン繊維、融点110〜113℃、東レ社製商品名“エルダー”、繊維糸を10mmにカットして分散)2を1層当たり15g/m2で塗布し、圧力:50kg/cm2(19.6×105Pa)、温度:120℃で5分間加圧し、その後15分間で冷却した。Xは加圧方向を示す矢印である。これにより、厚さ5mm、単位面積あたりの重量:2600g/m2の積層シート10を得た。この積層シート10は刃物で切りつけても通過することはなかった。また、風合いは柔軟性があり、通気性も得られた。
【0031】
(3)積層シートの応用
前記のようにして得られた積層シート10を使用して図3に示す防御チョッキ11を縫製した。まず身ごろ12を、経糸としてガラスファイバ(トータル繊度:150D)の双糸に、東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”、メートル20番、単糸でWカバーリングした合撚糸を使用し、緯糸として東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”のマルチフィラメント(トータル繊度:622dtex(560デニール)、フィラメント数:100本)を使用し、実施例1と同じ織機を使用して5重織物を平組織で製造した。経糸密度及び緯糸密度は、それぞれ89本/2.54cmとした。目付けは1470g/m2の多重織物を使用して縫製した。胸部ポケット13と腹部ポケット14の位置に前記積層シート10を裏から縫いつけた。この防御チョッキ11は、5重織物1部分は刃物で切りつけても通過することはなく、胸部ポケット13と腹部ポケット14の積層シート10を裏打ちした部分は、さらに強度が高かった。また、全体の風合いも柔軟であり、着心地もよいものであった。1着の重さは1kg未満であった。
【0032】
次に積層シート10を使用して、図4に示す防御ボード15を縫製した。この防御ボード15は身体の腹部から胸部全体を覆うものである。この防御ボードも上記と同様であり、防刃機能が高かった。
【0033】
(実施例2)
実施例1で作製した積層シート10を5枚重ね、それぞれの間に実施例1で使用したホットメルト接着剤2を1層当たり15g/m2で塗布し、圧力:50kg/cm2(19.6×105Pa)、温度:120℃で5分間加圧し、その後15分間で冷却した。Xは加圧方向を示す矢印である。これにより、厚さ20mm、単位面積あたりの重量:14820g/m2の第2の積層シート20を得た。この第2の積層シート20は実施例1の防御ボードよりもさらに強靭であった。このことから防弾ドア、防弾ボードとして使用できることがわかった。
【0034】
(実施例3)
強度:19〜23cN/dtex、弾性率:380〜980cN/dtex、分解温度560℃、単糸繊度:1.7dtex、トータル繊度1111dtex(1000デニール)のパラ系アラミド繊維紡績糸(東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”)を経糸と緯糸に使用し、単層の平織物を製織した。経糸密度及び緯糸密度は、それぞれ16本/2.54cmとした。目付けは175g/m2であった。
【0035】
この織物を実施例1と同様に7枚積層し、それぞれの間にポリオレフィン混合物からなるホットメルト接着剤(東セロ株式会社製商品名“トーセロCMPS(1)”)を1層当たり15g/m2で塗布し、圧力:圧力:50kg/cm2(19.6×105Pa)、温度:135℃で5分間加圧し、その後15分間で冷却した。これにより、厚さ3.5mm、単位面積あたりの重量:1225g/m2の積層シートを得た。この積層シートは刃物で切りつけても通過しなかった。また、風合いは柔軟性があり、厚手の布地と同様であった。
【0036】
(実施例4)
強度:19〜23cN/dtex、弾性率:380〜980cN/dtex、分解温度560℃、単糸繊度:1.7dtex、繊維長:51mm、トータル繊度556dtex(500デニール)のパラ系アラミド繊維紡績糸(東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”)の周囲に、強度:18〜22cN/dtex、弾性率:660〜741cN/dtex、分解温度300℃、単糸繊度:2.2dtex、、繊維長:51mm、トータル繊度556dtex(500デニール)のポリアリレート(クラレ社製商品名“ベクトラン”)繊維を撚り数450T/mで被覆し、トータル繊度1112dtexの合撚糸を作った。この合撚糸を経糸と緯糸とし、実施例1及び図1に示す5重織物を織成した。目付けは1320.8g/m2と1216.8g/m2のものを作成した。得られた5重織物の切創試験をISO13997(JIS T 8052)とEN388にしたがって行った。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
比較例としてアラミド紡績糸を使用したニットの切創試験をしたところ、1/7の値しか得られなかった。
【0039】
(実施例5)
実施例4で得られた5重織物を身頃とし、実施例3の平織物5枚、8枚、10枚、15枚の積層板(補強板)を、図6〜10に示す防御衣服の腹部、胸部及び背中部に補強した防御衣服を作成した。ここで使用した積層板(補強板)のJIS L1096 8.27.1A法(フラジール法)による通気性は表2のとおりであった。
【0040】
【表2】
【0041】
図6Aはこの実施例の防御服(チョッキ)の正面図、図6Bは同背面図である。この防御服(チョッキ)21は、前身頃22と後ろ身頃23が前記5重織物で構成されている。腹の側部24の面ファスナー25により、前身頃22と後ろ身頃23が一体化されている。
【0042】
図7A〜Bは、前記防御服(チョッキ)21の展開図である。図7Aは前身頃22の展開図であり、腹部の面ファスナー24と肩部の面ファスナー26が点線で示されている。図7Bは後ろ身頃23の展開図であり、腹部の面ファスナー25と肩部の面ファスナー27が点線で示されている。着用時には、腹部の面ファスナー24,25と肩部の面ファスナー26,27が各々貼り合わされて一体化される。
【0043】
図8A〜Bは、前身頃22と後ろ身頃23に補強板(織物積層シート)を組み込む前の裏面展開図である。図8Aは前身頃22の裏面であり、腹部の両側にメッシュ布帛33が一体化されている。メッシュ布帛33は前身頃の端部に添った部分のみ縫製し、中央側は空けてある。いわゆる袋縫いをしてある。腹部には水平方向に補強板を挟むベルト28を備えている。図8Bは後ろ身頃23の裏面であり、腹部の両側にメッシュ布帛34が袋縫いで一体化されている。腹部には水平方向に補強板を挟むベルト29を備えている。
【0044】
図9Aは前身頃の裏に組み込む補強板30である。この補強板30を図9Bに示すように、前身頃22の裏面と、メッシュ布帛33の袋縫い部分に挿し込み、ベルト28との間に配置して組み込む。
【0045】
図10Aは後ろ身頃の裏に組み込む補強板31である。この補強板31を図10Bに示すように、後ろ身頃23の裏面と、メッシュ布帛34の袋縫い部分に挿し込み、ベルト29との間に配置して組み込む。
【0046】
その後、図7A〜Bに示すように面ファスナー24,25を法制により取り付け、図6A〜Bに示す防御服(チョッキ)21を作成した。この防御服(チョッキ)21は、重量が約1.5kgであった。柔軟で活動性を妨げず、着心地も良好であった。チタン、ジュラルミンなどの金属プレートを組み込んだ従来の防御チョッキに比べると、はるかに柔軟で計量であり、活動性を妨げず、着心地も良好であった。刃物は全く通過しなかった。また、補強板10枚、15枚品は、各々銃器の程度に応じて使い分けることができ、防弾性能も期待できるものであった。
【0047】
さらに女性用としては、図11A〜Bに示す胸部防御パッド32も有効であった。この胸部防御パッド32は、実施例4で得られた5重織物にポリウレタン等の樹脂を含浸させ、織物積層シートと同じくプレス加工して成形し、同時に又はその後打ち抜き加工したものである。この胸部防御パッド32を、図6A〜Bに示す防御服(チョッキ)21の胸部に組み込んで女性用の防御服とすることもできる。
【0048】
[産業上の利用分野]
本発明の織物積層シートは、防弾シート、防刃シート、耐衝撃性の高いボート等に好適であるほか、衣服の芯地、衣服のインナーとしたり、電子部品に使用されるプリント印刷基板等にも応用できる。また本発明の多重織物は、前記織物積層シートの原料となるほか、チョッキ、ジャンパー、ジャケット、コートなどの防刃衣服として有用である。その他、本発明の多重織物は、溶接作業服、炉前作業服、消防服等としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は本発明の一実施例における5重織物の断面組織図である。
【図2】図2は本発明の一実施例における第1の積層シートを作成する工程断面図である。
【図3】図3は本発明の一実施例における防御チョッキの正面図である。
【図4】図4は本発明の一実施例における防御ボートの正面図である。
【図5】図5は本発明の一実施例における第2の積層シートを作成する工程断面図である。
【図6】図6Aは本発明の一実施例の防御服(チョッキ)の正面図、図6Bは同背面図である。
【図7】図7Aは同防御服(チョッキ)の前身頃の展開図、図7Bは同後ろ身頃の展開図である。
【図8】図8A〜Bは同防御服の前身頃と後ろ身頃に補強板(織物積層シート)を組み込む前の裏面展開図であり、図8Aは前身頃の裏面、図8Bは後ろ身頃の裏面である。
【図9】図9Aは同防御服の前身頃の裏に組み込む補強板の正面図、図9Bは同組み込み図である。
【図10】図10Aは同防御服の後ろ身頃の裏に組み込む補強板の正面図、図10Bは同組み込み図である。
【図11】図11Aは同防御福に組み込む女性用胸部防御パッドの平面図、図11Bは同正面である。
【符号の説明】
【0050】
1 5重織物
2 ホットメルト接着剤層
3,4 プレス機
10 第1の積層シート
11 防護チョッキ
12 防護チョッキの身ごろ
13 胸部ポケット
14 腹部ポケット
15 防御ボード
20 第2の積層シート
a1〜a6 経糸
丸1〜丸10 緯糸
X 加圧方向
21 防御服(チョッキ)
22 前身頃
23 後ろ身頃
24,25,26,27 面ファスナー
28,29 ベルト
30,31 補強板
32 胸部防御パッド
33,34 メッシュ布帛
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度及び耐衝撃性の高い高強度かつ高弾性繊維糸からなる織物を使用した積層シートと多重織物及びこれらを使用した防御衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飛行機のハイジャック防止のため、操縦室(コックピット)と客室との間に存在するドアの防弾性能の向上や、刃物から身体を防げる軽量の防刃衣類、及び耐衝撃性の高いボート等が要求されている。
【0003】
このため、例えば防刃衣類や防弾チョッキとしては、アラミド繊維等の高強度かつ高弾性繊維を用いたものが提案されている(非特許文献1)。
【0004】
また、多重織物の内部に金属板を挿入して防弾防刃衣とする提案もある(特許文献1)。多重織物は、経糸を3本以上たてに配列し、経糸の間に緯糸を打ち込んで、織物の厚さ方向に経糸と緯糸が立体的に配列するように構成する。多重織物は一般的にガーゼに使用されているが、樹脂を含浸して加圧下で焼成してプレスクッション材とする提案(特許文献2)もある。
【特許文献1】特開2000−17539号公報
【特許文献2】特開2000−154477号公報
【非特許文献1】「繊維の百科事典」、丸善、平成14年3月25日、918頁、924頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、テロの危険性が高くなり、変質者の凶暴化の事件も多く、より高い防弾性能や、刃物から身体を防げる軽量の防刃衣類、及び耐衝撃性の高いボート等が要求されている。
【0006】
本発明は、強度及び耐衝撃性の高い高強度かつ高弾性繊維糸からなる多重織物と織物積層シート及びこれらを使用した防御衣服防御衣服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多重織物は、強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸を用い、両外側の経糸は最外層の各緯糸1本の間を交差して配置し、内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造であることを特徴とする。
【0008】
本発明の第1番目の織物積層シートは、高強度かつ高弾性繊維糸からなる織物を複数枚積層し、層間に接着剤を塗布するか又は含浸し、厚さ方向に加圧して圧縮一体成形したことを特徴とする。
【0009】
本発明の第2番目の織物積層シートは、前記織物積層シートを、さらに複数枚積層し、層間に接着剤を塗布し、厚さ方向に加圧して圧縮成形したことを特徴とする。
【0010】
本発明の防御衣服は、前記の多重織物を身頃としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多重織物は、高強度かつ高弾性繊維糸を用いた多重織物であって、両外側の経糸は最外層の各緯糸1本の間を交差して配置し、内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造であることにより、防刃性の高い織物とすることができる。
【0012】
本発明の第1番目の織物積層シートは、強靭であり、刃物で切りつけても通すことなく、かつ軽量な防刃衣類とすることができる。また、耐衝撃性も高いボートとすることができる。本発明の第2番目の織物積層シートは、第1番目の織物積層シートよりもさらに強靭である。
【0013】
本発明の防御衣服は、前記の多重織物を身頃としたことにより、防刃性の高い衣服とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の多重織物は、強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸を用いて、両外側の経糸は最外層の緯糸1本の間を交差して配置し、内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造である。
【0015】
前記多重織物の高強度かつ高弾性繊維糸は、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維であることが好ましい。
【0016】
また前記多重織物を構成する糸は、ガラス繊維又はその他の繊維の周囲を前記高強度かつ高弾性繊維糸で被覆した撚糸であっても良い。
【0017】
前記多重織物は、断面方向から見て経糸が3〜8本であり、緯糸が2〜7層であることが好ましい。
【0018】
本発明で使用する高強度かつ高弾性繊維糸は、強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上のアラミド繊維(例えば、東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”、テイジントワロン社製商品名“トワロン”、帝人社製商品名“テクノーラ”)、ポリアリレート繊維(例えば、クラレ社製商品名“ベクトラン”)、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維(例えば、東洋紡社製商品名“ザイロン”)、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維(例えば、東洋紡社製商品名“ダイニーマSK60”、DSM社製商品名“ダイニーマSK71”、ハニウェル社製商品名“スペクトラ”)、及び引っ張り強度:7.2gf/Dのポリエーテルエーテルケトン繊維(旭化成社製“ポリケトン”)から選ばれる少なくとも一つの繊維であることが好ましい。これらの繊維は、繊維自体が高強度かつ高弾性であり、多重織物又は織物積層シートとすることにより、相乗的に防弾、防刃性を高くすることができる。前記高強度かつ高弾性繊維糸を使用する場合は、他の繊維で被覆してもよい。ここで他の繊維とは、前記高強度かつ高弾性繊維糸及びポリビニルアルコール繊維(別名「ビニロン」。例えば、クラレ社製商品名“クラロン−K II”、ユニチカ社製商品名“ビストロン”(強度:15.0〜15.5cN/dtex、弾性率(ヤング率):315〜330cN/dtex))から選ばれる少なくとも一つの繊維であることが好ましい。
【0019】
前記繊維は、マルチフィラメント糸でもよいし、紡績糸を使用してもよい。マルチフィラメント糸のトータル繊度は100〜3000dtex(単繊維の繊度:1〜20dtex)程度が好ましい。紡績糸の場合の繊度は、綿番手で1〜50番程度が好ましい。単糸で使用することもできるし、複数本引き揃えるか、あるいは合撚して使用できる。
【0020】
本発明の第1〜2番目の織物積層シートの発明においては、織物は、経糸と緯糸からなる単層織物、又は2〜7層の多重織物を使用するのが好ましい。とくに多重織物を使用する場合は、4〜7重織物が好ましい。強度を高く維持するためである。これらの織物を織り上げるための織機は公知のものを使用できる。
【0021】
本発明の第1番目の織物積層シートの発明においては、織物の積層枚数が2〜50枚が好ましく、さらに好ましくは3〜40枚が好ましい。この範囲であれば、防弾、防刃性をさらに高くすることができる。プレス後の好ましい厚さは、0.5〜300mm、さらに好ましくは1〜200mmの範囲である。好ましい目付け(単位面積あたりの重量)は100〜10000g/m2であり、さらに好ましくは300〜3000g/m2である。
【0022】
本発明の第2番目の織物積層シートの発明においては、前記の積層シートを、さらに複数枚、好ましくは2〜10枚積層し、層間に接着剤を塗布し、厚さ方向に加圧して圧縮成形して織物積層シートとする。このようにすると、より効果的に防刃性を高くすることができる。圧縮成形後の好ましい厚さは、5〜300mm、さらに好ましくは8〜200mmの範囲である。好ましい目付け(単位面積あたりの重量)は200〜30000g/m2であり、さらに好ましくは500〜20000g/m2である。前記において10mmを超える厚さのものは、例えば金属プレート間に挟み、装甲車などの防弾パネルとして使用でき、軽量化に貢献できる。
【0023】
本発明の第1〜2番目の織物積層シートの発明においては、接着剤としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ナイロン樹脂など任意の接着剤を使用できる。好ましくは、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂等を材料とするホットメルト接着剤を使用する。ホットメルト接着剤は、パウダー、繊維等の状態で使用できる。接着剤は、1層当たり5〜50g/m2塗布する。織物に接着剤を含浸させる場合は、繊維シートに対して1〜10重量%含浸させるのが好ましい。ホットメルト接着剤はフィルム状のものを積層して使用することもできる。
【0024】
複数枚の織物の厚さ方向への加圧力は、剛直なプレスシートを作成する場合は、好ましくは1〜1000kg/cm2(9.8×104〜9.8×107Pa)の範囲である。柔軟なプレスシートを作成する場合は、好ましくは0.05〜1kg/cm2(4.9×103〜9.8×104Pa)の範囲である。また、加圧時には100〜270℃に加熱することが好ましい。例えば1000mm×2000mmの織物積層シートを作成する場合、一次成形では120℃で8分間、130kg/cm2で加圧成形する。二次成形では、前記一次成形で得られた織物積層シートを複数枚積層し、70kg/cm2で10分間加圧成形する。ホットメルト接着剤を使用する際は、加熱して接着剤を溶融させることにより、織物の層間を接着する。
【0025】
本発明の防御服は、前記多重織物を身頃とした防御衣服である。ここで「身頃」とは、身体の胴部を包む衣服の部分の総称である。前身頃と後ろ身頃を含む。また、衣服としては、チョッキ、ジャンパー、ジャケット、コートなどがある。この衣服は防刃衣服としての機能が高い。
【0026】
前記防御衣服の腹部、胸部及び背中部から選ばれる少なくとも一つには、前記織物積層シートで補強したことが好ましい。腹部、胸部及び背中部に前記織物積層シートで補強するとさらに好ましい。この衣服は防刃衣服としての機能が高いうえ、防弾性能も付与できる。
【0027】
さらに前記防御衣服の胸部に、前記の多重織物を成形した胸部防御カップを組み込むこともできる。このようにすると女性用の防御衣服に好適である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
(1)多重織物の製造
強度:19〜23cN/dtex、弾性率:380〜980cN/dtex、分解温度560℃、単繊維の繊度:1.7dtex、トータル繊度1111dtex(1000デニール)のパラ系アラミド繊維紡績糸(東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”)を経糸と緯糸に使用した。織機は多重織機を使用して5重織物を製造した。経糸密度及び緯糸密度は、それぞれ126本/2.54cmとした。目付けは1630g/m2であった。図1にこの5重織物1の断面組織図を示す。a1〜a6は経糸、丸1〜丸10は緯糸である。図1に示すように、両外側の経糸a1,a6は最外層の緯糸(丸1,丸2及び丸9,丸10)各1本の間を交互にジグザグ状に配置し、内層の経糸(a2〜a5)は厚さ方向に隣り合う各2本の緯糸の間を交互にジグザグ状に配置した構造である。最外層の緯糸、例えば丸1と丸2に示す緯糸は、経糸a1とa2により平組織に類似した構造で組織されているが、経糸a2が厚さ方向に隣り合う各2本の緯糸(丸2と3、丸1と4)の間を交互に配置されている点が平組織とは異なる。また、内層は厚さ方向に隣り合う各2本の緯糸と、水平方向には1本の緯糸の間を交互に配置されている。
【0030】
(2)積層シートの製造
次に図2に示すように、前記の5重織物1(縦1m、横2m)をプレス機3と4の間に7枚積層し、それぞれの間にホットメルト接着剤(低融点ナイロン繊維、融点110〜113℃、東レ社製商品名“エルダー”、繊維糸を10mmにカットして分散)2を1層当たり15g/m2で塗布し、圧力:50kg/cm2(19.6×105Pa)、温度:120℃で5分間加圧し、その後15分間で冷却した。Xは加圧方向を示す矢印である。これにより、厚さ5mm、単位面積あたりの重量:2600g/m2の積層シート10を得た。この積層シート10は刃物で切りつけても通過することはなかった。また、風合いは柔軟性があり、通気性も得られた。
【0031】
(3)積層シートの応用
前記のようにして得られた積層シート10を使用して図3に示す防御チョッキ11を縫製した。まず身ごろ12を、経糸としてガラスファイバ(トータル繊度:150D)の双糸に、東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”、メートル20番、単糸でWカバーリングした合撚糸を使用し、緯糸として東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”のマルチフィラメント(トータル繊度:622dtex(560デニール)、フィラメント数:100本)を使用し、実施例1と同じ織機を使用して5重織物を平組織で製造した。経糸密度及び緯糸密度は、それぞれ89本/2.54cmとした。目付けは1470g/m2の多重織物を使用して縫製した。胸部ポケット13と腹部ポケット14の位置に前記積層シート10を裏から縫いつけた。この防御チョッキ11は、5重織物1部分は刃物で切りつけても通過することはなく、胸部ポケット13と腹部ポケット14の積層シート10を裏打ちした部分は、さらに強度が高かった。また、全体の風合いも柔軟であり、着心地もよいものであった。1着の重さは1kg未満であった。
【0032】
次に積層シート10を使用して、図4に示す防御ボード15を縫製した。この防御ボード15は身体の腹部から胸部全体を覆うものである。この防御ボードも上記と同様であり、防刃機能が高かった。
【0033】
(実施例2)
実施例1で作製した積層シート10を5枚重ね、それぞれの間に実施例1で使用したホットメルト接着剤2を1層当たり15g/m2で塗布し、圧力:50kg/cm2(19.6×105Pa)、温度:120℃で5分間加圧し、その後15分間で冷却した。Xは加圧方向を示す矢印である。これにより、厚さ20mm、単位面積あたりの重量:14820g/m2の第2の積層シート20を得た。この第2の積層シート20は実施例1の防御ボードよりもさらに強靭であった。このことから防弾ドア、防弾ボードとして使用できることがわかった。
【0034】
(実施例3)
強度:19〜23cN/dtex、弾性率:380〜980cN/dtex、分解温度560℃、単糸繊度:1.7dtex、トータル繊度1111dtex(1000デニール)のパラ系アラミド繊維紡績糸(東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”)を経糸と緯糸に使用し、単層の平織物を製織した。経糸密度及び緯糸密度は、それぞれ16本/2.54cmとした。目付けは175g/m2であった。
【0035】
この織物を実施例1と同様に7枚積層し、それぞれの間にポリオレフィン混合物からなるホットメルト接着剤(東セロ株式会社製商品名“トーセロCMPS(1)”)を1層当たり15g/m2で塗布し、圧力:圧力:50kg/cm2(19.6×105Pa)、温度:135℃で5分間加圧し、その後15分間で冷却した。これにより、厚さ3.5mm、単位面積あたりの重量:1225g/m2の積層シートを得た。この積層シートは刃物で切りつけても通過しなかった。また、風合いは柔軟性があり、厚手の布地と同様であった。
【0036】
(実施例4)
強度:19〜23cN/dtex、弾性率:380〜980cN/dtex、分解温度560℃、単糸繊度:1.7dtex、繊維長:51mm、トータル繊度556dtex(500デニール)のパラ系アラミド繊維紡績糸(東レ・デュポン社製商品名“ケブラー”)の周囲に、強度:18〜22cN/dtex、弾性率:660〜741cN/dtex、分解温度300℃、単糸繊度:2.2dtex、、繊維長:51mm、トータル繊度556dtex(500デニール)のポリアリレート(クラレ社製商品名“ベクトラン”)繊維を撚り数450T/mで被覆し、トータル繊度1112dtexの合撚糸を作った。この合撚糸を経糸と緯糸とし、実施例1及び図1に示す5重織物を織成した。目付けは1320.8g/m2と1216.8g/m2のものを作成した。得られた5重織物の切創試験をISO13997(JIS T 8052)とEN388にしたがって行った。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
比較例としてアラミド紡績糸を使用したニットの切創試験をしたところ、1/7の値しか得られなかった。
【0039】
(実施例5)
実施例4で得られた5重織物を身頃とし、実施例3の平織物5枚、8枚、10枚、15枚の積層板(補強板)を、図6〜10に示す防御衣服の腹部、胸部及び背中部に補強した防御衣服を作成した。ここで使用した積層板(補強板)のJIS L1096 8.27.1A法(フラジール法)による通気性は表2のとおりであった。
【0040】
【表2】
【0041】
図6Aはこの実施例の防御服(チョッキ)の正面図、図6Bは同背面図である。この防御服(チョッキ)21は、前身頃22と後ろ身頃23が前記5重織物で構成されている。腹の側部24の面ファスナー25により、前身頃22と後ろ身頃23が一体化されている。
【0042】
図7A〜Bは、前記防御服(チョッキ)21の展開図である。図7Aは前身頃22の展開図であり、腹部の面ファスナー24と肩部の面ファスナー26が点線で示されている。図7Bは後ろ身頃23の展開図であり、腹部の面ファスナー25と肩部の面ファスナー27が点線で示されている。着用時には、腹部の面ファスナー24,25と肩部の面ファスナー26,27が各々貼り合わされて一体化される。
【0043】
図8A〜Bは、前身頃22と後ろ身頃23に補強板(織物積層シート)を組み込む前の裏面展開図である。図8Aは前身頃22の裏面であり、腹部の両側にメッシュ布帛33が一体化されている。メッシュ布帛33は前身頃の端部に添った部分のみ縫製し、中央側は空けてある。いわゆる袋縫いをしてある。腹部には水平方向に補強板を挟むベルト28を備えている。図8Bは後ろ身頃23の裏面であり、腹部の両側にメッシュ布帛34が袋縫いで一体化されている。腹部には水平方向に補強板を挟むベルト29を備えている。
【0044】
図9Aは前身頃の裏に組み込む補強板30である。この補強板30を図9Bに示すように、前身頃22の裏面と、メッシュ布帛33の袋縫い部分に挿し込み、ベルト28との間に配置して組み込む。
【0045】
図10Aは後ろ身頃の裏に組み込む補強板31である。この補強板31を図10Bに示すように、後ろ身頃23の裏面と、メッシュ布帛34の袋縫い部分に挿し込み、ベルト29との間に配置して組み込む。
【0046】
その後、図7A〜Bに示すように面ファスナー24,25を法制により取り付け、図6A〜Bに示す防御服(チョッキ)21を作成した。この防御服(チョッキ)21は、重量が約1.5kgであった。柔軟で活動性を妨げず、着心地も良好であった。チタン、ジュラルミンなどの金属プレートを組み込んだ従来の防御チョッキに比べると、はるかに柔軟で計量であり、活動性を妨げず、着心地も良好であった。刃物は全く通過しなかった。また、補強板10枚、15枚品は、各々銃器の程度に応じて使い分けることができ、防弾性能も期待できるものであった。
【0047】
さらに女性用としては、図11A〜Bに示す胸部防御パッド32も有効であった。この胸部防御パッド32は、実施例4で得られた5重織物にポリウレタン等の樹脂を含浸させ、織物積層シートと同じくプレス加工して成形し、同時に又はその後打ち抜き加工したものである。この胸部防御パッド32を、図6A〜Bに示す防御服(チョッキ)21の胸部に組み込んで女性用の防御服とすることもできる。
【0048】
[産業上の利用分野]
本発明の織物積層シートは、防弾シート、防刃シート、耐衝撃性の高いボート等に好適であるほか、衣服の芯地、衣服のインナーとしたり、電子部品に使用されるプリント印刷基板等にも応用できる。また本発明の多重織物は、前記織物積層シートの原料となるほか、チョッキ、ジャンパー、ジャケット、コートなどの防刃衣服として有用である。その他、本発明の多重織物は、溶接作業服、炉前作業服、消防服等としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は本発明の一実施例における5重織物の断面組織図である。
【図2】図2は本発明の一実施例における第1の積層シートを作成する工程断面図である。
【図3】図3は本発明の一実施例における防御チョッキの正面図である。
【図4】図4は本発明の一実施例における防御ボートの正面図である。
【図5】図5は本発明の一実施例における第2の積層シートを作成する工程断面図である。
【図6】図6Aは本発明の一実施例の防御服(チョッキ)の正面図、図6Bは同背面図である。
【図7】図7Aは同防御服(チョッキ)の前身頃の展開図、図7Bは同後ろ身頃の展開図である。
【図8】図8A〜Bは同防御服の前身頃と後ろ身頃に補強板(織物積層シート)を組み込む前の裏面展開図であり、図8Aは前身頃の裏面、図8Bは後ろ身頃の裏面である。
【図9】図9Aは同防御服の前身頃の裏に組み込む補強板の正面図、図9Bは同組み込み図である。
【図10】図10Aは同防御服の後ろ身頃の裏に組み込む補強板の正面図、図10Bは同組み込み図である。
【図11】図11Aは同防御福に組み込む女性用胸部防御パッドの平面図、図11Bは同正面である。
【符号の説明】
【0050】
1 5重織物
2 ホットメルト接着剤層
3,4 プレス機
10 第1の積層シート
11 防護チョッキ
12 防護チョッキの身ごろ
13 胸部ポケット
14 腹部ポケット
15 防御ボード
20 第2の積層シート
a1〜a6 経糸
丸1〜丸10 緯糸
X 加圧方向
21 防御服(チョッキ)
22 前身頃
23 後ろ身頃
24,25,26,27 面ファスナー
28,29 ベルト
30,31 補強板
32 胸部防御パッド
33,34 メッシュ布帛
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸を用いた多重織物であって、
両外側の経糸は最外層の各緯糸1本の間を交差して配置し、
内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造であることを特徴とする多重織物。
【請求項2】
前記高強度かつ高弾性繊維糸は、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である請求項1に記載の多重織物。
【請求項3】
前記多重織物は、断面方向から見て経糸が3〜8本であり、緯糸が2〜7層である請求項1又は2に記載の多重織物。
【請求項4】
強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸からなる織物を複数枚積層し、層間に接着剤を塗布するか又は含浸し、厚さ方向に加圧して圧縮一体成形した織物積層シート。
【請求項5】
前記織物は、経糸と緯糸からなる単層織物、又は2〜7層の多重織物である請求項4に記載の織物積層シート。
【請求項6】
前記織物の積層枚数は、2〜50枚である請求項4又は5に記載の織物積層シート。
【請求項7】
前記高強度かつ高弾性繊維糸は、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である請求項4〜6のいずれか1項に記載の織物積層シート。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の織物積層シートを、さらに複数枚積層し、層間に接着剤を塗布し、厚さ方向に加圧して圧縮成形した織物積層シート。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の多重織物を身頃とした防御衣服。
【請求項10】
前記防御衣服の腹部、胸部及び背中部から選ばれる少なくとも一つを請求項4〜8のいずれかに記載の織物積層シートで補強した請求項9に記載の防御衣服。
【請求項11】
前記防御衣服の胸部に、請求項1〜4のいずれかに記載の多重織物又は織物積層シートを成形した胸部防御カップを組み込んだ請求項9又は10に記載の防御衣服。
【請求項1】
強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸を用いた多重織物であって、
両外側の経糸は最外層の各緯糸1本の間を交差して配置し、
内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した構造であることを特徴とする多重織物。
【請求項2】
前記高強度かつ高弾性繊維糸は、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である請求項1に記載の多重織物。
【請求項3】
前記多重織物は、断面方向から見て経糸が3〜8本であり、緯糸が2〜7層である請求項1又は2に記載の多重織物。
【請求項4】
強度:18cN/dtex以上、弾性率:380cN/dtex以上の高強度かつ高弾性繊維糸からなる織物を複数枚積層し、層間に接着剤を塗布するか又は含浸し、厚さ方向に加圧して圧縮一体成形した織物積層シート。
【請求項5】
前記織物は、経糸と緯糸からなる単層織物、又は2〜7層の多重織物である請求項4に記載の織物積層シート。
【請求項6】
前記織物の積層枚数は、2〜50枚である請求項4又は5に記載の織物積層シート。
【請求項7】
前記高強度かつ高弾性繊維糸は、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である請求項4〜6のいずれか1項に記載の織物積層シート。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の織物積層シートを、さらに複数枚積層し、層間に接着剤を塗布し、厚さ方向に加圧して圧縮成形した織物積層シート。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の多重織物を身頃とした防御衣服。
【請求項10】
前記防御衣服の腹部、胸部及び背中部から選ばれる少なくとも一つを請求項4〜8のいずれかに記載の織物積層シートで補強した請求項9に記載の防御衣服。
【請求項11】
前記防御衣服の胸部に、請求項1〜4のいずれかに記載の多重織物又は織物積層シートを成形した胸部防御カップを組み込んだ請求項9又は10に記載の防御衣服。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−208512(P2008−208512A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16599(P2008−16599)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(506406146)有限会社杉本織物 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(506406146)有限会社杉本織物 (1)
【Fターム(参考)】
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