説明

多重通信用ジョイントコネクタ

【課題】コネクタハウジングへのインサート成形に起因するフェライト・プレートの変形を防止して、透磁率低下による多重通信用ジョイントコネクタの特性劣化を抑制し、伝送される波形ひずみを改善することができる多重通信用ジョイントコネクタを提供する。
【解決手段】フェライト・プレート30には、該フェライト・プレート30の外側面から内部に向けて切り込まれたスリット34が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の相手方コネクタと嵌合可能な多重通信用ジョイントコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
車両などにおいては、CAN(Control Area Network)通信によって複数の電装品を制御するため、多重通信用ジョイントコネクタを用いた接続が行われている。このような信号伝達用のコネクタには、ノイズの輻射や信号伝送に及ぼす悪影響を軽減するため、信号に重畳されるノイズを除去する機能が要求される。
【0003】
従来、ノイズ除去機能を有するコネクタとしては、円板状貫通コンデンサが半田付けされてハウジングに収容されたコネクタピンを、円筒状フェライトコアの貫通孔に挿通し、ハウジングの後部周囲壁内に樹脂を充填して円筒状フェライトコアをハウジングに固定したコネクタ装置が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、ハウジングに形成されたフェライト収容室にフェライトを組み付け、フェライトの外側に抜け止め部材を配置してフェライト収容室内に保持し、搬送時におけるフェライトの損傷を防止するようにしたコネクタも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平6−76887号公報
【特許文献2】特開2007−5132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車などの車両においては、機能の複雑化に伴って多くの機器を配置するためのスペース確保が懸案事項となっており、コネクタの小型化に対しても強い要求がある。特許文献1および特許文献2に記載のコネクタは、ハウジング内に円板状貫通コンデンサや抜け止め部材を配置しなければならず、コネクタの小型化が困難であるだけでなく、組付け工数を要する問題があった。
【0006】
一方、フェライトをコネクタハウジングと一体成形することによって、コネクタの小型化および組付け工数の低減を図った多重通信用ジョイントコネクタがある。この多重通信用ジョイントコネクタ10は、図6に示すように、複数のコネクタ嵌合部2を有する合成樹脂製のコネクタハウジング1と、複数の貫通孔4が設けられて略長方形板状に形成されたフェライト・プレート3と、バスバー6とピン状のコンタクト7とが金属板によって一体成形された接続部5と、を備える。
【0007】
貫通孔4にコンタクト7が挿通されたフェライト・プレート3は、コネクタハウジング1と一体にインサート成形されている。しかし、フェライト・プレート3をコネクタハウジング1にインサート成形すると、成形後の合成樹脂の収縮によって板状のフェライト・プレート3に曲げ応力が作用し、反りなどの変形が生じる場合がある。
【0008】
このように変形するほどの応力がフェライト・プレート3に作用すると、ビラリ効果(Villari effect)として一般に知られている逆磁歪現象によって、フェライト・プレート3の透磁率が低下する。このため、フェライト・プレート3は、ローパスフィルタとして十分なインピーダンス特性が得られなくなって、伝送される波形ひずみの改善が不十分となる問題があった。また、このビラリ効果を考慮しても、十分な特性が得られるようにフェライト・プレート3を大きくすることは、多重通信用ジョイントコネクタ10のコストアップにつながり、また小型化の阻害要因であり好ましくない。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コネクタハウジングへのインサート成形に起因するフェライト・プレートの変形を軽減させて、透磁率低下による多重通信用ジョイントコネクタの特性劣化を抑制し、伝送される波形ひずみを改善することができる、小型化された多重通信用ジョイントコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明に係る多重通信用ジョイントコネクタは、下記(1)〜(2)を特徴としている。
(1) 相手方コネクタと嵌合するためのコネクタ嵌合部が形成されたコネクタハウジングと、
前記コネクタ嵌合部内に突出するように前記コネクタハウジングに配置され、且つ前記相手方コネクタが前記コネクタ嵌合部に嵌合した際に該相手方コネクタの相手方端子に接触して電気的に接続する導電性部材と、
前記導電性部材によって貫通された状態で前記コネクタハウジングにインサート成形されたフェライト・プレートと、
を備え、
前記フェライト・プレートには、該フェライト・プレートの外側面から内部に向けて切り込まれたスリットが形成されていること。
(2) 上記(1)の構成の多重通信用ジョイントコネクタであって、
前記コネクタハウジングは、複数の相手方コネクタとそれぞれ嵌合するための複数のコネクタ嵌合部を有し、
前記フェライト・プレートは、前記コネクタ嵌合部に対応するように前記スリットにより区分けされた複数の小フェライト部を有していること。
【0011】
上記(1)の構成の多重通信用ジョイントコネクタによれば、導電性部材によって貫通されるフェライト・プレートが、コネクタハウジングにインサート成形されているので、コネクタが小型化されると共に、組付け工数の削減が可能となる。また、インサート成形後の樹脂収縮によりフェライト・プレートに作用する応力は、スリットによって緩和される、すなわち、スリット周辺の該フェライト・プレートの変形によって緩和される。
上記(2)の構成の多重通信用ジョイントコネクタによれば、フェライト・プレートが、コネクタハウジングのコネクタ嵌合部と対応する所定の間隔で配置される複数の小フェライト部によって形成されているので、複数のフェライト・プレートをコネクタ嵌合部ごとに配置してインサート成形する従来の多重通信用ジョイントコネクタと比較して、インサート成形時におけるフェライト・プレートの取り扱いが容易となり、生産効率を大幅に向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コネクタが小型化されると共に、組付け工数の削減が可能となる。また、インサート成形後の樹脂収縮によりフェライト・プレートに作用する応力は、スリットによって緩和される、すなわち、スリット周辺の該フェライト・プレートの変形によって緩和される。また、インサート成形時におけるフェライト・プレートの取り扱いが容易となり、生産効率を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る多重通信用ジョイントコネクタの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明に係る多重通信用ジョイントコネクタの斜視図、図2は多重通信用ジョイントコネクタの前面図、図3は図2のA−A線における縦断面図、図4は図3に示すフェライト・プレートの斜視図、図5はフェライト・プレートのフェライト連結部が樹脂応力により破損する状態を示すフェライト・プレートの斜視図である。
【0015】
図1から図3に示すように、本実施形態の多重通信用ジョイントコネクタ100は、複数(図に示す実施形態では8個)のコネクタ嵌合部21を有する合成樹脂製のコネクタハウジング20と、複数の貫通孔31が設けられて略長方形板状に形成されたフェライト・プレート30と、コネクタ嵌合部21内に突出するようにコネクタハウジング20に配置され、且つ相手方コネクタがコネクタ嵌合部21に嵌合した際に該相手方コネクタの相手方端子に接触して電気的に接続する導電性部材40と、を備える。
【0016】
フェライト・プレート30は、図4に示すように、それぞれ1対の貫通孔31が設けられた複数(図に示す実施形態では8個)の小フェライト部32と、隣接する小フェライト部32を連結するフェライト連結部33とが、一体に形成されている。フェライト連結部33の厚さt2は、小フェライト部32の厚さt1より小さく、後述するインサート成形による樹脂応力によって、破損または変形可能となっている。換言すれば、フェライト・プレートには、該フェライト・プレートの外側面から内部に向けて切り込まれたスリット34が、隣接する小フェライト部32間に形成されている。
【0017】
小フェライト部32は、コネクタハウジング20の隣り合うコネクタ嵌合部21の間隔と整合する所定の間隔で形成されており、貫通孔31に挿通された導電性部材40における信号伝搬に対して、ローパスフィルタ機能などの磁性機能を有する。フェライト・プレート30の小フェライト部32は、それぞれ、一列に並ぶ各コネクタ嵌合部21の底面(図1に図示せず。)に対向する状態でコネクタハウジング21に一体にインサート成形されている。
【0018】
導電性部材40は、ピン状に形成された複数(図に示す実施形態では8本)のコンタクトピン41と、この複数のコンタクトピン41を一端において接続するバスバー42とを有し、導電性を有する金属板によって一体成形されている。左右方向に隣り合う一対のコンタクトピン41は、小フェライト部32の貫通孔31に挿通されてコネクタ嵌合部21内に突出するようににそれぞれ配置されている。各コネクタ嵌合部21内に配置される一対のコンタクトピン41には、多重通信を実現する伝送方式に則った信号が伝送される。例えば、周波数分割多重化を伝送方式として採用した場合には、一対のコンタクトピン41それぞれには異なる周波数帯が割り当てられる。周波数分割多重化を採用した場合、隣り合うコネクタ嵌合部21に配置された一対のコンタクトピン41には、一方の一対のコンタクトピン41を信号が伝播した際に生じる電磁波(ノイズ)によって、他方の一対のコンタクトピン41に電圧が誘起される恐れがある。このノイズによる電圧の誘起を防止するために、フェライト・プレート30によって、上記一方の一対のコンタクトピン41から上記他方の一対のコンタクトピン41への電磁波の伝播を遮断する。
【0019】
1対の導電性部材40のコンタクトピン41が貫通孔31を挿通した状態のフェライト・プレート30は、図示しないインサート金型内に保持されて樹脂が充填され、導電性部材40と共にインサート成形されてコネクタハウジング20が形成される。これによって、コンタクトピン41は、それぞれのコネクタ嵌合部21内に突出して配置される。
【0020】
合成樹脂によって成形されたコネクタハウジング20は、成形後に樹脂収縮が生じるので、インサート成形されたフェライト・プレート30には樹脂収縮による応力が作用する。このとき、フェライト・プレート30は、厚さt2が薄く、機械的強度が他の部分(小フェライト部32)と比較して弱いフェライト連結部33に作用する集中応力によって、フェライト連結部33が変形し、あるいは、フェライト連結部33が割れて複数の小フェライト部32に小さく分割され、小フェライト部32に作用する応力が緩和される。
【0021】
従って、逆磁歪現象によるフェライト・プレート30(小フェライト部32)の透磁率の低下が低減され、フェライト・プレート30のローパスフィルタ機能(磁性機能)を良好に維持することができ、多重通信用ジョイントコネクタ100を介して伝送される波形ひずみを改善することができる。
【0022】
また、インサート成形前のフェライト・プレート30は、複数の小フェライト部32とフェライト連結部33とが一体に形成された一つの部品であるので取り扱い易く、フェライト・プレート30が小フェライト部32ごとに複数に分割されている場合と比較して、導電性部材40のコンタクトピン41を貫通孔31に挿通する組み付け作業が容易であり、組み付け工数を削減することができる。
【0023】
また、インサート成形は、フェライト・プレート30と導電性部材40が組み付けられた状態で行われるので、フェライト・プレート30と導電性部材40とを一部品として取り扱うことができ、製作工数を低減することができる。
【0024】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る多重通信用ジョイントコネクタの斜視図である。
【図2】多重通信用ジョイントコネクタの前面図である。
【図3】図2のA−A線における縦断面図である。
【図4】図3に示すフェライト・プレートの斜視図である。
【図5】フェライト・プレートのフェライト連結部が樹脂応力によって破損する状態を示すフェライト・プレートの斜視図である。
【図6】従来の多重通信用ジョイントコネクタの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
20 コネクタハウジング
21 コネクタ嵌合部
30 フェライト・プレート
31 貫通孔
32 小フェライト部
33 フェライト連結部
40 導電性部材
10 多重通信用ジョイントコネクタ
t1 小フェライト部の厚さ
t2 フェライト連結部の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手方コネクタと嵌合するためのコネクタ嵌合部が形成されたコネクタハウジングと、
前記コネクタ嵌合部内に突出するように前記コネクタハウジングに配置され、且つ前記相手方コネクタが前記コネクタ嵌合部に嵌合した際に該相手方コネクタの相手方端子に接触して電気的に接続する導電性部材と、
前記導電性部材によって貫通された状態で前記コネクタハウジングにインサート成形されたフェライト・プレートと、
を備え、
前記フェライト・プレートには、該フェライト・プレートの外側面から内部に向けて切り込まれたスリットが形成されていることを特徴とする多重通信用ジョイントコネクタ。
【請求項2】
前記コネクタハウジングは、複数の相手方コネクタとそれぞれ嵌合するための複数のコネクタ嵌合部を有し、
前記フェライト・プレートは、前記コネクタ嵌合部に対応するように前記スリットにより区分けされた複数の小フェライト部を有していることを特徴とする請求項1に記載した多重通信用ジョイントコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−61901(P2010−61901A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224654(P2008−224654)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】