説明

多量体免疫グロブリン受容体、その部分ポリペプチド、若しくはそれらの変異体を含有する抗ウイルス剤又は抗ウイルス用食品

【課題】安全性に優れ、かつ長期間に渡る日常的な服用及び摂取が可能な、新規の抗ウイルス剤、又は新規の抗ウイルス用食品を提供する。
【解決手段】多量体免疫グロブリン受容体若しくはその部分ポリペプチドであって少なくとも遊離型pIgRのアミノ酸配列を含む部分ポリペプチド、又はそれらの変異体を有効成分とする、抗ウイルス剤及び抗ウイルス用食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤、及び抗ウイルス用食品に関する。より詳細には、ノロウイルスに対する抗ウイルス剤、及び抗ウイルス用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト及び動物をとりまく環境には、多くの種類の微生物が無数に存在している。これらの微生物の中で、ヒト及び動物の健康及び疾病と深くかかわっているものは病原微生物と呼ばれている。病原微生物には、ウイルス、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、真菌(カビ)、及び原虫(原生動物)等が含まれる。これらの病原微生物によって惹き起こされる疾患は感染症と呼ばれる。
【0003】
ウイルスを除く病原微生物は、固有のエネルギー代謝系を有しており従属栄養によって増殖することができる。それに対してウイルスは、細胞に感染することによってしか増殖することができない。
【0004】
ウイルスは、タンパク質のキャプシッドにDNA又はRNA(ウイルスゲノム)を包み込んだ感染性粒子である。エンベロープを持つウイルスは、さらに脂質二重層を基本とした膜に包まれている。ウイルスゲノムの構造と複製の様式は、ウイルスの種類によってかなり異なっている。ウイルスは感染した細胞(宿主細胞)の中でしか増殖できず、宿主細胞の遺伝機構をウイルス自身の増殖のために破壊する。通常宿主細胞は壊れ、感染性のウイルス粒子を放出するが、ウイルスの染色体が宿主細胞の染色体に組み込まれ、プロウイルスとして宿主細胞の遺伝子とともに複製されることもある。
【0005】
ウイルスが細胞へ感染するためには、まず、ウイルス表面の蛋白リガンドが、細胞表面に存在するレセプターに付着することが必要である。この現象は吸着と呼ばれる。その後、ウイルスコアの細胞への侵入及び脱殻という過程を経て初期の感染が進行する。
【0006】
感染症のうち、特に細菌による感染症については、数々の有効な抗細菌剤が開発されている。ところが、ウイルスは感染した細胞内でその細胞自体の代謝経路を使って複製するため、抗ウイルス剤としてターゲットとすべき代謝機能は非常に限られている。そのため、抗ウイルス剤の開発は抗細菌剤に比べて非常に難しいとされる。また、抗ウイルス剤はヒト及び動物の細胞に対しても毒性を示すことがあるという難点もある。
【0007】
抗ウイルス剤の作用点としては、(1)吸着、若しくは侵入の阻害、(2)脱殻の阻害、(3)ゲノム転写、若しくは複製の阻害、(4)粒子形成の阻害、又は(5)出芽の阻害等が主に考えられる。これらのうち、既に実用化されているのは、(2)脱殻の阻害剤としてのアマンタジン、(3)ゲノム複製の阻害剤としての核酸類似体であるアシクロビル、アジドチミジン、及びリバビリン、(4)粒子形成の阻害剤としてのプロテアーゼ阻害剤であるインジナビル、ネルフィナビル、リトナビル、及びサキナビル、並びに(5)出芽の阻害剤としてのノイラミニダーゼ阻害剤であるザナミビル(4−グアニジノノイラミン酸)等である。
【0008】
これらの実用化されている抗ウイルス剤は薬効が強いものの、副作用が臨床上の大きな問題となっている。このような状況から、薬効を確保しつつ副作用が少ない抗ウイルス剤の探索が続けられてきた。
【0009】
副作用が少ない抗ウイルス剤としては、既に安全性が確認されているといえるため、食品に含まれるものが好ましいとされる。食品に含まれる成分を有効成分として含有する抗ウイルス剤としては、ウシの乳等に含まれる成分であるラクトパーオキシダーゼを有効成分として含有する抗インフルエンザウイルス剤が報告されている(特許文献1)。また、ウシ乳清に含まれる糖タンパク質を有効成分として含有する抗ウイルス剤が報告されている(特許文献2)。しかしながら、これら食品由来の成分を有効成分として含有する抗ウイルス剤は効果が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−232133号公報
【特許文献2】特開2007−84523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、新たな抗ウイルス剤、又は新たな抗ウイルス用食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、まず多量体免疫グロブリン受容体(Polymeric Immunoglobulin Receptor;以下、「pIgR」と略記することもある。)の部分ポリペプチドである遊離型多量体免疫グロブリン受容体(以下、「遊離型pIgR」と略記することもある。)が、ノロウイルスのウイルス様粒子(以下、「ノロウイルスVLP」という。)に対する結合能を有していることを見出した。そして、本発明者らは、ノロウイルス−細胞間の結合に使用されるウイルス外皮蛋白質中のレセプターを遊離型pIgRが覆うことにより、細胞に対するノロウイルスの吸着を遊離型pIgRが阻害することを見出した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0013】
1.抗ウイルス剤
(1−1)多量体免疫グロブリン受容体(pIgR)、若しくはその部分ポリペプチドであって少なくとも遊離型多量体免疫グロブリン受容体(遊離型pIgR)のアミノ酸配列を含む部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−2)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって70番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−3)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって70番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から50番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−4)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって70番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から40番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−5)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって70番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から30番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−6)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって60番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−7)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって60番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から50番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−8)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって60番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から40番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−9)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって60番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から30番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−10)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって50番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−11)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって50番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から50番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−12)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって50番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から40番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−13)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって50番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から30番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−14)pIgR、若しくは遊離型pIgR;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−15)pIgR、若しくは50〜90kDaの遊離型pIgR;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−16)pIgR、若しくは58〜76kDaの遊離型pIgR;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(1−17)アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が、野生型のアミノ酸配列に対して85%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列である、(1−1)〜(1−16)のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
(1−18)アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が、野生型のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列である、(1−1)〜(1−16)のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
(1−19)アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が、野生型のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列である、(1−1)〜(1−16)のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
(1−20)pIgRがウシ由来である、(1−1)〜(1−19)のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
(1−21)pIgRが配列番号1のアミノ酸配列を有する、(1−1)〜(1−19)のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
(1−22)ノロウイルスに対する抗ウイルス剤である、(1−1)〜(1−21)のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【0014】
2.抗ウイルス用食品
(2−1)pIgR、若しくはその部分ポリペプチドであって少なくとも遊離型pIgRのアミノ酸配列を含む部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−2)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって70番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−3)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって70番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から50番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−4)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって70番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から40番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−5)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって70番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から30番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(2−6)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって60番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−7)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって60番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から50番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−8)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって60番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から40番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−9)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって60番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から30番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス剤。
(2−10)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって50番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−11)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって50番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から50番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−12)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって50番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から40番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−13)pIgR、若しくはそのアミノ酸配列のC末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くとも膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって50番目のアミノ酸まで欠失しており、かつ、そのアミノ酸配列のN末端側から少なくとも一つ以上のアミノ酸が多くともN末端から30番目のアミノ酸まで欠失した部分ポリペプチド;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−14)pIgR、若しくは遊離型pIgR;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−15)pIgR、若しくは50〜90kDaの遊離型pIgR;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−16)pIgR、若しくは58〜76kDaの遊離型pIgR;又はそれらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;を含有する抗ウイルス用食品。
(2−17)アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が、野生型のアミノ酸配列に対して85%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列である、(2−1)〜(2−16)のいずれかに記載の抗ウイルス用食品。
(2−18)アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が、野生型のアミノ酸配列に対して90%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列である、(2−1)〜(2−16)のいずれかに記載の抗ウイルス用食品。
(2−19)アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が、野生型のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列である、(2−1)〜(2−16)のいずれかに記載の抗ウイルス用食品。
(2−20)pIgRがウシ由来である、(2−1)〜(2−19)のいずれかに記載の抗ウイルス用食品。
(2−21)pIgRが配列番号1のアミノ酸配列を有する、(2−1)〜(2−19)のいずれかに記載の抗ウイルス用食品。
(2−22)ノロウイルスに対する抗ウイルス用食品である、(2−1)〜(2−21)のいずれかに記載の抗ウイルス用食品。
(2−23)単離された、pIgR又は遊離型pIgRを含有する抗ウイルス用食品。
(2−24)単離された、pIgR又は50〜90kDaの遊離型pIgRを含有する抗ウイルス用食品。
(2−25)単離された、pIgR又は58〜76kDaの遊離型pIgRを含有する抗ウイルス用食品。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、安全性に優れ、かつ長期間に渡る日常的な服用及び摂取が可能な、新規の抗ウイルス剤、又は新規の抗ウイルス用食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】右端レーンは、Caco−2細胞に結合したVP−1を示したものである(試験例1)。その他のレーンは、Caco−2細胞に対するVP−1の結合がKM−2の添加により阻害されることを示したものである(試験例2)。
【図2】右の抗体染色写真は、ウシ初乳及び後期ウシ初乳に対して、VLPに含まれるタンパク質が結合することを示したものである(試験例2)。左のCBB染色写真は、ウシ初乳中に66kDaのタンパク質が含まれることを示したものである(試験例2)。
【図3】ノロウイルスVLPに対して結合能を示すタンパク質が、MALDI−TOF/MS解析により遊離型pIgRであると同定されたことを示したものである(試験例2)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.抗ウイルス剤について
本発明において、抗ウイルス剤とは、ヒト又は動物の感染症の原因となる病原ウイルスの感染性を不活性化する作用(抗ウイルス作用)を有する成分を含有する薬剤を意味する。
【0018】
本発明の抗ウイルス剤が対象とするウイルスは、特に限定されないが、例えばHIV、HCV、HBV、HTLV−1、HTLV−2、インフルエンザウイルス、SARSコロナウイルス、ロタウイルス 、又はノロウイルス等を例示することができる。特にノロウイルスが好ましい。
【0019】
本発明の抗ウイルス剤は、pIgR、若しくは少なくとも遊離型pIgRを一部に含むその部分ポリペプチド、又はそれらの変異体を有効成分とする。
【0020】
pIgRは、種によっても異なるが750〜780アミノ酸で構成される蛋白質である。ウシ、ヒト、ブタ、ウサギ、ラット、及びマウスのアミノ酸配列は、それぞれ順に配列番号1〜6の通りである。
【0021】
pIgRは、そのN末端側から順に、細胞外領域(ectoplasmic domain)、膜貫通領域(membrane spanning segment)、及び細胞質尾部(cytosolic tail)からなる。ヒトの場合、639〜661番目のアミノ酸配列がpIgRの膜貫通領域に相当し、662〜764番目のアミノ酸配列が細胞質尾部に相当するという報告がある(国際公開パンフレットWO96/18734)。pIgRは、B細胞で生成された抗体(IgA及びIgM)、又は血液中の抗体を粘膜上皮細胞の表皮に運び分泌する機能を有する。その機能は次の通りである。ゴルジ体の中で生成されたpIgRは、まず細胞膜に運ばれ、そこで抗体のレセプターとして機能する。pIgRに抗体が結合すると、pIgR−抗体複合体が細胞内に取り込まれ、やがて小嚢状に細胞内へと運ばれる。次に、pIgR−抗体複合体はルーメン(管腔)側の細胞膜へと移動する。ここでpIgRの膜貫通領域のN末端側付近が切断される。そうすると、pIgRの細胞質尾部及び膜貫通領域は細胞膜に残ったまま、pIgRの部分ポリペプチド−抗体複合体がルーメン内へと放出されることになる。
【0022】
pIgRは、ノロウイルスVLPへの結合能を有していることから、ノロウイルスの外皮に吸着することができる。pIgRは、ノロウイルスの外皮に吸着し、ノロウイルス−細胞間の結合に使用されるウイルス外皮蛋白質中のレセプターを覆うことにより、又は当該レセプターの極性に影響を及ぼしてその構造を変性させること等により、細胞に対するノロウイルスの吸着を阻害しており、その結果としてノロウイルスの細胞への感染を阻害していると考えられる。また、pIgRがノロウイルス以外のウイルスの外皮への吸着能を有していれば、同様にそのウイルスの細胞への感染を阻害することができる。
【0023】
最終的にルーメン内に放出されるpIgRの部分ポリペプチドは、遊離型pIgRとも呼ばれる。
【0024】
前述のとおり、pIgRが膜貫通領域のN末端側付近において切断を受け、また場合によってはpIgRのN末端側付近でも切断を受け、遊離型pIgRが遊離する。まず膜貫通領域のN末端側付近の遊離型pIgRの切断部位は、好ましくはpIgRの膜貫通領域のN末端からpIgRのN末端側に向かって70番目以内の位置であり、より好ましくは60番目以内の位置であり、もっとも好ましくは50番目以内の位置である。次にN末端側付近の遊離型pIgRの切断部位は、好ましくはN末端から50番目以内の位置であり、より好ましくは40番目以内の位置であり、もっとも好ましくは30番目以内の位置である。例えばヒトでは639〜661番目のアミノ酸配列がpIgRの膜貫通領域に相当するという報告があり、さらにpIgRの19番目のリジンから603番目のアルギニンまでの585アミノ酸が遊離型pIgRになるという報告がある(The Journal of Biological Chemistry Vol.282, No.23, 16969-16980)。同報告によれば、ヒト遊離型pIgRは互いにある程度保存されたアミノ酸を共有するD1〜D5の5つのドメインと、C末端領域とから構成されている。またウサギでは、pIgRのN末端側の630アミノ酸が遊離型pIgRであるとの報告もある。
【0025】
遊離型pIgRは、唾液、及び腸液等の消化管内の粘液、並びに乳中に含まれる。粘液においては、IgAと結合しているものと、単独で存在しているものがある。乳中においては、0.002〜0.01g/100ml程度存在する(用量のみ「乳製品製造学」 伊藤ら 光琳)。
【0026】
生体内に存在する遊離型pIgRには分子サイズに大きなばらつきがある。また、種や分泌組織により違いはあるが、50〜90kDa程度である。ウシでは58〜76kDa程度である。ヒトでは乳及び胆汁のいずれにおいても80kDa以下であるとの報告がある(Gastroenterology 1985;89:667-82)。
【0027】
また遊離型pIgRは、その結合糖鎖(carbohydrate chains)に多様性があることも知られている。
【0028】
乳より遊離型pIgRを単離する方法がいくつか知られており、これらの方法を参照することで遊離型pIgRを取得することができる。まず、DEAE型イオン交換樹脂クロマトグラフ処理及びCM型イオン交換クロマトグラフ処理によって遊離型pIgRとIgAとの複合体を得、これを還元して遊離型pIgRを得る方法が知られている(例えば、K.コバヤシ、イミュノケミストリー、8、785−800(1971)等参照。)。また、乳中に元来含まれている遊離型pIgRを直接得る方法も知られている。そのような方法としては、ホエーを硫安画分し、続いてDEAE型イオン交換樹脂クロマトグラフ処理を行い、さらに未吸着画分に対してゲル濾過クラマトグラフ処理、CM型イオン交換クロマトグラフ処理、又はリン酸化イオン交換樹脂クロマトグラフ処理を行う方法が知られている(例えば、J.E.パトラー、ジャーナル・オブ・デイリーサイエンス、55、151−163(1972)、K.コバヤシ、イミュノケミストリー、8、785−800(1971)、R.S.ラビブら、ジャーナル・オブ・バイオケミストリー、251、1969−1974(1976)等参照。)。またその他にも、ホエーのDEAE型イオン交換樹脂クロマトグラフ処理を行い、pH7.6の0.01Mリン酸緩衝液で溶出する画分に対してCM型イオン交換クロマトグラフ処理を行う方法(例えば、榎本ら、消化器と免疫、16、146−150(1986)等参照。)や、ホエーに対してIgM固定化アフィニティクロマトグラフ処理を行う方法(例えば、B.J.アンダーダウンら、イミュノ・ケミストリー、14、111−118(1977)等参照。)等が知られている。これらを若干改良した方法も知られている。またより工業的利用に適した方法として、公開特許公報「特開平4−211100」の段落0008〜0017に記載された方法も知られている。
【0029】
遊離型pIgRは、ノロウイルスVLPへの結合能を有していることから、ノロウイルスの外皮に吸着することができる。遊離型pIgRは、ノロウイルスの外皮に吸着し、ノロウイルス−細胞間の結合に使用されるウイルス外皮蛋白質中のレセプターを覆うことにより、細胞に対するノロウイルスの吸着を阻害しており、その結果としてノロウイルスの細胞への感染を阻害していると考えられる。また、遊離型pIgRがノロウイルス以外のウイルスの外皮への吸着能を有していれば、同様にそのウイルスの細胞への感染を阻害することができる。
【0030】
さらに、本発明の抗ウイルス剤は、ノロウイルスVLPへの結合能を有する限り、pIgRの部分ポリペプチドであって少なくとも遊離型pIgRのアミノ酸配列を含む部分ポリペプチドを有効成分としてもよい。このような部分ポリペプチドは遊離型pIgRと同様のウイルス感染阻害活性を示す。結合能は特に限定されないが、疎水性相互作用、静電的相互作用 、水素結合、又はイオン性結合等のうちいずれか1種以上による結合能を例示することができる。結合能は、特異的又は非特異的を問わない。このような部分ポリペプチドを以下、単に「部分ポリペプチド」という。
【0031】
また、本発明の抗ウイルス剤は、ノロウイルスVLPへの結合能を有する限り、pIgRの変異体又は部分ポリペプチドの変異体を有効成分としてもよい。これら変異体は遊離型pIgRと同様のウイルス感染阻害活性を示す。変異体としては、野生型のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、野生型のアミノ酸配列に対して85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性の範囲内で修飾されたアミノ酸配列を有しているポリペプチドを例示することができる。結合能は特に限定されないが、疎水性相互作用、静電的相互作用 、水素結合、又はイオン性結合等のうちいずれか1種以上による結合能を例示することができる。結合能は、特異的又は非特異的を問わない。このような変異体を以下、単に「変異体」という。
【0032】
部分ポリペプチド及び変異体は、リガンドとレセプターとの結合の解析に一般に用いられるリガンドブロット法を応用すること等により、種々の部分ポリペプチド群及び変異体群の中から探索及び同定することができる。リガンドブロット法としては、例えば、Okumuraらの方法(Okumura H, et al., Heterocomplex formation and cell-surface accumulation of hen's serum zona pellucida B1 (ZPB1)with ZPC expressed by a mammalian cell line (COS-7): a possible initiating step of egg-envelope matrix construction. Biol Reprod. 2007 76(1):9-18.)等を利用することができる。ノロウイルスVLPへの結合能を有するpIgR変異体であれば、ノロウイルスのいずれの外皮に対しても結合能を有しており、いずれの遺伝型に対しても抗ウイルス作用を発揮しうる。
【0033】
pIgR又は遊離型pIgRの由来は限定されないが、例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、又はヒトが例示される。特に、既に安全性が確認されているといえるため、食品として利用されているものが好ましい。食品として利用されているものは特に限定されないが、例えばウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、又はヒトの乳が例示される。入手のし易さ等を考慮すると、その中でもウシの乳がより好ましい。乳としては、任意の時期に搾乳されたものを用いることができるが、分娩後10日以内、好ましくは分娩後7日以内に搾乳された生乳が、pIgRを多く含むため、より好ましい。
【0034】
また、本発明において、pIgR、遊離型pIgR、部分ポリペプチド、又は変異体としては、これらの遺伝子をコードするDNAを挿入した発現用ベクターなどによって形質転換した宿主から精製される組み換え体も含まれる。発現用ベクターや宿主、また形質転換方法や精製方法などは当該分野において公知であり、適宜選択され得る。
【0035】
本発明の抗ウイルス剤において、有効成分として用いるpIgR、遊離型pIgR、部分ポリペプチド、又は変異体(以下、総称して「有効pIgR」という。)は、精製された有効pIgRであってもよいし、粗精製された有効pIgRであってもよい。粗精製された有効pIgRとしては、有効pIgRを含有するもの、又は有効pIgR含有画分であってもよい。有効pIgRを含有するものは、特に限定されないが、例えば遊離型pIgRを含むものとしてウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、又はヒトの乳が例示される。入手のし易さ等を考慮すると、その中でもウシの乳がより好ましい。乳としては、任意の時期に搾乳されたものを用いることができるが、分娩後10日以内、好ましくは分娩後7日以内に搾乳された生乳が、遊離型pIgRを多く含むため、より好ましい。
【0036】
本発明の抗ウイルス剤は、有効pIgRだけからなるものであってもよいし、または、任意の担体や添加剤と組み合わせて、従来公知の方法で所望の用途に適した形態に調製した組成物であってもよい。
【0037】
本発明の抗ウイルス剤中有効pIgRの配合量は、抗ウイルス作用を発揮する割合であれば特に制限されず、製剤100重量%中、通常0.002〜100重量%、好ましくは0.02〜75重量%、より好ましくは0.2〜50重量%の範囲である。
【0038】
本発明の抗ウイルス剤の形態は、限定されないが、例えば錠剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤、粉末シロップ剤及びカプセル剤(硬カプセル及び軟カプセル)等の固体状の製剤;クリーム、軟膏及びジェル等のペースト状又はゲル状の製剤;液剤、懸濁剤、乳液剤、シロップ、エリキシル剤等の液体状の製剤等とすることができる。
【0039】
本発明の抗ウイルス剤は、有効pIgRを、抗ウイルス作用を発揮する割合で含むものであればよく、この効果を妨げない範囲で他成分を配合することもできる。かかる他成分は、薬理学的及び製剤学的に許容されるものであれば制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、分散剤、増粘剤、滑沢剤、pH調整剤、可溶化剤等の一般に製剤の製造に使用される担体のほか、抗生物質、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、ビルダー、漂白剤、酵素、キレート剤、消泡剤、着色料(染料、顔料等)、柔軟剤、保湿剤、界面活性剤、酸化防止剤、香料、矯味剤、矯臭剤、溶媒等が含まれる。
【0040】
本発明の抗ウイルス剤の使用方法は、経口投与、点滴、注射等により体内に摂取させる方法を挙げることができる。
【0041】
本発明の抗ウイルス剤の使用量は、剤形や投与(使用)方法等によって異なるため、一概に規定することはできないが、例えば、適当な1日の投与量は、pIgR又はpIgR変異体の投与量に換算して、通常、成人1kg当たり150ng〜2000mg、好ましくは1500ng〜200mgの範囲で患者の年齢、症状に応じて、適宜設定することができ、これらの製剤は、1日1回〜数回に分けてするのがよい。
【0042】
2.抗ウイルス用食品について
以下、本発明の抗ウイルス用食品について説明するが、有効成分についての説明は、上記した本発明の抗ウイルス剤についての説明と重複するため、省略する。
【0043】
本発明において、抗ウイルス用食品とは、ヒト又は動物の感染症の原因となる病原ウイルスの感染性を不活性化する作用を有する成分を含有する食品を意味する。
【0044】
本発明の抗ウイルス用食品が対象とするウイルスは、特に限定されないが、例えばHIV、HCV、HBV、HTLV−1、HTLV−2、インフルエンザウイルス、SARSコロナウイルス、ロタウイルス 、又はノロウイルス等を例示することができる。特にノロウイルスが好ましい。
【0045】
本発明の抗ウイルス用食品において、有効成分として用いる有効pIgRは、精製された有効pIgRであってもよいし、粗精製された有効pIgRであってもよい。粗精製された有効pIgRとしては、有効pIgR含有物、又は有効pIgR含有画分であってもよい。有効pIgR含有物としては、抗ウイルス用食品の形態によって適宜選択することが可能であるが、例えば、遊離型pIgRを含むものとして乳が例示される。乳の由来は特に限定されないが、例えばウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、又はヒトが例示される。入手のし易さ等を考慮すると、その中でもウシがより好ましい。乳としては、任意の時期に搾乳されたものを用いることができるが、分娩後10日以内、好ましくは分娩後7日以内に搾乳された生乳が、遊離型pIgRを多く含むため、より好ましい。
【0046】
遊離型pIgR含有物としては、さらに上記の乳を原料とする種々の乳加工物を用いることができる。例えば、脱脂粉乳、濃縮粉乳、全粉乳、ホエーパウダー、若しくは濃縮ホエーパウダー等、又はこれらをさらに原料として調製又は加工したものを例示することができる。
【0047】
また、乳加工物としては、任意の形態のものを用いることができ、例えば、粉末状、又は顆粒状のもの等を例示することができる。乳加工物としては、タンパク質とそれ以外の乳由来の成分とが混在する粉末状または顆粒状のものが好ましい。特に、タンパク質とそれ以外の乳由来成分とで造粒されている粉末状または顆粒状のものがより好ましい。
【0048】
これらの乳加工物は、それぞれの形態に応じて、当該分野において公知の方法を用いて、またはこれらに準じて製造することができる。
【0049】
本発明の抗ウイルス用食品の態様として、機能性食品が好ましい。機能性食品とは、生体に対して一定の機能性を有する食品をいう。例えば、特定保健用食品及び栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、及び液剤等の各種剤形のもの)、病者用食品、並びに美容食品等の、いわゆる健康食品全般をも含む。また、機能性食品は、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の商品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品も含む。
【0050】
機能性食品としては、乳児用、幼児用、授乳婦用、高齢者用、又は病者用等の特別用途食品がより好ましい。乳児用食品としては例えば、乳児用調製乳が挙げられ、通常の乳幼児用調製乳の原料に添加して、ウイルス感染に対する防御能の発達が未熟な乳幼児のための育児用調製粉乳、又は液体調製乳として使用できる。育児用調製粉乳としては、乳児用調製粉乳、フォローアップミルク、低出生体重児を対象とする低出生体重児用調製粉乳、牛乳アレルギーや乳糖不耐症等の病的状態を有する小児の治療に用いられる各種治療用ミルク等が挙げられる。また、高齢者用としては、特にウイルス感染に対する防御能の低下した高齢者向けに、その有効量を食品に添加することでウイルス感染防御用食品とすることができる。
【0051】
本発明の機能性食品には、具体的には、乳製品、清涼飲料水、菓子類、パン、麺、練り製品、調理加工食品、畜肉加工食品、及び調味料等が含まれる。
【0052】
本発明の抗ウイルス用食品においては、有効pIgRを、当業者が利用可能である任意の適切な方法によって食品に含めればよい。例えば、有効pIgRを、液体状、ゲル状、固体状、粉末状、又は顆粒状にした後に、食品に配合する。あるいは、有効pIgRを、食品の原料中に直接混合又は溶解してもよい。また、食品に塗布、被覆、浸透又は吹き付けても良い。あるいは、飲食品中に均一に分散又は偏在させても良い。また、可食フィルムや食用コーティング剤等で包み込んでも良い。有効pIgRを含む飲食品を更に加工しても良く、そのような加工品も本発明の範囲に含まれる。
【0053】
本発明の機能性食品には、製剤形態のものも含まれる。
【0054】
本発明の抗ウイルス用食品製剤には、必要に応じて、当該分野において通常用いられる製剤化のための添加物、例えば、溶媒、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定化剤、流動化剤、希釈剤、分散剤、湿潤剤、保存剤、防腐剤、粘ちょう剤、pH調整剤、着色剤、香料、矯味矯臭剤、界面活性剤、溶解補助剤、又は錠剤用崩壊剤等を配合することができる。また、コーティング剤を用いてコーティング錠剤にすることもできる。ペースト状の膠剤とすることもできる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0055】
本発明の抗ウイルス用食品製剤としては、錠剤状食品が好ましい。抗ウイルス用錠剤状食品は当該分野において公知の任意の方法を用いて製造することができるが、例えば、以下の方法によって製造することができる。
【0056】
本発明の抗ウイルス用錠剤状食品は、遊離型pIgR含有物である乳加工物を用いて製造することができる。例えば、乳加工物中のタンパク質含有量が15重量%より多く90重量%以下である乳加工物及び糖アルコールを混合し、混合物中のタンパク質含有量を5〜38重量%に調整し、そして混合物を予め造粒せずに打錠することによって製造することができる。
【0057】
1つの実施形態において、本発明の抗ウイルス用錠剤状食品は、直接粉末圧縮法または直打法によって製造することができる。この場合、打錠に供する上記混合物は、粉末状または顆粒状の乳加工物、及び必要に応じて乳加工物以外のタンパク質含有物質、結合剤、流動性改善剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤等の前記任意成分を混合することによって調製することができる。
【0058】
別の実施形態において、本発明の抗ウイルス用錠剤状食品は、顆粒圧縮法または間接圧縮法によって製造することができる。この場合、打錠に供する上記混合物は、粉末状、顆粒状等任意の形態の乳加工物、及び必要に応じて乳加工物以外の任意成分を均等に混和した後、これを当該分野において公知の造粒方法等により粉末状または顆粒状にすることによって調製することができる。
【0059】
これらの混合物調製工程における乳加工物の配合量は、とくに限定されないが、好ましくは9〜100重量%、より好ましくは11〜45重量%、さらに好ましくは12〜40重量%である。
【0060】
本発明の抗ウイルス用錠剤状食品は、上記のような工程によって調製された混合物を予め造粒せずに打錠することによって、製造することができる。
【0061】
打錠工程における打錠圧は、混合物の組成等によって変化し得るが、好ましくは、0.05〜0.42kgf/cm、好ましくは0.08〜0.32kgf/cm、より好ましくは0.10〜0.24kgf/cmである。上記打錠圧により打錠することによって、乳加工物に由来する免疫グロブリン等の機能性タンパク質の損失を低減させることができ、かつ食感のよい錠剤を成型することができる。
【0062】
本発明の抗ウイルス用錠剤状食品は、調製された混合物を予め造粒せずに直接打錠することで製造することができるが、混合物を予め造粒することによって打錠性をさらに向上させることが可能となる。
【0063】
本発明の抗ウイルス用食品の使用量は、特段の事情がない限り、多ければ多いほど高い効果が得られるため特に制限されない。また、形態や摂取方法等によって異なるため、一概に規定することはできないが、例えば、適当な1日の摂取量は、pIgR又はpIgR変異体の摂取に換算して、通常、成人1kg当たり150ng〜2000mg、好ましくは1500ng〜200mgの範囲で摂取者の年齢等に応じて、適宜設定することができ、摂取は、1日1回〜数回に分けてするのがよい。
【0064】
また、本発明の抗ウイルス用食品は必ずしもヒトを対象とせず、家畜、家禽、及びペット等を対象とする食品(飼料)を含む。
【0065】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
試験例1:ヒト腸上皮様細胞に対するノロウイルスVLPの結合能を評価する実験系の確立
Caco−2細胞(ヒト腸上皮様細胞株)にいくつかのノロウイルス株のウイルス様粒子(VLP)が結合することが、放射性標識したVLPを用いた研究により明らかにされている。本発明においては、VLPに対する特異抗体を用いた免疫化学的手法を利用することにより、Caco−2細胞に結合したノロウイルスVLPを放射性標識によらずに高感度に検出する実験系を新たに確立した。なお、ノロウイルスVLPはTamuraらの方法(Tamura M, et al., Genogroup II noroviruses efficiently bind to heparan sulfate proteoglycan associated with the cellular membrane. J Virol. 2004 Apr;78(8):3817-26.)等に従い調製した。
【0067】
まず、カバースリップを敷いた6穴プレートへ、Caco−2細胞を1.0×10 cells/cmとなるように播種してDMEM培地(SIGMA社製)を用いて3あるいは10日間培養した。VLP(0.5μg)をカバースリップ上の細胞に添加して4℃で1時間接着させた後、洗浄した。4%パラホルムアルデヒド(和光純薬社製)で固定し、ノロウイルスVLP特異抗体(ウサギ)およびAlexa568標識-抗ウサギIgG(Molecular Probes社製)を用いて蛍光免疫染色した。蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss社製、Axioplan 2)で観察し、Caco−2細胞の表面へのVLPの結合が明確に観察、判定できることを確認した。
【0068】
さらに、24穴マイクロプレートで培養したCaco−2細胞にノロウイルスVLP(0.5μg)を添加し、4℃および37℃で1時間反応させた。洗浄により遊離のVLPを除去した後、細胞を溶解し、上記VLP特異抗体およびperoxidase標識-抗ウサギIgG(Zymed社製)を用いた免疫ブロット法により細胞に結合したVLPの検出を試みた(図1の右端レーン)。その結果、矢印が示す位置にVLPの構成タンパク質であるVP1のバンドが特異的に検出され、細胞へのVLPの結合を半定量的に解析できることが明らかとなった。
【0069】
試験例2:ウシ初乳由来ノロウイルスVLP結合タンパク質の探索と同定
タンパク質含量の異なる(タンパク質含量0−25 μg)ウシ初乳を複数用意し、それぞれのウシ初乳に対し、一定量(0.5 μg)のVLPを50μlの生理食塩水中で前もって37℃で1時間反応させた。その後、この反応物をCaco−2細胞に添加し、上述したように細胞と反応させ、VLPの細胞への結合に対して初乳が及ぼす効果を検討した。その結果、タンパク質として12.5 μg以上の後期ウシ初乳(KM−2)を添加するとVLPのCaco−2細胞への結合が抑制されることが明らかとなった(図1)。
【0070】
次に、VLPの細胞への結合を抑制(阻害)するウシ初乳中の成分(タンパク質)を探索した。リガンドとレセプターとの結合の解析に一般に用いられるリガンドブロット法を応用した。Okumuraらの方法(Okumura H, et al., Heterocomplex formation and cell-surface accumulation of hen's serum zona pellucida B1 (ZPB1)with ZPC expressed by a mammalian cell line (COS-7): a possible initiating step of egg-envelope matrix construction. Biol Reprod. 2007 76(1):9-18.)等に従った。分娩後1日以内に搾乳されたウシ初乳、及び分娩後6日から7日の間に搾乳された後期ウシ初乳(KM−2)を非還元下で穏やかな条件でSDS処理し、SDS−PAGEで分離した後、膜に転写することによりSDSを除去してタンパク質を再生(refolding)させた。その膜をVLP(0.5 μg)と反応させ、抗VLP抗体を用いてVLPと結合するタンパク質を検出した。その結果VLPを結合する66 kDaのタンパク質が検出された(図2)。この66 kDaのバンドは、ウシ初乳をSDS−PAGE/CBB染色した際においても明確なバンドとして検出された。そこで、このウシ初乳をSDS−PAGEした際に得られるバンドを切り出して、in gel−digestした後、MALDI−TOF/MSによる解析を行った(図3)。in gel−digestおよびMALDI−TOF/MS解析はOkumuraらの報告(Okumura H, et al. A newly identified zona pellucida glycoprotein, ZPD, and dimeric ZP1 of chicken egg envelope are involved in sperm activation on sperm-egg interaction. Biochem J. 2004;384:191-9.)等に従い行った。その結果、この66kDaのウシ初乳由来VLP結合タンパク質は遊離型pIgRと同定された。
【0071】
遊離型pIgRは、細胞に対するVLPの結合を阻害する活性を有していることが明らかになった。このことは、遊離型pIgRが、ノロウイルスの外皮に吸着することにより、ノロウイルスの細胞への吸着を阻害する活性を有していることを示している。したがって、遊離型pIgRはノロウイルスの細胞への感染を阻害することができ、このため抗ノロウイルス剤として利用することができる。
【0072】
また、本試験例の結果からは、遊離型pIgRのアミノ酸配列を一部に含むpIgRも遊離型pIgRと同様にノロウイルスの外皮に吸着することにより、ノロウイルスの細胞への吸着を阻害する活性を有していると類推することができる。さらに、pIgRの部分ポリペプチドであって少なくとも遊離型pIgRのアミノ酸配列を含む部分ポリペプチドについても、ノロウイルスVLPへの結合能を有する限り、同様の活性を有していると類推することができる。これらの変異体についても、ノロウイルスVLPへの結合能を有する限り、同様の活性を有していると類推することができる。
【0073】
さらに、有効pIgRが、ノロウイルス以外のウイルスの外皮に対する吸着能をも有している場合には、上記と同様の機構により、そのウイルスに対する抗ウイルス剤としても利用することができる。上述した通り、リガンドブロット法を応用すること等により、ノロウイルス以外のウイルスの外皮に対する吸着能を評価することができる。
【0074】
実施例1: pIgRを含む医薬錠剤の製造
1.遊離型pIgRを有効成分とする錠剤の製造
下記の処方により、遊離型pIgRを有効成分とする錠剤を製造した。
遊離型pIgR 0.2g
マルチトール 0.1938g
ステアリン酸マグネシウム 0.0002g
二酸化ケイ素 0.006g
全量 0.4g
【0075】
2.ウシ初乳脱脂粉乳を有効成分とする錠剤の製造
下記の処方により、ウシ初乳脱脂粉乳を有効成分とする錠剤を製造した。
ウシ初乳脱脂粉乳(pIgR:1%) 0.3g
マルチトール 0.938g
ステアリン酸マグネシウム 0.0002g
二酸化ケイ素 0.006g
全量 0.4g
【0076】
実施例2: pIgRを含む点鼻薬の製造
1.遊離型pIgRを有効成分とする点鼻薬の製造
下記の処方により、遊離型pIgRを有効成分とする点鼻薬を製造した。
遊離型pIgR 0.2g
塩化ベンザルコニウム 0.01g
塩化ナトリウム 0.6g
1N水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
全量 100ml(pH6.5)
【0077】
2.ウシ初乳脱脂粉乳を有効成分とする点鼻薬の製造
下記の処方により、ウシ初乳脱脂粉乳を有効成分とする点鼻薬を製造した。
ウシ初乳脱脂粉乳(pIgR:1%) 2g
塩化ベンザルコニウム 0.01g
塩化ナトリウム 0.6g
1N水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
全量 100ml(pH6.5)
【0078】
実施例3: pIgRを含む食品錠剤の製造方法
1.乳加工物の調製
分娩後7日目以内の牛から搾乳した生乳を使用した。生乳から脂質の分離を行い、殺菌、濃縮及び乾燥を経て、タンパク質含量が15重量%より多く90重量%以下である粉乳を得た。
【0079】
脂質の分離工程として、三元分離機(遠心力5300〜6200G:温度47〜80℃)を用いて脂質を分離したのち、殺菌工程として73℃で15秒加熱し、タンパク質の濃縮工程として限外膜ろ過(分画分子量15000〜30000ダルトン、膜面積5m2の膜を使用。運転条件:温度50℃、圧力0.4MPa、流量6.8m3/時間)を用いて濃縮し、スプレードライ機(送風温度:180〜230℃)を用いて乾燥した。
【0080】
2.混合物の調製及び打錠
表1に記載の配合に従い、乳加工物として上記1.で得た乳加工物(実施例1〜12)、又は上記1.で得た乳加工物及び大豆タンパク質(実施例13)、糖アルコールとしてマルチトール(実施例1及び3〜13)またはソルビトール(実施例2)、結合剤として二酸化ケイ素ならびに滑沢剤としてショ糖脂肪酸エステルを混合し、混合粉末を1g秤取り、造粒することなく打錠した(実施例1〜13)。打錠は、油圧式打錠機(RikenPowerTypeSMP-3, CDM-4:RIKENSEIKICO.LTD.)、15φの臼杵を使用して、圧力(0.18kgf/cm)をかけて行った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多量体免疫グロブリン受容体、若しくはその部分ポリペプチドであって少なくとも遊離型多量体免疫グロブリン受容体のアミノ酸配列を含む部分ポリペプチド;又は
それらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;
を含有する抗ウイルス剤。
【請求項2】
多量体免疫グロブリン受容体がウシ由来である、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
多量体免疫グロブリン受容体が配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
部分ポリペプチドが、遊離型多量体免疫グロブリン受容体である、請求項1乃至3のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
ノロウイルスに対する抗ウイルス剤である、請求項1乃至4のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項6】
多量体免疫グロブリン受容体、若しくはその部分ポリペプチドであって少なくとも遊離型多量体免疫グロブリン受容体のアミノ酸配列を有する部分ポリペプチド;又は
それらのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつノロウイルスのウイルス様粒子への結合能を有するポリペプチド;
を含有する抗ウイルス用食品。
【請求項7】
単離された、多量体免疫グロブリン受容体又は遊離型多量体免疫グロブリン受容体を含有する抗ウイルス用食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−285382(P2010−285382A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141236(P2009−141236)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】