説明

大島紬及びその製造方法

【課題】 従来の大島紬よりも肌触りが良く、より精密な柄の優良な大島紬を提供する。
【解決手段】
経糸密度及び絣糸密度を大きくした大島紬である。
その製造方法は、織機に2対以上の綜絖を前後に配設し、それらに1600本(20算)以上の経糸を交互に挿通するとともに、踏板は一対とし、前記2対以上の綜絖が同時に前後に上下運動するようにし、かつ織密度が1cm間40本以上となるようにして製織する。筬には、一つの筬目に3本以上の経糸を通し、筬目の羽数の増加を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、従来のものより経糸密度及び絣密度を大きくした大島紬及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大島紬は、鹿児島県大島地方に古来から伝承されてきた絹織物であって、紬とはいうものの、現在では紬糸でなく生糸を用いた平織であり、絣糸の製法に特徴がある。つまり、絣染めにする原料の絹糸を木綿糸を用いて締機で仮織して蓆(むしろ) を作り、この蓆を染色し、木綿糸で括った部分を防染し、蓆をほどいて絣糸をつくるもので、他の絣染、例えば括締や板締などに比較して細かい精密な絣が作製できることが大きな特徴である。
【0003】
この大島紬は、従来、経糸本数が13算(ヨミ、1ヨミは糸80本)や15.5算、絣が5〜9マルキ(1マルキは絣80本)のものが中心となっていたが、近年18算12マルキのものが開発され生産されてきている。
ところが、近年、着物離れや全世界的な不況問題もあって需要の伸びが抑えられている中、新しい製品を開発して大島紬の新たな需要の開拓が望まれている。
表1に従来の大島紬の経糸の算の数とマルキ数と経糸本数との関係を、また表2に算の数による使用糸の重量と織り上げた大島紬1反の重量との関係を示した。表2にみられるように、この経糸本数を示す算、及び絣の数を示すマルキの数字は、いずれも大きくなるほど使用される糸は細くなり、製品は軽くて肌触りがよく、緻密な柄が表現できるが、経糸の本数が増えれば熟練した技術者の緻密な作業が必要となる。
【0004】
【表1】

【0005】
【表2】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記周辺技術の状況に鑑み、本願発明者はさらに新しい絣表現を取り入れた大島紬を開発することとし、従来の大島紬では18算、12マルキが限界とされていたものを、24算、15マルキ以上の大島紬とすることを種々試行した。
しかし従来の製織技術を踏襲したのでは、綜絖の密度が高くなり過ぎ、綜絖を動かす踏み板が重くなって操作しにくくなること、また、筬の羽数が多くなりすぎ、肉眼で見え難くなり、作業が困難になることが解った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決したもので、綜絖や筬の構造等を工夫して24算(1920本)以上で製織可能とした下記構成の発明である。
(1)織機に2対以上の綜絖を前後に配設し、それらに1600本(20算)以上の経糸を交互に挿通するとともに、一対の踏板によって前記2対以上の綜絖が同時に上下運動するようにして織密度が1cm間40本以上となるように製織することを特徴とする大島紬の製造方法。
(2)織機に2対の綜絖を前後に配設し、1760本(22算)〜2240本(28算)の経糸をこの2対の綜絖に交互に挿通するとともに、一対の踏板によって前記2対の綜絖が同時に上下運動するようにして織密度が1cm間44〜56本となるように製織することを特徴とする大島紬の製造方法。
(3)経糸に絣糸を500本以上入れて製織することを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の大島紬の製造方法。
(4)織機の筬の羽数は、経糸の本数の増加に比例して増加することなく、一つの筬目に通す糸の数を3本以上として、羽数の増加を抑制して製織することを特徴とする前項(1)〜(3)のいずれか1項に記載の大島紬の製造方法。
【0008】
(5)前項(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法により製造された大島紬であって、経糸の本数が20算(1600本)以上であり、織密度が1cm間40本以上であることを特徴とする大島紬。
(6)前項(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法により製造された大島紬であって、経糸の本数が1760本(22算)〜2240本(28算)であり、織密度が1cm間44本〜56本であることを特徴とする大島紬。
(7)経糸に絣糸を500本以上入れることによって緻密な柄を表現してなることを特徴とする前項(5)又は(6)に記載の大島紬。
(8)経糸に絣糸を520本〜710本入れることによって緻密な柄をに表現してなることを特徴とする前項(5)又は(6)に記載の大島紬。
(9)22算〜28算の場合、地経糸は6〜10匁(精錬前22.5g、精錬後16.5g〜精錬前37.5g、精錬後28g/2540m)、絣糸は6〜10匁(精錬前22.5g、精錬後16.5g〜精錬前37.5g、精錬後28g/2540m)であることを特徴とする前項(5)〜(8)のいずれか1項に記載の大島紬。
【発明の効果】
【0009】
現在、市販されている大島紬は、13算や15.5算、5〜9マルキが中心であって、特に柄が細かいものでも18算、12マルキが限界であった。
本願発明によれば、24算、15マルキ以上が製織可能となり、より軽く肌触りが良く、より精密な柄の表現が可能となり、大島紬の新しい需要の開拓が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本願発明の24算、15マルキの大島紬の作業工程表である。
図1にみられるように、大島紬の原料糸は緯地絣糸、緯本絣糸、経絣糸、経地糸の4種類があり、それぞれ異なった工程で処理される。
【0011】
すなわち、経地絣糸、緯本絣糸、緯地絣糸は いずれも淡糊付けのあと、糸繰り、整経、糊張り、締機による絣締加工を行って蓆を作製し、制作した蓆を泥染染色した後、絣蓆解きを行い、番組、あげわく、水洗いの後、緯地絣糸、緯本絣糸は油亜美をし、小揚枠にとり管巻後織り付けをする。そして、経絣糸は仕上糊張をし、絣糸配合をし、板巻をする。
一方、経地糸は、泥染染色後、仕上げ糊付、糸繰り、地経整経をし、前記経絣糸とともに経糸配列した後、綜絖(以下綜絖と記す)、筬通しを行う。綜絖通しは、経糸の本数が通常より著しく多いため、通常1対(前1、後1)で構成される綜絖を2対(前2、後2)に増やし綜絖の開口を狭めることなく、経糸の挿通をし易くしている。
なお、経地絣糸、緯本絣糸、緯地絣糸は、泥染染色前いずれも8匁(約22g/2540m)、経地糸は6.75匁(約18g/2540m)とし、泥染染色後はいずれの糸も8.5匁になるようにした。したがって、経地糸は特に泥染による増量に対応できるような糸を用いる。
【0012】
筬には、24算、960羽の作成を考えたが、人間の見える限界を超えることと、羽の数が多くなりすぎて、糸を傷める可能性があることとから、15.5算640羽の一つの筬目に3本の経糸を入れることで製織できるようにした。
なお、参考のため、表3に24算15マルキ製織用筬の諸元を、表4に24算15マルキ製織用綜絖での経糸本数と重量を他の算の数それらとを比較して示した。
【0013】
【表3】

【0014】
【表4】

【0015】
図2に、本発明の大島紬の製造方法で使用する2対の綜絖を配設した織機の構造概念図を、図3に綜絖の構造斜視図を、図4綜絖への経糸挿入方法の説明図を示した。
図において1は綜絖、2は筬、3はシャトル、4はワープビーム、5はクロスビーム、6はろくろ、7は経絣糸、8は経地糸、9は緯糸、10は巻板である。
大島紬は平織であるから、綜絖は本来1対でよいはずである。しかし、24算以上となると、綜絖1の密度が高くなりすぎて踏板(図示せず)の抵抗が大きくなり作業がしにくくなる。そこで、24算の場合、図2及び図3に示すように12算の綜絖を2対(1、1)配設し、すなわち図3に示すように、一番綜絖と三番綜絖とで構成される1対の綜絖と、二番綜絖と四番綜絖とで構成される他の1対の綜絖を配設し、経絣糸7と経糸8とを織り上げる柄に対応させて並べ、前記2対の綜絖1、1に交互に挿通し、綜絖1、1が上下運動するときの抵抗を減じて製織作業を容易にしている。このとき踏板は一対のままとし、2対の綜絖が同時に上位運動するようにした。
【0016】
経糸のうち、経絣糸7は巻板10に巻かれており、綜絖1、1を通って筬2を通り、クロスビーム5に巻き取られる。経地糸8はワープビーム4から経絣糸と同様に綜絖1、1を通って筬2を通り、クロスビーム5に巻き取られる。
【0017】
経絣糸7、経地糸8はそれぞれ2対の綜絖1、1のいずれか一方に引き込まれ隣接する経糸は交互に隣の綜絖1、1に引き込まれるようにするため製織のときの抵抗が少なくなる。
【0018】
綜絖1、1への経糸の挿通方法を図4に示す。図4では、(1)、(4)、(7)の経糸を絣糸とし(2)、(3)、(5)、(6)、(8)、の経糸を地糸とした2本おきに絣糸を配した例で示してある。
前記綜絖1、1の1枚1枚を織り口側から一番綜絖(1−1)、二番綜絖(1−2)、三番綜絖(1−3)、4番綜絖(1−4)と名付けると、(1)〜(8)……の経糸はそれぞれ一番綜絖(1−1)、三番綜絖(1−3)、二番綜絖(1−2)、四番綜絖(1−4)の順にそれぞれの綜絖に設けられた綜絖ひもの経糸挿通口1−1a、1−1b、1−2a、1−2b、1−3a、1−3b、1−4a、1−4bに挿通される。大島紬は平織りであるため、一番、二番の綜絖(1−1、1−2)を前綜絖、三番、四番の綜絖(1−3、1−4)を後綜絖とし、前綜絖と後綜絖をろくろ6を介して接続し、踏み板によって上下逆方向に運動するようにしている。
【0019】
綜絖1、1に挿通された経糸は、次に図5に示す筬2に挿通される。本発明の大島紬製造方法で使用される筬2は、前述のとおり、15.5算の織機で使用される640羽の筬2の一つの筬目2cに3本の経糸を挿通するものである。
まず、第1番目の筬目には一番綜絖(1−1)、二番綜絖(1−2)、三番綜絖(1−3)を通ってきた経糸〔図3における(1)(2)(3)〕を、第2番目の筬目には四番走綜絖(1−4)、一番綜絖(1−1)、二番綜絖(1−2)通ってきた経糸〔図3における(4)(5)(6)〕を、3番目の筬目には三番綜絖(1−3)、四番綜絖(1−4)、一番目綜絖(1−1)を通ってきた経糸〔図3における(7)(8)(9)〕を挿通する。以後これを1920本について繰り返す。
【0020】
24算15マルキは織り密度が高いため8丈6尺の整経長とする。3丈4尺の大島紬を製織するのに約4丈の地経糸が必要である。4尺の2反分と余裕分の6尺で整経長とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の24算、15マルキ大島紬の製造工程図
【図2】本発明の大島紬の製造方法で使用する2対の綜絖を配設した織機の構造概念図
【図3】綜絖の構造斜視図
【図4】綜絖への経糸挿入方法の説明図
【図5】筬の正面図
【符号の説明】
【0022】
1:綜絖
1−1:一番綜絖
1−2:二番綜絖
1−3:三番綜絖
1−4:四番綜絖
2:筬
3:シャトル、
4:ワープビーム
5;クロスビーム、
6:ろくろ
7:経絣糸
8:経地糸
9:緯糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
織機に2対以上の綜絖を前後に配設し、それらに1600本(20算)以上の経糸を交互に挿通するとともに、一対の踏板によって前記2対以上の綜絖が同時に上下運動するようにして織密度が1cm間40本以上となるように製織することを特徴とする大島紬の製造方法。
【請求項2】
織機に2対の綜絖を前後に配設し、1760本(22算)〜2240本(28算)の経糸をこの2対の綜絖に交互に挿通するとともに、一対の踏板によって前記2対の綜絖が同時に上下運動するようにして織密度が1cm間44〜56本となるように製織することを特徴とする大島紬の製造方法。
【請求項3】
経糸に絣糸を500本以上入れて製織することを特徴とする請求項1又は2に記載の大島紬の製造方法。
【請求項4】
織機の筬の羽数は、経糸の本数の増加に比例して増加することなく、一つの筬目に通す糸の数を3本以上として、羽数の増加を抑制して製織することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の大島紬の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造された大島紬であって、経糸の本数が20算(1600本)以上であり、織密度が1cm間40本以上であることを特徴とする大島紬。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法により製造された大島紬であって、経糸の本数が1760本(22算)〜2240本(28算)であり、織密度が1cm間44本〜56本であることを特徴とする大島紬。
【請求項7】
経糸に絣糸を500本以上入れることによって緻密な柄を表現してなることを特徴とする請求項5又は6に記載の大島紬。
【請求項8】
経糸に絣糸を520本〜710本以上入れることによって緻密な柄をに表現してなることを特徴とする請求項5又は6に記載の大島紬。
【請求項9】
22算〜28算の場合、地経糸は6〜10匁(長さ2540m)、絣糸も6〜10匁(長さ2540m)であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の大島紬。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−144311(P2010−144311A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326627(P2008−326627)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年12月9日発行 「南日本新聞」に発表
【出願人】(399089220)窪田織物株式会社 (1)
【復代理人】
【識別番号】100090985
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 幸雄
【Fターム(参考)】