説明

大腸癌予防物質のスクリーニング方法

【課題】
癌、特に大腸癌の予防に効果のある物質のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】
本発明の課題は、ラットに被検物質を投与し、大腸組織における、TFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質及びPAPタンパク質のmRNAの発現量を測定し、その発現量が低下した物質をスクリーニングすることによって解決できる。この方法により得られた化合物を摂取することにより、大腸癌を予防することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌、特に大腸癌の予防物質のスクリーニング方法に関する。本発明によれば、癌の予防に関連する特定のタンパク質のmRNAを測定することにより、短時間に、且つ、安価に癌の予防効果を予測し、予防物質を簡便にスクリーニングすることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、日本において平均寿命が長くなると共に、癌による死亡率が高くなっている。また、食生活の変化に伴い、消化器系の癌、特に大腸癌の発症率が高くなってきている。この大腸癌の発症に対して、発癌抑制作用を有する食品が報告されており、例えば、マウスにアゾキシメタン(azoxymethane)を投与すると大腸腫瘍が発症するが、その大腸腫瘍の発症がビタミンB6の摂取量の増加により顕著に抑制されることが知られている(非特許文献1)。更に、以前の疫学的研究においても,ビタミンB6の摂取により大腸癌の発症が抑制されること、又は血中ビタミンB6濃度と大腸癌の発症との間に高い負の相関があることが報告されている(非特許文献2、および非特許文献3)。
【0003】
このように大腸癌の発症率が高まっている中で、食品などに含まれている前記ビタミンB6などの大腸癌を予防することのできる化合物を探索し、それらの化合物の摂取を促すことにより、大腸癌の予防又は治療につなげることが期待されている。しかしながら、そのような化合物のスクリーニングは、モデル動物に大腸癌を発症させ、その動物に被検試料を投与し、大腸癌の発症が抑制されるかを確かめることによって行わなければならないため、多くの実験動物を用い、また大腸癌の発症に数ヶ月を要することから、長期の時間がかかり、時間的にも経済的にも負担の多いものであった。
【0004】
【非特許文献1】Komatsu S, Watanabe H, Oka T, Tsuge H, Nii H, Kato N (2001) Vitamin B−6−supplemented diets compared with a low vitamin B−6 diet suppress azoxymethane−induced colon tumorigenesis in mice by reducing cell proliferation. J Nutr 131 : 2204−2207.
【非特許文献2】Slattery ML, Potter JD, Coates A, Ma KN, Berry TD, Ducan DM, Caan DJ (1997) Plant foods and colon cancer: an assessment of specific foods and their related nutrients (United States). Cancer Causes Control 8 : 575−590.
【非特許文献3】Jansen MC, Bueno−de−Mesquita HB, Buzina R, Fidanza F, Menotti A, Blackburn H, Nissinen AM, Kok FJ, Kromhout D (1999) Dietary fiber and plant foods in relation to colorectal cancer mortality: the seven countries study. Int J Cancer 81 : 174−179.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、動物実験や疫学的調査によって明らかになったビタミンB6の大腸癌予防効果に着目し,ビタミンB6の摂取時にラット大腸組織において発現量が著しく変動する遺伝子群を網羅的に探索した。その結果、大腸癌の発症が抑えられるラットにおいて、TFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質及びPAPタンパク質のmRNAの発現量が顕著に低下することを見出した。そして、これらのmRNAをスクリーニングマーカーとすることによって、大腸癌を予防することのできる化合物をスクリーニングできることを見出した。
【0006】
本発明はこうした知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、 大腸癌予防物質のスクリーニング方法であって、
(1)実験動物に被検試料を投与する工程、
(2)実験動物から大腸組織を採取する工程、
(3)前記大腸組織におけるTFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質および/またはPAPタンパク質のmRNAの発現量を測定する工程、及び
(4)前記mRNAの発現量の減少から大腸癌の予防効果を判定する工程、
を含む前記スクリーニング方法。に関する。
【0008】
本発明によるスクリーニング方法の好ましい態様においては、 実験動物がラットであるスクリーニング方法である。
【0009】
本発明によるスクリーニング方法の別の好ましい態様においては、投与する期間が14日〜28日であるスクリーニング方法である。
【0010】
本発明によるスクリーニング方法の別の好ましい態様においては、上記mRNAの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、リアルタイムPCR法、RT−PCR法、DNAマイクロアレイ法、あるいはDNAチップ法、またはRT−PCR法である、スクリーニング法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ビタミンB6の大腸癌予防効果の解析過程で見出された遺伝子群を予防効果のマーカーとして利用することにより、数ヶ月以上要していた動物実験による癌の予防物質のスクリーニングを短期間で行なうことが可能であり、実験に要する時間的及び経済的負担を軽減し、また実験に供する実験動物数を縮小することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のスクリーニング方法によって、スクリーニングすることのできる大腸癌予防物質は、大腸癌の発症を予防又は抑制する可能性のある化合物であれば特に限定されることはなく、低分子化合物、高分子化合物、タンパク質、糖、脂質、及び核酸などを含む。本発明のスクリーニング方法において動物に投与される被検試料は、化合物そのものでもよいが、前記大腸癌予防物質を含む可能性のあるものであれば、特に限定されず、例えば、食品、植物からの抽出物、は合成された化合物などを挙げることができる。
【0014】
本発明のスクリーニング方法は、
(1)被検試料投与工程、
(2)大腸組織採取工程、
(3)mRNA発現量測定工程、及び
(4)大腸癌予防効果判定工程、を含み、原則として前記工程をこの順序で実施することが好ましい。
【0015】
前記被検試料投与工程(1)においては、実験動物に被検試料を投与する。被検試料の投与方法としては、具体的には、被験試料の物性等により経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、経皮投与、皮下投与等の投与形態を使い分けることができ、また、大腸への局所投与も可能である。被検試料が食品の場合は、経口投与が好ましいが、飼料への混合する混飼により摂取させる方法、注射筒などによる経口投与、又は経口チューブなどを用いた強制投与などを行なうことも可能である。
【0016】
被検試料の投与期間は、被検試料の効果が得られる期間であれば、特に限定されるものではなく、例えば、静脈内投与などの場合は、一回の投与でもよいため、その注入時間のみでもよい。また、飼料への混飼による摂取の場合では、好ましくは1日〜3ヶ月、より好ましくは5日〜2ヶ月、最も好ましくは14〜28日である。
【0017】
被検試料を投与される実験動物は、特に限定されるものではないが、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、ミニブタ、ヒツジ、ネコ、イヌ等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類、及び魚類等の脊椎動物を挙げることができる。本発明において、飼育及び操作上の点から、好ましくはマウス、ラット、ハムスター等のげっ歯類であり、特に好ましくはラットである。具体的な、ラットの系統としては、SD(Sprague Dawley)ラットを用いることができる。本発明において測定対象とするmRNAは、少なくともマウス、およびラットにおいては存在することは確認済みである。
【0018】
大腸組織採取工程(2)においては、被検試料を投与された実験動物から大腸組織を採取する。例えば、ラットの場合は被検試料の経口投与終了後、6時間絶食させ、ジエチルエーテルで麻酔し、その後頚椎脱臼法で屠殺する。大腸組織を摘出し、mRNAの測定に用いる。採取する大腸組織の部位は、特に限定されるものではない。
【0019】
更に、本発明の別の実施態様としては、実験動物の代わりに実験動物又はヒトから分離された大腸由来の培養細胞を用いることも可能である。この態様の場合、被検試料投与工程(1)は、培養細胞に被検試料を接触させることにより実施することができ、具体的には培養細胞の培養液中に被検試料を添加すればよい。培養細胞に被検試料を接触させる期間(時間)は、実験動物を用いる態様と比較して、一般的には短くすることが可能であり、例えば、数時間〜3日で行なうことができる。また、大腸組織採取工程(2)は、培養細胞を回収することによって実施することが可能である。回収した培養細胞からのmRNAの回収は、後述のmRNA発現量測定工程(3)と同様の方法にて行なうことができる。
【0020】
本発明のスクリーニング方法において測定することのできる候補遺伝子群は、実験動物において、大腸癌の予防効果と関連して変動するものであれば、特に限定されるものではなく、その変動も上昇でも、下降(低下又は減少)でもよいが、好ましくは低下である。また、候補遺伝子群は、実験動物によって異なっていてもよく、動物種によって測定される遺伝子が異なることもある。更に、測定される遺伝子の組み合わせも限定されるものではなく、1つの遺伝子の変動が大腸癌の予防効果と関連している場合は、1つの遺伝子を測定することができ、2種類以上の遺伝子が関連して大腸癌の予防効果と関連する場合は、組み合わせて測定することが好ましい。
【0021】
例えば、ラットにおける候補遺伝子群としては、TFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質及びPAPタンパク質のmRNAを挙げることができる。これらのmRNAは、ビタミンB6の投与により低下する遺伝子群であり、本発明のスクリーニング方法においては、これらの遺伝子群の少なくとも1つの低下を測定することにより、被検試料の大腸癌の予防効果をスクリーニングすることが可能であるが、最も好ましくは、これらの遺伝子群の全てを測定し、すべてのmRNAの発現が低下していることが好ましい。
【0022】
TFF2タンパク質はtrefoil factor 2であり、PITX2タンパク質はpaired−like homeodomain transcription factor 2 であり、REG4タンパク質はregenerating islet−derived family, member 4であり、ABCA12タンパク質はATP−binding cassette, sub−family A (ABC1), member 12であり、LOC689116タンパク質はnuclear cap binding protein subunit 2相同性タンパク質であり、FABP1タンパク質はfatty acid binding protein 1であり、REG3Gタンパク質はregenerating islet−derived 3 gammaであり、PRLPMタンパク質はprolactin−like protein Mであり、PAPタンパク質はpancreatitis−associated proteinである。
【0023】
mRNAの測定法としては、その発現量を測定できる測定法であれば、特に限定されるものではなく、当業者に公知の方法を用いることが可能である。具体的には、mRNAを直接測定するノーザンブロット分析、ドットブロット法、及びRNAseプロテクション法並びにmRNAからcDNAを合成し分析するRT−PCR法(例えば、リアルタイムPCR法)、DNAマイクロアレイ法、DNAチップ法、ノーザンブロット分析法を挙げることができる。更に、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、及びクロスハイブリダイゼーション法等をmRNAの発現の解析に用いることも可能であるが、最も好ましくは、ノーザンブロット法、RT−PCR法、DNAマイクロアレイ法、及びDNAチップ法である。以下に、mRNAの発現解析の方法として、DNAマイクロアレイ法、DNAチップ法、及びRT−PCR法を例として説明する。
【0024】
本願発明のスクリーニング方法におけるmRNA発現量測定工程(3)は、以下のように行なうことができる。mRNAの解析のためには、RNAの抽出を行なう。mRNAの抽出は、公知の方法を用いることが可能であり、例えば、塩酸グアニジンフェノールクロロホルム(AGPC)法やAGPC変法、或いはRNAが結合するカラムを用いた市販のRNA抽出用キットなどを用いることが可能である。また、市販のRNA抽出キットとしては、TRIZOL Reagent (Invitrogen社)、ISOGEN(ニッポンジーン社)などを用いることもできる。
【0025】
DNAチップ及びDNAマイクロアレイを用いてmRNAの発現を解析する場合は、mRNAをそのまま解析することも可能であるが、通常mRNAからcDNA合成を行なう。cDNA合成は、公知の方法を利用することが可能であり、例えば、モレキュラークローニングアラボラトリーマニュアル第3版[ザンブルーク(Sambrook)ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd ed.、コールドスプリングハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行,(2001)]等に記載の逆転写酵素を用いる逆転写反応により実施できる。逆転写酵素としては、MMLVリバーストランスクリプターゼ又はAMVリバーストランスクリプターゼ等を用いることが可能である。cDNA合成に用いるプライマーは、ポリTプライマーを用いてmRNAからcDNAを合成したり、6mer〜9merのランダムプライマ−を用いてcDNAを合成することも可能である。また、cDNAは、DNAチップ及びDNAマイクロアレイでの解析を容易にするために、蛍光色素などでラベルされることが好ましい。
【0026】
DNAマイクロアレイは、1枚のスライドガラスやチップなどの基板上に、数千から数万の遺伝子を異なるスポットとして固定させたものである。このアレイ又はチップに、前記の合成したcDNAをハイブリダイズさせ、遺伝子の発現パターンを同時に観察する。例えば、遺伝子発現解析に用いるマイクロアレイに結合させるDNAとして、プラスミドのクローン、PCRによる増幅断片、合成オリゴヌクレオテチドなどを使用して作製できる。本発明において、マイクロアレイに結合させるDNAは、大腸癌の予防効果と関連して変動するものであれば、特に限定されるものではないが、特にはTFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質及びPAPタンパク質をコードするDNAが好ましい。また、その鎖長はmRNA又はcDNAとハイブリダイズすることが可能であれば限定されないが、10mer以上が好ましい。これらのマイクロアレイ、マイクロチップは、affimetrix社、株式会社DNAチップ研究所、宝酒造株式会社などから市販されている。
【0027】
本発明において、試験試料を投与された試験群と対照群との遺伝子発現を比較する場合、試験群と対照群のmRNAをそれぞれ異なる蛍光波長を有する蛍光色素で蛍光標識したヌクレオチドを用いて逆転写し、逆転写の際に異なる蛍光色素を取り込ませた標識cDNAを得ることが好ましい。得られた2種類のcDNAを1枚のDNAマイクロアレイ上で同時にハイブリダイズさせ、マイクロアレイ用のスキャナー等で画像データとして読み取り、マイクロアレイ上の蛍光発光量を測定する。測定されたマイクロアレイの画像データから、定量化のソフトウェアを用いて、cDNA量の解析を行なう。
【0028】
また、mRNAはRT−PCR法で測定することが可能である。RT−PCR法は、cDNA合成後に、PCRを行ってもよいが、リアルタイムPCR(例えば、TaqMan PCR法、及びサイバーグリーン法)で、mRNAから直接測定することも可能であり、微量なDNAを高感度かつ定量的に検出できるという点で好ましい。RT−PCRでは、検出すべき遺伝子、例えばTFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質及びPAPタンパク質をコードする遺伝子(それぞれ、配列番号1〜9で示す)のmRNAを逆転写し、これらの遺伝子を特異的に増幅するプライマー(例えば、配列番号10〜27に示される塩基配列からなるプライマー)を用い、PCRにより増幅する。増幅産物は、電気泳動等により分離し、定量することができる。また、リアルタイムPCR法、例えば、TaqMan PCR法を用いる場合には、5’端を蛍光色素(レポーター)で、3’端を蛍光色素(クエンチャー)で標識した、目的遺伝子の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブを用いて検出を行う。前記プローブは、通常の状態ではクエンチャーによってレポーターの蛍光が抑制されている。この蛍光プローブを目的遺伝子に完全にハイブリダイズさせた状態で、その外側に設定したプライマーによってTaq DNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。TaqDNAポリメラーゼによる伸長反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブが5’端から加水分解され、レポーター色素が遊離し、蛍光を発する。リアルタイムPCR法は、この蛍光強度をリアルタイムでモニタリングすることにより、鋳型DNAの初期量を正確に定量することができる。
【0029】
測定されたmRNAの発現量の変動を大腸癌予防効果判定工程(4)により、判断することによって、被検試料に含まれる化合物の大腸癌予防効果を判定することができる。前記のmRNAの測定による発現量の変動は、発現量の上昇でも、下降(低下)でもよく、発現量の変化は、2倍以上、好ましくは3倍以上、最も好ましくは5倍以上である。
【0030】
前記の遺伝子に関する情報は、例えば、GenBank等の遺伝子配列データベースから入手することができる。例えば、表1のGeneName及びSystematic Nameから検索することができる。
【0031】
【表1】

【0032】
前記のRT−PCRに用いるプライマーは、前記の遺伝子配列から作製することができる。以下に例示として示す。
Tff2(1):5’−TCGAGGTGCCCCTCTCTTGGTAGT−3’(配列番号1)
Tff2(2):5’−GTGACAATCATCCACAGACTGTGG−3’ (配列番号2)
Reg4(1):5’−ATGCGTGAGGCTACTCCTTCTGC−3’ (配列番号3)
Reg4(2):5’−GGCCTGTACTTGCACAGGAAGTG−3’ (配列番号4)
Pitx2(1):5’−GTGTGGACCAACCTTACGGAAGC−3’ (配列番号5)
Pitx2(2):5’−TTCAGGCTATTGAGGCTGGAGCC−3’ (配列番号6)
ABCA12(1):5’−TCTCGCCGAAGTATATGGGA−3’ (配列番号7)
ABCA12(2):5’−CCTGAGACTTTGGTGCTGAA−3’ (配列番号8)
LOC689116(1):5’−CTGCTTCGAGTCTTATGGTGTC−3’ (配列番号9)
LOC689116(2):5’−TGGACCTGGGGTAGGCTTCTT−3’ (配列番号10)
FABP1(1):5’−GCTGGGAAAGGAAACCTCATTGCC−3’ (配列番号11)
FABP1(2):5’−CTCTGGCTGACTCTCTTGTAGACG−3’ (配列番号12)
REG3G(1):5’−TCACCACCATGTCCTGGATGCTG−3’ (配列番号13)
REG3G(2):5’−CTCCACCTCAGAAATCCTGAGGC−3’ (配列番号14)
PRLPM(1):5’−GGTGCCCACGTGCTTAGTAAGGA−3’ (配列番号15)
PRLPM(2):5’−GACCAGCCAGGGTAGTTCTCATC−3’ (配列番号16)
PAP(1):5’−CCCAGTCATGTCCTGGATGCTG−3’ (配列番号17)
PAP(2):5’−TGCAGACGTAGGGCAACTTCAC−3’ (配列番号18)
前記のプライマーは、RT−PCRに用いることができるが、ハイブリダイゼーションの原理を用いたmRNA検出法、例えば、ノーザンブロット分析、又はドットブロット法においては、プローブとして用いることも可能である。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示し本発明の具体的な説明を行うが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1》
本実施例1では、ラットにビタミンB6を投与し、大腸組織のTFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質及びPAPタンパク質のmRNAの量をDNAマイクロアレイ法で測定した。
(A)実験動物への被検試料の投与(被検試料投与工程)
5週齢のSD雄ラット(日本チャールス・リバー株式会社)を、12時間明暗サイクル(8:00〜21:00は明,21:00〜8:00は暗)、恒温(24±1℃)で飼育した。馴化期間として、購入後1週間は、脱イオン水と固形飼料を自由摂取させ、体重を記録した。5匹ずつ、2つの群に分け、試験群には、ビタミンB6を含んだ試験食(ビタミン含有量は、500mg/kg diet)を35日間、さらにコントロール群(ビタミン含有量は、1mg/kg diet)を35日間飼育した。試験食では、ラット1匹あたり、一日平均 8mgのビタミンB6を摂取した。対照群は、ビタミンB6を含まない以外は試験群と同じ飼料を与えた。
(B)実験動物からの大腸癌組織の摘出(大腸組織採取工程)
ラットは、35日間の被検試料の投与終了後、6時間絶食させ、ジエチルエーテルで麻酔し頚椎脱臼法で屠殺した。開腹後、大腸を摘出し、PBSを入れたシャーレに回収した。
(C)RNAの回収
大腸組織を、15ml容チューブに入れ、TRIZOL Reagent (Invitrogen社)7.2mlを加え、ホモジナイザーで完全に破砕した。クロロホルムを1.5mlずつ添加し、15秒間激しくボルテクスをかけ、室温で3分間静置した。3、000×Gで室温、10分間遠心し、上清を新しい15ml容チューブに回収した。得られた上清に、等量のフェノールクロロホルムを加え、激しくボルテクスをかけ、再度遠心して(3,000×G、室温、10分間)上清を回収した。回収した上清と等量のイソプロパノール行い、減圧乾燥させ、1mlのDEPC処理水(0.1%Diethylpyrocarbonate、SIGMA社)を加えた。60℃で10分間熱処理して、RNAを溶解し、OD260で濃度を測定した。約500μgのトータルRNAが得られた。
(D)cRNAの合成、および精製−80℃でエタノール沈殿したRNAを解凍し、遠心(12,000rpm、4℃、15分間)した後、上清を除去し、300μlの70%エタノールで洗浄して減圧乾燥させた。100μlのRNase free水(Distilled Water DNase RNase Free, Invitrogen製)を加え、85℃で10分間熱処理してRNA溶液とし、OD260で濃度を測定した。700ng相当のRNAにT7 promoter primer1.0μlとRNase free水を加え、65℃で10分間熱処理し、氷上で5分間静置した。を加えよく転倒混合し、室温で10分間静置した。7、000rpmで4℃、10分間、遠心し、上清を除去して70%エタノールを3.0mlずつ加え、−80℃で保存した。解凍後、遠心(7,000rpm,4℃,5分間)を1サンプルあたり以下の反応液(5×First Strand Buffer 2.7μl、0.1M DTT 1.3μl、10mM dNTP Mix 0.7μl、MMLV−RT 0.7μl、RNase OUT 0.3μl)を加え、穏やかに混合して40℃で2時間インキュベートし、cDNAを合成した。65℃で15分間熱処理して反応を停止し、氷上で5分間静置した。1サンプルあたり以下の反応液(RNase free 水 10.2μl、4×Transcription Buffer 13.33μl、0.1M DTT 4.0μl、NTP Mix 5.33μl、50%PEG 4.27μl、RNase OUT 0.33μl、Inorganic pyrophosphatase 0.40μl、T7 RNA polymerase 0.53μl)を加え、穏やかに混合した。さらにサンプルを加えたチューブを遮光し、Cyanine3(緑発色)、Cyanine5(赤発色)を1サンプルあたり1.6μlずつ加え、穏やかに混合して40℃で2時間、遮光してインキュベートした。RNeasy mini kit(QIAGEN製)を用いてcRNAの精製を行った。1サンプルあたりRNase free水(Invitrogen製)46.6μl、Buffer RLT 350μl、100%エタノール250μlを加え、よく混合し、全量をカラムに流し込んで遠心し(13,000rpm、4℃、30秒)、フロースルーを捨てた。カラムを新しいコレクションチューブに移し、Buffer RLT 500μlをカラムに加え、遠心し(13,000rpm、4℃、30秒)、フロースルーを捨て、これを計2回行った。カラムを新しいコレクションチューブに移し、RNase free waterを30μlずつカラムの中央に滴下し、1分間静置した。遠心し(13,000rpm、4℃、1分間)、フラクションをRNA溶液とし、OD260でRNA濃度を、OD552、およびOD650でCyanine3、Cyanine5の色素の波長を測定した。
【0034】
ハイブリダイゼーション、およびデータ解析
825ng相当のCyanine3、およびCyanine5ラベル標識したcRNA溶液をマイクロアレイハイブリダイゼーションのサンプルとして用いた。ハイブリダイゼーションはオリゴDNAマイクロアレイハイブリダイゼーションプロトコール(Agilent社)に従い、ラットゲノムアレイ(Agilent社製)を用いて行った。
(E)DNAマイクロアレイでのcDNAの解析
ハイブリダイゼーション終了後にDNAマイクロアレイスキャナ(Agilent社)を用いてデータスキャンして解析を行った解析の結果、対照群のラットと比較して試験群のラットのTFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質及びPAPタンパク質のmRNAの発現が有意に低下していた。

【0035】
本実施例2では、ビタミンB6の投与によって、TFF2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、FABP1タンパク質、PRLPMタンパク質のmRNAの大腸における低下をRT−PCRによって測定した。前記実施例1の(A)、(B)、及び(C)で得られたRNAを用いてRT−PCRを行なった。
【0036】
SuperScriptTMIII Reverse Transcriptase (Invitrogen製)を用いて,cDNA溶液を作製した。1.0μgのRNA溶液にRandom Primers(3.0μg/μl、Invitrogen社)1.0μl、10mM dNTP Mix (Invitrogen社)を加え、液量が11.0μlになるようにRNase free水(Invitrogen社)を加えた。65℃で5分間熱処理し,氷上で1分間静置した。1サンプルあたり、反応液(5×First−Strand Buffer 4.0μl、0.1M DTT1.0μl、RNase OUTTM Recombinant RNase Inhibitor 1.0μl、SuperScriptTMIII RT 1.0μl)7μLを加え,穏やかに均一にした後、25℃で5分間、更に50℃で60分間インキュベートし、70℃で15分間熱処理することにより反応を停止させた。1サンプルにつき100μlのRNase free水を加え、cDNA溶液とした。
【0037】
得られcDNAを用いて、PCRを行い、目的のRNAを定量した。PCRはEX−Taq(宝酒造製)を用いcDNA 1.0μlを用いて、PCR反応液を調製し,95℃ で2分間熱処理し、変性95℃、40秒、アニーリング55℃、40秒、エクステンション72℃、1分を、計30サイクルの条件下でPCR反応を行った。プライマーは下記のプライマーを用いた。
Tff2(1):5’−TCGAGGTGCCCCTCTCTTGGTAGT−3’
Tff2(2):5’−GTGACAATCATCCACAGACTGTGG−3’
Reg4(1):5’−ATGCGTGAGGCTACTCCTTCTGC−3’
Reg4(2):5’−GGCCTGTACTTGCACAGGAAGTG−3’
Pitx2(1):5’−GTGTGGACCAACCTTACGGAAGC−3’
Pitx2(2):5’−TTCAGGCTATTGAGGCTGGAGCC−3’
ABCA12(1):5’−TCTCGCCGAAGTATATGGGA−3’
ABCA12(2):5’−CCTGAGACTTTGGTGCTGAA−3’
LOC689116(1):5’−CTGCTTCGAGTCTTATGGTGTC−3’
LOC689116(2):5’−TGGACCTGGGGTAGGCTTCTT−3’
FABP1(1):5’−GCTGGGAAAGGAAACCTCATTGCC−3’
FABP1(2):5’−CTCTGGCTGACTCTCTTGTAGACG−3’
REG3G(1):5’−TCACCACCATGTCCTGGATGCTG−3’
REG3G(2):5’−CTCCACCTCAGAAATCCTGAGGC−3’
PRLPM(1):5’−GGTGCCCACGTGCTTAGTAAGGA−3’
PRLPM(2):5’−GACCAGCCAGGGTAGTTCTCATC−3’
PAP(1):5’−CCCAGTCATGTCCTGGATGCTG−3’
PAP(2):5’−TGCAGACGTAGGGCAACTTCAC−3’
TFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質及びPAPタンパク質のmRNAの低下が観察された(図1)。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の大腸癌予防物質のスクリーニング方法により、大腸癌を予防又は治療することのできる化合物、又はそのような化合物を含む食品をスクリーニングすることが可能である。更に、本発明のスクリーニング方法により得られた化合物を摂取することにより、大腸癌を予防することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】は、TFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質及びPAPタンパク質のmRNAの低下を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0040】
配列番号1は、Tff2タンパク質をコードする核酸配列である。
【0041】
配列番号2は、Pitxタンパク質をコードする核酸配列である。
【0042】
配列番号3は、Reg4タンパク質をコードする核酸配列である。
【0043】
配列番号4は、ABCA12タンパク質をコードする核酸配列である。
【0044】
配列番号5は、LOC689116ABCA12タンパク質をコードする核酸配列である。
【0045】
配列番号6は、FABP1タンパク質をコードする核酸配列である。
【0046】
配列番号7は、REG3Gタンパク質をコードする核酸配列である。
【0047】
配列番号8は、PRLPMタンパク質をコードする核酸配列である。
【0048】
配列番号9は、PAPタンパク質をコードする核酸配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸癌予防物質のスクリーニング方法であって、
(1)実験動物に被検試料を投与する工程、
(2)実験動物から大腸組織を採取する工程、
(3)前記大腸組織におけるTFF2タンパク質、PITX2タンパク質、REG4タンパク質、ABCA12タンパク質、LOC689116タンパク質、FABP1タンパク質、REG3Gタンパク質、PRLPMタンパク質および/またはPAPタンパク質のmRNAの発現量を測定する工程、及び
(4)前記mRNAの発現量の減少から大腸癌の予防効果を判定する工程、
を含む前記スクリーニング方法。
【請求項2】
実験動物がラットである請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記被検試料を投与する期間が14日〜28日である請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記mRNAの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、リアルタイムPCR法、RT−PCR法、DNAマイクロアレイ法、あるいはDNAチップ法である請求項1〜3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−45041(P2009−45041A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216634(P2007−216634)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】