説明

大規模並列核酸分析方法

【課題】単一細胞レベルの試料から得られるcDNAライブラリーに含まれるcDNAの個別並列増幅を行い遺伝子の発現解析を実現する方法を提供する。
【解決手段】第1担体上に固定化されたpoly(T)配列を含むプローブを利用してmRNAを精製し、cDNAライブラリーの調製を行い、個別増幅用のプライマー結合部位1を担体上cDNAの末端に挿入する。続いて、第2担体に固定化された上記プライマー結合部位と相補的な配列を有するプローブと、cDNAの末端部のプライマー結合部位の相補鎖結合及び伸長反応を行い、第2担体上にcDNAの配列を移管する。その後、制限酵素切断により、第1担体と第2担体を分離する。第2担体上のDNA断片の末端に第2のプライマー結合部位を挿入し、増幅、解析を行うことにより課題の解決が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一細胞レベルのサンプルから精製され、担体上に固定化されたcDNAを増幅用担体に移し、増幅用担体上において個別に並列増幅して遺伝子発現を分析する方法に関する。本発明はまた、個別並列増幅及び分析に必要とされるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞からのmRNA精製に関する従来法は多数存在する。また、mRNAの逆転写産物であるcDNAの発現解析の方法に関しても、いくつかの従来法がある。大規模DNA個別並列増幅に関しては、昨今急速に技術開発が進みつつあるが主流となる方法はまだ多くはない。以下上述従来法について、詳細を述べる。
【0003】
細胞からのmRNAの精製は、液相反応系もしくは固相反応系のどちらの反応系においても多数の方法があり、キット化されている商品も複数ある。一方で、単一細胞レベルにおけるmRNAの精製においては、得られるmRNAが極微量であり、精製工程におけるロスを最小限に抑える必要があるため、固相反応系を用いるほうがよい。
【0004】
固相反応系におけるmRNAの精製の従来法では、mRNAの3’末端側にあるpoly(A)塩基配列と固相担体などにあらかじめ固定化されたpoly(T)塩基プローブを相補鎖結合することにより行う。ここでpoly(T)とは8 塩基以上のT塩基の連続配列を意味する。好ましくは20〜30塩基のT塩基からなる。この際に例えば、固相担体として磁気ビーズ等を利用すれば、マグネットにより確実にビーズを保持することが可能であり、mRNAをロスすることなく、夾雑物を除去したり、バッファーの交換をしたりすることが可能となる。続いて、精製されたmRNAと相補鎖結合する固相担体上の固定化poly(T)プライマーがmRNAを鋳型として伸長反応を行う(逆転写反応)ことにより1本鎖cDNA産物が得られる(第1cDNA鎖)。さらに、mRNAをリボヌクレアーゼH酵素により部分的に複数箇所切断し、mRNAの短断片をプライマーとし第1cDNA鎖を鋳型として伸長反応を行うことで2本鎖のcDNA産物が得られる(第2cDNA鎖)。リアルタイムPCR法のように、遺伝子特異的配列を利用した反応の場合は、第1cDNA鎖を鋳型とすることが可能である。
【0005】
組織片等を対象としたcDNAの網羅的発現解析の方法としては、cDNAマイクロアレイや、SAGE(Serial Analysis of Gene Expression)法などが広く普及している。
【0006】
一方で、単一細胞レベルでの網羅的遺伝子解析を実現するためには、微量mRNAの増幅が必須となる。近年、単一細胞レベルのサンプルから精製されたcDNAサンプルの網羅的増幅方法が開発されている。代表的なものとして、文献Nucleic Acids Research (2006) Vil.34、e42に記載の方法がある。mRNAの3’末端のpoly(A)塩基と相補的なpoly(T)配列を有し、更に5’末端に20塩基長程度の固有の配列が連結したプローブ(1)をmRNAに相補鎖結合させ、mRNAから第1cDNA鎖を合成する。続いて、合成された第1cDNA鎖の3’末端にpoly(A)塩基を導入する。このpoly(A)塩基と相補的なpoly(T)配列を有し、更に5’末端にプローブ(1)とは異なる20塩基長程度の固有の配列が連結したプローブ(2)を用意し、第1cDNA鎖を鋳型とし、プローブ(1)とプローブ(2)を用いてPCRにより増幅した結果得られる産物を解析の対象としている。本手法の場合、最終的に得られるPCR産物の長さは854±276塩基長となり、0.2 pgからスタートした産物を106倍の200 ng程度まで増幅できるとしている。この方法のように、mRNAの3’末端のpoly(A)塩基と相補的なpoly(T)配列を有し、更に5’末端に20塩基長程度の固有の配列が連結したプローブを挿入する方法は他にも報告されている。いずれの方法においても、マイクロアレイ法(あらかじめ複数cDNAの特異的プローブが固相担体上に固定化されており、このプローブと増幅産物の相補鎖結合の有無で発現を解析)もしくは、リアルタイムPCR法(各遺伝子特異的なプローブを用意し、PCR反応中におけるこのプローブと産物との相補鎖結合の有無で発現を解析)により発現の解析を行っている。
【0007】
大規模DNA個別並列増幅に関しては、昨今いくつかの方法が報告され始めている。一つは、PCRをオイルの中に分散した各水滴を独立した反応槽として増幅反応を行うエマルジョンPCR法である(Margulies1 M.、Egholm1 M.、Altman1 W. E.、Rothberg1 J. M. et al. Nature 437(7057)、376-80 (2005))。多数の核酸試料をそれぞれ隔離された水滴内で同時に増幅することのできる技術である。他の方法として、固相担体上に固定されたあらかじめ固定化されたPCR用プライマーを用いてコロニー様の増幅産物を得る方法もある(特表2002−503954及びNucleic Acid Research vol.28 e87 (2000))。この方法では、固相表面はPCR反応溶液で覆われているが、増幅に使用されるプライマーが固定されているため、増幅産物は反応溶液中に流出することはなく、固相上に固定された形で生成される。生成した産物はその産物長の範囲内に存在する固定化プライマーと相補鎖結合し次の増幅工程に入る。この増幅工程を数十回繰り返すことで、最終的に産物の片側末端が固相上に固定された形で増幅産物を得ることができる。
【0008】
上記のいずれの個別並列増幅法においても、増幅対象のDNAには、共通のPCR用プライマーとなる部位が増幅対象範囲の両側に挿入されている必要がある。前述のcDNAサンプルの網羅的増幅方法においては、mRNAの3’末端側にあるpoly(A)部位、及び後から挿入する第1cDNA鎖 3’末端のpoly(A)部位を利用してその外側へ、1回目のPCR反応中に固有の共通配列1及び2を挿入している。PCR用プライマーの挿入にあたって、その他の手段としては、共通配列1及び2をライゲーション反応により挿入する方法がある。ライゲーション反応を行う為には、cDNAが2本鎖、即ち第2cDNA鎖まで合成されている必要がある。固相担体を用いてmRNAの精製を行った場合にライゲーション反応により共通配列1が挿入されるのは、固相担体に固定化されたpolyT/polyA末端とは反対側の端になる。もう一方の側(polyT/polyA末端側)に共通配列2を挿入するためには、固定化された末端を切断する必要がある。切断の手段としては、制限酵素を使う方法が一般的であるが、この場合1遺伝子から複数の切断断片が生じる。またどの断片にすでに挿入した既知配列が結合しているかは不明である。
【0009】
cDNAの網羅的発現解析法である、cDNAマイクロアレイやSAGE法では、対象となるcDNAを合成するためのmRNAを数十μg以上必要とする。ヒトの場合、平均的な単一細胞中に含まれるmRNAの量は概ね〜1pg程度であるので、mRNAを数十μg精製するためには107個以上の細胞が必要ということになる。107個もの細胞から得られるcDNAの発現解析データから得られるものは、多数細胞の平均化された情報である。一方で、実際の細胞内では、時間と共に遺伝子の発現量が種々に変化している。例えば、ホルモンや神経伝達物質等生体内の情報伝達に関与する組織や、発生段階の胚組織では、各細胞間において遺伝子発現量が大きく異なっているとされており、単一細胞レベルでの解析が必須となる(Yeast. (2000) 30;17(3):211-7)。
【0010】
従来の単一細胞レベルでのcDNAの網羅的増幅技術では、増幅産物が混合物の状態で提供される。マイクロアレイ法やリアルタイムPCR法で発現解析を行う際には問題ないが、これらの方法はあらかじめ遺伝子特異的プローブをデザインする必要があり、特定の既知配列を有する遺伝子には効果的であるが、cDNAの網羅的発現解析には適さない。一方で、網羅的に発現を解析するには、cDNAの個別配列解析による遺伝子の頻度解析が有効であるが、複数種cDNAが混合した状態での増幅産物を単離する有効な手段がないため、配列解析用試料として適さない。
【0011】
単一細胞レベルでのcDNAの発現解析を網羅的に行うためには、cDNA増幅を個別に並列増幅する技術の開発が課題となる。クローニング法により混合状態のcDNAを単離することも可能であるが、クローニング法は増幅の手段でもあるため、単離するために再度増幅という非常に無駄が多い作業工程となってしまう。cDNAの個別並列増幅用の試料調製に際しては、各cDNAにPCR反応用の共通配列部(プライマー結合部位)1及び2が挿入された断片の調製が必要となる。発現の状態をその頻度分布により解析を行うためには、ここで得られる断片は、各cDNAと1対1に対応している必要がある。1つのcDNAから複数の断片が調製されると、正確な発現解析(即ち頻度解析)が行えなくなるためである。さらに、遺伝子特異性の高い配列部位(mRNAの3’末端即ちpoly(A)末端から遠い部位)を配列決定に利用するため、配列決定の際に配列決定用プローブが相補鎖結合する共通配列部1及び2が、得られる断片のどちら側(mRNAの3’末端側か否か)に挿入されているかの情報も得られることが望ましい。一方で、配列解析にはcDNAの全長は必要なく、オリジナルのcDNAの一部を含む断片で発現解析は可能である。数十塩基長程度解析できれば、日々充実していくデータベースを用いることにより、遺伝子の同定は容易である。また、網羅的cDNA増幅を行うに当り、増幅対象DNAの塩基長の調整も必須である。上述のcDNAサンプルの網羅的増幅方法によれば、増幅対象産物は854±276塩基長であるとされている。一般的にPCRは増幅塩基長により伸長反応ステップの反応時間を定めるため、塩基長の分布は狭ければ狭いほど都合がよい。また均一な増幅効率を望む場合、2次構造のとりにくさから、数百塩基長が望ましい。従来法では、cDNAの逆転写効率、即ち、mRNAを鋳型とした第1cDNA鎖の伸長効率により、増幅対象DNAの塩基長が左右される。cDNAの逆転写効率は、mRNAの配列を起因とした2次構造のとり方に大きく依存しており、これは、塩基配列に依存している。このため、逆転写産物全長をそのまま増幅対象産物とする従来法においては、塩基長の分布が広く(増幅対象DNA全てに最適なPCR条件の設定が難しくなる)、また、均一な増幅効率は期待しにくい(短いものほど増幅効率がよく、長いものに比べ優先的に増幅される傾向があるため)。このため、あらかじめ、均一の塩基長になるように切断することが可能な認識配列を有する制限酵素切断の処理などにより、増幅対象産物の塩基長を揃え、かつ、数百塩基長以下の長さすることが、網羅的増幅には必須の条件となる。
【0012】
【特許文献1】特表2002−503954
【非特許文献1】Nucleic Acids Research (2006) Vil.34、e42
【非特許文献2】Margulies1 M.、Egholm1 M.、Altman1 W. E.、Rothberg1 J. M. et al. Nature 437(7057)、376-80 (2005)
【非特許文献3】Nucleic Acid Research vol.28 e87 (2000)
【非特許文献4】Yeast. (2000) 30;17(3):211-7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、単一細胞レベルの試料から得られる極微量のmRNAを用いて、そこから得られるcDNAの個別並列増幅を行うため、(1)1遺伝子1断片の条件を満たし、(2)各断片の両側末端にそれぞれ異なるプライマー結合部位を挿入し、さらに、(3)遺伝子に対して2種類のプライマー結合部位の挿入方向(どちらの末端に2種のうちどちらのプライマー結合部位を挿入するか)を制御する増幅用試料調製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、poly(T)配列を含む第1プローブが固定化された第1担体を用いてmRNAを精製し、これを鋳型として第1担体上に2本鎖cDNAを生成し、これを第2プローブが固定化された第2担体に移管して増幅することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)一群のmRNAを鋳型として生成したcDNAライブラリーに含まれるcDNAを解析する方法であって、
第1担体に固定されたpoly(T)配列を含む配列からなる第1プローブとmRNA試料とを相補鎖結合させる工程と、
前記mRNA試料を鋳型として、逆転写酵素を用いて前記第1プローブを伸長させ、第1伸長鎖<第1cDNA鎖>を生成させ、前記第1伸長鎖からなるcDNAライブラリーを調製する工程と、
前記第1伸長鎖である第1cDNA鎖を鋳型とし、前記mRNAの部分的分解物をプライマーとする相補鎖合成伸長反応により第2伸長鎖<第2cDNA鎖>を生成する工程と、
前記逆転写酵素によって伸長された端部に対応する、前記第1伸長鎖である第1cDNA鎖の3’末端及び前記第2伸長鎖である第2cDNA鎖の5’末端へ、第1断片<A>及び前記第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2断片<A’>を各々導入する工程と、
第2担体に固定されてかつ前記第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2プローブと前記第1cDNA鎖に導入された第1断片とを相補鎖結合させる工程と、
前記第1伸長鎖を鋳型として、前記第2プローブを伸長させ、第3伸長鎖を生成する工程と、
前記第1伸長鎖と前記第3伸長鎖との2本鎖を制限酵素により切断し、前記第1担体に結合するDNA断片と前記第2担体に結合するDNA断片とを分離し、少なくとも前記第2担体に結合するDNA断片を得る工程と、
前記結合断片の前記第2プローブの伸長鎖の3’末端及び前記第2プローブの伸長鎖の相補鎖の5’末端へ、第3断片<B>及び前記第3断片に相補的な配列の少なくとも一部を含む配列を有する第4断片<B’>を各々導入する工程と、
前記第2担体に結合するDNAにおいて、前記第1断片及び前記第2プローブからなる2本鎖と第3断片及び第4断片からなる2本鎖とに挟まれた部分の配列を解析することでcDNAライブラリーの分析を行うことを特徴とする、前記方法。
【0016】
(2)第1担体が第2担体と識別して分取可能であることを特徴とする、(1)記載の方法。
(3)第1担体及び第2担体の一方が磁性体であり他方が磁性体でないことを特徴とする、(2)記載の方法。
(4)磁性体が磁気ビーズであることを特徴とする、(3)記載の方法。
(5)第1担体が多数の個別固相担体からなり、第2担体は、第1担体よりも表面積が大きな個別担体であるか、あるいは一平面から構成される固相担体であることを特徴とする、(1)記載の方法。
【0017】
(6)第2担体に結合するDNAにおいて、第1断片及び第2プローブからなる2本鎖と第3断片及び第4断片からなる2本鎖に挟まれた部分を、第1断片の配列の少なくとも一部(好ましくは17塩基以上)を含むプライマーと第3断片の配列の少なくとも一部(好ましくは17塩基以上)を含むプライマー、または第2プローブの配列の少なくとも一部(好ましくは17塩基以上)を含むプライマーと第4断片の配列の少なくとも一部(好ましくは17塩基以上)を含むプライマーを用いて増幅する工程を含むことを特徴とする、(1)記載の方法。
(7)cDNAライブラリーの分析を行うことにより、cDNAライブラリーに含まれるcDNAの種類と量を調べることを特徴とする、(1)記載の方法。
(8)cDNAライブラリーの分析を行うことにより、cDNAライブラリーに含まれるcDNAの種類ごとの構造の分布を調べることを特徴とする、(1)記載の方法。
(9)第2担体に、第3断片に相補的な配列の少なくとも一部(好ましくは17塩基以上)を含む配列を有する第4プローブがさらに固定されていることを特徴とする、(1)記載の方法。
【0018】
(10)一群のmRNAを鋳型として生成したcDNAライブラリーに含まれるcDNAを解析するためのキットであって、
poly(T)配列を含む配列からなる第1プローブが固定された第1担体と、
第1断片<A>及び第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2断片<A’>からなるアダプター1と、
第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2プローブが固定された第2担体と、
第3断片<B>及び第3断片に相補的な配列の少なくとも一部(好ましくは17塩基以上)を含む配列を有する第4断片<B’>からなるアダプター2と
を含む前記キット。
(11)第2担体に、第3断片に相補的な配列の少なくとも一部(好ましくは17塩基以上)を含む配列を有する第4プローブがさらに固定されていることを特徴とする、(10)記載のキット。
(12)第1担体が第2担体と識別して分取可能であることを特徴とする、(10)記載のキット。
(13)第1担体及び第2担体の一方が磁性体であり他方が磁性体でないことを特徴とする、(12)記載のキット。
(14)磁性体が磁気ビーズであることを特徴とする、(13)記載のキット。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、cDNAライブラリーに含まれるcDNAを網羅的に個別増幅することが可能となる。また増幅された産物の包括的配列解析が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、2種類の担体、好ましくは固相担体を用いることにより、上記に挙げた課題を解決するものである。本発明は、単一細胞レベルの微量細胞中に含まれるmRNAをmRNA試料として用いる場合に特に好適である。本発明では、単一細胞レベルの微量細胞中に含まれるmRNAをもれなく抽出し、かつ続く反応の阻害剤となりうる夾雑物を確実に除去するため、第1担体上にあらかじめ固定されたpoly(T)配列を含む第1プローブを利用し、mRNAの3’末端に配置するpoly(A)配列との相補鎖結合により、細胞中のmRNAのみを第1担体上に捕獲する。
【0021】
第1担体としては、通常、固相担体を用い、好ましくは粒径1〜100 μm程度の磁気ビーズ粒子を用いる。しかし固相担体の材料としては、水不溶性であれば特に限定されるものではなく、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、白金、チタン、ニッケル等の金属、ステンレスやジュラルミンなどの合金、シリコン、ガラス、石英ガラス、セラミクス等のガラス材料、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン樹脂、ナイロン、エポキシ樹脂、及び塩化ビニル樹脂等のプラスチック、アガロース、デキストラン、セルロース、ポリビニルアルコール、キトサン等が挙げられる。また、担体の形状についても特に限定は無い。poly(T)配列を含むプローブは、Tが18〜40塩基長程度連なる配列を含むオリゴDNAであるが、poly(T)とpoly(A)の相補鎖結合は熱安定性が強くはないため、poly(T)配列の途中数塩基程度をPNA(ペプチド核酸)等に代表される人工核酸に置換することで、相補鎖結合の結合力を上げることが可能となる。また、poly(T)配列の5’末端側に、カーボンなどから構成されるスペーサーを配置し、担体表面部から塩基までの距離をとることで、相補鎖結合能を上げることができる。
【0022】
第1プローブの第1担体上への固定方法は特に限定されず、共有結合やイオン結合、物理吸着、生物学的結合(例えばビオチンとアビジン、またはストレプトアビジンとの結合、抗原と抗体との結合など)等による方法が挙げられる。
【0023】
第1担体上に捕獲されたmRNAの逆転写反応により、mRNAと相補的な配列を有する第1cDNA鎖を得る。続いて、mRNAをリボヌクレアーゼH酵素により部分的に複数箇所分解し得られるmRNAの短断片をプライマーとし、第1cDNA鎖を鋳型として伸長反応を行うことで、2本鎖のcDNA産物を得る(ここで得られる相補鎖結合第2伸長鎖が第2cDNA鎖となる)。上記2本鎖cDNAの第1担体に固定化された側(poly(T)/poly (A)側)とは別の端を酵素により平滑末端化することが好ましい。これは、第1cDNA鎖及び第2cDNA鎖の鎖長が、合成の効率により異なる可能性が高いためである。3’側が突出している場合には、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性をもつT4 DNAポリメラーゼ等を利用して突出部を削り、5’側が突出している場合には、ポリメラーゼ活性を有する酵素(T4 DNAポリメラーゼ等)を利用して突出鎖にあわせて短いほうの鎖を塩基により埋める。この平滑末端化処理を施した末端部分に、1つ目のPCR用プライマー結合部位(数十塩基長のDNAからなるオリゴA(第1断片)及びオリゴAと相補的な配列を含むオリゴA’(第2断片)の相補鎖結合産物より構成される:アダプター1)をライゲーションにより挿入する。その後、第1担体に固定化されていないほうの鎖である第2cDNA鎖を変性反応により除去する。尚、変性反応に関しては、NaOHに代表されるアルカリ溶液を用いる方法がある。また、第1担体として磁気ビーズを用い、90℃前後にあらかじめ加熱した適当なバッファーで、マグネットに磁気ビーズを保持した状態でビーズを洗浄し、2本鎖DNAを熱変性により1本鎖化する方法も利用できる。オリゴA’の5’末端をあらかじめリン酸化しておくことで、5’リン酸化DNAの5’方向から3’方向へのモノヌクレオチド除去を触媒するλエキソヌクレアーゼを使用し、1本鎖化を行うことが可能である。この際も、第1担体として磁気ビーズを用い、マグネットを利用して磁気ビーズを捕捉することで、1本鎖化されたDNAが固定化された磁気ビーズを失うことなく、変性後の第2cDNA鎖やライゲーションの際に大過剰に投入された余剰プライマー結合部位A(第1断片)を確実に除去することが可能となる。
【0024】
次に、第1担体に固定された第1cDNA鎖の末端に挿入されたオリゴA(第1断片)と相補的な配列を含む第2プローブ(例えば、オリゴA')があらかじめ固定化された第2担体を用意する。第2担体としては、通常、固相担体を用い、好ましくは粒径1〜100 μm程度のセファロースビーズ粒子を用いる。しかし第2担体も第1担体と同様、水不溶性であれば特にその材料は限定されるものではない。しかし、後の工程において第1担体と第2担体を分離する必要があるため、これが実現可能なものを選択する必要がある。即ち、第1担体が第2担体と識別して分取可能であることが好ましい。例えば、第1担体が磁性体の場合は、第2担体は磁性体ではないことが望ましい。また、第1担体として多数の個別固相担体を用い、第2担体として、第1担体よりも表面積が大きな個別担体、あるいは一平面から構成される固相担体を用いることができる。例えば、第1担体としてビーズのように溶液中を自由に移動できるような多数の個別固相担体を用い、第2担体としてスライドガラスのような連続する一平面から構成される固相担体を用いてもよい。また、第2担体への第2プローブの固定化の方法についても特に限定されず、共有結合やイオン結合、物理吸着、生物学的結合(例えばビオチンとアビジン、またはストレプトアビジンとの結合、抗原と抗体との結合など)等による方法が挙げられる。
【0025】
3’末端に第1断片(例えば、オリゴA)が挿入され1本鎖化されたcDNAが固定化された第1担体と第2プローブ(例えば、オリゴA')が固定化された第2担体を混合し第1断片及び第2プローブの相補鎖結合反応を行い、続いて第1担体上の1本鎖化されたcDNAを鋳型として、第2担体に固定された第2プローブの伸長反応を行う。その結果、第2担体上に第2プローブ側(即ち5’末端)が固定化された状態の、第1担体上の1本鎖化されたcDNAと相補的な配列を有するDNA鎖を得ることができる。第1担体上のDNA鎖と第2担体上の第2プローブが相補鎖結合した後、2つの担体が相補鎖結合でつながっている間は、できる限り反応用液中で担体を撹拌しないように、即ち衝撃を与えないように注意を払い溶液の混合操作を行うことが好ましい。
【0026】
続いて、第1担体上の1本鎖化されたcDNAと第2担体に固定化されたDNA鎖の相補鎖結合によりつながっている、第1担体と第2担体を、制限酵素切断により分断する。その後、第2担体だけを分取することで、第1断片及び第2プローブからなる末端側が固定化され反対側末端は制限酵素切断された短断片を得ることが可能となる。制限酵素としては、例えば、4塩基認識酵素であるMboIが好ましく用いられるが、これに制限されない。
【0027】
いずれの担体にも固定化されていない制限酵素切断断片や、第1担体はこの工程で除去されるため、残るのは当初のmRNAと1対1に対応し、かつ片側末端にはPCR用プライマー結合部位となる第2プローブ(例えば、オリゴA’)及び第1断片(例えば、オリゴA)が挿入された断片が得られる。この断片の制限酵素切断側末端部(固定化された側とは反対側の末端)に2つ目のPCR用プライマー結合部位(数十塩基長DNAからなる第3断片(例えば、オリゴB)及び第3断片と相補的な配列の少なくとも一部を含む第4断片(例えば、オリゴB’)の相補鎖結合産物より構成される:アダプター2)をライゲーションにより挿入する。その結果、第2担体上に、当初のmRNAと1対1に対応し、第2担体側末端には1つ目のPCR用プライマー結合部位(第1断片及び第2プローブ、例えばオリゴA及びオリゴA’)が、第2担体に結合していない側の末端には2つ目のPCR用プライマー結合部位(第3断片及び第4断片、例えば、オリゴB及びオリゴB’)が挿入された断片を得ることができる。そして、第2担体に結合する2本鎖DNAにおいて、1つ目のPCR用プライマー結合部位と2つ目のPCR用プライマー結合部位とに挟まれた部分の配列を増幅し解析することでcDNAライブラリーの分析を行う。
【0028】
本発明の一実施形態においては、第2プローブに加えて、第3断片と相補的な配列の少なくとも一部を含む第4プローブが固定化された第2担体を用いて上記と同様に2本鎖DNA断片を調製し、これを1本鎖化した後、第2担体上で増幅反応を実施することができる。この増幅反応では、まず第2担体に固定化された1本鎖DNA分子が鋳型として働き、この1本鎖DNA分子の末端部が第2担体上に固定された第4プローブ(例えば、オリゴB’)と相補鎖を形成し、第4プローブが伸長することで新たなDNA鎖が第2担体上に生成される。この際、鋳型となる固定化1本鎖DNA分子は、同一ビーズ上の近接するオリゴにUの字を形成するように湾曲して相補鎖を形成し伸長産物も湾曲した形状をとる。熱変性による1本鎖化の工程において、この湾曲形状がほどかれ第2担体上に固定された1本鎖DNAとなって次サイクルにおける鋳型となる。最終的には第2担体上に多数の増幅産物が得られる。この実施形態においては、増幅産物の末端は常に第2担体上に固定化されており、溶液中を自由に浮遊することはできない。DNA鎖長に対して担体間距離は十分に大きく、伸長産物の第2担体に固定されているのとは反対側の末端が、固定されている担体とは別の担体上の固定化オリゴと相補鎖を形成することは難しい。即ち、第2担体上に固定化されたDNA分子の増幅産物だけが、同一担体上に固定化されることになる。
【0029】
本発明の方法によれば、2つ目のPCR用プライマー結合部位(第3断片及び第4断片、例えば、オリゴB及びオリゴB’)は、当初mRNAの下流側(mRNAの3’末端側)に挿入されるため、配列決定の際には第1断片(例えば、オリゴA)をプライマー配列部位として利用することで、より遺伝子特異性の高い配列情報を得ることが可能となる。
【0030】
上記のように2つの異なる担体を利用して調製されたcDNA断片は、当初遺伝子と1対1に対応しており、断片化されたcDNAの向きと両末端に挿入された2種類のPCR用プライマー結合の方向性が常に一定となる。さらに全工程においてDNA試料は常に担体上に固定化されており、B/F分離が容易となる点が特徴である。これは単一細胞のように微量サンプルを材料とする場合に問題となる反応工程途中でのサンプルのロスを回避する上で有効な手段である。
【0031】
本発明の方法において、第2担体としてビーズを用い、1ビーズに1断片以下のDNAしか固定化されない条件で調製が行われれば、1個のビーズ上に固定化されたDNA分子を初期鋳型としてエマルジョンPCRを行うことで、それぞれのビーズ上で1種類のcDNAから増幅された産物を得ることが可能となる。ビーズ径にあわせたセルを利用することなどにより、ビーズ1個1個を単離することは容易であり、増幅産物が固定化されたビーズを用いて配列解析を行うことが可能となる。以上のようにして、単一細胞レベルの試料から精製されたmRNAを用いて合成されたcDNAの個別並列増幅を行うことで、課題の解決が可能となる。
【0032】
本法により配列解析されるのは、逆転写反応産物の伸長末端側となる。逆転写反応の反応効率(第1cDNA鎖の伸長効率)は、mRNAの配列に大きく依存している。これは、mRNAが1本鎖のため2次構造をとりやすく、複雑な2次構造をとっていると逆転写酵素がそのような構造をとっているところより先の鎖に進めなくなることが主要因とされている。即ち、ある一種のmRNAに関しても、例えば500塩基長程度のところで多くは反応が止まってしまい、一部だけが500塩基長部分に存在すると思われるハードルを越えて更に逆転写が進む、というようなことが起こりうる。このため、同じ遺伝子を複数分子逆転写しても、逆転者産物の塩基長が全て揃うということはない。以上の理由から、本発明の方法では、伸びきったところの末端部の制限酵素断片の配列解析を行っているが、配列そのものを比較しても、遺伝子発現頻度の解析はできない。得られた配列情報をもとにデータベースを利用して遺伝子を同定し、その同定結果をもとに発現頻度の解析を行うこととなる。
【0033】
一方で、本発明の方法により得られる情報として、mRNAの2次構造のとりやすさの傾向、がある。即ち、各々遺伝子について逆転写産物の塩基長を解析することで、どの部分で伸長がとまりやすいかを判定でき、その部分がより複雑な構造をとっていることが推察できる。即ち、本発明の方法により、mRNAの発現頻度解析が行えるばかりでなく、cDNAライブラリーに含まれるcDNAの種類と量を調べることや、cDNAライブラリーに含まれるcDNAの種類ごとの構造の分布を調べることも可能になる。
【0034】
本発明はまた、一群のmRNAを鋳型として生成したcDNAライブラリーに含まれるcDNAを解析するためのキットに関する。本発明のキットは、poly(T)配列を含む配列からなる第1プローブが固定された第1担体と、第1断片<A>及び第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2断片<A’>からなるアダプター1と、第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2プローブが固定された第2担体と、第3断片<B>及び第3断片に相補的な配列の少なくとも一部を含む配列を有する第4断片<B’>からなるアダプター2とを含む。本発明のキットは、前記のほか、必要に応じて遺伝子増幅及び増幅産物の確認に利用可能な分子量マーカー、酵素、dNTP、NTP、緩衝液、減菌水、標品(標準菌株、標準DNAなど)等を含んだものとして構成される。上記キットにおいて第2担体には、第2プローブに加えて、第3断片に相補的な配列を含む配列を有する第4プローブ(オリゴB’)がさらに固定されていることが好ましい。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
単一細胞から精製されたmRNAの精製を固相担体1(第1担体)を用いて行い、固相単体2(第2担体)上で個別並列増幅を行う方法を、図1記載のフローに従って実施した。
【0036】
即ち、シャーレ上で培養された細胞を顕微鏡下で反応用チューブに採取し、細胞膜を溶解しmRNAを遊離させる(工程1)。続いて、固相担体1(第1担体)として用いる磁気ビーズ上にあらかじめ固定化されたオリゴ(dT)30(第1プローブ)とmRNAの相補鎖結合により、細胞溶解液中よりmRNAのみを単離精製する(工程2)。磁気ビーズ上で第1cDNA鎖及び第2cDNA鎖を合成した後(工程3)、末端平滑化の後アダプター1(第1断片及び第2断片)をライゲーションにより導入する(工程4)。ここまでの工程で、cDNAの末端poly(A/T)配列とは反対側の末端に、1つ目のPCR用プライマー結合部位が挿入される。続いて、cDNAを1本鎖化した後(工程5)、固相担体2(第2担体)として用いるセファロースビーズ上にあらかじめ固定化されたオリゴ(上記導入された第1断片と相補的な配列を含む第2プローブ)と、第1cDNA鎖に導入された第1断片とを相補鎖結合させ、1本鎖cDNAを鋳型として、上記オリゴの伸長反応を行う(工程6)。この工程により、セファロースビーズ上に、cDNAの配列が移管されたことになる。続いて2種ビーズ間を連結する2本鎖DNAを制限酵素により切断し(工程7)、セファロースビーズのみを分取する(工程8)。セファロースビーズ上に固定化されているDNAの制限酵素断片の末端に、アダプター2(第3断片及び第4断片)をライゲーションにより導入する(工程9)。以上の工程で、cDNA由来の制限酵素断片の両末端に1つ目のPCRプライマー結合部位であるアダプター1及び2つ目のPCRプライマー結合部位であるアダプター2が挿入される。このセファロースビーズを利用したエマルジョンPCRにより、DNA断片由来の増幅産物を個々のセファロースビーズ上に得ることが可能となる(工程10)。
【0037】
以下に反応工程の詳細を説明する。
本実施例の工程概略を図2に示す。固相担体1として、表面にストレプトアビジン基が修飾された磁気ビーズ(直径1 μm、Dynal BIOTECH社)を使用した。あらかじめよく懸濁したストレプトアビジン修飾磁気ビーズ溶液100 μL (1×109ビーズ)を2.0 mLマイクロチューブに測りとった。チューブ側面にマグネットを配置し磁気ビーズを捕捉した状態で、上清を除去した。ビーズを洗浄する目的で、150 μLの1×BW Buffer (5 mM Tris-Cl(pH7.5)、0.5 mM EDTA、1M NaCl、0.05%(w/v) Tween20)を加え室温でボルテックスミキサーを用いてビーズを撹拌した後、上清を除去した。本工程を再度繰返した。続いて、2×BW Buffer (10 mM Tris-Cl(pH7.5)、1 mM EDTA、2M NaCl、0.1%(w/v) Tween20)を200 μL加えた。5’末端にビオチン2分子が修飾され、続いてカーボン6つがスペーサーとして挿入されたオリゴ(dT)30溶液(2.5 pmol/μL) 200 μLを、上記ビーズ溶液にボルテックスミキサーで攪拌しながら添加した。室温で1時間撹拌振とうし(TOMY MT-360を使用)、オリゴ(dT)30をビーズ表面に固定化した。反応終了後、磁気ビーズに結合しなかった余剰オリゴ (dT)30を除去するため、マグネットを配置し磁気ビーズを捕捉した状態で、上清を除去した。ビーズを洗浄する目的で、150 μLの1×BW Buffer (5 mM Tris-Cl(pH7.5)、0.5 mM EDTA、1M NaCl、0.05%(w/v) Tween20)を加え室温でボルテックスミキサーを用いてビーズを撹拌した後、上清を除去した。本工程を再度繰返した。さらにRNaseを取り除くため、溶液A (0.1N NaOH、0.05M NaCl、DEPC処理済み)で2回、溶液B (0.1M NaCl、DEPC処理済み)で1回洗浄後上清を除去し、100 μLの滅菌水を添加してオリゴ (dT)30が固定化された磁気ビーズ懸濁液(1×107ビーズ/μL)とした。
【0038】
解析対象細胞の調製方法は以下の通りである。即ち、直径10 cmシャーレ内で各細胞に最適な倍地条件下で培養された細胞をリン酸緩衝液(pH7.4、GIBCO社) 3 mLで洗浄し、トリプシン1 mL (GIBCO社)を添加して37℃で3分間インキュベーションし、細胞をシャーレから剥離・浮遊させた。細胞懸濁液中のトリプシンを失活させるためAdvanced D-MEM培養液(グルタミン5%、非動化FBS 10%含)を3 mL添加した。この細胞懸濁液(4 mL)を15 mLチューブへ移し、遠心(1,000 rpm、3分、4℃)後、上清を除去した。15 mLチューブ底に集められた細胞塊を、10 mL程度のリン酸緩衝液 (pH7.4)で懸濁し、血球計算板 (Burker-Turk型)を用いて細胞数をカウントし、500細胞/mL程度に希釈調製した。この細胞希釈液100 μLを、96 well plate (FALCON社)の蓋のくぼみ(面積;2 cm2)へ移し、液滴を形成した。続いて、顕微鏡下(倍率100倍)で、ピペット(Drummond社、チップ先端径190 μm)を用い、1 μLのリン酸緩衝液(pH 7.4)と共に細胞1個を吸引した。この際、急激に吐出すると細胞が破砕してしまうため、200 μLチューブ(Axygen Scientific社、低吸着性チューブ)の底にあらかじめリン酸緩衝液(pH 7.4)を1 μL添加しておき、その中へチップの先端を挿入し、ゆっくりと細胞を吐出した。
【0039】
上記細胞の溶解は次のように行った。即ち、Super Script Cells Dirext cDNA Synthesis Systems (Invitogen社)添付のResuspension buffer 1 μL及びLysis Enhancer 0.1 μLを混和し、細胞が添加されている200 μLチューブへ加え、75℃10分間の熱処理により細胞を溶解した。続いて試料中に含まれるゲノムDNAを除去するために、試料を氷上にて3分間冷却後、DNaseI (1 unit/μL、Invitrogen社) 0.5 μL及び10×DNaseI buffer 0.36 μLを混和し室温で5分間インキュベートした。反応後速やかに、2.5 mM EDTAを1.2 μL加え70℃5分間の熱処理を行い、DNaseIを失活させた。
【0040】
続いて、先に調製したオリゴ(dT)30を固定化した磁気ビーズ101上でmRNAを精製し、cDNAの合成を行った。図2中に示す磁気ビーズ101には、図の簡略化のためオリゴ(dT)30(102)は1分子だけ詳細を記してある。即ち、オリゴ(dT)30固定化磁気ビーズ懸濁液(1×107ビーズ/μL)を1 μL、5 mM dNTPを1 μL、滅菌水を16.6 μL、上記DNase I処理を行った細胞溶解液に添加した。70℃5分のインキュベーションの後、4℃まで冷却した。これにより、磁気ビーズ101に固定されたオリゴ(dT)30(102)と細胞溶解液中のmRNA103の3’末端poly(A)配列(104)が相補鎖結合した。続いて、5×RT buffer 6 μL、0.1M ジチオスレイトール (DTT) 0.5 μL、RNaseOUT(商標)(40 units/μL、Invitrogen社) 0.5 μL、Super Script III RT (200 units/μL、Invitrogen社) 0.5 μL及び滅菌水0.5 μLを加え、ピペッティングにより混合した後、50℃で1時間反応させた。反応終了後、85℃90秒間の熱処理を行い酵素の失活を行った。この反応により、磁気ビーズ表面上に、mRNA103から逆転写された第1cDNA鎖(105)が合成された。ヒトの場合、1細胞中に含まれるmRNAの分子数は105〜106個とされており、本実施例においては、反応に利用した1×107ビーズのうち1/10〜1/100にcDNAが合成されたことになる。
【0041】
逆転写反応後、上清20 μLを除去した(残量約6 μL)。続いて、第2cDNA鎖(106)の合成反応を行った。上記反応溶液に、5×second strand buffer (100 mM Tris-Cl (pH6.9)、23 mM MgCl2、450 mM KCl、0.75 mM β-NAD+、50 mM (NH4)2SO4) 6 μL、5 mM dNTP 1.5 μL、E Coli. DNAリガーゼ(1 units/μL、Invitrogen社) 2 μL、E Coli. DNAポリメラーゼ (4 units/μL、Invitrogen社) 2 μL、E Coli. RnaseH (0.2 units/μL、Invitrogen社) 2 μL、を添加し、滅菌水10.5 μLを加え全量を30 μLとした。ピペッティングにより溶液を混合した後、16℃で2時間反応させた。反応終了後、2.5 mM EDTAを1 μL加え65℃10分間の熱処理を行い、酵素を失活させた後上清を除去した。ビーズを洗浄する目的で、50 μLの10 mM Tris-Cl(pH7.5)、0.1%(w/v) Tween20溶液を加え室温でボルテックスミキサーを用いてビーズを撹拌した後、上清を除去した。本工程を再度繰返した後、5.3 μLの滅菌水によりビーズを懸濁した。以上の反応により、5’末端が磁気ビーズ101に固定化された第1cDNA鎖(105)及びこれと相補的な配列を有する第2cDNA鎖(106)からなる2本鎖cDNAが磁気ビーズ101表面上に合成された。
【0042】
続いて、上記2本鎖cDNA(105及び106)のビーズに固定化されたのとは反対側の末端の平滑化処理を行った。本実施例の反応によれば、合成された2本鎖cDNAの末端は必ずしも平滑ではなく、第1cDNA鎖の3’末端側が突出しているものも複数存在すると考えられ、またこの場合、突出している部分の度合い(塩基数)は不明である。このため続くアダプター1のライゲーションを全cDNAに対して満遍なく行うため、末端部の平滑化(同一条件の末端を有するように処理する)が必要となる。即ち、ビーズ懸濁液5.3 μLに、10×Blunting buffer (1.2M Tris-Cl (pH8.0)、15 mM MgCl2、100 mM KCl、60 mM (NH4)2SO4、2 mM dNTP、1% TritonX-100、0.01% BSA) 0.7 μL、及びKOD ポリメラーゼ (0.5 units/μL、Toyobo社) 1 μLを添加し、ピペッティングにより溶液を混合した後、72℃で2分反応させ氷上に移した。続いて上清を除去した後、ビーズを洗浄する目的で、50 μLの10 mM Tris-Cl(pH7.5)、0.1%(w/v) Tween20溶液を加え室温でボルテックスミキサーを用いてビーズを撹拌した後、上清を除去した。本工程を再度繰返した後、7 μLの滅菌水によりビーズを懸濁した。
【0043】
続いて、第1のPCRプライマー結合サイトとなるアダプター1(108)をライゲーション反応により、上記平滑末端化処理済の2本鎖cDNAの末端に導入した。用意したアダプターはcDNAの末端にホスホジエステル結合により結合するオリゴA(第1断片:5’-TGCTGCCGTCATTGCTTA-3’)(109)及びこのオリゴと相補的な配列を有するオリゴA’(第2断片:5’-ATAAGCAATGACGGCAGCA-3’)(110)からなる。オリゴA(109)は、5’末端がリン酸基で修飾されており、ホスホジエステル結合が可能となっている。オリゴA’(110)は3’末端にリン酸基が修飾されていて、アダプター同士間での結合を防いでいる。また、オリゴA(109)はオリゴA’(110)より3’末端側が一塩基短い。これもアダプター同士間での結合を防ぐ機能となる。以上2種類のオリゴ溶液(それぞれ2 fmol/μL)を2 μLずつ混合し、72℃で2分間インキュベーションの後、0.1℃/secの割合で温度を4℃まで下げ、オリゴA(109)とオリゴA’(110)を相補鎖結合させ、2本鎖のアダプター1(108)を調製した。先に調製されたビーズ懸濁液に2本鎖のアダプター1(108)を1 μL、及びLigation High (Toyobo社) 8 μLを加え、16℃で1時間反応させた。続いて上清を除去した後、ビーズを洗浄する目的で、50 μLの10 mM Tris-Cl(pH7.5)、0.1%(w/v) Tween20溶液を加え室温でボルテックスミキサーを用いてビーズを撹拌した後、上清を除去した。本工程を再度繰返した後、4 μLの滅菌水によりビーズを懸濁した。以上の反応により、磁気ビーズ101に固定化されたのとは反対側のcDNA末端(107)に、PCR用プライマー結合部位となるアダプター1(108)が挿入された。この工程で挿入されたアダプター1側が、mRNAの3’末端、即ちpoly(A)末端から遠い側、即ちmRNAに特異性の高い配列側となる。
【0044】
続いて、磁気ビーズ上の2本鎖cDNAの1本鎖化を行った。上記ビーズ懸濁液の上清を除去した後、0.1N NaOH溶液10 μLを加え室温で1分間インキュベーションした。反応後速やかに上清を除去し、ビーズを洗浄する目的で、50 μLの10 mM Tris-Cl(pH7.5)、0.1%(w/v) Tween20溶液を加え室温でボルテックスミキサーを用いてビーズを撹拌した後、上清を除去した。本工程を再度繰返した後、60 μLの滅菌水によりビーズを懸濁した。以上の反応により精製された、磁気ビーズ上の1本鎖cDNA (105)は、ビーズ固定側末端(5’末端)はpoly(T)配列から構成され、3’末端にはオリゴA (109)が配置された構成をとる。本工程は続く、固相担体2上に固定化されたオリゴA’(第2プローブ)との相補鎖結合を確実なものにするため、必須の工程である。
【0045】
次に、固相担体2としてセファロースビーズ(直径34 μm、GEヘルスケアバイオサイエンス社)(112)を用い、このビーズ上にあらかじめ固定化されたオリゴA’(113)と磁気ビーズ101に固定化されたcDNAの末端配列A(109)との相補鎖結合反応を行った。これに先立ち、オリゴA’(113)のセファロースビーズ(112)への固定化を行った。カラムに充填されたセファロースビーズ(カラム容量1mL、ビーズ3.6×107個相当)をイソプロパノール500 μLで懸濁し、ビーズ懸濁液の半量(約750 μL)をHandee Spin Columns(2mL用、Pierce社)に移し、遠心操作により(1,500rpm 1分)イソプロパノールを除去した。次に、あらかじめ冷却した1 mM HClを1.2 mL加え撹拌した後、遠心操作により(1,500rpm 1分)HClを除去した。遠心後、直ちにオリゴA’溶液を370 μL加え(12.5 nmol、20mMリン酸バッファー(pH8.0))、全体を撹拌して混合した。オリゴA’は、5’末端がアミノ基で修飾されており、塩基との間には18原子のヘキサエチレングリコールからなるスペーサーが配置されている構造をとっている(5’-TGATAAGCAATGACGGCAGCA-3’)。時々撹拌しながら室温で1.5時間反応させた。未反応のオリゴA’の除去及び活性基の不活化のため、洗浄液(0.5M エタノールアミン、0.5M NaCl、pH8.3)を1.8 mL加え攪拌した後、室温で30分間インキュベーションした。その後、遠心操作(1,500rpm、1分)により溶液を除去した。続いてバッファー交換の目的で、保存溶液(50mM Tris、0.02% Tween80、pH8.0)を1 mLを加え遠心した(1,500rpm、1分)。この工程を再度繰り返した後、保存溶液で懸濁し、オリゴA’固定化セファロースビーズとした。ビーズの濃度は血球計算板により測定し、1×104ビーズ/μLに調製し続く反応に使用した。
【0046】
1本鎖化されたcDNA固定化磁気ビーズ溶液0.6 μL(105ビーズ)に対して、5 mM dNTP mix を1 μL及び10×Thermo pol buffer (New England Biolabs社; 20 mM Tris-HCl、10 mM (NH4)2SO4、10 mM KCl、2 mM MgSO4、0.1 % Triton X-100 pH 8.8)を1 μL及び滅菌水を5.4 μL加えた。更に、オリゴA’固定化セファロースビーズ(112)を1 μL (1×104ビーズ/μL)加え、ピペッティングにより混合した。続いて、94℃30秒で完全にDNAを変性させた後、80℃まで温度を下げ、そこから0.04℃/secの割合で4℃までゆっくりと温度を下げ、磁気ビーズ上の1本鎖cDNAの末端部分とセファロース上のオリゴA’の相補鎖結合反応を行った。反応後、Bst DNAポリメラーゼ(2.5 units/μL)を1 μL加え、チューブ底に沈殿している磁気ビーズ及びセファロースビーズを乱さないように上清のみをピペッティングにより混合した。伸長反応は65℃で30分間行い、反応後チューブを氷上に移した。以上の反応により、セファロースビーズ112上に固定化されたオリゴA’(113)が磁気ビーズ101上に固定化された第1cDNA鎖(102、105及び109で構成)を鋳型として伸長し磁気ビーズ上のcDNA鎖と相補的な配列を有するDNA 114(第3伸長鎖)がセファロース112上に固定化されたことになる。また磁気ビーズとセファロースが、相補鎖結合する2本鎖DNA (102、105及び109で構成される鎖と113及び114により構成される鎖)によりつながった構造をとる産物が調製されたことになる。本工程により、解析対象のcDNAがmRNA精製用の磁気ビーズ(第1担体)から増幅用のセファロースビーズ(第2担体)へと移管されたことになる。
【0047】
固相担体上での個別並列増幅を実現するためには、個別並列増幅に使用するオリゴ(PCR用プライマー)があらかじめ固相担体上に固定化されている必要がある。本実施例で使用した、磁気ビーズ上にオリゴ(dT)30と同時にPCR用プライマーを固定化することも可能であるが、この場合、mRNAの精製に関与しないオリゴが固相担体上に多数存在することで精製精度及び捕獲率が低下すると考えられる。一方で、オリゴ(dT)30はPCR用プライマーとしては使用できない。このためオリゴ(dT)30と同時にPCR用プライマーが固定されることにより、PCR用プライマーの固相担体上での占有面積、即ち固定化分子数が減ることになり、PCR用プライマーのみが固定化されている場合に比べ増幅反応産物が減少することになる。このため、mRNAの精製及びそこから合成されたcDNAの個別並列増幅を実現するためには、2種類の固相担体の使用が必須となる。
【0048】
本工程では、ヒトのmRNAの鎖長である約500塩基〜2,000塩基から逆転写された産物を1本鎖に精製した産物を反応に使用している。このため、自身の中で2次構造をとる可能性が高く、この構造がセファロースビーズ上のオリゴA’との相補鎖結合を阻害する可能性が高い。これを防ぐため、Single Strand Binding Proteinを添加し、1本鎖構造を安定化させることも可能である。さらには、耐熱性のSingle Strand Binding Protein であるExtreme Thermostable Single Strand Binding Protein (New England Biolabs社)や、同様の効果をもつTth RecA (New England Biolabs社)等は、65℃で反応するBst DNAポリメラーゼ使用時にも併用でき、1本鎖の安定化に効果的である。
【0049】
続いて、磁気ビーズ101とセファロースビーズ112を制限酵素によって切り離す反応を行った(図中制限酵素切断部位を矢印115で示す)。即ち、磁気ビーズ101及びセファロースビーズ112の相補鎖結合産物の溶液の上清を8 μL除去した後(溶液残約2 μL)、10×NEB buffer 3 (New England Biolabs社; 100 mM NaCl、50 mM Tris-Cl、10 mM MgCl2、1 mM DTT、pH7.9) を1 μL、MboI (New England Biolabs社;GATC配列を認識しGATCの5’側を切断) を1 μL及び滅菌水を6 μL加え、37℃で1時間反応した。反応後、マグネットを利用して磁気ビーズトラップした状態で、磁気ビーズ以外のセファロースビーズを含む反応溶液を回収した。回収した溶液を遠心し、沈殿したセファロースビーズを吸わないように注意しながら上清のみを除去した。10 mM Tris (pH7.6)、0.1%(w/v) Tween20溶液で2回セファロースビーズを洗浄した後、上清を除去し、7 μLの滅菌水にビーズを懸濁した。以上の反応で、磁気ビーズとセファロースビーズをつなぐ形で配置されていた2本鎖DNAのセファロース側制限酵素切断断片116だけが、セファロース112上に残り、残りの磁気ビーズ101上に固定化された断片及びいずれのビーズにも固定化されていなかった断片は除去された。
【0050】
本実施例においては、制限酵素に4塩基認識酵素であるMboIを用いた。本酵素は、これまでのヒトゲノムプロジェクトにおいて頻繁に使用された酵素であるが、認識部位がヒトゲノム上においてより均等に出現する酵素であることが知られている。また、その切断平均塩基長は44=256塩基である。ヒトのmRNAの鎖長が約500塩基〜2,000塩基であることを考えると、最低1箇所以上は認識部位があると考えられ全てのcDNAに対してもれなく同じ効果を期待できる制限酵素である。また、PCR反応の効率も300塩基長程度はその増幅効率が最高に近いため、この点からも最適な制限酵素であるといえる。さらには、約500塩基〜2,000塩基と鎖長の分布に開きがあると、一定のPCRの反応条件ではその増幅効率に差が出てしまう(一般的に、鎖長により伸長ステップの反応時間を決定するため)。一方で、制限酵素切断により増幅対象となるDNAの鎖長が平均化されるため、同一条件を全ての断片に適合させることが可能となる。一方で、制限酵素の種類は非常に多くまた年々その種類も増えていっているため、MboI以外でも同じ効果をもたらす制限酵素はあると考えられ、本実施例を実現する際に用いる制限酵素をMboIに限定する必要は無い。
【0051】
本実施例においては、磁気ビーズ上のDNA鎖とセファロース上のオリゴA’が相補鎖結合した後2種のビーズが相補鎖結合でつながっている間は、できる限り反応用液中においてビーズを撹拌しないように、即ち衝撃を与えないように注意を払い溶液の混合操作を行った。これは、ビーズ間をつなぐ接着剤の役割をする相補鎖結合が、撹拌の方法によっては片方のビーズが物理的に引っ張られるなどの理由で、解離してしまう可能性を懸念したためである。このことを確認するため、あらかじめ使用した磁気ビーズ(105ビーズ)上に既知分子数(9.71×103分子の1本鎖DNA)のDNAが固定化された試料を用い、セファロースビーズ上へのDNAの移管の効率をリアルタイムPCRにより定量した。リアルタイムPCRでは、図3に示すプライマー及びプローブを用いた。即ち、フォワードプライマー131は、セファロース上のオリゴA’の配列を一部含み、リバースプライマー132は増幅産物が273塩基長になる位置の反対鎖からなる配列により構成され、その間にMGBプローブ133(Applied Biosystems社)をデザインした。このプローブを用いることで、セファロースビーズ上に固定化された第2プローブ(オリゴA’)の伸長産物だけが、定量解析されることになる。Premix Ex Taq (Takara社)を使用しメーカー推奨の方法によりリアルタイムPCRを行った。その結果、ビーズを含む溶液全体を均等に混合した場合に比べ、沈殿させたビーズ層を乱さないように混合した場合のほうが、約1.6倍反応効率がよいことがわかった(図4)。2種のビーズが共存する状態で酵素を加える工程は、伸長反応用のBst DNAポリメラーゼを加える時と、制限酵素MboIを加える際の2箇所である。酵素添加後は、伸長反応は65℃で、制限酵素切断反応は37℃で行われる。これらの温度下において、反応対象となるビーズと酵素を含む反応溶液を均一になるよう懸濁しなくても、酵素が十分に溶液中を動き回り、ビーズ上のDNAとも遭遇できることを意味している。一方で、ビーズをピペッティング操作により懸濁することで、せっかく形成された相補鎖結合を解離してしまうことを裏付ける結果でもある。以上の結果から、ビーズ2種が相補鎖結合により連結している状態の反応工程においては、ビーズを懸濁することなく反応溶液全体のビーズを含まない上清の部分のみで攪拌操作をおこなうのが有効であることが確認できた。
【0052】
続いて、セファロースビーズ上のDNA断片のビーズ固定化側とは別の末端に、第2のPCRプライマー結合サイトとなるアダプター2(117)をライゲーション反応により挿入した。用意したアダプターはDNA断片の末端にホスホジエステル結合により結合するオリゴB(第3断片:5’-GATCCTTTACGCTTGCCTTTAGTACCT-3’)(118)及びこのオリゴBと相補的な配列の少なくとも一部を含むオリゴB’(第4断片:5’-GAGGTACTAAAGGCAAGCGTAAAG-3’)(119)からなる。オリゴB(118)は、5’末端がリン酸基で修飾されており、ホスホジエステル結合が可能となっている。オリゴB’(119)は3’末端にリン酸基が修飾されていて、アダプター同士間での結合を防いでいる。また、オリゴB(118)はオリゴB’(119)より3’末端側が一塩基短い。これもアダプター同士間での結合を防ぐ機能を有する。以上2種類のオリゴ溶液(2 fmol/μL)を2 μLずつ混合し、72℃で2分間インキュベーションの後、0.1℃/secの割合で温度を4℃まで下げ、オリゴB(118)とオリゴB’(119)を相補鎖結合させ、2本鎖のアダプター2(117)を調製した。この2本鎖アダプター溶液を、上記セファロースビーズ(116)懸濁液に1 μL加え、更にLigation High (Toyobo社) 8 μLを加え、16℃で1時間反応させた。反応後溶液を遠心し、沈殿したセファロースビーズを吸わないように注意しながら上清のみを除去した。10 mM Tris (pH7.6)、0.1%(w/v) Tween20溶液50 μLで2回セファロースビーズを洗浄した後、上清を除去し、4 μLの10 mM Tris (pH7.6)、0.1%(w/v) Tween20溶液によりビーズを懸濁した。以上の反応で、セファロースビーズ上に固定化された、第1cDNA鎖の3’側MboI切断断片の両側にアダプター1(108)とアダプター2(117)が挿入されたDNAが調製された。
【0053】
セファロースビーズ上に磁気ビーズ上のDNAが移管され、かつ、セファロースビーズ上のDNA断片の両側に2種類のプライマー結合部位が挿入され、その方向性が制御できていることを確認するため、あらかじめ既知分子数(7.42×103分子の1本鎖DNA)のDNAが固定化された磁気ビーズ(105ビーズ)を試料として用い、反応の結果をリアルタイムPCRにより定量評価した。リアルタイムPCRに用いた磁気ビーズ上のDNA分子を図5に示す、フォワードプライマー120及びリバースプライマー121及びMGBプローブ122を用いた。セファロースビーズ上のDNA分子の定量については、図6に示すように、2箇所に測定箇所を設定した。即ち、1箇所目は、セファロースビーズ上のDNA分子がオリゴA’の伸長産物であることを確認するため、フォワードプライマー131は、セファロース上のオリゴA’の配列を一部含み、リバースプライマー132は増幅産物が273塩基長になる位置の反対鎖からなる配列により構成され、その間にMGBプローブ133をデザインした。2箇所目は、セファロースビーズ上のDNA分子反対側末端にアダプター2が挿入されていることを確認するため、フォワードプライマー123は、セファロース上のオリゴB’の配列を一部含み、リバースプライマー124は増幅産物が180塩基長になる位置の反対鎖からなる配列により構成され、その間にMGBプローブ125をデザインした。Premix Ex Taqを使用しメーカー推奨の方法によりリアルタイムPCRを行った。その結果、磁気ビーズ(105ビーズ)上の7.42×103分子(図7中グラフ1)のうち54%がセファロースビーズ上にオリゴA’の伸長産物として移管されていて(図7中グラフ2)、そのうち80%は反対側末端にアダプター2が挿入されていることが定量的に確認された(図7中グラフ3)。
【0054】
続いて、上記セファロースビーズ上に固定化されたDNAの増幅をエマルジョンPCR法により行った。あらかじめ、水/オイルエマルジョンの調製を行った。エマルジョン用オイルは、DC 5225C Formulation Aid (DowCorning社)を50%(v/v)、BY11-018(東レDowCorning社)を25%(v/v)、及びAr20 Silicone Oil (Fluka社) を25%(v/v)の比率で混合したものである。続いて、10×HiFi PCR Buffer (Invitrogen社)を6 μL、50mM MgSO4を3 μL、1%(W/V) Tween20を0.6 μLを混合し、滅菌水で60 μLにメスアップしたプレPCR溶液を調製した。このプレPCR溶液60 μLとエマルジョン用オイル100 μLを2mLチューブに入れ、10回指でタッピングした後、ボルテックスミキサーで約3秒混合し水/オイルのエマルジョン溶液を調製した。続いて、10×HiFi PCR Buffer (Invitrogen社)を4 μL、50mM MgSO4を2 μL、25 mM dNTPを1.6 μL、先に使用したオリゴA’と同じ配列を有するが5’末端は未修飾のプライマーA’(5 μM)を0.312 μL、同様に先に使用したオリゴB’と同じ配列を有するが3’末端は未修飾のプライマーB’(5 μM)を5 μL、1%(W/V) Tween80を0.4 μL、Platinum Taq DNA Polymerase High Fidelity (5 units/μL)を1.2 μL、熱耐性ピロフォスファターゼ (0.5 units/μL) を0.24 μLを混合し、滅菌水で40 μLにメスアップしたPCR溶液を調製した。続いて、上記セファロースビーズ懸濁液(1×104ビーズ)を遠心して上澄みを除去し、1×HF buffer(60 mM Tris-SO4(pH8.9)、18 mM 硫酸アンモニウム)を30 μL加え、セファロースビーズを懸濁した。室温で2分間インキュベーションした後、遠心し、セファロースビーズをチューブ底に沈め、上清を除去した。このセファロースビーズにPCR溶液40 μLを加え、ピペッティングで混合した後室温で5分間インキュベーションした。その後、セファロースビーズを含むPCR溶液を、水/オイルのエマルジョン溶液160 μLに加え、10回タッピング後、ボルテックスミキサーで1〜2秒混合した。調製したビーズ入りエマルジョン溶液(ビーズ/水/オイルエマルジョン)を、0.2mLチューブ8本に25 μLずつ分注した。94℃4分の後、(94℃30秒、55℃60秒、68℃90秒)×40-60サイクル、続いて、(94℃30秒、55℃6分)×13サイクル、計53〜73サイクルの熱サイクル条件で反応を行った。反応終了後、イソプロパノールを62.5 μL/tube添加してエマルジョン溶液と混合しエマルジョンを解消した後、8本分のセファロースビーズ懸濁液を2 mLチューブに回収した。懸濁液をボルテックスミキサーで10秒間攪拌した後、遠心(12,000 rpm、1分)し、上清(オイル層)のみを除去した。チューブに残ったセファロースビーズ懸濁液を、フィルタユニット(ウルトラフリーMCHV; ミリポア社)に移し、遠心(8,000rpm、1分)の後、溶液を除去した。ビーズ洗浄のため、イソプロパノールを500 μL加えてビーズをボルテックスミキサーで攪拌した後、遠心(8,000rpm、1分)し、溶液を除去した。この操作を再度繰り返した。続いて、75%エタノール溶液を500 μL加えてビーズをボルテックスミキサーで攪拌した後、遠心(8,000rpm、1分)し、溶液を除去した。最終的に、10 mM Tris(pH7.5)、0.1%(W/V) Tween20を 500 μL加えボルテックスミキサーにより攪拌した後、ビーズ懸濁液をチューブに回収した。以上の工程により、先にセファロースビーズ上に固定化された、第1cDNA鎖の3’側MboI切断断片の両側にアダプター1とアダプター2が挿入されたDNA断片について、それぞれのセファロースビーズ上で個別に増幅された産物がセファロースビーズ上で固定化された状態で得られた。
【0055】
本実施例においては、当初使用の磁気ビーズ1×107ビーズのうち1/10〜1/100にcDNAが合成されている。続く反応では、磁気ビーズ1×105に対して、1×104のセファロースビーズを使用した。磁気ビーズ1×105の1/10〜1/100、即ち、103〜104のビーズについて、ビーズ当り1分子の割合でcDNAが固定化されていることになり、セファロースビーズ1個当り、1分子以下のcDNAとなる。エマルジョンPCR法では、オイルの中に分散した各水滴を独立した反応槽とし、各反応槽あたり1以下のセファロースビーズとなる条件下で増幅反応を行っている。セファロースビーズ間で増幅産物が混合されることがないため、反応後のセファロースビーズ上には1分子以下のcDNAをスタートマテリアルとする同一種の増幅産物のみが固定化されている。即ち、本実施例により、単一細胞レベルの試料から精製されたmRNAの個別並列増幅が可能であることが示された。
【0056】
(実施例2)
固相担体2として用いるセファロービーズの調製は、以下に述べる方法でも実施可能である。
【0057】
即ち、セファロースビーズ上に第1のPCRプライマー結合サイトとなるオリゴA’(第2プローブ)及び第2のPCRプライマー結合サイトとなるオリゴB’(第4プローブ)を固定化する。固定化の詳細は以下の通りである。カラムに充填されたセファロースビーズ(カラム容量1mL、最密充填でビーズ3.6×107個相当)をイソプロパノール500 μLで懸濁し、ビーズ懸濁液の半量(約750 μL)をHandee Spin Columns(2mL用、Pierce社)に移し、遠心操作により(1,500rpm 1分)イソプロパノールを除去した。次に、あらかじめ冷却した1 mM HClを1.2 mL加え撹拌した後、遠心操作により(1,500rpm 1分)HClを除去した。遠心後、直ちにアミノ基修飾オリゴA’及びB’溶液をそれぞれ185 μL加え(12.5 nmol、20mMリン酸バッファー(pH8.0))、全体を撹拌して混合した。アミノ基修飾オリゴヌクレオチドは、5’末端にアミノ基が修飾されており塩基との間には18原子のヘキサエチレングリコールからなるスペーサーが配置されている構造をとっている。時々撹拌しながら室温で1.5時間反応させた。未反応のプライマーの除去及び活性基の不活化のため、洗浄液(0.5M エタノールアミン、0.5M NaCl、pH8.3)を1.8 mL加え攪拌した後、室温で30分間インキュベーションした。その後、遠心操作(1,500rpm、1分)により溶液を除去した。続いてバッファー交換の目的で、保存溶液(50 mM Tris、0.02% Tween80、pH8.0)を1 mLを加え遠心した(1,500rpm、1分)。この工程を再度繰り返した後、保存溶液で懸濁し、オリゴA’及びオリゴB’固定化セファロースビーズとした。
【0058】
以上の方法で調製されたオリゴA’(202)及びオリゴB’(203)固定化セファロースビーズ201を用いて、実施例1に記載の方法でcDNA断片を調製した結果、セファロースビーズ上に固定化された、第1cDNA鎖の3’側MboI切断断片の両側にアダプター1(202及び204)とアダプター2(205及び206)が挿入された2本鎖DNA断片が得られた。続いて上記セファロースビーズ上に固定化されたDNAの増幅を、ビーズ上で行った(図8)。最初にセファロースビーズ上のDNAの1本鎖化を行った。これは、末端が固定化されていないDNA分子が、増幅工程において溶液中を自由に浮遊し、オリジナルとは異なるビーズ上へ移動するのを防ぐためである。即ち、ビーズ懸濁液の上清を除去した後、0.1N NaOH溶液30 μLを加え室温で5分間インキュベーションした。反応後速やかに上清を除去し、ビーズを洗浄する目的で、50 μLの10 mM Tris-Cl(pH7.5)、0.1%(w/v) Tween20溶液を加え室温でボルテックスミキサーを用いてビーズを撹拌した後、遠心によりビーズをチューブ底に沈め、静かに上清を除去した。本工程を再度繰返し、セファロースビーズ上に1本鎖のDNA分子209を得た。続いて、セファロースビーズ104個に対し、10×PCRバッファー(Tris-Cl、KCl、(NH4)2SO4、15 mM MgCl2; pH 8.7)2.5 μL、25 mM MgCl2 0.5 μL、10mM dNTP Mix 0.5 μL、5×Q-solution (QIAGEN社)及びTaq DNAポリメラーゼ (QIAGEN社) (5units/μL) 5 μLを混合し、滅菌水で全溶液量を25 μLに調製した反応溶液を準備しこの溶液でビーズを懸濁した。懸濁後、スライドガラス上の9 mm×9 mm×0.3 mm のスペーサー(Frame-Seal Chamber; MJ Research社)で囲われたエリアにビーズ懸濁液を展開し、上からカバーグラスでシールしスライドグラス用サーマルサイクラーPx2 Thermal Cycler (Thermo Scientific社)を用いて反応を行った。温度条件は次の通りである。即ち、94℃ 30秒間(熱変性によるDNAの1本鎖化)→50℃ 60秒間(ビーズ上固定化プローブとの相補鎖結合)→72℃ 30秒間(プローブの相補鎖伸長反応)のサイクルを50回行い、最後に72℃ 10分間を経て室温に下げた。この増幅工程211においては、最初の工程ではビーズ固定化1本鎖DNA分子209が鋳型として働く。この1本鎖DNA分子209の末端部206がビーズ上に固定されたオリゴB’203と相補鎖を形成し、オリゴB’203が伸長することで新たなDNA鎖(オリゴB’の相補鎖伸長産物212及び213)がビーズ上に生成された。この際、鋳型となるビーズ固定化1本鎖DNA分子は、同一ビーズ上の近接するオリゴにUの字を形成するように湾曲して相補鎖を形成し伸長産物も湾曲した形状をとる。熱変性による1本鎖化の工程において、この湾曲形状がほどかれビーズ上に固定された1本鎖DNAとなって次サイクルにおける鋳型となる。最終的にはビーズ上に多数の増幅産物が得られた。本実施例においては、増幅産物の末端は常にビーズ上に固定化されており、溶液中を自由に浮遊することはできない。また反応溶液をスライドガラス上で平面に展開することによりビーズ当りの平面における占有面積は2×104 μm2(セファロースビーズ径は約34 μm)となる。DNA鎖長に対してビーズ間距離は十分に大きく、伸長産物のビーズに固定されているのとは反対側の末端が、固定されているビーズとは別のビーズ上の固定化オリゴと相補鎖を形成することは難しい。即ち、セファロースビーズ上に固定化されたオリジナルのDNA分子の増幅産物だけが、同一ビーズ上に固定化されることになる。
【0059】
増幅反応後、セファロースビーズをセファロースビーズ径に合わせた孔が多数あいたセル上に展開し、ビーズを個別に保持しこのセル上で配列決定反応を行った。配列決定に際しては、増幅産物のビーズ側末端配列オリゴA’と相補的な配列部分を有するオリゴAを配列決定用プライマー(シーケンスプライマー)として用いた。得られた配列情報を元にデータベースを用いて遺伝子の同定を行い、遺伝子の種類のバリエーション及び、各遺伝子の頻度分布解析が可能となった。
【0060】
ここで得られる情報は、図2における第1cDNA鎖の伸長末端部分の配列に相当する。逆転写反応の反応効率(第1cDNA鎖の伸長効率)は、mRNAの配列依存で変化する2次構造により異なる。即ち、伸長反応は、全長のmRNAの構造が複雑なところではストップしやすく、また平易な構造のところでは容易に進む。このため、本実施例により得られる配列情報は、遺伝子が同じであっても、逆転写反応産物がどの程度伸長したかにより異なる。一方で、得られた配列情報から遺伝子を特定し、各遺伝子のどの部分の配列が頻出していたか、もしくはレアであったかを解析することにより、2次構造のとりやすさの傾向分析が可能となる。
【0061】
本実施例は、セファロースビーズの代わりにスライドガラスに代表される一平面からなる固相担体を用いることによっても実現可能である。即ち、あらかじめ、第1のPCRプライマー結合サイトとなるオリゴA’及び第2のPCRプライマー結合サイトとなるオリゴB’を固定化する。固定方法は特に限定されず、共有結合やイオン結合、物理吸着、生物学的結合(例えばビオチンとアビジン、またはストレプトアビジンとの結合、抗原と抗体との結合など)等による方法が挙げられる。このスライドガラスに実施例1に記載の方法により1本鎖化されたcDNA磁気ビーズが均一に懸濁された溶液を、19 mm×60 mm×0.3 mm のスペーサー(Frame-Seal Chamber; MJ Research社)で囲われたエリアに展開し、以下の反応については、実施例1に記載の方法に従う(但し、全ての反応工程において、反応溶液の最終ボリュームが300 μLになるよう各溶液を等倍して調製)。その結果、スライドガラス上に固定化された、第1cDNA鎖の3’側MboI切断断片の両側にアダプター1(204及び205)とアダプター2(206及び207)が挿入された2本鎖DNA断片が得られる。各工程における洗浄は、スライドガラスを10 mM Tris-Cl(pH7.5)、0.1%(w/v) Tween20溶液で洗浄することにより行う。このスライドガラス上に固定化された試料を鋳型とし、スライドガラス上で、上記セファロースビーズ上で行ったのと同様の増幅反応を行うことで、片側末端がスライドガラスに固定化された増幅産物を得ることができる。この際、増幅産物はスライドガラス上にクラスタ上に形成される。スライドガラス上に固定化されたオリゴは細密で固定化された場合で、100nm2/オリゴである。一方、スペーサーで区切られたエリアは1.14×1015 nm2であり磁気ビーズ105個(うち1/10〜1/100のビーズにcDNAが固定されている)を展開したときのビーズあたり反応エリアは1.14×1010 nm2となる。増幅効率は〜106倍(分子)であり、1種類のcDNAから形成されるクラスタが、隣のクラスタと重なり合うことは無く、個々のcDNAの増幅産物から形成される独立したクラスタを得ることが可能である。
【0062】
即ち、本実施例により、単一細胞レベルの試料から精製されたmRNAの個別並列増幅が可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の反応工程を示す。
【図2】本発明の反応工程の一実施形態を示す図である。
【図3】本発明のビーズ2種を含む反応溶液の攪拌方法を検証するためのリアルタイムPCR解析におけるプライマー及びプローブの位置を示す図である。
【図4】本発明のビーズ2種を含む反応溶液の攪拌方法の検証結果を示す図である。
【図5】本発明における反応が動作しているかの検証をするためのリアルタイムPCR解析におけるプライマー及びプローブの磁気ビーズ上DNA試料における位置を示す図である。
【図6】本発明における反応が動作しているかの検証をするためのリアルタイムPCR解析におけるプライマー及びプローブのセファロースビーズ上DNA試料における位置を示す図である。
【図7】本発明における反応が動作しているかの検証結果を示す図である。
【図8】本発明の反応工程の一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
101:第1担体(磁気ビーズ)、102:第1プローブ(オリゴ(dT)30)、103:mRNA、104:poly(A)配列、105:第1cDNA鎖、106:第2cDNA鎖、107:cDNA末端、108:アダプター1、109:第1断片(オリゴA)、110:第2断片(オリゴA')、112:第2担体(セファロースビーズ)、113:第2プローブ(オリゴA')、114:第3伸長鎖、115:制限酵素切断部位、116:セファロース側制限酵素切断断片、117:アダプター2、118:第3断片(オリゴB)、119:第4断片(オリゴB')、120:フォワードプライマー、121:リバースプライマー、122:MGBプローブ、123:フォワードプライマー、124:リバースプライマー、125:MGBプローブ、131:フォワードプライマー、132:リバースプライマー。133:MGBプローブ、201:第2担体(セファロースビーズ)、202:第2プローブ(オリゴA')、203:第4プローブ(オリゴB')、204:第1断片(オリゴA)、205:第4断片(オリゴB')、206:第3断片(オリゴB)、211:増幅工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一群のmRNAを鋳型として生成したcDNAライブラリーに含まれるcDNAを解析する方法であって、
第1担体に固定されたpoly(T)配列を含む配列からなる第1プローブとmRNA試料とを相補鎖結合させる工程と、
前記mRNA試料を鋳型として、逆転写酵素を用いて前記第1プローブを伸長させ、第1伸長鎖<第1cDNA鎖>を生成させ、前記第1伸長鎖からなるcDNAライブラリーを調製する工程と、
前記第1伸長鎖である第1cDNA鎖を鋳型とし、前記mRNAの部分的分解物をプライマーとする相補鎖合成伸長反応により第2伸長鎖<第2cDNA鎖>を生成する工程と、
前記逆転写酵素によって伸長された端部に対応する、前記第1伸長鎖である第1cDNA鎖の3’末端及び前記第2伸長鎖である第2cDNA鎖の5’末端へ、第1断片<A>及び前記第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2断片<A’>を各々導入する工程と、
第2担体に固定されてかつ前記第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2プローブと前記第1cDNA鎖に導入された第1断片とを相補鎖結合させる工程と、
前記第1伸長鎖を鋳型として、前記第2プローブを伸長させ、第3伸長鎖を生成する工程と、
前記第1伸長鎖と前記第3伸長鎖との2本鎖を制限酵素により切断し、前記第1担体に結合するDNA断片と前記第2担体に結合するDNA断片とを分離し、少なくとも前記第2担体に結合するDNA断片を得る工程と、
前記結合断片の前記第2プローブの伸長鎖の3’末端及び前記第2プローブの伸長鎖の相補鎖の5’末端へ、第3断片<B>及び前記第3断片に相補的な配列の少なくとも一部を含む配列を有する第4断片<B’>を各々導入する工程と、
前記第2担体に結合するDNAにおいて、前記第1断片及び前記第2プローブからなる2本鎖と第3断片及び第4断片からなる2本鎖とに挟まれた部分の配列を解析することでcDNAライブラリーの分析を行うことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
第1担体が第2担体と識別して分取可能であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1担体及び第2担体の一方が磁性体であり他方が磁性体でないことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
磁性体が磁気ビーズであることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
第1担体が多数の個別固相担体からなり、第2担体は、第1担体よりも表面積が大きな個別担体であるか、あるいは一平面から構成される固相担体であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
第2担体に結合するDNAにおいて、第1断片及び第2プローブからなる2本鎖と第3断片及び第4断片からなる2本鎖に挟まれた部分を、第1断片の配列の少なくとも一部を含むプライマーと第3断片の配列の少なくとも一部を含むプライマー、または第2プローブの配列の少なくとも一部を含むプライマーと第4断片の配列の少なくとも一部を含むプライマーを用いて増幅する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
cDNAライブラリーの分析を行うことにより、cDNAライブラリーに含まれるcDNAの種類と量を調べることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項8】
cDNAライブラリーの分析を行うことにより、cDNAライブラリーに含まれるcDNAの種類ごとの構造の分布を調べることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項9】
第2担体に、第3断片に相補的な配列の少なくとも一部を含む配列を有する第4プローブがさらに固定されていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
一群のmRNAを鋳型として生成したcDNAライブラリーに含まれるcDNAを解析するためのキットであって、
poly(T)配列を含む配列からなる第1プローブが固定された第1担体と、
第1断片<A>及び第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2断片<A’>からなるアダプター1と、
第1断片に相補的な配列を含む配列を有する第2プローブが固定された第2担体と、
第3断片<B>及び第3断片に相補的な配列の少なくとも一部を含む配列を有する第4断片<B’>からなるアダプター2と
を含む前記キット。
【請求項11】
第2担体に、第3断片に相補的な配列の少なくとも一部を含む配列を有する第4プローブがさらに固定されていることを特徴とする、請求項10記載のキット。
【請求項12】
第1担体が第2担体と識別して分取可能であることを特徴とする、請求項10記載のキット。
【請求項13】
第1担体及び第2担体の一方が磁性体であり他方が磁性体でないことを特徴とする、請求項12記載のキット。
【請求項14】
磁性体が磁気ビーズであることを特徴とする、請求項13記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−284834(P2009−284834A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141673(P2008−141673)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】