説明

天然ゴムの特性を有するニトリルゴム物品及びその作成方法

【課題】従来のニトリルゴム組成物よりも柔軟であると同時に、優れた物理的強度と耐化学性とを有するカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴム物品を提供する。
【解決手段】カルボキシル化ニトリルブタジエンランダム三元重合体を含むエマルジョンに、該三元重合体組成物からなる乾燥ゴム100部当り、0.25〜1.5部の酸化金属及び0.5部から1.5部の硫黄を加え、0部より多く1.5部以下のアルカリ水酸化物又は1価のアルカリ塩を加え、pHを8.5以上にし、ディップ成形する。前記アルカリ水酸化物又は1価のアルカリ塩、及び前記酸化金属の合計は1.0部より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年5月13日に出願された米国仮出願第60/680,971号(参照により、本明細書に組み込まれるものとする)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、ニトリルゴム組成物から作成されたエラストマー物品に関連する。特に、本発明は、天然ラテックスゴムから作成された同様な物品に類似する物理特性を示すカルボキシル化アクリロニトリルブタジエンゴム物品に関連する。
【背景技術】
【0003】
近代的なゴム素材の開発により、様々な強度及び耐化学性の特性を有する多種のエラストマー物品を製造することができるようになった。合成ラテックス素材が開発されたことにより、各種の製品の作成に様々な弾性重合体素材が使用されるようになった。合成ゴム素材の有用な化合物の一種として、ニトリルゴムがある。ニトリルゴムは、手袋及び耐油性シールなどの物品の作成に幅広く使用されている。
【0004】
大きく伸長し、且つ容易に伸縮する必要のあるエラストマー物品(手術又は検査手袋、風船、及びコンドームなど)は、従来、天然ゴムラテックスから作成されてきた。ニトリルゴム製品は一般的に伸縮しにくいが、天然ゴムラテックス基材に優るニトリルゴムの利点の1つとして、ニトリルゴム製品が一部の使用者に重大なアレルギー問題を引き起こす天然ラテックス・タンパクを含んでいないということである。天然ゴムラテックスに対するニトリル素材の他の利点として、とりわけ、脂肪性及び油性の物質に対する優れた耐化学性、並びに優れた穿刺抵抗性がある。したがって、天然ゴム製品の代替物としてニトリルゴム系の手袋が望まれるようになった。
【0005】
病院、研究所、又はゴム手袋が使用される他の作業環境では作業員保護のために「ラテックス・フリー」が望まれるが、ニトリル製品の費用が高額なためにこのよう切り替えには限度がある。天然ゴム手袋からラテックス・フリー手袋へ切り替える際の他の障害としては、ニトリル手袋が一般的に堅く、それによって、天然ゴムラテックス素材で作成された同様な種類の手袋よりもその着用が非常に不快であるということである。例えば、天然ゴムラテックス(natural rubber latex:NRL)の検査手袋を本来の寸法の約300%の長さまでに伸長させるには、一般的に約2.5Mpa(58psi)の応力が必要である。これは、手袋の300%弾性係数(300% modulus)と呼ばれることが多い。一方、ニトリル検査手袋は、同様な300%のひずみのためには、一般的にその2倍の力(5MPa、116psi)を必要とする。合成材の他のオプションとしてビニルを使用することもできるが、ビニルは機能性が低いと考えられる。
【0006】
現在市販されている合成ラテックス検査手袋が天然ゴムラテックス手袋と同じ力−ひずみ特性(force-strain property)を有さないことは言うまでも無く、類似する特性すら示さないのである。力−ひずみ特性は、物質がその厚さに関係なく、加えられる力に対して応答(伸長)する程度を直接測定したものである。一方、応力−ひずみ特性は、加えられた力に対する応答を、物質の単位断面積当たりで測定したものである。
【0007】
医療及び産業手袋の製造のためにエマルジョン(ラテックス)の状態で使用されることが多い合成重合体であるニトリルゴムは、アクリロニトリルとブタジエンとカルボキシル酸とのランダム三元重合体である。強度及び耐化学性を増大させるために、2つの異なった機構で架橋させることができる。第1の架橋機構は、多価金属イオンでカルボン酸基を互いにイオン結合することで生じる。これらのイオンは、一般的に、エマルジョンに酸化亜鉛を加えることにより生じる。通常、重合体の剛性/柔軟性は、この種類の架橋に影響されやすい。他方の架橋機構は、硫黄と加硫促進剤として知られる触媒とによる重合体のブタジエン部分の共有架橋である。この共有架橋は、耐化学性の増大に特に重要である。手袋は、最初に凝固液(硝酸カルシウムであることが多い)をセラミックの手袋型に塗布し、次にその型をニトリルラテックスに浸漬し、型の表面上にニトリルゴムを局所的にゲル化させることで作成されることが多い。
【0008】
ニトリルゴムの物品を柔軟化させるための従来のアプローチでは、米国特許第6,031,042号及び第6,451,893号に記載されているように、酸化亜鉛、及びガルボキシル化ニトリルゴムをイオン架橋することができる他の物質の使用が著しく制限又は省略されていた。この方法を使用すると、類似の天然ゴム製品と同様な力−ひずみ特性が得られないだけではなく、物質の強度が下がり、より高温の硬化温度が必要となり、皮膚炎を引き起こしかねない他の化学物質が大量に必要となる。或いは、浸漬前にニトリルラテックスが厚くなる現象などの処理障害が生じ得る。
【0009】
米国特許第5,014,362号及び第6,566,435号に記載されているような、ニトリル手袋をさらに快適にするためのアプローチは、長時間に及ぶ応力緩和に依存しており、この緩和又は軟化を引き起こすために継続的にひずみを加えることが必要である。このように、時間と共にひずみを測定し続けるのはのは困難であり、実際の実践及び使用において非現実的である。
【0010】
応力緩和による軟化に必要な条件無しに、ニトリル素材の利点と天然ゴムラテックスの優れた柔軟性とをうまく組み合わせたニトリル系重合体の物品が必要である。ニトリルゴムの保護特性及び非アレルギー性を保持すると同時に天然ゴムラテックス製品に付随する快適性及び柔軟性を示すように重合体組成物と天然ゴムラテックス製品の特質とを組み込んだある種のニトリル手袋が必要である。この手袋を着用する際には、エラストマー素材は、天然ゴムに伴う問題を引き起こすこと無く、天然手袋と同様な物理的なひずみ又は応力の特性を示すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,031,042号
【特許文献2】米国特許第6,451,893号
【特許文献3】米国特許第5,014,362号
【特許文献4】米国特許第6,566,435号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、従来のニトリルゴムの引張強度及び保護特性を保持すると共に、関連するポリイソプレンゴムの力−ひずみ特性を示すエラストマー性ニトリルゴム物品に関連する。特に、本発明は、従来のニトリル手袋よりもより薄く、柔軟であるが、ニトリル手袋が通常着用される製作作業又は研究室における作業及び全ての医療処置のために保護特性及び十分な強度を保持するように設計された手袋などの比較的薄い弾性物品を示す。本発明のより薄い「柔軟なニトリル」手袋は、天然(ポリイソプレン)手袋と同様な力−ひずみ応答特性を示す。
【0013】
ニトリル素材の弾性係数は約3〜6Mpaの範囲であり、引張強度は約30又は32〜56又は58MPaの範囲である。標準の厚さの手袋における弾性係数の前記範囲だけでは天然ゴムと同様な力−ひずみ応答を引き起こすのに十分ではないが、物品の弾性係数を低下させることに加え、物品の厚さを減少させることによって、この目的を達成することができる。従来のニトリル検査手袋の厚さは、約0.14±0.02mmであるが、本発明に係るニトリル手袋の厚さは、約0.05〜0.10又は0.11mmの範囲である。この厚さは、アメリカ試料試験協会(American Society for Testing and Materials:ASTM)の試験基準D−412−98a(2002年改定)によって規定された手の平の領域で測定された。
【0014】
本発明では、ニトリル組成物の架橋濃度と物品の厚さとを同時に調整する(2つの調整の程度は、素材の強度を最大にし、素材を伸長させるのに必要な力を最小にするように選択する)ことにより、より厚い天然ゴムラテックスと同じ力応答の性質を有する素材を作成することができると考えられる。カルボン酸基の架橋は、浸漬物品の作成に使用する前のニトリル・エマルジョンに加えられるイオン物質の量及び種類によって調整する。物品の厚さは、浸漬工程の間の様々な方法で調整することができる。
【0015】
本アプローチにより、ニトリルで作成された従来の物品よりも柔軟であり、且つ着用が快適な手袋を製造すると同時に、ニトリルゴムの潜在的な強度を最大限にするために適切又は標準な濃度の化学物質と方法パラメータとをさらに多く使用することができる。本アプローチは、従来技術を優る。本発明により、架橋剤の許容濃度の範囲が広がり、高温無しに適切な程度の共有結合系の架橋を実現することができる。また、本発明により、架橋剤及び促進剤の量が多すぎる又は少なすぎることによって頻繁に生じる問題を起こすことなく、従来の濃度でこれらの薬剤を使用することができる。例えば、酸化金属が少なすぎると、ゲル化過程の質が低下する、又は約8.5以上の高pHにおいて素材が厚くなることがある。
【0016】
このアプローチは、快適な手袋を作成するために以前に行われたような、10〜15分間ほどの時間における応力緩和も弛緩を生じさせる目的で一定のひずみを加えることも必要としない。着用者は、本発明のニトリルゴム系素材の優れた力−ひずみ応答を容易に認識することができる。本発明に係る新規のニトリル重合体をさらに柔軟にし、その着用を快適にすることができる。
【0017】
本発明の「柔軟なニトリル」物質の特有な性質は、ある程度はニトリルの組成物に起因する。ニトリルの組成物には、約50:50の比で混合された2つのアクリロニトリルが含まれる。第1のニトリル組成物は、第2のニトリル組成物よりも柔軟である、又は言い換えると、より低い弾性係数を有する。一方、第2の構成物は、第1の構成物よりも優れたフィルム形成能を示す。各組成物の特性は、より優れた浸漬処理、並びに素材の軟化に必要な複合混合物の作成に役立つ。2つの組成物を混合することにより、相乗効果が生じる。このような現象は、ニトリルに関する技術分野では稀である。ニトリル重合体におけるカルボン酸基の配向及び配置(外側又は内側)は、マグネシウム又は亜鉛などのカチオンに対するカルボン酸の反応性に影響する。
【0018】
また、本発明は、このような柔軟なニトリル手袋を作成するためのコスト効率の良い方法又は手段をも提供する。本発明に係る方法は、型を用意するステップと、型の少なくとも一部分に凝固剤コーティングを加えるステップと、上記のように型の表面の少なくとも一部をニトリル組成物で被覆するステップと、基材を形成するためにニトリル組成物を硬化するステップと、型からニトリル基材を剥離するステップとを含む。
【0019】
本発明のさらなる特徴及び利点は、次の「発明を実施するための最良の形態」でさらに明らかになる。上記の「課題を解決するための手段」及び下記の「発明を実施するための最良の形態」は、本発明を単に描写するものであり、本発明を理解するための要旨を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】応力−ひずみの曲線のグラフを示す図である。天然ゴムラテックス、3つの従来のニトリルの組成物、及び塩素処理された/塩素処理されていない本発明のニトリル組成物で作成されたそれぞれの試料に広範囲の応力を加えることで生じる伸長変形の程度における相違を示す。
【図2】同じ試料に関する力−ひずみの関係を示すグラフの図である。
【図3】図2の力−ひずみのグラフの拡大図であり、0〜400%ひずみの間の領域を示す。
【図4】それぞれの試料を破断するのに必要な力を示す図である。各試料は、ASTMの基準試験D−412−98aにしたがって試験された。尚、力の量の範囲及び平均が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、ニトリル重合体組成物から作成され、且つ天然ゴムラテックス物品と同様な物理的特性を示す弾性物品(手袋など)の作成が示される。着用されるエラストマー物品の所望される特性は、重合体素材の柔軟性である。本発明では、従来のニトリルゴム組成物よりも柔軟である(弾性係数がより低い)と同時に、優れた物理的強度と耐化学性とを有するニトリル系ゴム組成物の使用が示される。本明細書で使用されている「弾性」又は「エラストマー」は、一般的に、力が加えられる際にバイアス長(biased length)に伸長する物質を意味する。伸縮又はバイアス力が解除されると、素材は、実質的に二アネットシェイプ若しくは本来の寸法、或いはひずんだ若しくは伸長した分の少なくとも約50%を復元する。本明細書で使用されている「伸長」は、エラストマー基材又は膜が本来の寸法を越えて伸長する又は広がる程度又はパーセンテージを意味する。「変形のパーセンテージ」又は「伸長のパーセンテージ」は、次の計算式で求めることができる。
最終の寸法−最初の寸法/最初の寸法×100
或いは、伸長の程度は、未伸長状態の長さに対する伸長状態の長さの比で表されることがある。しかしながら、復元(力が解除される際の収縮)の程度は、収縮の長さ:伸長状態の長さ−未伸長状態の長さに基づいた比である。この用法は、一貫していないが、一般的である。
【0022】
例として、弛緩、未伸長状態の長さが10cmのある弾性素材は、伸長させる力又はバイアス力を加えることによって、少なくとも13.5cmの長さに伸長し得る。伸長させる力又はバイアス力を解除すると、このエラストマー素材は、せいぜい約12cmの長さに戻り得る。
【0023】
従来は、より柔軟性のあるエラストマー物品を作成するために2つの方法が使用されてきた。第1の方法は、物品の基材又は膜壁をより薄くすることである。第2の方法は、エラストマー素材の弾性係数を減少させることである。この2つの方法のそれぞれには、利点及び不都合が伴ってきた。例えば、手袋及びコンドームでは、重合体膜が薄ければ薄いほど、着用者の触覚感度は大きくなる。また、弾性の合成重合体壁が薄ければ薄いほど、物品を屈曲、伸長、又は変形させるのに必要な力は減少する。しかし、物品が薄いと、引張強度の低下又は使用の際の破裂の傾向などの問題が生じることが多い。一方、弾力性を低下させる又はYoungの係数を利用することより、比較的厚いと同時に手に着用する際に柔軟性を示す基材を得ることができる。重合体における架橋の程度を減少させることでゴム組成物の弾性係数を低下させると、強度又は耐化学性が低下することが多い。
【0024】
従来のニトリル手袋の力応答挙動は、一般的に、同様な天然ゴム手袋のものとは非常に異なる。この2つの素材に同じ力を加えると、天然ゴムの方がより大きく伸長する。一般的に、酸化金属の削減又は除去などの様々なアプローチでこの差異を減少させることができる。しかし、この2種類の重合体の間の比較的大きな差異を解消するのに必要なほどに酸化金属の濃度を減少させると、天然ゴムと同様な力応答を実現することなく、物体の強度が不可逆的に低下する、又は製造の浸漬工程に悪影響を与える(すなわち、ゲル化の遅れ、共有架橋の遅れ、粘度の増加など)。
【0025】
本発明では、イオン架橋の程度若しくは量及び種類は、ニトリルラテックスを作成又は構成する際に全てのイオン物質の量を調整することによって調節することができる。しかし、本発明者らは、組成を極端に高く又は低く調整することなく、従来の合成物品よりもさらに小さな力で伸長できるように素材の厚さを減少させるように調整しても、十分な引張強度を実現する組成バランスを発見した。素材の強度を最大にし、素材を伸長させるのに必要な力を最小にするように素材の組成物における架橋の程度と物品の基材の厚さとを同時に調整することによって、天然ゴムラテックスと同様な力応答挙動をその天然ゴムラテックスと同じ又はより大きな厚さで示す素材を作成することができる。カルボン酸基の架橋は、浸漬物品の作成に使用される前のニトリル・エマルジョンに加えられるイオン物質の量及び種類で調整される。型をエマルジョン内に浸漬する若しくはエマルジョンで被覆させる時間の調節、温度の調節、又は浸漬後の機械的な回転若しくは旋回などの様々な方法で物品の厚さを調整することができる。
【0026】
本発明を使用して作成した手袋は、より薄く、より柔軟である。したがって、従来のニトリル手袋と比較して非常に快適であり、製造工程において及び最終的には消費者に対してコスト削減を可能にする。手袋の素材が薄いと、着用者は、従来の手袋を着用するときよりも手及び指先でより優れた触覚感覚を享受することがきる。これらの利点は、手袋の強度に悪影響を与えることなく、実現可能である。
【0027】
現在市販されているニトリルゴムの検査手袋のほとんどは、約0.12〜0.13mm以上の厚さを有する。本発明では、基本重量が従来の手袋よりも低い手袋を製造することができる。本発明に係る手袋は、重量の大きい厚型の手袋が有する強度の特性を劣化させることなく、現在市販されている他のニトリル検査手袋よりも平均して30〜50%薄い厚さを有する。本発明の係るニトリル手袋は、現在市販されている他のニトリル検査手袋よりも平均して30〜50%薄いが、検査手袋が通常着用される製作作業、研究質の作業、又は医療処置で持ちこたえるほどの十分な強度を有するように設計されている。現在市販されている多くのニトリル検査手袋に関する調査の結果、これらの手袋の手の平の領域の厚さが約0.12mm以上であることが確認された。
【0028】
正確な計測点は、アメリカ試料試験協会(American Society for Testing and Materials:ASTM)の試験基準D−412−98a(2002年改定)の「Standard Test Methods for Vulcanized Rubber and Thermoplastic Elastomers - Tension, 2003年1月出版」(参照により、本明細書に組み込まれるものとする)に規定されている。これらの試験方法は、加硫熱硬化性ゴム及び熱可塑性エラストマーの引張(張力)特性を評価するために使用される。引張特性の測定は、素材試料からの試験片に対して行われ、試験試料を用意するステップと、この試験試料を測定するステップとを含む。試験試料は、断面積が一様なダンベル、輪、又は平らな断片の形状を有してもよい。引張応力、所定の伸長状態での引張応力、引張強度、降伏点、及び極限伸びの測定は、予め応力が加えられなかった試験試料に対して行われる。引張応力、引張強度、及び降伏点は、試験試料の一様な断面の本来の面積に基づく。これらの引張に関する測定は、予め応力を加えなかった試験試料を所定の方法で伸長及び収縮させた後に行う。
【0029】
第1部:組成物
ブタジエンとアクリロニトリルと有機酸単量体との三元重合体であるカルボキシル化ニトリルは、エラストマー物品の製造の際に有用となる少なくとも2つの特性を有する。これらの2つの特性は、大きな強度並びに炭化水素溶剤及び油に対する不浸透性である。ゴム(手袋又はコンドームなどの製品を作成するためにラテックス状(例えば、浸漬を行うために)で使用される)と他の成分(硬化剤、促進剤、活性剤など)との混合及び硬化は、一般的にこれらの特性を最適化するために行われる。重合体における各単量体の数及び硬化の程度は、完成品の強度及び耐化学性の度合いに影響する。アクリロニトリルを多く含む重合体は、脂肪酸及び溶剤に対してより優れた耐性を示す傾向を有するが、アクリロニトリルが少ない重合体よりも堅い。この重合体を形成する単量体の化学的性質はある程度の耐化学性をもたらすが、重合体分子が化学的に架橋している場合は、化学物質による膨張、化学物質の浸透、及び化学物質による溶解のそれぞれに対する耐性が著しく増大する。
【0030】
また、架橋は、ゴムの強度及び弾力性をも増大させる。カルボキシル化ニトリルラテックスは、少なくとも2つの方法で化学的に架橋することができる。ブタジエンのサブユニットは、硫黄/促進剤の系によって共有結合的に架橋する。また、カルボキシル化(有機酸)部位は、酸化金属又は塩によってイオン結合的に架橋する。硫黄で架橋すると、耐油性及び耐化学性が著しく向上することが多い。一方、イオン結合的に架橋する(例えば、ラテックスに酸化亜鉛を加えることで)と、大きな引張強度、穿刺抵抗性、及び耐摩耗性、並びに大きな弾性係数(ゴム膜を伸長させるのに必要な力の測定値)を有するが、耐油性及び耐化学性をあまり有さないゴムが得られる。従来のゴム組成物には、一般的にこの2つの硬化法が用いられる。例えば、カルボキシル化ニトリルラテックスの製造者は、硫黄及び促進剤の使用に加え、ゴム100部に対して酸化亜鉛を1〜10部添加するのを推薦している。
【0031】
米国特許第6,031,042号又は第6,451,893号(両方で示されている組成物は、酸化亜鉛を含まない)に記載されているように、以前にもより柔軟なニトリル手袋を作成する方法が示されたが、本発明は、酸化亜鉛を含む組成物を提供する。酸化亜鉛を使用することで浸漬工程の質と硬化速度とを向上させることができる。酸化亜鉛が使用されない場合は、硬化の最適状態に達するために必要な硬化時間はさらに長くなり、硬化の効率が低下し得る。これは、架橋がさらに長く(架橋当たりの硫黄原子の数がさらに多い)、重合体鎖を架橋していない硫黄が大量にある可能性があることを意味する。これによって得られるゴムは、効果的に架橋されておらず、その耐熱性及び耐化学性が低い可能性がある。しかし、イオン結合的な架橋を行うと、そのゴムから作成される物品はさらに堅くなることが多い。これは、柔軟なゴムが必要な用途では不便である。例えば、柔軟なゴムから作成された手術用手袋を着用すると、大変優れた触覚感度が得られる。これは、手術中の外科医が感じる「感触」を高め、手の疲労を防止するのに望ましい。
【0032】
伸縮性がより優れたさらに快適なニトリル手袋(すなわち、より小さなYoung係数を有する)は、アクリルニトリルをより少量含む重合体を使用する、又は架橋の程度をさらに低下させることで作成することができる。しかしこのような改変により、強度、耐化学性、又はその両方が悪化することが多い。よって、得られる物品は、様々な用途に対して不適となる。したがって、堅いゴムと同様な強度と耐化学性とを含む柔軟なゴムが非常に望ましい。
【0033】
本発明に係るゴム膜は、さらに伸縮自在である。したがって、通常大きな手袋を必要とする人は、手袋が手に付着する又は手の快適な動きを損なうことなく、本発明のニトリル系の組成物から作成された手袋の中型のものを使用することができる。また、より薄いゴムを使用すると、温度及び表面の触感に対する触覚感度が高まる。
【0034】
理論に束縛されるものではないが、本発明の物品のマトリックス構造及び強度は、系に存在する全てのイオン(とりわけ、2価又はそれ以上の価数のカチオン)と重合体マトリックスのカルボン酸成分との相互作用に起因し得る。Mg、Ca、Zn、Cu、Ti、Cd、Al、Fe、Co、Cr、Mn、及びPbなどの2価又は多価のカチオンは、カルボン酸のカルボキシル基と架橋し、比較的安定な結合を形成することができる。これらのカチオンでは、Mg、Ca、Zn、Cu、又はCdがより所望される。好ましくは、メタクリル酸単量体は、重合体マトリックス構造中に互いに比較的近接して配置している。このような状態では、2価又は多価のカチオンは近接している2つ以上の酸性分子と架橋することができる。カチオンの正の電荷は、酸性カルボン酸の陰電子のバランスをうまく保つ。2価又は多価カチオンの非存在下では、ニトリル・エマルジョン中の複数の重合体鎖が互いにうまく架橋しないと考えられる。K、Na、又はHなどの1価のイオンは、第2のメタクリル酸と結合するのに十分な電子能力を有さず、弱い結合を形成し得る。また、系のpHを高める1価の塩は、ラテックス粒子を膨張させ得る。それにより、さらに多くのカルボン酸基が他の架橋剤にアクセスするようになる。カチオンの正の電荷は、酸性カルボン酸基の電子のバランスをうまく保つことができる。
【0035】
本発明に係る組成物中の例えば酸化亜鉛の濃度を減少させることに加え、1価イオンを増加させることもまた素材の強度を維持するのに効果的であることが判明した。これらの1価イオンは、組成物のpHを調整するアルカリ剤、又はニトリルラテックスを不安定化しない他の塩から発生する。製品が望ましい程度の耐化学性を保有するようにするために、硫黄及び加硫促進剤の組み合わせが含まれている。幾つかの場合においては、単一のジチオカルバミン酸塩促進剤を硫黄と共に加えるだけで十分である。より高い耐化学性必要な他の場合では、ジフェニルグアニジンとメルカプトベンゾチアゾール亜鉛とジチオカルバミン酸塩促進剤との組み合わせを硫黄と共に加えるとより優れた結果が得られる。
【0036】
本発明に係るニトリル素材に使用される基本重合体は、アクリロニトリルとブタジエンとカルボン酸成分とを含む三元重合体組成物である。本発明の柔軟なニトリル素材の特有な有益性は、部分的には、組成物におけるアクリロニトリル成分の混合物の性質及び相互作用に起因すると考えられる。こ混合物には、第1及び第2のアクリロニトリル組成物が含まれ、その比は、それぞれ約60:40〜40:60の範囲である。これらの成分の混合物が示す相乗効果によって、優れた浸漬処理の特性を示すより柔軟な素材を容易に作成することができる。このような現象は、ニトリル素材の技術分野では稀である。ニトリル重合体分子におけるカルボキシル基の配向及び配置(外側又は内側)は、亜鉛イオンに対するカルボキシル基の反応性に影響することができる。したがって、柔軟性と小さな弾性係数とを示す成分もあれば、優れたフィルム形成能を示す成分もあると考えられる。
【0037】
混合された又は組み合わされた組成物のアクリロニトリルの含有量は、約17〜45重量%の間、好ましくは約20〜40%の間、さらに好ましくは約20〜35%の間である。一般的には、アクリロニトリルの含有量は約22〜28重量%の間であり、メタクリル酸の含有量は約10%未満であり、重合体の残りはブタジエンである。メタクリル酸の含有量は約15重量%未満であるべきであり、好ましくは約10%である(重合体の残りはブタジエンである)。三元基本重合体は、エマルジョン重合法で作成され、手袋又は他のエラストマー物品を作成するためにエマルジョン状で使用され得る。
【0038】
本発明で使用され得るアクリロニトリル重合体製剤のガラス転移温度(glass-transition temperature:Tg)は、一般的には、約−15又は−16〜−29又は−30℃の間の範囲であり得る。幾つかの実施形態では、PolymerLatex GmbH及びSynthomer有限会社市販のそれぞれPolymerLatex X-1133又はSynthomer 6311などの望ましいニトリル重合体製剤は、約−18〜−26℃の間のTgを有する。Nantex Industry株式会社(台湾、中華民国)市販のNantex 635tなどのより望ましいニトリル製剤は、約−23.4〜25.5℃のTgを有する。このニトリル製剤を使用すると、他の市販のニトリル重合体を使用するときよりもより大きな強度を有する素材が得られる。
【0039】
基材の厚さ又はエラストマー手袋の素材の厚さを減少させると、通常は、強度が低下する。大きな強度を保持した状態で、本発明に係る手袋の厚さを減少させるために、本発明者らは、市販されている他のニトリルラテックスと比較して本来の強度がより大きなニトリル重合体を作成した。本発明者らは、組成物及び調合方法でこの強度を最適化した。手袋の強度を最適化するためには、約9〜12.5又は13の範囲の高pH値が望ましい。特に望ましいpH値は、約10〜11.5である。アクリロニトリル重合体を含むエマルジョンのpHは、例えば5〜10%の濃度の水酸化カリウム又は水酸化アンモニウムを加えることで所望の値に調整することができる。
【0040】
ニトリル・エマルジョンは、手袋の形成に役立ち、且つ手袋にその使用目的に必要な十分な強度及び耐久性をもたらす他の化学物質と調合される又は組み合わされる。薄型の手袋の作成は、次の物質の組み合わせることで行われる。このアプローチの一般的な組成物は、下記の通りである。但し、それぞれの量は、乾燥ゴムの100部当たりである。
表1

ラテックス状で使用可能であり、浸漬に適しているいかなるカルボキシル化ニトリル(すなわち、ニトリルブタジエンゴム)を使用することができる。多くのニトリルラテックスの多様な特性を調節するために上記の範囲で組成物を調整することができる。ニトリルラテックスの適切な例として、Synthomer Sdn Bhd.製造のSynthomer 6311ニトリルラテックス、又はPolymerLatex GmbH製造のPerbunan N Latex X-1 133がある。二酸化チタンは、手袋を所望の程度で白く又は不透明にする目的のためだけに使用される。
【0041】
本発明に係る幾つかの実施形態では、市販のニトリルラテックス溶液の全固形分量(total solids content:TSC)は、約43.5%である。本発明に係るニトリル・エマルジョン複合物は、約15又は16〜25%のTSCを有するように作成することができる。さらに望ましい幾つかの実施形態では、TSCは、約9〜22%であり得る。凝固剤の強度によっては、手袋のフォーマーをラテックス液に浸すことができる。この操作でも薄型の手袋を作成することができる。完成した手袋の基材が水を含んではならないので、完成した手袋は、100%のTSCを有する。
【0042】
しかしながら、ニトリルブタジエン重合体の特性は、その構成要素ではなく、その構造に起因すると考えられる。ニトリルブタジエン重合体の構造は、重合条件によって決定される。重合体の特性は、重合体の構造に非常に影響される。重合体の分子量、分子量分布、分岐の数、重合の際の架橋の数、添加されるジエン単量体の種類などは様々であり、それにより、重合体の分子構造は非常に複雑なり得る。幾つかの種類の単量体が手袋の製造に使用されるカルボキシル化アクリロニトリルブタジエン重合体などの重合体に結合すると、重合体の構造はさらに複雑になる。また、それぞれの種類の単量体の数及び単量体単位の配列も、生じる重合体の特性に影響する。手袋に使用されるニトリルゴムのように単量体単位の反復構造がランダムである場合は、重合体の物理特性は、ホモ重合体の特性よりも、重合体の直線性(分岐性に対しての)及び分子量にさらに影響される。これは、それぞれの単量体のみから形成される重合体の一定の反復構造から予想される特性が、他の単量体単位の付加によって反復構造が中断する又は改変すると、変化するためである。ある重合体で特定の単量体の数が多いと、その重合体は、その単量体から形成されるホモ重合体と類似する反復構造を多く含むことになるので、そのホモ重合体と同様な特性を示す可能性が大きくなる。
【0043】
薄型の手袋の製造に使用されるカルボキシル化ニトリルゴムでは、アクリロニトリル及びカルボン酸(一般的には、全体の35%)は、弾力性、永久ひずみ、及び応力緩和に関してプラスチックのような特性を重合体にもたらす。また、アクリロニトリル及びカルボン酸は、ポリブタジエンの弾力性を最大にし、且つ永久ひずみ/応力緩和を最小にする一定のcis−1,4反復構造を防止する。
【0044】
このようなカルボキシル化ニトリルゴムは、一般的には、3つの構成単量体がランダムに配列し、分岐鎖及び架橋を有する長鎖である。これらの分岐及びランダムな三元重合体は、水中で乳化する分離した小さな粒子を形成する。重合体の構造に加え、粒子もまた、手袋の最終特性を影響する。粒子の大きさ、粒径分布、粒子の凝集の程度、粒子密度などのパラメータは、製品の形成及びその最終特性に影響する。
【0045】
本発明では、重合体の構造は、アクリロニトリルとブタジエンとカルボン酸とのランダムな三元重合体(ブロック又は交互三元重合体とは対照的)を含む。この重合体の特性は、平均分子量、分子量分布、直線性又は分岐の程度、ゲル含有量(重合の際の架橋)、及び微細構に依存する。
【0046】
本発明に係る組成物を調整することで、ニトリル手袋の300%弾性係数を約3.5Mpaに低下させることができるが、この手袋を伸長させる(手袋にひずみを加える)のに天然ゴムラテックス手袋のときよりも大きな力が依然必要となる。最大約3.5ニュートン(N)の比較的小さな力でニトリル物品を本来の大きさの約400%までに伸長させることができる。望ましくは2.5N以下の力で伸長させる。
【0047】
本発明に係る組成物の調整から生じる手袋の引張強度(すなわち、物質を破断するのに必要な応力)は、一般的な天然ゴム手袋のものよりも著しく大きいので、弾性係数が小さいまま、手袋の厚さを減少させると、天然ゴム手袋と同様な力−ひずみの関係を有するニトリル手袋を作成することができる。弾性係数を低下させる硬化方法と手袋の適切な厚さとを組み合わせると、天然ゴムラテックス基材と同じ力−ひずみ特性を有するニトリルエラストマー手袋が形成される。言い換えれば、同じ力を本発明のニトリル手袋とゴムラテックス手袋とに加えると、それぞれの手袋は、同様の伸長性を示す。したがって、この2種類の手袋は、着用の際には、同じ快適性を示すことになる。
【0048】
第2部:強度
本発明にしたがって作成されたニトリル手袋は、他のニトリル製剤で作成された市販の手袋よりも約30〜40%薄いが、通常手袋が着用される製作作業若しくは研究所の作業、又は全ての医療処置で持ちこたえられるように設計されている。現在市販されている多くのニトリル検査手袋の調査により、これらの手袋の手の平の領域の厚さが約0.12mm以上であることがわかった。パラメータ及び測定プロトコルは、アメリカ試料試験協会(ASTM)の試験基準D−412−98aによって規定されている。本発明者らは、本発明においてASTMのプロトコルを改変せずに使用した。本発明者らが使用する試験装置は、約+/−100Nの能力を有するスタティック・ロード・セルを有するInstron(登録商標)張力計の5564型及びXL伸縮計である。他の装置も、ASTMの基準を満たす限り使用可能である。
【0049】
前述したように、現在市販されている多くのニトリル検査手袋は、約0.12mm以上の厚さを有する。本発明においては、従来の手袋よりも小さな基本重量を有するニトリル手袋を作成することができる。本発明に係る手袋は、基本重量の大きい手袋が一般的に示す強度を劣化させることなく、約0.05から0.10mmの間の範囲の厚さ(手の平の領域で)を有する。本明細書で使用されている「強度」は、所定の形状及び寸法の試料(ASTMの試験基準D−142で使用されたものなど)を破断するのに必要な力量として示すことができる。試験の結果、手の平の領域の厚さが約0.08〜0.10mmの本発明の手袋を破断力(force-at-break)の平均読み取り値は、約8.7〜10.2ニュートン(N)、望ましくは約9.1〜9.85N、さらに望ましくは約9.18〜9.5Nである。現在市販されている手袋の破断力は、約6.7〜14.3N、ほとんどの場合は7.5〜10.5Nの間の範囲の値である。
【0050】
本発明の弾性物品のニトリル素材は、破断する際には、約30〜55Mpaの範囲、望ましくは約40Mpaの引張強度を示すことができる。通常は、破断する際の伸長量は、約550〜750%の範囲であり、さらには約650%である場合が多い。ニトリル素材が約300%伸長している際には、その弾性係数は、約3〜6MPaの範囲、望ましくは約4MPaである。
【0051】
本発明の組成物におけるイオン物質の濃度は、所望の弾性係数が得られるように調整されている。作成される製品が非常に薄い(例えば0.05mm)場合は、小さな厚さによってその物品を伸長させるのに必要な力が比較的小さい限り、大きな弾性係数は許容される。この場合は、酸化金属を、前述したその使用濃度範囲の最高限度に近い濃度で使用し、アルカリ性水酸化物又は他の1価の塩を低〜中濃度(0〜0.5phr)で使用することができる。これにより、非常に薄いこの製品の引張強度の値及びこの製品を破断するのに必要な力の値が十分に大きくなることが確実となる。
【0052】
目的の物品の厚さが本発明に関連して前述した厚さの範囲を越える(0.10〜0.12mm)場合は、酸化金属は低濃度で、アルカリ性水酸化物は中〜高濃度(0.5〜1.5phr)で使用され得る。これらの具体的な組成物は、次の表の通りである。
表2

一般的な厚さ(0.15mm)を有する市販の天然ゴムラテックス手袋、及び厚さが0.12mmの市販のニトリル検査手袋(両方ともKimberly-Clark社製造)のそれぞれの試料断片に関する同様な特性は、下記の通りである。
表3

【0053】
どの組成物の例を用いても、Kimberly-Clark社が現在市販している天然ラテックス検査手袋を破断する力を耐えるには0.05mmよりも大きな厚さが必要となる。弾性係数を低下させるために組成物の酸化金属架橋剤の濃度が下方にわずかに調整される場合があるが、これらの架橋剤によって大きな強度が生じ、厚さの小さい物品が十分な強度を有することになるので、大きな調整は必要でもなく、望ましくもない。破断するのに必要な力が手袋の厚さに比例するので、A、B、C、及びDの組成物の破断力が10.1Nであるためには、それらの厚さはそれぞれ0.078、0.097、0.067、及び0.067mmである必要がある。これらの厚さに基づいて、これらの素材を300%伸長させるのに必要な力は、それぞれ1.4、1.0、0.9、及び1.2ニュートンである。厚さが0.067になるように組成物Cから作成された検査手袋は典型的な天然ラテックス検査手袋と非常に類似した特性を示すが、天然ゴム手袋に類似する特性を有する手袋を作成するのにこれらの全ての組成物を使用することができると考えられる。
【0054】
薄型の素材と、使用されるニトリル組成物と、8.6又は9の高pHと、調合及び浸漬の方法の変更とを組み合わせることにより、本発明の手袋の製造と従来のニトリル検査手袋の製造との間に大きな違いが生じると考えられる。
【0055】
本添付図は、(1)本発明にしたがって作成された手袋と、(2)Kimberly-Clark社市販のニトリル系の手袋(Safeskin(登録商標))と、(3)他の比較例とを比較したチャートである。図1及び図2のチャートは、伸長させるための力及び破断するための力のデータ範囲を示す。本発明は、力に関する測定値が天然ゴム手袋のそのようなパラメータに類似している点に関して、他のニトリル系手袋とは異なる。この現象は、弾性係数の変更及び本発明の製品の薄さの両方に起因すると考えられる。一般的には、本発明の柔軟なニトリル物品の弾性係数は、従来の粉末フリーのニトリル手袋のものよりも非常に小さい。厚さの削減及び大きな引張強度の保持による相乗効果は、本発明を独特にする新規の特徴である。
【0056】
図1は、本発明、現在市販されているニトリルゴム系の素材、及び天然ゴムラテックスから作成された手袋膜の試料の機能を比較したものである。本発明に係る実験的な試料例はEXP 1及びEXP 2と表示されており、比較試料例はCOMP A及びCOMP Bと表示されている。標準ニトリルはニトリルと表示されており、天然ゴムラテックスはラテックスと表示されている。このグラフを参照すると、本発明に係る組成物で作成された手袋にひずみを加えるのに必要な応力が従来のニトリル系の検査手袋のものよりも小さいことが分かる。しかし、天然ゴムラテックスの検査手袋に類似する応力−ひずみ作用を得るには、本発明の素材のそれぞれのひずみパーセントにおける応力の程度をさらに低下させる必要がある。
【0057】
図2を参照すると、本発明のニトリル手袋のバリア性及び引張特性を劣化させることなく、その厚さを減少させると、これらの手袋の力応答(力−ひずみ挙動)が天然ゴム手袋の力応答に接近又は類似するようになることがわかる。特に、ひずみの程度が300又は400%(検査手袋を着用する際に予想されるひずみの通常の範囲)以下の場合、本発明のニトリル手袋の力応答は、天然ゴム手袋の力応答に非常に類似する。500%伸長させる場合は、本発明の組成物で作成された試料例を約2〜3ニュートン(N)未満の力で伸長させることができるが、比較試料例を伸長させるには4N以上の力が必要である。図3は、本発明の優れた特性をさらに明確に示すために、力−ひずみのチャートのひずみ率が低い部分(400%伸長まで)を拡大した図である。
【0058】
本発明のニトリル手袋の厚さは、手の平の領域で約0.07〜0.10mm、望ましくは0.08mmであった。天然ゴムの試料の厚さは0.15mmであり、Kimberly-Clark社及び他の製造会社の比較ニトリル手袋の厚さは0.12〜0.13mであった。
【0059】
本発明の特有な特性を示すために、2つの異なった柔軟なニトリルの実験的製品のデータを図に載せた。それぞれの違いは、一方が塩素処理されている(EXP1)のに対して、他方が塩素処理されていない(EXP2)ことである。塩素処理されなかった手袋は、粉末が塗布された手袋又は重合体でコーティングされた手袋の典型的な特性を有する。塩素処理及びコーティングは、手袋に粉末を塗布する必要がないように行われる標準的な方法である。NR及びニトリルの標識は、Kimberly-Clark社のPFE(天然ゴムラテックス)及びPFN(ニトリルラテックス)手袋を指す。比較のために、他社製造の他の2つのニトリル手袋である比較例A(COMP A)及びB(COMP B)のデータも含まれている。
【0060】
図4は、前のチャートで示されている試料を破断するために必要な力を示す。そこでは、値の範囲及び平均値が示されている。上記で説明したように、本発明を使用して作成した試料を破断するのに必要な力は、組成物の成分の濃度又は手袋の厚さを調節することで調整できる。一般的には、天然ゴム重合体から作成された膜の破壊点は、約10Nである。一方、本発明の組成物で作成した手袋を繰り返し試験して得られた破断力の値は、手袋の厚さを0.10mm未満に維持した状態では、15N又はそれ以上であった。
【0061】
従来のニトリル又は柔軟なニトリル組成物に対する本発明の優れた点は、例えば、他のニトリル検査手袋よりも薄く、且つ厚型の手袋に匹敵するほどの大きな強度と耐化学性を保持した基材を作成できることである。手袋を薄くすることで、触覚感度及び快適性を高めることができる(弾性係数の低い薄型の手袋)。また、本発明は、使用者にとって費用の面でも好都合である。薄型の手袋に必要な材料は厚型の手袋のものよりも少ないので、製造費を削減できる。また、例えば、薄型の手袋を100枚ではなく、150枚で容器に詰めることができるので、包装廃棄物が減少する。
【0062】
第3部:処理
本発明者らは、化学試薬を導入する順番が重要である可能性を発見した。試薬物質を添加する順番又は量でニトリル素材の処理及び物理特性を向上させることができる。ニトリル検査手袋の強度は、通常、重合体構造内に含まれる有機酸基をイオン的に架橋することで得られる。これらの化学基は、系の様々なカチオンと反応することができる。これらのカチオンの一部は、すでにニトリル・エマルジョンの中に含まれている。それらは、エマルジョンの作成に使用される陰イオン界面活性剤の対イオン及びpHを調節するカチオンであり、輸送の際に製品の安定性を維持するために製造業者によって混入される。他のカチオンは、物品作成の際にニトリル・エマルジョンに加えられる物質によって系に導入される。それらは、酸化亜鉛の亜鉛イオン、及びさら添加されるpH調節剤から発生するカリウム若しくはアンモニウムイオンである。
【0063】
水酸化カリウム又は水酸化アンモニウムなどの塩基を一連の配合操作の最後に加えると、pH調整の際に系内で他のカチオンの濃度が著しく上昇する前に酸化亜鉛の亜鉛が完全にニトリル重合体の酸性基と反応することで、薄い基材の強度が増す。また、この方法により、より伸縮自在(所定の伸長量における力の読み取り値及び弾性係数(所定の伸長量での断面積単位当たりの力)を測定することで確認できる)の手袋が得られる。
【0064】
表4は、様々な手袋試料の特定の物理的特性を要約及び比較したものである。特に、これらの特性には、弾性手袋の素材を本来の寸法の約400%に伸長させるのに必要な力(ニュートン)と、手袋を破断するのに必要な力と、各試料の厚さとが含まれる。一般的な天然ゴムラテックス手袋の物理的な値は、対照である。例1〜12は、本発明に係るアクリロニトリルブタジエン手袋の試料である。比較例1〜8は、市販されているニトリル系の手袋の一般的な試料である。
表4

【0065】
表を参照すると、8個の比較例の試料を400%伸長させるために必要な力の一部(例えば、約1/2〜1/4)を加えるだけで、本発明に係る例の試料を同じ程度伸長させることができることが確認できる。これは、本発明によって、天然ゴムラテックスが示す伸縮性に類似する伸縮性を有する柔軟な弾性素材が得られることを意味する。
【0066】
本発明は、アクリロニトリル素材で作成されるエラストマー物品の製造方法に有用である。本発明により、天然ゴムラテックスから作成されたエラストマー物品の物理的特性に非常に類似した特性を示すニトリル系物品を作成することができる。本発明は、健康診断用又は手術用手袋、コンドーム、捜査カバー、デンタルダム、指サック、カテーテルなどの様々な製品の製造に効果的に利用することができる。
【0067】
例を用いて本発明を一般的に及び詳細に説明した。当業者は、本発明が開示されている実施形態によって限定されるものではないことを理解するであろう。本発明は請求項の請求項及びそれらに同等するものによって規定されており、本発明の要旨を逸脱しない範囲で改良及び変更が可能である。したがって、本発明の要旨を逸脱しない限り、本発明に様々な変更が組み込まれることを理解されたい。
【0068】
手袋の作成
ニトリル手袋の製造では、手袋の厚さを調整するためにニトリル・エマルジョンの固形分を40〜45%から約23%までに減少させる。手袋の厚さをさらに減少させるためには、固形分を約20%にまで減少させる。本発明の薄型の手袋は、凝固剤を用いた様々な浸漬−コーティング方法で作成することができる。この方法は、約55〜60℃、好ましくは58℃に余熱した清潔な手袋のフォーム又は型を用意するステップを含む。用意した型を硝酸カルシウムの水溶液に浸漬する。表面に凝固剤が付着したこの型を乾燥させ、約70±5℃に再加熱し、配合したニトリルの溶液に浸漬する。それにより、ゲル状の手袋が形成される。手袋の袖口部分の上にビーズが形成されることがある。水溶性の構成物質を除去するために、ゲル状の手袋基材が付着した型を水に浸す。ゲル状の手袋が付着した型をオーブンで約80〜100℃未満の温度で乾燥させる。次に、ゲル状の手袋が付着した型をさらに高い温度で加熱すると、硫黄が他の化学物質と反応し、ニトリル重合体のメチルアクリル酸を架橋する。その後、手袋を型から剥がし、粘着性を低下させるために手袋の表面を塩素水で処理する。最後に、出来上がった手袋を乾燥させ、包装の準備をする。
【0069】
ニトリル・エマルジョン浸漬溶液に手袋の型を入れる及び取り出す速さを上げると、手袋はさらに厚くなる(型の指先と袖口領域との間の浸漬時間の相違が縮小するためでもある)。型を垂直な状態又は垂直に近い状態で浸漬溶液から引き出し、型全体が水平になるように又は指先がこの水平位よりも上(例えば、この水平位に対して約20〜45°の角度で型を上に傾かせる)に位置するように指先を上げ、その状態を数秒〜約40秒の短い時間に維持する。その直後、型をその縦軸に沿って回転させながら、水平状態のときの指先の位置と最初の垂直状態のときの指先の位置との間の位置又は角度に指先を下げる。この上げ下げの操作を正弦波的又は波状的な動き(sinusoidal or wave-like motion)で繰り返すことができる。この方法により、ニトリルがフォーマ上をより均一に広がり、全体的に薄い基材が形成される。
【0070】
本発明の薄型の手袋の他の特徴は、従来の厚型のニトリル検査手袋と等しい又はそれ以上の耐化学性を有する点である。これは、加硫促進剤を組み合わせて使用することで達成できる。この組み合わせには、ジチオカルバミン酸塩とチアゾールとグアニジン化合物とが含まれる。これらの比は、望ましくは、それぞれ約1:1:2である。特にある実施形態では、それぞれの化合物は、ジフェニルグアニジン(diphenyl guanidine:DPG)、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛(mercaptobenzothizole:ZMBT)、及びジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(zincdiethyldithiocarbamate:ZDEC)であり、それらの濃度はそれぞれ約0.5phr、0.25phr、0.25phrである。
【0071】
これらの促進剤の組み合わせは、米国特許第6,828,387号(本明細書に組み込まれるものとする)に記載のものと非常に類似している(しかし、それぞれの薬剤の濃度は、約50%減少している)。米国特許第6,828,387号は、ポリイソプレンゴムの硬化(加硫)に関するものである。米国特許第6,828,387号とは異なり、本発明では、二重の架橋過程が含まれると考えられる。すなわち、ポリイソプレンの素材では架橋がイソプレン分子内の二重結合によって形成されるのに対して、本発明のニトリル系では架橋はブタジエン構成要素の共有結合性相互作用と亜鉛イオン及びメチルアクリル酸のカルボキシル基の間のイオン性相互作用とによって構成される。
【0072】
本発明は、アクリロニトリル素材で作成されるエラストマー物品の製造方法に有用である。本発明により、ラテックスタンパク及びアレルギー性応答の問題を伴うことなく、天然ゴムラテックスから作成されたエラストマー物品の物理的特性に非常に類似した特性を示すニトリル系物品を作成することができる。本発明は、健康診断用又は手術用手袋、コンドーム、捜査カバー、デンタルダム、指サック、カテーテルなどの様々な製品の製造に効果的に利用することができる。
【0073】
例を用いて本発明を一般的に及び詳細に説明した。当業者は、本発明が開示されている実施形態によって限定されるものではないことを理解するであろう。本発明は請求項の請求項及びそれらに同等するものによって規定されており、本発明の要旨を逸脱しない範囲で改良及び変更が可能である。したがって、本発明の要旨を逸脱しない限り、本発明に様々な変更が組み込まれることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルブタジエンゴム組成物で形成されたエラストマー物品であって、
最大約0.12mmの所定の厚さを有する基材を含み、
前記基材は、少なくとも約8ニュートン(N)の破断力(F−BE)を示すことと、物品を初期の寸法の400%までに伸長させる力が最大で3.5ニュートン(N)であることとによって特徴付けられる、厚さが約0.15mmの天然ラテックスゴム基材と同様な力応答挙動を有するエラストマー物品。
【請求項2】
請求項1に記載のエラストマー物品であって、
前記物品の基材は、約30〜55MPaの引張強度を示すことを特徴とするエラストマー物品。
【請求項3】
請求項2に記載のエラストマー物品であって、
前記物品の基材は、約40〜50MPaの引張強度を示すことを特徴とするエラストマー物品。
【請求項4】
請求項1に記載のエラストマー物品であって、
前記物品を300%伸長させる前記力が最大で約1.5Nであることを特徴とするエラストマー物品。
【請求項5】
請求項1に記載のエラストマー物品であって、
前記物品の基材は、少なくとも約8Nの破断力に耐えられ、破断伸びが約550〜750%であるように構成されていることを特徴とするエラストマー物品。
【請求項6】
請求項1に記載のエラストマー物品であって、
前記破断力は、9〜11Nであることを特徴とするエラストマー物品。
【請求項7】
請求項1に記載のエラストマー物品であって、
天然ゴム又はニトリルゴムで作成され、同じ用途のために設計された他の類似した手袋よりも少なくとも20%薄い基材を有する手袋であることを特徴とするエラストマー物品。
【請求項8】
請求項7に記載のエラストマー物品であって、
前記手袋の手の平の領域の厚さは、約0.05〜0.12mmの範囲であることを特徴とするエラストマー物品。
【請求項9】
ニトリルブタジエンゴム組成物から作成され、任意の厚さを有するエラストマー手袋であって、
前記手袋の手の平の領域で測定された厚さは、同様の用途のために構成された対応する天然ゴム手袋の同じ部分よりも20%薄く、
前記手袋を300%伸長させるのに必要な力(F−300)は、前記対応する天然ゴム手袋を300%伸長させるのに必要な力よりも約50%以上大きくないことを特徴とするエラストマー手袋。
【請求項10】
請求項9に記載のエラストマー手袋であって、
前記手袋は、手術の用途に適合していることを特徴とするエラストマー手袋。
【請求項11】
エラストマー物品を作成するための方法であって、
a)乾燥ゴム100部当たり0.25〜1.5部の酸化亜鉛と、pHを約8.5以上にするためのアルカリと、安定剤と、グアニジン及びジチオカルバミン酸塩及び所望に応じてチアゾール化合物を含む群から選択される1つ以上の促進剤とを含むカルボキシル化ニトリルブタジエン配合ゴム組成物を作成するステップと、
b)前記カルボキシル化ニトリルブタジエン配合ゴム組成物にフォーマを浸漬するステップと、
c)前記カルボキシル化ニトリルブタジエン配合ゴム組成物を硬化させ、前記エラストマー物品を形成するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、
前記促進剤の組成物は、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDEC)と、2−メルカプトベンジチアゾール亜鉛(ZMBT)と、ジフェニルグアニジン(DPG)とを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法であって、
前記グアニジンとジチオカルバミン酸塩とチアゾールとの比は、それぞれ約2:1:1であることを特徴とする方法。
【請求項14】
ニトリルブタジエンゴム組成物から形成されるエラストマー物品であって、
所定の厚さが最大約0.12mmである基材を含み、
初期の寸法の約300%に伸長しているときに約5MPa以下の弾性係数を示し、
前記ニトリルブタジエンゴム基材の断面は、約8〜14ニュートン(N)の破断力に耐えるように構成されており、
約0.12mmの厚さの天然ゴムラテックスと同様な力−伸長挙動を示すことを特徴とするエラストマー物品。
【請求項15】
請求項14に記載のエラストマー物品であって、
前記基材が約300%伸長している際の弾性係数は、約4.5MPa以下であることを特徴とするエラストマー物品。
【請求項16】
請求項15に記載のエラストマー物品であって、
前記物品は、ニトリル重合体の基材を有する、手の平の領域の厚さが約0.12mm以下である手袋であり、
約100〜400%の範囲の伸長に必要な力が約0.8〜2.0Nである力−ひずみの特徴を有することを特徴とするエラストマー物品。
【請求項17】
請求項16に記載のエラストマー物品であって、
前記手の平の領域の厚さは、約0.06〜0.11mmの範囲であることを特徴とするエラストマー物品。
【請求項18】
請求項16に記載のエラストマー物品であって、
前記手袋の基材は、約35〜55MPaの引張強度を示すことを特徴とするエラストマー物品。
【請求項19】
請求項18に記載のエラストマー物品であって、
前記手袋の基材は、約40〜50MPaの引張強度を示すことを特徴とするエラストマー物品。
【請求項20】
請求項16に記載のエラストマー物品であって、
前記手袋の基材は、少なくとも約8Nの破断力に耐えるように構成されており、その際の伸長は約500〜650%であることを特徴とするエラストマー物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−57164(P2012−57164A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230612(P2011−230612)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【分割の表示】特願2008−511165(P2008−511165)の分割
【原出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【Fターム(参考)】