説明

天然ゴムの製造方法

【課題】耐破壊特性および転がり抵抗に優れた固形天然ゴムの製造方法を提供する。
【解決手段】天然ゴムラテックスと、(1)酸と、(2)(i)硝酸、硫酸、炭酸、リン酸、塩酸および蟻酸のそれぞれの酸のカルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の塩、および/または(ii)高分子凝集剤と、を混合して多孔性凝固ゴムを生成させる工程(I)、生成した多孔性凝固ゴムと老化防止剤とを混合する工程(II)を含むことを特徴とする固形天然ゴムの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムラテックスから固形天然ゴムを製造する場合に、(1)凝固速度が遅い、(2)そのため回分操作とならざるを得ない、(3)凝固したクラムが厚いマット状であるため、後の脱水、細片化と水洗の工程で多くの動力と労力を要し多額の費用がかかる、(4)凝固したクラムが厚いマット状であるため、クラムに含有される不純物を除去し難いため、不純物の含有量が多い、(5)細片化クラムの乾燥に多くのエネルギーと時間を要する、(6)設備費が高い、(7)蟻酸と残存ゴム粒子を含む排水が排出される等の問題があった。
【0003】
上記問題の解決方法として、天然ゴムラテックスを微細に凝集して、効率よく凝固、洗浄する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、貯蔵時や、素練り時における天然ゴムの分子量の低下や、ゲルの生成等が起こるという問題があった。そのため、耐破壊特性、転がり抵抗に優れた固形天然ゴムを提供することができず、改善の余地がある。
また、特許文献1では、脱蛋白天然ゴムに特定の蛋白質を配合することにより、アレルギー反応を誘起しないゴム組成物が開示されている。特許文献2では、蛋白質を除去することにより、アレルギー反応を誘起しない固形天然ゴムの製造方法が開示されている。特許文献3では、天然ゴムラテックスにリン酸塩を添加することにより、マグネシウムを除去する生ゴムの製造方法について開示されている。特許文献4では、蛋白分解酵素により蛋白質量を低減させることにより、ゲル分の含有量が少ない生ゴムの製造方法について開示されている。特許文献5では、蛋白質を除去することにより、転がり抵抗を低減するゴム組成物について開示されている。しかしながら、これらの方法では、貯蔵時や、素練り時における天然ゴムの分子量の低下の抑制については詳細に検討されていない。
【特許文献1】特開平08−12814号公報
【特許文献2】特開平11−12306号公報
【特許文献3】特開2004−250546号公報
【特許文献4】特開2005−82622号公報
【特許文献5】特許3294901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決し、耐破壊特性および転がり抵抗に優れた固形天然ゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、天然ゴムラテックスに、(1)酸と、(2)(i)硝酸、硫酸、炭酸、リン酸、塩酸および蟻酸のそれぞれの酸のカルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の塩、および/または(ii)高分子凝集剤と、を混合して多孔性凝固ゴムを生成させる工程(I)、生成した多孔性凝固ゴムと老化防止剤とを混合する工程(II)を含むことを特徴とする固形天然ゴムの製造方法に関する。
【0006】
上記工程(II)が、老化防止剤分散体もしくは老化防止剤含有エマルジョンへの上記多孔性凝固ゴムの浸漬、または老化防止剤分散体もしくは老化防止剤含有エマルジョンの上記多孔性凝固ゴムへの噴霧により行われることが好ましい。
【0007】
上記老化防止剤がp−フェニレンジアミン系老化防止剤および/またはフェノール系老化防止剤であることが好ましい。
上記固形天然ゴムの製造方法において、上記天然ゴムラテックスがケン化処理された天然ゴムラテックスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固形天然ゴムの製造方法によれば、工程(I)により、天然ゴムラテックスを速やかに凝固することができ、凝固後の後処理が容易で、不純物含量の少ない多孔性凝固ゴムを得ることができる。さらに、工程(II)(例えば、多孔性凝固ゴムを、老化防止剤分散体もしくは老化防止剤含有エマルジョンへ浸漬、または、老化防止剤分散体もしくは老化防止剤含有エマルジョンを多孔性凝固ゴムへ噴霧)により、表面積の大きな多孔性凝固ゴムの表面に、効率的に老化防止剤を付着させられるため、その後の乾燥、貯蔵、素練り時等における天然ゴムの分子量低下、ゲル化を抑制することができる。特に、天然ゴムラテックスとしてケン化処理された天然ゴムラテックスを使用する場合、乾燥、貯蔵、素練り時等における天然ゴムの分子量の低下が大きいが、効率的に老化防止剤を付着させることにより、乾燥、貯蔵、素練り時等における分子量の低下を抑制することができる。その結果、耐破壊特性、転がり抵抗に優れた固形天然ゴムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
固形天然ゴムの製造に用いられる天然ゴムラテックスとしては、ヘビア樹をタッピングして出てくる生ラテックス、あるいは遠心分離法によって濃縮した精製ラテックスが用いられる。さらに、生ゴムラテックス中に存在するバクテリアによる腐敗の進行を防止し、ラテックスの凝固を避けるために、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックスであってもよい。また、ケン化処理天然ゴムラテックスであってもよい。
【0010】
ケン化処理天然ゴムラテックスは、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することにより得られる。なお、必要に応じて攪拌等を行っても良い。また、必要に応じてケン化処理を行った後に、水等により洗浄を行っても良い。ケン化処理を行った後に、水等で洗浄することにより、ケン化により分離したリン化合物およびケン化により分解された蛋白質が洗浄除去され、ラテックス中のリン含有量および窒素含有量を抑えることができるからである。
【0011】
本発明において用いられる凝固系は、上記のとおり、(1)酸と(2)特定の塩および/または高分子凝集剤とからなる。
【0012】
酸としては有機酸および無機酸のいずれを用いることもできる。有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸などが好ましく、無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、炭酸などが好ましい。これらの酸は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
特定の塩は、硝酸、硫酸、炭酸、リン酸、塩酸および蟻酸それぞれの酸の、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩である。これらの塩は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特定の塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0014】
高分子凝集剤としてはアニオン系、カチオン系、ノニオン系高分子凝集剤のいずれでも使用できる。アニオン系高分子凝集剤としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、CMC−Na、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリルアミド−アクリル酸ナトリウム共重合体、ポリアクリルアミド部分加水分解物などが挙げられる。
【0015】
カチオン系高分子凝集剤としては、例えば、ポリメタクリル酸エステル系高分子凝集剤、水溶性アニリン樹脂塩酸塩、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、キトサン、ヘキサメチレンジアミン−エピクロルヒドリン縮合物、ポリビニルイミダゾリン、ポリアルキルアミノ(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミドマンニッヒ変成物、ジメチルアミノエチルアクリレート/アクリルアミド共重合体などが挙げられる。ノニオン系高分子凝集剤としては、例えば、でん粉、グアーガム、ゼラチン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。
【0016】
上記凝固系においては、凝固時のpHは、下限は3.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましく、上限は6.5以下が好ましく、5.5以下がより好ましい。
【0017】
上記凝固系においては、塩の全混合液中での濃度は、下限は0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましく、上限は3.0重量%以下が好ましく、2.0重量%以下がより好ましい。
【0018】
上記凝固系においては、高分子凝集剤の添加量は、天然ゴムラテックスの固形分100重量部に対して、下限は0.001重量部以上が好ましく、0.01重量部以上がより好ましく、上限は1.0重量部以下が好ましく、0.75重量部以下がより好ましい。
【0019】
工程(I)の操作の手順としては、天然ゴムラテックスに特定の塩および/または高分子凝集剤をあらかじめ添加し均一に混合した後、酸を加えて凝固してもよいし、あるいは天然ゴムラテックスにあらかじめ酸を添加した後、特定の塩および/または高分子凝集剤を加えて凝固してもよい。勿論、天然ゴムラテックスに特定の塩および/または高分子凝集剤と酸を同時に添加してもよい。いずれの方法を用いても迅速に凝固が起こり、表面積の大きな多孔性のクラムスラリーである多孔性凝固ゴムが得られる。
なお、上記成分の均一混合、ラテックスのクリーミング、凝固の促進のために、攪拌を行うことが好ましい。攪拌は、攪拌機、混練機等により行うことができる。
【0020】
さらに、工程(I)で得られた多孔性凝固ゴムと老化防止剤とを混合することにより、本発明の固形天然ゴムが得られる〔工程(II)〕。なお、老化防止剤を添加する前に、多孔性凝固ゴムを水等により洗浄することが好ましい。多孔性凝固ゴムは、表面積が大きいため、洗浄することにより、効率的に不純物を除去することができるからである。
【0021】
老化防止剤としては特に限定されず、例えば、ナフチルアミン系、キノリン系、ジフェニルアミン系、p−フェニレンジアミン系、ヒドロキノン誘導体、フェノール系(モノフェノール系、ビスフェノール系、トリスフェノール系、ポリフェノール系)、チオビスフェノール系、ベンゾイミダゾール系、チオウレア系、亜リン酸系、有機チオ酸系老化防止剤などが挙げられる。なかでも、p−フェニレンジアミン系、フェノール系老化防止剤が好ましい。これにより、乾燥、貯蔵、素練り時等における天然ゴムの分子量低下、ゲル化を抑制できる。
【0022】
ナフチルアミン系老化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、アルドール−α−トリメチル1,2−ナフチルアミンなどが挙げられる。
【0023】
キノリン系老化防止剤としては、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンなどが挙げられる。
【0024】
ジフェニルアミン系老化防止剤としては、p−イソプロポキシジフェニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)−ジフェニルアミン、N,N−ジフェニルエチレンジアミン、オクチル化ジフェニルアミンなどが挙げられる。
【0025】
p−フェニレンジアミン系老化防止剤としては、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−エチル−3−メチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N−4−メチル−2−ペンチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジアリール−p−フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール−p−フェニレンジアミン、フェニル,ヘキシル−p−フェニレンジアミン、フェニル,オクチル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。p−フェニレンジアミン系の老化防止剤としては、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンが特に好ましい。
【0026】
ヒドロキノン誘導体老化防止剤としては、2,5−ジ−(tert−アミル)ヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノンなどが挙げられる。
【0027】
フェノール系老化防止剤に関し、モノフェノール系老化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、1−オキシ−3−メチル−4−イソプロピルベンゼン、ブチルヒドロキシアニソール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネート、スチレン化フェノールなどが挙げられる。ビスフェノール系、トリスフェノール系、ポリフェノール系老化防止剤としては、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。フェノール系老化防止剤としては、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)が特に好ましい。
【0028】
チオビスフェノール系老化防止剤としては、4,4’−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2’−チオビス−(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)などが挙げられる。ベンゾイミダゾール系老化防止剤としては、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾールなどが挙げられる。チオウレア系老化防止剤としては、トリブチルチオウレアなどが挙げられる。亜リン酸系老化防止剤としては、トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。有機チオ酸系老化防止剤としては、チオジプロピオン酸ジラウリルなどが挙げられる。これらの老化防止剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
老化防止剤は、通常素練り以後または混練り時に用いられるが、本発明では、工程(II)の時点、即ち、素練り前または混練り前に添加されるため、その使用時期が相違する。
【0030】
工程(II)において、浸漬または噴霧などにより老化防止剤を多孔性凝固ゴムに添加する際には、老化防止剤を溶媒、分散媒などに溶解または分散させたものを使用することが好ましい。老化防止剤が水溶性の場合は、水溶液にして用いても良い。老化防止剤が非水溶性の老化防止剤の場合は、水溶液中に分散させて、老化防止剤分散体としても良い。また、老化防止剤が非水溶性の老化防止剤の場合は、まずエチルアルコール等に溶解し、それをカルボン酸塩ないしアルキルアリールスルホン酸塩の界面活性剤入りの水(精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等)で希釈して攪拌し、老化防止剤含有エマルジョンとしても良い。
【0031】
老化防止剤の水溶液若しくは分散体、又は老化防止剤含有エマルジョンの濃度は、下限は0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、上限は30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。0.1重量%未満であると、乾燥、貯蔵、素練り時等における天然ゴムの分子量低下、ゲル化を充分に抑制することができないおそれがある。また逆に30重量%を超えると、過剰に老化防止剤が付着してしまうことから効率が悪く、また過剰に存在する老化防止剤により加硫ゴムの物性が低下するおそれがある。
【0032】
老化防止剤を浸漬する態様としては、上記老化防止剤水溶液、老化防止剤分散体、または老化防止剤含有エマルジョンに多孔性凝固ゴムをそのまま浸漬する方法、撹拌した状態で多孔性凝固ゴムを浸漬する方法などが挙げられる。なお、浸漬時間は、多孔性凝固ゴムの空隙の大きさなどにより変動するものであるが、下限は1秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましく、上限は10分以下が好ましく、6分以下がより好ましい。浸漬時間が1秒未満であると、充分に天然ゴムの表面に老化防止剤を付着させることができない。また逆に浸漬時間が10分を超えると、生産性が低下し、また、長時間浸漬した場合でも効果は変わらない。この浸漬処理では、短時間で目的の効果を発揮する。
【0033】
老化防止剤を噴霧する態様としては、噴霧器を用いて、上記老化防止剤水溶液、老化防止剤分散体、または老化防止剤含有エマルジョンを、多孔性凝固ゴムにコンベア上で両面から均一に噴霧することなどが挙げられる。
【0034】
本発明では、多孔性凝固ゴムに、老化防止剤を上述の浸漬の態様で、または、上述の噴霧の態様にて添加することができ、更に、必要に応じて、この浸漬と噴霧の態様を併用して添加することもできる。
【0035】
上記浸漬、噴霧等により多孔性凝固ゴムと老化防止剤とを含む混合物を得た後、乾燥などを行うことにより、老化防止剤が付着した多孔性凝固ゴム(固形ゴム)を得ることができる。
【0036】
本発明により得られた老化防止剤が付着した多孔性凝固ゴムに、更に必要に応じて他のジエン系ゴム等のゴム成分、カーボンブラック、シリカ等の充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤などの添加剤を配合することにより、タイヤ等のゴム工業に適用できるゴム組成物を製造することができる。ゴム組成物中の成分として、本発明により得られたゴムを使用することにより、加硫ゴム組成物において優れた耐破壊特性および転がり抵抗を得ることができる。
【実施例】
【0037】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0038】
まず、製造例、実施例および比較例で使用した各種薬品について説明する。
界面活性剤:花王(株)製のEmal−E
NaOH:和光純薬(株)製のNaOH
カチオン性ポリマー(ポリメタクリル酸エステル系高分子凝集剤):MTアクアポリマー(株)製のアロンフロックC−303
カーボンブラック:昭和キャボット(株)製のN110(チッ素吸着比表面積(NSA):143m/g、DBP吸油量:113ml/100g)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジル・スルフェンアミド)
【0039】
製造例1
(多孔性凝固ゴム生成工程)
農園より入手したフィールドラテックス600gに水を加えて固形分濃度(DRC)30%(w/v)に希釈した後、さらに、水を加えて固形分濃度(DRC)15%(w/v)に希釈した後、ゆっくり攪拌しながら蟻酸を添加してpHを4.0〜4.5に調整し、そこにカチオン性ポリマー(0.025%(w/v)水溶液)(ポリメタクリル酸エステル系高分子凝集剤)20mlを加えて、微細な凝集を得た。その後、分離した水相を底部より除き、洗浄を行った。その後、再度水を加えてDRCが15%になるまで希釈して洗浄し、再度水を廃棄して水溶性の成分を除き、水を含んだ状態で凝固した天然ゴム(クラム)を得た。
【0040】
製造例2
(多孔性凝固ゴム生成工程)
農園より入手したフィールドラテックス600gに水を加えて固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、Emal−E 10gとNaOH20gを加え、70℃、24時間ケン化反応を行い、ケン化ラテックスを得た。ケン化ラテックスをDRC15%(w/v)になるまで水を加えて希釈した後、ゆっくり攪拌しながら蟻酸を添加してpHを4.0〜4.5に調整し、そこにカチオン性ポリマー(0.025%(w/v)水溶液)(ポリメタクリル酸エステル系高分子凝集剤)20mlを加えて、微細な凝集を得た。その後、分離した水相を底部より除き、洗浄を行った。その後、再度水を加えてDRCが15%になるまで希釈して洗浄し、再度水を廃棄して水溶性の成分を除き、水を含んだ状態で凝固した天然ゴム(クラム)を得た。
【0041】
製造例3
(多孔性凝固ゴム生成工程)
農園より入手したフィールドラテックス600gに水を加えて固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、Emal−E 10gとNaOH20gを加え、70℃、24時間ケン化反応を行い、ケン化ラテックスを得た。ケン化ラテックスをDRC15%(w/v)になるまで水を加えて希釈した後、ゆっくり攪拌しながら蟻酸を添加してpHを4.0〜4.5に調整し、そこに塩化カルシウム10%水溶液10mlを加えて、微細な凝集を得た。その後、分離した水相を底部より除き、洗浄を行った。その後、再度水を加えてDRCが15%になるまで希釈して洗浄し、再度水を廃棄して水溶性の成分を除き、水を含んだ状態で凝固した天然ゴム(クラム)を得た。
【0042】
実施例1〜2
製造例2又は1で得られたクラムを10重量%N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−p−フェニレンジアミン(6PPD)分散液に1分間浸漬処理した後、120℃で2時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0043】
実施例3〜4
製造例2又は1で得られたクラムを10重量%2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(BHT)分散液に1分間浸漬処理した後、120℃で2時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0044】
実施例5〜6
製造例2又は1で得られたクラムに10重量%N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−p−フェニレンジアミン(6PPD)分散液を噴霧器を用いて噴霧処理した後、120℃で2時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0045】
実施例7〜8
製造例2又は1で得られたクラムに10重量%2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(BHT)分散液を噴霧器を用いて噴霧処理した後、120℃で2時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0046】
実施例9
製造例3で得られたクラムに10重量%N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−p−フェニレンジアミン(6PPD)分散液に1分間浸漬処理した後、120℃で2時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0047】
実施例10
製造例3で得られたクラムに10重量%N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−p−フェニレンジアミン(6PPD)分散液を噴霧器を用いて噴霧処理した後、120℃で2時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0048】
比較例1〜3
製造例1〜3で得られたクラムを120℃で2時間乾燥して固形ゴムを得た。
【0049】
<評価試料の作成および評価1>
(素練り)
実施例1〜10および比較例1〜3で得られた各天然ゴム(固形ゴム)について、バンバリーミキサーで練り時間120秒、落下温度120℃で素練りを行い、原料ゴムおよび素練り後のポリマーゲル量、分子量を下記方法にて測定した。
【0050】
(分子量の評価法)
ゲル浸透クロマトグラフィー法により分子量を測定した。測定装置には、東ソー社製のゲルパーミエーションクロマトグラフ(Gel Permeation Chromatograph)HCL−8020、カラムには東ソー社製のGMHXL、校正には東ソー社製の標準ポリスチレン、溶媒にはTHF1級、溶液には0.01gサンプル/30ccTHFをそれぞれ用いた。
【0051】
(ゲル量測定)
ゴム0.2gをトルエンに48時間膨潤させ、遠心分離機で20000rpmで30分処理し、沈降したゲルを70℃×24時間乾燥して秤量した量をポリマーゲルとしてもとのゴム全体重量で割った値(%)をゲル量とした。
【0052】
<評価試料の作成および評価2(加硫ゴム物性の測定)>
実施例1〜10および比較例1〜3で得られた各天然ゴム(固形ゴム)100重量部に対して、カーボンブラック50重量部、ステアリン酸3重量部、酸化亜鉛3重量部、老化防止剤ノクラック6C1重量部、硫黄1.5重量部、および、加硫促進剤ノクセラーNS0.8重量部を混練り配合し、各種供試ゴム組成物を得た。これらの配合物を170℃で20分間プレス加硫して加硫物を得、これらについて以下に示す各特性の試験を行った。
【0053】
(破壊強度)
JIS K6251−1993に準拠して引張強度を測定し、破壊強度とした。
(転がり抵抗指数)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各配合のtanδを測定した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、老化防止剤を噴霧または老化防止剤に浸漬した固形ゴム(多孔性凝固ゴム)を使用した実施例1〜10は、老化防止剤を噴霧または老化防止剤に浸漬していない固形ゴム(多孔性凝固ゴム)を使用した比較例1〜3に比べて、素練り時の分子量低下、ゲル化を抑制する効果に優れ、また、作製した加硫ゴムについても破壊強度が高く、tanδが低いため、耐破壊特性、転がり抵抗に優れていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスと、(1)酸と、(2)(i)硝酸、硫酸、炭酸、リン酸、塩酸および蟻酸のそれぞれの酸のカルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種の塩、および/または(ii)高分子凝集剤と、を混合して多孔性凝固ゴムを生成させる工程(I)、生成した多孔性凝固ゴムと老化防止剤とを混合する工程(II)を含むことを特徴とする固形天然ゴムの製造方法。
【請求項2】
前記工程(II)が、老化防止剤分散体もしくは老化防止剤含有エマルジョンへの前記多孔性凝固ゴムの浸漬、または老化防止剤分散体もしくは老化防止剤含有エマルジョンの前記多孔性凝固ゴムへの噴霧により行われる請求項1記載の固形天然ゴムの製造方法。
【請求項3】
前記老化防止剤がp−フェニレンジアミン系老化防止剤および/またはフェノール系老化防止剤である請求項1または2記載の固形天然ゴムの製造方法。
【請求項4】
前記天然ゴムラテックスがケン化処理された天然ゴムラテックスである請求項1〜3のいずれかに記載の固形天然ゴムの製造方法。

【公開番号】特開2010−144001(P2010−144001A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320881(P2008−320881)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】