説明

天然ゴムマスターバッチの製造方法

【課題】天然ゴムラテックスとシリカスラリーとの混合液を乾燥する製造方法において、天然ゴムマスターバッチの粘度を低減し、耐摩耗性を高くすると共に、ヒステリシスロスを小さくする天然ゴムマスターバッチの製造方法を提供する。
【解決手段】天然ゴムラテックスと、シリカを水に分散させたシリカスラリーとを混合し、得られた混合液を乾燥する天然ゴムマスターバッチの製造方法において、前記混合液に2以上のカルボキシル基を有する特定のカルボン酸及び特定のアミンを配合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムマスターバッチの製造方法に関し、さらに詳しくは、天然ゴムラテックスとシリカスラリーとの混合液を乾燥して天然ゴムマスターバッチを製造する際に、天然ゴムマスターバッチの粘度を低減し、耐摩耗性を向上すると共にヒステリシスロスを小さくするようにする天然ゴムマスターバッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤを構成するゴム組成物には、ヒステリシスロスを小さくすることにより燃費性能を向上させたり、耐摩耗性を高くすることにより耐久性を向上させたり、粘度を低減することにより成形加工性を向上させることが求められている。このような要求性能を向上させるため、ゴム組成物に配合するゴムマスターバッチにも低粘度化、耐摩耗性と共にヒステリシスロスを小さくする性能が求められている。
【0003】
従来、天然ゴムマスターバッチの製造方法としては、天然ゴムラテックスとシリカスラリーとの混合液を乾燥し水分を除去することにより製造する方法が知られており、例えば凍結凝固法、アルコール凝固法、パルス燃焼衝撃波乾燥法などが提案されている。なかでもパルス燃焼衝撃波乾燥法による製造方法は、天然ゴムの熱劣化やゲル化を抑制するようにした天然ゴムマスターバッチを製造することができる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし、このような製造方法により得られた天然ゴムマスターバッチにおいても、低粘度化、耐摩耗性を向上すると共に、ヒステリシスロスを小さくするという要求性能を達成することはできなかった。
【特許文献1】特開2005−298672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、天然ゴムラテックスとシリカスラリーとの混合液を乾燥して天然ゴムマスターバッチを製造する方法において、天然ゴムマスターバッチの粘度を低減し、耐摩耗性を高くすると共に、ヒステリシスロスを小さくする天然ゴムマスターバッチの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の天然ゴムマスターバッチの製造方法は、天然ゴムラテックスと、シリカを水に分散させたシリカスラリーとを混合し、得られた混合液を乾燥する天然ゴムマスターバッチの製造方法において、前記混合液にシュウ酸又は下記式(1)で表されるカルボン酸及び下記式(2)で表されるアミンを配合することを特徴とする。
【0007】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜15の飽和炭化水素基若しくは不飽和炭化水素基であり、nは2以上の整数である。)
【0008】
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜24の炭化水素基1〜24の炭化水素基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基若しくはアルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数7〜24のアラルキル基から選ばれる炭化水素基であり、mは1以上の整数である。)
【0009】
前記カルボン酸が有するカルボキシル基とアミンが有するアミノ基との当量比は1:0.9〜1:1.5にするとよい。
【0010】
また、前記カルボン酸とアミンとを予め混合することにより得られる下記式(3)で表されるカルボン酸アミン塩を、前記天然ゴムラテックスとシリカスラリーとの混合液に配合することもできる。
【0011】
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜15の飽和炭化水素基若しくは不飽和炭化水素基であり、Rは炭素数1〜24の炭化水素基1〜24の炭化水素基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基若しくはアルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数7〜24のアラルキル基から選ばれる炭化水素基であり、nは2以上の整数、mは1以上の整数、l=n/mである。)
【0012】
前記シリカは、湿式シリカ、乾式シリカ又はコロイダルシリカがよい。また、前記天然ゴムラテックスは、フィールドラテックス、濃縮ラテックスから選ばれる少なくとも1つであればよい。
【0013】
前記天然ゴムラテックス、シリカスラリー、カルボン酸及びアミン又はカルボン酸アミン塩を含む混合液の乾燥は、その混合液をパルス燃焼による衝撃波の雰囲気中に噴射して行なうとよい。或いは前記混合液の乾燥は、その混合液中の天然ゴムを凝固させて固形成分を固液分離し行なうとよい。
【0014】
このような天然ゴムマスターバッチの製造方法により得られた天然ゴムマスターバッチは、ゴム組成物に配合することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の天然ゴムマスターバッチの製造方法は、天然ゴムラテックスとシリカスラリーとの混合液に、特定のカルボン酸及びアミンを配合するようにしたので、これらがシリカ粒子の表面に作用しシリカの分散性を向上するため、天然ゴムマスターバッチの粘度を低減し、耐摩耗性を高くすると共に、ヒステリシスロスを小さくする天然ゴムマスターバッチを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の製造方法において、天然ゴムラテックスとしては、ゴムの木から採取しろ過されたフィールドラテックス又はこれを処理した濃縮ラテックスを使用することができる。これらのラテックスはいずれか一方又は両方を使用してもよい。天然ゴムラテックス中の固形成分の量は、特に制限されるものではないが、好ましくは50〜70重量%にするとよい。なお、天然ゴムラテックス中の固形成分とは、水分(しょう液)及びこれに溶解した成分を除いたすべての固形成分とする。
【0017】
また、シリカスラリーは、水を分散媒とし、シリカ粒子を均一に分散させた懸濁液である。シリカスラリー中のシリカの重量分率は、好ましくは15〜50重量%にするとよい。スラリー中のシリカの重量分率が15重量%未満の場合、シリカスラリーと天然ゴムラテックスとの混合液から水分を除去する労力が多大になる。また、スラリー中のシリカの重量分率が50重量%を超えると、シリカスラリーと天然ゴムラテックスとの混合を均一に行なうことが難しくなる。
【0018】
シリカの種類としては、ゴム組成物に通常配合されるものであればよく、例えば湿式シリカ、乾式シリカ又はコロイダルシリカを例示することができる。シリカは、ゴム組成物に配合すると、ヒステリシスロスを小さくする特性がある。しかし、シリカは粒子表面にシラノール基を有するためシリカ粒子が凝集しやすくゴム中に均一に分散させることが難しい。このためヒステリシスロスを小さくする効果が十分に得られないことがあった。
【0019】
本発明の天然ゴムマスターバッチの製造方法は、天然ゴムラテックスとシリカスラリーとを混合した混合液に特定のカルボン酸及びアミンを配合する。これにより、カルボン酸が、シリカ粒子表面のシラノール基に作用するため、シリカ粒子の凝集を解消し分散性を向上することができる。同時に、アミンを含有することにより天然ゴムラテックスとシリカスラリーの混合液をほぼ中性にするため、天然ゴムラテックス中のゴム粒子の分散を安定化するので、天然ゴムとシリカとの分散性を向上した天然ゴムマスターバッチを製造することができる。得られた天然ゴムマスターバッチはシリカが均一に分散しているため、ヒステリシスロスを小さくすると共に、粘度を低くし耐摩耗性を向上することができる。
【0020】
本発明の製造方法で使用するカルボン酸は、シュウ酸又は下記式(1)で表される。
【化4】

式(1)中、Rは飽和炭化水素基若しくは不飽和炭化水素基であり、その炭素数は1〜15、好ましくは1〜3である。Rは任意に官能基及び/又はヘテロ原子を含有することができる。また、nは2以上の整数、好ましくは2又は3である。
【0021】
本発明の製造方法で使用するカルボン酸としては、ジカルボン酸又はトリカルボン酸が好ましい。なお、カルボン酸としてモノカルボン酸を配合した場合には、低粘度化、耐摩耗性であると共に、ヒステリシスロスが小さい天然ゴムマスターバッチを製造することができない。
【0022】
このようなカルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカン二酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、テトラドデカン二酸、ペンタドデカン二酸、ヘキサドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロオクタン−1,2−ジカルボン酸、シクロオクタン−1,3−ジカルボン酸、シクロオクタン−1,4−ジカルボン酸、シクロオクタン−1,5−ジカルボン酸、フェニルマロン酸、ベンジルマロン酸、フェニルピルビン酸、フェニルコハク酸、フェニレン2酢酸、リンゴ酸、クエン酸、タルトロン酸、酒石酸、シトラマル酸、イソクエン酸、エチレン−ジアミン−テトラ酢酸、ニトリロ−トリアセト酢酸、ジエチレン−トリアミン−ペンタ酢酸、トリエチレン−テトラミン−ヘキサ酢酸、ジカルボキシメチル−グルタミン酸、1,3−プロパンジアミン−テトラ酢酸、カルボキシメチル−グルタミン酸を例示することができる。なかでも、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸が好ましい。
【0023】
本発明の製造方法で使用するアミンは、下記式(2)で表される。
【化5】

式(2)中、mは1以上の整数であり、Rは炭素数1〜24の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜8の炭化水素基である。Rは任意にヘテロ原子を含有することができる。また、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基若しくはアルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数7〜24のアラルキル基から選ばれる炭化水素基である。R及びRが炭化水素基であるときは任意にヘテロ原子を含有することができる。R及びRは好ましくは水素であるとよい。
【0024】
本発明の製造方法で使用するアミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、t−ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ヘプルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、1−アミノオクタデカン、シクロプロピルアミン、ジシクロプロピルアミン、シクロブチルアミン、ジシクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、ジシクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミン、ジシクロヘプチルアミン、シクロオクチルアミン、ジシクロオクチルアミン、アニリン、ベンジルアミン、ジフェニルアミン、2−アミノトルエン、3−アミノトルエン、4−アミノトルエン、2,4−ジメチルアニリン、2,3−ジメチルアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2,6−ジメチルアニリン、3,4−ジメチルアニリン、3,5−ジメチルアニリン、2,4,5−トリメチルアニリン、2,4,6−トリメチルアニリン、2,3,4,5−テトラメチルアニリン、2,3,5,6−テトラメチルアニリン、2,3,4,6−テトラメチルアニリン、2−エチル−3−ヘキシルアニリン、2−エチル−4−ヘキシルアニリン、2−エチル−5−ヘキシルアニリン、2−エチル−6−ヘキシルアニリン、3−エチル−4−ヘキシルアニリン、3−エチル−5−ヘキシルアニリン、3−エチル−2−ヘキシルアニリン、4−エチル−2−ヘキシルアニリン、5−エチル−2−ヘキシルアニリン、6−エチル−2−ヘキシルアニリン、4−エチル−3−ヘキシルアニリン、5−エチル−3−ヘキシルアニリン、2−アミノベンジルアミン、3−アミノベンジルアミン、4−アミノベンジルアミン、2−(4−アミノフェニル)エチルアミン、2−(3−アミノフェニル)エチルアミン、2−(2−アミノフェニル)エチルアミン、2−メトキシアニリン、3−メトキシアニリン、4−メトキシアニリン、2−メトキシ−3−メチルアニリン、2−メトキシ−4−メチルアニリン、2−メトキシ−5−メチルアニリン、2−メトキシ−6−メチルアニリン、3−メトキシ−2−メチルアニリン、3−メトキシ−4−メチルアニリン、3−メトキシ−5−メチルアニリン、3−メトキシ−6−メチルアニリン、4−メトキシ−2−メチルアニリン、4−メトキシ−4−メチルアニリン、4−メトキシ−5−メチルアニリン、4−メトキシ−6−メチルアニリン、2−エトキシアニリン、3−エトキシアニリン、4−エトキシアニリン、2−メトキシ−3−エチルアニリン、2−メトキシ−4−エチルアニリン、2−メトキシ−5−エチルアニリン、2−メトキシ−6−エチルアニリン、3−メトキシ−2−エチルアニリン、3−メトキシ−4−エチルアニリン、3−メトキシ−5−エチルアニリン、3−メトキシ−6−エチルアニリン、4−メトキシ−2−エチルアニリン、4−メトキシ−3−エチルアニリン、2−メトキシ−3,4,5−トリメチルアニリン、3−メトキシ−2,4,5−トリメチルアニリン、4−メトキシ−2,3,5−トリメチルアニリン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノベンゼン、ジアミノトルエン、ジアミノフェノール等を例示することができる。なかでも、シクロヘキシルアミン、t−ブチルアミンが好ましい。
【0025】
本発明の天然ゴムマスターバッチの製造方法は、天然ゴムラテックスとシリカスラリーとの混合液に上述したようにカルボン酸及びアミンを共に配合する。カルボン酸だけを配合した場合、天然ゴムラテックスとシリカスラリーの混合液が酸性になりゴム粒子の分散が不安定になり生産ラインの配管の詰まり等が起きる虞がある。また、アミンだけを配合した場合、天然ゴムマスターバッチの粘度が増大すると共に、スコーチが悪化しゴム焼けが起こりやすくなる。
【0026】
本発明において、上述したカルボン酸とアミンは、カルボン酸が有するカルボキシル基とアミンが有するアミノ基との当量比が、好ましくは1:0.9〜1:1.5、より好ましくは1:1〜1:1.3になるように配合するとよい。アミノ基の当量がカルボキシル基当量の0.9倍より小さいと混合液がゴム粒子の分散が不安定になる。また、アミノ基の当量がカルボキシル基当量の1.5倍を超えると、粘度が増大すると共に、スコーチが悪化しゴム焼けが起こりやすくなる。
【0027】
カルボン酸及びアミンを、天然ゴムラテックスとシリカスラリーの混合液に配合する方法は、特に制限されるものではないが、カルボン酸とアミンとを溶解させた水溶液を調製しこの水溶液を天然ゴムラテックスとシリカスラリーの混合液に添加する方法、シリカスラリーにカルボン酸及びアミンを添加し溶解させた後に、シリカスラリーと天然ゴムラテックスとを混合する方法が好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において、カルボン酸とアミンとの合計量は、天然ゴムラテックス中の固形成分100重量部に対し、好ましくは0.1〜5.0重量部、より好ましくは0.5〜2.0重量部添加するとよい。カルボン酸とアミンの合計量が0.1重量部未満の場合、シリカの分散性を向上することが困難になる。また、カルボン酸とアミンの合計量が5.0重量部を超えると、粘度が増大すると共に、スコーチが悪化しゴム焼けが起こりやすくなる。
【0029】
本発明の製造方法において、カルボン酸とアミンとを予め混合することにより酸塩基反応を行なうことにより得られる下記式(3)で表されるカルボン酸アミン塩を、天然ゴムラテックスとシリカスラリーとの混合液に配合することもできる。
【0030】
【化6】

式(3)中、R〜R及びn,mは前記式(1)(2)と同じであり、l=n/mである。このようなカルボン酸アミン塩を、予め調製してから天然ゴムラテックスとシリカスラリーの混合液に配合することにより、カルボン酸とアミンのモル比の調整が容易になり天然ゴムマスターバッチを品質を安定させて製造することができる。
【0031】
このようなカルボン酸アミン塩の調製方法は、特に制限されるものではなく、通常の酸塩基反応に用いられる調製方法を行なうことができる。例えばカルボン酸及びアミンを良溶媒に溶解させた溶液、貧溶媒で希釈することによりカルボン酸アミン塩を析出させる方法、カルボン酸及びアミンの溶液中の溶媒を蒸発させることによりカルボン酸アミン塩を分取する方法などを例示することができる。
【0032】
本発明の製造方法で使用するカルボン酸アミン塩としては、コハク酸のシクロヘキシルアミン塩、コハク酸のt−ブチルアミン塩、リンゴ酸のシクロヘキシルアミン塩、リンゴ酸のt−ブチルアミン塩、クエン酸のシクロヘキシルアミン塩、クエン酸のt−ブチルアミン塩等を好ましく挙げることができる。
【0033】
このようなカルボン酸アミン塩を、天然ゴムラテックスとシリカスラリーの混合液に配合する方法は、特に制限されるものではないが、カルボン酸アミン塩を溶解させた水溶液を調製しこの水溶液を混合液に添加する方法、シリカスラリーにカルボン酸アミン塩を添加し溶解させた後にそのシリカスラリーと天然ゴムラテックスとを混合する方法が好ましい。
【0034】
本発明の製造方法において、カルボン酸アミン塩の配合量は、天然ゴムラテックス中の固形成分100重量部に対し、好ましくは0.1〜5.0重量部、より好ましくは0.5〜2.0重量部添加するとよい。カルボン酸アミン塩の配合量が0.1重量部未満の場合、シリカの分散性を向上することが困難になる。また、カルボン酸アミン塩の配合量が5.0重量部を超えると、粘度が増大すると共に、スコーチが悪化しゴム焼けが起こりやすくなる。
【0035】
また、天然ゴムラテックス又はその混合液には界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を配合することにより、ラテックス又はその混合液中のゴム粒子の分散を安定化することができる。このため天然ゴムラテックスが酸性になった場合でもゴム粒子の分散が不安定になるのを抑制し、生産ラインの配管の詰まり等の不具合を防止することができる。
【0036】
本発明の製造方法において、天然ゴムラテックス、シリカスラリー、カルボン酸とアミンを混合する方法は、特に制限されるものではないが、例えば温度10〜30℃で混合・撹拌するとよい。
【0037】
上記により得られた天然ゴムラテックス、シリカスラリー、カルボン酸及びアミンを含む混合液を乾燥することにより、天然ゴムマスターバッチを製造する。本発明で使用する乾燥方法としては、混合液中の天然ゴムを凝固させ得られた固形成分を固液分離し乾燥する方法又は混合液をパルス燃焼衝撃波乾燥法にり乾燥する方法が好ましい。
【0038】
混合液中の天然ゴムを凝固させる方法としては、ギ酸や酢酸に代表される酸を加えて凝固させるとよい。また、凝固させた固形成分を固液分離する方法としては、ろ過、遠心分離などを例示することができる。また、得られた固形成分を乾燥する方法としては、例えば熱風乾燥法、減圧乾燥法、せん断をかけながら乾燥する方法、凍結凝固法、アルコール凝固法などを例示することができる。
【0039】
パルス燃焼衝撃波乾燥法は、天然ゴムラテックス、シリカスラリー、カルボン酸及びアミンを含む混合液を、パルス燃焼による衝撃波の雰囲気中に噴射することにより行なう乾燥方法であり、混合液中のゴム粒子に過剰の熱をかけずに低温で乾燥するので天然ゴムの熱劣化やゲル化を防止することができる。このため、粘度を低減しゴム粒子とシリカとの均一な混合状態を維持するようにした天然ゴムマスターバッチを製造することができる。
【0040】
パルス燃焼衝撃波乾燥は、市販のパルス燃焼衝撃波乾燥装置(例えばパルテック社製ハイパルコン)を使用して行なうことができる。乾燥条件は、パルス燃焼の周波数が好ましくは50〜1200Hz、より好ましくは250〜1000Hz、天然ゴムラテックスとシリカスラリーとの混合液を噴射する乾燥室の温度を好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜70℃にするとよい。パルス燃焼衝撃波乾燥の条件を上述した範囲内にすることにより、天然ゴムの熱劣化やゲル化を防止すると共に、天然ゴムマスターバッチ中のゴム粒子とシリカとの均一な混合状態で乾燥することができる。
【0041】
本発明の天然ゴムマスターバッチの製造方法は、天然ゴムラテックスとして濃縮ラテックスを使用し、濃縮ラテックスとシリカスラリーとの混合液を上述したパルス燃焼衝撃波乾燥法により乾燥するのが特に好ましい。
【0042】
本発明の製造方法により得られた天然ゴムマスターバッチは、耐摩耗性を高くし、ヒステリシスロスを小さくすると共に、粘度を低減し成形加工性を向上することができる。このような天然ゴムマスターバッチを含むゴム組成物は、粘度が低いため成形加工性に優れ、耐摩耗性が高いため耐久性に優れると共にヒステリシスロスが小さい特性を有する。ゴム組成物には、天然ゴムマスターバッチ以外にゴム組成物に通常用いられる充填材や添加剤などの配合剤を添加することができる。充填材としては、シリカ及びその他の無機充填材を配合することができ、例えばクレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム等を必要に応じて配合することができる。添加剤としては、例えば、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、滑剤、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤などを例示することができる。これらの充填剤及び添加剤の配合量は、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0043】
上記により得られたゴム組成物は、空気入りタイヤの少なくとも1部材を構成するのに好適である。空気入りタイヤの構成部材としては、トレッド部、サイドウォール部、ビード部や各種補強コードの被覆ゴムなどが挙げられる。本発明の天然ゴムマスターバッチを含むゴム組成物を用いて成形したゴム部材は、天然ゴムの特性が効果的に引き出されると共に、シリカが均一に分散し、成形加工性に優れ安定的に加工成形されるので、高い品質を安定的に発揮することができる。同時に、耐摩耗性が高く耐久性に優れると共に、ヒステリシスロスが小さいためタイヤの燃費性能を向上することができる。
【0044】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
天然ゴムマスターバッチの製造
表1に示す配合でシリカスラリーにカルボン酸及び/又はアミン、又はカルボン酸のアミン塩を添加し、常温で溶解するまで撹拌した。得られたシリカスラリーを、天然ゴムラテックス(表1中「NRラテックス」と記す。)中の固形成分量100重量部に対してシリカが60重量部になるように配合しメカニカルスターラーを使用して撹拌混合し、天然ゴムラテックスとシリカスラリーの混合液を得た。得られた混合液を、パルス燃焼衝撃波乾燥装置(パルテック社製ハイパルコン小型ラボ用乾燥機)を使用して、パルス燃焼による衝撃波の雰囲気(周波数1000Hz、温度60℃)下に2L/時の流量で噴射して乾燥し、9種類の天然ゴムマスターバッチ(実施例1〜6、比較例2〜4)を製造した。なお、実施例5及び6において、コハク酸及びシクロヘキシルアミンの配合量は、コハク酸のカルボキシル基とシクロヘキシルアミンのアミノ基との当量比が、それぞれ実施例5が1:1、実施例6が1:1.5になるように添加した。また、比較例4において、酢酸及びシクロヘキシルアミンの配合量は、酢酸のカルボキシル基とシクロヘキシルアミンのアミノ基との当量比が1:1になるように添加した。また、比較例1としてカルボン酸及びアミンを配合しない天然ゴムマスターバッチを実施例1と同様にして製造した。
【0046】
天然ゴムマスターバッチの評価
得られた10種類の天然ゴムマスターバッチ(実施例1〜6、比較例1〜4、表2中「NRマスターバッチ」と記す。)を使用し、表2に示す配合でそれぞれ加硫促進剤と硫黄を除く配合成分を秤量し、0.6Lのバンバリーミキサーで4分間混練し130〜140℃で混練物を放出して室温まで冷却した。この混練物に加硫促進剤と硫黄を加え電熱ロールを用いて混合し10種類のゴム組成物(実施例7〜12、比較例5〜8)を製造した。
【0047】
得られた10種類のゴム組成物のムーニー粘度を下記の方法で測定した。また、得られたゴム組成物をそれぞれ所定形状の金型中で、160℃、10分間加硫して試験片を作製し、下記に示す方法によりtanδ及び耐摩耗性を測定した。
【0048】
ムーニー粘度(ML1+4
得られたゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4)をJIS K6300に準拠して、ムーニー粘度計にてL型ロータ(38.1mm系、5.5mm厚)を使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃、2rpmの条件で測定し、得られた結果を表2に示した。ムーニー粘度が小さいほど粘度が低く成形加工性に優れることを意味する。
【0049】
tanδ
得られた試験片のtanδを、岩本製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、伸長変形歪率10%±2%、周波数20Hzの条件で、温度60℃におけるtanδを測定し、得られた結果を表2に示した。温度60℃のtanδ(60℃)が小さいほどヒステリシスロスが小さく燃費性能が優れることを意味する。
【0050】
耐摩耗性
得られた試験片の耐摩耗性として、JIS K6264に準拠して、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を使用して、室温、荷重49N、スリップ率25%、時間4分の条件で摩耗量を測定した。得られた結果は、天然ゴムマスターバッチの種類毎に比較例5の摩耗量の逆数を100とする指数で表わし表2に示した。この指数が大きいほど耐摩耗性に優れることを意味する。
【0051】
【表1】

【0052】
なお、表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
NRラテックス:濃縮天然ゴムラテックス、FELTEX社製濃縮天然ゴムラテックス(固形成分量60重量%になるように遠心分離器で処理したもの)
水:イオン交換水
シリカ:日本アエロジル社製アエロジルR202
カルボン酸アミン塩1: 1リットル栓付き丸フラスコにアセトン150mLを入れ、次いでコハク酸(和光純薬工業社製1級)60g(0.508mol)とシクロヘキシルアミン(和光純薬工業社製1級)100.7g(1.016mol)を入れ、室温で5分間反応させると沈殿物が生じた。この沈殿物をろ過し、ろ紙上に残った沈殿物をアセトンで2回洗浄し減圧乾燥することにより、粉末状の白色生成物を159.1g(収率99%)が得られた。得られたコハク酸シクロヘキシルアミン塩は、カルボキシル基とアミノ基の当量比が1:1であった。
カルボン酸アミン塩2: 1リットル栓付き丸フラスコにアセトン150mLを入れ、次いでリンゴ酸(和光純薬工業社製1級)60g(0.447mol)とシクロヘキシルアミン88.7g(0.894mol)を入れ、室温で5分間反応させると沈殿物が生じた。この沈殿物をろ過し、ろ紙上に残った沈殿物をアセトンで2回洗浄し減圧乾燥することにより、粉末状の白色生成物を147.0g(収率99%)が得られた。得られたリンゴ酸シクロヘキシルアミン塩は、カルボキシル基とアミノ基の当量比が1:1であった。
カルボン酸アミン塩3: 1リットル栓付き丸フラスコにアセトン150mLを入れ、次いでクエン酸(和光純薬工業社製1級)20g(0.104mol)とシクロヘキシルアミン31.5g(0.318mol)を入れ、室温で10分間反応させると沈殿物が生じた。この沈殿物をろ過し、ろ紙上に残った沈殿物をアセトンで2回洗浄し減圧乾燥することにより、粉末状の白色生成物を46.6g(収率97%)が得られた。得られたクエン酸シクロヘキシルアミン塩は、カルボキシル基とアミノ基の当量比が1:1であった。
カルボン酸アミン塩4: 1リットル栓付き丸フラスコにアセトン150mLを入れ、次いでコハク酸40g(0.254mol)とt−ブチルアミン(和光純薬工業社製1級)55.7g(0.534mol)を入れ、室温で5分間反応させると沈殿物が生じた。この沈殿物をろ過し、ろ紙上に残った沈殿物をアセトンで2回洗浄し減圧乾燥することにより、粉末状の白色生成物を86.9g(収率97%)が得られた。得られたコハク酸t−ブチルアミン塩は、カルボキシル基とアミノ基の当量比が1:1であった。
コハク酸:和光純薬工業社製1級
酢酸:和光純薬工業社製1級
シクロヘキシルアミン:和光純薬工業社製1級
【0053】
【表2】

【0054】
なお、表2において使用した原材料の種類を下記に示す。
老化防止剤:大内新興化学工業社製ノクラック MBZ
ステアリン酸:工業用ステアリン酸
亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
カップリング剤:シランカップリング剤、デグッサ社製Si69
CB:カーボンブラック、三菱化学社製ダイアブラックA
アロマオイル:昭和シェル石油社製デソレックス3号
加硫促進剤:三新化学工業社製サンセラーCM−G
硫黄:軽井沢精錬所社製粉末硫黄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスと、シリカを水に分散させたシリカスラリーとを混合し、得られた混合液を乾燥する天然ゴムマスターバッチの製造方法において、前記混合液にシュウ酸又は下記式(1)で表されるカルボン酸及び下記式(2)で表されるアミンを配合する天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜15の飽和炭化水素基若しくは不飽和炭化水素基であり、nは2以上の整数である。)
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜24の炭化水素基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基若しくはアルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数7〜24のアラルキル基から選ばれる炭化水素基であり、mは1以上の整数である。)
【請求項2】
前記カルボン酸が有するカルボキシル基とアミンが有するアミノ基との当量比が1:0.9〜1:1.5である請求項1に記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記カルボン酸とアミンとを予め混合することにより得られる下記式(3)で表されるカルボン酸アミン塩を、前記混合液に配合する請求項1又は2に記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜15の飽和炭化水素基若しくは不飽和炭化水素基であり、Rは炭素数1〜24の炭化水素基1〜24の炭化水素基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基若しくはアルケニル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数7〜24のアラルキル基から選ばれる炭化水素基であり、nは2以上の整数、mは1以上の整数、l=n/mである。)
【請求項4】
前記シリカが、湿式シリカ、乾式シリカ又はコロイダルシリカである請求項1〜3のいずれかに記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項5】
前記天然ゴムラテックスが、フィールドラテックス、濃縮ラテックスから選ばれる少なくとも1つである請求項1〜4のいずれかに記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項6】
前記混合液の乾燥を、その混合液をパルス燃焼による衝撃波の雰囲気中に噴射して行なう請求項1〜5のいずれかに記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項7】
前記混合液の乾燥を、その混合液を、天然ゴムを凝固させて固形成分を固液分離して行なう請求項1〜5のいずれかに記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られた天然ゴムマスターバッチを含むゴム組成物。

【公開番号】特開2009−298840(P2009−298840A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151945(P2008−151945)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】