天然ゴム系電解質及びその製造方法
【課題】環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水溶性ラジカル開始剤を用いて天然ゴム粒子表面にラジカル活性点を導入した後、フェニル基含有ビニルモノマーを添加してグラフト共重合を行う工程と、得られたグラフト共重合体の天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを含むことを特徴とする天然ゴム系電解質の製造方法。得られた天然ゴム系電解質は、天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとる。
【解決手段】水溶性ラジカル開始剤を用いて天然ゴム粒子表面にラジカル活性点を導入した後、フェニル基含有ビニルモノマーを添加してグラフト共重合を行う工程と、得られたグラフト共重合体の天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを含むことを特徴とする天然ゴム系電解質の製造方法。得られた天然ゴム系電解質は、天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴム由来の高分子電解質及びその製造方法に関する。詳しくは、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとり、好ましくは環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムラテックス(コロイド)は水系に天然ゴム粒子が分散した形態であり、この天然ゴム粒子にスチレンなどをグラフト共重合して得られるポリマーを乾燥したものはグラフトしたポリスチレンの量に応じて、天然ゴム粒子がポリスチレンに覆われたナノマトリックスあるいは共連続など多様な構造を示し、飛躍的な特性(弾性率など)向上が期待される。
【0003】
得られたナノマトリックス構造あるいは、共連続構造を固定、保持する技術は未確立であり、天然ゴムの塑性変形限界を超えると構造が不可逆的に破壊されてしまい、ナノオーダーの構造を制御することで得られた機能が損なわれる問題がある。
【0004】
上述のように、天然ゴムラテックスにスチレンおよびメタクリル酸メチルを添加しグラフト共重合させることは公知である。しかしながら、原料の天然ゴムラテックス中に存在する非ゴム成分、および分散質として浮遊している天然ゴム粒子表面に存在する非ゴム成分が副反応を起こすことにより主にホモポリマーが生成し、グラフトポリマーを得ることは困難であった。
【0005】
これに対して、天然ゴムラテックスからゴム固形分を回収し、固相およびトルエン溶液中でアニオン重合によりあらかじめ調製しておいたグラフトポリマーを導入することも提案されている。しかしながら、グラフトポリマーの導入率は低く、グラフト効率は低いままであった。
【0006】
また、天然ゴムラテックスから非ゴム成分を取り除き、スチレンをグラフト共重合する試みが行われており、脱蛋白質化した天然ゴムにモノマーをグラフト共重合させる試みが行なわれている。しかしながら、従来公知のグラフト共重合では、依然としてグラフト効率は低く、天然ゴムの優れた性質を保持したままでグラフトポリマーの性質を付与することや、少量成分であるグラフトポリマーにより形成された微細なマトリックス中に、主成分である天然ゴム粒子が分散した特異な相分離構造を有するナノマトリックス分散天然ゴムを得ることはできなかった。
【0007】
そこで、下記特許文献1には、天然ゴムの優れた性質とともにグラフトポリマーの特性をも具備し、コンドーム、手術用手袋やカテーテル等の医療分野や家庭用品等として幅広く使用することを目的として、少量成分であるグラフトポリマーにより形成された微細なマトリックス中に、主成分である天然ゴム粒子が分散した特異な相分離構造を有するナノマトリックス分散天然ゴムが開示されている。具体的には、天然ゴムラテックスを脱蛋白質化した後、水溶性ラジカル開始剤にてゴム粒子表面にラジカル活性点を導入した後、モノマーを添加することにより天然ゴム粒子表面でグラフト共重合を行い、得られた表面グラフト化天然ゴムラテックスを製膜することにより、目的とするナノマトリックス分散天然ゴムを得ている。
【0008】
ところで、化石燃料代替エネルギーとして燃料電池の開発が盛んにおこなわれている。とりわけ、燃料電池を安全に利用するために様々なプロトン伝導性高分子電解質が開発されているが、そのすべてが化石燃料を原料として作られており、ゼロエミッション等の環境に調和した製品開発には至っていない。したがって、天然物由来の高分子を原料としてプロトン伝導性高分子電解質を合成することが大きな課題となっている。
【0009】
プロトン伝導性高分子電解質を天然物由来の高分子を原料として合成するには、プロトンドナーの極性基を有していることに加え、使用時に発生する水への膨満や高温使用時における水の蒸発による乾燥を抑制すること、およびプロトン伝導のための経路が確保されていることが要求される。しかしながら、これまでに、上述の条件を満足する高分子電解質は合成されていないのが現状である。
【0010】
現在、盛んに研究されている天然物由来の有機材料としてセルロース、キチン・キトサン、糖鎖、ポリ乳酸およびPHBなどがある。これらを原料としてプロトン伝導性高分子電解質を作る場合、H+を容易に放出する官能基を導入する必要がある。さらに、H+によるダメージが小さく、電池反応時に発生するH2Oに膨潤し難くすることにより安定性を確保することが望まれる。H+を容易に放出する官能基としては、−SO3Hが最も良いと思われるが、−SO3−を安定にする工夫をしなければならない。現在、広く用いられているナフィオンでは−CF2−(パーフルオロカーボン材料)により−SO3HがH+を放出しやすくなっている。これに匹敵する構造としてはフェニル基の共鳴安定化が考えられる。しかしながら、フェニル基をセルロース、キチン・キトサン、糖鎖、ポリ乳酸およびPHBに導入してからスルホン化することは困難である。さらに、セルロース、キチン・キトサン、糖鎖、ポリ乳酸およびPHBはエステル結合又はエーテル結合を含んでいるため、H2Oに膨潤しやすく、H+存在下で加水分解しやすいという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−155884号公報
【特許文献2】特開平6−56902号公報
【特許文献3】特開2004−99696号公報
【特許文献4】特開2005−281681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明におけるグラフト化天然ゴムのナノマトリックス構造あるいは共連続構造は、非常に新しいコンセプトの構造であり、この特徴的なナノ規則構造を固定化することによりナノ規則構造由来の優れた機能発現を安定化することを第1の目的とするとともに、天然物由来の有機材料から、高いプロトン伝導性と安定性を両立するプロトン伝導性高分子電解質を調製することを第2の目的とする。
【0013】
加えて、上記特許文献1で得られたグラフト共重合された天然ゴムは、厳密にはナノマトリックス分散天然ゴムではなく、グラフトポリマー相が微粒子に分離しておりマトリックスを形成していなかった。そのため、所期の、天然ゴムの優れた性質を保持したままでグラフトポリマーの性質を付与することには不十分であった。そこで、本発明は、グラフトポリマー相の連続構造を形成すること、好ましくは、グラフトポリマー相と天然ゴム相を共連続構造とすることにより、天然ゴムの優れた性質を保持したままでグラフトポリマーに所望の機能を付与することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、天然ゴムの高機能化の研究を進める中で、表面グラフト化天然ゴムに特定の処理を施すことによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、第1に、天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質の発明であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質である。
【0016】
また、第2に、天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質の発明であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質である。
【0017】
本発明の天然ゴム系電解質では原料として未処理の天然ゴムラテックスを用いることもできるが、脱蛋白質化処理された天然ゴムが好ましい。
【0018】
本発明において、天然ゴムに対するスチレンなどのフェニル基含有ビニルモノマーの割合は広い範囲から選択することが出来るが、天然ゴム100重量部に対して50〜300重量部のフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したものが両者の物性を発揮する上で好ましい。
【0019】
第3に、本発明は、上記の天然ゴム系電解質の製造法の発明であり、水溶性ラジカル開始剤を用いて天然ゴム粒子表面にラジカル活性点を導入した後、フェニル基含有ビニルモノマーを添加してグラフト共重合を行う工程と、得られたグラフト共重合体の天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明によって製造された天然ゴム系電解質は、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとるか、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる。
【0021】
用いる天然ゴムとして脱蛋白質化天然ゴムが好ましいことは上述の通りであり、この場合、天然ゴムラテックスを脱蛋白質化する工程が本発明の製造方法に加わる。
【0022】
本発明の天然ゴム系電解質の製造方法において、天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程を、ルイス酸を触媒として用いて行うことが好ましい。ルイス酸は特に限定されないが、硫酸、塩化第2スズ、三フッ化ホウ素、4塩化チタン、塩化第2鉄などが好ましく例示される。
【0023】
本発明の天然ゴム系電解質の製造方法では、天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを、別々に行っても良いが、両工程をクロロスルホン酸を用いて同時に行うことが好ましい。この場合、クロロスルホン酸は天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする反応の触媒であるとともに、グラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する反応のスルホン化剤を兼ねている。
【0024】
本発明で脱蛋白質化天然ゴムは公知の方法で製造されたものが用いられる。この中で、脱蛋白質化天然ゴム粒子の窒素含有率が0.1重量%以下にまで脱蛋白質化された天然ゴムが好ましい。
【0025】
脱蛋白質化天然ゴムラテックスの製造方法としては、酵素を用いる方法や尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を用いる方法が公知であり、どちらも採用できる。この中で、脱蛋白質化のレベルと反応時間の観点から、尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を用いる方法がより好ましい。具体的には、天然ゴムラテックスに尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を添加し、攪拌・混合して原料天然ゴムラテックス中の蛋白質を変性させる工程と、前記工程により変性した蛋白質を分離・除去する工程とを含む。
【発明の効果】
【0026】
天然ゴムに硫酸、塩化第二スズ、三フッ化ホウ素、四塩化チタン、塩化第2鉄などのルイス酸を作用させると環化ゴムが得られることは古くから知られている。しかし、グラフト化天然ゴムのナノマトリクスあるいは共連続構造は非常に新しいコンセプトの構造であり、この特徴的なナノ規則構造を固定化するために上記環化技術を適用することは全く新規なアイデアである。このことによりナノ規則構造由来の優れた機能発現を安定化することが可能となる。
【0027】
また、天然ゴムにフェニル基を有するモノマーをグラフト共重合してから、スルホン化することにより、プロトン伝導を担う部分と形状安定を担う部分を共存させる工夫を行う。天然ゴムにフェニル基を有するモノマーをグラフト共重合する場合、組成によってはナノメートルスケールでプロトン伝導を担う部分と形状安定を担う部分を共連続に共存させることができる。このグラフト共重合体をスルホン化すれば、フェニル基にスルホン酸基を導入できるだけでなく、強酸性下で生じるイソプレン単位のカルボカチオンがイソプレン単位の環化を誘発することによりゴムを橋架けするとともに不飽和度を減じることが可能であると思われる。
【0028】
本発明により、天然物由来の有機材料から、高いプロトン伝導性と安定性を両立するプロトン伝導性高分子電解質を調製することにより、これまでの問題点を克服することができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる天然ゴム系電解質の製造プロセスを示す。
【図2】実施例1のグラフト共重合の手順を示す。
【図3】実施例1のスルホン化の手順を示す。
【図4】実施例1で得られた、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる天然ゴム系電解質の光学顕微鏡写真を示す。
【図5】スルホン化する前後の天然ゴム系電解質のTEM写真を示す。
【図6】本発明の天然ゴム系電解質の構造を模式的に示す図である。
【図7】DPNR−graft−PS、及びスルホン化したDPNR−graft−PSの13C CP/MAS NMRスペクトルを示す。
【図8】実施例2のグラフト共重合の手順を示す。
【図9】実施例2のスルホン化の手順を示す。
【図10】DPNR−graft−PSの1H−NMRスペクトルを示す。
【図11】(a)尿素で脱蛋白質化した天然ゴム(U−DPNR)、(b)ポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(c)0.006molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(d)0.012molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(e)0.018molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(f)0.024molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)のFT−IRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明でいう共連続構造とは、射出成形品の表面近傍や、延伸フィルムの一部に見られる、特定の配向や方向性を持った層状の構造ではなく、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とがともに連続相を形成して、互いに入り組みあって存在する構造をさす。また、本発明でいう連続構造とは、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相のみが連続相を形成し、ナノマトリックスとして機能している構造をさす。
【0031】
一般に相溶しない2種類のポリマー成分A、Bからなるポリマーブレンド系では、A及びBの構造やブレンド比に応じて、その相構造は変化し、大別して3種類の相構造(Aが連続相を形成し、Bが分散相を形成する海島構造、逆に、Aが分散相、Bが連続相を形成する逆海島構造、A、Bがともに連続相を形成する共連続構造)をとることが知られている。このうち、共連続構造は、互いに性質の異なるA、Bがともに連続相を形成するため、海島構造や逆海島構造のように、一方の成分のみが連続相となる構造とは異なる物性を示すことが期待される。
【0032】
以下、本発明の天然ゴム系電解質及びその製造方法について、さらに詳細に説明する。
(原料ラテックス)
本発明のナノマトリックス分散天然ゴムを得るための出発原料となる天然ゴムラテックス(コロイド)は、天然のゴムの木から得られたラテックスを意味し、当該ラテックスには新鮮なフィールドラテックスや、市販のアンモニア処理ラテックス等のいずれをも使用することができる。なお、本発明のように、スルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとり、後述するナノマトリックスチャンネル構造を形成させるためのコロイド材料としては、上記天然ゴムラテックスに限定されず、その他の種々の高分子のコロイドも適用可能である。
【0033】
(脱蛋白質化)
これらの天然ゴムラテックスの脱蛋白質化は、公知の方法で行なわれる。例えば、1)ラテックスに蛋白質分解酵素又はバクテリアを添加して蛋白質を分解させる方法(上記特許文献2)や、2)石鹸等の界面活性剤により繰り返し洗浄する方法等、公知の方法により行なうことができる。
【0034】
また、3)本発明者等が先に、上記特許文献3として提案した、天然ゴムラテックスに下記一般式(1)で表される尿素系化合物及びNaClOからなる群から選択された蛋白質変性剤を添加し、ラテックス中の蛋白質を変性除去する方法により行うこともできる。
RNHCONH2 (1)
(式中、RはH、炭素数1〜5のアルキル基を表す)
【0035】
更に、4)上記特許文献4として提案した、原料天然ゴムラテックスに尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を添加する工程と、これを流路を移動させながら混合して原料天然ゴムラテックス中の蛋白質を変性させる工程と、次いで変性蛋白質を分離・除去する工程によって製造された、アレルギーを誘発する蛋白質及びペプチドをほとんど含有しない脱蛋白質化天然ゴムラテックスを用いることができる。この天然ゴムラテックスの脱蛋白質化では、天然ゴム粒子の窒素含有率が0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下にすることが可能である。
【0036】
(グラフト化:表面グラフト化天然ゴムの製造)
脱蛋白質化天然ゴム粒子表面にスチレンモノマーなどのフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合させるには、フェニル基含有ビニルモノマーを脱蛋白質化天然ゴムラテックスに加え、適当な重合開始剤を加えて反応させることにより行なわれる。
【0037】
グラフト共重合するフェニル基含有ビニルモノマーをラテックスに添加する際には、あらかじめラテックス中に乳化剤を加えておくか、あるいは不飽和結合を有する有機化合物を乳化した後、ラテックスに加える。乳化剤としては、とくに限定されないが、アニオン系又はノニオン系の界面活性剤が好適に使用される。フェニル基含有ビニルモノマーの添加量は、脱蛋白質化天然ゴム100重量部に対して50〜300重量部とすることが好ましい。フェニル基含有ビニルモノマーの添加量がこの範囲を超えるときはホモポリマーの生成が増加してしまいグラフト効率が低下し、逆にこの範囲を下回るときはフェニル基含有ビニルモノマーのグラフト量が少なくなり改質効果が小さくなり、目的とするグラフトポリマー相の連続構造、好ましくは共連続構造をとる天然ゴムを得ることが困難となる。
【0038】
重合開始剤としては、公知のものを広く用いることができる。例えば過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、過硫酸カリウムなどの過酸化物等があげられ、とくにレドックス系の重合開始剤を使用するのが重合温度を低減させる上で好ましい。かかるレドックス系の重合開始剤において、過酸化物と組み合わされる還元剤としては、例えばテトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸などがあげられる。レドックス系の重合性開始剤における好ましい組み合わせ例としては、tert−ブチルハイドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミン、過酸化水素とFe2+塩、K2SO2O8とNaHSO3などがある。
【0039】
重合開始剤の添加量は、フェニル基含有ビニルモノマー100モルに対して0.3〜10モル%、好ましくは0.5〜1モル%である。これらの成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で2〜10時間反応を行わせることにより、脱蛋白質化天然ゴム粒子表面にフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムが得られる。
【0040】
図1に、本発明の、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとるか、あるいは環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる天然ゴム系電解質の製造プロセスを示す。
【0041】
図1に示すように、表面グラフト共重合は、天然ゴム粒子のみが分散したラテックスに開始剤を加え、ゴム粒子表面に優先的にラジカルを発生させる。次いで、スチレンモノマーなどのフェニル基含有ビニルモノマーを滴下することで重合反応が粒子表面で起こる。このことから、表面グラフト共重合では、効率よく天然ゴム粒子表面でラジカル共重合が起きていると考えられる。
【0042】
次いで、得られたグラフト共重合体の天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする環化反応と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化するスルホン化反応とを行う。
【0043】
得られた天然ゴム系電解質は、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとるか、あるいは環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる。
【0044】
本発明では、天然ゴムにフェニル基を有するモノマーをグラフト共重合してからスルホン化することによりスルホン化ポリマーの連続構造、好ましくはスルホン化ポリマーと環化天然ゴムのナノ共連続構造を形成し、水に対する膨潤や高温使用時における水の蒸発を抑制するとともに高いプロトン伝導度を兼ね備えたプロトン伝導性高分子電解質となる。
【実施例】
【0045】
つぎに、実施例により本発明のナノマトリックス分散天然ゴム及びその製造方法について、さらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0046】
[天然ゴムの脱蛋白質化]
天然ゴムラテックスとして、市販の高アンモニア天然ゴムラテックス(HA−NR)(DRC:60wt/wt%)を使用した。脱蛋白質化はHA−NRラテックスをDRC30wt/wt%に希釈した後、界面活性剤(SDS)1wt/wt%、尿素0.1wt/wt%を加え、室温でインキュベートすることにより行った。このラテックスを10,000gで遠心分離することにより洗浄し、DRC30wt/wt%及び界面活性剤濃度0.1wt/wt%に調整することにより、尿素脱蛋白質化天然ゴム(以下、DPNRという)ラテックスを得た。
【0047】
[スチレンの精製]
スチレンは重合禁止剤のカテコールを10%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して除去し、無水硫酸マグネシウムで一昼夜乾燥してから使用した。
【0048】
[実施例1]
図2に、グラフト共重合の手順を示す。
試料には、尿素を用いて脱蛋白質化を施した脱蛋白質化天然ゴム(DPNR)ラテックスを用いた。DPNRラテックスの乾燥ゴム重量(DRC)を30%に調整してから、1時間窒素置換を行い、0.2mol/kg−rubberのtert−ブチルヒドロパーオキサイド(TBHPO)および0.2mol/kg−rubberのテトラエチレンペンタミン(TEPA)を順次加え、フェニル基を有するモノマーとしてスチレンを5.5mol/kg−rubber加えた。スチレンのグラフト共重合は30℃で2時間行った。
【0049】
反応終了後、エバポレータを用いて未反応のスチレンを減圧除去してから、フィルム(DPNR−graft−PS)を製膜した。
【0050】
図3に、スルホン化の手順を示す。
生成物であるDPNR−graft−PSをアセトン又はクロロホルムに溶解してから0.2〜0.8Nクロロスルホン酸を用いてスルホン化を行った。
【0051】
図4に、得られた、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとる天然ゴム系電解質のTEM写真を示す。
【0052】
また、図5に、DPNR−graft−PS(A)と、0.8Nのクロロスルホン酸でスルホン化されたDPNR−graft−PS(B)のTEM写真を示す。明るい部分は天然ゴムであり、暗い部分はポリスチレンである。図5に示すように、スルホン化前の状態(A)ではポリスチレン粒子が互いに結合せず分離しているのに対して、スルホン化した状態(B)ではポリスチレン粒子同士が結合し、一様なマトリックスを形成している。なお、図5(C)は、0.8Nのクロロスルホン酸でスルホン化されたDPNR−graft−PSの3次元TEMイメージであり、イメージ中のボックスのサイズはX:Y:Z=600nm:500nm:100nmである。図5(C)において、暗い部分は天然ゴムであり、明るい部分はポリスチレンである。
【0053】
以上の結果に基づいて、本発明の天然ゴム系電解質の3次元構造を図6に模式的に示す。図6に示すように、本発明の天然ゴム系電解質は、環化天然ゴム相(疎水性ドメイン)と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相(親水性ドメイン)が連続構造をとり、膜内をイオン性分子が伝導できるようにグラフトポリマー相からなる多数の「ナノマトリックスチャンネル」が縦横に形成されている。ナノマトリックスチャンネルの幅は、1〜100nm程度である。
【0054】
図7に、DPNR−graft−PS(A)と、0.8Nのクロロスルホン酸でスルホン化されたDPNR−graft−PS(B)のNMRスペクトルを示す。スルホン化の後に現れる139.1ppmのシグナル(3)は、スルホン酸基で置換された芳香族炭素と同定された。また、127.3ppm及び145.7ppmのシグナルから、それぞれ130.1(2)ppm及び148.0ppm(4)への低磁場シフトは、フェニル基に結合したスルホン酸基の電子吸引効果によるものと考えられる。
【0055】
[プロトン伝導度の測定]
サンプルを1N硫酸水溶液中で1時間煮沸した後、純水中で1時間煮沸し、さらに純水を交換して1時間煮沸することで固体高分子電解質膜の活性化処理とした。活性化処理したサンプルを金電極で挟み、金電極とインピーダンスアナライザー(Solartron SI1260)を配線し、室温、大気圧下で高周波側から低周波側へ周波数スキャンした後、膜厚方向のインピーダンスを求めた。このインピーダンスを基に導電度を下記式により求めた。
σ(導電率)=(膜厚)÷(膜抵抗)
【0056】
下記表1に、本発明で得られた天然ゴム系電解質膜のガラス転移点Tg、ゲル含有量、硫黄量、イオン交換能(IEC)、プロトン伝導度、及び水膨潤量を示す。また、参考例1及び2として、スルホン化ポリスチレンと、Nafion(登録商標)117(プロトン伝導性パーフルオロスルホン酸膜)について測定した各特性値も合わせて示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、スルホン化したDPNR−graft−PSのイオン交換能(IEC)及び水膨潤量は、スルホン酸基の量に依存し、クロロスルホン酸の量の増加とともにイオン交換能及び水膨潤量も増加した。75wt%でのスルホン化したDPNR−graft−PSのIEC値は2.4meq/gであり、スルホン化ポリスチレン、及びNafion(登録商標)117のIEC値よりも高かった。
【0059】
プロトン伝導度は、IECと相関する。スルホン化したDPNR−graft−PSのプロトン伝導度は、スルホン酸基の量が増えるに従って向上した。スルホン化したDPNR−graft−PS(75wt%PS/PS)のプロトン伝導度は9.5×10−2S/cmであり、この値はスルホン化ポリスチレンの3倍であり、Nafion(登録商標)117のプロトン伝導度よりも高かった。
【0060】
75wt%硫黄量におけるスルホン化したDPNR−graft−PSは、プロトン伝導度及びIECが高いにも関わらず、水膨潤量は少なく、具体的にはスルホン化ポリスチレンの150分の1程度であり、産業上有利である。この低い水膨潤量は、スルホン化したDPNR−graft−PSの環化天然ゴム相の影響と考えられる。
【0061】
[実施例2]
図8に、グラフト共重合の手順を示す。図9に、スルホン化の手順を示す。
実施例1で示した方法により調製したDPNR−graft−PSを原料とし、アセチル硫酸を用いてスルホン化を行った。
【0062】
アセチル硫酸の合成は、クロロホルムを氷浴で十分に冷却し、無水酢酸を加えてから撹拝した。10分間攪拌してから硫酸を滴下することにより、アセチル硫酸を得た。
【0063】
図10に、DPNR−graft−PSの1H−NMRスペクトルを示す。図11に、(a)尿素で脱蛋白質化した天然ゴム(U−DPNR)、(b)ポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(c)0.006molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(d)0.012molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(e)0.018molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(f)0.024molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)のFT−IRスペクトルを示す。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の天然ゴム電解質は、天然ゴムにフェニル基を有するモノマーをグラフト共重合してからスルホン化することにより、スルホン化ポリマーの連続構造、好ましくはスルホン化ポリマーと環化天然ゴムのナノ共連続構造を形成し、水に対する膨潤や高温使用時における水の蒸発を抑制するとともに高いプロトン伝導度を兼ね備えたプロトン伝導性高分子電解質である。
【0065】
本発明の天然ゴム電解質は、固体高分子型燃料電池などに好適に用いられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴム由来の高分子電解質及びその製造方法に関する。詳しくは、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとり、好ましくは環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムラテックス(コロイド)は水系に天然ゴム粒子が分散した形態であり、この天然ゴム粒子にスチレンなどをグラフト共重合して得られるポリマーを乾燥したものはグラフトしたポリスチレンの量に応じて、天然ゴム粒子がポリスチレンに覆われたナノマトリックスあるいは共連続など多様な構造を示し、飛躍的な特性(弾性率など)向上が期待される。
【0003】
得られたナノマトリックス構造あるいは、共連続構造を固定、保持する技術は未確立であり、天然ゴムの塑性変形限界を超えると構造が不可逆的に破壊されてしまい、ナノオーダーの構造を制御することで得られた機能が損なわれる問題がある。
【0004】
上述のように、天然ゴムラテックスにスチレンおよびメタクリル酸メチルを添加しグラフト共重合させることは公知である。しかしながら、原料の天然ゴムラテックス中に存在する非ゴム成分、および分散質として浮遊している天然ゴム粒子表面に存在する非ゴム成分が副反応を起こすことにより主にホモポリマーが生成し、グラフトポリマーを得ることは困難であった。
【0005】
これに対して、天然ゴムラテックスからゴム固形分を回収し、固相およびトルエン溶液中でアニオン重合によりあらかじめ調製しておいたグラフトポリマーを導入することも提案されている。しかしながら、グラフトポリマーの導入率は低く、グラフト効率は低いままであった。
【0006】
また、天然ゴムラテックスから非ゴム成分を取り除き、スチレンをグラフト共重合する試みが行われており、脱蛋白質化した天然ゴムにモノマーをグラフト共重合させる試みが行なわれている。しかしながら、従来公知のグラフト共重合では、依然としてグラフト効率は低く、天然ゴムの優れた性質を保持したままでグラフトポリマーの性質を付与することや、少量成分であるグラフトポリマーにより形成された微細なマトリックス中に、主成分である天然ゴム粒子が分散した特異な相分離構造を有するナノマトリックス分散天然ゴムを得ることはできなかった。
【0007】
そこで、下記特許文献1には、天然ゴムの優れた性質とともにグラフトポリマーの特性をも具備し、コンドーム、手術用手袋やカテーテル等の医療分野や家庭用品等として幅広く使用することを目的として、少量成分であるグラフトポリマーにより形成された微細なマトリックス中に、主成分である天然ゴム粒子が分散した特異な相分離構造を有するナノマトリックス分散天然ゴムが開示されている。具体的には、天然ゴムラテックスを脱蛋白質化した後、水溶性ラジカル開始剤にてゴム粒子表面にラジカル活性点を導入した後、モノマーを添加することにより天然ゴム粒子表面でグラフト共重合を行い、得られた表面グラフト化天然ゴムラテックスを製膜することにより、目的とするナノマトリックス分散天然ゴムを得ている。
【0008】
ところで、化石燃料代替エネルギーとして燃料電池の開発が盛んにおこなわれている。とりわけ、燃料電池を安全に利用するために様々なプロトン伝導性高分子電解質が開発されているが、そのすべてが化石燃料を原料として作られており、ゼロエミッション等の環境に調和した製品開発には至っていない。したがって、天然物由来の高分子を原料としてプロトン伝導性高分子電解質を合成することが大きな課題となっている。
【0009】
プロトン伝導性高分子電解質を天然物由来の高分子を原料として合成するには、プロトンドナーの極性基を有していることに加え、使用時に発生する水への膨満や高温使用時における水の蒸発による乾燥を抑制すること、およびプロトン伝導のための経路が確保されていることが要求される。しかしながら、これまでに、上述の条件を満足する高分子電解質は合成されていないのが現状である。
【0010】
現在、盛んに研究されている天然物由来の有機材料としてセルロース、キチン・キトサン、糖鎖、ポリ乳酸およびPHBなどがある。これらを原料としてプロトン伝導性高分子電解質を作る場合、H+を容易に放出する官能基を導入する必要がある。さらに、H+によるダメージが小さく、電池反応時に発生するH2Oに膨潤し難くすることにより安定性を確保することが望まれる。H+を容易に放出する官能基としては、−SO3Hが最も良いと思われるが、−SO3−を安定にする工夫をしなければならない。現在、広く用いられているナフィオンでは−CF2−(パーフルオロカーボン材料)により−SO3HがH+を放出しやすくなっている。これに匹敵する構造としてはフェニル基の共鳴安定化が考えられる。しかしながら、フェニル基をセルロース、キチン・キトサン、糖鎖、ポリ乳酸およびPHBに導入してからスルホン化することは困難である。さらに、セルロース、キチン・キトサン、糖鎖、ポリ乳酸およびPHBはエステル結合又はエーテル結合を含んでいるため、H2Oに膨潤しやすく、H+存在下で加水分解しやすいという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−155884号公報
【特許文献2】特開平6−56902号公報
【特許文献3】特開2004−99696号公報
【特許文献4】特開2005−281681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明におけるグラフト化天然ゴムのナノマトリックス構造あるいは共連続構造は、非常に新しいコンセプトの構造であり、この特徴的なナノ規則構造を固定化することによりナノ規則構造由来の優れた機能発現を安定化することを第1の目的とするとともに、天然物由来の有機材料から、高いプロトン伝導性と安定性を両立するプロトン伝導性高分子電解質を調製することを第2の目的とする。
【0013】
加えて、上記特許文献1で得られたグラフト共重合された天然ゴムは、厳密にはナノマトリックス分散天然ゴムではなく、グラフトポリマー相が微粒子に分離しておりマトリックスを形成していなかった。そのため、所期の、天然ゴムの優れた性質を保持したままでグラフトポリマーの性質を付与することには不十分であった。そこで、本発明は、グラフトポリマー相の連続構造を形成すること、好ましくは、グラフトポリマー相と天然ゴム相を共連続構造とすることにより、天然ゴムの優れた性質を保持したままでグラフトポリマーに所望の機能を付与することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、天然ゴムの高機能化の研究を進める中で、表面グラフト化天然ゴムに特定の処理を施すことによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、第1に、天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質の発明であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質である。
【0016】
また、第2に、天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質の発明であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質である。
【0017】
本発明の天然ゴム系電解質では原料として未処理の天然ゴムラテックスを用いることもできるが、脱蛋白質化処理された天然ゴムが好ましい。
【0018】
本発明において、天然ゴムに対するスチレンなどのフェニル基含有ビニルモノマーの割合は広い範囲から選択することが出来るが、天然ゴム100重量部に対して50〜300重量部のフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したものが両者の物性を発揮する上で好ましい。
【0019】
第3に、本発明は、上記の天然ゴム系電解質の製造法の発明であり、水溶性ラジカル開始剤を用いて天然ゴム粒子表面にラジカル活性点を導入した後、フェニル基含有ビニルモノマーを添加してグラフト共重合を行う工程と、得られたグラフト共重合体の天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明によって製造された天然ゴム系電解質は、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとるか、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる。
【0021】
用いる天然ゴムとして脱蛋白質化天然ゴムが好ましいことは上述の通りであり、この場合、天然ゴムラテックスを脱蛋白質化する工程が本発明の製造方法に加わる。
【0022】
本発明の天然ゴム系電解質の製造方法において、天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程を、ルイス酸を触媒として用いて行うことが好ましい。ルイス酸は特に限定されないが、硫酸、塩化第2スズ、三フッ化ホウ素、4塩化チタン、塩化第2鉄などが好ましく例示される。
【0023】
本発明の天然ゴム系電解質の製造方法では、天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを、別々に行っても良いが、両工程をクロロスルホン酸を用いて同時に行うことが好ましい。この場合、クロロスルホン酸は天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする反応の触媒であるとともに、グラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する反応のスルホン化剤を兼ねている。
【0024】
本発明で脱蛋白質化天然ゴムは公知の方法で製造されたものが用いられる。この中で、脱蛋白質化天然ゴム粒子の窒素含有率が0.1重量%以下にまで脱蛋白質化された天然ゴムが好ましい。
【0025】
脱蛋白質化天然ゴムラテックスの製造方法としては、酵素を用いる方法や尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を用いる方法が公知であり、どちらも採用できる。この中で、脱蛋白質化のレベルと反応時間の観点から、尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を用いる方法がより好ましい。具体的には、天然ゴムラテックスに尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を添加し、攪拌・混合して原料天然ゴムラテックス中の蛋白質を変性させる工程と、前記工程により変性した蛋白質を分離・除去する工程とを含む。
【発明の効果】
【0026】
天然ゴムに硫酸、塩化第二スズ、三フッ化ホウ素、四塩化チタン、塩化第2鉄などのルイス酸を作用させると環化ゴムが得られることは古くから知られている。しかし、グラフト化天然ゴムのナノマトリクスあるいは共連続構造は非常に新しいコンセプトの構造であり、この特徴的なナノ規則構造を固定化するために上記環化技術を適用することは全く新規なアイデアである。このことによりナノ規則構造由来の優れた機能発現を安定化することが可能となる。
【0027】
また、天然ゴムにフェニル基を有するモノマーをグラフト共重合してから、スルホン化することにより、プロトン伝導を担う部分と形状安定を担う部分を共存させる工夫を行う。天然ゴムにフェニル基を有するモノマーをグラフト共重合する場合、組成によってはナノメートルスケールでプロトン伝導を担う部分と形状安定を担う部分を共連続に共存させることができる。このグラフト共重合体をスルホン化すれば、フェニル基にスルホン酸基を導入できるだけでなく、強酸性下で生じるイソプレン単位のカルボカチオンがイソプレン単位の環化を誘発することによりゴムを橋架けするとともに不飽和度を減じることが可能であると思われる。
【0028】
本発明により、天然物由来の有機材料から、高いプロトン伝導性と安定性を両立するプロトン伝導性高分子電解質を調製することにより、これまでの問題点を克服することができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる天然ゴム系電解質の製造プロセスを示す。
【図2】実施例1のグラフト共重合の手順を示す。
【図3】実施例1のスルホン化の手順を示す。
【図4】実施例1で得られた、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる天然ゴム系電解質の光学顕微鏡写真を示す。
【図5】スルホン化する前後の天然ゴム系電解質のTEM写真を示す。
【図6】本発明の天然ゴム系電解質の構造を模式的に示す図である。
【図7】DPNR−graft−PS、及びスルホン化したDPNR−graft−PSの13C CP/MAS NMRスペクトルを示す。
【図8】実施例2のグラフト共重合の手順を示す。
【図9】実施例2のスルホン化の手順を示す。
【図10】DPNR−graft−PSの1H−NMRスペクトルを示す。
【図11】(a)尿素で脱蛋白質化した天然ゴム(U−DPNR)、(b)ポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(c)0.006molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(d)0.012molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(e)0.018molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(f)0.024molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)のFT−IRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明でいう共連続構造とは、射出成形品の表面近傍や、延伸フィルムの一部に見られる、特定の配向や方向性を持った層状の構造ではなく、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とがともに連続相を形成して、互いに入り組みあって存在する構造をさす。また、本発明でいう連続構造とは、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相のみが連続相を形成し、ナノマトリックスとして機能している構造をさす。
【0031】
一般に相溶しない2種類のポリマー成分A、Bからなるポリマーブレンド系では、A及びBの構造やブレンド比に応じて、その相構造は変化し、大別して3種類の相構造(Aが連続相を形成し、Bが分散相を形成する海島構造、逆に、Aが分散相、Bが連続相を形成する逆海島構造、A、Bがともに連続相を形成する共連続構造)をとることが知られている。このうち、共連続構造は、互いに性質の異なるA、Bがともに連続相を形成するため、海島構造や逆海島構造のように、一方の成分のみが連続相となる構造とは異なる物性を示すことが期待される。
【0032】
以下、本発明の天然ゴム系電解質及びその製造方法について、さらに詳細に説明する。
(原料ラテックス)
本発明のナノマトリックス分散天然ゴムを得るための出発原料となる天然ゴムラテックス(コロイド)は、天然のゴムの木から得られたラテックスを意味し、当該ラテックスには新鮮なフィールドラテックスや、市販のアンモニア処理ラテックス等のいずれをも使用することができる。なお、本発明のように、スルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとり、後述するナノマトリックスチャンネル構造を形成させるためのコロイド材料としては、上記天然ゴムラテックスに限定されず、その他の種々の高分子のコロイドも適用可能である。
【0033】
(脱蛋白質化)
これらの天然ゴムラテックスの脱蛋白質化は、公知の方法で行なわれる。例えば、1)ラテックスに蛋白質分解酵素又はバクテリアを添加して蛋白質を分解させる方法(上記特許文献2)や、2)石鹸等の界面活性剤により繰り返し洗浄する方法等、公知の方法により行なうことができる。
【0034】
また、3)本発明者等が先に、上記特許文献3として提案した、天然ゴムラテックスに下記一般式(1)で表される尿素系化合物及びNaClOからなる群から選択された蛋白質変性剤を添加し、ラテックス中の蛋白質を変性除去する方法により行うこともできる。
RNHCONH2 (1)
(式中、RはH、炭素数1〜5のアルキル基を表す)
【0035】
更に、4)上記特許文献4として提案した、原料天然ゴムラテックスに尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を添加する工程と、これを流路を移動させながら混合して原料天然ゴムラテックス中の蛋白質を変性させる工程と、次いで変性蛋白質を分離・除去する工程によって製造された、アレルギーを誘発する蛋白質及びペプチドをほとんど含有しない脱蛋白質化天然ゴムラテックスを用いることができる。この天然ゴムラテックスの脱蛋白質化では、天然ゴム粒子の窒素含有率が0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下にすることが可能である。
【0036】
(グラフト化:表面グラフト化天然ゴムの製造)
脱蛋白質化天然ゴム粒子表面にスチレンモノマーなどのフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合させるには、フェニル基含有ビニルモノマーを脱蛋白質化天然ゴムラテックスに加え、適当な重合開始剤を加えて反応させることにより行なわれる。
【0037】
グラフト共重合するフェニル基含有ビニルモノマーをラテックスに添加する際には、あらかじめラテックス中に乳化剤を加えておくか、あるいは不飽和結合を有する有機化合物を乳化した後、ラテックスに加える。乳化剤としては、とくに限定されないが、アニオン系又はノニオン系の界面活性剤が好適に使用される。フェニル基含有ビニルモノマーの添加量は、脱蛋白質化天然ゴム100重量部に対して50〜300重量部とすることが好ましい。フェニル基含有ビニルモノマーの添加量がこの範囲を超えるときはホモポリマーの生成が増加してしまいグラフト効率が低下し、逆にこの範囲を下回るときはフェニル基含有ビニルモノマーのグラフト量が少なくなり改質効果が小さくなり、目的とするグラフトポリマー相の連続構造、好ましくは共連続構造をとる天然ゴムを得ることが困難となる。
【0038】
重合開始剤としては、公知のものを広く用いることができる。例えば過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、過硫酸カリウムなどの過酸化物等があげられ、とくにレドックス系の重合開始剤を使用するのが重合温度を低減させる上で好ましい。かかるレドックス系の重合開始剤において、過酸化物と組み合わされる還元剤としては、例えばテトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸などがあげられる。レドックス系の重合性開始剤における好ましい組み合わせ例としては、tert−ブチルハイドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミン、過酸化水素とFe2+塩、K2SO2O8とNaHSO3などがある。
【0039】
重合開始剤の添加量は、フェニル基含有ビニルモノマー100モルに対して0.3〜10モル%、好ましくは0.5〜1モル%である。これらの成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で2〜10時間反応を行わせることにより、脱蛋白質化天然ゴム粒子表面にフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムが得られる。
【0040】
図1に、本発明の、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとるか、あるいは環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる天然ゴム系電解質の製造プロセスを示す。
【0041】
図1に示すように、表面グラフト共重合は、天然ゴム粒子のみが分散したラテックスに開始剤を加え、ゴム粒子表面に優先的にラジカルを発生させる。次いで、スチレンモノマーなどのフェニル基含有ビニルモノマーを滴下することで重合反応が粒子表面で起こる。このことから、表面グラフト共重合では、効率よく天然ゴム粒子表面でラジカル共重合が起きていると考えられる。
【0042】
次いで、得られたグラフト共重合体の天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする環化反応と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化するスルホン化反応とを行う。
【0043】
得られた天然ゴム系電解質は、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとるか、あるいは環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとる。
【0044】
本発明では、天然ゴムにフェニル基を有するモノマーをグラフト共重合してからスルホン化することによりスルホン化ポリマーの連続構造、好ましくはスルホン化ポリマーと環化天然ゴムのナノ共連続構造を形成し、水に対する膨潤や高温使用時における水の蒸発を抑制するとともに高いプロトン伝導度を兼ね備えたプロトン伝導性高分子電解質となる。
【実施例】
【0045】
つぎに、実施例により本発明のナノマトリックス分散天然ゴム及びその製造方法について、さらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0046】
[天然ゴムの脱蛋白質化]
天然ゴムラテックスとして、市販の高アンモニア天然ゴムラテックス(HA−NR)(DRC:60wt/wt%)を使用した。脱蛋白質化はHA−NRラテックスをDRC30wt/wt%に希釈した後、界面活性剤(SDS)1wt/wt%、尿素0.1wt/wt%を加え、室温でインキュベートすることにより行った。このラテックスを10,000gで遠心分離することにより洗浄し、DRC30wt/wt%及び界面活性剤濃度0.1wt/wt%に調整することにより、尿素脱蛋白質化天然ゴム(以下、DPNRという)ラテックスを得た。
【0047】
[スチレンの精製]
スチレンは重合禁止剤のカテコールを10%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄して除去し、無水硫酸マグネシウムで一昼夜乾燥してから使用した。
【0048】
[実施例1]
図2に、グラフト共重合の手順を示す。
試料には、尿素を用いて脱蛋白質化を施した脱蛋白質化天然ゴム(DPNR)ラテックスを用いた。DPNRラテックスの乾燥ゴム重量(DRC)を30%に調整してから、1時間窒素置換を行い、0.2mol/kg−rubberのtert−ブチルヒドロパーオキサイド(TBHPO)および0.2mol/kg−rubberのテトラエチレンペンタミン(TEPA)を順次加え、フェニル基を有するモノマーとしてスチレンを5.5mol/kg−rubber加えた。スチレンのグラフト共重合は30℃で2時間行った。
【0049】
反応終了後、エバポレータを用いて未反応のスチレンを減圧除去してから、フィルム(DPNR−graft−PS)を製膜した。
【0050】
図3に、スルホン化の手順を示す。
生成物であるDPNR−graft−PSをアセトン又はクロロホルムに溶解してから0.2〜0.8Nクロロスルホン酸を用いてスルホン化を行った。
【0051】
図4に、得られた、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとる天然ゴム系電解質のTEM写真を示す。
【0052】
また、図5に、DPNR−graft−PS(A)と、0.8Nのクロロスルホン酸でスルホン化されたDPNR−graft−PS(B)のTEM写真を示す。明るい部分は天然ゴムであり、暗い部分はポリスチレンである。図5に示すように、スルホン化前の状態(A)ではポリスチレン粒子が互いに結合せず分離しているのに対して、スルホン化した状態(B)ではポリスチレン粒子同士が結合し、一様なマトリックスを形成している。なお、図5(C)は、0.8Nのクロロスルホン酸でスルホン化されたDPNR−graft−PSの3次元TEMイメージであり、イメージ中のボックスのサイズはX:Y:Z=600nm:500nm:100nmである。図5(C)において、暗い部分は天然ゴムであり、明るい部分はポリスチレンである。
【0053】
以上の結果に基づいて、本発明の天然ゴム系電解質の3次元構造を図6に模式的に示す。図6に示すように、本発明の天然ゴム系電解質は、環化天然ゴム相(疎水性ドメイン)と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相(親水性ドメイン)が連続構造をとり、膜内をイオン性分子が伝導できるようにグラフトポリマー相からなる多数の「ナノマトリックスチャンネル」が縦横に形成されている。ナノマトリックスチャンネルの幅は、1〜100nm程度である。
【0054】
図7に、DPNR−graft−PS(A)と、0.8Nのクロロスルホン酸でスルホン化されたDPNR−graft−PS(B)のNMRスペクトルを示す。スルホン化の後に現れる139.1ppmのシグナル(3)は、スルホン酸基で置換された芳香族炭素と同定された。また、127.3ppm及び145.7ppmのシグナルから、それぞれ130.1(2)ppm及び148.0ppm(4)への低磁場シフトは、フェニル基に結合したスルホン酸基の電子吸引効果によるものと考えられる。
【0055】
[プロトン伝導度の測定]
サンプルを1N硫酸水溶液中で1時間煮沸した後、純水中で1時間煮沸し、さらに純水を交換して1時間煮沸することで固体高分子電解質膜の活性化処理とした。活性化処理したサンプルを金電極で挟み、金電極とインピーダンスアナライザー(Solartron SI1260)を配線し、室温、大気圧下で高周波側から低周波側へ周波数スキャンした後、膜厚方向のインピーダンスを求めた。このインピーダンスを基に導電度を下記式により求めた。
σ(導電率)=(膜厚)÷(膜抵抗)
【0056】
下記表1に、本発明で得られた天然ゴム系電解質膜のガラス転移点Tg、ゲル含有量、硫黄量、イオン交換能(IEC)、プロトン伝導度、及び水膨潤量を示す。また、参考例1及び2として、スルホン化ポリスチレンと、Nafion(登録商標)117(プロトン伝導性パーフルオロスルホン酸膜)について測定した各特性値も合わせて示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、スルホン化したDPNR−graft−PSのイオン交換能(IEC)及び水膨潤量は、スルホン酸基の量に依存し、クロロスルホン酸の量の増加とともにイオン交換能及び水膨潤量も増加した。75wt%でのスルホン化したDPNR−graft−PSのIEC値は2.4meq/gであり、スルホン化ポリスチレン、及びNafion(登録商標)117のIEC値よりも高かった。
【0059】
プロトン伝導度は、IECと相関する。スルホン化したDPNR−graft−PSのプロトン伝導度は、スルホン酸基の量が増えるに従って向上した。スルホン化したDPNR−graft−PS(75wt%PS/PS)のプロトン伝導度は9.5×10−2S/cmであり、この値はスルホン化ポリスチレンの3倍であり、Nafion(登録商標)117のプロトン伝導度よりも高かった。
【0060】
75wt%硫黄量におけるスルホン化したDPNR−graft−PSは、プロトン伝導度及びIECが高いにも関わらず、水膨潤量は少なく、具体的にはスルホン化ポリスチレンの150分の1程度であり、産業上有利である。この低い水膨潤量は、スルホン化したDPNR−graft−PSの環化天然ゴム相の影響と考えられる。
【0061】
[実施例2]
図8に、グラフト共重合の手順を示す。図9に、スルホン化の手順を示す。
実施例1で示した方法により調製したDPNR−graft−PSを原料とし、アセチル硫酸を用いてスルホン化を行った。
【0062】
アセチル硫酸の合成は、クロロホルムを氷浴で十分に冷却し、無水酢酸を加えてから撹拝した。10分間攪拌してから硫酸を滴下することにより、アセチル硫酸を得た。
【0063】
図10に、DPNR−graft−PSの1H−NMRスペクトルを示す。図11に、(a)尿素で脱蛋白質化した天然ゴム(U−DPNR)、(b)ポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(c)0.006molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(d)0.012molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(e)0.018molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)、(f)0.024molのアセチル硫酸でスルホン化されたポリスチレングラフト天然ゴム(PS−graft−NR)のFT−IRスペクトルを示す。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の天然ゴム電解質は、天然ゴムにフェニル基を有するモノマーをグラフト共重合してからスルホン化することにより、スルホン化ポリマーの連続構造、好ましくはスルホン化ポリマーと環化天然ゴムのナノ共連続構造を形成し、水に対する膨潤や高温使用時における水の蒸発を抑制するとともに高いプロトン伝導度を兼ね備えたプロトン伝導性高分子電解質である。
【0065】
本発明の天然ゴム電解質は、固体高分子型燃料電池などに好適に用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質。
【請求項2】
天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質。
【請求項3】
前記天然ゴムが脱蛋白質化天然ゴムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の天然ゴム系電解質。
【請求項4】
水溶性ラジカル開始剤を用いて天然ゴム粒子表面にラジカル活性点を導入した後、フェニル基含有ビニルモノマーを添加してグラフト共重合を行う工程と、得られたグラフト共重合体の天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【請求項5】
前記天然ゴムが脱蛋白質化天然ゴムであり、天然ゴムラテックスを脱蛋白質化する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【請求項6】
前記天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程を、ルイス酸を用いて行うことを特徴とする請求項4又は5に記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【請求項7】
前記天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを、クロロスルホン酸を用いて同時に行うことを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【請求項8】
前記天然ゴムラテックスの脱蛋白質化を、天然ゴムラテックスに尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を添加し、攪拌・混合して原料天然ゴムラテックス中の蛋白質を変性させる工程と、前記工程により変性した蛋白質を分離・除去する工程とを含む方法により行なうことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【請求項1】
天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相と共存するスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相が連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質。
【請求項2】
天然ゴムにフェニル基含有ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト化天然ゴムのフェニル基をスルホン化した高分子電解質であって、天然ゴム由来の主鎖が環化ゴム構造をとり、環化天然ゴム相とスルホン化フェニル基を有するグラフトポリマー相とが共連続構造をとることを特徴とする天然ゴム系電解質。
【請求項3】
前記天然ゴムが脱蛋白質化天然ゴムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の天然ゴム系電解質。
【請求項4】
水溶性ラジカル開始剤を用いて天然ゴム粒子表面にラジカル活性点を導入した後、フェニル基含有ビニルモノマーを添加してグラフト共重合を行う工程と、得られたグラフト共重合体の天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【請求項5】
前記天然ゴムが脱蛋白質化天然ゴムであり、天然ゴムラテックスを脱蛋白質化する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【請求項6】
前記天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程を、ルイス酸を用いて行うことを特徴とする請求項4又は5に記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【請求項7】
前記天然ゴム由来の主鎖を環化ゴム構造とする工程と、得られたグラフト共重合体のフェニル基をスルホン化する工程とを、クロロスルホン酸を用いて同時に行うことを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【請求項8】
前記天然ゴムラテックスの脱蛋白質化を、天然ゴムラテックスに尿素系蛋白質変性剤及び界面活性剤を添加し、攪拌・混合して原料天然ゴムラテックス中の蛋白質を変性させる工程と、前記工程により変性した蛋白質を分離・除去する工程とを含む方法により行なうことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の天然ゴム系電解質の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−92846(P2010−92846A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208592(P2009−208592)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
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