説明

天然大理石様結晶化ガラス、天然大理石様結晶化ガラス物品及びその製造方法

【課題】従来品にない立体的な天然石調のひび割れ模様を形成する天然大理石様結晶化ガラス、これを用いた天然大理石様結晶化ガラス物品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】天然大理石様結晶化ガラスは、軟化点よりも高温の熱処理により主結晶としてβ−ウォラストナイトの針状結晶を析出し、自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶10cが析出する。結晶化ガラス物品10は、表面から内部に向かってβ−ウォラストナイトの針状結晶が析出している複数の結晶化ガラス小領域が互いに融着しており、自由表面10aに、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶によるひび割れ模様10bを有する。製造方法は、耐火性容器内に、針状結晶を析出する複数の結晶性ガラス小体を収容し、熱処理して互いに融着させ、針状結晶を析出させて結晶化ガラス物品10を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本本発明は、結晶化ガラスに関し、特に、建築物の内外装材に好適な天然大理石様結晶化ガラス、天然大理石様結晶化ガラス物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然大理石模様を呈する結晶化ガラス物品は、化学的耐久性、機械的強度の特性に優れており、当初は主に天然石の代替品として使用されていた。また、この用途に加えて、色調と肌理の自由度が高く、自然には存在しない美しい外観を呈することから、現在ではデザイン性を追求する多くの建築物の内装材や外装材に使用されている。
【0003】
この種の結晶化ガラスとして、特許文献1〜3には結晶性ガラスを熱処理することにより、主結晶としてβ−ウォラストナイト(β−wollastonite:CaO・SiO)を析出してなる天然大理石様結晶化ガラスが開示されている。
【0004】
特許文献1には、質量%表示で、SiO 50〜75%、Al 1〜15%、CaO 6〜16%、LiO 0.1〜5%、B 0〜1.5%、CaO+LiO+B 10〜17.5%、ZnO 2.5〜12%、BaO 0〜12%、NaO+KO 0.1〜15%の組成を含有し、主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出する天然大理石様結晶化ガラスが開示されている。この天然大理石様結晶化ガラスは、生産性の向上を目的として色調安定性に優れたものになっている。
【0005】
また、特許文献2には、質量%表示で、SiO 45〜77%、Al 1〜25%、CaO 2〜25%、ZnO 0〜18%、BaO 0〜20%、NaO 1〜15%、KO 0〜7%、LiO 0〜5%、B 0〜1.5%、CeO 0.01〜0.5%、SO 0.01〜0.5%の組成を含有し、主結晶としてβ−ウォラストナイトを析出する天然大理石様結晶化ガラスが開示されている。この天然大理石様結晶化ガラスは、AsやSbを含有することなく、従来品と同等以上の白色度を有するものになっている。
【0006】
さらに、特許文献3には、模様付き結晶化ガラス物品及びその製造方法が開示されている。この結晶化ガラス物品は結晶性ガラス板を任意の形状に切り取り、その切り取り面であるガラスの外周端面同士を密着させて様々な模様を付けた模様付き結晶化ガラスとなっている。
【0007】
また、特許文献4には、互いに異色の細長い熱可塑性樹脂模様単位が隣接した模様シートを圧延して、コールドマーク模様を表面に露出させたシートを基材に積層させて、マーブル模様または大理石に特徴的なひび割れ模様を呈する装飾材を製造する方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献5には、上から不飽和ポリエステル樹脂からなる表面層、不飽和ポリエステル樹脂よりも高反応性の熱硬化型樹脂からなるひび割れを発生させた中間層、不飽和樹脂と充填剤とを主成分とする大理石層からなり、耐汚染性、耐水性、製品強度を低下のない、天然大理石調のひび割れ模様を有する人工大理石が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−247744号公報
【特許文献2】特開平9−295831号公報
【特許文献3】特開2007−91575号公報
【特許文献4】特開平9−193334号公報
【特許文献5】特開平4−301453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、建築の多様化に伴って種々の外観を呈する建築材料が開発され、結晶化ガラスからなる建築材料においても、上記に示したような従来からある色調で天然大理石模様を呈するだけではなく、立体的な模様が要求されている。ところが、上記従来の結晶化ガラス物品の場合、意匠面の模様は平面的なものであり単調である。そのため、立体的な模様を形成しようとした場合、焼成物を切断、研磨、再焼成などの2次的加工が必要となり、製造費の上昇に繋がる。
【0011】
また、特許文献1、2に開示された天然大理石様結晶化ガラスは、いずれも色調に関する開示であり、自由表面は平滑で模様が単調である。
【0012】
さらに、特許文献3に開示された模様付き結晶化ガラスは、模様を形成するために切断加工を施すため製造費が上昇するという問題がある。
【0013】
また、特許文献4、5は、何れも樹脂からなるものであるため、耐侯性に問題を有するだけでなく、石材とは質感も大きく異なっている。
【0014】
本発明の課題は、上記の事情に着目し、従来の天然大理石様結晶化ガラスの模様が単調であるという問題と製造費の上昇を抑制し、従来品にない立体的なひび割れ模様を形成する天然大理石様結晶化ガラス、この結晶化ガラスを使用したひび割れ模様を有する天然大理石様結晶化ガラス物品及びその効率よい製造を可能にする製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、軟化点よりも高い温度の熱処理により主結晶としてウォラストナイトの針状結晶を析出する結晶化ガラスであって、2次的加工を施すことなく天然石調のひび割れ模様を有する天然大理石様結晶化ガラス物品が得られる結晶化ガラスを見出した。
【0016】
すなわち、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、軟化点よりも高い温度の熱処理により主結晶としてβ−ウォラストナイト(β−wollastonite)の針状結晶を析出する天然大理石様結晶化ガラスであって、前記熱処理により、自由表面に、α−ウォラストナイト(α−wollastonite)、シクロ−ウォラストナイト(Cyclo-wollastonite)のうち1種以上を含む針状結晶が析出することを特徴とする。
【0017】
本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、内部に主結晶としてβ−ウォラストナイトの針状結晶を析出し、かつ自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトの一方又は双方を含む針状結晶が析出する結晶化ガラスであることを意味している。β−ウォラストナイトの針状結晶と、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトの針状結晶とは、同じCaO・SiO系の結晶でありながら線膨張係数が異なるので、これらの収縮差に起因するひび割れ模様を形成することができる。また、自由表面の析出結晶が、耐候性に優れたβ−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト及びシクロ−ウォラストナイトの何れかであると、デビトライトのような耐候性の問題を有さず、建材用途として好適なものである。なお、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、自由表面にα−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトの針状結晶の他に、β−ウォラストナイトの針状結晶を析出するものも含んでいる。
【0018】
また、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、自由表面から深さ0.5mmまでの領域における結晶量が50質量%以上となるものであることを特徴とする。
【0019】
本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、自由表面から深さ0.5mmまでの領域におけるβ−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶の総析出量である結晶量が50質量%未満であると、その下層のβ−ウォラストナイトの針状結晶との線膨張係数差が十分に作用せず、自由表面に形成される模様が不明瞭なものになる。自由表面に立体的な模様を形成する上で、自由表面から深さ0.5mmまでの領域におけるβ−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶の総析出量が50質量%以上となるものであることが好ましい。
【0020】
また、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、質量百分率表示でSiO 45〜75%、Al 1〜25%、CaO 5〜25%、ZnO 0〜4%、BaO 2〜20%、MgO 0〜3%、SrO 0〜5%、NaO 1〜15%、KO 0〜7%、B 0〜5%、CeO 0〜0.5%、SO 0〜0.5%、Sb 0〜1% As 0〜1%、LiO 0.05〜3%の組成を含有することを特徴とする。
【0021】
本発明の天然大理石様結晶化ガラスにおいて、各成分の含有量を限定した理由を以下に述べる。
【0022】
SiOは、β−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト及びシクロ−ウォラストナイトの成分であって、その含有量は45〜75%である。SiOが75%より高いと結晶性ガラスの熔融温度が高くなるとともに、粘度が増大して熱処理時の流動性が悪くなる。一方、45%より少ないと成型時の失透性が強くなる。また、上記の安定した性能を有する天然大理石様結晶化ガラスを実現する上で、SiOの含有量は50〜70%であることが好ましい。
【0023】
Alは失透を抑制する成分であり、その含有量は1〜25%である。Alが25%より多いと結晶性ガラスの熔解性が悪くなるとともに異種結晶(アノーサイト)が析出し熱処理時の流動性が悪くなり、1%より少ないと失透性が強くなり化学的耐久性も低下する。また、上記の安定した性能を有する天然大理石様結晶化ガラスを実現する上で、Alの含有量は3〜15%であることが好ましい。
【0024】
CaOはβ−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト及びシクロ−ウォラストナイトの成分であって、その含有量は5〜25%である。CaOが25%よりも多いと失透性が強くなり成形が困難となり、又、結晶の析出量が多くなり過ぎて所望の曲面加工性が得難くなる。一方、5%より少ないと結晶の析出量が少なくなり過ぎて機械的強度が低下し、建材として実用に耐えられなくなる。また、上記の安定した性能を有する天然大理石様結晶化ガラスを実現する上で、CaOの含有量は8〜20%であることが好ましい。
【0025】
ZnOは、結晶性ガラスの流動性を促進するために添加する成分であるが、ガラス原料費を抑えるためには含有量は4%以下であることが重要であり、好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは本質的に含有しないこと(ただし製造工程等から不純物として混入する1000ppm以下のZnOの含有は許容する)である。
【0026】
BaOは天然大理石様結晶化ガラス物品を得る結晶化工程時の結晶性ガラスの流動性を促進するために添加する成分であって、その含有量は2〜20%である。BaOは、結晶性ガラスの熔解性や流動性を促進させる成分であり2%未満であると、結晶性ガラスの粘度が増大して熱処理時の流動性が悪くなる。一方、BaOも20%より多いと結晶の析出量が少なくなる。また、上記の安定した性能を有する天然大理石様結晶化ガラスを実現する上で、BaOの含有量は、好ましくは4〜15%であり、さらに好ましくは6〜14%である。
【0027】
MgOは結晶性ガラスの熔解性や流動性を促進させる成分であって、その含有量は0〜3%である。MgOが3%より多くなるとMg系の異種結晶を析出するため、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。
【0028】
SrOは結晶性ガラスの熔解性や流動性を促進させる成分であって、その含有量は0〜5%である。SrOが5%より多くなるとSr系の異種結晶を析出するため、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。
【0029】
NaOは結晶性ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量は1〜15%である。NaOが15%よりも多いと化学的耐久性が悪くなり、膨張係数が高くなるために建材として好ましくない。1%より少ないと結晶性ガラスの粘性が増大して熔解性や流動性が悪くなる。また、上記の安定した性能を有する天然大理石様結晶化ガラスを実現する上で、NaOの含有量は1〜10%であることが好ましい。
【0030】
Oは結晶性ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量は0〜7%である。KOが7%より多いと化学的耐久性が低下する。また、上記の安定した性能を有する天然大理石様結晶化ガラスを実現する上で、KOの含有量は0〜5%であることが好ましい。
【0031】
LiOは結晶化工程時の結晶化速度を速める効果と結晶性ガラスの流動性を促進する効果がある成分であり、その含有量は0.05〜3%である。LiOが3%より多いと、熱膨張係数が大きくなり、化学的耐久性が低下し、粘性も低下する。粘性の低下は流動性の改善に寄与するが、熱処理工程において泡の残留を引き起こす。一方、0.05%未満であると上記の効果が得られない。これらの効果を安定させる上で、LiOの含有量は好ましくは0.1〜3%であり、さらに好ましくは0.2〜1%である。
【0032】
は結晶化ガラスの熱膨張係数を変化させずに結晶性ガラスの粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜5%である。Bが5%より多いと天然大理石様結晶化ガラス物品に硼酸系の異種結晶が析出し、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。また、上記の安定した性能を有する天然大理石様結晶化ガラスを実現する上で、Bの含有量は0〜3%であることが好ましい。
【0033】
SOは清澄剤として機能する成分であり、その含有量は0〜0.5%である。SOが0.5%より多いと熔融ガラス中の発泡が多すぎ、結晶化ガラスに気泡が残留し、天然大理石様結晶化ガラス物品に硫化物系の異種結晶が析出し、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。また、上記の安定した性能を有する天然大理石様結晶化ガラスを実現する上で、Bの含有量は0.02〜0.3%であることが好ましい。
【0034】
CeOは清澄剤としてのAs又はSbの添加が環境上好ましくないことから、As又はSbの何れかあるいはそれらの合量としての含有量が0.1%以下の場合における天然大理石様結晶化ガラス物品の白色度の急減を抑制するために使用する成分であり、CeOの含有量は0〜0.5%である。さらにCeOは、還元雰囲気熔融において不純物として含有するFeによるFe2+の発色を抑制し、特にSO(芒硝)と共存する場合には発色抑制効果が顕著に現れる。CeOが0.5%より多いとCe4+による褐色着色が強く現れるようになる。また、上記の安定した性能を有する天然大理石様結晶化ガラスを実現する上で、CeOの含有量は0.05〜0.3%であることが好ましい。
【0035】
As又はSbは清澄剤として機能する成分であるが、0.1%以下では清澄効果が低下するので、0.1〜0.5%が適量ではある。しかし、0.5%を超える使用は環境上好ましくない。
【0036】
さらに、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、屈伏温度Tfが680℃以下であることを特徴とする。
【0037】
天然大理石様結晶化ガラスの屈伏温度Tfが680℃を超えると、熱処理による天然大理石様結晶化ガラス板の曲げ加工において曲率半径Rを300mm以下に加工する場合に、十分に変形させることができず、得られる曲げ加工品の曲率精度が低下する。また、加熱処理による曲げ加工において、通常よりも高温下で金属型材を使用すると、金属型材の劣化及び変形を促進することになり、結果的に加工コストが上昇するので好ましくない。
【0038】
本発明に係る天然大理石様結晶化ガラス物品は、表面から内部に向かってβ−ウォラストナイトの針状結晶が析出している複数の結晶化ガラス小領域が、互いに融着している結晶化ガラス物品であって、自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶によるひび割れ模様を有することを特徴とする。
【0039】
本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品は、上記のβ−ウォラストナイトの針状結晶を複数の結晶化ガラス小領域が互いに融着している物品の内部及び自由表面に主結晶として析出しており、かつ自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち少なくとも1種以上を含む針状結晶が析出しているものであって、内部及び自由表面のβ−ウォラストナイトの針状結晶と、自由表面に析出するα−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトの針状結晶との線膨張係数差に起因する立体的なひび割れ模様が生じているものであることを意味している。また、自由表面にβ−ウォラストナイトが析出している場合には、β−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち少なくとも2種以上を含む針状結晶が析出していることを意味する。本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品は、ウォラストナイト(CaO・SiO)により構成されており、耐候性に優れ、新たな意匠を有する建材として好適なものである。
【0040】
また、本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品は、ひび割れ模様の山と谷の高低差が50μm以上で1000μm以下であることを特徴とする。
【0041】
本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品において、ひび割れ模様の山と谷の高低差が50μm未満であると、立体模様として認識し難いものになる。一方、ひび割れ模様の山と谷の高低差が1000μmより大きいと突起が大きいので、壁に施工された際に、衣服が引っかかる等の不具合が生じる虞がある。本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品では、ひび割れ模様の山と谷の高低差が50μm以上で1000μm以下であることが好ましい。
【0042】
本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品は、析出結晶量が、自由表面から深さ0.5mmまでの領域において50質量%以上であり、自由表面から深さ0.5mmより下の領域において5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする。
【0043】
本発明において自由表面とは、耐火性容器等に触れていない結晶化ガラス物品の流動面を意味している。この自由表面から深さ0.5mmまでの領域における結晶量が50質量%以上で、かつ、深さ0.5mmより下の領域の結晶量が5質量%から50質量%でないと、熱処理時の冷却工程おける自由表面を含む領域の結晶物の収縮量と深さ0.5mmより下の領域の収縮量に差を生じないため、ひび割れ模様が形成されない。また、自由表面から深さ0.5mmより下の領域の結晶量が5質量%から50質量%でないと、屈伏温度Tfが上昇して曲面加工が困難になる。
【0044】
このように、本発明に係る天然大理石様結晶化ガラス物品は、結晶性ガラス小体の複数個が、軟化点より高い温度で熱処理されて、結晶物の流動面から深さ0.5mmまで領域において、表面から内部に向けてβ−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト及びシクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶が析出しており、その結晶量が50質量%以上、流動面から深さ0.5mmより下の領域において、表面から内部に向けてβ−ウォラストナイトの針状結晶が析出しており、その結晶量が5質量%から50質量%であり、かつ軟化変形により互いに融着しているものであることが好ましい。
【0045】
本発明に係る天然大理石様結晶化ガラス物品の製造方法は、耐火性容器内に、軟化点よりも高い温度で熱処理をすることにより、表面からβ−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶を析出する複数の結晶性ガラス小体を収容する集積工程と、内部に位置する結晶性ガラス小体の表面からβ−ウォラストナイトの針状結晶を析出させつつ軟化変形させて互いに融着させ、且つ自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶を析出させることによりひび割れ模様を成形する結晶化工程と、を有することを特徴とする。
【0046】
本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品の製造方法では、軟化点よりも高い温度で熱処理をすることにより、表面からβ−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶を析出する、例えば、質量百分率表示でSiO 45〜75%、Al 1〜25%、CaO 5〜25%、ZnO 0〜4%、BaO 2〜20%、MgO 0〜3%、SrO 0〜5%、NaO 1〜15%、KO 0〜7%、B 0〜5%、CeO 0〜0.5%、SO 0〜0.5%、Sb 0〜1% As 0〜1%、LiO 0.05〜3%の組成を含有するようにガラス原料を調合したガラスバッチを熔融してガラス化した後に、水砕、分級などの工程により得られた結晶性ガラス小体を、集積工程で使用するものである。この際に用いるガラス原料としては、珪砂、長石、スポジュメン等の天然鉱石を原料として選択することが原料費を低減する上で好ましい。
【0047】
次いで、結晶化工程では、このような結晶性ガラス小体を、耐火性容器内に集積し、軟化点よりも高い温度の熱処理により、各結晶性ガラス小体が融着一体化するとともに、内部の結晶性ガラス小体の表面から内部に向かって針状のβ−ウォラストナイトを析出させ、且つ自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶を析出させるものである。なお、本発明は、自由表面にα−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトの針状結晶の他に、β−ウォラストナイトの針状結晶を析出するものも含んでいる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、軟化点よりも高い温度の熱処理により、自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶が析出するものであるので、下層及び自由表面のβ−ウォラストナイトの針状結晶と、自由表面のα−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトの針状結晶との線膨張係数差に起因する立体的なひび割れ模様が生じ、かつ耐候性に優れた建材用途に好適な結晶化ガラス材料として使用することができる。
【0049】
また、本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、屈伏温度Tfが680℃以下であるので、熱加工による優れた曲げ加工性を有し、ひび割れ模様が形成された高級感のある色調を有し、安価な厨房・テーブルトップの内装材や外装材を実現することができる。
【0050】
本発明に係る天然大理石様結晶化ガラス物品は、自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶によるひび割れ模様を有するので、意匠面に、従来にない立体的なひび割れ模様が形成されている新たな天然大理石様結晶化ガラス物品を提供することができる。
【0051】
本発明に係る天然大理石様結晶化ガラス物品の製造方法は、上記の集積工程と、結晶化工程とを有するので、更なる2次的な加工を施すことなく、結晶化工程における熱処理温度の適正化と、建築材料として要求される色調その他の光学特性、耐光性等の化学的特性及び機械的特性を満足させることが可能な天然石調のひび割れ模様を有して高級感の有る本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品を、大幅な製造費の低減を図りつつ、効率よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品の写真であって、(A)は平面写真、(B)は模様部の拡大写真、(C)は意匠面の断面の偏光顕微鏡写真。
【図2】本発明の天然大理石様結晶化ガラス物品の写真であって、(A)は平面写真、(B)は模様部の拡大写真、(C)は意匠面の断面の偏光顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明に係る実施例及び比較例に基づいて、本発明を説明する。
【実施例】
【0054】
まず、各試料は次のようにして調製した。まず、表1の組成になるように珪砂、長石、酸化アルミ又は水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、ソーダ灰、炭酸カリウム、スポジュメン又は炭酸リチウム、硝酸ソーダ、酸化アンチモンを調合し、熔融炉により、そのガラスバッチを1550℃の温度で6時間熔融した。次いで熔融ガラスを水砕し、乾燥、分級して粒径1〜5mmの結晶性ガラス小体を得た。続いてこの結晶性ガラス小体を、内壁にアルミナ粉が塗布された耐火性の型枠内に集積して電気炉内に入れ、120K/hrの速度で昇温し、1120〜1145℃で1時間保持することによって、各結晶性ガラス小体を互いに融着一体化させるとともに結晶化させた。
【0055】
図1(A)、(B)に示すように、実施例の天然大理石様結晶化ガラス物品10は、自由表面を使用した意匠面10aに、天然石調の立体的なひび割れ模様10bが形成されている。また、図1(C)に示すように、意匠面10aの深さ0.5mmまでの表層部に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイト及びβ−ウォラストナイトの針状結晶10cを析出しているものである。針状結晶10cの構成は、大半がシクロ−ウォラストナイト及びα−ウォラストナイトよりなり、β−ウォラストナイトが微量含まれているものであった。また、意匠面10aの深さ0.5mmまでの表層部の結晶量は80質量%で、意匠面10aの深さ0.5mmより下層の結晶量は33%である。さらに、意匠面10aのひび割れ模様10bによる表面凹凸の山と谷の高低差は105μmと大きく、ひび割れ模様10bを容易に目視確認することができるものであった。また、天然大理石様結晶化ガラス物品10は屈伏温度Tfが640℃となっており、熱加工による曲げ加工性に優れるものである。
【0056】
この天然大理石様結晶化ガラス物品10の試料を用いて、屈伏温度TfをDILATO法により評価した。またこの天然大理石様結晶化ガラス試料を曲率半径が300mmのR形状の金属製型枠に設置して800℃の温度で再加熱して曲げ加工性を評価した。結晶量についてはX線回折にて、ハロー法、または多重分離法により評価した。その結果を表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
また、本実施例の比較例として、従来の天然大理石様結晶化ガラス物品として比較例1、2を表1に示す。自由表面の結晶量に着目すると、比較例1及び2ともに結晶量が各々38%、34%と実施例の試料よりもはるかに少なく、図2(A)、(B)に示すように、意匠面11aには微かな網目状凹凸模様11bは観察されるが、本発明のようなひび割れ模様は確認できず、その網目状凹凸模様11bによる表面凹凸の高低差も各々30μm、20μmと小さいため、模様として認識し難いものであった。また、図2(C)に示すように、意匠面11aの表層部には、β−ウォラストナイトの針状結晶10cは観察されるが、実施例のような異種結晶は確認されなかった。また、比較例1は屈伏温度Tfが700℃と高温になっており、熱加工による曲げ加工性が実用に適さないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の天然大理石様結晶化ガラスは、建築物の内外装材以外に厨房周りの天板や水周りの意匠材、テーブルの天板等の用途にも使用できる。
【符号の説明】
【0060】
10 天然大理石様結晶化ガラス物品
10a、11a 意匠面(自由表面)
10b ひび割れ模様
10c、11c 自由表面の針状結晶
11 従来の天然大理石様結晶化ガラス物品
11b 網目状凹凸模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点よりも高い温度の熱処理により主結晶としてβ−ウォラストナイトの針状結晶を析出する天然大理石様結晶化ガラスであって、
前記熱処理により、自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶が析出することを特徴とする天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項2】
自由表面から深さ0.5mmまでの領域における結晶量が50質量%以上となるものであることを特徴とする請求項1に記載の天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項3】
質量百分率表示でSiO 45〜75%、Al 1〜25%、CaO 5〜25%、ZnO 0〜4%、BaO 2〜20%、MgO 0〜3%、SrO 0〜5%、NaO 1〜15%、KO 0〜7%、B 0〜5%、CeO 0〜0.5%、SO 0〜0.5%、Sb 0〜1% As 0〜1%、LiO 0.05〜3%の組成を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項4】
屈伏温度Tfが680℃以下であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の天然大理石様結晶化ガラス。
【請求項5】
表面から内部に向かってβ−ウォラストナイトの針状結晶が析出している複数の結晶化ガラス小領域が、互いに融着している結晶化ガラス物品であって、
自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶によるひび割れ模様を有することを特徴とする天然大理石様結晶化ガラス物品。
【請求項6】
ひび割れ模様の山と谷の高低差が50μm以上で1000μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の天然大理石様結晶化ガラス物品。
【請求項7】
析出結晶量が、自由表面から深さ0.5mmまでの領域において50質量%以上であり、自由表面から深さ0.5mmより下の領域において5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の天然大理石様結晶化ガラス物品。
【請求項8】
耐火性容器内に、軟化点よりも高い温度で熱処理をすることにより、表面からβ−ウォラストナイト、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶を析出する複数の結晶性ガラス小体を収容する集積工程と、内部に位置する結晶性ガラス小体の表面からβ−ウォラストナイトの針状結晶を析出させつつ軟化変形させて互いに融着させ、且つ自由表面に、α−ウォラストナイト、シクロ−ウォラストナイトのうち1種以上を含む針状結晶を析出させることによりひび割れ模様を成形する結晶化工程と、を有することを特徴とする天然大理石様結晶化ガラス物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248056(P2010−248056A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2566(P2010−2566)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】