説明

天然石調壁面材及びその製造方法

【課題】長期間美装状態を保ち、かつメンテナンスが不要で耐久性の高い天然石調壁面材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の天然石調壁面材は、骨材と合成樹脂を含み、無機粉体を含んでもよい塗布材を非混合多色状に塗布した基材層(17)を含む天然石調壁面材であって、基材層(17)の表面は凹凸部を含み、凸部の少なくとも一部は研磨により平面状(20)に形成されており、基材層(17)表面に、艶消し剤を含まないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む下塗りコーティング層(22)と、その上に艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗りコーティング層(23)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹き付け塗装により形成された天然石調壁面材及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、長期間美装状態を保ち、メンテナンスが不要で耐久性の高い天然石調壁面材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁面等の表面は、美観や本体保護上等の観点から、天然石、金属の薄い板、タイル等を貼り付けたり、疑似天然石模様を付けたり、吹き付け塗装を行う等によって施工されている。従来、建築物の壁面等の表面に模様等を付する方法としては、例えば、リシン系(骨材が含まれる配合)及び塗料系の材料をコテ塗り法、ローラー塗装法等によって塗布する方法がある。コテ塗り法は、コテを用いて材料を建築物の表面に移して延ばす方法である。ローラー塗装法は、ローラーやコテを用いて材料を建築物の表面に移し、ローラーによって延ばす方法である。これらは手作業によって行われるため、大きな模様を付することはできるが、厚塗りや大面積の塗装には適していない。
【0003】
このため、圧縮空気を利用し、スプレーガン等から吹き付け材を噴射させることによって塗装する方法が提案されている(特許文献1)。この吹き付け塗装方法は、適度に粉砕した自然石を、合成樹脂中に混入してなる混合材の異なる色のもの複数種を1機のスプレーガン内の別個のタンクにそれぞれ用意し、該複数種の混合材を複数の吹き付け口を有する多頭式スプレーガンの別個の吹き付け口から同時に吹き付けることによって、非混合多色状に塗布するようにしたものである。この塗装面の非汚染仕上げとして、下記特許文献2〜4等が提案されている。特許文献2には第1のコーティング層としてアクリル系塗料、第2のコーティング層としてアクリル−珪素系塗料が提案されている。特許文献3にはアルキルシリケートを含むアクリル−珪素系塗料が提案されている。特許文献4にはトップコートとしてアクリル−珪素系塗料が提案されている。これらの提案のトップコートは、10〜20年の耐久性のある非汚染仕上げが得られる。
【0004】
しかし、近年の建築物の高層化にともない、当業界にはそれ以上の耐久性ある非汚染仕上げが要請されている。すなわち、建築物が所定の高さ以上になると下から足場を組むことはできず、上からケーブルを吊る等の作業が必要になるため、高額な費用がかかる。そのため、従来は15〜20年ごとに必要とされている壁面の大規模修繕の期間を大幅に延ばすことができるような更なる耐久性の改善が要請されている。建築物外壁の美装仕上げには、酸化チタンを含む光触媒も知られているが、光触媒は有機物を分解する作用が強く、合成樹脂を含む吹き付け塗装壁に適用すると、トップコートのマトリックス樹脂ないしは基材層まで分解してしまい、吹き付け塗装壁には適用することが困難であった。
【特許文献1】特公平5−9587号公報
【特許文献2】特開平8−291607号公報
【特許文献3】特開平9−262540号公報
【特許文献4】特開平10−266517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、長期間美装状態を保ち、かつメンテナンスが不要で耐久性の高い天然石調壁面材及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の天然石調壁面材は、骨材と合成樹脂を含み、無機粉体を含んでもよい塗布材を非混合多色状に塗布した基材層を含む天然石調壁面材であって、
前記基材層の表面は凹凸部を含み、前記凸部の少なくとも一部は研磨により平面状に形成されており、
前記基材層表面に、艶消し剤を含まないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む下塗りコーティング層と、
前記下塗りコーティング層の上に、艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗りコーティング層を形成したことを特徴とする。
【0007】
本発明の天然石調壁面材の製造方法は、骨材と合成樹脂を含み、無機粉体を含んでもよい塗布材を非混合多色状に塗布した基材層を含む天然石調壁面材の製造方法であって、
前記塗布材を非混合多色状に塗布した後、表面の凹凸部のうち少なくとも一部の凸部を研磨により平面状に形成して基材層とし、
前記基材層の表面に、艶消し剤を含まないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む下塗りコーティング剤を塗装し硬化させて下塗りコーティング層とし、
前記下塗りコーティング層の上に、艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗りコーティング剤を塗装し硬化させて上塗りコーティング層とすることを特徴とする天然石調壁面材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、基材層の表面に、下塗り用コーティング剤に艶消し剤を加えないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を使用したことにより、基材層と下塗りコーティング層との密着性が良好となる。すなわち、下塗りコーティング層として艶消し剤を加えないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む塗料を塗布すると、塗料の一部は基材層に浸入するが、浸入しても塗料組成及び塗膜組成の均一性は保たれ、耐久性の高いコーティング膜となる。加えて、下塗りコーティング層は基材層とシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。
【0009】
また、上塗りコーティング剤もシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含むことにより、隣り合うコーティング層同士はシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。そのうえ、シロキサン結合により塗膜面は親水性となり、雨水等により塵埃は洗い流され易く、長期間美装状態を保ち、かつメンテナンスが不要で耐久性の高い天然石調壁面材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは長年にわたり吹き付け塗装により天然石調壁面材を実施しかつ検討を重ねてきた。例えば約20年前に塗装した東京都庁の渡り廊下の壁面は、本発明者の一部が実施したもので、現在まで補修されていないが、美装面のまま保持されている。この塗装面には艶消し剤を含む珪素系塗膜が使われている。本発明者らはさらに長期間美装面が維持でき、高い耐久性を有するコーティング膜を着想し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明においては、骨材と合成樹脂を含み、無機粉体を含んでもよい塗布材を使用する。前記において骨材とは、自然石、自然石に顔料を加えて焼き付けた焼付け骨材、セラミック、レンガ、陶磁器、鋼滓等を粉砕し、平均粒子径0.1〜5mm程度に篩分けして整えた粒子をいう。合成樹脂とは、アクリルエマルジョン塗料、ウレタン塗料等の耐光性の高い樹脂であり、塗装面にしたときにマトリックス樹脂になるものをいう。本発明では合成樹脂をマトリックス樹脂に使用するため、塗装面は地震等の震動を受けても破壊することはない。このため、タイル、レンガ、自然石等に比較して、地震の際に落下する危険性はきわめて低い。無機粉体は、例えばシリカ、タルク、クレイなどの自然界に存在する鉱物粉体であり、前記骨材よりは細かい平均粒子に篩分けして調製する。塗布材には、その他増粘剤、pH調整剤、消泡剤、造膜助剤、水及び/又は溶剤を加えてもよい。
【0012】
骨材と合成樹脂と水及び/又は溶剤を含み、無機粉体を含んでもよい塗布材は、多頭式スプレーガンを使用して、建築物壁面又は壁面になるパネル等に非混合多色状に塗布する。多頭式スプレーガンは、例えば前記特許文献1又は特公平6−61494号公報に開示されている塗装ガンを使用する。この多頭式スプレーガンは、多色塗材を別々のタンクから別々に圧縮空気と共に弾となって塗布することができ、塗装面は非混合多色状に塗布され、天然石調に形成される。この塗装面の表面は凹凸部を含むので、凸部(突出部)の少なくとも一部は研磨ないしは研削により平面状に形成する。研磨ないしは研削面は、全体の5〜50%とすることが好ましい。このようにすると、自然石のいわゆるバーナー仕上げ面となる。バーナー仕上げとは、大理石や御影石などの自然石の表面に水をまき、火炎バーナーで加熱することにより、石の表面に急激な膨張を起こして破砕させ、表面を荒らして細かい凹凸面とする仕上げ方法である。
【0013】
このようにして形成した基材層の表面に、まず、艶消し剤を加えないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む下塗りコーティング剤を塗装する。この塗料を塗布すると、塗料の一部は基材層に浸入するが、浸入しても塗料組成及び塗膜組成の均一性は保たれ、耐久性の高いコーティング膜となる。加えて、下塗りコーティング層は基材層とシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、長期間美装状態を保ち、かつメンテナンスが不要で耐久性の高いコーティング層となる。
【0014】
塗料に艶消し剤を含むと、塗料の一部が基材層に浸入する際に、艶消し剤はコーティング層に残されてしまい、艶消し剤の濃度が高い部分が生じ、長期間経過したときに剥離しやすくなる。また、研磨ないしは研削により平面状に形成した面は、基材層の表面のマトリックス樹脂成分が除去され、骨材が露出しているので、下塗りコーティング剤が浸み込み易くなっており、艶消し剤を含むと、艶消し剤が偏在して白色の色むらが出てしまい、美観を損ねる問題もある。
【0015】
下塗りコーティング層の上に、艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗りコーティング層を形成する。これにより、隣り合うコーティング層同士もシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。また、塗膜は親水性であり、雨水等により塵埃は洗い流され易く、長期間美装状態を保ち、かつメンテナンスが不要で耐久性の高い天然石調壁面材が得られる。その結果、20年を越え、好ましくは30年を越え、さらに好ましくは40年を越える耐久性のある非汚染仕上げ面が得られる。
【0016】
本発明においては、下塗りコーティング層の上に、上塗りコーティング層より相対的に少ない量の艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む中塗りコーティング層をさらに形成するのも好ましい。これにより、下塗りコーティング層と中塗りコーティング層、及び中塗りコーティング層と上塗りコーティング層とは、互いにシロキサン結合により化学結合した塗膜が得られる。これにより、隣り合うコーティング層同士もシロキサン結合により化学結合するため、強固な密着となり、耐久性の高いコーティング層となる。また、塗膜は親水性であり、雨水等により塵埃は洗い流され易く、長期間美装状態を保ち、かつメンテナンスが不要で耐久性の高い天然石調壁面材が得られる。その結果、20年を越え、好ましくは30年を越え、さらに好ましくは40年を越える耐久性のある非汚染仕上げ面が得られる。
【0017】
以下において、下塗りコーティング層を「クリヤー」、中塗りコーティング層を「半艶」、上塗りコーティング層を「艶消し」という場合がある。クリヤーはコーティング剤に艶消し剤を含まず、半艶はコーティング剤100重量部に艶消し剤を0を越え6重量部以下を含み、艶消しはコーティング剤100重量部に艶消し剤を6重量部を越え10重量%以下を含むのが好ましい。
【0018】
本発明で使用するシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体は、好適には下記化学式1で示されるモノマーを必須成分として重合して得られる、アルコキシシリル基含有ビニル重合体である。
【0019】
【化1】

【0020】
ただし、R1は水素原子、メチル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R2は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R3は炭素数1〜3のアルキル基、aは0〜2の整数、mは1〜10の整数を示す。
【0021】
一例として挙げると、下記のモノマーを挙げることができるが、これらに限定されない。
(1)CH2=CHCOO(CH23Si(OCH33
(2)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(OCH33
(3)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(CH3)(OCH32
(4)CH2=CHCOO(CH23Si(OC253
(5)CH2=CHCOO(CH23Si(CH3)(OC252
(6)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(OC253
(7)CH2=C(CH3)COO(CH23Si(CH3)(OC252
前記モノマーは1種でも良いし、2種以上を混合して使用できる。
【0022】
また前記モノマーと共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、あるいは他のビニルモノマーおよびアミド系モノマーを用いることができる。具体的な化合物を例示すると、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルモノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、n−ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド等のアミド系モノマーが挙げられる。これらは1種あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0023】
これらのモノマーをラジカル重合させると、ビニル基が壊裂して重合し、これが主鎖を形成し、本発明に好適なアルコキシシリル基含有のビニル重合体を得ることができる。この重合体の好ましい数平均分子量は3000〜100000である。
【0024】
本発明に好適なビニル重合体は側鎖にアルコキシシリル基を有するため、触媒により常温(室温)でも反応が進む。すなわち、脱アルコール反応により、シラノール基同士又は他の水酸基(−OH基)と反応してシロキサン結合(−SiO−、Siは4価であるが2価を省略。以下も同様。)が形成される。あるいはアルコキシシリル基は加水分解され、シラノール基(−SiOH基)となり、シラノール基同士又は他の水酸基(−OH基)と反応してシロキサン結合(−SiO−)が形成される。このシロキサン結合により架橋構造となる。このことから本発明では「シロキサン架橋型」という。また、こうして形成された塗膜は親水性であり、雨水により表面に付着した汚れは落ちやすい。
【0025】
中塗り及び/又は上塗りコーティング剤に含まれる艶消し剤は、平均粒子径1〜20μmの範囲の無機粉体であるのが好ましい。前記平均粒子径は市販の粒度分布計で測定できる。例えば、堀場製作所レーザ回折粒度測定器(LA920)、島津製作所レーザ回折粒度測定器(SALD2100)などを用いて測定することができる。艶消し剤は、例えばシリカ、タルク、クレイ、アルミナなどの無機粉体から選択できる。
【0026】
本発明の天然石調壁面材は、金属パネル、樹脂パネル、無機パネル及びプレキャストコンクリートから選ばれる少なくとも一つに形成されていてもよいし、建築物壁面に形成されていてもよい。
【0027】
本発明方法においては、下塗りコーティング剤を塗布し、硬化させ、その上に上塗りコーティング剤を塗装し、硬化させる。好ましくは、下塗りと上塗りの間に中塗りコーティング層を形成する。前記下塗り、中塗り、上塗りコーティング剤には、シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体とともに、触媒、溶剤、その他の添加剤を加えることもできる。触媒としては酸、塩基、有機金属が使用できる。この中でも有機錫が好ましく、ジオクチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジオクチル錫オキサイドまたはジブチル錫オキサイドとシリケ−トとの縮合物、ジブチル錫ジオクトエ−ト、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジブチル錫ジステアレ−ト、ジブチル錫ジアセチルアセトナ−ト、ジブチル錫ビス(エチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(ブチルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(2−エチルヘキシルマレ−ト)、ジブチル錫ビス(オレイルマレ−ト)、スタナスオクトエ−ト、ステアリン酸錫、ジ−n−ブチル錫ラルレ−トオキサイドがある。また、分子内にS原子有する錫化合物としては、ジブチル錫ビスイソノニル−3―メルカプトプロピオネ−ト、ジオクチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、オクチルブチル錫ビスイソノニル−3−メルカプトプロピオネ−ト、ジブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、ジオクチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−ト、オクチルブチル錫ビスイソオクチルチオグルコレ−トなどが挙げられる。触媒は単独でもよく、また、2種類以上併用してもよい。有機錫を使用する場合、触媒の使用量は、シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体成分100重量部に対して0.01重量部以上1重量部以下が好ましく、さらに好ましくは0.1重量部以上0.2重量部以下である。
【0028】
溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のエーテル類;メチルエチルケトン、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン類等が挙げられる。これらの溶剤のうち特に好ましい溶剤としては、安全性の観点から、キシレンである。溶剤は、シロキサン架橋型アクリル−珪素重合体成分100重量部に対して50重量部以上200重量部以下、好ましくは70重量部以上150重量部以下、より好ましくは80重量部以上120重量部以下である。
【0029】
添加剤としては、シリコーンオイル等の消泡剤、ヒンダードフェノール等の紫外線吸収剤、光安定剤、アマイドワックス等のタレ防止剤、レベリング剤等を加えてもよい。
【0030】
本発明方法においては、さらに耐久性を上げるため、中塗りコーティング剤を2回塗りするのが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(各特性の測定試験方法)
(1)サンシャインウェザーメーターによる促進試験
試験機:スガ試験機社製、型番“WE−SUN−HC−DC”
光源:1灯式・セリウム入り有芯カーボンを上下各4本組み合わせ
光線波長:280〜400nm
放射照度:フィルター付き255±45W/m2、フィルターなし285±50W/m2
光フィルター:耐熱性光学ガラス板使用・8枚1組、255nm以下の短波長成分をカット、355nmまでの成分を10〜50%透過
放出電力:50V、60A(3000W)
雰囲気温度:63±3℃
シャワー:120分中18分間降雨先降り運転
スプレー水量:2100±100ml/min(pH6.0〜8.0、水温16±5℃)
試料枚数:70×150mm、76枚
運転サイクル:60Hr
(2)光沢
目視により観察し、次のように評価した。
A:自然石に近似する光沢
B:やや艶が目立つ
(3)ひび割れ有無
サンシャインウェザーメーターによる促進試験後の試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
A:ひび割れなし
B:僅かにひび割れあり、補修必要
C:大きなひび割れあり、補修必要
(4)変色
サンシャインウェザーメーターによる促進試験後の試料表面を目視により観察し、次のように評価した。
A:変色なし
B:変色あるが実用的に問題ない程度で目立たない、補修不要
C:やや目立つ変色、補修必要
D:明らかに変色しており、補修必要
(実施例1)
(1)基材層
吹き付け材としては、次の成分に調合したものを用いた。
(a)骨材 61.60重量部
(b)アクリルエマルジョン(固形分50%) 25.20重量部
(c)増粘剤(ヒドロキシメチルセルロース) 11.35重量部
(d)pH調整剤(アンモニア水) 0.17重量部
(e)消泡剤(アルコール系) 0.03重量部
(f)造膜助剤(アルコール系) 0.39重量部
(g)水 1.26重量部
作業性や貯蔵の便のために増粘剤、pH調整剤、消泡剤、造膜助剤等が混入されている。ここで、造膜助剤とは、エマルジョンの透明造膜の温度を下げるためのものである。
【0033】
骨材としては、白色骨材は寒水石等の自然石を粉砕したもの、黒色は黒曜石等の自然石を粉砕したもの、灰色は寒水石を粉砕したものと黒曜石を粉砕したものを混合して使用した。骨材の粒度分布は、建築物用壁装材の模様の表現によって自由に選択することができるが、その強度や美観から、次の表1に示す粒度分布のものを採用した。表1において、メッシュとは1インチ(25.4mm)あたりの篩目の数をいう。なお、骨材の色は目的により様々のものを使用でき、骨材も焼付け骨材、セラミックスなどさまざまなものを使用できる。
【0034】
【表1】

【0035】
図1は本発明の一実施例における吹き付け塗装方法で使用した3頭式スプレーガンを示す斜視図である。この3頭式スプレーガン30には、3つのタンク1、2、3が設けられており、タンク上部の全体は矩形(直方体形状)である。各タンク1、2、3に色の異なる第1〜第3の吹き付け材7、8、9をそれぞれ別々に収容する。また、タンク1、2、3の下部はテーパー状に細くなっており、一番下の部分にそれぞれ別個に噴射ノズル4、5、6が設けられている。タンク1、2、3内の第1〜第3の吹き付け材7、8、9は、圧縮空気によって噴射ノズル4、5、6からそれぞれ弾(たま)状に噴出させる。噴射ノズル4、5、6の口径はそれぞれ12mm、10mm、6mmであり、第1の吹き付け材(白色)7、第2の吹き付け材(灰色)8、第3の吹き付け材(黒色)9の吐出量比は5:4:1である。この3頭式スプレーガン30には、取っ手10,11がノズルの横に付いており、この取っ手10,11には、圧縮空気を高圧状態(2.0気圧)から低圧状態(1.0気圧)に(及び低圧状態から高圧状態に)切り替えるための切り替えスイッチ(図示せず)が設けられている。
【0036】
図2は本発明の一実施例における吹き付け塗装方法を示す説明図である。建築物用パネル13は、縦150mm、横70mm、厚さ3mmの繊維補強樹脂板を使用した。噴射ノズル4、5、6からそれぞれ弾状に噴出させた噴射物14,15,16を建築物外壁用パネル13に塗装し、乾燥することにより基材層17を得た。この基材層のままでも塗布材は非混合多色状に塗布されており、天然石調壁面であった。
【0037】
図3Aは得られた基材層17の拡大断面図である。建築物外壁13に塗装された基材層は、全体が大きな凹凸表面となっており、研磨線矢印19に沿って凸部18をプレートサンダーにより研磨した。図3Bは研磨した後の基材層17の拡大断面図である。基材層17は、研磨により平面部分20と凹部21となり、平面部分20があることにより、天然石のバーナー仕上げに近い表面形態となった。基材層17の厚さは約2mmであった。
【0038】
図3Bに示す基材層17表面に、通常のスプレーノズルを用いて下塗り〜上塗りコーティング剤を順番に塗布した。図4は研磨後の基材層の表面に下塗りコーティング層と上塗りコーティング層を塗布している断面説明図である。コーティング剤用スプレーノズル40を使用して、下塗りコーティング層22と上塗りコーティング層23を塗装する。
(1)下塗りコーティング剤(クリヤー)
ハマトップFCクリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 43重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 45重量部
基剤 計93重量部
ハマトップFCクリヤー(硬化剤)
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 1重量部(有機錫は0.1重量部)
溶剤(キシレン) 6重量部
硬化剤 計7重量部
合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)1回塗り
(2)中塗りコーティング剤(半艶)
ハマトップFC半艶クリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 41重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 42重量部
艶消し剤(平均粒子径8μmのシリカ)5重量部
基剤 計93重量部
ハマトップFC半艶クリヤー(硬化剤)
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 2重量部(有機錫は0.2重量部)
溶剤(キシレン) 5重量部
硬化剤 計7重量部
合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)2回塗り
(3)上塗りコーティング剤(艶消し)
ハマトップFC艶消しクリヤー(基剤)
アルコキシシリル基含有ビニル重合体(数平均分子量15000) 40重量部
添加剤(消泡剤+光安定剤+顔料分散剤) 1重量部
溶剤(酢酸エチル) 2重量部
溶剤(酢酸ブチル) 2重量部
溶剤(キシレン) 41重量部
艶消し剤(平均粒子径8μmのシリカ)7重量部
基剤 計93重量部
ハマトップFC艶消しクリヤー(硬化剤)
有機錫(ジブチル錫ジラウレ−ト)の混合物 2重量部(有機錫は0.2重量部)
溶剤(キシレン) 5重量部
硬化剤 計7重量部
合計100重量部
塗布量100g/m2(乾燥重量(固形分)で50g/m2)1回塗り
得られた美装仕上げの天然石調壁面材をサンシャインウェザーメーターによる促進試験で8000時間後(40年に相当)でもひび割れやクラックはなく、耐久性のあることが確認できた。
【0039】
(実施例2)
実施例1において、下塗りコーティング剤を1回塗りし、硬化させ、その上に中塗りコーティング剤を2回塗りとした以外は実施例1と同様にスプレー塗装した。得られた塗装物は、サンシャインウェザーメーターによる促進試験で7000時間(35年に相当)までは、ひび割れやクラックはなく、耐久性のあることが確認できた。
【0040】
(実施例3)
実施例1において、中塗りコーティング剤を1回塗りとした以外は実施例1と同様にスプレー塗装した。得られた塗装物は、サンシャインウェザーメーターによる促進試験で7000時間(35年に相当)までは、ひび割れやクラックはなく、耐久性のあることが確認できた。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、下塗りコーティング剤を塗布しなかった以外は実施例1と同様にスプレー塗装した。得られた塗装物は、サンシャインウェザーメーターによる促進試験で4000時間(20年に相当)までは、ひび割れやクラックはなく、耐久性のあることが確認できた。
【0042】
(比較例2)
実施例2において、下塗りコーティング剤を塗布しなかった以外は実施例2と同様にスプレー塗装した。得られた塗装物は、サンシャインウェザーメーターによる促進試験で4000時間(20年に相当)までは、ひび割れやクラックはなく、耐久性のあることが確認できた。
【0043】
(比較例3)
実施例2において、下塗り及び中塗りコーティング液を塗布せず、上塗りコーティング液を2回スプレー塗装した。得られた塗装物は、サンシャインウェザーメーターによる促進試験で2000時間(10年に相当)までは、ひび割れやクラックはなく、耐久性のあることが確認できた。
【0044】
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から明らかなとおり、本発明の実施例1〜4は、下塗り剤として艶消し剤を加えないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を塗装したため、耐久性が高いことが確認できた。また、最外層に半艶ないしは艶消し層を形成したため、自然石(白御影石)に近い落ち着いた光沢を有していた。
【0047】
これに対し、比較例1〜3は基材層の上に直接半艶ないしは艶消し層を形成したため、耐久性は低かった。さらに、光沢も強すぎる問題があった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は本発明の一実施例における吹き付け塗装方法で使用した3頭式スプレーガンを示す斜視図である。
【図2】図2は同、吹き付け塗装方法を示す説明図である。
【図3】図3Aは同、研磨前の基材層の拡大断面図、図3Bは研磨後の基材層の拡大断面図である。
【図4】図4は同、研磨後の基材層の表面に下塗りコーティング層と上塗りコーティング層を塗布している断面説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1,2,3 タンク
4,5,6 噴射ノズル
7,8,9 吹き付け材
10,11 取っ手
13 建築物用パネル
14,15,16 噴射物
17 基材層
18 凸部
19 研磨線
20 平面部分
21 凹部
22 下塗りコーティング層
23 上塗りコーティング層
30 3頭式スプレーガン
40 コーティング剤用スプレーノズル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材と合成樹脂を含み、無機粉体を含んでもよい塗布材を非混合多色状に塗布した基材層を含む天然石調壁面材であって、
前記基材層の表面は凹凸部を含み、前記凸部の少なくとも一部は研磨により平面状に形成されており、
前記基材層表面に、艶消し剤を含まないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む下塗りコーティング層と、
前記下塗りコーティング層の上に、艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗りコーティング層を形成したことを特徴とする天然石調壁面材。
【請求項2】
前記下塗りコーティング層と前記基材層、及び前記下塗りコーティング層と前記上塗りコーティング層とはシロキサン結合により化学結合している請求項1に記載の天然石調壁面材。
【請求項3】
前記下塗りコーティング層の上に、前記上塗りコーティング層より相対的に少ない量の艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む中塗りコーティング層をさらに形成した請求項1又は2に記載の天然石調壁面材。
【請求項4】
前記下塗りコーティング層と前記中塗りコーティング層、及び前記中塗りコーティング層と前記上塗りコーティング層とは、互いにシロキサン結合により化学結合している請求項3に記載の天然石調壁面材。
【請求項5】
前記下塗り〜上塗りコーティング層に含まれるシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体が、下記化学式1で示されるモノマーを必須成分として重合して得られる、アルコキシシリル基含有ビニル重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の天然石調壁面材。
【化1】

ただし、R1は水素原子、メチル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R2は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜25のアリール基及び炭素数7〜12のアラルキル基から選ばれた1価の有機基、R3は炭素数1〜3のアルキル基、aは0〜2の整数、mは1〜10の整数を示す。
【請求項6】
前記中塗り及び/又は前記上塗りコーティング層に含まれる艶消し剤は、平均粒子径1〜20μmの範囲の無機粉体である請求項1〜5のいずれかに記載の天然石調壁面材。
【請求項7】
前記天然石調壁面材は、金属パネル、樹脂パネル、無機パネル及びプレキャストコンクリートから選ばれる少なくとも一つに形成されているか、又は建築物壁面に形成されている請求項1〜6のいずれかに記載の天然石調壁面材。
【請求項8】
骨材と合成樹脂を含み、無機粉体を含んでもよい塗布材を非混合多色状に塗布した基材層を含む天然石調壁面材の製造方法であって、
前記塗布材を非混合多色状に塗布した後、表面の凹凸部のうち少なくとも一部の凸部を研磨により平面状に形成して基材層とし、
前記基材層の表面に、艶消し剤を含まないシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む下塗りコーティング剤を塗装し硬化させて下塗りコーティング層とし、
前記下塗りコーティング層の上に、艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む上塗りコーティング剤を塗装し硬化させて上塗りコーティング層とすることを特徴とする天然石調壁面材の製造方法。
【請求項9】
前記下塗りコーティング層の上に、前記上塗りコーティング層より相対的に少ない量の艶消し剤を加えたシロキサン架橋型アクリル−珪素重合体を含む中塗りコーティング剤を塗装し硬化させて中塗りコーティング層とする請求項8に記載の天然石調壁面材の製造方法。
【請求項10】
前記中塗りコーティング剤を2回塗りする請求項9に記載の天然石調壁面材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−264011(P2009−264011A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115412(P2008−115412)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(592091378)株式会社ハマキャスト (3)
【出願人】(000192844)神東塗料株式会社 (48)
【Fターム(参考)】