説明

太陽光集光システム

【課題】風圧による反射鏡の傾きを補正する仕組みを備えた太陽光集光システムを提供する。
【解決手段】太陽光集光システム100は、ヘリオスタット2と風向風速計4とコントローラ10を備える。ヘリオスタット2は、反射鏡26の向きを調整するモータ23を有する。コントローラ10は、モータ23に対して目標角度指令を出力する。目標角度は、目標角度第1成分と目標角度第2成分を含む。目標角度第1成分は、反射光が予め定められたターゲット位置に向かうように定められる。目標角度第2成分は、風向風速計6によって計測された風向及び風速に基づいて、風圧によって生じるアクチュエータ出力軸から反射鏡支持軸の間のねじれ角の推定値に対応して定められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘリオスタットを用いた太陽光集光システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギ或いは熱エネルギを取得するシステムの一つに、太陽光を利用するシステムがある。ある種の太陽光利用システムは、太陽光を効率よく利用するため、太陽光を一点に集める集光システムを備える。太陽光を一点に集めるのに、ヘリオスタットと呼ばれるデバイスが知られている。ヘリオスタットは、反射鏡(通常は緩やかな凹面鏡)と、その反射鏡の向きを調整するアクチュエータから構成される。ヘリオスタットは、反射光が常に予め定められた一点(ターゲットポイント)に配置されたレシーバに集まるように、太陽の動きに同期して反射鏡の向きを調整する。反射光を常にレシーバに向けるには、反射鏡の向きを精密に制御する必要がある。太陽電池パネルを概ね太陽に向ければよい発電システムと異なり、ヘリオスタットでは高い制御精度が要求される。ヘリオスタットの制御性能についての考察が、非特許文献1に紹介されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“PERFORMANCE OF SOLAR CONCENTRATOR CONTROL SYSTEM”, Kenneth W. Stone, Charles W. Lopez, Proceedings of Joint Solar Engineering Conference, ASME 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1で紹介されているように、反射鏡の向き(方位角と迎角)は、基本的に太陽の位置(方位角と迎角)に基づいて決定される。即ち、太陽の位置に基づき、反射光がレシーバに向かうように反射鏡の向きが調整される。しかしながら、風が強いと風圧によって反射鏡が傾き、反射光がレシーバからずれてしてしまう虞がある。反射光がレシーバからわずかでもずれると集光効率が極端に落ちてしまう。本明細書は、風圧による反射光の向きのずれを補正する仕組みを備えた太陽光集光システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する太陽光集光システムは、ヘリオスタットとコントローラを備える。ヘリオスタットは、前述したように、反射鏡の向きを調整するアクチュエータを有する。アクチュエータは典型的にはモータでよい。コントローラは、アクチュエータに対して目標角度指令を出力する。本明細書が開示するシステムはさらに風向風速計を備えており、コントローラが、太陽の位置と、風向風速計によって計測された風向及び風速に基づいて、目標角度指令値を決定することを特徴とする。
【0006】
より具体的には、コントローラが決定する目標角度指令は、太陽の位置から決定される目標角度第1成分に、風向と風速に基づいて決定される目標角度第2成分を加えたものである。目標角度第1成分は、反射光が予め定められたターゲット位置(レシーバの位置)に向かうように定められる。目標角度第2成分は、風圧によって生じるアクチュエータ出力軸から反射鏡支持軸の間のねじれ角の推定値に対応する。この目標角度第2成分の存在が、風圧による反射光の向きのずれを補正する。なお、アクチュエータと反射鏡支持軸は減速機を介して連結されているので、「ねじれ角」は、減速機の入力軸と出力軸との間のねじれ角にも相当する。
【0007】
本明細書が開示する技術は、反射鏡の向きをダイレクトに計測しないシステムに好適である。より具体的には、本明細書が開示する技術は、コントローラが、アクチュエータ出力軸の角度又は反射鏡の角度をフィードバックしないオープンループの制御系を有する場合、或いは、アクチュエータの出力軸の回転角と目標角度の偏差がゼロとなるようにアクチュエータを制御するフィードバック制御系を有する場合に有効である。本明細書が開示するシステムは、反射鏡の向きをダイレクトに計測してフィードバックする代わりに、目標角度第2成分が風圧による反射鏡の傾きを補償する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】太陽光集光システムの全体図である。
【図2】ヘリオスタットの制御ブロック図である。
【図3】風圧に起因して反射鏡支持軸に加わるモーメントを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に、実施例の太陽光集光発電システム100の概略図を示す。以下、太陽光集光発電システム100を単にシステム100と称する。このシステム100は、複数のヘリオスタット2によって太陽光をレシーバ9に集めて発電する。レシーバ9には気化装置が配置されており、集められた太陽光の熱によって水が加熱され、蒸気が生成される。蒸気はパワータワー8を通じてタービン発電機(不図示)に送られる。太陽光によって生成した蒸気がタービンを駆動し、電力を発生する。
【0010】
システム100には他に、太陽光の位置(方位角と迎角)を計測する太陽追尾センサ6、システム100の付近を流れる風の風向と風速を計測する風向風速計4、及び、ヘリオスタット2を制御するコントローラ10を備える。
【0011】
ヘリオスタット2には、モータ23と減速機25が内蔵されており、それらによって反射鏡26の向きを調整することができる。コントローラ10は、主として、太陽追尾センサ6のセンサデータから太陽の位置を取得し、太陽光の反射光がレシーバ9に到達するように、反射鏡26の向きを制御する。具体的にはコントローラ10は、太陽の位置とレシーバ9の位置から反射鏡の目標角度を算出し、その角度を指令値(目標角度指令)としてモータ23のドライバへ出力する。なお、反射鏡26は僅かに凹面に湾曲しており、レシーバ9の位置において反射光が焦点を結ぶようになっている。
【0012】
また、コントローラ10は、風向風速計4のセンサデータからシステム100の付近に流れる風の風向と風速のデータを取得し、それらのデータに基づいて、太陽追尾センサ6のセンサデータに基づいて算出された目標角度指令を補正する。補正値は、風圧を受けて反射鏡26が傾く角度を補償する大きさに定められる。コントローラ10は、複数のヘリオスタットの夫々に対して、補正値を含む目標角度指令を算出し、各ヘリオスタットのモータのドライバへ送る。なお、各ヘリオスタット2は、方位角と迎角の2軸の駆動機構を備えており、目標角度指令も各軸毎に算出される。しかし以下では説明を簡単にするため、反射鏡の駆動軸を1軸と仮定して説明する。
【0013】
図2に、コントローラ10とヘリオスタット2の制御ブロック図を示す。なお、図2は、一つのヘリオスタットについての制御ブロックを示している。同様の制御ブロックが各ヘリオスタットに用意されている。以下、太陽追尾センサ6のセンサデータに基づいて太陽光がレシーバ9に到達するように算出される反射鏡の角度を目標角度第1成分Ar1と称し、風向と風圧による反射鏡の傾きを補償する補償値を目標角度第2成分Ar2と称する。目標角度第1成分Ar1と目標角度第2成分Ar2を加えた値が目標角度Arに相当する。
【0014】
図2を参照して先にヘリオスタット2の構造について説明する。反射鏡26は、支持軸27を介して減速機25の出力軸に連結している。他方、モータ23の出力軸23aは減速機25の入力軸に連結している。別言すれば、反射鏡26は減速機25を介してモータ23に連結している。減速機25は、一例として、8000程度の減速比を有する。モータ23の出力軸23aには角度センサ24が備えられている。角度センサ24は、具体的にはエンコーダであり、出力軸1回転当たり100パルスを出力する。別言すれば、このエンコーダの分解能は100PPR(Pulse Per Rotation)である。減速比が8000の場合、このエンコーダの減速機出力軸相当の分解能は、800,000PPRとなる。ただし、後述するように、反射鏡26が受ける風圧の影響により減速機の入力軸と出力軸の間にはねじれが生じるため、角度センサ24(エンコーダ)のセンサデータを反射鏡の現実の傾斜角とみなすことはできない。それでもコントローラ10は、角度センサ24のセンサデータに基づいてモータを制御する。システム100は、減速機の入力軸と出力軸の間に生じるねじれは風向風速計4で計測した風向と風速に基づいて補償する。
【0015】
前述したように、角度センサ24のセンサデータはモータ23の出力軸の回転角度を示している。この角度は、変換部21に送られる。変換部21では、モータ23の出力軸の回転角度を反射鏡26の角度に換算して出力する。変換部21の出力は、反射鏡の推定角としてモータ23のフィードバック制御に用いられる。
【0016】
モータ23は、ドライバ22によって駆動される。ドライバ22は、コントローラ10から角度指令を受け、その角度指令に応じてモータ23を駆動する。なお、具体的には、モータ23はドライバ22によって電流制御(即ちトルク制御)されるが、図2では詳細を省略しており、モータ23とドライバ22は角度指令で駆動されると仮定して説明を続ける。
【0017】
コントローラ10について説明する。コントローラ10は、太陽追尾センサ6のセンサデータを取得し、第1演算ユニット34が、反射光をレシーバ9へ向ける反射鏡角度(目標角度第1成分Ar1)を算出する。太陽の位置とレシーバ9の位置から反射鏡の角度を算出する演算は、通常の集光システムでも実施されているので詳しい説明は省略する。
【0018】
また、コントローラ10の第2演算ユニット32は、風向風速計4のセンサデータに基づき、風圧によって生じる反射鏡の傾きを補償する補償値(目標角度第2成分Ar2)を算出する。目標角度第2成分Ar2については後に具体的に説明する。目標角度第1成分Ar1と第2成分Ar2は加算され、目標角度指令値Arとなる。コントローラ10内では、目標角度指令値Arと角度センサ24のセンサデータに基づく反射鏡の推定角の差分をドライバ22に送る。従って、コントローラ10は、反射鏡26の角度が目標角度指令Arに一致するようにヘリオスタット2を制御する。モータ23は、反射鏡の推定角度(As1+As2)に相当する角度で停止する。以下、角度As1は、目標角度第1成分Ar1に対応した反射鏡の現実の角度を表し、角度As2は、目標角度第2成分Ar2に対応した現実の角度を表す。
【0019】
風向と風速に起因する反射鏡の傾きを補償する補償値(目標角度第2成分A2)について説明する。今、風がなければ、反射鏡26の角度は、モータ出力軸23aの回転角に減速機25の減速比を乗じた値で表すことができる。このとき、反射鏡26の現実の角度Asは、目標角度Arに等しい。また、風向風速計4のセンサデータがゼロであるので、目標角度第2成分Ar2はゼロである。即ち、風がなければ、コントローラ10が出力する目標角度指令ArはAr1であり、反射鏡の現実の角度も目標角度第1成分Ar1に対応した値、即ち角度As1となる。反射鏡の現実の角度がAs1であれば、反射光は正確にレシーバ9に向かう。
【0020】
反射鏡は巨大な平板であるので、風圧を受けると相当の力が発生する。この力を以下、風圧荷重Fと称する。この風圧荷重Fを受け、モータの出力軸(減速機の入力軸)と反射鏡支持軸(減速機の出力軸)の間にねじれが生じる。そのため、モータ23の出力軸23aの角度を計測する角度センサ24のセンサデータに基づいた反射鏡の推定角度と実際の角度にずれが生じる。目標角度第2成分Ar2は、このずれを補償するものである。
【0021】
図3を参照して、目標角度第2成分Ar2の算出過程の一例を説明する。なお、繰り返すが、本実施例では説明を分かりやすくするため、反射鏡の回転を1軸に限定して説明する。図3は、反射鏡26を、その支持軸27の長手方向から見た図である。風圧によって反射鏡26が受ける風圧荷重Fは、次の式(数1)で表すことができる。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで、係数Cwは風力係数であり、受圧面(反射鏡の表面)が矩形の場合はCw=1.2である。変数Awは、受圧面の面積である。図3に示すように、反射鏡26の平面と風向のなす角度をTaとし、反射鏡の面積をSとすると、Aw=S×cos(Ta)である。変数qは設計用速度圧と呼ばれており、風速Vの影響を表す。設計用速度圧qは、次の式(数2)によって与えられる。
【0024】
【数2】

【0025】
数2において、Eは環境変数であり、Iは用途変数である。数1、数2は、日本工業規格(JIS)で詳しく説明されている。風力係数Cw、環境変数E、及び、用途変数IについてもJISにて定義されている。詳しくは「JIS C 8955」を参照されたい。
【0026】
図3に示すように、風圧荷重Fは、反射鏡26の中心Cに集中作用すると仮定する。反射鏡26を支持する支持軸27の中心から反射鏡中心Cまでの距離をdとすると、風圧に起因して支持軸27に作用するモーメントMは、次の式(数3)で求まる。
【0027】
【数3】

【0028】
このモーメントMによって支持軸27がねじられる。今、モータの出力軸23a(減速機の入力軸)と反射鏡支持軸27(減速機の出力軸)の間のねじれ剛性をKとすると、風圧に起因するねじれ角度As2(反射鏡の傾き)は、M=K×As2で表される。結局、風圧に起因する反射鏡の傾きAr2は、次の式(数4)で表すことができる。
【0029】
【数4】

【0030】
(数4)で求まる角度Ar2が、目標角度第2成分に相当する。(数2)に示したように、設計用速度圧qには風速Vが含まれる。また、反射鏡26の平面と風向のなす角度Taは、風向と等しい。風速Vと風向Taは、風向風速計4で計測される。
【0031】
図2の第2演算ユニット32は、(数4)に基づいて、風向と風圧による反射鏡の傾きを補償する補償値、即ち目標角度第2成分Ar2を算出する。図2に示すように、目標角度指令値Ar=Ar1+Ar2のとき、モータ23の出力軸23aは、目標角度指令値Arに対応する角度となる。このときの出力軸23aの角度は、反射鏡支持軸の角度As1+As2に相当するはずである。ただし、モータ23の出力軸23aから反射鏡の支持軸27の間には風圧によるねじれが生じるため、現実には反射鏡支持軸27の角度はAs1+As2にならない。反射鏡支持軸27は、風圧によって角度As2だけねじれる。このねじれ角As2は目標角度第2成分Ar2によって相殺されるので、結局、実現される反射鏡の角度はAs1となる。こうして、風の中でも反射鏡26の角度はAs1となり、反射光は正確にレシーバに向かうことになる。
【0032】
以上のとおり、風圧に起因する反射鏡の傾きを相殺する補償値(目標角度第2成分)を含む目標角度指令値によって反射鏡の角度を調整することによって、風の中でも反射光の正確にレシーバ9に向けることができる。
【0033】
実施例のシステム100について留意点を述べる。実施例のシステム100では、モータの出力軸の回転角度のフィードバック制御を採用した。モータドライバの性能が十分に高い場合には、モータ出力軸の回転角についてはオープンループ制御を採用してもよい。
【0034】
また、実施例では、太陽の位置を取得するのに太陽追尾センサを使用したが、これに代えて、GPSデータ(緯度、経度、日時)から計算で太陽の位置を求めてもよい。
【0035】
また、コントローラ10が出力する目標角度指令は、目標角度第1成分Ar1、第2成分Ar2に加えて、第3成分を含んでもよい。ここで、目標角度第3成分は、反射鏡の自重によって生じる反射鏡の傾きを補償する大きさに定められる。
【0036】
モータの出力軸23a(減速機の入力軸)と反射鏡支持軸27(減速機の出力軸)の間のねじれ剛性Kは、実験等により予め求めておけばよい。
【0037】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0038】
2:ヘリオスタット
4:風向風速計
6:太陽追尾センサ
8:パワータワー
9:レシーバ
10:コントローラ
21:変換部
22:ドライバ
23:モータ
24:角度センサ
25:減速機
26:反射鏡
32:第2演算ユニット
34:第1演算ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射鏡の向きを調整するアクチュエータを有するヘリオスタットと、
アクチュエータに対して目標角度指令を出力するコントローラと、
風向風速計と、
を備えており、
コントローラは、太陽の位置と、風向風速計によって計測された風向及び風速に基づいて、目標角度指令値を決定することを特徴とする太陽光集光システム。
【請求項2】
コントローラが決定する目標角度指令は、太陽の位置から決定される目標角度第1成分に、風向と風速に基づいて決定される目標角度第2成分を加えたものであることを特徴とする請求項1に記載の太陽光集光システム。
【請求項3】
アクチュエータの出力軸の回転角を計測する角度センサをさらに備えており、コントローラは、角度センサによって計測される計測角と目標角度の偏差がゼロとなるようにアクチュエータを制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽光集光システム。
【請求項4】
目標角度第1成分は、反射光が予め定められたターゲット位置に向かうように定められ、目標角度第2成分は、風圧によって生じるアクチュエータ出力軸から反射鏡支持軸の間のねじれ角の推定値に対応することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽光集光システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−242057(P2012−242057A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115395(P2011−115395)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)