説明

太陽電池モジュール用封止フィルムおよびその製造方法

【課題】太陽電池モジュールの製造において、太陽電池セルの破損、位置ズレなどの問題の原因となる歪みを内包しない封止フィルムを提供すること。
【解決手段】エチレン系共重合体および架橋剤からなるウェブとライナーとを積層し、該ウェブと該ライナーを共に搬送し、該ウェブを加熱溶融し、エンボス加工を施してなる太陽電池モジュール組立時の加熱架橋時にフィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)に共に実質的に寸法変化しないことを特徴とする太陽電池モジュール用封止フィルムによって解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池モジュール用封止フィルムおよびその製造方法に関する。更に詳しくは封止加工の加熱架橋時にフィルムの縦方向(MD)および横方向(TD)共に実質的に寸法変化せず、太陽電池の封止フィルムとして好適な架橋剤を含むエチレン系共重合体フィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、典型的にはガラス基板、封止フィルム、太陽電池セル(たとえばシリコン発電素子)、封止フィルム、裏面シートの順で積層し、加熱加圧して接着一体化されることで製造される。このような太陽電池モジュールの封止フィルムには、透明性、耐候性、耐熱性、接着性などが要求され、これらの要求を満たすため、架橋剤、架橋助剤、カップリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などを配合したエチレン系共重合体フィルムが圧延法、押出法などにより製膜され、使用されている。
【0003】
しかしながら、これらの太陽電池用の封止フィルムを製膜する際、該フィルムの縦方向(MD)には張力による延伸歪みが発生し、横方向(TD)には収縮歪みが発生する。その歪みは該フィルムの冷却と共に固定され、残留歪みとして残ってしまう。太陽電池モジュールの製造において、上記した歪みを内包した封止フィルムを使用すると、積層した部材のラミネート工程での加熱時に歪みが開放され、縦方向(MD)には収縮し、横方向(TD)には伸長させる要因となり、太陽電池モジュールの一部である太陽電池セルの破損、位置ズレなどの問題を起こす一因となっていた。
【0004】
上記問題を解決するため、特許文献1に記載されているように製膜後60〜80℃にアニール処理を施すことによって成型、冷却時の歪を除去する方法が提案されている。しかし、当該アニール処理によっても上記歪みの除去は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−84996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、太陽電池モジュールの製造において、太陽電池セルの破損、位置ズレなどの問題の原因となる歪みを内包しない封止フィルムを提供することを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、エチレン系共重合体および架橋剤からなるウェブについて様々な加工法の検討を行い、ライナー上で該ウェブを加熱することによって、残留歪みのない太陽電池用封止フィルムを得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、エチレン系共重合体および架橋剤からなるウェブとライナーとを積層し、該ウェブと該ライナーを共に搬送し、該ウェブを加熱し、エンボス加工を施してなる太陽電池モジュール組立時の加熱架橋時にフィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)に共に実質的に寸法変化しないことを特徴とする太陽電池モジュール用封止フィルムである。
【0009】
また、上記加熱温度が90℃から125℃である上記太陽電池モジュール用封止フィルムである。
【0010】
また、上記エンボス加工におけるエンボス深さが20μm以上である上記いずれかの太陽電池モジュール用封止フィルムである。
【0011】
また、本発明は、エチレン系共重合体および架橋剤からなる樹脂組成物をTダイからライナー上に溶融ウェブとして押し出し、該ウェブをライナーと共に搬送し、該ウェブを加熱し、エンボス加工を施してなる太陽電池モジュール組立時の加熱架橋時にフィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)に共に実質的に寸法変化しないことを特徴とする太陽電池モジュール用封止フィルムの製造方法である。
【0012】
またさらに、本発明は、前記ライナーが剥離紙である上記太陽電池モジュール用封止フィルムの製造方法である。
【0013】
またさらに、本発明は、ガラス基板、上記いずれかの第1の封止フィルム、太陽電池セル、上記いずれかの第2の封止フィルム、裏面シートの順で積層一体化してなる太陽電池モジュールである。
【0014】
また、本発明は、ガラス基板、上記いずれかの封止フィルムからなる第1の封止フィルム、太陽電池セル、上記いずれかの封止フィルムからなる第2の封止フィルム、裏面シートをこの順番で積層し、該封止フィルムの溶融温度以上の熱板上に載置して加熱し、該封止フィルムをその溶融温度以上の温度まで昇温するように加圧加熱して架橋一体化し、冷却する太陽電池モジュールの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
以上のとおり、本発明によれば、封止フィルムに残留歪みを生じないことから、太陽電池モジュール封止工程の加熱時にフィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)に共に実質的に寸法変化しないフィルムとなる。そのため、太陽電池セルの破損、位置ズレなどの問題がない。また、寸法変化を見越してショートしない程度に隣接する太陽電池セルとの間隔を拡げて配置したり、封止フィルムを大きめに用意したりする必要がなく、安定して高品位の太陽電池モジュールを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の封止フィルムの製造装置を概念的に表した構成図である。
【図2】図2は図1に表した構成図の変形例を概念的に表した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において用いられるエチレン系共重合体としては、エチレンと極性モノマーの共重合体及び炭素数3以上のα−オレフィンの共重合体を例示することができる。これらの中では、透明性、保護材や太陽電池発電素子に対する接着性などを考慮すると、エチレンと極性モノマーの共重合体を使用するのが好ましい。エチレン・極性モノマー共重合体の極性モノマーの具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル等の不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸を例示できる。エチレン・極性モノマー共重合体は、エチレンと上記した極性モノマーの2種以上との共重合体であってもよい。また、上記したエチレン系共重合体を2種以上混合して使用することもできる。好適なエチレン・極性モノマー共重合体としては、具体的には、成形性、透明性、柔軟性、接着性、耐候性などの太陽電池封止材の要求特性に対する適合性を考慮すると、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル・(メタ)アクリル酸共重合体を使用するのが好ましく、とりわけエチレン・酢酸ビニル共重合体を使用するのが好ましい。
【0018】
本発明において用いられるエチレン・酢酸ビニル共重合体(以下EVA樹脂と記す。)の酢酸ビニル含量は約15〜40質量%が好ましい。酢酸ビニル含量が15質量%以上であれば、柔軟性が良好で、ラミネート工程において太陽電池セルを破損することがない。また、光透過性を確保することができる。また、酢酸ビニル含量が40質量%以下であればフィルム成形が可能である。また、JIS K 7210において試験温度190℃、試験荷重2.16Kgfで測定したときのEVA樹脂のMFRは5g〜50g/10minが好ましい。MFRが5g/10min以上であれば、Tダイ押出成形によるフィルム成形が可能である。また、50g/10min以下であれば、太陽電池モジュールを製造において、加熱加圧して架橋一体化する際、押圧によって太陽電池モジュールから逸出するEVA樹脂を最小限にすることが可能である。
【0019】
本発明で用いるEVA樹脂組成物には、耐久性などの物性を向上させるため架橋剤を配合する。該架橋剤は押出機で混練・製膜する際には実質的に分解せず、太陽電池モジュールの加工時に分解し、前記EVA樹脂に架橋構造を生成させる。
【0020】
このような架橋剤は一般にラジカルを生成する有機過酸化物が使用される。特にEVA樹脂を用いる場合、1時間半減期温度(分解温度)がEVA樹脂の溶融温度よりも高い、90℃以上の有機過酸化物を用いるのが好ましく、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,3,5トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。また、上記有機過酸化物は2種以上用いることもできる。当該架橋剤の配合量は、上記エチレン系共重合体100質量部に対し0.2〜2.0質量部であることが好ましい。
【0021】
また、前記架橋効率を向上させる目的で架橋助剤としてポリアリル化合物、ポリ(アクリロキシ)化合物など多不飽和化合物、例えばトリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレートなどを用いることができる。また、上記架橋助剤は2種以上用いることもできる。当該架橋助剤の配合量は、上記エチレン系共重合体100質量部に対し0〜2.0質量部であることが好ましい。
【0022】
また、ガラス基板との接着力向上の目的でシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリエトキシシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを用いることができる。また、上記シランカップリング剤は2種以上用いることもできる。当該シランカップリング剤の配合量は、上記エチレン系共重合体100質量部に対し、0.2〜1.0質量部であることが好ましい。
【0023】
さらに、耐候性を向上させるため、紫外線吸収剤や光安定剤を用いることができる。紫外線吸収剤や光安定剤としては2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトオキシ−ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ポリ[[6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−デリル],[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノ]]などのヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などが挙げられる。また、上記紫外線吸収剤および光安定剤は2種以上用いることもできる。
【0024】
上記以外に目的に応じ、酸化防止剤、着色剤、受酸剤などを用いることができる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系など、着色剤としては無機顔料、有機顔料、カーボンなど、受酸剤としては金属酸化物、金属水酸化物など発生する酢酸を吸収または中和する機能を有するものが使用可能である。
【0025】
また本発明で用いるライナーとしては、紙基材にシリコーンなどを塗布した剥離紙、ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルムにシリコーンなどを塗布した離型フィルムおよびポリプロピレン、ポリテトラメチルペンテンなど封止フィルムに対し剥離性を有する樹脂フィルムが用いられる。
【0026】
また、図2の如くライナーとして無端ベルトを使用することもできる。該無端ベルトはキャストロールと冷却ロールまたはセパレーター間を循環移動させることで連続的にライナーとして使用することができる。該無端ベルトの材質は、表面性が良好で、加熱温度でも安定なものであれば何でも良く、具体的には、ガラス繊維、耐熱樹脂繊維等の織布・不織布に、シリコーン樹脂やフッ素樹脂をコーティングしたベルトや、スチール等の金属製ベルトなどが挙げられる。上記剥離紙等を使用した場合と比較すると、廃材が発生しない点において優れた方法である。
【0027】
次に、本発明の太陽電池モジュール用封止シートの製造装置および製造方法について、図1を参考にして具体的に説明する。
【0028】
まず、原料となるEVA樹脂、架橋剤および必要に応じその他の材料をあらかじめ混合機でブレンドする(図示していない)。ブレンド方法としては、たとえばリボンブレンダー、スーパーミキサー等により、ドライブレンドする方法が挙げられる。
【0029】
上記のようにブレンドされた材料は、たとえばTダイ押出法によってTダイからライナー上に溶融樹脂を押し出すことにより厚さ0.2〜1.0mmのウェブとすることもできる。図1ではこの方法によっており、Tダイ1より押出された溶融状態のウェブ2を、ライナー巻き出しロール5からキャストロール3上に巻き出したライナー4(剥離紙等)上に定着させ、積層した後、ライナー4ごと搬送ロール7上を搬送しながら、オーブン6で該ウェブを加熱し溶融状態とした後、冷却ロールを兼ねるエンボスロール9とゴムロール8間でエンボス加工を施し、冷却固化した後、セパレーター10でライナー4を分離し、フィルム巻き取りロール15として巻き取ることによって太陽電池モジュール用封止フィルム14が製造される。ここで、搬送ロール7の代わりに、鉄板などの耐熱性の台としても良く、またはライナー4を載置して搬送可能なスチールベルト等のエンドレスベルトとしても良い。また、図1に示したように、真空吸引機11を用い、ウェブ2とライナー4との間の空気を吸引することによって、ウェブ2とライナー4との密着性が向上し、ウェブ2の表面を優れた平滑性を示すものとすることができる。また、さらに、エンボスロール9は冷却ロールを兼ねているが、エンボスロール9の後に冷却ロールを配置してもよい。
【0030】
前記製造工程において、オーブン6より前の工程による歪みはオーブン6による加熱で消去され、その後の工程ではウェブ2はライナー4上にあって、セパレーター10によってライナー4を剥離するまでの間は、直接引き取りによる力を受けないで搬送され、冷却されるため、フィルムの縦方向(MD)および横方向(TD)共に残留歪みが極めて少ないものとなるため、太陽電池モジュール封止工程の加熱時に実質的に寸法変化しないフィルムとすることができる。ここで、「実質的に寸法変化しない」とは、太陽電池モジュール製造時において、典型的には150℃の熱板上に載置した太陽電池モジュールとなる各部材の積層体を3分程度加熱することから、ガラス基板に封止フィルムを積層した後、該積層物を150℃のオーブンに3分間載置したときの、ガラス基板上での封止フィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)の寸法変化量の絶対値が双方ともに3.0%以内、好ましくは1.5%以内であることをいう。
【0031】
また、前記製造工程において、オーブン6内でウェブ2を加熱する温度は、該ウェブ2の溶融温度より高い温度とする必要があり、具体的にはウェブ表面温度は90〜115℃となっている。この温度範囲において、該ウェブ2は溶融状態であり、ライナー4と共に搬送ロール7によって搬送される。ウェブ表面温度が90℃以上であれば、残留歪みを消去するのに十分であり、太陽電池モジュール加工時に寸法変化を生じにくい。また、ウェブ表面温度が125℃以下であれば、架橋剤の分解が進み過ぎることがない。また、加熱時間は10秒間から2分間、好ましくは20秒間から1分間であり、10秒間以上であれば歪みは十分に開放され、2分間以下であれば、架橋剤の分解が進み過ぎることがない。
【0032】
また、前記製造工程において、エンボス加工はエンボスロール9とゴムロール8を用いてウェブ2の表面に施すことができる。エンボスの深さは20〜800μmとすることが好ましい。エンボスの深さが20μm以上であれば、巻き取り後フィルム間にブロッキングが生じにくく、また太陽電池モジュール封止工程で泡を生じたり、太陽電池セルが破損するなど不具合を生じることもない。一方、800μm以下であれば、所定のエンボス形状の賦形が容易であり、歩留りがよい。さらに、フィルムの空隙率を抑えることができるため、みかけの体積を抑えることができ、フィルム巻取りロールがかさ高くなりすぎないため、輸送効率がよい。また、ライナー4に凹凸をつけることにより、裏面にエンボス加工することも可能であるし、あるいは両面にエンボス加工してもよい。両面にエンボス加工する場合は、一方の面のエンボスの深さが上記条件を満たしていればよい。
【0033】
上記した製造方法によれば、ウェブ2が冷却固化するまでの間は張力がかからないため、縦方向(MD)への延伸歪みがない。また、オーブン6によって加熱されたウェブ2は溶融状態となっているため、ウェブ2をライナー4に積層するまでに発生した歪みは消失している。したがって、本発明の封止シートを使用した太陽電池モジュールは、封止工程において太陽電池セルの破損、位置ズレなどの問題がない。
【0034】
次に、本発明の太陽電池モジュール用封止シートの別の製造方法について、EVA樹脂を使用した場合について、図2を参考にして具体的に説明する。
【0035】
原料のブレンドは上記製造方法と同様に行う。
【0036】
Tダイ21より押出された溶融状態のウェブ22を、キャストロール23上にきた無端ベルトからなるライナー24に定着させ積層する。その後、ライナー24ごと搬送ロール27上を搬送しながら、オーブン26で該ウェブを加熱し溶融状態とした後、冷却ロールを兼ねるエンボスロール29とゴムロール28間でエンボス加工を施し、冷却固化した後、セパレーター30でライナー24を分離し、フィルム巻き取りロール33上に巻き取ることによって太陽電池モジュール用封止フィルム32が製造される。ここで、搬送ロール27の代わりに、鉄板などの耐熱性の台としても良い。また、ライナー24は、セパレーター30で封止フィルム24と分離した後、再びキャストロール23の方へ戻り、再帰的に使用される。上記エンボス加工は、上記した製造方法と同様、ライナー24に凹凸をつけることにより、裏面にエンボス加工することも可能であるし、あるいは両面にエンボス加工してもよい。両面にエンボス加工する場合は、一方の面のエンボスの深さが上記条件を満たしていればよい。また、図2に示したように、真空吸引機25を用い、ウェブ22とライナー24との間の空気を吸引することによって、ウェブ22とライナー24との密着性が向上し、ウェブ22の表面を優れた平滑性を示すものとすることができる。また、さらに、エンボスロール29は冷却ロールを兼ねているが、エンボスロール29の後に冷却ロールを配置してもよい。
【0037】
上記した製造方法によれば、ウェブ2が冷却固化するまでの間は張力がかからないため、縦方向(MD)への延伸歪みがない。また、オーブン26によってウェブ22を加熱し溶融状態とするため、ウェブ22をライナー24に積層するまでに発生した歪みは消失している。したがって、本発明の封止シートを使用した太陽電池モジュールは、封止工程において太陽電池セルの破損、位置ズレなどの問題がない。
【0038】
次に、上記封止フィルムを用いた太陽電池モジュールについて説明する。太陽電池モジュールは、ガラス基板、封止フィルム、太陽電池セル、裏面シートを積層一体化してなる。太陽電池セルとしてシリコン単結晶または多結晶シリコンを用いる場合、太陽電池モジュールの表面から、ガラス基板、第1の封止フィルム、太陽電池セル、第2の封止フィルム、裏面シートの順で積層一体化する。また、太陽電池セルとしてシリコン微結晶、アモルファスシリコンおよび有機系化合物型太陽電池セルを用いる場合、太陽電池セルが設けられたガラス基板の太陽電池セル上に、封止フィルム、裏面シートの順で積層し、一体化する。
【0039】
上記太陽電池モジュールは、上記した順番で各部材を積層し、真空ラミネーター等の加熱加圧装置を用いて、該封止フィルムの溶融温度以上の温度で加熱加圧して架橋一体化し、冷却することによって製造される。たとえば該真空ラミネーターは、真空チャンバー中に熱板、真空チャンバーを上下に区分する上下動可能な中間膜体、真空装置によって構成される。真空チャンバーの下箱に設置された熱板上に上記積層体を配置し、熱板で該積層体を加熱するとともに真空チャンバーの上箱・下箱を両方とも密閉し、真空状態にする。次いで、引き続き加熱しながら、真空チャンバーの上箱に外気を導入して真空状態を解除し、気圧の差によって生じる圧力で中間膜が該積層体を加圧することにより、該積層体が熱板に密着することによって封止フィルムの温度がさらに上昇して、封止フィルムは完全に溶融し、該積層体は一体化する。その後冷却固化することによって、太陽電池モジュールを得る。
【実施例】
【0040】
以下に実施例、比較例によって、本発明を具体的に説明する。また、それぞれの実施例、比較例によって得られたフィルムを70cm角に採取し、同じ大きさのガラス基板上に載置し、150℃のオーブンで3分間加熱し(このときフィルム表面温度は70〜90℃となっている)、その後該フィルムのMD及びTDの寸法変化量を測定し表1に示した。寸法変化量の測定方法はJIS K7133「プラスチック−フィルム及びシート−加熱寸法変化測定方法」において、カオリン床の代わりにガラス板とし、測定器はノギスを用いた。なお、表1においては収縮をマイナス、伸びをプラスとした。また、ガラスはJIS R 3201で規定する3mmの厚さのものを試験に用いた。
【0041】
【表1】

【0042】
[実施例1]
エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量28%、MFR 20g/10分、融点 71℃)100質量部、t−ブチルパーオキシ2−エチルへキシルモノカーボネート1.0質量部、2−ヒドロキシ−4オクトオキシベンゾフェノン0.3質量部をリボンブレンダーでドライブレンドし、押出機(一軸、口径90mm)で溶融混練し、Tダイ1を用いてウェブ2を押し出した。Tダイ1の温度は90℃でスクリュー回転数は20rpmであった。押し出されたウェブ2をライナー巻き出しロール5からキャストロール3上に巻き出したライナー4(剥離紙、商品名:N−73GS、王子特殊紙製)と積層した後、搬送ローラー7によって搬送しながら、120℃のオーブン6によってウェブ2をライナー4と共に30秒間加熱した(ウェブ2の表面温度は90℃)。その後、エンボスロール9とゴムロール8間でエンボス加工を施し、冷却固化した後、剥離ロール10でライナー4と分離し、封止フィルム14を得た。
【0043】
[実施例2]
実施例1においてオーブン6における加熱処理時間を45秒とした(ウェブ2の表面温度は110℃)他は実施例1と同様にして封止フィルム14を得た。
【0044】
[実施例3]
実施例1においてオーブン6の温度を135℃、加熱処理時間を15秒とした(ウェブ2の表面温度は110℃)他は実施例1と同様にして封止フィルム14を得た。
【0045】
[実施例4]
実施例3においてオーブン6における加熱処理時間を30秒とした(ウェブ2の表面温度は120℃)他は実施例1と同様にして封止フィルム14を得た。
【0046】
[比較例1]
実施例1においてライナー4を用いないで製膜した。
【0047】
[比較例2]
実施例1においてライナー4を用いず、またオーブン6における加熱処理条件を100℃、15秒とした(ウェブ2の表面温度は75℃)他は実施例1と同様にして封止フィルム14を得た。
【0048】
[比較例3]
実施例1においてオーブン6における加熱処理条件を100℃、15秒とした(ウェブ2の表面温度は75℃)他は実施例1と同様にして封止フィルム14を得た。
【0049】
[比較例4]
実施例1においてライナー4を用いず、かつ、加熱処理をしないで製膜した他は実施例1と同様にして封止フィルム14を得た。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の封止フィルムは、残留歪みを生じないことから、太陽電池モジュール封止工程の加熱時に実質的に寸法変化しないフィルムとなる。そのため、太陽電池セルの破損、位置ズレなどの問題がない。したがって、太陽電池モジュール製造時において、歩留りが良く、太陽電池セルの間隔を狭くし、高密度に配列可能であるため、単位面積当たりの発電効率を向上することができる。また、太陽電池の種類によらず使用することが可能であるため、太陽電池用封止フィルムとして非常に有用である。
【符号の説明】
【0051】
1,21 Tダイ
2,22 ウェブ
3,23 キャストロール
4,24 ライナー
5 ライナー巻き出しロール
6,26 オーブン
7,27 搬送ロール
8,28 ゴムロール
9,29 エンボスロール
10,30 セパレーター
11,25 真空吸引機
12 ライナー巻取りロール
13,31 ガイドロール
14,32 封止フィルム
15,33 フィルム巻取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系共重合体および架橋剤からなるウェブとライナーとを積層し、該ウェブと該ライナーを共に搬送し、該ウェブを加熱し、エンボス加工を施してなる太陽電池モジュール組立時の加熱架橋時にフィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)に共に実質的に寸法変化しないことを特徴とする太陽電池モジュール用封止フィルム。
【請求項2】
前記加熱温度が90℃から125℃である請求項1記載の太陽電池モジュール用封止フィルム。
【請求項3】
前記エンボス加工におけるエンボス深さが20μm以上である請求項1または2記載の太陽電池モジュール用封止フィルム。
【請求項4】
エチレン系共重合体および架橋剤からなる樹脂組成物をTダイからライナー上に溶融ウェブとして押し出し、該ウェブをライナーと共に搬送し、該ウェブを加熱し、エンボス加工を施してなる太陽電池モジュール組立時の加熱架橋時にフィルムの縦方向(MD)及び横方向(TD)に共に実質的に寸法変化しないことを特徴とする太陽電池モジュール用封止フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ライナーが剥離紙であることを特徴とする請求項4に記載の太陽電池モジュール用封止フィルムの製造方法。
【請求項6】
ガラス基板、請求項1〜3のいずれかに記載の第1の封止フィルム、太陽電池セル、請求項1〜3のいずれかに記載の第2の封止フィルム、裏面シートの順で積層一体化してなる太陽電池モジュール。
【請求項7】
ガラス基板、請求項1ないし3に記載のいずれかに記載の封止フィルムからなる第1の封止フィルム、太陽電池セル、請求項1ないし3に記載のいずれかの封止フィルムからなる第2の封止フィルム、裏面シートをこの順番で積層し、該封止フィルムの溶融温度以上の熱板上に載置して加熱し、該封止フィルムをその溶融温度以上の温度まで昇温するように加圧加熱して架橋一体化し、冷却する太陽電池モジュールの製造方法


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−151284(P2011−151284A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12876(P2010−12876)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】