説明

太陽電池接続用複合平角線及びその製造方法

【課題】複合平角線の断面積に占める低熱膨張性のコア導体の比率を高めることなく、複合平角線の低熱膨張化を図ることができると共にその剛性を下げて取扱い性を向上させることができる太陽電池接続用複合平角線及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】熱膨張係数が10×10-6/℃以下の低熱膨張性のコア導体3、7の両面または周囲に銅あるいは銅合金の被覆導体4、6を形成した太陽電池接続用複合平角線1、2であって、被覆導体4、6のビッカース硬度の平均値が55Hv以下である、太陽電池接続用複合平角線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールを構成する複数の太陽電池セル間を電気的に接続すると共に各セルにおける発電出力を集電するためのリード線として用いられる太陽電池接続用複合平角線及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、太陽電池モジュールを構成する太陽電池セルは、シリコン結晶で作られたシリコンウェハからなり、太陽光を受ける受光面とこれに対向する対向面とを有し、前記受光面と前記対向面、もしくは前記対向面のみに、電極を設けて、太陽電池セルにおける発電出力が前記電極を通じて取り出せるように構成されている。
【0003】
また、個々の太陽電池セルにおける発電出力は小さいので、通常、複数の太陽電池セル間をリード線で直列に接続し、発電出力を高めることが行われている。
【0004】
前記リード線は、太陽電池セルの各電極にはんだなどを用いて夫々接続されるものであり、前記リード線としては、一般に断面平角状の銅箔からなるリード線が用いられる。また、前記リード線の表面には、その接続を容易にするために、通常はんだめっきが施される。
【0005】
ところで、このような太陽電池モジュールにおいては、太陽電池セルを構成するシリコンウェハがその部材コストの大半を占めることから、製造コストの低減を図るべくシリコンウェハの薄板化が進められている。しかし、シリコンウェハを薄板化すると、銅箔からなるリード線とシリコンウェハとの熱膨張係数の相違により、はんだなどを用いて両者を接続する際の加熱プロセスや、太陽電池モジュール運転時の温度変化の影響を受けて、両者の間に熱応力が発生し、太陽電池セル全体が反ったり(変形)、太陽電池セルにクラック(破損)が生じたりする虞がある。
【0006】
このようなことから、太陽電池セルの変形及び破損を防止するための対策の一つとして、シリコンウェハとの熱膨張係数の差が小さいリード線を用いることが検討されている。具体的には、前記リード線として、低熱膨張性のインバー合金をコア導体とし、コア導体の両面または周囲に銅あるいは銅合金の被覆導体を形成した、いわゆるクラッド材からなる複合平角線を用いることが検討されている。この複合平角線は、インバー合金の低熱膨張性と銅あるいは銅合金の高導電性を兼ね備えるものであり、その熱膨張係数は銅あるいは銅合金単体の場合よりもシリコンウェハの値に近くなる。この結果、前記した熱応力の発生を抑制することが可能になる。
【0007】
これについて、先行技術文献である特許文献1、2には、例えば熱膨張係数が10×10-6/℃以下のインバー合金をコア導体とし、コア導体の両面または周囲に銅あるいは銅合金の被覆導体を形成した、クラッド材からなる太陽電池接続用複合平角線が記載されている。また、特許文献1には、インバー合金からなるコア導体用薄板材の両面を銅あるいは銅合金の被覆導体用薄板材で挟み、圧延して、クラッド材を製造すると共に、クラッド材を所定の幅にスリット加工して、所定の断面形状の複合平角線を製造することが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、インバー合金からなるコア導体用線材を銅あるいは銅合金の被覆導体用筒材に挿入し、伸線、圧延して、所定の断面形状の複合平角線を製造することが記載されている。
【0009】
また、関連する先行技術文献である特許文献4、5には、Cu、Al、Ag、Au或はそれらの合金からなる低耐力(0.2%耐力)のコア導体の両面に同種金属からなる低体積抵抗率(高導電性)の被覆導体を形成した、クラッド材からなる太陽電池接続用複合平角線が記載されている。
【0010】
また、関連する先行技術文献である特許文献6には、Cu、Al、Ag、Au或はそれらの合金からなる低体積抵抗率(高導電性)のコア導体の両面に同種金属からなるより低体積抵抗率(高導電性)の被覆導体を形成した、クラッド材からなると共に、その表面にPbフリーはんだめっきを施した太陽電池接続用複合平角線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許4329532号公報
【特許文献2】特開2006−73706号公報
【特許文献3】特開2007−59331号公報
【特許文献4】特開2006−190575号公報
【特許文献5】特開2006−190574号公報
【特許文献6】特開2006−187788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1〜3に記載の太陽電池接続用複合平角線は、低熱膨張性のインバー合金をコア導体とし、コア導体の両面または周囲に銅あるいは銅合金の被覆導体を形成した、銅/インバー合金/銅のクラッド材からなるから、その熱膨張係数は銅あるいは銅合金単体の場合よりもシリコンウェハの値に近くなり、その分、シリコンウェハとの間における熱応力の発生を抑制することが可能になる。
【0013】
この観点から、その熱応力の発生をさらに低減させるべく、複合平角線の熱膨張係数をシリコンウェハの線熱膨張係数(2.6〜3.5×10-6/K)と同等にすることが考えられる。
【0014】
しかし、複合平角線の熱膨張係数をシリコンウェハの線熱膨張係数(2.6〜3.5×10-6/K)と同等にするためには、複合平角線の断面積に占めるインバー合金の比率をかなり高めなければならない。例えばFe−Ni系インバー合金を用いた、銅/インバー合金/銅のクラッド材からなる場合、複合平角線の断面における各金属材料の厚さの比率は1:8:1である必要がある。ところが、インバー合金は電気抵抗が高い金属材料であるため、そのような比率を採用すると、リード線である複合平角線の電気抵抗が大きくなり過ぎ、結局、太陽電池セルの光電変換効率の低下につながる虞がある。これにより発電出力は低下する可能性がある。
【0015】
これに対しては、複合平角線の断面積を大きくすることにより電気抵抗を小さくすることは可能であるが、複合平角線の断面積を大きくするため、例えば複合平角線の幅を大きくすると、太陽電池セルの受光面積が小さくなり、その分、光電変換効率は低下する。また、複合平角線の厚さを大きくすると、太陽電池モジュールを製造する際に用いられる封止樹脂の量を増やす必要があり、これにより製造コストは上昇する。
【0016】
したがって、現実には、複合平角線の断面における銅/インバー合金/銅の厚さの比率は、1:2:1〜2:1:2の間で選択されることが多い。この場合、複合平角線の線熱膨張係数は8.1〜13.1×10-6/Kとなり、銅あるいは銅合金単体の線熱膨張係数である約17×10-6/Kよりは小さいものの、シリコンウェハの線熱膨張係数(2.6〜3.5×10-6/K)との間にはまだ相当の差がある。また、銅/インバー合金/銅のクラッド材からなる複合平角線は、インバー合金が硬い金属材料であるため、銅あるいは銅合金単体の場合と比較して、剛性が増し、取扱い性に劣るという問題がある。
【0017】
なお、特許文献1〜3には、銅/インバー合金/銅のクラッド材からなる複合平角線の銅のビッカース硬度について、100Hv以下とする(特許文献1においては、好ましくは60〜80Hvとする)旨の記載があるが、これは銅の剛性を下げることにより、複合平角線に柔軟性を付与して、その取扱い性を向上させるという趣旨のものである。さらに、特許文献1には、スリット工程でクラッド材の両側の銅の切断面にダレを生じさせるために、スリット工程前の銅のビッカース硬度を100Hv以下と規定する旨の記載があるが、この場合は、スリット工程で銅が加工硬化してしまうので、特に切断面付近の銅のビッカース硬度が100Hv以上に上昇することになる。
【0018】
また、特許文献4〜6に記載の複合平角線は、低熱膨張性のインバー合金を用いるものではない。
【0019】
上記に鑑み、本発明の目的は、複合平角線の断面積に占める低熱膨張性のコア導体の比率を高めることなく、複合平角線の低熱膨張化を図ることができると共にその剛性を下げて取扱い性を向上させることができる太陽電池接続用複合平角線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、熱膨張係数が10×10-6/℃以下の低熱膨張性のコア導体の両面または周囲に銅あるいは銅合金の被覆導体を形成した太陽電池接続用複合平角線であって、前記被覆導体のビッカース硬度の平均値が55Hv以下であることを特徴とする太陽電池接続用複合平角線を提供する。
【0021】
上記において、被覆導体のビッカース硬度の平均値については、例えば複合平角線を横断面にして見たときに、その側端から150μm以上内側に入った領域における被覆導体のビッカース硬度を片面ずつ均等間隔に5点測定し、両面で10点測定し、これらの値を平均して求めることができる。
【0022】
発明者らは、この発明における重要な知見として、低熱膨張性のコア導体の両面または周囲に銅あるいは銅合金の被覆導体を形成した、例えば銅/インバー合金/銅のクラッド材からなる複合平角線にあっては、銅あるいは銅合金の被覆導体の硬度が複合平角線の線膨張係数に影響を与えること、すなわち、そのビッカース硬度が大きいほど複合平角線の線膨張係数は大きく、逆に、そのビッカース硬度が小さいほど複合平角線の線膨張係数は小さいことを突き止めた。また、これに加えて、銅あるいは銅合金の被覆導体の硬度を小さくするために、例えば熱処理(焼鈍)して銅あるいは銅合金の被覆導体を十分軟らかくしても、インバー合金からなるコア導体はその熱処理温度によっては軟質化するだけで、それ自身の線膨張係数には影響を与えない(線膨張係数は大きくならない)ことを突き止めた。因みに、インバー合金は600℃以上の温度で軟質化する。この結果、例えば熱処理(焼鈍)して銅あるいは銅合金の被覆導体を十分軟らかくすることで、複合平角線の線膨張係数を小さくすることができるだけでなく、その剛性を下げることできることが分かった。しかも、その熱処理(焼鈍)温度を600℃以上とすることで、複合平角線の剛性をより一層下げることができることが分かった。また、剛性を下げることによって、複合平角線の取扱い性は向上する。
【0023】
なお、金属材料には加工硬化の問題があり、前記熱処理は、複合平角線を所定の断面形状に成形した後で行うことが好ましい。例えば、複合平角線の製造方法として、コア導体用薄板材の両面を銅あるいは銅合金の被覆導体用薄板材で挟み、圧延して得られたクラッド材を所定の幅にスリット加工して、所定の断面形状の複合平角線を製造する場合は、スリット加工後に熱処理を行うことが好ましい。また、複合平角線の製造方法として、コア導体用線材を銅あるいは銅合金の被覆導体用筒材に挿入し、伸線、圧延して、所定の断面形状の複合平角線を製造する場合は、圧延後に熱処理を行うことが好ましい。これにより、加工硬化の問題は解消されるので、複合平角線の銅あるいは銅合金の被覆導体を確実に軟らかくすることができる。一方、熱処理しないか、熱処理してもスリット加工前のクラッド材か、伸線、圧延前の複合材に熱処理する場合は、主に銅あるいは銅合金の被覆導体の切断面である加工端部から中央部にかけて硬度が上昇してしまい、銅あるいは銅合金の被覆導体を十分軟らかくすることができず、複合平角線の線膨張係数を十分小さくすることができない。
【0024】
上記知見に基づいて、さらに検討を加えたところ、複合平角線の線膨張係数を小さくする趣旨で、銅あるいは銅合金の被覆導体を十分軟らかくするためには、銅あるいは銅合金の被覆導体のビッカース硬度の平均値は55Hv以下である必要があり、それが55Hvを超えるようになると、期待する効果は得られないことが判明した。
【0025】
この太陽電池接続用複合平角線によれば、上記構成の採用により、特に、銅あるいは銅合金の被覆導体のビッカース硬度の平均値が55Hv以下であることにより、複合平角線の断面積に占める低熱膨張性のコア導体の比率を高めることなく、複合平角線の低熱膨張化を図ることができると共にその剛性を下げて取扱い性を向上させることができる。
【0026】
請求項2の発明は、前記コア導体がFe−Ni系インバー合金からなり、前記コア導体のビッカース硬度の平均値が140Hv以下であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池接続用複合平角線を提供する。
【0027】
上記において、コア導体のビッカース硬度の平均値については、被覆導体の場合と同じように、例えば複合平角線を横断面にして見たときに、その側端から150mm以上内側に入った領域におけるコア導体のビッカース硬度を均等間隔に5点測定し、これらの値を平均して求めることができる。
【0028】
この発明においては、低熱膨張性のコア導体は、Fe−Ni系インバー合金からなることが最も実用的で好ましく、また、前記コア導体のビッカース硬度の平均値は、複合平角線全体の剛性との関係から140Hv以下であることが好ましい。
【0029】
この太陽電池接続用複合平角線によれば、上記効果に加えて、上記構成の採用により、すなわち、コア導体がFe−Ni系インバー合金からなり、コア導体のビッカース硬度の平均値が140Hv以下であることにより、実用的で剛性が小さく取扱い性に優れた複合平角線を提供することができる。
【0030】
請求項3の発明は、熱膨張係数が10×10-6/℃以下の低熱膨張性のコア導体用薄板材の両面を銅あるいは銅合金の被覆導体用薄板材で挟み、圧延して得られたクラッド材を所定の幅にスリット加工して、所定の断面形状の複合平角線を製造し、前記複合平角線を熱処理して、前記被覆導体のビッカース硬度の平均値が55Hv以下となるようにすることを特徴とする太陽電池接続用複合平角線の製造方法を提供する。
【0031】
上記において、熱処理温度としては、低熱膨張性のコア導体がインバー合金からなる場合、インバー合金は600℃以上の温度で軟質化するため、600℃から銅の融点付近の1000℃の温度範囲で選定することが望ましい。最適熱処理温度は、焼鈍時間等との兼ね合いで決めることができる。また、熱処理方法としては、工業的にはベル炉等のバッチ式の焼鈍炉のほか、管状炉、プラズマ炉、赤外線炉等による走行式の焼鈍炉を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
この太陽電池接続用複合平角線の製造方法によれば、上記構成の採用により、すなわち、上記により製造された所定の断面形状の複合平角線を熱処理して、被覆導体のビッカース硬度の平均値が55Hv以下となるようにすることにより、複合平角線の断面積に占める低熱膨張性のコア導体の比率を高めることなく、複合平角線の低熱膨張化を図ることができると共にその剛性を下げて取扱い性を向上させることができる。
【0033】
請求項4の発明は、熱膨張係数が10×10-6/℃以下の低熱膨張性のコア導体用線材を銅あるいは銅合金の被覆導体用筒材に挿入し、伸線、圧延して、所定の断面形状の複合平角線を製造し、前記複合平角線を熱処理して、前記被覆導体のビッカース硬度の平均値が55Hv以下となるようにすることを特徴とする太陽電池接続用複合平角線の製造方法を提供する。
【0034】
この太陽電池接続用複合平角線の製造方法によれば、上記構成の採用により、すなわち、上記により製造された所定の断面形状の複合平角線を熱処理して、被覆導体のビッカース硬度の平均値が55Hv以下となるようにすることにより、複合平角線の断面積に占める低熱膨張性のコア導体の比率を高めることなく、複合平角線の低熱膨張化を図ることができると共にその剛性を下げて取扱い性を向上させることができる。
【0035】
請求項5の発明は、前記熱処理後に、前記複合平角線の表面にはんだめっきを施すことを特徴とする請求項3または4に記載の太陽電池接続用複合平角線の製造方法を提供する。
【0036】
この発明においては、太陽電池セルを構成するシリコンウェハとの接続を容易にするため、複合平角線の表面にはんだめっきを施すことが好ましい。はんだめっきは、電気はんだめっきよりも溶融はんだめっきの方が工業的であり、この場合、熱処理前に溶融はんだめっきを行うと、熱処理時に銅/はんだ界面に脆い金属間化合物が成長し、複合平角線の耐疲労特性が損なわれることになる。また、銅がはんだの中に拡散して、はんだの液相線温度が上昇すると共に、はんだ表面の酸化膜が成長することにより、複合平角線のはんだ濡れ性が損なわれることになる。はんだ濡れ性の低下は、シリコンウェハとの接続を逆に難しくするので、好ましくない。したがって、熱処理後に溶融はんだめっきを施す必要がある。
【0037】
なお、溶融はんだめっきは、通常400℃以下の温度で行われるので、既に述べたように、コア導体を含めて銅あるいは銅合金の被覆導体を軟らかくするために、600℃から1000℃の温度範囲で熱処理するのが望ましいとされる複合平角線の熱処理を、この溶融はんだめっきで兼ねることには無理がある。したがって、その熱処理は省略することができない。
【0038】
この太陽電池接続用複合平角線の製造方法によれば、上記効果に加えて、上記構成の採用により、すなわち、熱処理後に、複合平角線の表面にはんだめっきを施すことにより、シリコンウェハとの接続を極めて容易なものとすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の太陽電池接続用複合平角線及びその製造方法によれば、複合平角線の断面積に占める低熱膨張性のコア導体の比率を高めることなく、複合平角線の低熱膨張化を図ることができると共にその剛性を下げて取扱い性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施の形態に係る太陽電池接続用複合平角線及びその製造方法を示す説明図である
【図2】本発明の他の実施の形態に係る太陽電池接続用複合平角線及びその製造方法を示す説明図である。
【図3】本発明に関し、複合平角線のコア導体及び被覆導体のビッカース硬度の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図1〜3に基づいて本発明の好適な実施の形態を詳述する。
【0042】
図1及び図2には、いずれも最終的に得られた複合平角線1、2の横断面図が示される。
【0043】
図1の複合平角線1については、熱膨張係数が10×10-6/℃以下のFe−36質量%Ni系インバー合金からなる低熱膨張性のコア導体用薄板材の両面を、銅あるいは銅合金の被覆導体用薄板材で挟み、圧延して得られた、全体の板厚が0.35mmで銅/インバー合金/銅の板厚比が1:5:1のクラッド材を幅2mmにスリット加工して、概略図1のような断面形状の複合平角線1´を製造した後、この複合平角線1´を400℃〜1000℃の温度範囲で熱処理(走行焼鈍)して、この状態における複合平角線1´の各試料を作製した。そして、各試料について、複合平角線1´の線膨張係数を測定すると共に、各試料を樹脂で固めて、その断面を研磨した状態で、複合平角線1´のコア導体3及び被覆導体4のビッカース硬度の平均値を夫々測定した。
【0044】
被覆導体4のビッカース硬度の平均値については、図3のように、各試料の複合平角線1´を横断面にして見たときに、その側端から150μm以上内側に入った領域における被覆導体4のビッカース硬度を片面ずつ均等間隔に5点(丸付き数字1〜5、6〜10)測定し、両面で10点(丸付き数字1〜10)測定し、これらの値を平均して求める。
【0045】
また、コア導体3のビッカース硬度の平均値については、図3のように、各試料の複合平角線1´を横断面にして見たときに、その側端から150μm以上内側に入った領域におけるコア導体3のビッカース硬度を均等間隔に5点(丸付き数字1〜5)測定し、これらの値を平均して求める。
【0046】
この後、複合平角線1´の表面に溶融はんだめっき5を施して、最終的に図1のような断面形状の複合平角線1の各試料を作製した。そして、各試料について、複合平角線1を引張試験し、その0.2%耐力を測定した。また、太陽電池セルを構成する150mm角のシリコンウェハの表面に複合平角線1をはんだ付けし、室温まで冷却した後、シリコンウェハの反り量を測定した。
【0047】
以上の測定結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1より、熱処理(焼鈍)を施さなかった比較例1は、スリット工程で生じた加工硬化がそのまま維持されるため、また、熱処理(焼鈍)温度が400℃の比較例2は、スリット工程で生じた加工硬化がその熱処理温度によって十分軟化されないため、いずれも、被覆導体4及びコア導体3のビッカース硬度が高く、複合平角線1´の線膨張係数の低下もほとんどない。このため、シリコンウェハの反り量も大きい。
【0050】
これに対し、熱処理(焼鈍)温度が600℃から1000℃の実施例1〜5は、スリット工程で生じた加工硬化がその熱処理温度によって十分軟化されるため、被覆導体4及びコア導体3のビッカース硬度が低く、複合平角線1´の線膨張係数及びシリコンウェハの反り量はいずれも夫々小さい。また、複合平角線1´の0.2%耐力が低いため、複合平角線1´全体としての剛性が小さく、取扱い性に優れる。
【0051】
なお、熱処理(焼鈍)による被覆導体4及びコア導体3の軟化の程度については、熱処理前の各金属材料の加工度や、熱処理時間にも依存するため、熱処理温度によって一義的に被覆導体4及びコア導体3の硬度が決まるものではない。したがって、上記熱処理温度はあくまでも好適な一例である。
【0052】
また、図2の複合平角線2については、熱膨張係数が10×10-6/℃以下のFe−36質量%Ni系インバー合金からなる低熱膨張性のコア導体用線材を、銅あるいは銅合金の被覆導体用筒材に挿入し、伸線、圧延して、概略図2のような断面形状の複合平角線2´を製造し、この複合平角線2´を600℃〜1000℃の温度範囲で熱処理(走行焼鈍)して、複合平角線2´の被覆導体6のビッカース硬度の平均値が55Hv以下となるようにした。この後、複合平角線2´の表面に溶融はんだめっき8を施して、最終的に図2のような断面形状の複合平角線2を製造したものである。なお、図2中、7はコア導体である。
【0053】
この図2の複合平角線2においても、図1の複合平角線1と同じような効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0054】
1、1´、2、2´ 複合平角線
3、7 コア導体
4、6 被覆導体
5、8 溶融はんだめっき

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張係数が10×10-6/℃以下の低熱膨張性のコア導体の両面または周囲に銅あるいは銅合金の被覆導体を形成した太陽電池接続用複合平角線であって、前記被覆導体のビッカース硬度の平均値が55Hv以下であることを特徴とする太陽電池接続用複合平角線。
【請求項2】
前記コア導体がFe−Ni系インバー合金からなり、前記コア導体のビッカース硬度の平均値が140Hv以下であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池接続用複合平角線。
【請求項3】
熱膨張係数が10×10-6/℃以下の低熱膨張性のコア導体用薄板材の両面を銅あるいは銅合金の被覆導体用薄板材で挟み、圧延して得られたクラッド材を所定の幅にスリット加工して、所定の断面形状の複合平角線を製造し、前記複合平角線を熱処理して、前記被覆導体のビッカース硬度の平均値が55Hv以下となるようにすることを特徴とする太陽電池接続用複合平角線の製造方法。
【請求項4】
熱膨張係数が10×10-6/℃以下の低熱膨張性のコア導体用線材を銅あるいは銅合金の被覆導体用筒材に挿入し、伸線、圧延して、所定の断面形状の複合平角線を製造し、前記複合平角線を熱処理して、前記被覆導体のビッカース硬度の平均値が55Hv以下となるようにすることを特徴とする太陽電池接続用複合平角線の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理後に、前記複合平角線の表面にはんだめっきを施すことを特徴とする請求項3または4に記載の太陽電池接続用複合平角線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−210868(P2011−210868A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75770(P2010−75770)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】