説明

太陽電池用カバーガラス及びその製造方法

【課題】太陽電池用のカバーガラスについて、光透過度をより向上させて発電効率を向上させることができ、更に、耐汚染性能を向上させて、長期使用による発電性能の低下を抑制することが可能な、優れた性能を有する太陽電池用カバーガラスを提供する。
【解決手段】オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、オルガノアルコキシシランの縮合物を含有する溶液を、基材とするガラスの表面に塗布した後、620〜730℃に加熱し、その後、冷却することを特徴とする、太陽電池用カバーガラスの製造方法、並びに。
基材とするガラスの表面に、オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、オルガノアルコキシシランの縮合物を含有する溶液から形成されるSiO2を主成分とするセラミックス層を有する、太陽電池用カバーガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用カバーガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な太陽電池であるアモルファス太陽電池は、例えば、ガラス基板上にTCO(透明電導酸化物)を成膜し、この膜をレーザートリミングしてパターニングし、そのTCO膜の上にアモルファスシリコン層を形成し、さらにその上に銀電極を蒸着することにより形成されている。この電池を保護する目的で、銀電極の外側がエチレン酢酸ビニルコポリマーフィルムでコートされ、さらにその周囲がクッション材としてブチルゴムで包まれ、最後に金属(例えばアルミニウム)フレームでそれらの周囲が固定され、一つのアモルファス太陽電池ユニットが完成する。
【0003】
以上の方法は、太陽電池の製造方法の一例であるが、その他の方法で得られる太陽電池を含めて、これらの太陽電池は、その保護の目的で、太陽電池のモジュール上にカバーガラスとしてガラス板を設置される場合が多い。このような目的で用いられるカバーガラスは、従来、建築用の窓ガラスと同じソーダライムシリカガラスが用いられていたが、ガラスの透過率を増大する目的で、鉄分の少ないソーダライムシリカガラスが使用されるようになってきた。このようなカバーガラスは、表面を平滑面とし、裏面については樹脂層との密着性を上げるため、凹凸の梨地模様をつけたものが多く使われている。また、ガラスの表面に凹凸を設けて太陽光の反射防止処理を施したカバーガラスも用いられている。更に、シリコン層を保護するために、該ガラスを700℃程度に加熱し、冷風で冷却して強化処理を行ったものもある。
【0004】
これらの太陽電池用カバーガラスは、元々、光透過率が91%前後であり、より高透過率のガラスが要求されているが、更に、屋外で長期間使用すると、黄砂、煤塵、鳥の糞等の汚れが付着して、太陽光の透過率が低下して、発電効率が低下するという問題点がある。
【0005】
ガラス等の各種基材の表面に防汚性保護層を形成する方法としては、ゾルゲル法によるセラミックス層を形成し、200℃程度以下で処理する方法が知られている(下記特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、ガラスとセラミックス層との密着性が悪く、形成されるセラミック層は、表面硬度が低く、防汚性能も十分なものとはならない。このため、太陽電池用カバーガラスに対してこの方法で保護層を形成する場合には、耐久性が十分ではなく、長期間使用すると発電効率が低下することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−280723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、太陽電池用のカバーガラスについて、光透過度をより向上させて発電効率を向上させることができ、更に、耐汚染性能を向上させて、長期使用による発電性能の低下を抑制することが可能な、優れた性能を有する太陽電池用カバーガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、従来使用されている太陽電池用カバーガラスを基材として用い、その表面に、テトラアルコキシシランの縮合物を含む溶液を塗布した後、700℃前後の温度で熱処理を行うことによって、ガラス基板に対して優れた密着性を有する高硬度のセラミックス層を形成することができることを見出した。そして、この方法によって形成されたセラミックス層は、親水性が良好で自己洗浄作用を有するものとなり、優れた耐汚染性を示し、更に、該セラミックス層を形成したガラス基板は、91%以上という高い光透過率を有するものとなり、発電効率が良好で耐久性に優れた太陽電池用カバーガラスとして有用性の高いものとなることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の太陽電池用カバーガラス及びその製造方法を提供するものである。
1. オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、オルガノアルコキシシランの縮合物を含有する溶液を、ソーダライムガラスからなる高透過性型板ガラスの表面に塗布し、620〜730℃に加熱した後、冷却することを特徴とする、太陽電池用カバーガラスの製造方法。
2. オルガノアルコシキシシランが、式:(RSi(OR4−m(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ低級アルキル基である。mは0〜3の整数である)で表される化合物である、上記項1に記載の方法。
3. オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の固形分量が、オルガノアルコシキシランの縮合物の固形分量100重量部に対して30〜1600重量部である、上記項1又は2に記載の方法。
4. 基材とするガラスが未強化ガラスであり、620〜730℃に加熱した後、強制冷却することを特徴とする、上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
5. 基材とするガラスの表面に、オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、オルガノアルコキシシランの縮合物を含有する溶液から形成されるSiO2を主成分とするセラミックス層を有する、太陽電池用カバーガラス。
6. 上記項5に記載の太陽電池用カバーガラスを構成要素として含む太陽電池。
【0010】
以下、本発明の太陽電池用カバーガラスについて詳細に説明する。
ガラス基板
本発明の太陽電池用カバーガラスは、太陽光発電に使われる太陽電池のシリコン層を保護するためのガラスであり、基材とするガラス上に後述する方法でセラミックス層を形成したものである。
【0011】
基材とするガラスとしては、通常の板ガラスより鉄分の含有量の少ない、透明度の高いソーダライムガラスからなる高透過性型板ガラスを用いる。このようなソーダライムガラスの組成については特に限定的ではないが、例えば、SiOの含有量が70〜74重量%、NaO及びKOの合計量が15重量%以下、CaOの含有量が11重量%以下、MgOの含有量が4重量%以下、Alの含有量が2重量%以下、Feの含有量が120ppm以下という組成を有するガラスを用いることができる。
【0012】
一般に太陽電池用カバーガラスとしては、700℃程度に加熱した後、急冷して強化ガラスとしたものが用いられるが、本発明において基材とするガラスは、予め強化ガラスとしたものでもよく、或いは、未強化ガラスであってもよい。未強化ガラスを基材とする場合には、後述するセラミックスコーティング溶液を塗布し、熱処理を行った後、強制冷却を行って急冷することによって、セラミックス層の形成と同時に、強化ガラスとすることができる。この方法は、セラミックス層の形成と強化ガラスの作製を同時に行うことができるので、効率の良い方法である。
【0013】
太陽電池用カバーガラスは、表面は平滑面であり、裏面は凹凸の梨地模様を付けたものが使用されているが、表面に凹凸を設けて太陽光の反射防止効果を向上させたガラスも用いられる。本発明では、基材とするガラスとしては、いずれのガラスも用いることができる。
【0014】
尚、本発明の太陽電池用カバーガラスを使用する太陽電池モジュールの種類については、特に限定はなく、近年開発されている変換効率の高いモジュールも含めて、全てのモジュールに適用できる。
【0015】
セラミックス層の形成方法
(1) セラミックス層形成用組成物
本発明では、セラミックス層形成用の組成物として、オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、オルガノアルコキシシランの縮合物を含有する溶液(以下、「セラミックスコーティング溶液」ということがある)を用いる。このようなセラミックスコーティング溶液を用い、これを基材とするガラスの表面に塗布し、その後、所定の温度に加熱することによって、本発明の太陽電池用カバーガラスを得ることができる。
【0016】
オルガノアルコキシシランとしては、式:(RSi(OR4−m(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ低級アルキル基である。mは0〜3の整数である)で表される化合物を例示できる。上記化学式において、低級アルキル基としては、具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、1−エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチル等の炭素数1〜6程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。
【0017】
上記化学式で表されるオルガノアルコキシシランの具体例としては、Si(OCH、Si(OC、CHSi(OCH、CHSi(OC、CSi(OCH、CSi(OC等を挙げることができる。
【0018】
本発明のセラミックスコーティング溶液は、上記したオルガノアルコシキシランの縮合物を有効成分として含むものである。
【0019】
オルガノアルコシキシランの縮合物は、予め縮合物となったものを溶液中に添加してもよく、或いは、オルガノアルコシキシランを単独又はオルガノアルコシキシランの低縮合物と共に溶液中に添加して、加水分解、縮合反応を行って、溶液中において、縮合物としてもよい。
【0020】
オルガノアルコシキシランの縮合物の縮合度については、特に限定的ではなく、後述するオルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と混合して、セラミックスコーティング溶液を調製した後、溶液中で加水分解、縮合反応が進行するので、ガラス基板に塗布する際に、円滑な塗布作業を阻害しない程度の縮合度であればよい。
【0021】
オルガノアルコシキシランの縮合物の具体例としては、Sin−1(OCH2n+2、Sin−1(OC2n+2、Sin−1(OCHn+1(OCn+1、(Sin−1(OCH2n+2)+(Sin−1(OC2n+2)、(CHSi)n−1(OCHn+2、(CHSi)n−1(OCn+2、(CSi)n−1(OCHn+2、(CSi)n−1(OCn+2等を挙げることができる。
【0022】
これらのオルガノアルコシキシランの縮合物の内で、5量体の具体例としては、Si(OCH12、Si(OC12、Si(OCHOC、(CHSi)(OCH12、(CHSi)(OC12、(CSi)(OCH12、(CSi)(OC12等を挙げることができる。
【0023】
上記したオルガノアルコシキシランの縮合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0024】
上記セラミックスコーティング溶液に配合するオルガノシリカゾルとは、シリカ微粉末が溶剤に分散したものであり、シリカ含有量は、通常、固形分濃度として5〜40重量%程度が適当である。オルガノシリカゾルにおけるシリカの粒子径は50nm程度以下であることが好ましい。
【0025】
コロイダルシリカとは、シリカ微粉末の水分散体であり、粒子径約100nm以下の球状又は球が鎖に繋がった形状のナノ粒子であり、アルカリ性タイプと酸性タイプを示すものがあり、いずれも使用できる。特に、液状組成物の安定性を保つには酸性タイプが好ましい。また両方を混合して酸性タイプしたものでもよい。コロイダルシリカにおけるシリカ含有量は、固形分濃度として5〜40重量%程度が好ましい。
【0026】
本発明において用いるセラミックスコーティング溶液は、上記したオルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、オルガノアルコキシシランの縮合物を含有する溶液である。該セラミックスコーティング溶液において、各成分の添加順は任意であり、オルガノアルコキシシラン又はその縮合物を含有する溶液にオルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を添加してもよく、或いは、オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分を含有する溶液に、オルガノアルコシキシラン又はその縮合物を添加してもよい。
【0027】
本発明で用いるセラミックスコーティング溶液における溶媒としては、水、有機溶媒、これらの混合溶媒などを挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のメチル、エチル、プロピル、ブチル等を有するグリコールエーテル類;これらのグリコールエーテルの酢酸エステル類等を用いることができる。
【0028】
オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の添加量は、これらの成分の固形分量として、オルガノアルコシキシランの縮合物の固形分量100重量部に対して30〜1600重量部程度とすることが好ましく、50〜700重量部程度とすることがより好ましい。
【0029】
尚、上記したオルガノシリカゾル、コロイダルシリカ及びオルガノアルコシキシランの縮合物について、固形分量とは、100℃で1時間加熱した後の残分量をいう。
【0030】
更に、本発明で用いるセラミックスコーティング溶液には、更に、必要に応じて、触媒として、有機酸、無機酸等を添加することができる。これらの触媒の添加量は、溶液中の濃度として、0.02〜1重量%程度とすればよい。
【0031】
また、該セラミックスコーティング溶液には、必要に応じて、他の金属アルコキシド化合物を添加することも可能である。代表的な例としてAl化合物、Ti化合物、Zr化合物等を例示できる。これらの金属アルコシキド化合物は、オルガノアルコキシシランの縮合物の硬化触媒として作用が期待できる。これらの金属アルコキシド化合物の量は、溶液中の濃度として、0.01〜0.5重量%程度とすればよい。
【0032】
セラミックスコーティング溶液の濃度については、ガラス基板に塗布する際に均一な塗膜が形成できる程度の濃度であればよく、特に限定的ではないが、通常は、該溶液中の固形分濃度として、0.3〜4重量%程度とすればよい。セラミックスコーティング溶液の濃度調整には、上記した溶媒を用いればよい。
【0033】
(2)セラミックス層の形成方法
本発明では、上記したセラミックスコーティング溶液を用い、基材とするガラス上に塗布した後、620〜730℃程度で熱処理を行い、その後、冷却することによって、基材とするガラス上に、SiO2を主成分とするセラミックス層を形成することができる。形成されるセラミックス層は、親水性が良好で自己洗浄作用を有し、91%以上という高い光透過率を有するものとなる。
【0034】
通常、セラミックスコーティング溶液を塗布する前に、基材とするガラスの表面に対して洗浄などの処理を行い、必要に応じて、セリア系研磨剤などのガラス用の研磨剤を用いて、下地処理を行ってもよい。
【0035】
セラミックスコーティング溶液を塗布する方法としては、特に限定はなく、スプレー法、ロールコート法、ディップ法、カーテンフロー法、印刷法等の各種の公知の方法を適用できる。
【0036】
次いで、形成された塗膜を620〜730℃程度の温度で熱処理する。これにより、オルガノアルコキシシランの縮合物の加水分解、縮合反応が進行して、緻密なセラミック皮膜が形成され、同時に、残存するアルキル基及びアルコキシ基が焼失することによって、親水性に優れた皮膜となる。特に、式:(RSi(OR4−mにおいて、mが1以上のオルガノアルコシキシランの縮合物を用いる場合には、縮合反応によって形成される皮膜は、撥水性が高い皮膜となるが、上記した温度で熱処理を行うことによって、良好な親水性を有する皮膜とすることができる。熱処理時間については、通常、1〜3分程度とすればよい。
【0037】
次いで、熱処後の塗膜を冷却することによってセラミック層を形成することができる。
【0038】
特に、ガラス基材として未強化ガラスを用いる場合には、熱処理終了後、強制冷却を行い、3分間程度以内で室温まで冷却することが好ましい。この様な強制冷却を行うことによって、セラミックス層が形成されると同時に、未強化ガラスを基材とする場合にも、強度が3倍程度高くなり、強化ガラスとすることができる。
【0039】
強制冷却の方法については特に限定的ではないが、例えば、0〜30℃程度の冷風をガラス表面に吹き付ける方法を採用できる。
【0040】
形成されるセラミック層の厚さについては、特に限定的ではないが、通常、0.05〜0.4μm程度とすればよい。
【0041】
太陽電池用カバーガラス
本発明の太陽電池用カバーガラスは、上記した方法によって、基材とするガラス上に、セラミックス層を形成したものである。
【0042】
形成されるセラミックス層は、高硬度を有すると共に、基材ガラスに対して優れた密着性を有し、優れた耐久性を有する皮膜である。また、該セラミックス層は、低屈折率のシリカ層であるために、該セラミックス層を形成したカバーガラスは、ガラス基材自体よりも光透過率が向上して、91〜95%程度という高い光透過性を有するものとなる。更に、該セラミックス層は、水の接触角が5°以下という高い親水性を有するものであり、表面に付着した汚れ物質は雨水等の水によるセルフクリーニング効果で洗い流されるために、耐汚染性が良好であり、容易に高い光透過性を回復できる。
【0043】
また、基材として、表面に凹凸状の梨地模様を形成したガラスを用いる場合には、上記した効果に加えて、更に、太陽光に対して優れた反射防止効果を有するものとなる。
【0044】
上記した太陽電池用カバーガラスを、各種の太陽電池モジュール用のカバーガラスとして用いることによって、耐久性、耐汚染性などに優れ、太陽光を効率良く取り込みことができ、長期間に亘って高い発電効率を維持することが可能な太陽電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0045】
以上の通り、本発明の太陽電池用カバーガラスは、高硬度、低屈折率、高親水性等の優れた特性を有し、且つ密着性に優れたセラミックス層を有するものであり、該カバーガラスを用いた太陽電池は、長期間に亘って高い発電効率を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0047】
実施例1
まず、テトラエトキシシラン4.2g、テトラメトキシシランの縮合物(5量体)6.9g、イソプロピルシリカゾル(イソプロピルアルコールにシリカ微粉末を固形分濃度30重量%で分散させたもの)2.8g、酸性コロイダルシリカ(固形分量20重量%の酸性コロイダルシリカ)30g、イソプロピルアルコール53.2g及び蒸留水2.9gからなる混合物を70℃で1時間混合して、テトラエトキシシランとテトラメトキシシランの縮合物を更に縮合させた後、急冷し、希釈溶剤イソプロピルアルコール900gで希釈して、25℃における粘度3mPa・s、固形分量1重量%のセラミックスコーティング溶液を調製した。
【0048】
太陽電池用に使用する高透過型板ガラス(厚さ3.5mm、幅1000mm、長さ1100mm、Fe含有量100ppmのソーダライムガラス)の平滑面をガラス用セリア研磨剤を用いて研磨処理した後、水洗し、乾燥させることによって下地処理を行った。次いで、この面上にロールコーターを用いて、上記したセラミックスコーティング溶液を厚さ約30μmに均一に塗布して常温で1分間乾燥後、700℃に加熱して、2分間維持した後、15℃の冷風で冷却して膜厚約0.2μmのセラミックス層を形成した。
【0049】
このセラミックス層を形成した太陽電池用カバーガラスと、セラミック層を形成していないガラスについて、下記の方法で各種特性を測定した。結果を下記表1に示す。
*測定方法
(1)光透過率
紫外・可視分光光度計にて測定。
(2)親水性
接触角計で水の接触角を測定(JISK2396)。
(3)防汚試験
土木用防汚材料III種((財)土木研究センター)による明度差及び透光率の測定
(i)明度差(ΔL):測色計(ミノルタ製CR-300)にて測定。
【0050】
(ii)透過率:紫外・可視分光光度計にて測定
【0051】
【表1】

【0052】
次いで、上記した方法で得られた太陽電池用カバーガラスと、これと同様の方法でセラミックスコーティング溶液を均一に塗布した後、150℃で10分間熱処理して得られたガラスについて、下記の方法で各種特性を測定した。
(1)密着性
セラミックス層にナイフによって100個のマス目を形成し、粘着テープを貼り付けた後、急激に剥離して、未剥離のセラミックス層の割合を計測(JISK5600)。
(2)テープ剥離後の接触角
セラミックス層に粘着テープを貼り、急激に剥離した面の水の接触角を測定(JISK2396)。
(3)硬度
鉛筆硬度を測定(JISK5600)。
(4)光透過率
紫外・可視分光光度計にて測定。
(5)親水性
接触角計で水の接触角を測定(JISK-2396)。
(6)耐水性
シャワーリング試験(67ml/cm2/分水吐出)を300時間行った後、水の接触角を測定(JISK-2396)
(7)耐温水性
60℃の温水に40時間浸漬した後、水の接触角を測定(JISK-2396)。
【0053】
【表2】

【0054】
以上の結果から明らかなように、700℃で熱処理して得られたガラスは、水の接触角が小さく親水性に優れ、高い表面硬度を有するものである。
【0055】
実施例2
実施例1で用いた太陽電池用高透過型板ガラスと同じ組成のガラスを基材として用い、セラミックス層を形成する面が、平滑面ではなく、梨地の凹凸型に成形した面であることを除いて、実施例1と同様にしてセラミックス層を形成した。
【0056】
得られたガラスについて、実施例1の表1及び表2に記載の各特性について実施例1と同様の方法で評価した。その結果、実施例1においてセラミックス層を形成したガラスとほぼ同様の特性であった。また、実施例1においてセラミックス層を形成したガラスと、実施例2においてセラミックス層を形成したガラスについて、分光光度計を用いて光の反射率を測定した。
【0057】
その結果、実施例1で得られたガラスの反射率が8%であるのに対して、実施例2で得られたガラスの光反射率は4%であり、光反射率が約1/2に低減されていた。
【0058】
この結果より、梨地の凹凸面を形成したガラスに対して、本発明方法によってセラミック層を形成することにより、長期間に亘って高い発電効率を維持できることに加えて、太陽光や自動車ライトの反射が少なく、安全性に優れた太陽電池が得られることが確認できた。
【0059】
実施例3
テトラエトキシシランの加水分解縮合物(5量体)4g、酸性コロイダルシリカ(固形分量15重量%、粒径20nm)4g、及びエタノール2gからなる混合物を50℃で1時間混合して、テトラメトキシシランの縮合反応を進行させた後、急冷し、イソプロピルアルコール120gで希釈して、固形分量2重量%のセラミックスコーティング溶液を調製した。
【0060】
このセラミックスコーティング溶液を用いること以外は、実施例1及び2と同様の方法でガラス基材上にセラミックス層を形成した。
【0061】
得られたガラスについて、実施例1の表1及び表2に記載の特性について、実施例1と同様の方法で評価した。その結果、実施例1及び2においてセラミックス層を形成したガラスとほぼ同様の特性であった。
【0062】
実施例4
酸性コロイダルシリカ(固形分量15重量%、粒径20nm)60gとイソプロピルアルコール15gを混合した溶液に、メチルトリメトキシシランを25g添加して、25℃で6時間放置して、メチルメトキシシランの縮合反応を進行させた。その後、イソプロピルアルコール1900gで希釈して、固形分1重量%のセラミックスコーティング溶液を作製した。
【0063】
一方、太陽電池用に使用する高透過型板ガラス(厚さ3.5mm、幅1000mm、長さ1100mm、Fe含有量100ppmのソーダライムガラス)の平滑面に対してガラス用セリア研磨剤を用いて研磨処理を施した後、水洗し、乾燥させて下地処理を行った。次いで、この面上にロールコーターを用いて、上記したセラミックスコーティング溶液を厚さ約20μmに均一に塗布して、50℃で1分間乾燥後、700℃に加熱して2分間維持した後、15℃の冷風で3分間冷却して膜厚約0.3μmのセラミックス層を形成した。
【0064】
得られたガラスについて、実施例1の表1に記載の特性について、実施例1と同様の方法で評価した。その結果、実施例1において、セラミックス層を形成したガラスとほぼ同様の特性であった。
【0065】
次いで、上記した方法で得られた太陽電池用カバーガラスと、これと同様の方法でセラミックスコーティング溶液を均一に塗布した後、200℃で10分間熱処理して得られたガラスについて、実施例1の表2に記載した各種特性を測定した。結果を下記表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
上記表3から明らかなように、200℃で熱処理を行ったセラミックス層は、水の接触角が90.3°という大きい値であり、高い撥水性を示すのに対して、700℃で熱処理を行ったセラミックス層は、水の接触角が大きく低下して、高い親水性を示すことが明らかである。
【0068】
実施例5
イソプロピルシリカゾル(イソプロピルアルコールにシリカ微粉末を固形分濃度30重量%で分散させたもの)30gにイソプロピルアルコール15gを加えた溶液に、0.5%塩酸水を10g添加し、これにメチルトリメトキシシラン20gを加えて、加水分解縮合反応を60℃で30分間進行させた。反応終了後に、イソプロピルアルコール1200gとブチルセロソルブ205g添加して、固形分1重量%のセラミックスコーティング溶液を作製した。
【0069】
実施例4で用いたセラミックスコーティング溶液に代えて、上記溶液を用いる他は、実施例4と同様にして、高透過型板ガラスの平滑面に対して膜厚約0.3μmのセラミックス層を形成した。
【0070】
得られたガラスについて、実施例4と同様の方法で各種特性を評価した結果、実施例4において、セラミックス層を形成したガラスとほぼ同様の性能を有するものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、オルガノアルコキシシランの縮合物を含有する溶液を、ソーダライムガラスからなる高透過性型板ガラスの表面に塗布し、620〜730℃に加熱した後、冷却することを特徴とする、太陽電池用カバーガラスの製造方法。
【請求項2】
オルガノアルコシキシシランが、式:(RSi(OR4−m(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ低級アルキル基である。mは0〜3の整数である)で表される化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分の固形分量が、オルガノアルコシキシランの縮合物の固形分量100重量部に対して30〜1600重量部である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
基材とするガラスが未強化ガラスであり、620〜730℃に加熱した後、強制冷却することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
基材とするガラスの表面に、オルガノシリカゾル及びコロイダルシリカからなる群から選ばれた少なくとも一種の成分と、オルガノアルコキシシランの縮合物を含有する溶液から形成されるSiO2を主成分とするセラミックス層を有する、太陽電池用カバーガラス。
【請求項6】
請求項5に記載の太陽電池用カバーガラスを構成要素として含む太陽電池。

【公開番号】特開2011−238650(P2011−238650A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106282(P2010−106282)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(510124043)
【出願人】(510124054)
【Fターム(参考)】