説明

太陽電池用リード線及びその製造方法

【課題】長期間の熱サイクルに対しても割れを生じない高寿命の太陽電池用リード線及び太陽電池用リード線の製造方法を提供する。
【解決手段】無酸素銅又はタフピッチ銅からなる銅線と、この銅線に形成された半田めっき層とを有する、太陽電池モジュールのセル間同士を接続する、太陽電池用リード線は、表層部の結晶粒径が10μm以上60μm未満であり、かつ表層部の結晶粒径が銅線の内層の結晶粒径の80%未満である。その製造方法は、無酸素銅又はタフピッチ銅の鋳塊を冷間圧延後300〜700℃で1秒〜1時間の中間焼鈍又は熱間圧延を施した後、1パスの加工率1〜15%で冷間圧延又は冷間引抜き圧延で銅線に加工し、該銅線を200〜500℃で1秒〜1時間の焼鈍し、焼鈍した銅線に半田メッキ層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセル(太陽電池セル、Solar cells,以下、セル)からなる太陽電池モジュールにおいて、セル間を接続する配線材として適した太陽電池用リード線、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池にはSiウェハからなるセルを複数直列にリード線で接続し、十分な起電力を得ている。このリード線は一般に半田めっきした平角銅線が使用されており、該平角銅線とSiウェハとは半田によって接合されている。
【0003】
ところで、太陽電池のコスト割合はSiウェハがその大半を占めており、近年製造コストを低減するべくSiウェハの薄肉化が進められている。しかしSiウェハが薄くなると強度が低下する。特にSiウェハと銅線は表1に示すように熱膨張率が異なるため、半田接続時の高温から室温に冷却される際の熱収縮量の差からSiウェハに反りが発生し破損することがある。また、太陽電池使用時の熱サイクルによって生じる熱応力でSiウェハが破損する可能性もある。このためSiウェハとの間に生じる熱応力が小さいリード線のニーズが高まっている。この要望を解決するために純銅を焼鈍することにより結晶粒径を粗大化させ、耐力を低下させることで銅線を降伏させ熱応力を軽減させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−140787
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、結晶粒径を粗大化させると銅線自身の強度低下は避けられない。強度の低下した銅線でSiウェハを接続すると、この銅線は太陽電池の昼夜の熱サイクル負荷を受け続けることになり、粗大な結晶粒を持つ銅線表面に微細なクラックが発生し寿命低下を招くことになる。
そのため、リード線の強度を下げずに半田接合時に発生する熱応力を低減させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、銅線に適正な加工と適正な熱処理を加えることで銅線表面の結晶粒径を微細とし、耐クラック性を向上させることに成功し、長期間使用しても表面にクラックの入らない寿命の長い太陽電池用リード線を発明するに至った。
【0008】
本発明に係る太陽電池用リード線は、無酸素銅又はタフピッチ銅からなる銅線と、当該銅線に形成された半田めっき層を有する、太陽電池モジュールのセル間同士を接続する太陽電池用リード線であって、前記銅線の表層部の平均結晶粒径が10μm以上60μm未満であり、かつ、前記銅線の内層部の結晶粒径の80%未満である。
【0009】
また、本発明に係る太陽電池用リード線は、無酸素銅又はタフピッチ銅からなる銅線と、当該銅線に形成された半田めっき層を有する、太陽電池モジュールのセル間同士を接続する太陽電池用リード線であって、前記銅線の表層部の平均結晶粒径が10μm以上40μm未満であり、かつ、前記銅線の内層部の結晶粒径の50%未満である。
【0010】
好ましくは、前記銅線の表層部の厚さが前記銅線全体の厚さの5%〜50%である。
また好ましくは、前記銅線の0.2%耐力が150MPa以下である。
【0011】
好ましくは、前記半田メッキ層が、Pb,In,Bi,Ag,Cuのいずれかが0.1質量%以上添加されたSn系半田で形成されている。
また好ましくは、前記半田めっき層の厚さが、20μmである。
【0012】
本発明の太陽電池用リード線の製造方法は、無酸素銅又はタフピッチ銅の鋳塊を冷間圧延後300〜700℃で1秒〜1時間の中間焼鈍又は熱間圧延を施した後、1パスの加工率1〜15%で冷間圧延又は冷間引抜き圧延で銅線に加工し、該銅線を200〜500℃で1秒〜1時間焼鈍し、該焼鈍した銅線の外周に半田めっきを施す。
【0013】
好ましくは、1パスの加工率1〜15%で実施する冷間圧延又は冷間引抜き圧延の加工率の合計が20%以上である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の無酸素銅又はタフピッチ銅からなる銅線と、この銅線に半田メッキ層が形成されたリード線は、表層部が微細な結晶粒の層であるため、太陽電池の使用中に受ける熱サイクル負荷に対する耐性が向上し、劣化しづらく、太陽電池の寿命を延ばすという優れた効果を有する。
さらに、本発明の無酸素銅又はタフピッチ銅からなる銅線と、この銅線に半田メッキ層が形成されたリード線は、内層部に粗大な結晶粒を残しているため銅線線(銅線)全体の耐力は小さく、Siウェハとの半田接続時に生じる熱応力を緩和し、ウェハの反りや割れを防ぐことができ、太陽電池相互を容易につなぐことができるという優れた効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はスリット法に関する図である。
【図2】図2は丸線製法に関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る太陽電池用リード線は、表層部の結晶粒径が10μm以上60μm未満であり、かつ表層部の結晶粒径が内層の結晶粒径の80%未満である無酸素銅又はタフピッチ銅からなる太陽電池用リード線である。
本発明は、表層部を微細な組織とすることで耐クラック性を向上させ熱サイクル負荷に対する寿命を従来のものよりも長くしたものである。表層部の結晶粒径が10μm未満では耐力が大きくなるため好ましくなく、また、60μm以上では耐クラック性が不十分であり好ましくない。表層部結晶粒径の上限は、耐クラック性の向上と、耐力抑制のバランスの観点から、40μm未満であることが特に好ましい。
【0017】
また、表層部と内層部で結晶粒のサイズに変化をもたせる。このサイズの差は表層部の結晶粒径が内層の結晶粒径の80%未満とする。本発明では結晶粒が微細な表層部で耐クラック性を向上させ、内層部を表層部と比較して粗大な結晶粒の層とすることで銅線(リード線)全体の耐力が大きくなるのを抑制している。
本発明では表層部の結晶粒径が内層の結晶粒径の80%未満に規定している。表層部の結晶粒径が内層部の結晶粒径の80%を超えると耐クラック性は向上するが耐力も大きくなり過ぎてSiウェハとの半田接続時の熱応力を緩和することができなくなり、好ましくないためである。なお、耐クラック性の向上と耐力の抑制のバランスは、表層部の結晶粒径が内層部の結晶粒径の50%未満とすることが好ましく、50%未満とすることでSiウェハとの半田接続時の熱応力を好ましく緩和することができる。
【0018】
本発明に係る太陽電池用リード線は、表層部の厚さの合計がリード線(銅線)の厚さの5%〜50%であることが好ましい。
結晶粒径の微細な表層部の厚さが厚すぎると銅線全体の耐力が高くなりSiウェハとの半田接続時に割れを生じやすくなる。一方、表層部の厚さが薄すぎると耐クラック性向上の効果が小さく、熱サイクル負荷に対して割れを生じてしまうため、表層部の厚さは全体の5%〜50%であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る無酸素銅又はタフピッチ銅からなる太陽電池用リード線は、リード線(銅線)の0.2%耐力が150MPa以下の太陽電池用リード線であることが好ましい。
耐力が大きすぎるとSiウェハと半田接合する際に熱膨張係数の差から生じる熱応力によりSiウェハを破損する。しかし、耐力値が小さければ熱応力に対して塑性変形を起こしやすいためSiウェハにかかる負荷を小さくすることができ割れを防止できる。Siウェハを破損せず、Siウェハにかかる負荷を小さくでき、割れを防止するには材料の0.2%耐力が150MPa以下とすることが好ましい。
【0020】
本発明に係る太陽電池用リード線の製造方法は、薄板を適宜な幅にスリットして平角状にし、あるいは丸線を引抜き又は圧延して丸線状に又は平角状に整形する、どちらの方法で製造しても良い。なお、リード線としての形状は円形、四角形等、特に限定しないが、セルとの半田接続性の観点から平角形状である方がより望ましい。
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明の太陽電池用平角銅線の製造方法は、無酸素銅又はタフピッチ銅の鋳塊を圧延で薄板とし、該薄板を適宜な幅にスリットして平角状とする製造方法(以下、スリット製法という)と、丸線を圧延して平角状に整形する方法(以下、丸線製法という)で製造することができる。なお、丸線を引抜き圧延して丸線に整形する方法(以下、丸線製法という)で丸線のリード線も製造したが、その性能は平角線と極めて類似していたので、本明細書では平角線についてのみ以下に説明する。
【0022】
先ず、図1を参照して、スリット製法につき説明する。
前処理工程1(均質化熱処理工程)
無酸素銅又はタフピッチ銅の鋳塊に均質化熱処理を施す。均質化処理は例えば900℃で30分程度保持する。
前処理工程2(熱間圧延工程)
均質化処理後熱間圧延、水冷、面削を行い、板厚10mm程度の銅板とする。
冷間圧延工程1(任意の工程)
厚さ10mm程度とした板材を所定のサイズまで冷間圧延する。この工程は任意の工程であり、省いてもよい。
中間焼鈍工程(任意の工程)
冷間圧延工程1を行った場合は通電方式若しくはバッチ式の熱処理により300〜700℃で1秒〜1時間中間焼鈍を行う。この工程は、上記冷間圧延工程1に付随する任意の工程であり、省いてもよい。
冷間圧延工程2
前処理工程2を行った板材若しくは中間焼鈍工程を経た板材に、さらに1パスの加工率1〜15%で冷間圧延を行い、所定の厚さにする。なお、中間焼鈍工程を経た場合、望ましくは中間焼鈍してから冷間圧延工程2終了までの総加工率を20%以上とする。
スリット加工
所定の厚さまで圧延された銅平板をスリット加工して所定の幅の平角線形状とする。
最終焼鈍工程
最後に、スリットした平角銅線を通電方式若しくはバッチ式の熱処理により200〜500℃で1秒〜1時間の焼鈍を行う。
半田めっき工程
必要によりでき上がった平角銅線に半田めっきを施す。
【0023】
次に、図2を参照して、丸線製法につき説明する。
前処理工程(荒引き線の製造工程)
溶融した無酸素銅又はタフピッチ銅をベルト&ホイール法、双ベルト法、アップキャスト法で、あるいは鋳塊を熱間押出し法等によって直径約8mmの線材(荒引き線)とする。
冷間加工工程1(任意の工程)
製造された荒引き線を所定のサイズまで冷間引抜き若しくは冷間圧延する。この工程は任意の工程であり、省いてもよい。
中間焼鈍工程(任意の工程)
冷間引抜き若しくは冷間圧延を行った場合は所定のサイズに伸ばされた線材を通電方式若しくはバッチ式の熱処理で300〜700℃で1秒〜1時間の中間焼鈍を行う。この工程は、上記冷間加工工程1に付随する任意の工程であり、省いてもよい。
冷間加工工程2
前処理工程を経た線材若しくは中間焼鈍工程を経た線材を、1〜15%の冷間引抜き圧延若しくは冷間圧延して平角銅線とする。なお、中間焼鈍工程を経た場合、望ましくは中間焼鈍してから冷間圧延工程2終了までの総加工率を20%以上とする。
最終焼鈍工程
平角銅線に成形後通電方式若しくはバッチ式の熱処理で200〜500℃で1秒〜1時間の焼鈍を行う。
半田めっき工程
必要によりでき上がった平角銅線に半田めっきを施す。
【0024】
上記冷間圧延工程2で中間焼鈍した板材又は線材(以下これらを区別する必要がないときは単に銅材という)に1〜15%の冷間圧延若しくは冷間引抜き圧延を施す。銅材に1〜15%の軽加工を施すと銅材の表面に集中的に歪が入り、内部には殆ど歪が入らず、銅材内に入る加工歪が不均一となる。
冷間圧延工程に次いで200〜500℃の最終焼鈍処理を行うと表層部の加工歪が多く入った場所は再結晶の核が多いために結晶粒径が微細となり、加工歪の入っていない内層部は結晶粒が粗大となる。
【0025】
平角銅線において、結晶粒径が微細である方が耐クラック性は高いが耐力も高くなる。本発明においては、結晶粒径が微細であるのは表層部だけであり内層部は結晶粒が粗大であるため耐力は全体として低くなる。従ってSiウェハと半田接続した時の熱収縮による応力を緩和することができる。
また、加工歪が多く入っている方が再結晶粒径は微細となり、耐クラック性に優れた製品となる
【0026】
最終焼鈍は200〜500℃で行う。焼鈍温度が200℃以下では再結晶が十分に進まないため好ましくない。また、焼鈍温度が500℃より高温で行うと歪の多く入った表層が極端な再結晶粒粗大化現象を起こし、表層部の方が内層部より粗大となって耐クラック性は大きく低下し好ましくないためである。
また、冷間圧延工程2での1パス加工率が20%以上であると内部まで加工が入るため比較的均一な組織となるが、すべて微細な組織だと耐力が高くなってしまい半田接続時に割れを生じてしまう。また、すべて粗大な組織とすると銅線表面の耐クラックが低下してしまうため長期の熱サイクル負荷に対して割れを生じてしまう。
【0027】
冷間圧延工程2での1パスの加工率が大きいほど加工歪の入る領域が多くなり、結晶粒が小さくなる表層部の厚さが厚くなる。この結晶粒が微細な表層の厚さが薄すぎると耐クラック性向上の効果が小さくなり熱サイクルに対して割れを生じてしまう。また、結晶粒の大きさが微細な表層部の厚さが厚くなり過ぎると銅線全体の耐力値が高くなってしまい半田接続時に割れを生じてしまう。総加工率が同じ場合でも1パスの加工率を大きくして少ないパス回数で加工するよりも1パスの加工率を小さくしてパス回数を増やす方が望ましい。
【0028】
半田めっき層を形成する材料としてはSn系半田を用いることができる。第2成分としてPb、In、Bi、Ag、Cu、を0.1質量%以上添加するものが挙げられるが、環境汚染防止のためにPbフリーのSn−Ag、Sn−Ag−Cu、Sn−Cu、Sn−Ag−Inなどが望ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。本発明は、無酸素銅とタフピッチ銅の2種類の純銅で実施し、圧延銅板のスリットにより得られる平角板と荒引き線を圧延することによって得られる平角板の2製造条件で製造した。
【0030】
まずスリットすることによって得られる平角板の製造方法から説明する。無酸素銅を鋳造後、900℃で30分の均質化処理後、熱間圧延を行った。熱間圧延の最終パス温度を500〜800℃、圧延率を30%とした。熱間圧延後、水冷、面削を行い、板厚10mmの銅板を得た。その後、1パスの圧延率を20%として冷間圧延し300〜700℃で中間焼鈍を行った。その後1パス1〜15%の冷間圧延(工程2)を数回行い、板厚0.2mmとした。冷間圧延後、200〜500℃で30分の熱処理を行った。その後、幅2mmにスリットし、250℃に保持したSn−3%Ag−0.5%Cuの半田浴槽に浸漬させることで約20μmの半田めっきを施し供試材(リード線)とした。
【0031】
次に荒引き線材からの平角線の製造方法を説明する。
ベルト&ホイール法によって製造した直径8mmの無酸素銅からなる荒引線を所定の径まで冷間引抜き又は冷間圧延加工を施し、次いで300〜700℃の中間焼鈍を行った。このときの加工率は1パスに付き20%で行った。その後、1パス1〜15%の冷間加工を数回行い、板厚0.2mmの平角線とし、200〜500℃で30分の熱処理を行った。この平角銅線を250℃に保持したSn−3%Ag−0.5%Cuの半田浴槽に浸漬させることで約20μmの半田めっきを施し供試材(リード線)とした。
【0032】
作成した各供試材について以下の評価を行った。
(1)表層部の結晶粒径、
(2)中心部の結晶粒径、
(3)表層と内層の結晶粒径の比率、
(4)表層の占める厚さ割合、
(5)0.2%耐力、
(6)半田接続時の熱収縮による割れ判定、
(7)熱サイクル試験の割れ判定
【0033】
結晶粒径の測定は平角線の縦断面を交線法によって測定した。
表層部の占める厚さ割合は平角線幅方向の中心でその厚さを測定し、全体の厚さに占める割合とした。
半田接続時の熱収縮による割れ判定は、150mm×150mm、板厚:0.18mmのSi板に、供試材を半田接続した際にSiウェハに割れが発生していないかを顕微鏡により観察し判定した。
熱サイクル試験の割れ判定は20℃⇔150℃×10000回の熱サイクル試験を行い供試材表面にクラックが発生しているか否かを顕微鏡により表面観察を行い、判定した。判定は全てに割れが発生しなかったサンプルは「○」、割れが発生したサンプルは「×」として表2、3に示した。
【0034】
【表2−1】

【0035】
【表2−2】

【0036】
【表2−3】

【0037】
【表2−4】

【0038】
表2−1〜4に、無酸素銅の平角線をスリットで作製した供試材を示す。実施例1〜328は内層の結晶粒径が粗大となっているために耐力値が小さくSiウェハとの半田接続時も割れが発生せず、さらに表層部の結晶粒径が微細となっているため長期間の熱サイクル負荷に対しても耐性を示している。この時、1パスの加工率が大きいほど内部まで加工歪が入るため表層部の厚さが厚くなる傾向にあり、1パスの加工率r(%)と表層厚さ比率d(%)の間におよそd=3r+3の関係が成り立つ。また、実施例73〜96、121〜168、193〜248、273〜328は中間焼鈍後の総加工率が20%となっており、表層部の結晶粒径も40μm以下と特に微細化している。
これに対し比較例1〜56は仕上げ焼鈍の温度が高すぎるため加工歪が多く入っている表層部の結晶粒が内層よりさらに粗大化してしまうため熱サイクル負荷に対する耐性が低下している。また、比較例57〜63は熱処理が不十分であるために耐力が大きく、Siウェハとの半田接続時に熱収縮によりSiウェハが破損してしまった。
【0039】
【表3−1】

【0040】
【表3−2】

【0041】
【表3−3】

【0042】
【表3−4】

【0043】
表3−1〜4に、無酸素銅の平角線を線材から作製した供試材を示す。実施例329〜656は内層部の結晶粒径が粗大となっているために耐力値が小さくSiウェハとの半田接続時も割れが発生せず、さらに表層の結晶粒径が微細となっているため長期間の熱サイクル負荷に対しても耐性を示している。この時、1パスの加工率が大きいほど内部まで加工歪が入るため表層厚さが厚くなる傾向にあり、1パスの加工率r(%)と表層厚さ比率d(%)の間におよそd=3r+3の関係が成り立つ。また、実施例401〜424、449〜496、521〜576、601〜656は中間焼鈍後の総加工率が20%となっており、表層の結晶粒径も40μm以下と特に微細化している。
これに対し比較例65〜120は仕上げ焼鈍の温度が高すぎるため加工歪が多く入っている表層部の結晶粒が内層よりさらに粗大化してしまうため熱サイクル負荷に対する耐性が低下している。また、比較例121〜127は熱処理が不十分であるために耐力が大きく、Siウェハとの半田接続時に熱収縮によりSiウェハが破損してしまった。
【0044】
上述したように本発明の無酸素銅又はタフピッチ銅からなるリード線は、表層部が微細な結晶粒の層であるため、太陽電池の使用中に受ける熱サイクル負荷に対する耐性が向上し、劣化しづらく、太陽電池の寿命を延ばす優れた効果を有する。
さらに、本発明の無酸素銅又はタフピッチ銅からなるリード線はその内層部に粗大な結晶粒を残しているためリード線(銅線)全体の耐力は小さく、Siウェハとの半田接続時に生じる熱応力を緩和し、ウェハの反りや割れを防ぐことができ、太陽電池相互を容易につなぐことができる優れた効果を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無酸素銅又はタフピッチ銅からなる銅線と、当該銅線に形成された半田めっき層を有する、太陽電池モジュールのセル間同士を接続する、太陽電池用リード線であって、前記銅線の表層部の平均結晶粒径が10μm以上60μm未満であり、かつ、前記銅線の内層部の結晶粒径の80%未満である、太陽電池用リード線。
【請求項2】
無酸素銅又はタフピッチ銅からなる銅線と、当該銅線に形成された半田めっき層を有する、太陽電池モジュールのセル間同士を接続する、太陽電池用リード線であって、前記銅線の表層部の平均結晶粒径が10μm以上40μm未満であり、かつ、前記銅線の内層部の結晶粒径の50%未満である、太陽電池用リード線。
【請求項3】
前記銅線の表層部の厚さが、前記銅線全体の厚さの5%〜50%である、
請求項1に記載の太陽電池用リード線。
【請求項4】
無酸素銅又はタフピッチ銅からなる銅線と、当該銅線に形成された半田めっき層を有する、太陽電池モジュールのセル間同士を接続する、太陽電池用リード線であって、前記銅線の0.2%耐力が150MPa以下である、
請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池用リード線。
【請求項5】
前記半田メッキ層が、Pb,In,Bi,Ag,Cuのいずれかが0.1質量%以上添加されたSn系半田で形成された、
請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池用リード線。
【請求項6】
前記半田めっき層の厚さが、20μmである、
請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池用リード線。
【請求項7】
無酸素銅又はタフピッチ銅の鋳塊を冷間圧延後300〜700℃で1秒〜1時間の中間焼鈍又は熱間圧延を施した後、1パスの加工率1〜15%で冷間圧延又は冷間引抜き圧延で銅線に加工し、該銅線を200〜500℃で1秒〜1時間焼鈍し、該焼鈍した銅線の外周に半田めっきを施す、
太陽電池用リード線の製造方法。
【請求項8】
1パスの加工率1〜15%で実施する冷間圧延又は冷間引抜き圧延の加工率の合計が20%以上である、
請求項7に記載の太陽電池用リード線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−33957(P2013−33957A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−149759(P2012−149759)
【出願日】平成24年7月3日(2012.7.3)
【分割の表示】特願2012−506267(P2012−506267)の分割
【原出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】