説明

太陽電池用封止膜及びこれを用いた太陽電池

【課題】発電効率が向上し、耐久性に優れる太陽電池を提供する。
【解決手段】エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、架橋剤及びシランカップリング剤を含む太陽電池用封止膜であって、前記架橋剤の含有量が、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.05〜0.7質量部であり、前記シランカップリング剤の含有量が、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.1〜0.7質量部であり、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体におけるメタクリル酸メチルの含有率が25〜35質量%であることを特徴とする太陽電池用封止膜13A、13Bを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性が高く、高温多湿条件下における耐久性に優れる太陽電池用封止膜及びこれを用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や環境汚染の防止等の面から、太陽光を電気エネルギーに直接、変換する太陽電池が広く使用され、更に生産性や耐久性の点から開発が進められている。
【0003】
太陽電池は、例えば、図1に示すように、ガラス基板などからなる表面側透明保護部材11、表面側封止膜13A、シリコン発電素子などの太陽電池用セル14、裏面側封止膜13B、及び裏面側保護部材12をこの順で積層し、減圧で脱気した後、加熱加圧して表面側封止膜13A及び裏面側封止膜13Bを架橋硬化させて接着一体化することにより製造される。従来の太陽電池では、高い電気出力を得るために、複数の太陽電池用セル14を接続して用いられている。従って、太陽電池用セル14間の絶縁性を確保するために、絶縁性のある封止膜13A、13Bを用いて太陽電池用セルを封止している。
【0004】
封止膜13A、13Bには、安価であり高い透明性及び接着性を有することからエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルムが従来から用いられている(例えば、特許文献1)。そして、太陽電池セルの機械的な耐久性の確保や、湿気又は水の透過による内部の導線や電極の発錆の防止のため、架橋剤を用いてEVAフィルムを架橋させることにより、高度な密着性及び接着強度で各部材を接着一体化させている。
【0005】
しかしながら、EVAはその構成成分として酢酸ビニルを含むため、設置時の高温時の湿気により経時的に加水分解して酢酸が生じ易く、この酢酸により内部の導線や電極と接触して錆の発生を促進させる恐れがある。この理由から、EVA以外の樹脂を用いて製造された太陽電池用封止膜が開発されている。EVA以外の樹脂を用いた太陽電池用封止膜として、特許文献2には、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーを用いた太陽電池用封止膜が開示されており、また、特許文献3には、エチレン−メチルアクリレート共重合体とEVAとの混合物をベースポリマーとして用いた太陽電池用封止膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−153520
【特許文献2】特開2000−186114
【特許文献3】特開2005−126708
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の封止膜は生産性に優れるものの、架橋を行っていないので他の部材(保護部材及び太陽電池用セル)との接着性が十分でないという問題がある。一方、特許文献3に記載の封止膜は、架橋される封止膜であるが、エチレン−メチルアクリレート共重合体とEVAとを混合した封止膜であるため、依然としてEVAからの酢酸が発生し、また、架橋剤の影響により発泡が生じて接着力の低下が起こるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸による腐食が防止され、発泡の発生が抑制され、接着性が高く、その高い接着性を高温多湿下の過酷な条件下でも維持することが可能な太陽電池用封止膜を提供することにある。また、この太陽電池用封止膜を用いることにより、発電効率が向上し、耐久性に優れる太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発泡は、封止するための架橋工程において封止膜に含まれる架橋剤が熱分解するとともに発生するガスに起因する。すなわち、架橋剤の熱分解とともに発生したガスが、太陽電池内部の裏面側保護部材、裏面側封止膜、太陽電池用セル、表面側封止膜及び表面側透明保護部材の各界面に留まり、これにより太陽電池内部で発泡が生じると考えられる。一方で、架橋を行わないと接着力を十分に得ることができないばかりか、高温多湿条件下における耐久性も十分に得られない。そこで、本発明者は、ベースポリマーとして酸を発生しないポリマーを用い、必要最低限の量の架橋剤と、接着性を向上させるシランカップリング剤とを所定の量で配合することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、上記目的は、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、架橋剤及びシランカップリング剤を含む太陽電池用封止膜であって、前記架橋剤の含有量が、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.05〜0.7質量部であり、前記シランカップリング剤の含有量が、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.1〜0.7質量部であり、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体におけるメタクリル酸メチルの含有率が25〜35質量%であることを特徴とする太陽電池用封止膜により達成される。
【0011】
本発明の好ましい態様は以下の通りである。
(1)前記シランカップリング剤に対する前記架橋剤の質量比が、0.2〜0.5である。この範囲であれば、特に発泡を抑えつつ、接着力を向上させることが可能となり、湿熱環境下でも高水準の接着力を維持することが可能となる。
(2)前記架橋剤が有機過酸化物である。
(3)有機過酸化物が、ジアルキルパーオキサイド系化合物である。
(4)シランカップリング剤が、メタクリロキシ系シランカップリング剤である。
【0012】
また、本目的は、上記太陽電池用封止膜を用いたことを特徴とする太陽電池によっても達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の太陽電池用封止膜は優れた接着性及び耐久性を有する。したがって、本発明の太陽電池用封止膜によれば、封止膜と保護部材との界面における発泡や剥離の発生を抑制することができ、発電開始初期から長期間に亘り高い発電性能を維持することができる太陽電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一般的な太陽電池の概略断面図である。
【図2】接着力の評価である180°ピール試験法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述したように、本発明の太陽電池用封止膜は、ベースポリマーとしてエチレン−メタクリル酸メチル共重合体を用いており、架橋剤をエチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.05〜0.7質量部含み、シランカップリング剤を前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.1〜0.7質量部含んでいる。また、上記エチレン−メタクリル酸メチルは、メタクリル酸メチルの含有率が25〜35質量%のものを使用する。必要最低限の架橋剤を用いて架橋を行い、シランカップリング剤を併用することにより、発泡の発生が抑えられ、高い接着性を得ることが可能となり、また、高温多湿条件下での耐久性を向上させることができる。そして、封止膜のベースポリマーとして、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体を用いることにより、酸の発生が防止され、電極等の腐食や接着力の低下を防止することが可能となる。エチレン−メタクリル酸メチル共重合体は光線透過性が高く、太陽光を十分に太陽電池用セルに入射させることができるため、太陽電池用封止膜のベースポリマーとして適している。
【0016】
以下、各材料について詳細に説明する。
【0017】
[エチレン−メタクリル酸メチル共重合体]
エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)は、モノマーとしてエチレン及びメタクリル酸メチル(MMA)を用いて得られる共重合体であり、本発明において、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体におけるメタクリル酸メチルの含有率は25〜35質量%、好ましくは25〜30質量%である。25質量%より低いと透明性が低下する場合があり、35質量%より高いと加工性が低下する場合がある。
【0018】
エチレン−メタクリル酸メチル共重合体は、JIS K7210で規定されるメルトフローレートが、35g/10分以下、特に7〜20g/10分のものを使用するのが好ましい。このようなメルトフローレート有するエチレン−メタクリル酸メチル共重合体を用いた太陽電池用封止膜によれば、太陽電池作製時の封止工程における加熱加圧の際に、封止膜が溶融や位置ズレを起こして基板の端部からはみ出でるのを抑制することができ、高い封止性能を得ることができる。なお、本発明において、メルトフローレート(MFR)の値は、JIS K7210に従い、190℃、荷重21.18Nの条件に基づいて測定されたものである。
【0019】
本発明の太陽電池用封止膜は、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体に加えて、さらにポリビニルアセタール系樹脂(例えば、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール(PVB樹脂)、変性PVB)、塩化ビニル樹脂を副次的に使用しても良い。その場合、特にPVBが好ましい。
【0020】
[架橋剤]
本発明において架橋剤は、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の架橋構造を形成することができるものである。架橋剤は、有機過酸化物又は光重合開始剤を用いることが好ましい。なかでも、接着力、耐湿性、耐貫通性の温度依存性が改善された封止膜が得られることから、有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0021】
前記有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも使用することができる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。
【0022】
前記有機過酸化物としては、樹脂の加工温度・貯蔵安定性の観点から例えば、ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、スクシニックアシドパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオイル+ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサネート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシド、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサン、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、等が挙げられる。
【0023】
ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤としては、70℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであればいずれも使用可能であるが、半減期10時間の分解温度が50℃以上のものが好ましく、調製条件、成膜温度、硬化(貼り合わせ)温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して適宜選択できる。使用可能なベンゾイルパーオキサイド系硬化剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤は1種でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
これら有機過酸化物の中でも、ジアルキルパーオキサイド系有機過酸化物であるα,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド及びジ−t−ブチルパーオキサイドが好ましい。これにより、分解生成ガスの発生が生じ難いとともに、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の架橋密度を十分に向上させることができ、得られる太陽電池用封止膜の耐久性をより向上させることができる。
【0025】
前記有機過酸化物の含有量は、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して、0.05〜0.7質量部、好ましくは0.1〜0.3質量部である。0.05質量部より少ないと架橋反応が遅くなり、接着力が十分に得られない場合があり、0.7質量部より多いと発泡する可能性が高くなる。
【0026】
また、光重合開始剤としては、公知のどのような光重合開始剤でも使用することができるが、配合後の貯蔵安定性の良いものが望ましい。このような光重合開始剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1などのアセトフェノン系、ベンジルジメチルケタ−ルなどのベンゾイン系、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系、イソプロピルチオキサントン、2−4−ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン系、その他特殊なものとしては、メチルフェニルグリオキシレ−トなどが使用できる。特に好ましくは、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾフェノン等が挙げられる。これら光重合開始剤は、必要に応じて、4−ジメチルアミノ安息香酸のごとき安息香酸系又は、第3級アミン系などの公知慣用の光重合促進剤の1種または2種以上を任意の割合で混合して使用することができる。また、光重合開始剤のみの1種単独または2種以上の混合で使用することができる。
【0027】
前記光重合開始剤の含有量は、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.05〜0.7質量部、好ましくは0.1〜0.3質量部である。0.05質量部より少ないと架橋反応が遅くなり、接着力が十分に得られない場合があり、0.7質量部より多いと発泡する可能性が高くなる。
【0028】
[シランカップリング剤]
本発明に使用するシランカップリング剤としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0029】
この中でも特に、メタクリロキシ系シランカップリング剤(メタクリロキシ基を含むシランカップリング剤のことをいう。)であるγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましく、中でもγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0030】
本発明の太陽電池用封止膜におけるシランカップリング剤の含有量は、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.1〜0.7質量部であり、好ましくは0.3〜0.65質量部である。0.1質量部より少ないと接着性が十分に得られない場合がある。0.7質量部より多いとブリードアウトが生じる場合がある。
【0031】
ここで、本発明において、シランカップリング剤に対する架橋剤の質量比(架橋剤/シランカップリング剤)が0.2〜0.5であることが好ましい。使用する架橋剤の量をできる限り少なくする一方で、シランカップリング剤の量を相対的に多くすることで、確実に発泡を抑えつつ、接着力を向上させることが可能となる。
【0032】
[その他]
架橋硬化前の太陽電池用封止膜は、更に架橋助剤を含んでいてもよい。前記架橋助剤は、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の架橋密度を向上させ、封止膜の接着性及び耐久性を更に向上させることができる。
【0033】
前記架橋助剤は、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して、好ましくは0.1〜3.0質量部、より好ましくは0.1〜2.5質量部で使用される。このような架橋助剤の含有量であれば、架橋助剤の添加によるガスの発生もなく、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の架橋密度を向上させることができる。
【0034】
前記架橋助剤(官能基としてラジカル重合性基を有する化合物)としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の3官能の架橋助剤の他、(メタ)アクリルエステル(例、NKエステル等)の単官能又は2官能の架橋助剤等を挙げることができる。なかでも、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートが好ましく、特にトリアリルイソシアヌレートが好ましい。
【0035】
本発明の太陽電池用封止膜は、膜の種々の物性(機械的強度、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度の改良のため、必要に応じて、可塑剤、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及び/又はエポキシ基含有化合物などの各種添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0036】
前記可塑剤としては、特に限定されるものではないが、一般に多塩基酸のエステル、多価アルコールのエステルが使用される。その例としては、ジオクチルフタレート、ジヘキシルアジペート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ブチルセバケート、テトラエチレングリコールジプタノエート、トリエチレングリコールジペラルゴネートを挙げることができる。可塑剤は一種用いてもよく、二種以上組み合わせて使用してもよい。可塑剤の含有量はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して5質量部以下の範囲が好ましい。
【0037】
前記アクリロキシ基含有化合物及び前記メタクリロキシ基含有化合物としては、一般にアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体であり、例えばアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルやアミドを挙げることができる。エステル残基の例としては、メチル、エチル、ドデシル、ステアリル、ラウリル等の直鎖状のアルキル基、シクロヘキシル基、テトラヒドロフルフリル基、アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基を挙げることができる。アミドの例としては、ジアセトンアクリルアミドを挙げることができる。また、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルも挙げることができる。
【0038】
前記エポキシ含有化合物としては、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(エチレンオキシ)グリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、グリシジルメタクリレート、ブチルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0039】
前記アクリロキシ基含有化合物、前記メタクリロキシ基含有化合物、または前記エポキシ基含有化合物は、それぞれエチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対してそれぞれ一般に0.5〜5.0質量部、特に1.0〜4.0質量部含まれていることが好ましい。
【0040】
更に、本発明の太陽電池用封止膜は、老化防止剤を含んでいてもよい。老化防止剤としては、例えばN,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド〕等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤、イオウ系熱安定剤等が挙げられる。
【0041】
[太陽電池用封止膜の製造]
上述した本発明の太陽電池用封止膜を形成するには、公知の方法に準じて行えばよい。例えば、上述した各成分を含む組成物を、通常の押出成形、又はカレンダ成形(カレンダリング)等により成形してシート状物を得る方法により製造することができる。また、前記組成物を溶剤に溶解させ、この溶液を適当な塗布機(コーター)で適当な支持体上に塗布、乾燥して塗膜を形成することによりシート状物を得ることもできる。尚、製膜時の加熱温度は、架橋剤が反応しない或いはほとんど反応しない温度とすることが好ましい。例えば、50〜90℃、特に40〜80℃とするのが好ましい。本発明の太陽電池用封止膜の厚さは特に制限されないが、0.05〜2mmである。
【0042】
[太陽電池]
本発明の太陽電池の構造は、本発明の太陽電池用封止膜を用いていれば、特に制限されない。例えば、表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に、本発明の太陽電池用封止膜を介在させて架橋一体化させることにより太陽電池用セルを封止させた構造などが挙げられる。なお、本発明において、太陽電池セルの光が照射される側(受光面側)を「表面側」と称し、太陽電池セルの受光面とは反対面側を「裏面側」と称する。
【0043】
前記太陽電池において、太陽電池用セルを十分に封止するには、例えば、図1に示すように表面側透明保護部材11、表面側封止膜13A、太陽電池用セル14、裏面側封止膜13B及び裏面側保護部材12を積層し、加熱加圧など常法に従って、封止膜を架橋硬化させればよい。
【0044】
前記加熱加圧するには、例えば、前記積層体を、真空ラミネータで温度135〜180℃、さらに140〜180℃、特に155〜180℃、脱気時間0.1〜5分、プレス圧力0.1〜1.5kg/cm2、プレス時間5〜15分で加熱圧着すればよい。この加熱加圧時に、表面側封止膜13Aおよび裏面側封止膜13Bに含まれるエチレン−メタクリル酸メチル共重合体を架橋させることにより、表面側封止膜13Aおよび裏面側封止膜13Bを介して、表面側透明保護部材11、裏面側透明部材12、および太陽電池用セル14を一体化させて、太陽電池用セル14を封止することができる。
【0045】
なお、本発明の太陽電池用封止膜は、図1に示したような単結晶又は多結晶のシリコン結晶系の太陽電池セルを用いた太陽電池だけでなく、薄膜シリコン系、薄膜アモルファスシリコン系太陽電池、セレン化銅インジウム(CIS)系太陽電池等の薄膜太陽電池の封止膜にも使用することもできる。この場合は、例えば、ガラス基板、ポリイミド基板、フッ素樹脂系透明基板等の表面側透明保護部材の表面上に化学気相蒸着法等により形成された薄膜太陽電池素子層上に、本発明の太陽電池用封止膜、裏面側保護部材を積層し、接着一体化させた構造、裏面側保護部材の表面上に形成された太陽電池素子上に、本発明の太陽電池用封止膜、表面側透明保護部材を積層し、接着一体化させた構造、又は表面側透明保護部材、表面側封止膜、薄膜太陽電池素子、裏面側封止膜、及び裏面側保護部材をこの順で積層し、接着一体化させた構造等が挙げられる。
【0046】
本発明の太陽電池に使用される表面側透明保護部材11は、通常珪酸塩ガラスなどのガラス基板であるのがよい。ガラス基板の厚さは、0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板は、一般に、化学的に、或いは熱的に強化させたものであってもよい。
【0047】
本発明で使用される裏面側保護部材12は、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリアミドなどのプラスチックフィルムが好ましく用いられる。また、耐熱性、耐湿熱性を考慮してフッ化ポリエチレンフィルム、特にフッ化ポリエチレンフィルム/Al/フッ化ポリエチレンフィルムをこの順で積層させたフィルムでも良い。
【0048】
なお、本発明の太陽電池(薄膜太陽電池を含む)は、表面側及び/又は裏面側に用いられる封止膜である。したがって、表面側透明保護部材、裏面側保護部材、および太陽電池用セルなどの前記封止膜以外の部材については、従来公知の太陽電池と同様の構成を有していればよく、特に制限されない。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0050】
[実施例1〜20、比較例1〜22]
表1〜5に示す配合で各材料をロールミルに供給し、70℃において混練して太陽電池用封止膜組成物を調製した。前記太陽電池用封止膜組成物を、70℃において、カレンダ成形し、放冷後、太陽電池用封止膜を作製した。
【0051】
<評価方法>
(1)初期のガラス接着力
3mmのフロートガラス上に上記の太陽電池用封止膜(厚さ0.6mm)を載置し、100℃に設定した真空ラミネーターで10分加圧して仮圧着した後、この積層体を155℃に設定したオーブンで45分架橋させた。この積層体について、JIS K 6854に従い、図2に示すように、ガラス板21と太陽電池用封止膜23との間の一部を剥離して、太陽電池用封止膜23を180°折り返して引張試験機(島津製作所社製、オートグラフ)を用いて引張速度100mm/分時の引き剥がし力をガラス接着力(N/cm)として測定した。
(2)耐湿熱性試験後のガラス接着力
(1)と同様にして作製した積層体を、85℃、85%の環境に設定した湿熱オーブン内に4000時間静置した後、ガラス接着力を(1)と同様にして測定した。
(3)発泡試験
上記太陽電池用封止膜(厚さ0.6mm)を、ガラス(表面側保護部材)/太陽電池用封止膜/太陽電池素子/太陽電池用封止膜/裏面側保護部材(ポリアミド樹脂製バックシート:ISOVOLTA社製、ICOSOLAR3554)の順で積層し、100℃に設定した真空ラミネーターで10分加圧して仮圧着した積層体を、155℃に設定したオーブンに入れ、フクレが発生するまでの時間を計測した。
(4)光線透過率
2枚の離型PET(厚さ100μm)で太陽電池用封止膜(厚さ0.6mm)を挟持した積層体を、90℃条件にて真空2分、プレス8分の真空ラミネーターによる仮圧着工程を経て、155℃に設定したオーブンにて45分間架橋させた。この積層体について、分光光度計(U−4100:日立製作所製)にて300〜1200nmのスペクトル測定を実施し、その平均値を光線透過率とした。
【0052】
結果を表1〜5に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
<評価結果>
表1及び2に示されているように、実施例1〜20の太陽電池用封止膜は、比較例と比べ、発泡が抑制され、初期の接着力が高く、耐湿熱性条件下での接着力の低下が小さいことが認められた。特に、架橋剤/シランカップリング剤の質量比が0.2〜0.5である実施例3,8,9,14,19及び20の封止膜は発泡が顕著に抑えられ、接着力が特に高いことが示されている。なお、表における架橋剤/シランカップリング剤の質量比の値は、小数点第2位を四捨五入した値である。また、実施例1〜20の太陽電池用封止膜の光線透過率は、従来から使用されているEVAを用いた封止膜(比較例1〜8)と同等の値を有しており、封止膜として使用するのに適していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、発電開始初期から長期間に亘り高い発電性能を維持することができる太陽電池を提供することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
11 表面側透明保護部材
12 裏面側保護部材
13A 表面側封止膜
13B 裏面側封止膜
14 太陽電池用セル
21 ガラス板
23 太陽電池用封止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、架橋剤及びシランカップリング剤を含む太陽電池用封止膜であって、
前記架橋剤の含有量が、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.05〜0.7質量部であり、前記シランカップリング剤の含有量が、前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体100質量部に対して0.1〜0.7質量部であり、
前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体におけるメタクリル酸メチルの含有率が25〜35質量%であることを特徴とする太陽電池用封止膜。
【請求項2】
前記シランカップリング剤に対する前記架橋剤の質量比が、0.2〜0.5であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項3】
前記架橋剤が、有機過酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項4】
前記有機過酸化物が、ジアルキルパーオキサイド系有機過酸化物であることを特徴とする請求項3に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項5】
前記シランカップリング剤が、メタクリロキシ系シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の太陽電池用封止膜を用いたことを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−190878(P2012−190878A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51068(P2011−51068)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】