説明

太陽電池用導電性ペースト

【課題】結晶系シリコン太陽電池のn型半導体(n型拡散層)にオーミック接触させる電極において、無鉛ガラスフリットを含有しても高い変換効率が安定して得られる太陽電池用導電性ペースト、および当該導電性ペーストを印刷して焼成してなる太陽電池用の集光電極、ならびに当該集光電極を備えた太陽電池を提供する。
【解決手段】バインダー樹脂、溶剤、ガラスフリット、および、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末を含有する太陽電池用導電性ペーストであって、Si系有機化合物を含有することを特徴とする太陽電池用導電性ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池用導電性ペーストに関し、より詳しくは、太陽電池用の集光電極の形成に使用される太陽電池用導電性ペースト、当該太陽電池用導電性ペーストを焼成してなる太陽電池の集光電極、当該集光電極を備えた太陽電池に関する。あるいは、特に結晶系シリコン太陽電池のn型半導体層上にオーミック性の受光面電極(集光電極)を形成するのに適した太陽電池用導電性ペースト、当該太陽電池用導電性ペーストを焼成してなる太陽電池の集光電極、当該集光電極を備えた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、結晶系Si太陽電池は、例えば図1に示すように、p型Si基板1、受光面の集光電極2、反射防止膜3、アルミニウムからなる裏面電極4から構成される。
その製造法の一例を挙げると、まず、p型Si基板1bの一方の表面にリン(P)を熱的に拡散させてn型拡散層1aをp型Si基板1bの一方の表面全面に形成させ、p型Si基板1を作製する。このn型拡散層1aのシート抵抗は数十Ω/□程度であり、その厚みは0.3〜0.5μm程度である。次に、このp型Si基板1のn型拡散層1aの表面を清浄化するためにエッチングする。次いで、プラズマCVD法等により、絶縁膜(反射防止膜3)として、窒化シリコン膜、酸化チタン、酸化珪素等の薄膜を、この順にn型拡散層1a上に700〜900Å形成する。
次に、受光面となる反射防止膜3上に集光電極2を形成する集光電極形成用銀ペーストを、一方p型Si基板1の裏面に、グリッド状あるいは所定のパターン状に裏面電極を形成するアルミニウムペーストおよび裏面電極形成用銀ペーストをそれぞれスクリーン印刷し、乾燥させる。その後、700℃〜900℃で数分から数十分間、近赤外炉中で焼成する。その結果、p型Si基板1の裏面側では、アルミニウムがp型Si基板1中に拡散し、アルミニウムの高濃度不純物を含んだP+層(Back Surface Field層)が形成される。また、焼成されたアルミニウムペーストおよび裏面電極形成用銀ペーストは、それぞれアルミニウムからなる裏面電極4および銀からなる裏面電極(図示しない)となり、これらの2つの裏面電極の境界は合金状態になり電気的に接続される。このようにしてアルミニウムペーストにより形成された裏面電極4はハンダ付けが不可能なため、銅箔等による太陽電池素子の相互接続のために裏面電極の形成にはアルミニウムペーストとともに銀ペーストが利用される。
【0003】
一方、表面電極用(集光電極形成用)銀ペーストは所定のパターンで反射防止膜3(絶縁膜)上に印刷され、絶縁膜である窒化シリコン膜を焼き付けにより溶融、貫通して、n型拡散層1a上にオーミック性電極を形成する方法(ファイアスルー)が広く用いられている。通常、このような用途に利用される銀ペーストとしては、銀粒子、ガラスフリット、バインダー、溶剤および各種添加物が混合、分散されたものが用いられており、集光電極形成用銀ペーストをp型Si基板1上に印刷した後、近赤外炉を使用して高速に焼き付けて、厚膜の集光電極2として形成される。そして、通常、この銀ペーストのような導電性ペーストに混合するガラスフリットは変換効率が高くなることから、Pb含有のガラスフリットが一般的に使用されている。
【0004】
ところで、近年、環境問題に対する意識が高まり、リード端子などに銅箔を接合させるハンダも鉛を含有しない無鉛ハンダへの移行が進み、ガラスフリットも、その含有量が微量であるとはいえ、無鉛ガラスフリットへの転換が迫られているのが実情である。
地球環境に影響がなく安全性が高い太陽電池に供する導電性ペーストとして、無鉛ハンダに対して良好な濡れ性を得る為に、導電性ペーストにBiを含有する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、無鉛ガラスフリットを含む銀ペーストを用いて、電極表面をハンダ等で被覆することなく、太陽電池素子用の基板との接着強度を確保し、且つ、その長期信頼性に優れた電極を、高い生産性で作製するための技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
上記技術は、材料の無鉛化に伴い、無鉛ガラスフリットを含有した導電性ペーストで形成された電極へのハンダ接合の強度、長期信頼性を目指した技術である。これら無鉛ガラスフリットを用いた導電性ペーストは、無鉛化を第1の目的として一応の成果をあげてはいるが、必ずしも太陽電池の変換効率の向上を目的とするものではなく、有鉛のガラスフリットを用いた場合と同様の良好な変換効率が得られていなかった。
【0005】
一方、n型拡散層上に形成された反射防止膜上にスクリーン印刷し、高速焼成され集光電極の形成に用いられる導電性ペーストは、そのペースト組成に様々な工夫がなされている。結晶系シリコン太陽電池の変換効率と電池特性の安定性に及ぼす電極の影響は大きく、特に集光電極の影響は非常に大きい。
電極性能の目安として、太陽電池の曲線因子(FF)がある。太陽電池の直列抵抗が高いとFFは小さくなる傾向にあるが、直列抵抗に影響を及ぼす要因の一つがp型半導体およびn型半導体の電極との接触抵抗である。このため、前記接触抵抗を下げ太陽電池の高い変換効率と安定な特性を得ることを目的に、太陽電池電極用導電性ペーストに様々な添加物を配合することがこれまでに提案されている。例えば、Sn化合物を導電性ペーストに含有させる技術(例えば、特許文献3参照)、導電性ペーストにY、InおよびMoから選ばれる金属やその化合物であって、0.01〜0.1μmの粒子状の添加物を添加する技術(例えば、特許文献4参照)が開示されている。
しかしながら、これらの先行文献に記載された導電性ペーストにおいては、添加されるガラスフリットは有鉛であり、地球環境に配慮がなされたものではない。このようにガラスフリットとして鉛を含むことなく、しかも焼成して太陽電池用の電極を形成した結果、電極の低い接触抵抗と、太陽電池の高い変換効率を達成するような太陽電池の電極用導電性ペーストは未だ開発されていない。
【特許文献1】特開平11−329072号公報
【特許文献2】特開2008−109016号公報
【特許文献3】特開2008−10527号公報
【特許文献4】特許第3853793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、結晶系シリコン太陽電池のn型半導体(n型拡散層)にオーミック接触させる電極において、無鉛ガラスフリットを含有しても高い変換効率が安定して得られる太陽電池用導電性ペースト、および当該導電性ペーストを印刷して焼成してなる太陽電池用の集光電極、ならびに当該集光電極を備えた太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般に、結晶系シリコン太陽電池において、n型半導体(n型拡散層)と接触する電極にはV族の元素であるリン(P)、ヒ素(As)等を、p型半導体(P+層)と接触する電極にはIII族の元素であるホウ素(B)等を存在させると、オーミック接触が改善されるといわれている。前者では、電極とn型半導体を接合させた場合、電極中のリン(P)等がn半導体に形成されるドナーとしての電子が増加する。後者では、電極とp型半導体を接合させた場合、電極中のホウ素(B)がP型半導体に形成される正孔が増加すると考えられる理由による。このような考察に基づくと、半導体であるシリコン基板と同一元素であるSi成分をガラスフリット以外に混合しても効果が得られないと考えられる。しかし、後述の実験から判明するようにn型半導体に接触する電極となる導電性ペーストにリン系有機化合物を配合させてもオーミック接触を低下させる改善はあまりみられない。その反面、本発明者等は、導電性ペースト中にシリコン基板と同一元素を有するSi系有機化合物を配合させた場合、太陽電池に優れた変化効率をもたらすことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明はバインダー樹脂、溶剤、ガラスフリット、および、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末を含有する太陽電池用導電性ペーストであって、Si系有機化合物を含有することを特徴とする太陽電池用導電性ペーストである。
また、本発明は、上記の導電性ペーストを印刷して焼成してなる太陽電池用の集光電極に関する。
さらに、本発明は、上記の集光電極を備えた太陽電池に関する。
【発明の効果】
【0009】
Si系有機化合物を太陽電池用導電性ペーストに混合すると、印刷の際には太陽電池用導電性ペーストのチキソ性の制御、にじみ防止、はじき防止等の機能を果たすため印刷精度を上げることができる。また、反射防止膜への接着性等が向上するため、まず第一に太陽電池の加工プロセスでのトラブルが少なくなる。一方、高温焼成時には、このようなSi系化合物中の有機成分は分解するので、直接、太陽電池の性能へのマイナスの影響は生じず、焼成後は導電性粉末(例えば、銀粒子)を主体とする焼結体である集光電極とSi半導体とがより密着して結合し接触抵抗が低減されると考えられ、そのため、高い変換効率の太陽電池を得ることができ、太陽電池の性能を向上させることができると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の太陽電池用導電性ペーストは、バインダー樹脂、溶剤、ガラスフリット、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末、及びSi系有機化合物を含有する。
以下、本発明の太陽電池用導電性ペーストの製造工程について詳細に説明するとともに、各工程において使用する各種材料について詳細に説明する。
【0011】
本発明の太陽電池用導電性ペーストの製造方法としては、バインダー樹脂、溶剤、ガラスフリット、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末、及びSi系有機化合物を含有する混合物を撹拌、分散し、分散液を作製する方法で行うことが出来る。
必要に応じて主たる導電性粉末以外のその他の導電性粉末、ZnO、TiO等の無機微粒子、界面活性剤、分散剤等を添加することができる。
また、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末や、ZnO、TiOの等の無機微粒子等の無機成分は、予め界面活性剤、分散剤等で表面処理してから用いても良い。
【0012】
本発明の太陽電池用導電性ペーストで使用する銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末としては、銀粒子、銀で表面被覆された金属粒子、または、これらの混合物を用いることができる。
銀粒子としては、球状、鱗片状、針状、樹枝状など任意の形状のものを用いることができる。
銀粒子の製造方法も特に制限されず、機械的粉砕法、還元法、電解法、気相法など任意である。
銀で表面被覆された金属粒子は、銀以外の金属からなる粒子の表面に、メッキなどの方法により銀の被覆層を形成したものである。
銀粒子としては、導電性とコスト面から見て、銀のみからなる球状銀粒子及び鱗片状銀粒子が好ましい。
【0013】
銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末の体積平均粒径は、好ましくは0.05〜10μm、より好ましくは0.05〜5μm程度である。
この導電性粉末として、体積平均粒径が異なる大小2種類またはそれ以上の導電性粉末を組み合わせて、導電性粉末の電極中での充填密度を向上させることにより、電極を構成する導電性膜の導電性を向上させてもよい。
【0014】
本発明の太陽電池用導電性ペーストで用いるガラスフリットは、どのようなものでも良く、無鉛ガラスフリットを用いることができる。
無鉛ガラスフリットを用いる場合、無鉛ガラスフリットは、鉛が含まれなければ特に限定されず、例えば、Bi−B−SiO−ZnO系、Bi−B−SiO−Al−ZnO−BaO系、Bi−B−SiO−ZnO−BaO系等が挙げられる。
ガラスフリットの形状・大きさは、特に限定されず、当該分野で公知のものを使用することができる。
ガラスフリットの形状としては、球状、不定形等が挙げられる。
ガラスフリットの平均粒子寸法は、作業性の点等から、0.01〜10μmが好ましく、より好ましくは0.05〜2μm、さらに好ましくは1〜2μmである。なおここで平均粒子寸法は、ガラスフリットが不定形の場合、最長の径のそれぞれ平均をいうものとする。
【0015】
本発明の太陽電池用導電性ペーストにおいては、十分な接着強度を確保するために、ガラスフリットは、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末100質量部に対して、0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部である。ガラスフリットの含有量がこの範囲であれば、良好な接着強度を得ることができる。
【0016】
本発明の太陽電池用導電性ペーストにおいては、バインダー樹脂を用いるが、このバインダー樹脂としては公知のバインダー樹脂を用いることができる。
バインダー樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ブチラール樹脂、フェノール樹脂をはじめ、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂;例えば、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系樹脂が挙げられ、これらの樹脂は単独で、あるいは2種類以上を混合して利用できる。これらバインダー樹脂は、想定している塗布方法に適合した、固形分比、粘度、チキソ性等、塗布適性に影響を及ぼす物性を考慮して、適宜選定することができる。
これらのバインダー樹脂の中でも、エチルセルロース樹脂とアクリル樹脂が好ましい。エチルセルロース樹脂とアクリル樹脂は、空気中でバインダー樹脂を分解、除去した後、ほぼ完全に分解し、炭素として焼結塗膜中に残留することが少ない。
本発明の太陽電池用導電性ペースト中のバインダー樹脂の含有量は、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末100質量部に対して0.01〜30質量部の範囲が好ましく、0.01〜15質量部の範囲がさらに好ましく、0.01〜5質量部の範囲が最も好ましい。
【0017】
本発明の太陽電池用導電性ペーストを作製するときに使用する溶剤は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、ベンジルアルコール、1−フェノキシ−2−プロパノール、テルピネオール(Terpineol)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルセロソルブ、ジグライム、ブチルカルビトール等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、炭酸ジエチル、TXIB(1−イソプロピル−2,2−ジメチルトリメチレンジイソブチレート)、酢酸カルビトール、酢酸ブチルカルビトール、2,2,4―トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチラート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド及びスルホン類;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,2−トリクロロエタン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族類等が挙げられる。これら溶剤は、想定している塗布方法の塗布適性や、使用するバインダー樹脂の分散性や溶解性、あるいは、塗布後の乾燥性等を考慮して適宜選定することができる。これらの溶剤はここに挙げたものに限定されるものではなく、その使用に際しては単独、或いは2種類以上混合して用いることができる。
本発明の太陽電池用導電性ペースト中の溶剤の含有量は、当該太陽電池用導電性ペーストを適当な基体表面に塗布あるいは印刷する工程がスムーズに実行できる程度に設定される。
【0018】
本発明の太陽電池用導電性ペーストに使用するSi系有機化合物としては、シランカップリング剤、各種ポリオルガノシロキサンを用いることが出来る。
ポリオルガノシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン等のポリアルキルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のポリアリールシロキサン、側鎖基や末端基にポリオキシアルキレン基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、水素、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基を有するようなオルガノポリシロキサン等の変性ポリシロキサンを用いることもできる。また、シロキサンユニットを有するブロックコポリマーや、シロキサンユニットを側鎖に持つグラフトコポリマーを用いることも出来る。これらSi系有機化合物の中ではシランカップリング剤、ポリジメチルシロキサン及びポリジメチルシロキサンのポリエーテル変性物からなる群のうちの一つ以上であることが好ましい。
シランカップリング剤は下記の一般式(I)で表されるものが好ましい。
3-nSiR−Y (I)
(但し、上記の一般式(I)中、Xはメトキシ基またはエトキシ基を表し、Yはビニル基、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、グリシドキシ基、ウレイド基、スルフィド基またはメタクリロキシ基を表し、Rは炭素数2〜5のアルキレン基または主鎖の原子数2〜5で主鎖に窒素原子を含有する2価の炭化水素基を表し、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。)
【0019】
Yはビニル基、アミノ基、エポキシ基及びメルカプト基が好ましく、アミノ基がさらに好ましい。
はエチレン基またはプロピレン基が好ましく、Rはメチル基またはエチル基が好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0020】
シランカップリング剤として具体的には、例えば、以下の(a)〜(c)グループのようなものを使用することがさらに好ましい。
(a)グリシドキシ基を有するもの:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、および2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトエリメトキシシラン、など、(b)アミノ基を有するもの:N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、および3−アミノプロピルトリエトキシシラン、など、(c)メルカプト基を有するもの:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、などが挙げられる。
製品名で言うと、DOW CORNING TORAY SH6020 SILANE(東レ・ダウコーニング株式会社製)(アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン(80質量%以上含有))、KSE−903、KBM−603(信越化学工業社製)等がある。
【0021】
ポリジメチルシロキサンは、製品名で言うと、KS−66(ジメチルシロキサン単位200〜350)(信越化学工業株式会社)等がある。
ポリジメチルシロキサンのポリエーテル変性物としては、下記の一般式(1)で表されるポリエーテル変性シリコーン共重合体が好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
但し、上記の一般式(1)中、Rは脂肪族不飽和基を含まない1価の炭化水素基を表し、R、RおよびRは脂肪族不飽和基を含まない1価の炭化水素基または次式:−YO(CO)p(CO)q R(式中、Yは不飽和基を含まない炭素原子数2ないし8のアルキレン基を表し、Rは脂肪族不飽和基を含まない1価の炭化水素基又は−Hを表し、pは1〜50の整数を表し、qは0〜50の整数を表す。)で表されるポリオキシアルキレン基を表すが、R、RおよびRの少なくとも1つは該ポリオキシアルキレン基を表し、xは0以上の整数を表し、yは1以上の整数を表し、x+yは1〜300の整数であり、シロキサンブロックは共重合体の15〜95質量%を構成し、そして、共重合体は少なくとも300の平均分子量を有する。
【0024】
具体的な製品名としては、BYK300、BYK301、BYK306、BYK307、BYK335、BYK330、BYK331、BYK341、BYK344、BYK346、BYK302、BYK164(全てビーワイケイ・ケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0025】
これらSi系有機化合物の中でもシランカップリング剤とポリジメチルシロキサンが好ましく、シランカップリング剤がさらに好ましい。
Si系有機化合物は、単独でも、2種以上併用してもよい。
また、Si系有機化合物の含有量は、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜5質量部であることがさらに好ましく、0.1〜3質量部であることが最も好ましい。
Si系有機化合物の含有量がこの範囲であると、配合の効果が十分得られやすい。
【0026】
Si系有機化合物は、通常、液体であり、このまま太陽電池用導電性ペーストに配合することができるが、太陽電池用導電性ペーストの製造方法において使用する溶剤に、あらかじめ溶解又は分散させて使用することもできる。
Si系有機化合物は、本発明の太陽電池用導電性ペーストの乾燥塗膜中に均一に存在することが好ましい。Si系有機化合物は、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末、ガラスフリット、無機微粒子等の当該導電性ペーストを構成する種々の粒子間に存在して、焼結時にSi基板と導電性粉末間との接触に好ましい介在物として機能すると考えられる。その結果、Si基板と電極との接触抵抗が低下して変換効率の向上につながると考えられる。
【0027】
また、当該導電性ペーストには、バインダー樹脂、溶剤、ガラスフリット、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末およびSi系有機化合物の他に、当該導電性ペーストを適当な基体表面に塗布あるいは印刷するために好適な物性とし、導電性粉末および必要に応じて添加される無機微粒子の分散を安定に保つために各種添加剤を適宜配合できる。
好適な添加剤としては、例えば、フタル酸エステル、燐酸エステル、脂肪酸エステル等の分散剤、グリコール類等の可塑剤、低沸点アルコール、無機微粒子等の添加剤などが挙げられる。
当該太陽電池用導電性ペーストにおける導電性粉末の分散性を良好にするために、当該導電性ペーストには分散剤を添加してもよい。
【0028】
上述のように、本発明の太陽電池用導電性ペーストには、高い変換効率を得る上で効果的であるZnO、TiO等の無機微粒子を併用してもよい。
これらの無機微粒子の形状・平均粒子寸法は特に限定されない。一般的な無機微粒子の形状としては、球形、不定形等が挙げられる。平均粒子寸法としては、分散性等の点から0.05〜1μmのものが好ましい。
これら無機微粒子は、当該導電性ペーストの焼成過程で導電性粉末の過度な焼結を防ぐことができる。また、焼成に伴い液化したガラスフリットの広がりを抑制し、導電性粉末がn型半導体表面と接触する場を作ることに寄与し、さらに、バインダー樹脂が分解して発生するCO等により還元されて半導体化し得ることも、集光電極と半導体との良好な接触を得るのに役立つと考えられている。
【0029】
さらに、この無機微粒子を配合する場合、これらの含有量は、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末100質量部に対して、0.5〜15質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜10重量部である。
無機微粒子の含有量がこの範囲であると、上記の配合の効果が十分得られやすい。
【0030】
本発明の太陽電池用導電性ペーストで使用される、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末および必要に応じて添加される無機微粒子は、その表面を界面活性剤で処理することが好ましい。
当該導電性粉末および必要に応じて添加される無機微粒子に使用する界面活性剤としては、通常使用される多くの種類の界面活性剤の中から選択して用いることができ、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤を例示することが出来る。
【0031】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物の塩、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、アルケニルコハク酸塩、アルカンスルフォン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステルおよびその塩、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルのリン酸エステルおよびその塩、等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、等が挙げられる。
陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、等が挙げられる。
これら界面活性剤の中でも、特にアルキルアミン系の界面活性剤が好ましい。
【0032】
アルキルアミン系の界面活性剤としては、アルキルアミンおよびアルキルアミン塩を好適に用いることができる。
アルキルアミン系の非イオン界面活性剤およびアルキルアミン塩系の陽イオン性界面活性剤は、それぞれ単独で使用しても有効であるが、特に併用することによって分散性がより良好となり効果が顕著である。
アルキルアミン系の界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルアミン型の界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルアミン型の界面活性剤がさらに好ましい。これらの中でも、以下の化学構造(2)を有するものがさらに好ましい。
【0033】
【化2】

【0034】
但し、上記の化学構造(2)中、a、bはそれぞれ1〜20の整数であり、Rは炭素数8〜20のアルキル基またはアルキルアリル基を表す。
一方、アルキルアミン塩系の界面活性剤としては、アルキルアミンの酢酸塩が好ましく、これらの中でも、以下の化学構造(3)を有するものがさらに好ましい。
【0035】
【化3】

【0036】
但し、上記の化学構造(3)中、Rは炭素数8〜20のアルキル基またはアルキルアリル基を表す。
【0037】
アルキルアミン系の界面活性剤およびアルキルアミン塩系の陽イオン性界面活性剤を単独、または混合して使用するとき、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末に対する界面活性剤の全配合量は導電性粉末の種類により適宜調整することができる。例えば、当該導電性粉末として、銀粒子を使用する場合、銀粒子に対する界面活性剤の配合量は、銀粒子の種類により若干調整の必要があるが、銀粒子100質量部に対して0.01〜3.00質量部が好ましく、0.05〜1.50質量部がさらに好ましい。
界面活性剤の全配合量が0.01質量部未満では、充分な分散性が得られ難くなる傾向がある。一方、界面活性剤の全配合量が3.00質量部を超えると、銀粒子の表面が厚く界面活性剤の有機成分に被覆され、焼成後の銀粒子同士の接触が得られ難くなり、導電性が低下する傾向がある。
アルキルアミン系の界面活性剤とアルキルアミン塩系の陽イオン性界面活性剤とを併用する場合は、アルキルアミン系の界面活性剤とアルキルアミン塩系の陽イオン性界面活性剤との混合比率は1:20〜1:5の範囲が好ましい。
【0038】
本発明の太陽電池用導電性ペーストにおいて、界面活性剤を用いる場合、分散液を酸性条件あるいはアルカリ性条件とすることが好ましい。これにより、界面活性剤を介して、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末の表面に界面電気2重層が生じ、分散安定性が得られる。この導電性粉末および必要に応じて添加される無機微粒子の表面電荷の符号に応じて、粒子間に斥力が働くようにして用いることが好ましい。
【0039】
本発明の太陽電池用導電性ペーストは、基本的に上記の太陽電池用導電性ペーストの基本構成成分を既述の配合量範囲で配合した混合物を作製し、さらに、必要に応じて各種添加剤を任意構成成分として添加した混合物を撹拌、分散、あるいは、必要に応じて前処理として混練を行ってペースト化し製造することができる。
【0040】
本発明の太陽電池用導電性ペーストを製造するにあたり、当該導電性ペーストの構成成分の混合物をペースト化するために使用しうる混練、分散手段としては、例えば、二本ロール、三本ロール、ボールミル、サンドミル、ペブルミル、トロンミル、サンドグラインダー、セグバリアトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミル、ニーダー、ホモジナイザー、超音波分散機等が挙げられ、これらを用いて混練、分散することができる。
【0041】
このように本発明の太陽電池用導電性ペーストを構成する成分を一度に混合して混合物を作製し、それらの混練、分散を行っても良いが、分散が困難な場合、それらの構成成分の一部に対しては、分散性を高めるために予め前処理を施したり、あるいはこれらの材料を予め混練、分散した分散体を作製しておき、その後、該分散体を残りの他の構成成分と混合して、本発明の太陽電池用導電性ペーストを作製してもよい。特に、本発明において使用する導電性粉末の中でも、銀粒子は比重が高く分散処理に困難を伴うので、このように分散性を高める手法を用いることが好ましい。
【0042】
本発明の太陽電池用導電性ペーストに用いる材料のうち、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末や必要に応じて添加される無機微粒子に対して、前述の前処理を行うときには、既述の界面活性剤や分散剤によって、導電性粉末や無機微粒子、ガラスフリット等の表面を処理する方法が好ましい。特に、銀粒子は比重が高いために沈降しやすく、予め分散性を高めるために銀粒子の表面に表面処理を行っておくことが好ましい。これら導電性粉末や必要に応じて添加される無機微粒子の、界面活性剤を用いた分散性の向上は、予め界面活性剤を導電性粉末の表面に吸着させることで行うことが好ましい。これら前処理は、導電性粉末、無機微粒子に対して別々に行っても良いが、それらのうちの幾つかを同時に行っても良い。
【0043】
これら銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末や無機微粒子に対する前処理は公知の方法で行うことが出来るが、導電性粉末等と界面活性剤を前処理用の溶剤に分散する分散工程で、導電性粉末の分散液を作製後、該分散液を乾燥させ、乾燥工程で溶剤を揮散させて行う方法を用いることが好ましく、乾燥工程で真空凍結乾燥法を用いることが特に好ましい。
上記の方法を用いると、特に、この導電性粉末や必要に応じて添加される無機微粒子が液相中で製造された場合、これら活性の高い導電性粉末等を効果的に、しかも場合により、それら導電性粉末等が製造されたときの液相のままで界面活性剤を添加し、その存在下で表面処理することができるため、処理が容易な上、これら導電性粉末等の本来の特性を充分に発揮させることができ好ましい。
【0044】
以下、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末等の好ましい前処理の方法について詳細を記載する。
(1)分散工程
本発明の太陽電池用導電性ペーストの製造において、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末の前処理を行う場合、導電性粉末と界面活性剤、あるいは必要に応じて無機微粒子等を溶剤中に添加し、攪拌機または分散機にかけて、導電性粉末等と界面活性剤との混合を行う。このとき、導電性粉末や無機微粒子等の解砕を同時に行える条件で撹拌または分散を行っても良い。
【0045】
より具体的には、本発明に使用する銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末、あるいは、必要に応じて添加される無機微粒子に対する界面活性剤による分散処理は、前記溶剤に界面活性剤を配合して、十分に溶解あるいは分散させた後、導電性粉末を配合することが好ましい。配合後、0.5〜4.0時間分散すると、導電性粉末等が1次粒子へと解砕され、界面活性剤と導電性粉末および必要に応じて添加される無機微粒子とが吸着平衡に達する。
【0046】
このように、例えば、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末、界面活性剤、あるいは必要に応じて添加される無機微粒子と、溶剤とを所望の割合で混合して、分散手段により分散させた導電性粉末等の分散液を得ることができる。
分散液中の導電性粉末等の濃度範囲は、撹拌や分散に用いられる装置に合わせて適宜設定することができるが、次工程で凍結乾燥を行う場合、導電性粉末の分散液中の固形分濃度の範囲は、0.5〜80質量%が好ましく、特に、1〜50質量%が好ましい。
【0047】
ここで、分散工程に用いる溶剤としては、特に限定されないが、例えば、水、水溶性溶剤、または、水と水溶性溶剤との混合物(水溶液)が用いられる。
水溶性溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール;エチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテルなどのアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテルなどのアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物などが挙げられる。
【0048】
銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末の前処理において、導電性粉末等、界面活性剤および溶剤との分散液を乾燥して、前処理した導電性粉末を得るための乾燥法として真空凍結乾燥を使用するときには、乾燥工程についての後述する理由により、上記溶剤の中から真空で凍結乾燥し易い溶剤を選択し、分散工程の溶剤として使用することが好ましく、特に使用する溶剤の凝固点が−40℃以上であることが好ましい。
分散工程に用いる溶剤は、ここに挙げたものに限定されるものではなく、その使用に際しては単独で使用してもよいし、2種類以上の溶剤を適宜選択し混合して使用することができる。
分散工程において使用可能な攪拌機または分散機としては、特に限定されず、後述の公知の攪拌機または分散機の中から適宜選択して使用することができる。
【0049】
(2)乾燥工程
以上の分散工程によって、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末及び必要に応じて添加される無機微粒子と界面活性剤と溶剤を含有する分散液は、乾燥工程によって溶剤を揮散させ、界面活性剤で表面処理された導電性粉末等を得る。
乾燥工程においては、界面活性剤が熱変化や化学変化を受けないものであれば公知の方法がいずれも適用できるが、特に真空凍結乾燥法による乾燥方法は、分散液を高温にすることなく溶剤を昇華させるため、導電性粉末や無機微粒子が凝集することが少なく、また界面活性剤が偏在することも少ない点で好ましい。
【0050】
以下、真空凍結乾燥法を利用した乾燥工程についてさらに詳細に記載する。
真空凍結乾燥法を利用した乾燥工程においては、基本的に低温状態で凍結した分散液から、溶剤のみが昇華除去される。溶剤に溶出して失われる界面活性剤がないため、界面活性剤のほとんど全てが処理後の導電性粉末および必要に応じて添加される無機微粒子の表面に残留する。分散液中において、界面活性剤は導電性粉末および必要に応じて添加される無機微粒子の表面付近に局在しており、溶剤のみが除去される真空凍結乾燥の実施時に、該界面活性剤が導電性粉末および必要に応じて添加される無機微粒子の表面に一様に吸着した状態で当該導電性粉末等を取り出せる可能性が高く、しかも、真空凍結乾燥以外の通常の方法にて溶剤を除去する時のように、当該導電性粉末等が凝集することがなく、極めて効率的な処理方法といえる。このように使用した界面活性剤全てが導電性粉末等の表面に残留して、表面処理された導電性粉末等が効率的に形成されるため、当該導電性粉末等に対する界面活性剤の効果と使用量の関係を把握し易く、当該導電性粉末等の使用量に対する界面活性剤の使用量の最適化が行いやすい。
【0051】
界面活性剤の分子は、当該分子中に親水基側と疎水基側を有するものであることが好ましく、分子がこのような構成を有することで、当該分子中に含まれる親水基側の末端で導電性粉末等の表面に吸着するため、当該分子中に含まれる疎水基側の末端が導電性粉末の表面に対して外側を向くことになる。これにより、前処理をした導電性粉末等を使用して本発明の太陽電池用導電性ペーストを作製した場合、導電性ペースト中に含まれる当該導電性粉末等とバインダー樹脂との親和性が向上し、界面活性剤を介して導電性粉末等の表面にバインダー樹脂が吸着され、これら導電性粉末等の表面を被覆する。その結果、導電性粉末等の分散性が改善される。また、導電性粉末等の表面に吸着したバインダー樹脂による立体障害効果のため、導電性粉末等の凝集が抑制され、1次粒子に分散された状態を持続することができる。
【0052】
乾燥工程において凍結真空乾燥法を使用する場合、例えば、導電性粉末、必要に応じて添加される無機微粒子、水、及び界面活性剤を含む分散液の場合には、当該分散液を大気圧で0℃以下に予備凍結し、理論上は0℃における水の蒸気圧4.5mmHg(=600Pa)を超えないように真空度をコントロールすれば良い。乾燥速度のコントロールのし易さを加味すれば、真空度を1mmHg(=133.32Pa)以下にして、その蒸気圧での融点(凝固点)まで、温度を上げることが好ましい。
このように真空凍結乾燥による乾燥方法では、真空中で分散液に含まれる溶剤を昇華蒸発させ、乾燥するため、乾燥による収縮がわずかであり、導電性粉末等の凝集が発生し難くい。また、熱風乾燥のように高温で試料内での例えば水などの液体成分を移動させつつ行う乾燥ではなく、固体の凍った状態から昇華により直接的に低温乾燥するため、液体成分の移動を伴う乾燥のような部分的成分濃縮、部分的成分変化がほとんど無く好ましい。
【0053】
前記分散工程および乾燥工程によって、界面活性剤が表面に吸着した導電性粉末等(前処理をした導電性粉末等)を用いて、本発明の太陽電池用導電性ペーストを製造するためには、界面活性剤が表面に吸着した導電性粉末等と、Si系有機化合物、ガラスフリットおよびバインダー樹脂と、溶剤とを混合して、適当な分散機を用いて本発明の太陽電池用導電性ペーストを作製することができる。
なお、前述のように導電性粉末等の表面に界面活性剤が吸着しているので、導電性粉末等の凝集もなく、従って、本発明の太陽電池用導電性ペーストの構成成分を混合して簡単な攪拌操作を行うだけで、本発明の太陽電池用導電性ペーストを得ることができる。
【0054】
すなわち、例えば、太陽電池を構成するp型Si基板上に形成されるn型拡散層の表面に、本発明の太陽電池用導電性ペーストを用いて集光電極を形成する場合、本発明の太陽電池用導電性ペーストを印刷する直前に、当該導電性ペーストの必要構成成分を添加して簡単な撹拌操作を行うことで、分散性が良好な太陽電池用導電性ペーストが得られるため、印刷装置に付随する塗料調整用設備は簡単なもので良い。しかし、分散をより確実に行うためには、既述の混練装置や分散装置を用いて混練処理、分散処理を行っても良い。
【0055】
上述の方法により分散が完了した本発明の太陽電池用導電性ペーストは、太陽電池用導電性ペーストとして一般的には公知慣用の塗布方法、または、印刷方法によって半導体基板上に印刷し、これを加熱、焼成して集光電極を形成することができる。
塗布方法としては、種々の塗布方法により塗布物として形成することができる。例えば、ディップコート、あるいは、公知のロール塗布方法等、具体的には、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押し出しコート、エアーナイフコート、スクイズコート、含侵コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート等により電子素子や基体上に塗布物を形成することができる。
また、各種印刷方法を適用することも可能である。印刷方法にはまた、凹版印刷のように最適粘度領域が比較的低粘度領域にあるものと、スクリーン印刷のように高粘度領域にあるものとが存在する。具体的には、孔版印刷方法、凹版印刷方法、平版印刷方法などを用いて基体上に所定の大きさに塗布物を印刷することができる。
【0056】
本発明の太陽電池用導電性ペーストは、太陽電池の集光電極の製造に使用することができ、n型半導体に対し良好な接触を得ることができるため、n型半導体(例えば、n型拡散層)上の集光電極を形成するために有用である。
【0057】
本発明の太陽電池用導電性ペーストを用いて太陽電池の集光電極の製造及び太陽電池の製造を行うためには、以下のような方法で行うことができる。
以下、図1を用いて、太陽電池の集光電極の製造方法及び太陽電池の製造方法の一例を説明する。
まず、p型Si基板1bの一方の表面に、場合によりテクスチャを形成し、その後、P(リン)等を約900℃で熱拡散させて、n型拡散層1aを形成し、p型Si基板1を得る。
次いで、n型拡散層1a上に、窒化ケイ素薄膜、酸化チタン等からなる反射防止膜3をプラズマCVD法等によって50〜100nmの膜厚で形成する。
次いで、光入射側の集光電極を形成するために、本発明の太陽電池用導電性ペーストを反射防止膜3上に膜厚約20μmでスクリーン印刷し、乾燥させる。
次に、裏面側の電極を形成するために、裏面電極形成用アルミニウムペーストを、膜厚30〜50μmでスクリーン印刷により、p型Si基板1の裏面に印刷し乾燥させる。
次いで、このようにp型Si基板の表面および裏面の両面に電極を印刷したp型Si基板1を最高焼成温度750〜850℃で焼成して、光入射側の集光電極2及びアルミニウムからなる裏面電極4を備えた太陽電池セルを得る。
なお、裏面側の電極を形成するに際しては、裏面電極形成用アルミニウムペーストをp型Si基板1の裏面に印刷し乾燥した後、必要に応じて、その上にさらに裏面電極形成用銀ペーストを印刷し乾燥して焼成し、アルミニウムからなる裏面電極4と銀からなる裏面電極(図示しない)を形成することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(銀粒子の表面処理物(b1)の作製)
まず、本発明の太陽電池用導電性ペーストの作製に先立ち、以下に示す方法で界面活性剤による導電性粉末の前処理を行なう。
<分散工程>
導電性粉末として50%D径1.4〜2.5μmの銀粒子(商品名:SPN10JS、三井金属社製) 50g、アルキルアミン塩の陽イオン性界面活性剤としてココナットアミンアセテートの10質量%水溶液を4g、アルキルアミンの界面活性剤としてポリオキシエチレンココナットアルキルアミンエーテルの10質量%水溶液を0.4g、溶剤である水50g、及び2mm径のジルコニアビーズ400gを容積250mlのポリ瓶に入れて混合し、回転機(ボールミル)を用いて4時間練肉して、銀粒子の分散液(a1)を得た。
【0060】
<乾燥工程>
この銀粒子の分散液(a1)を底面の寸法200mmL×150mmWの平型トレイに100g移し、予備凍結乾燥した後、凍結真空乾燥を行った。
凍結真空乾燥機としては、日本真空社製の「DFM−05AS」を用いた。
予備凍結した銀粒子の分散液(a1)を、予め約−40℃に冷却した棚に載せて、真空度7〜10Paで20時間の凍結真空乾燥後、嵩高のスポンジ状乾燥物として銀粒子の表面処理物(b1)50gを得た。これは界面活性剤で前処理された導電性粉末に相当する。
【0061】
(銀粒子の表面処理物(b2)の作製)
陽イオン性界面活性剤の代わりに、リン酸エステル系の陰イオン性界面活性剤として、プライサーフA215C(第1工業製薬社製)を銀粒子に対して1質量%混合する以外は、銀粒子の表面処理物(b1)と同様にして、銀粒子の表面処理物(b2)50gを得た。この銀粒子の表面処理物(b2)も界面活性剤で前処理された導電性粉末に相当する。
【0062】
「実施例1」
(太陽電池用導電性ペーストの製造)
以下の配合の混合物を3本ロールで練肉することにより太陽電池用導電性ペーストを調製した。
調製した太陽電池用導電性ペーストの粘度を、TVE−20H型回転粘度計(東機産業社製)で測定した。
銀粒子の表面処理物(b1) 100 部
エチルセルロース樹脂 2.5 部
無鉛ガラスフリット 5.0 部
(Bi−B−SiO−Al−ZnO−BaO系)
ZnO粉(球形 D50径 700nm) 5.0 部
カオーワックス85P(花王社製) 1.0 部
シランカップリング剤(アミノ型) 1.0 部
(東レ・ダウコーニング社製 DOW CORNING TORAY SH6020 SILANE)
フタル酸ジノルマルブチル(DBP) 2.5 部
テキサノール/1−フェノキシ−2−プロパノール(混合溶剤) 15.05部
【0063】
「実施例2〜5、比較例1〜4」
表1に示すように、前処理済の銀粉末(銀粒子の表面処理物(b1)および(b2))、あるいは未処理の銀粉末を用い、バインダー樹脂、無鉛ガラスフリット、溶剤、Si系有機化合物、及び必要に応じて各種添加剤を配合した混合物を、3本ロールで混練して太陽電池用導電性ペーストを調製した。
実施例2のポリジメチルシロキサンとしては、KS−66(ジメチルシロキサン単位200〜350、信越化学工業社製)を、実施例3のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとしては、BYK330(ビーワイケイ・ケミー・ジャパン社製)を用いた。
実施例4と実施例5のシランカップリング剤としては、実施例1で用いたものと同じものを用いた。
【0064】
(太陽電池の作製及び変換効率の測定)
B(ボロン)をドープしたP型多結晶シリコン基板(大きさ150mm×150mm、基板厚み200μm)の表面に、ウエットエッチングによってテクスチャを形成した。
その後、P(リン)を熱拡散させて、n型拡散層(厚み0.3μm)を形成した。
次いで、n型拡散層の上にプラズマCVD法によって、シランガスとアンモニアガスから窒化ケイ素薄膜(厚み約60nm)からなる反射防止膜を形成した。
実施例1〜5、比較例1〜4で調製した太陽電池用導電性ペーストを用いて、スクリーン印刷(325メッシュ、ワイヤ径28μm、乳剤厚10μm)により、反射防止膜上に、膜厚が10〜20μmになるように印刷し、乾燥して、この導電性ペーストからなるバス電極とフィンガー電極からなる電極パターンを形成した。バス電極、フィンガー電極の乾燥膜厚は太陽電池用導電性ペーストの構成によって差違があるが、いずれも滲みやはじきのない良好な電極パターンを印刷できた。
次に、裏面電極形成用アルミニウムペースト(商品名:08−6429、東洋アルミニウム社製)を、スクリーン印刷により、P型多結晶シリコン基板の裏面に、膜厚が30〜50μmになるように印刷し、乾燥した。
その後、P型多結晶シリコン基板の両面に形成された各種電極用ペーストを印刷・乾燥させた基板を、赤外炉で、最高焼成温度750〜850℃で焼成して、光入射側の集光電極及びアルミニウムからなる裏面電極を備えた太陽電池セルを得た。
実施例1〜5の太陽電池用導電性ペーストを用いて太陽電池を作製するにあたっては、形成された集光電極は十分な接着強度を有し、いずれも加工プロセスでトラブルを起こすことが無かった。
また、フィンガー電極の厚みを、レーザ顕微鏡(商品名:VK−9500、キーエンス社製)によって測定した。
【0065】
太陽電池セルの電流−電圧特性を、ソーラーシミュレータ(商品名:WXS−155S−10、ワコム電創社製)のもとで測定し、変換効率を測定した。
【0066】
実施例1〜5または比較例1〜4において使用した太陽電池用導電性ペーストの組成を、下記の表1に示す。また、表1に変換効率の値を示す。
本発明の太陽電池用導電性ペーストを使用した実施例1〜5は、いずれも、Si有機化合物を含有しない従来の太陽電池用導電性ペーストを使用した比較例1〜4に比べて、良好な変換効率を示した。
【0067】
【表1】

【0068】
表1から判るように、Si系有機化合物を含有する実施例1〜5で示される本発明の太陽電池用導電性ペーストを用いた太陽電池は、これを使用していない比較例1〜4で示される従来の太陽電池用導電性ペーストを用いた太陽電池より高い変換効率を示した。特に、実施例1、2に示すように、アルキルアミン系の界面活性剤で表面処理した銀粒子の表面処理物(b1)を用い、Si系有機化合物としてシランカップリング剤またはポリジメチルシロキサンを含有する太陽電池用導電性ペーストを用いた場合に高い変換効率を得ることができ、中でも実施例1のシランカップリング剤を含有する太陽電池用導電性ペーストを用いた場合の変換効率が最も優れていた。
また、実施例2、3と実施例5、また、比較例1と比較例2〜4におけるフィンガー電極厚の比較から、アルキルアミン系の界面活性剤で表面処理した銀粒子の表面処理物(b1)を用いた場合、リン酸エステル系の界面活性剤で表面処理した銀粒子の表面処理物(b2)を用いた場合や、全く表面処理しなかった銀粉末を用いた場合に比べて、チキソ性が向上しやすく、電極パターンを印刷する際にスクリーン印刷の網目を良好に通過して、膜厚の厚い電極を形成することができる傾向にあるため、これらの寄与もあって高い変換効率を示していると考えられるが、Si系有機化合物を用いた導電性ペーストはさらに変換効率を向上させた。特に、実施例1と実施例2のシランカップリング剤を含有する太陽電池用導電性ペーストを用いたものは、フィンガー電極厚が低下しているにもかかわらず高い変換効率を示し、シリコン基板に対する接触抵抗の低下が実現できている可能性が高いことが判った。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】太陽電池の基本構造を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 p型Si基板
1a n型拡散層
1b p型Si基板
2 集光電極
3 反射防止膜
4 裏面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、溶剤、ガラスフリット、および、銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末を含有する太陽電池用導電性ペーストであって、Si系有機化合物を含有することを特徴とする太陽電池用導電性ペースト。
【請求項2】
前記Si系有機化合物を前記銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末100質量部に対して0.01〜5質量部含有する請求項1に記載の太陽電池用導電性ペースト。
【請求項3】
前記Si系有機化合物は、シランカップリング剤、ポリジメチルシロキサンおよびポリジメチルシロキサンのポリエーテル変性物からなる群のうちの一つ以上である請求項2に記載の太陽電池用導電性ペースト。
【請求項4】
前記ガラスフリットは鉛を含まない請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用導電性ペースト。
【請求項5】
前記銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末は、溶剤、前記銀または銀化合物を主成分とする導電性粉末及び分散剤を含有する混合液を真空凍結乾燥することによって、前処理したものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池用導電性ペースト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池用導電性ペーストを、太陽電池を構成する単結晶または多結晶のSi基板上に形成された反射防止膜上に印刷し焼成することにより形成された太陽電池の集光電極。
【請求項7】
単結晶または多結晶のSi基板と、前記Si基板の一方の面に形成された反射防止膜と、前記反射防止膜上に形成された集光電極と、前記Si基板の他方の面に形成された裏面電極とから構成される太陽電池において、前記集光電極が請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池用導電性ペーストにより形成されたものである太陽電池。


【図1】
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【公開番号】特開2010−87251(P2010−87251A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254821(P2008−254821)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】