説明

太陽電池

【課題】内部にTTAによるアップコンバージョン機構を採用した太陽電池を提供する。
【解決手段】太陽電池10は、n型半導体を有する光透過性の光電極20とn型半導体に対向するよう配置された対極30との間に、酸化還元対となる化学種を含む電解液40を保持し、光電極20と対極30との間には、エミッタとセンシタイザとが存在している。そして、センシタイザは、エミッタの励起光の波長よりも長波長の光によって励起一重項状態へ遷移したあと項間交差によって励起三重項状態になる。続いて励起三重項状態のセンシタイザがエネルギー移動によってエミッタへエネルギーを渡すことでエミッタが励起三重項状態に遷移する。その後エミッタ同士の三重項−三重項消滅により励起一重項状態のエミッタが生成し、該励起一重項状態のエミッタを経由して電子がn型半導体へ移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三重項−三重項消滅(TTA:triplet-triplet annihilation)によるアップコンバージョンを利用したデバイスの研究開発が進みつつある。通常アップコンバージョンは、低エネルギー(長波長)の光子2個が高エネルギー(短波長)の光子1個に変換される現象を指すが、ここではより広義である、低エネルギーの光子2個から高エネルギーの電子正孔対1組が生成される現象をアップコンバージョン機構と呼ぶことにする。その後、高エネルギーの電子正孔対1組が再結合して高エネルギー(短波長)の光子1個が生成されれば、通常のアップコンバージョン(光−光変換)が生じる。また、この高エネルギーの電子正孔対を外部へ取り出すことができれば、高電圧の太陽電池となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、エネルギーのアップコンバータが開示されている。このアップコンバータは、図6に示すように、LED光源と色素増感型太陽電池(DSSC:Dye Sensitized Solar Cell)との間に配置され、センシタイザとエミッタとを含み、LED照射器から発せられた低エネルギー(長波長)の光を高エネルギー(短波長)の光に変換して変換後の光をDSSCへ照射するのに用いられる。こうしたアップコンバージョンは、三段階の連鎖であると考えられている。第1の段階は、センシタイザが励起一重項状態へ遷移したあと励起三重項状態になる項間交差(ISC:Inter System Crossing)であり、第2の段階は、励起三重項状態のセンシタイザのエネルギーがエミッタへ移動することでエミッタが励起三重項状態へ遷移する過程(TTT:Triplet-Triplet Transfer)であり、第3の段階は、励起三重項状態のエミッタ同士の間におけるTTAである。
【0004】
また、非特許文献1には、中間バンド太陽電池(IBSC:Intermediate Band Solar Cell)と同等の機能を持つ太陽電池が紹介されており、その中でTTAによるアップコンバージョン機構が利用されている。この非特許文献1には、色素増感型太陽電池がIBSCの理想形であること、色素増感型太陽電池では増感色素から酸化チタンへの電子移動が起こるが、IBSCではエミッタが従来の色素増感型太陽電池におけるルテニウム系色素の代わりになること、三重項センシタイザが中間レベルを形成すること等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011−505479号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Applied Physics Letters, vol.93, 063507(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、太陽電池の内部にTTAによるアップコンバージョン機構を採用した具体例については、未だ報告されていない。すなわち、特許文献1には、太陽電池の外部にアップコンバータを配置しているため、アップコンバータが発光するエネルギーを太陽電池が吸収する効率が小さいという問題があった。また、非特許文献1には、色素増感型太陽電池における色素の代わりにエミッタを用いる点は開示されているが、具体的にエミッタやセンシタイザをどのように用いるかについては記載されていない。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、内部にTTAによるアップコンバージョン機構を採用した太陽電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の太陽電池は、
n型半導体又はp型半導体を有する光透過性の光電極と前記n型半導体又は前記p型半導体に対向するよう配置された対極との間に、酸化還元対となる化学種を含む電解液を保持した太陽電池であって、
前記光電極と前記対極との間には、エミッタとセンシタイザとが存在し、
前記センシタイザは、前記エミッタの励起光の波長よりも長波長の光によって励起一重項状態へ遷移したあと項間交差によって励起三重項状態になり、続いて励起三重項状態の前記センシタイザがエネルギー移動によって前記エミッタへエネルギーを渡すことで前記エミッタが励起三重項状態に遷移し、その後前記エミッタ同士の三重項−三重項消滅により励起一重項状態の前記エミッタが生成し、該励起一重項状態の前記エミッタを経由して電子が前記n型半導体へ移動するか又は正孔が前記p型半導体へ移動する
ものである。
【0010】
本発明の太陽電池では、エミッタの励起光の波長よりも長波長の光によって、TTAによるアップコンバージョン機構により生成する励起一重項状態のエミッタを経由して電子がn型半導体へ又は正孔がp型半導体へ移動する。このため、エミッタによる光吸収だけでなく、センシタイザによる光吸収も太陽光発電に寄与するため、電池特性が向上する。
【0011】
ここで、「励起一重項状態のエミッタを経由して電子がn型半導体へ移動するか又は正孔がp型半導体へ移動する」とは、励起一重項状態のエミッタの電子が直接n型半導体へ又は正孔が直接p型半導体へ移動する場合のほか、励起一重項状態のエミッタのエネルギーが他の分子に移動して該分子が励起され該励起状態の電子がn型半導体へ又は正孔がp型半導体へ移動する場合を含む。
【0012】
本発明の太陽電池において、エミッタは、n型半導体又はp型半導体の表面に吸着しており、センシタイザは、電解液に溶解していてもよい。こうすれば、経時によってセンシタイザが劣化した場合には、センシタイザを溶解した電解液を古いものから新しいものに取り替えるだけで電池特性が改善される。
【0013】
本発明の太陽電池において、エミッタとセンシタイザは、いずれも電解液に溶解していてもよい。こうすれば、経時によってエミッタ又はセンシタイザが劣化した場合には、エミッタとセンシタイザを溶解した電解液を古いものから新しいものに取り替えるだけで電池特性が改善される。
【0014】
本発明の太陽電池において、n型半導体又はp型半導体の表面に増感色素が吸着しており、エミッタとセンシタイザは、いずれも電解液に溶解していてもよい。こうすれば、経時によってエミッタ又はセンシタイザが劣化した場合には、エミッタとセンシタイザを溶解した電解液を古いものから新しいものに取り替えるだけで電池特性が改善される。本発明の太陽電池において、エミッタがn型半導体又はp型半導体の表面に吸着しており、センシタイザが電解液に溶解している場合には、エミッタは、センシタイザからTTTが起こり、且つ、n型半導体への電子移動あるいはp型半導体への正孔移動が起こるような2つの機能を持つことが必要だが、n型半導体又はp型半導体の表面に増感色素が吸着しており、エミッタとセンシタイザとがいずれも電解液に溶解している場合には、エミッタと増感色素とはそれぞれの機能を持てば十分であるため、分子設計の自由度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態の太陽電池10の構成の概略を示す断面図である。
【図2】TTAによるアップコンバージョン機構の概念を示した説明図である。
【図3】第2実施形態の太陽電池110の構成の概略を示す断面図である。
【図4】第3実施形態の太陽電池210の構成の概略を示す断面図である。
【図5】波長と量子効率(IPCE:Incident photon-to-current efficiency)との関係を表すグラフである。
【図6】従来例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
本発明の太陽電池の第1実施形態を図面を用いて以下に説明する。図1は、太陽電池10の構成の概略を示す断面図である。
【0017】
太陽電池10は、n型半導体を有する光透過性の光電極20と、n型半導体に対向するよう配置された対極30と、光電極20と対極30との間に保持された電解液40とを備え、光電極20と対極30との間にエミッタ52とセンシタイザ54とが存在しているものである。
【0018】
光電極20は、透明基板22の片面に透明導電膜23が形成された透明導電性基板21と、透明導電膜23を覆うように形成された半導体層24とを備えている。透明基板22としては、例えば、透明ガラス、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体などが挙げられ、このうち、透明ガラスが好ましい。この透明基板22は、表面を適当に荒らすなどして光の反射を防止したものとしてもよいし、すりガラス状にしてもよい。透明導電膜23としては、例えば、酸化スズ膜、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)膜などが挙げられる。半導体層24としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドミウム(CdS)、硫化亜鉛(ZnS)のうち少なくとも1つのn型半導体を含む層のほか、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、銅アルミ酸化物(CuAlO2)、酸化コバルト(CoO)のうち少なくとも1つのp型半導体を含む層が挙げられる。この半導体層24は、多孔質の層であることが好ましい。
【0019】
対極30は、基板32に導電膜33が形成され、更に導電膜33に触媒層34が形成されたものであり、触媒層34が光電極20の半導体層24と対向するように配置されている。基板32としては、例えば、透明ガラス、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体などが挙げられ、このうち、透明ガラスが好ましい。但し、基板32は、透明なものに限らず、不透明なものであってもよい。導電膜33としては、導電性を有するものであればよく、例えば、酸化スズ膜、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)膜などが挙げられる。触媒層34としては、電解液40に含まれる酸化還元対の酸化体に電子を付与して還元体にする還元反応を速やかに進行させる触媒活性を有するものであればよく、例えば、貴金属(Pt,Pd,Rh,Ir,Os,Au,Ag)の膜や導電性炭素材料の膜などが挙げられる。
【0020】
電解液40は、溶媒に酸化還元対になる化学種を溶解したものである。この電解液40は、光電極20と対極30との間の空隙の周囲をシール材50で取り囲んでできた密閉空間に注入されている。電解液40の溶媒としては、酸化還元対になる化学種を溶解可能なものであればよく、例えば、メトキシプロピオニトリルやアセトニトリルのようなニトリル化合物、γ−ブチロラクトンやバレロラクトンのようなラクトン化合物、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートのようなカーボネート化合物、クロロホルムやジクロルエタンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。酸化還元対としては、例えば、I3-/I-系の電解質、Br3-/Br-系の電解質、ハイドロキノン/キノン系の電解質などが挙げられるが、このうち、I3-/I-系の電解質が好ましい。I3-/I-系の電解質を構成する化学種としては、ヨウ素(I2)とヨウ化物との組合せが挙げられる。ヨウ化物としては、プロピルメチルイミダゾリウムヨージドやジメチルプロピルイミダゾリウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、ヨウ化リチウムなどが挙げられる。シール材50は、シール機能を有し、電解液40や電解液40に含まれる成分に対して不活性な材料からなるものであればよく、例えばポリオレフィン系樹脂製のものなどが挙げられる。
【0021】
こうした太陽電池10の光電極20と対極30との間には、エミッタ52とセンシタイザ54とが存在している。具体的には、エミッタ52は、光電極20の半導体層24に吸着している。このエミッタ52は、n型半導体と結合可能な官能基を有しており、その官能基を介してn型半導体に吸着している。そのような官能基としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸、シアノ基、アミン、水酸基などが挙げられる。一方、センシタイザ54は、電解液40に溶解している。
【0022】
ここで、エミッタ52としては、BODIPY系色素(BODIPY−FLなど)、インドリン系色素(D131,D149,D205,D358など)、カルバゾール系色素(MK2など)、クマリン系色素(C343,NKX−2587,NKX−2677など)、スクワリリウム系色素(SQ2など)及びルテニウム錯体(Ruthenizer470(Ru470),N719,Z907など)からなるエミッタ群より選ばれたもの好ましい。例示した化合物の構造式を下記の化1及び化2に示す。また、センシタイザ54としては、金属錯体(金属はZn,Cu,Fe,Pd,Pt,Ni,Co,Ruなどの重原子)、金属ポルフィリン系色素(PtTPTBP,PdTPTBPなど)、金属フタロシアニン系色素(CuPc,ZnPcなど)及び金属ナフタロシアニン系色素(CuNc,ZnNcなど)からなるセンシタイザ群より選ばれたものが好ましい。例示した化合物のうち主なものの構造式を下記の化3に示す。なお、化3には示さなかったが、PdTPTBPはPtTPTBPのPtがPdになったもの、ZnPcはCuPcのCuがZnになったもの、ZnNcはCuNcのCuがZnになったものである。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
エミッタ52とセンシタイザ54との組合せは、上述したエミッタ群から一つ以上、上述したセンシタイザ群から一つ以上を選択するが、TTAによるアップコンバージョン機構が起きるように選択する。また、エミッタ52の吸収波長領域がセンシタイザ54の吸収波長領域よりも低くなるように選択する。こうした組合せの例(エミッタ/センシタイザ)を以下に示す。
(1)BODIPY/PtTPTBP(又はPdTPTBP)
(2)D131/PtTPTBP(又はPdTPTBP)
(3)D131/CuPc(又はZnPc)
(4)D131/CuNc
(5)D149/CuPc(又はZnPc)
(6)D149/CuNc
(7)MK2/CuPc(又はZnPc)
(8)MK2/CuNc
(9)SQ2/CuNc
(10)Ru470/PtTPTBP(又はPdTPTBP)
(11)Ru470/CuPc(又はZnPc)
(12)Ru470/CuNc
(13)N719(又はZ907)/CuNc
【0027】
次に、太陽電池10の動作について説明する。太陽電池10の光電極20の透明導電膜23と対極30の導電膜33との間に負荷(図示せず)を接続し、その状態で太陽電池10の光電極20に太陽光を照射する。光電極20に太陽光が照射されると、エミッタの光吸収波長領域の光をエミッタが吸収し、電子を放出する。電子を放出したエミッタは、正の電荷を持つ。エミッタから放出された電子は、光電極20の半導体層24のn型半導体に移動し、更に電子は光電極20の透明導電膜23から負荷を経て対極30の導電膜33に至り、酸化還元対の酸化体を還元して還元体に変換する。還元体は電子を放出したあとの正の電荷を持つエミッタを還元し、自らは酸化体に戻る。これを繰り返すことにより発電する。
【0028】
また、光電極20に太陽光が照射されると、センシタイザの光吸収波長領域(>エミッタの光吸収波長領域)の光をセンシタイザが吸収する。このときの発電原理を図2及び式(1)〜(4)を用いて説明する。図2は、TTAによるアップコンバージョン機構の概念を示した説明図である。なお、S0senは基底状態の一重項センシタイザ、S1senは励起状態の一重項センシタイザ、T1senは励起状態の三重項センシタイザ、S0emiは基底状態の一重項エミッタ、S1emiは励起状態の一重項エミッタ、T1emiは励起状態の三重項エミッタを表す。さて、センシタイザの光吸収波長領域の光をセンシタイザが吸収すると、センシタイザは励起一重項状態に遷移する(式(1)参照)。続いて、励起一重項状態のセンシタイザは項間交差(ISC)によって励起三重項状態になる(式(2)参照)。続いて、励起三重項状態のセンシタイザがエネルギー移動によってエミッタへエネルギーを渡すことでエミッタが励起三重項状態に遷移する(TTT、式(3)参照)。その後、エミッタ同士の三重項−三重項消滅(TTA)により励起一重項状態のエミッタが生成し(式(4)参照)、その励起一重項状態のエミッタの電子が光電極20の半導体層24のn型半導体へ移動する。電子を放出したエミッタは、正の電荷を持つ。エミッタから放出された電子は、光電極20の半導体層24のn型半導体に移動し、更に電子は光電極20の透明導電膜23から負荷を経て対極30の導電膜33に至り、酸化還元対の酸化体を還元して還元体に変換する。還元体は電子を放出したあとの正の電荷を持つエミッタを還元し、自らは酸化体に戻る。これを繰り返すことにより発電する。
【0029】
【数1】

【0030】
以上詳述した太陽電池10によれば、エミッタの励起光の波長よりも長波長の光によって、TTAによるアップコンバージョン機構により生成する励起一重項状態のエミッタを経由して電子がn型半導体へ移動する。このため、エミッタによる光吸収だけでなく、センシタイザによる光吸収も太陽光発電に寄与するため、電池特性が向上する。
【0031】
また、経時によってセンシタイザが劣化した場合には、センシタイザを溶解した電解液を古いものから新しいものに取り替えるだけで電池特性が改善される。
【0032】
[第2実施形態]
本発明の太陽電池の第2実施形態を図面を用いて以下に説明する。図3は、太陽電池110の構成の概略を示す断面図である。
【0033】
太陽電池110は、エミッタ152もセンシタイザ54も電解液54に溶解している点以外は、第1実施形態の太陽電池10と同様である。このため、第1実施形態の太陽電池10と同じ構成要素については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0034】
エミッタ152としては、BODIPY、ルブレン、ナフタレンジイミド、ペリレンジイミド、ピレン、ペレリン(以上の構造式は化4参照、但し、化4に示す構造が基本骨格となっていればよく、置換基が結合していてもよい)、ルテニウム錯体などからなるエミッタ群から選ばれたものが好ましい。センシタイザ54については、第1実施形態のセンシタイザ群から選ばれたものが好ましい。
【0035】
【化4】

【0036】
エミッタ152とセンシタイザ54との組合せは、上述したエミッタ群から一つ以上、上述したセンシタイザ群から一つ以上を選択するが、TTAによるアップコンバージョン機構が起きるように選択する。また、エミッタ152の吸収波長領域がセンシタイザ54の吸収波長領域よりも低くなるように選択する。こうした組合せの例(エミッタ/センシタイザ)を以下に示す。
(1)ルブレン/PtTPTBP(又はPdTPTBP)
(2)ルブレン/CuPc(又はZnPc)
(3)ペリレンジイミド/PtTPTBP(又はPdTPTBP)
(4)ペリレンジイミド/CuPc(又はZnPc)
(5)ペリレンジイミド/CuNc
【0037】
太陽電池110の動作については、太陽電池10の動作と同様のため、ここでは説明を省略する。
【0038】
以上詳述した太陽電池110によれば、エミッタの励起光の波長よりも長波長の光によって、TTAによるアップコンバージョン機構により生成する励起一重項状態のエミッタを経由して電子がn型半導体へ移動する。このため、エミッタによる光吸収だけでなく、センシタイザによる光吸収も太陽光発電に寄与するため、電池特性が向上する。
【0039】
また、経時によってエミッタ又はセンシタイザが劣化した場合には、エミッタとセンシタイザを溶解した電解液を古いものから新しいものに取り替えるだけで電池特性が改善される。
【0040】
[第3実施形態]
本発明の太陽電池の第3実施形態を図面を用いて以下に説明する。図4は、太陽電池210の構成の概略を示す断面図である。
【0041】
太陽電池210は、増感色素251が半導体層24のn型半導体に吸着している点及びエミッタ252がセンシタイザ54と共に電解液40に溶解している点以外は、第1実施形態の太陽電池10と同様である。このため、第1実施形態の太陽電池10と同じ構成要素については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
増感色素251は、n型半導体と結合可能な官能基を有しており、その官能基を介してn型半導体に吸着している。こうしたことから、増感色素251は、第1実施形態のエミッタ群から選ばれたものが好ましい。エミッタ252については、第2実施形態のエミッタ群から選ばれたものが好ましい。センシタイザ54については、第1実施形態のセンシタイザ群から選ばれたものが好ましい。
【0043】
増感色素251とエミッタ252とセンシタイザ54との組合せは、TTAによるアップコンバージョン機構が起きるように選択する。また、エミッタ252の吸収波長領域がセンシタイザ54の吸収波長領域よりも低くなるように選択する。こうした組合せの例(増感色素/エミッタ/センシタイザ)を以下に示す。
(1)D131/ルブレン/PtTPTBP(又はPdTPTBP)
(2)D131/ペリレンジイミド/PtTPTBP(又はPdTPTBP)
(3)D131/ペリレンジイミド/CuPc(又はZnPc)
(4)D131/ペリレンジイミド/CuNc
(5)D149/ルブレン/CuPc(又はZnPc)
(6)D149/ルブレン/CuNc
(7)D149/ペリレンジイミド/CuPc(又はZnPc)
(8)D149/ペリレンジイミド/CuNc
(9)MK2/ルブレン/CuPc(又はZnPc)
(10)MK2/ルブレン/CuNc
(11)MK2/ペリレンジイミド/CuPc(又はZnPc)
(12)MK2/ペリレンジイミド/CuNc
(13)SQ2/ルブレン/CuPc(又はZnPc)
(14)SQ2/ルブレン/CuNc
(15)SQ2/ペリレンジイミド/CuPc(又はZnPc)
(16)SQ2/ペリレンジイミド/CuNc
(17)Ru470/ルブレン/PtTPTBP(又はPdTPTBP)
(18)Ru470/ルブレン/CuPc(又はZnPc)
(19)Ru470/ルブレン/CuNc
(20)Ru470/ペリレンジイミド/PtTPTBP(又はPdTPTBP)
(21)Ru470/ペリレンジイミド/CuPc(又はZnPc)
(22)Ru470/ペリレンジイミド/CuNc
(23)N719/ルブレン/CuNc
(24)N719/ペリレンジイミド/CuNc
(25)Z907/ルブレン/CuNc
(26)Z907/ペリレンジイミド/CuNc
【0044】
次に、太陽電池210の動作について説明する。太陽電池210の光電極20の透明導電膜23と対極30の導電膜33との間に負荷(図示せず)を接続し、その状態で太陽電池210の光電極20に太陽光を照射する。光電極20に太陽光が照射されると、エミッタの光吸収波長領域の光をエミッタが吸収し、電子を放出する。電子を放出したエミッタは、正の電荷を持つ。エミッタから放出された電子は、光電極20の半導体層24のn型半導体に移動し、更に電子は光電極20の透明導電膜23から負荷を経て対極30の導電膜33に至り、酸化還元対の酸化体を還元して還元体に変換する。還元体は電子を放出したあとの正の電荷を持つエミッタを還元し、自らは酸化体に戻る。これを繰り返すことにより発電する。
【0045】
また、光電極20に太陽光が照射されると、センシタイザの光吸収波長領域(>エミッタの光吸収波長領域)の光をセンシタイザが吸収する。すると、センシタイザは励起一重項状態に遷移する(前出の式(1)参照)。続いて、励起一重項状態のセンシタイザは項間交差(ISC)によって励起三重項状態になる(前出の式(2)参照)。続いて、励起三重項状態のセンシタイザがエネルギー移動によってエミッタへエネルギーを渡すことでエミッタが励起三重項状態に遷移する(TTT、前出の式(3)参照)。その後、エミッタ同士の三重項−三重項消滅(TTA)により励起一重項状態のエミッタが生成し(前出の式(4)参照)、その励起一重項状態のエミッタのエネルギーが増感色素に移動する。すると、増感色素の電子が励起し、その励起した電子が光電極20の半導体層24のn型半導体へ移動する。電子を放出した増感色素は、正の電荷を持つ。増感色素から放出された電子は、光電極20の半導体層24のn型半導体に移動し、更に電子は光電極20の透明導電膜23から負荷を経て対極30の導電膜33に至り、酸化還元対の酸化体を還元して還元体に変換する。還元体は電子を放出したあとの正の電荷を持つ増感色素を還元し、自らは酸化体に戻る。これを繰り返すことにより発電する。
【0046】
以上詳述した太陽電池210によれば、エミッタの励起光の波長よりも長波長の光によって、TTAによるアップコンバージョン機構により生成する励起一重項状態のエミッタを経由して電子がn型半導体へ移動する。このため、エミッタによる光吸収だけでなく、センシタイザによる光吸収も太陽光発電に寄与するため、電池特性が向上する。
【0047】
また、経時によってエミッタ又はセンシタイザが劣化した場合には、エミッタとセンシタイザを溶解した電解液を古いものから新しいものに取り替えるだけで電池特性が改善される。
【0048】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。例えば、上述した実施形態は、電子がn型半導体へ移動する場合について示したが、正孔がp型半導体へ移動する場合の実施形態も同様である。その場合、p型半導体としては、NiO,CuO,CuAlO2,CoOなどが挙げられる。
【実施例】
【0049】
[予備実験]
エミッタとしてBODIPY−FLを使用し、センシタイザとしてPdTPTBPを使用して、n−ブタノール中にエミッタが1mM、センシタイザが0.01mMとなるように試料を調製した。その試料に1時間以上アルゴンでバブリングした後、励起光としてHe:Neレーザー(633nm)及びHe:Cdレーザー(442nm)を用いてフォトルミネッセンス測定を行った。レーザー強度(励起光強度)は、633nmのときには0.03,0.07,0.10,0.14,0.18,0.22,0.26,0.24,0.27,0.33mW、442nmのときには0.010,0.021,0.040,0.052,0.060,0.073,0.092,0.11,0.13mWとした。
【0050】
フォトルミネッセンス測定の結果、633nmで励起したときには538nmの発光と800nmの発光が見られた。このうち、800nmの発光はセンシタイザからの発光であり、その発光強度はS1senの濃度又はT1senの濃度に依存するものであるが、レーザー強度に比例していた。また、538nmの発光はエミッタからの発光であり、その発光強度はS1emiの濃度に依存するものであるが、レーザー強度の2乗つまりT1emiの濃度の2乗に比例していた。一方、442nmで励起したときには528nmの発光が見られた。この発光はエミッタからの発光であるが、レーザー強度に比例していた。こうした結果は、633nmで励起したときには式(1)〜(4)つまりTTAによるアップコンバージョン機構による発光が起きていることを示している。なお、以下の実施例1では、エミッタとしてBODIPY−FL、センシタイザとしてPdTPTBPではなくPtTPTBPを用いたが、この予備実験と同様、TTAによるアップコンバージョン機構が起こると類推される。
【0051】
[実施例1]
透明導電膜(TCO)付ガラス基板に、n型半導体であるチタニア(TiO2)のナノ粒子(粒子径約20nm)を含有するチタニアペーストをスクリーン印刷法で塗工した。塗膜を150℃で乾燥し、さらに450℃で30分間の加熱により焼成して、ナノ粒子のチタニア層を形成させた。さらにその上に、粒子径400nmのチタニア粒子から構成されるチタニア層を同様な工法で積層して、チタニア電極を形成させた。得られたチタニア電極を、表面処理のために4塩化チタン(TiCl4)水溶液に60分間浸漬し、洗浄した後、450℃、30分間の加熱により再度焼成した。 表面処理されたチタニア電極を、n−ブチルアルコールにエミッタとしてBODIPY−FLを溶解した溶液(濃度:1mM)に浸漬した。浸漬後、n−ブチルアルコールで洗浄して、色素が吸着したチタニア電極を得た。
【0052】
一方、別のTCO膜付ガラス基板に、塩化白金酸のアルコール溶液を塗布し、塗膜を400℃で焼成して、白金ナノ粒子(粒子径:数nm)から形成された透明な対極を作製した。得られた対極とチタニア電極とを対向配置し、シール材(熱可塑性ポリオレフィン系樹脂)を介してこれらを貼り合せた。
【0053】
電解液として、ヨウ素とプロピルメチルイミダゾリウムヨージド(PMII)をクロロホルムに溶かした溶液を用意した。この電解液に、センシタイザとしてPtTPTBPを濃度が10mMとなるように添加した。このPtTPTBPを含む電解液を、チタニア電極と対極との間に注入孔から注入し、その後注入孔をシールし、実施例1の太陽電池を得た。
【0054】
[比較例1]
電解液にPtTPTBPを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、太陽電池を得た。
【0055】
[評価]
太陽電池の特性評価は、分光感度測定装置を用いて、実施例1及び比較例1の太陽電池の量子効率の波長依存性を測定した。比較を容易にするため、量子効率を規格化してグラフ化した。そのグラフを図5に示す。図5から明らかなように、実施例1では、比較例1と比べてPtTPTBPに基づくピーク(白抜き矢印参照)が見られ、太陽電池の特性(分光感度特性)が比較例1に比べて向上した。すなわち、実施例1では、色素として機能するエミッタによる光吸収だけでなく、電解液中のセンシタイザによる光吸収が加わることで、太陽電池の特性(分光感度特性)が比較例1に比べて向上した。
【符号の説明】
【0056】
10 太陽電池、20 光電極、21 透明導電性基板、22 透明基板、23 透明導電膜、24 半導体層、30 対極、32 基板、33 導電膜、34 触媒層、40 電解液、50 シール材、52 エミッタ、54 センシタイザ、110 太陽電池、152 エミッタ、210 太陽電池、251 増感色素、252 エミッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体又はp型半導体を有する光透過性の光電極と前記n型半導体又は前記p型半導体に対向するよう配置された対極との間に、酸化還元対となる化学種を含む電解液を保持した太陽電池であって、
前記光電極と前記対極との間には、エミッタとセンシタイザとが存在し、
前記センシタイザは、前記エミッタの励起光の波長よりも長波長の光によって励起一重項状態へ遷移したあと項間交差によって励起三重項状態になり、続いて励起三重項状態の前記センシタイザがエネルギー移動によって前記エミッタへエネルギーを渡すことで前記エミッタが励起三重項状態に遷移し、その後前記エミッタ同士の三重項−三重項消滅により励起一重項状態の前記エミッタが生成し、該励起一重項状態の前記エミッタを経由して電子が前記n型半導体へ移動するか又は正孔が前記p型半導体へ移動する、
太陽電池。
【請求項2】
前記エミッタは、前記n型半導体又は前記p型半導体の表面に吸着しており、前記センシタイザは、前記電解液に溶解している、
請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記エミッタと前記センシタイザは、いずれも前記電解液に溶解している、
請求項1に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記n型半導体又は前記p型半導体の表面に増感色素が吸着しており、前記エミッタと前記センシタイザは、いずれも前記電解液に溶解している、
請求項1に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記光電極は、前記n型半導体を有する、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−26189(P2013−26189A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163095(P2011−163095)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】