説明

失禁治療のための組織断片組成物

失禁治療のため組成物を開示する。より具体的には、生存筋肉組織断片及びキャリアの組成物を開示する。組成物は、尿及び糞便失禁の治療で有用である。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、失禁の治療のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、失禁の治療のための生存筋肉組織断片及びキャリアを含む組成物に関する。
【0002】
〔背景技術〕
軟組織、例えば、血管、皮膚又は筋骨格組織に対する傷害は、かなり一般的である。これらの疾病の多くは、全身性疾患の非存在下で発生し、慢性反復性の低悪性度の外傷及び酷使の結果である。
【0003】
かなり一般的な軟組織傷害の1例は、失禁である。失禁は、尿又は糞便の、任意の不随意性の漏れの病訴である。それは、決まりの悪さを引き起こし、社会的隔離、抑鬱、生活の質の低下を導く恐れがあり、施設に高齢者を収容する主な原因である。失禁には、切迫失禁又は切迫尿失禁、緊張性失禁又は緊張性尿失禁、溢流性失禁、及び混合型失禁又は混合型尿失禁を含む、数種類が存在する。混合型失禁又は混合型尿失禁は、患者が1つを超える型の尿失禁、例えば緊張性及び切迫失禁に悩まされている場合を指す。
【0004】
特に、混合型失禁及び緊張性尿失禁(SUI)の有効な薬物治療に対する医学的な必要性が高い。患者数の多さと、有効な薬物治療が存在していないことが相まって、この高い医学的必要性が存在している。最近の推定では、米国のSUI患者数を1800万人と見積もっており、主に女性が罹患している。
【0005】
緊張性失禁は、膀胱収縮又は膀胱の過剰な膨満の非存在下で、腹圧の上昇に同期した尿の喪失を観察することにより、確認できる。緊張性失禁の病状は、尿道の過可動性又は固有括約筋不全のいずれかに分類できる。尿道の過可動性では、咳又は精神的緊張をしている間に膀胱頸部及び尿道が下降し、尿道が開いて、目に見える尿漏れ(5.9〜11.8kPa(60〜120cm H2O)における尿漏出圧)が起こる。固有括約筋不全では、膀胱が満ちている間に、膀胱が収縮することなく膀胱頸部が開く。目に見える尿漏れは、最小限のストレスで又はストレスがなくとも見られる。全くないことが多いが、可変性膀胱頸部及び尿道の下降が存在し、尿漏出圧は低い(<5.9kPa(<60cm H2O))(J.G.ブレバス(Blaivas)、1985年、Urol.Clin.N.Amer.、12巻、215頁〜224頁;D.R.スタスキン(Staskin)ら、1985年、Urol.Clin.N.Amer.、12巻:271頁〜278頁)。
【0006】
切迫失禁は、不意の及び強い尿意に関連する尿の不随意性の喪失として定義される。不随意性膀胱収縮は神経疾患に関連する場合があるが、それはまた神経学的に正常であると思われる個人でも起こる場合がある(P.エイブラハムズ(Abrams)ら、1987年、Neurol.&Urodynam.、7巻:403頁〜427頁)。
【0007】
切迫失禁に関連する一般的な神経疾患は、脳卒中、糖尿病及び多発性硬化症である(E.J.マクガイアー(McGuire)ら、1981年、J.Urol.、126巻:205頁〜209頁)。切迫失禁が、膀胱が完全には空にならない不随意性排尿筋収縮により引き起こされる場合には、膀胱の炎症及び排尿筋収縮性の低下に起因している場合もある。
【0008】
溢流性失禁は、膀胱の過剰な膨満に関連する尿の喪失を特徴とする。溢流性失禁は、膀胱の収縮性の損傷、又は過剰な膨満及び溢流を導く膀胱排尿障害に起因する場合がある。膀胱は、糖尿病若しくは脊髄損傷のような神経学的状態、又はそれに続く根治的骨盤手術に続発して、機能が低下する場合がある。
【0009】
尿失禁(切迫及び溢流性)の別の一般的かつ重大な原因は、膀胱収縮性が損なわれることである。これは、高齢者人口及び神経疾患、特に真性糖尿病患者で、次第に増加しつつある一般的な病状である(N.M.レスニク(Resnick)ら、1989年、New Engl.J.Med、320巻:1頁〜7頁;M.B.チャンセラー(Chancellor)及びJ.G.ブレバス(Blaivas)、1996年、尿力学アトラス(Atlas of Urodynamics)、ウイリアムズ・アンド・ウィルキンス(Williams and Wilkins)、フィラデルフィア(Philadelphia)、ペンシルバニア州)。収縮性が不十分である場合、膀胱はその内容物である尿を空にすることができず、これは失禁だけではなく、尿路感染症及び腎不全を引き起こす。現在、臨床医は、排尿筋収縮性の低下を治療する能力が非常に制限されている。排尿筋収縮性を改善する有効な薬剤は存在しない。ウレコリンは膀胱内圧をわずかに増加させることができるが、管理下試験では有効に膀胱排出を助けることは示されていない(A.ウェイン(Wein)ら、1980年、J.Urol.、123巻:302頁)。最も一般的な治療は、間欠的カテーテル法又は留置カテーテル法で問題を回避することである。
【0010】
緊張性尿失禁の治療法は多数存在する。緊張性失禁に対して現在最も一般的に実施されている治療としては、吸収性物品;留置カテーテル法;ペッサリー、すなわち、膀胱頸部を支持するために定置される膣用リング;及び薬剤が挙げられる(健康管理政策研究局(Agency for Health Care Policy and Research)、公衆衛生局(Public Health Service):尿失禁ガイドライン委員会(Urinary Incontinence Guideline Panel)、成人の尿失禁(Urinary Incontinence in Adults):診療ガイドライン(Clinical Practice Guideline)、AHCPR刊行番号92−0038、ロックビル(Rockville)、メリーランド州、米国保健社会福祉省(U.S. Department of Health and Human Services)、1992年3月;M.B.チャンセラー(Chancellor)、評価及び結果(Evaluation and Outcome)、(身体障害を有する女性の健康:90年代における調査事項の設定(The Health of Women With Physical Disabilities: Setting a Research Agenda for the 90's)中)、クロトスキー(Krotoski)D.M.、ノセク(Nosek),M.、ターク(Turk),M.編、ブルックス・パブリッシング・カンパニー(Brooks Publishing Company)、ボルティモア(Baltimore)、メリーランド州、24章、309頁〜332頁、1996年)。運動は、緊張性尿失禁の別の治療法である。例えば、ケーゲル体操(Kegel exercise)は、緊張性失禁を治療するための一般的かつ人気の高い方法である。運動は、3〜6ヶ月間毎日それを4回できる人の半分を助けることができる。50%の患者がケーゲル体操でいくらかの改善を報告しているが、ケーゲル体操による失禁の治癒率はほんの5%である。更に、非常に長い期間の、毎日の鍛練が必要とされるために、大部分の患者は運動をやめ、プロトコルから脱落する。
【0011】
尿失禁の別の治療法は、尿道プラグである。これは、緊張性失禁の女性用の、使い捨てのコルク状プラグである。残念なことに、プラグは20%を超える尿路感染に関連し、かつ失禁を治癒させられない。
【0012】
バイオフィードバック及び膣用プローブを用いる機能的電気刺激もまた、切迫及び緊張性尿失禁の治療に用いられる。しかしながら、これらの方法は、時間がかかり、高価であるため、結果はケーゲル体操より中程度にしか良くない。腹腔鏡又は開腹膀胱頸部吊り上げ;経膣的アプローチ腹腔膀胱頸部吊り上げ;人工尿道括約筋(40%復帰率を有する高価で複雑な外科手術)のような手術もまた、緊張性尿失禁の治療に用いられる。
【0013】
他の治療としては、シリコーン、炭素コーティングされた粒子、テフロン、コラーゲン及び自己脂肪のような外来性注入材料を用いる尿道内注入処置が挙げられる。これらの注入物質はそれぞれ欠点を有する。バーグ(Berg)による米国特許第5,007,940号、同第5,158,573号及び同第5,116,387号は、組織の充填により尿失禁を治療する目的のために、尿道組織に注入可能な、分離性、ポリマー及びシリコーンゴム本体を含む生体適合性組成物を報告している。更に、ローウィン(Lawin)による米国特許第5,451,406号は、組織の充填により尿失禁を治療する目的のために、尿道及び膀胱頸部のような組織に注入でき、尿道及び膀胱頸部を覆う、炭素コーティングされた微粒子物質を含む生体適合性組成物を報告している。組織充填の方法論又は治療法に関連する1つの問題又は不都合な結果は、配置の元の部位から種々の体器官内の貯蔵部位への充填剤中の固体粒子の移行及びその後の小さすぎる粒子に対する組織の慢性炎症反応に関する。これらの悪影響は、泌尿器学の文献、具体的には、マルジア(Malizia)、A.A.ら、「ポリテフ(テフロン)の尿道周囲注入後の移行及び肉芽腫性反応(Migration and Granulomatous Reaction After Periurethral Injection of Polytef(Teflon))」、JAMA、251巻:3277頁〜3281頁(1984年)及びクラース(Claes),H.、ストローバンツ(Stroobants),D.ら、「尿失禁のための尿道周囲ポリテトラフルオロエチレン注入後の肺性移行(Pulmonary Migration Following Periurethral Polytetrafluoroethylene Injection For Urinary Incontinence)」、J.Urol.、142巻:821頁〜822頁(1989年)に報告されている。移行が存在しないことを保証するのに重要な要因は、適切な大きさの粒子の投与である。粒子が小さすぎる場合、それは体の白血球(食細胞)に飲み込まれ、離れた器官に運ばれる恐れがあるか、又は血管系で運び去られ、よりくびれている部位に到達するまで移動する恐れがある。微粒子が沈着する標的器官としては、肺、肝臓、脾臓、脳、腎臓及びリンパ節が挙げられる。生体適合性潤滑剤を有する水性媒質中における、直径の小さな微粒子球及び細長い線維の使用は、ウォリス(Wallace)らによる米国特許第4,803,075号に開示されている。これらの物質は、正の、短期間の増大結果を示すが、この結果は材料が移行する及び/又は宿主組織により吸収される傾向を有するため、長続きしないものであった。
【0014】
コラーゲン注入は、一般的に、ウシコラーゲンを使用するが、これは4〜6ヶ月で吸収され、結果として繰り返し注入する必要がある。コラーゲンの更なる欠点は、約5%の患者がウシ由来のコラーゲンに対してアレルギーがあり、抗体を発現するということである。
【0015】
注入可能な充填剤としての自己脂肪移植は、大部分の注入された脂肪が再吸収されるという重大な欠点を有する。更に、自己脂肪移植片の生存の程度及び期間には議論の余地が残る。炎症反応は、一般的に、移植部位で生じる。脂肪移植による合併症としては、脂肪の再吸収、結節及び組織の非対称性が挙げられる。
【0016】
加工された筋肉由来の細胞を用いる筋肉細胞注入療法への最近のアプローチは、失禁、特に、緊張性尿失禁の治療及び排尿調節の強化のための代替治療を提供することができる。好ましくは、筋肉由来細胞注入は自己移植であり、その結果アレルギー反応は最小限に抑えられるか又は起こらない。筋線維の前駆体である、筋芽細胞は、単核筋肉細胞であり、これは他の種類の細胞と多くの点で異なる。筋芽細胞は、自然に融合して、有糸分裂後多核筋管を形成し、それ故生理活性タンパク質の長期間の発現及び送達に用いることができる(T.A.パートリッジ(Partridge)及びK.E.デービーズ(Davies)、1995年、Brit.Med.Bulletin、51巻:123頁〜137頁;J.ダワン(Dhawan)ら、1992年、Science、254巻:1509頁〜1512頁;A.D.グリンネル(Grinnell)、1994年、筋学(Myology)、第2版、エンゲル(Engel)AG及びアームストロング(Armstrong)CF、マグローヒル(McGraw-Hill, Inc,)303頁〜304頁;S.チャオ(Jiao)及びJ.A.ウォルフ(Wolff)、1992年、Brain Research、575巻:143頁〜147頁;H.バンデンブルグ(Vandenburgh)、1996年、Human Gene Therapy、7巻:2195頁〜2200頁)。
【0017】
筋肉変性を治療するため、組織損傷を修復するため、又は疾患を治療するための筋芽細胞の使用は、米国特許第5,130,141号及び同第5,538,722号に開示されている。また、筋芽細胞移植術は、心筋機能障害の修復のためにも用いられている(S.W.ロビンソン(Robinson)ら、1995年、Cell Transplantation、5巻:77頁〜91頁;C.E.マリー(Murry)ら、1996年J.Clin.Invest.、98巻:2512頁〜2523頁;S.ゴジョー(Gojo)ら、1996年、Cell Transplantation、5巻:581頁〜584頁;A.ジバイティス(Zibaitis)ら、1994年、Transplantation Proceedings、26巻:3294頁)。尿失禁の治療のための筋芽細胞の使用は、米国特許第6,866,842号、並びにTransplantation.、2003年10月15日;76巻(7号):1053頁〜1060頁;J Urol.、2001年1月;165巻(1号):271頁、及びヨコヤマ(Yokoyama)T.J、Urology、165巻:271頁〜276頁、2001年に開示されている。国際出願第2004055174号は、培養培地組成物、培養方法及び得られる筋芽細胞、並びにその使用を開示している。軟組織及び骨増強及び筋肉由来の前駆細胞を利用する充填、組成物及び治療が、国際公開第0178754に開示されている。哺乳類の疾患に対する筋芽細胞療法は、米国特許第9909451号に開示されている。
【0018】
細胞療法は他の注入材料に比べて利点を提供するが、それは重大な不利点を有する。緊張性尿失禁の治療のために筋芽細胞を使用することに関連する最も大きな制限の1つは、筋芽細胞が、注入に必要な細胞数を達成するために3〜4週間の大規模なインビトロ培養を必要とし、これはこの療法を非常に高価でかつ多くの患者が手が届かないものにしている。
【0019】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
上述の制限並びに、尿失禁及び膀胱収縮性の治療の合併症を考慮して、この分野の新規かつ有効な代替法が、当該技術分野において必要とされている。
【0020】
〔課題を解決するための手段〕
本発明は、生存筋肉組織断片及びキャリアを含む失禁の治療用組成物である。組成物は、組織断片から遊走して、移植部位上に新規組織を形成できる、少なくとも1つの生存細胞を有する、少なくとも1つの生存筋肉組織断片を含有する。生存筋肉組織断片は、自己、同種又は異種組織から得てよい。キャリアとしては、生理学的緩衝溶液、注入可能なゲル溶液、生理食塩水及び水が挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、尿失禁には尿道、尿道括約筋、及び膀胱のような泌尿生殖器組織、並びに、便失禁には大腸、直腸、及び結腸直腸括約筋のような結腸直腸組織に、組成物を注入することにより、失禁の治療に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
生存筋肉組織断片は、自己、同種又は異種組織から得てよい。1つの実施形態では、生存筋肉組織断片は、自己組織から得られる。筋肉組織は、無菌条件下で得られる。生存筋肉組織は、生検又は他の外科的組織除去技術が挙げられる、種々の従来の技術のいずれかを用いて得ることができる。一旦生存筋肉組織が得られると、組織は次いで滅菌条件下で断片化することができる。更に、組織は、血清の存在下又は非存在下のいずれかにおいて、当業者に既知の任意の標準的な細胞培養培地中で断片化することができる。生存筋肉組織断片の大きさは、約0.1〜約3mm3の範囲であることができるが、好ましくは、生存筋肉組織断片の大きさは、約0.1〜約1mm3である。
【0022】
本発明の組成物はまた、キャリアを含む。キャリアは、生体適合性であり、注入を容易にするための十分な物理的特性を有する。キャリアとしては、生理学的緩衝溶液、注入可能なゲル溶液、生理食塩水及び水が挙げられるが、これらに限定されない。生理学的緩衝溶液としては、緩衝生理食塩水、リン酸緩衝溶液、ハンクス平衡塩類溶液、トリス緩衝生理食塩水、及びHepes緩衝生理食塩水が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、生理学的緩衝液は、ハンクス平衡塩類溶液である。注入可能なゲル溶液は、注入前にゲルの形態であってよく、又は投与時にゲル化して所定の位置に留まることができる。
【0023】
注入可能なゲル溶液は、水、生理食塩水、又は生理学的緩衝溶液及びゲル化材料から構成される。ゲル化材料としては、コラーゲン、エラスチン、トロンビン、フィブロネクチン、ゼラチン、フィブリン、トロポエラスチン、ポリペプチド、ラミニン、プロテオグリカン、フィブリン糊、フィブリン塊、多血小板血漿(PRP)塊、乏血小板血漿(PPP)塊、自己集合ペプチドヒドロゲル及びアテロコラーゲンのようなタンパク質;ペクチン、セルロース、酸化セルロース、キチン、キトサン、アガロース、ヒアルロン酸のような多糖類;リボ核酸、デオキシリボ核酸のようなポリヌクレオチド、並びに、アルギン酸、架橋アルギン酸、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(オキシアルキレン)、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)のコポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリレート、モノステアロイルグリセロールコ−スクシネート/ポリエチレングリコール(MGSA/PEG)コポリマーなどの他の材料、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
1つの実施形態では、組成物は微小粒子(microparticle)を更に含む。微小粒子はまた、当業者によってマイクロビーズ又はマイクロスフェアとも呼ばれる。微小粒子は、一時的な充填効果を提供し、その上に生存筋肉組織断片が付着及び成長できる物質も提供する。微小粒子は、一旦注入されると局所的及び遠位遊走を妨げるのに十分大きいが、皮下注射針により投与するのに十分小さくなければならない。したがって、微小粒子は、平均横断面直径が約100〜約1,000マイクロメートルの範囲、好ましくは約200〜約500マイクロメートルの範囲である、実質的に円形を有する。微小粒子は、好ましくは、生体適合性ポリマーから形成される。生体適合性ポリマーは、合成ポリマー、天然ポリマー、又はこれらの組み合わせであることができる。本明細書で使用するとき、用語「合成ポリマー」は、たとえポリマーが天然由来の生体材料から製造された場合でも、天然では見られないポリマーを指す。用語「天然ポリマー」は、天然由来のポリマーを指す。生体適合性ポリマーはまた、生分解性であってもよい。生分解性ポリマーは、湿気のある体組織に曝されたとき、小さなセグメントに容易に崩壊する。セグメントは、次いで、体内に吸収されるか、又は体内を通過する。より具体的には、生分解されたセグメントは、永続的な追跡又はセグメントの残留物が体内に保持されないように、体内に吸収されるか又は体内を通過するため、永続的な慢性の異物反応を誘発しない。
【0025】
1つの実施形態では、微小粒子は、少なくとも1種の合成ポリマーから構成される。好適な生体適合性合成ポリマーとしては、脂肪族ポリエステル、ポリ(アミノ酸)、コポリ(エーテル−エステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリアミド、チロシン由来のポリカーボネート、ポリ(イミノカーボネート)、ポリオルソエステル、ポリオキサエステル、ポリアミドエステル、アミン基を含有するポリオキサエステル、ポリ(無水物)、ポリホスファゼン、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリウレタン、ポリ(エステルウレタン)、ポリ(エーテルウレタン)並びにこれらのブレンド及びコポリマー等のポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。本発明で用いるのに好適な合成ポリマーとしては、また、コラーゲン、ラミニン、グリコサミノグリカン、エラスチン、トロンビン、フィブロネクチン、デンプン、ポリ(アミノ酸)、ゼラチン、アルギン酸、ペクチン、フィブリン、酸化セルロース、キチン、キトサン、トロポエラスチン、ヒアルロン酸、シルク、リボ核酸、デオキシリボ核酸、ポリペプチド、タンパク質、多糖類、ポリヌクレオチド及びこれらの組み合わせに見られる配列に基づく生合成ポリマーを挙げることができる。
【0026】
本発明の目的のために、脂肪族ポリエステルとしては、ラクチド(乳酸、D−、L−及びメソラクチドを含む);グリコリド(グリコール酸を含む);イプシロン−カプロラクトン;p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン);トリメチレンカーボネート(1,3−ジオキサン−2−オン);トリメチレンカーボネートのアルキル誘導体;及びこれらのブレンドを含むモノマーのホモポリマー及びコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。本発明で用いられる脂肪族ポリエステルは、直鎖、分岐鎖又は星型構造を有するホモポリマー又はコポリマー(ランダム、ブロック、セグメント化、テーパ形状ブロック、グラフト、三元ブロック等)であることができる。スカフォールドが少なくとも1種の天然ポリマーを含む実施形態では、天然ポリマーの好適な例としては、フィブリン系材料、コラーゲン系材料、ヒアルロン酸系材料、糖タンパク質系材料、セルロース系材料、シルク及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
当業者は、いくつかの要因に応じて、生体適合性微小粒子を形成するための好適な材料の選択を理解するであろう。これらの要因としては、インビボでの機械的性能;細胞接着、増殖、遊走及び分化の観点における材料への細胞応答;及び所望により生分解性速度が挙げられる。他の関連する要因としては、化学組成、構成物質の空間的分布、ポリマーの分子量、及び結晶化度が挙げられる。
【0028】
別の実施形態では、生物学的エフェクターを、本発明の組成物に組み込んでよい。生物学的エフェクターは、影響を受けた組織の治癒及び/又は再生を促進する(例えば、増殖因子及びサイトカイン)、感染を防ぐ(例えば、抗微生物剤及び抗生物質)、炎症を低減する(例えば、抗炎症剤)、酸化再生セルロース(例えば、エチコン社(Ethicon, Inc.)から入手可能なインターシード(INTERCEED)及びサージセル(登録商標))及びヒアルロン酸のように癒着形成を防ぐ又は最小限に抑える、並びに免疫系を抑制する(例えば、免疫抑制剤)。
【0029】
生物学的エフェクターとしては、異種又は自己成長因子、基質タンパク質、ペプチド、抗体、酵素、糖タンパク質、ホルモン、サイトカイン、グリコサミノグリカン、核酸、鎮痛剤が挙げられるが、これらに限定されない。同じ又は異なる機能を有する1種又はそれ以上の生物学的エフェクターを組成物に組み込んでよいと理解される。
【0030】
異種又は自己成長因子は、傷害若しくは損傷を受けた組織の治癒及び/又は再生を促進することが既知である。代表的な成長因子としては、TGF−β、骨形態形成タンパク質、成長分化因子−5(GDF−5)、軟骨由来形態形成タンパク質、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、血管内皮細胞由来増殖因子(VEGF)、上皮細胞成長因子、インスリン様成長因子、肝細胞増殖因子、及びこれらの断片が挙げられるが、これらに限定されない。好適なエフェクターは同様に、上述の剤の作動剤及び拮抗剤を含む。
【0031】
グリコサミノグリカンは、高電荷多糖類であり、これは細胞接着に関与する。生物学的エフェクターとして有用な代表的なグリコサミノグリカンとしては、ヘパラン硫酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、ヒアルロナン(ヒアルロン酸としても知られる)及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
生物学的エフェクターはまた、基質消化酵素のような酵素であってもよく、これは細胞を取り囲む細胞外基質からの細胞遊走を促進する。好適な基質消化酵素としては、コラゲナーゼ、コンドロイチナーゼ、トリプシン、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、ペプチダーゼ、サーモリシン、マトリックスメタロプロテアーゼ、及びプロテアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
当業者は、適切な生物学的エフェクターが、医学の原理及び適用可能な治療目標に基づいて、外科医により決定され得ることを理解するであろう。組成物に含まれる生物学的エフェクターの量は、細胞生存、増殖、分化の推進、又は組織の治癒の促進及び/若しくは効率化のような、所与の用途を含む、種々の要因に応じて変化する。生物学的エフェクターは、組織障害の領域に組成物が投与される前又は後に、生存筋肉組織断片及びキャリアの組成物に組み込むことができる。
【0034】
本明細書に記載のような失禁を治療するための組成物は、まず、適切な採取用具を用いて、提供者(自己、同種又は異種)から筋肉組織サンプルを得ることにより調製してよい。筋肉組織サンプルを、次いで、組織を収集するときに細かく刻み、小断片に分割するか、又は、体外で筋肉組織サンプルを採取及び収集した後で刻むこともできる。採取した後で組織サンプルを刻む実施形態では、組織サンプルを計量し、次いでリン酸緩衝生理食塩水で3度洗浄することができる。およそ100〜500mgの組織を、次いで、少量、例えば約1mLの、リン酸緩衝生理食塩水のような生理学的緩衝溶液、又はハム(Ham)F12培地中の0.2%コラゲナーゼのような基質消化酵素の存在下で小断片に刻むことができる。筋肉組織を、およそ0.1〜1mm3の大きさの断片に刻む。組織を刻むことは、種々の方法により達成できる。1つの実施形態では、刻みは、平行及び対向する方向に切断する2つの滅菌メスを用いて達成するか、又は別の実施形態では、組織を自動的に所望の大きさの粒子に分割する加工用具により組織を刻むことができる。1つの実施形態では、刻んだ組織は、例えば、篩い分け、沈降又は遠心分離のような、当業者に既知の種々の方法を用いて、生理液から分離し、濃縮することができる。刻んだ組織を濾過及び濃縮する実施形態では、刻んだ組織の懸濁液は、好ましくは、懸濁液中に少量の流体を保持して、組織が乾燥することを防ぐ。生存筋肉組織断片の懸濁液を、本明細書に記載するようなキャリア、及び所望により微小粒子と組み合わせて、注入を介して組織修復部位に送達する。更に、生物学的エフェクターを、組織修復部位への投与前に、微小粒子の有り無しで、組成物に添加してもよい。
【0035】
本明細書に記載するような組成物は、軟組織の治療に有用である。軟組織は、一般的に、体全体に見られる骨外性構造を指し、歯周組織、皮膚組織、血管組織、筋肉組織、筋膜組織、眼球組織、心膜組織、肺組織、滑膜組織、神経組織、腎臓組織、食道組織、泌尿生殖器組織、腸組織、結腸直腸組織、肝臓組織、膵臓組織、脾臓組織、脂肪組織及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、本明細書に記載するような組成物は、尿道、尿道括約筋及び膀胱のような泌尿生殖器組織、食道及び食道括約筋のような食道組織、結腸、直腸及び結腸直腸括約筋のような結腸直腸組織の治療に有用である。組成物はまた、組織の充填、組織の増大、美容整形術、治療上の処置及び組織シーリングのために用いることもできる。
【0036】
失禁を治療するための組成物の調製の非限定的な例は、以下の通りである。患者は、従来の外科技術を用いて従来の方法で組織修復手術の準備をされる。組成物を形成するために用いられる筋肉組織サンプルは、従来の組織採取用具及び技術を用いて患者から得る。筋肉組織サンプルを細かく刻み、約0.1〜約3mm3の範囲の粒径を有する生存筋肉組織断片に分割する。組織は、対向する平行な方向に2つの滅菌メスで切断する等の、従来の刻み技術を用いて刻む。約100〜500mgの組織を、約1mLの生理学的緩衝溶液の存在下で刻み、必要な組織の量は、修復部位における組織傷害の程度に応じて決定する。生存筋肉組織断片を濾過及び/又は濃縮して、生理学的緩衝溶液から生存筋肉組織断片を分離する。生存筋肉組織断片を、遠心分離により濃縮する。次いで、生存筋肉組織断片をハンクス平衡塩類溶液キャリア及び所望により微小粒子と組み合わせて、組織修復部位へ注入する。キットを用いて、組成物の調製を補助することができる。キットは、採取用具、組織の生存を維持するための試薬を収容する滅菌容器、加工用具、キャリア、及び送達装置を含む。採取用具を用いて、被験体から生存筋肉組織を得る。組織は、組織の生存を維持するための試薬を収容する滅菌容器に入れてよい。組織サンプルの生存を維持するための好適な試薬としては、生理食塩水、リン酸緩衝溶液、ハンクス平衡塩類、標準的な細胞培養培地、ダルベッコ変法イーグル培地、アスコルビン酸、HEPES、非必須アミノ酸、L−プロリン、自己血清、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。加工用具を用いて組織を生存筋肉組織断片に刻むか、又は、採取用具を、組織サンプルを収集し、サンプルを加工して組織粒子に細かく分割するよう適合させてもよい。キャリアは、本明細書に記載するような生理学的緩衝溶液、注入可能なゲル溶液、生理食塩水又は水であってよく、所望により微小粒子を含んでもよい。送達装置により、キャリア中の生存組織断片の組成物を、例えば尿道の括約筋領域に隣接する又はそれを取り囲む患部組織に沈着させることができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
緊張性尿失禁(SUI)のラットモデルにおける尿漏出圧(LPP)の回復に対する、生存筋肉組織断片の組成物の適用に基づく新規治療の有効性を検討した。生存筋肉組織断片を、雄ラットの骨格筋から作り出した。合計24匹の雌ルイスラットを、3群(1群あたり8匹の動物)のうちの1群、即ちキャリアを注入する失禁症状のない動物群、キャリアを注入する失禁症状のある動物群、及びキャリア+刻まれた生存組織断片を注入する失禁症状のある動物群に、ランダムに割り当てた。両側外陰部神経切断(PNT)により、後者2群にSUIを引き起こした。手術の1週間後、尿道内注入により、各動物群に治療を施した。5週間後、各ラットにつき少なくとも4回LPPを測定し、平均した。
【0038】
動物の世話
この研究に用いる動物は、動物保護法規則(Animal Welfare Act regulations)(9CFR)の最終規則、動物実験の人道的管理と使用に関する米国公衆衛生局規範(Public Health Service Policy on Humane Care and Use of Laboratory Animals)、実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)の全ての適用可能な条文に従って、取り扱い、維持した。この研究における動物の管理又は使用を含むプロトコル、及び任意の改正又は手順は、このような手順の開始前に、試験機関の動物の管理及び使用委員会(Testing Facility Institutional Animal Care and Use Committee)により査察及び承認された。
【0039】
ルイスラットは、その同系の表現型により選択した。それは、免疫抑制を使用することなく、ある1匹のラットに由来し、別のラットに移植された、SUI治療のための組成物を評価することを可能にする。動物は、微小隔離飼育器に個々に収容した。環境制御は、相対湿度30%〜70%で、18℃〜26℃(64°F〜79°F)の温度に維持するよう設定した。試験手順に対応させるために中断したときを除いて、12時間明/12時間暗周期を維持した。動物の部屋では、1時間あたり100%の新鮮な空気での10回以上の換気を維持した(空気の再循環は無い)。ピュリーナ(Purina)の認定餌及び濾過した水道水を、無制限に動物に与えた。
【0040】
材料及び方法
動物SUIは、両側外陰部神経切断(PNT)の既に定められた方法により作製した。全ての手順は、無菌条件下で実施した。ラットは、無菌手術の準備をし、2.5%〜4%のイソフルランで感覚消失を誘発した。誘発後、0.5〜2.5%のノーズコーンを通して送達されるイソフルランで感覚消失を維持した。PNT手術では、臀部から尾の基部にわたる領域上、尻上、及び後肢の裏の下の毛を剃り、動物を腹側横臥位に位置づけた。背部の長手方向切開を介して、坐骨直腸窩を両側に開いた。ループマグニフィケーション(loop magnification)を用いて、陰部神経を分離し、切除した。ネクサバンド(Nexaband)(登録商標)液体局所的組織接着剤を用いて、切開部を閉じた。失禁症状のない動物群は、実際には神経を切除しなかったことを除き、同じ外科的処置を行った。
【0041】
組成物の調製及び投与3匹の雄ラットを、過量の静脈内ペントバルビタールナトリウム(100mg/kg)で安楽死させた。それらの両方の大腿四頭筋を除去した。骨格筋片をメスで断片に細く刻み、300マイクロメートルの細胞濾過器に適用した。断片を、10mLのシリンジプランジャでメッシュを通して押し出した。フィルタの下面をメスの刃でこすり取り、得られた生存筋肉組織断片を検量した。合計1gの生存筋肉組織断片を、Ca2+及びMg2+(カタログ番号:14175−095、インビトロジェン(Invitrogen)、カリフォルニア州)を含まない、3mLのハンクス平衡塩類溶液(HBSS)に再懸濁し、均一な組成物にした。総組織濃度は0.3g/mLであった。HBSSに懸濁した刻まれた生存筋肉組織を、100マイクロリットルのハミルトンシリンジにロードし、皮下注射針でラット尿道に注入した。SUI傷害作製の1週間後、動物に治療を施した。雌ラットに麻酔し、次いで尿道の2時及び10時の位置に、ラット1匹あたり2回の注入(各10マイクロリットル)を行った。キャリアで処理した動物には、同じ方法でHBSSのみを注入した。
【0042】
尿漏出圧(LPP)試験手術の5週間後、ラットに麻酔し、圧力ゼロで背臥位にし、膀胱を手動で空にした。その後、恥骨上カテーテルを通して、室温で膀胱に生理食塩水を充填した(1時間あたり5mL)。恥骨上カテーテルをシリンジポンプ及び圧力変換器に接続した。全ての膀胱圧は、膀胱レベルの空気圧を基準とした。圧力及び力変換器信号を増幅し、1秒あたり10サンプルで、ADインスツルメンツ(AD instruments)、パワーラボコンピュータソフトウェア(Power Lab computer software)を用いて、コンピュータによるデータ収集のためにデジタル化した。
【0043】
ピーク膀胱圧は、漏れが生じるまで腹圧をゆっくりと手動で増加させることにより発生させ、その時点で外腹圧は急速に解放された。LPP試験は、各ラットで最小の4回実施した。膀胱をクレデー法(Crede maneuver)を用いて空にし、LPP測定の間に再充填した。LPP値は、ADインスツルメンツ(AD Instruments)の圧力変換器を用いて取得し、パワーラボチャート(Power Lab Chart)(商標)コンピュータソフトウェアを用いて分析した。各動物についてのLPP試験セッション内の個々の外れ値は、圧力のアーチファクトとして定性的に同定し、研究から除外した。アーチファクトの圧力結果は、同じLPP試験セッションから得られた他の圧力と比較して、不自然に高い又は低いと考えられた圧力値(kPa(mmHg))として定義した。LPP試験中、圧力のアーチファクトは、膀胱又は尿道の粘膜壁のいずれかに対してカテーテル先端を不注意に遮った、膀胱から尿及び/又は生理食塩水を完全に抜けなかった、膀胱が収縮している動物をもたらす試験中動物に麻酔剤が不足していた、等の複数の原因で生じた可能性がある。
【0044】
結果及び考察
平均LPP及び標準偏差を以下に報告する。
【0045】
【表1】

【0046】
結論
キャリアのみを注入した失禁症状のある動物と比較して、生存筋肉組織断片で治療した失禁症状のある動物では、4週間後、機能的改善が見られたことをデータは示している。達成された改善は、失禁症状のない動物のおよそ68%であり、これはキャリアのみを注入した失禁症状のある動物に対して42%の改善を示している。生存筋肉組織断片が賦形剤処理に対して明らかな改善を生じさせたため、生存筋肉組織断片は、緊張性尿失禁の治療のための治療法であり得ることをデータは示している。
【0047】
(実施例2)
緊張性尿失禁(SUI)の2種のラットモデルにおける尿漏出圧(LPP)の回復に対する、生存筋肉組織断片の組成物の適用に基づく新規治療の有効性を、並べて試験することができる。生存筋肉組織断片組成物は、実施例1に記載のように調製することができる。比較し得る2種の異なるラットモデルは、両側外陰部神経切断及び尿道剥離(urethrolysis)により得られる失禁症状のある動物である。尿道剥離モデルは、既に定められた方法により作製する。簡潔に述べると、動物をケタミン(60mg/kg体重)及びキシラジン(5mg/kg体重)の腹腔内注射で麻酔する。それらを、水循環加温パッド上に背臥位で置く。腹部をプレップし、標準的な手術様式で滅菌した布で覆う。下腹部の正中線を切開し、膀胱及び尿道を確認する。近位及び遠位尿道を、骨盤内筋膜の切開により周囲方向に剥がし、尿道を鋭的剥離により前膣壁及び恥骨から剥がす。尿道を傷つけないよう、又は下膀胱脈管構造を損なわないよう注意する。綿棒を膣内に入れ、切開を補助する。直筋膜及び皮膚を、それぞれ4〜0ポリグラクチン(ビクリル(Vicryl))及び4〜0ナイロン縫合糸で閉じる。
【0048】
傷害モデルあたり3群が存在し、ラットを、3群のうちの1群、即ちキャリアを注入する失禁症状のない動物群、キャリアを注入する失禁症状のある動物群、及びキャリア+刻まれた生存組織断片を注入する失禁症状のある動物群に、ランダムに割り当てた。手術の1週間後、尿道内注入により、各動物群に治療を施すことができる。5週間後、各ラットにつきLPPを5又は6回測定し、平均をとってよい。
【0049】
(実施例3)
組成物の尿道への投与の種々の経路の説明
刻み組織注入の尿道周囲経路。微小粒子を含有する刻み組織組成物を、17ゲージの針に接続された特殊な高圧シリンジに分配する。針を尿道開口部の隣及び粘膜下組織にゆっくり挿入する。針の適切な位置を確定した後、尿道の周りの3箇所:2時、6時、10時の位置に、懸濁液を注入する。注入の進行につれて、尿道腔が閉じ、次いで開口部が消失するのを観察することができる。成功を保証するために、手順の終わりに尿道粘膜の完全な付着(すなわち、キッシング)を可視化する。1本又は2本のチューブを注入して、尿道を完全に閉じてもよい。
【0050】
経尿道経路。特殊な針を用いて、直接視下で、尿道粘膜下に刻み組織組成物を注入する。膀胱鏡を尿道の中央に挿入する。膀胱鏡視下で、針の先端を尿道粘膜下に注意深く挿入する。尿道粘膜の完全な接合が可視化されるまで、粘膜下組織に刻み組織を正確に沈着させる。
【0051】
順行性経路。順行性経路は、失禁症状のある前立腺切除後の雄に対して準備されている。適切な麻酔下で恥骨上管を作製する。全身麻酔が好ましい。可撓性膀胱鏡を、恥骨上管を介して膀胱に挿入する。膀胱頸部を確認する。膀胱鏡視下で、針の先端を膀胱頸部粘膜下に注意深く挿入する。膀胱頸部の完全な接合に気付くまで、粘膜下組織に刻み組織製剤を正確に沈着させる。
【0052】
(実施例4)
ラットを、尿失禁の有効なモデルにより、失禁症状にする。骨格筋生検をラットの骨格筋(例えば、二頭筋、三頭筋又は四頭筋)から採取し、0.1〜0.4mm3断片に細かく刻んでよい。生存組織断片を、必要な量の、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)若しくはHBSS、又は水性コラーゲン溶液、水性ヒアルロン酸溶液、及びポリ(グリコール酸)(PGA)若しくはポリ(乳酸)(PLA)のようなマイクロキャリアなどの他のキャリアと組み合わせてよい。混合プロセスに続いて、失禁症状のある動物の尿道中央又は膀胱頸部に直接注入する。ベースライン及び術後3〜4週間で、全ての動物に尿流動態検査を行うことができる。尿道組織を、尿道機能を試験するためのオルガンバス等尺性実験及び免疫化学のために採取することができる。
【0053】
(実施例5)
ブタにおいて骨格筋由来の自己生存筋肉組織断片(<1mmの大きさ)を採取し、キャリア(PBS、HBSS、水性コラーゲン溶液、水性HA溶液)と混合し、超音波制御下で尿道に注入することができることを示すことが目的である。更に、この手順を用いて、尿失禁、特に緊張性尿失禁を治療するための、治療的なアプローチとして本明細書に記載するような組成物を評価することができる。骨格筋サンプルを、開放性−切開生検を通して得ることができる。およそ100〜500mgの筋肉組織を、各ブタから得ることができる。サンプルを<1mm3の断片に細かく刻む。生存筋肉組織断片をキャリア及び/又は微小粒子と組み合わせてよい。経尿道超音波プローブ及び注入系の補助を受けて、サンプルを横紋筋性括約筋及び尿道粘膜下層に注入することができる。尿道閉鎖圧の術後変化を決定するために、注入前後で尿道圧力プロファイルを測定することができる。術後に、ブタから得られた試料で組織診断を行うこともできる。
【0054】
(実施例6)
目的:本実験の目的は、緊張性尿失禁の治療のための生存筋肉組織断片の組成物を評価することである。生存筋肉組織断片は、大きさ、細胞生存率及び種々のゲージ針を通じた投与の容易性の観点で特徴付けた。
【0055】
方法
大腿四頭筋由来の骨格筋片(およそ1g)をメスで細かく切り、次いで300マイクロメートルの細胞濾過器に適用する。生存筋肉組織断片を10mLのシリンジプランジャを有する、ろ過器を通して押し出す。断片を30mLのPBSで洗浄し、懸濁液を1600rpmで5分間遠心分離することによりペレット化する。ペレットを500マイクロリットルのPBSに再懸濁し、更に特徴付ける。
【0056】
平均粒径分布は、100〜300マイクロメートル(およそ0.1〜1mm3)で変動してよい。時に、長い断片(>1mm3)が観察されてもよい。
【0057】
種々のゲージ針を通じた、組成物の注入の容易性も試験される。3種のゲージサイズ:18、21及び25で試みる。組織断片懸濁液は、全ての針を容易に通過し、25ゲージの大きさの針でさえ容易に通過する。更に、凝集/閉塞は全く見られない。組成物サンプルはまた、各針を通過させた後に顕微鏡下で分析し、混合物の異常/腐食は観察せず、これは組織断片の流れが遮られていないことを示唆する。
【0058】
(実施例7)
関連する原料から骨格筋又は組織生検を、先行の実施例に詳述したように、採取することができる。生検した組織を細かいペーストに刻み、生存筋肉組織断片を形成することができる。断片を、先行の実施例に詳述したような必要な量のキャリア及び所望により微小粒子と組み合わせ、糞便失禁の治療について当該技術分野において既知である技術を用いて、内又は外肛門括約筋に注入することができる。
【0059】
(実施例8)
関連する原料からの骨格筋又は組織生検を、先行の実施例に詳述したように、採取することができる。生検した組織を細かいペーストに刻み、生存筋肉組織断片を形成することができる。断片を、先行の実施例に詳述したように、必要な量のキャリア及び所望により微小粒子と組み合わせ、当該技術分野において既知である方法を用いて、酸逆流及び他の消化器系関連疾患の治療のために、下部食道括約筋及び幽門括約筋に注入することができる。
【0060】
(実施例9)
ブタの骨格筋の新鮮なサンプルを、ファーム・ツー・ファーム(Farm-to-Farm)(ウォレン(Warren)、ニュージャージー州)で調達した。サンプルを1対のメスで手動で刻んだ。刻んだ骨格筋組織を、300(L3−50、ATMプロダクツ(ATM Products)又は425(L3−40、ATMプロダクツ)マイクロメートルのスチール製メッシュのいずれかを通して押し出すことにより、更に断片化した。このプロセスで組織をより均一な大きさに更に刻んだ。各大きさのサンプルを検量し、10、20、30及び40マイクログラムの量に調整した。刻んだ組織の生存率を、製造業者により提供されたプロトコルに従って実施した、MTSアッセイ(セルタイター96(CellTiter 96)(登録商標)水性一溶液細胞増殖アッセイ(AQueous One Solution Cell Proliferation Assay)、プロメガ(Promega)、マディソン(Madison)、ウィスコンシン州)により決定した。ブタの骨格筋から単離した細胞を利用して、検量線を書いた。表1は、このアッセイの結果を示す。
【0061】
【表2】

【0062】
以上のように、刻みプロセスは、骨格筋組織の生存を維持する。生存は、刻んだ断片の大きさを制御するために金属の篩を通過させても変化しない。
【0063】
刻んだ骨格筋組織の生存率を、更に、4℃及び室温において、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS、インビトロジェン(Invitrogen)、カールスバッド(Carlsbad)、カリフォルニア州)中で経時的に評価した。4時間以下で、3種の組織の量:5マイクログラム、10マイクログラム及び20マイクログラムについて調査した。全ての場合において、サンプルを氷上(4℃)又は室温(RT)のいずれかでインキュベートした。使用した試験法は、MTSアッセイ(プロメガ(Promega))であった。表2は、この実験の結果を示す。
【0064】
【表3】

【0065】
考察
組織の生存率は時間とともに減少した。最高の生存率は、時間=0で記録された。しかしながら、1〜2時間の間で記録された生存率の変化はごくわずかであった。4℃では生存率がわずかに高かった。
【0066】
結論
この実験は、組織を1時間未満の合計加工時間で素早く刻むべきであることを強調する。生存率はまた、4℃の低温でわずかに改善した。
【0067】
(実施例10)
刻んだ筋肉組織外植片からの細胞増殖の特徴付けブタの骨格筋の新鮮なサンプルを、ファーム・ツー・ファーム(Farm-to-Farm)(ウォレン(Warren)、ニュージャージー州)で調達した。サンプルを1対のメスで手動で刻んだ。組織断片を、DMEM(インビトロジェン(Invitrogen)、カールスバッド(Carlsbad)、カリフォルニア州)、10%FBS(ハイクローン(Hyclone)、ローガン(Logan)、ユタ州)、ペニシリン/ストレプトマイシン(strepromycin)(インビトロジェン、カールスバッド、カリフォルニア州)又はEGM−2(ロンザ(Lonza)、ウォーカービル(Walkerville)、メリーランド州)培地のいずれかで培養した。DMEM(インビトロジェン(Invitrogen)、カールスバッド(Carlsbad)、カリフォルニア州)、10%FBS(ハイクローン(Hyclone)、ローガン(Logan)、ユタ州)、ペニシリン/ストレプトマイシン(strepromycin)(インビトロジェン、カールスバッド、カリフォルニア州)又はEGM−2(ロンザ(Lonza)、ウォーカービル(Walkerville)、メリーランド州)培地のいずれか中のブタ骨格筋外植片から成長した細胞を、抗体染色により表現型的に特徴付け、グアバ・インスツルメンツ(Guava instrument)(グアバ・テクノロジーズ(Guava Technologies, Inc.)、ヘイワード(Hayward)、カリフォルニア州)を用いて分析した。筋芽細胞は、CD56+(N−cam、アブカム(Abcam)、ケンブリッジ(Cambridge)、マサチューセッツ州)集団により同定し、内皮細胞は、二重陽性CD34+/CD144+(それぞれ、BDファーミゼン(BD Pharmingen)、サンノゼ(San Jose)、カリフォルニア州、eバイオサイエンス(eBiosciences)、サンディエゴ(San Diego)、カリフォルニア州)集団により同定した。対照として、ヒト由来の骨格筋及び内皮細胞を用いた。以下の表は、この実験の結果を要約する。
【0068】
【表4】

【0069】
考察
表から分かるように、組織断片から遊走する細胞の表現型は、培養培地に依存する。骨格筋芽細胞は、DMEM、10%FBS中の外植片から生じた細胞集団の97%を構成していたが、これは筋芽細胞のために設計された典型的な増殖培地である。筋芽細胞のこの割合は、EGM−2培地では21%に低下した。残りの79%の細胞は内皮マーカーに染色陽性ではなかったため、残りの細胞は線維芽細胞であると仮定した。同様の細胞集団は、ハンネス・ストラッサー(Hannes Strasser)ら、並びに骨格筋組織内の2種の主な細胞型が筋芽細胞及び線維芽細胞の両方であることを示す、他の研究者により得られている(Lancet 2007、 369:2179-86)。
【0070】
結論
インビトロの細胞培養では、刻んだ筋肉組織断片から成長した細胞の少なくとも一部が筋芽細胞であることを決定したが、これらの結果は培地依存的である。刻んだ組織内の筋芽細胞の存在は、SUI治療のための再生医療に有利である。
【0071】
(実施例11)
ブタ尿道細胞の単離
ブタの尿道をファーム・ツー・ファーム(Farm-to-Pharm)(ウォレン(Warren)、ニュージャージー州)で調達した。尿道は、脂肪及び結合組織を切り落とし、1対のメスで細かく刻んだ。組織の重量を記録し(13.1g)、組織を、50mLのコニカルチューブ内の、DMEM(インビトロジェン(Invitrogen)、カールスバッド(Carlsbad)、カリフォルニア州)、10%FBS(ハイクローン(Hyclone)、ローガン(Logan)、ユタ州)、ペニシリン/ストレプトマイシン(インビトロジェン、カールスバッド、カリフォルニア州)中の消化酵素(以下を参照)カクテルに入れた。
【0072】
チューブをパラフィルムM(登録商標)で包み、密封した。チューブを、225RPMで振盪している37℃のインキュベータに2時間入れた。消化の完了を、インキュベータからチューブを取り出し、1〜2分間チューブを直立させることにより、インキュベーション1時間毎に検査した。消化が完了したとき(2時間以内)、チューブを1〜2分間直立させて、大きな断片を沈殿させた。細胞懸濁液(大きな断片を含まない)を、新しいコニカルチューブに移し、新鮮なDMEM、10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシンで希釈した。細胞懸濁液を150×gで5分間遠心分離し、上清を吸引した。新鮮な培地を添加し(合計体積50mL以下)、再懸濁した。細胞懸濁液を150×gで5分間遠心分離し、上清を取り除いた。新鮮な培地を添加し(合計体積30mL以下)、上下にピペッティングすることによりピペットを用いて細胞を再懸濁した。再懸濁した細胞ペレットを100μmのフィルタで濾過した。細胞懸濁液を150×gで5分間遠心分離し、上清を吸引し、細胞ペレットをPBSに再懸濁した。細胞を、グアバ(登録商標)細胞計数器(グアバ・テクノロジーズ(Guava Technologies, Inc)、ヘイワード(Hayward)、カリフォルニア州)で計数した。合計〜6×106個の細胞を得た。細胞をEGM−2(ロンザ(Lonza)、ウォーカービル(Walkersville)、メリーランド州)に、5,000細胞/cm2でプレーティングし、37℃のインキュベータに入れた。
【0073】
消化酵素
コラゲナーゼ0.25U/mL(セルバ・エレクトロホレシス(Serva Electrophoresis, GmbH)、ハイデルベルグ(Heidelberg)、ドイツ)、2.5U/mLディスパーゼ(ディスパーゼII165859、ルーシャ・ダイアグノスティクス(Ruche Diagnostics Corporation)、インディアナポリス(Indianapolis)、インディアナ州)及び1U/mLヒアルロニダーゼ(ビトレース(Vitrase)、ISTAファーマシューティカルズ(ISTA Pharmaceuticals)、アービン(Irvine)、カリフォルニア州)。
【0074】
増殖アッセイ
ブタの尿道から単離した細胞の増殖における、刻んだブタの筋肉組織の効果を評価するため。尿道細胞(上述の方法に従って単離した)を、10,000細胞/穴の密度で24穴皿に播種した。実験条件は、
−低血清(20%の増殖培地)
−低血清(20%の増殖培地)+異なる量の刻んだ組織(500、250又は50マイクログラム/穴)であった。
【0075】
刻んだ組織を、トランスウェル(transwell)(孔径0.4マイクロメートル)の内側に添加した。2種の培地、EGM−2及びDMEM/EGM−2(50/50、体積/体積)について試験した。2、3及び7日目、細胞を採取して、グアバ・インスツルメンツを用いて細胞数及び生存率を得た。
【0076】
【表5】

【0077】
考察
ブタの尿道から単離した細胞は、基本培地でインキュベートしたときより、刻んだ筋肉組織とともに共培養した2及び3日後、増殖速度の上昇を示した。増殖速度は基本培地に依存していたが、更にブタの尿道から単離した細胞の増殖速度に対して刻んだ筋肉組織は明らかな効果を示した。効果は培養3日目で最も顕著であり、その後、恐らく新鮮な栄養素の喪失及び培養老廃物の存在に起因して、効果は次第に減る。最も大きな効果は、250マイクログラム/穴の刻み筋肉組織で認められ、これはEGM−2でそれぞれ2及び3日後尿道由来細胞の増殖速度において77%及び93%の上昇を示し、DMEM/EGM−2培地で3日後尿道由来細胞の増殖速度において74%の上昇を示した。
【0078】
結論
上記で提示したデータは、明らかに、刻んだ筋肉組織断片が、ブタ尿道由来細胞の増殖速度に対して、正のインビトロでの効果を有することを示す。これは、少なくとも部分的に、失禁症状のあるラット(実施例1に提示した)の尿漏出圧(LPP)の回復に関与するこれらの細胞の作用のメカニズムは、健常細胞において増加し、それ故尿道組織を再生させることを示唆する。これはまた、その治療効果がただの充填効果だけではなく、本物の長期再生反応を促進する栄養効果であることも示唆する。
【0079】
(実施例12)
緒言
この研究の目的は、試験物品の安全性を評価し、健常動物に注入した後最大3ヶ月間、尿道内腔を取り囲む筋肉壁に、自己組織由来の生成物を注入することにより誘発される、雌ブタ尿道における尿力学及び組織学的変化における機能変化を記録することである。
【0080】
本研究は、食品医薬品局の規制(Food and Drug Administration Good Laboratory Practice Regulations)、米国連邦規制基準(U.S. Code of Federal Regulations)の表題21、パート58、1978年12月22日発行(全ての適用可能な改正版とともに)に従って実施した。承認されたプロトコルに対する全ての変更及び改正は、この研究ファイルの元のプロトコルを維持する。
【0081】
実験計画
7匹(+1匹予備)の動物を、治療後最大3ヶ月+/−5日にわたって研究した。治療前手順は、治療前に最低限の7日で実施した。両群の動物に膀胱留置カテーテルで移植した(7日以下)予備の動物は除いた。投薬注入0日:試験動物は、筋肉提供により作り出した自己組織由来生成物を受容した。対照動物に、賦形剤(ハンクス平衡塩類溶液−HBSS−インビトロジェン(Invitrogen))物品の注入をした。試験群の動物に、各後肢から筋肉生検を行った。外植組織は、その場で加工されて、治療注入に用いるための試験物品を作り出した。動物は回復し、およそ3ヶ月間生存した。膀胱の尿流動態測定を、治療前、治療後21日、29日、57日及び94日目に、指定された時間間隔で実施した。尿流動態検査は、尿漏出圧(LPP)及び尿道圧プロファイル(UPP)測定を含んだ。全ての動物は、治療後〜3ヶ月で安楽死させ、尿路を顕微鏡で評価した。
【0082】
隔離
全ての動物は、6日目の隔離から解き放たれる前に身体検査を受けた機関内に受け入れられる。観察された形態及び挙動は、標準内であると思われ、動物は機関の獣医により無条件に解放された。
【0083】
治療
筋肉生検:試験物品を調製するための筋肉生検は、8mmのパンチ生検針を利用して実施した。
【0084】
試験物品及び賦形剤調製:研究に用いた賦形剤は、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS、インビトロジェン(Invitrogen)、カールスバッド(Carlsbad)、カリフォルニア州)であった。試験物品は、以下の方法で調製した。筋肉生検を実施し、500〜700mgの組織を得た。組織は、脂肪を切り落とし、1対のメスで細かく刻んだ。組織は、少量のHBSSによる加工中湿った状態を維持した。刻んだ後、組織を425マイクロメートルの金属メッシュ濾過器(L3−40、ATMプロダクツ(ATM Products)に適用し、シリンジプランジャ(5cc)を通して更に断片化した。サンプルを収集し、HBSS(合計体積1.5mL)に再懸濁した。
【0085】
治療手順:試験及び対照物品送達を、尿道開口部において麻酔下で行った。全ての動物の治療手順は、注入体積を利用可能な治療領域に適応するよう変更した。注入は、膀胱鏡ガイダンスにより膀胱頸部から尾と三分点との間で尿道に沿って、4箇所で周囲方向に(1部位あたり6〜8注入)実施した。
【0086】
尿漏出圧試験
LPP値は、ADインスツルメンツ(AD Instruments)の圧力変換器を用いて得、パワーラボチャート(Power Lab Chart)(商標)コンピュータソフトウェアを用いて分析した。結果を転写し、一覧にした(表3)。全ての移植された動物の0日目のLPPは、膀胱留置カテーテルを用いて実施した。所与のUPP測定も同時に行い、孔は未来のLPP測定において最終的に使用しなかった。
【0087】
最大尿道圧試験
UPP値は、ADインスツルメンツ(AD Instruments)の圧力変換器を用いて得、パワーラボチャート(Power Lab Chart)(商標)コンピュータソフトウェアを用いて分析した。MUCPは次いで、標準的な方法に従って算出した。結果を転写し、一覧にした(表3)。
【0088】
剖検/組織収集/病理組織診断:
3ヶ月後、動物を安楽死させ、尿路全体からなる限定剖検及び限定組織収集に供した。尿道、膀胱、尿管及び腎臓を、剖検で収集した。尿道を、約24時間圧力下で、10%中性緩衝ホルマリンで固定した。固定後、組織を、組織学的加工及び組織病理学的検査のためにベット・パス・サービス(Vet Path Services, Inc.)(VPS)に送った。尿道を切り落とし、パラフィンに包埋し、切片化した。膀胱頸部で開始して、尿道全体に沿って2.5mmの間隔でミクロトームにより切片を作製し、ヘマトキシリン、エオシン及びマッソン三色染色で染色した。尿道測定を、マッソン三色染色したスライド上で実施した。画像解析組織形態計測による測定値を得た。尿道の総厚さ、平滑筋及び骨格筋層の厚さを得た。結合組織の厚さは、尿道の総厚さから、平滑筋及び骨格筋層の合計厚さを引くことにより得た。
【0089】
結果
尿力学試験
LPP及びmUCP試験の結果を表3に示す。
【0090】
【表6】

【0091】
対照と試験物品動物の間に、LPPの差は見られなかった。しかしながら、3/5の試験物品動物において21日目に、最大尿道閉鎖圧(mUCP)における著しい上昇(>250%)を示すデータが観察された。時間が経つにつれて、mUCP値は対照動物のmUCP値と平衡した(表3を参照)。試験動物6は、無関係な傷害のために93日目前に安楽死させなければならなかったことに留意すべきである。
【0092】
組織学的観察
賦形剤対照動物:最小〜中程度の上皮過形成(2/2)及び無〜最小程度の慢性活動性及びびらん性炎症(1/2)が、対照動物の尿道尿路上皮で見られた。最小〜中程度の亜急性炎症が、両方の対照動物の上皮及び固有層で見られた。無〜中程度の嚢胞(1/2)及び浮腫(2/2)並びに、無〜最小程度の出血(2/2)及びリンパ結節様凝集体(2/2)が、対照動物の固有層で観察された。無〜最小程度の亜急性炎症が、対照動物の筋層(1/2)で見られた。平均上皮過形成スコアは1.3であり、慢性活動性及びびらん性炎症スコアは0.1であり、上皮及び固有層の亜急性炎症スコアは1.7であり、嚢胞スコアは0.2であり、浮腫スコアは0.8であり、出血スコアは0.5であり、リンパ様凝集体スコアは0.6であった。筋層の平均亜急性炎症スコアは0.1であった。
【0093】
試験動物:無〜中程度の上皮過形成が、5/6の試験動物の尿道尿路上皮で見られた。最小〜中程度の亜急性炎症が、6/6の試験動物の上皮及び固有層で見られた。無〜中程度の嚢胞(2/6)及び浮腫(6/6)、並びに、無〜最小程度の出血(5/6)、並びに及びリンパ結節様凝集体(6/6)が、試験動物の固有層で観察された。無〜最小程度の亜急性炎症が、試験動物の筋層(4/6)で見られた。平均上皮過形成スコアは0.6であり、上皮及び固有層の亜急性炎症スコアは1.3であり、嚢胞スコアは0.1であり、浮腫スコアは0.9であり、出血スコアは0.2であり、リンパ様凝集体スコアは0.4であった。筋層の平均亜急性炎症スコアは0.1であった。
【0094】
画像解析組織形態計測
賦形剤対照動物:賦形剤対照動物では、尿道の平均総厚さは1.4であり、平滑筋の平均厚さは0.7であり、骨格筋の平均厚さは0.0であり、結合組織の平均厚さは0.8であった。平滑筋は、尿道の厚さの47%を表し、横紋筋は、尿道の厚さの0%を表した。
【0095】
試験動物:試験動物では、尿道の平均総厚さは1.7であり、平滑筋の平均厚さは0.8であり、骨格筋の平均厚さは0.1であり、結合組織の平均厚さは0.9であった。平滑筋は、尿道の厚さの45.0%を表し、横紋筋は、尿道の厚さの3.2%を表した。
【0096】
考察
21日目には、5匹中3匹の試験物品動物で、最大尿道閉鎖圧(mUCP)の明らかな上昇を観察することができた。2匹の残りの動物は、不明の理由により、同様の注入に応答していなかった。後に28、57及び94日目でmUCPの低下が観察された。UPPの低下を導く正確なメカニズムは明らかになっていない。実際に、線維症又は炎症は見られなかった。恐らく、動物に傷害が創られなかったという事実が、結果に影響した。試験物品群における、尿道組織へ注入された組織の一体化及び新しい筋線維の形成が、標準的な組織学的検査において見られた。組織学的評価の別の重要な点は、感染、炎症又は線維症の徴候が、試料で検出できなかったということである。更に、新しい組織の「バルク」の形成、又は尿道内腔の圧迫若しくは閉塞を導く組織貯蔵物の証拠はなかった。それ故、術後の効果は、単に尿道の閉塞又は圧迫により引き起こされたものではなかった。
【0097】
結論
治療後21日目には、3/5の試験物品動物でmUCPが著しく(>250%)上昇した。尿道を検査したとき、治療に誘発された局所刺激の証拠は全く見られなかった。尿道の変化は、試験動物及び賦形剤対照動物の間で比較的類似していた。上皮及び固有層における上皮過形成及び亜急性炎症の重篤度は、対照尿道に比べて試験尿道ではわずかに低かった。慢性活動性及びびらん性炎症は、賦形剤対照尿道でのみ見られた。尿道の平均総厚さは、対照尿道に比べて試験尿道ではわずかに厚かった。試験尿道では、横紋筋は尿道の厚さの3.2%を表したが、賦形剤対照動物では横紋筋は観察されなかった。刻んだ筋肉断片の安全性研究は、有意な悪影響がなかったことを示した。21日目におけるmUCPの有意な(>250%)上昇、並びに横紋筋の証拠は、刻んだ筋肉組織がSUI治療に有用であることを示す。
【0098】
〔実施態様〕
(1) 生存筋肉組織断片及びキャリアを含む、失禁治療のための組成物。
(2) 前記生存筋肉組織が、自己組織、同種組織、異種組織、及びこれらの混合物からなる群から選択される、実施態様1に記載の組成物。
(3) 前記キャリアが、生理学的緩衝液、注入可能なゲル溶液、生理食塩水及び水からなる群から選択される、実施態様1に記載の組成物。
(4) 前記キャリアが、生理学的緩衝液である、実施態様3に記載の組成物。
(5) 前記生理学的緩衝液が、緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液、ハンクス平衡塩類溶液、トリス緩衝生理食塩水及びHepes緩衝生理食塩水である、実施態様4に記載の組成物。
(6) 前記キャリアが、生理学的緩衝剤及びゲル化剤を含む注入可能なゲル溶液である、実施態様3に記載の組成物。
(7) 前記ゲル化剤が、タンパク質、多糖類、ポリヌクレオチド、アルギン酸、架橋アルギン酸、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(オキシアルキレン)、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)のコポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリレート、モノステアロイルグリセロールコ−スクシネート/ポリエチレングリコール(MGSA/PEG)コポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様6に記載の組成物。
(8) 少なくとも1種の微小粒子を更に含む、実施態様1に記載の組成物。
(9) 前記微小粒子が、合成ポリマー、天然ポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、生体適合性ポリマーを含む、実施態様8に記載の組成物。
(10) 実施態様1に記載の前記組成物を泌尿生殖器組織に注入することを含む、失禁の治療方法。
(11) 実施態様1に記載の前記組成物を結腸直腸組織に注入することを含む、失禁の治療方法。
(12) a.少なくとも1種の刻まれた生存筋肉組織断片を提供する工程と、
b.前記断片を、泌尿生殖器組織に注入するのに好適なキャリアと組み合わせる工程と、を含む、失禁治療のための組成物を製造する方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生存筋肉組織断片及びキャリアを含む、失禁治療のための組成物。
【請求項2】
前記生存筋肉組織が、自己組織、同種組織、異種組織、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記キャリアが、生理学的緩衝液、注入可能なゲル溶液、生理食塩水及び水からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記キャリアが、生理学的緩衝液である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記生理学的緩衝液が、緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液、ハンクス平衡塩類溶液、トリス緩衝生理食塩水及びHepes緩衝生理食塩水である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記キャリアが、生理学的緩衝剤及びゲル化剤を含む注入可能なゲル溶液である、請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
前記ゲル化剤が、タンパク質、多糖類、ポリヌクレオチド、アルギン酸、架橋アルギン酸、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(オキシアルキレン)、ポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)のコポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリレート、モノステアロイルグリセロールコ−スクシネート/ポリエチレングリコール(MGSA/PEG)コポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも1種の微小粒子を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記微小粒子が、合成ポリマー、天然ポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、生体適合性ポリマーを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の前記組成物を泌尿生殖器組織に注入することを含む、失禁の治療方法。
【請求項11】
請求項1に記載の前記組成物を結腸直腸組織に注入することを含む、失禁の治療方法。
【請求項12】
a.少なくとも1種の刻まれた生存筋肉組織断片を提供する工程と、
b.前記断片を、泌尿生殖器組織に注入するのに好適なキャリアと組み合わせる工程と、を含む、失禁治療のための組成物を製造する方法。

【公表番号】特表2010−529888(P2010−529888A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512274(P2010−512274)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/065894
【国際公開番号】WO2008/157059
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(591286579)エシコン・インコーポレイテッド (170)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
【Fターム(参考)】